第62回「海程」香川句会(2016.06.18)&伊吹島吟行合宿
事前投句参加者の一句
鯉幟やさぐれ爺の背ナに龍 | 藤川 宏樹 |
梅漬の蓋あいており鳥帰る | 稲葉 千尋 |
薄き舌窪ませて受く夏の水 | 小西 瞬夏 |
かたばみや可憐なる頃昔むかし | 中野 佑海 |
赤紙の無きをかみしむ聖五月 | 野澤 隆夫 |
木工職人森の呼吸と合わせ夏 | 若森 京子 |
巡礼のサイダーどこかにビートルズ | 竹本 仰 |
ホトトギスたつのおとしご卵抱く | 河田 清峰 |
正論を刈られゆく国青嵐 | 桂 凛火 |
引越して緑山緑雨言葉無し | 鈴木 幸江 |
新しい匂いはないか春の山 | 河野 志保 |
人なつっこい空豆に顔がない | 三好つや子 |
梅雨晴間とことん骨骨軋む汽車 | KIYOAKI FILM |
サクランボこんなはずではなかったの | 髙木 繁子 |
反戦歌巷の白い夾竹桃 | 小山やす子 |
あじさいやヨウ素剤もらって悲しい | 夏谷 胡桃 |
ゆらゆらと田を渡りゆくおぼろ月 | 古澤 真翠 |
子供の日頭突きかまされ紙芝居 | 町川 悠水 |
しんから青いぎしぎし九条存在す | 野田 信章 |
胡瓜に塩ふってむかしのラブソング | 谷 孝江 |
全壊を断捨離と苦笑う 立夏 | 伊藤 幸 |
柿若葉逆立つ産毛の赤子かな | 田中 怜子 |
蛍の匂い植物図鑑閉づ | 大西 健司 |
梅雨の蝶空の結び目解くように | 三枝みずほ |
影涼し月の器になる私 | 増田 天志 |
折り鶴の冷えゆく翼花は実に | 亀山祐美子 |
こらっ鴨私の植田をこわすなよ | 重松 敬子 |
母の声つまる風船小針村 | 矢野千代子 |
残された実梅に夕日あつまりぬ | 中西 裕子 |
熱帯夜どうしても乳房が余る | 月野ぽぽな |
山法師慌てぬようにと亡父の声 | 寺町志津子 |
この海に育つ魚(うを)鳥(とり)空海忌 | 高橋 晴子 |
空蝉やうしろの正面たれもゐぬ | 菅原 春み |
菖蒲咲くあと五分まで愛捨てず | 漆原 義典 |
振りかへるごとに回転する日傘 | 銀 次 |
ぶつかるからおもしろいのよほうたる | 野﨑 憲子 |
伊吹島吟行合宿の一句(6月18日~19日)
老鶯や坂を歩いて生きてゆく | 亀山祐美子 |
荒梅雨の漢をんなのこゑに黙 | 河田 清峰 |
ダツ胡瓜酢物一品魚魚魚 | 久保カズ子 |
何故来たと問う島猫の夏の面 | 鈴木 幸江 |
海風のたえずある頬濃あぢさゐ | 高橋 晴子 |
凪の磯ねむたげなるや雲のわく | 田中 孝 |
夏の蝶同じ顔した猫三匹 | 田中 怜子 |
伊吹島厄を落とせし蚊の太し | 中野 佑海 |
夏の日を浴びて廃校九時五分 | 野澤 隆夫 |
昨夜のががんぼわが読みさしの栞かな | 野田 信章 |
島影の薄き霧中も緑(りょく)新た | 藤川 宏樹 |
夏帯の句はいにしえの伊吹島 | 古澤 真翠 |
南風(みなみ)吹く伊吹は勾玉ごとき島 | 町川 悠水 |
「民宿いぶき」笑い声から虹が立つ | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 藤川 宏樹
伊吹島俳句合宿は、曇天、満月、豪雨に霧、天候の変化も俳句日和。大変楽しい二日間を過ごせました。野崎様、亀山様はじめご参加の皆さまにはお世話になりました。月三句の作句に苦労する私が二日で十句のノルマ、お陰様で何とか達成できました。ありがとうございます。特選句は「薄き舌窪ませて受く夏の水」水の滴りがきらめきます。「薄き舌の窪み」が清涼感をリアルにしています。「黒南風やまっさきに照る鎌の先(矢野千代子)」失礼と存じますが、私なら「~の先」を「~突先」とします。「まっさき」「とっさき」と重ね、調べも引っかかる方が「照り」が増すようです。「黒南風やまっさきに照る鎌 突先」でどうでしょう?
