2018年10月31日 (水)

第88回「海程香川」句会(2018.10.20)

IMG_4177.jpg

事前投句参加者の一句

            
歩かねば膕(ひかがみ)亡ぶ山竜胆 若森 京子
時計鳴く・あした・あす・あす・長き夜 藤川 宏樹
萩の花こぼるるほどのラブメール 稲葉 千尋
白萩の吐息目覚めし大正ロマン 中野 佑海
ももいろのペリカン月光を泳ぐ 高橋美弥子
ぼけーっと生きて天高き心臓さ 谷  佳紀
自由てふ淋しさ酔芙蓉開く 桂  凛火
母さん指に熱のあつまる夜長かな 伊藤  幸
稲の花なまなまと夜はひそめいて 竹本  仰
孫の絵のばあばは真っ赤鶏頭花 重松 敬子
紙の月薄の上を怠けおり 河田 清峰
落ち栗の毬の青さや雨の降る 田中 怜子
黒ぶどう透け海賊船の影すっと 増田 天志
君おれば独りも嬉し星月夜 鈴木 幸江
さみしさは引火しやすし一位の実 月野ぽぽな
黄落や仮設住まひの身の細る 菅原 春み
田が刈られ無防備となる飛蝗かな 高橋 晴子
秋風や一本の柱が赤い 柴田 清子
冬近し隻眼巨人とふ燈台 銀   次
赤曼殊沙華白曼殊沙華 鼓動 島田 章平
交番に火花秋蝶みだらに死す 大西 健司
小鳥くるちょっと切ない午後なのです 谷  孝江
そのように高松に慣れ歩く秋 田口  浩
紙の薄い薄い音が鳥のようだ 中村 セミ
天狗茸魔界の方はお断り 松本 勇二
木犀や有り触れた日々にアクセル 高木 水志
ていねいな耳だとおもうあきのあめ 男波 弘志
語り部のかたりことりと無月かな 寺町志津子
秋雷や忘れた傷の痛みだし 藤田 乙女
文化の日枕の空気まだ入る 矢野千代子
恋人の禿げ見て冬を感じ入る 豊原 清明
ちんちろりんちんちろりんあなた誰 小山やす子
ちーずけーきを五人で囲む良夜かな 吉田 和恵
秋の昼飛ぶものはみな光帯び 新野 祐子
野分過ぎ歯医者に流るビートルズ 野澤 隆夫
高層の隣りの頑固柿の家 野口思づゑ
秋風や小豆の島にひしお丼 漆原 義典
はじまりの出口のようでひょんの笛 三好つや子
湯豆腐や天寿まっとうする決意 小宮 豊和
君が代の秋や蚕飼は夙に絶え 野田 信章
島守りの九十四歳槍鶏頭 亀山祐美子
新豆腐ボウル差し出す水の揺れ 三枝みずほ
金木犀声を出さずに話します 中西 裕子
昔にも昔があった月夜かな 河野 志保
水音の中の水音十三夜 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「石榴割け暗峠までとばし読み(矢野千代子)」あっ庭に石榴の身が割けたような死体が一体これは誰が何の為にどうしても先が気になる。えいっパラパラ飛ばしながらクライマックスの「暗がり峠」まで、一気に読んじゃったよ!!あー推理小説は途中でやめられへん止められへん。麻薬や♪特選句「「君が代の秋や蚕飼は夙に絶え」今上陛下の平成ももう最後の秋を迎えた。そして、皇后さまがなさっていた、蚕を飼って絹を作ることももう終わってしまった。新しい春にはもう次の代に代わって仕舞うのだと。粛々とまるで長恨歌の一節のようで、天皇家二千七百年の歴史を感じます。

