2019年3月28日 (木)

第93回「海程香川」句会(2019.03.16)

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事前投句参加者の一句

           
充実の晩白柚(ばんぺいゆ)に自由あり 鈴木 幸江
幼稚園児の「赤勝て白勝て」ひなあられ 中野 佑海
水の過去点字で話すリュウグウ 中村 セミ
3・11ひとりになれば一行書く 若森 京子
抽斗に春の記憶と合鍵と 谷  孝江
もの思うとき陽炎は生まれます 月野ぽぽな
蛇穴を出で乳呑み児がのむひかり 竹本  仰
亀蚯蚓鳴く世界なり我もいて 寺町志津子
ふり返へるともうぶらんこ揺れている 柴田 清子
花期ながき臘梅呵呵と師はありき 野田 信章
あらまあ世界中がたんぽぽです 伊藤  幸
虹の種ときに火の種保育園 三好つや子
売れて良し売れなくて良し婆に日永 小宮 豊和
河津桜大揺れこの身揺れてをり 高橋 晴子
フクシマといい沖縄といい蓮根太る 稲葉 千尋
水輝るやトトトトトトと春の音 藤川 宏樹
確かに猫は虹の根っこにつまずいた 大西 健司
小鳥を埋葬スノードロップ開き始む 新野 祐子
春のくさぐさの去来するくさぐさ 田口  浩
春二番ケバブ屋台の列まばら 高橋美弥子
囀りや「火の鳥」2巻返却す 野澤 隆夫
鶯とポニーテールの間かな 松本 勇二
満天の星空のもと被災地あり 田中 怜子
春愁やビニール袋の1g 銀   次
鳥曇り鎖のように背骨ある 榎本 祐子
夫という特異な他人内裏雛 野口思づゑ
佐保姫の鎖骨さらりとみせらるる 河田 清峰
一本松光の海に向かい合う 桂  凛火
鳥雲に約束ならば貝とした 男波 弘志
ほんとうの居場所はいつも菫咲く 河野 志保
集団の行動苦手菜の花黄 藤田 乙女
春立つやいのちの電話そっと受く 吉田 和恵
アフリカの太鼓の音よ春の土 豊原 清明
たんぽぽの絮吹く歯舞色丹へ 重松 敬子
佐保姫の裳裾を濡らす立ち尿 島田 章平
雛の首くるり百姓一揆かな 増田 天志
吾子遊ぶ沖縄の浜雲低し 佐藤 仁美
余生なお梅の薫りの只中に 小山やす子
自画像はみな後向き月朧  菅原 春み
絡みつく雄蕊の想い梅の花 高木 水志
陽炎にミモザの花の紙風船 漆原 義典
身をたたく雨だけを雨だとおもう 三枝みずほ
乙女らが酸葉噛んでるどっと水音 矢野千代子
菜の花や牛は鼻から近づきぬ 亀山祐美子
あまねく光りよ弥生讃岐の糸車 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「雛の首くるり百姓一揆かな」近日本の歴史をびっくりするくらい的確に十七音で言い得て妙です。阿波の人形浄瑠璃の頭を観ている様な臨場感すら覚えます。特選句「たんぽぽのぽたんぽぽぽた帰り道[藤田 乙女」ぽの字の 連続が足跡が道にずっと付いて残っているようで、自分の心残りも表して。また、明日も一緒に遊ぼうね!狸のぽんた!今月はとても盛り上がっていたようで、参加出来ず残念でした。

藤川 宏樹

特選句「蛇穴を出で乳呑み児がのむひかり」芯から光を発し透けるような乳呑み児。「のむひかり」が「蛇穴を出で」と響き合います。今月、高齢者仲間入りを果たした私に乳呑み児がいよいよまぶしく映ります。

増田 天志

特選句「鳥雲に約束ならば貝とした」貝は、正直。言葉うらはら、もう、こんなにも、目覚めているよ。

高橋美弥子

特選句「水輝るやトトトトトトと春の音」オノマトペが楽しい一句。あちこちで春が来たことを知らせてくれるようになりましたが、これは小川でしょうか。トトトトトトだけで春の楽しい気分や期待が伝わります。「と」の韻でより 楽しさがふくらみました。「水温む鎖骨は空を飛ぶかたち」こちらも好きな一句。確かに鎖骨ってそんなかたちをしています。問題句「確かに猫は虹の根っこにつまずいた」散文的にしたのは作者の意図であろうか。生きた猫とも死んだ猫と もとれる句。死んだ猫は虹の橋を渡って飼い主が来るのを待つとも言われている。無類の猫好きのわたしだが読みが幾通りも存在するなと思った。

島田 章平

特選句「春立つやいのちの電話そつと受く」立春とは寒中の厳しさの名残を充分感じつつ、意識を春へとゆっくり向けてゆく季語とある。青春と言う定まらぬ春。思い通りに行かぬもどかしさと膨らむ希望、その間で心は常に揺れる。 命と真剣に向かう最初の試練。おもわず手にする電話。掛け手の迷いを包み込む様にそっと受話器をとる手。迷う魂と救いたいと言う心が触れ合う一瞬。「命の電話」を「そつと受く」と言う表現で受け手の温かな心を表現した佳句。

若森 京子

特選句「亀蚯蚓鳴く世界なり我もいて」この世界は俳句界の事で有ろう。自分もこの粋な世界に身を置いている。一句自体が俳諧の世界である。特選句「虹の種ときに火の種保育園」泣き笑いの保育園の一日を表現しているのであろう 。〈虹の種〉と〈火の種〉の対比が面白い一句にしている。

稲葉 千尋

特選句「ふきのとうパンタグラフは火を放つ(増田天志)」パンタグラフの炎は青白いふきのとうとの取り合わせの良さと実感。

谷  孝江

特選句「3・11ひとりになれば一行書く」一度も戦争の無かった平成もあと僅か。でも決して忘れてはならない大変な事がいくつかありました。八年経っても十年経っても3・11は忘れられません。句の作者も、きっとひとりにな った時思いの行き着くのは3・11でしょう。日本人である限り誰もが同じです。日記の中の一行に書き留められたのでしょう。一行であればより思いが深まります。私もあの時刻には手を合せています。生き残った人たちもどうかお元気で との思いも込めて・・・・。

漆原 義典

特選句「夫という特異な他人内裏雛」は、老いも若きも夫婦という微妙な関係、信頼・愛情・感情の微妙なズレ、良き夫婦であるという隣人に対する装いなどいろいろな面を、「内裏雛」で良く表現していると思います。素晴らしい句 をありがとうございます。

佐藤 仁美

特選句「ふり返へるともうぶらんこ揺れている」この句を読んだ瞬間、空っぽのブランコが揺れている映像が頭に浮かび、春の風を感じました。特選句「菜の花や牛は鼻から近づきぬ」春ののどかな風景を、さらりと詠んでいるのに、 強烈に映像が出てきます。菜の花の黄色と牛の鼻の黒の対比、牛のゆっくりとした動き、鳴き声、暖かい温度、土の匂い…。私もいつか、このような句を詠みたいと思いました。

野澤 隆夫

特選句「春の雷結婚するって本当ですか(吉田和恵)」:「春の雷」。まさに結婚するんだ!という驚き!が目に見えます。結婚するんだと知った時の驚きと、ちくしょうと思う、うらやましさにあふれてます。特選句「アフリカの太 鼓の音よ春の土」:「春の土」に「アフリカの太鼓の音」を聞いたというスケールの大きさにビックリです。問題句「能書きを垂れぬデュシャンや春の水(藤川宏樹)」まずもって「デュシャン」が何かわからず?変わった飲み物かと思ったり して…。さっそくスマホで当たる。マルセール・デュシャン。フランスの芸術家だと。髭のあるモナリザ、自転車の車輪、便器も芸術作品になってる。どうも「能書き」を必要としない作品らしい。ビックリ!!した問題句。

野田 信章

「水温む鎖骨は空を飛ぶかたち」の句は、鎖骨二本の物象感を把えて、「飛ぶかたち」と言い切る気力に早春の大気の漲りを覚える。そこに句の若さがある。☆すでによく出来た句を認めつつ、そこに作者の素顔がうかがえる句に鮮度 を覚えつつ選句しました。春本番。26日は、桜の山の吟行会。先ずは、市内の江津湖や、水辺、動植物園の吟行会で素材を求めて即興・即吟・即物を試行したいと計画中です。 

大西 健司

特選句「フクシマといい沖縄といい蓮根太る」フクシマそして沖縄問題。様々に作者は憂慮し、もどかしさを覚えているのだろう。泥深く太る蓮根に生命の逞しさを思いつつ、再生への思いを深めているのだろう。そんな思いの深さに 共鳴する。

柴田 清子

特選句「3・11ひとりになれば一行書く」たった十七音に、遠くはなれている私には、思いめぐらすことの出来ない海より深い、今も続く思いが、この最後の『一行書く』で言い表せていると思ったりした。忘れてはならない3・1 1、永久保存短詩特選です。

田口  浩

特選句「春陰や壁の中何人かいる(柴田清子)」一読、ポーの「黒猫」を思った。上五が、「春陰の」ではなく、切れ字「や」が句をより深くした。陰惨にしたと言ってよい。壁の中に塗り込められた何人かのゾンビが見えてくる。春 陰の怪奇を詠み切っていよう。特選句「たんぽぽの絮吹く歯舞色丹へ」四島返還は内意に止めて、昔流行した「アリュシャン小唄」の一節を懐しむ。〝海を離れた歯舞にゃ、死んだ親爺の墓がある〟歯舞、色丹、美しい名前である。そこに日 本人の墓がある。春、たんぽぽの穂絮が飛んで行く。☆今年は桜が早いそうですね。平成が終ります。私はテレビはあまり見ないのですが、皇室番組は好きで時々見ることがあります。今上天皇や、美智子妃殿下の、お顔を見ていると、ガサ ツなココロがヤスラぎます。ご自愛ください。

中村 セミ

特選句「鳥曇り鎖のように背骨ある」季語の〈鳥曇り〉は秋冬を過ごした鳥達が帰ってゆく春の曇り空を示しているが、真に寒いところで生き、寒いところに帰る時も、空は鎖のような背骨を見せる。鳥達がとんでゆく光景か、寒い場 所へ大自然が見送るのかは分らないが、厳しいものを読んでいるこの句は好きだ。

高木 水志

特選句「売れて良し売れなくて良し婆に日永」年金暮らしのお婆さんが人と関わるために商売をしている姿を連想させる。日永との取り合わせが良い。

特選句「あまねく光よ弥生讃岐の糸車」なんと心地よい俳句でしょうか!たったの五・七・五、されど五・七・五から生み出される実に美しく豊かな詩情。上五の「あまねく光よ」によるスケールの大きさ。季節は弥生。今正にその光 を浴びている讃岐の糸車。そのピンポイント的表現により景が鮮やかに浮かび、作者の讃岐の糸車への愛着心もひしと感じた。句全体から生ずる宇宙一体となった伸びやかさ、大らかさ、明るさ。作者ご自身も、きっと懐深く大らかで、明る く、感性豊かな方に違いない。誠に魅力ある大好きな句である。

