2026年10月26日 (月)

第177回「海程香川」句会(2026.10.10)

万智のイラスト電車2026.10.JPG

事前投句参加者の一句

   
<祝上木『藍の晩年』若森京子句集>燕らの去ぬ日を知りぬ藍を着て 男波 弘志
夜景より芒いっぽんがひかり 河西 志帆
猪は雲の合図を逃さない 豊原 清明
干渉もされぬ齢に赤とんぼ 佐藤 詠子
奈落より深き沈思をスズムシと 松本 勇二
今やるわ明日すべきを今朝の秋 藤川 宏樹
子持ち鮎生きる理由を呑み込めり 木村 寛伸
宛名不明のハガキことんと渡り鳥 若森 京子
黄泉までを野菊となりて母白寿 吉田 和恵
来て泣いて女ともだち葡萄吸ふ 小西 瞬夏
青きまま渋柿食んで満たす猿 佳   凛
人をらぬ世界を創る夜の霧 川本 一葉
行く末は知らぬが良きと敬老日 出水 義弘
大腿四頭筋シベリア色の鶴来たる 増田 暁子
ネルドリップのひと垂れ秋思払いけり 植松 まめ
ススキはら夜の小腹は電子マネー 石丸ゆかり
湯の軽き揺らぎに任せ草雲雀 時田 幻椏
寡婦なれば此の身は易し秋寂し 柾木はつ子
曼珠沙華やさしく視線ずらしけり 佐孝 石画
ふるさとは黄色い帯の泡立ち草 三好三香穂
釣瓶落としたとえあなたが来なくても 竹本  仰
かさぶたの色して咲けり吾亦紅 月野ぽぽな
君の声聞こえぬ素振りちちろ鳴く 末澤  等
釣瓶落としや思わぬ生に飲まれおり 遠藤 和代
白露になりそこないたる涙たち 桂  凛火
ポストまで病後の夫と帰燕かな 重松 敬子
鍵失くす心の箱や秋桜 藤田 乙女
掌のかすかな狂気曼珠沙華 亀山祐美子
秋の日に甲骨金文筆が舞ふ 漆原 義典
いいことがあるよと芋虫這うており 河田 清峰
海霧(じり)に濡れ俗身の舟戻りけり すずき穂波
渡り鳥しみじみ独り暮しの身 淡路 放生
進化形のパスタ名月所望する 大西 健司
飛び六方さながら釣瓶落としかな 岡田 奈々
何するものぞ吹き出す汗やゑがほの子 各務 麗至
秋の夜の顔半分が池縛る 中村 セミ
反戦や金平糖が尖つてる 樽谷 宗寛
秋空を瞳いっぱい無欲なり 岡田ミツヒロ
獅子舞を終えたる二人秋日和 布戸 道江
湯呑茶碗でいただく珈琲良夜かな 伊藤  幸
マカロンの青の一列秋うらら 松岡 早苗
水中歩行眼をまっすぐに豊の秋 野田 信章
AIアプリの軽きジョークや夜の長き 塩野 正春
蜻蛉のついと乗りたる山男 矢野二十四
深深と重く受けとめ紙風船 田中アパート
またひとつ許されていく無月かな 高木 水志
揺れる青春碧き真珠の首かざり 疋田恵美子
とんぼうや吾の頭上も風の道 福井 明子
出口のない花野に入ってしまいけり 柴田 清子
いじめられっ子いじめて泣いた秋の暮れ 滝澤 泰斗
日本晴れ能登はやさしや土までも 荒井まり子
鮭ひたひたと滝へ就活の航(ふね) 十河 宣洋
絡み糸丸めて投げて白き月 銀   次
ずいぶんと遠くへきたよ川の秋 花舎  薫
白百合嗅ぐ素顔だか無表情だか 三枝みずほ
十三夜炙れば曲がるものを食う 三好つや子
何を見むみなまた(胎児性水俣)の少女濃き睫毛 田中 怜子
わたくしも浦島太郎秋の浜 山下 一夫
合鍵に沈むポケット秋黴雨 和緒 玲子
語り出すきっかけだった彼岸花 河野 志保
老犬の歩幅に合わせ歩く友 薫   香
曼珠沙華褪せゆく刻は沈思して 新野 祐子
ガトーショコラほろほろ秋のこぼれおり 綾田 節子
清純は生き延びる知恵秋桜 野口思づゑ
月満ちて意思の地下茎張りにけり 松本美智子
月光のかけら夢見の深海魚 榎本 祐子
夕花野あをき火ひとつ奔馬なる 野﨑 憲子

句会の窓

松本 勇二

特選句「大腿四頭筋シベリア色の鶴来たる」。大腿四頭筋と鶴の取合わせの距離の遥けさがみごとでした。鶴をシベリア色と形容する感覚もしかりです。

小西 瞬夏

特選句「十三夜炙れば曲がるものを食う」。十三夜、というまだ十五夜には少しある、という景が絶妙。炙れば曲がるものは、スルメか干した魚か、と思うが、それ以外にも何か作者自身の思いのようなものである気もしてくる。

若森 京子

特選句「白露になりそこないたる涙たち」。きらきらした美しい一句の中に,計り知れない悲しみを感じる。涙たち と擬人化した発語がそう思わせるのか。特選句「月満ちて意思の地下茎張りにけり」。宇宙的な作者の強い思いに惹かれる。あかあかと月が輝く空,同時に静かに作者の意思の茎がしっかりと地を張ってゆく生きる力に惹かれた。

矢野二十四

特選句「感情のくびれくびれて唐辛子(三好つや子)」。 感情が「縊れる」と唐辛子になる。面白い詠み振り。「こぼれ萩出水厭わぬ巡業師」。和ませる巡業師と読んだ。こぼれ萩がよいと思う。「来て泣いて女ともだち葡萄吸ふ」。男なら酒だろうが女の人は葡萄らしい。ワインかも。「奇声なき路地のさみしさ大暑かな」。 たむろする若者もいなくなると廃墟。暑さだけが残る。「運動会ネット裏からちょっと見て」。働くシングルマザーの実情。体験的に解る。「獅子舞を終えたる二人秋日和」。秋日和の景に風土感あり。「白百合嗅ぐ素顔だか無表情だか」。のっぺらぼうと言えばそのような花。「ガトーショコラほろほろ秋のこぼれおり」。お菓子の零れる様を秋に見立てて美味しそう。「月光のかけら夢見の深海魚」。ブルーの景に包まれほっと一息つける句。

岡田 奈々

特選句「月満ちて意思の地下茎張りにけり」。こんなに強い意志を持って完遂しようと考えられる物を持っているって、どんな計画?特選句「曼珠沙華褪せゆく刻は沈思して」。此方も長く考えの続かない私には驚きです。「こぼれ萩出水厭わぬ巡業師」。生業とはいえ、行った先が洪水など見舞われれば一つ一つ対応する。そう言う能力も必要なのですね。「宛名不明のハガキことんと渡り鳥」。あの時のあの鳥さんからのメッセージなのか?「ふと忘れふと思い出す芋嵐」。40度を超えるあの夏を忘れそうな今日この頃。だいたい用のあるときは思い出さず、他のことしてたら、思い出す。調子っぱずれの私。「待ち人と謎解きをする今日の月」。こんなゆっくりしたシチュエーションあったかな。「曼珠沙華やさしく視線ずらしけり」。この御句を作られた方の優しさに一票。「秋の川機嫌なおしてくれないか」。秋の川=山の神と変換させて頂きます。「AIアプリの軽きジョークや夜の長き」。AIほど人の気持ちを良くさせてくれる物はないようです。妹が我ら夫婦の性格と相性占って、出してくれましたが、良すぎて、嘘やろと笑ってしまいました。AIには方々、ご用心を。「素うどんや雲量ゼロの夏休み」。ほんと素っ気ないほどの晴天続きでした。

植松 まめ

特選句「バス停にひとり増えたり鰯雲(布戸道江)」。なにかなつかしい、やさしい気持ちになる句好きです。特選句「海霧(じり)に濡れ俗身の舟戻りけり」。釧路の作家原田康子に「海霧」と言う小説がありました。霧の多い釧路の湿原に行ったことはないけれどこの句にとても惹かれました。

十河 宣洋

特選句「揺れる青春碧き真珠の首かざり」。真珠採りのタンゴという曲があったなあとふと思った。タンゴのリズムに乗る若い肉体と心を思う。まさしく青春である。特選句「白百合嗅ぐ素顔だか無表情だか」。私の庭にも毎年まっ白いカサブランカが咲く。そのことを思いながら。白百合に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。その顔が無表情だという。それが素顔かもしれないと思いながらその仕草を見ている。日頃の感じと違う仕草を見たのである。

三枝みずほ

特選句「秋空を瞳いっぱい無欲なり」。こう言い切った後に、人間が大地にどっしりと立っている景が立ち上がる。天のエネルギーを掴み取った万物一体の感覚が表出されている。

豊原 清明

特選句「かさぶたの色して咲けり吾亦紅」。かさぶたにたとえた所が良かったというより、目立った。特選句「進化形のパスタ名月所望する」。好きな俳句。パスタ名月は何円か、気になる。それとも、パスタで切れるのか。問題句「たそがれに望郷のキラッ曼珠沙華(竹本 仰)」。言葉が新鮮。ただ、「望郷」が気になりました。「キラッ」で「曼珠沙華」いいなと思います。

各務 麗至

特選句「反戦や金平糖が尖つてる」。何故地球上では争いが絶えないのですかねぇ。人類の奢り果てなしとの句がありましたが。反戦と立ちあがってもそれも争い……。甘いけれど金平糖も尖っていて……、だけど……、というような何とも言いようのない無常観が思われました。そして、特選句「清純は生き延びる知恵秋桜」。それこそ互いに清く純粋にこそが人類の争いも無く生き延びるコツ。秋桜の自然のままに揺れている美しさやさしさ……、そんな生き方は、難しいのですよね。でもそうありたいですよね。二句一章でとんでもない鑑賞になってしまいました。天災に人災に、本当に考えさせられる時代になって……。

