2021年1月29日 (金)

第113回「海程香川」句会(2021.01.16)

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事前投句参加者の一句

初夢に蝶飛ぶ人の幸(さち)思ふ 鈴木 幸江
コロナ舞うシャドーダンスやスナフキン 田中アパート
子授け星なら爪先こちらイヴの街 吉田亜紀子
極道の家の餡餅雑煮に座る 田口  浩
青天の霹靂のまま去年今年 野口思づゑ
土手改修土嚢105個年を越す 野澤 隆夫
森閑と朽葉の色をまといて鳥 福井 明子
しなかやにストッキングの裂け聖夜 高橋美弥子
竜宮の奥ぷわっと人情の湯があり 久保 智恵
人日やカレーうどんの鉢の底 松本美智子
迷宮に描くグリフォン冬の星 松岡 早苗
夫婦とう小舟浮かばせお元日 伊藤  幸
白雲に繭の明るさ寒波来る 河田 清峰
ひとむらの寒梅白い母とゐる 小西 瞬夏
つぶやきの欠片おとして女正月 三好三香穂
煮凝りが平ら鍋にはイマジンが 竹本  仰
ふはふはと咳き込みながら根深汁 田中 怜子
晴れなれどこの溜め息の雪女郎 豊原 清明
柊やたくさん捨てて聖になる 夏谷 胡桃
手が触れてほっぺ真っ赤やカルタ取り 漆原 義典
老いるとは許し合うことですか雪 佐孝 石画
越前の朱塗り淑気の立ち昇る 寺町志津子
一葉忌大根の葉のわさわさと 石井 はな
極月やカマボコ板が飛んでいる 榎本 祐子
初鶏や若冲の赤際立ちて 佐藤 仁美
姫始アラビアンナイトの木馬 川崎千鶴子
初夢の寄り添ひ囲む食卓よ 菅原 春み
焚火臭一すじ父存命の初山河 野田 信章
耄碌も三昧にあり年の暮 小宮 豊和
雪割草小さき告白銛のごと 中野 佑海
甘酒は河童の流れるような夢 葛城 広光
埋め火のやうな乳房と生きてをる 谷  孝江
裸木に星咲き漁夫らの白い墓 津田 将也
雪だるま悪いこともうせえへんから 増田 天志
雪解道うじうじぐずぐず生きて行こう 小山やす子
行間や蛇も目瞑ることをする 男波 弘志
冬銀河旗幟鮮明の和巳居り 滝澤 泰斗
雪の声過去たちが来て立ち往生 増田 暁子
爪を切る冬の銀河に手は届く 植松 まめ
寒月光ガラスの街を司る 月野ぽぽな
モノクロのくしゃみ三丁目に消えた 高木 水志
冬木一本おずおず空に話しかけ 森本由美子
仏壇のお飾り百均のゆるびかな 荒井まり子
寒月光近い昔と遠い今 柴田 清子
廃村に墓標のありて寒椿 銀   次
自動ドアの無音におびえ雪女 新野 祐子
冬のアンニュイ頭に瘤のある金魚 伏   兎
水・酸素・Amazon遠き枯野かな 三枝みずほ
睡眠を生きがいとして駄犬かな 稲   暁
白梅や内なる扉開く気配 重松 敬子
林檎見つつ赤くなる我 外は雪 高橋 晴子
やまと餅花あの日の餅花震災忌 若森 京子
初雪はむかし語りのプロローグ 吉田 和恵
初御空ひなの如くに殻破る 藤田 乙女
空知らぬ鳥の形よ氷張る 河野 志保
昼風呂の乳房の重し久女の忌 亀山祐美子
ネイリストしもやけググる指づかい 藤川 宏樹
石蕗の黄や人影しるき狼煙台 大西 健司
疾走の鼬曲がれず来世まで 松本 勇二
煮凝は昭和のかたち朝ごはん 稲葉 千尋
思い出すふわっと膨れる餅の皮 中村 セミ
顔入れてセーターの中わが宇宙 十河 宣洋
連れ合ひの股引を干し対峙せり すずき穂波
磨硝子の古沼を縫いゆく穴惑 佐藤 稚鬼
兜太逝きて三年白梅青し 島田 章平
白鳥来ビールの泡の消えた街 桂  凜火
ものすごく冬晴れ君とリンゴのシエイク 野﨑 憲子

句会の窓

                                          
松本 勇二

特選句「夫婦とう小舟浮かばせお元日」喩えが絶妙。明るい正月が見えてきます。

十河 宣洋

特選句「極道の家の餡餅雑煮に座る」特選というより、私の思い出。祖先が讃岐ということもあって、私は餡餅の雑煮が好きだった。それを友人に話しても信じてもらえなかった。特に女性は気持ち悪いと言っていた。でも私はこの雑煮は好きである。いまでも。よって特選。特選句「埋め火のやうな乳房と生きてをる」埋め火のような乳房。古いというのかそれともまだまだ火が熾きるというのか不明だが。私は後者の意味で頂いた。これからの人生を楽しもうという感じである。

小西 瞬夏

特選句「焚火臭 一すじ父存命の初山河」上五の字余り。ここに思いの丈が詰め込まれている。ややしつこいが強烈だ。父の存在感が「初山河」という雄大な景に託されて迫ってくるようだ。

