第142回「海程香川」句会(2023.08.19)
事前投句参加者の一句
父母(ちちはは)のゆるい溺愛夜の蝉 | 三好つや子 |
寝返りのきのうに戻る熱帯夜 | 増田 暁子 |
大西日『はだしのゲン』の居る床屋 | 松岡 早苗 |
たつぷりと水撒き八時十五分 | あずお玲子 |
みぞおちに螢遊ばせ仁王像 | 増田 天志 |
白百合の揺れを招きと思いけり | 河田 清峰 |
色褪せし紫陽花かたちをとどめおき | 三好三香穂 |
薄青き耳たぶをもて蛇に会ふ | 小西 瞬夏 |
余世とは白い紙切きれ金魚玉 | 谷 孝江 |
幻覚と想って生きた黒い雨 | 田中アパート |
八月の椅子置けば八月の影 | 月野ぽぽな |
大人びた子の眼差や晩夏憂し | 森本由美子 |
白雨来て病室という函包む | 大浦ともこ |
クレヨンの笑みがはじける夕焼かな | 高木 水志 |
真夜の蝉鳴く急がねば果たさねば | 時田 幻椏 |
装甲車がとなりをはしる平和 | 薫 香 |
孫が擂りひりひり辛し夏大根 | 野田 信章 |
知らぬ子の手の握りくる夏祭 | 菅原 春み |
夏合宿飛び散る墨や琵琶湖炎ゆ | 漆原 義典 |
炎天の影へばりつく無縁墓 | 松本美智子 |
長生きせな翔平アーチ夏雲に | 塩野 正春 |
夜の蟬自意識をぶら下げている | 榎本 祐子 |
掌に取れば花烏瓜さんざめく | 新野 祐子 |
積乱雲 常に冷めてる頭のすみ | 田中 怜子 |
定家葛ひそかに兜太ヘ蔓延びぬ | 疋田恵美子 |
二棟分更地完了虹二重 | 亀山祐美子 |
ぺらぺらと舌の奔放てんぐ茸 | 川崎千鶴子 |
あめんぼう飛んで恋句のありどころ | 男波 弘志 |
ちちははと同じ手順の墓掃除 | 佐藤 仁美 |
眠られぬ今宵外に出よ星涼し | 柾木はつ子 |
「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み | 寺町志津子 |
散々に敗れて清し夏の空 | 山下 一夫 |
薔薇ばらバラばらBARAバラ薔薇 地球 | 島田 章平 |
青蜥蜴ガラスの箱は狭かろう | 菅原香代子 |
家系図に余白たっぷり夜の桃 | 津田 将也 |
風鈴の風に色あり青い海 | 稲葉 千尋 |
一人居の のりたまごはん夏座敷 | 荒井まり子 |
さつき見た夢かき消えて蝉シャワー | 福井 明子 |
花火連発口開け仰け反る十二階 | 山本 弥生 |
鬼やんまと少年風の熊野かな | 大西 健司 |
自分さがし鰻ぬるぬるぬるぬらり | 岡田ミツヒロ |
人類の一人宇宙の一流星 | 風 子 |
猛暑日の裏は極寒愛しテラ | 滝澤 泰斗 |
打ち水やパン屋の猫の名はオバケ | 向井 桐華 |
すすき手を振る次の世へ次の世へ | 十河 宣洋 |
夏草や古書の湿りの蚊を挟む | 豊原 清明 |
アマリリス廊下の奥が懺悔室 | 桂 凜火 |
色褪せた水着は私の抜け殻 | 柴田 清子 |
若き農婦のボブが素敵さ茄子に汗 | 伊藤 幸 |
結論は明日にしませうソーダ水 | 吉田 和恵 |
目隠しを外せばピカドンの 夏野 | 若森 京子 |
弄ぶ風は魔術師桐一葉 | 佳 凛 |
AIに育てられしか水中花 | 野口思づゑ |
魂の話よ夏の満月よ | 石井 はな |
夕立や同じ角度に傾く傘 | 山田 哲夫 |
向日葵咲く午後から風が強い場所 | 河野 志保 |
夕焼けにギヤマン並べる美学かな | 重松 敬子 |
問いだけでいいのほんとは桃なんて | 竹本 仰 |
背に掛けて海の匂いの夏帽子 | 稲 暁 |
怯(ひるむ)もの去りゆく心悲しくて | 鈴木 幸江 |
炎昼なり青春の彼の地新宿よ | 銀 次 |
麦茶飲みほす全方位の青空 | 三枝みずほ |
ニンゲンガイキスギナンダ蝉骸 | 藤川 宏樹 |
晩夏ゆく切符渡して海の上 | 中村 セミ |
どの窓からも和泉連山蝉時雨 | 樽谷 宗寛 |
愛想なき君オクラを柔らかく茹でる | 岡田 奈々 |
トマト噛むその混沌を得るために | 佐孝 石画 |
長き夜や日記とラヂオ深夜便 | 川本 一葉 |
白湯のごと祖父の正調ゆすらうめ | 松本 勇二 |
秋刀魚焼くかぎり孤独はありません | 淡路 放生 |
老年やジュリー素のまま水羊羹 | 植松 まめ |
絶滅か進化か蜘蛛の糸ゆらり | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。幸せな気持ちにさせられます。こういう生き方、人生観を持ちたいものです。
