第104回「海程香川」句会(2020.03.14)
事前投句参加者の一句
人間(じんかん)の正体暴く春コロナ | 藤田 乙女 |
草青むかすかな罠であるように | 男波 弘志 |
老いたる愚遊ばす冬の噴井かな | 野田 信章 |
踏青す祈りのように歩を数え | 榎本 祐子 |
たんぽぽのしとねに午睡寝過ごした | 小宮 豊和 |
ふわふわと鳥には翼死を悼む | 桂 凜火 |
草の芽や上手に嘘をつく装置 | 河田 清峰 |
目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス | 高木 水志 |
沖見尽くして二月のきれいな顔 | 三枝みずほ |
暖かや欠伸大きな魚売女 | 亀山祐美子 |
出番来て地球ひと蹴り初蛙 | 漆原 義典 |
春寒き悪霊船を見に行かむ | 稲 暁 |
<東日本大震災を思って>もう9年椿の花が咲きだした | 田中 怜子 |
水面打つトライアングル粒の春 | 藤川 宏樹 |
煮凝りの闇熱飯を輝かす | 稲葉 千尋 |
ふんぎゃああ あれがタマなの猫の恋 | 島田 章平 |
ためいきのパプリカ春の星ひずむ | 大西 健司 |
黒猫へ戻つてゆきし春の闇 | 小西 瞬夏 |
木の芽時我見えなくなる夜 | 豊原 清明 |
君とテニス一・四(いちよん)で春は飛んで来る | 中野 佑海 |
万両の実くしゃみぽとんと乙訓(おとくに)へ | 矢野千代子 |
いちめんのなのはなばたけなり命 | 田口 浩 |
午後雨にギターとれもろ春の夢 | 田中アパート |
雨垂れは空の恋文桜餅 | 石井 はな |
朦朧の民へそろそろ春の雷 | 松本 勇二 |
龍になること怠るなつくしんぼ | 増田 天志 |
ふらここを揺らしまだある反抗期 | 谷 孝江 |
少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ | 伊藤 幸 |
感情に分度器あてる紫木蓮 | 三好つや子 |
二歳とは言葉あふれて雛祭 | 寺町志津子 |
中年や嗚咽のように白梅 | 佐孝 石画 |
足首を波が擽る修司の忌 | 重松 敬子 |
土佐文旦ごろり今生ぶらりふらり | 十河 宣洋 |
猫好きの同志残して2月逝く | 夏谷 胡桃 |
旅も良し日常も良し春うらら | 野口思づゑ |
思い出が思い出せないつくしんぼ | 竹本 仰 |
抽斗にはしたの切手黄水仙 | 菅原 春み |
蕗の薹夫の背丸く針仕事 | 鈴木 幸江 |
三角の角(スミ)に棲みつく距離遥か | 中村 セミ |
蝶生まる話に口を挟む時 | 柴田 清子 |
弥生朔日話上手の唇薄き | 荒井まり子 |
瞼腫れお玉杓子になりました | 高橋 晴子 |
降りしきるコード進行春の星 | 佐藤 仁美 |
風邪ひいているしゃぼん玉あるかしら | 月野ぽぽな |
うつらうつら春はあけぼのうつら鬱 | 滝澤 泰斗 |
鋤鍬鎌自然体あり農具市 | 森本由美子 |
目に見えぬものに怯えて椿落つ | 松本美智子 |
手相見の運命論聞くあとは雪 | 増田 暁子 |
立ち食いのまあるい空間春の臓(わた) | 久保 智恵 |
落ち椿昨日無くした影法師 | 小山やす子 |
塾再開大試験まであと三日 | 野澤 隆夫 |
白鳥の引きし水際のなまなまし | 若森 京子 |
猫柳校長せんせの燕尾服 | 吉田 和恵 |
疫病列島孵化したばかりの朧月 | 銀 次 |
春ショールきっとアルトでおおらかで | 新野 祐子 |
ちちははのひかりはそこに名草の芽 | 高橋美弥子 |
夜の奥見つめていよう沈丁花 | 河野 志保 |
弥生のカイト日輪の貌充満す | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 十河 宣洋
特選句「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」やわらかな感性が感じられる。出来立ての耳は、ふっと我に還ったとき、周りの音を拾った時の感じ。初蝶にマリンバも新鮮である。特選句「風邪ひいているしゃぼん玉あるかしら」しゃぼん玉あるかしらのとぼけた味がいい。これくらい余裕があると、風邪の治りも速い。
海程香川に入会させていただきました。北と南と距離は遠いですが、香川は十河家の祖の地です。昨年の海原の大会の折、帰りに十河城の址を訪ねて来れたのがいい思い出になりました。今後ともよろしくお願いします。
- 小西 瞬夏
特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」:「目を瞑る」ことで、意識を内側にむけると、人間の原初の感覚である「内臓感覚」がクリアになってくるのかもしれない。その内臓とヒヤシンスの取り合わせに劇的な反応が起こっている。内臓感覚からは程遠いように思える片仮名表記のヒヤシンス。だからこそ、人体の生々しさのようなものが際立ってくる。
- 藤川 宏樹
