2019年7月31日 (水)

第97回「海程香川」句会(2019.07.20)

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事前投句参加者の一句

                           
寂寞に無言の響き青葉木菟 野口思づゑ
糸どのと呼ばせておくれ軒しずく 銀   次
賽の目の一の連続熱帯夜 鈴木 幸江
蟻の列浮世絵展に続きをり 菅原 春み
万緑や橋の長さの旅心 小山やす子
被爆土のささめく夜明け枇杷は実に 野田 信章
べたべたと七月に寄りかかられる 柴田 清子
小豆炊く母吾へ父を混ぜて血を 藤川 宏樹
温かい尿我に親しい羽抜鳥 豊原 清明
妻の大きな乳房で塞ぐ扇風機 稲葉 千尋
夏蝶を放ちつづけている胸か 男波 弘志
銀河鉄道のきっぷあります星まつり 吉田 和恵
河童の子ひよひよと鳴く梅雨入りかな 松本 勇二
労いのどんがらどんがら草の蛇 桂  凜火
街路樹の空蝉ひとつ落ちる音 佐藤 仁美
秒針の描く孤の美(は)し星月夜 高橋美弥子
青田無限雨ふる日には雨のうた 竹本  仰
髪洗う浅学じくじく滴れて 増田 暁子
グラジオラスさしちがう純情 河田 清峰
空蝉や自分のことは語らない 河野 志保
梅雨深し八角堂を固く閉じ 榎本 祐子
見えていて見えない息子昼花火 三好つや子
青水無月人は四角い時計かな 高木 水志
あたりまえと見える風景四葩かな 漆原 義典
黒南風や母の矜持が崩れる日 藤田 乙女
毒蛇はゆっくり愉快に業を呑む 重松 敬子
指貫や梅雨は緩めにステッチす 中野 佑海
振り返ると母が消えていた 金魚 島田 章平
噴水は飛びたい水のこころです 新野 祐子
まだ星の匂いの残る草を引く 月野ぽぽな
また八月がくる耳打ちのごと波の如 若森 京子
雷を混ぜ炎のパスタ茹で上がる 伊藤  幸
万緑の中美山の里に小雨降り 田中 怜子
清書する手紙青葉の手ざわりの 三枝みずほ
蝶とんぼ鍬形虫(くわがた)いまも山住い 小宮 豊和
楸邨忌紅き実椿空を映す 高橋 晴子
真言の一つ覚えや花蘇鉄 亀山祐美子
端居という箱音だけが滅びる 中村 セミ
水引草いつしか小さき我が影よ 寺町志津子
野ねずみが虹の根齧りをるさうな 谷  孝江
送り仮名正しく正しく青ぶだう 田口  浩
とても躑躅な木造駅舎待ちぼうけ 大西 健司
兜太書の筆致雄勁夏の空 野澤 隆夫
水底の戦艦へ夕焼ける梵鐘 増田 天志
海霧の奥ただカミのみぞゐたりけり 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「賽の目の一の連続熱帯夜」眠れない暑い夏の夜。あっちへゴロゴロ。こっちへコ ロコロ。まるでサイコロの様に。だけど、お布団はすぐ暖まって、また一からやり直し。この熱帯夜の 葛藤をこんなにも鮮やかに12文字で表せるなんて、感動です、特選句「端居という箱音だけが滅びる」 夏の昼下がり。縁側で涼を求めゆったりとした時を感じている私という世界観。箱はわたしの感覚の届 く範囲。あの夏のジリジリした空気。蝉の姦しさ。そういった音が消え、まるで無音の箱の中。上下左 右がなくなって、私は自然の中に馴染んで溶けて。私という個別感までなくなる。夏の昼下がりのアン ニュイさも含みつつ。「少女すぐ輪になるサマードレスかな」輪になる少女たちとサマードレスの裾の 拡がりと賑やかな笑い声がまるでラナンキュラスの花の様に、明るさが幾重にも。「べたべたと七月に 寄りかかられる」7月の蒸し暑さ、汗臭さ、忙しさ。皆私に寄って来ないで!「蛍火の縺れあうとき闇 匂う」蛍がこんなにも妖艶とは気付きませんでした。「黒南風や母の矜持が崩れる日」どんなにキリッ とした母さんも梅雨は暑い。物は腐る。髪は膨れる。「蝶が去る空は地球の出入り口」蝶は地球外生 物だったんですね!こんな所にちゃんと出入口が!「北斎漫画の耳やら目やら梅雨きのこ」デフォルメ された北斎の頭の脳の中には梅雨きのこがびっしりと!「羽蟻湧く静かな家を沸かすごと」羽蟻って家 の土台の木がスカスカになる。それを沸くと表現。素晴らしい。「ママの手は放してしまうジキタリス」 大人になった途端、一人で何もかも出来てるつもり。以上。今月も皆でヤイノヤイノといいつつ、人が 書いた俳句に勝手に意味付け。こんなに面白い会はなかなかありません。