- 増田 天志
特選句「薄青き耳たぶをもて蛇に会ふ」。感性の作品。昭和の匂いぷうんと、懐かしい。
- 小西 瞬夏
特選句「八月の椅子置けば八月の影」。シンプルなつくり方、そして八月のリフレイン。それがより悲しみを増幅させている。椅子に座る人や、椅子を並べるイベントなどのことは言わず、影だけに思いが託されている。
- 月野ぽぽな
特選句「知らぬ子の手の握りくる夏祭」。人混みの中お母さんと間違えたのでしょうか。きっと優しくそのまま握らせてあげていたことでしょう。目の高さに屈んで、驚く子を安心させてあげながら、近くにいるはずのお母さんを一緒に探してあげたことでしょう。私たちは皆深いところで繋がっています。
- 豊原 清明
特選句「人類の一人宇宙の一流星」。「一流星」がいいと思った。人類、地球感覚で捕らえるところに視野の広さ。問題句「スニーカーの紐縺れてしまって巴里祭(伊藤 幸)」。紐縺れに創作を感じた。現代的な俳句と思って。日常の細かな描写が好きなので、ひかれました。
- 桂 凜火
特選句「夏合宿飛び散る墨や琵琶湖炎ゆ」。書道部の部活動の様子でしょうか 琵琶湖での大会なのかもしれないですが臨場感がよくでていていいなと思います。「琵琶湖炎ゆ」が雄大で素敵です。
- 岡田 奈々
特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。いくつからが余生か知らないが、全く何も決まっていないし、何をしても良いし、空中に浮かぶ金魚玉の様に自由に生きよう。特選句「薔薇ばらバラばらBARAバラ薔薇 地球」。みんなバラバラ。何を考え、何をしようとしているのか、地球は哲学。「寝返りのきのうに戻る熱帯夜」。この所寝付けなくて、1時間おきに時計を見たりして。なかなか時も進まず。つい、昨日の事など、思い出したり。「クレヨンの笑みがはじける夕焼けかな」。めちゃくちゃ可愛い今日も良い一日を有難う。「孫が擂りひりひり辛し夏大根」。夏大根は誰が擂っても辛い。「夜の蝉自意識をぶら下げている」。何故か夜も鳴く蝉。あれを自意識過剰と言うのですね。「「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み」これって自由研究?「油照引越荷物遺品めく」。ゆらゆらと、湯気立ち、荷物までも溶けて無くなってしまいそう。「トマト噛むその混沌を得るために」。トマト噛むと中身が飛び散って、そこら中がトマトの赤い汁と種でとんでもない事に。また、洗い物増やして。なに哲学者ぶってごまかしても赦さないわよ。「郭公托卵数字ばかりの日経新聞」。読者は何も知らないと思って、数字でごまかさないでください。
- 男波 弘志
「晩夏ゆく切符渡して海の上」。旅の一場面を只切り取ったようにも見えるが、それほどやさしい一行詩ではないだろう。先ず身の内に所有しているものを手放す、そのことに深い述懐が潜んでいる。余りにも小さな紙切れがこれからの羅針盤になってゆく、それを手渡す、託す、そのことによって無一物の自己が旅人となったのである。これが列車ではなく船であったことが一層晩夏を引き寄せている。上5の「ゆく」が聊かわかりにくい繋がりではある。「晩夏光」でも句としては成立するのではないか。秀作。
- 大西 健司
特選句「色褪せた水着は私の脱け殻」。どこからか出て来た若い頃の水着。そんなお気に入りの水着も色褪せてしまっている。それはあたかも私の抜け殻。「よくこんな水着入ったよね」そんな声が聞こえてきそう。どこか哀しくておかしい。
- 稲葉 千尋
特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。『はだしのゲン』置いてあるだけで素晴しい床屋さん。理屈はいらない。そんな床屋さんに、小生も行きたい。
- 十河 宣洋
特選句「たつぷりと水撒き八時十五分」。毎年原爆の慰霊のニュースを見ている。アメリカの蛮行を見る思いである。たっぷりと撒く水は現在の日本の豊かさの象徴のように見える。 特選句「Tシャツを空のかたちにしておかむ(小西瞬夏)」。爽やかな夏の風景。おおらかな風景がいい。
- 三枝みずほ
特選句「目隠しを外せばピカドンの 夏野」。一字空けの空白が惨状が起きたことを想起させ、きのこ雲の下にいた者の夏野へ読者を引きずり込む。戦前この目隠しが様々な方法で行われたが、今なお繰り返すこの目隠しの正体は何だろうか。知らないということの恐ろしさが伝わる一句。不都合なものを見ようとしないのは人間の本質なのかもしれない。
