第134回「海程香川」句会(2022.11.19)
事前投句参加者の一句
琵琶法師語り語(がた)りに風の花 | 飯土井志乃 |
ヌードの手は母なんです文化祭 | 藤川 宏樹 |
真つ直ぐに進め銀河鉄道まで | 島田 章平 |
間近では届かぬ思い金木犀 | 中野 佑海 |
梟や風が変われば逢いに行く | 松本 勇二 |
小六月絶対飛ぶ気の鶏のゐて | すずき穂波 |
待ち合はせ無いです恋も柿の実も | 谷 孝江 |
空元気今日も生きるぞ烏瓜 | 稲葉 千尋 |
月命日竜胆一枝活け足して | 山本 弥生 |
鮭己が体液に沈みかえらぬ | 十河 宣洋 |
浜菊や海女の径へとよじれ咲く | 樽谷 宗寛 |
月耿々アルハンブラの憂愁よ | 山田 哲夫 |
つゆ草の青より碧し仁淀川 | 薫 香 |
耶馬台国の秋見にゆくと言い遺し | 岡田ミツヒロ |
リュウグウや露一粒の宝箱 | 塩野 正春 |
すすき原すすき一本づつ二人 | 淡路 放生 |
心音を確かむ夜の初時雨 | 佳 凛 |
はないちもんめ端っこの冬すみれ | あずお玲子 |
大落暉沙上の火櫓影長し | 滝澤 泰斗 |
味もない夏秋苺が横になる | 中村 セミ |
覗き込み秋の鏡に入れてもらふ | 小西 瞬夏 |
林檎半ぶんゴリラは友達社会だな | 増田 暁子 |
榠樝の実落ちて居場所のなかりけり | 伊藤 幸 |
一叢の風と芒を持ち帰る | 大浦ともこ |
水澄むや子はスプーンを離さない | 竹本 仰 |
駈け降りる兜太の足音秋の山 | 疋田恵美子 |
靴脱いでこども図書館冬ぬくし | 菅原 春み |
遠花火青春の思ひうらぶれる | 佐藤 稚鬼 |
ハロウィンの仮装憧れの自分のよう | 野口思づゑ |
甘えたき母は遺影や枇杷の花 | 植松 まめ |
地球から野菊消えるという幻覚 | 森本由美子 |
ウィルスの変幻自在冬の空 | 石井 はな |
十一月の雨やうなぎが待つてをり | 高橋 晴子 |
感情は捨て透き通る秋の川 | 川崎千鶴子 |
惑星食は大空のキス冬の宵 | 漆原 義典 |
マヒワ来よ脱走兵の肩に乗り | 新野 祐子 |
猫と寝て猫温かき良夜かな | 稲 暁 |
ダボダボの礼服ゆらし七五三 | 佐藤 仁美 |
満月や最終電車の小さきこと | 銀 次 |
息をせぬ全ての兵士星月夜 | 山下 一夫 |
封切れたように落葉雨 生きよう | 若森 京子 |
笑ひ皺一本増やし冬に入る | 亀山祐美子 |
自分史の滲み広がる柿落葉 | 藤田 乙女 |
兜太なき世の日雷さま裏山に | 野田 信章 |
虫と棲む生活一部始終かな | 桂 凜火 |
人体は仏のかたち秋落暉 | 津田 将也 |
余命告知のAI冬田広がりぬ | 大西 健司 |
無一文一片ありぬ秋の雲 | 鈴木 幸江 |
もなはなや まはやらやらら たのゆはや | 田中アパート |
太宰読む薄刃のごとき秋夕焼 | 松岡 早苗 |
一切をこめて写経の冬日向 | 向井 桐華 |
難民ドキュメンタリー鑑賞中冬の虫 | 豊原 清明 |
あかまんまあえてでこぼこあるきたい | 福井 明子 |
神の留守嫌いの中に好きもあり | 川本 一葉 |
病名は肺マック症秋の風 | 野澤 隆夫 |
秋の日や嫁ぐ姉より「国語辞書」 | 吉田亜紀子 |
牛スジを煮込んで夜を開けている | 吉田 和恵 |
てのひらに小さきサーカス散紅葉 | 増田 天志 |
柿の葉が散って了って放哉句集 | 久保 智恵 |
太古の海牛漂ふ多摩川(かわ)や草紅葉 | 田中 怜子 |
君ことりと戻る骨は雪のよう | 夏谷 胡桃 |
憂国忌赤いスープに舌を焼く | 三好つや子 |
山装う父と繋ぐ掌楽のごとし | 河田 清峰 |
独白の途中に落ちるどんぐりよ | 河野 志保 |
霜月や棘もつ果実と月蝕と | 重松 敬子 |
小鳥来るはみ出る癖の仲直り | 高木 水志 |
一棹の母の燻しの小六月 | 荒井まり子 |
知恵の輪の元に戻らぬ夜長かな | 菅原香代子 |
体内に育てし骨と冬に入る | 月野ぽぽな |
山茶花の白に心を明け渡す | 柴田 清子 |
廃校のシンボル銀杏誰がために | 三好三香穂 |
またひとり紅葉の山の神隠し | 榎本 祐子 |
理科室のシンクに蠅よ秋深む | 松本美智子 |
東雲と夜を捨ててきた月と | 佐孝 石画 |
焚火して手になじみゆく生命線 | 三枝みずほ |
蛍籠揺すれば溶ける胃の薬 | 小山やす子 |
赤とんぼ親という字の書き順を | 男波 弘志 |
こだわりと言う不発弾冬に入る | 寺町志津子 |
ドニエプルも仁淀も青し冬の川 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。冬の寒い中に、ほのぼのとした景。こども図書館は、畳だったり、カーぺットが敷いてあったり。「靴抜いで」というのが、あたりまえのようでいて、発見である。力みがなくて、気持ちのよい一句。
- 増田 天志
特選句「黒色火薬つまめば冬の蝶翳る(大西健司)」。黒と翳とが、ダブッているが、火薬と冬蝶との着想は、素晴らしい。つまむのは、良いが、つまめばは、因果関係が、出過ぎる。
- 福井 明子
特選句「榠樝の実落ちて居場所のなかりけり」。家から遠景に見える空き家の庭に榠樝の実が一面に落ちています。主がいないのに漂う香りが、妙にこの句の思いと重なります。特選句「一切をこめて写経の冬日向」。写経をしたことはありませんが、きっと背筋をピンと張り、精神の一切を研ぎ、向かうのでしょう。冬日向が至福の時を醸し出しています。
- 十河 宣洋
特選句「惑星食は大空のキス冬の宵」。先日皆既月食と天王星食が報じられた。残念ながら雲が掛かっていて私は見れなかったが、その雲の合間に見たという人もいた。惑星のキスの捉えは面白い。スケールの大きな.キスだなあと感心している。特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。寂しい気持ちが出ている。遺骨の軽さと白さが実感となって迫ってくる。問題句「なえはたな なまひあらはば かてあはな(田中アパート)」「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。作者のひとり遊びになっていないだろうか。伝達性が薄いように思う。試みとして、意欲を買う。
- 松本 勇二
特選句「蛍籠揺すれば溶ける胃の薬」。胃痛に悩まされた人にしか分からないかもしれないが、少しでも早く薬に効いてもらいたいので揺するのだ。季語は季節外れだが、身体感覚溢れる一句。
- 川崎千鶴子
特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。ご主人がお骨になって机に安置するとき「ことり」と音がされたのでしょう。大変お寂しい事です。「自分史の滲み広がる柿落葉」。青葉から紅葉にそして落葉になって行く柿の葉を「自分史の滲み」と表現されたことに感嘆です。
- 津田 将也
特選句「小六月絶対飛ぶ気の鶏のゐて」。季語「小六月」の多くは、「小春」「小春日」で使われる。俳句では、今の暦の十一月半ば過ぎから十二月初めごろを想定している。激しい風も吹かず、雨も少なく、温和な春に似た日和が続く。秋の名残と、厳冬への逡巡の間に、ぽっかりと訪れる和やかさである。鶏が、「空を飛びたい」との意欲を湧かすのも、「小六月」の和やかさゆえと納得できようか。特選句「浜菊や海女の径へとよじれ咲く」。「浜菊」は、東北地方の太平洋特産海岸植物の一種で、キク科の多年草である。秋に中が薄みどりで、その周りが白い花をつける。また「秋牡丹」という呼名もある。「俳句季語よみかた辞典(日外アソシエーツ)」には季語として収録があるが、その他の歳時記には季語としての記載がない。花言葉が「逆境に立ち向かう」とあったので、句の「よじれ咲く」の、作者の、ここへの着目がすばらしい。
- 小山やす子
特選句「笑ひ皺一本増やし冬に入る」。今年一年大いに笑った主人公。厳しい冬が来る中を乗り越えて行く姿がいいです。
- 樽谷 宗寛
特選句「朝寒の空に大鯛朱のうろこ(福井明子)」。寒い朝嬉しい発見ですね。色、形、鯛の姿まで想像できました、また幸さきの佳きお句でした。
- 山田 哲夫
特選句「覗き込み秋の鏡に入れてもらふ」。日常のどうと云うことも無い人の動きを取り上げた句だが、鏡の景の中にわざわざ意識して「覗き込み」入れてもらおうとすることに俳人らしい作者の遊び心の有り様が窺われて、面白いと思った。
- 夏谷 胡桃
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。ちいさな図書館の窓から陽が差し込み、子どもが床に座り込んで本を読む。そんなあたたかな場面がポッと浮かんできました。
- 月野ぽぽな
特選句「てのひらに小さきサーカス散紅葉」。色鮮やかな一枚がくるくる回りながら手のひらに着地。そんなイメージがやってきました。小さきサーカスがマジカルです。そう、人の想像力も含めて自然の営みはマジカルなのです。
- 豊原 清明
特選句「浜菊や海女の径へとよじれ咲く」。「よじれ咲く」が、海女の腰も重なって、面白いと思う。特選句「耶馬台国の秋見にゆくと言い遺し」。ロマンかも知れない。「耶馬台国の秋見にゆく」が良いと思う。問題句「息をせぬ全ての兵士星月夜」。「全ての兵士」が息をせぬ。分かる気がする。しばらく続く戦争ニュース見る行為。見ないといけないと教えられる。
- 田中 怜子
特選句「ダボダボの礼服ゆらし七五三」。映像が浮かびます。お母さんに手を引か れ、晴れがましく歩いている坊やの姿が。可愛いですね。日本の喫緊の課題は少子化。子供を大事にしよう。その親子を見ている側の優しさも感じられます。特選句「人体は仏のかたち秋落暉」。この風景を見たことあります。人間の形が落暉を受けて、燃え上がるろうそくの炎のように揺れている姿を。 ♡世界の人々が目撃する、ロシアのウクライナへの侵攻。そして日本では、元首相の暗殺からまあなんと芋ずる式に、政治がいかにカルトに汚染され、そしてなんと騙されやすい国民なのか。それが露呈された2022年で、落ち着かない年だった。私たち、もっと賢くならなければね。皆様、来年こそ、ウクライナ停戦がなされ、政治の世界も我々も賢くなることを望みます。もちろん、スーダン、アフガニスタン、ミャンマー等に平和がきますように。
- 石井 はな
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。個人の開いているこども図書館なのでしょうか、靴を脱いでリラックスして本をめくったり読み聞かせに耳を澄ます子供達が浮かびます。 冬ぬくしが場の雰囲気を伝えていると思います。
- 河野 志保
特選句「焚火して手になじみゆく生命線」。焚火を手に受け、その温もりにふと自らの生命を感じた作者。人生を穏やかに肯定する境地が察せられる。「手になじみゆく」の把握が光る。
- 男波 弘志
「封切れたように落葉雨 生きよう」。感情が堰を切ったとき生きると誓った 生きよう 生きよう そう 思う 特選です。「水澄むや子はスプーンを離さない」。この世界が観えているのは水と子供だけだろう。虚の世界とはそういうものであろう。秀作です。
- 三好つや子
特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。愛する人が荼毘にふされ骨となって、家に戻ってきたときの、言いようのない淋しさを感受。とりわけ「ことりと戻る」という表現が、深く心に刺さった。特選句「素とも性とも揺れている夕芒(若森京子)」 あれこれ考えて、心が定まらない自らを俯瞰しているのだろうか。風にそよぐ芒と曖昧な心模様とが響き合い、妙に惹かれる。「席順はコスモス紫苑泡立草」。初秋、仲秋、晩秋に咲く花を通して、中学校や高校でよく見かける少女像がくっきり浮かび、注目した。「隣家から首がでてくる皆既月食」。十一月八日、月食中に天王星食も起こる、珍しい皆既月食を見ようと、窓から首を出している光景に、ほのぼの感が止まらない。
- 中野 佑海
特選句「心音を確かむ夜の初時雨」。朝晩めっきり寒くなり、時雨が降ってくると、一段と心許なく、布団に潜り込む。いっそう心拍が大きく聞こえる。少し不安な一人寝の夜か。年をとると、余計なものが聞こえる気になる。特選句「泣き顔はセーターのなか小宇宙(三枝みずほ)」。大きな声で泣ける人は幸せです。自分一人で何でも抱えて。此方の胸が痛くなります。「琵琶法師語り語りに風の花」。琵琶法師の語りは風が語っているような不思議な魅力。「梟や風が変われば逢いに行く」。風向きが変わらなければ逢いには来てくれないのですね。「尋ねたら返事もしてね土竜の頭」。Yes,Sir.先生は怖いです。ちょっと図に乗って、返事しようものなら、バーンて。「花野から飛び出す僕ら古代人」。縄文時代の人たちは自由に楽しく自立して暮らしていた花野から、どうして飛び出したのかな。「笑い皺一本増やし冬に入る」。家族楽しく温かく良いですね。「あかまんまあえてでこぼこあるきたい」。赤まんま。子供のころはよく取って、プチプチしてたけど、もう、咲いていても、気にもとめなくなって。でこぼこした人生歩いてきたな。「知恵の輪の元に戻らぬ夜長かな」。とりあえず手持ち無沙汰で知恵の輪などいじってみるけど、心は此処に無く。もしかして、元に戻らぬのは貴方と私?早くごめんなちゃいしちゃいなさい。言ったもん勝ち。「五時間目どんぐり独楽の競い合い」。もういい加減、授業は疲れます。どんぐり独楽を回して回して。頭も回して回して。幾ら頭回しても振っても、俳句は降って来ませーん。
- 稲葉 千尋
特選句「息をせぬ全ての兵士星月夜」。何んと辛い句。上五中七が全てを語っている。ウクライナだけではない。世界の至る所を思う。
- 菅原 春み