樽谷 宗寛

特選句「ゆるキャラの巨人化したる案山子かな(山下一夫)」。明日香の 稲渕や橋本の町や村あげての案山子まつり。黄金の波のなかゆるキャラの巨人がここここに立っていて人々を待ち受けています明るい笑顔になって写真を撮る人見入っているひとさまざま、こういう光景を一句から思い浮かべました。私の知り合いの養鶏場の知人は展示会を終えると卵売り場にかざりますが残念なことに 今年は不参加のようです。ゆるキャラがよい。

和緒 玲子

特選句「十三夜炙れば曲がるものを食う」。炙れば曲がるものとは何だろう。火を通せば大体のものは曲がると思うが、十三夜という季語を配することによりその「もの」に意味が生まれるように思う。好きな世界観。

大西 健司

特選句「湯呑茶碗でいただく珈琲良夜かな」。何でもない光景だけどほっこりする。縁側でお月見でもしているのだろう。何気に出されたコーヒーはもちろんインスタント。湯呑茶碗にコーヒー、ありだと思います。特選句「AIアプリの軽きジョークや夜の長き」。問題句とも思ったがよく目にするAIを詠んだ句に比べ捉え方が面白いので特選。ただ下五の季語が少し気にかかった。今のままだと少し切れが悪い。

榎本 祐子

特選句「AIアプリの軽きジョークや夜の長き」。今時の夜長の過ごし方。笑えるような、笑えないような面白さ。

淡路 放生

特選句「黄泉までを野菊となりて母白寿」。長寿の母が黄泉に行くまでを、野菊になって生きると言う句意である。黄泉と白寿は近いが野菊は遠い、それを句は見事に決めて、おもむきがある。野菊とはほのぼのとした最晩年であろう。

佐藤 詠子

特選句「秋愁ひ一両列車の固き椅子(小西瞬夏)」。一両列車が旅の途中なのか、日常的に乗車するものかの違いも含め、読み手にそれぞれの記憶が現れる句。秋田の片田舎を故郷に持つ私としては、毎日通学で乗っていた路線を思い出した。かつては多くの人が通勤通学に使った何両も連なった列車。それがいつの間にか一両になってしまった。空いている。固き椅子の身体感覚に時代に取り残されたような淋しさも感じる。特選句「石の黙風の沈黙酔芙蓉(亀山祐美子)」。命の確かな気配を感じる名句。石の黙…語らないのが当然の存在。長い年月、人の営みを黙って見てきた。風の沈黙…風には本来動きや音のあるもの。それが沈黙するというのは風が止まった一瞬だろう。酔芙蓉…朝咲き時間とともに白から紅色に変化し、夕方にはしぼんでいく花。人の命の儚さにも似ている。静寂の中に酔芙蓉の命の確かな動きがあるとは、何とも刹那の美である。問題句「鍵失くす心の箱や秋桜」。心の箱に惹かれた。自分の中にある言葉にならない感情、心の中にしまった思いと捉えた。揺れる秋桜に不安とそれでもいいやという今の自分の姿も重ねている。情景はわかり共感できるし、上五に鍵失くすと印象に残る言葉を持ってくるのも良いのだが、読んでいて鍵失くす/心の箱や/秋桜…独立しすぎていて少し読みにくい感もある。三段切れでとも受け取りにくい。平明になってしまうかもしれないが「秋桜や心の箱の鍵失くす」「鍵失くす心の箱に秋桜」 ではいかがだろうか。

綾田 節子

特選句「掌のかすかな狂気曼珠沙華」。曼珠沙華の形はそういえば掌に似てます ね、真っ赤な色は確かに狂気の色ですね。掌のかすかな狂気「よくぞ」です。納得さされました。特選句「いいことがあるよ芋虫這うており」。可愛いの一言。こんな句が私も作れたらいいなー。

河西 志帆

特選句「十三夜炙れば曲がるものを食う」。スルメを炙っている匂いがしてきました。美味しいものは曲がるんですよね。少しの醤油とね。特選句「かさぶたの色して咲けり吾亦紅」。確かな発見ですね。素朴な色ですよね。膝小僧にいつも作っていた子供の頃を思い出しました。問題句「ススキはら夜の小腹は電子マネー」。上五の五文字を、わざわざカタカナとひらがなにした効果があったかどうかだと思います。「コスモスを食べたいなんて子が言へり」。食べられそうですよね。菊は食べられるもの。それより美味しそうだもの。「出口のない花野に入ってしまいけり」。ちょっと怖いですね。綺麗な色に迷って、出口が見えなくなるなったのかもしれません。

重松 敬子

特選句「晩年に晩節ありぬ草の花」。同感です。

木村 寛伸

特選句「人をらぬ世界を創る夜の霧」。「人をらぬ世界を創る」という言葉によって、人間そのものが消えてしまった世界、あるいは人間が自ら作り出してしまった人間不在の世界まで想像が広がる。「夜の霧」がその思想を包み込み、説明を拒む余白もある。自然と人間存在への問いが一句の中で静かに反転している。特選句「星流るいまだ傷跡不発弾(増田暁子)」。「星流る」という美しい光景から、「傷跡」「不発弾」へ転じる落差が鮮烈である。「いまだ」の一語が、戦争を過去の出来事にせず、現在に残るものとしている。反戦を直接叫ばずに戦争の記憶を呼び起こしているところに力を感じた。問題句「反戦や金平糖が尖つてる」。「金平糖が尖つてる」という把握には、可愛らしさと攻撃性が同居していて面白い。一方で、「反戦や」と最初に掲げたことで、後半の金平糖の像が「反戦」という意味に回収されすぎる危うさも感じた。「反戦」という大きな言葉を置くことの是非を含め、問題句として挙げたい。

塩野 正春

特選句「晩年に晩節有りぬ草の花(岡田ミツヒロ)」。私もまさに晩年を迎えています。これまで考えた事もありませんでしたが、やはり品位、節度を保った最後を迎えたいと望むようになりました。季語 草の花、効いてますね!どんな花より野辺に咲く花に憧れます。特選句「釣瓶落としや思わぬ生に飲まれおり」。いきなりの切り出しで驚きましたが,なるほど。この世が果てしなく不透明で、ブラックホールに渦を巻いて吸い込まれるような速度と変化を余儀なくされている感じです。俳句で言うなら正に釣瓶落としの毎日です。♡自句自解「ふと忘れふと思い出す芋嵐」。なんとま~物忘れがひどくなり、そうかといってひょんな時に様々昔を思い出す昨今です。いうなれば嘗ては兎と亀、今や忘却と記憶の競争です。「AIアプリの軽きジョークや夜の長き」。時々AIアプリ(チャットGPT)に尋ねる事があります。驚いたことに途切れることなく調べ、教えてくれます。ジョークもすごいですね!人間負けちゃいそうです。ボケを防ぐには彼女(AI)と話すのがいいかも。

野田 信章

特選句「十三夜炙れば曲がるものを食う」。「十三夜」に凭れかかりのない、簡素な独酌の句と読んだ。中句以下の言いまわしが何とも素朴具体的である。「炙れば曲がる」という種々の小さな干物の一片をつまんで見たくなる。鉄炙と炭火の赤に昭和の原形が想起されて、その生気いまだ失せずとも思わせる句柄である。

高木 水志

特選句「反戦や金平糖が尖つてる」。金平糖は小さいが、時間と手間をかけて作り上げられた、その金平糖は一生懸命に戦争を拒んでいる。

柴田 清子

特選句「夜景より芒いっぽんがひかり」。この作者が、見て来た夜景、この作者が、今目にしている一本の芒が、見事に詠はれていて素晴しい一句です。特選です。

河田 清峰

特選句「十三夜炙れば曲がるものを食う」。完璧なもの独りよがりなものより、少し足らなくて助けを必要とするものが美しい。

松岡 早苗

特選句「いいことがあるよと芋虫這うており」。丸々と太った芋虫。葉っぱを食べる害虫だけど、どこか可愛らしいその外見です。「芋虫」から、「いいことがある」と繋がる発想のポジティブさ、優しさに惹かれました。特選句「とんぼうや吾の頭上も風の道」。蜻蛉の飛ぶさまから、頭上をゆく秋風に気付く。秋らしさの切り取り方がとてもお上手で、句の視点や描き出し方が大変勉強になりました。

岡田ミツヒロ

特選句「名月や人の始まり問いかける(河野志保)」。悠久の歳月を照らす月、じっと眺めていると人の起源の昔のこと、つい少し教えてくれないか、と言ってみたくなる。特選句「夕花野あをき火ひとつ奔馬なる」。人生の黄昏とき、来し方を顧れば燃焼しきれない思いが激流のように胸中を駆けめぐる。荒野の光景は、そのうっ屈の心象風景であろうか。

花舎  薫

特選句「来て泣いて女ともだち葡萄吸う」。来て泣いて吸うという三つの行動をたたみかけ情景を的確に描いている。そこに聞き手である自分は入っていない。自分本位の女友達が目に浮かぶ。泣く理由は多分恋愛問題だろう。少なくとも聞き手はそれほど深刻に受け止めてはいない。ああまたか、という気持ち。葡萄の甘酸っぱさ、吸うという少々粗野な行為がことの軽さと滑稽さ、そして友人関係の近さをもよく表している。一粒ごとに新たな愚痴が始まる。皿にはまだまるまる一房。今日の泣き言は長いかも。

月野ぽぽな

特選句「欲望の楽しよ零余子飯旨し(榎本祐子)」。兜太師の「どの本能と遊ぼうか」に似た感慨でしょうか。人間には欲望はつきもの。それに翻弄されるところから、それさえも楽しむ境地へ。むかご飯が素朴で、その心地のあたたかさ穏やかさを伝えます。

男波 弘志

「十三夜炙れば曲がるものを食う」。俳諧の太々しさが横たわっている。月の美意識に苛まれていないのが手柄であろう。嘗て、俳の聖が縁側で餅に糞をする鶯を詠んだのも同じ境地であろう。秀作。