特選句「養花天四角四面の過疎の町(田中怜子)」香川県三豊市の花絶景の名所、紫雲出山は四角四面の入山禁止措置で、見てもらえぬ残念な桜になりました。「四角四面の過疎の町」に夕張が思い浮かびました。北海道の養花天はまだまだ先ですが、それまでに前夕張市長若き道知事の手綱捌きでコロナが治まり、大勢に見守られた花盛りになるよう願います。
- 榎本 祐子
特選句「百一回突入ただの揚雲雀(田口 浩)」百回でなく、百一回がいいですね。意味のない繰り返しなのか、がむしゃらに頑張っているのか、可笑しいような、悲しいような・・・
- 増田 天志
特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」水栽培を連想する。因果関係を考えると、この句の罠にどんどん陥る。
- 小山やす子
特選句「疫病列島孵化したばかりの朧月」世界中を巻き込んだウイルス騒動。混沌とした現状を孵化したばかりの朧月とは上手い表現だなと感動致しました。
- 若森 京子
特選句「老いたる愚遊ばす冬の噴井かな」冬枯れの中の噴井に心遊ばす老いの心境が上手に書かれている愚の骨頂と知りながら。老いの侘しさをしみじみと。特選句「万両の実くしゃみぽとんと乙訓(おとくに)へ」万両の赤い実がくしゃみをして、京都府南部の乙訓に落ちた。童話の様なこの一句に作者自身のくしゃみとして、乙訓の固有名詞がよく効いている。
- 佐孝 石画
特選句「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」難解な句だ。「少女に出来立ての耳」はまだ分かる。しかし「初蝶」にマリンバとは何だ。「マリンバ」の木管楽器特有の、硬質ではじけるような音感と楽器そのものの素材感。ふわりと空を漂う生まれたての蝶の内部に、この硬質な生命の響きを重ねたのだろう。少女の耳も出来立てのようにコリッと硬質で、あたかも窯出し直後のピリピリとした白磁気のような脆さを伴う。生のみずみずしさと、硬質で脆弱な未来への予感を映像化した実験的俳句である。特選句「沖見尽くして二月のきれいな顔」沖を見ているのは誰なのだろう。「見尽くす」という執念めいたものと、その果ての諦観。見尽くした後に残る「きれいな顔」とは日常の果ての遠い理想郷を見つめるせつない自画像とも見える。僕が住む福井の越前海岸には、二月ごろ岬いちめんに水仙が咲き乱れる。水仙たちは暗く厳しい冬の日本海を見つめ続けた末、堰を切ったように花を咲かせる。この句を読んで、その水仙畑のイメージを思い浮かべた。
- 田中 怜子
特選句「奪われし三月学び舎の静けさよ(松本美智子)」東日本大震災で閖上地区に行った時、誰もいない校舎の静けさを思い出します。特選句「二歳とは言葉あふれて雛祭」二歳とは、ぴちゃびちゃとわかったようなわからないようなさえずりをしている幼児の可愛さが表現されてます。
- 中村 セミ
特選句「人間(じんかん)の正体暴く春コロナ」時節柄とは云わないが、コロナウィルスの事を描写したこの句がいいと思った。情報の多すぎる現代では、もしかして、コロナより人間の暗部がさらけ出される事の方が、ずうっと恐いと詠んでいる様に思える。コロナに感染されれば静かに治療を受けて再び生活に戻りたいだけである。そこにデマ、罵詈雑言、ありとあらゆる嘘が入ると、もういても立ってもいられなくなる。その基が人間の正体と云う。そうではない部分の方が、ずっと多いと思うが、社会ではそちらがまるで優先されるところがある。人間の正体は除夜の鐘ほどあるのだろう。
- 佐藤 仁美
特選句「黒猫へ戻って行きし春の闇」不思議な光景が頭に浮かび、江戸川乱歩の世界を感じました。惹かれました。
- 野田 信章
特選句「草青むかすかな罠であるように」:「草青む」に「罠」とはーかなしき現代の句作りではある。私もこのように現(うつつ)に目を見開いて誤魔化さずに句作をすすめたいと思うのみである。特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」:「風信子」の名を諾わせる句柄。その香を取り込んで「撓む内臓」と肉体化した発想の若さを想う。
- 月野ぽぽな
特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」マインドフルネス瞑想が世界的に有名になってから久しい。元は釈迦が説いた涅槃への道、八正道にある。彼の智慧は2500年もの時間を超えて生き続け、その恩恵を現代人も受けている。目を瞑り頭の中の饒舌を沈めると、体はリラックスし心身ともにクリアになり本来の自分に近づいてゆく。ヒヤシンスのありようが清々しい。
- 稲葉 千尋
特選句「黒文字の黄の人反核貫きし(野田信章)」理屈はいらない。黒文字の黄の華と反核を貫く人の取り合わせ。特選句「造船の鉄の匂いやつばめ来る(男波弘志)」?鉄の匂いや〟が好き、春の匂いも。問題句「鋤鍬鎌自然体あり農具市」?自然体あり〟の「あり」が気になる。「なり」ではいけないのか!