特選句「余命告知のAI冬田広がりぬ」。AIが余命告知するのでしょうか? 近未来のはなしか現実か、寒々としたリアリティのある光景です。特選句「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。三島忌の赤きを愛す馬の鞍を彷彿させるような、けれどもさらに舌を焼くとは、形容がみごとです。
- 藤川 宏樹
特選句「秋の日や嫁ぐ姉より「国語辞書」」。主演・原節子、助演・笠智衆の小津映画を見るような、秋の晴れやかな日が想起されます。「国語辞書」に意表を突かれました。
- 鈴木 幸江
特選句「諦めともちがう覚悟一茶の忌(伊藤 幸)」。“諦”という漢字の字義は「つまびらか、あきらか」である。そこから、明らめる、思い切る、仕方がないと断念するという意味へと変化していった。そんな字義の変化を踏まえての一句として鑑賞したい。すると“覚悟”の意味も仏教用語としての「迷いを去り悟ること」とも解せる。もちろん、諦めて観念して強がっているような世俗的な解釈も味わいたい。でも、聖と俗を常に意識し、その対立が融合する場に発生する「美」を探究していた俳人として、小林一茶を評価している私には、「悶え神」のような一茶像が勝手に浮かび上がってくるのだ。勝手に共鳴して特選にさせていただいた。
- 塩野 正春
特選句「はないちもんめ端っこの冬すみれ」。はないちもんめ・・よく遊びました。 私は女兄弟の男ひとり、いつも数合わせに誘われ、隅っこでした。歌が続く中、はたして連れていかれるのやら心配したものです。 “端っこの冬すみれ“がそんな不安な気持ちをさらっと取り去ってくれます。ノスタルジー甦ります。特選句「人類を出られぬ人類龍の玉(三好つや子)」。遺伝子が続く限り、且つ地球がある限り人類は人類にとどまりますね。この嫌な世を抜け出すとしても次に人が帰ります。 地球上の生命全てが同じ境遇で抜けられない状態です。龍の玉がその循環を監視する怖い目です。かっての自作:啓蟄や吾ホモサピエンスヒト科なり としましたが、これは人類を自慢しているわけで、人類から抜け出せない人類とは対照的な表現です。俳句は面白いですね。自句自解「りゅうぐうや露一粒の宝箱」。巨額の探査機でようやく小惑星から持ち帰った砂に露、水がありました。宇宙には地球以外の生命が存在するかもしれない。夢があります。「霜月や稻むらの火を永久(とわ)共に」。安政の大地震と津波の情報は既にヨーロッパにも知れ渡っていました。津波への警戒は世界中に必要な対策です。いなむらに火をつけ万人に知らせた知恵に感激です。
- 滝澤 泰斗
特選句「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。その熱さに気付かず啜ったボルシチと憂国忌の取り合わせに新鮮味があり。自分の中で、三島の評価がまだ定まっていないところを指摘されたような一句。特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。ここの君は、私にとっては母親。癌を患い骨太だった母の遺骨も蝕まれたからだは無惨。命日が十月で近く、殊の外、共感。共鳴句「諦めともちがう覚悟一茶の忌」。確かに、一茶の句には、この句のとおり、覚悟が感じられる。「月耿々アルハンブラの憂愁よ」。谷を挟みアルハンブラの宮殿が満月に浮かぶ時、栄華を誇ったイスラムの悲哀が浮かんでくる。「駈け降りる兜太の足音秋の山」。秋の山は長崎の稲佐山か・・・何につけても、思い出される兜太師ではある。「黒色火薬つまめば冬の蝶翳る」。二物衝撃。自分には書けない一句だが、こころに残る。
- 増田 暁子
特選句「てのひらに小さきサーカス散紅葉」。てのひらに紅葉が散り落ちて風に踊ってる景が見えます。サーカスが素晴らしい。特選句「焚火して手になじみゆく生命線」。焚火の暖かさにほっこりとした様な、焚火の赤に元気をもらった感が生命線と表して上手いですね。
- 淡路 放生
特選句「余命告知のAI冬田広がりぬ」。傘寿を越えた老いに取って、AIの余命告知など空々しい。とは言え<いのち>のことである。冬田の広がりの中に自分を置いてみるとき、AIのはじきだした余命に納得ではなく、のみこめる自分がいるかも知れない。広々とした冬田の景が、妙に懐かしく、暖かい。
- あずお玲子
特選句「主人公と同じ髪型神無月(亀山祐美子)」。ずっと気になっている主人公。同じ髪型にしてくださいと思い切って言ってみる。今ちょうど、神様はお留守だから。ショートストーリーが書けそうです。
- 薫 香
特選句「秋の蝶ことばはときに邪魔になる(夏谷胡桃)」。蝶は人の生まれ変わりだと聞いたことがあります。今日は誰が逢いに来てくれたのかいろいろ思いを巡らせていると、ことばは要らなくなり、ただ「ありがとう」と。特選句「一切をこめて写経の冬日向」。最近習字を再開しました。小学校以来なので、五十年ぶりです。お手本を見ながら集中しているひと時は、全てを忘れ全てを込めているような気がします。♡初参加の弁:最近写真も再開しました。その時々の感動を切り取り誰かに伝えたくて続けています。一瞬を切り取るのは俳句と同じで、十七音で広がる世界を楽しんでいきたいと思います。よちよち歩きのみにくいアヒルの子が白鳥になれる日まで、温かく見守っていただければ幸いです。
- 若森 京子
特選句「耶馬台国の秋見にゆくと言い遺し」。女王卑弥呼が支配した耶馬台国の秋を見に行くと云って帰らぬ人。不思議な魅力がある一句。九州地方か畿内地方か分からないがロマンがある反面、謎めいている。下五の「言い遺し」の措辞にふと遺言の様な気もした。特選句「余命告知のAI冬田広がりぬ」。医学は日進月歩で現在はAIによって全て判明し余命告知もされてしまう。命も機械に支配される現在へ、古代から人間によって耕されてきた冬田が広がる索漠感との対比が明解で深い。
- 高木 水志
特選句「封切れたように落葉雨 生きよう」。先日、僕の母方の祖父が亡くなった。亡くなる二日前に病院へお見舞いに行って、僕が頑張っていることを祖父に話した。祖父はまだまだ生きていこうと思っているのが枯れ枝のような体中に現れていた。最後の最後まで自分の道を貫いた祖父だった。この句は、自分の役割を知りながら次の世代に思いを託す落葉が祖父の最期の姿と重なって心に沁みた。
- 柴田 清子
特選句「小六月絶対飛ぶ気の鶏のゐて」。飛べない鶏が、春のように暖かい、こんな日は、この羽根で思い切り飛ぶことにする、飛べるんです。そんな事になる、この句の作者自身が、小六月日和を充分に賜っているから出来た句、特選としました。
- 島田 章平
特選句「一叢の風と芒を持ち帰る」。「一叢の風を持ち帰る」の修辞が素晴らしい。 問題句2句「なえはたな なまひあらはば かてあはな」。「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。返句「ははははは ははははははは ははははは」。
- 山本 弥生
特選句「待ち合わせはここよこの樹よ落葉道(野﨑憲子)」。久し振りの故郷、記憶のままの旧道の落葉道に子供の頃よく待ち合わせた樹も大きく成長しそのままの位置に在り立ち止って「只今」と挨拶をしている姿が目に浮かぶ。
- 疋田恵美子
特選句「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。ロシアのウクライナ侵攻等に、国の現状将来に心を痛める日々。昼食の熱いスープ。
- 川本 一葉
特選句「榠樝の実落ちて居場所のなかりけり」。なぜこの句に惹かれるのか。すみませんわからないのです。寂しさや虚しさ遠慮、薄緑、木陰、とにかく見過ごせない引っかかる言葉が頭を掠めるのです。
- 大西 健司
特選句「笑ひ皺一本増やし冬に入る」。小品ながら滋味深い句を佳とした。暗いニュースの多い昨今笑い皺が増えるような、そんな日々を送りたいと願うばかり。
- 榎本 祐子
特選句「月耿々アルハンブラの憂愁よ」。アルハンブラ宮殿の栄枯盛衰へと思いは馳せる。時を経ても月は変わることなく光を投げかけている。美しい景。
- 重松 敬子
特選句「あかまんまあえてでこぼこあるきたい」。なかなかの人生訓ですね。季語がぴったり。これからも、でこぼこ、歩いて行って下さい。
- 新野 祐子
特選句「琵琶法師語り語りに風の花」。琵琶法師のうら悲しい語りひとつひとつに風花が舞う。何て幻想的でしょう。こんな光景を作れる俳句の力ってやっぱりすごいです。「風花」を「風の花」と言ってもいいかわからない私です。「空元気今日も生きるぞ烏瓜」。大変な世の中で生きるのは楽ではないけれどがんばって生きましょう。末枯れの中のまっ赤な烏瓜が励ましてくれます。
- 河田 清峰
特選句「地球から野菊消えるという幻覚」。地球上から戦争が無くならない現実が哀しくなる。
- 松岡 早苗
特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。「雪のよう」という比喩に惹かれた。命のはかなさと美しさが抑制された悲しみの中に滲んでくるように感じた。特選句「湖に夏鴨わが遊俳の友三人(野田信章)」。涼やかな旅情とともに、俳句を人生の友として自由に楽しんでいる作者の心の充実感が伝わってきた。友との絆と俳句愛が清々しく詠まれていて素敵。
- 田中アパート
特選句「ツナ缶を開けて秋日の浅き傷(松岡早苗)」。あぶない、あぶない、気をつけないと、カミさんによく云われてます。特選句「牛スジを煮込んで夜を開けている」。牛スジ煮込むときた。うまいんですよ、牛スジカレー?
- 植松 まめ
特選句「山茶花の白に心を明け渡す」。初冬のひんやりとした空気のなか咲く山茶花が好きです。中でも白が特に好きです。白に心を明け渡すという表現にひかれました。特選句 「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。憂国忌をはじめて知りました。三島由紀夫の命日との事。赤いスープに舌を焼くの表現も凄いと思いました。
- 伊藤 幸
特選句「てのひらに小さきサーカス散紅葉」。散紅葉の舞い散る姿を小さきサーカスと表現するとは「参った!」としか言いようがない。拍手です。
- 飯土井志乃
特選句「空元気今日も生きるぞ烏瓜」。隣家の庭に烏瓜が一個出現。たわむれに小枝でつっつくと勢いよく跳ねる。何度でも何度でも律儀に跳ねて、この婆を喜こばせてくれる。「あそびをせんとやうまれけむ」この秋出来たてホヤホヤの遊び相手である。
- 竹本 仰
特選句「覗き込み秋の鏡に入れてもらふ」選評:水面に映る風景は、肉眼でとらえる風景より鮮明である。これは鏡も同じことだろう。鏡の中には現実以上に鮮明な秋の陽に浮かびあがった世界が見える。ここに入らない手はない。日常のすぐ向こうにある反日常の何がしかに見えているのは何だろう。梶井基次郎がかつて一夥のレモンを手にとった時、たしかにみえていた命の重さの場所ではなかったか。日常のアンニュイゆえに渇望される場が一瞬見えており、今を逃してはもう行けない。これって芸術への扉?そういうワクワクな句かと思った。特選句「マヒワ来よ脱走兵の肩に乗り」選評:泣かせる句だなと思う。なぜかストーリを読ませるものがある。或る映画の鮮烈なワンカットを感じた。しかし実際、脱走というのはかなりむつかしいものらしい。高野山の管長であったW氏なる人物は先の大戦の際、特攻隊の出撃につかねばならなかったとき、壮大な空想的計画を実行したという。特攻機の群れが雲海に入った時、故障を装い一機離脱するというものであった。しかし、行っても見ない済州島近辺に、燃料の無い機体でしかも海に不時着なんて、素人の手に余る夢想を超えた無謀としか言いようのないことをやってのけたのである。これに類することを脱走兵はするのだろう。だが、それは平和を希求するあまりの涙ぐましい努力である時、勲章のようにマヒワが肩に降りてきたのだ。母ちゃん、おれ、帰ったぞ。この一言を言うための今を。特選句「封切れたように落葉雨 生きよう」選評:長年つきあった恋人との別れのようなそんな場面を勝手に想像して読んだ。ガサッと落ち尽くしてくる木の葉の中にあらゆる言葉をしのばせて、歩き去る。歩くしかない。風立ちぬ、われ生きめやも。キャロル・リード『第三の男』のラストシーン、五輪真弓の歌の一節のように、思いっきり俗っぽく味わいました。 ♡もう今年の句会も終わりですか。混沌のさなかに身をさらしつつ、そして、またまた悔いを残しつつ。でも、それが人生なんでしょうね。みなさん、来年もよろしくお付き合い、お願いします。
- 森本由美子
特選句「虫と棲む生活一部始終かな」。新鮮なライフスタイルの一面の考察です。少々害があっても命を尊重して見逃すべきか迷いながら楽しみながら共存していくのでしょうか。明日になったら忘れるかもしれませんが。
- 野田 信章
特選句「神の留守嫌いの中に好きもあり」。「神の留守」と呟くほどに、陰暦十月の大気と綯い交ぜになって、ある空白感を覚えるときがある。この句の中句以下の述懐も、この作用あっての心奥の表白かと読んだ。唐突とも言えるこの季語との配合によって、普段の心の有り様を如実に伝えてくれる。
- 三枝みずほ
特選句「こだわりと言う不発弾冬に入る」。こだわりは個人を支えるものであるが、他者に理解されないものでもある。もはや不発弾として身体におさめるしかない。だが長い時間の経過とともに不発弾に変化が起きるのも、こだわりの、人間の、面白いところではないだろうか。
- 野澤 隆夫
特選句「空元気今日も生きるぞ烏瓜」。何だか小生の日々の生活を鼓舞してくれてるようです。日々、空元気を糧に頑張らなくちゃの小生!烏瓜の赤色がしめてくれてます。特選句「笑ひ皺一本増やし冬に入る」。一昨日だったかBSのアーカイブで向田邦子の『阿修羅のごとく』、懐かしく見ました。四人姉妹の会話に大笑い!数本しわが増えたかと。また冬が来ました!