- 野口思づゑ
特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。夕方の床屋に他の雑誌に混ざり『はだしのゲン』もあった、というそれだけの光景とはいえ、その話題が世相を反映する漫画を置いている床屋の人柄、西日を受け輝いている雑誌が目に浮かぶ。中7の『はだしのゲン』の「居る」で、作者は中沢啓治さんの存在を近く、現実的に捉えていると知る。「 自分さがし鰻ぬるぬるぬるぬらり」。ぬぬぬの字だけでヌルヌル感が伝わってくる。いつか自分が掴めますように。
- 樽谷 宗寛
特選句「身の芯に届く暑さとなりにけり(柴田清子)」。毎日毎日猛暑。芯まで届く暑さでした。うまく表現なさっています。私一度に好物のアイスキャンディー3本食べ、身の芯の暑さが一時的に消滅しました。
- 福井 明子
特選句「みぞおちに蛍あそばせ仁王像」。忿怒の形相で立ちつくす仁王像。そのみぞおちへの視点がしなやか。蛍は「いのち」や「明暗」、そんな不確かなイメージ。躍動する剛強な胸の筋肉の真下に蛍をあそばせるなんて。その斬新さに、涼しさをいただきました。特選句「はちがつのかたりべがほのほふきだす(島田章平)」。平仮名表記には、8月の敗戦の語り部と、語りえなかった亡き人々の無念をも包み込む力を感じます。見えないものの「ほのほ」。その「ほてり」があります。
- 津田 将也
特選句「鉄柵のアールヌーボー秋立ちぬ(松岡早苗)」。「アールヌーボー」とは、一九世紀末から二〇世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した美術運動。「新しい芸術」を意味する。花や植物などの有機的なモチーフや自由な曲線を取り入れ、組み合わせ、従来の様式に囚われない装飾性や、鉄・ガラスといった当時の新素材などを積極的に活用しているのが特徴。アールヌーボーの鉄柵に対し、「秋立ちぬ」の季語がよい。付近の建造物なども、もちろんアールヌーボーなのだろう。特選句「はんざきのどろりと動く夜の底(月野ぽぽな)」。「はんざき」は山椒魚の異称である。イモリに似て、山間の渓流や洞窟などに棲む。体長一メートルとも呼ばれる「大山椒魚」は、天然記念物として保護されているが、小さいものを料理して食べると、山椒の香りがするのでこの呼び名があるようだ。夜の渓流の暗黒の底でうごめく山椒魚の様子を「どろりと動く」と巧みな言葉で捉え、これが大物級であることが、自ずと読み手に伝わる。
- 鈴木 幸江
特選句評「クレヨンの笑みがはじける夕焼かな」。画材としてのクレヨンには、独特の質感があり、親しみやすい温みがある。「笑み」という言葉が明るい気持ちへ向かおうとする作者への共鳴を導いてくれる。私にもある同じ経験を思い出させてくれた。どんな色の「夕焼」を描いたのだろうか、あんな色か、こんな色かと想像するのも楽しかった。「知らぬ子の手の握りくる夏祭」。果たしてこの子は、見知らぬ人だと承知でしたことか、勘違いでしたことか、どちらもあり得る。このドラマ性が素敵だ。人の心の美しさが思われ救われた。グローバル化の世界も、不安な子どもの世界も背景に感受できた。「薔薇ばらバラBARAバラ薔薇 地球」。多様な表現形式をもち、多義性のある日本語を連続させて、言葉がある混沌を生み出す。何を対象として捉えようとしているのか分からぬその不可解さ。作者は現在の地球の混沌を表出させようとしているのだろうと思った。比喩が“バラ”なら悪くはないと思った。今回は特選句を3句採ってしまった。お盆サービスではないが、大変な世になったという想いをお持ちの方は多いことと思い、そして、この3句にはまだ言葉にはならぬが、明るい可能性の光が見えていただいた。
- 柾木はつ子
特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。 上五、中七、下五の素材の組み合わせがとても巧みだと思いました。読み手に色々な思いを抱かせてくれる素晴らしい作品だと思います。私には上五の「大西日」が人類の未来への警鐘を鳴らしているように思えました。特選句「長生きせな翔平アーチ夏雲に」。世の中忌々しき事ばかり、ついついため息が出ますが、そんな中、掲句のようなスカーッとした出来事があると気分も晴れやかになります。長生きもしたくなりますよね。もっともっと明るい話題が増えますように!
