第172回「海程香川」句会(2026.05.09)
事前投句参加者の一句
| 「子は鎹(かすがい)」孫蝶番(ちょうつがい)葱坊主 | 藤川 宏樹 |
| 燕いま光りの端を咥え来し | 松本 勇二 |
| 男らのどこまで掘れば五月闇 | 岡田 奈々 |
| 拝啓のあとの進まぬ遅日かな | 矢野二十四 |
| 月蝕すすむ春あかがねの八十路かな | 野田 信章 |
| 八重桜今日一番の吹雪かな | 山本 弥生 |
| 著莪の花箱罠傾ぐ熊野道 | 大西 健司 |
| 海賊のもとをたどれば花筏 | 伊藤 幸 |
| 爪を切り過ぎて南瓜煮崩れて | 小西 瞬夏 |
| 花万朶やがてはぐれて逝きたまふ | すずき穂波 |
| 青葉若葉そのいきほひや滝こだま | 各務 麗至 |
| 野焼きの煙わが輪郭を食めり | 木村 寛伸 |
| 半熟の後悔ひとつ春の月 | 佐藤 詠子 |
| 満腹か腹は八分か鯉のぼり | 綾田 節子 |
| しつけ糸解かぬままに四月尽 | 石井 はな |
| 老いという表面張力水羊羹 | 若森 京子 |
| 放課後のスイングスイング青葉風 | 重松 敬子 |
| 陽炎や若禰宜の沓降りてくる | 河田 清峰 |
| おむすび山じじばば笑えば山笑う | 末澤 等 |
| ばば抜きのばばゐなくなりおぼろ月 | 銀 次 |
| ふむふむと抓(つま)む落ち沙羅 句はあまた | 津田 将也 |
| ひとりでに字余りの小言まめの花 | 山下 一夫 |
| 朝刊の匂い嗅ぐ兄昭和の日 | 三好つや子 |
| 風の波ときに口づけ麦の秋 | 漆原 義典 |
| よく動く新人ポニーテールに緑さす | 野口思づゑ |
| 祈りとは忘れぬことぞ聖五月 | 向井 桐華 |
| 新樹光像の天使のちょっと浮く | 和緒 玲子 |
| メラニアの目深きブリム五月闇 | 森本由美子 |
| キゴあさりあつめる乞食 目に泪 | 田中アパート |
| 落花一片老樹の幹の苔の上 | 時田 幻椏 |
| 花は葉に紙ひこうきを折っている | 男波 弘志 |
| 新緑の揺れてたくさんのただいま | 三枝みずほ |
| 青嵐の学校妖怪七人衆 | 松本美智子 |
| 喋り出したら止まらないスイートピー | 柴田 清子 |
| 戦いの道具は要らない蝌蚪の国 | 増田 暁子 |
| ものの芽のひとつにひとつずつ太陽 | 月野ぽぽな |
| 菜の花や恋文破り捨てました | 遠藤 和代 |
| 花水木時間の帯を結ひなおす | 亀山祐美子 |
| 蘖やフリースクール見学す | 川本 一葉 |
| 夏の雨われ呼ぶ雫われが呼ぶ | 豊原 清明 |
| おのころの新玉葱や春の海 | 田中 怜子 |
| 山椿逆さ箒を立てて母 | 樽谷 宗寛 |
| 逃げ水を追って東京ひとり旅 | 布戸 道江 |
| 鉄路曲がるあの時のままツバメとぶ | 淡路 放生 |
| 雨降れば山の緑がはみ出すぞ | 中村 セミ |
| ちぐはぐの男女一対青あらし | 岡田ミツヒロ |
| 新緑の中にずれこむ時間軸 | 吉田 和恵 |
| 亡き母の鰆一尾の気風かな | 出水 義弘 |
| 人間に母の日ありて切なさよ | 柾木はつ子 |
| 遠足の子らはお結びころりんや | 植松 まめ |
| 緋のつつじ妻の死かたる人も逝き | 福井 明子 |
| 少年は桜木に留まり父母見てる | 滝澤 泰斗 |
| 庭隅に鈴蘭きげんのいいエプロン | 十河 宣洋 |
| 青葉若葉して包帯の巻き直し | 菅原 春み |
| 春風に生まれ変わった言葉かな | 高木 水志 |
| 囀りや半分上げる老いのギア | 松岡 早苗 |
| まだ母になれず鏡のしゃぼん玉 | 荒井まり子 |
| 殺し文句並べて夏の木立です | 佐孝 石画 |
| 戦渦は夏へ右に左にフラミンゴ | 花舎 薫 |
| 蝶結びするりとほどけ青野原 | 榎本 祐子 |
| 死なれへんニセアカシアに風ゆららぎ | 竹本 仰 |
| うりずんや普通に戦車が通る | 河西 志帆 |
| 黄昏やツツジ同士は話さない | 河野 志保 |
| 即諾の一電にして風光る | 疋田恵美子 |
| 光受け産湯のようにレタス洗う | 薫 香 |
| 甦るひさし憲法記念の日 | 新野 祐子 |
| 見上ぐればただ空がある忌野忌 | 大浦ともこ |
| 老いてなお矜持貫く鉄線花 | 藤田 乙女 |
| 葱坊主並び出陣兵のごと | 三好三香穂 |
| 茅花流し大きな風の吹く日かな | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「うりずんや普通に戦車が通る」。斬新な韻律。口語でさらっと書かれているようではあるが、力強い切れがある。沖縄の基地の問題、戦争が日常になってしまう恐ろしさ。けっして鈍感になってしまってはいけないと思わされる。
- 十河 宣洋
特選句「老いという表面張力水羊羹」。老いが表面張力という捉えが面白い。的を得ているような気がする。コップの縁で一杯一杯に膨らんでなお零れないしぶとさが伝わってくる。水羊羹の柔らかと合っている。特選句「難聴や亀鳴く日にはよく聞こえ(若森京子)」。笑いが含まれていて楽しい。補聴器を越えて亀の声が聞こえる。これくらいの楽しみが無ければ人生は面白くない。
- 松本 勇二
特選句「蝶結びするりとほどけ青野原」。風呂敷のするりとほどけた蝶結びから一挙に青野原へ展開させみごとです。
- 木村 寛伸
特選句「老いという表面張力水羊羹」。「老い=表面張力」という把握で“崩れそうで保たれている状態”を提示し、それを水羊羹に着地させたことで、視覚・触覚・時間が一気に立ち上がる。「燕いま光りの端を咥え来し」。視覚の切断面を咥えるという把握が鮮烈。成功している抽象。「男らのどこまで掘れば五月闇」。「どこまで」が効いている。闇の深度と人間の業が重なる。「拝啓のあとの進まぬ遅日かな」。 日常の停滞と季語の一致が自然。静かな完成度。「トンネルに途切れるラジオ山笑う(布戸道江)」。人工と自然の対比が軽やか。音の断絶→視覚への転換がうまい。「ものの芽のひとつにひとつずつ太陽」。王道だがスケールが大きい。素直に強い一句。「降り敷し赤き恥じらひ桜蕊(三好三香穂)」。色彩と感情の重なりが美しい。やや古典寄りだが安定。「春キャベツ中に思想のようなもの(松本勇二)」。観念の持ち込みが成功している例。軽みもある。「穴出づの蟻付いてくる今朝のゴミ出し(野口思づゑ)」。季語と生活の接続がリアルで、余韻が残る。問題句「キゴあさりあつめる乞食 目に泪」。意図的に危険な句。「乞食」という語の強さが、俳句的な比喩を越えて現実の倫理に触れてしまう。
【自己紹介】第4回兜太祭に参加して来ました。野﨑さんと樽谷さんに挟まれる形で二次句会に参加し、海程香川句会にお誘い頂きました。佐孝石画さんの隣県石川県在住です。よろしくお願いいたします。
- 大西 健司
特選句「逃げ水を追って東京ひとり旅」。私も昨年の現代俳句協会の全国大会、今年の総会と、思いがけず東京へ行く機会があり、この逃水を追っての措辞が実感を伴って迫ってくる。まさにこんな感じ、いいなあ。
- 重松 敬子
特選句「うりずんや普通に戦車が通る」。沖縄の方々のご心痛をお察し致します。
- 各務 麗至
特選句「新緑の揺れてたくさんのただいま」。春から初夏へと、自然界も人間社会も毎年毎年新しい門出があります。「新緑」は元気に「行ってきます」と生長して、私たちの前に元気に「ただいま」と帰って来てくれたように見えます。それこそ私たちにも「行ってきます」「ただいま」と、そんな生の喜びを感じながら生きて下さいよと聞こえてきそうです。特選句「見上ぐればただ空がある忌野忌」。忌野清志郎。私たちの世代には、歌手としてだけでなく人間として忘れられない存在の一人である。強烈なパフォーマンスと言ったら語弊があるだろうか。最後には死を当然のように受け入れて人生を全うした。見上げればただ空がある、嗚呼・・・・。島田章平さんへだろうか「緋のつつじ妻の死かたる人も逝き」があったが、「そっと帽子を」の方を私は貰った。
- 岡田 奈々
特選句「人間の巣箱にいらぬものばかり(河西志帆)」。本当に欲しい物が何か分かっていない気がする。本当に痒い所には手が届かないのと同じ?特選句「半熟の後悔ひとつ春の月」。凄く後悔してるかと言えば、そうでもなく、けど、何処かに刺さったままの刺のように何かあるたび思い出す。そんな後悔の一つや二つ思い出す春の夜。「「子は鎹」孫蝶番葱坊主」。孫はひらひらと蝶のように可愛くやって来て、じじばばを逃さない。葱坊主の愚直さが、まさしくじじばば。「燕いま光の端を咥え来し」。閃光のように飛ぶ燕の様子その通りだ。「しつけ糸解かぬままに四月尽」。冬は寒すぎて、着物着る機会見失い、良い季候になったら、お洒落して行こうと思うまに、とうとう、四月も終わって、汗ばむほどの季候。こうして、着物が着られない日本になっていく。「虹はまだ虹を渡って配達中(竹本 仰)」。虹の配達人次の虹まで、何処で道草してるのか。「春キャベツ中に思想のようなもの」。春キャベツは中がくちゃくちゃして、まるで、脳の様。「緑さす午後の静謐カフェテラス(向井桐華)」。こんな静かで、落ち着いた私になってみたい。いつもガチャガチャした私は一人でカフェで過ごす時間さえ勿体ない様な。反省です。「逃水に魅せられ走る無人カー(森本由美子)」。全てが陽炎のような不思議感。「地球の夜明け大きな繭のごとく(川本一葉)」。輝きの中に浮かぶ地球。繭に包まれているようなのだろうか。
