「海程香川」
第166回「海程香川」句会報(2025.10.11)
事前投句参加者の一句
青き日の吾はどこここに小さき秋 | 藤川 宏樹 |
白亜紀の微かな吐息秋の蝶 | 大西 健司 |
老犬を葬る地高し秋桜 | 福井 明子 |
煙茸踏んではしゃぐ子雨去る森 | 津田 将也 |
人類滅亡後火焔土器 氷柱 | 島田 章平 |
敬老日入れ歯にばっちり祝膳 | 山本 弥生 |
ほそくほそく雨ふる夜に猪を食ひ | 小西 瞬夏 |
鉛筆に光る「賞」の字いわし雲 | 松岡 早苗 |
死などより怖き余生や夕蜩 | 塩野 正春 |
萩の花高目にくくるポニーテール | 布戸 道江 |
「生き延びたね」友と握手す秋彼岸 | 出水 義弘 |
離愁とはアダンの木陰からの距離 | 河西 志帆 |
鵙の贄古墳の埴輪覚醒す | 河田 清峰 |
鶏頭や朱には染まらぬ覚悟あり | 石井 はな |
風ごとに弄ばるる吾亦紅 | 佳 凛 |
ぽろぽろと欠けてく言葉ふる落葉 | 野口思づゑ |
木の実降るスイッチバックの秘境駅 | 植松 まめ |
紙芝居屋の落としし釦すすき原 | 川本 一葉 |
分骨の母を装う曼殊沙華 | 伊藤 幸 |
あめんぼの水輪いそがし城の堀 | 三好三香穂 |
どんぐりや平凡といふ粒揃ひ | 岡田ミツヒロ |
騙し絵に匿われたる火焚鳥 | 三好つや子 |
藤井聡太落ちた木の実に黙礼す | 吉田 和恵 |
額付け合ったままタンゴ無月なり | 森本由美子 |
プロジェクトマッピング オリオン隠し主役顔 | 遠藤 和代 |
満席の「国宝」出れば十三夜 | 新野 祐子 |
泥酔の一歩手前か酔芙蓉 | 稲 暁 |
ポケットに抗不安薬柳散る | 向井 桐華 |
秋深し天使うつむくクレーの絵 | 大浦ともこ |
瞳の奥の野に鵙夕日に魅せられて | 竹本 仰 |
シャインマスカット恋をしてみませんか | 柴田 清子 |
梨を食む部屋にさざなみ立てながら | 和緒 玲子 |
秋星の触れ合う音や調律す | 三枝みずほ |
曼珠沙華少し遅れてみな他人 | 山下 一夫 |
天井の壁の真白やひやひやす | 亀山祐美子 |
不揃いの家族いつしか虫時雨 | 綾田 節子 |
揺れるたび少女に戻る秋桜 | 藤田 乙女 |
母はもう陽だまりだから菊の花 | 河野 志保 |
ついて来る紙飛行機という秋思 | 男波 弘志 |
尋ね聞く家出の理由無月の夜 | 松本美智子 |
敏感な生き様四十雀近し | 松本 勇二 |
朝茶事に届くいちりん酔芙蓉 | 樽谷 宗寛 |
擦れ違ひふれあふわたし紅葉かな | 各務 麗至 |
真珠のバレッタ姿見の中の秋めかし | 岡田 奈々 |
鍋底の逃げ場失う白豆腐 | 中村 セミ |
こすもすや風の渋みも知っている | 高木 水志 |
椿の実てらり遺影が笑ったぞ | 野田 信章 |
蓮根うすく切る軽い返事する | 桂 凜火 |
髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行 | 若森 京子 |
神激怒バベルの塔やカナンの地 | 滝澤 泰斗 |
天高し泰然たりし兜太の碑 | 疋田恵美子 |
悔という光もありて鰯雲 | 佐孝 石画 |
秋風や甲骨金文書の心 | 漆原 義典 |
古希過ぐや釣瓶落しが加速する | 柾木はつ子 |
鰯雲ふらっと父が姿消す | 十河 宣洋 |
両翼に稲田広げし吉野川 | 末澤 等 |
鳳仙花弾けるまでの風の色 | 榎本 祐子 |
青春と云ふ西日の当たる四畳半 | 銀 次 |
兄が逝く 遮るものなし秋天は | 田中 怜子 |
河童忌や値札重ねて貼られあり | 菅原 春み |
それぞれの痛み抱えて雨の秋 | 薫 香 |
戦火なき地球を祈りかぼちゃ煮る | 重松 敬子 |
ご同輩貧乏かずらといでしかな | 荒井まり子 |
月明かり白き睫毛の犬眠る | 花舎 薫 |
人間はもの思う箱小鳥来る | 月野ぽぽな |
草雲雀地に落ちもせず鳴き果てん | 時田 幻椏 |
それまでに しとけと鳴くは 鳩時計 | 田中アパート |
さねかずら男の見栄のめんどうくさ | 増田 暁子 |
影ひとつ元気でゐるか月今宵 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「道草の花野に濡れて犀の腹(和緒玲子)」。犀の腹のすこし湿った質感、手触りが妙にリアルでありながら、道草をする犀という童話的な世界。虚と実の良いバランス。
- 十河 宣洋
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。別れである。寂しい別れ。恋人との別れのようである。アダンの木の実のような形の整わないような不思議な別れ。心はまだ整理できないような状況。特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。団栗の背比べなどと何かの引き合いに出される団栗である。平凡な集りということのようである。だが集まった顔ぶれを見ると団栗どころかエリート集団である。これが平凡なら我々の世界はなんなの?といったところ。
- 榎本 祐子
特選句「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」。髪を梳きつつ己の羈旅をみつめる眼差しが美しい。
- 松本 勇二