松本 勇二

特選句「見えていて見えない息子昼花火」子育て中の親御さんの心理描写が巧みです。 昼の花火には賛否があるでしょうが多としました。問題句「青バナナかなしい顔が港出る(新野祐子)」詩的で素晴 らしい映像性を持つ作品です。「港出る」を「出航す」とすればすっきりとした発語になるのではと思 います。

榎本 祐子

特選句「河童の子ひよひよと鳴く梅雨入りかな」ひよひよのオノマトペが効果的。鳴き声 だけではなく河童の子の柔らかさまで感じさせられ、皮膚感覚を刺激される。

増田 天志

特選句「端居という箱音だけが滅びる」にんげんという実在は、影にだけ、有ったのか。 端と箱は、非中心的存在。実有は、歴史に貫通するのかも。

小山やす子

特選句「髪洗う浅学じくじく滴れて」何となく好感が持てます。

柴田 清子

特選句「噴水は飛びたい水のこころです」人間と同じように、水にもこころのある・・・ と気付かされました。「春の水」「夏の水」「秋の水」「真冬の水」それぞれその時の水に心が。時は 真夏、真っ青な空に、真っ白な雲 ふれたいのは、謳歌したいのは、私達だけではない。噴水だって! 「まだ星の匂いの残る草を引く」特選です。朝の白いテーブルの上のクリスタルグラスのような俳句で すね。

藤川 宏樹

特選句「とても躑躅な木造駅舎待ちぼうけ」:「とても躑躅な」の物言いには引っかかるが新鮮で可能性を感じます。彩色鮮やかなアニメ動画、駅で待ち合わせる若い二人がまざまざと目に浮かびます。勉強になります。

高木 水志

特選句「まだ星の匂いの残る草を引く」星の匂いはきっといい匂いで、朝早く草むしりを していたら未知の匂いがして、それを作者は星の匂いと思ったのだろう。空間の広がりが感じられてい い。いろんな匂いがあって、ひとつひとつの香りが共存している。

若森 京子

特選句「古戦場のマネキン青い服を着て(大西健司)」無季の句だが、‶青い服‶の措辞で何となく夏を 思わせる、静止したマネキンが戦死者の様に思えて過去の戦場と現在の時帯が一致した錯覚をおぼえ青 い服がもの悲しく眼に入る不思議な一句。

稲葉 千尋

特選句「被爆土のささめく夜明け枇杷は実に」今なお去らぬ放射能がささめく夜明け。何 時までつづく。それでも枇杷は実に!問題句「かつて戦争立ちし廊下の赤目高(松本勇二)」わたしには「赤目高」 がわからない。ここがわかれば秀句。

寺町志津子

「青田無限雨ふる日には雨のうた」一読、心惹かれた。というか、妙な言い方か もしれないが、言い知れぬ安らぎ、言い知れぬ大らかさに包まれ、嬉しさがこみあげてきた。日本の静 かな田園風景を詠みながらも、無限に広がる青田は、人の人生かもしれぬ。折しも降り注ぐ雨。人生に おける雨の降る日も、青田が受け入れているように、穏やかに、むしろ前向きにルンルンと受け入れれ ばいいのだ、と思わせてくれる句。拝読して嬉しくなった所以である。

豊原 清明

問題句「鉤裂きのズボンビーカーに赤い薔薇(大西健司)」一気に書いた印象。生活が染み付いている。作者のズボンの親しみの艶やかさ。特選句「被爆土のささめく夜明け枇杷は実に」:「ささめく」が良かった。「実に」に納得。