小山やす子

特選句「顔入れてセーターの中わが宇宙」ほんの一瞬だけどセーターをかぶった時に感じる暖かくて暗い瞬間を自分の宇宙と表現した人間性を頂きました。

野澤 隆夫

令和3年!時間が早いです!特選句「三四郎それから門へ月ふたつ(田中アパート)」酔っぱらった漱石。三四郎池を巡り東大赤門から出てくると,夢十夜!月が二つ出てた。もう一つ「杣の手業の手籠は雪の明かりで編む」も。散文調ですが、雪国の生活が目に浮かびます。ノスタルジー感満載。のどかで幸せな風景。

桂  凜火

特選句「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く(高橋晴子)」時を止めることはできないけれど、ふとこのままがずっと続いてくれたらと思うことがあります。「林檎ひとつ」は映像がはっきりしていて印象深い句でした。

藤川 宏樹

特選句「極道の家の餡餅雑煮に座る」我が家の正月も餡餅雑煮、味噌に溶ける餡と餅の取り合わせが絶妙。それを極道の家で座して食するその味は・・・。すでに人生の過半を過ごしてしまったが、その味を一度経験できていたら良かったかも知れないなぁ。

若森 京子

特選句「モノクロのくしゃみ三丁目に消えた」くしゃみで人間の存在を表現し、まるでモノクロ映画の、下町風景の映像が浮かぶ、ストーリーが浮かぶ、面白い一行。特選句「寒月光近い昔と遠い今」人間老いてくると昔の事が鮮明に、記憶がよみがえるのに、現在今の生活で忘れる事が多くなる。季語〝寒月光?が人間の性(さが)によく効いている。

河野 志保

特選句「雪だるま悪いこともうせえへんから」こんなふうに雪だるまは溶けていくなあと思った。可愛いやら可笑しいやら。関西弁の響きが効いている。好き嫌いの分かれる句かもしれない。

増田 天志

特選句「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」林檎の圧倒的存在感を示したいのであろう。刻に杭打つとは、時の流れを止めるという意味の強調。この句の巧みさは、林檎を、打つ杭と、見立てていること。どんと、置かれたのである。

久保 智恵

特選句「雪が降る家族が透明になる頃(佐孝石画)」平凡ですが<家族が透明になる頃>は、美しい表現だと思いました。

すずき穂波

特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」君と林檎をシェイクする、全く変ちょこな妄想?でもその妄想に浸っている嬉嬉感の何と真っ直ぐなこと?特選「埋め火のやうな乳房と生きてをる」老いに向かう女の句。「乳房と」「わたくし」を突き放し関係性を持たせている点、新鮮。問題句「冬銀河旗幟鮮明の和巳居り」小説『悲の器』の高橋和巳かと思う。特選にしたいところなのに最後に外した。「旗幟鮮明」に少し「言葉酔い」というか頼り過ぎなところが見えるかな…と。それともこの熟語がこの句の命なのだろうか?というので問題句。

初参加のひと言「海程香川」さんのブログは以前より時々拝読、「句会の窓」の鋭さにドキドキですが、どうぞ宜しくお願いいたします。 

葛城 広光

はじめまして。葛城広光です。粕汁とお茶漬けとオレンジジュースが好きです。大阪市生まれ箕面市在住です。よろしくお願いします。

特選句「極月やカマボコ板が飛んでいる」寒い中かまぼこ板は誰が飛ばしたのだろう?ひとりでに飛んだ風で楽しい。特選句「自動ドアの無音におびえ雪女」雪女はおびえがちで気が弱いのか?コンビニとかに用事を思い出して雪女が面白さ。問題句「一円玉ざくざく光るコロナ菌(小山やす子)」コロナが増える現実をみたくないものだ。夢の句であってほしい。

大西 健司

特選句「城門の乳鋲さびたる雪しぐれ(増田天志)」なかなか渋い句だがしっかりと書けている。問題句「雪だるま悪いこともうせえへんから」「白髪に君タンポポをあげましょう(榎本祐子)」おもしろい句だがどこか物足りない。 

寺町志津子

特選句「愛を飢え独り聴くなり除夜の鐘(島田章平)」普通のいい方は、「愛に飢え」と思いますが、「愛を飢え」とされたところに、未だ一度も愛の交錯が無かった方ではなく、かつて相思相愛の方がいらした作者と思いました。おそらく、その方を亡くされて、独り聴く除夜の鐘。作者の底知れぬ寂寥感が伝わってきて頂きました。なお、「老いるとは許し合うことですか雪」「耄碌も三昧にあり年の暮」、「老い」を詠み込んだ作者の自己心情、自己観察(おそらく)に、我が身を振り返り、納得、共鳴しました。