特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。蓮根を用心しながら薄く切っていて、誰かの問いかけに軽い返答をしたようです。日常の中から詩を掬い上げる手法と繊細な対句表現が光ります。
- 岡田 奈々
特選句「人類滅亡後火焔土器 氷柱」。これから地球が温暖化するのか、氷河期に入るのか分かりませんが、また、縄文時代に戻って、うらうら暮らそうか。特選句「鍋底の逃げ場失う白豆腐」。残りの野菜や、肉、魚は網でも掬えますが、豆腐だけはのらりくらりと逃げて、箸にも棒にもかからない。まるで、誰かのようですね。私かもです。「青き日の吾はどこここに小さき秋」。若い頃は心残りになる思い出が色々ある。それが若いということか?「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。どんぐりの背比べ宜しく、平凡といふことの有り難さ。「鰯二尾夕餉の膳の主役かな」。白いご飯と鰯とお味噌汁あれば、満足です。「心臓のまはりに十月の微風」。胸キュンの なにか?心臓が年で救心が必要?誰かとの間に隙間風?とか。「こすもすや風の渋みも知っている」。こすもすも色々苦労なさっているんですね。「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」。年取れば段々髪も薄くなって毀れ萩の様に抜けてゆく。まさしくムンクの叫びです。「古希過ぐや釣瓶落としが加速する」。年取ると日暮れの速さが、身に沁みます。「見開きを伏せて聞き入る夜長かな(亀山祐美子)」。読書の秋もこの歳になると眼もお疲れさま。本を伏せて、しみじみ秋を感じるのも有りですね。
- 月野ぽぽな
特選句「悔という光もありて鰯雲」。人の心の働きに光を当てているところ、それもネガティブと捉えがちな悔い、という感情に光を当てているところ、その悔いを光と捉えているところに、悔いに真摯に向かい合ったからこそ得られるであろう諦念と達観の境地を見ました。鰯雲の広がりも味わい深いです。
- 各務 麗至
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。今裏山から、団地の広場へとはみ出した木々から、枯葉や木の実が限りなく降り散っています。「どんぐり、どんぐり」と、孫が嬉しそうに拾ったり蹴ったりしていた姿も浮かんできます。真新しいどんぐりは粒揃いで、粒揃いという言葉は、どんぐりの背比べもありますが最高の褒め言葉でもあって、それを当たり前やそうあるべき平凡と表現して、人間や人生を、それぞれの生き様をそれぞれ肯定している作者のやさしさも見えてきます。特選句「天高し泰然たりし兜太の碑」。何とも私も一句にしたいような「天高し泰然たりし」が、思いがけず身近に招いていただいた時の兜太先生その人その大きさを感じて、句碑だけでなく、声も姿も私には見えてくるような思いがしました。T音とS音が作用しているのでしょうか、心に胸に響いて忘れられない句になりそうです。
- 三枝みずほ
特選句「ついて来る紙飛行機という秋思」。風に吹かれて伸び伸びと飛び風とともに落ちる紙飛行機は秋思のよう。感情の高揚があるから、より一層淋しさや虚しさを感じる。秋思がかたちを得た一句。特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。何気ない日常のやり取りの中に心の軽さ明るさがあるのは蓮根だからだろう。助詞がなく動詞で書ききる力技がリズムを生んだ。
- 桂 凜火
特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。調律の様子が伝わります。星の触れ合う音とは、メルヘンな仕立てに成功していると思いました。
- 樽谷 宗寛
特選句「軍人手帳がお守り老いの昼寝かな(竹本 仰)」。お国のために尽力なさつてくださり今の平和の時代があります。軍人手帳が御守りの句柄にひかれました。
- 和緒 玲子
特選句「敏感な生き様四十雀近し」。四十雀は環境の変化に敏感な鳥らしい。そして言語を持ち文法を操り、仲間とのコミュケーションを豊かにしている事は最近では知られた話である。その様な生き様は人間にも当てはまるのではないか。鳥を愛する人なら尚更のこと。鳥を愛でる視線は周りの人にも向けられ、あくまでも純粋で何処までも優しい。かわかっこいいのだ。物理的心理的な「近し」と読ませていただいた。
- 津田 将也
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。離愁とは、別れのきわに感じる悲しみや寂しさを指す言葉です。別れの悲しみ、別離の寂しさ、と同義です。男と女の悲しい別れが、アダンの木陰のそれぞれの距離の位置からはじまるなんて、なんて心憎い演出なんでしょう。私は、句を一読し、一九七三年に公開されたフランス・イタリア合作の「離愁」という映画を想い起こしていました。第二次世界大戦中のフランスを舞台に、ナチスの手から逃れようとする妻子あるフランス人中年男と、ドイツ生まれの若いユダヤ人女の、束の間の絶望的愛と別れを描いたものでした。
- 伊藤 幸
特選句「祈りとは林檎の芯に蜜満つる(月のぽぽな)」。祈りとリンゴの思いがけない絶妙な取り合せに脱帽です。特選句「兄が逝く 遮るものなし秋天は」。兄弟の繋がりはたとえ親子でも連れ合いであろうと 入り込む隙が無いほど強い糸で結ばれている。その兄の逝く時の悲しさは計り知れない。