- 増田 天志
特選句「かなぶんは天神様のギャグである(三好つや子)」ここまでの遊び心か、羨ましい。
- 中野 佑海
野田さんの俳句談義とっても楽しくかつ為になりました。また、両田中様。古澤様。遠い処迄お会い出来て楽しかったです。有難うございました。さて、6月句会の選句は下記の通りです。特選句「全壊を断捨離と苦笑う立夏」地震の為に今迄に築き上げて来たもの全て、大切にしてきた物、思い出の物が一瞬にしてゴミと化してしまう。生きているうちにそんな事態があるとは考える事無く積み上げる日常。しかし、何時か必ず来る死。その時に、子供達にさせるよりは今自分でしておこう。そんな我が身を振り返らせる俳句です。本当に野田さまお疲れの中を遥々香川迄お出で頂き、また、色々お教え頂き有難うございました。特選句「汗して旅草莽の語の鮮しく(野田信章)」この字通りに受け止めると、自然の豊かな地に旅して歩き、そこにある草や花や木や鳥や虫などに沢山新鮮な気を貰い、示唆を得て、自分を再生出来ました。豊かな自然の素晴らしさの讃歌ととれます。もっと穿った見方をすれば、民間の会社でこつこつ勤め挙げ、苦労をされた方の言葉は新鮮みがあり、重みがある。政治家も(例、東京都知事)もっと、本当に実のあるかたになって欲しいものです。でも、此れだけ不祥事が続くというのは、人の一生、堕落と二人連れなのかも。他人事ではありません。苦は楽の種。楽は苦の種です。また来月も楽しみにしてます。
- 漆原 義典
「ぶつかるからおもしろいのよほうたる」を特選とせていただきました。この句は、蛍の飛ぶ光の軌跡を上手く表現しているなぁと楽しくなりました。
- 野田 信章
「梅雨の蝶空の結び目解くように」「影涼し月の器になる私」「折り鶴の冷えゆく翼花は実に」共に静謐な句風ながら、その底には熱いものがある。暮らしの中での持続した美意識あっての句とも思う。感覚の先攻した修辞のはたらきに注目した。次に、選句した上での私の見解を下記に。「木工職人森の呼吸と合わせ夏」の句~下句を「合わせて夏」と句の呼吸を整えたい。「少年の唇乾く金魚の死後(小西瞬夏)」の句~下句を「金魚の死」と結びたい。「死後」では、説明調に傾く。「全壊を断捨離と苦笑う 立夏」の句~「苦(わ)笑(ら)う」と、振り仮名を付して、一字空への「立夏」と響合させたい。ご反論あればどうぞ。これは問題提起である。結論は悠々と各自でどうぞ。
- 竹本 仰
特選句「全壊を断捨離と苦笑う 立夏」これまで「断捨離」の語の使われ方に、何とはなしに抵抗感を覚えていたのですが、この句には納得させるものがありました。というのも、「全壊」という事態の認識の中にのるかそるかを迫られる大決断があったわけで、都市文明の側に身を置いた一趣味ではなく、そこからの離脱、価値観の転換のきっかけをつかんだという風に読めるからです。だから「苦笑う」は、それまでの自分の価値観に対してのものだととりましたが、眼前の事態の「苦笑う」から反省ないし決断にいたる「苦笑う」までの経過をもかたる内容を含んだものだろうなと思います。「立夏」、立派です。特選句「菖蒲咲くあと五分まで愛捨てず」:「あと五分まで愛捨てず」、差し迫った愛のゆくえというのか。かなり昔の映画「卒業」のダスティン・ホフマンのあの叫びだなあと、強烈に俗っぽく感じました。バスが行くのか、それともエアプレインか、もう待てない状況、これは二十代にあらずんば、愛の嵐の吹きすさぶ女性の叫びか。とまあ、恋愛ものと見れば、たのしい句ですが、ポイントは「菖蒲」でしょうか。「尚武」とも感応し、何と言っても剣で相手とわたりあってる凄まじい火花が散っているイメージ、それも心中の花のように菖蒲が清冽に燃え上がっているのです。拍手です。