- 鈴木 幸江
選句評「誰からも離れた顔よ春隣(河野志保)」平明で、かつ深いこんな作品を大切にしたい。その時代、その社会の中で味わい(解釈)が変化する、その柔軟性が古典となる要素ではないかと考えている。現代社会の中では人間関係から逃れては生きていけないことは分かっていても自分を喪失しつつ再生しながらの生は疲れる。疲れたのだろう。人から離れ己になった人の顔が浮かぶ。そして、春は隣にいてくれる。春と存在者の関係になった人の姿と解釈したら救われた。問題句評「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」ヒヤシンスの香りが漂う空間での出来事だろうか。この身体の反応に、訳の分からぬ不安と怖れを感じる。ただ、私には未だ経験したことのない感応であり、かつ、そこに惹かれ、自分の解釈に自信がなく問題句とさせていただいた。私には、作品の中に何か老いの真実が隠されているようで、よく感受できなかったことが残念な芸術作品を見た気分でいる。「三角の角(スミ)に棲みつく距離遥か」哲学的、数学的に難解句である。不条理の存在を提言している作品と受け取めれば分からぬことはないが。三角形の角は、一点である。距離は二点か、一点と平面の間に存在するのであるから、一点に遥かな距離があるというのは、まるで、道元の一瞬に永遠があるという思想を思わずにはいられない。それで、いいのだろうか?三角形をわざわざ登場させた意図は、非ユークリッド幾何学の世界も射程に入っているのだろうか?分からないけど異次元感が楽しかった。以上。
2句になり、作品が充実した感があります。入選作品には、入りませんでしたが。他にも惹かれる句が沢山ありました。「踏青す祈りのように歩を数え」「たんぽぽのしとねに午睡寝過ごした」「三人寄れば三人に春の色(柴田清子)」「ふわふわと鳥には翼死を悼む」「弥生朔日話上手の唇薄き」「ピラカンサスの実なりわが棲家(矢野千代子)」「風邪ひいているしゃぼん玉あるかしら」「手相見の運命論聞くあとは雪(増田暁子)」「立ち食いのまあるい空間春の臓(わた)」「落ち椿昨日無くした影法師」「雲雀東風笑いの種を売る男」
- 矢野千代子
特選句「うつらうつら春はあけぼのうつら鬱」ことばあそびでしょうが、やっぱりたのしいです。作者と共にあそんでみました。
- 重松 敬子
特選句「春ショールきっとアルトでおおらかで」春が来て、街には色があふれています。重いコートを脱ぎ、お気に入りのショールで闊歩している様が浮かびます。おおらかに人生を楽しんでいる笑い声も聞こえてきます。
- 高木 水志
特選句「草の芽や上手に嘘をつく装置」なるほどなあと思った。社会を生きていく中でついてもいい嘘があると、この句を読んで思った。草の芽の生命力をより響かせている。俳句ならではの世界観である。問題句「やれ狂え3・11げに遊べ(田中アパート)」どう捉えればいいのか悩んだ。
- 柴田 清子
特選句「沖見尽くして二月のきれいな顔」二月の海と作者が一体になった時かと思う。海に近い所に住んでいる私には胸に響いた句です。
- 漆原 義典
特選句「暖かや欠伸の大きな魚売女」欠伸大きな魚売女が高松の春の訪れをうまく表わしています。昭和の高松が懐かしいです。
- 豊原 清明
特選句「人間(じんかん)の正体暴く春コロナ」選句稿から一句が飛び込んできた。今後、コロナの句が増えると思う。一句、よしと思い。問題句 「もう9年椿の花が咲きだした」椿の花が咲きだした。今年の東日本大震災忌、コロナの騒ぎに霞んでいたが、やはり、3・11以後、世の中の流れが変わったと思え、この一句、心に留まる。
- 吉田 和恵