伊藤  幸

特選句「ネルドリップのひと垂れ秋思払いけり」。ネルドリップで抽出されたコーヒーの深くまろやかな香りが物思いに沈む心を豊かな夢の世界へ招くのです。まして秋の夜のコーヒーとなれば感慨一入、月を愛でつつゆっ くり味わいたいものです。特選句「水中歩行眼をまっすぐに豊の秋」。最近 病後術後のリハビリや健康維持に水中歩行を行っている人を多く見かける。私もその一人。水中歩行はプールの水圧・浮力・抵抗を利用してできる有効的な有酸素運動。中語の「眼をまっすぐに」という措辞と「豊の秋」の季語が作者の健康における、ひいては人生における前向きな姿勢が伝わってくる。

増田 暁子

特選句「AIに過去なし秋の彼岸来る(松本勇二)」。大活躍のAIですが、人間の感情のように亡くなった人を思う気持ち、望郷、家族愛などあるのでしょうか。特選句「出口のない花野に入ってしまいけり」。花野の入るのは楽しい事ですが、慣れると恐ろしいですね。子供や大人のゲームとか、お酒、賭け事、その他色々ありますね。出口が大切だと思う。特選句「わたくしも浦島太郎秋の浜」。いつのまにか月日が過ぎて、あっと思えば老人です。

佳   凛

特選句「人類の奢り果てなし夜半の月(藤田乙女)」。少し欠けた十三夜、願いを賭けた昔 今は月の資源を我が物にと、人間の果て無き欲望が見え隠れする時代。月への思いは、人それぞれ、素直に月を愛でたいと思います。

布戸 道江

特選句「鶏頭や横顔だけがある人に(男波弘志)」。横顔の自画像をみたことがある、鶏頭は正面より横顔、鶏頭と横顔の取り合わせが新鮮です。「反戦や金平糖が尖つてる」。金平糖は懐かしいお菓子、尖ってる、まるで角を立てているように、金平糖は怒っているのだ、いつまでも続く戦争に。「 十三夜炙れば曲がるものを食う」。満月ではなく十三夜、真っ直ぐではなく調理して曲がった食べもの、何となくその感じわかります、味わい深い俳句。

銀   次

今月の誤読●「月光のかけら夢見の深海魚」。深海魚(ここでは名前を「シン」としておこう)はいつも月の夢を見ていた。一度も見たことのない月だった。海の底には光は届かず、月が空に浮かぶことさえ知らなかった。ただ夢のなかで銀色に光るものがひどく懐かしかった。ある夜、シンは海底に落ちている小さなかけらを見つけた。月のかけらだった。口に含むと海の底が明るくなった。岩の隙間から眠っていた生きものたちが顔を出し、シンははじめて自分の影を見た。翌朝、かけらは消えていた。シンはまた暗やみに戻ったが、もう夢を見ることはなかった。その朝、海辺で少女は月のかけらを拾った。手のひらにのせた瞬間、波の音が消え、風がやさしくなった。少女はかけらを飲み込んだ。それから少女は、眠るたびに海の底に沈んでゆく夢を見た。暗闇のなか、一匹の魚に出会った。シンだった。シンは口先で、少女のくちびるをツンツン突いた。少女は笑い、シンに尋ねた。「どうしてあなたは、わたしにキスするの?」。つづいてシンは少女に頬ずりをした。少女に突然、愛しい思いがドッとあふれ泪が出た。泪はあぶくとなって長い時間をかけて海面に出た。海面の上の、ずっと上にはポカリと月が出ていた。月はまたポロリとひとかけ、かけらを落とした。

福井 明子

特選句「清純は生き延びる知恵秋桜」。秋晴れの高い空に秋桜が一面に咲いています。長く過酷な暑さの渦中をかいくぐり、今、風の吹くまま細い枝をしならせて自在になびいています。その様子を「清純は生き延びる知恵」とさらりあらわしています。とてもしっくりときて、眼前のコスモス野の原をつくづくとながめました。

藤川 宏樹

特選句「青きまま渋柿食んで満たす猿」。青いままの渋柿を満腹まで食べるなんて。猿は人間に近いと言うものの、想像しただけで口内シュワシュワッ!となりました。

亀山祐美子

特選句「出口のない花野に入ってしまいけり」。余りに散文的なので俳句っぽくしてみた。『出口なき花野彷徨ひ歩きをり』何か違うなぁ…。何か違う。あっ!これ俳句だよ。俳句にのめり込んじゃったんだァ…。ご愁傷様。もう抜けられませんよ。遊ぶしかない。「バス停にひとり増えたり鰯雲」。ひとりの時間を邪魔された苛立ちが伝わる。「聖域にしゃがんでいたり曼珠沙華」。墓参りかなと思った。曼珠沙華の人懐っこさが哀しい。私が立ち去った後も曼珠沙華は立ち続ける。「反戦や金平糖が尖つてる」。止められない戦争への苛立ち無力感。何故戦争するのか。無駄使いの最たるものへの小市民の反感。「十三夜炙れば曲がるものを食う」。素直じゃないわね。スルメイカ齧って一杯やってますって云いなよ。新酒。新走り。手酌。十三夜。虫時雨。良いねェ…。日本の秋。今回の五句どれも好きです。佳句をありがとうございました。

河野 志保

特選句「夜景より芒いっぽんがひかり」。作者にとって「ひかり」は「芒いっぽん」だけ。作者を支える特別な何かだと思う。どうぞいつまでも大切にしてください。

山下 一夫

特選句「来て泣いて女ともだち葡萄吸う」。まずは、女ともだちのところへ来て、ひとしきり愚痴や感情を吐露してすっきりした後、やおら食いしん坊を発揮して機嫌を直している女子を微笑ましく想像。上五から「涙」、下五から「果汁」がそれぞれ連想され、液体つながりで瑞々しさが強調されているように思います。ただし、男性のところに来ているのかもしれず、そうだとすると意味深になってきます。特選句「十三夜炙れば曲がるものを食う」。炙れば曲がる食べ物でまず思い浮かぶのはスルメですが、他にも干物やベーコン、ノリなども。いずれもお酒のあてに最適。月とそれにしか言及していませんが、やはり飲んでいるのでしょうね。「十三夜」から、シンプルな内容の独り飲みを想像しますが、孤独かつ余裕の雰囲気があります。問題句「いいことがあるよと芋虫這うており」。口語部分のとりとめのない口ぶり、文語につながっていくずらずらとした言い方がいかにも芋虫が這っているようで面白いですね。

三好つや子

特選句「どの蝶が現の蝶や夢二の忌(川本一葉)」。浪漫あり、耽美あり、一言では語りきれない竹久夢二の世界を見事に表現。つきない魅力を感じました。特選句「何を見む胎児性水俣の少女濃き睫毛」。一読して、長崎生まれの友人のことが目に浮かびました。学生時代、陸上競技が得意で登山が好きだった彼女は、卒業してまもなく重いリウマチを患い、今も不自由な生活をしています。彼女のお母さんは若い頃長崎で被爆しましたが、まさか娘にこんな形で、影響が現れるなんて思わなかったはず。この句の少女もそうですが、怒りをどこに向ければいいのか、不条理感が止まりません。「大腿四頭筋シベリア色の鶴来る」。シベリア色という形容が、酷寒の国から渡ってくる鶴にふさわしい。「出口のない花野に入ってしまいけり」。どこまでも続く大花野は、たぶんあの世の入口ではないでしょうか。

漆原 義典

特選句は「獅子舞を終えたる二人秋日和」です。私のところの神社の秋祭は、今月、11日、日曜日でした。私は神社の役員総代をしており、天気に恵まれ盛大に執り行えたことに感謝しました。獅子舞を終えた二人の雰囲気が良く出てたいへん素晴らしいと思います。

石丸ゆかり

特選句「今やるわ明日すべきを今朝の秋」。今できることはしなきゃねと思います。特選句「マカロンの青の一列秋うらら」。とても綺麗な句ですね。マカロンが食べたくなりました。「釣瓶落としたとえあなたがこなくても」。秋の夕暮れに待ち人が来ない情景がめにうかびます。「俳句手帳ぼろぼろにして夏は逝く」。常に持ち歩いていたのかなと想像されます。 頭が下がります。

佐孝 石画

特選句「宛名不明のハガキことんと渡り鳥」。差出人不明ではなく「宛名不明」だから、自分が出した手紙が戻ってきたということだろう。または幻想としてそんな感覚を渡り鳥に感じたということだろう。現実を「ハガキ」に置くか「渡り鳥」に置くかで、解釈が分かれるところだが、もしかすると「ハガキ」と「渡り鳥」との出会いにいくらかの時差があり、どちらかが現実世界に触れた際にイメージが共振してできた作品なのかもしれない。

荒井まり子

特選句「釣瓶落としや思わぬ生に飲まれおり」。曼珠沙華や釣瓶落としとか素敵な句を拝見。思わぬ生に飲まれにガッテン。

野口思づゑ

特選句「夕花野あをき火ひとつ奔馬なる」。該当する絵画があるのかどうか私に知識はないものの、東山魁夷の青色と馬が浮かんできた。「今やるわ明日すべきを今朝の秋」。 面白い発想。「AIに過去なし秋の彼岸来る」。そうですよね。いくら影響力が最近増してきたといっても、過去がないのですよね。

吉田 和恵

特選句「<祝!『藍の晩年』 若森京子句集>燕らの去ぬ日を知りぬ藍を着て」。若森京子さんの千の俳句に献杯❕とは言えこの作品は作者の淋しさを感じさせます。

中村 セミ

特選句「釣瓶落としや思わぬ生に飲まれおり」。その女は、ほぼ嘘ばかりつくのが、生きる道だろうと考えていた。男を騙し自分の望みを叶えてきた。ある夕方ひとつの井戸をみつけた。喉も乾いていたので、鶴瓶で、水をくみ、引っ張りあげると、大蛇の口だった。ぱくとのまれ、鶴瓶がしばらくして、バシャと音をたてた。特選句「子持ち鮎生きる理由を呑み込めり」。鮭は、生まれた所に帰ってくる溯流と言う現象を見ようと、山奥までやってきた。道端に苦しそうにしている大きなお腹の妊婦がいた。彼女は、苦しそうに、私を川に投げ込んでと僕にいった。僕は、女を、やっとの思いで川に投げ込むと、彼女は、一杯の赤子を水に産卵すると、綺麗な女性となり、やがて、鮎となり、下流にながれていつてしまった。鮭の群れは、かまわず、レッドランをおこした。

