第166回「海程香川」句会報(2025.10.11)
事前投句参加者の一句
青き日の吾はどこここに小さき秋 | 藤川 宏樹 |
白亜紀の微かな吐息秋の蝶 | 大西 健司 |
老犬を葬る地高し秋桜 | 福井 明子 |
煙茸踏んではしゃぐ子雨去る森 | 津田 将也 |
人類滅亡後火焔土器 氷柱 | 島田 章平 |
敬老日入れ歯にばっちり祝膳 | 山本 弥生 |
ほそくほそく雨ふる夜に猪を食ひ | 小西 瞬夏 |
鉛筆に光る「賞」の字いわし雲 | 松岡 早苗 |
死などより怖き余生や夕蜩 | 塩野 正春 |
萩の花高目にくくるポニーテール | 布戸 道江 |
「生き延びたね」友と握手す秋彼岸 | 出水 義弘 |
離愁とはアダンの木陰からの距離 | 河西 志帆 |
鵙の贄古墳の埴輪覚醒す | 河田 清峰 |
鶏頭や朱には染まらぬ覚悟あり | 石井 はな |
風ごとに弄ばるる吾亦紅 | 佳 凛 |
ぽろぽろと欠けてく言葉ふる落葉 | 野口思づゑ |
木の実降るスイッチバックの秘境駅 | 植松 まめ |
紙芝居屋の落としし釦すすき原 | 川本 一葉 |
分骨の母を装う曼殊沙華 | 伊藤 幸 |
あめんぼの水輪いそがし城の堀 | 三好三香穂 |
どんぐりや平凡といふ粒揃ひ | 岡田ミツヒロ |
騙し絵に匿われたる火焚鳥 | 三好つや子 |
藤井聡太落ちた木の実に黙礼す | 吉田 和恵 |
額付け合ったままタンゴ無月なり | 森本由美子 |
プロジェクトマッピング オリオン隠し主役顔 | 遠藤 和代 |
満席の「国宝」出れば十三夜 | 新野 祐子 |
泥酔の一歩手前か酔芙蓉 | 稲 暁 |
ポケットに抗不安薬柳散る | 向井 桐華 |
秋深し天使うつむくクレーの絵 | 大浦ともこ |
瞳の奥の野に鵙夕日に魅せられて | 竹本 仰 |
シャインマスカット恋をしてみませんか | 柴田 清子 |
梨を食む部屋にさざなみ立てながら | 和緒 玲子 |
秋星の触れ合う音や調律す | 三枝みずほ |
曼珠沙華少し遅れてみな他人 | 山下 一夫 |
天井の壁の真白やひやひやす | 亀山祐美子 |
不揃いの家族いつしか虫時雨 | 綾田 節子 |
揺れるたび少女に戻る秋桜 | 藤田 乙女 |
母はもう陽だまりだから菊の花 | 河野 志保 |
ついて来る紙飛行機という秋思 | 男波 弘志 |
尋ね聞く家出の理由無月の夜 | 松本美智子 |
敏感な生き様四十雀近し | 松本 勇二 |
朝茶事に届くいちりん酔芙蓉 | 樽谷 宗寛 |
擦れ違ひふれあふわたし紅葉かな | 各務 麗至 |
真珠のバレッタ姿見の中の秋めかし | 岡田 奈々 |
鍋底の逃げ場失う白豆腐 | 中村 セミ |
こすもすや風の渋みも知っている | 高木 水志 |
椿の実てらり遺影が笑ったぞ | 野田 信章 |
蓮根うすく切る軽い返事する | 桂 凜火 |
髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行 | 若森 京子 |
神激怒バベルの塔やカナンの地 | 滝澤 泰斗 |
天高し泰然たりし兜太の碑 | 疋田恵美子 |
悔という光もありて鰯雲 | 佐孝 石画 |
秋風や甲骨金文書の心 | 漆原 義典 |
古希過ぐや釣瓶落しが加速する | 柾木はつ子 |
鰯雲ふらっと父が姿消す | 十河 宣洋 |
両翼に稲田広げし吉野川 | 末澤 等 |
鳳仙花弾けるまでの風の色 | 榎本 祐子 |
青春と云ふ西日の当たる四畳半 | 銀 次 |
兄が逝く 遮るものなし秋天は | 田中 怜子 |
河童忌や値札重ねて貼られあり | 菅原 春み |
それぞれの痛み抱えて雨の秋 | 薫 香 |
戦火なき地球を祈りかぼちゃ煮る | 重松 敬子 |
ご同輩貧乏かずらといでしかな | 荒井まり子 |
月明かり白き睫毛の犬眠る | 花舎 薫 |
人間はもの思う箱小鳥来る | 月野ぽぽな |
草雲雀地に落ちもせず鳴き果てん | 時田 幻椏 |
それまでに しとけと鳴くは 鳩時計 | 田中アパート |
さねかずら男の見栄のめんどうくさ | 増田 暁子 |
影ひとつ元気でゐるか月今宵 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「道草の花野に濡れて犀の腹(和緒玲子)」。犀の腹のすこし湿った質感、手触りが妙にリアルでありながら、道草をする犀という童話的な世界。虚と実の良いバランス。
- 十河 宣洋
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。別れである。寂しい別れ。恋人との別れのようである。アダンの木の実のような形の整わないような不思議な別れ。心はまだ整理できないような状況。特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。団栗の背比べなどと何かの引き合いに出される団栗である。平凡な集りということのようである。だが集まった顔ぶれを見ると団栗どころかエリート集団である。これが平凡なら我々の世界はなんなの?といったところ。
- 榎本 祐子
特選句「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」。髪を梳きつつ己の羈旅をみつめる眼差しが美しい。
- 松本 勇二
特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。蓮根を用心しながら薄く切っていて、誰かの問いかけに軽い返答をしたようです。日常の中から詩を掬い上げる手法と繊細な対句表現が光ります。
- 岡田 奈々
特選句「人類滅亡後火焔土器 氷柱」。これから地球が温暖化するのか、氷河期に入るのか分かりませんが、また、縄文時代に戻って、うらうら暮らそうか。特選句「鍋底の逃げ場失う白豆腐」。残りの野菜や、肉、魚は網でも掬えますが、豆腐だけはのらりくらりと逃げて、箸にも棒にもかからない。まるで、誰かのようですね。私かもです。「青き日の吾はどこここに小さき秋」。若い頃は心残りになる思い出が色々ある。それが若いということか?「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。どんぐりの背比べ宜しく、平凡といふことの有り難さ。「鰯二尾夕餉の膳の主役かな」。白いご飯と鰯とお味噌汁あれば、満足です。「心臓のまはりに十月の微風」。胸キュンの なにか?心臓が年で救心が必要?誰かとの間に隙間風?とか。「こすもすや風の渋みも知っている」。こすもすも色々苦労なさっているんですね。「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」。年取れば段々髪も薄くなって毀れ萩の様に抜けてゆく。まさしくムンクの叫びです。「古希過ぐや釣瓶落としが加速する」。年取ると日暮れの速さが、身に沁みます。「見開きを伏せて聞き入る夜長かな(亀山祐美子)」。読書の秋もこの歳になると眼もお疲れさま。本を伏せて、しみじみ秋を感じるのも有りですね。
- 月野ぽぽな
特選句「悔という光もありて鰯雲」。人の心の働きに光を当てているところ、それもネガティブと捉えがちな悔い、という感情に光を当てているところ、その悔いを光と捉えているところに、悔いに真摯に向かい合ったからこそ得られるであろう諦念と達観の境地を見ました。鰯雲の広がりも味わい深いです。
- 各務 麗至
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。今裏山から、団地の広場へとはみ出した木々から、枯葉や木の実が限りなく降り散っています。「どんぐり、どんぐり」と、孫が嬉しそうに拾ったり蹴ったりしていた姿も浮かんできます。真新しいどんぐりは粒揃いで、粒揃いという言葉は、どんぐりの背比べもありますが最高の褒め言葉でもあって、それを当たり前やそうあるべき平凡と表現して、人間や人生を、それぞれの生き様をそれぞれ肯定している作者のやさしさも見えてきます。特選句「天高し泰然たりし兜太の碑」。何とも私も一句にしたいような「天高し泰然たりし」が、思いがけず身近に招いていただいた時の兜太先生その人その大きさを感じて、句碑だけでなく、声も姿も私には見えてくるような思いがしました。T音とS音が作用しているのでしょうか、心に胸に響いて忘れられない句になりそうです。
- 三枝みずほ
特選句「ついて来る紙飛行機という秋思」。風に吹かれて伸び伸びと飛び風とともに落ちる紙飛行機は秋思のよう。感情の高揚があるから、より一層淋しさや虚しさを感じる。秋思がかたちを得た一句。特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。何気ない日常のやり取りの中に心の軽さ明るさがあるのは蓮根だからだろう。助詞がなく動詞で書ききる力技がリズムを生んだ。
- 桂 凜火
特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。調律の様子が伝わります。星の触れ合う音とは、メルヘンな仕立てに成功していると思いました。
- 樽谷 宗寛
特選句「軍人手帳がお守り老いの昼寝かな(竹本 仰)」。お国のために尽力なさつてくださり今の平和の時代があります。軍人手帳が御守りの句柄にひかれました。
- 和緒 玲子
特選句「敏感な生き様四十雀近し」。四十雀は環境の変化に敏感な鳥らしい。そして言語を持ち文法を操り、仲間とのコミュケーションを豊かにしている事は最近では知られた話である。その様な生き様は人間にも当てはまるのではないか。鳥を愛する人なら尚更のこと。鳥を愛でる視線は周りの人にも向けられ、あくまでも純粋で何処までも優しい。かわかっこいいのだ。物理的心理的な「近し」と読ませていただいた。
- 津田 将也
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。離愁とは、別れのきわに感じる悲しみや寂しさを指す言葉です。別れの悲しみ、別離の寂しさ、と同義です。男と女の悲しい別れが、アダンの木陰のそれぞれの距離の位置からはじまるなんて、なんて心憎い演出なんでしょう。私は、句を一読し、一九七三年に公開されたフランス・イタリア合作の「離愁」という映画を想い起こしていました。第二次世界大戦中のフランスを舞台に、ナチスの手から逃れようとする妻子あるフランス人中年男と、ドイツ生まれの若いユダヤ人女の、束の間の絶望的愛と別れを描いたものでした。
- 伊藤 幸
特選句「祈りとは林檎の芯に蜜満つる(月のぽぽな)」。祈りとリンゴの思いがけない絶妙な取り合せに脱帽です。特選句「兄が逝く 遮るものなし秋天は」。兄弟の繋がりはたとえ親子でも連れ合いであろうと 入り込む隙が無いほど強い糸で結ばれている。その兄の逝く時の悲しさは計り知れない。
- 柴田 清子
特選句「兄が逝く 遮るものなし秋天は」。雲一つない真青な秋天の日、逝く兄への惜別が、ひしひしと心に迫って来る。
- 山本 弥生
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。令和の世に生きる高齢者には、平凡とは縁遠い毎日である。自然の世界のどんぐりの粒の揃っているのを見ると平和で平凡な落付きを感じてほっとする。
- 藤川 宏樹
特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。重厚長大の昭和から軽薄短小の現代へ。価値観は変わっても変わらない日常が軽妙に描かれています。俳句ならではの描写に感じ入ります。いい味出ています。
- 三好三香穂
「初恋など語る酒なり十月来」。10月1日は日本酒の日であります。酒飲みのイベントが毎年開かれます。20年以上前のことですが、利き酒で優勝したことがあり、ここのところ毎年参加させてもらっている。年一度この日にしか会わない仲間もいて、なかなか楽しい。「それぞれの痛み抱えて雨の秋」。後期高齢者に何時の間にかなってしまった。関節も痛いが、心のどこかも痛いのであります。
- 森本由美子
特選句「秋日ふと芳ばしく掠める記憶(山下一夫)」。目眩く記憶が一瞬見えたのに触れることは出来ない。でも構わない心を優しく締め付け、束の間の豊潤なひと時に誘い込んでくれる。
- 若森 京子
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。アダンの木は沖縄、台湾の海岸に自生するが一句の中にて音感もよく、離愁の気持を盛り上げ一句を詩としても昇華させている。特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。日常の断片だが、蓮根をうすく料理をしているとき、内容を余り確認もせず軽く返事のみ返す。よくある行為だが、蓮根が妙に味を出している。
- 男波 弘志
「よちよちと男の料理秋の空」。自分もそうして料理をしております。下手ですがはっきりわかったことは売っているお惣菜より美味しいものが作れます。材料が新鮮ですし、旬のものを選べますから。秀作。「人間はもの思う箱小鳥来る」。キャラメルの函でしょうか、自分は小さいマッチ箱くらいでしょう。もうないでしょうけど。秀作。
- 田中 怜子
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。この句を詠んで田中一村の絵が浮かびました。どんな思いで奄美に行き、奄美紬の工場で働きながら、金がたまると絵画に打ち込む。目を細めてアダンや海を描く、その先にある本土や中央画壇を見ていたのだろうか、そんな思いをしました。特選句「青春と云ふ西日の当たる四畳半」。あの流行った歌が流れてきました。貧乏でも苦にならない青春、甘酸っぱい思いの歌でしたね。恋もしたでしょう。
- 植松 まめ
特選句「白亜紀の微かな吐息秋の蝶」。白亜紀の微かな吐息。白亜紀という言葉に惹かれた。真っ白の世界に小さな秋の黃蝶が漂っているのだろうか?美しい繊細な句だ。特選句「鉛筆に光る賞の字いわし雲」。子供時代の運動会を思い出した。あのころ徒競走の速い子はノートを賞に貰った…足の遅い私は鉛筆を貰った。本当は運動会嫌いでした。
- 花舎 薫
特選句「天井の壁の真白やひやひやす」。天井を見つめている。病床なのか時間を持て余して横になっているのか、どちらにしても天井の白さが冷たく、独りの寂しさが伝わる。ひやひやすがよい。孤独感の中に軽い自虐も感じられる。天井といっているので壁と言わなくてもいいと思うが。
- 柾木はつ子
特選句「青春と云ふ西日の当たる四畳半」。《青春の光と影》とはよく言われる言葉ですが、掲句はその影の部分を表現されていると思われます。鬱屈した思いが「西日の当たる」で象徴的に描かれていると思いました。特選句「河童忌や値札重ねて貼られあり」初め連想したのはタイムセールの惣菜売り場でした。この季語との距離感がとても大きくて面白いなあと思いましたが、よく考えると、彼の著作の古書に貼られた値札のことかも知れません。
- 野田 信章
特選句「額付け合ったままタンゴ無月なり」。二句一章の簡潔さー「無月なり」の言い切り方に句の若さがあり。即興かとおもえる二人のタンゴの景が展く。アップされた映像を通して漂う憂愁の気はタンゴそのものであろう。これを機に人の世の苦悩もとり込んだ情熱の旋律の舞踏の世界に関心を深めたいと思っています。
- 河西 志帆
特選句「人間はもの思う箱小鳥来る」。凄いなあ〜私たちは「箱」だったんだって、そう思ったら、そんな気がして来ました。楽になる〜。「死などより怖き余生や夕蜩」。歳をするごとに、この心境がわかるわ〜になってきましたよ。「曼珠沙華少し遅れてみな他人」。この花にしみじみしてくるお年頃です。さっぱりした物言いがいいわ〜。「秋蛍あっちもこっちもないどこか」。理屈抜きに好きです。この通りですもの。ひらがながいい。「蓮根うすく切る軽い返事する」。この素っ気ないところがいいんです。忙しいし。「曼珠沙華形を変えて夜が来る」。夜は必ず来るけれど、形を変えてくるなら、来てほしい。
- 島田 章平
特選句「さねかずら男の見栄のめんどうくさ」。男の見栄なんて、結構つまらない事が多いですね!