中野 佑海

特選句「竜宮の奥ぷわっと人情の湯があり」私今入浴剤に凝っていて、必ず入れて入ります。毎日のお風呂が楽しみで。竜宮城ってお高くって肩凝るかと思っていたけど、結構おばさん連中なのね!特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」冬晴れはとても素敵。あの切れ者の魅惑に負けて、白雪姫と王子は甘いリンゴのシェイクにされちまったよ。さて、私はこれを飲んで、若返るとしようかね。美魔女の継母より。並選句「初夢に蝶飛ぶ人の幸思う」とても暖かい心の方だなって。人の幸せを祈れる寛容さが欲しい。「コロナ舞うシャドーダンスやスナフキン」みんなコロナに惑わされて右往左往。スナフキンのように一人気儘に旅をするのが、良いのさ。「極道の家の餡餅雑煮に座る」これはもう無謀以外の何物でもありません。取り敢えず食べて無かった事に。「柊やたくさん捨てて聖になる」:「ひいらぎ」が「ひじり」になるのか?まあ成らない事も無いか。昨年の12月伊勢に行って、どうしても欲しいと思っていた「蘇民将来」の御札の付いた注連縄を買って来ました。それには柊の葉が沢山付いていて触ると痛いこと、痛いこと。しかし、多分コロナウィルという吸血鬼には絶対勝てると思う私でした。「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」林檎どうよ。お尻から腐るよ。どうぞ、そんなに怒らないでお手柔らかに。「樹の根っこ踏み踏みつ下る冬遍路」懐かしいな。遍路は夏より断然冬の方が快適。夏は直ぐ熱中症だけど、雪が降っても冬の方が楽だった。南予は直ぐ雪が積もる。足元だけはお気を付けて下さい。「雪の声過去たちが来て立ち往生」美空ひばりの歌が聞こえて来そうです。こんなに行き詰まったら、ドミノ倒しです。「モノクロのくしゃみ三丁目に消えた」映画「AIways三丁目の夕日」にどうして「小雪」がキャスティングされていたのか今でも不思議です。

昨年の力みは何処へやら。コロナウィルスにかこつけ休業中の中野佑海

銀   次

今月の誤読●「初雪はむかし語りのプロローグ」おんや、ちらほらしだしたようだの。今年はちいと早えかの。明日は積もっぞ。これから雪掻きが大変だべし。おめえも手伝わなきゃなんねえぞ。酔うたついでだ、おめえにわしとおばあの話をしてやっか。だが内緒だぞ。だれにもいうんじゃねえぞ。わしとおばあはじつは駆け落ちもんでの。むかしゃあ縁談は家と家で話し合いでとったりやったりしてたもんじゃ。じゃがわしらは好きおうて好きおうて、どうしても一緒になりたかった。じゃで示しあわせての、初雪の降った夜に逃げようと約束したのよ。ほら雪が積もれば足跡が残るまいが。ふたりとも風呂敷一つずつ背負うての、何日も歩いての、汽車に乗っての、この町さきただ。わしゃ漁師になっただ。おばあは漁場で働いただ。ふたりとも慣れねえ仕事での、わしゃ何度も殴られた。おばあもあかぎれいっぱいつくっての、あんなに辛かったのははじめてだった。じゃがの、一つ布団に身体寄せればよ、辛えこともふっとんでよ、天国よ。二年してようやく慣れたころに、おめえのおどが生まれたじゃ。その日も初雪での。それから初雪の降るときはええことが重なってよ、おめえが……、コラ、どこさ行くだ。ここからがええとこだってのによ。えっ、何度も聞いた? おども知ってる? 内緒だってのにだれさ喋っただ。わし? わしが喋るわけえねえずら。おばあもなに顔を赤くして笑ってるずら。

田中 怜子

特選句「日脚伸ぶ句帳をこぼれる鳥の声(重松敬子)」こんな優しい穏やかな陽だまりで句帳をひろげるなんて、うらやましい。特選句「裸木に星咲き漁夫らの白い墓」とても気持ち良い風景、映像が浮かびます。何があろうと宇宙、地球の営みは美しい。

佐藤 仁美

特選句「昼風呂の乳房の重し久女の忌」暗くなりがちな女の性を、「昼風呂」と言う明るさの中に表現した所が見事だと思いました。特選句「廃村に墓標のありて寒椿」誰も居なくなった村の古びた墓標と、寒椿の鮮やかな紅の対比で、なお寂しさが深まります。

植松 まめ

特選句「自動ドアの無音におびえ雪女」の自動ドアと雪女の取合せが面白い。わが家が自動ドアを生業としているので特にひかれた。特選句「デッサンの女足組む寒の入り(谷 孝江)」の句も美しいモデルがポーズをとっているアトリエをそっと覗いてみているようで。  

今月も素敵な句が沢山あり選句に悩みました。難しい言葉は辞書とスマホで検索して調べました。勉強になります。

津田 将也

特選句「あなたは杖をステッキと言う春野(三枝みずほ)」さしずめ、俳人である私に「杖」と聞いて想像する人物は?と質問されたら、「杖」の芭蕉の旅姿だ。もし「杖」に剣の仕込みがあるなら、勝新の「座頭市」と言ったところ。反対に「ステッキ」だと、おどけたマイムのチャップリンだ。本来の「杖」の目的は、人の歩行を助ける補助具なのだが、この目的以外でも利用される場面は多く、昭和初期ごろまで見かけられた。例えば、掲句の「あなた」のように、ファッション性を際立てる小道具として愛用する紳士諸氏もいたわけだ。時には「ステッキ」が重荷となり、置き忘れてくることも屡々だ。惚れた弱みで「あなた」の妻、つまりこの作者は、「あなた」のために足早に「春野」へと取って返す。情景が「春野」であったからこその、こんな楽しい想像を可能とする俳句となった。特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」:「ものすごく」とは、ある程度の基準を超越して凄い、凄ましいということ。従ってこの空は、雲一つ無い、まったく晴れわたった冬の青空であるのだ。「リンゴシェイク」は、細かく切ったリンゴに牛乳とハチミツを入れミキサーに入れてつくるが、これがまた冬空の雲とは相似の色合であり、両方のコントラストがおもしろい俳句となった。