鈴木 幸江

特選句「温かい尿我に親しい羽抜鶏」兜太の好きな句に荒木田守武の「佐保姫の春立ちながら尿をして」(犬筑波集)がある。氏は自称スカトロジー(糞尿愛好家)と言って憚らない。私にはまだまだ感受力が足らず、その良さが十分わからず悔しい思いをしてきた。そこにこの特選句の登場、挑戦心に火が付いた。この作品からは、妙に生々しくも切ない開放感を感受できたのだ。温かい尿と羽抜鶏の憐れに解放感を愉しめたことが嬉しい。問題句「端居という箱音だけが滅びる」今回の句会では、解釈は創作であるという兜太氏の言葉にあらためて出会った。私は、“箱”“端居”“滅びる”という言葉に引っ掛かり、そこから連想し独断的な解釈をした。“箱”は常套的な“端居”という季語の持つ世界を伝えようとしているのだと思った。“音だけが滅びる”を“端居”を絶滅季語と捉えていて、その行為そのものは別の言葉で現代社会の中で生まれ変わることを示唆しているのだと解釈したが、自信がないので問題句。そこに中野さんの素敵な解釈を聞き、俳句は抒情詩であることを思いださせていただいた。 正しく覚えているか自信はないが、“端居”という行為により生まれてくる音のない世界を深く感受しているのだと感心した。

河野 志保

特選句「万緑や橋の長さの旅心」 一読して心地よさを感じた句。展けた景色と作者の旅情がストレートに伝わった。「橋の長さの旅心」がとてもリズミカルだと思う。

三好つや子

特選句「赤蟻の触覚立ち上がる付箋(高木水志」付箋をつける箇所は、言葉だったり、数字だったり、人さまざま。こうした付箋をつける行為を、蟻が触覚を動かす感覚として捉えている作品に、衝撃を覚えました。面白いです。特選句「青水無月人は四角い時計かな」丸い時計はどんな場所にもなじみやすいけれど、四角い時計はコーディネイトがむずかしい。人間もまた然りで、角張ったまま老いてしまい、周囲から理解されにくい自らを嘆いてそうな、作者の心に共鳴。入選句「いろいろに家を叩いて六月は」 昨今の雨の降り方にうんざりしながら、家のあちこちを補強し、修繕している作者の様子が目に浮かびます。住み慣れた家への愛着も感じられ、惹かれました。

野澤 隆夫

特選句「何言ふか朱夏の生水飲む咽喉(豊原清明)」何があったのか?「朱夏の生水」を勢いよく「咽 喉」に流し込んでる作者。怒りに迫力があり、作者の様子が浮かびます。特選句「蝶とんぼ鍬形虫いま も山住い」喧騒と多忙な時代に山住住まいできる作者。そしてそこに幸せと喜びを見出してる作者。問 題句「ケリ探し暮れるる夢殿古日記(桂 凜火)」ケリは「鳧」かと。小生も何年か前に三豊干拓地に「鳧」を探鳥 したことがある。「田鳧(たげり)」はみることあるのだが…。作者は斑鳩の里で探鳥したのか?古い 日記にこのことをしたためたのか?ちょっと謎の感じがして、問題句。

島田 章平

特選句「水底の戦艦へ夕焼ける梵鐘」戦争中、人も物も全て徴用され、梵鐘もまた溶かさ れて兵器と化した。水底に沈む戦艦もまた梵鐘の化身。夕焼ける梵鐘にあの戦争の虚しさが響く。

吉田 和恵

特選句「空蝉や自分のことは語らない」腹でなく背を割る空蝉。腹を割って語っても、そ れが本当の事とは限らない。本当は、自分を語りたいと思う空蝉なのです。特選句「見えていて見えな い息子昼花火」マグマを抱え何も語らぬ息子。何を考えているのか、ピリピリした感覚。昼花火は言い 得て妙と思います。 銀次さまへ・・拙句「いもうとの水玉跳ねてワンピース」を取り上げて下さりありがとうございまし た。水玉模様のワンピースを着た妹が飛び跳ねている様を思い描いて書きました。がまんばかりしている姉の奔放な妹へのジェラシー。銀次さんの洞察には感じ入りました。長じて妹は姉へのコンプレックスに苛まれたと言います。そしてこともあろうにその妹に娘がそっくりなのです。 顔姿所作まで叔母似金魚玉(和恵)  ではまた、さようなら。