- 塩野 正春
特選句「藤井聡太落ちた木の実に黙礼す」。名人といえども勝負に負けることある。日本大和の武士道、柔道、剣道、その他負けてこそ人は成長する。落ちた木の実に黙礼とはなんと美しいマナーそして表現であろう。まだ日本は間に合う。大和魂をこれからも引き継ぐ人うれし。特選句「神激怒バベルの塔やカナンの地」。カナンの地、地中海を取り巻く国々の争いは旧約聖書以降も絶えない。何せ神がそう仕向けたのだから。バベルの塔を建てた人間に怒り狂った、人の言葉がお互い通じないようにし、紛争を絶えなくした。ITの時代は何とか神の怒りを鎮める事が可能になるかもしれない、言葉が通じれば。
- 布戸 道江
特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。調律の繊細な感覚を星が触れる音にたとえて新鮮な詩。「鰯雲追いかけるのをやめました」。いつも何かを追いかけてる自分、ドッキリです。「ふいに来てフロントガラスの赤とんぼ」。自然豊かな所をドライブ、気持ちの良い句。「ついて来る紙飛行機という秋思」。紙飛行機のような漠然とした空気、自分にもあります。「月明かり白き睫毛の犬眠る」。一日を終えて月明かりに寛いでいる、ゆったりした気分。
初参加の弁「初めて憧れの海程香川の句会に参加できて嬉しく思います。余裕はないのですが、俳句を楽しみたいと思います。
- 河野 志保
特選句「ついて来る紙飛行機という秋思」。紙飛行機は気まぐれ。あっけなく落ちてみたり、ふいに遠くまで飛んでみたり。秋の物思いもそんなふう。気持ちの揺れに「ついて来」られる作者。少し持て余し気味な日々を表現したのだろうか。
- 疋田恵美子
特選句「死などより怖き余生や夕蜩」。老境に入り、人生の終末期に抱える不安、反面精神的な緊張感をも感じました。特選句「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」。髪をすくという日常的な行為から、精神的寂しさを思いました。
- 銀 次
今月の誤読●「老犬を葬る地高し秋桜」。飼い犬のジロが死んだ。長年連れ添ってきた友人のような犬だ。老衰だからしかたがない。大往生というべきだ。なにも悲しむことはない。そう自分にいいきかせつつ、裏の畑に穴を掘って埋めた。そのとき、こんもりと盛り上がった土の上にコスモスの花びらがひとひら、どこからともなく、まるで置かれるように舞い降りてきた。わたしはなにげに嬉しくなって空を見上げた。秋晴れの美しい空だった。翌年のことだ。同じ季節になると、ジロの墓のまわりにコスモスが群れ生え、花々が咲き乱れ、ちょっとした花壇のようになった。別にだれがタネをまいたわけでもない。不思議なこともあるものだと思いつつ、そこだけ耕さずに畑仕事をした。そしてコスモスはやがて枯れ、なにごともなかったかのように土となった。さらにその翌年のこと、同じようにコスモスは咲いたが、その面積はグンと広がり畑の半分を占めるまでになった。さすがにわたしは不審に思ったが、だれかれの仕業とも思えず、それになんだか問わないほうがいいような気もして、そのままやりすごした。そしてまた翌年。こんどは畑一枚がコスモスの群生におおわれた。コスモスは風に揺れた。あっとわたしは声をあげた。その揺れるコスモスのなかにジロの走る姿を見たからだ。そうなのだ。このコスモス畑はジロがよみがえるために用意されたものなのだ。ならば畑一枚がなんで惜しかろう。以来、コスモス畑はそれ以上は広がらず、季節季節には花をつけ、風にさわさわと揺れるのだった。そしてそのなかをジロが走る。ジロが遊ぶ。
- 豊原 清明
特選句「道草の花野に濡れて犀の腹(和緒玲子)」。大量の選句原稿の中から、この句に感じるものがありました。問題句「草雲雀地に落ちもせず鳴き果てん」。いい俳句です。観察が浅いのか深いのか、解らないが、さりげなく見たまま書いてて良い。特選句「煙茸踏んではしゃぐ子雨去る森」。煙草吸う場所が減っているので、あれと珍しく感じた。吸い終わった煙草を踏んで、小説の始まりみたい。
- 岡田ミツヒロ
特選句「「生き延びたね」友と握手す秋彼岸」。折に触れて届く友の訃報、昨今の一年一年はまさに「生き延びた」というのが実感。苦笑い少し、友と握手する。特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。光年の距離の星々が寄り合い触れて奏でる音色、調律という日常を天界へ飛翔させ幻想的な音感世界へ昇華した。秋星ならではの情感。
- 松岡 早苗
特選句「梨を食む部屋にさざなみ立てながら」。梨を食べる時のシャリシャリという音を、無音の部屋に立つ「さざなみ」と感じたのでしょうか。作者の鋭敏な感性に脱帽です。特選句「よちよちと男の料理秋の空」。「よちよちと」という形容に惹かれました。慣れない料理を作らざるを得ない重たい事情があったのかもしれません。でも、「よちよち」には希望や未来が感じられます。そのうちきっと料理が楽しく上手になるに違いありません。
- 中村 セミ
特選句「ポケットに抗不安薬柳散る」。不安が襲ってくるのは、いつ頃だったのか、わすれたが、或るホテルに泊ったとき、眠っていると、ゴシゴシと何か引きづる音が部屋の前で止まった時、扉がこわされ、長い髪の女がたっていた。僕は、「な、何ですか」というも、長い髪がふわっと、こちらに飛ぶように、そして、首にまきついてきた。ぎゅーぎゅーしめられて、気をうしない、目が覚めたとき、ホテルの庭の柳の林立するなかにいた。目の前のホテルの名前は、 不安 ポケットの抗不安薬を飲み忘れている。ポケットの抗不安薬柳散る 柳がまるで散らばる様に風に吹かれていた。
- 荒井まり子
特選句「野猿群れ秋の真夏をおびやかす(松本勇二)」。中7に納得、日本は昔四季があったが今後はどうなっていくのか、未来に希望があるのか心もとない。あー。
- 福井 明子
特選句「秋深し天使うつむくクレーの絵」。クレーの絵に込められた思いは、言葉では表しきれぬものがあると思います。そこを、それぞれの人に投げかけられた一句と思いました。秋深し、この言葉にふっと立ち止まる静かな時間が漂っていると思います。
- 石井 はな
特選句「十六夜やAIしばし口ごもる(若森京子)」。今やAIが何でもこなし、人間にとって代わる勢いです。そのAIが十六夜の月の美しさに圧倒されて言葉を失っている。そんなAIへの共感と畏怖を感じさせます。
- 末澤 等
特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。星が触れ合うはずも無く、ましてその音を調律するなんて、技術屋の私としては認めることができ難い一句ですが、そこはかと無くロマンがあって、大変魅力的でしたので、とらせていただきました。
- 竹本 仰
特選句「不揃いの家族いつしか虫時雨」:色んな方角へ向くのは、枠を小さくしないということだろう。どこまでが境なのか、そもそも家族とは何なのか。小津安二郎の『東京物語』を思い出すと、死んだ母の形見分けの時、バラバラになりつつある家族の喧噪のシーンがある。本当は美しくない家族、でも家族という実態が浮き彫りで、かえってあれが作品のテーマを深めている。頼りないけど、頼るしかない家族。虫時雨かな、たしかに。特選句「揺れるたび少女に戻る秋桜」:時間は直線ではなくらせん形か。何度も同じ地点に戻りながら、進もうとしている。一昔前、書道の塾に通っていた頃、短冊に書く句をひねっていたYさんという八十代の女性がしきりに呟くのが聞こえた。腹ぺこで、お下げ、というのが終戦の日の自分だったということらしい。だがもどかしくなかなか完成にたどり着けない。その辺の空気感には七十年前の彼女と必死で対話する様子がうかがえ、少女の私を裏切らず書きたいという思いだったようだ。裏切らず少女は戻って来る。と思わせてくれた句だ。特選句「椿の実てらり遺影が笑ったぞ」:昔話の中にふいに飛び出したつやつやとした一コマ。モノクロの映画や写真には艶がある。その艶はもちろん濃淡によるものだが、読もうとするといくらでも背景の、さらにその背景をも読ませようとさせる何かがある。中也の「一つのメルヘン」がそうだ。「秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があって、それに陽はさらさらとさらさらと射しているのでありました。…」回想するのではなく、回想させられるように出来ている。遺影はいつでも語りかけてくる、心にそれに合うスペースがあれば。一瞬の中に永遠があるように。♡暑い秋が続きます。夏が暑すぎたので、夕刻の散歩をしなくなり、久々に別件で歩き回る機会が出来たところもう稲刈りのシーズン。長い不在をわびる気持ちで一礼し、その後で腰が痛いことに気づきました。知り合いの接骨院で診てもらうと、骨盤が左にずれているとのこと。身体は日常を裏切りませんね。マッサージしていただいた夜はよく眠れました。めざめにはふと秋晴れのような軽い感じがあり、久々の空を見たような。散歩、復活しようと決めました。みなさん、お元気ですか。
- 亀山祐美子
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。「平凡といふ粒揃ひ」に参りました。しかもそれが「どんぐり」だと云う。実際に見渡した、集めたどんぐりのあり様の感想だが自然社会において「平凡」なんぞ有りはしない。自然育成の過程環境において単一であるわけが無い。その差異をくるっと丸めて「平凡」といい切り「粒揃ひ」だと評価する作者の視線の優しさ、柔らかさを感じた。それは人間に対する視線でもある。特選句「仲秋や神輿来るごと木々の揺れ(三枝みずほ)」。豊穣の実りの喜びと感謝の祭が各地で執り行われる。その最中大きな風で揺れる木々をあたかも天上からも祝いの使者神輿が遣わされたかに感じた作者の感性に共感する。
- 大西 健司
特選句「人間はもの思う箱小鳥来る」。所詮人間は四角い箱、そんな自虐の声が聞こえてきそう。
- 増田 暁子
特選句「揺れるたび少女に戻る秋桜」。少女に戻るが秋桜とぴったりです。句全体の爽やかさが素敵です。
- 三好つや子
特選句「秋蛍あっちもこっちもないどこか(花舎 薫)」。秋蛍のはかなげな存在そのものが、此岸でも彼岸でもない世界を漂っているのかもしれません。中七下五のあっさりとした表現にもかかわらず、哲学的で心を鷲掴みにされました。特選句「曼殊沙華形を変えて夜が来る(河野志保)」。曼殊沙華の咲く辺りの、人気(ひとけ)のない夜。曼殊沙華が昼とは違う姿で、歩きだしたり喋ったり。昼とは違うホラーな光景を空想しながら鑑賞。「人間はもの思う箱小鳥来る」。秋思というものを個性的な言い回しで捉え、私的には特選句ですが、箱という措辞に引っかかってしまいました。小鳥来るの着地は素敵だと思います。「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。日々、普通にちゃんと生きている人へのエール。この句のまなざしに深い愛を感じました。
- 河田 清峰
特選句「戦火なき地球を祈りかぼちゃ煮る」。かぼちゃを煮るのは難しく眼を離すと崩れてしまう。祈りしかないのだろうか?