- 柴田 清子
特選句「兄が逝く 遮るものなし秋天は」。雲一つない真青な秋天の日、逝く兄への惜別が、ひしひしと心に迫って来る。
- 山本 弥生
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。令和の世に生きる高齢者には、平凡とは縁遠い毎日である。自然の世界のどんぐりの粒の揃っているのを見ると平和で平凡な落付きを感じてほっとする。
- 藤川 宏樹
特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。重厚長大の昭和から軽薄短小の現代へ。価値観は変わっても変わらない日常が軽妙に描かれています。俳句ならではの描写に感じ入ります。いい味出ています。
- 三好三香穂
「初恋など語る酒なり十月来」。10月1日は日本酒の日であります。酒飲みのイベントが毎年開かれます。20年以上前のことですが、利き酒で優勝したことがあり、ここのところ毎年参加させてもらっている。年一度この日にしか会わない仲間もいて、なかなか楽しい。「それぞれの痛み抱えて雨の秋」。後期高齢者に何時の間にかなってしまった。関節も痛いが、心のどこかも痛いのであります。
- 森本由美子
特選句「秋日ふと芳ばしく掠める記憶(山下一夫)」。目眩く記憶が一瞬見えたのに触れることは出来ない。でも構わない心を優しく締め付け、束の間の豊潤なひと時に誘い込んでくれる。
- 若森 京子
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。アダンの木は沖縄、台湾の海岸に自生するが一句の中にて音感もよく、離愁の気持を盛り上げ一句を詩としても昇華させている。特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。日常の断片だが、蓮根をうすく料理をしているとき、内容を余り確認もせず軽く返事のみ返す。よくある行為だが、蓮根が妙に味を出している。
- 男波 弘志
「よちよちと男の料理秋の空」。自分もそうして料理をしております。下手ですがはっきりわかったことは売っているお惣菜より美味しいものが作れます。材料が新鮮ですし、旬のものを選べますから。秀作。「人間はもの思う箱小鳥来る」。キャラメルの函でしょうか、自分は小さいマッチ箱くらいでしょう。もうないでしょうけど。秀作。
- 田中 怜子
特選句「離愁とはアダンの木陰からの距離」。この句を詠んで田中一村の絵が浮かびました。どんな思いで奄美に行き、奄美紬の工場で働きながら、金がたまると絵画に打ち込む。目を細めてアダンや海を描く、その先にある本土や中央画壇を見ていたのだろうか、そんな思いをしました。特選句「青春と云ふ西日の当たる四畳半」。あの流行った歌が流れてきました。貧乏でも苦にならない青春、甘酸っぱい思いの歌でしたね。恋もしたでしょう。
- 植松 まめ
特選句「白亜紀の微かな吐息秋の蝶」。白亜紀の微かな吐息。白亜紀という言葉に惹かれた。真っ白の世界に小さな秋の黃蝶が漂っているのだろうか?美しい繊細な句だ。特選句「鉛筆に光る賞の字いわし雲」。子供時代の運動会を思い出した。あのころ徒競走の速い子はノートを賞に貰った…足の遅い私は鉛筆を貰った。本当は運動会嫌いでした。
- 花舎 薫
特選句「天井の壁の真白やひやひやす」。天井を見つめている。病床なのか時間を持て余して横になっているのか、どちらにしても天井の白さが冷たく、独りの寂しさが伝わる。ひやひやすがよい。孤独感の中に軽い自虐も感じられる。天井といっているので壁と言わなくてもいいと思うが。
- 柾木はつ子
特選句「青春と云ふ西日の当たる四畳半」。《青春の光と影》とはよく言われる言葉ですが、掲句はその影の部分を表現されていると思われます。鬱屈した思いが「西日の当たる」で象徴的に描かれていると思いました。特選句「河童忌や値札重ねて貼られあり」初め連想したのはタイムセールの惣菜売り場でした。この季語との距離感がとても大きくて面白いなあと思いましたが、よく考えると、彼の著作の古書に貼られた値札のことかも知れません。
- 野田 信章
特選句「額付け合ったままタンゴ無月なり」。二句一章の簡潔さー「無月なり」の言い切り方に句の若さがあり。即興かとおもえる二人のタンゴの景が展く。アップされた映像を通して漂う憂愁の気はタンゴそのものであろう。これを機に人の世の苦悩もとり込んだ情熱の旋律の舞踏の世界に関心を深めたいと思っています。
- 河西 志帆
特選句「人間はもの思う箱小鳥来る」。凄いなあ〜私たちは「箱」だったんだって、そう思ったら、そんな気がして来ました。楽になる〜。「死などより怖き余生や夕蜩」。歳をするごとに、この心境がわかるわ〜になってきましたよ。「曼珠沙華少し遅れてみな他人」。この花にしみじみしてくるお年頃です。さっぱりした物言いがいいわ〜。「秋蛍あっちもこっちもないどこか」。理屈抜きに好きです。この通りですもの。ひらがながいい。「蓮根うすく切る軽い返事する」。この素っ気ないところがいいんです。忙しいし。「曼珠沙華形を変えて夜が来る」。夜は必ず来るけれど、形を変えてくるなら、来てほしい。
- 島田 章平
特選句「さねかずら男の見栄のめんどうくさ」。男の見栄なんて、結構つまらない事が多いですね!