野田 信章

特選句「楸邨忌紅き実椿空を映す」の句は椿の実の陶質感を通して盛夏の大気の漲りの把 握がある。そこに自と楸邨その人なりの存在感が重なる。七月三日の楸邨忌を迎えての作者の素朴な気 息の込もった句である。

伊藤  幸

特選句「てのひらは光の器夏の海(三枝みずほ)」てのひらと海の対比、しかも果てしなく青く広がる夏の 海。光の器の措辞にもポジティブな姿勢が窺えて意気込みを感じる。

竹本  仰

特選句「青簾箱あける彼の赤い月(中村セミ)」彼の赤い月、に不思議な魅力がありました。それは同時 に、青簾 箱に或る深みを与えていて、何か見てはいけないものに立ち向かう、純粋さと切迫感があっ て、それは、彼が少年である(もしくは少年であった)ことに対決しているように見えます。少年の好奇心 の裏おもてが、描けているのでは、と思います。特選句「空蝉や自分のことは語らない」空蝉という季 語の厄介さは、いわく語りにくいというところではないか、と思う。そういう語りにくい、つまり語っ てくれないという本質をずばっと示された感じがあり、大いに納得しました。わたしを見たとき、あな たは自身ばかりを大いに語るけれども、そんなあなたが空なのだ、と、これって般若心経?という、空 蝉とのクライマックスが活写されているような、すぐれた句だと思いました。特選句「振り返ると母が 消えていた 金魚」母を喪失した感じがとてもリアルに出ている句だと感心しました。半ば静物、半ば 生物のような、調度品にも似た金魚の目と口が、母の存在感と喪失感を瞬時にスパークさせてしまった のだろうか、喪失感ってこんなのだという、日常の感じの生なましさでしょうか。特選句「手を離され た 母よ 夏空よ(島田章平)」何となく出棺のシーンを思い出させますね。みんな、棺の蓋がしまる前に、ありが とうとか、いいところに行ってねとか、口々に言いますが、実際にはついていけない孤独を痛切に語っ いるのでしょうね。それはまた、愛欲というものの本質も感じさせます。しかし、別の見方としては、 ここでは母は死んでいないのかも知れない、しかし人間の社会との絆をいま母は失くしてしまい、どこ か果てしないところへといくのかも知れません。そういう、後悔と喪失感のせめぎあう、夏空のとらえ 方に、何か純粋な境地を見たように思いました。問題句「師の頭脳いまもいきいき夏の山(若森京子)」なぜ、頭脳、 としたのだろうか?ここは、煩悩、とすべきではないのだろうか?少なくとも小生は、そちらの方に師 の教えの説得力を感じるのだが、どうだろう?以上です。 本格的な、というより、いきなりの猛暑が来ました。みなさん、お元気ですか。かくいう小生は、 真っ先にへばる方の先鋒です。あ~、いやだなと思いつつ今朝も目覚めました。「夏の猫ごぼろごぼろと鳴き歩く」兜太師のそんな句の団扇で、一あおぎ、そして、手を合わせ、がんばります。いつもありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

大西 健司

特選句「磯野家の低き卓袱台豆の飯」世の中は令和となり、卓袱台を知らない世代が増えたことだろう。「磯野家の謎」なる本が話題になったこともあるが、こんなさりげないサザエさん俳句もいいものだ。低い卓袱台の豆ご飯が味わい深い。

新野 祐子

特選句「兜太書の筆致雄勁夏の空」四年前、戦争法案に反対し各地で兜太書の「アベ政治 を許さない」が掲げられました。自民党の強行採決で通ってしまいましたが、今回の参院選、山形は野 党統一候補が当選しました。草の根の勝利です。私たちの熱い思い、あの夏の空と重なります。入選句 「べたべたと七月に寄りかかられる」「河童の子ひよひよと鳴く梅雨入りかな」「髪洗う浅学じくじく 滴れて」理屈っぽくなりたくない夏は、こんなオノマトペ、面白いと思いました。もちろん内容も。

中村 セミ

特選句「青水無月人は四角い時計かな」人は時計が出来てからはその秒針に刺されるよう に従属され四角にも三角にもなっているようにも思う。

田中 怜子

特選句「炎昼をゆく人々の草書めく」暑くて熱気のゆらめきに草書のごとくゆらゆらして いる人物のまいった姿が映像として見えます。問題句「青簾箱あける彼の赤い月」「合歓の花暗渠に帰 る子供たち(田口 浩)」は、意味がよくわからなかった。