- 松本美智子
特選句は「一粒の露に宿りし星も消ゆ(鈴木幸江)」。とてもきれいなストレートな句だと感じました。小さな一粒の露にも命のかけらのようなものを見出し時間とともに消えていく、一瞬を美しくとらえられた句だと感じます。「体内に育てし骨と冬に入る」。の句に惹かれましたが「骨」のところ「肉」「鼓動」いろいろ私なりに入れ替えてみて作者の方はなぜ「骨」を選んだのか気になりました。
- 中村 セミ
特選句「たましいは淵に集まり暮早し(松本勇二)」。この人のこの何日かで、大切だと思われる事は、沈み行く毎日の夕焼けが、地平線に堕ちるが如くに、消えていくように、魂が、そこにあつまり、燃え尽きていくようだと,勝手に読ませていただきました。問題句2句「なえはたな なまひあらはば かてあはな」。「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。はどちらも、何かの宗教の呪文のようによめ、面白いと言えば面白いが、意味がない。
- 三好三香穂
「空元気今日も生きるぞ烏瓜」この秋、大勢の知人が鬼籍に入られた。葬儀は少しご案内があるものの、お別れができた方は数える程。死ぬまでは生きる、そんな境地です。烏瓜の繊細な花、ぼってりした実、口に入れた粒つぶ感など、思い出しながら、味わわせていただきました。「覗き込み秋の鏡に入れてもらふ」。覗き込んで、鏡に入れてもらう‥という表現が面白い。ただ、春夏秋冬、どれがふさわしいのかはわかりません。
- 桂 凜火
特選句「太宰読む薄刃のごとき秋夕焼」。太宰治が好きだった若かった頃のほろ苦い感情を想起させられました。秋夕焼の比喩としての薄刃は意外性があり、でもなぜがぴったりきますね。薄雲のせいかしら。
- 漆原 義典
特選句『秋の日や嫁ぐ姉より「国語辞書」』。わたしが子供時代に使っていた実家 の本棚の情景で懐かしいです。秋の日、国語辞書が古き良き時代を上手く表現しています。しんみりとなりました。素晴らしい句をありがとうございました。
- 大浦ともこ
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。靴を脱いで使う図書館のいかにも親しみ深い様子が懐かしく微笑ましい。”冬ぬくし”という季語がしっくりときます。特選句「泣き顔はセーターのなか小宇宙」。幼い子だろうか、それとも案外いい年の人だろうか....下五の”小宇宙”に驚いてのち納得させられました。
- 岡田ミツヒロ
特選句「無一文一片ありぬ秋の雲」。惨めな状況を秋の光の中に描写し、サラッと品位のある一句とした。♡初めて参加します。岡田と申します。兵庫在住。うどん好きのさぬき人です。懐しい故郷とのご縁、嬉しく思っております。野﨑様はじめ皆様よろしくお願い致します。
- 吉田 和恵
特選句「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。煙に巻かれたような、こんな感じって結構好きです。私的に解読しました。世はカオスいともゆかしき猫の鼻。 エエッ!ちがうんですか⁉
- 山下 一夫
特選句「ヌードの手は母なんです文化祭」。ヌードといっても肩脱ぎのような部分の写真でしょうか。だから、間に合わせに協力してもらった母とはわからないのでしょう。どこかおとぼけ感やちぐはぐ感が漂い、ほのぼのとした空気が伝わってきます。特選句「泣き顔はセーターのなか小宇宙」。セーターが効いて柔らかく暖かに保護されて自由な私的空間を描き出されています。上五中七下五が絶妙のバランスで素敵です。問題句「ハロウィンの仮装憧れの自分のよう」。 憧れの自分とは自分の理想像であろうか。それがハロウィンの仮装であるとは。所詮自分の理想像とは不気味あるいは滑稽な思い込みとの自嘲であろうか。どうもわからないが目を惹かれる句である。いっそのこと「のよう」は省いてはどうであろうか。 ♡コロナ第8波との報道が多くなりましたが、どうも子どもの年を数えるような、いつの間にかそんなに成長したかとの感慨を持ってしまいます。予防接種も3回目4回目は比較的短期間にそんなに打って大丈夫かと躊躇したものですが、先ごろ5回目の接種券が届いたときは、接種が年末になると面倒なのでさっさと済まそうとばかりに手際よく予約の電話をしてしまいました。まったく慣れというのは恐ろしいです。ウクライナを始め、慣れてはいけないものに思いを致しつつ過ごしたいです。日増しに寒さも増してくる時節となりました。くれぐれも御自愛の上お過しくださいませ。
- 稲 暁
特選句「榠樝の実落ちて居場所のなかりけり」。今の私の心境そのものを代弁してくれているような作品です。
- 銀 次
今月の誤読●「牛スジを煮込んで夜を開けている」。夜。わたしは誰かを待っている。誰かというのはあくまで誰かで特定の人ではない。ぶっちゃけ飲み相手になってくれれば誰でもいいのだ。酒と肴は用意してある。といって特別なものではない。牛スジを煮込んだものとかありあわせでつくった酢漬けとかそのくらいだ。玄関は開けている。と、最初に来たのは近所に住んでいる子どものころからの知り合いだ。「やってるね」「ああ、いまからだ。上がっていきなよ」「じゃ、遠慮なく」。次に来たのは俳句仲間のNさん。「おやまあ、いい匂いね」「ああ、用事がなかったら一杯どうだい」「そうねちょっと温まっていこうかしら」。そんなところにひょいと顔を出したのが川沿いの橋の下で寝起きしているホームレスくん。顔を覗かして「やってますねえ」「ああ、おまえさんもどうだい外は冷えるだろう」「へえ、でもあたしゃこんななりで」「なりもへちまもあるかい。なんならお仲間も呼んどいで。人間みな兄弟。今夜はワーッとやろうじゃないか」「じゃちょっと何人か誘ってみまさあ」「いや何人かなんてめんどうはいわず全員連れてきな」。なんてふうに人が集まり出して、三十人、四十人と膨れ上がっていった。わたしはほろ酔いで、我が家の居間はこんなに広かったっけとあたりを見まわした。と、不思議なことに人数にあわせて居間はどんどん広がっているのだ。こりゃあ面白れえ。千客万来とはこのことだ。やがて通りすがりの大学生や宴会帰りのサラリーマン、ジョギング中のおねえさんも入ってくる。あっちでは警官とAV女優が笑いながら酒を飲み交わしてる。なんて思えば郵便局員と詐欺師が泣きながら政治を憂いてる。どうやら二人とも泣き上戸らしい。もう見わたす限りの人、人、人だ。何万人いるのだろう。居間は野球場のごとく広がって、さらにまだまだ広がりつづけている。誰があげているのか遠くの方で打ち上げ花火がはじまった。こうなりゃもう無礼講もいいとこだ。どこからか太鼓を打つ音がする。三味線が響く。あっちこっちで踊りがはじまる。居間はますます広がりつづけている。それは県境を越え、国境を越え、ウクライナまでも。夜宴はまだまだつづく。
- 佳 凛
特選句「赤とんぼ親という字の書き順を」。書き順で親の切なさ 苦しさ 勿論楽しさもある。とても 共感し言葉の意味を、今一度考えたいとおもいました。
- 寺町志津子
特選句「ウイルスの変幻自在冬の空」。ありきたりとも思えるが、時宜を捉えて可。冬の空が利いている。特選句「太宰読む薄刃のごとき秋夕焼け」。言われてみれば、太宰文学はそうかもしれない。
- 高橋 晴子
特選句「人類を出られぬ人類龍の玉」。よくも悪しくも人類は人類を出られぬ。他の動物なら何も考えずに相手が死ぬまで又は自分が死ぬまで戦うが、あくまで人類は人類なのだ。「出られぬ」と感じた処、表現した処が面白い。
- 亀山祐美子
特選句『山茶花の白に心を明け渡す』。山茶花を見つめその白さに慰め鼓舞され平常心を取り戻した安堵感が伝わる。問題句『あかまんまあえてでこぼこあるきたい』。平仮名表記は私も好きでよく使うがこの句にふさわしいだろうか。「どうせなら赤まんまの生い茂るでこぼこの小径を選んで歩きたい」と受け取った。『赤まんま』は「あかまんま」でも「赤まんま」でも支障はないが『あるきたい』は「歩きたい」と読むのが普通「ある期待」ととるのは天邪鬼でありここは素直に作者の希望願望決意表明と受け止めると作者の居場所が不鮮明になる。病床で秋の小径に思いをはせるのかはたまた整った公園の舗装路に文句を言っているのか脇道にそれ野道を行きたいのか。読者の想像に任せる以前の問題。足元の揺らぐ不親切さ。かてて加えて『あえて』は不要。『あるきたい』は詠み手の願望では無く「歩く」もしくは「歩いた」と動詞を置き読み手の想像に委ねるべきだ。その方が一句に広がりが出来る。想像の余地の無い窮屈な己の願望は往々にして「あっそう、それがどうした」で終わってしまう残念な一句となる。
- 向井 桐華
特選句「ツナ缶を開けて秋日の浅き傷」。日常の些事と秋の心象風景の描き方が呼応している。ツナ缶と秋日の取り合わせがよかった。「あ」の韻を踏んでいるのもよい。問題句「もなはなや まはらやらや たのゆはら」。かな文字で書いたらきれいそうですが、作者の意図がどこにあるのかが、ちょっとわかりませんでした。
- 野﨑 憲子
特選句「待ち合はせ無いです恋も柿の実も」。「待ち合わせは無いです」ときっぱり言い切った背後には、来し方の様々な 目眩く思い出が凝縮されているように思えてならない。熟柿の味わい。特選句「兜太なき世の日雷さま裏山に」。兜太師の「利根川と荒川の間雷遊ぶ」が浮かんできた。師は、雷さまがお好きだっのだ。作者の家の裏山にも、雷さまが遊びに来ているのだ。問題句「なえはたな なまひあらはば かて あはな」「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。危うさはあるが宇宙人の言葉のようにも感じる。冒険句への挑戦、これからも楽しみにしている。
袋回し句会
山茶花
- 山茶花や密集住宅に遺体
- 藤川 宏樹
- 船長は山茶花宇宙船地球号
- 野﨑 憲子
- オカリナほろほろ白山茶花ほろほろ
- 野﨑 憲子
- 山茶花散るよ人は笑つて終はる
- 島田 章平
- 白山茶花やハートは最後の逆上り
- 中野 佑海
梨
- 梨の芯ぼくの心に埋めてみた
- 中野 佑海
- 中国梨の赤い影べたり寄り
- 中村 セミ
- 二十世紀梨よピッコロ誰が吹く
- 淡路 放生
- 小骨とる結婚詐欺師ラ・フランス
- 藤川 宏樹
- 梨剥いて純白の扉開くかな
- 銀 次
皇帝ダリア
- 皇帝ダリア絹の道に赤い月
- 島田 章平
- 皇帝ダリア新人ナースが担当に
- 中野 佑海
- 子連れ猫水舐めに出る皇帝ダリア
- 淡路 放生
- 川底を歩く人ゐて皇帝ダリア
- 野﨑 憲子
- 皇帝ダリア上着の袖の綻びぬ
- 藤川 宏樹
犬
- ゆれているだけのススキの中に犬
- 淡路 放生
- 冬支度する前犬と転がって
- 中野 佑海
- 犬の名を活字にさがす霜の月
- 藤川 宏樹
- 生国は地球でござんす冬の犬
- 野﨑 憲子
- 雪原を走る犬橇狙ふ銃
- 島田 章平
月
- 月静か静かに寝かせ騒ぐまじ
- 銀 次
- 月面着陸ごきぶりも一緒に
- 島田 章平
- 月光に乱舞乱舞や枯芒
- 野﨑 憲子
- 納屋に遍路笠惑星月へ入る
- 藤川 宏樹
- 十一月五日の子宮よ月の子よ
- 淡路 放生
- 習わしに迷子なりける芋名月
- 中野 佑海
【通信欄】&【句会メモ】
あっという間に一年が経ちました。コロナの波が何度もやってきて、そんな中でも、毎月、集ってくださった皆様ほんとうに有難うございました。ご参加の方々も少しずつ増え、ますます多様性に満ちた句会になりつつあります。そして四月から毎回、快適な句会場をお貸しくださり、時間超過にも寛大な藤川宏樹さんに心よりお礼を申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
「海程香川」は年11回の開催です。12月はお休み月なので、次回は、2023年の初句会となります。次回も、お楽しみに!
今年二月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻は今もまだ続いています。一日も早いウクライナからの完全撤退を祈りつつ・・皆様、佳きお年をお迎えください。
Posted at 2022年12月4日 午後 02:50 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第133回「海程香川」句会(2022.10.15)
事前投句参加者の一句
黄のカンナ咲かせて鰥夫(やもお)源流に | 野田 信章 |
愛子ってぎゅっとレモンを搾ったの | 竹本 仰 |
母祖母にごめんねと今キリギリス | 野口思づゑ |
秋の日に人かぐわしく風化する | 山下 一夫 |
マントラは波の如くに虫の闇 | 榎本 祐子 |
卓袱台の稲埃拭き夕餉かな | 森本由美子 |
セイタカアワダチソウ「白髪増えたね」 | 佐孝 石画 |
雲低く動かず海鼠めく僕ら | 飯土井志乃 |
抜けそうな乳歯を触り秋思の子 | 松本美智子 |
草を刈る食はせる牛もゐねえのに | 亀山祐美子 |
独り居に僕も一人と小鳥来る | 藤田 乙女 |
迢空忌だんだん怖い葉っぱの面 | 三好つや子 |
うろこ雲ふらり風子も寅さんも | 島田 章平 |
曼珠沙華ひとりは寂しいなんて嘘 | 石井 はな |
只見線さざ波という銀やんま | 稲葉 千尋 |
コスモスや君の言葉の風に乗る | 中野 佑海 |
水澄めり吉野源流山又山 | 樽谷 宗寛 |
弔砲におびえる猫や秋暑し | 向井 桐華 |
十三夜靴がぱくりと僕見上げ | すずき穂波 |
瓶振れば音色親しき木の実かな | 大浦ともこ |
国宝にモノとコトかな雷落つる | 鈴木 幸江 |
傭兵にされし白鳥飛べず踊れず | 塩野 正春 |
タンクローリーに毒と一文字秋うらら | 大西 健司 |
<栗林トンネルを抜け「百舌坂」を行く> この坂に嬉々と百舌狩り菊池寛 |
野澤 隆夫 |
赤とんぼ焦げ臭き身を冷ましつつ | 増田 天志 |
あえいうえおあお木の実降る部室棟 | あずお玲子 |
半鐘がなっているのか冬の雲 | 中村 セミ |
湖に悲話ある山辺葛の花 | 寺町志津子 |
忘れるうれしさ野菊の道は濡れている | 若森 京子 |
山の田はたとえば浄土穂波立つ | 吉田 和恵 |
団栗につまづく意外な固さかな | 佐藤 稚鬼 |
妻が待つ家路を急ぐ秋の蛇 | 漆原 義典 |
うふふふと父の遺影とおはぎ食ぶ | 植松 まめ |
天上を流るる白き帆賢治の忌 | 銀 次 |
ステーキの鉄板広し夏休み | 疋田恵美子 |
月曜の河馬を見に行くしぐれかな | 重松 敬子 |
丸木展観て鯖雲の近づくよ | 新野 祐子 |
空っぽのガレージ並び秋の暮 | 稲 暁 |
秋分の日の暗闇に目を覚ます | 菅原香代子 |
風の強さが切り取る滝もう秋です | 十河 宣洋 |
野紺菊亡母が見つめてくれている | 山田 哲夫 |
まだ服ができぬ蓑虫セミヌード | 川崎千鶴子 |
藤袴しばし休めよ旅の蝶 | 田中 怜子 |
ぶきっちょに零余子ぽろぽろ集めをり | 佐藤 仁美 |
おちょぼくちなほもすぼめて瓢の笛 | 佳 凛 |
蟋蟀が愚痴の塊喰ってゐる | 柴田 清子 |
美しき嘘とは十月のきれいな顔 | 久保 智恵 |
どの紙面もさびしい鳥の羽音 | 三枝みずほ |
嘆いても届かぬ木霊月昇る | 小山やす子 |
雨音の寒き夜となり魚を食ふ | 高橋 晴子 |
クイーンにキングならべる良夜かな | 藤川 宏樹 |
いくさなどだれが征かすや鉦叩 | 福井 明子 |
大花野旅の一座のホバリング | 松本 勇二 |
ひとり来て白萩一人分こぼす | 津田 将也 |
団栗は坊っちゃんの山地主かな | 豊原 清明 |
花びらを漬け込むやうに新生姜 | 川本 一葉 |
小鳥来る上下入歯の微調整 | 山本 弥生 |
蛇穴に入る核のボタンを囲む | 淡路 放生 |
鰯雲背骨のごとく飛機の雲 | 三好三香穂 |
秋澄むやパスポート亡き避難民 | 菅原 春み |
虎刈りの頭なでなで秋の暮 | 田中アパート |
うすもみじ花屋のオジサンに嫁がきた | 伊藤 幸 |
さっとヤモリガラスの町を通り抜け | 滝澤 泰斗 |
酔芙蓉刹那に埋もれる認知症 | 増田 暁子 |
道変えてゆく山女に呼ばれぬため | 河田 清峰 |
円楽のにやり毒舌いわし雲 | 松岡 早苗 |
太陽に手足けばだたせて案山子 | 小西 瞬夏 |
母が綴る一文字一文字われもこう | 河野 志保 |
地球は青いんだってさモミジ | 谷 孝江 |
冷たい夏抱いてしまえば終わるのに | 桂 凜火 |
片足の飛蝗吹かるる錦帯橋 | 吉田亜紀子 |
無花果やときどき汽笛鳴らしてる | 高木 水志 |
読む本の重なりてまだ月とおく | 夏谷 胡桃 |
かまつかの爆発つむぐ身の軋み | 荒井まり子 |
風はきつかけ萩の意志もて揺るる | 風 子 |
人類に国境のあり鰯雲 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 島田 章平
特選句「あえいうえおあお木の実降る部室棟」。放課後の放送部か合唱部の部室。 澄み切った声が秋空まで届く。懐かしい部活の風景。自句自解「秋夕焼キラキラネーム天志、幸」。キラキラネームの読み方。天志(えんじぇる)、幸(らっきー)です。
- 増田 天志
特選句「月曜の河馬を身に行くしぐれかな」。なぜ、月曜日なのか。観客の多い日曜日の翌日。河馬は、疲れているのか、元気なのか。自分の目で、確かめたい。河馬にとって、雨は濡れて気持が良いが、冷たい時雨は苦手かも。この作品は、鑑賞者の想像力を広げてくれる。
- 小西 瞬夏
特選句「迢空忌だんだん怖い葉っぱの面」。葉っぱの面に何か見えないものを見て怖くなってくるのは、日本人特有のアニミズムの感覚ではないだろうか。迢空忌が配合されることで、そのことがより立ち上がってくる。
- 十河 宣洋
特選句「忘れるうれしさ野菊の道は濡れている」。諧謔である。忘れる苦しさはある。最近の私は多くなった。忘れる嬉しさは楽しさでもある。野菊の道を歩きながら野菊の如き君なりきと言われた頃などを思い出している。楽しさ、寂しさ色々混じった野菊の道である。特選句「蛇穴に入る核のボタンを囲む」。風刺がきつい。核のボタンを囲む蛇のような目つきがぬめぬめと見えてくる。
- 豊原 清明
特選句「文化の日ちゃんちゃらおかし舌を出す(津田将也)」。「舌を出す」から国への訴えの一句。よく分かり、共鳴する。「あれこれ吹っ切ってママチャリは立秋」。問題はなくて、とてもさっぱりした味わい。読んで好きな一句。吹っ切ってが悟り?みたいに思いました。
- すずき穂波
特選句「どの紙面にもさびしい鳥の羽音」。新聞紙面、本当に暗い記事ばかりで読む者の心まで暗くなりそう。ページをめくる音の詩的表現に魅了されました。特選句「ひとり来て白萩一人分こぼす」。この「一人分こぼす」という確かな把握、映像化には参りました!