- 福井 明子
特選句「燕いま光りの端を咥え来し」。光りの端を咥え来し がいいと思います。見えない気流の導き者としての燕の姿が目に浮かびます。
- 榎本 祐子
特選句「うりずんや普通に戦車が通る」。うりずんと言う響きも美しい季節に、普通という安心な日常に入り込んでくる異常。異常が日常になる恐ろしさ。
- 津田 将也
特選句「見上ぐればただ空がある忌野忌」。「忌野忌」は、ロックミュージシャン忌野清志郎(一九五一~二〇〇九)の忌日です。五月二日がこれにあたります。作者は、「寂しい・愛してる・悲しい」といった具体的な情緒を排除し、「見上ぐればただ空がある」いう事実だけ述べ、彼(忌野)の生き方や歌が持つ嘘や飾り気のない、圧倒的な潔さ・透明感と重ねました。
- 三枝みずほ
特選句「甦るひさし憲法記念の日」。作家の言葉に対する執着は憲法で自由が守られているからこそ。井上ひさしの言論、表現の自由を求める態度、反戦、戦争責任についての見解は再び議論されてもいいと思う。憲法記念日に甦るとは、ひさし流ユーモアと反骨だろう。
- 佐藤 詠子
特選句「新緑の揺れてたくさんのただいま」。新学期、新年度、はじまりを連想する瑞々しい景を思い浮かべた。新緑のやわらかさと黄緑が若さを表しているのだろう。「ただいま」と大きな声で玄関に入ってくる小学一年生。又は靴を脱ぎながらぼそっと「ただいま」と呟く社会人一年生。「ただいま」には帰る場所のある安堵がある。そして、たくさんの「おかえり」もあったはず。始まったばかりの慣れぬ日々の中で揺れる感情を優しく包む一句。
- 樽谷 宗寛
特選句「ひとりでに字余りのこごと豆の花」。中七が八音が気になりましたが字余りの小言とまめの花に惹かれました。小言は可愛い 小言 ですね。
- 藤川 宏樹
特選句「新樹光像の天使のちょっと浮く」。緑豊かな公園で羽ばたく天使も、像の重量感を日頃は免れえません。五月。瑞々しい若葉の光が象を射すと明るく気分が応え、天使の「ちょっと浮く」感覚、共感いたします。
- 和緒 玲子
特選句「おろしたての肌着木香薔薇盛る(榎本祐子)」。おろしたての発光しているような白い肌着と木香薔薇の無垢な黄色。外からは窺い知れない肌着と控えめな木香薔薇が咲きほこる様。一見何の関係も無いような二つが呼応し合う取り合わせの妙。特選句「青葉若葉して包帯の巻き直し」。眩しい青葉若葉を目にして、自分の腕か指かの包帯が少し汚れているように見えてしまったのか。気の所為かもしれないが真っ新な物に巻き直さずにはいられない。色の対比もさることながら、青葉若葉と畳み掛けるような勢いも見逃せない。
- 河野 志保
特選句「新緑の揺れてたくさんのただいま」。子供達の元気な声が聞こえてきそう。平和を実感させる句。リズムにも好感。
- 矢野二十四
特選句「爪を切り過ぎて南瓜煮崩れて」。軽妙でちょっとおかしい。この軽さが特撰。「老いという表面張力水羊羹」。老いという瀬戸際。水羊羹の涼しい甘さが妙。「アネモネや小匙に掬ふ離乳食(大浦ともこ)」。「あのねのね」の唄を思いだした。アネモネを活かした可愛い句。「満たされぬ心の渇き蚊の唸り(藤田乙女)」。現代人の疎外感を「蚊の唸り」に落とした諧謔。「花水木時間の帯を結ひなおす」。過去の自分を結い直す。季語が明るくて佳い。「庭隅に鈴蘭きげんのいいエプロン」。裃を着た男にはこんな身軽な句が作れない。「逃水に魅せられ走る無人カー」。不在な現象を不在な者が追っかけるアイロニー。「うりずんや普通に戦車が通る」。沖縄に限らず、もはや世界的な普通の景になりつつある。「光受け産湯のようにレタス洗う」。産湯のレタスが佳い。上五はもう一工夫かも。
- すずき穂波
特選句「男らのどこまで掘れば青葉闇」。この句「掘れば」が面白い。女から観て「男ら」のことがイマイチ解らないから句の作者が「どこまで掘れば」私は解るのかな?の疑問なのか。それともこの作者は、かなり「男ら」よりも「男ら」をよく解っておられて、半ば嘲笑いながら(男らが)「どこまで掘れば」(男ら自身が)納得するのか?といったようにも読める、だから何とも面白いのだ。季語「青葉闇」は闇の中でも、とびきり美しい闇、この闇は胸をはっている闇。上向きの闇。この句の「掘る」は主体が青葉闇に座していて繁る青葉の上空に向かって掘っているように思えた。特選句「新緑の揺れてたくさんのただいま」。省略するは何と素晴らしいのだろうと今更ながら感じ入った句。「たくさんのただいま」の「ただいま」の声が重なり合い、それぞれの声がキラキラの光になってひびき合っているように聴こえてくる。
- 柴田 清子
特選句「葉桜や乾き初めたる風の色(松岡早苗)」。確かに桜の頃とは違って、夏の始めの風が乾いていると感じとったところを、風の色に置き変へたところが、詩的です。
- 松岡 早苗
特選句「野焼きの煙わが輪郭を食めり」。「わが輪郭を食めり」に惹かれました。再生の春を前に、自身の存在の不安定さや鬱屈した思いを感じているのでしょうか。特選句「新緑の揺れてたくさんのただいま」。新緑の季節、お散歩から帰ったたくさんの園児達が、かわいい声で口々に「ただいま」と言っている光景を、一番に浮かべました。春になると、冬の間眠っていたたくさんの生き物たちが、「ただいま」と顔を出します。また、ゴールデンウィークの帰省など、さまざまな「ただいま」が溢れているようです。
- 若森 京子
特選句「ものの芽のひとつにひとつずつ太陽」。芽吹く時期になるとハッと自然が明るくなり吐息が聞こえて来るようだ。そのひとつずつに太陽の光があたって欲しいと願う。何か人間社会にも通ずるようだ。特選句「囀りや半分上げる老いのギア」。春になり,小鳥たちの囀りを聞くと,新しい命を感じ老いの肉体にも新しい血流を感じる。中七 下五の表現に共鳴した。
- 男波 弘志
「葉桜や乾き初めたる風の色(松岡早苗)」。こちらの心身がよほど研ぎ澄まされていなければ通り過ぎてしまったかもしれない。何故が亡師の一行詩が浮んできて、はっとしたことであった。秀作。「夜空より風吹きはじむ祭りあと 北澤瑞史」
- 河西 志帆
特選句「見上ぐればただ空がある忌野忌」。清志郎は逝ってしまった。サマータイムブルースを歌う勇気!戦争を堂々と批判する勇気!5月2日は声を上げる人を失った日だ。「爪を切り過ぎて南瓜煮崩れて」。あえて、中七にしなかったのかと思う。爪切りに時間を取られたと言っているようで、実はそうでもなさそうなんです。「朝刊の匂い嗅ぐ兄昭和の日」。新聞をとっているのは、高齢者だけとか。兄も隅々まで読む人でした。確かにあの頃の新聞の匂いとは違うって、私も気づいていましたよ。「難聴や亀鳴く日にはよく聞こえ」。私も、航空性中耳炎とかになってから、聞こえが悪いままです。こんな嘘のような事を本気で言うあなた。難聴ぐらいが丁度いいですよ。
- 山本 弥生
特選句「五月晴れ病むことさえも許されず(木村寛伸)」。諸々の事情で自分は病んでいる暇も無く又それも許され無い日常である。五月晴れで心が明るくなり救われた。
- 柾木はつ子
特選句「保護犬の庭に馴染める桜の実(菅原春み)」。引き取った保護犬がすっかり馴染んで、温かい家族の元で幸せに暮らしている姿を思い浮かべます。いつまでも幸せに!特選句「九十五の母の手習い青葉騒(伊藤 幸)」。いつまでも向上心を忘れないお母様。私も見習いたいと思います。何をなさっているのか、気になるところです。
- 布戸 道江
特選句「青葉若葉して包帯の巻き直し」。青葉若葉の繁る季節、包帯の巻きと若葉の重なりの距離感、緑と白の対比が美しい。「蝶結びするりとほどけ青野原」。包装の風呂敷など解くと青野原が広がった、まるで美しい動画のように。「光受け産湯のようにレタス洗う」。パリパリのレタスを丁寧に洗う、赤子の沐浴のように、光の反射受けて。「湖の上紙ひこうきが飛んでいる(男波弘志)」。戦地のドローンを想像した、不条理を感じる。
- 野田 信章
特選句「ちぐはぐの男女一対青あらし」。上・中句にかけての修辞には多分に物象感な視点の作用がある。この物象感に生命を吹き込んでいるのが「青あらし」の配合であろう。諧謔味さえ覚えるこの読後感のふくらみもまたこの点にあると思う。
- 増田 暁子
特選句「おのころの新玉葱や春の海」。日本神話で最初の島と言われる淡路島。特産の玉葱の島。穏やかな瀬戸の島を上手く句で紹介した作者に拍手。「うりずんや普通に戦車が通る」。沖縄の状況ですね。日本本土では考えられない!