谷  佳紀

特選句「ていねいな耳だとおもうあきのあめ」:「ていねいな耳だとおもう」で切り、「あきのあめ」の修飾語や比喩として読まない。「ていねうな耳」とはどんな耳なのだろう。美しい耳で無いことはあきらか。彫刻の耳のような静けさを感じつつ、人の温みを感じる耳でないと「あきのあめ」の動きと静けさが生きてこないようだ、と「ていねいな耳」へと思いは巡る。抽象的だが具体的でもあるような「ていねいな耳」。問題句「赤曼珠沙華白曼珠沙華 鼓動」一字空きで「鼓動」だけ。これで書き終えていると言えるのだろうか。衝動が書かせた、せめて直感が書かせた「一字空きの鼓動」なら納得できるのだが、どうもそうではないようだ。うまく書き終えたいう顔が見えてしまったり、中途半端だという思いで選ぶにためらうのだが、そう思いつつ「一字空きの鼓動」は読ませる力を持つと認めざるを得ない。

島田 章平

特選句「さみしさは引火しやすし一位の実」まるで火種の様な一位の実。じいっと心の中にある寂しさの火種。ふとしたことで、寂しさに火が付く。悲しく燃える追慕の火。消すに消せない思い出は、いつも心の中の火種として残っている。戻れない過去・・・。

藤川 宏樹

10月は少人数でも毒を以て毒を制する白熱の句会になりました。私の甘き微毒は達者に通じません。大変勉強になっています。さて、特選句は「恋人の禿げ見て冬を感じ入る」禿げ?こんな句あり? 鈴木さんの朗読に笑いがありながら好評価でした。恋人の禿げ見て人生の冬入りを感じる、ユーモアとペーソスにあふれた記憶に残る良句です。

稲葉 千尋

特選句「さみしさは引火しやすし一位の実」一位の実とはおそれ入りました。小さな赤い一位の実は、さみしさの引火だったのか。高山に居る時よくつまみました。特選句「野分過ぎ歯科医に流るビートルズ」歯科医のできごとを句にしたのか、あの音はビートルズなのか、ただ野分が効いているかどうかですね。

三好つや子

特選句「秋風や一本の柱が赤い」秋の夕暮れ、荒れ果てた家の一本の柱が、家霊のごとく来訪者の心に語りかけてくる、幻想的な趣に惹かれました。特選句「文化の日枕の空気まだ入る」猛スピードで文化が成熟し、誰もががんじがらめになっている現代。この句から、楽しい未来がいっぱい詰まった枕を想像することができ、明るい気分になります。入選句「紙の薄い薄い音が鳥のようだ」透けるように薄い紙のしなやかさ、繊細さが伝わってくる作品。入選句「水音の中の水音十三夜」一つの水の音から、さまざまな音の表情を感受する、作者の詩情が素晴らしいです。

豊原 清明

特選句「時計鳴く・あした・あす・あす・長き夜」面白いと思った。中七は同じ意味の言葉を繰り返している。下五は「長き夜」。リズムで魅せている処が面白い。内容らしい内容はないけれど、明日に特別に期待があることが、繰り返しで、音として伝わる。問題句 「ぼけ!っと生きて天高き心臓さ」理屈っぽさから、突き抜けようとしているのか、ぶっきら棒の面白さ。「心臓さ」が大切に思う。「ぼけーっと生きて」が、いい。装わないところが!いい。

野澤 隆夫

特選句「時計鳴く・あした・あす・あす・長き夜」長い夜が、視覚で表記された句。ドットで区切られ、そして「…・あす・あす」いかにも「長き夜」の感。ゼンマイのコチ、コチが「あした・あす・あす」と刻んでます。特選句「ちーずけーきを五人で囲む良夜かな」七七五ですが、上句「ちーずけーきを」が五に聞こえます。つましき日々の、穏やかで天下泰平の句です。

高橋美弥子

特選句「さみしさは引火しやすし一位の実」共鳴句でした。さみしさはともすれば危険を招くこともあります。一位の実、あの赤い実との取り合わせが成功していると思います。イチイの木は熟した果実以外の部分はすべて有毒であり、特に種は誤食しての死亡例もあります。その意味でも「引火しやすし」の措辞がとても響きあっています。問題句「老いらくの低温火傷のすすき原(若森京子」:「低温火傷」は老いらくの「恋」の比喩でしょうか。でしたら、ズバリ恋と言わないところがいいなと思いました。しかし低温火傷「の」の助詞がちょっとわかりにくいです。低温火傷で切っても一句は成立する気がいたします。