田中 怜子

特選句「蛇穴を出て乳呑み児がのむひかり」乳呑み児が口をあけて、ひかりが皮膚をとおって光るようなすがすがしさとかわ いらしさが希望を与えてくれるような、映像が浮かぶ句です。「帰る家ありさくら咲く並木あり」も、一市 井人のつつましい生活安堵感、喜びが出ていると思います。

☆3月19日に、興福寺中金堂落慶記念 東京特別公演に行きました。テーマは「天平文化空間の再構成」です。ロバート・キャンベル氏は「奈良と興福寺に関して」、多川俊映興福寺貫首の「天平文化空間の再構成」です。ここでは、キ ャンベル氏の話の中で興福寺のことは省略して面白いと思ったことを書いてみました。日本は1300年を超える文学の歴史、文字をもっての記録、心の記録は世界にはない(例えば中国では時代が変わると焚書ということがありますから)。 また、それを伝えるために写したり(写経では、書き写す専門官がいて、一字でも間違えるとえらいことだったそうです)また木版技術も精巧になったことで今まで伝わってきたのです。私も木版刷りの本を見たことあるし、持ってもいまし た。キャンベル氏は19世紀、文化文政期の前から幕末の初期までの日本文学を研究している方です。木版刷り、和綴じの本を読みこんでいます。当時の日本の知識人は、万葉集や古事記、源氏物語等の古典学を学び、長崎等から大陸やヨー ロッパの知識を取り入れていました。教養として知識を積み重ねたのですね、座学ですが。伊勢松坂生まれの本居宣長は、名文家として名高く、江戸時代の人は彼の本をすでに読んでいた状況だったそうです。そして弟子3,4人を連れて伊 勢松坂から奈良のほうまで旅をした行程を「菅笠日記」としてまとめました。宣長の時代には、女性も旅行するなど流行っていたそうですが、やはり旅は危険です。弟子の出身地の有力者に手紙を書いていろいろと案配をしてもらって旅をし ました。有力者のところで1,2日いて、すでに宣長の本を読んでいる村人たちに講義し、村人も宣長の謦咳に接して喜んだことでしょう。そしていくらかの謝金を貰いながら旅を続ける。彼は常に嗅覚を働かせ、村の人々と交流し、踏査し 、感覚器官をフルに使って、経験、体験を擬古文としてまとめあげたのが「菅笠日記」です。宣長は音に敏感で鐘の音のことなど書いてあるそうです。吟行も、あれやこれやの知識がある上で、その地に足を踏み入れ、その体験を五感を通し て得たものを句の形にする、俳句と文の違いはあっても似ているなと思った次第です。

銀   次

今月の誤読●「風を呼び沖へ沖へと二つ蝶(野﨑憲子)」。雄蝶と雌蝶がいた。二羽の蝶は恋仲だった。その蝶らは島の花畑で暮らしていた。日はさんさんと降り注ぎ、風穏やかで、蜜はたっぷりあった。なに不自由ない暮らしだった 。ただ雄蝶はときどき花に羽を休め、ふうとため息をつくことがあった。雌蝶はそれを慰めようとあれやこれやと技巧をこらした蝶の舞を舞った。だがあるとき雄蝶は決心したように「オレはここを出る」といった。「でもどこへ? ここは 島なのよ」と雌蝶はいった。雄蝶の答はこうだった。「ここではないどこかだ。ここではない他の場所だ」。と言いざま雄蝶は海へと飛び立った。「待って」、と雌蝶もあとを追った。最初は穏やかだった波も沖へ沖へと出るうちに、うねり を増していった。風も強くなった。雌蝶がいった「もう帰りましょう。もとの楽園に」。だが雄蝶は無言のままに先に進んだ。夜になった。月光が海を照らしている。だがどこにも陸地は見えなかった。二羽の蝶は疲れ切っていた。雌蝶は羽 をひと掻きしたままヒラリヒラリと海に落ちていった。雄蝶はそれを助けようと雌蝶を抱いて羽ばたこうとした。だがそれは無理だった。二羽の蝶は浮つ沈みつしながら海面へと落ちていった。物音ひとつしなかった。月光は鱗粉の小さなき らめきをうつしただけだった。それはだれも知らない、知るよしもない線香花火だ。あとにはなにも残らない。

鈴木 幸江

特選句「夫という特異な他人内裏雛」同性愛婚も認める国も増えている。夫婦の在り方にも多様性の認識が広がっている。作者は、夫という存在に“特異な他人”という認識を抱いているのだ。他人という言葉に温みがあるのは”内裏 雛“という季語の持つ歴史性の働きだろうか。現代における夫婦の関係を模索している姿にエールを送りたい。

三好つや子

特選句「水輝るやトトトトトトと春の音」春の雨粒をこぼさぬよう、受けとめている若葉のしなやかな動きが目に浮かび、いつしかそれが音に変わってゆく・・・。不思議な魅力に満ちた作品。特選句「父という箱舟揺れる桜貝(桂凛 火)」頼りきっていたものを一瞬にして失う恐怖。東日本大震災で親とはぐれた幼子の姿を思い出し、心が痛みました。入選句「春愁の積もる眼の底覗かれる(榎本祐子)」年を重ねるにつれ増えてくる目のトラブル。精密検査を受けた挙句、 医師から「加齢ですね」と告げられたときの淋しさに共感。

こんにちは。いつもお世話になります。三月十七日放送の、『高島礼子が家宝捜索!蔵の中には何がある?』ー「壺春堂金子医院」の「蔵」の番組で、兜太先生の生家を拝見しました。甥御さんが先生そっくりで、懐かしかったです。田中 亜美さん、想像してたより、気さくな人ですね。先生の功績を風化させないためにも、記念館は、ぜひ実現してほしい。そして、現代俳句の中での兜太先生の役割を、自分なりに勉強しようと思いました。

矢野千代子

特選句「余生なお梅の薫りの只中に」馥郁と香る春の便りー梅の花もその香も大好きです。「余生」がいきいきと迫ってきますよ。いいなあーこんな余生はー。

桂  凛火

特選句「夫という特異な他人内裏雛」夫婦というのは不思議な他人であるというのは言い得て妙ですね。しかも明るく笑える所があるので心惹かれました。当たり前のようだけれど、新鮮な把握の仕方だと思いました。

竹本  仰

特選句「鳥曇り鎖のように背骨ある」:「鎖のように」に、共につながっている連帯のようなものを感じました。それは、あるいは枷ともなるものかも知れないが、お互いを結びつけるもの、いわば共有する価値観というものでしょう か。鳥の列の背後に見える、そういう価値観は、われわれ人間から見れば、骨肉の価値観と呼べるものかも知れませんが、我々が見失いかけた大事なものでしょう。一時、小劇場ブームにはまって足繁く、狭い劇場空間に向かわせたもの、あ の時も、あの犇めいた暗闇に、何か、みんな、絆のようなものを求めていたように、思い出しました。特選句「一本松光の海に向かい合う」:「向かい合う」として、主語が明示されないことで、多くの対照が想像されてくるのが、この句の 優れたところでしょう。たとえば、生者と死者とか、平和と災厄とか、被災者と一般人とか。シンプルな語の選択が、ふくみやふくらみを持たせているなあと、感心しました。特選句「兜太忌へ二月至純の熊の爪(野田信章)」つやつやとひか る熊の爪が、森の、雪の、中にあり、冬眠の熊のその深い眠りの息が、よみがえりを待つ、そんな息に変わってゆく。片や、深い眠りにある師の息と、自然の息とが、復活と再会を約し、呼応している。そんな大きな句として、とらえました 。特選句「身をたたく雨だけを雨だとおもう」自分の体験したものだけが確かなものに感じられる、それは当たり前のことなんだけれども、幼少期の体験が人生全体に占めるウエイトには、感歎をもって振り返るほかはないでしょう。たとえ ば、季語というものがあり、それは、他の季節との、横の位置関係をあらわすものの他に、過去に遡り、未来へのまなざしともなるべき縦の位置関係をあらわすこともあります。そういう垂直方向への、時間というのでしょうか、そういう匂 いの感じられた句です。何でしょうか、ふいに、季語なるものを考えさせられた、そんな句です。「読み」というのは、読みすすめる、ということでありますが、読みとどまる、読みとどめる、というニュアンスもあるんではないかなと、そ んなことも、連想いたしました。

田舎のお葬式、都会のお葬式、と連日、多忙な毎日が続き、やっと自分の時間が持てました。本日も、朝、これから、夜の十時まで、予定びっしりです、せめて、夜の十二時までには仕事を終わらせたい、そんな願いも、何日間かかなえら れず、今、こうして、早朝にメールできるのが至福の時です。みなさん、お元気で、よい一日をお迎えください。それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

松本 勇二

特選句「乙女らが酸葉噛んでるどっと水音」酸葉という懐かしい葉っぱを乙女に噛ませて郷愁を誘います。そのあとに置いた、どっと水音、に勢いがあり元気をもらいました。

伊藤  幸

特選句「花期ながき蠟梅呵呵と師はありき」兜太先生が逝かれて一年。未だに信じられません。先生のあの豪快な姿、存在の大きさは千年語り継がれることでしょう。

BS放送「蔵の中には何がある」を見ました。そして、懐かしさと共に大きな感動と驚異を頂きました。兜太先生の遺句(短冊)や日記にも・・・。私達の知る先生と全く違った一面が次々と・・・。先生も俳句が出来ないと悩まれた時期 があったこと、若い頃の文字があの太い男らしい文字と全く違う優しい文字であったこと等。「金子兜太記念館」が楽しみです。

男波 弘志

特選句「蛇穴を出で乳呑み児がのむひかり」赤ん坊の無意識、それが蛇のひかりを呑むのだろう。無意識相にあるエロスを知覚すればよい。人間の感情が移入される、以前のエロス、無始のエロス、そう言ってもよろしい。「フクシマ といい沖縄といい蓮根太る」僕らが、死んだ、とか思っていること、宇宙の視野からすれば、そうではない。大銀河では死滅することはない、そこにあるのは明滅感だけだ。

吉田 和恵

特選句「あまねく光よ弥生讃岐の糸車」希望の光に満ちた弥生の讃岐。十月の大会の成功を暗示しているかのようです。 先日は、突然の参加にも拘らず温かく迎えて下さり感激しました。「海程香川」のスターの面々を知り、選句、 題詠みで頭の体操をして、ほっこりと帰路に着きました。新見からは、要所々々に温度表示があるのですが、一度づつ下がり家に着く頃には〇度になっていました。でも、温い余韻の中、ぐっすりと眠りました。本当にありがとうございまし た。会場では、選句に十分な時間がなかったのでインスピレーションだけでしたが、吟味の末、かなり異なった結果となってしまいました。   