- 田中 怜子
特選句「遺品買います陽炎のスピーカー(三枝みずほ)」これは映画のワンシーンの様です。熱風、砂埃、その中にライトバンがあり、どういう人がこんな商売をしているのか、どこの誰が、遺品としてまとめて捨てるのか等々人の人生が現わされています。特選句「全壊を断捨離と苦笑う 立夏」悲惨な状況を句でもって苦笑う・・そうせざるを得ないが、あとでしみじみ悲惨がよみがえってくるのだろう。おもしろいようで、悲嘆が底流している苦みがのこる。
- 若森 京子
特選句「蛍の匂い植物図鑑閉づ」植物図鑑の中にも蛍のとぶページがあったのに違いない。閉じた後も、蛍の匂いがしている。余情ただよう一句。特選句「母の声つまる風船小針村」小針村が効果的。風船がいつかパチンと割れて母の声が空気の中に消えていく、との予感があり哀愁のある一句。
- 大西 健司
特選句「全壊を断捨離と苦笑う 立夏」特別な句であり、ある意味問題句だろう。軽みの勝った句が多く見られる中で、この句のテーマの重さが気にかかる。大地震による全壊、もうただ苦笑いを浮かべるしかないのだろう。お見舞い申し上げます。その他の句については、さすがにどこかの大会と違って、なんと伸びやかなことか。「梅漬けの蓋あいており鳥帰る」この句などはしっかりとした把握がなされており好きな句です。「かなぶんは天神様のギャグである」問題句かなあと思いつつ、一緒になって楽しんでいます。問題句「地震の蛾のしろさ月齢問う人に(野田信章)」いまひとつよくわからないながら気になった句。上五と月齢を問う人のかかわりがいまひとつ曖昧。:ご挨拶。初参加の大西健司です。「海程」の古狸とか呼ばれていますが、年齢は憲子さんと同級生の六十二歳です。憲子さん、年齢言ってもよかったですよね。伊勢に生まれ、育ち、現在も暮らしています。関西句会にはときどき出かけるのですが、香川の皆さんも仲良くしてください。今後ともよろしくお願いします。
- 小西 瞬夏
特選句「この海に育つ魚鳥空海忌」この海に生きとし生けるものに対する大きな慈愛、祈りのようなものを感じた。
- 野澤 隆夫
特選句「 信州上田にて アカシアの花散るばかりなり無言館(漆原義典)」6月の句会で借りた戦没画学生「祈りの絵」「無言館」を拝見させて頂いてたので、グッと飛びこんできました。平和を改めて感じさせてくれる一句です。もう一つの特選句は「 鯉幟やさぐれ爺の背ナに龍」なんとも怖いまたは面白い、どのようにでも取れるブラック・ユーモアの句と解釈しました。「背ナの龍」は「タトゥー」かそれとも小生のように「痩せさらばえた爺の背骨」か。「鯉幟」と「やさぐれ爺」の取り合わせがいいです。「 几帳面に渋谷と書いて風薫る(藤川宏樹)」も好きです。
- 三枝みずほ
特選句「人なつっこい空豆に顔がない」空豆、確かに人懐っこい感じがします。その形だけで人なつっこさを感じとらせる空豆の力はすごいです。下五が効果的で解釈が広がっていく面白い作品でした。「ぶつかるからおもしろいのよほうたる」お母さんが子供に語りかけているような、絵本の一場面のような、優しい文体と取り合わせに好感が持てました。
- 寺町志津子
特選句「アカシアの花散るばかり無言館」お誘いを頂きながら所用でご一緒できなかった無言館。誠に残念でした。掲句は、才能を残して、無念に、無残に死に向かった若い兵士の命と引き換えの作品に触れた作者の「アカシアの花散るばかり」に込められた染入るような思いに感銘を受けました。なお、「引越して緑山緑雨言葉無し」「バス停の時刻ぽつんと青蛙(増田天志)」は、まるで今の自分の思いを吐露するような実感があって嬉しくなり、喜んでいただきました。
- 町川 悠水