大西 健司

特選句「ひとりとは星のざらつく芒原(月野ぽぽな)」妙にざらつく気分って時にあること。ただ作者はそんな気分を「星のざらつく」と捉える、そんな感覚の良さ。背景の芒原も効いている。

小山やす子

特選句「歩かねば膕亡ぶ山竜胆」歩かなければ足が衰えると言うだけの事ですが膕と言う言葉が不思議な力を持った句だと感じました。

鈴木 幸江

特選句「昔にも昔があった月夜かな」人の歴史を思えば語っていることは常套的なことであるが、“月夜かな”の措辞から、私には作者の人間の知性では捉えきれない宇宙の誕生までを思考しつつ独り言のように呟く姿が見えてきた。忘れてはいけない人間の謙虚さを現代人に取り戻させようとする警句としていただいた。「恋人の禿げ見て冬を感じ入る」“禿げ”はマイナス感情を伴う。しかし、作者の愛の力は自然現象の一部のように、冬を感じ肯定的に受け入れている。常識ではマイナスと認識されることでも別の見方をすれば肯定的に受け止められるという作者の賢さを感じ、是非是非私も、この感性をと。元気と叡智をいただいたので、感謝を込めてコメントさせていただいた。問題句「ていねいな耳だとおもうあきのあめ」物思いを誘発する秋の雨。とある耳を見た時、作者はていねいな耳だという想いに支配されたのだろう。“ていねいな耳”とは、私には、初めて出会ったような気がした言葉の世界であった。姿美しき耳か、立派な耳か、機能的な耳か等々思うがよくわからない。でも、作者は何かの意味を込めている気がする。それが、伝わってこないもどかしさを感じたので問題句とした。

男波 弘志

「稲の花なまなまと夜はひそめいて」稲の花に遭遇することは、稀だ、僕は見たことがない、何か神聖な色だとおもう。「石榴割け暗峠までとばし読み」何かを切り捨てることで、切り捨てられなかったものが、見えてくる、のだろう。「子鳥くるちょっと切ない午後なのです」僕は近頃、四六時中切ない、だから、この句の、ちょっと、に余裕を感じる。「紙の薄い薄い音が鳥のようだ」この、肉声、この、鋭利な紙、現代俳句はここを攻めなければいけない。極めて珍重。「しゅるしゅると息して竹の刈られおり」僕は仕事で沢山の竹を葬った、だからこの、声に、合掌している。「原生林も胎児のかたち枯葉剤の野」いのち、とは、畢竟、僕らが考えて、解るものではない。「ひとりとは星のざらつく芒原」一句は中7下5で完結している。上5は一考の余地がある。ざらつくに古の傷みがある。「言葉みなヒトのものなる吊し柿」人間がことばを創り、ことばを縊死させてしまった。僕の知る限りことばを十全に開放させたのは、宮沢賢治、だけだろう。「連絡船が記憶の藻をひきづる」ちぎれない記憶、執念、執着、いずれも人間だけのものだ。「蛇穴に入る成り行きにまかせたり」死ぬものは死に、眠るものは眠る、ただそれだけ、一切事が只事。

若森 京子

特選句「紙の月薄の上を怠けおり」ユーモアのあるこの一句。何故か社会風刺とみて以外に置くの深い句だと思う。特選句「はじまりの出口のようでひょんの笛」ひょんの笛は虫の出たあとの空洞を吹くとひょうひょうと鳴る。入口の様な出口と上五中七の措辞にこの季語がぴったりで一句に謎めいた魅力をひびかせた。