柾木はつ子

特選句「干渉もされぬ齢に赤とんぼ」。自由と孤独は常に背中合わせ。人間関係をいい塩梅に保つのはなかなか難しいですね。特選句「秋空を瞳いっぱい無欲なり」。真っ青に澄みきった秋空を瞳いっぱいに湛えていると捉えるのか、ちょっと分かりにくいのですが、言わんとするところはわかるような気がします。こんな秋の空を見ていると、全く無欲に自分を投げ出してしまいたいと思いますよね。

滝澤 泰斗

特選句「<祝!『藍の晩年』 若森京子句集>燕らの去ぬ日を知りぬ藍を着て」。朝日俳壇選者と行く海外旅行の担当者として兜太師との縁が出来、いつも和服でご参加の若森さんとも何回かご一緒した。大阪赴任の折に三田句会にもお邪魔して勉強させていただきました。掲句に甚く感心しきり。共鳴句「夜景より芒いっぽんがひかり」。私が生まれた年に創立した合唱団白樺に所属して10年・・・ロシア民謡の「ロシアの野原」の一節を思い出させてくれた一句。「黄泉までを野菊となりて母白寿」。一面に咲く野菊は白寿に呼応している。「海霧(じり)に濡れ俗身の舟戻りけり」。俗身の舟とは・・・暗喩の意味の捕えかたで面白く変化する。「何を見む(胎児性)水俣の少女濃き睫毛」。重いテーマだが、こういう句の大切だとつくづくに思う。「人類の奢り果てなし夜半の月」。トランプ、プーチン、ネタニアフの三悪党の世界。CO2を削減どころか、戦争で夥しい熱量を排出して温暖化を急速に高め、人間社会を、AIと共に脅かす。人間は人間をどう取り戻せるか。前の掲句同様、告発俳句は大切だろ思う。

竹本  仰

特選句「子持ち鮎生きる理由を呑み込めり」:生きる理由と問われても、すぐには答えにくい。大体は、当面の何某かの答えを探し出すかしかない。だが、ここはそんな上っ面な答えではなく、自問自答の末、呑み込みにくいことを呑み込もうとして、答えを探そうとしている気がした。特選句「とんぼうや吾の頭上も風の道」:そうか、ここにも風の道があるんだ、という発見。それは、とんぼのだけではなく、自分でも乗っていけるものではないのか、という微かな希望。何かいいことありそうな予感が、語られていると思った。特選句「ポケットに沈む合鍵秋黴雨」:何だか、ミステリー的なストーリーを感じさせる。この合鍵が、どういう人間関係で成立するものなのか、またこの沈潜な画面から、今後のあらすじにも興味がゆく。結論の出ない人生の、それゆえ貴重な一断面が示されているのか。安部公房の「無関係な死」という短編を思い出した。

藤田 乙女

特選句「黄泉までを野菊となりて母白寿」。素敵なお母様への思いがストレートに伝わってきました。特選句「月光のかけら夢見の深海魚」。まるで絵本の物語を想起させるような美しい情景が目に浮かびました。

松本美智子

特選句「夜景より芒いっぽんがひかり」。1枚の日本画を見ているような気持ちにさせてくれる一句です。静かな中にも力強さを感じる絵を想像しました。背景にある夜景の中から芒のいっぽんが光たつように浮き出るように存在感を放っている風景を想像しました。孤独の中にみつけたひとつの希望のようなものかもしれません。闇の広がりの中でみるべきものを見つけた瞬間の喜びや驚きに詩情を感じました。

時田 幻椏

特選句「寡婦なれば此の身は易し秋寂し」。率直な心情の吐露、秋は寂しいものです。もし私でよろしければ・・・寂しい秋です。特選句「ネルドリップのひと垂れ秋思払いけり」。珈琲が上がるまでしばし物思う、最期の一滴がカップに落ちる時ピリオドに。些細な日常の何気ない秋の情緒、分かります。♡老人の身体、情況から来る如実な思いに共感、良く理解できるようになりました。同時に今回、作者に自句自解を頂きたいと思う読み切れない?マークの句が24句もありました。どう読まれているのか、講評が楽しみです。

末澤  等

特選句「湯の軽き揺らぎに任せ草雲雀」。かけ流しの温泉に入り、その湯の揺らぎに身を任せてホッとしてところに、コオロギの声が聞こえ、より一層身も心も休まっている感じが良く出ています。

川本 一葉

特選句「脱走の鶏ふはり抱く秋暁(川本一葉)」。この句と同じ経験をした。肉用に出荷されるのであろう鶏が何かの拍子にトラックから落ちたのだろう。センターラインのところに紙袋のまま落ちていたのだ。拾って連れて帰った。肉用なので太るに太らせ運動もさせていないから、歩けない。中国の纏足の鶏版である。柔らかい白い羽、食べられるはずのこの子は今日からうちの子へ。人生はわからない。

薫   香

特選句「掌のかすかな狂気曼殊沙華」。今回は曼殊沙華の句が多く、なかでも曼殊沙華の怪しい雰囲気が伝わってきます。

遠藤 和代

特選句「宛名不明のハガキことんと渡り鳥」。<宛名不明>と<渡り鳥>がぴったり合っていて面白い句だと思います。また中句は何となく孤独感が出ていて味わい深く読ませていただきました。

出水 義弘

特選句「受験子の寝し静寂よ虫集く(岡田奈々)」。受験生時代を思い起こした。四当五落をスローガンに、深夜放送を聞きながら、他の人よりも遅くまで机に向かうのを良しと信じ頑張った。深夜1時、2時にもなると受験生のいる家だけに明かりが灯り、あいつはまだ頑張っているなと思いながら、2階の窓から外を見たものです。虫の音も遠くから聞こえて来た。懐かしい若かりし遠き日のことです。特選句「秋蝶を葬るやうに落葉かな(銀次)」。自然の無常の営みの中に、やさしい眼差しを向けた、感受性に富んだ素晴らしい句だと思います。

田中 怜子

特選句「来て泣いて女友だち葡萄吸ふ」。そう、地を出せて受け止めてくれる女友達は大事ですね。上五にスピード感があって、下五に葡萄の汁も、もったいなくて吸うなんて、食欲、美味しいものに勝るものなし!特選句「ふるさとは黄色い帯の泡立ち草」。東京ではあまり見ることがなくなった泡立ち草。今回の福井の大会で泡立ち草を見て、やっかいものでなくなったのかな。でも、日本の農業の将来も暗示しているみたいで・・・でも雑草と共存する農業もいいのか、と。

野﨑 憲子

特選句「猪は雲の合図を逃さない」。雲はときに魂のように空を流れ、ふいに合図を送ってくる。この句の猪は、その微かな合図を聞き逃さない存在として現れる。何の合図か語られないからこそ、想像の翼が羽ばたく。自然に深く感応するものだけが知る世界が、静かに開かれてゆくようだ。「逃さない」の一語に、生きものの確かな勘と野性の強さを感じた。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

星・天の川
天の川鉄扉は音を立てて閉づ
和緒 玲子
億年の星や小鳥だったことも
三枝みずほ
ふるさとの暗きは星を輝かせ
三好三香穂
ゆらぎから生るるいのちよ夕星
野﨑 憲子
鷺飛んだ夕星はまだ出てゐない
野﨑 憲子
平和
夕星や平和の像の無表情
和緒 玲子
平和とは秋空羽ばたいてみるか
三枝みずほ
ああ平和帰らぬ人の靴を捨つ
銀   次
よくもまあ平和平和と秋の空
末澤  等
虫
夕ごころ蓑虫に風揺れやまず
和緒 玲子
おっかないものなくなって虫の声
三枝みずほ
擦り切れた腿のジーンズ虫の闇
藤川 宏樹
虫一匹古本屋の窓に張りついて
銀   次
いつのまに虫すだく庭いつのまに
三好三香穂
虫しぐれグググ肉むく活火口
野﨑 憲子
七竈
わが影を踏めないままや七竈
野﨑 憲子
ナナカマドだれも住まない家の庭
銀   次
ななかまど赤き芯なる平和かな
三枝みずほ
七竈燃ゆるがごとく風のなか
末澤  等
七竈笑つてゐたる道祖神
和緒 玲子
最後なら責任取って七竈
藤川 宏樹
栗
毬栗やとことん話し合うつもり
三枝みずほ
栗ひとつ取り残されて風に舞う
末澤  等
不斉自己触媒両手(もろて)栗金団(くりきんとん)
藤川 宏樹
栗を剥く読みさしの本伏せしまま
銀   次
栗一樹息苦しさもひかりです
野﨑 憲子
栗拾ふ友達ごっこ辞める
和緒 玲子

【通信欄】

第五回「海原」全国大会㏌福井に参加してきました。十月十七日、総会会場に入ると、佐孝石画さん揮毫による、一字一字が踊り出しそうな美しい横断幕が目に飛び込んできました。その下には、片手を挙げて微笑む金子兜太先生の写真が飾られ、会場には先生の話し声が流れていて、胸がいっぱいになりました。有志吟行では、句碑「青むまで」の前で、石画さんのお父様であり、海程時代の敬愛する先輩である齋藤一湖さんから、句碑建立の経緯を熱くお話しいただきました。その後、永平寺や朝倉遺跡を訪ね、まるでタイムスリップしたかのような不思議な時間を味わいました。句会や懇親会も大変盛会で、石画さんをはじめ、地元福井の中内亮玄さん、幅田信一さん、そして宮崎斗士さんをはじめ本部スタッフの皆さまのおかげで、楽しく実り豊かな時間を過ごすことができました。心より感謝申し上げます。

2026年10月12日 (月)

第178回「海程香川」句会(2026.11.14)ご案内

万智のイラスト電車2026.10.JPG

爽やかな季節になりました。秋祭りのざわめきを抜け、今回も、事前投句の合評に、袋回し句会に、個性あふれる鑑賞や作品が集まり、お陰さまで楽しく豊かな句座を開くことができました。 十月句会報抄は、月末掲載の予定です。お楽しみに!