特選句「全壊を断捨離と苦笑う立夏」堂々の名句ですね。このように詠んだ方のお人柄に対して感服の至りです。特選句「熱帯夜どうしても乳房が余る」西東三鬼の句を思い出しました。三鬼は男性ですから「おそるべき」と言いましたが、作者は「余る」なのですね。作者は男性ではないのでしょうが、句を拝見できただけで十分幸せです。以下、並選句。「ぶつかるからおもしろいのよほうたる」子どもの頃の田舎住まいで、蛍狩りしたのが懐かしいです。本当にぶつかるかなと思いながら、交差をぶつかるとみるのも可、結構な句ですね。「地震の蛾のしろさ月齢問う人に」秀句ゆえに、却って気になるところがあります。それは下五で、例えば「問うてみる」では台無しなのでしょうか?作者のご説明が伺えたら嬉しいです。「牛の名はナツノ米塚真っ二つ(伊藤 幸)」これも佳句ですね。「ナツノ」は夏野に通じ、米塚は名勝なので早速ネット検索したことです。なるほど、なるほど!「空蝉やうしろの正面たれもゐぬ」私の前世は蝉ではなかったか、子どもの頃からずっと蝉に惹かれています。その因果で、蝉の産卵もじっくり観察したことがあります。脱皮もよく眺めました。そうしたなかでは触ったがために、羽化できなくなった蝉もいました。いま供養の心をもって、この句を鑑賞しました。問題句「にごり川にごすをひれや夏来たる(亀山祐美子)」観察力に脱帽です。ただし、どの種の魚であれ、「濁り鮒」という季語があるために、説明に傾いたように思われて残念です。これからが梅雨本番。どうぞご自愛ください。
- 三好つや子
特選句「遺品買います陽炎のスピーカー」親が遺していった愛用品を、いつしか不用品として整理するときの心情に共感。陽炎のスピーカーという比喩に参りました。特選句「まひるまの汽笛は広場のようです(月野ぽぽな)」蒸気機関車や蒸気船が花形だった頃の駅や港を想像。新しい文化の波にもまれながら、未来に向かっていく人々の姿が目の前に広がりました。問題句「しんから青いぎしぎし九条存在す」私が香川句会に惹かれるのは、こうした魅力的な句に巡りあえるからだと、思えるほど注目しました。逞しい夏草のひとつ羊蹄(ぎしぎし)と、憲法九条の取り合わせが新鮮な反面、肩透かしを食った感もあります。
- 稲葉 千尋
特選句「巡礼のサイダーどこかにビートルズ」まいったなあ、「サイダーのどこか」に、の中七に、ビートルズが下五に、きっと巡礼はビートルズ世代なのか、この感覚は並でない。特選句「山楝蛇しづくの中のしづくかな(野﨑憲子)」山楝蛇はめったに見ないし見たことはない。(あるかも知れないが)「しづくの中のしづく」とは、ぱっと見た時の感覚か、意外と静かな蛇かも、作者の落ち着きにびっくりする。
- 古澤 真翠
特選句「 引越して緑山綠雨言葉無し」:「緑山綠雨」と重ねたくなるような感動的な引越しをなさった作者の心情が素直に伝わってきました。 都会から 大自然に恵まれたところに落ち着かれ ホッとなさっておられるのでしょうか。「良かったですね」とお声をかけたくなるような句です。先日の吟行でお目にかかったあの方かなぁ?と思いを馳せてしまいました。熱気溢れながらも 和気藹々の「香川句会」初めての参加でした。主催者の野﨑憲子さんのお人柄そのままに屈託のない笑い声に包まれて、皆さまの元気をいただきました。また、いつの日にか お目にかかれたら嬉しいなぁと思います。ありがとうございました。
- 河田 清峰
特選句「あじさいやヨウ素剤もらって悲しい」あじさいやヨウ素剤~毒を造り毒で治療するアメリカ的な人間の悲しみがあじさいに…「握手して別れてきました濃紫陽花(桂凛火)」握手して別れてきました~惰性でなんとなくしている握手がこう言われると意味を持ってくる不思議!再会を楽しみにしてるのか次会う顔への期待感なのか濃あじさいに響く!!