- 淡路 放生
特選句「難聴や亀鳴く日にはよく聞こえ(若森京子)」―「亀鳴く」は俳句作りに垂涎の季語である。「難聴」を持ってくる荒技は、お見事と言う外はない。「日にはよく聞こえ」がいかにも春です。
- 花舎 薫
特選句「しゅわしゅわと庭の新樹の感情です(佐孝石画)」。新樹が象徴する若さ、初夏という季節の明るさ、ワクワク感、そういった全てがしゅわしゅわというオノマトペに凝縮されている。それは新樹のたてる音ではない。新樹に感情があってそれを音で表現するならしゅわしゅわだろう、といっている。その思いがけない楽しさに理屈を超えて感心した。
- 石井 はな
特選句「半熟の後悔ひとつ春の月」。生卵でもしっかり茹でたゆで卵でもない半熟の卵のような後悔。後悔の言うに言われぬ形が半熟卵とは、春の月の季語と響きあって心にしみます。
- 漆原 義典
特選句「おむすび山じじばば笑えば山笑う」。朗らかな句ですね。楽しくなります。楽しい句をありがとうございました。
- 吉田 和恵
特選句「老いという表面張力水羊羹」。わかっているつもりでも認めたくなくて 老いを受け止められない空間を表面張力の水羊羹としたことに妙に納得。ところで、死ぬ気がしないとおっしゃった兜太先生は水羊羹はお好きでしたか? → 先生もお好きだったと思います。
- 川本 一葉
特選句「青空の青に燕の子が育つ(柴田清子)」。ついつい気になって燕の巣を覗き込みます。その時やはり上を向くので青空が目に残ります。日本の夏の青に燕が育っていくという詩、素晴らしいと思いました。
- 月野ぽぽな
特選句「雨降れば山の緑がはみ出すぞ」。緑の溢れる山に雨が降ると、ますます緑が瑞々しくまた濃くなりますね。「山の緑がはみ出す」にその生命力の高まりが伝わります。そして、「はみだせり」ではなく「はみ出すぞ」としたことで、内容と表現が呼応し合い、一句の爆発力を増しています。
- 高木 水志
特選句「ものの芽のひとつにひとつずつ太陽」。いろいろな草の芽や木の芽に春の初めの柔らかな太陽がひとつひとつに当たっている様子が心地よい。
- 田中 怜子
特選句「うりずんや普通に戦車が通る」。そんなものだ、と思ってしまってはいけませんね。この国は、あの過去を忘れてしまったのか。
- 岡田ミツヒロ
特選句『「子は鎹(かすがい)」孫蝶番(ちょうつがい)葱坊主』。ほんと孫は蝶番ですね。子や孫あっての家族の絆です。新しい戦前とも言われる現在、家族解体の危機が刻一刻迫っているような気がします。こんな折、特に心に銘記したい一句です。特選句「殺し文句並べて夏の木立です」。今年も猛暑となりそうです。ここで夏木立の出番、涼しくて、ストレス軽減、免疫力の向上等々、謳い文句が並ぶ。これらは、健康志向の現代人の心底に通じる、まさに「殺し文句」という表現がピッタリ。
- 中村 セミ
特選句「きゆきゆと鳴る女童のくつ春が行く(銀次)」。なかなかな入学式から少し立ってそれぞれの足がいかにも新しい希望のような読みになっていて、非常にいいです。
- 向井 桐華
特選句「花の下つるんで血脈の軽さ(十河宣洋)」。満開の花の下、一見楽しく笑って楽しんでいるように見えるが、実はそうではなく他人同士のお花見を「血脈のない軽さ」と表現したところが見事だと思います。
- 出水 義弘
特選句「ふむふむと抓む落ち沙羅 句はあまた」。選漏れの句を吟味すると、それぞれに大なり小なりの難がある。今一歩の句もたくさんある。選者の判断理由を確認して、納得している様子がうかがえる。上達には、良い句をたくさん詠む一方で、句会などの機会に他の人の意見から学ぶことも大切だと思う。特選句「即諾の一電にして風光る」。重要な案件について、即座に承諾の電話が入った。先行きに明るい展望が開けた高揚感が、「風光る」に良く表現されていると思う。
- 佐孝 石画
特選句「黄昏やツツジ同士は話さない」。話さない優しさ、話さずに寄り添うことの崇高さ。星も草木も「話さない」優しさがあります。この句は名句です。切れ字「や」の詠嘆も素敵ですが、黄昏「の」の世界もまたモノローグめいていいと思います。「花万朶やがてはぐれて逝きたまふ」。肉親、友人、恋人。桜花のように寄り添ってきた様々人達もいずれ一片ずつ「はぐれて逝きたまふ」。最後の「たまふ」という尊敬語が、もうすでに自分の近くから離れてしまっている喪失感や切なさを、客体視させ深める効果を出している。「ばば抜きのばばゐなくなりおぼろ月」。少し煙たい人ほど、ゐなくなると喪失感が募るものです。見立てが素晴らしい。「祈りとは忘れぬことぞ聖五月」。かつて友人が自死した際、先輩が「忘れてはいけないんだ。それが俺たちの責任だ」と語ってくれたことを思い出しました。「ぼうたんや面影にそっと帽子を(すずき穂波)」。 美しいものを見た時、人間の視覚なんて実は「曖昧なもの」なのではないかと思うときがある。幻影に実体のあるものを直接接触させるこの不毛な行為は、裏腹に自身の感覚などは過去の経験によるものでしかないという諦観があるのではなかろうかと思います。面影に「帽子」を被せるなんてなんとやさしい暴挙であることよ。「蝶結びするりとほどけ青野原」。結び目がほどける瞬間はいつも唐突。その瞬間を見ているわけではないのだが、いつの間にかほどけていたその姿を目にした時、紐自身の解放意志のようなものを想起してしまう。背景の「青野原」もまた、いつのまにか自身の意志を開放させ繁茂しています。「見上ぐればただ空がある忌野忌」。「雨上がりの夜空に」、「トランジスタラジオ」、「僕の好きな先生」、そして名曲「スローバラード」。2009年〈平成21年5月2日に忌野清志郎は逝った。学生時代、一本ごと自分で選曲して、カセットテープに録音して繰り返し聞いた。今残る清志郎の後味は「切なさ」である。彼は切なさを持つにんげんを愛していたんだと思う。そしていま僕たちに残されたのは「ただ空があるだけ」なんですね。(ちなみにこのフレーズはジョン・レノンの「イマジン」のカバー曲の歌詞の一部です)*元ザ・ブルーハーツ甲本ヒロトの清志郎への弔辞は素敵で必見。ユーチューブで見れます。ついでに亡くなる直前の矢野顕子と「ひとつだけ」のデュエットも痺れますよ。
- 植松 まめ
特選句「燕いま光りの端を咥え来し」「鉄路曲がるあの時のままツバメとぶ」。このところ国内外にきな臭いニュースが多くて気が滅入る。「鉄路曲がるあの時のままツバメとぶ」戦後外地から歩いて38度線を越えて引揚げた方の苦労を思った。戦争を体験はしていないが子供のころ悲惨な話しは色々聞いた。平和が一番武器は売ってはならないと思う。
- 薫 香
特選句「九十五の母の手習い青葉騒(伊藤 幸)」。いくつになっても、学びたいという気持ちを持ち続けるなんて素晴らしい。
- 滝澤 泰斗
特選句「肩組んでぼくらの先生メーデー歌(岡田ミツヒロ)」。高校時代の、とりわけ、歴史関連を担う社会科の先生は校長や教頭より年上で、教員室で静かに本を読んだり、物を書いたりしていたが、黒板の前に立っているのを見たことが無かった。たまたまそんな先生にあたらなかったからだが、たまたま、夏休みのとある高原の先生の集まりで見かけ、「インターナショナル」を歌っていた。掲句でそんな昔の事を思い出し、揺さぶられ、無性に、あの先生に会いたくなった。そして、戦前、戦後の歴史観を話してみたくなった。特選句「燕いま光りの端を咥え来し」。自分もコンスタントにこんな句を作り続けたいと思った一句。共鳴句「<身延山にて>久遠寺や息づくひの端に春の鐘(樽谷宗寛)」「爪を切り過ぎて南瓜煮崩れて」「野焼きの煙わが輪郭を食めり」。ただただうまい句だなぁと感心の三句。こちらを特選に入れてもと思う。『「子は鎹(かすがい)」孫蝶番(ちょうつがい)葱坊主』「おむすび山じじばば笑えば山笑う」「トンネルに途切れるラジオ山笑う(布戸道江)」。山が笑えば、私も笑う。楽しい俳句が三つ並んだ。諧謔が俳句に奥行を持たせてくれる。楽しい・・・。「朝刊の匂い嗅ぐ兄昭和の日」。ゴールデンウィークの祭日は季語の山・・・昭和の日はたくさんの思い出に満ちている。掲句の兄ちゃんほどではないが、昔の新聞には確かに独特の匂いがあったなと記憶を蘇らせた。しかし、具体的な言葉には窮するが、懐かしい昭和のワンシーンではある。
- 伊藤 幸
特選句「月蝕すすむ春あかがねの八十路かな」。八十代を春あかがねと表し、金でもなく銀でもないが人生百年のこの時代、銅あかがねを用いて悔いのない生き方をと、作者の意気込みが感じられる。特選句「うりずんや普通に戦車が通る」。うりずんとは沖縄で大地が潤う春のことをいう。私の好きな言葉である。うりずんという素晴らしい季節の中、普通に戦車が通るなど戦争放棄の日本においてはあり得ないことであるが、訓練の一部としてではあろうが、千歳や大分玖珠町ではそうではない。ましてや戦争中のイスラエル、ウクライナにおいては当たり前という現実。何かがおかしいと作者は訴えている。
- 豊原 清明
特選句「ばば抜きのばばゐなくなりおぼろ月」。おばあちゃんのいない座は儚さを噛みしめている。問題句「春いっぺんに始まりいっぺんに終わった(山下一夫)」。この感覚、よく分かる季節のスピード。
- 大浦ともこ
特選句「半熟の後悔ひとつ春の月」。半熟の後悔という表現が新鮮であり、また言い得て妙だとも思いました。自分の中にある半熟の後悔に思いを巡らせました。季語の春の月の滲んだようなイメージもしっくりときます。特選句「ものの芽のひとつにひとつずつ太陽」。太陽の恵みが遍く降り注いでいる様子に明るい喜びを感じます。おおらかな自然賛歌の一句と思いました。
- 時田 幻椏
特選句「野焼きの煙わが輪郭を食めり」。視覚体験の位相からすれば、野焼きの煙の中の彼の方の姿がおぼろだった経験を わが輪郭を食めり と詠う事の措辞に感服いたしました。特選句「花は葉に紙ひこうきを折っている」。極めて自然な句を詠む態度に、好感を持ちました。
- 三好つや子
特選句「老いという表面張力水羊羹」。涼やかに軽やかに溶けていく、水羊羹ならではの舌触り。それは、寒天液となめらかな漉し餡の絶妙なバランスによって生まれます。たおやかな老いの姿もまた心とからだの、繊細なバランスで成り立っているのかもしれません。特選句「見上ぐればただ空がある忌野忌」。二〇〇九年五月二日、五十八歳でこの世を去った清志郎。カッコよくてやんちゃで、人なつっこい彼の顏が目に浮かび、五月の空の彼方からデイドリーム・ビリーバーを歌う声が聞こえてきそうです。「半熟の後悔ひとつ春の月」。半熟という言い回しに春の月らしさがあり、時がたっても不完全燃焼のままの後悔に興味深々。「人間の巣箱にいらぬものばかり(河西志帆)」。まったくその通りです。「い」は「要」にしてはどうでしょうか。「殺し文句並べて夏の木立です」。精悍な夏木立の姿を際立足たせる表現に共感。
- 河田 清峰
特選句「戦いの道具は要らない蝌蚪の国」。武器がなければと思う。戦争する手足がなければと思います。季語が良かった!