初めての句会に弥生の瀬戸渡る        和恵     

小宮 豊和

「集団の行動苦手菜の花黄」ずばり本音を言った良い句だと思います。集団の行動に何の抵抗もなく同調していけるなどという方が薄気味悪いし、実際にはそんな人はほとんど居ないのではないかと思います。個性が強いほど妥協がむ づかしく、ストレスを感じる。しかし決して悪い状態では無い。そしてここから先をどう認識し、どう対処するかが人生の知恵だと思います。良い展開を期待したいと思います。原句に戻ると、上五、中七は動かず、下五について、いろいろ な才能や能力や技能が自他に貢献していけるよう、そんな下五を見付けたいものです。「ヒヤシンス」「朴の花」「牡(おす)の鹿」「猪(しし)の牡」・・・・。作者も読者も、季語一発にたどりついたらご披露下さい。

藤田 乙女

特選句「アフリカの太鼓の音よ春の土」アフリカのリズミカルで力強い太鼓の音が人間の命の躍動感や生命力と重なり、春の大地をたくましく生きるものの圧倒的な力を感じました。

月野ぽぽな

特選句「鳥曇り鎖のように背骨のある」背骨に感じる、重い違和感。それを中七・下五のように形象化された。身体的な苦痛なのかもしれないし、外界の事象に対する心的な反応なのかもしれないが、季語の働きによって春という季節 の持つ気怠さと響きあい読み手に分厚く伝わって来る。

重松 敬子

今月も良い句が多く感動しております。特選句「水輝るやトトトトトトと春の音」この擬音は、生活の中での身近な水の音を感じさせ効果的である。そう、私達はまず身近なことで、春の訪れを感じます。俳句の題材は、身の回りにい っぱいあるのだと、気付かされました。

新野祐子

特選句「花期ながき臘梅呵呵と師はありき」兜太先生のことですよね。呵呵がいいです。臘梅の質感も先生のイメージに合っていると思います。三月十七日の朝日新聞文化欄に、「金子兜太さん60年の日記」刊行の紹介記事が載って いました。多くの方、ご覧になったことと。「豪放磊落なイメージがあった金子さんが、実は内に繊細さを抱え込んでいたことがよくわかる」と、長谷川櫂さんが解説していました。呵呵と繊細さが同居する先生でしたのでしょう。入選句「 春愁の積もる眼の底覗かれる」眼底検査のあのルソーの絵のような色彩のはっきりとした図が浮かんできました。春愁って積もるものなんですね、それも眼底に。そう言われればそんな気がしてきます。入選句「吾が魂の腐水に流る梅一輪(銀 次)」腐水って何でしょう。自虐的?自己卑下?梅の鮮やかさが際立ちます。

菅原 春み

特選句「春二番ケバブ屋台の列まばら」季語がいい。春一番でないとことが。目に見える景色がいい。特選句「手の平に包む山繭魂のよう(稲葉千尋)」ぼのぼのとするような神秘的な山繭の存在。魂といいきったところに潔い。    

豊原 清明

特選句「あらまあ世界中がたんぽぽです」 個人的に大好きな山頭火や放哉と似た、おとぼけぶりが良い。たんぽぽはいまはフクシマの震災のイメージ。5・7・5からやや外れるのも好き。問題句「小鳥を埋葬スノードロップ開き始 む」 景色が浮かぶ。やや説明的。「小鳥を埋葬」が良い。

野口思づゑ

野口思づゑ◆今回は選んだ句はどれも同等の好感度なので、特選句はありません。「舟となり柩旅立つ梅の朝」実際に棺が流れて行くかのように自然に移動したのでしょう。大往生だったのか明るい旅立ちだったに違いないと感じさせてくれ る句。「アフリカの太鼓の音よ春の土」アフリカの太鼓の土に響くアフリカの太鼓の音が聞こえてきた。「余生なお梅の薫りの只中に」幸せな余生のようで、こちらも嬉しくなります。「菜の花や牛は鼻から近づきぬ」鼻から近づく。本当に そうだと思います。

河野 志保

特選句「コンプレックスの息で風船ふくらます(榎本祐子)」リズムに危うさがあるかもしれないが、新鮮さを感じ惹かれた。風船をふくらませている顔や仕草は誰しも少し滑稽。それは劣等感を抱えて生きる人間の懸命さも感じさせ る。実感の巧みな表現に伝達力光る。

小山やす子

特選句「3・11ひとりになれば一行書く」3・11のあの難に遭遇した人の生きざまが一行書くでひしひしと感じられる名句と思います。

河田 清峰

特選句「ひだり手はつかわない手で鳥雲に(男波弘志)」つかわない手と謂われると不思議なおもいにさせられ鳥雲にの季語に響いてくる!好きな句です!よろしくお願いいたします~

三枝みずほ

特選句「フクシマといい沖縄といい蓮根太る」蓮根太るを生命力だと肯定的に捉えていたが、ふと今の状況を考えると、太った蓮根の穴が塞がっていくような閉塞感を感じた。泥水に沈まぬうちに。見通しが真っ暗にならぬうちに。考 えさせられる作品だった。

高橋 晴子

特選句「菜の花や牛は鼻から近づきぬ」当り前の景だがこういわれてみると面白い。菜の花の明るさに牛の顔がよく見える。特選句「兜太忌へ二月至純の熊の爪」〝至純の熊の爪〟は、兜太氏の存在全体の在りようを言っているのだろ う。純粋で暖かい人だった。

亀山祐美子

特選句「砂をかむ靴を逆さに鳥曇に(柴田清子)」海辺を歩き靴に入り込んだ砂を、立ち止まり「靴を逆さに」して取り除く作者と空と波音と。景がよく見える。省略がよく効いている。「ひだり手はつかわない手で鳥曇に」も面白い と思った。そう言われればそうだなぁと納得させられた。「竜天に北斎享年九十五」も好きだが合い過ぎかなとも思う。皆様の句評楽しみにしております。一日の寒暖の激しいおり、ご自愛くださいませ。

野﨑 憲子

特選句「ほんとうの居場所はいつも菫咲く」そこに立てば、ずっと昔に居たことがあると感じる場所がある。私には、俳句道場のあった養浩亭から荒川岸に降りた所。そこにはいつも、スミレの花が咲いていた。菫は不思議な花である 。問題句「鳥雲に約束ならば貝とした」:「芸術とは呪縛である」とは、岡本太郎の言。そんな力強さがこの句にはある。「鳥雲に」が少し予定調和と思うが、魅力の作品である。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

しゃぼん玉
ぶつかつてひとりになつてしやぼん玉
野﨑 憲子
しゃぼん玉大きくなあれ春月に
銀   次
摺り足の靴下に穴シャボン玉
藤川 宏樹
あくびして天までとどけしゃぼん玉
野澤 隆夫
当り前などど言う奴しゃぼん玉
鈴木 幸江 
しゃぼん玉退路を断ちて眺めおる
佐藤 仁美
ラジカセに謡(うたい)の流る春の闇
野澤 隆夫
君との闇梅の香りのやわらかし
吉田 和恵
春の闇女詐欺師に片えくぼ
藤川 宏樹
月朧薄闇に向かひ舟を出す
銀   次
十戒
秘密だよ十戒と居る春の月
佐藤 仁美
「十戒」を踏めば西からどつと蝶
野﨑 憲子
十戒をすべて犯して恋の猫
島田 章平
十戒に触るミッツの素足かな
藤川 宏樹
春泥にまみれし十戒酒あおる
銀   次
葱みそ
祖母ありしねぎ味噌入れておまんじゅう
吉田 和恵
もてなしの葱に味噌付く囲炉裏端
藤川 宏樹
葱みそや妻の実家に義兄(あに)独り
島田 章平
のどけき日ねぎみそなめるトイプードル
野澤 隆夫
葱みそと人肌の燗春の宵
佐藤 仁美
わからない
蛇出ずるわからぬままに行き先の
吉田 和恵
大試験「わかりません」と返答す
野澤 隆夫
わからない汚れ目見せて山笑ふ
野﨑 憲子
わからないどちらでもない葱坊主
島田 章平
宇宙に死分らないたら分らない
鈴木 幸江

【句会メモ】

16日の句会に、新見市から吉田和恵さんが初参加され、句会がとても賑わい嬉しかったです。17日には、先生の甥御である金子医院長桃刀様のご案内で、壺春堂の母屋と蔵がテレビに紹介されました。金子先生が軍事郵便で父伊昔紅氏 へ送った手紙に俳句作品も掲載されていました。その中には、先生の代表作の一つである「魚雷の丸胴蜥蜴這い回りて去りぬ」も有りました。入営前の先生の髪も見つかったそうです。9月の先生の生誕百年を記念しての記念館開館が、今から楽しみです。

冒頭の絵は。讃岐富士といわれる飯野山の桃畑のスケッチで、藤川宏樹さんの作品です。

2019年2月28日 (木)

第92回「海程香川」句会(2019.02.16)

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事前投句参加者の一句

         
軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し 大西 健司
万年筆便りの進む春が好き 稲葉 千尋
梅ほつりほつり言葉の生る不思議 谷  孝江
空が青くて鳥になりたい冬木の芽 吉田 和恵
声出して寒夕焼になりました 月野ぽぽな
梅林をよぎる人影たしかに師 寺町志津子
沈まない冬日の底にある世界 鈴木 幸江
青鮫を天へ吹上げ梅真白 小宮 豊和
一汁と一菜でよし山笑う 重松 敬子
ファーストもファシストも焦げくさい冬日 三枝みずほ
春雷や物置の扉開け放し 菅原 春み
切株のかわいいくしゃみ初日の出 矢野千代子
住職の説法長し東風ほのか 銀   次
見える目が欲しい星空の雪だるま 島田 章平
押しくらまんじゅう一人はみ出る梅蕾 中野 佑海
父は死んでいた 恋猫が鳴いていた 田口  浩
肩甲骨ぐいと寄せたり鳥雲に 高橋美弥子
豆腐屋は豆腐を作る春の雨 小山やす子
死にたいと時々思ふミモザの夜 柴田 清子
板チョコの東の角より囀れる 三好つや子
冬雲に包まれるキャベツあり 中村 セミ
沈丁花指輪のあとは消えぬまま 伊藤  幸
探梅と称してくぐる縄暖簾 漆原 義典
耳打ちに眼みひらく涅槃西風 榎本 祐子
蛹は雨に春の音楽教えてる 高木 水志
風まるくまるくふくらむ春の山 亀山祐美子
雪しだく小小小小小小小(このじのれつや) 留守に亀 藤川 宏樹
三寒四温金属疲労研究室 新野 祐子
猫の恋かぼちゃスープと喉の棘 佐藤 仁美
にんげんがたてている音うすごおり 男波 弘志
春寒や骨までしゃぶる鯛の粗(あら) 野澤 隆夫
走り根にくちづける雪の聖者よ 増田 天志
他界より「おー」と御声春灯し 野口思づゑ
咳ひとつ肺は薄陽さす森林 若森 京子
行き交いてキンクロハジロ的憂い 松本 勇二
あやとりの小指と小指ほら俳句 河野 志保
目薬の飛び散る朝の春の歌 豊原 清明
漂流物ままごとの春浅き春 竹本  仰
春立つや谷中初音町(はつね)の鐘の音 田中 怜子
菜の花の永遠にいる少女かな 藤田 乙女
恋猫や白鵬鶴竜稀勢の里 河田 清峰
水脈引いて鴨まつすぐに我にくる 高橋 晴子
慈父にして荒星目つむれば会える 野田 信章
国生みの島を抱くや水仙花 野﨑 憲子