特選句「足首を波が擽る修司の忌」旅立ちを促されているような、そんな気持ちが伝わってくる。問題句「人妻の黒髪匂う恋地獄(稲 暁)」官能を否定するわけではないが、人妻・黒髪・恋地獄。三文判をおしたような語句と思った。
- 亀山祐美子
特選句「春の陽を抱きつ眠ってゐるピアノ(高橋美弥子)」「抽斗にはしたの切手黄水仙」手触りのある句を頂きました。武漢肺炎の句が散見。表現に無理があり素直に感動できませんでした。 句会がないと退屈でごろごろしています。三寒四温、少し暖かくなりました。次回句座を囲めますこと願っております。
- 大西 健司
特選句「黒猫へ戻つてゆきし春の闇」春の闇に溶け込んでいる黒猫の存在が濃密。「黒猫へ戻ってゆく」とは悩ましい。問題句「もう9年椿の花が咲きだした」思いは伝わるが少し散文的。私的には「咲きました」としたい。
- 寺町志津子
特選句「春浅し会えると思う日々残し(夏谷胡桃)」老境にお入りの方の句でしょうか。勝手な解釈ですが、冬が過ぎて春の兆しに触れ、来し方行く末に思いを馳せていると、今生に、まだ、親しい友人あるいは知人の方にお会いできる日は残されていると感じた境涯感。残された日々を大切に生きたいと思う気持ちも伝わり、季語の「春浅し」がよく響き合い、好きな句です。
- 三好つや子
特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空(高木水志)」モーツァルトの曲をひょいとつまんで鳥にしたり、蝶にしたり。この句から、神の手による手品の帽子のような春空を感受。特選句「うつらうつら春はあけぼのうつら鬱」草木が芽吹き、虫たちも這いだす春。生命活動の盛んになる一方で、眠くてけだるい気分に陥りやすい頃を、うつら鬱という表現で捉えた句に、感動が止まりません。入選句「疫病列島孵化したばかりの朧月」新型コロナウイルスのせいで、外出もままにならない私たち。社会全体に閉塞感が高まるなかでも、春を愛でる気持ちは失いたくないものです。
- 新野 祐子
特選句「老いたる愚遊ばす冬の噴井かな」ちょっと自嘲しつつも、自分の老いをこれまでの人生をしかと肯定している。そんな人の姿が見えてきます。「冬の噴井」が何とも清々しく引かれました。入選句「疫病列島孵化したばかりの朧月」新型コロナにおびえ他の事象がことごとく輪郭のぼんやりしたものになっている今の日本。この句は、それをよくとらえていると思います。入選句「草青むかすかな罠であるように」かすかな罠とは、どんなものなんだろうと、想像力をかきたてられます。
- 増田 暁子
特選句「草青むかすかな罠であるように」青い色は罠なのか。人生の青い時は続くように思うが罠があるかもね、と作者。柔らかい言い方で、油断を戒めている。ドッキとして、なるほどと納得。特選句「老いたる愚遊ばす冬の噴井かな」自戒の句でしょうか。私も老いたる愚であり、公園の噴水のそばで時間を過ごして居る自分が見えます。
- 松本美智子
特選句「感情に分度器あてる紫木蓮」感情の起伏………喜怒哀楽に角度があるなら計ってみたいです。今日の角度は何度だろう?紫色の美しい木蓮が輝いて、私たちを優しく見守ってくれているようです。
- 河野 志保
特選句「中年や嗚咽のように白梅」白梅が嗚咽のようとは、最初よく分からなかった。しかし、冷たい空気のなかで小さく花開く姿に、泣きながら咲いている感じもすると思えてきた。同時にそれには、中年のやるせなさや愛しさが重なった。中年限定の共感かもしれないが、「嗚咽のように」という表現がすごいと思う。
- 野澤 隆夫
特選句「君とテニス一・四(いち・よん)春は飛んでくる」春を喜ぶ気持ちがあふれています。「一・四」で勝ったのか、負けたのか?「一・四」が決まってます。特選句「ふらここを揺らしまだある反抗期」ブランコにぶら下がっても、いまだに反抗期を卒業してない中三男子を想像します。今日は公立高校合格発表。反抗期の行方は…?この句もよかったです。「春ショールきっとアルトでおおらかで」ユーミンの「はーるよ…」が自然にでてきました。アルト&おおらかを結んだところも気持ちいいです。