- 谷 孝江
特選句「梅雨の蝶空の結び目解くように」蝶々はよく晴れた日は高く、雨が近いときは低く飛びます。梅雨の雲を解いて青空を覗かせようと縺れあっているのでしょうか。季節柄、ほっとさせてくれます。辛いニュースばかりの中爽やかな心地にさせてもらいました。個性豊かな句沢山の中から自分好みの選句になりました。来月も楽しみにしています。
- 鈴木 幸江
特選句「朝曇ゴミ収集車に鉄腕アトム(夏谷胡桃)」作者の現実を観る目の確かさを評価する。現代は、多量ゴミ社会だ。ゴミ収集車無くしては、私達の生活は成り立たない。作者のそのことへの自覚が、「鉄腕アトム」という措辞の違和感から、ちゃんと、伝わる。問題句「牛の名はナツノ 米塚真っ二つ」浅学で、米塚なるものがよくわからなかった。塚は、土を高く盛って築いた墓のことだそうだ。二物衝撃の句として読んだ。二物の間に共通性と飛躍があり、そこから、読み手にエネルギーが伝わると思うのだが、この作品は、ギリギリのところで、何とかエネルギーを受け取った。
- 月野ぽぽな
特選句「残された実梅に夕日あつまりぬ」:「残された」は、たとえばその時その場を誰かが離れたか捨てたとも、それともその持ち主が他界したとも、いろいろな意味に取れるところであるが、ある空虚感の只中、実梅が夕日を浴びている景に心を止めている目がよかった。得もいわれぬ情感が溢れてくる。
- 小山やす子
特選句「月満ちて蛍の目覚め遅れけり(漆原義典)」調べが心地よく美しい感性の句と感じました。
- KIYOAKI FILM
特選句「日輪や父に沖あり麦の秋(大西健司)」の展開が良かったと思う。地味な作風と思ったけれど、一句として、纏まっている気がした。何時もなら、破調を特選にしやすいが、何故だか、今回はこれが良かった。選んだのは山ほどの句の中で、二句のみです。絞りました。面白いのはいっぱいあったけれども。特選句「サクランボこんなはずではなかったの」:「こんなはずではなかったの」という言い回しが苦手です。山田邦子の昔の本にはタイトルが、「こんなはずではなかったに」、だったかはっきり覚えていない。後ろ向きな人が良く言うセリフだ。しかし、「サクランボ」とぴったりだ。これはいいと思います。
- 夏谷 胡桃
特選句「ヒロシマに夏大統領の黒鞄(亀山祐美子)」この黒鞄が核に関係するあれなのだろうか。それではなくても、夏の日差しに置かれた黒鞄は象徴的にきいている、映像的で良い句だと思いました。
- 亀山祐美子