伊藤  幸

特選句「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」テーブルに置かれた林檎ひとつの存在感の何と大きい事か。人類の招いたパンデミックコロナ禍、果たして人類は如何締め括るつもりであろうか。作者ならずも杭を打ちたい気分である。

男波 弘志

特選句「寒鮒の飴炊きとやら恋とやら(田口 浩)」鮒の泥、それを連想すれば恋の深さが観える。今回は特選一句のみです。

福井 明子

特選句「連れ合ひの股引を干し対峙せり」:「連れ合ひの股引」を「干す」のは、倣いとなっている、わたくしの役目。日常のくたびれた関係性が、寒風になびいています。対立や排除、嫌悪、というのではなく、今、何に対峙するのかー。「精神のありか」が立ち上がってくる一句です。特選句「デッサンの女足組む寒の入り」モデルの女の、足を組む下肢の長さが、眼前に伸びてきます。デッサンですから線描でしょうか。「肉」ではなく、「骨格」のようなイメージ。「女足組む」、ということばの意志的な姿勢が、寒の入りの季語と呼応しながら、象徴的な句になっていると思います。

竹本  仰

特選句「爪を切る冬の銀河に手は届く」選評:銀河は天上にあるのではなく、ここも銀河だという趣きかと取りました。爪を切るときって、どういう時なのかというと、ふいに自分のスペースを見つけた時ですよね。それこそありきたりなスペースかもしれないけれど、手触りな時間ですね。このスペースに銀河が近づいてきた、そしてそこにいる銀河人発見の瞬間であるというか、それが無理なく伝わってくるところがよいと思いました。特選句「雪が降る家族が透明になる頃」選評:なぜだか、ザ・ピーナッツ「ウナセラディ東京」の岩谷時子さんの歌詞?街はいつでもうしろ姿の幸せばかり…というのを思い出しました。家族が透明になるって、どういうことなんだろう?これが核心ですが、家族の原点というか、なぜこの家族ができたんだろう?というような幼いころから何度かよぎった問いがふいに鋭く来たというところでしょうか。クリスマスソングの、或る裏面がぬっと出て来た感じがしました。特選句「あやふきに遊ぶが楽し冬北斗(野﨑憲子)」選評:いまどきこんな句を見ると、どきっとしますが、これはいまどきではない話でしょう。表現する者にとってのメタフィジックな内容かと思いました。芭蕉をはじめ、連句の宗匠などは常にこの心がけだったのでしょうね、のるかそるか。芥川龍之介の俳諧鑑賞によると、芭蕉はけっこう魑魅魍魎など怪奇趣味があったのではとありましたが、たしかに紀貫之が仮名序で「鬼拉の体(きらつのてい)」のようなことを言っているのも、もともと芸術とはそんな「あやふき」ところまで行かなきゃダ メだよと言っていたのかも。などなど、思いました。以上です。

コロナ禍、コロナ禍と聞きつつ、自分の身にあるこの禍は何だろうと、そんなところで生きています。しかし、医療現場の方たちは、もっと凄いんでしょうね。そちらとこちらのラインはごく薄いんだろうなと思います。そういう身の回りの現実感があり、でも生きるとは常にそうであったらしいとも思え、今朝も気合でいきます。みなさん、本年もよろしくお願いします。

増田 暁子

特選句「寒月光ガラスの街を司る」寒月がビル街のガラス窓に差し込み、反射しているのが、街を支配し管理している様です。情景が目に浮かび作者の感覚鋭く、感激です。特選句「  寒月光近い昔と遠い今」老いて社会から離れると昔は近く、今は遠いです。少し寂しいがそれも昔の経験者の役目かな。はっとして目が醒めた思いです。並選句「老いるとは許し合うことですか雪」そうかも知れないですね。我が家も近辺も。「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」に杭打つが臨場感を感じます。「寒鮒の飴炊きとやら恋とやら」中7下5の軽快な音がとても面白い。「初雪はむかし語りのプロローグ」自分史を語る序曲ですね。

河田 清峰

特選句「やまと餅花あの日の餅花震災忌」二十六年経っても忘れられない一月十七日の餅花が哀しい。

榎本 祐子

特選句「耄碌も三昧にあり年の暮」境に入れば耄碌も素晴らしい。自在の境地。年の暮も重層性があり納得。

滝澤 泰斗

特選二句「煮凝りが平ら鍋にはイマジンが」たいら鍋に煮凝りなら前夜は家族か友達ともつ鍋でもしたか・・・そして、イマジンなら、異邦人も一緒にいる景が見えた。イマジンの歌詞のように想像してみました。中村哲さんが言う、みんな食べられる世界。貴重な句として記憶にとどめたい。「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」圧倒的な水量と豊富な酸素量を持つアマゾン。そのアマゾンが現代文明のITの旗手Amazonに象徴される「現代」に侵されているような一句としていただきました。「ひとむらの寒梅白い母とゐる」白い母はいくつになるだろう。ひとむらの寒梅との取り合わせが好感。「補聴器にころころ産声冬木の芽」補聴器を通して聴く孫の産声。それはころころとした赤子そのもの・・・冬木の芽の季語に合っている。「喋る口喰ふ口マスク齧りかけ(すずき穂波)」滑稽なるかな人間、そんな人間模様をシニカルにとらえて面白し。「寒月光近い昔と遠い今」鮮明な記憶、おぼろげな記憶が遠近感の中に月の光に蘇る様をうまく表現した。「冬のアンニュイ頭に瘤のある金魚」頭に瘤がある金魚はらんちゅうとかいうらしい。冬のアンニュイな感覚をらんちゅうと捉えたところに共感。