- 中野 佑海
特選句「龍になること怠るなつくしんぼ」ちょっと苦くてお日様の様な味わいの土筆。小さい方が断然美味しいけど、頑張って捉えられない様に大きくなったら強くなれる?土筆ってあの穂の形まではよく見るが、そのあとはどうなってスギナになるの?変身の途中を見たことが無い。あの穂は龍になったのかな。不思議な生き物だ。「怠るな」が、胸に沁みる。特選句「瞼腫れお玉杓子になりました」寝過ぎた後のあの目の見えにくさ。あれって瞼がお玉杓子に変わっていたんですね!ぶさ可愛い所がとっても素敵!並選句「踏青す祈りのように歩を数え」祈りのようにが胸を突く。「煮凝りの闇熱飯を輝かす」魚の煮凝りは本当にまいう!日本まいう!「万両の実くしゃみぽとんと乙訓へ」まるで童話の世界。そしてサントリーのウィスキー山崎はまいう!「球根植うひらがなかたかな植うるごと」球根に着いている花の名前の名札。此が無いと、何を植えたか分からない。名前は大切。「雨垂れは空の恋文桜餅」桜餅は雨も優しくしてくれる。「感情に分度器あてる紫木蓮」はい、そこ。人の感情に水を注さないよ。黙って聴いてあげようね私!「思い出が思い出せないつくしんぼ」龍になろうと頑張り過ぎたんだわ。「知性かりっと終日椅子に雪地獄(十河宣洋)」雪地獄よりも、その考えが怖い。以上です。
- 夏谷 胡桃
特選句「ゆるぎない文旦パンデミックの世に(高橋晴子)」北国に住んでいるので柑橘系の実が生っている風景は憧れです。たしかな存在感があるのでしょう。救いになるような黄色を感じられました。特選句「蠢く地私の細胞減るばかり)(若森京子)」人間が滅亡しようが、放射能におかされようが植物は春が来れば芽吹きます。人間より強い。今住む場所も古代からの森を切り開いた地です。あと少しで森に戻るかもしれません。
- 銀 次
今月の誤読●「たんぽぽのしとねに午睡寝過ごした」。プルッと震えて目を覚ました。半身を起こしてみると、だいぶ日は西に傾いているようだ。両手を伸ばしてアクビした。目の前には幅だけは広いが情けないほど水の少ない河が流れている。懐かしい風景だ。中学時代は何かといえばこの河原にきたものだ。そう、今日は十年ぶりの中学の同窓会なのだ。それもいまや廃校となった旧校舎を借りての同窓会だ。朝のうちは教室を掃除して、女子はそれぞれおでんや鍋物の買い出しに行った。わたしは「ちょっと休んでくる」と言い置いてここに来た。寝転んで島崎藤村の詩集を読んでいるうちに寝入ってしまったのだ。山下さんが土手を駆け上がってきた。ハアハア息を切らしながら「もう始まっちゃうわよ、同窓会」。彼女は人妻だ。すっかり貫禄がついて、今回の同窓会でも幹事を務めている。「ああ」と生返事をすると、山下さんはわたしの横に坐った。彼女はことさら明るい声で「ここで二人一緒によく遊んだわね」と言い出した。わたしはうろたえて「そうかなあ」とつぶやいた。しばらく沈黙があって、山下さんは「わたしのこと、好きだった?」と訊いた。わたしは年甲斐もなく頬のほてりを感じた。そして声にならないような小声で「……別に」と答えた。しばらく沈黙がつづいた。山下さんは突然、ガハハと豪快に笑った。「そっか」と彼女は答えつつ、「さ、行こ」とわたしの手を引いて同窓会場に向かった。藤村の詩集はやがてたんぽぽが埋めてくれるだろう。……まだあげ初めし前髪の林檎のもとに見えしとき……。
- 久保 智恵
特選句「中年や嗚咽のように白梅」グサリと胸に刺さったのが年のせいですかね。会度に香川句会がたのしくて!