では、11月句会のご案内を・・本年の〆句会です。奮ってご参加ください。

日時
2026年11月14日(土)
場所
ふじかわ建築スタヂオ☆☆ 高松市番町2丁目5-5
時間
午後1時 ~ 午後5時

事前投句は、通信句会形式です。投句締切は、11月7日(土)(必着)です。ご参加楽しみに致しております。

事前投句作品
2句
会費
500円

連絡先:noriko_n11☆yahoo.co.jp(☆を@に変換してください)

「海程香川」代表 野﨑憲子

2026年9月27日 (日)

第176回「海程香川」句会(2026.09.12)

万智のイラスト イッチ君とコスモス.jpg

事前投句参加者の一句

                                                                               
<悼・草間彌生さん>晩夏光水玉ひとつひとつにいのち 野田 信章
退化して角なきわれの焼き栄螺 桂  凜火
母なる海よ八月の汚染水 岡田ミツヒロ
揃へ置く父の履き物秋の声 松岡 早苗
今昔 女湯空に君の名は 田中アパート
敗北感ポケットにあり秋の蝉 木村 寛伸
葛の花時には褒めて荒凡夫 吉田 和恵
朝焼けて風の硬さや剣岳 末澤  等
黒板に行き先を書く今朝の秋 淡路 放生
メルカトル法めく虚勢 更衣 藤川 宏樹
記憶の中をクロスステッチ秋隣 岡田 奈々
一枚の夜が海から剥がれてる 中村 セミ
足裏に夏の終りを言い聞かす 松本 勇二
三時草葬送の刻告げにけり 樽谷 宗寛
父ちゃんを独り乗せ征く稲刈機 出水 義弘
黒鍵に触れカナカナカナと少女よ 大西 健司
残暑なほ猛暑居座る犬の舌 柾木はつ子
葉のそよぎ愉快九月の浮浪(はぐれ)雲 竹本  仰
水牛の櫛に滑るや洗い髪 疋田恵美子
おふくろの刈りたる稲の重さかな 銀   次
にんじんの赤がうれしい今朝の秋 重松 敬子
この地球引き摺るやうに朝の蟲 河田 清峰
秋の夜や童話はまるで哲学書 川本 一葉
秋の章静かに開く法師蝉 漆原 義典
長き夜の人工知能から返事 月野ぽぽな
安堵ってこんな紋様いわし雲 新野 祐子
三日月や泣くためにある風呂の鍵 和緒 玲子
名古屋から乗る女(ひと)雨の九月乗せ 松本美智子
コンセントの奥に闇ありひぐらし 河西 志帆
わが四肢はかすかな器夜の秋 男波 弘志
生まれた場所を探しうろうろ終戦忌 花舎  薫
のらりくらり蝸牛だって暇なんです 十河 宣洋
蘇生するもヌーベルバーグは極暑中 塩野 正春
身の重さ熊野古道の釣瓶落とし 増田 暁子
ねこじゃらし一人を鬼にする遊び 三好つや子
荒れる地球や今日の三日月きれいです 若森 京子
父が吾を爆弾と呵いし北の時計台 伊藤  幸
故なく酔いて蜘蛛の囲払う己が顔 時田 幻椏
忘れたり思い出したり未雲 佐藤 詠子
青葉木菟去りて古城の寂しがり 布戸 道江
ゴミ箱に夏の疲れをひょいと投げ 石丸ゆかり
夕焼けや勝つた負けたも又あした 各務 麗至
父母を知らぬ蓑虫風の中 佳   凛
かくれんぼのさいごのひとり月の舟 小西 瞬夏
木の皿と木の匙非戦草の花 菅原 春み
そんなこと忘れましたよ月涼し 矢野二十四
聞き分けのいい子の線香花火かな 高木 水志
ひとはみなことば足らざる蓮の実 亀山祐美子
朝顔の咲き継ぐ家の朝ごはん 榎本 祐子
鉦叩き横臥の母の水飲むを 福井 明子
ナマケモノ次はこの名のオスがいい 滝澤 泰斗
あの夏に箱入り娘は捨てました 遠藤 和代
つぶやきに既読つかない秋の暮 山下 一夫
蛍草トイレを居場所という少女 綾田 節子
そう国家国家おっしゃらず出目金 三枝みずほ
コンビニの灯に羽化せる蝉を手のひらに 田中 怜子
枇杷色のシャツの青年 青田風 植松 まめ
両の手に何にも持たぬ秋涼し 柴田 清子
残照に燃える鶏頭母の恋 藤田 乙女
向日葵を見上げて家族というさすらい 佐孝 石画
青北風よ罪はあるのか良き嘘に 野口思づゑ
雨月の音鳥隠者等の悲の色紙 豊原 清明
月白の夜汽車のやうな亡父だった すずき穂波
秋暑しねんねんころり暦繰る 荒井まり子
水玉の弾けて釣瓶落しかな 野﨑 憲子

句会の窓

松本 勇二

特選句「安堵ってこんな紋様いわし雲」。安堵というやさしくしっとりとした言の葉を、紋様に喩えれば鰯雲と書き納得です。みごとな閃きです。

小西 瞬夏

特選句「水玉の弾けて釣瓶落しかな」。追悼草間彌生さんですね。最近彼女の追悼句をたくさん見ましたが、この句はそれを全面に出さず、さりげなく書かれているのが素敵です。時間がたっても一句として成り立つとも思います。

豊原 清明

特選句「一枚の夜が海から剥がれてる」。これは絵だろうか。こういう有名な絵画があるのか。無知が悔しい。特選句「山肌の赤らむほどの旱かな(出水義弘)」。地球の温暖化は恐ろしい。企業のせい、アメリカのせいと思えているが、山さえ、苦しんで。問題句「唐十郎死してまなうらに底紅(すずき穂波)」。唐十郎は面白かった。句を読んで、亡くなったのかと知った。

伊藤  幸

特選句「敗北感ポケットにあり秋の蝉」。口に出せない負けの悔しさ。拳を握りしめポケットに突っ込む。秋の蝉にその悔しさ哀しさが伝わってくる。特選句「おふくろの刈りたる稲の重さかな」。おふくろのスキルには誰も勝たない。さすがおふくろ!それを評価する息子の優しさ。親子っていいですね。

岡田 奈々

特選句「葉のそよぎ愉快九月の浮浪(はぐれ)雲」。秋になり雲が、葉が涼しい風に揺れて、私もつられて、楽しい気分に。ああ良い気持ち。特選句「のらりくらり蝸牛だって暇なんです」。暇だから、ゆったり暮らせるのですね。私もゆっくり暮らします。「晩夏光水玉ひとつひとつにいのち」。 水玉ひとつひとつに自分の命を懸けて描いていたのです。「退化して角なきわれの焼き栄螺」。角が段々と取れて年を取ってゆくのです。「朝焼けて風の硬さや剣岳」。朝焼けを見ている我を我ながら偉いと思う。「一枚の夜が海から剥がれてる」。夜は海から作られる。「青空に白線を引く 八月(高木水志)」。一線を画して、八月は迎える。「ゴミ箱に夏の疲れをひょいと投げ」。疲れを取って捨てられたら嬉しい。「かくれんぼのさいごのひとり月の舟」。やっぱり残って私達を見守ってくれるのはお月様ですね。「聞き分けのいい子の線香花火かな」。線香花火はあれこれ言いたそうですが、結局、すっとおわります。

すずき穂波

特選句「ねこじゃらし一人を鬼にする遊び」。この句の「鬼」は【鬼の研究】で知られる歌人馬場あき子の、かの「鬼」であり「オニ」だろう。歴史風土に根強く絡まりつく民俗学的なソレ。人であるが故の「情のこゑ」に行き着く遊び。ねこじゃらしをクルクル野末に回し、回しながら己の裡の「オニ」に吸い込まれてゆく。裡なる「オニ」の正当化、肯定は人をさらなる高みに押し上げるに違いない。野末から戻った日常に潤いを感じて捻った一句だろう。特選句「そう国家国家おっしゃらず出目金」。何という納め方の句だこと。「出目金」がいい。「国家国家」がいい。「おっしゃらず」が更にいい。選評なんぞ、さらさらせずとも良しだ。俳人たる者の矜持が、こう詠ませた一句、だと思う。

矢野二十四

特選句「名古屋から乗る女雨の九月乗せ」。ひとりの乗客にある旅情と季節の移ろい。特選句「父が吾を爆弾と呵いし北の時計台」。父と子の激しい関係性の中にある郷愁。「揃へ置く父の履き物秋の声」。小津映画のワンシーンのような句。「椅子といふ秋思を素描するノート」。 秋思が椅子という絵になっている。「敗北感ポケットにあり秋の蝉」。きっと握り拳なのだろう。季語も佳し。「朝焼けて風の硬さや剣岳」。綺麗な景に決意あり。「ビスケットラップに包まれ地蔵盆(野口思づゑ)」。子どもが地蔵さんに供えた供物。「生まれた場所を探しうろうろ終戦忌」。よくわかる。私も廃坑で故郷はない。「むかしいた辺り手花火まだ消えず(松本勇二)」。思い出すのは親兄弟・ご近所。「故なく酔いて蜘蛛の囲払う己が顔」。世間も自分も鬱陶しい。

樽谷 宗寛

特選句「葛の花時には褒めて荒凡夫」。9月は亡き兜太先生のお誕生月ですね。荒凡夫は兜太先生と読みました。本当に褒めて欲しいですね。その気持ちがよく現れています。葛の花の色香が荒凡夫さまにぴったりですね。

藤川 宏樹

特選句「そんなこと忘れましたよ月涼し」。竹取物語。たくさんの貴公子の求婚を受けては無理難題を課して切り抜け、月に帰る日を待つかぐや姫。月を望み翁に投げかける語りと思われる。

木村 寛伸

特選句「月白の夜汽車のやうな亡父だった」。「月白」「夜汽車」「亡父」という三つのイメージが連鎖して、亡父の記憶が遠ざかっていく感じが出ています。特に「亡父だった」と過去形で閉じることで、単なる比喩ではなく、追悼性が生まれています。問題句「生まれた場所を探しうろうろ終戦忌」。これは作者独自の世界が非常に濃いです。「終戦忌」に「生まれた場所を探しうろうろ」という個人的な彷徨をぶつけたことで、戦争→故郷→自己の存在へ広がります。