吉田 和恵

特選句「ひとむらの寒梅白い母とゐる」母もただの女という現と永遠の母という幻の間の抒情かも知れないと思いました。特選句「杣の手業の手籠は雪の明かりで編む(津田将也)」雪深い村・寡黙な杣人が夜なべて籠を編んでいる静かな情景が目に浮ぶようです。今回は、抒情の句に惹かれま した。問題句「雪だるま悪いこともうせえへんから」穿った見方をすれば、ブラック・ユーモアにも取れますが、「よい子はみんななかよしこよし」はなんだか怪しい。そんな感じ。本文

島田 章平

特選句「散り敷きし山茶花の意地華の土」椿はポトリと落ち花の姿を留める。山茶花は一枚一枚の花弁が舞い散り、花の形を留めない。桜も然り。そこに滅びの美学の様なものを作者は見たのだろうか。「華の土」に作者の美意識が見える。本文

松岡 早苗

特選句「雪の五線譜ピロロン奏でてみましょうか(伊藤 幸)」:「ピロロン」という擬音語が何ともいえずよい。軽やかにきらきらと舞い落ちる雪に、思わず両手を差し出したくなる。特選句「冬のアンニュイ頭に瘤のある金魚」冬の句に夏の象徴のような金魚。その取り合わせに一瞬ぎょっとしながらも、鮮烈で挑戦的なこの句の魅力に引き込まれた。冬日の射す薄暗い部屋に置かれた金魚鉢。グロテスクな瘤をもつ真っ赤な冬の金魚に、作者の物憂いこころは何を重ね見ているのだろうか。

豊原 清明

特選句「コロナ舞うシャドーダンスやスナフキン」二つのイメージ、正確には三つのキーワードから、動きの映像が見えるよう。問題句「しなやかにストッキングの裂け聖夜」語の面白さで勝負の句。ストッキングの女性の姿が、ドキッとする。

重松 敬子

特選句「雪解道うじうじぐずぐず生きて行こう」人生の達人の詠まれた句でしょう。思わず笑ってしまいました。まるで私のことを言われているようです。今年も元気で頑張ります。

年明け早々個性的な多くの句に出会え、今年も楽しみです。一年間勉強をさせていただきますのでよろしくお願いいたします。 

三枝みずほ

特選句「爪を切る冬の銀河に手は届く」爪を切った手をかざすと冬銀河という生命体、宇宙がある。手は届くと言い切ったことで精神的な吹っ切れ、清々しさを感じた。

高木 水志

特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシエイク」甘酸っぱい林檎のシェイクが冬晴れと響き合っていて清々しい。

森本由美子

特選句「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」機知にとんだ句。<遠き枯野かな>が人間としての感性をしっかり支えています。個人的なつぶやきですが、<水.酸素>が少し重く感じるので<気体.液体>くらいにしてはどうかと思いました。問題句「煮凝りが平ら鍋にはイマジンが」<鍋の中(または底)にはイマージン>のほうが読みやすいように思いました。

亀山祐美子

特選句はありません。問題句『杣の手業の手籠は雪の明かりで編む 』よく分かる説明文。散文。俳句だと云われると首を傾げる他ない。全二十文字。三つの「の」が間延びしている。「手籠は」の「は」が説明的。「杣」「手業」「手籠」「雪」「明かり」「編む」後二文字。外せないのは「手籠は雪の明かりで編む」だろう。<杣手業雪の明かりで編む手籠> <手籠編む杣の手業へ雪明かり><雪明かり掬ひ編み込む杣手籠> 段々作者の意図から離れてゆくようでウンザリするが十七文字に収める工夫は必要だと思う。

「海程香川」句会では感情移入感情優先の作品が目に付く。同感はするが感動はしない。無機質な物に語らせた想像の余地のある寡黙な作品に惹かれる。またそのような俳句を成したいと願い日々精進している。今年も拙い俳句を撒き散らしますが皆様お見捨て無きようよろしくお願い申し上げします。皆様の句評楽しみに致しております。益々寒くなりますご自愛下さいませ。