句会の窓

藤川 宏樹

特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」この句に句会では多数の選が入りました。春の雨が豆腐と見事にマッチしています。学生時代の豆腐屋早朝アルバイト、冷水に浸かる出来たて豆腐の暖かみ、掬う柔らかな触感が蘇りました。こうい う自然体の句を私も作りたいと思います。

島田 章平

特選句「沈丁花指輪のあとは消えぬまま」妻が亡くなった時の指輪を外したあとが忘れられません。

重松 敬子

特選句「風まるくまるくふくらむ春の山」春が来た喜びが素直に伝わってきて、とても幸せな気持ちになりました。日本には、嬉しいことに四つの季節があり、俳句の存在にも多大な影響を与えてきたと想像されます。私達は、このそれ ぞれの季節を大いに楽しみたいものです。

高木 水志

特選句「住職の説法長し東風ほのか」清々しい俳句だと思った。住職の長い話を聞いているうちに、東風がそっと吹いている風景が心地よい。

野澤 隆夫

特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」〝豆腐屋さんが豆腐を作る〟。その通りです。わが母校、栗林小学校の通学路にも豆腐屋さんがありました。豆腐と、油揚げとおからを作ってました。70年近く前のことを思い出しました。やはり〝春の雨〟が効いています。特選句「親鸞を因数分解して蜜柑(三好つや子)」親鸞の生き方に興味をもった作者。親鸞を因数分解してみるという発想が面白い。蜜柑を口にしながら、親鸞の因数分解を楽しんでいるようです。

高橋美弥子

特選句「 冬雲に包まれるキャベツあり」ああ、こういう感じあるなあと思いました。わたしの出身県はキャベツの特産地です。寒くて厚い冬雲につつまれて、甘味を増しおいしくなるキャベツ。「包まれる」の措辞がいかにもキャベツ。問題句「死が近いしろつめくさがそう言うた(田口浩)」人はいつか死ぬ。なぜかそれだけは平等。不平等と不条理の溢れかえるこの世界で、唯一「死」は悪人にも善人にも避けられない。しろつめくさという、希望に満ちた対象が投げかける「死」。わたしも明日死ぬかもしれないと思わせる句。

若森 京子

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」世界平和を願う者としては、現在、いつも不安を感じている一句だが、地名の饗庭野が真ん中で効いている。一句を詩的にもしている。特選句「ファーストもファシストも焦げく さい冬日」言葉の音律が、何げなく焦げくさい冬日をよく表現している。

稲葉 千尋

特選句「肩甲骨ぐいと寄せたり鳥雲に」ふんいきがいいですね。〟鳥雲〝の季語佳し。「切符片手に風花は讃岐より」上五は片道切符がいいなあ。

小山やす子

特選句「春雷や物置の扉開け放し」素の俳句という感じがしていいと思います。

増田 天志

特選句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」柔軟な発想に、感服。

中野 佑海

特選句「板チョコの東の角より囀れる」思いを込めて送ったバレンタインのチョコ。私の気持ちを伝えてよ!彼が食べる端から私の思いが囀りとなって流れ出すなんて素敵な便利な機能付きチョコ。早速、わたしも作って送ろ。私 は魔女のお婆さんか!!特選句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」めちゃめちゃ笑えるやないの!誰がこんな素敵な俳句考えたんですか?最初、読んだ時は誰か小股の切れ上がった着物の女性の下駄の跡かと思っていまし た。最後の「亀」がまた最高。だから、何で亀なん?と思っていました。本当に見られたんですか?二度見してやっと理解しました。どの俳句もとても面白く、選句するのが、大変でした。秩父で俳句三昧をしてきました。今年は、香川で俳句 三昧です。皆様、汗を絞って、俳句にいたしましょう。

男波 弘志

「声だして寒夕焼けになりました」この声は造化とひとつになる 声 声が往生している。「ゆっくりと空へ繋がる白息の(三枝みずほ)」白息の、そのとめかたが、いのちの循環になっている。また肉声を伝えていて、実感が充ちている。「埋めようなくレモン一切れ一便箋(竹本 仰)」文字に入れかわることがない、レモン、その実体を素直に感じればいい。「あらたなる死者にふくらむ春の山(田口 浩)」山そのものがふくらむ、発見、つまり、死者を祝祭している。涅槃とはそういう場所だろう。

菅原 春み

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」影寒しが秀逸です。きなくさい世のなかです。特選句『他界より「おー」と御声春灯し』いまにもお声が聞こえてきそうです。季ぴったりです。特選句「あらたなる死者にふくら む春の山」どうしても特選にしたくて。臨場感があります。

矢野千代子

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」饗庭野(あいばの)、この固有名詞にとても魅かれました。

竹本  仰

特選句「春雷や物置の扉開け放し」春雷というのは、一回見事に鳴って、それからすこし静かに落ち着く間があって、元に戻る、そんな一セットのものではないかと記憶していますが、あの春雷の後の間というのは、ふと忘れものに 気づく間ではないのかと、そんな風な季語の鑑賞をしてしまいました。そんな春雷の後の間、そのふと空いた心の無防備、言い換えれば心の蓋のあいた瞬間、そんなものがうかがえました。そして、妙にその物置の中へ引き込まれるものを感じ ます。非常にバランスのいい、高い調和みたいなものがある句だと感心しました。特選句「あらたなる死者にふくらむ春の山」小生のおりますこの田舎には「サンマイ」といって土葬の林があります。この地の植生の豊かさというか、猛烈なナ マな粗雑さ正直さには呆れるのですが、その林がある句というとらえ方で読みました。お葬式が終わり、火葬から帰ってくると、人は必ずあくびをし、薄らいだ、また安らいだ笑みをこぼすものです。そういう光景を見かけたときのタッチにか なり近い雰囲気を思い浮かべました。もっとも大事な世のなりたちの一断面がくっきりと描かれ、その清新な空気感を感じました。特選句「にんげんがたてている音うすごおり」この句から聞こえてくるのは、人間て何?という問いでしょうか 。うちの近所のお茶の先生がいつも、テレビは見ないの、あんなしょうもないものをいつも見ている世の中がどうかしているワ、というのを聞き、そのたびに何か胸がすっとするのを感じます。人間という惑わされやすいもの、一方で何か微妙 な自然の一切れが片隅にあり、すごく大事な問いかけをしている。そんなうすごおりからの目線を感じました。以上です。今回はとても、目を引く句が多かったように思います。知り合いの方に、この句会のプリントを見せたところ、俳句はわ からないけど、何かわくわくする感じにみちみちているね、と面白がっていました。毎回、大変はげみになります。ありがとうございます。

田中 怜子

特選句「青鮫を天へ吹き上げ梅真白」 作者の思い、前向き、勢いがあります。

柴田 清子

特選句「死が近いしろつめくさがそう言うた」人間が避けることの出来ない死を、白詰草に、さらりと言はせているところが、さらに近づいてくる死を強烈にしている。特選句「父は死んでいた 恋猫が鳴いていた」:「生と死」 「死と生」言葉で書かれている以上に、迫力のある空間が、この句にはある。「父の死」と「恋猫の泣き声」が、同格と思える不思議な空間にひきずり込まれる句。「クックーポッポウ淡雪の時間です(野﨑憲子)」鳴き声だけで読み手の私達に、淡雪の時 間を感じさせてくれる好きな句ですね。

大西 健司

特選句「咳ひとつ肺は薄陽さす森林」まず肺を薄陽さす森林と断定したことを評価したい。どう読んだらいいのか悩ましいが、感覚的にはわかるとしか言いようがない。ただここで先行句を思い出した「はつなつや肺は小さな森で あり(なつはづき)」現俳協新人賞受賞者の一句である。味わいはそれぞれ違うものの難しいところ。問題句「三寒四温金属疲労研究室」金属疲労研究室はいいとして、さて季語はこれでいいのか疑問が残る。無理をして全部漢字にしなくても 、やわらかなひらがなの五文字の方が中七からがもっと生きるのではと思うのだが、いかがなものか。

鈴木 幸江

問題句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」俳句において振り仮名をどこまで受け入れるかは作者の中でそれぞれ基準のようなものが揺れつつもある。全く、すべきではないという意見もよく耳にするが、文字 とは別の意味を持った振り仮名を付けている句も目にしたことがある。恥ずかしながら私は「小小小小小小小」が文字の形象から風景を再現したものだとは気が付かなかったのだ。言葉の表す意味内容につい思考がいってしまう私の癖が出てし まい、俳句の解釈の一つの味わい方を見失っていた。今回は、作者の解説をいただき、自分の文字の視覚的鑑賞力の不十分さに気が付かされた。また、このような振り仮名の使い方にも初めて出会った。とにかく、作者の説明によると留守の間 に庭に亀が来たようで、雪の上に足跡らしき“小の字”の列があったということだ。このような文字の形象から俳句の世界を広げてゆくとう試みも大いにありだと思う。一句の中に自然と動物と人間が描かれているのもよろしいと思った。問題 句「板チョコの東の角より囀れる」2月とチョコとくれば聖バレンタインデー。キリスト教ではカップルが愛を誓う日。そして、「東」からは“エデンの東”が連想される。そこは、楽園から追放された者の地であり、また且つ真実の愛が問わ れている場だと私は思っている。この作者はきっと現代における真実の愛を求めているのだろう。頑張ってください。

中村 セミ

特選句「咳ひとつ肺は薄陽さす森林」色々とれると思うけれど、肺の寒々とした風景が何か印象に残りました。病気の方、又は森林と重ねて肺という臓器の森の様に広がった大きさに何かを重ねたところが良かったです。他、「豆 腐屋は豆腐を作る春の雨」昔、実家が豆腐屋で一年中、朝早くから父や母が豆腐を作っている姿が、鮮明に戻ってきました。春の雨で豆腐屋の生活がきちんと写真の様に止りました。

佐藤 仁美

特選句「梅ほつりほつり言葉の生る不思議」ほつりほつりの表現に惹かれました。私も、ほつりほつりでも言葉を編み出したいものです。特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」,当たり前の事を当たり前に、淡々と続けていくことの 大切さと凄さを、春の雨が優しく包んでいる様子が浮かびました。