- 若森 京子
特選句「油照引越荷物遺品めく(菅原春み)」。特選句「夏の闇独り居チャットふふふ」。二句共、現代の暗い部分に焦点を当てている様に思う。「油照引越荷物遺品めく」は、老人の孤独死を想像するし、「夏の闇独り居チャットふふふ(塩野正春)」は、若者の一人籠りの姿を思う。
- 山田 哲夫
特選句「鬼やんまと少年風の熊野かな」。今週台風が上陸したばかりの熊野だが、この句の「風」は台風ではあるまい。私には熊野の山野を爽やかに吹き抜けてゆく夏の風が想像される。「鬼やんまと少年」という提示が確かな存在感を揺るぎなくさせていると思った。
- 三好つや子
特選句「白百合の揺れを招きと思いけり」。ギリシア神話の女神ヘラの乳から生まれたという白百合(鉄砲百合)は、キリスト教で聖母マリアに捧げる花としても知られています。そんな百合の神秘さをリリカルに捉え、魅せられました。特選句「八月の椅子置けば八月の影」。戦争の悲惨さを知る人が少なくなり、原爆投下された広島や長崎はもちろん、戦争でぼろぼろになったあの頃の日本のことが、風化しつつある昨今、心に迫ってくる作品。「鬼やんまと少年風の熊野かな」。夏の自然の中で逞しく成長してゆく少年像、さらに風の熊野という詩情ゆたかな表現力。「AIに育てられしか水中花」。水の中で美しさと愛らしさを振りまく、フェイクな花の淋しさに共感しました。
- 河田 清峰
特選句「ちちははと同じ手順の墓掃除」。いつのまにか嫌っていた父母の真似をしている姿を思う。
- 風 子
特選句『麦秋の戦渦ピカソの「泣く女」(疋田恵美子)』。ピカソのゲルニカを観た感動がまた蘇りました。戦争の悲惨さ残酷さを繰り返す人間、あのマチエールの美しい絵を描く人間、どちらも人間のなせる技なのが不可思議です。
- 松本美智子
特選句「はちがつのかたりべがほのほふきだす」。ヒロシマの語り部さんも高齢になり戦禍を後生に継承するすべがだんだんと薄れていくように思います。でも、未だに戦争は過去のものではないのです。いつも苦しむのは子どもに女に・・・弱い立場のものです。語り部さんはその熱い思いを業火の炎をはき出すごとく語り継ぐのでしょう。ひらがな表記にした効果とそうでない場合と・・・「八月の語り部が炎吹き出す」どのような効果があるのか?句会で皆さんの意見を聞きたいと思いました。そんな、魅力的な句であると思います。 ♡島田章平さん(作者」より→この句は浮かんだ瞬間にひらがな表記でした。漢字は浮かんできませんでした。説明はうまくできませんが・・・。ご選評を頂けて嬉しいです。
- 寺町志津子
特選句「爆心地ここぞ世界を変へるのは(野﨑憲子)」。大変嬉しく、有り難い御句です。広島はふる里です。広島市民の「核無き世界」への思いは一入ではありません。核なき世界になるよう願い、祈リながら暮らしております。「麦茶飲み干す全方位の青空」。景がよく見え、作者の満ち足りた思いも良く伝わって、明るい気分になりました。
- 伊藤 幸
特選句「定家葛ひそかに兜太蔓延びぬ」。螺旋状に這い上がり白い香りのよい花を咲かせ後に黄色に変わる定家葛。旧兜太邸又は墓碑もしくは句碑から兜太蔓と名付けられた新しい品種?の茎が出たものと思われる蔓。どのような花を咲かせどのような実をつけるか楽しみである。
- 菅原 春み
特選句「白雨来て病室という函包む」。白雨で映像が浮かび上がります。病室のなかでの身動きできない状況が肌で感じられます。特選句「はんざきのどろりと動く夜の底」。はんざきと夜は切り離せない。しかもどろり、夜の底では体感まで感じられて身動きできなくなる。
- 藤川 宏樹
特選句「チェストパスされし純情睡蓮花(岡田奈々)」。「チェストパスされし」ボール、「純情」のボールを胸でドスンと・・・。勝手ながら「純情」は恋の実直な告白と捉えました。「睡蓮花」が青春の一場面を後押しています。
- 植松 まめ
特選句「父母のゆるい溺愛夜の蝉」。上手く評はできないがとても惹かれる句です。特選句『「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み』。こんな純粋な時代が自分にもあったんだと思い出させてくれる句、大好きです。
- 吉田 和恵
特選句「アマリリス廊下の奥が懺悔室」。「戦争が廊下の奥に立っていた」―渡辺白泉のパロディーと思いますが、アマリリスがぴったり。曲が聞こえてきそうです。
- 塩野 正春
特選句「梅を干すベランダUFOはまだ来ない(榎本祐子)」。えっ? UFO を釣る餌は梅干しなのか、そうかもしれない。これまでは音(音楽)や光のリズムが良く使われていたのだが新しい発想があの甘酸っぱく香る梅干しだったとは! この句をUFO専門家に見せてあげたい。兜太師匠もびっくりの発想。現代俳句はこうありたい。特選句「雲とそら翼の日の丸それだけ(薫香)」。今日8月15日終戦記念日の日に味わった句が美しい。戦後といわれて長く日の丸も君が代も、青空までも虐げられてきた。日の丸をこんなに美しく取り上げた句はついぞ見なかった。青い空も日の丸もこれからは堂々と生きたい。似た句(筆者が感じることだが)「人生のずるずる錘や原爆忌(若森京子)」が出句され共感を覚えた。が、日本の未来をより感じさせる前者を特選にした。
- 野田 信章
特選句「愛想なき君オクラを柔らかく茹でる」。の「愛想なき君」のフレーズには男の身勝手な言い分にして本音の込もったところが窺える。そのことを、具体的な調理の手際よさによって反転してくれる修辞の鮮やかさがある。この軽い意外性こそ日常の景の一端の確かさと読んだ。原句は「愛想無き」だが、「愛想なき」としていただいた。
- 川崎千鶴子
特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。「余生」とはただの空白の白い紙切れで、未来の無い透明な「金魚玉」と。楽しみの無い老いの感慨を嘆いている。老いを的確に表現して、なんとも寂しい句です。「寝返りのきのうに戻る熱帯夜」。寝床に入れば寝苦しく、寝返りをうつと昨日と同じ熱帯夜だった。表現のすばらしさ。