- 野口思づゑ
今回は特選句はありません。「尋ね聞く家出の理由無月の夜」。理由、聞きたくなります。無月の夜が句に広がりを見せている。「銀山の痩せし町並み鰯雲」。銀が枯渇したため寂れてしまった町を上5、中7で巧みに表現し、季語の鰯雲でスッキリまとめ上げている。「蓮根うすく切る軽い返事する」。切っている最中に声をかけられ、とりあえずした返事。軽い返事になるのは当然で、薄切りの蓮根とピッタリ。「古希過ぐや釣瓶落としが加速する」。加速に釣瓶落としを持ってきたところが巧み。「秋の昼鰹節屋のなんとなく」。私は鰹節屋、があるのか、どういう店なのか知らないのですが、下5の「なんとなく」で鰹節屋の主人の顔まで浮かんでしまった。
- 吉田 和恵
特選句「兄が逝く 遮るものなし秋天は」。亡くなられたお兄さんが吸い込まれていくような青空、言いようのない淋しさを感じさせます。
- 遠藤 和代
特選句「鰯雲ふらっと父が姿消す」。さらりと読んでいるけれど、いろんなことが想像され面白い。
- 滝澤 泰斗
特選句「白亜紀の微かな吐息秋の蝶」。白亜紀に蝶が存在していたかどうかは分からないが、白亜紀などという途方もない過去の時代まで思いを飛ばせたことに単純に驚いている。まさに俳諧自由、ポエムなりだ。特選句「梨を食む部屋にさざなみ立てながら」。何人もいる部屋でみんな梨を食む、さざなみとは、言い得て妙。「毒蝶酔いしビール瓶の底にいる」。こちらの蝶はビール瓶の底にいるという・・・しかも毒を持って、蝶の句ニ態。俳諧の凄まじき想像力に感心しきりではある。「ほそくほそく雨ふる夜に猪を食ひ」。ほそい雨の夜に猪を食う・・・それだけの事だが、何故か魅かれた。猟師の何気ない日常句だろうが、その一日が想像されて心に残った。「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。なるほどなと・・・妙に納得の一句。
- 新野 祐子
特選句「鮭の頭を夢の国へと打つ男(十河宣洋)」。かつて数回渓流を遡り岩魚釣りをしました。岩魚を釣ると彼らの頭を叩かなくてはなりません。それが辛くて釣るのも食べるのもやめました。そんなことを思い出しつつ、この句を読みました。「夢の国へと」が脳裡を離れません。
- 綾田 節子
特選句「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」 。上五中七に参りました。勉強不足で蒼白紀行は読んでおりません。そのような訳で、作者には 失礼かと存じますが、特選にさせて頂きました。
- 高木 水志
特選句「不揃いの家族いつしか虫時雨」。好みも性格もみんな違う家族が虫の音に聞き入っている。様々な種類の虫の音が重なり合って、しみじみと愛おしい素敵なハーモニーが生まれる虫時雨のように、何だかんだで仲の良い家族を思い浮かべた。
- 菅原 春み
特選句「白亜紀の微かな吐息秋の蝶」。恐竜もいたような時代までさかのぼり、繊細な秋蝶と吐息との取り合わせが絶妙です。特選句「鵙の贄古墳の埴輪覚醒す」。季語の鵙のはやにえが画期的なつかいかたかと。にえが多い雄ほどさえずり速度がはやいとか。埴輪は覚醒せざるをえない?
- 漆原 義典
特選句「敬老日入れ歯にばっちり祝膳」。敬老の日の、暖かい雰囲気が、よく感じられます。心温まる素晴らしい句をありがとうございます。
- 向井 桐華
特選句「月明かり白き睫毛の犬眠る」。義母がとても可愛がっていた犬のことを思いました。優しい情感の伝わってくる一句です。
- 重松 敬子
特選句「ついて来る紙飛行機という秋思」。私は秋思も、春愁も体験なしのシンプルな性格だが、このとらえ方がおもしろい。同じ作者の春愁の句もみてみたい気持ちである。
- 時田 幻椏
特選句「漂泊える魂に木犀深入りす(吉田和恵)」。木犀を踏音開言花・フミオエコトバナと言うそうである。木犀の芳香は、正に魂に深く入り込んでくると共感した。「漂泊える」は「ただよえる」と読んで宜しいのだろうか?ルビが欲しいと思った。「漂える」「漂白の」と言う表記では、不充分と句作者は思ったに違いないのだが・・。問題句「曼珠沙華少し遅れてみな他人」。句意を掴み切れず。「曼珠沙華少し遅れてみな知人」。と対意語に変えても句力と句意にあまり変化を感じず・・。「上弦の鬼とや柘榴の冥く裂け(大西健司)」。句感から秀句と思いながらも「上弦の鬼」が解らず、調べると漫画・アニメの「鬼滅の刃」に登場する言葉と知る。「毒蝶酔いしビール瓶の底にいる(中村セミ)」の毒蝶も「鬼滅の刃」に関係するそうで、流行に疎い私には、良し悪しの前に問題句でした。
- 大浦ともこ
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。どんぐりは粒ぞろいだが人はそれぞれに歪で平凡であることはとてもむつかしいこと・・そんな感慨を持ちました。特選句「梨を食む部屋にさざなみ立てながら」。静かな部屋に梨を食べるサリサリという音だけが響いていて孤独を感じます。『さざなみ立てながら』も心の揺らぎのようでしっくりきます。
- 薫 香
特選句「こすもすや風の渋みも知っている」。爽やかだけじゃないのよ、そうだよねって感じかなあ。
- 出水 義弘
特選句「鉛筆に光る「賞」の字いわし雲」。昔、秋の運動会の徒競走か何かでもらった賞品の鉛筆を手にして、それに印されている金文字に重ねて自分の活躍を誇らしく思い出している様子が浮かびました。特選句「母はもう陽だまりだから菊の花」。母はもうこの世にいないが、家族ひとりひとりの心の中では、一緒に集まる暖かい場、陽だまりとして生き続ける存在である。仏壇には菊の花が供えられている。母への追慕の心が家族で共有されている様子がよく分かります。幸せの典型だと思います。
- 松本美智子
特選句「曼珠沙華形を変えて夜が来る(河野志保)」。曼珠沙華の咲きほこる原風景を思い出させてくれる句でした。昼間の赤々とした幻想的な風景を一気に夜の幽玄で妖しい風景に変化させて、益々色鮮やかに輝くように思えました。
- 佐孝 石画
特選句「曼珠沙華少し遅れてみな他人」。「少し遅れて」。これも違和感の一つなのだろう。無感覚のまま日常に流されている際、ふと「我に返る」瞬間。我に返るとは、いったい自分とは何者なのだろうという、存在への不安、自問。長く寄り添う伴侶も元は他人、血縁者も自分とは違う他人に他ならない。群生する「曼殊沙華」を目にし、通り過ぎた後、「少し遅れて」、「みな他人」という感慨が呼び起こされてくる。群れながらも、それぞれの炎を一心に揺らめかす「曼殊沙華」の屹立した他人感覚。「他人」はさみしくもあり、強くもあると知るのだ。
- 山下 一夫
特選句「不揃いの家族いつしか虫時雨」。「不揃いの家族」は抽象度が高くて難解なのですが、作者が自身の家族に感じている違和感ということであれば理解できます。そんな思いも時間の経過と共に虫時雨に飲み込まれ溶けてしまう。虫時雨により自然の摂理も連想され深みを感じます。特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。薄くと軽くが蓮根と返事という異質な概念をうまく結びつけています。いわゆる穴の空洞も軽さに通じ、ウイット豊富。ちなみに、蓮根の調理は、ほくほく感を楽しむ場合は連なりの根元の部分を厚めに切って加熱、ぱりぱり感を楽しむ場合は連なりの先っぽの部分を薄切りしてさっと湯通しが推奨とのこと。薄く切ってチップスならどの部分でもいけそうですね。問題句「額付け合ったままタンゴ無月なり」。タンゴと無月から、ダンスする人の黒い衣装を連想され、スタイリッシュで素敵。しかし「額をつけ合ったまま」というのが実際のタンゴにはないと思われ難解。意図は不可能性というところにあり、そのことと無月の取り合わせなのでしょうか。
- 稲 暁
特選句「コスモスに寄り添う風になりたいの(柴田清子)」。コスモスに寄り添う風になりたい、という表現にとても惹かれました。作者の心の優しさが感じられました。特選句「空白の句帳そのまま小鳥来る(藤田乙女)」。空白の句帳そのまま、という表現は誇張だろうが、小鳥来るという季語がぴたりと決まっています。
- 佳 凛
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。私は、『常に平凡』と言う言葉が大好きです常に平凡の難しさ、平凡である事の、有り難さ、ましてやどんぐりの育ちゆく環境は、年々厳しくなっている。他の動植物も然りです。平凡に粒が揃って居れば万々歳です。あなたの、優しさにも、万歳です。
- 野﨑 憲子
特選句『満席の「国宝」出れば十三夜』。映画「国宝」に魅せられた。こんな十七音の世界が描けたらと心底思った。まさに十三夜。人生は、お仕舞いまで艶でありたい。
袋回し句会
秋・祭
- 秋灯の湯屋あまやかに手術痕
- 和緒 玲子
- 遠くからやって来るのが秋祭
- 柴田 清子
- 秋祭ドンドコ太鼓迫り来る
- 末澤 等
- ケンタッキ―爺が待ち受け秋祭
- 藤川 宏樹
- 秋祭り親を見て打つ鉦のずれ
- 岡田 奈々
- 吹くや潮風夕さりの祭笛
- 野﨑 憲子
- ランドセルの防犯ブザー秋祭
- 布戸 道江
- 「カタパン」の懐かしき味秋祭
- 島田 章平
- 秋のいっぱい詰め込んでゐる白い箱
- 柴田 清子
箱
- 秋風や空っぽの箱の中に箱
- 柴田 清子
- 一筆の詫び状栗の箱届く
- 和緒 玲子
- 空箱を何処においても秋思かな
- 布戸 道江
- 臍の緒の木箱に秘密蚯蚓鳴く
- 藤川 宏樹
新涼
- 新涼や保護猫に名を与ふる役
- 和緒 玲子
- 新涼の風が吹きますまちぼうけ
- 野﨑 憲子
- 新涼や海の色したワンピース
- 柴田 清子
- 新涼やラガー薬缶の魔法水
- 藤川 宏樹
- 新涼や母の遺品の鋏磨ぐ
- 島田 章平
- 新涼やチャリの籠からバニラの香
- 岡田 奈々
暮早し
- 短日や指が覚えてゐる鍵穴
- 和緒 玲子
- 渦の奥からマグマの声や暮早し
- 野﨑 憲子
- もう知ってしまったからね暮早し
- 藤川 宏樹
- 暮れ早し終了間際の縄電車
- 岡田 奈々
- 暮早し母の背中のまん丸く
- 布戸 道江
- 暮れ早しティラノサウルス咆哮す
- 島田 章平
黄落
- 戦後八十年の公孫樹黄落す
- 野﨑 憲子
- 黄落すふっと頬杖ついてしまふ
- 柴田 清子
- 黄落の光を超えて遍路行く
- 末澤 等
- フレンチサラダ嵐山(らんざん)黄落す
- 藤川 宏樹
- 銀杏黄落青天を衝き破ってか
- 岡田 奈々
- 黄落や大道芸のバック転
- 島田 章平
- 黄落や十三桁の数字打つ
- 布戸 道江
- 鳥になりきれず幾千黄落す
- 和緒 玲子
【通信欄】&【句会メモ】
上段の写真は、「てくてく遍路」を始めた末澤等さんが撮影した四国霊場札所第五番地蔵寺の樹齢八百年になるという大銀杏です。樹下に佇って大きな生命力を授かったとお裾分けに写真を送ってくださったものです。満願をお祈りしています。
10月句会は、コロナやインフルエンザにご家族が罹患された方もあり、9名のご参加でした。丸亀から布戸道江さんが初参加、少人数ならがも、とても楽しく豊かな時間を過ごすことができました。
Posted at 2025年10月22日 午前 04:35 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第164回「海程香川」句会報(2025.08.09)
事前投句参加者の一句
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「母の忌や線香花火の小さき月」。線香花火をじっくりと見ている作者。月の発見が冴えています。母上もやってきて一緒に覗き込んでいることでしょう。
- 小西 瞬夏
特選句『「カナリヤ」は夜間保育所星涼し』。夜になってもお仕事が終わらない忙しい現代社会。シングルマザーが夜の仕事をしているかもしれない。こどもも寂しいが親も切ない。そんな保育園の名前が「カナリア」なんてよけいさびしい。けれど、「星涼し」という季語で救われ、何とか生きていけそうな気がする。
- 十河 宣洋
特選句「一睡や疲れが蝶になる夏野」。一睡の夢という言葉があるが、どこで寝ていたのか。公園などのベンチかもしれない。家のソファーでもいい。一寸した転寝の後の爽快な気分。特選句「八月の影法師どこをどう曲がつても」。自分の疲れた影が後を追ってくる。どこまで行っても後を追ってくる影法師。鬱陶しくもありこれが今の俺かなどと思ったりしている。
- 河西 志帆
特選句「八月を迷うまっすぐ母を嗅ぐ(三枝みずほ)」。母を嗅ぐという事は、匂いがしたとかでなく、此処を分かってよ。なんですよね。特選句「天道虫バンザイして翔ぶ爆心地」。バンザイは嫌いです。この句の中に沢山の哀しい戦争がありました。大切にしたい句です。「鳥雲に耳のうしろにある鱗」。補聴器を試しているところです。身体の何処も悪くないんですが、此処がどうも、鱗があるんかなあ〜!「走馬灯ヒトに未練という尻尾」。なるほど、時々ほんの少しだけど、変についてくると思ったら、それは尻尾だったんだ!「二枚目より遺書らしくなる遠花火」。分かります。本当の事って、すぐに言えないし、書けないんです。それって、案外本音かもしれません。