松本 勇二

特選句「板チョコの東の角より囀れる」囀りの発信元が板チョコの東の角という閃きが新鮮でした。感性豊かな作者像が浮かびます。問題句「梅林をよぎる人影たしかに師」師を特定した方が強くなると思います。たとえば「梅林 をよぎる人影たしかに兜太」では。

三好つや子

特選句「蛹は雨に春の音楽教えてる」蛹が楽器なら、静かに降る雨は弾き手。寄り添って春のメロディーを奏でる抒情が、とても快い作品。特選句「国生みの島を抱くや水仙花」古事記ゆかりの「沼島」を遠望できる淡路島の水仙 郷を歩いたことがあります。あの水仙の迫力が、この句からよみがえり、共鳴しました。入選句「ずっしりと櫂の五十句冴返る(野澤隆夫)」角川俳句二月号で発表された、死を予感したような長谷川氏の五十句。心がざわざわします。

田口  浩

特選句「肩甲骨ぐいと寄せたり鳥雲に」〝鳥雲に〟は古い季語である。其角、一茶も詠んでいる。若いころ好きだった、草田男にもある。私淑していた閒石も「鳥雲の某日水を描き暮らす」とあるが、どの句にも作者の郷愁のような ものがにじんでいる。見え隠れする。〝鳥雲に〟は春のそんな気分の季語だと思っていたが、この「肩甲骨グイと」は私に待ったをかけた。驚ろかされた。鶴か、雁か、雲間に向かう力強さは、郷愁などではなく、水泳選手の水をかきわける両 腕に重なって、健康志向の私たちの肩までグリッと音を立てたような気がした。平成の一句が〝鳥雲に〟に一頁開いた感がある。特選句「あやとりの小指と小指ほら俳句」今の女の子はあやとりをするだろうか?向かい合って互いの指に掛けて いる毛糸をやりとりするのだが、そのたびに形がかわる。それを競う遊びだが、私はなぜか熊手の形をおぼえている。子供同志はやらないかも知れないが、母と幼い子が膝をつき合せ、毛糸に顔を近づけている図は、おだやかでほほえましい。 句は「小指と小指ほら俳句」がいい。もちろんあやとりに俳句などと言う、やっかいな組手はないだろう。しかし、そこは親子である。もしお母さんが俳句を愉しんでいる人だとしたら、あやとりを通して、俳句を子供に興味を持たせようとし ているのかも知れない。「ほら俳句」の「小指と小指」には存外に約束ゲンマンの意もあるのである。こんなあやとりをつきつけられた子供はどんな顔をするのだろうか・・・・・。いい作品である。

河田 清峰

特選句「切株のかわいいくしゃみ初日の出」初日の出の光は眩しいほど届いているのに温もりはまだ届いていない気持ちを切株に例えたのが良かった。

漆原 義典

特選句は「父は死んでいた 恋猫が鳴いていた」です。父は死んでいたと衝撃的な書き出しと、恋猫の表情が、うまいです。作者の感性はすごいです。また前衛の鋭さを強く感じました。

野田 信章

特選句「走り根にくちづける雪の聖者よ」遥よりの使者―雪片を「くちづける」と把え、「聖者よ」と結句する。映像の確かさを諾うことができるのも、地に息衝く者の象徴としての「走り根」の設定あればこそと思う。

榎本 祐子

特選句「春寒や骨までしゃぶる鯛の粗(あら)」春なのに忌ま忌ましい寒さの中、骨の強(こわ)い鯛の粗を無心にしゃぶる像。「までしゃぶる」と言う言葉で、時空から切り離された異世界のようにも見える。哀しくもあり可笑 しくもあり、そして少し怖い。

寺町志津子

特選句「慈父にして荒星目つむれば会える」つい最近、黒田杏子さんが「選者をしている新聞の俳句欄に未だに兜太先生のことを詠んだ句が寄せられる。かつてないことである」的なことを書かれていたのを読んだが、今月の香川句会もしかりで、かなりの数があった。それぞれに兜太先生への思いが込められ、それぞれに感慨深いが、中でも、最も共感し、共鳴し、しみじみ心に染みる揚句を特選に頂いた。私ごとで恐縮であるが、ご生前、兜太先生にお会いしたり、お話を伺ったりしていると、誠に僭越ながら、亡父と全く重なって感じるところがあり(ある意味、大正生まれの父親像の一面かも知れないし、きっと多くの方が同じ感慨を持っておられたのではないか、とも思うが)いつも大変嬉しく、とても有り難い思いであった。揚句の「目つむれば会える」に哀しみの中での希望が見える。今宵も目をつむって兜太先生にお会いしよう!

三枝みずほ

特選句「漂流物ままごとの春浅き春」瀬戸内海の浜辺で人工的な漂流物をよく見かける。このままごとで使っている漂流物もプラスチック等の海の生態系を脅かすものであろうか。ままごとの着眼点に現代性があった。せめて子の春は爛漫であってほしいものだ。

谷  孝江

特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」パン屋がパンを作る、ケーキ屋がケーキを作るありふれた事柄を豆腐屋に持ってゆき、春の雨との取り合わせで、あたたかくやさしい風景になっていて好きな句です。立春も過ぎ春らんまんの季 節の一歩手前での句。今月もたくさんの句に出合わせて頂きました。来月は花の盛りでしょうか。楽しく待っています。

藤田 乙女

特選句「青鮫を天へ吹き上げ梅真白」寒気の中に、純白の美しい梅の花が百花にさきがけて地上に咲いている頃、天界へと召されていった師への尊敬の心と深い思いがしみじみと伝わってきました。

月野ぽぽな

特選句「咳ひとつ肺は薄陽さす森林」咳が出た後その送り主である肺とその身体感覚に注目して、体の神秘を「肺は薄陽さす森林」と形象化。自然と不可分な人間の心身魂。人体の不思議命の不思議を再認識させてくれた。

新野 祐子

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」長編小説のエピローグの様な情景が目に浮かんできます。鳥の影が寒いというところに作者の荒涼とした心境が表されているのではないでしょうか。入選句「落ち葉踏む革命遠き 石疊(寺町志津子)」こちらは欧州、フランスあたりの紀行文の一フレーズのように読みました。石畳からは民衆の蜂起の靴音が聞こえてきます。『他界より「おー」と御声春灯し』兜太先生が亡くなってちょうど一年となりました。この句から先生の姿が彷彿とします。「春灯し」が優しくてとても好きです。問題句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」:「このじのれつや」と読ませるのは、あまりに無理があるのでは?でも「留守に亀」だなんて突飛ですし、おもしろい句ですね。

小宮 豊和

一句コメント「「あやとりの小指と小指ほら俳句」題材の良さに比較して「ほら俳句」がいまいちに感じられた。どう変えたらあやとりの句らしくなるか考えたが特段に良い案はうかばない。「一句なる」ではどうだろうか。「小 指と小指」は島倉千代子の唄にあるので気になる向きがあれば「指っふれあって」など。あとは語順をいれかえる手もあるかもしれない。「一句成るあやとりの指ふれあって」 

吉田 和恵

特選句「梅ほつりほつり言葉の生る不思議」梅がようやく綻び始める時、言葉が生れて来る感じがする。私も寡黙な夫を仕立て、「梅咲いて寡黙な夫が独りごつ」と書いてみました・・・・・直ちに消しましたけど。特選句「落ち 葉踏む革命遠き石疊」石畳・馬車・産業革命・・・石畳に妙にリアリティを感じました。

亀山祐美子

特選句『落椿大地に彫りし緋の文字(銀次)』色んな落椿の句を見てきましたが、「大地に彫り込んだ」「赤い文字」だという発想は素晴らしいと思います。特選句『恋猫や白鵬鶴竜稀棒勢の里』昨日家の庭に近所の猫が来てましたが、一勝負終わった後の相撲取りといった風情で笑っしまいました。髷を直してもらっている時の体の丸みとか勝負の火照りとか、目が血走っているところとか、よく見ているなぁと感心してしまいました。何よりリズムが良く無駄がありません。脱帽です。皆様の句評楽しみにしております。花粉の季節になりました。皆様ご自愛くださいませ。

河野 志保

特選句「梅林をよぎる人影たしかに師」 金子兜太先生のことを詠んだ句と受け取った。先生の名句が思い出されるし、ストレートで実感あり。断定したところに「師」への強い思いが感じられる。

伊藤  幸

特選句「 板チョコの東の角より囀れる」春ですね。若いですね。発想が楽しい。未来がある。出来不出来は抜きにしてチョコ、東、囀りの意外な取り合わせの全てに明るい明日が見えて思わず微笑んでしまいます。

野口思づゑ

「声出して寒夕焼けになりました」感動的な夕焼けに、自分が声をあげたくなる気持ちが伝わってくる。「梅林をよぎる人影たしかに師」金子先生のお姿が浮かんでしまいました。「見える目が欲しい星空の雪だるま」雪だるまに縁がない地域に住んでいる者にとって、雪だるまと星空と雪だるまの取り合わせがことさら新鮮。「あらたなる死者にふくらむ春の山」死者の旅立ちが明るく捉えられている。「慈父にして荒星目つむれば会える」またお会いしたいです。

高橋 晴子

特選句「親鸞を因数分解して蜜柑」何だか面白い。或いは、蜜柑でない人もあるでしょう。この人は蜜柑、動くというよりこれはこの人の解。問題句「恋猫や白鵬鶴竜稀棒勢の里」相撲は面白いが、この三人の横綱あまり好きでな い。恋猫の相手はもっと若手の生きのいいのがいい。

野﨑 憲子

特選句「声出して寒夕焼になりました」始源から生まれてきた声・・この「寒夕焼け」に悠久の時間を観ました。問題句「行き交いてキンクロハジロ的憂い」私は、「キンクロハジロ」が、鴨の一種と知らなかったです。羽根の色 彩が名となった、とても魅かれる句。只「的」が気になりました。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

指先に掬い集めし春時雨
佐藤 仁美
春水に指入れ何のためらひか
柴田 清子
この指は誰だろうねと蜜柑むく
鈴木 幸江
のどけき日トイプードルは指しゃぶる
野澤 隆夫
亡き妻の手袋の指空いたまま
島田 章平
兜太
茶封筒の兜太はみ出してゐる春
柴田 清子
兜太の忌僕はこっちで待ってます
藤川 宏樹
兜太棲む白梅の郷らしい
鈴木 幸江
春の雷兜太の出腹ボタン飛ぶ
漆原 義典
種(たね)
春浅し種の暗号解読中
佐藤 仁美
斎種(ゆだね)まく「海程香川」とふたねを
島田 章平
種も仕掛けもない春が来た
柴田 清子
冬麗の遍(あまね)き大地植ゆる種
野澤 隆夫
鷹柱
鷹柱雲切れ長の空青し
藤川 宏樹
戦争を知らない子たち鷹柱
野澤 隆夫
鷹柱平常心を見つめをり
鈴木 幸江
寒風
寒風やあの歌をまだ唱ってる
藤川 宏樹
寒風に犬はわんわん鬼は外
野澤 隆夫
寒風や土砂に消さるる珊瑚礁
島田 章平
寒風受けマラソンランナー壱萬騎
漆原 義典