- 島田 章平
特選句「地球脱出思案中です猫柳(森本由美子)」塚本邦雄の代表作に「日本脱出したし皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも」がありますが、掲句は正にその宇宙版。銀河系のどこかで猫柳が一面に茂っている緑豊かな宇宙もいいかもね。
- 田口 浩
特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空」新型コロナウイルスに地球がすっかり汚染されてしまった。住みにくいので、老人は銀河鉄道の旅に出ることにした。宇宙ステーションは牟礼町の小高い岡の上の図書館の一角にある。乗客は老人一人。快適。窓から外を見ていると、<特選句>があった。野にピアノを置いて夢中で仕事をしているモーツァルトを、もしくはその曲を、春の空がひょいとつまむ。春の悪戯である。笑ってしまう。「踏青す祈りのように歩を数え」「黒猫へ戻ってゆきし春の闇」「龍になること怠るなつくしんぼ」「抽斗にはしたの切手黄水仙」「春を待つ包帯ゆるく巻きしまま(小西瞬夏)」―銀河鉄道の車窓はいろいろな春を見せてくれるが、<黄水仙>の句や<包帯ゆるく>は、うまいなあと思う。当分宇宙の旅を楽しもう。
- 松本 勇二
特選句「目瞑れば撓む内臓ヒヤシンス」体内の暗い有り様から明るい季語への展開が見事。
- 荒井まり子
特選句「土佐文旦ごろり今生ぶらりふらり」鹿児島でも熊本でもない、土佐の文旦で決まり。形状も早世の苦味も龍馬を彷彿させて楽しい。問題句「いちめんのなのはなばたけなり命」平仮名の表記に意気込みを感じる。司馬遼太郎さんが好きだった菜の花。まるで極楽浄土の様。大好きです。
- 滝澤 泰斗
特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空」多分作者の思いとはかけ離れているかもしれないと思いつつ特選にしました。天才モーツアルトをつまみ上げてしまう春の空ってどんな空・・・と考えつつも、人智を越える自然の力の凄さ、大きさ、計り知れない深淵さを感じさせる。モーツアルトが効いている。特選句「春を待つ包帯ゆるく巻きしまま」春の句が二つ続きました。今年の春は、人類が初めて経験している異常な春。その春にあって、傷が癒えてか、包帯をゆるく巻いて春を待つ心情に希望を感じさせる。掲句に問題句はありませんが、今回は私の想像を超える句が多かったように思います。「水面打つトライアングル粒の春」粒の春とは?「蠢く地私の細胞減るばかり」「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」この二句は意味を考えてはいけないのでしょう。感覚的なところを伺えればと思いました。
- 男波 弘志
「思い出が思い出せないつくしんぼ」正気の呆け、とは恐ろしい。「雪原の同一性として蒼い列車」現代の風俗をこそ読みたい。この列車に終点はなさそうだ。
- 石井 はな
特選句「感情に分度器あてる紫木蓮」感情に分度器をあてて計るなんて、素敵な発想です。今嬉しさ60度、今悔しさ30度なんて、嬉しさは倍になって悔しさは冷静になって減っていく様な気がします。特選句「中年や嗚咽のように白梅」白梅が嗚咽のように思えるのは、中年以降でないと感じられない思いだと思います。読んでしみじみ実感しました。以上です。皆さん素敵な句ばかりで、毎日の鬱陶しさが晴れる思いです。ありがとうございます。
- 稲 暁
特選句「少女に出来立ての耳初蝶にマリンバ」素材の選択が新鮮で詩情豊かな作品となっていると思う。少女と初蝶、耳とマリンバの類語関係も成功している。問題句「コンビニはオアシスめいて春の闇(石井はな)」実感としてはよく分かるのだが、表現が淡白すぎるような気もする。好きな句で捨て難いのだが・・・。
- 竹本 仰