- 各務 麗至
「被爆忌の己の影に立ち止まる」。八月に、お盆に、ともなると、我々の世代でもいろいろ聞かされてきた敗戦時の残酷な風景が見えてきます。黒焦げの遺体も・・・・。己が影にそれが意識されて、忘れてはならないものです。特選。「合歓咲いて過去では何も起こらない(河野志保)」。先の特選にも繋がります。繰り返してはならない過去でなく、希望の花咲く現在未来を。特選。
- 樽谷 宗寛
特選句「真っすぐに戻る漁船や大夕焼」。映像が素晴らしい。漁港では家族の誰かが待ち受けていますね。
- 若森 京子
特選句「影法師の心臓はここ敗戦日」。ひろしま、ながさきには沢山の人間の影のみが焼き付けられた。「心臓はここ」という措辞から、生と死の尊厳を余計にリアルに我々の心に焼き付けられる。「それぞれの忘れる速度敗戦忌」。敗戦を経験した人も次第に少なくなっていく現実。若い人達の中にも色々の活動を通して核廃絶運動をしている人もいる。老若問わずそれぞれの速度は違う。しかし、絶対に忘れてはいけないと願いをこめて。
- 津田 将也
特選句「しゃんしゃんしまい向日葵がみつめてる」。しゃんしゃんしまい!(はやくしなさい!)は、香川県(さぬき)の方言です。「早くしろ」「てきぱきと行動しろ」という、半ば強制的な意味合いがあります。この句からは、関係のないこと(ひまわりがみつめてる)を口実に、てきぱきとした行動を促す母親と、それとは逆の子との間合いが、方言により微笑ましく詠まれています。
- 島田 章平
特選句『「カナリヤ」は夜間保育所星涼し』。「カナリヤ」と言う夜間保育所の名前に惹かれた。「炭鉱のカナリヤ」と言われるように、カナリヤは危険を感知する表現にもなる。少子化の時代、夜間保育所にわが子を預けて働かなければならない母親。現代の見えない社会の病根を「カナリヤ」と言う名前が表しているように感じた。
- 岡田 奈々
特選句「島一つ買う夢まったり大昼寝」。夢は大きい方が幸せ。だが、島が小さいと、十五少年漂流記になってしまいます。一つずつゆっくり整えてっと。特選句「狐の嫁入り荷物は絵馬と軽く言い」。こんなウィットにとんだ受け答え出来たら、人生楽しいだろうな。「遺言の書き出し見本蝉しぐれ」。遺言書くとなると、結構あれもこれも心配で書き並べるか、1つ買いて、筆が止まるか。まだ、何もしないうちに、死ぬ時きっと慌てる。「人を見る気配が重い胡瓜かな」。胡瓜は何時までぶらぶらしていて良いのか、あたりを伺っているのですね。「花火師は宇宙感覚地を這うて」。宇宙感覚とは自分が花火になったつもりで、火薬を詰めているのか。「ねじれ花姉を謎解き歌にする」。姉とは横暴で唐突なる生き物。それ題材に短歌のさぞ面白いものがかけるだろう。「どくだみや手足の傷に覚えなし」。何故か分からないが、一日遊んで帰ると擦り傷だらけ、どくだみ茶でも飲んで直しといて。「プラネタリウムワッテナナホシテントウムシ」。以前からテントウ虫の飛ぶところは大好きだったけど、プラネタリウムの形。そして、星が付いた躰。本当にプラネタリウムに見えてきます。「トランプのきるくるまぜる蜃気楼」。トランプゲームは切ったり繰ったり混ぜたりして遊ぶ。トランプ大統領も派手に他国を切ったり、遣り繰ったり、綯い交ぜにしたり。同じです。大統領にとって、政治はゲーム。そして、ニューヨークの摩天楼は蜃気楼。「夢追った跡は銀色なめくぢり」。夢は追ってる途中が、楽しい。終わればそれは良い思い出に輝く。
- 大西 健司
特選句「熊本空襲語りき青葉蒸す夜ぞ」。語り部も少なくなった昨今、八月はどうしてもこういう句に目が行く。〝青葉蒸す夜ぞ〟と書き切った思いの深さが切ない。
- 三好つや子
特選句『「カナリヤ」は夜間保育所星涼し』。昔でいう託児所のことでしょうか。夜に働かざるをえない母親を通して、浮かんでくる格差社会の実態。まるで映画の一シーンを見ているようです。特選句「扇風機まじめに時代遅れかな」。異常な暑さが続くなか、エアコンやサーキュレーターがもてはやされ、時代遅れになってしまった扇風機に、不器用で真面目な昭和の父親像が重なり、共感しました。「入道雲に拳八百万の神よ」。今年の八月六日の広島知事のスピーチを思い出しました。これだけの犠牲を払っても、今もって世界平和に辿りつけない現実に、愕然とします。「二枚目から遺書らしくなる遠花火」。遺された者へのメッセージだからこそ、御座なりにはできない。そんな思いと遠花火とが響き合い、惹きつけられました。
- 男波 弘志
「真摯に重く受け止め車輪の下」。既にして既成語になってしまったことばを使って辛辣な風景を創り上げている。鈍重な鉄の車輪が動き出すときの、ある高揚感と危機感がほんとうは必要なのだが、こういうことばを発する人たちは皆、上級車両の食堂車にいてワインなどを嗜んでいる。車輪の下の暗がりを知っているのは何処にでもいる市井の人たちであろう。秀作
- 桂 凜火
特選句「走馬灯ヒトに未練という尻尾(岡田ミツヒロ)」。未練というのはたしかに尻尾みたいなものですね。走馬灯と響き合いいい句だとおもいました。
- 高木 水志
特選句「どこまでが嘘か誠かソーダ水」。ソーダ水の不確かな気泡をうまくとらえていると思います。不確かな昨今の世界を表現しているのではないかと思いました。
- 増田 暁子
特選句「白日傘汝に片腕置いて来し」。心の名残りが「片腕置いて」と表し、とても上手いですね。特選句「影法師の心臓はここ敗戦日」。大変多くの戦の死を思い、平和を求める拠り所は敗戦日にある。その通りです。
- 川本 一葉
特選句「万緑に次は全部のドアが開く(河西志帆)」。よくわからない、というのがほんとうのところ。けれど万緑に目や心が開いていく、と読んだ。正直になれる、ただ今日はまだ心が疲弊してまだ心のドアが全て開かないけれど、などと見当違いかもしれないがそう感じた。解放される感じが好き、だと思って特選に。
- 野田 信章
特選句「花魁草長く生きたる自画自賛」。長寿に伴う功や苦の表出感ではなく、ただ「長く生きたる」というそのこと自体の自賛である。可憐な「花魁草」一茎の配合によって簡潔にして明度のある句姿が素敵である。
- 河野 志保
特選句「夏星に降り立つひとりはピアニスト」。夏の星にはどこか滲んだ憂いがある。夏夜のピアニストとその音色にも同じものを感じる。幻想の世界に引き込まれるような句。
- 豊原 清明
特選句「<沖縄にて>寅さーん銀バナナはグラム売りだぜ」。寅さんは昔の日本の風景を捕らえている。特選句「笑ひ皺五本十本雲の峰」。笑い皺、十本は景気がよい。問題句「千切り絵のごと雲流る昭和かな」。今年の選挙は怒りがこもっていた。
- 福井 明子
特選句「億年の表敬蜥蜴我を見上ぐ(時田幻椏)」。億年の表敬 という言葉に釘付けになりました。我が家のだだっぴろい屋敷にも蜥蜴がたくさん棲みついています。いつもひょいと出現して何処かへ滑り込んでいきます。億年も前から、あのままのかたちなのでしょか。アイコンタクトの瞬間、ヒトもその時をさかのぼるような、そんなポエジーを感じました。
- 藤川 宏樹
特選句「せりあがる朝顔同床異夢の紺」。せりあがる朝顔の紺が勢いで眼前に蘇ります。「朝顔」が「同床異夢」を見る人の朝の顔とも伺える取り合わせ、絶妙です。
- 和緒 玲子
特選句「熱帯夜中心線がずれてくる」。猛暑の一日を何とかやり過ごしても待っているのは熱帯夜。やれやれと寝具に横たわった時の視界だろうか。繰り返す寝返りに中心線が曖昧になっていく己が身体だろうか。暑さの異常性を通じ作者の肌感覚を繊細に表現している。
- 花舎 薫
特選句「虫食ふと人食ふ人とゐる葉月」。人食ふ人とはおそらく戦争を起こしている者たち、そして虫食ふ人とは戦争の犠牲者、飢えて死にいく者たちだろう。最初はよく訳がわからなかった。ただ何度も読んでいるうちに、寓話のような強烈な表現を批判でもなく説教でもない淡々としたトーンで詠まれていることに惹かれていった。特選句「遺言の書き出し見本蝉しぐれ(津田将也)」。昨今、何か知りたければGoogleで簡単に調べられる。料理の仕方から遺言の書き出し方まで。行為自体は物々しものであっても、全てが気軽に手に入ることで本来の重さが失われている感がある。ここでは、何せ自分の遺言である、思うところあっての行動だろう。ほんのちょっとの好奇心からかもしれない。誰か他の人が書いたものか、あるいはAIが数ある遺言を束ねて捌いたサンプルだろうか。誰かの遺言を参考にする、そのアイロニーに哀れを感じた。
- 月野ぽぽな
特選句「遺言の書き出し見本蝉しぐれ」。今の言葉では終活というのでしょうか。来るべき人生の最後の日のために諸々の準備をされているのでしょう。遺言にも書き方があり書き出しの見本があるのですね。句の中で心境は語らず、物を提示することで、その心境を読者に彷彿させ、さらには人間の健気さや滑稽さからペーソスに至るまでを立ち上がらせていて秀逸です。もちろん蝉しぐれの季節の音響効果や時間の経過の演出も最適です。
- 漆原 義典
特選句「バスに満つ部活帰りの青春の汗」。青春の汗。遥か昔の学生時代を思い出しました。上五の<バスに満つ>がいいですね。素晴らしい句をありがとうございます。
- 柴田 清子
特選句「言の葉が降りてこないのけんけんぱ」。一大事の時、自分を見失いそうなときの、「けんけんぱ」。一句に季語ある無しにかかわらず特選の一句に選ばせてもらいました。
- 河田 清峰
特選句「時計草未来の地球は青ですか?(増田暁子)」。汚染され続けてゆく地球を止める手立てが欲しい。
- 岡田ミツヒロ
特選句「母の忌や線香花火の小さき月」。幼子の花火のはじめは線香花火。おそるおそる手に持つ花火、それを支えてくれた若き日の母の記憶。最後は小さな赤い玉になって落ちる線香花火。「小さき月」の暗喩が出色。母への追慕の情がしみじみと胸に沁みる。特選句「しゃんしゃんしまい向日葵がみつめてる」。どこかユーモラスな讃岐弁、香川句会ならではの楽しみ。生前の母の慌しげな顔、仕草が思い浮かび懐しい。向日葵が〝えんで、ゆっくりしまい“と笑っていそうです。
- 植松 まめ
特選句「そのうち虫の音と記されさう玉音」。時代がまた大きく曲がる予感がする。参議院選挙の結果、改憲を叫ぶ政党が多数を占めるようになった。日本国民は何を選択したのか?特選句「それぞれの忘れる速度敗戦忌」。母は語らなかったが戦争で大切な人を失った。戦争を知らぬ私もどこかにその痛みを感じつつ育った。「生ぬるき八月の水に手をひたす父母逝きても完結せぬ戦後 まめ」
- え い こ
特選句は、「女童の黄帽子探し炎をゆく(銀次)」が、自分の体験と重なり、<炎をゆく> と上手に表現されていると感心いたしました。あと、一つは「香水の名前に残る昭和かな」にします。ディオールとか、オーデコロンでしょうか?懐かしいです。
- 榎本 祐子
特選句「永遠にさらに一秒ヒロシマ忌(竹本 仰)」。広島は永遠の祈りの地ヒロシマとなった。その瞬間の惨劇への憤りを「さらに一秒」と、思いを込めての表現に打たれます。
- 綾田 節子
特選句「水母には水母の都合があって波」。ふはふは水母は自分の都合で漂ってる感、多いに感じます。都合良く漂ってると波がきました。でも人間と違って波なんてへーちゃら 作者の比喩かもしれませんね。
- 野口思づゑ
特選句「万緑に次は全部のドアが開く」。面白い発想です。何だかそんな気がしてきます。「熱帯夜中心線がずれてくる」。「笑」と後に続けたいような、寝苦しい夜をユーモアーで語る余裕。「どくだみや手足の傷に覚えなし」。ちょうど自分の手のひらの傷に、いつ、どこで、と訝しく思っていたタイミングでしたので共感句です。「猛暑かな下町老医にラブレター」。物語性があります。
- 松岡 早苗
特選句「兄嫁はいつも雨だれ蛇苺」。不思議な魅力を感じました。「雨だれ」は涙なのでしょうか。悲しさ、寂しさ、憤りの表出なのでしょうか。「兄嫁」という設定が絶妙で、結句の「蛇苺」が毒々しく、不穏当な気配を秘めているようです。想像力をかき立てられました。特選句「八月を迷うまつすぐ母を嗅ぐ(三枝みずほ)」。「母を嗅ぐ」と嗅覚に訴えて来て、印象的でした。母に抱かれ乳を含んだ時の胸の匂いは、子にとって常に生命力の原点。傷ついたとき落ち込んだとき、母の無条件の愛が匂いとしてよみがえり、自己肯定感や希望を取り戻させてくれる。「まつすぐ」という迷いのなさもすてきです。
- 塩野 正春
特選句「億年の表敬蜥蜴我を見上ぐ」。蜥蜴様何億年も生き続けたのですね。その方に目を向けられるとなんか恥ずかしい気持ちです。人類はこれほどまでに愚かな生き物か・・と諭されているようです。一方蜥蜴が傍にいてくれることに一方ならぬ安堵を覚えます。特選句「時計草未来の地球は青ですか?」。時計草は南米由来と聞きます・・が南米だろうが地球上。地球の未来があるのか今まさに問われています。地球は青かった との宇宙飛行士の言葉が離れません。このまま水ある星にいて欲しいものです。問題句「天道虫バンザイして翔ぶ爆心地」。作者は何に何故万歳したいのでしょうね! 暑さ故ですかね?