- 野口思づゑ
特選句『「子は鎹(かすがい)」孫蝶番(ちょうつがい)葱坊主』。私は子がいないので、つまり孫もいないので実感ではありませんが、ユーモアーがありもしかしたらそんなものなのかしら、と微笑んでしまった。
- 藤田 乙女
特選句「菜の花や恋文破り捨てました」。恋文を破り捨てるとは何と思い切りのよいことでしょう。私には真似できないその決断と心意気がとても素敵で羨ましい気持ちになりました。私は未だに50年前の恋文を大切に持っており、それを読んで今なら相手の思いを真摯に受けとめることができたであろうと当時の自分の度量のなさを悔いております。結婚を承諾した手紙が届かなかったなどの運命のいたずらもあり結ばれることのなかった縁でした。「捨てられぬ恋の未練や菜の花黃」特選句「人間の巣箱にいらぬものばかり」。本当にいらぬものばかりで溢れかえっています。心の巣箱も・・・何が一番大切なものなのか見極め整理していていきたいと思います。
- 末澤 等
特選句「半熟の後悔ひとつ春の月」。朧に霞む、柔らかで優しい春の夜の月を表す。「春の月」と、「半熟の後悔ひとつ」の組み合わせが素晴らしく感じました。
- 山下 一夫
特選句「庭隅に鈴蘭きげんのいいエプロン」。謎の二句一章。しばし考えたところ、つまり「庭隅の鈴蘭」イコール「エプロン(の花柄の刺繍)」かと。エプロンをしている人の機嫌が気になっていることから、その主は母や妻などを想像します。そういったいわば母性の範疇にあることによる安心感やほのぼの感が滲んできます。特選句「まだ母になれず鏡のしゃぼん玉」。この二句一章も謎で、熟考。鏡像はほぼ実像でありながらも左右の逆転などを含んだ虚像とも。そこで、一応は母であるのだけど本当の意味で母になれないことを示唆してるかと。完全性を象徴する球体で、かつ儚く消える運命のしゃぼん玉との取り合わせが絶妙です。問題句「見上ぐればただ空がある忌野忌」。不思議と忌野清志郎のことを詠んだ句とわかりました。「空」を印象的に含んだ歌詞が多かったからでしょうか。掲句には楽曲「トランジスタ・ラジオ」を想います。調べてみると、五月二日が命日で毎年、出身の国立市や国分寺市周辺で追悼イベントが開催されているとのこと。現代的なポップスターだったので「見上ぐれば」は口語の方が良かったのではないでしょうか。
- 新野 祐子
特選句「海賊のもとをたどれば花筏」。海賊だって、はじめは、おもしろくてやったんじゃなくて、食うや食わずの困窮した海の民が他の船を襲ってしまった。やむにやまれずという側面があったのではないでしょうか。人間って困り果てると一線を越えて悪の道に行ってしまいがちですね。「花筏」に喩えた作者の感性、すばらしいです。
- 菅原 春み
特選句「茅花流し大きな風の吹く日かな」。大きな風ととらえたところに季語との絶妙の取り合わせが。特選句「見上ぐればただ空がある忌野忌」。何でもないようなことを淡々とうたっているところが見事。
- 綾田 節子
特選句『「子は鎹(かすがい)」孫蝶番(ちょうつがい)葱坊主』。ユーモアと真髄、それに葱坊主の季語がマッチして、そこはかとなく良い句です。特選句「老いという表面張力水羊羹」。言われてみれば老いとは表面張力で頑張って生きてるようなものだと共感致しました。季語の水羊羹の斡旋もナカナカなものですね。尊敬致します。
- 松本美智子
特選句「燕いま光りの端を咥え来し」。燕の特徴をよくとらえた瑞々しい句だと思います。この季節の光に満ちた空やすがすがしい空気を想像します。♡「青嵐の学校妖怪七人衆」自句自解:我が校には妖怪七人衆がいます。「リズミン」「マモール」「スタディン」「キレーイ」などと愛称もあります。美術専攻の、元校長先生がデザインしたユニークな妖怪です。それを何とか句にしてみました。
- 竹本 仰
特選句「春キャベツ中に思想のようなもの(松本勇二)」:なるほど、と思った。たとえば、病後、久しぶりの食欲を感じ、食物に向かう時、啓示のようなものに打たれることがある。誰がこんなものを拵え、ととのえ、何の資格があって、このような食事ができるのか。畏敬の念と言っていいほどに、食事ということの意義を感じる。もちろん、ここは食のことを言っているのではなかろうが、一個の人間を支えるものの深さ、それを仮に言えば、「思想」という詩語になるのだろうか。特選句「まだ母になれず鏡のしゃぼん玉」:何となく、ポプコン世代に流行ったウィッシュの「六月の子守唄」を思い出した。まだ母になり切れない未熟な母というのか、そんな迷い戸惑う光景が想像される。そんな自画像をたしかめながら、優しさを追求している姿が感じられた。特選句「濡らしては拭い八十八夜の手(月野ぽぽな)」:濡らしては拭い、というのは当たり前のように繰り返される日常の一動作なのだが、それは何という手なのか。日常の手から抜きんでて、それは確実に何かに向かおうとしている手のようだ。そして、その手は、世界中の何十億という手の存在にもつながってゆく、そんな広がりがある。或る方が医学の解剖実習のとき、献体の手を見てはいけないと言われたことがあると、聞いたことがある。なぜ、手なのか?と、ふと思わせられた。♡4月20日から3週間、病気していました。GWは、毎日、点滴。一昨日から復帰しました。復活します。今後ともよろしくお願いします。
- 遠藤 和代
特選句「人間の巣箱にいらぬものばかり」。人間にはいらないものだけど、他の生き物には大切な物が巣箱に入っている。とも読めるし、人間の巣箱すなわち家の中にはいらない物ばかりがある。とも読める。面白い句だと思います。
- 亀山祐美子
特選句「喋り出したら止まらないスイトピー」。風に揺れるスイトピーの明るさが好きです。特選句「人間の巣箱にいらぬものばかり」。同感。終活に取り掛かるもどこから手をつけていいのかわからない。
- 三好三香穂
特選句『「子は鎹(かすがい)」孫蝶番(ちょうつがい)葱坊主』。孫は蝶番…が面白かったです。先日、トイレのドアのちょうつがいが外れ、オープントイレとあいなりました。孫を連れて来なければ笑なりませんね。
- 荒井まり子
特選句「老いという表面張力水羊羹」。毎月の皆さんの句を拝見させて頂き楽しみにしています。中七の「表面張力」の表現に思わず共感しました。ありがとうございました、頑張ります!
- 銀 次
今月の誤読●「湖の上紙ひこうきが飛んでいる(男波弘志)」。湖は今日も霧だった。少年は学校の帰り、その岸辺に立ち寄り、見はるかす水面を眺めるのが常だった。それは一年ほど前に、三つ違いの姉が亡くなってからの日課だった。姉はしばしば「この湖の向こう岸には大きな街があって、そこは夜通し明るいんよ」と言っていた。信じたものかどうかは少年にはわからなかったが、なんだかそこに立つと姉の言っていた街が見えるような気がするのだった。だがそんなものは見えはしない。見えるのは霧だけだ。少年はカバンからノートを取り出し、ページを破り、紙飛行機を折った。そしてそれをスイと湖に投げた。白い機体は水面すれすれに静かに飛んでゆく。風もないのに落もせず、霧のなかに消えていった。と、それが合図のように、霧の向こうに見知らぬ街が姿を現した。無数の窓があった。濡れた高層ビルは空よりも高く、赤い航空灯が星のように瞬く。高速道路は光の川となり、青白い電車がガラスの橋を走り抜ける。看板のネオンサインは夜を照らし、巨大な広告映像の美女は何秒ごとかにポーズを変え、そのたびに笑顔を見せるのだった。少年はその光の岸辺にセーラー服姿の姉を見た。姉は群青色の街明かりのなかで、その紙飛行機を拾い、懐かしい顔で少し笑った。次の瞬間、風が吹く。ネオンも高層ビルも一斉に滲み、あたかも水に溶ける絵の具のように、崩れて消えた。呆然と立つ少年の足元にポタリと紙飛行機が落ちた。こちらの岸もやがて暮れようとしていた。戻ってきた紙飛行機からはかすかに濡れたアスファルトの匂いがした。
- 疋田恵美子
特選句「花万朶やがてはぐれて逝きたまふ」。爛漫たる人生もいずれ他界という現実を思います。特選句「メラニアの目深きプリズム五月闇」。知的なメラニアトランプさんだけに、背負う宿命の重さのようなものを感じます。
- 野﨑 憲子
特選句「落花一片老樹の幹の苔の上」。古刹での景なのだろか、苔の上に落ちた櫻の花びらの美しさに思わず息を呑んだ。耳を澄ませば苔と老樹とひとひらの花びらのお喋りが聞こえてくるようだ。静謐で美しい世界観に魅せられた。特選句「死なれへんニセアカシアに風ゆららぎ」 。冒頭の「死なれへん」の関西弁があまりにも切ない。たが、ニセアカシアの登場に、虹色の光が注ぐ。この木には、切っても切っても芽吹く圧倒的な生命力がある。満開のニセアカシアの白い花房が甘い香りを放ちながら重たげに垂れ下がり初夏の風に揺らぐ姿と相俟って「死なれへん」という言葉の奥に、強い意志と静かな祈りを感じる。「風ゆらぎ」とせず「風ゆららぎ」にしたことによる余情が深く息づいていて胸に迫りくる。生きて生きて生きてください。お元気を!
袋回し句会
夏帽子
- 夏帽子陳列棚で風を待つ
- 大浦ともこ
- 夏帽子ある日の午後のことでした
- 野﨑 憲子
- 夏帽子スプンを逃げる豆花(トウファ)かな
- 和緒 玲子
- 夏帽子目深にかぶるえくぼかな
- 大浦ともこ
- しんちゃんは三頭身で夏帽子
- 和緒 玲子
- 夏帽子のぼりし山の風を吸う
- 岡田 奈々
梅雨
- 短調の風が吹きます梅雨晴間
- 野﨑 憲子
- 入梅や嘘をつくにも訳がある
- 藤川 宏樹
- 梅雨晴れ間鬱前線を突破せよ
- 岡田 奈々
- 夜の電話梅雨に音階あるらしく
- 和緒 玲子
電話(スマホ)
- 虹は片虹糸電話の糸切れて
- 大浦ともこ
- 待ち受けはギザギザハートのお月さま
- 野﨑 憲子
- 茉莉花(マツリカ)の香の濃き夜を長電話
- 和緒 玲子
- 豆飯の臭いの中を電話とる
- 岡田 奈々
- 電話口じっと我慢の黄水仙
- 末澤 等
昼寝覚
- 私であつて誰かであつて昼寝覚
- 野﨑 憲子
- 昼寝覚スワンボートの乗り心地
- 和緒 玲子
- 二刀流でどんなもんじゃい昼寝覚
- 藤川 宏樹
- 昼寝覚白湯にうるほう喉仏
- 大浦ともこ
- 俳句つてパツシヨンなんだ昼寝覚
- 野﨑 憲子
- 象とゐてマツケンサンバ昼寝覚
- 藤川 宏樹
- カステラは厚切りでとや昼寝覚
- 岡田 奈々
蛇の衣
- ありがた山のトンビ烏や蛇の衣
- 野﨑 憲子
- 裸婦像に長き四肢あり蛇の衣
- 和緒 玲子
- 蛇の衣愛と思ふかAIか
- 藤川 宏樹
- 今すこし我慢のときです蛇の衣
- 藤川 宏樹
花蜜柑
- 大潮の無垢なる風よ花みかん
- 和緒 玲子
- 初恋めくひとをとなりに花蜜柑
- 藤川 宏樹
- ミサの鐘遠く響きて花みかん
- 大浦ともこ
- 「先生」はやめてちょうだい花みかん
- 藤川 宏樹
- 花みかん明るい視覚障害者
- 岡田 奈々
- 忘れるもんか海岸道りの花蜜柑
- 野﨑 憲子
- 花みかん色と香りの二刀流
- 古沢 等
【通信欄】&【句会メモ】
今回は、五月晴れに恵まれお出かけの方が多く、少しコンパクトな生句会でしたが、いつもと変わらぬ楽しい句座になりました。兜太祭りがご縁で、金沢の木村寛伸さんも加わり、ますます句会が熱く渦巻いてまいりました。
♡『俳壇』6月号84頁に志度寺の句碑に関しての拙文が掲載されています。お気が向けば書店や図書館でご覧ください。
Posted at 2026年5月24日 午前 12:39 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第173回「海程香川」句会(2026.06.13)ご案内
今回は、五月晴れに恵まれお出かけの方が多く、少しコンパクトな生句会でしたが、いつもと変わらぬ熱く楽しい句座になりました。後日、<今月の作品集>にその断片を紹介させていただきます。お楽しみに!!