- 藤川 宏樹
特選句「あえいうえおあお木の実降る部室棟」。女生徒の艶やかな「あえいうえおあお」の唱和、通りに心地よく聞こえてきます。
- あずお玲子
特選句「ひとり来て白萩一人分こぼす」。萩の儚さを思いました。その萩を見ている「ひとり」も儚い存在。特選句 「花びらを漬け込むやうに新生姜」。甘酢の中で新生姜がほんのり色付き始めた日の嬉しさは、固い蕾が綻び始めた花を見るのと似ているのかも知れません。 丁寧な手仕事を思いました。
- 向井 桐華
特選句「セイタカアワダチソウ「白髪増えたね」」。口語調の句が、ちょっと皮肉な内容を面白くしている。新しい視点が良い。問題句「国葬や宿便どどっと野分かな(田中アパート)」。国葬と宿便、国葬と野分と着想は面白いと思うが、「国葬や」で切ってしまったため、意味がバラバラになってしまった。「や〜かな」の詠嘆は成功させるのが難しい。
- 松本美智子
特選句「風はきつかけ萩の意志もて揺るる」。「萩が揺れている」それは,揺らさせているのではない。意思をもって揺れている。ああ~,そうかもしれない。動きたくても話したくても・・○○したくてもそうしたくても,なかなかできない,もどかしい日常何かきっかけになることがあれば,ハードルはポーンと跳び越えられるのかもしれません。
- 若森 京子
特選句「秋の日に人かぐわしく風化する」。来世の人も現世の人も、秋の澄み切った空の中で人間は濾過され浄化されてゆくのであろう。白秋の深まりを感じる。特選句「読む本の重なりてまだ月とおく」。人間が本を読み知識を蓄積しているのは、ほんの僅かの時間に過ぎない。「まだ月とおく」の措辞から膨大な宇宙時間をふと思う。又月から色々なお伽噺にも発展してゆく。
- 稲葉 千尋
特選句「草を刈る食はせる牛もゐねえのに」。毎日、早朝から牛のために草を刈っていた父を想う。今は牛もいない父もいない。特選句「いくさなどだれが征かすや鉦叩」。どんなことがあっても子や孫を征かしたくない。親なら誰も思うこと。鉦叩が効いている。
- 夏谷 胡桃
特選句「水澄めり吉野源流山又山」。吉野をはじめ日本の山々の続くさまとその間を流れる水が目に浮かぶようでした。東北も「山又山」です。この表現が、簡潔でいいと思いました。
- 中野 佑海
特選句「あれこれ吹っ切ってママチャリは立秋(三枝みずほ)」。有無を言わせずママチャリの突っ走っていく様子がひと言で旨い。特選句「抜けそうな乳歯を触り秋思の子」。分かるわー!あの歯の気になる事ってないよね。他の事何も考えられないくらい。触ると痛いし。かといって常に気になるし。私の歯は主治医を見つけてようやく前進しております。乳歯と入れ歯では雲泥の差ですが…。「秋の日に人かぐわしく風化する」。人間も風化して、崩れていくのですね。せめて香しく最期は締めたいものです。「聞き返し聞き返し紅葉かつ散る(川崎千鶴子)」。人間も何度も人の言った事聞き返さないと理解出来なくなって、散ってしまうのね。「迢空忌だんだん怖い葉っぱの面」。今、NHKの100分で名著でやっている、折口信夫の古代研究。その通りだと思います。なかなか、現代人には理解し難いです。「只見線さざ波という銀やんま」。今日10月14日新聞の第一面にこの只見線復旧の話題が。乗ってみたい秘境線。「十月の歯磨き色の道歩む」。やっぱり落葉で埋まった里の小道。香しい秋を堪能。「団栗につまづく意外な固さかな」。団栗頭の子。子供と思って適当に相手してたら、足を掬われて一本。参りました。「秋夕焼キラキラネーム天志、幸」。まだ読めるだけ良いです。推察しないと読めない名も多々。「ひとり来て白萩一人分こぼす」。この妙に当たり前な所が、律儀さが素敵。
今月はイヤホーンをしてYoutubeを見過ぎてたら、とうとう耳鳴りにあたまを占拠されてしまいました。耳鼻科で漢方薬とビタミン剤B12、整骨院で首と背中を直し、寝るときに頭を氷で冷やし。一週間でなんとか寝られないほどの音から解放されました。スマホ、テレビはほどほどにとこれもまた、5歳から63年間殆ど毎日見ていた、テレビ観戦から、撤退いたしました。静けさ最高。
- 河野 志保
特選句「どの紙面もさびしい鳥の羽音」。具体的な内容は分からないが、鳥の羽音のような微かで確かな出来事だろうか。紙面を羽音と捉えた作者の感覚に惹かれた。
- 山田 哲夫
特選句「あえいうえおあお木の実降る部室棟」。高校生等の部活動風景だろうか。時や場所や人の状況などがきちんと想定されてきて、鮮やか。「あえいうえおあお」のオノマトペが効果的。特選句「大花野旅の一座のホバリング」。「ホバリング」は、鳥などがはばたきながら宙にとどまっている状態のこと。秋の大花野の見事さに浮かれ出た一団の秋を満喫する様子を効果的に形象化。旅の一座は、旅役者の一団でもいいが、Goto トラベルのキャンペーンに便乗した旅行者たちでもかまわない。むしろ、その方が時宜を得ているように私には思われる。「ホバリング」が、言い得て妙。
- 鈴木 幸江
特選句評「十三夜靴がぽくりと僕見上げ」。靴の先の底が剥がれたのだろうか。 私もあの残念感と驚きの経験は何度かある。“ぱくり”と口を開けているような状態から景がうまく伝わってくる。“僕見上げの修辞の身に付けていた物に対するアニミズムの自然発生の微笑ましさ。“十三夜”の少し欠けた月のよろしさを愛でる心と共鳴し合い作者はこの靴の状態に愛と哀れと自分自身を見ているのだろう。頑張ってきた作者にエールを送りたく、特選にした。
- 樽谷 宗寛
特選句「まだ服ができぬ蓑虫セミヌード」。全体の発想が面白いです。散歩で蓑虫に出会いましたか、まだ1・5センチ、服はこれからのようでした。
- 河田 清峰
特選句「十三夜靴がぱくりと僕見上げ」。靴が何て言ったか興味津々。十三夜が良かった。
- 風 子
特選句「自らの影は知らない秋の蝶(河野志保)」。知ってるか知らないか、蝶に聞いてみないと分からないけど、知らないと言い切られるとそうか、と思います。特選句「うろこ雲ふらり風子も寅さんも」。書道展の友人の書が気に入り譲ってもらいました。奥の細道の序文です。芭蕉は「片雲の風にさそはれ漂泊のおもひやます」「取るものゝ手につかすもも引の破れをつゝり笠の緒付けかへて三里の灸すうるより」いそいそと旅に出るのです。私もふらりと旅に出てみましょうか。
- 菅原香代子
特選句「稲妻や赤き巨岩(ウルル)の垂直に(松岡早苗)」。稲妻と赤い岩の取り合わせが素晴らしいと思いました。
- 大西 健司
特選句「無花果やときどき汽笛鳴らしてる」。どこからか聞こえてくる汽笛がなつかしい。それは無花果からかも知れない。時々鳴らしているのは無花果。そう思いたい。そう読みたい。それだけに上五の「や」が気にかかる。わがままな読み手は作者を無視して、「青無花果」として特選にいただいた。
- 重松 敬子
特選句「コスモスや君の言葉の風に乗る」。初秋の色のあふれた軽ろやかな景色が目に浮かびます。この感覚はいつまでももち続けたいと思う、好感度抜群の句。
- 小山やす子
特選句「蛇穴に入る核のボタンを囲む」。プーチンさんもう終わリにしようよ!と言いたいね。
- 滝澤 泰斗
3年ぶりの海外出張で選句一覧を受け取りました。いつものように選句を開始しましたが、何故か集中力が途切れコメントできません。今回は共鳴した句を順に記して選句といたします。「冷たい夏抱いてしまえば終わるのに」「天上を流るる白き帆賢治の忌」「傭兵にされし白鳥飛べず踊れず」「曼珠沙華ひとりは寂しいなんて嘘」「蛇穴に入る核のボタンを囲む」「母が綴る一文字一文字われもこう」「雲低く動かず海鼠めく僕ら」「閑として濾過されたような秋遍路」
- 増田 暁子
特選句「うすもみじ花屋のオジサンに嫁がきた」。平和の世の幸せの句。花屋のオジサンがとても良く幸せの象徴の様です。特選句「地球は青いんだってさモミジ」。見てないが、地球は青いらしいとモミジに言っている作者。”だってさモミジ”のぶっきら棒な切れがとても良い。 「朝の月市場の隅で売る文庫」。まだ朝の閑散とした市場にひっそり並ぶ本屋の風景が浮かびます。 「いくさなどだれが征かすや鉦叩」。親の気持ちは世界中同じ。中7の措辞が素晴らしい。
- 福井 明子
特選句「草紅葉木彫りの狗子の尻ぬくし(田中怜子)」。なんともかわいらしい狗子の尻のぬくさ。深まる秋にことさらほんわかと伝わります。特選句「どろだんご食べるふりして秋の空(松本美智子)」。おさながまるめたどろだんご。ちいさな手でさしだされて、「あぁ、おいしっ」というおばあちゃんのしぐさが秋の空を背景にしなやか。平和とは、そんな一コマなのだと思います。
- 佳 凛
特選句「うふふふと父の遺影とおはぎ食ぶ」。慌ただしい毎日、ゆっくりと、仏様にお参りする時間を、持てる心のゆとりが、嬉しく思いました。 ♡参加の言葉。日々の暮らしでは、語彙が減る一方、少しでも心豊かに過ごしたく、参加させて頂きます。宜しくお願いします。→ こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。
- 津田 将也
特選句「抜けそうな乳歯を触り秋思の子」。乳歯は二歳半~三歳くらいまでに、全て生えそろう。その後、五歳半~六歳ごろには永久歯への生えかわりがスタートする。掲句は、この時期の子供の所作のひとつ。「秋思」との、取り合わせがよい。特選句「人声の高き時あり芙蓉咲く(高橋晴子)」掲句も、「芙蓉」との取り合わせで採った。特に「酔芙蓉」は、花の色が朝は白、午後は淡紅、夕方からは紅色と変わり、翌朝に萎む。「人声」に同じ。
- 山本 弥生
特選句「草を刈る食はせる牛もゐねえのに」。昭和の農家は農耕用に牛を飼っていた。農家の子供は親の手助けをして牛に食べさす草を刈っていた。現在は機械化されて牛は用済みとなったが、残暑も続き毎年草は刈らなくてはいけない。
- 川崎千鶴子
特選句「秋の日に人かぐわしく風化する」。天国から地獄に落とされる内容です。「かぐわしく」と「風化」は老いのなれの果てと思いました。残酷で涙です。素晴らしい。「抜けそうな乳歯を触り秋思の子」。人って考えている時は気になる部分を触ったり、さすったりしているのではと納得しました。観察眼の素晴らしさに感服です。
- 桂 凜火
特選句「蟋蟀が愚痴の塊喰ってゐる」。蟋蟀は貪欲な顔ですね。愚痴は食べてなさそうですが、やはり絵として面白い。ペーソスが効いていて愚痴のたまった国民としては、クスリと笑えました。
- 松岡 早苗
特選句「十三夜靴がぱくりと僕見上げ」。風情のある「十三夜」と破れた古靴の取り合わせが面白い。完璧ではないからこその、もののあわれや味わい、そうしたものをしみじみと愛おしんでおられるようです。特選句「るりるりとひと日終わりて銀木犀(伊藤 幸)」。「るりるりと」の音の響きに惹かれた。「瑠璃」の連想も相まって、透明感のある秋のひと日が思い浮かんだ。夕暮れのほっと息つく「銀木犀」への着地も素敵。
- 吉田 早苗
特選句「黄のカンナ咲かせて鰥夫(やもお)源流に」。「鰥夫」を辞書で調べて・・。黄のカンナが言い得て妙。勉強にもなりました。特選句「目薬のような夕星(ゆうづつ)秋の畑(稲葉千尋)」。秋の釣瓶落し。気が付けば空の星が目に浸みる、目薬のようにと。うーん納得。稲架を架け終え一番星を仰ぎながら家路を急いだ事を思い起します。 ♡山路で帽子をかぶった団栗を拾うとつるりと帽子が脱げとっさにまた被せました。
- 松本 勇二
特選句「蟋蟀が愚痴の塊喰ってゐる」。コオロギは何でも齧りそうだが、愚痴を齧らせて成功。
- 伊藤 幸
特選句「只見線さざ波という銀やんま」。固有名詞只見線(福島から新潟を走る線路名称)と河谷の小動物の取合せ、更に中七のフレーズが秋の風景を美しく描いている。素晴らしい技法に脱帽。
- 疋田恵美子
特選句「飯噛んで姥百合の谷恋う今も(野田信章)」。生れ育った平和で楽しいかった集落の消滅がおもわれる。ダム湖の底に消えたのでしようか!地味な姥百合がぴったりいいですね。
- 吉田亜紀子
特選句「いくさなどだれが征かすや鉦叩」。季語「鉦叩」は、一センチほどのコオロギ科の昆虫。鉦を叩くようにかすかな美しい澄んだ声で鳴く。しかし、この句の場合は、違うのかもしれない。「鉦叩」という季語に仕掛けを施しているのではないか。と、私は感じた。「鉦叩」。辞書を引くと、虫のほかに、「かねをたたくこと」、「かねをたたく道具」、「かねをたたき経などを読んで回る人」。と、記載がある。季語「鉦叩」を「かねをたたき経などを読んで回る人」。というように、重ねて鑑賞をするのも興味深い。そこから、私の鑑賞は、裁判や議会における、ガベル、すなわち木槌を連想した。「いくさなどだれが征かすや」。この言葉が、議決や判決のように強い拘束力を持っているような感覚になる。そうすると、この句における、怒りの果てが、するりと納得出来るのである。表現方法に感服すると共に、作者の真っ直ぐな怒りに感動した一句だ。特選句「文化の日ちゃんちゃらおかし舌を出す」。カレンダーを捲ると十一月三日は日本国旗のイラストと共に「祝日」と記載がある。「文化の日」だ。「自由と平和を愛し、文化をすすめる」ことが趣旨の国民の祝日。文化勲章の授賞式があり、文化芸術に関するイベントも多数開催される。そして、晴天の日が多い気象上の特異日だ。これだけの情報が、カレンダーを眺めるだけで、頭の中に一気に流れ、スッと背筋が伸びる。伸びてしまう。それが、「文化の日」だ。そして、この何行かの文字の多さにもみられるように、「文化の日」。そう聞くだけで気負ってしまう方も多いのではないだろうか。「ちゃんちゃらおかし」。この句は、そこの隙間を見事に突いている。そして、非常に新しい。「文化の日」という季語に対して、真正面からではなく、今までには無い、全く新しい方向からの構成となっている。なのに、「文化の日」は消えない。「舌を出す」という言葉で、アルベルト・アインシュタインや不二家のマスコットのペコちゃんを連想する。それは、愛すべき私たちの記憶、歴史だ。それに加えて、晴天の特異日に呼応するように、「ちゃんちゃらおかし」が、明るく響く。爽やかだ。これぞ、秋の芸術ではないか。と、唸る一句である。
- 佐孝 石画
「忘れるうれしさ野菊の道は濡れている」。「忘れるうれしさ」とは一見わかりやすそうだが、その解釈に迫ろうと思うと複雑で難解。思い出や感情などが自分の中から剥がれ落ちてしまう、時間的空間的な喪失感覚。多くの人が人生で味わうだろう、その感覚の多くは、取り戻せないものに対する切なさ哀しさで括られることが常。忘れる「うれしさ」とは、単純に、忘れ去りたい嫌な記憶が失われることに対する安堵なのだろうか。その回答は、その後に続く「野菊の道は濡れている」から汲み取るしかない。野菊の道は雨上がりに「濡れて」、輝いている。そのまばゆい光こそが、作者を包み込んだ恍惚感覚の象徴なのだろう。かけがえのない良い思い出も、時を重ねればやはり、それを思い出すこと自体が、喪失感をともなう切ないものへと変容していく。思い出したいけれど切ない、そんなアンビバレンツな感情を「忘れ」は霧散させてくれる。そんな忘却の心地良い余韻を映像化したものが、濡れて光にまみれた「野菊の道」であったのだろう。