特選句「この海に育つ魚鳥空海忌」郷土愛と自然賛歌「空海忌」は動かない。根底に自然回帰、アミニズム思想が横たわる。大らかな景が見える。問題句「海霧の奥しずかに怒る炎樹の眼(野﨑憲子)」ひょっとしたら同じ作者かもしれない。根底に流れるものが同じだ。「生命樹」が人間の愚行を嘆き怒っている。と解釈する。が、くどい。噛んで含んで言い聞かせられても、主張にはうなづくが、感動は伝わらない。問題句「アカシアの花散るばかり無言館」『無言館』には一度は足を運びたいと思います。ただそこに「アカシアの花が散っていたから」→「散るばかり」としたのでは『無言館』が立ち上がってきません。季語が動きます。残念です。伊吹島吟行、愉しい時間をありがとうございました。波切り不動の土砂降りもなかなか貴重な体験でした。なにより、乗船時間に間に合い安堵しました 。
- 河野 志保
特選句「人なつっこい空豆に顔がない」上手く説明できないが、空豆のツルンとした感じが伝わってきた。「人なつっこい」のに「顔がない」とはどういうことだろう。謎は最後まで解けなかったが、句が放つコミカルで不気味な雰囲気にひかれた。
- 中西 裕子
特選句「梅雨晴間とことん骨骨軋む汽車」梅雨の晴れ間の、すかっとした気持ちがリズムのよい音で効果的に表されていると思いました。「柿若葉逆立つ産毛の赤子かな」も柿若葉のみずみずしさ、勢いが赤子の産毛とよくあっていると思いました。
- 桂 凛火
特選句「折り鶴の冷えゆく翼花は実に」オバマ氏の折り鶴のことが最近話題になりましたが、折り鶴は、病気祈願であったり何かしら願いや祈りを込めておられることが多いようですこの時代の不安や不透明さ、平和の危うさなどをその折り鶴の「冷えゆく翼」と言われたところに感じられてとても好きです。季語の「花は実に」も時間 の経過とともに変化するものという意味でもよくあっていて、またなにかホッと気分がやわらぐようでいいと思いました。
- 高橋 晴子
特選句「アカシアの花散るばかりなり無言館」:〈なり〉は不要。ひきしまった表現にした方が内容の重さが生きる。不必要な字余りは俳句のリズムをこわしてせっかくの緊張感を台無しにする、何も言わなくてもこれで充分伝わる。「蛍の匂い植物図鑑閉づ」植物図鑑を見ていて、ふっと蛍の匂いを感じた感覚がいい。図鑑の植物の匂いまで感じさせる。問題句「正論を刈られゆく国青嵐」言いたいことはよくわかるが、〈正論〉とは自分にとっての正論で、人によってはその逆が正論であったりする。民意とか何か別の表現にした方がいい。
- 伊藤 幸
特選句「鯉幟やさぐれ爺の背ナに龍」放蕩を尽くしてきた爺様も せめて孫だけはフツウに健やかに育って欲しいと願う親心を超越した爺心…。放蕩とせず「やさぐれ」との措辞、諧謔の中に哀愁を感じさせる。特選句「しんから青いぎしぎし九条存在す」憲法九条が問題になっている現在。平和は保持されねばならぬと「青い」のみならず「しんから」と副詞で強調された事によって詩性を帯びつつも十七音での抗議が成されている。: やっと少しずつ余震も治まりかけてきたと思ったら今度は豪雨、途中で震度4・・・熊本の神様も忙しそうです。振り回される県民の身にもなって欲しいですよ、マッタク!!