【通信欄】&【句会メモ】

【通 信 欄】安西篤さんから、一月句会のご選句を頂きました。お忙しい中、ありがとうございました。 安西 篤◆谷さんの訃報への反響の大きさは、なんといっても彼の個性のユニークさ、人柄の温かさによるものでしょう。もって瞑すべしです。今回特選としたい句は「鍬置いて大地に記す兜太の句(稲葉千尋)」「晩柑や師の言魂の陽の雫( 野田信章)」の追悼二句でした。特に、野田作の霊性を感じさせる熱い思いに打たれました。佳作として「流星群岬へ放馬青を帯び(大西健司)」「むらぎもに梅がちらほら青鮫忌(若森京子)」「着ぶくれて傷心というかたちかな(新野祐子 )」「原曲は冬木を通りすぎる風(月野ぽぽな)」「耳打ちのような足裏に春の潮(矢野千代子)」「一・一七忌記憶の咳が止まらない(三好つや子)」「地球とふ風の器よ冬すみれ(野﨑憲子)」等に注目しました。

【句会メモ】今月の本句会は、「金子兜太先生の一周忌墓参と吟行合宿」と、同日開催となりました。10月に香川で開催の第一回海原全国大会の打ち合わせの為、中野佑海さんと秩父へまいりました。高松の句会は、漆原義典さんが司会をしてくださり、盛会だったと何人もの方から聞きました。漆原さんを始め、高松の句会にご参加の皆様、ありがとうございました。来月の句会でお目にかかるのを楽しみにしています。冒頭の写真は、勉強会の会場のホテルの庭に咲いていた臘梅です。秩父は、梅と臘梅の馥郁たる香の中でした。

2019年1月30日 (水)

第91回「海程香川」句会(2019.01.19)

赤富士.png

事前投句参加者の一句

            
身の中の水冬雲の一つ也 中村 セミ
正月よわたしは紙ヒコーキだからね 田口  浩
着ぶくれて傷心というかたちかな 新野 祐子
老人の脱皮秘かに冬の虹 小山やす子
あきらめたときにレモンが浮いてくる 三枝みずほ
東京や墓のマンションに初明り 寺町志津子
実南天たし算だけで生きてます 吉田 和恵
横抱きの郷愁空に凧 松本 勇二
栗鼠と僕のテレパシー橋駆け抜ける 桂  凛火
平然と伸びし睫毛や冬の鹿 高木 水志
寒月や拡散A4にびつしりと 小道 清明(豊原清明改め)
晩柑や師の言魂の陽の雫 野田 信章
雲低きあをのゆらぎの寒の海 亀山祐美子
讃岐人あん餅雑煮で歳重ね 漆原 義典
着ぶくれの母を引っ張る短パン児 中西 裕子
寒満月遠い日の海辺にいたり 柴田 清子
父の忌の寒九の水を享けにけり 高橋美弥子
鍬置いて大地に記す兜太の句 稲葉 千尋
流星群岬へ放馬青を帯び 大西 健司
新春なり隣の内儀若作り 小宮 豊和
ちぢむ肉叢初荷のように労りぬ 若森 京子
初御空柏手まねし幼子ら 佐藤 仁美
手の初動北斗七星掬うかな 鈴木 幸江
幸先の種を蒔きます初日記 野口思づゑ
冬すみれ木洩れ日に読む福音書 増田 天志
原曲は冬木を通りすぎる風 月野ぽぽな
せせらぎから人体をゆく枯野 竹本  仰
棒針のマフラーわたし風の人 重松 敬子
手枕のしばしの仮寝雪しまき 菅原 春み
節分会沖で豆かむ音のする 矢野千代子
山に住む小さな家族冬に入る 河野 志保
朝練はコーラなビート麦芽吹く 中野 佑海
風花や夫へ語らぬスープ膜 藤川 宏樹
凍てる夜の星が零れてきはせぬか 谷  孝江
凍星の明滅ことばにかわらぬよう 男波 弘志
竹馬の夢の醒めては独りぼつち 島田 章平
義歯ぽろりシンクに落ちて除夜の鐘 野澤 隆夫
冬満月微笑っているよう泣いているよう 伊藤  幸
鉛筆と姉とひとつの冬寝床 河田 清峰
競艇場の水面ぺたりと淑気かな 榎本 祐子
もう家へ帰れぬ患者窓に霜 銀   次
美ら海を汚し殺めし我が国や 田中 怜子
一・一七忌記憶の咳が止まらない 三好つや子
冬銀河過去も未来も飲み込んで 藤田 乙女
餅焼くや希林に春恵、悦子もか 高橋 晴子
地球とふ風の器よ冬すみれ 野﨑 憲子

句会の窓

若森 京子

特選句「原曲は冬木を通りすぎる風」素直な発想と感性に惹かれた。特選句「天上の水音(みおと)ちりばめ七草粥(三好つや子)」日本人の伝統行事の〝七草粥〟をこの様な角度から詠まれているのは初めてだ。きらきらと輝く美しい詩に昇華して いる。

増田 天志

特選句「正月よわたしは紙飛行機だからね」ええっ、紙飛行機って。人生の軽さなの。肉体のはかなさ。無常感かなあ。とにかく、貴方は、いつまでも、屋根瓦の上に、とまったままね。

河野 志保

特選句「競艇場の水面ペタリと淑気かな」意外な視点から新年の静けさが伝わる。驚きと、なんとも言えない心地よさを感じた。競艇場という選択が抜群。刹那に賭ける熱気と喧騒の場ゆえに、ペタリとした水面の静寂が際 立つと思う。

小山やす子

特選句「風花や夫へ語らぬスープ膜」何気ない夫婦の日常を優しい眼差しで句になさった。特にスープ膜のくだりに好感が持てます。

野澤 隆夫

特選句「冬すみれ木洩れ日に読む福音書」穏やかな冬の一日。静謐な時間を過ごす作者が浮かびます。特選句「むらぎもに梅がちらほら青鮫忌(若森京子)」追悼の句でしょうか。逝去されて1年がたち、やっと作者の気持ちに平常心が 取り戻せたという感。問題句「重ね着てジアゼパム百錠の樹海(高橋美弥子)」おどろおどろしい世界に足を踏み入れた作者。ホラーの世界です。

中野 佑海

特選句「正月よわたしは紙飛行機だからね」今までは、子や孫を待って、三が日はお節、お屠蘇、お雑煮と何日も前から用意して。と、もういいでしょう!私は良くやったよ。紙飛行機の様に身軽になって好きな所で、好き なキャラで居させて!「特選句「実南天たし算だけで生きてます」冬最中、赤い実たわわに、葉も良い色出して、前向きに闊歩してます。格好良い私。すっぱりしていて、気持ち良いです。目指す所です。

藤川 宏樹

特選句「元旦の厠詰まるるめでたさよ(河田清峰)」初句会のふじかわスタヂオは年末にトイレをリフォーム。子や孫ら親族一同、厠が詰まるほどにぎやかな正月を過ごしました。トイレにめでたさを着想するとは素晴らしい!句会では 鈴木さんから拙句「風花や・・・」へ特選でほくそ笑み、袋回しでも選が入り、よき年の始めとなりました。俳句三年、より発想を広げたいと思います。→素敵なスタヂオで句会ができて幸いでした。これからも、どうぞ宜しくお願 い申し上げます。貴句、楽しみにしています!

稲葉 千尋

特選句「元旦の厠詰まるるめでたさよ」いやいや懐かしい光景。これこそ元旦のめでたあり、お見事。特選句「餅焼くや希林に春恵、悦子もか」名女優三人に餅焼いて合掌している。この季語はゆるがない。

銀   次

今月の誤読●「鉛筆と姉とひとつの冬寝床」。カリカリカリカリ。冬の寝床で腹ばいになって、さっちゃんはノートになにかを描いている。姉のみち子が云う。「さっちゃん、もう寝なさい」「うん、でも、もうちょっとだ け」。カリカリカリカリ。しばらくしてさっちゃんが小さく叫んだ。「できたー」。うとうとしかけていたみち子が「なにが?」と問う。「これ見て」と差し出したノートには拙い絵が描かれていた。「あら、これってお嫁さんね」 「うん」「この人って、さっちゃん?」「ううん、お姉ちゃん」「でもあたし、こんなに目が大きくないし、キレイじゃないわ」「でも、お姉ちゃん」「そう、ありがとう」。みち子はなんだか嬉しくなってその絵にじっと見入った 。そのうち少し悲しいような気がして、枕元のランプを消した。なんだろう、この気持ち? さっちゃんは胎児のように丸まって、みち子の寝間着の襟元をつかんだまま寝入っている。スヤスヤというさっちゃんの寝息がみち子を余 計に悲しくさせた。たぶんさっちゃんは、こうしてひとつ寝床で抱き合って寝ることが永遠につづくと信じているのだろう。だがみち子は、成長という時の流れが止められないことを知っている。そしていつかは、それぞれが別々の 人生を歩まなければならないことを。みち子は、さっちゃんの手に握られていた鉛筆をそっと抜いてノートに挟んだ。どうやら外は雪らしい。障子の底がぼんやりと白い。みち子はさっちゃんをキュッと抱いた。そして、寝た。

伊藤  幸

特選句「天土の水音ちりばめ七草粥」平成最後の七草粥ですね。皆様の殆どが昭和、平成そしてもう一つの時代を生きる事となるのです。こころ新たに神聖な気持ちで新しい時代を迎えたいものです。そういう意味でも、こ の句はぴったりです。

漆原 義典

特選句「新春なり隣の内儀若作り」です。中7の「隣の内儀」が大正、昭和のロマンを感じてうれしいです。平成が終わりまもなく新しい年号となりますが、古きよき時代を大事にしておきます。下五の若作りもまた新春に 良く合っています。新年早々楽しい気分にさせてくれた作者の感性に感動しました。ありがとうございます。

谷  孝江

特選句「枯枝で描いた円を抜け出せず(三枝みずほ)」は、頭だけで無く、全身で受け止められるような句です。円の中より抜け出せません。故人となられました書の先生より教えられました事は「円」とは全世界全宇宙のことであり、善 も悪も、人も動物も木、草に至るものすべてが、この円相の中に収まっているのだと・・・。教えて頂いた五十年前は、軽く受けておりましたけれど年と共に少しは深く身に沁みてくるものがあります、どうしょうもない円の中で生 かされているのだと。「父の忌の寒九の水を享けにけり」も、骨太で好きな句です。父の忌、寒九の水、で重く受けとる事が出来ました。良い句をたくさん見せていただきました。ありがとうございます。今年もよろしく御指導くだ さいます様に。