- 榎本 祐子
特選句「ひとり来て白萩一人分こぼす」。孤独感の中、白萩と関わる時間と空間が優しい。
- 三好つや子
特選句「蟋蟀が愚痴の塊喰っている」。淋しい心に寄り添うようにコロコロリーンとか、リリリッと鳴く蟋蟀。聞いている人のマイナーな心を喰ってしまうので、あんなに物哀しい色をしているのだ、と納得。特選句「どの紙面もさびしい鳥の羽音」。 近頃、ページ数が少なくなり、コロナ禍、ウクライナの戦争、経済や環境問題など暗い記事が目立つ新聞に、嘆いている作者の声が聞こえてきそうだ。さびしい鳥の羽音という表現が抒情的で、深い。入選句「あれこれ吹っ切ってママチャリは立秋」 ぐずぐず悩んでなんかいられないほど、多忙な子育て主婦の日常が、いきいきと伝わってくる。入選句「太陽に手足けば立たせて案山子」。この句から、明日香村(稲渕地区)の美しい棚田にある案山子ロードが目に浮かんだ。工夫を凝らした、まさに毛羽立っていそうな案山子たちが想像でき、面白い。
- 田中アパート
特選句「どろだんご食べるふりして秋の空」。子供は天才です。びっくりするほど美しいどろだんごを作りますな。もちろん、食べるなんてもってのほかです。一生かざっておきたいぐらいです。
- 佐藤 仁美
特選句「曼珠沙華ひとりは寂しいなんて嘘」。2人でいても、1人より寂しく思う時もあります。孤独とどう付き合うかが、大切だと思います。でも、この「嘘」と言ってるのは、強がりかもしれません。揺れ動く心が、紅い曼珠沙華と重なります。
- 淡路 放生
特選句「美しき嘘とは十月のきれいな顔」。―美しい嘘とは人を愉しくさせてくれる。まして「十月のきれいな顔」いいなぁ、いいなぁである。好きな十月がひろがってくれる。句会でこういう作品に出会うとホッとする。
- 柴田 清子
特選句「どの紙面もさびしい鳥の羽音」。自分だけが感じ取っている秋深を鳥の羽音で、省略限界の言葉で、鋭利な刃物のような、一句に仕上っていると思った。
- 田中 怜子
特選句「丸木展観て鯖雲の近づくよ」。原爆の惨状を描いた絵を見て、暗澹たる気持ちや争いの絶えない、現にウクライナにおいて戦争が起きている状況を思いながら暗い館を出る。空を見上げると、悠々たる空に鯖雲、その流れが近づいてくるようなダイナミックな世界は、宇宙の中にいる芥子粒のような存在を実感するようだ。特選句「旅芸の一座がありてすすきかな(銀次)」。昔、長時間にわたるギリシャ映画があった。世の中の動きに取り残されていく一座、家族間の関係性等もいろいろあるけれど、すすきの平原の中に静物画のように取り残されている情景が浮かんでくる。
- 野口思づゑ
今回はいただきたい句がとても多く、また特選句、絞ることができませんでした。 「曼珠沙華ひとりは寂しいなんて嘘」。理想的な一人暮らしをされている方なのでしょうか。ポジテイブな生き方を尊敬します。「人類に国境のあり鰯雲」。極めて当然な事実をそのまま表した句なのですが、あまりに当然過ぎてかえって惹かれます。下5の鰯雲がもやもやとした、つまり紛争の種になりそうな曖昧な境界線を表し、鰯の旁の「弱」が人類を象徴しているようです。「忘れるうれしさ野菊の道は濡れている」。「忘れる」はほとんどの場合否定的なのですが、うれしさと捉えているところに嬉しくなりました。「小鳥来る上下入歯の微調整」。入れ歯を調整するときの歯を合わせる音が想像できます。小鳥来る、の上5で可愛い音、作者の余裕のある気持ちが思い浮かぶ明るい句になっていて好感がもてました。「うすもみじ花屋のオジサンに嫁がきた」。薄紅葉、オジサン、で颯爽としたイケメンから程遠い男性像が浮かんだのですが、嫁が来たそうなので、よかったわね、と安心しました。
- 三好三香穂
「独り居に僕も一人と小鳥来る」。独り居間に居るとき、よく小鳥が庭のハナミズキの実を目当てにやって来る。たいていはヒヨドリ。僕も独りだよ、とささやいているかに。なるべく気配を消すようにしているが、少しでも動くと、すぐにさよならになってしまう。「自らの影は知らない秋の蝶」。自分のことは、自分が一番知らない。秋のチョウになっても。「いくさなどだれが征かすや鉦叩」。共鳴する反戦句。早く終わって欲しい戦争です。
- 野田 信章
特選句「丸木展観て鯖雲の近づくよ」は、丸木位里、俊夫妻の共同制作による「原爆の図」を見終っての作。そこに意志あるもののごとく頭上にひろがる「鯖雲の近づくよ」の景の展開が何とも肉感的である。この対照によってあらためて「原爆の図」を直視して、そこに込められた丸木夫妻の希求してやまないものに触れ得た一句として読めるものがある。
- 三枝みずほ
特選句「忘れるうれしさ野菊の道は濡れている」。この句は忘れることを肯定している。そして野菊の道は人を包みこむ慈悲の心なのだろう。
- 植松 まめ
特選句「草を刈る食はせる牛もゐねえのに」。酷暑だった今年の夏草刈りは重労働だったことだろう。ぶっきらぼうな詠みがかえって気持ちが込もっている。特選句「あえいうえおあお木の実降る部室棟」。高校時代に演劇部に所属していた。毎日大した用も無くても部室に顔を出していた。そうこんな感じの部室だった。懐かしいわが青春だ。
- 石井 はな
特選句「あれこれ吹っ切ってママチャリは立秋」。頑張っているママにエールを送りたいです。
- 塩野 正春
特選句「迢空忌だんだん怖い葉っぱの面」。何気ない葉の表面に自分の感情が映っていろんな形になり得る。作者の意図は深くは読むめないがおそらく哲学的な感覚から書かれたものでしょうか?となると葉っぱの面もそれなりに重みを増しいろんな形相に変化する。この稀有な季語と釈迢空の俳句、私なりに少し勉強したくなります。特選句「あれこれ吹っ切ってママチャリは立秋」。 前の特選に挙げた句とは違った感覚で少し楽しく少し大変さを感じる句です。 子育て世代の辛さを抱えながらママチャリを飛ばして突き進む作者に感動します。こうして育てられた子供たちがやがてこの国を支えてくれる大人になることに期待します。“ママチャリ”には不思議な感覚がありますね。自句自解「真葛原螺旋に詰まる生の標」。螺旋の遺伝子が全ての生物の行く末を解く標(しるべ)となること、不思議です。運命の八~九割方遺伝子に左右されている事実を認めざるを得ません。「傭兵にされし白鳥飛べず踊れず」。戦争続いてますね。兵の数を維持するために他国の兵を雇うなどもってのほかです。訓練も受けさせずただ死に行かせるとは。
- 川本 一葉
特選句「水澄めり吉野源流山又山」。今年は何度か吉野川の源流近く入ったこともあり、本当にそうだと思いました。山又山、がもうそのまんまなんです。又源流辺りへ行きたくなりました。
- 竹本 仰
特選句「月曜の河馬を見に行くしぐれかな」。もし勤めているのなら月曜が定休日の方でしょうか。土日の熱気が去った動物園に、ただでさえ人気のない河馬がいっそう憂うつそうにしているのを、淋しい私が見に行こうとして。しかも折からのしぐれ。池の中で濡れそぼっている河馬と柵の外で濡れる私。芭蕉の「初時雨猿も小蓑を欲しげなり」と似たような状況、そして身を持て余した河馬がいっそう自意識を大きく掻き立てるようにたたずむ様は私と見事に呼応して…、と現代的なリリシズムをくすぐります。何となくビットリオ・デ・シーカの名作『自転車泥棒』のラストシーンの、あのずぶ濡れの父と子をほうふつとさせるような句だと思いました。特選句「大花野旅の一座のホバリング」。旅の一座は何でしょうか。単純にサーカスと思ってしまいましたが、ホバリングというのだから、一座もお客さんも宙に浮遊してその絶頂、一瞬ストップモーションしているようすでしょうか。得てして好天好日のその三番目くらいの、何気ないそんな日にこそ、大きなドラマが待っているもの。観客も一座も予期しない世紀の好演技が飛び出して、お互いにあっとする一幕のいま真っ最中、時間が止まったとはこの瞬間のことか、というところではないでしょうか。特選句「母が綴る一文字一文字われもこう」。選評:どんな文字を書く母か、われもこうでわかりますね。一文字ずつに色があって愛嬌があって丁寧で。きれいに茶碗や皿を一個ずつ洗うようにキュッキュッと音が聞こえるように母の字から聞こえてくる何か。まさにそれが母だというような母そのもののオーラ。で、われもこう…私もおんなじ事しているよお母さん、とふいに気づいたのでしょうね。幾代か、母と子の歴史も脈々と見えてくるようで…いい句ですね。問題句「蛇穴に入る核のボタンを囲む」。蛇穴に入る、と、核のボタン、とを取り合わせるというのは面白い着眼だと思います。でもこのままだと蛇が核のボタンを囲むとなり、それはそのままでも面白くはありますが、もう一つ何か足りないように思えるのです。ならば蛇の営為と人間の行為が対比できるような形にした方がいいのではと思いました。
- 久保 智恵
特選句「黄のカンナ咲かせて鰥夫(やもお)源流に」特選句「酔芙蓉刹那に埋もれる認知症」。身につまされる私です。「草を刈る食はせる牛もゐねえのに」。心が清々しくなる。
- 新野 祐子
特選句「目薬のような夕星秋の畑」。「目薬のような」がいい。暮早い秋の畑で働く人たちの心身を癒してくれる夕星。共感だなぁ。特選句「蛇穴に入る核のボタンを囲む」。権力を手にした人間の愚かさを改めて思う。
- 高木 水志
特選句「あえいうえおあお木の実降る部室棟」。部活で滑舌を良くする練習をしている風景が木の実の乾いた感じとよく響き合っている。
- 飯土井志乃
特選句「秋の日に人かぐわしく風化する」。秋夜長の楽しみは「百五十句」選句のお散歩。掲句一句目素通り、二巡目、中七下五の言葉にひかれ「いいなぁ・・」。三巡目「秋の日」が光を帯びて「人」が私の中で歩き始めたのです。文字が俳句になった瞬間を見た様に思います。
- 漆原 義典
特選句「卓袱台の稲埃拭き夕餉かな」。昭和が感じられとても懐かしくなり嬉しくなりました。卓袱台の稲埃拭き、いいですね私の少年時代そのものです。昭和28年生まれの私は今年古希を迎えましたが、昭和を生きて良かったといつも思っています。たいへん良い句ありがとうございます。
- 中村 セミ
特選句「雨音の寒き夜となり魚を食ふ」。生活を描写している中に、普遍的なものを、かんじて、ただ、切れ味だけの物を追求しょうとするものとは、一線を画するような、古典的であるとは思うが、生活の中で感じる、どうにもならぬもの、抗えぬものをかんじて、特選としたい。また「この坂に嬉々と百舌狩り菊池寛」の句は、南側から、栗林トンネルを、くぐり,百舌坂へでている、説明文があるので、書かせてもらうと、1970年に、栗林トンネルができ、それから、23年に渡り、この坂に、名前もつくこともなく、1993年、百舌鳥とついた。ちょうど、自分の長男が亡くなった年だった。そんな事を、思い出させてくれました。この句に、感謝します。ありがとうございました。
- 銀 次
今月の誤読●「月曜の河馬を見に行くしぐれかな」。ただいま失業中。昨今のこの不景気である。わたしもその波をもろに受けリストラの憂き目にあった。以来、毎日が日曜日。とにかくヒマである。することがない。それよりなにより妻の目が耐えがたい。口には出さないが、内心「よくまあ毎日ゴロゴロと」と思っているのが手に取るようにわかる。いたたまれない。自然と外に出るようになる。といって行くところもなし。時間つぶしのために動物園に行くのが日課になった。わたしのお気に入りは河馬である。その悠々たる姿は、他人の目を気にする人間などとはほど遠く、じつに気ままに見える。あるがままに生きる。その自然体がわたしを魅了する。それはある種の「達観」を思わせる。そのじつ河馬は、ライオンやトラなど足下に寄せつけぬほど強いらしい。その強さは世界の動物界でも三指に入るほどであるらしい。河馬のゆったりとしたさま、その俗事とはかけ離れた生きざまは、実力に裏打ちされているのだ。わたしは憧れる。こんなふうに生きていけたらなあ、と。そんなことを思いながら河馬を見ていると、どこからか「代わってやろうか?」という声が聞こえた。わたしはキョロキョロとあたりを見まわした。だれもいない。「おれだよ、おれ」とまた声がした。わたしはハッとして河馬を見た。河馬もまっすぐこちらを見返している。河馬の声なのか? 「どうだ、そんなにおれのように生きたいのなら、代わってやろうか?」。やっぱりそうだ。河馬がわたしに語りかけているのだ。「毎日食べて寝て、クソしてりゃいいんだ、それでもだれにもなんも言われない。おまえはそんなふうに生きたいんだろう」。河馬は三度いった。「代わってやろうか?」。わたしは二歩、三歩後ずさった。わたしは一瞬、河馬の目になって、わたしを見た。そこにはうろたえて、目を見開いた、哀れな男がいた。わたしはわたしをせせら笑った。即座のことだった。われに返ったわたしは、呆然としながら檻の前に立っていた。河馬は大きくあくびした。わたしはその河馬を背にトボトボと帰路についた。妻が待っている。
- 寺町志津子
特選句「曼珠沙華ひとりは寂しいなんて嘘」。思い切りのよい句ですね(^_^)全く同感の思いになる時がしばしばあります。自分一人で思いのまま時間が使えた時の充実感!大勢の寄り合いも好きですが・・・?句「ふろしきに首と手が出るハローウイン(重松敬子)」。何だか楽しそうな句ですが、「風呂敷」に、首が出る、とは?想像力が鈍くてすみません。 毎号、「香川句会」の知的で大きな包容力に楽しさをいただいており感謝申し上げます。
- 森本由美子
特選句「ステーキの鉄板広し夏休み」。久しぶりに開放感のある気持ちの良い句に出会ったような気がいたします。マスクなしの時代に戻れるような予感も。「ひとり来て白萩一人分こぼす」。美しい句と思う。心の中の乱れを、または底に秘めた証を白萩に託しているのかもしれない。
- 荒井まり子
特選句「山の田はたとえば浄土穂波立つ」。棚田など営々と繋がる人々の思いと願い。その美しい光景に言葉がない。極楽へと繋がる熱い思い伝えたい。
- 山下 一夫