では、次回6月句会のご案内を・・
- 日時
- 2026年6月13日(土)
- 場所
- ふじかわ建築スタヂオ☆☆ 高松市番町2丁目5-5
- 時間
- 午後1時 ~ 午後5時
事前投句は、通信句会形式です。投句締切は、6月6日(土)(必着)です。ご参加楽しみに致しております。
- 事前投句作品
- 2句
- 会費
- 500円
連絡先:noriko_n11☆yahoo.co.jp(☆を@に変換してください)
「海程香川」代表 野﨑憲子Posted at 2026年5月9日 午後 11:06 by noriko in 句会案内 | 投稿されたコメント [0]
第171回「海程香川」句会(2026.04.11)
事前投句参加者の一句
| スカートと連翹の呼吸(いき)すれ違う | 伊藤 幸 |
| 鷹化して条理ついばむ鳩と為る | 藤川 宏樹 |
| 精霊が青をあつめて仁淀春 | 松本 勇二 |
| 入学式娘は父の恋人よ | 山本 弥生 |
| 定年しない私に戻る菜花摘み | 岡田 奈々 |
| 人類の最晩年へ花万朶 | 大西 健司 |
| 日本人桜と言う骨柔らかい | 中村 セミ |
| 麻酔の俺深く深く青さんま | 十河 宣洋 |
| 薄氷や一閃の力残しをり | 塩野 正春 |
| 素のままのこころに纏う花衣 | 植松 まめ |
| 春耕や土の饒舌問ふてみん | 末澤 等 |
| 春泥や鈍く光れる鍵の束 | 松岡 早苗 |
| 蝶の昼首里の迷路にまぎれこむ | 吉田 和恵 |
| 地に一花一顆のいのち水俣忌 | 野田 信章 |
| 春耕を小さく笑う雨後の犬 | 佐藤 詠子 |
| 奉公さん三つならべて初さくら | 福井 明子 |
| 遠い国の争い私を蝕む春 | 滝澤 泰斗 |
| この蝶のこの瑠璃色に戻らねば | 小西 瞬夏 |
| 芝居はねおぼろの橋を渡りけり | 重松 敬子 |
| 蝶肩に御朱印を待つ閻魔堂 | 河田 清峰 |
| 蟇穴を出てまた凹む 戦争 | 若森 京子 |
| 骨董市古雛ぽつんと京言葉 | 増田 暁子 |
| 麗かやのしりのしりと牛のしり | 矢野二十四 |
| はなうたのひとのみちかけ山笑ふ | 亀山祐美子 |
| 前を行く君の鼻歌 風眩し | 花舎 薫 |
| しなやかに空を拾って夕桜 | 高木 水志 |
| 吉野山水の惑星さくら色 | 三好三香穂 |
| 春愁というほどもなく日の暮れる | 榎本 祐子 |
| 薄氷やG線上にある卵 | 男波 弘志 |
| 蛇穴を出てどの本能を頼ろうか | 三好つや子 |
| 姉の背にいつまた会える桜雨 | 遠藤 和代 |
| 風光る別れからすぐ逃げる癖 | 山下 一夫 |
| 荒物屋の爺ちゃんの膝花の塵 | 荒井まり子 |
| 花満ちて躰の芯の渇きかな | 向井 桐華 |
| ひさかたの赤子の軽さ花ミモザ | 薫 香 |
| 王は要らぬと軋む鉄柵凍返る | 月野ぽぽな |
| さくら咲くまた一枚の夜が明けて | 佐孝 石画 |
| 左心室の鼓動の海を春の雨 | 松本美智子 |
| 糸綴じの絵本のほつれ春の月 | 三枝みずほ |
| 寝ころんで良きことを待つ萬愚節 | 銀 次 |
| 耕人の中に紛れるボヘミアン | 森本由美子 |
| 兄逝きて半年経って飛花落涙 | 田中 怜子 |
| そうか もうおらんのか 人生鈍行 | 田中アパート |
| 黄蝶二つ愛欲ながらはしゃぐ昼 | 豊原 清明 |
| 男と女をバンドネオンで春の宵 | 布戸 道江 |
| 下萌えを割りて貝母のうつむける | 樽谷 宗寛 |
| 日向ぼこ一切皆空うつらつら | 各務 麗至 |
| 花冷えや水の神へは灯をささげ | 津田 将也 |
| 君の名を呼べば春満月ぐにやり | 川本 一葉 |
| 桜蕊死者の時間のゆっくりと | 菅原 春み |
| 春浅し句友はひとり旅急ぎ | 出水 義弘 |
| 高楼に卑弥呼の孤愁春の月 | 岡田ミツヒロ |
| ちゅうりっぷチューと言う時ちと拗ねて | 柾木はつ子 |
| 情死考菜種梅雨など思ひゐる | 淡路 放生 |
| はぐれ方いよいよ上手しゃぼん玉 | 新野 祐子 |
| 万愚説それよりガソリンの話 | 河西 志帆 |
| 伝えてこその命は桜戦雨 | 竹本 仰 |
| たたずめば桜と私の空間 | 野口思づゑ |
| 夕闇に染まり桜の散りいそぐ | 石井 はな |
| 羊歯萌ゆる無人機飛び交う世となりぬ | 疋田恵美子 |
| 異空間ふっと息吐き花筏 | 漆原 義典 |
| 埜野路傍蒲公英名草黄々嬉花 | 時田 幻椏 |
| 一列に並んだ目刺「文句あっか」 | 綾田 節子 |
| 我儘はもう言いません豆の花 | 柴田 清子 |
| 母ひとり父の海馬にゐて菫 | 大浦ともこ |
| 戦火虚し菜の花ずっと泡立つ日 | 河野 志保 |
| また脱皮したがる街よ夕陽炎 | 和緒 玲子 |
| ときめきを未だ忘れず葱坊主 | 藤田 乙女 |
| 戦場へつづく道なり夕櫻 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「春泥や鈍く光れる鍵の束」。鍵の束の鈍いひかり、地下室か、夜の建物か、なんとなく暗い秘密の匂いもする。取り合わされている季語が「春泥」。その距離感が絶妙である。無機質過ぎず、命も感じられる。金属の固いものと、自然のどろどろしたもの、という対比も面白い。
- 松本 勇二
特選句「この蝶のこの瑠璃色に戻らねば」。瑠璃色は青春の象徴か、あるいは純情か、いずれにせよどこかでリセットしなければならない。そしてまた溌溂として生きて行く。
- 岡田 奈々
特選句「精霊が青をあつめて仁淀春」。春の清々しい空気感と仁淀川の青さが貴い物に思える。特選句「飛花落花この世の記憶剥がしゆく(柾木はつ子)」。桜の花びら一枚一枚が何故か来し方の記憶に繋がってゆく。それが飛んで行く毎に、それまでの良きことも悩みも持って行ってくれる気がする。「スカートと連翹の呼吸すれ違う」。連翹の花のひらひら感と春になって、ズボンからスカートに替わる軽やかさがリンク。「春耕や土の饒舌問うてみん」。春になって、土まで、耕されて、活き活きしている様子がよく分かる。「蝶の昼首里の迷路にまぎれこむ」。都は細道が奥まで続き、蝶を追いかけて異空間に入って行くようだ。「笹鳴きや句集の人の急ぎ逝く(出水義弘)」。まだまだ、俳句に短歌に川柳に言い足りないことだと、島田さんのご冥福お祈り申し上げます。「骨董市古雛ぽつんと京言葉」。私に買って貰ったお雛様の顔を思い出しました。小さいながらも御殿に住んでいたお雛様です。「はなうたのひとのみちかけ山笑う」。人の一生の山谷。頑張ろうと、手をこまねいていようと、結局は何事も無かったかのように過ぎていく。山はいつもおおらかに見てくれている?「たたずめば桜と私の空間」。満開の桜の木の下は何故か静寂で、私を優しく包んでくれる。桜大好き。『一列に並んだ目刺し「文句あっか」』いいね。目刺しだろうが、鯛だろうが、一匹は一匹。それが五匹もいるのだから、選ばなきゃ。
- 津田 将也
特選句「地に一花一顆のいのち水俣忌」。数多くの犠牲者を、ただの数字として見るのでなく、「一花・一顆」と具体化することによって、公害で奪われた尊い命の個々の物語を想起させます。また、季語として「水俣忌」を用いたことで、公害に対する社会的な怒り、悲しみ、その責任を問い続ける姿勢が表現されました。
- 十河 宣洋
特選句「スカートと連翹の呼吸(いき)すれ違う」。爽やかな空気を感じる。何気ない風景だが気分がいい。特選句「君の名を呼べば春満月ぐにやり」。別段朧月とか野暮なことは言わない。満月が思わず振り向いたのである。その顔が笑顔で思わずステキと叫んだ。そんな印象。
- 柴田 清子
「たたずめば桜と私の空間」。桜の空間、私の空間、その空間にあるものが、それぞれ何であるかは、言葉にしていないところが、この句に引き寄せられました。特選としました。
- 各務 麗至
特選句「桜蘂死者の時間のゆっくりと」。付き添っていたはずの肉親でも急逝と思ってしまうのは、普通で・・・・・。だけど、いくら他人でも、やはり残された方にはいつまでもその人の姿は消えず、桜蘂に、亡くなった人の・・・・、こころの芯を見せて貰っているような作者のやさしい気持ちをこの句から感じることになりました。特選句「たたずめば桜と私の空間」。「約束しない蝶と私を散歩して」もで、どちらも難しくて、どちらにしようかと迷った挙句、「桜と私の空間」の感動に共鳴することになりました。
- 樽谷 宗寛
特選句「姉の背にいつまた会える桜雨」。いつまた会えるかが永遠の別れを物語り、桜雨が作者の涙のような気がした。「兄逝きて半年経って飛花落涙」。逝きて経ってが説明?飛花落涙でいただく。
- 矢野二十四
特選句「情死考菜種梅雨など思ひゐる」。 菜種梅雨の質感が情死に呼応している。特選句「しゅくだいわすれたって金魚めく口(三枝みずほ)」。 金魚めく口が愛らしい。口語の軽みがよい。「春泥や鈍く光れる鍵の束」。春のぬかるみの柔らかさに、秘密の鍵束の硬さ。「荒物屋の爺ちゃんの膝花の塵」。やさしい爺ちゃんの存在感を感じる。「糸綴じの絵本のほつれ春の月」。母のように温かい絵本なのだろう。「春おぼろ顔を隠して眠る癖(松岡早苗)」。シャイな句。ただもっといい季語があるかも。「風船の空を遠くに置きしまま」。決して手に入らないものへの憧れを上手く詠んだ。「ちゅうりっぷチューと言う時ちと拗ねて」。「拗ねている」とは言い得て妙。「縄跳びの縄垂れている日永かな(榎本祐子)」。遊び疲れた感が季語とマッチ。『一列に並んだ目刺「文句あっか」』。文句なし。目刺の開きはないが開き直っている。
- 和緒 玲子
特選句「花満ちて躰の芯の渇きにかな」。桜が咲き満ちる頃の湿り気のある空気を感じる躰。同時に躰の内なる渇きに気付く。渇き の字を当てることで焦燥感にも寄せている繊細な感覚。
- 若森 京子
特選句「スカートと連翹の呼吸すれ違う」。鮮明な黄色い連翹の中を歩いたのであろう。自分の感動を、スカートの呼吸とすれ違うと詩的に簡明に一行に表現している。特選句「ときめきを未だ忘れず葱坊主」。幾つになってもときめきは大切。ときめきを毎日持つのも若さの秘訣。葱坊主がぴったりの一句。
- 淡路 放生
特選句「我儘はもう言いません豆の花」。豆の花畑を見ていると、幼い者でも大人でもこんな気持になりそうです。時は春、性善説もいいものです。♡野﨑さんに「海程香川」三月句会報を送っていただきました。読んでいるうちに、懐かしくなり、こころが弾みました。そこで投句だけでもとお願いをして、また仲間に加えていただいた次第です。よろしくお願いします。
- 河西 志帆
特選句「さくら咲くまた一枚の夜が明けて」。「一枚の」この感じ、この雰囲気、見た事があるような、懐かしさがあるんです。何処だったんだろう。誰だったんだろう。特選句「春おぼろ顔を隠して眠る癖(松岡早苗)」。この癖を知っています。知っていますか。この癖は遺伝性があるようなんですよ。掌で、こうして隠すんでしょ!「ひとの子は見ぬ間に育つシャボン玉(菅原春み)」。確かこんな事を言ったり、言われたりしていました。それをそのままの形で通す!そこが素敵!