田口  浩

特選句「実南天たし算だけで生きてます」句の一刀両断ぶりがこころよい。〈たし算〉と断定することによって、〈実南天〉の何かが浮かんで来る。さらに、〈生きてます〉と置かれると、もうこの実南天は、作者が自在に 演じるままにままに踊らされる。そこで何が見えるか、何を演じているか、そこまで解釈する親切はいらない。読者の思うまま感じるままでよいのだが、しいて言えば、作者の生きざま、こころ根であろうか。いや、そう真正面から 居直るより、ヤセガマンと斜に読む方が、一句に色をそえるやも知れない。

中西 裕子

特選句「山に住む小さな家族冬に入る」山にすむ小さな家族ってなんでしょうか、虫なのかな、哺乳類なのかな想像するのが楽しい。冬支度も万全なんでしょうね。

竹本  仰

特選句「流星群岬へ放馬青を帯び」わからないことがある、たとえば、なぜ、その時、人々は走り出したのか。そういう或る時代の、或る瞬間でなければわからないことがある。というか、人は、世は、そうして動くものな のではないか。たとえば、定家の明月記に、彗星の記述が長々と出ているが、あれなどは、そんな予感というか、空気というか、そんなものに押し出されるようにして現れたものではないか。かの歌人は恋愛経験など一つも見当たら ぬ堅物だったそうだが、「春の夜の夢の浮橋とだえして・・・」との大きな落差に、むしろ、彗星に釘づけになっている姿との整合性で考えてみて、やっとわかる種のものなのではないか、そんな類想で、読みました。特選句「冬す みれ木洩れ日に読む福音書」聖書の読まれ方が、こんな風であったとは、四人の使徒さえ感じることもなかったのでは、とふと思った。福音書はナゾだらけだなあと思い、そこが魅力であり、その思うところがまた何かのヒントにな ってゆくような、ある意味、人間の堂々巡りが予感されてのものだったのかとも。この句の木洩れ日が、何とはなしに、ささやかな平和に支えられた斜め読みの姿のようにも思え、冬すみれに小市民のさりげなき笑いを見たりと、何 とはなしに浮かぶそんな自画像めいたものに、興味をひかれたのです。特選句「凍星の明滅ことばにかわらぬよう」この間、テレビで、禅の大家の様な方が、人間が純粋になるには、とにかく、言葉を消し去らねばならない、と仰っ ていたのを思い出しました。そこで、やっと「いま」がありのままであらわれてきて、それに同化することが大切だとも。この句の魅力は「ことばにかわらぬよう」です。「いま」に向かい合う、そういう潔さを感じ、この句境、い いなと思いました。つまり、これこそが、ことばに向かう基本かなと、そんなことを思ったので。特選句「地球とふ風の器よ冬すみれ」:「風の器」というとらえ方に、鋭さと同感とを覚えました。冬すみれが風の器であるように、 地球の自転、公転の、そんな音まで聞こえそうな。小生は昔、といっても十代のころでしたが、地球の自転の音がうるさくて眠れないといった不思議な経験を数日したことがあり、寝入りに聞こえ出す、その石臼をひくような音に、 眠いからだで抵抗していたことがありました。で、この「風の器」ですから、思わずポンと膝をたたきたくなり、何だかうれしさを感じました。そうなんですね、そう感じれば、そよ風の眠りに、冬すみれのようにくたっと安らかに 笑いながら寝入ったように思います。いやはや、ありがとうございました。以上です。 今年、淡路島吟行が、どこか頭の片隅にあってか、「日日吟行」、この「ヒビギンコウ」が、ずっと心のリズムになっております。日日吟行、このすがたで行きたいなあと、思います。2月7日に、野﨑さん、中野さんとともに、吟 行コースの下見をいたします。お忙しい中、お二人にはご足労願いますが、楽しみにしております。皆様、本年も、よろしくお願いいたします。

田中 怜子

特選句「讃岐人あん餅雑煮で歳重ね」あん餅を食べて、おだやかな保守的な讃岐人を現わしていると思います。

高木 水志

特選句「初御空柏手まねし幼子ら」初詣の風景と思われる、清々しい景が見えてくる。初御空と幼子らの対比が効いている。類想感はあると思うが、実感がある。

榎本 祐子

香川句会の活気に刺激を頂きたく、今年より参加させていただきます。宜しくお願い申し上げます。特選句「老人の脱皮秘かに冬の虹」今日が終わり、明日が始まる。人は常に脱皮を繰り返しているようなもの。若い時の見得を切るようなエネルギーはなくとも、老人も静かに脱皮を繰り返す。「秘かに」に、時間を重ねてきた人の行儀の良さがあり、「冬の虹」には生の華やぎと切なさがある。特選句「追っているものを忘れて息白し(高木水志)」目標とするものに向かって日々努力をする。激しく自身と向き合えば周りの景色は遠のき、身体と意識のみが際立つ。追っているものさえ視界より消えた。今は、命の証の己が息を恃むばかりだ。問題句「新春なり隣の内儀若作り」:「内儀」という時代がかった言葉が気になった。お隣の奥さんの頑張りすぎた新春の装いを、茶化してのあえての言葉と読めば、ふだん馴染みのない言葉も生きてくるが・・。

矢野千代子

特選句「鍬置いて大地に記す兜太の句」大地は祖とも母とも言われますが、そこへ師の一句をー熱い思いが満ちてきます。

寺町志津子

特選句「原曲は冬木を通り過ぎる風」作者が「冬木を通りすぎる風が原曲」と認識された音曲はどのような旋律なのだろうか?揚句の詩情豊かなフレーズに、微かに幻想的な音曲も聞こえてくるようで、理屈抜きに好きな句 である。そして、眠れぬ夜や、夜中に目が覚めてしまった時に聞いている「ラジオ深夜便」で時折耳にする「景色の見える音楽」が連想された。それは、ご存知の方も多いと思われるが、作曲家守時タツミ氏による「波音、風音、鳥 の声など自然の音に思いを重ねて生み出す独特の音楽」。実に繊細で幻想的。かつ美しく、優しく、真に心癒やされる音曲である。揚句を読んだとき、その音曲感が再生され心に深く響いた。

三好つや子

特選句「耳打ちのよう足裏に春の潮(矢野千代子)」 耳朶のように柔らかな足裏を持つ若い女性が、波打ち際で戯れている。そんな光景を詩に昇華させた、健康的で官能的な作品だと思います。特選句「原曲は冬木を通りすぎる風」森羅 万象そのものがメロディーなんだ、ということに気づかせてくれる句。クラシック、ジャズ、シャンソン・・・作者は、冬の風にどんな曲をイメージしたのでしょうか。入選句「内臓をぶら下げている雪女」妖しく漂っているだけの 雪女が、ユーモラスな形容により、人間臭いものに感じられ、とても面白いです。

小道 清明

名前に筆名をつけました。豊原清明から、小道清明に変わります。よろしくお願いします。特選句「着ぶくれて傷心というかたちかな」かたちにならない感情を上5で具体化されている。今、選者が傷心気味で心惹かれた。 問題句 「着ぶくれの母を引っ張る短パン児」 短パン児の響きが可笑しかった。「着ぶくれの母を引っ張る」だが、響きが妙だ。

男波 弘志

特選句「横抱きの郷愁空に凧」いつも運んでいるもの、飄々としつつ、必死に離さぬもの、離れぬもの、そこにあるのは、青と肉、だけだろう。特選句「平然と伸びし睫毛や冬の鹿」鑑真の睫毛もそのように描かれている。 意味はどうあっても、ただ在る世界。

藤田 乙女

特選句「母の知らぬ我が三十年よ雑煮椀(高橋晴子)」母親への深い思いや愛情がとても心に響き、共感しました。自分の亡き母を思い出し感謝と切ない気持ちでいっぱいになりました。受け継がれて来たであろう雑煮椀のあたたかさも 感じられ、心に深く染み入る句でした。

大西 健司

特選句「冬すみれ木洩れ日に読む福音書」頭が凍蠅のようで働きません。そこで特選なしです。と、そんな気分ですが、あえてこの句を。静謐な時間の流れが好ましい。全体に余分な言葉が多いのでは、もっと省略をと思い つつの選句。

月野ぽぽな

特選句「一・一七忌記憶の咳が止まらない」:「記憶の咳が止まらない」に今も癒えることない痛みを思いました。今回はいつもに増して力のこもった作品が多かったと思いました。

鈴木 幸江

特選句「風花や夫へ語らぬスープ膜」:「スープ膜」自体が謎である。この頃、私は分からないことは心に深く秘めつつそのまま放置しておくことが多い。いつか新しい発見が到来することを期待して。さて、謎の物体「ス ープ膜」!牛乳を入れたスープの脂肪膜か、それとも、腐りかけた証として現れたあの膜か?私も捨てる場合もあれば、そのまま頂く時もある。丈夫な夫だったら大丈夫と思ったり、きっと脂肪膜だと思ったりして。しかし、私はこ の句をそんな日常句としてだけではなく、暗喩の句として鑑賞したい。「風花」という季語の働きがそこにはあるのだ。晴天に舞う雪に、儚さに感応する日本の美意識がある。解釈にそれが入り込んで来るのだ。そうなると、俄然、 「スープ膜」が夫婦の何か秘密めいてくる。夫も気づいている(かもしれない)が、口には出さない。なにか差し障りのあることは、夫婦の絆が深ければ深いほどあるものだ。これは、是非とも、美しい夫婦愛の句として鑑賞させて いただきたい。

中村 セミ

どれもこれも良い、というか面白いというか、とてもいいので全部選んでもいいくらい、一杯いいのがありました。特選句は「内臓をぶら下げている雪女」この句は病気か、病的な人だろうと思いますが、老いの境地か、ど こか果ての地を旅するようなところがあり、僕は面白いと思いました。

菅原 春み

特選句「原曲は冬木を通りすぎる風」原曲ということばの斡旋がおもしろい。発想の妙味。特選句「せせらぎから人体をゆく枯野」枯野の概念がひっくり返ったようだ。金子先生を思い出した。

河田 清峰

特選句「鍬置いて大地に記す兜太の句」実感があり生活根ざしているところが良い!先生の行き方を自分のものにしていると思う。特選句「 一、一七忌記憶の咳が止まらない」いまだにあの日の虚無感が忘れられない!同感 です。

