香川句会報 第54回(2015.09.19)
事前投句参加者の一句
人間やくるり丸太となる晩夏 | 若森 京子 |
自由に歩く陸奥東京のスクイズ | KIYOAKI FILM |
萩の庭ふわりふわりと米寿かな | 髙木 繁子 |
十五夜の少年手首より病めり | 小西 瞬夏 |
こぼれ萩両手で受ける喪失感 | 重松 敬子 |
人たまに枯れ向日葵に口づける | 鈴木 幸江 |
万感の帆のやう夏の雲うごく | 竹本 仰 |
かたつむり欅は何時も静かな木 | 小山やす子 |
ええっ今なにか言ったの赤とんぼ | 増田 天志 |
揺り椅子とビールと九月老水夫 | 銀 次 |
放哉の道とぼとぼと赤とんぼ | 古澤 真翠 |
全身が髪ずぶ濡れの曼珠沙華 | 柴田 清子 |
老いの夜を独り占めして鳴くちちろ | 藤田 乙女 |
ラ・フランス観音さまに腰まわり | 稲葉 千尋 |
稲藁を焼きし郷愁我を焼く | 中野 佑海 |
始まりは貧しく若い合歓の花 | 河野 志保 |
一塊の牛酪(バター)となりて夏終る | 尾崎 憲正 |
ロボットを作る小5の夜長かな | 野澤 隆夫 |
箱庭に微熱をこぼす秋揚羽 | 三好つや子 |
コスモスや空缶とわたしポコンと置かれ | 久保 智恵 |
虫の音と赤子の声と競う夜 | 中西 裕子 |
生死(いきしに)の話ぶどうチュウチュウ吸っている | 伊藤 幸 |
蕪村遠く青きペティキュアの晩夏かな | 桂 凛火 |
存分に海を見し眼に女郎花 | 高橋 晴子 |
彼岸花のまっ只中という居場所 | 谷 孝江 |
<国会にて強行採決>秋霖や石棺内の耳ふさぐ人 | 田中 怜子 |
昼行燈なれど乙なり榠樝の実 | 寺町志津子 |
くずのはな被爆童子とのみ銘す | 野田 信章 |
箱しめて簡単な闇九月尽 | 月野ぽぽな |
秋天へ木登りの足よく伸びる | 三枝みずほ |
たもとほるデカルトカント大花野 | 郡 さと |
月光や鎮守の森は音楽会 | 漆原 義典 |
ころがりし秋のかたまり石白し | 亀山祐美子 |
野分だつ首に形状記憶シャツ | 矢野千代子 |
鬼灯や原日本人の腰骨 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 月野ぽぽな
特選句「ラ・フランス観音様に腰まわり」そういえばラ・フランスのふっくらした部分は腰まわりのように見える。自然の恵みと慈悲深い観音様との出会いはさりげないが、そこを結ぶ感覚は冴えている。ラ・フランスの味も甘露のようにも思えてくる。おおらかな詠いぶりも内容に合っていて、読後はとても豊かに気持ち。
- 中野 佑海
特選句「昼行燈なれど乙なり榠樝の実」昼行燈は役に立たない象徴。かりんもそのままでは食べられないし、重いし、ねっとり臭いし、固いし。黄色くて形も何気に行灯に似ていて。でも、蜂蜜に漬けると、香しい匂いと味と喉の荒れに効く素晴らしい薬に変身です。この長々と言っている説明を一言で言い得て妙なところがとても乙な俳句と思います。
- 野澤 隆夫
特選句「揺り椅子とビールと九月老水夫」モノクロのヘミングウェーが目に浮かびます。「若い人」では全く興ざめで「老水夫」がいいです。特選句「一塊の牛酪(バター)となりて夏終る」…「バター」は「牛酪」と漢字で書くのですね。小生も今年の夏は、〝一塊のバター〟で終わった感じです。問題句(国会にて強行採決)「秋霜や石棺内の耳ふさぐ人」…「詞書」(言葉書き)と言うのでしょうか、「国会にて強行採決」でこの句がよくわかります。9月4日のTV「ミヤネ屋」で突然、阿部首相が出演しびっくり!思わず時事句?「テレビでも首相饒舌野分過ぐ」と作りました。
- 小西 瞬夏
特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」秋になると闇が深くなるようだ。気分的にも夏よりは少しブルーになる。そんな作者は箱の中に小さな闇を見つけた。それは自分の中にある闇と相似形なのだ。それは箱をしめることで作ってしまえる簡単な闇。開けるのも意外と簡単なのだ。ただ、自分が箱を開けるのか、しめるのか、そのちょっとした意思が必要なだけだ。そんな闇の描写を「簡単な」とそっけなく言ってしまうことで、そのちょっとした意識の重要さに気付く。