- 山本 弥生
特選句「孫が擂りひりひり辛し夏大根」。お母さんのお手伝いが出来るようになった孫の擂ってくれた夏大根。老いたりと云えども味覚もしっかり分かる。猛暑に気合を入れてくれて有難う。
- 荒井まり子
特選句「郭公托卵数字ばかりの日経新聞(増田暁子)」。取り合わせが斬新、面白い。新聞が俳句になるなんて。
- 松岡 早苗
特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。余生を「白い紙切れ」と言い切っているのが印象に残りました。自由な時間はたっぷりあるものの、現役を退き社会とのつながりの薄れた、いわば紙の切れっ端のような存在。寂しさはあるが、それでも残された年月を心豊かに生きたい。水槽の中でゆったり泳ぐ美しい金魚のように。特選句「八月の椅子置けば八月の影」。晩夏から初秋へと移りゆく頃の気だるさや寂しさが、「椅子の影」という繊細な映像と、「八月」のリフレインによって感覚的に伝わってきました。
- 川本 一葉
特選句「眠られぬ今宵外に出よ星涼し」。暑くて眠れない夜本当に外に出たことが何回もありました。今年はなかなか咲かない朝顔が気になって明け方も外に出てました。私のことか、と思うような句でしたし、命短し恋せよ乙女のように調べがとても良いと思いました。
- 岡田ミツヒロ
特選句「はちがつのかたりべがほのほふきだす」。戦争の影が日増しに濃くなる軍拡日本。「ほのほふきだす」は、戦争の惨劇の生き証人たる語り部の子孫の安寧、人類の未来を願う魂の湧出した姿。特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。盛大に煙を上げ、ジュージュー燃える秋刀魚、いまは秋刀魚を焼く、そのことだけ。それ以外は何もない。そして、秋刀魚が焼き上がってから宴のあとのように、じんわりと孤独がやってくる。
- 銀 次
今月の誤読●「宅配の柩を置いて行く炎天(淡路放生)」。ちょうどお盆というとき、わが家のチャイムが鳴った。玄関に出てみると、宅配人がいて、サインをくれという。わたしはいうとおりにして品物を受け取った。それは白木でつくられた真新しい柩であった。金色の飾り金具がところどころに施されていて、真昼の太陽を受けキラキラ輝いている。それにしても妙なものが送られてきたものだと蓋を取ってみると、そこに父さんがいた。ちゃんと経帷子を着て、ご丁寧に鼻の穴に脱脂綿までつめている。周囲は花で飾られ、おまけに三途の川の渡し賃のつもりか模造の六文銭まで胸元に置いている。「あきれた」わたしはため息まじりにつぶやく。父さんがいう「どうだ、驚いたか」。「驚かないよ、毎度のことだ」とわたし。「母さんはどこ?」「すぐそこまで来ている。もうすぐ着くだろう」といってるあいだに、喪服を着た母さんが白いハンカチで汗をふきふき「暑い暑い」といいながらご登場と相なった。「おれも暑いよ」と父さん。そりゃそうだろう、狭い柩のなかに閉じ込められてはるばる運ばれて来たんだから。両親はよく冗談好きの夫婦だといわれるが、程というものがある。うちの父母はその程というものを知らない。クリスマスのとき、父さんは本格的なサンタクロースの衣装を誂え、特注のソリに乗り、それをトナカイのぬいぐるみを着た母さんにひかせてやって来た。とまあ、それはほんの一例。数えあげればキリがないが、ちょんまげと丸まげで来たこともあれば、全身を包帯で巻いた格好で来たこともある。両親いわく「わたしらはごく当たり前の面白みのない世間というもののなかに暮らしている。せめてジョークぐらいは命がけでやらないと生きてるかいがない」。わたしにはさっぱりわからない理由だが、まあ、本人たちが満足しているなら、それでよかろうとも思う。だが迷惑であることも事実だ。ただ今回ばかりはそうでもなかった。というのも、父さんがその晩、熱中症で死んだからだ。冗談じゃなくほんとうに死んだのだ。死に装束を着て、棺桶をかたわらに死んだ。おまけに母さんは喪服を着て泣きべそをかいている。坊さんがやって来て「これはまあ手まわしのいい」とつぶやいたのは、命がけのジョークを生きがいとする父さんにとっては本望だったのかもしれない。
- 増田 暁子
特選句「八月の椅子置けば八月の影」。八月の椅子に誰が座って、影になっているのか。恐ろしい時代を思い返す。特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。食べることに貪欲であれば生きる楽しみがあり、孤独はありませんよね。
- 佳 凛
特選句「爆心地ここぞ世界を変へるのは」。爆心地だからこそ世界を変えようと。核反対 戦争反対を、叫び続けて78年、一向に変わらぬ世界、本当にほんとうに、無念です。 一傍観者であってはならないと、思いながら何も出来ずにいます。さぁ今日からは、世界平和を願い声をあげよう。
- 淡路 放生
特選句「たつぷりと水撒き八時十五分」。作者の覚悟と涼しさを感じる。緊迫感があろう。
- 新野 祐子
特選句「鶏頭や保護司たずねる鉄工所(三好つや子)」。人生のドラマを描くのも俳句。この句、大変ドラマチックです。「静寂の縁を通りて赤蜻蛉」。そうか、赤蜻蛉はそんなところを通過してやってくるのか。妙に納得。「結論は明日にしませうソーダー水」。結論なくて生きなくてもいいのかも、すぐ覆したりしますから。物事にもよるか。
- 高木 水志
特選句「人類の一人宇宙の一流星」。作者のダイナミックな物の見方に共感した。類想感はあるが海程香川らしい俳句だと思う。
- 時田 幻椏
特選句「父母のゆるい溺愛夜の蝉」。ゆるい溺愛 に好感、成る程と思います。特選句「家系図に余白たっぷり夜の桃」。家系の広がりを期待し許す余白に、エロティシズムまで感じます。夜の蝉 と 夜の桃 夜のイメージの強烈さを改めて思い知ります。問題句「愛想無き君オクラを柔らかく茹でる」。大変気になる句ですが、この破調を良しとするか・・?