- 塩野 正春
特選句「藤井聡太落ちた木の実に黙礼す」。名人といえども勝負に負けることある。日本大和の武士道、柔道、剣道、その他負けてこそ人は成長する。落ちた木の実に黙礼とはなんと美しいマナーそして表現であろう。まだ日本は間に合う。大和魂をこれからも引き継ぐ人うれし。特選句「神激怒バベルの塔やカナンの地」。カナンの地、地中海を取り巻く国々の争いは旧約聖書以降も絶えない。何せ神がそう仕向けたのだから。バベルの塔を建てた人間に怒り狂った、人の言葉がお互い通じないようにし、紛争を絶えなくした。ITの時代は何とか神の怒りを鎮める事が可能になるかもしれない、言葉が通じれば。
- 布戸 道江
特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。調律の繊細な感覚を星が触れる音にたとえて新鮮な詩。「鰯雲追いかけるのをやめました」。いつも何かを追いかけてる自分、ドッキリです。「ふいに来てフロントガラスの赤とんぼ」。自然豊かな所をドライブ、気持ちの良い句。「ついて来る紙飛行機という秋思」。紙飛行機のような漠然とした空気、自分にもあります。「月明かり白き睫毛の犬眠る」。一日を終えて月明かりに寛いでいる、ゆったりした気分。
初参加の弁「初めて憧れの海程香川の句会に参加できて嬉しく思います。余裕はないのですが、俳句を楽しみたいと思います。
- 河野 志保
特選句「ついて来る紙飛行機という秋思」。紙飛行機は気まぐれ。あっけなく落ちてみたり、ふいに遠くまで飛んでみたり。秋の物思いもそんなふう。気持ちの揺れに「ついて来」られる作者。少し持て余し気味な日々を表現したのだろうか。
- 疋田恵美子
特選句「死などより怖き余生や夕蜩」。老境に入り、人生の終末期に抱える不安、反面精神的な緊張感をも感じました。特選句「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」。髪をすくという日常的な行為から、精神的寂しさを思いました。
- 銀 次
今月の誤読●「老犬を葬る地高し秋桜」。飼い犬のジロが死んだ。長年連れ添ってきた友人のような犬だ。老衰だからしかたがない。大往生というべきだ。なにも悲しむことはない。そう自分にいいきかせつつ、裏の畑に穴を掘って埋めた。そのとき、こんもりと盛り上がった土の上にコスモスの花びらがひとひら、どこからともなく、まるで置かれるように舞い降りてきた。わたしはなにげに嬉しくなって空を見上げた。秋晴れの美しい空だった。翌年のことだ。同じ季節になると、ジロの墓のまわりにコスモスが群れ生え、花々が咲き乱れ、ちょっとした花壇のようになった。別にだれがタネをまいたわけでもない。不思議なこともあるものだと思いつつ、そこだけ耕さずに畑仕事をした。そしてコスモスはやがて枯れ、なにごともなかったかのように土となった。さらにその翌年のこと、同じようにコスモスは咲いたが、その面積はグンと広がり畑の半分を占めるまでになった。さすがにわたしは不審に思ったが、だれかれの仕業とも思えず、それになんだか問わないほうがいいような気もして、そのままやりすごした。そしてまた翌年。こんどは畑一枚がコスモスの群生におおわれた。コスモスは風に揺れた。あっとわたしは声をあげた。その揺れるコスモスのなかにジロの走る姿を見たからだ。そうなのだ。このコスモス畑はジロがよみがえるために用意されたものなのだ。ならば畑一枚がなんで惜しかろう。以来、コスモス畑はそれ以上は広がらず、季節季節には花をつけ、風にさわさわと揺れるのだった。そしてそのなかをジロが走る。ジロが遊ぶ。
- 豊原 清明
特選句「道草の花野に濡れて犀の腹(和緒玲子)」。大量の選句原稿の中から、この句に感じるものがありました。問題句「草雲雀地に落ちもせず鳴き果てん」。いい俳句です。観察が浅いのか深いのか、解らないが、さりげなく見たまま書いてて良い。特選句「煙茸踏んではしゃぐ子雨去る森」。煙草吸う場所が減っているので、あれと珍しく感じた。吸い終わった煙草を踏んで、小説の始まりみたい。
- 岡田ミツヒロ
特選句「「生き延びたね」友と握手す秋彼岸」。折に触れて届く友の訃報、昨今の一年一年はまさに「生き延びた」というのが実感。苦笑い少し、友と握手する。特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。光年の距離の星々が寄り合い触れて奏でる音色、調律という日常を天界へ飛翔させ幻想的な音感世界へ昇華した。秋星ならではの情感。
- 松岡 早苗