月野ぽぽな

特選句「昔にも昔があった月夜かな」昔にも昔、その昔にも昔、またその昔にも、、。人という記憶の生き物によって無限の時間が出現しました。月の光がその無限を照らし果てしない気持ちになります。

伊藤  幸

特選句「サルスベリ風の破片として終わる(月野ぽぽな)」あの紅に咲き誇っていた百日紅のシーズンが終わった。風の破片と措辞されたのは作者の現在の心境だろうか。詩的な表現の中に未完への心残りが伝わってくる。

竹本  仰

特選句「自由てふ淋しさ酔芙蓉開く」自由のВ面と言いますか、裏面を問いかけているのかなと思いました。よりかかるものなき軽さ、構ってもらえない頼りなさ。この心のうつりかわりに、尽きせぬ思いがふいと出てくる、そのへんをうまく表せていると感心しました。特選句「小鳥くるちょっと切ない午後なのです」この、問われたげな表情に、思わず問いかけたいと思わせる、そんな姿が、間がいいですね。対話が立ちあがって来る、そのときの空気感がかなりリアルに感じられました。この何気なさを、テクニックというのかなあと、繰り返し、いい句だと思いました。特選句「ていねいな耳だとおもうあきのあめ」ていねいな耳、耳がていねい?聞こえている、きっと聞いてくれているということの不思議な感覚、どこかに存在を受けとめられているという、そんな感触を言っているのかなと思い、観音さまの耳のような、かぎりなく大きなものを感じます。また、あきのあめに、サイレント映画風のうつくしさを思いました。以上です。ぐっと寒くなりました、みなさん、ご自愛のほどを。来年は、海原の全国大会、香川であるとのこと。一日たりとも参加したいです。みなさん、よろしくお願いいたします。

柴田 清子

「紙の薄い薄い音が鳥のようだ」を特選とさせてもらった。私の知る限りの俳句を突き破って現れた新鮮な俳句。「水音の中の水音十三夜」今年の十三夜は、まさにこの句のようでしたね。好きな句、刺激を受ける句、いつまでも心に残りさうな句が今月もいっぱいあった。この中で十句に絞る難しさ、他の人の評を聞いてグラリと選が動いてみたり。秋晴れの、海程香川句会でした。

矢野千代子

特選句「湯豆腐や天寿まっとうする決意」天寿をまっとうするのは、なかなか大変なことらしい。湯豆腐は、それが適ったのでしょうか。すぐにベッドで横になりたい最近の私ですが、作者の決意にも湯豆腐にも拍手をおくります。

増田 天志

特選句「交番に火花秋蝶みだらに死す」サスペンスか、闘争か。緊張と緩和の塩梅が、絶妙。団塊の世代はモノクロの夢。

田中 怜子

特選句「新豆腐ボウル差し出す水の揺れ」昔、豆腐売りが町々をまわり、鍋をもって買いに行ったことがあります。そういう日常の水の揺れ等、 臨場感がありますね。

漆原 義典

特選句は「小鳥来る爺はエレジ―婆フォーク(三好つや子)」です。微笑ましい夫婦の姿がうまく表現されています。エレジー、フォークが良くきいています。

河田 清峰

特選句「ちーずけーきを五人で囲む良夜かな」割り切れそうで割り切れないのが好きなのかな?ちーずけーきが満月に見えて 愉しそうです!いつまでも見つめあっている五人が羨ましい。

谷  孝江

特選句「金木犀声を出さずに話します」先日の台風25号で家の大きな金木犀が大きく傾き、どうにか倒れるのだけは助かりました。その何日か前、朝、窓を開けたとたん、良い香りが流れて来、あっ金木犀が、と思いもうこんな時節になったのかと気付かせてくれた香りでした。みかんも柿も無花果も枇杷もその実が色付くことで時節を教えてくれています。変化の少ない暮らしの中でのひとつの楽しみです。金木犀はあの香りの中で語りかけてくれていたのです。何とか生き伸びて来年も季節を教えてね、と語りかけています。話しかけてくれるのを待っているところです。