- 田中 怜子
特選句「白雨来て病室という函包む」。激しい雨が、まだ明るいから白雨としたのか、雨の激しさで白く見えたのか。たちまちに病院を包んでしまうという一瞬の景を読んだのか。雨の音、しぶき、病院の建物さえ函のごとくになる、自然のすさまじさか、昨今の気候変動なのか。特選句「長き夜や日記とラヂオ深夜便」。あるある、と思った。何故か眠れないとき、スマホをみてしまう。目がつかれる。ラジオ深夜便なんて、かなりお年を召した人か。今まで生きてきた人生感などもにじみ出ている。
- 大浦ともこ
特選句「一人居ののりたまごはん夏座敷」。広い座敷に一人でいる状況には孤独感がただよいますが、「のりたまごはん」の具体的でユーモラスな中七で一人を楽しんでいる明るい一句になっているところが好きです。特選句「結論は明日にしませうソーダ水」。ふわっとなげやりな感じが夏の終わりの今にしっくりときました。季語のソーダ水の泡の消えゆく様子とも響きあっています。
- 稲 暁
特選句「たっぷりと水撒き八時十五分」。 8月6日の朝のことだろう。作者は路にか、庭にか、たっぷりと水を撒く。そして、運命の時刻を迎える。抑えた表現の中に万感籠めた作品と読んだ。
- 竹本 仰
特選句「知らぬ子の手の握りくる夏祭」。これとは反対に、知らぬ母親の膝に乗ったという幼いころの失態を思い出しました。多分寝ぼけてたんでしょうね。母親の膝に戻るつもりが、違う母親だったという。だがあの時代は寛容だった、そのまましばらく本人が気づくまで置いてくれたのですから。今じゃそうはいかないでしょう。そういう一時代前を思わせる風景です。親と間違えて小さい手が握りに来た。何ともくすぐったい感触ですが、夏祭が見ず知らずとも横のつながりを育む場であること、それが今にも続いていることを思い出させる句ですね。特選句「宅配の柩を置いて行く炎天」。一読、〈はつなつのゆふべひたひを光らせて保険屋が遠き死を売りにくる〉という塚本邦雄の歌を思い出し、時代の推移とでも言うべき対照を感じました。たしかに今や柩が宅配便で届くのに何の不自然でもありませんが、邦雄の短歌がまだまだ奥深い無言の資本主義の笑いを連想させるのに対し、ネット社会の簡明な直截性を感じさせます。そしてどうしても置き去りにされた柩には、置き去りにされた生がいま死となって運び去られるような乾ききった感触だけが残ります。死もまた流通の中に位置づけられ、その中身が空っぽになってゆくような、そんな時代感も嗅がずにはいられないと思えました。今ウクライナで、一つ一つの市民の遺体が掘られながら土に埋葬されてゆくあの湿り気に比して、清潔簡潔明瞭なる最近の葬儀の合理性、ふと何だろうと引っ掛かります。特選句「トマト噛むその混沌を得るために」。食む、ではなく、噛む。物事を抽象化すれば美しくシンプルになるのだろうけれど、物事を直で感じた時にはまず混沌があるのでは、と思います。そういう直感そのものの良さがよく出ていて、何だか嬉しく感じた句でありました。以前、仏道修行に明け暮れ、高野山から帰った後、或る用事で海に行ったとき、ふいに踏み込んだ磯を思い出しました。履物の足首まで浸かって感じた海。修行していた感覚と凄いぶつかり合いを感じました。その時は、この混沌!と、信じられないくらい興奮したのでしたが、多分、この混沌に近いものではないかと、この句の「混沌」を読みました。
自句自解「問いだけでいいのほんとは桃なんて」について。相聞歌というつもりでしょう。相聞というのは、互いに問いかけ、互いに聞き分けることで成り立ちます。桃が欲しいの、と言えば、すぐ桃を用意してくれた。でも、桃じゃないの、なぜ僕に?というそこをもう少し味わって欲しかったのに。そんな微妙なすれ違いの風景でしょうか。という情愛過多気味のつぶやきというところですね。→高松の句会で、自句自解のリクエストがあり竹本さんにお願いしました。感謝です!