- 田中 怜子
特選句「白雨来て裸の大地想像す(河野志保)」突然の雨、たちまち土の野性的な匂いが立ち上がり、裸の大地を実感します。特選句「ころがりし秋のかたまり石白し」空気が透明になり、木の葉のからからと転がる音も聞こえるような秋を感じます。
- 古澤 真翠
特選句「長月や雫のようなことば積む(若森京子)」言の葉を大切になさっておられる作者の 穏やかなお人柄が垣間見えるような句だと感じました。お友達になりたいと思いました。
- 増田 天志
特選句「人たまに枯れ向日葵に口づける」私情と詩情とのアマルガム。俺なら、薔薇の棘に、くちづけるだろうよ。覚醒には、血の匂い。
- 竹本 仰
特選句「くずのはな被爆童子とのみ銘す」原爆の行方不明者の一人の方の墓碑銘のことを詠んでいらっしゃるのでしょうね。行方不明という事実を知ったという形での作品でしょうか。おそらく、無縁仏というかたちで、誰か葛の花をお供えしていたのでしょうか。そうされた方も、あるいは行方不明の身内の方が、おありなのかもしれませんね。そういう想像を「のみ」という助詞が促しています。話は変わりますが、日本とドイツにだけ、化学兵器の解体を専門にしている方がいるというのを知っていますか?それも民間の会社(日本ではただ一社)で、中味の分らない化学兵器を、色んな方法で中身を分析しその器の中で解体させたりするのだそうです。そういう化学兵器は、第一次、第二次大戦の区別なく、世界中地の中に無数に転がっているのだそうですが、気の遠くなる人類の遺産です。特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」ああ、これは、死のことかな、と思いました。こういう「簡単な闇」であればいいなと、つねづね思っております。伊東静雄に「倦んだ病人」という作品があって、入院中の病舎が停電している状態で「ははあ。どうやら、おれは死んでるらしい。いつのまにかうまくいつてたんだな。占めた。ただむやみに暗いだけで、別に何ということもないようだ。」と勘違いし安心する自画像を描いていました。これを若い頃読んで、心底、ああ、いい、これいい、と感動した小生であります。きっとこの箱の蓋も軽いんだろうなあと、こういう無常感、大変好ましく思い、採らせていただきました。「たもとほるデカルトカント大花野」は、音だけで楽しく、取りましたが、何となくこの自棄気味な味があり、お堅い男子とデートしているような、でも、「熱い血潮に触れもみで」と挑発しているような面白さもあって、なかなかのもだと、いい味わいをいただきました。
- KIYOAKI FILM
問題句「(夜のアドリア海にて)眠る湾どこかに難民(ふ)船(ね)が月涼し(田中怜子)」一読、大変面白く、痺れる。しかし、どうもわからない。ナニカ引っ掻かる。面白いけれど、なにか引っかかる気がしました。ルビ表記の目立つ魅力ゆえの読者の感情かもしれません。特選句「(国会にて強行採決)秋霖や石棺内の耳ふさぐ人」良かった…。国会を石棺内とはそのもので、そうか、こう言えるのか、と、面白かった。句とは別に今の国会、政治、無茶苦茶酷いですね。酷いなあ、と思う春夏秋…冬は更にか!…。「耳ふさぐ人」に共鳴。右の聴覚失った者としては、きつかったです。
- 伊藤 幸
特選句「稲藁を焼し焼きし郷愁我を焼く」、贖罪の意を含んでいるのか?故郷を離れ或いは捨て、元には戻れぬと分かりつつも郷愁に浸る、その思いがひしひしと伝わってくる。「人間やくるり丸太となる晩夏」晩夏が効いています。打つべき策が見つからなくもうどうにでもなれ!と開き直った時、不思議と人間は強くなれるものです。深読みでしょうか?「人たまに枯れ向日葵に口づける」人間長い事続けていると疲れることしばしば。向日葵の明るさ強さに助けを求めたくもなります。たまになら良い方です。「木の実拾う神の許し乞ふ時は(柴田清子)」 クリスチャンかな?いかなる罪も許しを乞う者は全て神は許し給う、と昔教わりました。「木の実拾う」の優しい表現好きです。「たましいは弾ますものよ花野にて(若森京子)」落ち込んだ時、自分を励ます者は自分しかいません。花野の中で精一杯元気を取り戻してください。「箪笥黴び母の匂ひをもてあます(小西瞬夏)」母の思い出の詰まった箪笥。捨てるにしのびなく「もてあます」。女性であるが故の母への思いがよく表されている。「くずのはな被爆童子とのみ銘す」・・「くずのはな」が悲しいしいですね。広島、長崎での被爆者の中には性別さえ不明で多くの方が亡くなられ、特に童子という字に涙してしまいます。因みに私の伯母従兄も被爆で命を落としました。