若森 京子

特選句「長き夜の人工知能から返事」。Al時代になって人工知能が人間の知能を超えていく現在,この一句から何か恐ろしい予感がして仕方がない。特選句「そう国家国家おっしゃらず出目金」。世界中から国粋主義の兆しが聞かれる今,又歴史がスリ戻っていく様な不安を感じる。その深刻な問題を、この一句は軽く表現して、季語の出目金がよく効いている。

十河 宣洋

特選句「流木のやうなるふたり秋の浜(小西瞬夏)」。人気の減った秋の浜辺。何となく寂しい風景である。この二人男女と取ってもいいし、単に二人の人影と取ってもいい。なにか語っているようにも見えるし、じっと海を見つめているだけかもしれない。流木の流離のように見えた。特選句「名古屋から乗る女(ひと)雨の九月乗せ」。楽しく読める。雨に濡れていなくても雨を纏っているような雰囲気の女性。少し寂し気な雰囲気を見せる女性である。

各務 麗至

特選句「荒れる地球や今日の三日月きれいです」。現在の天災人災になげくことなく、三日月の美しさに希望を見ての力強さがある。特選句「月白の夜汽車のやうな亡父だった」。月白という夜空<世の中>に強い存在感と、電車でなく夜汽車というノスタルジー的力強さを亡父に重ねて偲んでいる、二句ともネガティブにならずポジティブに生きようとする決意が見えてきて、同じ力強さに共鳴することになった。

河田 清峰

特選句「秋の夜や童話はまるで哲学書」。秋の夜はやっぱり童話を読んで過ごしたい。

福井 明子

特選句「木の皿と木の匙非戦草の花」。木の皿と木の匙、という言葉になつかしさがひろがります。誰もがおさなく無垢な時代を過ごしていたのですね。非戦草の花の言葉が響いてきます。この世から戦争がなくなりますようにとの願いが伝わってきます。

和緒 玲子

特選句「ねこじゃらし一人を鬼にする遊び」。かくれんぼか鬼ごっこか。同居する無邪気さと残酷さ。風に群れる猫じゃらしの配置が寂しくも美しい。

布戸 道江

特選句「安堵つてこんな文様いわし雲」。空を見上げるのが好きです、いわし雲を見ると穏やかで優しい気持ち。「ひとはみなことば足らざる蓮の実」。ことばは足りなくても、言い過ぎてもいけない、蓮の実が効いている。「秋の川ふつうの家のような駅(河西志帆)」。駅も家も人の生活の拠点、自然豊かで穏やかな暮らしがみえる。

榎本 祐子

特選句「むかしいた辺り手花火まだ消えず(松本勇二)」。追憶の中の手花火はついたままとは、うるわしい抒情。

淡路 放生

特選句「わが四肢はかすかな器夜の秋」。―<かすかな器>とは童謡の<小さい秋小さい秋見つけた>と言うあのメロディに近いのではないだろうか。四肢をそのような器として詠むのは孤独な<夜の秋>である。

佐藤 詠子

特選句「記憶の中をクロスステッチ秋隣」。クロスステッチは刺繍の技法の一つで、図案を元に布に糸で「×」の模様をたくさん縫い絵柄になってゆくこと。秋が近づき物思いにふけることも多くなった作者。思い出を行ったり来たりクロスしている。×印で一つ一つ溜息をつきながらも、大きな形になってゆく。新しい季節へ踏み出すために。繊細な美しさを感じる句である。特選句「朝顔の咲き継ぐ家の朝ごはん」。作者の目線がよくわかる。朝ごはんを食べながら外の朝顔を見る。朝の景が二つもある贅沢な俳句。咲き継ぐのは、朝顔が毎朝咲くことだけではなく、家族の繋がりや家系を引き継ぐことにも受け取れる。「ごちそうさま」の元気な声が聞こえてきそう。問題句「両の手に何にも持たぬ秋涼し」。この気分、すごくわかる。実際に物を持たないことだけでなく、社会的に抱えてることもないという自由ともいえる。強いて言うならば「両の手に何にも持たぬ」だけで、充分軽さや涼しさがわかるので、「秋涼し」では説明っぽくなっている感がある。「秋隣」「秋の空」「秋の風」「秋の声」等々、景の立つ季語がいろいろありそうな気もする。

岡田ミツヒロ

特選句「父ちゃんを独り乗せ往く稲刈機」。「父ちゃん」「独り」「征く」の一語一語が現在の農業の実状と生産者の真情をリアルに描出している。特選句「残照に燃える鶏頭母の恋」。母の時代、女性は想う人がいても親の決めた縁組に従った。燃えるような鶏頭の花、それは胸の奥に収った遠き日の記憶の色であり、形でもあろうか。

柾木はつ子

特選句「コンセントの奥に闇ありひぐらし」。昨日、古いコンセントの差込口がついに欠けました。その時この句にある闇を思ったのです。コンセントの奥には深い闇が拡がっていてその闇に妖怪が棲みついているのかもしれない。或いはその闇はSF風な物語が展開する入口かもしれないと、我が家の壊れたコンセントの奥をまじまじと見たのでした。特選句「そんなこと忘れましたよ月涼し」。これまでの人生で喜怒哀楽、どちらかと言うと「怒・哀」の方が忘れられませんね。だから人生に味があるのかもしれませんが・・・忘れられないから、あえて「忘れましたよ」と言ってみたいのかも。それともすべて本当に忘れてしまった人の事なのかしら?

大西 健司

特選句「蛍草トイレを居場所という少女」。「三日月や泣くためにある風呂の鍵」と同様に逃げ場所を求めている。こちらはトイレだ。ただ単に自分の部屋がないからトイレに籠もる、今どきのトイレだからこそだろうが、そんななんでもない会話を蛍草の小径でしているのだろうか、どこか意味ありげに書いて秀逸。問題句「三日月や泣くためにある風呂の鍵」。空にはどこか淋しげな三日月。手には風呂場の鍵。こうしか読めないのだが、いかがだろう。三日月で屋外を思う。そして焦点は鍵にある。離れにでも風呂場があるのだろうかとなる。たとえば上五の季語を変え、「風呂に鍵」とすれば内側から鍵をかけているように読めるのでは。気になる一句だけにもう一手間を。

疋田恵美子

特選句「フードロス洋梨もある子ども食堂(増田暁子)」。洋梨を見た子供達の喜びの笑顔と歓声が聞こえます。特選句「三日月や泣くためにある風呂の鍵」。三日月の美しい佇まいと、孤独や哀しみを抱えながらも気高く生きる姿が見えて共感しました。

漆原 義典

特選句「父ちゃんを独り乗せ往く稲刈機」。中七の、<独り乗せ征く>の征くが趣き深いです。稲刈りは戦場を進む兵士のようですね。素晴らしい句をありがとうございました。

柴田 清子

特選句「朝顔の咲き継ぐ家の朝ごはん」。二世代、三世代一緒の、昭和の頃の、味噌汁の匂ふ朝。懐しく思える家族の姿を、朝顔をもって詠っています。特選句「月白の夜汽車のやうな父だった」。亡き父のたとえようが、ほのぼのと一句にあふれんばかりです。

植松 まめ

特選句「椅子といふ秋思を素描するノート」。こんな素敵な句つくりたいです。特選句「葛の花時には褒めて荒凡夫」。いい夫婦ですね。私も時々連れ合いを褒めないと。

中村 セミ

特選句「秋の夜や童話はまるで哲学書」。誰かが、童話の本を置いていたベンチにすわり、よんでみた。ウサギさんは護岸から飛び込もうとしていました。亀さんが死ぬ前に楽しみましょうと、妖しいバーにつれていき、亀さんは、女になり、ウサギさんは、男になりました。はなしは、ここからです。男は、ビールひと瓶飲んだだけで、恐ろしい男がでてきて、50万請求されたのです。男はそのまま、うさぎにもどりました。女は亀、恐ろしい男は、大亀になりました。店の名前は美人局その隣に、潰れそうな。郵便局がありました。ウサギはとびこもうとしましたが、亀の男女はすでに死んでいました。店に残された手紙に、死んでいく競争も、結局亀がはやかったのです。亀は遅いほど早いを伝えていると僕は思った。

野田 信章

特選句「椅子といふ秋思を素描するノート(三好つや子)」。秋意や秋情、秋思などの句には正述心緒の句も多いが諷詠的な句柄も多い。上句から中句にかけての、修辞の上では反転ともとれる表記によって「椅子」そのものの物象感が優先されている。わが「秋思」の主情を吐露に終わらせないものがある。素秋の大気の中で「素描」されたノートをめくる思いである。諷詠から表現へー私にとって示唆してくれる一句である。

桂  凜火

特選句「俯せに白い眠りへ夏の果て」。白いという色の指定がとても効果的に使われていることで日常なのに非日常を描けていると思う。

男波 弘志

「谷に姥百合飯食い男ばかり殖え」。何故か「三日月がめそめそとゐる米の飯 兜太」この一行詩が真っ先に浮びました。そう泣いてばかりはいられない。そういうことでしょうか。愛憎、美醜、分別できるものなどどこにもありません。人間の皮相な目がこれを得手勝手に分けているだけでしょう。秀作

松岡 早苗

特選句「ゴミ箱に夏の疲れをひょいと投げ」。この季節に感じる重だるさが軽妙に詠まれていて、共感を覚えました。ゴミ箱までいくのも面倒で、椅子からゴミを投げ入れる。ついでに夏の疲れもひょいと投げ捨てたい気分。特選句「枇杷色のシャツの青年 青田風」。青々とした稲田に配した「枇杷色」に惹かれました。オレンジの鮮やかさではなく、少し柔らかでくすんだ味わいの「枇杷色」。青田を吹く風の匂いも届き、郷愁を覚えました。中七の後の一字空けから、この「青年」は、遠い昔の作者自身かと想像されました。

末澤  等

特選句「青北風よ罪はあるのか良き嘘に」。世の中には枚挙にいとまが無いぐらい良い嘘があり、そういう嘘は罪が無いと私は思っていますが、皆さんは如何ですか?恐らくこの作者も良い嘘に罪はないと思っていると思われますが、それを澄んだ青空に吹く風に問いかけるように上手く表現されています。→ 今回は剱岳へ! 山頂の清新な風をありがとうございました。