- 中村 セミ
特選句「蝶の昼首里の迷路にまぎれこむ」。歩きつかれて、喉も乾き、ちょうど三叉路にでた、歩いてきて、もう三叉路は五つあった。その場所は店があり、側にドブ川がながれていた。「お客様まだ、ぬけられませんよ。うちの海底ドリンク飲んで元気を取り戻して下さい。」「まだこの迷路ね三叉路続きますか。水は、打ってませんか」「はい、まだまだ続く」というので、でも、海底ドリンクは、一本のんでも、たらないでしよ。「そこです、これをのむと、どんな物でも美味しい水になるのです。」ここを流れるこのドブ水も美味しく飲めるのです。とりあえず5万だして1つ買って飲んだそれから、ドブ水に顔を近づけると、腐った臭いがしたが、飲んでみると美味しい、ガブガブ飲んで、寝てしまった。起きると、丸裸にされて側に綺麗なかわがながれていた。真昼の蝶々が水を飲んでいたが、羽根を広げると真っ黒い羽根だった。
- 川本 一葉
特選句「精霊が青をあつめて仁淀春」。なるほど。精霊が集めたからあれほどの美しい青なのですね。気高いほどの美しさの川仁淀川もこんな風に詠んでもらえるとしあわせだと思います。特選句「ちゅうりっぷチューと言う時ちと拗ねて」。力が抜けているけれど周到な句です。はいはい勝手にやってください、とも思いました。面白い句です。
- 月野ぽぽな
特選句「水俣忌晩柑の照り孤にあらず(野田信章)」。水俣病の犠牲者を追悼し環境汚染の歴史を忘れず、命の尊さを訴える日とされる水俣忌。水俣病によって海での漁ができなくなった漁師たちが、生きる糧を求めて山を開墾したという晩柑の「照り孤にあらず」に哀悼の心が伝わります。それと同時に晩柑というみずみずしい果実の美しさがまるで祈りのようで、人々の逞しさ、絶えることのない希望を思わせて印象的です。
- 高木 水志
特選句「約束しない蝶と私を散歩して(岡田奈々)」。春の化身のような蝶の気まぐれな飛び方は、約束はしないだろうが一緒に散歩してくれているような感じがあって心地好い。
- 山本 弥生
特選句「定年しない私に戻る菜花摘み」。女性も会社で定年迄一生懸命に働いた方が、やっとこれからは定年の無い自由な毎日を過ごしたいと思う「菜花摘み」によくその気持ちが表われていて共感しました。
- 男波 弘志
「麻酔の俺深く深く青さんま」。この麻酔、はなんであろうか、実際にオペ室のベッドに仰臥しているのだろうか。おそらくそうではないであろう。自己陶酔と自己離反が相互に今を去来しているのだろう。それにしても秋刀魚がこういうふうに詠われたことは今まで無かったであろう。準特選。
島田さん、貴方が自分の心の中に住んでいることをはっきり自覚しました。ほんとうありがとうございました。
その人を容れるほど大きシャボン玉 男波 弘志
- 増田 暁子
特選句「遠い国の争い私を蝕む春」。遠い国の争い、いつの間にか近辺も蝕む戦をやめてほしいと切に願います。特選句「母ひとり父の海馬にゐて菫」。なくなったお母さんへの思いが、お父さんの海馬に花を咲かせてるのだろう。
- 藤川 宏樹
特選句「日向ぼこ一切皆空うつらつら」。昼間一人でいるとき、しばしば寝落ちします。うつらうつらがいいんです。この世におさらばするときもこうならば、と願うこの頃。
- 植松 まめ
特選句「スカートと連翹の呼吸すれ違う」。ひらひらとしたスカートと黄色の連翹の取り合わせに惹かれました。呼吸にいきのルビもよかったです。特選句「しなやかに空を拾って夕桜」。しなやかに空を拾っての表現に感動しました。「麗かやのしりのしりと牛のしり」。おおらかで楽しい句ですね。
- 大西 健司
特選句「芝居はねおぼろの橋を渡りけり」。江戸の芝居小屋を思う。芝居がはねておぼろに霞む橋を渡っていく。そんな粋な風情が心地良い。どこか芝居の一場面のようだ。
- 三枝みずほ
特選句「麻酔の俺深く深く青さんま」。麻酔針を刺して朦朧とする中に、青さんまと自分とを重ねた。身動きがとれないからこそ感覚が冴えてくる。特選句「君の名を呼べば春満月ぐにやり」。名を呼んで存在を確かめる。会えない喪失感をぐにやりと表出した。行きどころのない想いが溢れている。
- 疋田恵美子
特選句「鷹化して条理ついばむ鳩と為る」。現代社会の不条理への、警鐘と読みました。特選句「薄氷やG線上にある卵」。極限の緊張感を思いました。
- 塩野 正春
特選句「桜咲き満ちて宇宙に宇宙船(月野ぽぽな)」。ここ、2,3日前に宇宙から戻ってきた宇宙船があります。アルテミスという名で4人が乗っています。その宇宙船、月の裏側(地球から見て)を撮影し地球に戻りました! イラン革命とそれに伴う戦争のニュースに隠れていましたが、人類にとって素晴らしい進歩です。逆に地球人の夢を打ち砕いてしまいました! 月の裏側は秘密の場所で誰にも見られてはいけない、見られない場所でした。桜は普通に咲いているのに・・。この宇宙船の句、正にぴったりの情景ですね。
- 松岡 早苗
特選句「はなうたのひとのみちかけ山笑ふ」。「ひとのみちかけ」は眼前の今ではなく、永い年月繰り返されてきた人々の栄枯盛衰を表しているように感じました。春の歓喜の底にある諸行無常。ひらがな書きも効果的だと思いました。特選句「母ひとり父の海馬にゐて菫」。老いて子どもや孫の顔は分からなくなっても、妻だけは記憶の中に鮮明に残っている。長年連れ添ったご夫婦の深い絆を感じました。特に「菫」の小さな明るさが印象的で、つつましくも幸せな人生を送って来られたのだろうと想像しました。
- 布戸 道江
特選句「春浅し句友はひとり旅急ぎ」「なんでまた 生きいそぎよって アホやな(田中アパート)」。島田章平さん、昨年句会でお会いして初めての私にやさしく選いただきました。今も新聞を開くとお名前を探してしまいます。「スカートと連翹の呼吸すれ違う」。スカートの裾とすれ違った連翹の息遣い、繊細な感覚。「風光る故郷行きの連絡船」。瀬戸内海の平和な風景、揉めてる海峡、早い解決を。「戦火虚し菜の花ずっと泡立つ日」。戦早くおさまってほしい戦争、穏やかな菜の花までが怒ってる。
- 佐孝 石画
特選 なし。並選「日本人桜という骨柔らかい」。「桜」を柔らかい「骨」と喩えたのは巧い。「人」という限定が少し気にかかる。「春泥や鈍く光れる鍵の束」。色調と素材感の対比が秀逸。「春耕を小さく笑う雨後の犬」。「小さく笑う」がミステリアスで哀切あり。「しなやかに空を拾って夕桜」。「桜」はひそかに「空」を拾っているのだという発見。「風光る別れからすぐ逃げる癖」。中七下五の自虐に共鳴性あり。上五「風光る」に句柄を明るく見せる妙技を見る。「風船の空を遠くに置きしまま」。「風船」は自身ではなく「空」を置いてきているのだという発想に光あり。「また脱皮したがる街よ夕陽炎」。「陽炎」は「脱皮」の予兆のだという見立の妙。冒頭「また」が気になるところ。
- 伊藤 幸
特選句「地に一花一顆のいのち水俣忌」。「水俣忌」とは「水俣病公式発表」の日五月一日。やりたい放題の企業活動がどれほどの悲劇をもたらすか世界中の警鐘を鳴らすことになった。人間はいうまでもなく犠牲になった生きとし生けるものすべての命を悼む地球規模の季語となった。掲句はそのすべての命に捧げた句と思われる。特選句「素のままのこころに纏う花衣」。隠しきれない素のこころ。「いいのだよ、それでいいのだよ。」と花弁が包んでくれる。どことなく艶かしさを感じさせる優美な句である。
- 河田 清峰
特選句「羊歯萌ゆる無人機飛び交う世となりぬ」。地上ドローンやロボットまで戦する世となり人間の居場所は羊歯萌える森しか無くなるのか?