- 向井 桐華
特選句「沈黙の四人の車中日雷」。無駄な言葉がなく、景が浮かんでくる。少し気まずい四人の沈黙を切り裂くように日雷。季語が動かない佳句だと思います。
- 伊藤 幸
特選句「一睡や疲れが蝶になる夏野」。一睡で疲れが取れ蝶のように羽ばたく。いいですね。ポジティブです。今年のこの猛暑を思いっきり羽ばたいてください。夏の強い日差しを浴びる夏野の元気な季語が効いています。特選句「火星語を話すいとどに道譲る」。竈馬古名いとどは羽もなく発声器官がないので鳴くことも叶わず夜行性で便所コオロギとも呼ばれ秋の虫にしてはあまり好かれる虫ではないが、もしかしたら火星と交信できる能力等備えているのではないかと作者は考えた。「どうぞどうぞお通り下さい。」作者は敬いつ道を譲る。何事もそんな風に思えたら世の中諍いも戦争も起こらないのではないだろうか。
- 菅原 春み
特選句「被爆電車過ぐや夾竹桃ましろ」。被爆をしても走り続けた電車と季語のましろがより平和への思いを誘う。特選句「天道虫バンザイして翔ぶ爆心地」。小さいけれど翔部天道虫を添えたことで平和を願う気持ちが深く響いてきた。
- 石井 はな
特選句「サイレンの音泣いている終戦日(野口思づゑ)」。毎年8月15日のギラギラと暑い日差しの下、黙祷の合図のサイレンが聞こえて来ます。その音がまるで泣き声の様に聞こえるのですね。8月15日の象徴の様です。これからは、私にも泣いている声に聞こえそうです。
- 柾木はつ子
特選句「胸底に無言の祈り原爆忌」。言葉で表現するのが得意でない人もいるでしょう。でも日本人なら誰でも祈らずにはいられないと信じます。連日のメディアの報道を視聴すると、全く言葉を失ってしまいます。特選句「時計草未来の地球は青ですか?」。自然の荒廃、人心の荒廃の今を思うとそう問いかけたくなりますね。同感です。勿論、私もこの状況に少なからず関わっている人間の一人として思う事なのですが…。
- 大浦ともこ
特選句「朝涼や鉋掛けたる戸の軽さ」。鉋を掛けて木戸が軽くなったという何気ない日常の変化と季語の”朝涼”が合っていると思います。丁寧な暮しぶりが懐かしくもあります。特選句「そのうち虫の音と記されさう玉音」。日本が戦争をしていたということが遠い記憶となり矮小化されることへの危惧が伝わってきました。破調で詠まれていることで不穏な空気が強調されていると思います。
特選句「青石のうすき縞目や夕涼し(松岡早苗)」。青い海と青い羽衣を想像し、涼しさを感じた。特選句「炎昼に道見失ふ蟻のをり」。余りの暑さに、頭もボーっとして来る。今年の夏は、格別に暑い。
- 佐孝 石画
特選、無し。「水たまりに来た夏空も十七才」。解釈が分かれる句だと思う。まず、水たまりに来たのは夏空か作者か。「水たまりに来た」で切れるのなら、来たのは作者、切れないなら、夏空が水たまりに来た、つまりそこに空が映り込んでいる景。また、「水たまり」が暗喩表現なのか、実景なのか。比喩ならば「水たまり」は人生のターニングポイントを示唆するものとなる。もう一つは「十七才」が実年齢なのか、かつての青春時代なのか。一見単純そうな作品だが、いずれも鑑賞者にとっては逡巡するポイントが多すぎて、解釈を諦めさせる要因になりかねない。僕は「夏空」が「水たまり」に来て、十七だったころの作者もともに映り込んでくる抒情俳句として解釈した。ここでの「水たまり」は実景でもあり、人生を折り返す地点まで来た作者の胸の内にある悲哀の「水たまり」とも重なるような気がした。
- 新野 祐子
特選句「熊本空襲語りき青葉蒸す夜ぞ」。どれを特選にしようか迷いましたが、これにしました。空襲、地震、豪雨と度々甚大な被害に遭ってきた熊本の方々に心よりお見舞い申し上げます。今回の線状降水帯では大丈夫だったでしょうか。「青葉蒸す夜」が、戦争の恐ろしさを鋭く突き付けてきます。
- 山下 一夫
特選句「人を見る気配が重い胡瓜かな」。つまるところは自身の気分の投影ではあるのでしょうが、大きくなり過ぎた胡瓜の不気味な存在感が活写されていると思います。ちなみに胡瓜は適当なところでもがないといくらでも大きくなり、反比例して味と商品価値は落ちていきます。特選句「しゃがしいしぃ雨乞い念仏のごとく降る」。一言も「炎天下の蝉しぐれ」とは言っていませんが、それをリアルに感じます。擬音のところは「じゃかしい(やまかしい)」という九州弁も掛かっている気配。問題句「鶏頭の花を数へる癖のまた(川本一葉)」。病床の子規の心境ともその著名な句と鶏頭が観念連合してしまっている困惑とも取れますが、おそらく後者でしょうか。言われてみるとそんなところがあると思われ納得です。
- 松本美智子
特選句「影法師の心臓はここ敗戦日」。終戦など戦争の体験や平和に思いを馳せる俳句がたくさん詠まれてきたでしょう。今も続く戦禍を憂うばかりです。影法師の心臓はどこにあるのか?平和を希求してやまない人類の永久的な願いをこの句には感じることができました。
- 森本由美子
特選句「二枚目より遺書らしくなる遠花火」。 折をみては心の中で整理したり、思いつきのメモを取っていたりした遺書の下準備。いざ書き出してみると抑えていた心情が溢れ、肝心な事務的部分になかなか筆が進まない。<遠花火>はドラマのような状況設定だと思う。
- 銀 次
今月の誤読●「扇風機まじめに時代遅れかな」。夏の盆休みで一年ぶりに実家に里帰りした。ダンナは仕事があるので、わたしひとりの帰省だ。里の母は「まあまあ、よう来た」と迎えてくれたが、父はこのところ調子が悪いとかで奥の間で寝ているということだった。とりあえず挨拶しようと部屋に向かうと、ふとんをかぶった青白い顔の男が寝ていた。一瞬「だれ?」と思ったが、あらためて見るとそれが父だった。一年前とはまったく変わり果て、さながら長年寝込んだ病人のようだった。枕元には古びた扇風機がコトコトと音を立てまわっていた。父は弱々しい声で「久しぶりじゃのお」と言った。わたしは驚いて母に「なにがあったの?」とささやいた。母は「なに、暑さにやられたんじゃよ」と案外平気な声で言った。たしかに部屋中ムンとした湿気に蒸れ、異常なまでに暑かった。わたしは怒り心頭で、母に「なんでクーラーをつけないのよ!」と叱りつけるように言った。父が寝床から「クーラーは躰に悪い」と思いがけず大きな声で言った。「でも」とわたしが言いかけると、母はそれをさえぎって「父さんが嫌がってのお」と言う。もちろん冷房病というのはある。だがこの暑さでは熱中症のほうがはるかに怖い。「リモコンはどこ?」と母に問う。母は「さあ」と首をかしげる。イラついたわたしはリモコンを捜そうと歩き出す。とたん扇風機につまずいた。首の曲がった扇風機をもとに戻そうとすると、その鉄製の羽がわたしの指をはじいた。「痛い!」。血のにじんだ指をなめていると、扇風機のコトコトの音が人の声に聞こえた。「おいでおいで」という声に。父はその生ぬるい風を受け、静かに目をつむった。わたしの背中にゾッとする戦慄が走った。おいでおいで、っていったいどこへ? 父をいったいどこへ連れていこうというの?
- 荒井まり子
特選句「ワカメちゃんカットの吾の夏休み」。昔サザエさんを楽しく読んでいた。団塊の世代だが昭和百年となると、色々と複雑です。 よろしくお願いいたします。
- 田中 怜子
特選句「熊本空襲語りき青葉蒸す夜ぞ」。語って欲しいですね。そして、平和の大事さに声を挙げてください。過去に目をつむる者には未来はありません。特選句「扇風機まじめに時代遅れかな」。私は原発に反対ですので、すこしでも節電と思って冷房を持っていません。今年の夏は意外としのげますし、夜は寒いくらいです。扇風機はタイマーを付けて寝ています。東京の郊外、そう密集してない地域、しかも9階ですから窓は一日中開けっぱなしです。他の人にはすすめられません。扇風機頑張れ!
- 薫 香
特選句「しゃんしゃんしまい向日葵がみつめてる」。少しだけ背中が伸びました。ありがとうございました。季節柄お体をご自愛ください。
- 瀧澤 泰斗
特選句「補聴器食み出し鳴く蟬もいる沖縄忌(野田信章)」。いつの頃からか、反戦句や平和に立脚した俳句は自分の作品にも多いが、人の作品も気になる俳句のテーマになっている。今年は戦後八十年の節目の年、今月の投句にもたくさんの反戦句や平和を祈念した句が沢山出揃った。そんな中、掲句を特選の一つにした。補聴器を通して聞こえる蝉の声の他、記憶の中からあの時の蝉の音が聞こえてくる。共鳴句:原爆忌関連の三句が続く「被爆忌の己の影に立ち止まる」「地底より雲立ち上がる原爆忌」「胸底に無言の祈り原爆忌」:「島一つ買う夢まったり大昼寝」。大昼寝で見た夢が島一つ買った夢とは・・・こんな俳句を自分もものにしたいと思った。「真っ直ぐに戻る漁船や大夕焼」。真っ直ぐがいい・・・大夕焼けを背に、大漁の漁船が帰路を急いでいる。「そのうち虫の音と記されさう玉音」。語順が気になった。虫の音と記されさう玉音そのうちに の方がいいような気がした。其れよりも、昨今の「ファクトチェック」やら、「フェイクニュース」やら、はたまた、「似非」なるもののいい加減な解釈が、玉音放送そのものをゆがめて行きそうな気配を掬い取ったお手柄を評価すべきと思った。
- 三好三香穂
特選句「猛暑かな下町老医にラブレター(伊藤 幸)」。クレージーな猛暑ですね。狂いついでに、老医者にもラブコール。老いらくの恋の行方と実相は、如何なものでしょうか。はたまた、何か不具合でもあって、かかりつけ医の老医者に紹介状でも書いて、もらうのでしょうか?諧謔みがあり、様々なストーリーが思い浮かび楽しいですね。
- 稲 暁
<特選句「地底より雲立ち上がる原爆忌」。力強い表現のなかに、怒りと悲しみがこめられていると思います。特選句「熱帯夜中心線がずれてくる」。暑苦しい熱帯夜。精神の中心線がずれてくるのかそれとも…。
- 中村 セミ
特選句「くやしさは誰にも告げず梅雨滂沱(植松まめ)」。白いホテルが5階の高さを海につっこむように映し立っていた港の建物の、駐車場に車を止め、既に5階の部屋にいた。ホテルの経営者が、失踪したため一度潰れたのだが、債権者が再開していた。窓に寄ってみると、ガサッと音と共にジヤジヤ降りなった。「夕立か」「私が呼んだの」と、振り向くと、鎖を手に巻きつけた女が「私は騙され、身体を乗っ取られたの」錆た鎖につながれた薄汚れた女が言った。かと思うと、恐ろしい顔に変わり僕に、かみついてきた。その時土砂降りの中で下の方から、窓に突き刺さるように、車がとびこんできた。「えっ、ここは5階なのに」と、思った時、運転手は、なんと、「僕だった。」車は、パァーとライトを照らした時、僕は、スゥーと車の中の運転手に戻っていた。駐車場から、海に転落して、海の中の5階の窓に、つっこんだのか?