特選句「梨を食む部屋にさざなみ立てながら」。梨を食べる時のシャリシャリという音を、無音の部屋に立つ「さざなみ」と感じたのでしょうか。作者の鋭敏な感性に脱帽です。特選句「よちよちと男の料理秋の空」。「よちよちと」という形容に惹かれました。慣れない料理を作らざるを得ない重たい事情があったのかもしれません。でも、「よちよち」には希望や未来が感じられます。そのうちきっと料理が楽しく上手になるに違いありません。
- 中村 セミ
特選句「ポケットに抗不安薬柳散る」。不安が襲ってくるのは、いつ頃だったのか、わすれたが、或るホテルに泊ったとき、眠っていると、ゴシゴシと何か引きづる音が部屋の前で止まった時、扉がこわされ、長い髪の女がたっていた。僕は、「な、何ですか」というも、長い髪がふわっと、こちらに飛ぶように、そして、首にまきついてきた。ぎゅーぎゅーしめられて、気をうしない、目が覚めたとき、ホテルの庭の柳の林立するなかにいた。目の前のホテルの名前は、 不安 ポケットの抗不安薬を飲み忘れている。ポケットの抗不安薬柳散る 柳がまるで散らばる様に風に吹かれていた。
- 荒井まり子
特選句「野猿群れ秋の真夏をおびやかす(松本勇二)」。中7に納得、日本は昔四季があったが今後はどうなっていくのか、未来に希望があるのか心もとない。あー。
- 福井 明子
特選句「秋深し天使うつむくクレーの絵」。クレーの絵に込められた思いは、言葉では表しきれぬものがあると思います。そこを、それぞれの人に投げかけられた一句と思いました。秋深し、この言葉にふっと立ち止まる静かな時間が漂っていると思います。
- 石井 はな
特選句「十六夜やAIしばし口ごもる(若森京子)」。今やAIが何でもこなし、人間にとって代わる勢いです。そのAIが十六夜の月の美しさに圧倒されて言葉を失っている。そんなAIへの共感と畏怖を感じさせます。
- 末澤 等
特選句「秋星の触れ合う音や調律す」。星が触れ合うはずも無く、ましてその音を調律するなんて、技術屋の私としては認めることができ難い一句ですが、そこはかと無くロマンがあって、大変魅力的でしたので、とらせていただきました。
- 竹本 仰
特選句「不揃いの家族いつしか虫時雨」:色んな方角へ向くのは、枠を小さくしないということだろう。どこまでが境なのか、そもそも家族とは何なのか。小津安二郎の『東京物語』を思い出すと、死んだ母の形見分けの時、バラバラになりつつある家族の喧噪のシーンがある。本当は美しくない家族、でも家族という実態が浮き彫りで、かえってあれが作品のテーマを深めている。頼りないけど、頼るしかない家族。虫時雨かな、たしかに。特選句「揺れるたび少女に戻る秋桜」:時間は直線ではなくらせん形か。何度も同じ地点に戻りながら、進もうとしている。一昔前、書道の塾に通っていた頃、短冊に書く句をひねっていたYさんという八十代の女性がしきりに呟くのが聞こえた。腹ぺこで、お下げ、というのが終戦の日の自分だったということらしい。だがもどかしくなかなか完成にたどり着けない。その辺の空気感には七十年前の彼女と必死で対話する様子がうかがえ、少女の私を裏切らず書きたいという思いだったようだ。裏切らず少女は戻って来る。と思わせてくれた句だ。特選句「椿の実てらり遺影が笑ったぞ」:昔話の中にふいに飛び出したつやつやとした一コマ。モノクロの映画や写真には艶がある。その艶はもちろん濃淡によるものだが、読もうとするといくらでも背景の、さらにその背景をも読ませようとさせる何かがある。中也の「一つのメルヘン」がそうだ。「秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があって、それに陽はさらさらとさらさらと射しているのでありました。…」回想するのではなく、回想させられるように出来ている。遺影はいつでも語りかけてくる、心にそれに合うスペースがあれば。一瞬の中に永遠があるように。♡暑い秋が続きます。夏が暑すぎたので、夕刻の散歩をしなくなり、久々に別件で歩き回る機会が出来たところもう稲刈りのシーズン。長い不在をわびる気持ちで一礼し、その後で腰が痛いことに気づきました。知り合いの接骨院で診てもらうと、骨盤が左にずれているとのこと。身体は日常を裏切りませんね。マッサージしていただいた夜はよく眠れました。めざめにはふと秋晴れのような軽い感じがあり、久々の空を見たような。散歩、復活しようと決めました。みなさん、お元気ですか。
- 亀山祐美子
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。「平凡といふ粒揃ひ」に参りました。しかもそれが「どんぐり」だと云う。実際に見渡した、集めたどんぐりのあり様の感想だが自然社会において「平凡」なんぞ有りはしない。自然育成の過程環境において単一であるわけが無い。その差異をくるっと丸めて「平凡」といい切り「粒揃ひ」だと評価する作者の視線の優しさ、柔らかさを感じた。それは人間に対する視線でもある。特選句「仲秋や神輿来るごと木々の揺れ(三枝みずほ)」。豊穣の実りの喜びと感謝の祭が各地で執り行われる。その最中大きな風で揺れる木々をあたかも天上からも祝いの使者神輿が遣わされたかに感じた作者の感性に共感する。