特選句「どろだんご食べるふりして秋の空」。子どもからもらったどろだんごをおいしそうに食べる真似をしながら空を見上げると抜けるような青空。幼い自分の頭上にもあった。今はどろだんごと知ってて食べてみせる。変わりやすい秋空のように歳月は流れた。特選句「どの紙面もさびしい鳥の羽音」。新聞を開いたときの紙ずれの音の形容と読解。その音には乾いた晩秋の季感が確かに伴っています。問題句「忘れるうれしさ野菊の道は濡れている」。忘却という作用によろこびを見出し、それは後半であることを直感したと読め、魅力的なのですが、長すぎるのが惜しい気がします。最後を「濡れ」で止めて十七字に収めると少し電撃感が出るのではないでしょうか。
- 高橋 晴子
特選句「人類に国境のあり鰯雲」。人類はひとつなのに小さな国できられている。国境なんてなければ平和なのにね。
- 稲 暁
特選句「曼珠沙華身のうちそとの水揺れて(佐孝石画)」。季節感と身体感覚がうまく同調してユニークな作品になっていると思う。
- 大浦ともこ
特選句「抜けそうな乳歯を触り秋思の子」。子どもには子どものきがかりがある、ということを思い出して懐かしく面白く読ませて頂きました。特選句「月曜の河馬を見に行くしぐれかな」。動物園が一番空いていそうな月曜日、さらに時雨。そんな日に河馬を見に行くというユーモラスな孤独に心惹かれました。
- 野﨑 憲子
特選句「いくさなどだれが征かすや鉦叩」。「鉦叩」は秋の虫なのだが、私には、六波羅密寺の、摺鉦を首から提げ撞木を手に念仏を吐く空也上人の像が頭に浮かぶ。空也は十世紀の僧。その当時の民衆の思いも掲句と同じだった。今は、核保有国が増え、核戦争が起これば地球上のあらゆる生命が死滅しかねない状態になっている。霊長類の頂点に立つ人類だからこそ、縄張りも国境もない世界を、戦のない世界を作らなければならないのではないだろうか。領土が、領有権が・・などど言っている時ではない。それは大いなる母の願い。大地の、空海の、そして世界中の母の願いなのだ。
袋回し句会
芒
- 曇天や牛のっそりと芒原
- 銀 次
- はるかなる水平線よ穂すすきよ
- 柴田 清子
- 芒原他界の君も芒原
- 野﨑 憲子
- 誘われて鬼女と一夜や芒原
- 島田 章平
- せやろ・・でもなんだか芒なの
- 野﨑 憲子
- われも狡童なりしよ芒原ざくざく
- 野﨑 憲子
- 一叢の薄そこだけ黄金色
- 大浦ともこ
- 芒原三点倒立し他界
- 藤川 宏樹
金木犀
- 処方箋受付ます金木犀
- 柴田 清子
- 金木犀画家の名前が浮かばない
- 藤川 宏樹
- こぼさぬやうにころばぬやうに金木犀
- 野﨑 憲子
- 空っぽの俳句手帖や金木犀
- 野﨑 憲子
- 廃屋に古い話す金木犀
- 淡路 放生
- あめあめあめあめ金木犀に雨
- 島田 章平
林檎
- 林檎剥く君の不器用僕の嘘
- 大浦ともこ
- 喉仏ガブリガブリと林檎喰う
- 三好三香穂
- 林檎の芯大樹夢みる子の埋めし
- 中野 佑海
- 店先の林檎に声をかけられる
- 柴田 清子
- ふぞろいな林檎の照れや岡山弁
- 藤川 宏樹
- 妻逝きて夜の林檎に刃を入れる
- 柴田 清子
雨
- 雨粒を集めてぽとり大泪
- 三好三香穂
- ふんどしで時雨の中や山頭火
- 島田 章平
- 秋の雨ギィと椅子鳴る街中華
- 大浦ともこ
- 雨ニモマケズ銀河鉄道敷設
- 島田 章平
- 燈台が遠くなってく秋の雨
- 銀 次
- 秋霖や知らない景色の中をゆく
- 野﨑 憲子
露
- 一言が欲しかったのに露時雨
- 柴田 清子
- 露草や単身赴任二十年
- 中野 佑海
- あの人はいまなにしてる露万朶
- 野﨑 憲子
- 蓮葉露ころりころりと零れけり
- 三好三香穂
- 露の世や三遊亭円楽が好き
- 島田 章平
- 文の反故に煙草の匂ひ窓の露
- 大浦ともこ
【通信欄】&【句会メモ】
今年も早や十月。コロナ感染者数は以前高止まりの中、今回の事前投句の参加者は76名。お陰様で、ますます多様性に満ちた句会になってきました。高松での句会参加者は10名。袋回し句会はブログ不掲載の方もありましたが、30分のタイムリミットの中、佳句がゾクゾク誕生し、大盛会でした。句会終了は午後5時と決めていますが、いつも30分前後延長しています。会場主の藤川宏樹さんに感謝感謝です。
冒頭の写真は、あずお玲子さん撮影の鳥取の秋の二重虹です。パワフルですね。玲子さんありがとうございました。「海程香川」句会は年11回の開催。今年は12月をお休み月とさせていただきました。次回が今年の〆句会。今から楽しみにいたしております。
Posted at 2022年10月28日 午後 03:33 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第132 回「海程香川」句会(2022.09.17)
事前投句参加者の一句
蝉の山は飢餓かな俺の樹が揺れる | 竹本 仰 |
横たわる自分の重さ月明かり | 河野 志保 |
学校を追われどこ行く西日の子 | 銀 次 |
月魄の電話ボックスといふ方舟 | すずき穂波 |
ラジオ体操全身に蝉しぐれ | 菅原香代子 |
熊楠の永遠に我らは夏薊 | 荒井まり子 |
枯向日葵旅に出たような空です | 佐孝 石画 |
かまきりに成り損ねている僕だから | 高木 水志 |
四、五人の真ん中の一人が野菊 | 柴田 清子 |
ばつた跳ぶ残像未だ草の中 | 川本 一葉 |
あけぼののサーフィンしるき日向灘 | 疋田恵美子 |
あと五年十年遊ぶ女郎蜘蛛 | 亀山祐美子 |
友よ肩にあなたの亡夫か盆の月 | 寺町志津子 |
ゆったりと円座で交わす濁酒 | 佐藤 仁美 |
がんばれと言わない9月朝の風 | 松本美智子 |
さるすべり何かするたび酸素吸う | 高橋 晴子 |
百日紅一葉の蔭に鬼女の恋 | 島田 章平 |
レモングラスティーの一杯暑気払う | 樽谷 宗寛 |
青春って密銀傘の片かげり | 藤川 宏樹 |
ぼんやりの反対は鬼秋彼岸 | 松本 勇二 |
蝉声の雄叫びの奥に空白 | 佐藤 稚鬼 |
断乳の子のくちびるへ柘榴の実 | あずお玲子 |
長い秋透明ばかり棲みにけり | 中村 セミ |
陵に火を捨てにゆく秋蛍 | 津田 将也 |
水に流した筈のことばが月夜茸 | 山田 哲夫 |
鳥威し烏の並ぶ高圧線 | 野澤 隆夫 |
幾度の指の汚れや石榴熟る | 小西 瞬夏 |
蓮の実の飛んで子宮は虚ろなり | 川崎千鶴子 |
秋バナナくねっと曲がる朝の影 | 豊原 清明 |
手術日のジャコウアゲハがこんなに | 新野 祐子 |
馬立ちて風を見てゐる大花野 | 風 子 |
後の月我は山姥かと思う | 石井 はな |
考える犬を見ており縄文人 | 鈴木 幸江 |
ていねいに頭まるめて原爆忌 | 田中アパート |
存在やむかし南瓜の蔓太し | 吉田 和恵 |
オクラの穴よりこぼれる罪と嘘 | 向井 桐華 |
桃を食う干物のような朴念仁 | 十河 宣洋 |
黙って逝ってしまうなんてね白木槿 | 桂 凜火 |
鉦叩国葬ノーという兜太 | 菅原 春み |
無言館を出て青柚子の繁り | 飯土井志乃 |
銃口の先に置きたし花野かな | 野口思づゑ |
寡黙なる母は強きよ紫苑咲く | 植松 まめ |
山の神の裏に増殖夏落葉 | 稲葉 千尋 |
味噌汁をすこし濃いめに今朝の秋 | 夏谷 胡桃 |
実家(さと)守る甥も孫持ち柿熟れる | 山本 弥生 |
晩夏光鍵の匂いを深く嗅ぐ | 重松 敬子 |
早稲の香と低い山とがすぐそこに | 谷 孝江 |
鈴虫や音楽室は施錠中 | 松岡 早苗 |
白桃や弾みでその身を持ち崩す | 森本由美子 |
先生の言葉が使われてます鱗雲 | 田中 怜子 |
青蜜柑きのう知らない人と居て | 伊藤 幸 |
斑猫を少年の眼が捉えたる | 河田 清峰 |
丁寧に歯磨きそして秋思う | 榎本 祐子 |
文化の日巻き取られない人だった | 山下 一夫 |
振り向けばたった一人の冬銀河 | 小山やす子 |
一夏去る山湖の人ら影絵のように | 野田 信章 |
秋蝶や止まり木探す老いの恋 | 藤田 乙女 |
魚の眼の沖の色して魚市場 | 久保 智恵 |
女には長くつかまりきりぎりす | 男波 弘志 |
ネットの中を一日泳ぎ八月尽 | 中野 佑海 |
中也詩集を野分の宿に開きけり | 大西 健司 |
月光や父のカオスに母ひとり | 大浦ともこ |
鳥渡る磁感のままに我風のまま | 塩野 正春 |
地図なぞる指先の旅あきあかね | 増田 天志 |
よく噛んで顔の輪郭に追いつく | 三枝みずほ |
古希過ぎて裏が表につくつくし | 増田 暁子 |
盆過ぎの風が変われば人を恋う | 滝澤 泰斗 |
初めての恋の色です稲の花 | 漆原 義典 |
夕ぐれの背骨は鉄線花の昏さ | 月野ぽぽな |
蜘蛛の巣を払いても蜘蛛巣を張れり | 福井 明子 |
月欠けている殺人未遂の刑 | 淡路 放生 |
里芋の親とか子とか白書とか | 伏 兎 |
飛び魚と競いて着きし隠岐の島 | 三好三香穂 |
核ある暮らし私に届く今年米 | 若森 京子 |
てきの鐘みかたの鐘やいわし雲 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 増田 天志
特選句「蝉の山は飢餓かな俺の樹が揺れる」。共感を望まない作句姿勢が、潔い。エロティックな作品かも。所詮、生きものは、雄と雌。
- 豊原 清明
特選句「寡黙なる母は強きよ紫苑咲く」。家族の句に、感じるものがある。寡黙の人が、強く見える。一言二言、話すことの重み。問題句「黙って逝ってしまうなんてね白木槿」。残された人の呟き、生きていたい。
- 松本 勇二
特選句「子盗ろ唄洩らしてしまう裂け石榴(津田将也)」。ザクロを不気味がる俳句は多くあるが、子盗ろ唄で一気にトップランナーの句となった。
- 小西 瞬夏
特選句「四、五人の真ん中の一人が野菊」。大好きな河原枇杷男の「野菊まで行くに四五人斃れけり」を思う。きっとこれを下敷きにしているのだと思うが、それを踏まえたうえでの「真ん中の一人が野菊」という展開のしかたに感服しました。あたらしい野菊のありようだと思います。
- すずき穂波
特選句「蝉の山は飢餓かな俺の樹が揺れる」。夕ぐれの裏山に散歩の日々。汗をかきたくて?夏を乗り切るため?体力を落とさないため?いや違う。飢餓!そうだ、俺の中で何かが叫んでいるんだ。………自然界と己の一体に生まれた情感が素直、みずみずしい感覚の句だと頂きました。
- あずお玲子
特選句「幾度の指の汚れや柘榴熟る」。清廉潔白に生きたいと思う。でも自分は今日も嘘をついた。これからも大小の嘘をつき続けていくだろう。そうやって生き永らえてゆくのだ。柘榴が熟れている。指先がまた汚れている。特選句「ととのった青田の上でならいいわ(竹本 仰)」。生命力溢れる青田の上で一体何を始めるのか。ととのっている事が重要ポイント。答えを聞いてみたい。
- 塩野 正春
特選句「馬立ちて風を見てゐる大花野」。広大な草原を旅する武士あるいは商人の一団。連れている馬もふと立ち止まって花野に目を奪われる光景。何とも言えないポエムを醸し出してくれます。この喧噪の地球にこんなのどかな風景がある、あったとは信じられません。人類は何処で道を誤ったんだろう。一度どこかでリセットできればと思う。特選句「人類の偉大な一歩夜這星(藤川宏樹)」。人類が流れ星に気付いたのはいつのことだろう。その不思議な現象、物体を恐々観察し、その規則性や不連続性から宇宙の不思議な光景を読み解き始めたのか。視力が素晴らしかった様で、降り注ぐ流れ星の数は私たちが今見ている数百倍、数千倍だったに違いない。物理や数学、幾何学から占いの分野まで発展し、その現象を知る者のみが世界を支配し得たと思う。Nasaの月面着陸の有名な言葉も俳句を引き立たせている。問題句「あと五年十年遊ぶ女郎蜘蛛」。作者が元気で長生きされることを祈ります。が、男の生き血を吸われるのは程々にとお願いしたい。自句自解「NASA探す姥とばすとこ住むところ」。のようにいずれ宙を旅することも現実味を帯びてきました。「鳥渡る磁感のままに我風のまま」。最近の研究で鳥が定期的に旅するのは磁感に基づくという説がでてきた。風でもなければ食料でもない‥と言うわけで第七感に納得する次第。
- 月野ぽぽな
特選句「黙って逝ってしまうなんてね白木槿」。呆気ない終わり方もあるのでしょう。とても親しかった方でしょうか。気取らない美しさのシロムクゲに、亡き人の人柄が思われるとともに、呟くような語りかけが響き、心情が漂います。
- 山田 哲夫
特選句「身の狭量やさしく忘れて鰯雲(増田暁子)」。自分の度量の狭さ、人としての未熟さに気付くことは、残念なことだが、妙に肩肘張って生きるよりは、「やさしく忘れて」ありのままの自分を見つめ、あるがままに生きる方を許容する作者に共感。「やさしく」の一語が巧妙。「鰯雲」も効果的。
- 小山やす子
特選句「オクラの穴よりこぼれる罪と嘘」。オクラの穴というのは作者にとって特別な物かも知れない。罪と嘘が面白い。
- 藤川 宏樹
特選句「枯向日葵旅に出たような空です」。暑い盛りの向日葵、高々と威勢よいがそのうち気に留めなくなる。やがて、黒ずんだ枯向日葵に目が止まるとき季節は移ろい、旅先に見るいつもと違う空が映える。そういうこと、確かにあると共感します。
- 増田 暁子
特選句「身中の分水嶺を月渡る(すずき穂波)」。気持ちの切り替えや決心の時、月の光が励ましてくれたのか。特選句「ネットの中を一日泳ぎ八月尽」。暑くて、コロナの日々、一日中ネットで過ごした8月でしたね。判ります。「手にすれば消えゆく想ひ朝の露」。綺麗で透明感のある句で好きです。
- 樽谷 宗寛
特選句「鉦叩国葬ノーという兜太」。リズムよし。よくわかる句で亡き師のお姿まで浮かんできました。
- 風 子
特選句「丁寧に歯磨きそして秋思う」。最近私も歯科衛生士さんのご指導通り、できるだけ丁寧に歯を磨いています。そんなこんなことの日常に季節は変わり、日々是好日であります。
- 福井 明子
特選句「熊楠の永遠に我らは夏薊」。大いなるものに回帰しようとする意思が、象徴的に提示されていて共感します。特選句「晩夏光草木のごと佇んで(榎本祐子)」。風になびく草木に我も一体となりながらなびいてゆく。そんな感覚を、晩夏光が大きく包んでいるようです。こういう感慨に打たれます。
- 大西 健司
特選句「振り向けばたった一人の冬銀河」。やりきれないほどの寂しさ、ふっと振り向けば冬銀河に包まれている。繊細な感覚を佳とした。問題句「血尿の溲瓶も二百十日かな(淡路放生)」。私たちの仲間内では溲瓶俳句の存在は肯定的だが、さすがに血尿までとなるとかなり厳しいものがある。ただ二百十日の働きが何とかこの句を支えている。
- 佐孝 石画