- 竹本 仰
特選句「走れメロス余白幽かな夏の蝉」:太宰治の「走れメロス」は中学校の教科書で学んだが、何て偽善的な作品だと思い、単純に感動していた何人かを軽蔑さえしていた。しかし、メロスが自分の友人・セリヌンティウスを人質にして、妹の婚礼から戻るとき、疲れ切って倒れて挫けそうになったところの場面だけは覚えている。正義をかざす自分への自己嫌悪に陥り、自身を嘲笑しながら、まどろんでゆくとかすかな水音が聞こえる。…あの一瞬は気に入った。水音が実に鮮明だ。メロスを生き返らせた水との対話さながらに「余白」が魅力的に聞こえる句です。特選句「向日葵や一歩下がって仰ぐ空」:向日葵にウクライナを連想しました。ヴィットリオ・デ・シーカ『ひまわり』ではイタリアとソ連との戦争で互いに大量の戦死者が出て、その鎮魂のためにその地に無数のひまわりが植えられたとなっていました。今のウクライナですね。しかし今はその映画の意図もむなしく戦火に見舞われている訳で。一歩下がって見える青空の日はきっと来るのでしょうが。一方、寺山修司の〈向日葵は枯れつつ花を捧げおり父の墓標はわれより低し〉というイメージで読め、或る個人的な闘いを一歩退いた状況で、ふと自己の境涯を見てしまった感のある句とも感じさせるところもあります。いずれにしても「一歩下がつて仰ぐ」に優れたものを感じました。特選句「一睡や疲れが蝶になる夏野」:疲れがたまると、身体はまったく動けないのに、どこかへ行きたい思いだけがさまよってしまう、なんてことがあります。〈行き行きて倒れ伏すとも萩の原〉と芭蕉と「奥の細道」の旅に最後まで同行できなかった曽良も、そんな蝶になった思いでいたのだろうなとも連想。今ちょうど疲れのピークにある私にとっては、自由って何だ?と問いかけられたような、心にしみる句です。
- 三枝みずほ
特選句「吾三十入道雲に急かされる」。三十代、社会における自分の身の置きどころを考えると投げやりになる日もあるだろう。自分自身を納得させるため、試行錯誤と葛藤を繰り返す。だから入道雲に急かされる背中は立ち止まり、思考し、少しの諦めを以てまっすぐ行けるのだ。
- 末澤 等
特選句「そのうち虫の音と記されさう玉音」。戦後80年を迎え、戦争経験者が国民の1割を切ったとの報道がなされているなか、今後玉音放送させも知らない人たちが 更に増え、将来的には玉音放送を聞いても何のことか理解できず、虫の音と捉える方がでてくるのではないかとの危惧が上手く表現されていると思いました。
- 吉田 和恵
特選句「花魁草長く生きたる自画自賛」。早逝する人が多い中、長く生きるというだけで嬉しいことなのです。先日、炎天下の畑で友人が旅立ちました。♡ご冥福をお祈り致します。
- 遠藤 和代
特選句「向日葵や一歩下がって仰ぐ空」。向日葵畑が広すぎて一歩下がらなければ空が仰げない? ちょっと面白い句だと思います。
- 佳 凛
特選句「折鶴の渦巻くばかり爆心地(野﨑憲子)」。全世界から平和を願い数えきれない、折り鶴何時までもこの平和が続くと良いですね。切に願っています。
- 藤田 乙女
特選句「被爆忌の己の影に立ち止まる」。 原爆を作り出し使用した人間、原爆により命を失ったり苦しんだり今も苦しみ続けている人間核兵器を所有し再び使用するかもしれない人間、自分の影に人間というものの影や陰を深く見つめているように感じられました。特選句「水たまりに来た夏空も十七才」。希望に満ちた句で爽やかで清々しい気持ちになりました。
- 野﨑 憲子
特選句「尾鰭ふりつつ短夜に眠り落つ」。悠久の大河の中で真夏の夜の夢をむさぼる人魚の姿が浮かんできた。こんな幸せな眠りの輪が広がりますように!と切に切に祈るばかり。 特選句「地底より雲立ち上がる原爆忌」。原爆のキノコ雲ならぬ、地底深くのマグマより湧き上がる入道雲よ、愛の言霊を生ましめよの思いが伝わってくる。戦後八十年の八月が過ぎようとしている。
袋回し句会
夏休み
- 足も手もすっかり夏休み中です
- 三枝みずほ
- 宿題は一日一句の夏休み
- 三好三香穂
- 夏休み皮脱ぎ捨てて秋の吾
- 銀 次
- 半ば来て二度目と思う夏休み
- 藤川 宏樹
汗
- 汗かいて骨の透けたる女あり
- 銀 次
- 外に出る汗出る顔の崩れゆく
- 三好三香穂
- 汗をかけ憲法守れ飄飄と
- 藤川 宏樹
- 汗だくになつて数式追つてをり
- 三枝みずほ
- 汗しとどまたも忘れて立ち止まる
- 野﨑 憲子
- 汗拭ひ一日一句喜寿生きむ
- 島田 章平
- 大仏に汗したたるや「お身拭い」
- 島田 章平
蜩
- ひぐらしの殻を拾いて舟とせむ
- 銀 次
- 戦争に沈黙蜩急き立てる
- 岡田 奈々
- 心つて地球の重さ夕蜩
- 野﨑 憲子
- それからの一言かなかなの中に
- 三枝みずほ
- 蜩やホームベースを素手で掃く
- 藤川 宏樹
- 生きるとは鳴きとほすこと夕ひぐらし
- 島田 章平
足(手)
- 逃げ足の速い少年鰯雲
- 野﨑 憲子
- 泣く手のひらの虹の根の匂ひ
- 三枝みずほ
- 千の手に折鶴持ちて爆心地
- 野﨑 憲子
- グリグリと陽気の手柄扇風機
- 藤川 宏樹
者
- 冷麦をつるりと抜けしひょうげ者
- 銀 次
- 青空に触れた者より素足なり
- 三枝みずほ
- 強者のエイエイヤーと夏の陣
- 三好三香穂
- 弱者とも強者とも共に汗しとど
- 三好三香穂
【通信欄】&【句会メモ】
第七回海原賞の受賞者に三枝みずほさんが決まりました。「海程香川」への初めてのご参加は、二〇一四年六月句会。二〇一九年十月開催の、第一回「海原」全国大会㏌高松&小豆島の折、「海原」新人賞を受賞された後も、精進を重ね、今や「海原」の次代を担う逸材のおひとりであります。ますますのご健吟とご活躍を祈念申し上げます。みずほさん、ほんとうにおめでとうございました!!今後ともよろしくお願いいたします。
今回の高松での句会は、お盆前の猛暑の中、いつもより少ない八名の参加でしたが、暑さを吹っ飛ばすような、熱く楽しい句会でした。上記の涼やかな写真は 白馬岳三山縦走山行(先月二十四日~二十七日)。末澤 等さん撮影です。末澤さん、お疲れさまでした。ありがとうございました。
Posted at 2025年8月26日 午後 09:56 by kohei in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第163回「海程香川」句会(2025.07.12)
事前投句参加者の一句
噎せてひとりの麨(はったい)何時の間に八十路 | 野田 信章 |
黄のワンピースゆく華やかな炎天 | 岡田ミツヒロ |
夕焼くるこの手をかえそうと思う | 男波 弘志 |
熱帯魚になり切りましょう熱帯夜 | 若森 京子 |
夏草や老医師の言ふかぶれです | 吉田 和恵 |
天翔けてみたき奥伊勢青嵐 | 樽谷 宗寛 |
七月や銃声まつすぐの迷路 | 島田 章平 |
点描の点なる吾れを大花火 | 藤川 宏樹 |
しなやかに鍵盤渡る指は雷 | 岡田 奈々 |
手を洗うときの真顔やゆすらうめ | 松本 勇二 |
後の世へ人間として原爆忌 | 各務 麗至 |
二人いて弾まぬ会話風も死す | え い こ |
しわくちゃのシャツにアイロン沖縄忌 | 伊藤 幸 |
小さきは母の手縫いの浴衣かな | 銀 次 |
けんけんぱ点滴はいつもけんけん | 十河 宣洋 |
無防備の小指ぶつける旱かな | 河西 志帆 |
初茄子この色妣に届けたい | 漆原 義典 |
ことば果て水切りの石沈みゆく | 佐孝 石画 |
火薬庫のしづけさ麦の波青し | 小西 瞬夏 |
闇に走るツーと蛍の草書体 | 増田 暁子 |
飼猫も野良も涼みの街の辻 | 柾木はつ子 |
顔中でヒソヒソ話毛虫かな | 河野 志保 |
節々が痛そうな家四葩咲く | 三好つや子 |
眼のシャッター閉じ緑蔭に鶏まどろむ | 植松 まめ | 刺さってる君の一言半夏生 | 末澤 等 |
せっかちを追い出すように蟻の道 | 高木 水志 |
鳩居堂出でて日傘のもう遥か | 和緒 玲子 |
打水のばつさりわたし斬るごとく | 三枝みずほ |
紐ほどの蛇居て億年の今日は在り | 時田 幻椏 |
塩鯖の香ばし夕餉楸邨忌 | 向井 桐華 |
伝えたくて隠したくておじぎ草 | 山下 一夫 |
クロールの抜手に触れる青い空 | 柴田 清子 |
歩くこと覚えた吾子よ天瓜粉 | 綾田 節子 |
人間は黄色い土の目に太陽 夏 | 豊原 清明 |
海賊と山賊の末松の芯 | 亀山祐美子 |
雲の峰紙ヒコウキの折れない子 | 菅原 春み |
自由度の高さきそえる立葵 | 森本由美子 |
それぞれの火のかたちして慰霊の日 | 桂 凜火 |
ごあごあご真夜牛蛙ごあごあご | 福井 明子 |
セーノ・ヨイショ点滴抜かれて夏夜 | 塩野 正春 |
蜘蛛の巣の月の雫のありにけり | 瀧澤 泰斗 |
この夏ものりきれそうだ豆腐が美味い | 重松 敬子 |
向日葵は木になりたしと呟ひた | 川本 一葉 |
たんぽぽの飛距離を競う三世代 | 疋田恵美子 |
じいっと待つ静かな国の夏蓬 | 中村 セミ |
背徳や出口を探す夏の蝶 | 大西 健司 |
鮎泳ぐように配膳床料理 | 津田 将也 |
「あつッ」と言えば「あつッ」と君の繰り返し | 花舎 薫 |
夕凪に片恋の和歌つぶやけり | 石井 はな |
缶切りのきこきこきいこ日の盛 | 松岡 早苗 |
原爆忌拳ダンスの写楽貌 | 河田 清峰 |
おほかたを忘れし父よ星涼し | 大浦ともこ |
死ぬ死ぬとぬかしよく喰う古古古米 | 田中アパート |
今日のことみんな忘れて水羊羹 | 藤田 乙女 |
雨欲しと空睨んでもカッコウ | 新野 祐子 |
卵大事に手から手にへと朝の虹 | 榎本 祐子 |
住み慣れてなおも他郷よ遠花火 | 稲 暁 |
天帝の気分損ねし雲の峰 | 佳 凛 |
逝く猫の緑眼どこまでも深くあり | 田中 怜子 |
おねだりの口を突き出す燕の子 | 出水 義弘 |
尺取の妻とキリストの母と | 荒井まり子 |
溢れるを余生というか夏の蝶 | 竹本 仰 |
笑うこと忘れないでと虹が立つ | 薫 香 |
老鶯今わの際は吼えるかも | すずき穂波 |
好きな事しかやらぬ甥明けやすし | 野口思づゑ |
夕立が今日の私を初期化する | 遠藤 和代 |
宙ぶらりんの悲しみ抱え夏の果 | 松本美智子 |
感動のシネマ〝国宝〟花菖蒲 | 三好三香穂 |
虹の根つこよ未来圏の風穴よ | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「節々が痛そうな家四葩咲く」。家屋の見立てとして「節々が痛そう」はみごとな発想です。疲れた家屋を紫陽花がもりもり支えています。
- 小西 瞬夏
特選句「手を洗うときの真顔やゆすらうめ」。「真顔」が何を思っているのかに思いが馳せる。何気ない日常の中にふと訪れる記憶。それによって何かを思いついてしまう瞬間。「ゆすらうめ」がひらがなでゆるりと書かれてあり、そのあいまいな感覚と響き合っている。
- 十河 宣洋
特選句「黄のワンピースゆく華やかな炎天」。日盛りを行く颯爽としたワンピース。暑い、熱中症などと騒いでいるのが馬鹿らしくなるような爽やかさである。特選句「セーノ・ヨイショ点滴抜かれて夏夜」。私も先日経験した。手術が終わってストレッチャーからベッドへ。看護師が声を揃えてヨイショ。頭には管が付いているのに。麻酔が効いているので痛くはないが。
- すずき穂波
特選句「溢れるを余生というか夏の蝶」。この気持ちとてもよくわかる。人生、余生からが面白い。本格的な人生は余生から始まる、と言っても言いすぎではない。視えてきて、立ち上がってきて、身の回り、いや世界が「わたくし」から溢れ、とめどなく溢れくるのだ。イノチとは何か?それを示唆している「夏の蝶」かと思う。
- 各務 麗至
「黄のワンピースゆく華やかな炎天」。炎天なにするものぞ、との、若い女性の颯爽とした姿が見えて来て、暑さにぐったりしていたのに生気元気をいただきました。炎天そのものを華やかな女性に喩えてともとれて、特選。「虹の根つこよ未来圏の風穴よ」。虹の根、未来、風穴、それこそ戦争や平和を超えた道筋は存在する。現代への批評とも。特選。
- 岡田 奈々
特選句「噎せてひとりの麨何時の間に八十路」。私も水や自分の唾液で噎せて死 にそうになります。麨は特に小さい頃、祖母や母に気を付ける様注意されました。美味しいんですよね。特選句「無防備の小指ぶつける旱かな」。これまた痛いんです。涙出ます。旱はもっと大変です。昨日から雨が降ってほっとしています。「黄のワンピースゆく華やかな炎天」。素敵なワンピース姿憧れです。特に夏は黄色がひまわりの様に明るくて良いです。「熱帯魚になり切りましょう熱帯夜」。熱帯夜として自由に泳ぐのは楽しそう。水の中はそれほど暑くないのかな。「天翔てみたき奥伊勢青嵐」。奥伊勢の自然の豊かさが人を優しく包んでくれる。「打水のばっさりわたし斬るごとく」。打ち水は一気にまかれて、本当凄い勢いになります。辺りの空気感も変わります。「自由度の高さ競える立葵」。この暑さの中。立葵のシュッとして、花を次々咲かせる逞しさ。自由で良い。立葵が全部咲いたら、梅雨が明けるって言ってなかった?それで今年は立葵を見ないのかな?「ごあごあご真夜牛蛙ごあごあご」。今、威勢良く田圃で「ごあごあ」鳴ってます。「この夏ものりきれそうだ豆腐が美味い」。冷や奴は夏の日本人の味方です。「そうめん啜るいっしゅん思考停止して」。素麺を啜る時は時が止まっています。美味い!