- 大西 健司
特選句「人間はもの思う箱小鳥来る」。所詮人間は四角い箱、そんな自虐の声が聞こえてきそう。
- 増田 暁子
特選句「揺れるたび少女に戻る秋桜」。少女に戻るが秋桜とぴったりです。句全体の爽やかさが素敵です。
- 三好つや子
特選句「秋蛍あっちもこっちもないどこか(花舎 薫)」。秋蛍のはかなげな存在そのものが、此岸でも彼岸でもない世界を漂っているのかもしれません。中七下五のあっさりとした表現にもかかわらず、哲学的で心を鷲掴みにされました。特選句「曼殊沙華形を変えて夜が来る(河野志保)」。曼殊沙華の咲く辺りの、人気(ひとけ)のない夜。曼殊沙華が昼とは違う姿で、歩きだしたり喋ったり。昼とは違うホラーな光景を空想しながら鑑賞。「人間はもの思う箱小鳥来る」。秋思というものを個性的な言い回しで捉え、私的には特選句ですが、箱という措辞に引っかかってしまいました。小鳥来るの着地は素敵だと思います。「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。日々、普通にちゃんと生きている人へのエール。この句のまなざしに深い愛を感じました。
- 河田 清峰
特選句「戦火なき地球を祈りかぼちゃ煮る」。かぼちゃを煮るのは難しく眼を離すと崩れてしまう。祈りしかないのだろうか?
- 野口思づゑ
今回は特選句はありません。「尋ね聞く家出の理由無月の夜」。理由、聞きたくなります。無月の夜が句に広がりを見せている。「銀山の痩せし町並み鰯雲」。銀が枯渇したため寂れてしまった町を上5、中7で巧みに表現し、季語の鰯雲でスッキリまとめ上げている。「蓮根うすく切る軽い返事する」。切っている最中に声をかけられ、とりあえずした返事。軽い返事になるのは当然で、薄切りの蓮根とピッタリ。「古希過ぐや釣瓶落としが加速する」。加速に釣瓶落としを持ってきたところが巧み。「秋の昼鰹節屋のなんとなく」。私は鰹節屋、があるのか、どういう店なのか知らないのですが、下5の「なんとなく」で鰹節屋の主人の顔まで浮かんでしまった。
- 吉田 和恵
特選句「兄が逝く 遮るものなし秋天は」。亡くなられたお兄さんが吸い込まれていくような青空、言いようのない淋しさを感じさせます。
- 遠藤 和代
特選句「鰯雲ふらっと父が姿消す」。さらりと読んでいるけれど、いろんなことが想像され面白い。
- 滝澤 泰斗
特選句「白亜紀の微かな吐息秋の蝶」。白亜紀に蝶が存在していたかどうかは分からないが、白亜紀などという途方もない過去の時代まで思いを飛ばせたことに単純に驚いている。まさに俳諧自由、ポエムなりだ。特選句「梨を食む部屋にさざなみ立てながら」。何人もいる部屋でみんな梨を食む、さざなみとは、言い得て妙。「毒蝶酔いしビール瓶の底にいる」。こちらの蝶はビール瓶の底にいるという・・・しかも毒を持って、蝶の句ニ態。俳諧の凄まじき想像力に感心しきりではある。「ほそくほそく雨ふる夜に猪を食ひ」。ほそい雨の夜に猪を食う・・・それだけの事だが、何故か魅かれた。猟師の何気ない日常句だろうが、その一日が想像されて心に残った。「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。なるほどなと・・・妙に納得の一句。
- 新野 祐子
特選句「鮭の頭を夢の国へと打つ男(十河宣洋)」。かつて数回渓流を遡り岩魚釣りをしました。岩魚を釣ると彼らの頭を叩かなくてはなりません。それが辛くて釣るのも食べるのもやめました。そんなことを思い出しつつ、この句を読みました。「夢の国へと」が脳裡を離れません。
- 綾田 節子
特選句「髪梳けば萩のこぼれる蒼白紀行」 。上五中七に参りました。勉強不足で蒼白紀行は読んでおりません。そのような訳で、作者には 失礼かと存じますが、特選にさせて頂きました。
- 高木 水志
特選句「不揃いの家族いつしか虫時雨」。好みも性格もみんな違う家族が虫の音に聞き入っている。様々な種類の虫の音が重なり合って、しみじみと愛おしい素敵なハーモニーが生まれる虫時雨のように、何だかんだで仲の良い家族を思い浮かべた。
- 菅原 春み
特選句「白亜紀の微かな吐息秋の蝶」。恐竜もいたような時代までさかのぼり、繊細な秋蝶と吐息との取り合わせが絶妙です。特選句「鵙の贄古墳の埴輪覚醒す」。季語の鵙のはやにえが画期的なつかいかたかと。にえが多い雄ほどさえずり速度がはやいとか。埴輪は覚醒せざるをえない?