中村 セミ

今回の特選は見つける事が出来ませんでした。敢えて「爽やかな人に寄り添う砂時計」が良いと思いましたが、もう一つ何かが入っていればもっとよかった様に思いました。

野口思づゑ

今回は特選も問題句もなく、つまり皆同じようにいいと思いました。「老けたなあと兜太に言われ木の実降る」金子先生にこういわれたら、誉められた気がするかもしれませんね。「ももいろのペリカン月光を泳ぐ」美しい光景が目に浮かぶ。「そのように高松に慣れ歩く秋」高松に移って来られた方が新しい街に馴染んできたのですね。

銀   次

今月の誤読●「突然 柚子の香に冷んやり老いる」。まず上句の「突然」と結語の「老いる」はよくわかる。わたしにもそういう瞬間がありました。数年前栗林公園で、あれはなんというのか、ほら、通常の散策路と芝生とを区切っている半月状に区切っている竹の柵、あれを飛び越えようとして、柵に足をとられて芝生に転倒したときです。びっくりしました。わずか四、五十センチのジャンプもできなかったわたしは、心底、老いたなあという実感にとらわれました。たぶん誰しもそういう体験がおありでしょう。それはまさしく突然老いたことに気づいた<ウッソー!という一瞬でした。ただこの句が謎なのは老いるという言葉の前に「冷んやり」という副詞が乗っかっていることです。〈冷んやり老いる〉とはどいうことなのか。〈冷んやり〉という言葉はわたしのイメージのなかでは〈じわじわ〉ないしは〈気がつけば〉という感覚で上句〈突然〉とそぐわないのです。晩秋の台所に立って〈冷んやり〉、深い森に入って〈冷んやり〉。これは足下からじわっと沸きあがってくる感覚で、やっぱり〈突然〉は違うよなあ。その謎を解くキーワードが、おそらく「柚子の香に」だと思います。柚子の香りは柑橘類のなかでもひときわ強烈で、生命感にあふれています。ことに新鮮で、もぎたての柚子の香はまさに青春。若々しいスペルマを連想させるものでしょう。その対位として、突然気づくのです。わたしは老いてゆく身だなあと。だとしたら〈冷んやり〉は〈突然〉と結びつきます。つまり老いゆく身と柚子の香に象徴される若者の対位です。そこにある〈あっ〉という気づきです。ありますとも。そういう瞬間って。かたや滅びゆく者、もう一方には未来ある若者。それはわかります。でもね、作者の方、老いというのはおもしろいですぞ。老いは捨つる身、そう覚悟を決めれば怖いものなし。〈柚子の香に〉なんてしみじみしている場合じゃありません。これからは戦争です。若老混乱しての乱世です。勝ち抜きましょう。がんばろうぜ。オウ! (間違いだらけの鑑賞。失礼しました)。

新野 祐子

特選句「冬近し隻眼巨人とふ燈台」隻眼巨人というのは実際にある名前でしょうか。それとも作者が付けた名前でしょうか。いずれにせよ、固有名詞に強烈に引かれることがあるものです。それが燈台だなんて、とても素敵です。特選句「水音の中の水音十三夜」耳を澄ますと、水音の中にまた水音が聞こえるのでしょうか。十三夜がこんな心象風景を作り出すのでしょうか。不思議な世界に連れていかれるようです。二句とも、簡潔かつ深遠で魅力的です。問題句「潮騒の深き眠りや 曼珠沙華(島田章平)」韻も字面もきれいです。「や」で強く切れているのに、なぜ一字空けなければならないのかわかりませんでした。

高木 水志

特選句「ていねいな耳だとおもうあきのあめ」秋の雨が丁寧な耳だと思うユニークな発想なのに、ありそうなところがいい。

野田 信章

「88回」とはめでたき回数。益々の充実が期待できます。十句以内の選のときもありますので、今回は、好句があって十一句となりました。また、特選にするだけの自信がなく、全句を入選にしましたので、よろしく。「ていねいな耳だとおもうあきのあめ」は閑寂な自愛に満ちた句。ひらがな書きの韻律の中に自と感得される「秋の声」の手応えがある。「熊蝉の雄々しき姿夕化粧」の句は一夏一夕の熊蝉ならではの勇姿が「夕化粧」によって把握された。「島守りの九十四歳槍鶏頭」は伊吹島を想起させてくれた句。「槍鶏頭」の配合がよい。→ お陰さまです、今後とも宜しくお願い申し上げます!