特選句「青蜜柑きのう知らない人と居て」。言い切らない良さ。それは曖昧さにも繋がるが、この句の場合、不明瞭さは多面性と捉えて良いと思う。まずは「切れ」の解釈。上五「青蜜柑」で切れて、「きのう知らない人と居て」の回想との取り合わせと見るか、一句一章で「青蜜柑」の物語と見るか。「きのう知らない人と居て」というシチュエーション自体がミステリアスでやや淫靡なニュアンスを帯びたものだが、一句一章で見ると、青蜜柑自体が転生後の姿で、誰かと密会した後に、涼しげな顔をして木に生っていると見ると、不思議なメルヘンに見えてくる。また、「青」というものが、少女や少年を想起させ、何かいけない交際めいたものも見えてくる。「青蜜柑」で切れたとしても、やはり「知らない人」と会っていたことを目撃した時の衝撃、戸惑いが見えてくる。「青」蜜柑との組み合わせで、片想いの人が誰かと会っていたことを知ってしまった青春時代の切ない思い出の一シーンとも重なって来る。「きのう知らない人と居て」はまた、自身あるいは身近な人の物語として、自分のことさえも不明瞭な認知症の浮遊感覚を表しているとも解釈し得る。その場合、「青蜜柑」はその白痴的無垢感覚の象徴となる。このように、様々な幻想を想起させる多面的な作品とは名句の部類に入るのではないかとしみじみ思う。
- 桂 凜火
特選句「古希過ぎて裏が表につくつくし」。裏と表はなになのか書いていないので生き方や気持ちやありようのことかと想像します。肯定感なのか否定なのかも書いてなくて随分とあなた任せですがそこに想像の余地をいただけたようで、そうですよねと勝手な共感もでき好きでした。つくつくしがよく効いているのでしょう。
- 高木 水志
特選句「核ある暮らし私に届く今年米」。一瞬忘れかけていた現実と日々の暮らしのギャップに引き寄せられた。
- 柴田 清子
特選句「がんばれと言わない9月朝の風」。初秋の朝の風の中で、自分らしく、ありのままの一日を過す心根が、あふれている気持のいい句です。特選句「味噌汁をすこし濃いめに今朝の秋」。この句は俳句の原点に戻してくれる。いつ読んでも佳句と思える。しみじみ日本人であること、佳句と思える。
- 稲葉 千尋
特選句「初めての恋の色です稲の花」。稲の花が初恋の色とは、レモンより稲の花がいい。小さな稲の花の思いがびっしりと、そして稲の花は知らない人も多い。かすかな恋を思う。
- 十河 宣洋
特選句「蝉の山は飢餓かな俺の木が揺れる」。一見豊かなように見える蝉の声である。あふれる様に蝉の声があるが飢えた泣き声にも聞こえる。俺の木が揺れるに作者の心の揺れがある。特選句「振り向けばたった一人の冬銀河」。冬の凍てつく山道を歩くとふっと後ろに気配を感じることがある。振りむくと見えてくるのは冬の天の川だけである。思わず身震いする。孤独感が伝わってくる。
- 山本 弥生
特選句「早稲の香と低い山とがすぐそこに」。低い山裾の今は過疎地となった先祖伝来の棚田を守り早稲が実った喜びが手に取るように伝わります。
- 夏谷 胡桃
特選句「地図なぞる指先の旅あきあかね」。すこし類想感がありますが、このコロナの時期の旅に出られずに、地図をながめている日々を思いました。
- 鈴木 幸江
特選句「終は誰も一引くひとつ流れ星(野口思づゑ)」。“終”とは「死」のことであろう。“一”は漢字だから中国文化の思想概念だろうか。でも、数字の1も直ぐ脳裏に浮かぶ、ここで早やわたしに混乱が始まってしまった。“ひとつ”は日本語であり個体を数える時の一個であろうか、それとも漢字の「一」を日本語に訳した「ひとつ」なのだろうか。すると“世界はひとつ”となり、老荘思想の「一」の概念だ。わたしの混乱はまだまだ流れるように続く。老荘思想の「一」とすると“ひとつ”は個体となり、個人を意味するのだろうから、人の死は宇宙全体から個体が消えてゆく流れ星のごとくという解釈になり、背景に宇宙秩序が登場してきてよくわかる。だが、数字の1とすると個体から反対に全体が引かれることになり、小さなものから大きなものを引くという存在の根本への問いかけのようで、まるで答えのない公案のようだ。そこに大変惹かれる自分を見つけて何故か安心をしてしまったので特選にさせていただいた。
- 中野 佑海
特選句「熊楠の永遠に我らは夏薊」。熊楠のように自分の信念を貫く生き方は薊の花言葉そのもの。憧れるけど、縁の無い一生だったな!特選句「秋の風深く糺すということを(男波弘志)」。9月になって食べ物が美味しくなったのに、私の食いしん坊のせいで、また、歯を折ってしまいました。掛かり付けの歯科医院は休業中。ああ、この65年間の、お菓子の食べ過ぎが、今頃たたって、とうとう、美味しく食べられなくなってしまいました。秋風に今までの私の生き方を糺されてしまいました。今、歯医者難民なんです。「ばつた跳ぶ残像未だ草の中」。バッタは本当に草叢の中では分かりません「水に流した筈のことばが月夜茸」。言った方は忘れていても、言われた方はだんだん茸の菌糸がはびこるように、気持ちの中にめり込んでゆく。「オクラの穴よりこぼれる罪と嘘」。オクラの種のように罪と嘘がぽろぽろと。これはやばい。「稲妻やぶっちゃけたいことがある」。はい、キムタクが、申しています。ハンドルから手を離し、「行っちゃえ、行っちゃえ」但し、山の神の怒りを買うは必定。「青蜜柑きのう知らない人と居て」。先の句のぶっちゃけた結果が、これですか?「文化の日巻き取られない人だった」。これも熊楠と一緒。こう思ったことは曲げない。我が道を行く。「発想を飛ばし蟇と深呼吸」。飛ばしすぎて、ヒキガエルと意気投合したんですね?カエルでも分かり合えたら、可愛いもんです。「終は誰も一ひく一つ流れ星」。死ぬときは誰も一人。一ひく一つがとても象徴的。今月は、教訓的な俳句を選んでしまいました。あまりにも自由に生き過ぎて、少し反省してる(本当かな?)今日この頃の中野佑海です。
- 若森 京子
特選句「水に流した筈のことばが月夜茸」。言葉ほど難しいものはないとつくづく思う。人を生かすも殺すも言葉だと云われる。季語「月夜茸」が効いている。特選句「古希過ぎて裏が表につくつくし」。軽く書かれた一行に人生の教訓が含まれている様に思う。「つくつくし」の季語が上手い。
- 三枝みずほ
特選句「文化の日巻き取られない人だった」。子規がそうであったように、巻き取られない意志こそが芸術文化を革新してきたのだろう。型ばかりを踏襲し生命力を失っていないか、大いに考えさせられた。
- 疋田恵美子
特選句「ゆったりと円座で交わす濁酒」。秋の収穫も終えほっと一息、手伝い人も交え互いの労を労うどぶ酒。故郷の昔を思います。特選句「蝉声の雄叫びの奥に空白」。ロシアのウクライナ侵攻に、争う両国の若者の心中を思うにつけ無念でなりません。
私生活も少しずつ自分の時間がもてるようになりました。残り少ない時間を大切に、尊敬します皆さまと共に俳句を楽しんでいけたら幸に思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
- 滝澤 泰斗
特選句「中也詩集を野分の宿に開きけり」。中也詩集でいただけないという声もあると思うが、なぜか魅かれた。詩集を開いている人にいつしか寄り添っている自分がいた。五木寛之氏の小説に出てくるような・・・。特選句「八月の溺るる地球クオヴァディス(大浦ともこ)」。ペテロがローマのはずれのアッピア街道でいよいよ自分の天命を知り、「クオヴァディス」と叫んで、逆さ十字の刑に付く。二千年前の切羽詰まった状況と現在地球で起こっている様々な切迫感に溺れる様に「我々はどこに行けばいいのか」と問う。共鳴句「蝉の山は飢餓かな俺の樹が揺れる」。今年の夏の蝉は、思いっきり鳴いている様が薄かった印象。天候不順でいきなり暑くなって鳴くタイミングを逸したかのような感じがしていたところにこの句が飛び込んできた。まさに、俺の樹も揺れた。「てきの鐘みかたの鐘やいわし雲」。コロナで行けなくなった遠い東欧のとある町の鐘の音を思いだした。正教あり、カトリックあり、プロテスタントあり、本来、同根なのに、いつしか、敵味方で鳴らし合う。そんな人間の所業とは関係ないいわし雲が空に泳いでいる。「泣けや哭け笑へや嗤へ夜の虫」。秋の虫たちが前段の蝉の句とは異なり、今年はその鳴き声に勢いを感じていた。それが、わが獅子身中の虫と呼応するように、様々な表情を持って泣き笑いしている。「月光や父のカオスに母ひとり」。尊敬から同情へと変化してゆく児の心。訳の分からないオヤジの気持ちに寄り添えるのは、やはり母ひとりか。
- 津田 将也
特選句「黙って逝ってしまうなんてね白木槿」。彼若しくは彼女のこの死にざまを、潔い、誇らしい、と思う一方、なんて水くさい、冷たい、薄情だ、とも思ってしまう。独語「黙って逝ってしまうなんてね」と、季語「白木槿」には、作者の心情が、このように二つ内包された俳句となった。特選句「文化の日巻き取られない人だった」。十一月三日は「文化の日」、国民の祝日である。「自由と平和を愛し、文化をすすめる日」として、昭和二十三年(一九四八)に制定された。「文化の日」の俳句には、まともに向き合わず「斜」に構えたもの、あるいは、「生真面目」に捉えたものが多い。阿波野青畝に「うごく大阪うごく大阪文化の日」があるが、この句は前者だ。星野幸子には「父と子と同じ本買う文化の日」があり、この句は後者である。掲句は、この中間の俳句と言えようか。「巻き取られない人だった」の、「だった」からは、この人物がすでに故人であることも推量できた。
- 河田 清峰
特選句「核ある暮らし私に届く今年米」。核被害を受けた国が核を棄てられない国に住むわれらが食べる今年米。声が届かない。
- 中村 セミ
特選句「月魄の電話ボックスという方舟」。月光に電話ボックスが浮かび上がる様を、月の魂の一部方舟なんかという,いいかた、ちょっと,文学的比喩できにいりました。
- 川本 一葉
特選句「地図なぞる指先の旅あきあかね」。世相を反映しているのはもちろんのこと、諦めと希望が混ざった素晴らしい句だと思いました。地図を見るのは意外と多いものです。戦争、災害、気象。あきあかねの着地もなるほど、です。世界各地にもあきあかねいるんでしょうか。
- 淡路 放生
特選句「蓮の実の飛んで子宮は虚ろなり」。―「虚ろなり」としかいいようのない、子宮の肉を感じさせてくる。「蓮の実飛んで」が実に巧みであろう。
- 田中 怜子
特選句「実家を守る甥も孫持ち柿熟れる」。こういう風景も残してほしい、でも、直系でなく甥御さんとのこと。家を守るということの社会的背景も背後に見えてますね。特選句「飛び魚と競いて着きし隠岐の島」。気持ちいいですね。隠岐の島というのが、神、源郷をたどるような、土俗的な匂いもしてきます。
- 野澤 隆夫
特選句「学校を追われどこ行く西日の子」。事情あって学校へ行けない子の悲哀がなんとも痛々しい!特選句「青春って密銀傘の片かげり」。甲子園の内野スタンドに集う大応援団!密集密接の高校生の歓喜!「西日の子」とは真逆の生徒たちです。
- 野口思づゑ
特選句「鳥威し烏の並ぶ高圧線」。カラスも、高圧線も人間には違った意味で危険な面があるのですが、何と高圧線にカラスを並ばせ、その景を季語と巧みに組み合わせています。 「鉦叩き国葬ノーという兜太」。金子先生がそうおっしゃっている姿がはっきり思い浮かびます。「ととのった青田の上でならいいわ」。何がいいのか、幅広く色々な場面を想像できる楽しい句。
- 松岡 早苗
特選句「枯向日葵旅に出たような空です」。夏から初秋への空の移ろいが、「旅に出たような空」という措辞で巧みに表現されていると思いました。枯れ向日葵の上に広がる高い空に、旅への誘いや旅情を感じさせられたのでしょうか。夏空自身が旅に出てしまったようにも読めて、イメージが膨らみました。特選句「無言館を出て青柚子の繁り」。若くして閉ざされた夢、美、命。それらを想うとき、「青柚子の繁り」はあまりに切なく、悲しみに満ちた色と匂いで迫ってきました。
- 佐藤 仁美
特選句「がんばれと言わない9月朝の風」。夏休みあけ、自殺が増えるそうです。悩んでいる人に、がんばれと言わない私でありたい。そして私にもがんばれと言わない、9月でいて欲しい。やさしい朝の風が、全部包み込んでくれそうです。特選句「桃を食う干物のような朴念仁」。この朴念仁って…?色々想像できて、面白かったです。
- 石井 はな
特選句「断乳の子のくちびるへ柘榴の実」。娘を育てていた遠い昔を思い出して幸せな気持ちになりました。
- 河野 志保
特選句「丁寧に歯磨きそして秋思う」。秋の訪れはこんなふうだなあと思う。そして俳句もこんな時に生まれるなあと思う。シンプルで素敵な句。
- 島田 章平
特選句「無言館を出て青柚子の繁り」。先日、日本テレビ系列のドラマで 「無言館」が放送された。普段寝ている時間だが最後まで見てしまった。友達と一緒に歩いた坂や薄暗い照明の中の一枚一枚の絵が、鮮やかに 蘇ってきた。一番印象に残っていたのは飛行服を着た兵士の自画像。もう絵具は剥げ落ち、顔は定かではない。しかし確実に私を見つめて いた。生きたかったでしょう、無念でしょう、もう一度続きの絵を 描きたかったでしょう、一枚一枚の絵の声を聴きながらそう呼び掛けて いた。掲句の「青柚子の繁り」があまりにも鮮烈。若くして散った一人一人の兵士を彷彿とさせる。無言館にまだ行かれておられない方は、いつかどうぞ行ってみてください。そして、絵の声を聴いてください。特選句「よく噛んで顔の輪郭に追いつく」。「無言館」の句とは一変して無季の現代俳句。捉えどころがないが、何故か心を惹かれる。このような句ができると言うことが、平和と言うことなのだろうか。その時代性を大事にしたい。
- 伏 兎
特選句「斑猫を少年の目が捉えたる」。クワガタやカブトムシではなく、ハンミョウに魅せられる少年は、多感でナイーブなのだろう。「道をしへ」とも呼ばれるこの虫の妖しい美しさは、性に目覚めた少年を誘う年上の女を連想させ、興味深い。特選句「よく噛んで顔の輪郭に追いつく」。マスクの生活に慣れて、弛んでしまった顔に喝を入れるべく、全部の歯を意識して食べている作者が目に浮かぶ。元気をくれる句だ。「ピアニカの音の純情九月尽」。ハーモニカやリコーダーのように、子どもの合奏会で親しまれているピアニカ。そんな楽器の音色を純情と表現した、作者の優しさに好感。「古稀すぎて裏が表につくつくし」。古稀をきっかけに、上辺だけの生き方はやめよう、とする心意気に惹かれた。
- 吉田 和恵
特選句「魚の眼の沖の色して魚市場」。陸に揚ったばかりの魚の眼は海の色を湛えて、願わくは、ずっとそのまま。 魚の眼の。?
9/3~9/5 もうアカンと言いつつ、性懲りもなく木曽駒ヶ岳に登りました。 やっほう ほほほほ…町田康的ココロ???