松本 勇二

特選句「義歯ぽろりシンクに落ちて除夜の鐘」義歯を素材にした句はあまり見受けないがうまく仕上げています。哀感と諧謔性を湛えた素晴らしい義歯俳句です。

新野 祐子

特選句「絵心経あばたのような柚子絞る(三好つや子)」絵心経っておもしろいですよね。まずはじめの「まか」が逆さまの釜、「ふ」が麩、「む」が指六本、最後の「か」が蚊の絵。思わず吹き出してしまいます。落ち込んだ時に見ると いいかも。それに「あばたのような柚子」がよく合っていると思いました。特選句「老人の脱皮密かに冬の虹」老人になっても脱皮するんだと言われると、俄然希望が沸いてきますね。そうありたいものです。冬の虹に静かな感動を 覚えます。入選句「身の中の水冬雲の一つ也」とても詩的で好きです。「也」という標記だけがちょっと気になりました。入選句「讃岐人あん餅雑煮で歳重ね」お正月らしくめでたい句なので、とらせていただきました。入選句「原 曲は冬木を通りすぎる風」作曲したり編曲するのは、自然のつくりだす音に負うと、研ぎ澄まされた感性がなければ出来ない句です。

三枝みずほ

特選句「一・一七忌記憶の咳が止まらない」あの日の事を振り返ると、地震の起きた日、その後、必死で生きた日々を含めて咳であり、一・一七忌なのだと感じた。特選句「餅焼くや希林に春恵、悦子もか」平成が終わって ゆく哀愁。それぞれに個性があった。来月は、ぜひ行きたいと思っていた矢先に主人に仕事が入ってしまい…残念ですが欠席します。ですが、娘が「お母さんのお膝で静かにしとくから、句会に一緒にいく!」とか張り切っています (笑)絶対うるさくするので、今回は辞退しますが、もう少し大きくなったら・・淡き期待。

吉田 和恵

特選句「ちぢむ肉叢初荷のように労りぬ」老いを静かに受け止め、長く続けて来られたからこその句だと思いました。肖りたいものです。「一・一七忌記憶の咳が止まらない」阪神淡路大震災の残酷で無惨な記憶、五年後、 鳥取西部地震の震源地は当地から5キロの距離、震度6弱でした。あの怖しい光景が甦ります。ただ「記憶の咳」には、少し抵抗を感じました。 

高橋美弥子

特選句「枇杷の花一日うごかぬ人に満つ(野田信章)」臥しておられる方でしょうか。窓の外の大きな枇杷の木が濃厚な香りを放っている。近づいて直接嗅ぐことはできぬとも、その人の、また作者の体と心に目一杯枇杷の花が満ちてい る。癒している。共鳴句でした。問題句「寒月や拡散A4にびっしりと」面白い句だと思います。下五「びっしりと」が拡散と意味が少しかさなるので、違う言葉を置いたらもっと面白いんじゃないかと思いました。皆さん、すごい 迫力ですね!勉強になります。/P>

野田 信章

特選句「節分会沖で豆かむ音のする」は、節分会の陸と沖との関わ方の中に、この日も海に出て働く人ありと知らされる句で、その絆の確かさが伺える句である。特選句「棒針のマフラーわたし風の人」は、棒編みに込めら れた一目ごとの気息まで伝わり、そのマフラーを纏っての「風の人」に快活な自愛の様が伺える。特選句「風花や夫へ語らぬスープ膜」は、日常詠にしてその心情の綾目の伺える句。「風花や」の設定と「スープ膜」というあえかな 物象感によって意味を押さえ込んで感覚の先攻しているところに注目した。

柴田 清子

特選句『正月よわたしは紙ヒコーキだからね』この句に惚れ込んでいます。正月よの『よ』だからねの『ね』が、この句の内容を断定的にしているのに、一役買っている。年の始めに、少し控えめでありながら強い主張を紙 ヒコーキに語らせているのね。特選句『あきらめたときにレモンは浮いてくる』心切り替えた瞬間の色がレモン色である。それでも、心の中は、レモンの酸っぱさ 泣いている。特選句『実南天たし算だけで生きてます』この作者の たし算だけの生き方、今日までの自分を振り返った時、たし算のつもりだったのに、引き算、割算となったことが、いっぱい。それも人生。実南天がみごとにこの生き方を受け止めている。特選句『父の忌の寒九の水を享けにけり』 この句に詠はれているお父様にして、この作者あり、一句一章、内容も詠いっぷりも格調高く、俳句の手本のような佳句だと思った。『梟の声は立体感である』も『せりなずな・・春の七草次はなあに』も特選にしたいなあ・・・。

亀山祐美子

特選句『地球とふ風の器よ冬すみれ』庭の片隅に俳句仲間にもらった冬みれがほったらかしなのに元気だ。『「地球」という「風の器」』の言葉のおおらかさ、景の大きさ「冬すみれ」の繊細さ、意外なたくましさ。の組み 合わせ。「冬の風」ではなく「冬すみれ」という季語の選択が効いている。風が哭き、風の冷たさが伝わる。凩と言わずに凩を詠み切きった佳句。寒中お見舞い申し上げます。気温の変化の厳しい日々ご自愛下さいませ。皆様の句評 楽しみにしております。

高橋 晴子

特選句「鍬置いて大地に記す兜太の句」折にふれ、ふと胸を突いて出てくる兜太さんの句の数に圧倒されっぱ放しだが、〝大地に記す〟という表現に作者の受けとめ方を感じて共感する。素朴で大きい句だ。問題句「美ら海 を汚し殺めし我が国や」自分達の外交が下手で能のないのを思わずに、民意や国民の思いを全く受け入れようとはしない独裁政権には全く腹が立つ。この句、その通りで、これ以上の表現の仕方がないが、と思いつつ。抑止力などと いう幻影にしがみついて、いつまで沖縄に基地を押し付けるのだろう。問題提議の句。

桂  凛火

特選句「幸先の種をまきます初日記」幸先のよいスタートを切りたいという気持ちが素直に書かれていることに素直に共感できました。初日記はいつも気持ちが改まり、よし今年こそは良い年にと思うものですが、句にする というのは何かよくないことが昨年起きられたのかとも推察します。誰にとってもいい年にしたいものですね。

佐藤 仁美

特選句「横抱きの郷愁空に凧」 懐かしんでいるのは、故郷か過去か…。皆、想いを抱えたまま生活をしています。それを「横抱き」とは、言い得て妙。空高く揚がる凧とともに、憂いを昇華して力強く生きていこうという、 清々しさを感じました。特選句「平然と伸びし睫毛や冬の鹿」厳冬の中、すっくと立つ鹿。その澄んだ眼は何を見ているのだろうか。凛とした様子を、睫毛で表現するなんて!素敵です。

野口思づゑ

特選句「肉体は神への手紙シクラメン(増田天志)」視点が面白い。ならば良い内容の手紙にしなくては、と思う。特選句「母の知らぬ我が三十年よ雑煮椀」お母様を亡くされて三十年なのか、やむを得ない事情で別れて三十年なのか、 母親と別れてからの年月を「母の知らぬ」とした上5を新鮮に感じた。母が作った雑煮、そして今は自分で作ったその味の雑煮、そして三十年と句全体にドラマ性がある。

野﨑 憲子

特選句「晩柑や師の言魂の陽の雫」私は柑橘類が大好きだ。かつて「蜜柑の中に居眠りおぢいさんがゐる」と日溜りの中の先生を詠んだことがある。もちろん、先生は、他界されるまで少年であり、青年でいらしたが、道場 等で、ふっと力を抜かれた時、垣間見たスケッチのような拙句だ。先生の言の葉は、「陽の雫」のように、ますます私の中で大きく膨らんでいる。「晩柑」が、良い。特選句「節分会沖で豆かむ音のする」幻想の世界を目の当たりに するような佳句である。二ン月の潮騒と鬼の喰らう煎り豆の芳ばしい香が、姿態が、一気に伝わってくる。省略の妙。問題句「手の初動北斗七星掬うかな」とても惹かれた作品である。北斗七星を掬うという、霊的な儀式を思わせる フレーズが良い。ただ、「掬う」と上五の「手」の重複が気になる。惜しいと思った。 

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

鍬始め
鍬始め猫の額の畑持ち
鈴木 幸江
大空を耕してゐる鍬始め
柴田 清子
時間軸ずれしままなり鍬始め
藤川 宏樹
死ぬときはこの顔がいい鍬始め
田口  浩
鍬始め無音の底の海潮音
野﨑 憲子
山の田へ老婆清々鍬始め
銀   次
岡の上に電話ボックス鍬始め
野澤 隆夫
初夢
初夢は布団をけつて飛び起きる
亀山祐美子
初夢の母の花園まで歩く
田口  浩
初夢や貘(ばく)がお腹をこわしたり
鈴木 幸江
初夢や袋回しの句に悩む
野澤 隆夫
掴んだ起きた消へた初夢
銀   次
初夢の金子兜太や大笑す
野﨑 憲子
空白
空白の一日過ぎて牡丹鍋
藤川 宏樹
妻定年迎えし我は空白なし
漆原 義典
本日を空白として午睡せり
銀   次
湯気に隠れて空白の女正月
田口  浩
空白が広がつてゆく初夢に
亀山祐美子
空白の時間ありがた初烏
野澤 隆夫
わたくしの空白いつも枇杷の花
柴田 清子
郵便受け
父の所業の郵便受けが歪む
田口  浩
初夢や郵便受けの無くなりぬ
鈴木 幸江
郵便受けぽとりと冬の日溜りよ
野﨑 憲子
梅が香や荒れし玄関郵便受け
野澤 隆夫
冬薔薇の棘の詰った郵便受
柴田 清子
布団
女房の布団を質に鍬始め
亀山祐美子
頭の中で事が進んでいる布団
田口  浩
山脈や空飛ぶ布団二つ三つ
野﨑 憲子
布団畳む人いて仕舞う人のおり
鈴木 幸江
石畳いろはもみじのかけ布団
藤川 宏樹

【通信欄】&【句会メモ】

安西 篤☆香川句会、相変わらず頑張ってますね。何よりも持続することが大切です。それに「これからますます面白くなります。」という意気込みも頼もしいですね。谷さんの逝去は大きな出来事でした。兜太先生が可愛がっ ておられた人でしたから。先生の霊に導かれたのかもしれません。今年は秋の大会でお世話になりますので、これを一つの契機に大きく飛躍されるものと期待しています。第九十回の共鳴句「肺呼吸の青いさざなみ冬は来ぬ(大西健 司)」「神獣鏡水の羽ばたく音したり(三好つや子)」「ペガサスを知らぬ心臓愚に生きて(若森京子)」「びなんかずら鼻梁のまわり空気濃し(矢野千代子)」

平成最後の初句会は、サンポートホール高松の会議室が取れず、藤川宏樹さんのご厚意で再び「ふじかわ建築スタヂオ」をお借りして開催いたしました。鋭い句評が飛び交うのも、なんのその、中野佑海さんや柴田清子さんが艶 やかな和服姿で、句会を華やかに包み込んでくださいました。お陰さまでとても充実した句会でした。「ふじかわ建築スタヂオ」は、前回より、トイレがリニューアルされたり、藤川さん特製の扉大のビッグホワイトボードや柱時 計も掛けられ、より快適な空間に進化していました。また利用させて頂きたいです。ありがとうございました。

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