- え い こ
特選句は、「鳩居堂出でて日傘のもう遥か」。です。竹久夢二の絵を想像しました。たおやかな女性が、去って行く感じが大正ロマンです。
- 佐孝 石画
特選句「夕焼くるこの手をかえそうと思う」「夕焼くるその手をもらおうと思う」。「夕焼くるこの手をかえそうと思う」の句を見た時の衝撃と残像感が強すぎて、しばらく他の句が頭に入らなかった。しばらくして脳も落ち着いてきたところで、「夕焼くるその手をもらおうと思う」に。「ああ同じ句が出てるな」と思ったところ、よく見てみると「かえそう」が「もらおう」に換わっている。先ほどの衝撃が強かったので、こちらはどうかとも思ったが、「もらおう」にも広がりがありそうだ。己自身の手をあたかも他者の物として、かえしたりもらったりする。それは夕焼の圧倒的な迫力に対する、卑小な自分への自虐、諦観が呼び起こした他者感覚だったのだろうと思う。「かえそうと」には、「手」という人間の象徴的な進化器官、脊椎を湾曲させ四足歩行から二足歩行に切り替えたことで、「手」という道具を開放した人類の歴史の結果への自省も見えてくる。プライベートな「手」と人類がみな使用してきた「手」が夕焼の中でジャミングする。ウクライナ、ロシア、ガザ、イスラエル、イラン、アメリカ、中国、そして日本と同じ人類同士が自らの「手」で生み出した殺人兵器で牽制し合うおかしな世界。夕焼を浴びながら、自分のものを含め、そんな「手」を「かえそうと」ふと思ったのだ。そして少し間をおいて、お互いに触れ合い慈しみ合える「手」を、「もらおうと」あらためて思ったのだろう。しかし、「かえす」か「もらうか」は最後作者が選ぶしかないのですが。「向日葵は木になりたしと呟ひた」。好みの幻想風景です。でも無理に文語にすると間違いも起きます(「呟ひた」には無理があり。「呟きぬ」or「なりたいと呟いた」でもいい)。「呟く」が「なりたし」との重複感があるので、「向日葵は木になりたい」だけで句として成立するかもしれない。
- 増田 暁子
特選句「住み慣れてなおも他郷よ遠花火」。故郷はいつまでも特別です。遠花火がぴったりで余計に郷愁を感じます。「蜘蛛の巣の月の雫のありにけり」。綺麗な句ですね。月の雫がまるで残っているなんて。
- 樽谷 宗寛
特選句「鮎泳ぐように配膳床料理」。床料理・・奥伊勢、吉野、貴船? 川床料理を想像しました。鮎泳ぐようにと配膳される人を擬人化なさつたことに共鳴しました。涼しげです。
- 藤川 宏樹
特選句「クロールの抜手に触れる青い空」。30代、夢中のトライアスロン。「ヨーイ、ドン」で腹蹴られるは背中乗られるは。クロール掻く手にはクラゲが掛かる。沖合でようやくペースを取り戻すと、抜手に雫が青空に煌めいた・・・ような気がする。40年も前の夏のあの感覚を思い起こさせていただいた。
- 津田 将也
特選句「おほかたを忘れし父よ星涼し」。厚生労働省の発表によると、2020年起点の日本人の平均寿命は、女性が八七・七四歳、男性が八一・六四歳で、いずれも過去最高を更新しているとのことです。数年前よりさまざまな場面で、「人生百年時代」というキーワードが聞こえてきますが、人々がこの言葉に対して抱く気持ちは、一概に「喜ばしい」ことだけではないでしょう。長生きすることに不安を感じていることが多いことが、私には理解できます。こうした社会背景の中、今後、「より健康に、より長生きする」という価値観から、「長生きならずとも、より良く生きる」価値観への転換が起こってくるかもしれません。「長寿社会から、ほどほど長寿社会へ」の社会づくりを、私は期待しています。
- 柴田 清子
「夕焼くるこの手をかえそうと思う」「夕焼くるその手をもらおうと思う」。『この手』の句であっても、『その手』の句であってもいい。作者の捕らえた夕焼は、歳時記の枠からはみ出していて、案外、夕焼そのものが、この作者自身だと思った。この句の前で、暫く立ち止まった。特選と思った。「流星や水平から空海(野﨑憲子)」。流星と水平でもって空海そのものが詠はれていて、確たる一句に仕上っている。七月の特選とした。
- 塩野 正春
特選句「それぞれの火のかたちして慰霊の日」。沖縄慰霊の日の事、“それぞれの火のかたちして” の表現に打たれました。皆様それぞれ生きておられて生活をされていた方々がある日突然命を絶たれるという悲劇、お一人お一人のご冥福を祈らずにはおれません。特選句「老鶯今わの際は吼えるかも」。元気なお年寄りの句でしょうね! 今わの際、大事にしてくれなきゃ何しでかすか・・・とか脅すんだよな。私もちょっとだけこんな気持ちあります。大事にしてくださいよ。
- 出水 義弘
特選句「青葉騒生きた出会った皆に感謝(疋田恵美子)」。戦後生まれの、団塊の世代とか、現代っ子とかで括られた、同時代を熱く、騒々しく生きてきた者たちへの心情に共感を覚えた。特選句「歩くこと覚えた吾子よ天瓜粉」。風呂上がりに、歩き始めの、きゃきゃと言って逃げる幼子を、にぎやかに追いかける昭和の母親の喜びが良く表わされていると思います。♡20年ほど前に、NHK文化センターで、津田先生のご指導を受けて学び始めました。途中、腰椎椎間板ヘルニアなどで、文字通りに足腰が立たない時期があり、中断しながらも、62歳で再就職するまで続けました。2年前に75歳で退職した後に心臓の手術を受け、最近では体力にも自信が戻ってきたため、俳句をまたやってみようという気持ちになりました。15年のブランクがあり、基本的な知識や新しい動向にも疎い状況です。「80歳の手習い」で再出発したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
- 大西 健司
特選句「住み慣れてなおも他郷よ遠花火」。わたしは一度も生家を出ては暮らしたことはないが、この疎外感は理解出来る気がする。特選句「火薬 庫のしづけさ麦の波青し」。「麦の波青し」と実に小気味良く書き切った。不穏な火薬庫の不気味な静けさのなか、故郷の麦は青々と育っているのだ。上質な現代俳句のひとつの典型。さすがの一句。
- 桂 凜火
特選句「住み慣れてなおも他郷よ遠花火」。とても素直な句ですが、そのためダイレクトに思いが伝わる良い句だなと思いました。実感としてよくわかる。遠花火も効果的かと思いました。
- 漆原 義典
特選句「束ねてもあまる黒髪夏帽子(稲暁)」。若々しさが句全体にみなぎっています。素晴らしい句をありがとうございます。以上よろしくお願いします。
- 和緒 玲子
特選句「節々が痛そうな家四葩咲く」。傍から見ても余り人気を感じない家なのだろうか。もしかしたら見る側が何となく不快さを感じる傾きのようなものがあるのかもしれない。けれども紫陽花は野放図に咲いている。梅雨の時期は古傷が痛んだりぼんやりと頭痛がしたりと人間にままある事だが、それをそのまま家に投影して捉えた視点がとても面白い。家と紫陽花の景はもちろん梅雨空の重たさまで見えてくる。
- 中村 セミ
特選句「闇に走るツーと螢の草書体」。上記の内容を誠にかってながら、ホテルシリーズで解読します。そのホテルは、本道から、西へはいったところに、棺から白い衣をきたひとが立ち上がったみたいに、三階建てで立っていた。通された部屋は和室だった。灯りをつけると、三面鏡の椅子が、部屋の真ん中で、蹴られたように、横になっていた。つかれたので、ベッドでよこになり、しばらく一日のことを、考えていると、何故か天井に大きな、梁が走っている。うっすら眠ったとおもったとき、私の身体が急におきあがり、小さな椅子の上にたち、梁からつられた、首吊り用のロープに、首をとおし、脚元の椅子を蹴った。その時窓に、蛍がそう書体を描きとびさった。
- 三好三香穂
特選句「ごあごあご真夜牛蛙ごあごあご」。ごあごあごのオノマトペが秀逸です。
- 花舎 薫
特選句「黄のワンピースゆく華やかな炎天」。焼けるように強烈な炎天下を鮮やかな黄色いドレスが突き進んでいく。その闊歩する姿は眩しい光に負けないほど華やかで清々しい。夏という季節の明るさと強さを表現した一句。「ゆく」が効果的。
- 銀 次
今月の誤読●「パラソルの下に女の母の顔」。どこのゴミ箱から拾ってきたのか、ぼくのうちには小汚い日傘がある。母さんが愛用している日傘だ。もともとは白かったのだろうが、色は灰色にくすみ、骨はゆがみ、レースの部分がところどころ破れている。ぼくが「捨てなよ」と言っても母さんは聞く耳を持たない。外出するときは常にその日傘を差して出かける。母さんが言うには「この傘を差してるとなんとなく若くなった気分に」なるそうだ。そういえば、とも思う。その傘の下で見る母さんは、肌に張りが出、目はひときわ大きく、唇はいっそう引き締まって見える。影になっているからか、シワも目立たない。あるときなどはお店の女店員から「ご姉弟なんですか?」と問われ「うふふ」と笑い返したこともあった。さすがにぼくはイヤな気がした。その喜んでいるさまが生臭く感じられたからだ。高校生のぼくと姉弟だなんてお世辞もいいところだ。それを真に受ける母さんも母さんだ。以来、ぼくは母さんと出かけるとき、できるだけ離れて歩くことにした。あるときのことだ。母さんのはいている靴のヒールが折れて転げそうになった。「あぶない」と手を出すと、ヒザをついた母さんがぼくを振り返った。ぼくは「あっ」と叫んだ。というのも、まぶしい日差しのせいか、母さんの顔はまるでマネキンのようにテカテカと輝き、目は黒光りに光り、唇は血のルージュを塗りたくったように真っ赤だったからだ。母さんは甘えるような声で「見られちゃった」と言った。ぼくは二三歩あとずさりし、ツバを飲み込んだ。「見られちゃった」そう言ったはずだ。だが母さんの口は閉じられたままだった。
- 男波 弘志
「ごあごあご真夜牛蛙ごあごあご」。こちらは兜太先生の名句を下敷きにしているのだろう。それにしても、人の耳は様々な音声に聴きとるだけの能力がある。そのことに感心してしまう。秀作。
- 河西 志帆
特選句「夕焼くるこの手をかえそうと思う」。「夕焼くるその手をもらおうと思う」の句もこの方の句なんでしょうね。やはり、もらおうと思うより、かえそうと思う。こちらを頂きました。なんか、不思議な感覚のこの句に惹かれました。「節々が痛そうな家四葩咲く」。家も節々が痛そうとは、なるほどです。人間の私もそうですよ。「住み慣れてなおも他郷よ遠花火」。この感覚はよ〜くわかります。両親ともに疎開してきた土地でしたから、そこで育った私たちもこんな感じでした。そしてまたこんなに遠くなりました。
- 島田 章平
特選句「鳩居堂出でて日傘のもう遥か」。「鳩居堂」と言う固有名詞の取り上げ方が巧み。多分、高齢のご婦人だろう。強い日差しの中で足早に過ぎる後ろ姿までよく見える。
- 若森 京子
特選句「顔中でヒソヒソ話毛虫かな」。この簡明な一句から人間の本質的な姿を見た様な気がした。ヒソヒソ話をする顔が毛虫に見えてくるのも不思議。「顔中で」の上五の言葉の表情の妙であろう。特選句「それぞれの火のかたちして慰霊の日」。沖縄の慰霊祭の映像を見ていると、それぞれの多くの犠牲者には人生があった。それが火のかたちに、の措辞はぴったりと一句に表現している。
- 伊藤 幸
特選句「黄のワンピースゆく華やかな炎天」。できることなら籠っていたい猛暑の連日、「待ってました‼」とばかりに若さがはち切れそうな黄色のワンピースで闊歩する姿が連想されます。華やかなという措辞は炎天の太陽でさえ負けてしまいそうです。特選句「 それぞれの火のかたちして慰霊の日」。言わずと知れた「沖縄忌」、計り知れない現地の人々の悲しみ怒り。日本兵がアメリカ兵がと非難する前に「戦争反対‼戦争反対‼」と叫びたい。世界のあちこちで絶えない戦争。人間の命の尊さを分かって欲しいと願います。
- 三好つや子
特選句「選挙戦ビニールのように夏暮れる(桂凜火)」。カラフルな色が噓っぽく、燃えると臭いビニールが、へらへらと空しい選挙演説と重なり、現代社会を巧みに捉えています。特選句「それぞれの火のかたちして慰霊の日」。沖縄での激しい銃撃戦で、命を落とした人々への鎮魂句。沖縄に刻まれた永遠に癒えることない哀しみと、私たちはどう向き合えばいいのか、考えさせられました。「尺取の妻とキリストの母と」。四角四面に物を考える夫、気高すぎる息子のいる女の気持ちって、正直どうなんだろう?そんなことを思わせる、意表をつく表現がたまらなく深い。今回の一三八句の中で、最も注目した句。
- 岡田ミツヒロ
特選句「しなやかに鍵盤渡る指は雷」。ゆったりと「しなやかに」の出だしからビシリと「雷」での締め、あたかも水が滝の上へ流れ、そして落下する一連の動きを彷彿させる。流麗で力強い一句。特選句「火薬庫のしづけさ麦の波青し」。青々と波打ち、日々生を謳歌するような青麦のざわめき、その青麦の大地を瞬時に焼野原と化す「火薬庫」の存在とその無機質の静けさ。まさに、今の日本の姿とも。「火薬庫」の呪縛からの解放こそが身を護る力を与えてくれる。
- 福井 明子
特選句「それぞれの火のかたちして慰霊の日」。慰霊の日、幾人もの人々が共に 手を合わせ拝礼する様子が浮かびます。灯された幾本もの蝋燭の火を「それぞれの火のかたち」と、平易なことばで表しているところに魅かれます。逝った人々の悲しみや怒りや理不尽、それを悼む人々のすべてを包み込んでいる一句に出会えました。
- 野田 信章
特選句「節々が痛そうな家四葩咲く」。「節々が痛そうな家」―何とも、この軽妙な言い回しがよい。「四葩咲く」―この花の形状の際立ちと相俟って、その土地や家に住み古りた居心地のよさが自ずと伝わってくる。わが身を労わるようにである。
- 野口思づゑ
特選句「噎せてひとりの麨(はつたい)何時の間に八十路」。17文字に、作者 の今の症状、暮らし向き、年齢、そして季語を見事に取り入れそれだけで読み手には作者の心情までが伝わってくる、とても巧みな句だと感心いたしました。特選句「選挙戦ビニールのように夏暮れる」。「ビニール」の特に暑さでグニャとした感触が、言われてみれば夏のくたびれ感をよく表現しており現在の不安定な社会での選挙戦とよくあいまっている。
- 河田 清峰
特選句「天翔けてみたき奥伊勢青嵐」。もう一度行きたい奥伊勢へ。吟行ありがとう!