谷  孝江

特選句「また八月がくる耳打ちのごと波の如」八月という言葉の意味深さを分かっていらっ しゃる人たちが年々少なくなっている事、淋しくて哀しいです。八月がまた巡って参りました。常の日 とは何の変りも無い日が過ぎてゆくのでしょうけれど或る年齢の方々にとっては決して忘れてはならな い八月なのです。それなのに「耳打ちのごと波の如」と密やかに自分の中だけで思い募らせてゆかなけ ればいけないのか、と辛くなります。若い者たちの前では戦前、戦中、戦後の話は禁句です。誰も聞い てくれません。ひとり「語り部」をやっております。石川県に住んでおりましたから、空襲も、食糧難 にも、ぎりぎり逃れては来ましたが八月には私なりの思いがいっぱい詰まった特別な月なのです。

高橋美弥子

特選句「真言の一つ覚えや花蘇鉄」どっかりとたくましい蘇鉄。強風に揺られる蘇鉄の 姿はそんぞょそこらのたくましさとは違います。力強いです。この句からは、歩き遍路さんを思いまし た。きっと歩きながら雄々しい蘇鉄を見たのでしょう。もしかしたら雄花かもしれない……すっと伸び たその姿はどこか灯明にも似ている。一心に真言、たとえ一つ覚えであっても唱える人の姿が立ち上が ってくるようです。問題句「兜太遺せし団扇に夏の猫が鳴く)(竹本 仰)」作者には宝物ののような団扇なのでしょ う。夏の猫鳴けりと強く着地してみてはいかがかなと思いました。「に」「が」など助詞の使い方も疑 問が。

月野ぽぽな

特選句「清書する手紙青葉の手触りの」心を伝えるために念入りに下書きをした後、さ あ清書。その便箋が青葉の感触だという。宛てた相手への清い気持ちが見えてくる。

桂  凜火

特選句「故郷は水音ばかり夏の月(小山やす子)」何もないだれもいない、けれど懐かしい故郷、「水音ばかり」の措辞ですべてが伝わるようです。夏の月の中に立つ作者の姿がみえるようですね。哀しいけれど素敵でした。

田口  浩

特選句「この場所で死ぬひとたちに通り雨(男波弘志)」<この場所>とはどんなところ。<死ぬひと たち>とはどんな人。想像しても何も見えてこない。しかし<通り雨>と置かれると浮きあがって来るも のがある。場所と死ぬ人たちに、祈りのような清浄感さえ立ちあがる。特選句「とても躑躅な木造駅舎 待ちぼうけ」私のような老年になると、このような駅を心の中に、いくつかは持っているものである。 その上で<とても躑躅な>と言った発想は詩的である。童心。純。といっていい。ただし、<待ちぼう け>は少々安易ではなかったか?

増田 暁子

特選句「とても躑躅な木造駅舎待ちぼうけ」上5中7で景がパッと広がる 素晴らしい。特選句「万緑や橋の長さの旅心」旅心を橋の長さで表現したのが斬新です。並選句「温かい尿我に親しい羽抜鳥」師の姿なく羽抜鳥の心境に。「青田無限雨ふる日には雨の歌」心の景色が胸に響きます。問題句「青水無月人は四角い時計かな」面白いですが四角は田圃の形でしょうか?まだまだ選びたい句があり、皆様素晴らしいですね。本当に勉強になりました。

三枝みずほ

特選句「夏蝶を放ちつづけている胸か」夏蝶は力強く美しい。夏蝶が去りだんだんと軽 くなっていく胸。最後の夏蝶を手放す時、何を思うのか。そんな境地に辿り着きたいものだ。特選句「賽 の目の一の連続熱帯夜」ジャンケンで勝ち続けたり、ババ抜きでいつもババを引いたり、何かの連続は 一種の恐怖だ。一が出続ける偶然性がだんだんと怖くなる。熱帯夜がこの世界観へと導いていく点が興 味深かった。

佐藤 仁美

特選句「梅雨深し八角堂を固く閉じ」人の気配もしない、深い雨の境内の様子が目に浮かびました。昼間でも孤独を感じます。特選句「まだ星の匂いの残る草を引く」暑さを避けて、明け方に草取りをしているのでしょう。現実の草取りの作業と、「星の匂いの残る…」と言う詩的な表現の取り合わせに惹かれました。