重松 敬子

特選句「「ちーずけーきを五人で囲む良夜かな」幸せな夜の団欒が目に浮かびます。こういう句も一つは欲しい。最近は、すごいデコレーションのケーキが増えて、チーズケーキは隅におしやられていますが、とても懐かしいケーキです。この句にはピッタリ!!

桂  凛火

特選句「微毒性新種撫子東進中(藤川宏樹)」撫子に毒があるのですか。新種ということなので新しいニュースということでしょうか。漢字ばかりでぎゅっとまとめたところに新しさを感じました。東進中も勢いがあっていいですね。もしかしたら害悪なのかもしれないですが。特選句「生きる日の道草もあり穴惑い(藤田乙女)」深いのにわかりやすいところが素敵です。穴惑 いはつきすぎということも言えるかもしれないですが、これはこれでいい具合というところかと思います。道草と思えることがむしろ意味あることも多いように思います。

田口 浩

特選句「文化の日枕の空気まだ入る」:「文化の日」これをむかし流行った、文化住宅文化包丁の類いに揶揄してもいいが、ここは字義通り読んで、日頃考えたこともない、文化の日なるものに時間をさくのも一興であろう。その上で「枕の空気まだ入る」に目を移すと、空気のフレーズが人格をえて、枕の中をぴょこぴょこ跳ねているようではないか。即、空気を文化と読めば「まだ入る」の余裕が、季語の固さをやわらげて、はずみごころの愉しさが読み取れる。「田水ぬく万葉仮名につまりがち」上五中七に対して、下五の濁音に賛否はあろうが、私は気にならない。帰俗の謂いもある。一句の眼目は「つまりがち」な浮き草その他の動きの妙を捕えておもしろい。この万葉仮名は狭い水取口を、おしあいへしあい抜けると、上手の筆にのってスウーと巧みに流れるのであろう。

菅原 春み

特選句「落ち栗の毬の青さや雨の降る」 今年は落ち栗を多く拾い、妙に腑に落ちてしまいました。特選句「秋雷や忘れた傷の痛みだし 」なぜかリアリティを感じます。季語が古傷を思い出させたのか? 

松本 勇二

特選句「孫の絵のばあばは真っ赤鶏頭花」焦点の絞り方が見事でした。季語の据え方も立派です。問題句「そのように高松に慣れ歩く秋」書き出しの素晴らしい句です。下五の秋が少し広すぎるのではないでしょうか。たとえば「月の道」「萩こぼる」など具体的に書くと切れ味が出るように思います。 

寺町志津子

特選句「ちんちろりんちんちろりんあなた誰」読後一瞬、思わず口ずさんでいた。大好きな句である。解釈に二通り考えられた。「あなた誰」と聞いているのは、親なのか、配偶者なのか、いずれにしろ認知の進んだ人と解し、「ちんちろりんちんちろりん」のリフレインに、重たい現実を軽妙な言葉で包むことによる寂寥感に共鳴。一方、「あなた誰」は自分自身のことで、「ちんちろりんちんちろりん」の虫の音は、よく知っている虫の音であるにも拘わらず、どうしても虫の名が思い出せず、「あれ」「それ」が増えた現実に対する自分自身に対する諧謔とも読み取れた。いずれにしろ忘れられない句になった。