田口  浩

特選句「連れ合ひの股引を干し対峙せり」似たもの夫婦の間にも、それはそれ、これはこれと言う問題がたまに起こるものである。「連れ合ひ」熟年夫婦であろう。「股引を干す」日常に即してすることはします。「対峙」とは相対してそばたつと言うことらしい。ここは毅然として一歩も譲れないところ。昭和のホームドラマには、こんな役をこなすうまい役者がいたなあと思ったりもする。「股引」が圧巻。「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」:「林檎」はエロス。「刻」は一瞬。「杭」は間髪を入れず胸に打ちこむ、ドスンと強烈である。「ごとく」は個人的に好きな措辞ではないが、この「杭打つごとく」は見事であろう。林檎がよく利いてる。おもしろい。「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」:「ものすごく」この鈍くさいもの言いが、「冬晴れ」を眼前に表出してくれる。「君とリンゴのシェイク」シェカーはふりすぎてはいけない、氷が溶けて水っぽくなる。素早く、若者たちの愛は爽やかである。「爪を切る冬の銀河に手が届く」立て膝に足の爪を切っているところである。ここからの空想がそれぞれであろう。「昼風呂の乳房の重し久女の忌」:「ホトトギス」を除名になった久女は、精神を病んで入院したといわれている。「昼風呂の乳房は重し」これだけで複雑な女の性を充分に詠んでいよう。

夏谷 胡桃

特選句「初夢の寄り添ひ囲む食卓よ」家族や友達と食卓を囲めるのはいつのことになるでしょうか。遠くにいる子らとも会えず、息子が結婚しましたが会うこともできない。みんなが集まる食卓。富士山より縁起がいい初夢です。

柴田 清子

特選句「極月やカマボコ板が飛んでいる」年の瀬の慌ただしさ、しかも活気を帯びてゐる師走。極月をカマボコ板で言い得ている。思はず笑ってしまった。納得も感心もした。特選とした。

漆原 義典

特選句は「雪が降る家族が透明になる頃」です。今年は寒波が厳しく豪雪で苦労されている北国にお住まいの方々にお見舞い申し上げます。私は香川在住で雪はあまり降らず雪にロマンを感じます。雪が降るのを見て、家族が透明になると感じる作者の感性に感動しました。素晴らしい句をありがとうございました。

谷  孝江

特選句「新しい場所へ急ごう冬夕焼(河野志保)」昨年から今年へとウイルスに振り回された一年でした。でも新しい年は確実にやってきます。ぐずぐずと同じ所に佇ち止まること等はせず、前を見て歩き出したいです。元気をもらえる句です。今年もよろしく。

野田 信章

特選句「一葉忌大根の葉のわさわさと」の句は、古語の「わさわさと」の起用が何とも鮮やかで、引き立ての大根の生気がある。これと明治中期を駆け抜けて短命に燃焼した一葉その人との響感を呼び起こしてくれる句である。<太テエ女ト言ハレタ書イタ一葉忌(田中久美子)>の忌日は十一月十三日である。特選句「「空知らぬ鳥の形よ氷張る」の句には初氷との出合いのことかとおもわせる初々しさがある。まだ飛び立てないとの鳥の形状の把握がおもしろい。即物描写の基本の確かさあっての一句かと感銘を覚えた。

伏   兎

特選句「寒月光ガラスの街を司る」コロナ禍によって表出した現代社会の脆弱さと、寒の月との対比が見事に決まり、心をざわざわさせる。特選句「やまと餅花あの日の餅花震災忌」正月気分の抜けない頃に起きた大惨事は、二十六年経った今でも忘れることはできない。美しい餅花を見るたびによみがえる、作者の心の痛みに共感。入選句「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」 空気や水のような感覚で、暮らしに欠かせなくなっているネット通販。その便利さと引き換えに、自然がどんどん遠のいてゆく気がする。句全体に喪失感が漂い、惹かれた。入選句「冬木一本おずおずと空に話しかけ」誰からも好かれる風情の木もあれば、無愛想で不器用な木もあり、なんだか人間みたい、と思うことがある。そんな木の一つが、冬の星々に自らの来し方を語っているのだ。おずおずという表現がユニーク。

新野 祐子

特選句「裸木に星咲き漁夫らの白い墓」物語性を感じます。美しくも哀しい一枚の絵が物語の最後のページに。入選句「土手改修土嚢105個年を越す」昨年は災害につぐ災害。被災地に住む方々のご苦労が偲ばれます。今年は穏やかな天候に恵まれますように。問題句「姫始アラビアンナイトの木馬」ある歳時記には「太陽はアラビヤあたりひめ始」がありますね。掲句は、木馬という硬質な触感が読者の期待を裏切るようでいいかな、と。

野口思づゑ

特選句「寒月光近い昔と遠い今」その通りで昔のことは鮮明に覚えていますが、今は、やったばかりの事ですら覚えていない状態。そんな同年代同士で交わすぼやきを、上5の寒月光で見事に俳句に仕上げておられ感心いたしました。特選句「兜太逝きて三年白梅青し」金子先生のお宅にあったという白梅、先生の句にある白梅、そして香川句会のアンソロジーのタイトルの「「青」を、先生の忌に合わせ、私たちも枯野が青むまで俳句に精進します、とのメッセージを先生に送っているようです。問題句「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」枯野には、生命に不可欠の水や酸素、現代生活に入り込んでしまったAmazonが得難い、という事なのでしょうか。いや、水や酸素はありそうだけど、などと思ったりして楽しい句です。

月野ぽぽな

特選句「白梅や内なる扉開く気配」白梅の白には、静かにしかし強く内面に語りかけてくる力がありますね。忘れていた場所に通じる扉を開け、もしくは眠りから覚めて、本当の自分に近付いていけそうです。