重松 敬子

特選句「少女すぐ輪になるサマードレスかな」成長期の微妙な少女像。直ぐ輪になるが、個性が目覚める前のなんとなく群れていたい少女と受け取りました。そうすると、サマードレスの色や柄まで想像出来ますそうで面白い。

男波 弘志

特選句「清書する手紙青葉のてざわりの」作者の佇まい、その清廉さが鮮やかに見えている。

野口思づゑ

特選句「銀河鉄道のきっぷあります星まつり」いいですねぇ。その切符ください、買います、と手をあげたくなりました。特選句「まだ星の匂いの残る草を引く」早朝から草むしりなのでしょうか。ほとんどの人にとって草むしりなど大好きな仕事では無いと思うのですが、こんな気持ちで雑草を取る作者の感性に惹かれます。「べたべたと七月に寄りかかられる」大変共鳴いたしました。「見えていて見えない息子昼花火」私には息子はいませんが、なるほどそんな感じなのか、と想像できました。

藤田 乙女

特選句「てのひらは光の器夏の海」夏の海の中に、広げた手のひらを光の器と表現し、素敵だと思いました。どこまでも青い海の中に目映い夏の光を享受し、一体化している姿が目に浮かびます。若さと生気と明るさを感じ、元気をもらえる俳句です。特選句「見えていてみえない息子昼花火」 わかっているようでわからない息子、やっぱり血のつながりがあると感じる時もあればまるで他人のように思えることもある。親子といえども人を理解するのは難しい。昼花火との取り合わせがとてもいいと思いました。共感できる句でした。

河田 清峰

特選句「真言の一つ覚えや花蘇鉄」蘇鉄の雄花のどっしりと天を突く姿をみていると「一 つ覚え」がよくわかる!真言の語彙で咲く場所も有り様もみえてくる好きな句である!

亀山祐美子

特選句『まだ星の匂いの残る草を引く』何も難しい言葉がない。朝、坦々と草を抜く人が見える。「まだ星の匂いの残る草」という時間設定と状況設定が秀逸。夜と朝との間。土が夜露に濡れ草が抜き易い事実と「星の匂いが残る草」というメルヘン・虚構との対比してる。「草を抜く」という実情・動作。日常の揺るぎなさ。「草を抜く」日常の中の修練。一途になれる貴重な時間。好きな一途。

銀   次

今月の誤読●「ふり向けば鬼女になるかも青葉闇」。その女はいつも穏やかだった。だれに接するときも柔和なほほえみを浮かべ、立ち居ふるまいはつつましく、言葉を荒げることなどついぞなかった。美しく、いっそ可憐とさえ思える女だった。家庭でも同じだった。良妻賢母という言葉があるが、彼女ほどそれにふさわしい女はいなかった。よき親に育てられ、つりあいの取れた男性と見合い結婚をし、一男を授かり、暖かい家庭を守った。彼女が三十歳の半ばを過ぎたころだった。ある日ふと、まさしくふいに、女は自分に問いかけた。「これで満足なのか?」と。そして「わたしは幸せなのか?」と。その問いかけに答は見つからなかった。何度自問しても、こころの裡からの答はなかった。なに不自由のない暮らし、波ひとつ立たない人生。それが幸福を保証するものなのか、彼女のこころにふいに疑念がわいた。わたしはほんとうに生きてるのだろうか? その日、女は夕飯の天麩羅を揚げていた。少しボッとしていたのだろう。鍋にコンロの火が移り、弾けるように炎が舞いあがった。女は慌てるでもなく、消そうともせず、その炎にじっと見入った。火炎は換気扇にまで届き、周囲を焦がした。女の髪はチリチリと焼け、顔も一気に火傷を負った。それでも女は動かなかった。夫が飛んできて消さなければ火事になっていたかもしれない。夫は女を叱りつけた。「なにをしてるんだ!」。女はゆっくりとふり返った、そこには火ぶくれした顔があった……。そしてニヤと笑った。