- 花舎 薫
特選句「地に一花一顆のいのち水俣忌」。一花一顆がいいですね。この世に一度しかない命、その尊さをあらためて考えさせられる水俣忌。最近の世界情勢に対する危惧にも通じる一句。
- 吉田 和恵
特選句「花満ちて躰の芯の渇きかな」。桜の下には鬼がいると言われますが、満開の桜には底知れぬ不安が秘められています。躰の芯の渇きとは言い得ていると思います。
- 柾木はつ子
特選句「花満ちて躰の芯の渇きかな」。桜の花はなぜか人の心をざわつかせてしまうようです。心の奥にある言いようのない渇き、それがなんであるかは人それぞれだとは思いますが、花の下に佇んでいると、本当にそんな感情が湧いて来ます。特選句「寝ころんで良きことを待つ萬愚節」。このところ、何につけてもやり切れなさが募るばかりのご時世、大嘘でもいいから、腹を抱えて笑えるような事柄が起きて欲しいですね。
- 野田 信章
特選句「スカートと連翹の呼吸(いき)すれ違う」。一読、春の大気の爽快さがある。それは単なる描写でなく「連翹の呼吸(いき)」と把握された春の生動感の確かさにあるとおもう。読み返すほどに、すれ違う「スカート」そのものの「呼吸(いき)」づかいとも覚えてしまうところがある。これは一句の映像を支える叙情の作用の確かさかともおもえる。
- 三好つや子
特選句「スカートと連翹の呼吸(いき)すれ違う」。春風にそよぐスカートの裾あたりに、まばゆく咲いた連翹の花々。春ならではの躍動感に、吸い込まれそうな句です。特選句「精霊が青をあつめて仁淀春」。精霊という言葉によって、仁淀川のブルーに奥行を与え、スピリチュアルさを不動のものにしています。「この蝶のこの瑠璃色に戻らねば」。老いるにつれ、失くすものが増えていくなか、これだけは譲れない。そんな矜持が強く感じられ、心に刺さりました。「幼な子と眠るほてりや桜貝(増田暁子)」。子育中のつかの間の安息感。「ほてり」と「桜貝」の取り合わせが快い。「母ひとり父の海馬にゐて菫」。どんなに認知症が進んでも、妻のことを忘れない父への愛おしさが、菫にあふれています。
- 漆原 義典
特選句「春浅し句友はひとり旅急ぎ」。島田さんと句会でお会いし、ご指導いただいたことを思い出し、感謝しています。島田さんありがとうございました。
- 野口思づゑ
特選句「しなやかに空を拾って夕桜」。いいですね、「空を拾って」の描写。特選句「さくら咲くまた一枚の夜が明けて」。言われてみれば、夜はめくるように明けていくように思えてくる。朝の桜でしょうか、明るさに惹かれる。「君の名を呼べば春満月ぐにやり」。よほど「君」が大好きなのですね。「逃げ惑う子どもら麦の大地痩せ(大西健司)」。ウクライナでしょうか。心が痛みます。『一列に並んだ目刺「文句あっか」』。思わず、文句ありません、と言ってしまった。
- 岡田ミツヒロ
特選句「定年しない私に戻る菜花摘み」。成果とか実績とかの世界からの解放、これからは少年の昔へのゆるやかな歩み、菜花摘みのカタルシス。特選句「伝えてこその命は桜戦雨」。戦争はいかなる言辞で飾られようと実体は醜悪な汚物。飢餓と死と恐怖の塊。その実態を伝え、子孫を平和に永らえさせること、それでこそ、その命は桜のように美しい。戦争のグロテスクと桜の華かさ、命の価値。
- 向井 桐華
特選句「桜蕊死者の時間のゆっくりと」。「生」と「死」の時間を桜蕊になぞらえたところがいい。
- 榎本 祐子
特選句「風船の空を遠くに置きしまま(小西瞬夏)」。風船の空とは郷愁、思い出だろうか。日常という実の時間の背後に風船の糸のように自身と繋がっている。
- 時田 幻椏
特選句「春愁というほどもなく日の暮れる」。力みの無い何とはない日常感と、とは言え春の軽い倦怠も感じます。特選句「母ひとり父の海馬にゐて菫」。透明な情愛、羨ましい限りです。問題句「蛇穴を出てどの本能を頼ろうか」「ちゅうりっぷチューと言う時ちと拗ねて」。本歌取りの楽しさ、これもまた面白い句になりました。
- 田中 怜子
特選句「人類の最晩年へ花万朶」。そうならないように、目をしっかり開けて、事実をよくみて、声をきちんとあげないといけませんね。地球は春になって花を咲かせて、自然に従っています(地球温暖化で狂いだしてもいますけど)。特選句「戦場へつづく道なり夕櫻」。うかうかしているとつづく道を歩き出しているかもしれませんね。
- 佐藤 詠子
特選句「また脱皮したがる街よ夕陽炎」。街を擬人化したのが面白い。仕事や買い物帰りの道で振り向けば、いつもの街が風貌を少し変えるかのように見えた。高層ビル、マンション群、全国チェーンの店舗が増える景だろう。その重苦しさに街が脱皮したがっているという作者の呟きがある。夕方の陽炎の捉えどころのない美しさに、街も人も虚脱感を覚えるのは間違いない。「また」という出だしの二語に作者の住み慣れた街への愛が見える。そして、この句からは、人もまた脱ぎ捨てたい今を生きているとも受け取れる。脱皮することがかっこいいと決めつけられないが、街を歩く人たちは変わらない日常に安堵しつつも、環境に新しさを求めてしまう。その心の揺らぎが夕陽炎に滲み出ている気がする。一日の終わりの残像が美しい。
- 三好三香穂
特選句「しなやかに空を拾って夕桜」。空を拾って、という表現に惹かれました。暮れ行く空に桜の色も変わっていく。夕桜のしっとりとした情景がよく描けていると思います。
- 出水 義弘
特選句「君の名を呼べば春満月ぐにやり」。春満月に向かって、亡き人の名を心の中で呼ぶ。自ずと涙で月の形が崩れる。大切な人を失くした寂しい気持ちが良く表現されている。仏典に「倶会一処」の言葉もある。しばらくの別れだ。特選句「ときめきを未だ忘れず葱坊主」。 平々凡々で生きてきた人生。しかし、よく生き延びたとも思う。心身の若さを保つ秘訣の一つは、「ときめき」を持って日々暮らすことだと、ベストセラー作家兼精神科医の和田秀樹氏の著書にある。その具体的な方法として、俳句を作ることもありだと思う。
- 河野 志保
特選句「風船の空を遠くに置きしまま」。まず空という視界の広がりを感じた。そして心の自由みたいなものが生まれた。最後は風船の存在感にぐっと引き込まれた。
- 竹本 仰
特選句「春耕や土の饒舌問ふてみん」:昔、九十も半ばの母が土の上にぺたんと座り、楽しそうに草抜きをしていたのを思い出す。そう、どうもそこには対話が成立しているらしいのだ。そういえば、長塚節の『土』にもそんな対話があったように思う。たしかに自身の体験でも、土がもの言うのを覚えている。耕す土を持っている人が羨ましい。何かと生きる根底なるものがそこから問われているのかと思う。土を握りたいと思わせてくれる句だ。特選句「はなうたのひとのみちかけ山笑ふ」:作る側からすれば、ひとの鼻歌になるほどになった歌は冥利に尽きる。それは、人を生かす力になっている。下手をすると、人間の生き死にを実にさらりとまとめてしまった歌がある。或る書道の先生は「一」という字がもっともむつかしいと教えてくださったが、何かそれと響きあうものがある。何か、教えられるところを感じた。特選句「母ひとり父の海馬にゐて菫」:認知症になると、女の人はすぐにご主人のことを忘れてしまうが、男となると奥さんのことだけは忘れない、と聞いたことがある。実によくわかる。残すものが違うのだ。と、反省を余儀なくさせられた。以上です。♡先日、淡路放生さん復帰のメールをいただいた夜、さっそく、淡路さんが田口さんとして夢に出てきました。私が案内して、どこかの花の咲く庭園の斜面を下ってゆくのでしたが、さて、次はどこへ案内しようかと必死で思案している最中に目がさめました。今回は夢でのお付き合いでしたが、今後ともよろしくお願いします。
- 福井 明子
特選句「のどけしや釣り人横に阿呆鳥(吉田和恵)」。阿呆鳥と聞いて、直木賞作家川﨑秋子の短編「南北海鳥異聞」を思い出した。明治期その鳥を捕獲し羽毛を外国へ売っていたという。主人公弥平はひたすらアホウドリをなぶり殺し金を稼いだ。が、やがて禁漁。阿呆鳥は国の天然記念物に。「弥平が果てた地は、もう浄もなく不浄もない」と結ぶ。この句の、釣り人の横にいる阿呆鳥はゆっくりと地を歩む。その無垢な平和的な眸が、たゆたう波に溶けて点景となる。妙に目裏に残った。戦のなき地球を希求する。
- 藤田 乙女
特選句「さくら咲くまた一枚の夜が明けて」。 「1枚の夜が明けて」の表現が「さくら咲く」と重なり合ってとても美しい句だと感じました。 特選句「やり場のない怒りにも似て春の潮(佐孝石画)」。世界情勢やもろもろの社会問題など日常生活を送る中で自分の無力さを痛感したり矛盾や疑問を感じてもそのまま流されるように日々を送らざるを得なかったりすることがあります。やり場のない怒りを多々感じます。
- 銀 次
今月の誤読●「のどけしや釣り人横に阿呆鳥(吉田和恵)」。春の海。麦わら帽をかぶった男がひとり、堤防の端に腰かけ、釣り糸を垂れている。ほかにはだれもいない。いや、そうではない。人ではないが、一羽の大ぶりな鳥が男の横にうずくまるように坐っている。男はその鳥を気にするでなく、鳥のほうもただぼんやりと海を見つめているだけだ。竿はピクリともしない。やがて男は空を見上げ「いい天気だ」とつぶやいた。「そうですね」と鳥が応えた。男は驚きもせず、ただ大きなあくびをしただけだった。風もひかりも時間も、ゆっくりと流れてゆく。昼になり、男の持つ竿が小さくゆれた。男はその竿をすぐには引かず、しばらくそのゆれを楽しんでいた。やがて引き上げると小ぶりの魚が一匹、釣り糸に引っかかっていた。「釣れましたね」と鳥が言った。男は「うん」とうなずき、釣り糸から丁寧に魚をはずし海に帰した。「いいんですか?」と鳥が問う。男は「十分だ」と言い、竿を片づけはじめた。「帰るんですか?」とふたたび鳥が問うと、男は腰を上げ「ああ」と竿を肩にかついだ。鳥も立った。男が鳥に問うた。「おまえは何しにここに来たんだ?」。鳥は少し考え「あなたを釣りに」「で、釣れたかね?」「はい十分に」。男は大きく笑い、鳥も笑ったように見えた。そして鳥は空へと飛び立ち、男は背中を見せ、歩み去る。
- 新野 祐子
特選句「地に一花一顆のいのち水俣忌」。豊饒の海にチッソがたれ流しにされ、多くの無辜なる人々が苦しめられ続けてきました。水俣病が公式に確認されたのが56年5月1日であると。世界中でのあちこちに経済発展の犠牲にされる人々、生きものの自然そのものを忘れてはなりません。そんな思いにさせる句です。特選句「遠い国の争い私を蝕む春」。春なのに、わくわくとした気分にはなれません。戦争でないが、出し抜けにイランを攻撃し人々を殺傷するイスラエル、アメリカ。何て野蛮なんでしょうか。怒りが収まらない毎日です。