- 漆原 義典
特選句「敬老日入れ歯にばっちり祝膳」。敬老の日の、暖かい雰囲気が、よく感じられます。心温まる素晴らしい句をありがとうございます。
- 向井 桐華
特選句「月明かり白き睫毛の犬眠る」。義母がとても可愛がっていた犬のことを思いました。優しい情感の伝わってくる一句です。
- 重松 敬子
特選句「ついて来る紙飛行機という秋思」。私は秋思も、春愁も体験なしのシンプルな性格だが、このとらえ方がおもしろい。同じ作者の春愁の句もみてみたい気持ちである。
- 時田 幻椏
特選句「漂泊える魂に木犀深入りす(吉田和恵)」。木犀を踏音開言花・フミオエコトバナと言うそうである。木犀の芳香は、正に魂に深く入り込んでくると共感した。「漂泊える」は「ただよえる」と読んで宜しいのだろうか?ルビが欲しいと思った。「漂える」「漂白の」と言う表記では、不充分と句作者は思ったに違いないのだが・・。問題句「曼珠沙華少し遅れてみな他人」。句意を掴み切れず。「曼珠沙華少し遅れてみな知人」。と対意語に変えても句力と句意にあまり変化を感じず・・。「上弦の鬼とや柘榴の冥く裂け(大西健司)」。句感から秀句と思いながらも「上弦の鬼」が解らず、調べると漫画・アニメの「鬼滅の刃」に登場する言葉と知る。「毒蝶酔いしビール瓶の底にいる(中村セミ)」の毒蝶も「鬼滅の刃」に関係するそうで、流行に疎い私には、良し悪しの前に問題句でした。
- 大浦ともこ
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。どんぐりは粒ぞろいだが人はそれぞれに歪で平凡であることはとてもむつかしいこと・・そんな感慨を持ちました。特選句「梨を食む部屋にさざなみ立てながら」。静かな部屋に梨を食べるサリサリという音だけが響いていて孤独を感じます。『さざなみ立てながら』も心の揺らぎのようでしっくりきます。
- 薫 香
特選句「こすもすや風の渋みも知っている」。爽やかだけじゃないのよ、そうだよねって感じかなあ。
- 出水 義弘
特選句「鉛筆に光る「賞」の字いわし雲」。昔、秋の運動会の徒競走か何かでもらった賞品の鉛筆を手にして、それに印されている金文字に重ねて自分の活躍を誇らしく思い出している様子が浮かびました。特選句「母はもう陽だまりだから菊の花」。母はもうこの世にいないが、家族ひとりひとりの心の中では、一緒に集まる暖かい場、陽だまりとして生き続ける存在である。仏壇には菊の花が供えられている。母への追慕の心が家族で共有されている様子がよく分かります。幸せの典型だと思います。
- 松本美智子
特選句「曼珠沙華形を変えて夜が来る(河野志保)」。曼珠沙華の咲きほこる原風景を思い出させてくれる句でした。昼間の赤々とした幻想的な風景を一気に夜の幽玄で妖しい風景に変化させて、益々色鮮やかに輝くように思えました。
- 佐孝 石画
特選句「曼珠沙華少し遅れてみな他人」。「少し遅れて」。これも違和感の一つなのだろう。無感覚のまま日常に流されている際、ふと「我に返る」瞬間。我に返るとは、いったい自分とは何者なのだろうという、存在への不安、自問。長く寄り添う伴侶も元は他人、血縁者も自分とは違う他人に他ならない。群生する「曼殊沙華」を目にし、通り過ぎた後、「少し遅れて」、「みな他人」という感慨が呼び起こされてくる。群れながらも、それぞれの炎を一心に揺らめかす「曼殊沙華」の屹立した他人感覚。「他人」はさみしくもあり、強くもあると知るのだ。
- 山下 一夫
特選句「不揃いの家族いつしか虫時雨」。「不揃いの家族」は抽象度が高くて難解なのですが、作者が自身の家族に感じている違和感ということであれば理解できます。そんな思いも時間の経過と共に虫時雨に飲み込まれ溶けてしまう。虫時雨により自然の摂理も連想され深みを感じます。特選句「蓮根うすく切る軽い返事する」。薄くと軽くが蓮根と返事という異質な概念をうまく結びつけています。いわゆる穴の空洞も軽さに通じ、ウイット豊富。ちなみに、蓮根の調理は、ほくほく感を楽しむ場合は連なりの根元の部分を厚めに切って加熱、ぱりぱり感を楽しむ場合は連なりの先っぽの部分を薄切りしてさっと湯通しが推奨とのこと。薄く切ってチップスならどの部分でもいけそうですね。問題句「額付け合ったままタンゴ無月なり」。タンゴと無月から、ダンスする人の黒い衣装を連想され、スタイリッシュで素敵。しかし「額をつけ合ったまま」というのが実際のタンゴにはないと思われ難解。意図は不可能性というところにあり、そのことと無月の取り合わせなのでしょうか。