高橋 晴子

特選句「炎昼をゆく人々の草書めく(月野ぽぽな)」日頃、書に親しんでいる人だろう。炎昼の人の姿態を草書めくと把握して面白い。問題句「沖縄の孕む紅色八月の色(増田暁子」すぐ紅型の紅がうかんだが、八月の色とくどくどいわないで、びしっと決めたら、沖縄の歴史も、風土も背後から浮きでてくる。八月の色では説明にしかすぎない。

漆原 義典

特選句「遠くより読経響くや蝉の穴(増田天志)」蝉の声を、「読経響くや」、と表現する詠み人の心境に、古き良き昭和の時代をたいへん懐かしく思い出しました。素晴らしい句をありがとうございました。

野﨑 憲子

問題句「小豆炊く母吾へ父を混ぜて血を」上半分は「A」音、下半分は「I」音で調べを整えている。何か祝い事があるのか小豆を炊いている母。小豆は血にも通じる。その母を見ている作者の思いが伝わってくる。言葉を構築して見事に一句にしている。少し難解なので敢えて問題句にしたが、もうひとつの特選句でもある。特選句「雷を混ぜ炎のパスタ茹で上がる」こんな猛烈なパスタを食べたら夏バテも一気に回復するだろう。ムム・・拙句以外百花繚乱の感。「雷のパスタ」いただきます!

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

夏場所
夏場所や月面着陸の一歩
島田 章平
落ちてくる力士夏場所砂被り
亀山祐美子
夏場所や阿修羅のごとく炎鵬舞う
鈴木 幸江
夏場所やいのちの泉湧くところ
野﨑 憲子
七月
七月の朝焼け色の色鉛筆
藤川 宏樹
七月の恋立ち上る登山道
中野 佑海
七月や散歩の犬がたたら踏む
野澤 隆夫
雲海の下に七月地球かな
野﨑 憲子
七月の風の真中に龍の爪
亀山祐美子
四月馬鹿七月尽に解ける謎
鈴木 幸江
桐下駄
桐下駄を揃えて入道雲に乗る
野﨑 憲子
思い出と歩く桐下駄揚花火
中野 佑海
牡丹灯籠カラコロと円朝の桐の下駄
銀   次
かまきり生れ桐下駄に穴三つ
島田 章平
下駄は桐その角に浴衣の君が
柴田 清子
七月の風はピリカよ馬笑ふ
野﨑 憲子
稚児神馬入道雲が追ひかける
亀山祐美子
馬越(まごえ)過ぎ南郷庵(みなんごあん)へ島遍路
野澤 隆夫
夏空や馬のタテガミ欲しくなり
河田 清峰
黒き馬向日葵畑に消えゆきぬ
銀   次
草原の星美しや冷し馬
島田 章平
雲海につながれてゐる神の馬
柴田 清子
箱眼鏡見て繰る海女の命綱
島田 章平
古女房に小箱開かば若牛蒡
藤川 宏樹
七月の箱庭あをのあふれをり
亀山祐美子
草むしり我が箱庭のよみがへる
野澤 隆夫
秘密の箱あとの箱には死んでから
鈴木 幸江
耳元へ新たな神話夏の箱
野﨑 憲子
氷菓子もっと甘えてみたかった
中野 佑海
てのひらから河童になりぬかき氷
野﨑 憲子 
青空へ五体投げ出す氷菓かな
亀山祐美子
舌の色くちびるまでも氷菓食ぶ
河田 清峰
氷屋さんいつも見ていた女の子
鈴木 幸江
氷屋さんお盆特別セールです
野﨑 憲子
人生の無口一刻かき氷
島田 章平

【通信欄】&【句会メモ】

7月句会の参加者は11名でした。事前投句の合評は、高点句と共に、句会場に来ている方々の作品を中心に行っています。私は、司会者の特権で作者名がわかっていますので、合評している句の作者の方に、時折感想を求めます。作品の生まれる過程を知り、納得したり、驚いたり、することもしばしばです。句会って、面白いですね!

8月後半から、10月の「海原」全国大会in高松&小豆島の準備を本格的に始めます。準備も、存分に楽しんで行っていきたいと願っています。皆様のご参加を楽しみにいたしております。

冒頭の写真は、北海道弟子屈(てしかが)町にある第四紀火山アトサヌプリ(通称:硫黄山)の噴火口のひとつです。標高は512mとそんなに高くないのですが、山肌のあちこちから噴煙があがっていて、近くまで行くことができます。

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