 
小宮 豊和

「稲の花なまなまと夜はひそめいて」稲の花は私には心惹かれる季語なので注目しました。稲の花は白日の下で映える花ではなく、夜とか朝に存在感がある花であると、私的には思っています。それで上五、中七に問題の余地があるとは思いません。特に「なまなまと」は夜の梅の花をうまく表現していると思います。下五の働きが不十分ではないかと思うのです。これを例えば「香りける」などどたら句の感触が変ると思います。他にもっと良いフレーズは必ずあると思います。すばらしい推敲を見せてほしいと思っています。

中西 裕子

特選句「黄落や仮設住まひの身の細る」色づいた葉が、落ちて美しい、しかし木はむきだしになるし寒い冬が近づいてくる。仮設住まいの心細さ、寂しさが重なる切実な句と思いました。

亀山祐美子

特選句はありません。頂きながら(自分の句も含め)どの句にも不満が残ります。共感はするのですが、理屈が垣間見え素直に頷けませんでした。何かしら不満が残りました。問題句『秋風や一本の柱が赤い』という句がとても気になりました。特選句の気持ちよさではなく、神経を逆撫でされるような、不安感を増幅されるような…。予選では頂きましたが、句会ではパスしました。野崎さんが披講の際に読み上げた瞬間呪文の様に呪詛の様に感じました。気になる度合いは135句中一番なのですが、触ると火傷しそうな危険な句だと感じました。見た目(情景句)以上の作者の精神構造が恐い。なので問題句としました。

河野 志保

特選句「生きる日の道草もあり穴惑い」作者は人生を振り返って「生きる日の道草」を思い出しているのだろうか。「穴惑い」に遭遇したことがきっかけの感慨だったかもしれない。穏やかな肯定が句に安定感と説得力をもたらしていると思う。

三枝みずほ

特選句「三十八億年の始祖火恋し(河田清峰)」生命は自然の中で生まれ、変化、進化してゆく。人間もそのひとつであり、「火恋し」が生命のルーツを脈々と伝えているような、考えさせられる作品だ。

高橋 晴子

特選句「生きる日の道草もあり穴惑い」私なんぞ道草ばかりしてきたので〝道草もあり〟に妙に切なるものを感じさせられた。特選句「秋の昼飛ぶものはみな光帯び」鳥・蜻蛉・飛蝗など、とんだ一瞬に光りを感じる。秋が生きている感。問題句「小鳥来る爺はエレジー婆フォーク」特選に採ろうと思ったが、楽しい句だが、何か調子がよすぎて、ねらいが見えて面白くない。

藤田 乙女

特選句「木犀や有り触れた日々にアクセル」ありふれた日々を流されながら生きている自分にアクセルを踏めよと激励されたように感じ心に響くものがありました。ありがとうございました。

吉田 和恵

特選句「野分過ぎ歯医者に流るビートルズ」先鋭だったビートルズも今や癒し系ですね。特選句「竜淵に潜みぎんぎらの朝日子(野﨑憲子)」兜門下いつまでもメソメソしてはおれません、ぎんぎらの子でいたいです。問題句「ちんちろりんちんちろりんあなた誰」ちんちろりんが擬声語なのか、形容詞、副詞、助動詞、人名・・・???私の想像力の限界です。

野﨑 憲子

特選句「秋風や一本の柱が赤い」作者は、ただ、一本の柱が赤いと言っている。が、私には、この句から、「釣瓶落し」が浮かんできた。読む程に、赤さが増してくるような不思議な感覚を覚える。大いなる柱のような秋の落日の時間の経過が見えてくる。「秋風」の切れが見事である。ただ、それだけの一句であるのだか、それだけで終わっていない何かがある。少しの飛躍はあるのだが、岡本太郎の言葉「芸術は呪術である。・・人の姿を映すのに鏡があるように、精神を逆手にとって呪縛するのが芸術なのだ。」を思った。呪縛するとは、怖い言葉であるが、その向うには無限の開放がある。振幅の大きさが、人生においても醍醐味なのだから。問題句「天狗茸魔界の方はお断り」一茶の「天狗茸立けり魔所の這入口(はいりぐち)」を踏まえた句と思う。特選に頂きたい面白い作品である。「お断り」が眼目であるが、魔界の方々には問題句であろう。魔界は、他界。彼の世の方々は悪さをしないと信じている。選びたい句が多すぎて、投句のメールや文書を頂く度にどきどきしています。ますますのお元気を!