- 稲 暁
特選句「コスモスに寄り添う風になりたいの(柴田清子)」。コスモスに寄り添う風になりたい、という表現にとても惹かれました。作者の心の優しさが感じられました。特選句「空白の句帳そのまま小鳥来る(藤田乙女)」。空白の句帳そのまま、という表現は誇張だろうが、小鳥来るという季語がぴたりと決まっています。
- 佳 凛
特選句「どんぐりや平凡といふ粒揃ひ」。私は、『常に平凡』と言う言葉が大好きです常に平凡の難しさ、平凡である事の、有り難さ、ましてやどんぐりの育ちゆく環境は、年々厳しくなっている。他の動植物も然りです。平凡に粒が揃って居れば万々歳です。あなたの、優しさにも、万歳です。
- 野﨑 憲子
特選句『満席の「国宝」出れば十三夜』。映画「国宝」に魅せられた。こんな十七音の世界が描けたらと心底思った。まさに十三夜。人生は、お仕舞いまで艶でありたい。
袋回し句会
秋・祭
- 秋灯の湯屋あまやかに手術痕
- 和緒 玲子
- 遠くからやって来るのが秋祭
- 柴田 清子
- 秋祭ドンドコ太鼓迫り来る
- 末澤 等
- ケンタッキ―爺が待ち受け秋祭
- 藤川 宏樹
- 秋祭り親を見て打つ鉦のずれ
- 岡田 奈々
- 吹くや潮風夕さりの祭笛
- 野﨑 憲子
- ランドセルの防犯ブザー秋祭
- 布戸 道江
- 「カタパン」の懐かしき味秋祭
- 島田 章平
- 秋のいっぱい詰め込んでゐる白い箱
- 柴田 清子
箱
- 秋風や空っぽの箱の中に箱
- 柴田 清子
- 一筆の詫び状栗の箱届く
- 和緒 玲子
- 空箱を何処においても秋思かな
- 布戸 道江
- 臍の緒の木箱に秘密蚯蚓鳴く
- 藤川 宏樹
新涼
- 新涼や保護猫に名を与ふる役
- 和緒 玲子
- 新涼の風が吹きますまちぼうけ
- 野﨑 憲子
- 新涼や海の色したワンピース
- 柴田 清子
- 新涼やラガー薬缶の魔法水
- 藤川 宏樹
- 新涼や母の遺品の鋏磨ぐ
- 島田 章平
- 新涼やチャリの籠からバニラの香
- 岡田 奈々
暮早し
- 短日や指が覚えてゐる鍵穴
- 和緒 玲子
- 渦の奥からマグマの声や暮早し
- 野﨑 憲子
- もう知ってしまったからね暮早し
- 藤川 宏樹
- 暮れ早し終了間際の縄電車
- 岡田 奈々
- 暮早し母の背中のまん丸く
- 布戸 道江
- 暮れ早しティラノサウルス咆哮す
- 島田 章平
黄落
- 戦後八十年の公孫樹黄落す
- 野﨑 憲子
- 黄落すふっと頬杖ついてしまふ
- 柴田 清子
- 黄落の光を超えて遍路行く
- 末澤 等
- フレンチサラダ嵐山(らんざん)黄落す
- 藤川 宏樹
- 銀杏黄落青天を衝き破ってか
- 岡田 奈々
- 黄落や大道芸のバック転
- 島田 章平
- 黄落や十三桁の数字打つ
- 布戸 道江
- 鳥になりきれず幾千黄落す
- 和緒 玲子
【通信欄】&【句会メモ】
上段の写真は、「てくてく遍路」を始めた末澤等さんが撮影した四国霊場札所第五番地蔵寺の樹齢八百年になるという大銀杏です。樹下に佇って大きな生命力を授かったとお裾分けに写真を送ってくださったものです。満願をお祈りしています。
10月句会は、コロナやインフルエンザにご家族が罹患された方もあり、9名のご参加でした。丸亀から布戸道江さんが初参加、少人数ならがも、とても楽しく豊かな時間を過ごすことができました。
Posted at 2025年10月22日 午前 04:35 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]