荒井まり子

特選句「人日やカレーうどんの鉢の底」特13大晦日、元旦、三が日、松の内。漸くの人日。冷凍のうどんとレトルトのカレーだろうか?国民食のカレーが〆で一丁上がり。しみじみ共感。いつもありがとうございます。

石井 はな

特選句「初御空ひなの如くに殻破る」ひなの様に少しずつ殻を破れば良いのかと力づけられます。無理して一気に結果を出そうとさずに、ちょっとずつでも変わっていけば良いんですね。

高橋美弥子

特選句「人日やカレーうどんの鉢の底」人日という季語に引っ張られ過ぎずにカレーうどんのその「鉢」に最後おさめた所がいいなと思いました。問題句「ネイリストしもやけググる指づかい」若いネイリストはしもやけをググるということでしょうか。語順を整えれば面白い句になりそうです。

菅原 春み

特選句「透明な壁が林立聖夜かな(十河宣洋)」去年の聖夜だけであればいいが、透明な壁の林立が鮮やかで美しく悲しい。今年の聖夜をきたいするが。お見事です。特選句「冬木一本おずおず空に話しかけ」おずおずと話しかける、しかも空に、その主役は冬木とは。景が目に見えて寒さが身に沁みる。 

田中アパート

特選句「極月やカマボコ板が飛んでいる」なんでや、なんで飛ぶねん。問題句「睡眠を生きがいとして駄犬かな」なんで駄犬や、立派な犬やで、私もこんな犬のような人生を送りたい。

佐孝 石画

今回も並選のみです。「寒月光近い昔と遠い今」:「近い昔」は分かるが、「遠い今」とは何だ。齢を重ねるにつれ、過ぎ去った時は胸の内に積み重なっていく。「今」を「昔」が侵食していく。それは諦念に近い恍惚感覚。「遠い今」があやういがうえにこの句の魅力となっている。寒月光に照らされ、時空に揉まれながら呆然としている作者が見えてくる。「擦硝子の古沼を縫いゆく穴惑」:「擦硝子」という明瞭に見えない世界。見えないがゆえに、視線はより内面世界へと向かう。そこにおぼろげに現れてくるのは、記憶という古い沼たち。色も匂いも手触りもおぼろげに融解し、堆積していった胸の内の仄暗い「沼」。記憶の水を湛えたさまざまな窪みを「縫いゆく」のは、いまだ惑い続ける作者の漂泊感覚であろう。僕もかつて「白鳥来るいろんな沼を縫い合わせ」という句を作ったが、それも自分の「沼」を「縫いゆく」世界だったのかも知れない。

三好三香穂

特選句「白梅や内なる扉開く気配」白梅のほころびを"内なる扉開く" と捉えたところに深い詩情を感じる。なるほど、花の精が1枚1枚そおっと扉を開いているのかも。「青天の霹靂のまま去年今年」おそらくコロナ禍のことと思うが、ほかにも大きな出来事があったかも知れません。なんだか、もどかしいまま迎える今年。来年の去年今年が明るいことを祈ろう?「煮凝りが平ら鍋にはイマジンが」釣り好きの亡父の釣果で夕食のごちそうが並んでいた。亡母が上手に捌いて、刺身に煮魚、焼き魚、アラは吸い物に。煮魚の翌朝には鍋にゼリー状の煮凝りが固まっている。それを熱い白米の上に乗せて溶かしていただくのが、習慣。その煮凝りに作者はどんなイマジンをしたのだろうか。イメージすることのなんと人間的なことか。鍋の中にイマジンを持ってきたのに、新しさがある。「寒月光近い昔と遠い今」年を取ると昔のことは鮮明な記憶あり。たった今のことは、短期記憶なし。あれ、何だっけ。月の光が寒い。晩年の感慨。共鳴句。「顔入れてセーターの中わが宇宙」セーターを着る時、頭を突っ込みその瞬間、私だけに見えるセーターの中の世界、それをわが宇宙と捉えたのが面白い。赤い、青い、ピンクや緑、黄色や黒のそれぞれのセーターは外光と混じり合ったそれぞれの宇宙がある。

吉田亜紀子

特選句「補聴器にころころ産声冬木の芽(増田暁子)」:「ころころ」といった表現がたまらなく可愛い。作者の状況や想いが、すっきりとまとまっていて、微笑ましく拝見しました。特選句「顔入れてセーターの中わが宇宙」このような発想が私も出来たら良いなと思いました。普段の生活から俳句が出来るのだと改めて痛感致しました。問題句「白髪の君タンポポをあげましょう」好きな句です。「白髪」と「タンポポ」。恋物語のよう微笑ましいエピソードがあるに違いないのですが、何故、タンポポをあげるのか理由をもう少し知りたいと思いました。

初めまして、俳句を始めて数年です。この度、貴重な縁に恵まれ、参加させて頂く事になりました。感謝と共に、皆さま、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

川崎千鶴子

特選句「ふわふわと咳き込みながら根深汁」熱い汁物を食べると何故か軽く咳くが、その咳を「ふわふわ」とで表した素晴らしさ。見事です。「コロナ禍の初春鼻がいじけてる」初春には特別綺麗に化粧をして人前に出るが、マスクで鼻は隠れてしまう。そこで鼻がいじけているのです。「鼻がいじける」とは感嘆です。「日脚伸句帳をこぼれる鳥の声」少しづつ陽が伸びた地で、句帳を取り出し詠みだすと小鳥の鳴き声が降って来る。それを「句帳こぼれる」と表現したすばらしさ。「雪解道うじうじぐずぐず生きて行こう」いつもラジオ体操のように張り切って生きていけないが、元気の無いときは「うじうじぐずぐず生きて行こう」と居直っている力に賛成。