末澤さん剣岳斜面.jpeg 末澤さん剣岳山頂.jpeg 末澤さん剣岳夕焼.jpeg
竹本  仰

特選句「安堵ってこんな紋様いわし雲」:風景がごく身近に感じられる時ってある。その瞬間は、何だろうか?結論を急ぐようだが、それが生きている自分を実感できている時なのではないか。あるいは生かされている実感とも。ひょっとして、そんな風景を見るために生まれて来たのではないか。加藤楸邨先生の「鰯雲人に告ぐべきことならず」と人口に膾炙される代表作も句会では〇点句だったが、某編集者の慧眼が拾い上げたという。風景とぶつかる、その瞬間を大事にしたいと痛感された。特選句「残照に燃える鶏頭母の恋」:肉親の恋って、何か痛いところを突かれた感じがする。小生の知り合いは、姉が失恋自殺をしたと、ある時、ぽつりと言い出した。どう答えていいのか、躊躇っていると、なぜ死んだんだろうな、と、またぽつり。そうか、ずっと繰り返し思っていたことが、つい出てしまったんだと、何も答えずに済んだ。この場合の母は、あの母であって、この母ではなく、一人の人間として認めていることに意味がある。痛いけど、いいよ、とてもいい、という声が聞こえる。特選句「向日葵を見上げて家族というさすらい」:「家族というさすらい」に眼がいった。家族というものが切なく感じられるのは、そんな感覚に襲われる時だなと思う。有名なイタリア映画「ひまわり」もあのウクライナの向日葵畑で夫を探してよぎるシーンがなかったら、何ともつまらない話ではないかと思ったが、あの向日葵群は二次大戦の戦死者へのレクイエムとして植えられたものらしい。そういえば、「向日葵は枯れつつ花を捧げおり父の墓標はわれより低し」と寺山修司も詠っていた。そう考えると、向日葵―っ、なんて花だ!としばし嘆息する。

香川の水不足、何とか回避できたでしょうか。島木健作の『生活の探究』も香川がモデルでしたが、田の水の当番ことが詳しく書かれていたように思います。淡路島とて似たようなもので、あちこちに溜め池があり、最近の後継者不足で管理が大変だと聞かされます。ただ大雨の時は決壊が怖く、仮にそうなれば、百軒の集落一つが壊滅するようです。天変地異の今年、町内の防災係の私はマスコミの情報に接するたびに、落ち着いていられないことになります。実は、十月十七日も防災訓練にあたり実施者であり、ああ、福井に行けない、と嘆息。十九日が九州で母の法事、何か埋まってしまいました。まあ、しかし、そこにはそこの出会いもあり、楽しみもあることでしょうから、頑張りましょう。皆さまも、こんな毎日、お気を付けください。それでは、また。

川本 一葉

特選句「わが四肢はかすかな器夜の秋」。意欲作です。性を詠んでいる、と思うのに清潔感があります。かすかな、というところがまた不安定さを醸し出して言うに言われぬ思いを感じます。全く見当違いの感想かもしれませんが、唸ってしまいました。

時田 幻椏

特選句「椅子といふ秋思を素描するノート」。私も同じ事をしてしまいそうな 行動と情緒が良く理解できる句でした。手帳、画帳でなくノートで良いのか、少し気になりましたが。問題句「鬼灯や西荻南初五荘(野﨑憲子)」。私的な記憶としての固有名詞がこちらまで届いて来ない、こちらの理解・感覚にまで届く何かを獲得できれば私的満足を超えられると思うのですが。問題句「雨月の音鳥隠者等の悲の色紙」。同様に句の持つ情緒は感じられるのですが、読み切れず浅学菲才の私には なんとももどかしく、句の読みを御披露頂きたいと思います。「退化して角なきわれの焼き栄螺」「蝉生まる吾も二足歩行ぼちぼち」「秋風や鳩の歩みは宙つつく」「そう遠くないヒト類消える酷暑かな」など、助詞の使用感に違和を覚えました。私の思う助詞が入れば、読みも素直に充分佳句として頂きたい句も在り、と思います。

野口思づゑ

特選句「三日月や泣くためにある風呂の鍵」。何か辛いことがあった夜、風呂場の鍵をかけて家族や同居者にわからぬようそっと泣いている女性の姿が目に浮かんだ。臨場感のある句。問題句「椅子といふ秋思を素描するノート」。 どことなく詩的で魅力は感じるのですが、椅子がノートといわれると、そこに違和感を覚えました。「あの夏に箱入り娘は捨てました」。初めて親に反抗して駆け落ちでもしたのでしょうか。ドラマ性ありです。

塩野 正春

特選句「晩夏光水玉ひとつひとつにいのち」。私が言うのも僭越至極だが俳人山頭火風の自由な句作に惹かれる。そう、(いのち)の怖さ、ありがたさを感じるのは毎晩の事だ。明日になればすべてがわかる! それが毎晩続く事、私の今の思いにぴったりで怖いばかりだ。特選句「安堵ってこんな紋様いわし雲」。毎日異常気象になれてしまって、平穏無事な頃の雲の景色が思い出せない。秋なら秋で普通の鰯雲が見たいものだ。蝉や鈴虫の鳴き声、紅葉もそうだ。早くいつもの景色に戻って欲しい。

花舎  薫

特選句「ねこじゃらし一人を鬼にする遊び」。鬼ごっこと言えば子供たちの無邪気な遊びだが、一人を鬼にする遊びとは残酷な響きである。それは子供のいじめに限らず、大人の世界にもあり、ひいては国と国の間にもありえるだろう。季語の斡旋もよい。道端などどこにでも生えている。

佳   凛

特選句「蛍草トイレを居場所という少女」。誰にも打ち明けられない苦しみを、抱えトイレと言う閉ざされた空間にしか、居場所がない。胸がえぐられるようです。季語の蛍草かが、ことの他切なく、少女のSOSを見守っている作者の優しさが深く心にのこりました。

月野ぽぽな

特選句「朝顔の咲き継ぐ家の朝ごはん」。普通であることが有難いことであることを思い起こさせてくれます。平和の風景が「朝」にみなぎる力とその韻律で描き上げられていて気持ちいいです。

滝澤 泰斗

特選句「朝焼けて風の硬さや剣岳」。映像美が何とも美しくご当地、剣岳の持つ力と風の硬さでいただきました。特選句「名古屋から乗る女(ひと)雨の九月乗せ」。句稿をいただいたのが、名古屋に線状降水帯が発表された日、タイムリーな一句。上五が他の町だったらどうかと言われると、途端に自信が無い。共鳴句「メルカトル法めく虚勢 更衣」。今、話題のメルカトル法、こちらもタイムリーな着眼に「なるほど」と・・・「一枚の夜が海から剥がれてる」。特選にしてもと思った句です。夜が剥がれるとは、上手い!「父ちゃんを独り乗せ征く稲刈機」。昔の稲刈り風景とは随分と違う赴きに、俳句はいつも時代を映している。なのに、江戸時代の松尾芭蕉の句にも共感できる不思議さ、素晴らしさ。「流木のやうなるふたり秋の浜」。遠く、学生時代に流行った。越路吹雪さんの「誰もいない海」まで、帰った。流木の様な二人も歳を重ねました。「この地球引き摺るやうに朝の蟲」。自分もこんな句を詠めたらと思う一句。

増田 暁子

特選句「メルカトル法めく虚勢 更衣」。メルカトル地図の虚勢と衣替え。この組み合わせバッチリです。お見事です。特選句「足裏に夏の終わりを言い聞かす」。猛暑の夏が何とか終わりそうで、フラフラしている身体を支えてくれよ!と足裏に言い聞かす作者。同じく私もその通り。「机にも晩年意識夜の秋(男波弘志)」。長い付き合いの机、やはりお前もか?

松本美智子

特選句「木の皿と木の匙非戦草の花」。子どものままごと遊びを想起させます。世の中の不穏な空気や世界情勢を払しょくさせるような子どもの笑顔に癒されます。将来を担う子供たちの平和が脅かされないよう,願うまでです。「草の花」「木の皿」と戦争のハイテク機械の対比も効いている句だと思います。

出水 義弘

特選句「積乱雲海賊船の大集合(伊藤 幸)」。猛暑の空の大小の積乱雲を海賊船に見立てた ところに、ファンタジーを感じた。確かに、山並みの稜線を越えて、天上高く盛り上がる強大な積乱雲を見ると、恐れを感じる。ユーモアの中にも、いつ猛威をふるうかもしれない自然への根源的な恐れを表現している。特選句「おふくろの刈りたる稲の重さかな」。今のコンバインによる稲刈り作業と異なり、かっては、人力で、腰をかがめて一株一株刈り取る重労働であった。そのような重労働に勤しんだ母親への労わりと感謝の気持ちが良く表現されている。

銀   次

今月の誤読●今月の誤読●「かくれんぼのさいごのひとり月の舟」。子どものころ、近所の子たちとよくかくれんぼをして遊んだ。ある夕暮れ、わたしはオニだった。「もういいかい」。ひとり、またひとりと見つけていったが、最後のひとりだけが見つからなかった。日が暮れきってもだれもその子の名前を口にしなかった。戸惑ったわたしはそのいきさつを母に話した。母は笑って「そんな子、いなかったんでしょ」とさっさと台所に戻った。それから何十年も経った。久しぶりにふるさとへ帰ったわたしは、納戸の奥から古いアルバムを持ち出し、ページをめくっていた。懐かしい。と、なかの一枚の写真に目をとめた。子どもたちがいる。わたしもいる。そして、いちばん端っこに知らない子が立っている。ハッとした。知らないどころか、その子はわたしの弟だった。かくれんぼの日の数ヶ月前に死んだ弟だったのだ。弟が死んだことを受け入れられないわたしは、一緒に遊んでいると思いたかったのだ。だから探したのだ。かくれんぼの最後のひとりとして。「ちょっと散歩してくる」と言い残して、わたしは近くの池まで歩いた。水面に大きく月が映っていた。月明かりの水の上を小さな舟がこちらに近づいてくる。舟には死んだはずの弟があのころのままで乗っていた。弟が言った。「もういいよ」。わたしは舟に乗り込み、舟は月へとのぼっていった。翌朝、池の端にわたしの靴だけ残っていた。