- 中村 セミ
特選句「薄青き耳たぶをもて蛇にあふ」。虚無感があって、まるで、眠狂四郎をかんじました。僕はその短い詩から何かを感じる読み方しかしないので、そういうことです。「積乱雲 常に冷めてる頭のすみ」。の積乱雲の正体はなにか。「家系図に余白たっぷり夜の桃」。の家系図に余白も面白いと思う。
- 河野 志保
特選句「たっぷりと水撒き八時十五分」。今年もこの日この時間が巡ってきた。被爆者の苦しみを思い、たっぷりと水を撒く作者。「八時十五分」に込めた鎮魂と平和の希求がまっすぐに伝わる。
- 島田 章平
特選句「たつぷりと水撒き八時十五分」。句のどこにも「ヒロシマ」とは書かれていない。しかしこれは紛れもなく、八月六日のヒロシマ。時間だけの表現がその緊張感を際立たせている。秀句。
- 滝澤 泰斗
特選句「父母(ちちはは)のゆるい溺愛夜の蝉」。巷の耳目を集めている事件で二つの事件に注目している。一つは、福原愛さんの子供を取合う事件、そして、もう一つは、札幌の首切り殺人事件。作者には申し訳ない気分だが、いの一番の掲句を詠んだ時、後者の事件に結びついてしまった。ことの真相は全く分からないが、親と娘の愛憎が縺れにもつれた始まりは、ゆるい溺愛からか・・・夜の蝉の鳴声は現実から逃れたい呻きに聞こえた。特選句「夏草や古書の湿りの蚊を挟む」。うまいなぁ・・・感心の一句。「はちがつのかたりべがほのほふきだす」。流石に八月・・・八月ならではの句が揃った。『麦秋の戦禍ピカソの「泣く女」』 。八月の日本の原爆忌、敗戦忌の類句ながら、麦秋からウクライナ侵攻が想起された。「ゲルニカ」としないで「泣く女」にしたところが良かった。「白雨来て病室という函包む」。白雨で快癒の兆しが感じられた。「色褪せた水着は私の抜け殻」。人も脱皮を繰り返しながら生きている感じが上手に表現された。「結論は明日にしませうソーダ水」。議論が膠着することはよくある。ちょっととぼけた諧謔がいい。
- あずお玲子
特選句「静寂の縁を通りて赤蜻蛉(佐藤仁美)」。蜻蛉のホバリングを思いました。ホバリングをしながら静寂の縁を探しているのなら楽しい。きっと大きな目で見極めているのでしょうね。特選句「白湯のごと祖父の正調ゆすらうめ」。今は常に白湯のごときに物静かで波風とは無縁の祖父も、かつては向田邦子の父親のように絶対君主で女遊びの一つもある人だったのでしょうか。赤く艶やかな、そして甘酸っぱいゆすらの実が、生きている限り決して消えない火種のように思えて面白い取り合わせです。
- 薫 香
特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。幼い頃は床屋に行って居ましたが、必ずと言っていいほど漫画がたくさん置いてありました。その中に「はだしのゲン」を置く床屋さんを想像しました。なんかいいですね。特選句『「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み』。夏休みの開放的な気分と、これからの期待半分のんびり半分で、思わず呼びかけてかけてみたというところでしょうか?
- 榎本 祐子
特選句「かなかなや身体に泉飼ふ如く(あずお玲子)」。かなかなの鳴き声は、身の内に湧く思い、情に共鳴する。そのような情感を泉と言い、それを「飼ふ」とは、自身への慈しみの心のようで少し切なく美しい。
- 山下 一夫
特選句「薄青き耳たぶをもて蛇に会ふ」。「薄青き耳たぶ」のイメージが鮮烈。それだけで異界的な雰囲気が漂いますが「蛇」の登場でさらに強調されます。異界の不思議な光景とも現実の人間関係等を踏まえた心象の象徴的な表現とも見えますが、「会ふ」た後もただでは済まない展開が予感され、奥深く感じます。特選句「白雨来て病室という函包む」。世界中に病室は無数にあるわけですが「函」と言い切ったことで個別性が生まれていると思います。「白雨来て」から抜き差しならない運命の到来、「包む」から慈しみなどが滲み出てくる感じをしみじみ味合わせていただきました。問題句『ソーダフロート「趣味、俳句です」が正面(藤川宏樹)』。一読、意味の把握できなさにつかまりました。三読、インタビューや自己紹介をし合う場面で対面対話する人の間に、おそらく注文されたソーダフロートがあるのだと読解。「趣味、俳句です」を「正面」に押し立てているのは、作者か相手か三人称の世界なのか判然としませんが、いずれにせよなかなかに冒険的な企てなのではないでしょうか。
- 谷 孝江
特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。夫を亡くして二十年余り、一度も秋刀魚を焼くことはありませんでした。秋刀魚は一人ぼっちで食べるものじゃないとの思い込みみたいなものがあったからです。でも、焦げ具合など気を付けながら焼いた秋刀魚は格別です。今は、一尾の秋刀魚ですが年に一度か二度の楽しみを楽しんでいます。一日一日を感謝しながら・・・・・・・。
- 森本由美子
特選句「絶滅か進化か蜘蛛の糸ゆらり」。このテーマを結論づけるのは馬鹿げている、不必要と思いながらも、不安感が僅かずつ膨らんでゆく気もする。<蜘蛛の糸ゆらり>がそんな深層心理をよく表現している。
- 佐藤 仁美