- 末澤 等
特選句「花満ちて躰の芯の渇きかな」。周りは明るく艶やかななか、自分だけが身体の芯から乾ききっている。そんな情景に私も時たま遭遇します。その場面を上手く表わしていると思い、採らせて頂きました。
- 石井 はな
特選句「母ひとり父の海馬にいて菫」。海馬は記憶を司る脳の部分、お父様の海馬に残るお母様は菫のような方だったのですね。海馬に大事に保存されている菫のイメージは、連れ合いに対する深く温かい愛情が伝わります。
- 薫 香
特選句「精霊が青をあつめて仁淀春」。仁淀川の青の美しさは精霊が集めたのですね。
- 滝澤 泰斗
特選句「地に一花一顆のいのち水俣忌」特選句「水俣忌晩柑の照り孤にあらず(野田信章)」。まさか、日常的に食べていた魚や貝や海老類に猛毒の水銀が含まれていたなんて・・・水俣忌が二句。高度成長期の翳を忘れずテーマに選ぶことの重要性を痛切に感じた。共鳴句「蝶の昼首里の迷路にまぎれこむ」。火事で焼失した首里城は今どうなっているかニュースであまり取り上げられなく分からないが、何度か訪れたたこともあり、出口が分からなくなった自分はまさに迷う蝶であった。掲句に触発されて・・・そういえば、首里城の「その後」が急に気になった。「薄氷やG線上にある卵」。薄氷、G線、卵・・・ダリの絵を彷彿とするような不思議な感覚。「嘘つかぬと嘘マイニチ万愚節(野口思づゑ)」。ならず者トランプの事かと思ったが、転じて、そのトランプを「世界を平和にする人」と持ち上げるタカイチSORRY・・・その内閣を支持する70%の世論・・・この世は嘘ばかり。まさにヨロズオロカナる世界住む我らもまたマイニチ、ウソか誠かを峻別させられるマイニチではある。実につまらん輩を奉っているバカバカしい世を、師は何と言って「喝」を入れるだろうか。「逃げ惑う子どもら麦の大地痩せ」。こちらは、ウクライナ。豊穣の大地の麦は、かつてワルシャワ条約機構の国々を飢えから救った。しかし、地球的規模の気候変動は「計画経済」の根底を揺るがし、やがて、崩壊を辿った。そこに今度は戦争が、飢えに、貧困に、そして、何よりも次代を担う子供に襲い掛かっている。「高楼に卑弥呼の孤愁春の月」。しばし、古代ロマンの世界に酔わせていただきました。
- 綾田 節子
特選句「蝶の昼首里の迷路にまぎれこむ」。首里城の裏あたりは迷路ですよね、若き日を、久しぶりに思い起こさせて頂きました。 特選句「奉公さん三つならべて初さくら」。大きさの違う奉公さんを思い浮かべました。 奉公さんと桜ではなく、初さくらが良く効いています。
- 菅原 春み
特選句「蟇穴を出てまた凹む 戦争」。なんとも終わりが見えない戦争。蟇蛙だって凹んでしまいますよね。共感。特選句「春おぼろ顔を隠して眠る癖」。何気ない日常を読んだところが、季語とあっています。
- 山下 一夫
特選句「春泥や鈍く光れる鍵の束」。束となるくらいなのでアナログな鍵、それが鈍く光っていること、春泥と取り合わせられているということから外部に面したドアの鍵を想像します。春泥を踏むような場所の鍵をそんなに持っているのはどんな人物で何をするのか。物語が始まる予感に満ちています。特選句「はぐれ方いよいよ上手しゃぼん玉」。通常は意図せず「はぐれてしまう」のでしょうが、掲句では意図的な含みが濃厚です。意図的に無意図的な振る舞いをしてその場や責任から逃れるということを上手にこなすというのは、かなりしたたかな大人です。無垢なイメージのしゃぼん玉と取り合わせにも大人の空っとぼけといった味わいがあります。問題句「母ひとり父の海馬にゐて菫」。脳の記憶中枢に関する解剖学用語の使用が目を引きます。菫は漱石の「菫程な小さき人に生まれたし」を思わせます。父の脳髄には母が巣食っていて父の意識の全てに影響を及ぼしているという程の意味でしょうか。大胆な句です。
- 大浦ともこ
特選句「遠い国の争い私を蝕む春」。春という季語のもつ不安定で不穏な一面をうまく捉えていると思います。そして先の見えない戦争に誰もが抱いている憂いや焦燥をストレートに詠まれていて共感しました。特選句「ひさかたの赤子の軽さ花ミモザ」。なにがあろうといくつになっても赤子を抱き上げた時の幸せと愛おしさ・・そんな感情と季語の花ミモザがとても響き合っています。ふわっと暖かい気持ちになりました。
- 森本由美子
特選句「母ひとり父の海馬にいて菫」。海馬の説明のなかに<情動の発現及びそれに伴う行動、さらに短期記憶に関係し種々の感覚入力に応じて時間空間情報を認知し・・>とある。お父様の海馬のなかに一輪の菫の如く、時にはさざなみの如く、永遠に存在するお母様のシルエットに想いを馳せたのでは。心打たれる句です。
- 松本美智子
特選句「花冷えや水の神には灯をささげ」。桜の頃の寒さは寂しさが伴います。もう暖かくなってもいいのに桜も寒さに凍え一層,寂しい思いが募ります。水辺の神様への温もりや平穏を祈って灯りをともす厳かで幻想的な春の夜の風景が思い浮かびました。
- 遠藤 和代
特選句「春耕や土の饒舌問ふてみん」。畑をたがやしているのでしょうか。土にここは何を植えたらいいのか聞いて決めるのでしょうか?土と会話している作者の姿が浮かんできます。
- 野﨑 憲子
特選句「夜櫻にろくろく首が笑い出す(淡路放生)」。夜櫻は、あまりにも美しく異界を映し出す鏡のようだ。だが、この「ろくろく首」は、妖怪の「ろくろ首」とはちがう、「ろくでなし」風のニュアンスがある。戦を止められないばかりか拡げて行く人類の暗喩のようだ。人間社会への熊の逆襲も、森の奥まで開発の手を伸ばし自然界のバランスを崩した人類に責がある。櫻の花たちは目を覚ませ人類よと言っているのだ。特選句「埜野路傍蒲公英名草黄々嬉花」。「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ(坪内稔典)の対極のような難解さにかえって惹かれる。「のの ろぼう たんぽぽ なぐさ こうこう きか」と読むのだろうか? 漢字ばかりの重い世界の中で、小さな光を掬い上げるているような健気さをこの句から感じる。 そうきたか!と感じさせてくれる二句へ・・「たんぽぽの絮ろくろく首にかな 憲子」
袋回し句会
朝寝
- 朝寝してまどろみのなか幾多の恋
- 末澤 等
- 朝寝して出き損ないの団子虫
- 岡田 奈々
- 嗚呼一度死んで人間朝寝かな
- 各務 麗至
- そうきたかつてお日さまニコニコ大朝寝
- 野﨑 憲子
- 「頑張れ」はとても言えねぇ朝寝の吾
- 藤川 宏樹
麦
- 雨あがるとんがっている青き麦
- 銀 次
- 品書きに油埃や麦酒来る
- 和緒 玲子
- 若冲の鶏や余白に大きな麦
- 和緒 玲子
- 遮断機に貨車のえんえん麦の秋
- 藤川 宏樹
- 四つ足で歩く少年麦畠
- 野﨑 憲子
- 少年の望みますぐに麦のごと
- 三好三香穂
- 麦の空ずうつと一緒にゐたいのに
- 各務 麗至
- 麦熟れて私発酵いたします
- 末澤 等
花(は葉に)
- 犯人はきっとあの桜かもしれない
- 柴田 清子
- 今だから言はせてもらう花は葉に
- 柴田 清子
- 山に谷さくらさくらの吉野かな
- 三好三香穂
- 花の雨花の嵐や花の精
- 三好三香穂
- 花は葉になってからなの夫婦なの
- 岡田 奈々
葱坊主
- あたたかき嘘をつく人ねぎ坊主
- 銀 次
- 喪の家の灯の頼りなく葱坊主
- 和緒 玲子
- 放哉や百一回忌葱坊主
- 各務 麗至
- 葱坊主君の破顔に接吻す
- 岡田 奈々
- 貴女からの恋の無茶ぶり葱坊主
- 末澤 等
- それぞれの空をみつめて葱坊主
- 野﨑 憲子
空
- 葉桜や風のリズムで空さわぐ
- 末澤 等
- 昼の月空にまあるくやわらかく
- 銀 次
- 手を拡げのどけし抱く雲と空
- 三好三香穂
- 剣山空の青さに隙間なし
- 末澤 等
- 空を抱くうしろ姿や春の風
- 各務 麗至
- 春菜野にバク転をして俺の空
- 野﨑 憲子
- 三振四死球生殺与奪春の空
- 藤川 宏樹
- カラスノヱンドウも鳶の笛も空だ
- 野﨑 憲子
【通信欄】&【句会メモ】
「昭和101年はジャズと映画と俳句のコラボ! ~あなたの俳句をジャズに~」のお誘い・・・大西 健司●第六三回現代俳句全国大会実行委員会から、「海程香川」の皆さまへお願いです。いよいよ作品募集が始まりました。そこで野﨑憲子さんに、お願いをし「海程香川」の皆さまに応募用紙をお配りさせていただきました。この大会は協会員はもとより協会員でない方もご投句いただけます。ぜひ「海程香川」の皆さまのご投句をお待ちしています。 大会担当の東海地区一丸となって頑張っています。ぜひ熱いご支援をいただきますようよろしくお願いいたします。 そして十一月二九日の大会にはぜひお出かけ下さい。「昭和百一年はジャズと映画と俳句のコラボ!」型破りな大会を目指しています。ジャズ句会は一部二部にわかれています。 第一部は表彰の一環として行います。優秀作品それぞれを即興のジャズに、通常のイベントですと一句の背景を作者が話す、演奏者はそこからイメージを広げ演奏する。そういう流れです。 懇親会での第二部は若い人たち中心に自由にやろうと考えています。楽しいものにします。ぜひみなさんでお出かけ下さい。何とぞよろしくお願いいたします。
本年の現代俳句協会全国大会のプロデュースは、本会の仲間でもある大西健司さんです。ジャズ句会に興味があり私も初参加いたします。皆様も、奮って参加し名古屋で存分に楽しみましょう!
今回は、観音寺より各務麗至さんが、美しい手作りの冊子本『島田章平 遺稿句抄』を、句会へ持ってきてくださいました。限定本なので、今回の句会へご参加の方々に配らせていただき、章平さんの義兄様にもお渡しいたしました。ありがとうございました。そして久しくお休みされていた淡路放生さんが、またご参加くださいました。とても励みになります。この句会の盛会が、兜太先生を始め、他界された方々への何よりのご供養と信じています。今後ともよろしくお願いいたします。
Posted at 2026年4月27日 午前 02:25 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]