田中 怜子

やはり、人間をも操作する能力のAIに関する句が多くなりましたね。それと、先が見通せない危なっかしい世が漫然と覆っているような句を見ます。そのような中、自分のお墓をどうするか、霊園からのお誘いのメールがくるところ。特選句「海になれ西日の海に散骨す(銀次)」・・・・に私の気持ちを代弁してくれているということで、今回はこの句のみ。

新野 祐子

特選句「ゴミ箱に夏の疲れをひょいと投げ」。西日本の残暑は酷のようですね。東北人には想像できないのですが。大変なことはこのように軽やかにやり過ごせればいいんだなと教えられました。では私、「ゴミ箱にこの宿酔をひょいと投げ」ました、今。

荒井まり子

特選句「ねこじゃらし一人を鬼にする遊び」。古今東西世の中は常に的を絞り標的に数を味方に死てきた。怖い、怖い。ありがとうです。

亀山祐美子

特選句『揃へ置く父の履き物秋の声』。履き物を揃えて脱げなくなった父への気遣いがひしひしと伝わり切ない。「秋の声」は父の余命。父を囲む家族の心情、心の声が漏れ聞こえ感情の揺れに共鳴する不安を感じるあるいは既に遺品となってしまった履き物なのだろうか。「秋の夜」の切なさが伝わる。

三枝みずほ

特選句「黒鍵に触れカナカナカナと少女よ」。黒鍵というどこか不穏で深みのある音が少女の揺れる心情を表している。蜩の声が少女の葛藤に呼応しており、境界線の狭間にいるような感覚になった。語順やリズムも考え抜かれた一句。

高木 水志

特選句「黒板に行き先を書く今朝の秋」。自分の行き先を誰かに伝えるために黒板に書く。まだまだ暑いが、気分は秋の清々しさに変わっている。これから始まる何かを想像する。

菅原 春み

特選句「敗戦簡ポケットに在り秋の蟬」。秋の蟬でなおさらしみじみ感、やるせなさが感じられます。特選句「ひとはみなことば足らざる蓮の実」。蓮の実の季語を得て、ことばが飛んで行ってしまいことば足らずになるとは言いえて妙。すばらしい。

吉田 和恵

特選句「身の重さ熊野古道の釣瓶落とし」。熊野古道に刻まれた歴史の重さを沈む夕日にたくすということ。転じて、私達が歩んできた歴史を何百年か経って、後世の人たちがどう評価するのだろうと、ふと思った。

遠藤 和代

特選句「長き夜の人工知能から返事」。眠られぬ夜人口知能と話す現代人の孤独が伝わってきます。

石丸ゆかり

特選句「足裏に夏の終わりを言い聞かす」。誰も見ない足裏にと言う言葉が出てくるのは、面白いと思いました。特選句「そんなこと忘れましたよ月涼し」。言ったけど、忘れてしまいたいことって誰にもあるねと共感できました。」問題句「鬼灯や西荻南初五荘」。漢字が多すぎて意味がわかりませんでした。

初参加の弁・・これからよろしくお願いします。俳句を楽しんでいきたいと思います。→ 「海程香川」へようこそ! こちらこそ、よろしくお願いいたします。

桂  凜火

特選句「俯せに白い眠りへ夏の果て」。白いという色の指定がとても効果的に使われていることで日常なのに非日常を描けていると思う。

河西 志帆

特選句「ねこじゃらし一人を鬼にする遊び(三好つや子)」。こうして書かれると、鬼は可哀想です。たった一人を鬼にして、みんな帰ったりしないよね〜。「紙めくる指の乾きやつくつくし(亀山祐美子)」。歳をとると指が乾くんですね。しみじみと知る歳になりました。「おふくろの刈りたる稲の重さかな(銀次)」。この重さは、その重さとは違うんですよね。まだまだ働ける母さんを抱きしめて下さい。「わが四肢はかすかな器夜の秋(男波弘志)」。下五の着地が見事です。押しても動がないように思います。

三好つや子

特選句「一枚の夜が海から剥がれてる」。「藍」とも「碧」とも「蒼」とも違うミステリアスな夜空なのでしょう。海が一枚めくれて空になったという、詩情豊かな発想に惹かれました。特選句「秋の蛾を隠す曼陀羅雨が降る(和緒玲子)」。ぐずぐずと降る秋の雨に、どこかすっきりとしない心象が見え隠れ。それは曼陀羅図に溶け込むように潜む一匹の蛾であり、作者自身なのかもしれません。「長き夜の人工知能から返事」旅のプランはもちろん服装までアドバイス。カウンセリングもしてくれるAIに、すこし怖さを感じました。「ゴミ箱に夏の疲れをひょいと投げ」。あっけらかんとしたコミカルな表現。元気をもらいました。「つぶやきに既読つかない秋の暮」。現代的な秋の淋しさを言い得て妙。

山下 一夫

特選句「安堵ってこんな紋様いわし雲(新野祐子)」。いわし雲を見上げたときの視覚効果を端的に表現。「安堵」「紋様」は硬質の言葉なのに一ヵ所が口語なだけで全体の印象が程よく柔らかくなっています。いわし雲程の柔らかさとも言えましょうか。特選句「ねこじゃらし一人を鬼にする遊び(三好つや子)」。言われてみると鬼ごっこはいじめの構造一歩手前ですよね。参加者の大半がつるむと本物になってきます。手軽に猫をからかえるエノコログサの斡旋も悲しいほど嵌まっています。問題句「あの夏に箱入り娘は捨てました(遠藤和代)」。一読、幼児虐待を連想してドキリ。しかし、これは主体が自身の箱入り娘性を捨てたことかと納得。いや、これは箱入り娘と交際していた男性が捨てた(怒)などと想いが巡りました。以下、共鳴句「椅子といふ秋思を素描するノート(三好つや子)「一枚の夜が海から剥がれてる(中村セミ)」「足裏に夏の終りを言い聞かす(松本勇二)」「残暑なほ猛暑居座る犬の舌(柾木はつ子)」「流木のやうなるふたり秋の浜(小西瞬夏)」「月欠ける忘れることも大切に(柴田清子)」「蛍草トイレを居場所という少女(綾田節子)

野﨑 憲子

特選句「海ほどの愛だ夏燕バイバイ(三枝みずほ)」。夏燕の飛翔と、燕へ手を振る若者のシルエットが重なり、「海ほどの愛だ」の断言が、かすかに哀愁を帯びながら祝祭のようにまぶしく響く。

自句自解「鬼灯や西荻南初五荘」。先月のある日、散歩の途中でふっと空を見上げると「雲は秋運命という雲も混じるよ(金子兜太)」が浮かんだ。拙句の初五荘は、学寮から出て初めて暮らしたアパートの不思議な名。私の六畳一間は、近くに住む受験浪人の弟も加え、よく友人たちで賑わっていた。試行錯誤の、得体の知れぬ熱量があった。確かに、難解。でも、今に繋がる何かがあった。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

秋の風
秋風に晒され「俺が」の白くなる
岡田 奈々
墓碑の楷書句碑の草書や秋風
和緒 玲子
秋の風高きに鳥のひとつあり
銀   次
胸に手を当てて嘘つく秋の風
三枝みずほ
ケネディの褪せた背表紙秋の風
藤川 宏樹
大窪寺
打留や人となりゆく大西日
三枝みずほ
ほしづくよ蹠(あうら)を打留の石ころ
和緒 玲子
すすきはらへ至るまで石ころ
三枝みずほ
山頭火碑重き夕日を背負いおり
銀   次
打留から始まる道や天の川
野﨑 憲子
欲ばりをまだ棄てきれぬ原爆の火
藤川 宏樹
山頭火露の化身と生りゆくよ
岡田 奈々
露
露草の青に来たれり秋ひとつ
銀   次
朝露や弾じけて広がる新世界
末澤  等
凭れあふ置き傘二本露の宿
和緒 玲子
傷む木とおしゃべりしてる白露かな
三枝みずほ
「比島沖」の墓標川辺の露の玉
藤川 宏樹
産土はカオスの祭り露万朶
野﨑 憲子
釣瓶落し
釣瓶落しラーメン鉢に雷紋
藤川 宏樹
互いの思慕まで釣瓶落しかな
末澤  等
たっぷりと波音たっぷり釣瓶落しかな
野﨑 憲子
釣瓶落しそうかもう絶版のページ
三枝みずほ
色々あつたいろいろ釣瓶落しかな
野﨑 憲子
手すさびの紐編み釣瓶落しかな
和緒 玲子
君
稲びかり君好き過ぎて撃沈
野﨑 憲子
君に塩オクラぐつぐつ茹でるかな
岡田 奈々
君の秋古書店の棚にあり
銀   次
君は君緑黄色的Tシャツ
三枝みずほ
浴衣着て君と十九の大花火
野﨑 憲子
君の名はいまもどこかに真知子巻
藤川 宏樹

【通信欄】&【句会メモ】

九月二十三日は金子兜太先生のご生誕百七年でした。 相次ぐ自然災害は、人類への深い問いかけのように思えてなりません。 世界へ向けて「平和の俳句」をと念じる心は、他界の師のまなざしとともにあると信じています。 今後ともよろしくお願いいたします。

『若森京子句集  藍の晩年 』 晩年は兎あつまる野が住所

『十河宣洋句集  鶏  肋 』 ほっちゃれのまだ産後のままの息

が上梓されました。若森さん、十河さん、おめでとうございました。 詳細はこれから『海原』誌に紹介されると存じます。楽しみにいたしております。

旱の続く香川にも、このところ待望の雨が降り、少し秋らしさが感じられるようになってまいりました。 全国各地では線状降水帯による豪雨や洪水の報道が続き、案じる日々ですが、当地の渇水状態は今なお深刻です。 そのような中、今回も熱く楽しい句会が開催されました。剣岳(富山県)登山から戻られた末澤さんも、元気にご参加でした。

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