- 菅原春み
特選句「反戦歌巷の白い夾竹桃」季語が反戦歌を支えているようだ。「柿若葉逆立つ産毛の赤子かな」柿若葉が鮮やかに赤子と響き会って初々しい。問題句「人なつっこい空豆に顔がない」こちらの想像力のなさか、よくわからない。ご挨拶:はじめまして。伊東の菅原春みです。今年度の「海程」の全国句会で幸運にも野﨑さんにお目にかかり、念願の通信句会に参加させていただくことになりました。東京に生まれ育ち、十年ほど前に静岡の伊東へ移住しました。いまは伺うことはできませんが、いつかはエネルギッシュな香川句会への実参加を夢見ています。よろしくお願いします。
- 野﨑 憲子
特選句「新しい匂いはないか春の山」堂々たる表現者の一句。初見で、なぜ、春の句かと思った。しかし、何度も口の中で繰り返してゆくうちに、これは作者の内なる季感を詠んでいるのだと理解できた。春、それも晩春情緒である。いつも「サムシング」を模索している作者の思いは、私の思いでもある。これからも、新しい風を、発見を、句の中に織り込んで行きたいという熱情に惹かれた。問題句「雨だれの一瞬の生水時計」中七の「一瞬の生」の把握が非凡で、特選にしたい作品。ただ、下五の「水時計」が、想定範囲内なのが惜しい。
袋回し句会
夏みかん
- 片言のラブレターです夏みかん
- 三枝みずほ
- 瀬戸内を渡る車窓や夏みかん
- 古澤 真翠
- 八朔との違ひ講釈夏みかん
- 町川 悠水
心中
- 心中の蹴出しの赤やぼたん雪
- 田中 怜子
- この井戸で心中ありし溝浚へ
- 野澤 隆夫
- さみだれの手鎖心中つたやかな
- 田中 孝
シャツ
- 万緑にシャツにジーパン吸いこまれ
- 中西 裕子
- 四国路へシャツなま乾き疾駆する
- 野田 信章
名前
- 信章さん今日は河童の子と歩く
- 野﨑 憲子
- 日本はみづほの国や青田風
- 景山 典子
白
- 白靴を鳴らして女過ぎゆけり
- 景山 典子
- 泣き止んだ女はひとり白を着る
- 鈴木 幸江
- 夏立ちぬ鬼征伐の白帆かな
- 藤川 宏樹
- 白紫陽花色づき枯れて我が人生
- 中西 裕子
- 白シャツのあなたまさかの雨男
- 三枝みずほ
- 白南風やあけっぴろげの漁師妻
- 景山 典子
若
- 身の中の彼岸此岸や杜若
- 野﨑 憲子
- 友よ嗚呼君は若いよ汗かかぬ
- 鈴木 幸江
夏至
- たましいはざぶざぶ洗え夏至の月
- 野﨑 憲子
- 今日もサクソフォン夏至の異人坂
- 三枝みずほ
- 夏至の夜の一ふり欲しき惚れ薬
- 景山 典子
- 夏至の月どこへ泊ろうかとおもう
- 野﨑 憲子
茅の輪
- 別嬪の犬連れくぐる茅の輪かな
- 野澤 隆夫
- 花嫁が茅の輪くぐりて風立ちぬ
- 古澤 真翠
- 江の島の猫も茅の輪をくぐりおり
- 田中 怜子
- 茅の輪立ち還暦過ぎし男舞う
- 漆原 義典
- 朝風のやがて夕風茅の輪かな
- 野﨑 憲子
句会メモ
今回は、いつも句会の後半部で行う<袋回し句会>を二時間ばかり楽しんだ後、高松駅から汽車に乗り、バスに乗り、連絡船の最終便で伊吹島へ渡りました。吟行合宿の会場である「民宿いぶき」には、熊本、兵庫、京都、東京からも仲間が集まり、存分に句会を楽しみました。今回も、伊吹島の久保カズ子さんがご参加くださり、久保さんの笑顔に、一同、大きな元気をいただきました。ふっと空を見上げるの夏至近くの空に、まん丸いお月さまが出ていました。しかし、翌朝は、どしゃ降りの雨・・、その雨にも負けず、有志五名が歩いて三十分程の波切不動尊まで、吟行をしました。伊吹島で生まれ育った亀山祐美子さんのガイドは、味わい深く素晴しかったです。二日で、各々、十句を詠み、充実した句会でした。皆様、楽しく豊かな時間を有難うございました。
Posted at 2016年6月30日 午前 01:05 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]