特選句「向日葵咲く午後から風が強い場所」。向かい風にも力強く咲くひまわりに、けなげさを感じます。特選句「背に掛けて海の匂いの夏帽子」。背中の帽子は夏の名残ですね。
- 向井 桐華
特選句「身の芯に届く暑さとなりにけり」。本当にその通りの暑さだなと思います。熱中症になったことがありますが、何日も体の中の熱が取れず、皮膚を冷やしたり解熱剤飲んだりしても無駄だなと思いました。まさにその時のことを思い出しました。問題句「熟成の血はビーカーへ浮いてこい(川崎千鶴子)」。読む側に力が無いだけかも知れませんが、画が浮かびませんでした。
- 重松 敬子
特選句「八月の椅子置けば八月の影」。一枚の絵画を見ているような誌情あふれる一句。気怠い夏の昼下がりを想像します。
- 柴田 清子
特選句「打ち水やパン屋の猫の名はオバケ」。季語が、適切であって、たたき込むように言い切って楽しい内容の一句に仕上っている。
- 石井 はな
特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。もう余生だからと半ば投げやりと諦めに気持ちが行きそうですが、白い紙切れ‼ でこれから何でも書き込めるなんて、励まされます。金魚玉の季語も気持ちの良い取り合わせです。
- 菅原香代子
特選句「アマリリス廊下の奥が懺悔室」。教会にはなぜか アマリリスが植っていた記憶があります。その中の薄暗い先にある懺悔室への畏れと秘密めいた雰囲気を感じました。 「みぞおちに蛍遊ばせ仁王像」。夜の本堂に静かに佇む仁王像、その懐に遊ぶ蛍への慈愛を感じました。
- 亀山祐美子
特選句「背に掛けて海の匂いの夏帽子」。走った勢いなのか海で一日楽しんだつば広の夏帽子のあご紐がズレて背中に落ちている。海と空の青さまで想像させてくれる明るくて楽しさを伝えてくれる上手い佳句。
- 野﨑 憲子
特選句「掌に取れば花烏瓜さんざめく」。烏瓜の花は夜にひらく。美しいレースの衣を纏った白い花である。果実の形状からか花言葉は、佳き便り。作者の掌で烏瓜の花はどんなお喋りをしているのか。特選句「炎昼の影ばかりなり皮膚を欲る(三枝みずほ)」。一読、爆心地が浮んできた。そこには今でも焼けただれた影が犇めいているように思えてならない。大いなるいのちの混沌の影だ。
袋回し句会
蜻蛉
- 投了の覚悟ゐずまひ赤蜻蛉
- 藤川 宏樹
- 時の扉一斉にひらき赤とんぼ
- 野﨑 憲子
- 伝言板へ「先に行くよ」と赤とんぼ
- 野﨑 憲子
- 蓮に蜻蛉この瞬間は真昼
- 薫 香
- ダイドコにとんぼ放したのは誰れだ
- 銀 次
- 蜻蛉の行き交ふ人生何周目
- あずお玲子
- 赤とんぼ明日は明日の風のまま
- 島田 章平
- 蜻蛉追う薬の如き時間かな
- 中村 セミ
- 憧れは蜻蛉のやうに直線直角
- 三好三香穂
百日紅
- ちちははもわれも無名や百日紅
- 島田 章平
- 百日紅百日燃ゆ恋したき
- 三好三香穂
- 百日紅こぼるる過疎の町
- あずお玲子
- 淋しいとは言はない白いさるすべり
- 柴田 清子
- 母子手帳は四冊風の百日紅
- 野﨑 憲子
- だらだらと未練げに咲くな百日紅
- 銀 次
- 百日紅あいつがここにいたころは
- 藤川 宏樹
お薬手帳/母子手帳
- 八月の女囚健気や母子手帳
- 銀 次
- 母子手帳賜はる星月夜きれい
- あずお玲子
- お薬手帳忘れましたと残暑
- 島田 章平
- 初盆や母の遺品に母子手帳
- 島田 章平
- 父の名は空白秋の母子手帳
- 柴田 清子
草の花
- 草の花おーいそろそろでておいで
- 島田 章平
- 草の花牧野博士の精密画
- 三好三香穂
- 無器用な暮らしもよろし草の花
- あずお玲子
- 草の花機嫌をとってゐるところ
- 柴田 清子
- 雨降って泥跳ねて泣いて草の花
- 銀 次
- 生きものに縄張りのあり草の花
- 野﨑 憲子
蟷螂
- カマキリになるなら死んだ方がまし
- 柴田 清子
- 蟷螂の貌のひえびえとして無味
- あずお玲子
- 枯蟷螂きのふのままに止まりをり
- 三好三香穂
- 蟷螂の両手広げロシア見る
- 中村 セミ
- 蟷螂飛んだ歌舞伎役者のやんちゃ
- 藤川 宏樹
【通信欄】&【句会メモ】
【通信欄】何度か、「海程香川」の吟行に参加してくださった宮崎県小林市の永田タヱ子さんが他界されました。90歳の誕生日を迎えられたばかりで、十日に、御自宅で亡くなっていたそうです。お一人住まいでした。自ら車を運転し、鹿児島の刑務所へ今も俳句を教えに出かけていらっしゃいました。130歳まで生きる!って言われ、とてもお元気だったそうです。伊吹島吟行で軽トラの荷台に乗った永田さんの満面の笑みが忘れられません。心からご冥福をお祈り申し上げます。
【句会メモ】八月句会は、お盆前と重なり、一週間開催を遅らせました。猛暑の中、九名の方が集まり、四時間半の熱い句会が展開されました。八月という日本にとって最も重い月に、平和を願う、渾身の作品が多く寄せられました。これからの句会がますます楽しみです。
Posted at 2023年8月27日 午後 04:38 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]