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

高き空高速バスに飛び乗りぬ
野澤 隆夫
他界とは花野の先の空のこと
島田 章平
目のあたりみな秋になりことに空
田口  浩
それなりにキリン薄命秋の空
藤川 宏樹
この空の大き知らずに赤とんぼ
藤川 宏樹
空っぽの風が吹くなり夕花野
野﨑 憲子
秋灯空気みたいな人とゐる
亀山祐美子
豆がはじけて思い切りつけたのだ
柴田 清子
手土産の豆本三冊藷二本
亀山祐美子
わたくしは行方不明の藤の豆
鈴木 幸江
笑い茸彼の取説破れてる
中野 佑海
思い込み松茸御飯と言い聞かせ
中野 佑海
田口さん島田さん毒きのこあるよ
男波 弘志
あなたから食べて下さいこの茸
男波 弘志
もう充分毒茸食べようかな
柴田 清子
文化祭
大の字で空をみてゐる文化祭
亀山祐美子
へんなおじさん袋背負いて文化祭
野﨑 憲子
文化祭青空が追っかけて来る
柴田 清子
待ち伏せる恋もあるらん
田口  広
人類の火星へ行く日文化祭
島田 章平
塩からきをとこの耳や露けしや
亀山祐美子
芋の露現住所はここらです
田口  浩
朝露や跳ねる大魚を嗤ふ蛇
野﨑 憲子
もう少しこの世あります草の露
鈴木 幸江
三十七兆生と死の夜露
島田 章平
夕露や篭脱鳥(かごぬけどり)も喧しき
野澤 隆夫

【通信欄】&【句会メモ】

島田 章平さんより:『俳壇10月号』の「新・若手トップランナー/月野ぽぽな」読みました。ぽぽなさんの「ありのまま」を読んで、ぽぽなさんの俳句の原点が何か分かった様な気がしました。2001年の同時多発テロが大きな影を落としていたのですね。あの時、ニューヨークにいた日本人の、初めて知る異国での恐怖だったと思います。 ぽぽなさんの平和を願う心の深さを感じました。また、ぽぽなさんのいつも流れている様な音律の原点も、納得が行きました。すべては兜太先生と出会われてから、始まっているのですね。「金子兜太」と言う大樹をのぼりながら、月野ぽぽなと言う蝶が今、まさに朝日の中に羽化を始めている、そんな印象でした。これから、どの様な美しい翅が輝くのか楽しみです。併せて『俳句10月号』角川俳句賞作家の四季・秋「いちまいの水」拝見しました。「ひりひりと九月十一日の空」この句を詠んだ時、瞬間に同時多発テロの映像が目に浮かびました。あのとき、ぽぽなさんはニューヨークにおられたのですね。あらためて、ぽぽなさんの孤独とそれを受け入れる心の強さを感じました。「朝顔の花びらはいちまいの水」【いちまいの水】「きょう咲いた朝顔あした咲く朝顔」【一粒】素晴らしい感性ですね。水はどのような形にもなれる。しかし、水は水。何物にも同化しない水の強さ、優しさ・・・

10月の句会は、体調を崩している人も居て、参加者は10名と少なめでしたが、事前投句の合評では、歯に衣をきせぬ意見が続出し、「これぞ句会!」の醍醐味を満喫しました。回を重ねるほどに多様性に富む新鮮な作品に出逢え大きな元気を頂いております。本句会は、年11回の開催で、今回、88回、8年目を迎えました。ひとえに、ご参加の皆様のお陰様でございます。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。次回のご参加を今から楽しみに致しております。   

写真は、燧灘の夕日です。    

Calendar

Search

Links

Navigation