特選句「草青むかすかな罠であるように」選評:なんの罠であるのか?そういう□をさがす楽しみがある。この世に生まれて善と悪とがあるなら、その二つは不可分に結びついており、悪もまた避けがたい、ならばそれを覚悟して生きよう、そんな世界観が見えているように思う。そんなすぐれた感覚を感じた。特選句「三角の角に棲みつく距離遥か」選評:ナゾなんだけれども、つき合いたいナゾというのがある。そういう誘惑を感じさせる。アリスの世界でいうなら、初めに出会うチョッキを着たウサギだ。この一行の中にある展開に魅力を感じる。ひきこもりに向かう詩情、そんなものか?梶井基次郎が檸檬を見つけた、あのひなびてはなやかな果物屋のような。特選句「造船の鉄の匂いやつばめ来る」選評:このツバメはオスだろう、いやいや、そう決めつけるのはどうなのか、とそんなところから入った。造船所が好きなツバメがいるんだろうな。そういえば、昔、手術前日のヒマを持て余し、何となく或る無人駅に座っていると、ツバメの両親がしきりに子ツバメを面倒見ている片隅があった。そうか、毎年、ここに来ているんだと妙に和んだ。鉄の男たちにもそれはあるだろうが、それよりもツバメがこの男たちの優しさに気づいていると思わせる所が実にいい。特選句「白鳥の引きし水際のなまなまし」選評:朝の干潟というのに思わず見とれたことがある。何というのか、絵ではなく音楽が満ち満ちていた。否、音楽を超越した生きものたちの何かがあった。朝のわずかな半時間で、もう一日を生きたより濃い風景があった。ああ、いいなあと言うしかない。そのリアルな感覚を思い出した。特選句「ちちははのひかりはそこに名草の芽」選評:はじめ「名草の芽」という季語がわからず、どう読むか戸惑っていましたが、名のある花についての芽、ものの芽の花版ということがわかり、この句がいっそう味わい深くなりました。私事で恐縮でありますが、お経の中に「仁王護国経」というのがあり、ほとけの光が黄金であり、悟りの瞬間に花が開くのとその光がさすのが同時であるのを、読む中で体感することができます。この句にもそれがあります。同じ光がさしているなあ、というのが極私的な鑑賞でありますが、ありがたいひかり、ありがたき人生というのを体感できる句であるように思いました。
- 藤田 乙女
特選句「雨垂れは空の恋文桜餅」 日々コロナ肺炎のニュースで気が滅入る中、この句を読むと明るい気持ちになり、春の訪れを心底楽しみたくなりました。恋文と桜餅の取り合わせがとてもいいなあと思います。特選句「ちちははのひかりはそこに名草の芽」永遠無きものの中に愛によって命が繋がれていくという小さな命への慈しみを感じた句でした。
- 高橋美弥子
特選句「造船の鉄の匂いやつばめ来る」今治の造船所を思いました。景がぱっと立上ります。鉄の匂いとつばめの取り合わせが新鮮に感じました。問題句「舌鮃白き肉解す人の闇(桂 凜火)」舌鮃白き、まで一気に読むのでしょうか?「切れ」で悩みました。
- 桂 凜火
特選句「雲雀東風笑いの種を売る男(三好つや子)」うっとおしい今の世の中、笑いの種を売る男は大歓迎です。しかし、笑いを売ることを商いとしている人にとっては、売る場所も今は限られていることとお察しします。早くこの疫病も落ち着くといいですね。雲雀東風という季語も新鮮でした。
- 小宮 豊和
「いちめんのなのはなばたけなり命」句意はよく伝わる。感動もそこそこ伝わる。しかし兜太先生のよく使った表現、もう少しパンチがほしい。私は原因は句の形態がひとつ考えられると思う。この句でいえば一字流れからはずした「命」である。こういう表現で感動を呼んだ句は少ないように思う。「命」を句の中に取り込んで少しでも新鮮な表現をさがすのが正当な方法であろう、例えば、出来不出来は別として、「ひしめくや菜畑いちめん黄の命」などのたぐいである。
- 谷 孝江
特選句「沖見尽くして二月のきれいな顔」長い北陸暮らしの者にとって、二月は何とうれしい月でした。もう確かに春が近づいて来ているのです。日によっては一尺近い雪が積もる日もありますが、立春過ぎればそれは、春の雪なのです。一日、一日、三月が近づいているという嬉しさは今も忘れられません。作者は、暖かい所にお住まいかも知れませんけれど、春を待つ思いは一緒だと思います。二月のきれいな顔で私の思いの中にすっきりと入り込んできました。やさしくて佳い句です。
- 野口思づゑ
特選句「清(すが)し苦し水琴窟の梅の響(おと)(久保智恵)」美しい情景の句のなかに「苦し」が加えられている。これは個人的心情なのか、それとも現在の世界的世情の反映なのか分かりませんが、句に深まりが出て光景と心が良く伝わってきました。その他「人間の正体暴く春コロナ」その通りだと共感します。人間、人間の延長であるそれぞれの国の事情も見えてきました。「暖かや欠伸大きな魚売女」海に生きている女性のおおらかさが伝わってきました。「奪われし三月学び舎の静けさよ」: 「奪われし」まさにその通りです。