佐藤 稚鬼

特選句「冬木一本おずおず空に話しかけ」冬木一本の寂寥と?おずおず?の擬人化は良。

松本美智子

特選句「寒月光ガラスの街を司る」冷たい冬の月を見ていると吸い込まれていくような気がします。人間界の良きも悪しきも見通しているかのような佇まい。厳しいながらも凛とした美しさの中に背筋の伸びる思いを何度したことでしょう。

中村 セミ

特選句「行間や蛇も目瞑ることをする」本を読んでいる時、行間の白さを感じたのだろう。蛇が冬眠するような、そこに、只透明感、白い空間を感じた。その本はもしかして句集かもしれない。面白いと感じた。

稲   暁

特選句「透明な壁が林立聖夜かな」実景とも幻視とも受け取れる「透明な壁」が「「聖夜」の情感を確かなものにしている。美しいイメージに惹かれる。問題句「気圧喰う潜水艦の耳が鳴る」意味的についていけないところがあるが、イメージとしての面白さには惹かれる。 

藤田 乙女

特選句「雪の声過去たちが来て立ち往生」降る雪に次々と過去の出来事が想起される状況にとても共感できます。「過去たちが来て」や「立ち往生」の表現がユーモラスで明るさが感じられ惹かれます。特選句「空知らぬ鳥の形よ氷張る」空知らぬ鳥と氷との取り合わせがよく効いていて、氷の張っている様子が鮮明に浮かびます。

小宮 豊和

「海程香川」百十三回について「青天の霹靂のまま去年今年」「コロナ禍の句会中止の寝正月」「寄り添って温め合って待つ初日」「石蕗の黄や人影しるき狼煙台」「寒月光近い昔と遠い今」 多様な句の多様な局面への反応はそれぞれ健全である。

野﨑 憲子

特選句「老いるとは許し合うことですか雪」一句丸ごと雪のひとひらひとひらに見えてくる不思議な作品です。読むほどに、ゆったりとした時の流れの中にいるようで温かな気持ちになれます。「杣の手業の手籠は雪の明かりで編む」たっぷりとした字余り、<手業の手籠の>の調べが慎ましくもゆかしい山の民の暮しを活写しています。<雪の明かりで編む>の措辞が圧巻です。問題句「白髪の君タンポポをあげましょう」どなたかへの挨拶句ですね。優しくて素敵な作品です。私も、昨年から髪染めをやめました。私的には、白髪でなく「銀髪の君へ」がいい。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

女正月
女正月鼈(すっぽん)の血は祖母が抜く
田口  浩
遮断機の降りた正月アクリル板
藤川 宏樹
女正月の肴は亭主般若湯
三好三香穂
山脈(やまなみ)は鼾のかたち女正月
野﨑 憲子
風花
風花や仙人降りる銀閣寺
藤川 宏樹
昨日わたしは風花になったと 鬼
野﨑 憲子
雪催
波打際の猪の骸や雪催
野﨑 憲子
雪催ひ家路は西に青空に
三好三香穂
雪催ひ京へ爆弾低気圧
藤川 宏樹
青い扉の沖に明日の雀踊(こをどり)す
野﨑 憲子
扉開けて文旦の尻を撫でる
田口  浩
扉あけ朝日浴びたし冬長し
三好三香穂
扉開ける手に青い静電気
三枝みずほ
自由題
モンローの我を見つめし初句会
三好三香穂
地球離れる水栽培のヒヤシンス
田口  浩
まほろばはコロナの奥に冬の耳
野﨑 憲子
充電器買って枯野を過ぎゆけり
三枝みずほ
飛行機雲ふくれゆくまま蓑虫たれ
佐藤 稚鬼
野晒の六密地蔵に赤マスク
佐藤 稚鬼

【通信欄】&【句会メモ】

2月28日(日)午後2時30分~3時13分放送予定のNHKEテレ「俳句王国がゆく」(全国放送)に三枝みずほさんが出演なさいました。録画は、1月23日に、さぬき市志度音楽ホールでありました。今回は、コロナ禍の中、入場数の制限があり、私は、テレビで案内の観覧者募集に応募葉書を出し落選してしました。幸い、出演者枠の観覧券で拝見させてもらうことができました。三枝さんは、俳句バトルも堂々としていて爽やかで素晴らしかったです。番組の中の、最終バトルをお見逃しなく! 今回が「俳句王国が行く」の最終回とか、三枝さんを推挙してくださった松本勇二さんに心よりお礼申し上げます。香川限定の特別番組も2月19日(金)午後7時30分からNHK総合であります。お楽しみに!

コロナ感染拡大の中、藤川宏樹さんのご厚意で「ふじかわ建築スタヂオ」に於いて初句会を開くことが出来ました。今回は時間を短縮して<袋回し句会>のみの開催でしたが、やはり生の句会は顔を見て話しあえるので最高です。マスクを取って、もっと近づいての句会が出来る日を心待ちにしています。

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