- 松岡 早苗
特選句「手を洗うときの真顔やゆすらうめ」。幼いお子さんが、外から帰ってき て一生懸命手を洗っている様子でしょうか。ふっくらしたほっぺやかわいい小さな手が目に浮かび、「ゆすらうめ」の小さな赤い実と素敵に響き合っていると思いました。特選句「クロールの抜き手に触れる青い空」。夏空とプールの水しぶきの眩しさが鮮明でした。中七の、「抜き手」のクローズアップから、その手が空に「触れる」と言い切る表現も素敵で、臨場感がありました。
- 植松 まめ
特選句「天翔けてみたき奥伊勢青嵐」。雄大な景が見えてくる。伊勢熊野また行きたいなあ。特選句「缶切りのきこきこきいこ日の盛」。暑い昼よく冷えた蜜柑の缶詰を缶切りで切るとききこきこと暑苦しい音がするが開けて食べれば暑さも吹っ飛ぶ。きこきこきいこが効果的だ。
- 薫 香
特選句「打水のばつさりわたし斬るごとく」。あまり見かけなくなった打ち水の音まで聞こえてきそうです。特選句「クロールの抜手に触れる青い空」。青い空と共に、元気よく泳いでいた頃を思いだしました。
- 柾木はつ子
特選句「背徳や出口を探す夏の蝶」。何を持って背徳とするのかは人によって違うと思いますが、この酷暑の中を贖罪のようにさ迷う蝶(私達人間)の哀れを思います。特選句「夕立が今日の私を初期化する」。ザーッと降ってきて全てを洗い流す夕立。叶うなら私自身を初期化して生まれたての赤子にして欲しい。夕立と「初期化」の取り合せが素晴らしいと思いました。
- 河野 志保
問題句「夕焼くるこの手をかえそうと思う」「夕焼くるその手をもらおうと思う」。夕焼との謎めいた交歓のひととき。二つ合わせて一句ということだろうか。戸惑いと新しさを感じた。
- 田中 怜子
全体の感想は年をとったことへの詠嘆と、離れた故郷を思う句が多いな、と。皆年齢を重ねていること、不安定な流動的な世の中、戦争で苦しんでいる人たちがいるが無力であることへの表れかとも思う。そういうなかで、淡々と日常生活を営んでいる中での出来事を詠った。特選句「噎せてひとりの麨(はつたい)何時の間に八十路」。飲み込む力、嚥下機能の衰えを詠んでいるんですね。つばを飲み込む練習をしてくださいね。特選句「クロールの抜き手に触れる青い空」。気持ちいいですね。もうただただ青い空に抜き手が吸い込まれるような、大きくて、すかっとします。昨今、プールの閉鎖が続いているというニュースを聞いてますが、この句は海でしょうね。こんな海と空の中で泳いでみたい。そんなことできないけど。
- 新野 祐子
特選句「紐ほどの蛇居て億年の今日は在り」。地球という惑星の悠久の歴史を改めて想像させられました。特選句「しわくちゃのシャツにアイロン沖縄忌」。普段シャツにアイロンなどかけないけれど、作者にとって沖縄忌というのは極めて特別の日なのですね。伝わってきました。問題句「夕焼くるこの手をかえそうと思う」「夕焼くるその手をもらおうと思う」。対になっている句ですね。作者は同じでしょう。一読して「これ、何?」と妙にひっかかりました。作者より解説していただきたいです。よろしくお願いします。
(作者の男波弘志さんに自句自解をお願いしました。)「夕焼くるこの手をかえそうと思う」「夕焼くるその手をもらおうと思う」。先ず言えることは、この一行詩が2句並んでいるときと、全く離れている時では表情が異なるでしょう。二つ並んでいるときは顕かに誰かとの遣り取りでしょう。そうなると登場人物は読み手が自由に膨らましてもらえればいいでしょう。つまり、この、は自分、その、は他者、そのために使い分けております。次にこの二つの一行詩が単独で存在している場合はまた違う風景が顕れてくるでしょう。殊に、かえそう、をひらがなにしているのは読み手に全てを委ねるためです。返そう、帰そう、還そう、各々の物語があるでしょう。仮にこれを、還そう、と読んだならばその手はもう彼岸にあるでしょう。だからその物語は読み手の数だけあるんでしょう。また、もらおう、の方は誰の手でしょうか、人間でしょうか、仏手でしょうか、祈りの手なのか、生身の手なのか、強欲の手、なのか 救いの手、なのか、それはもう作者にすらわからないのです。もうこれは抽象、暗喩の世界ですから写生画のように風景も精神も止まることはないでしょう。新野祐子さんによろしくお伝えください。いい機会を頂きました。誠にありがとうございました。
- 榎本 祐子
特選句「雲梯に影を残して夏の兄(松本勇二)」。雲梯に残っている兄の面影。夏の光の中の健やかな兄の姿が甦る。
- 山下 一夫
特選句「手を洗うときの真顔やゆすらうめ」。手を洗うとき何かを思い出したり考え事をしていたりすることはあるかもしれませんが、まず表情は出していない、つまり取り繕っていません。ありふれて控えめながらたわわに実をつけるゆすらうめの斡旋がとてもきまっています。特選句「好きな事しかやらぬ甥明けやすし」。明けやすいのは若い時あるいは人生かと。そういう観点から好きな事しかやらないことを肯定している様子。甥という斜めの関係性であるがミソで縦関係の子であればそうも言えまいなどと考えさせられます。問題句「蝉まだ鳴かぬ木々の前進沖縄忌(野田信章」。「前進」のところが難解です。植物である木々に動物性の暴力の対極を見てそれを進めるべきという含みがあるでしょうか。ところで、今年は七月の冒頭から真夏の気候なのに蝉が全く鳴いておらず不気味です。蝉が鳴き出すのは七月中旬かららしいので、梅雨明けが早過ぎたことでギャップが目立ったのかもしれません。不吉なことの前兆ではないと思いたいです。
- 疋田恵美子
特選句「天帝の気分損ねし雲の峰」。天帝が時の人トランプに思えて、雲の峰の季語も良いと思いました。特選句「溢れるを余生というか夏の蝶」。幸いっぱいの作者が居て、大型の夏蝶キアゲハ・クロアゲハ等の飛び交う山荘、お庭が思い浮かびます。
- 高木 水志
特選句「向日葵は木になりたしと呟ひた」。堂々と咲いている向日葵でも木になりたいと思う時もあるのではないかと思って共感しました。
- 吉田 和恵
特選句「七月や銃声まつすぐの迷路」。迷路を抜けるには即時停戦、そこからしか始まらないと思う。
- 末澤 等
特選句「夕立が今日の私を初期化する」。酷暑の今年は、瀬戸内では夕立がほとんど見られませんが、夕刻の雨が一日にあった。すべてを洗い流してくれると思うことによって、心が穏やかになれるような気がする良い句だと思います。問題句「友逝きて黒薔薇つよく香りけり」。黒薔薇の花言葉には、「永遠の愛」など深い愛情を表すものと、「憎悪」「恨み」などネガティブな意味を持つものの二面性があります。このためこの句では、逝った友に対してどちらの感情を持っているのか、また二面性の感情を持っているのか、読み手としては複雑な感情に苛まれました。それが狙いだったかもしれませんが・・・。
- 三枝みずほ
特選句「夕焼くるこの手をかえそうと思う」。人間の手は様々なものを生み、育ててきた。その日々を一心に紡いできた。だが、生活の中で救えるはずのものを見過ごした事、悪意を持ってしてしまった事、この手が全く清らかであると言える者はいないだろう。夕焼けに手を明け渡し、出生した時の手となる。詩の中では再生も転生もできる。
- 荒井まり子
特選句「しわくちゃのシャツにアイロン沖縄忌」「原爆忌拳ダンスの写楽貌」。今年も八月がくる。沖縄忌、原爆忌を風化させない様にしなければ。団塊の世代だから、あと何回八月を迎えられるか。孫たちの世代に伝えられてはいない。
(三好つや子さんの「尺取の妻とキリストの母と」へのコメントを受けて、作者の荒井さんに自句自解をお願いしました。)以前テレビで母子像を見てマリアの視線に驚きました。不安と戸惑い。すべての母親の我が子に対する愛情ではないでしょうか。そういった意味で立場は同じではないのかと。 単純な軽い句ですので活字されるのはお恥ずかしいです。色々とありがとうございます。
- 菅原 春み
特選句「総会月や物言う人のオムライス(大西健司)」。さぞやガツンとステーキでも食べそうな人が、柔らかいふわふわオムライスを食べるとは。俳味があります。特選句「火薬庫のしづけさ麦の波青し」。ウクライナでしょうか。火薬庫の物言わぬしづけさと、麦の波の取り合わせで戦の不気味さをさらに感じさせられます。
- 稲 暁
特選句「向日葵は木になりたしと呟ひた」。擬人法もここまでくれば立派だと思います。楽しい句です。問題句「ゆふやけの砂浜さようならカフカ」。何かあるに違いないが、その何かが分からない。どなたか教えていただけませんか。→ 作者、島田章平さんのメッセージ「 『海辺のカフカ』(村上春樹)をどうぞ、お読みください。
- 石井 はな
特選句「熱帯魚に成りきりましょう熱帯夜」。成る程です。熱帯夜が辛いのは、その暑さが身体に合わないからでした。熱帯魚なら熱帯夜は気持ちの良い温度なんですね。眼から鱗でした。自分の基準で決めつけては辛いだけだけど、いろんな立場や考えが有るんですね。 これが誰かには心地好いと思えば、少し暑さも軽くなります。
- 松本美智子
特選句「クロールの抜き手に触れる青い空」。この夏も水泳の監視役を何度かしました。プールの水面と晴れ渡った空を「ピカッ」と一瞬で思い出させてくれる臨場感のある句だと思いました。
- 竹本 仰
特選句「しわくちゃのシャツにアイロン沖縄忌」:沖縄忌が軍国日本の縮図だっ たように、ずいぶん酷いことが行われたらしい。それは満州でも東南アジアでも。沖縄忌を営みつつ、軍備の着々とすすむ沖縄の実態、間に合わせもいいところ。南北朝の大騒乱を「太平記」と名づけたようなセンスをここにも感じた。特選句「小さきは母の手縫いの浴衣かな」:この浴衣は作者のものでしょうか。こんな小さいものを骨を折って懸命に縫ってくれたんだなと、今さらながらひしひしと伝わってくる母のその時の表情を思い浮べているのではと思いました。特選句「背徳や出口を探す夏の蝶」:何が背徳なのかは明らかにせず、生の実態を見つめ思わずつぶやいたものかと推測します。本性の悪というものがあるから常に危機に陥らざるを得ないのか、生の突破口を探すがゆえにいつしか悪にとらわれなければならないのか。そんな生きることのもつ矛盾について書いたものかと思えました。
- 綾田 節子
特選句「熱帯魚になり切りましょう熱帯夜」。そうですよね、なり切ったら涼しそうですね、映像が浮かびます。 特選句『七夕竹「いつまで生きたらいいのですか」(岡田ミツヒロ)』。暑いと高齢者はそうも思うのでしょうが、贅沢です 。幸せな呟きです。気持ちは分かりますが、お互い頑張りましょう。
- 向井 桐華
特選句「金魚草金魚ほたりと手に泳ぐ(福井明子)」。こどもの頃見た光景が広がった。『ほたりと』が金魚草の揺れるさまと金魚の泳ぎとをつなぐ措辞となっていて素晴らしいと思いました。
- 森本由美子
特選句「握り鮨さびしい人の集う国(山下一夫)」。客の立て込む時間を避けて、一人でふらっと入ってくる馴染みの客。カウンターに背中の力を抜いた姿は、一抹の寂しさや孤独を漂わせている。近くに座ろうなどとは決して思わない。自分も似たような人種だろうから。上五に握り鮨をおいて、日本の現代社会の一面を描いている垢抜けた句だと思う。
- 佳 凛
特選句「クロールの抜手に触れる青い空」。空に触れるわけでは、無いけれど 意気込みが触れている。素晴らしい表現とおもいました。
- 野﨑 憲子
特選句「雨欲しと空睨んでもカッコウ」。この夏の暑さに、どれだけ空を睨んだことか・・・。炎帝の化身のような入道雲が見えるだけ。そこへカッコウという、逞しき托卵の鳥の斡旋による溢れる詩情はどうだ。尾崎放哉の世界にも通底している白鷹の風に共鳴した。
袋回し句会
鯰
- えんぴつを動かせ鯰になっちゃうよ
- 三枝みずほ
- 笑うまで追いかけて来る鯰かな
- 三枝みずほ
- 髭ぴくりウッフンエッヘン鯰かな
- 三枝みずほ
- ひょっこりと鯰顔出す河馬の池
- 島田 章平
- 火焔土器の炎のなかの鯰かな
- 野﨑 憲子
- 醒めよ人類天の鯰の地団駄
- 野﨑 憲子
- 過去帳を繰るや鯰の咆哮す
- 和緒 玲子
- 鯰とや鯰でなかったどうしよう
- 各務 麗至
- 鯰跳ね水面に青き穴が開く
- 銀 次
鶏頭
- 今生は逢えぬ言葉か鶏頭花
- 野﨑 憲子
- 鶏頭に吠えたる犬の青き舌
- 銀 次
- 疎に密に鶏頭子午線を跨ぐ
- 和緒 玲子
- 乱暴で詩心なしで葉鶏頭
- 藤川 宏樹
- 鶏頭が黄色のネオンと混ざる道
- 中村 セミ
赤
- 災難だと思つて聞いてください赤のまま
- 野﨑 憲子
- 赤鱝(えい)の切り身になりてなほ動く
- 島田 章平
- 赤風船もらうあの角までの足
- 三枝みずほ
- 金曜の赤シャツ干してゐる葉月
- 藤川 宏樹
- 稲妻の逆光赤き灯台
- 銀 次
- 水槽を赤えい笑ひつつ上る
- 和緒 玲子
- 赤いポスト戦の記憶ありにけり
- 野﨑 憲子
青田
- 青田ゆく弥生の人とすれ違う
- 銀 次
- 青田風そこから一歩も動かない
- 各務 麗至
- 青田風渡り切れない夜がある
- 三枝みずほ
- 軽い気分にプラシーボなる青田風
- 岡田 奈々
- 火手(ほて)かざし青田道ゆく子らの声
- 島田 章平
半夏
- 居るとゐないで空気が違ふ半夏生
- 各務 麗至
- 書きさしの手紙半夏の雨しとど
- 和緒 玲子
- 渦巻いて藍のときめく半夏かな
- 野﨑 憲子
- 雨戸開け手を差し出すや半夏生
- 銀 次
- 半夏生満中陰志珈琲味
- 藤川 宏樹
- 半夏生に粘りつく道井戸の蓋
- 中村 セミ
- 趣味全部捨ててサッパリ半夏生
- 岡田 奈々
- 半夏生うどんを打ちて昼餉とす
- 三好三香穂
- 和やかな句会の真昼半夏生
- 島田 章平
【通信欄】&【句会メモ】
猛烈な暑さの中、7月12日の句会には、12人の方がふじかわ建築スタヂオに集まりました。事前投句の合評に、袋回し句会に楽しく豊かな時間を過ごしました。コピー機が、この暑さで不調でしたが、そのアクシデントもまた句座を盛り上げる因となり充実した句会になりました。藤川さん、お疲れさまでした。今後ともよろしくお願いいたします。
第7回「海原賞」に本会の三枝みずほさんの受賞が決まりました。今回は一人受賞で、たくさんの選者が彼女を一番に推していました。おめでとうございました。これからも、じっくりゆっくり楽しみながらお創りください。ますますのご健吟とご活躍を祈念申し上げます。
Posted at 2025年7月27日 午前 03:57 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]