本当にコロナウイルスにはうんざりですね。あれよあれよという間に世界に広がっていて それだけ現在はグローバル化が進んでいたという事のようですね。句会もキャンセルで残念ですね。 オーストラリアでは、室内では一人当たり4平米距離を取らなくてはいけないという事になりました。また国際便もほとんど飛ばない状態ですので、普段でしたらそろそろ5?6月頃の日本行きを計画するのですが、今年はこの時期は予測がつきません。とはいえ、そういったコロナの影響にあまり惑わされず普段の生活で行きたいと思っています。句会報、楽しみにしています。
- 田中アパート
特選句「モーツァルトをつまんでしまう春の空」ダダ。ダリ。
- 三枝みずほ
特選句「瞼腫れお玉杓子になりました」過労、睡眠不足、病、外傷、涙など瞼が腫れる経緯は様々。精神的に辛い。それなら、いっそのことおたまじゃくしへ!ヒトの進化を逆行し、生命体そのものに近づいてゆく。軽くて面白い発想だった。
- 森本由美子
特選句「黒猫へ戻って行きし春の闇」黒猫にひっそりとスプレーされた春の闇。夜の深まりとともに黒猫はそのしなやかな体に闇を吸い込いこんでゆく。溶け合うために。ちょっとした仕掛けがポエテイックなイメージを掻き立てます。「モーツアルトをつまんでしまう春の空」「立ち食いのまあるい空間春の臓」問題句ではありませんが、作者の方からお好きなように解釈して楽しんでくださいと渡されたような気分です。楽しませていただいています。
海程香川句会に参加させていただき嬉しさと緊張を感じております。70歳で偶然俳句と出会い、無知ゆえの怖いもの知らずで作ってきましたが、いまだに自分らしさを表現できず、心にもっと風穴を開けなくてはと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。→ぽぽなさんの「星の島句会」のお仲間ですね。ご参加、とても嬉しいです。こちらこそ、宜しくお願い申し上げます。
- 河田 清峰
特選句「万両の実くしゃみぽとんと乙訓へ」ぽとんと乙訓へが古事記の世界へ案内してくれるよう、池の辺りの万両の実ががよく景色が見えてくる。もうひとつ「草青むかすかな罠であるように」も好きな句である。
- 高橋 晴子
特選句「二歳とは言葉あふれて雛祭」女の子は二歳ともなるとおしゃべりが上手になる。「言葉あふれて」がうまい。「とは」に感情が出ている。問題句「目に見えぬものに怯えて椿落つ」:「目に」は不用。?見えぬもの〟を感じる心は大事だが、?怯えて〟椿落つ と、因果関係にしない方がよい。多分、?怯えて〟が、言い過ぎなのでしょう。?感じて〟位にしたら、面白い。
一週間程前、兵庫県立美術館でゴッホ展を見てきました。ゴッホの画業はたった十年なんですね。それも世に残る糸杉だの麦畑だの明るい絵は最後の2年だけ。(37歳で自殺してる)「星月夜」を期待していったのだけどありませんでした。一枚だけ糸杉がありましたは、あの筆致に圧倒された。あれが内面を表すのでしょう。いい空でした。
- 野﨑 憲子
特選句「水面打つトライアングル粒の春」水面を打つ一滴の光をトライアングルと捉えた作者の慧眼に脱帽。その一瞬をスローモーションで観るようだ。問題句「春寒き悪霊船を見に行かむ」新型コロナウイルスの集団感染が確認されたクルーズ船を詠んでいると思い惹かれた。人類の未曾有の危機を照らす真言のような一句を、悪霊も創造主も待ちかねているのかも知れない。
【句会メモ】
新たに、旭川の十河宣洋さん、ニューヨークの森本由美子さん、そして久々に福井の佐孝石画さんもご参加くださり、ますます層の厚い魅力あふれる句会になってまいりました。これからが楽しみです❕
今回は、コロナウイルス感染回避の為、高松での句会は中止にさせていただきました。なので<袋回し句会>もお休みです。やはり、句会が無いのは淋しい限りです。4月句会は、いつもの18人収容の67会議室から38人収容の窓のある55会議室に変更し、何とか開催したいと念じています。コロナウイルスの一日も早い終息を祈るばかりです。皆様もくれぐれもご用心ください。
冒頭の写真は、海女の玉取伝説の真珠島(今は埋立られて陸続きになっています)の山櫻です。櫻には、コロナウィルスは無縁のようで、今年も可憐な姿を見せてくれています。
Posted at 2020年3月27日 午後 06:25 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]