- 藤田 乙女
特選句「手にすれば消えゆく想ひ朝の露(川本一葉)」。しみじみとした思いになり、とても惹かれた句です。特選句「振り向けばたった一人の冬銀河」。「振り向けば」にふと自分の人生を振り返り、孤独を感じた刹那のような感覚が伝わってきました。
- 榎本 祐子
特選句「月光や父のカオスに母ひとり」。父と母との関係性が月の光の中で浮き彫りにされている。
- 伊藤 幸
特選句「ばつた跳ぶ残像未だ草の中」。喩による形容が切なく心に響く。旅立ち笑顔で送ったものの忘れ得ぬ日々と葛藤する作者が浮かびあがる。特選句「陵に火を捨てにゆく秋蛍」。感覚が鋭い。陵(みささぎ)とは天子の墓。その措辞そして中下の表現に祈りさえ窺える。
- 川崎千鶴子
特選句「ばった跳ぶ残像未だ草の中」。ばったの保護色の草色にその存在にいつも全然気づきませんが、ぱーんと跳ばれて初めて気付き、その速さに姿は追えず「残像」しか残りません。表現の素晴らしさ。「肩ほぐして腰をほぐして水母」。水母の形態を見事に捉えた素晴らしさ。乾杯です。
- 谷 孝江
特選句「枯向日葵旅に出たような空です」。今年の春、何十年振りかで向日葵の苗を二本買ってきて植えました。特別な世話をする事もなく半ば放っておいたのが元気に育ってくれました。家族のみんなより背が伸びて大きな花が付きました。誰に阿るでもなく、自分なりに咲いている姿が私は大好きです。もう花の盛りが過ぎようとしています。空を見て遠くを眺めてそして私の家族の事も毎日見ていてくれたのだなと枯れかけの向日葵に「ありがとう」を言ってあげたい気持ちになります。向日葵と一緒だった季節も旅ももう終りそうです。今日はきれいな秋空です。
- 漆原 義典
特選句「無言館を出て青柚子の繁り」。2018(平成28)年の海程全国大会に参加し、金子兜太先生にお会いし感激し、その後、有志吟行で信州上田に行きました。その時、無言館を訪問したことが鮮明に思い出されました。太平洋戦争で将来の活躍が絶たれた若き画家の心情が、青柚子の繁りと素晴らしく表現されています。感激しました。ありがとうございます。
- 亀山祐美子
特選句「横たわる自分の重さ月明かり」。月明かりの中で横たわる自分を俯瞰する。一種の幽体離脱現象だろうか。肉体を離れた身の軽さ自由さと横たわる肉体の重さを月明かりが醸しだす不思議。現実で有りながら不可思議に遊ぶ。それも月明かりの幻想か。特選句「てきの鐘みかたの鐘やいわし雲」。並べ立てられた「鐘」「鐘」「雲」の漢字が平仮名表記に浮かび上がる。漂う雲と消えゆく鐘の音が穏やかに交錯する時空を演出しながら「鐘」を「弾」と置き換えるとやにわに物騒になる。戦火の中の弔の鐘と祈りの鐘。誰もが平和を願う群衆としての「いわし雲」。想いのこもった反戦歌だ。皆様の選評楽しみに致しております。
- 久保 智恵
特選句「熊楠の永遠に我らは夏薊」。熊楠を持ちだしたのは新鮮。
- 竹本 仰
特選句「蓮の実の飛んで子宮は虚ろなり」。正岡子規に「蓮の実のこぼれ尽して何もなし」という句があるそうですが、この作者のは生まれたものを手放した後のさびしさを詠んだものでしょう。そのへんすごく切なく生々しい句なのですが、こういう女性のさびしさは体験できないという男性のさびしさもあることは分かっていただけないものでしょうね。そういう辛さのない辛さというのを感じました。映画『男はつらいよ』の辛さは、そういう所で成り立ってるんだろうなと思います。毎回、泳ぐのは女性陣ばかりでそれを受け止めるのが男の辛さ。あの話の中の男性は殆どデクノボーじゃないですか。でもそれが平和というものの原理なんでしょうね。特選句「晩夏光鍵の匂いを深く嗅ぐ」。この鍵は、古びた木造アパートの鍵穴に差し込まれる真鍮でできたものだと思いました。安部公房の短編に『無関係な死』というのがあり、自分の部屋に帰ってみると見知らぬ男の死体があり、そこからずるずると死体にはめられてゆく悲惨な話ですが、その時の初めに鍵穴の中に抵抗が無かったのがすべての取っ掛かりでした。その初めの何かありそうな、ゾッとする感じ、この句に感じました。何か始まりそうな。もう鍵は開いてるよ、とふいに言われそうな、リアルな感じでしょうか。特選句「青蜜柑きのう知らない人と居て」。気軽に人に声を掛けられ、すんなりと他人につながれる。そんな時代もあったような、そういう思い出をくすぐるような句です。かつて知り合いがその土地土地で働いては食いつないで世界一周したというのを思い出しました。その最後に行き詰ったのがニューヨークで、レストランの皿洗いをしながらそこに出来た同じような友人たちと楽しく遊ぶうち、ふとなぜだか極楽のような地獄にいる感覚にとらわれ、こりゃ一生抜け出せないと心底感じた恐怖から帰国したようです。八十年代の話ですが、多分そのまままだ抜け出せない奴もいっぱいいただろうなとも、さびしそうに語っていたのを覚えています。そんな深くもあれば浅くもあった身軽な昨日を語っているようで、目を止めました。 以上です。
台風一過、今朝、九月二十日の涼しすぎること。幸い、淡路島はこれという大きな被害はありませんでしたが、明日は我が身、「八月の溺るる地球クオヴァディス」を感じてしまいます。その一方で、台風一過はみのりの季節の到来です。みなさん、ご無事で、またこの場でお会いしましょう。
自句自解「ととのった青田の上でならいいわ」について、質問があるようですので、少し解説を。何のこと?ということですが、実は作者にもよくわからない。ただ、言葉が勝手に作ってしまい、作者が置き去りにされた、という句です。何だろう?というのと、しかし抗えない何かがある。よくあることなので、一応出すことにして、ふいに後で、ああ、風か、と思い当たることがありました。しかし、或る方に見せたところ、これ、虫?と。そうか、虫でもいいのか。青田の上の空間で起こっていることであるのは間違いないようです。時々、そういう句もあるので、こういう場合は、レシーバーとして、書きとめることにしています。「蝉の山飢餓かな俺の樹が揺れる」は、故郷の山です。いつも気になっている、怒濤をかぶるがごとき急峻な、蝉の鳴き声凄まじい山です。なぜ気になるのか。兄に聞いたところ、無名のその山はわが村の十人くらいが共同管理者になっているようで、山頂の樹々にそれぞれの家の名前が彫られているということ。そうか、俺の樹があるんだと、この夏初めて知った次第。子供のころからガキ仲間でよく冒険をした山で、一度だけ切り株が胸に刺さって血が滲みわたったのを覚えています。飢餓というのも、子どものころからの記憶が詰まったものだからです。ま、そんな訳で、一度詠んでみなければ、と義理のような気持ちでやっと出来たかなあと。また、来月もよろしくお願いします。
- 植松 まめ
特選句「地図なぞる指先の旅あきあかね」。私も地図が好きで地図を見ながら旅をした気分になります。指先の旅あきあかねという表現素敵です。特選句「夕霧や声をたよりの山路越え(飯土井志乃)」。山登りをしていたころ、前を行く人の背中が見えなくなるような霧に遭遇したことがありました。仲間同士声を出し合い無事下山することができました。
- 野田 信章
特選句「核ある暮らし私に届く今年米」。の「核」には、二様の解釈が成り立つが、今日の暮らしの必然性としては核兵器や原子力発電のこととして読んだ。単調な核反対の句柄でないところに、生活者としての自問自答を伴う日常の姿勢の裏打ちも自ずと伝わってくるものがある。それが「私に届く今年米」の修辞としての暗喩のはたらきであろう。選句したうえで、勝手に推敲して味読している句があります。ご自考までに。「しゃりしゃりと無花果食べる母のこと」→「食べてた」に。「あと五年十年遊ぶ女郎蜘蛛」→「遊ぼう」に。「桃を食う干物のような朴念仁」→「干物のようなり」に。あと、「四、五人の真ん中の一人が野菊」→「野菊です」。「銃口の先に置きたし花野かな」→「置きたる」。ご反論あればどうぞ。
- 新野 祐子
特選句「水に流した筈のことばが月夜茸」。うっそうとした広葉樹の森の中に入ると、妖しく光るのが月夜茸。とても美味しそうだけれど、大変な毒きのこ。これを「水に流したはずのことば」にたとえるなんておもしろい!「月魄の電話ボックスという方舟」。単なる月ではなく月魄を用いたことによって目前の風景が、ぐっと詩的になりました。
- 山下 一夫
特選句「陵に火を捨てにゆく秋蛍」。陵墓の方向に秋蛍が明滅しながら飛んで行くことを「火を捨てにゆく」と表現しているのが目を引きます。心象が託されているとすれば、愛憎渦巻く故人だがやはり拝まずにはおれないといった複雑な心境でしょうか。特選句「水に流した筈のことばが月夜茸」。気に障ることがあったが自分としてはけりを付けたつもりだった。しかし、いつの間にか憤懣が頭をもたげてきていた、といったところでしょうか。月夜茸が常に合理に収まり切れない非合理を抱えている心の在り様によく照応しているようです。問題句「オクラの穴よりこぼれる罪と嘘」。まず「オクラの穴」がわかりません。一応、鞘?の中の空洞として「こぼれる」のは若い種でしょうか。座五は語呂からは、罪と罰、虚と実のはずですが、あえて「罪と嘘」としている意図はさて。次々と謎が纏い付きます。オクラだけに…
- 荒井まり子
特選句「枯向日葵旅に出たような空です」。損保会社が購入した絵画が昔ニュースになっていた。ゴッホの「ヒマワリ」である。ブラウン系が混じった黄色のバックにとても惹かれた。枯れている向日葵を余計に際立たせていた。人生の夕陽を思わせる自死の旅への一直線だったのか。
- 向井 桐華
特選句「虫鳴くや点滴流れゆくからだ(高木水志)」。語順が良い。体言止めでぴしっと切っているので、点滴が血管を通って体に満ちていく様子と、外では虫が鳴く様子がうまく呼応している。
- 銀 次
今月の誤読●「初めての恋の色です稲の花」。稲の花を見たことがありますか? 白い、ほんのちっぽけな花です。午前中からお昼にかけて四十分ほどわずかな時間だけ咲きます。わたしは農家の次男坊でした。子どものころから田んぼのなかで育ったようなものです。小学五年のことでした。その日は夏の暑い盛りで、わたしも田に入り草取りに追われていました。ふと気配を感じて見上げると、空からなにか、ふわり、白くてキレイなものが降ってきました。それはお日さまの逆光を受けて、なにやらはかなげで、それでいて神々しいもののように思われました。それがわたしの身近にポトリと落ちてきたのです。日傘でした。振り返るとあぜ道を駆けてくる若い女性の姿が見えました。避暑にきている都会の人だと一目でわかりました。日傘と同じようにフリルのついた白い洋服を着て、髪を洋風に結っていたからです。そのころ、このあたりにそんな身なりの人など一人もいませんでした。わたしは日傘の柄の部分を指でつまんでその人のところにもっていきました。というのもわたしの両手は泥だらけだったからです。わたしがその日傘を差し出すと「ありがとう」とやさしくお礼をいってくださいました。「お仕事?」。わたしは無言でうなずきました。「感心ね」と頭を撫でてくださいました。わたしはただボーっとなって、顔が火照るのを感じていました。「あら」と急に驚いたような声が聞こえました。「これ、なあに?」と指さすので「稲です」と小さく答えました。「違うの。ほらこれ白いの」「花です」「稲の、花?」。わたしはコクリとうなずきました。「キレイね、ひとつ貰ってもいいかしら?」。やはり無言でうなずきました。その人はハンカチを取りだして稲の花をそのなかに包み込みました。ハンカチからは甘やかな香水の香りがしていました。たったそれだけのこと。それなのに、どうしてこの年になってもありありと憶えているのでしょう。……ちっぽけで、真っ白い、稲の花の記憶。
- 森本由美子
特選句「陵に火を捨てにゆく秋蛍」。幻想のクオリテイが素晴らしいと思います。四次元の詩想の世界とでもいいましょうか。特選句「存在や昔南瓜の蔓太し」。大きな葉っぱの下を覗くと力強く親蔓がはっていた。懐かしい原風景。戦後の上等な代用食のひとつ、その時代のエネルギーに郷愁を感じる。
- 大浦ともこ
特選句「断乳の子のくちびるへ石榴の実」。断乳と石榴の実の大胆な取り合わせながら、自分の子の断乳の時のことを鮮やかに思い出した。特選句「黙って逝ってしまうなんてね白木槿」。口語の突き放した表現に残された者の悲しみがいっそう伝わる。季語の白木槿も合っていると思う。
- 菅原香代子
「しゃりしゃりと無花果食べる母のこと」。オノパトペがとても効果的です。「母に言はぬこと花野に膝を抱き」。秘密を、美しい花野で黙して語らずという情景が見事です。
- 寺町志津子
特選句「味噌汁をすこし濃いめに今朝の秋」。一読、何気ない句にもみえるが、朝の 微妙な秋の気配に、味噌汁を少し濃いめに仕立てた作者の繊細かつ温かな感覚、人柄が偲ばれ好感が湧き頂きました。「寡黙なる母は強気よ紫苑咲く」。言い得て妙であると同時に、マンネリ的とも思われますが、寡黙なお母様の表情までみえるようで親しみを覚えました。
野﨑様の愛情に満ちた献身的なお世話で、いつも、楽しく選句させて頂いております。また、会友皆様の的確なご選評、ユニークなご選評に多くを学ばせて頂き、明るく心豊かな思いになります。
- 男波 弘志
「ぼんやりの反対は鬼秋彼岸」。ぼんやりの魔にひそむのが鬼、闇の少なくなった現在の鬼の棲む闇が、魔が、まだ残っていた。「手術日のジャコウアゲハがこんなに」。麝香の麻酔がすでに効き始めている。美という麻酔が遍満している。「先生の言葉が使われてます鰯雲」。同じ言葉であってもそれはもう先生の言葉ではない。肉声も場面も違う同じ言葉、それでも作者は追体験をしているのだろう。何れも秀作です。宜しくお願い致します。
- 三好三香穂
「横たわる自分の重さ月明かり」。夏の疲れか、横になると、体がとても重く、起き上がる気になれない。そこに月明かり。それだけのことですが、共感句です。「振り向けばたった一人の冬銀河」。冬銀河は、ちょっと早いが、寂寥感がよい。人は孤独なもの。振り向けばたった一人と思うかもしれないが、実は多くの人の手助けで生かされている。ありがたいことです。春の星が瞬く時は巡ってきますよ。たった一人は、錯覚、幻です。
- 松本美智子
特選句「火蛾飛んで履歴に残る痣の色(伏兎)」。生きてきた証拠として痣のような痛みのような疵のような悲しみや後悔が誰しもあるのではないでしょうか。その思いを,激しい感情をもって思いめぐらしている意思を感じる一句ではと思いました。
- 田中アパート
特選句「味噌汁をすこし濃いめに今朝の秋」。うちのカミさんも今月はこれがエエと云うとった。?ゴダール、ゴルバチョフ、エリザベス英女王死去。今年は、歴史的に特に記憶に残る年になりそうです。新型コロナさっぱり終わりませんな。ふじかわ建築スタヂオ行きたいのに。
- 野﨑 憲子
特選句「一夏去る山湖の人ら影絵のように」。こんな安らかな時間を世界中で共有できればどんなに良いかと思う。特選句「友よ肩にあなたの亡夫か盆の月」。身近に夫を亡くした人がいる。他界は貴女の隣りにある・・兜太先生も言われていた。問題句「青春って密銀傘の片かげり」。「青春って密」は先の甲子園大会の覇者仙台育英高校監督の言葉。知らなくて問題句&特選句。
袋回し句会
杖
- たましひのはなるるけはひ霧の杖
- 野﨑 憲子
- 一歩二歩三歩目のある杖の人
- 銀 次
- 行く先はこの杖が知る秋の暮
- 柴田 清子
- 月の底つついているよ秋の杖
- 三枝みずほ
颱風
- 台風の目のやうなあんたに惚れた
- 柴田 清子
- 颱風の眼の中の真蛇かな
- 野﨑 憲子
- 颱風の心音のよう少年来
- 三枝みずほ
桔梗
- 桔梗や子を産めぬ娘と猫の子と
- 淡路 放生
- 影しみ入る桔梗に風の言の葉
- 野﨑 憲子
- まなかひに桔梗の揺るる銀閣寺
- 三好三香穂
- 嫌いでも好きでもないと白桔梗
- 藤川 宏樹
鰯雲
- いわし雲宇宙の始源探究者
- 藤川 宏樹
- 鰯雲どつぼの中でこそ笑へ
- 野﨑 憲子
- 海に来て上半分が鰯雲
- 銀 次
- のっけからわがことばかり鰯雲
- 野﨑 憲子
- 鰯雲風の電話は鳴りやまず
- 島田 章平
- 鰯雲会いたい人にアポがいる
- 淡路 放生
- 戦争のニュースを消せば鰯雲
- 島田 章平
- 鰯雲かをに嘘だと書いてある
- 野﨑 憲子
- 鰯雲まで大谷のホームラン
- 島田 章平
- 赤ぶつかけて鰯雲西へ西へ
- 野﨑 憲子
秋
- 口すすぐ手に持つものなくて秋
- 三枝みずほ
- 道巾が広ければ淋しい秋ね
- 柴田 清子
- リトルダンサー路地に踊れば秋が来る
- 銀 次
- 秋深む遠くの家の物の音
- 柴田 清子
- 染み入るごと鳴くがごと秋の風
- 三好三香穂
- 秋学期夜間中学灯を点す
- 島田 章平
- 秋日あかあかわが名を返せと戦友は
- 野﨑 憲子
- 秋に生れて傘寿の秋を一人なり
- 淡路 放生
【句会メモ】
9月23日は金子兜太先生のお誕生日でした。秋分の日で、香川でも至る所で曼珠沙華が咲いていました。ロシアのウクライナ侵攻も未だ終りが見えず、不穏な空気が地球を包み込もうとしています。師も他界から案じられていると強く感じています。今だからこそ、愛語に満ちた作品の数々を世界に向けて発信して行きたいと切願しています。
コロナ感染者数が高止まりの中、高松での句会は、八名の参加でしたが、熱く楽しい句会でした。句座の生菓子の名の一つの<桔梗>や、近づく颱風14号に因み<颱風>の題も出て三十分の制限時間の中色んな作品が生まれました。あっという間の四時間余でした。
コロナ禍の中、終了時間の午後5時を過ぎても、句会が続きました。お集まりくださったご参加の方々、そして快適な句会場を準備して下さる藤川さんに心から感謝申し上げます。
Posted at 2022年9月28日 午前 03:10 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]