- 漆原 義典
特選句「秋の部屋九官鳥の独り言(三枝みずほ)」は、秋のもの悲しさを九官鳥の独り言でうまく表現し、繊細で素晴らしい句であると感動じました。
- 三好つや子
特選句「自由に歩く陸奥東京のスクイズ」周りの空気を読み、それに応えないとどんどん孤立してゆく現代社会。素のままで自由に生きれたら・・・そんな気持ちが「東京のスクイズ」に投影され、惹かれました。特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」夏という激流の時が過ぎ、からだとこころが空っぽな九月。この季節に漂う喪失感がレアに伝わってきて、共感。問題句「コスモスや空缶とわたしポコンと置かれ」特選にしたいほど、作者の目線が面白い。しかし、俳句としてまだ立ち上がっていないような気がします。
- 寺町志津子
特選句「父憶う刻秋冷の巨鼇山(高橋晴子)」掲句で、巨鼇山(キョゴウサン)を知った。四国遍路八十八ケ所の六十六番札所。四国霊場中、最も高い標高という。父を憶うとき、秋冷のその霊峰札所が浮かんでくる作者。きっと父の背を見ながら成長し、大人になって、父亡き今も事ある毎に父の背を思い、力づけられているであろう作者の幸せを思う。僭越ながら、私の父親像とも重なり感動した。特選句「揺り椅子とビールと九月老水夫」おそらくは、遠い航海から帰国し、休養中の老水夫か既に引退した老水夫か。揺り椅子、ビール、九月の三点セットはありきたりのようではあるが、映画の一シーンのように心惹かれ、外されなかった。共感する句として「秋霖や石棺内の耳ふさぐ人」「宰相のことば軽々赤とんぼ(尾崎憲正)」
- 銀 次
今月の誤読●「人たまに枯れ向日葵に口づける」。「人」って一般化されてもなあ。いるのかなあ「向日葵に口づける」人って。少なくともわたしはしたことがないし、周辺にもそれらしい人物は見当たらない。ゴッホ? うーん、どうだろ? いくら好きだからって「枯れ」向日葵だぜ。なんかザラザラして食感わるうそうだし。あっ、と思い当たったのがタカハシ(仮名)の後家さんだ。まだ四十前でけっこう色っぽい。うちの三件隣りにひとりで住んでいる。「まだイケるんじゃねえの」というのが近所のオトコどもの評価だ。ただなんとなく近寄りがたいといのが欠点といえば欠点。最近聞いたウワサでは原書でゲーテの「ファスト」と読んでいたという。さすがに夜這いをかけるには敷居が高すぎる。だがそれを乗り越え忍び込むのが勇者だ。だがそうした豪の者には、奥の手を使う。やわら枯れ向日葵を取り出して(どこにしまっていたんだ?)口づけをするのだ。な、なんなんだこのオンナ。べろーん。うへえ。べろべろべろーん。これはキクだろうなあ。どんな色ボケもこれにはたじろぐだろう。「たまに」この手を使って不埒なオトコを撃退する。うん、ありそうなハナシだ。(ねえよ、ばかやろー)。
- 尾崎 憲正
特選句「存分に海を見し眼に女郎花」句会を休ませていただいて、海の環境調査に同行していましたので、私の実感でもあります。遠景の海の青さと、近景の女郎花の辛子色の対比が見事です。夏や冬の海は長時間見ることは余りありませんが、秋の海なら飽きることなく存分に眺めることができます。
- 小山やす子
特選句「万感の帆のよう夏の雲動く」テニスをしているときちょっちゅう空を見上げる。一試合終わって空を見上げると雲はもう動いて形を変えている。癌におかされた友人が「雲のカタログ」という本をくれた。空を見るたびにその友人を思いだして懐かし涙ぐむ。
- 鈴木 幸江
特選句「彼岸花のまっ只中という居場所」咲いた咲いた。今、まっ只中と主張しているように咲いている彼岸花、その彼岸花に己を重ねる。人間は自分の意識を通して世界を理解するのだから、それを、世界のまっ只中に居ると言えば言える。そんな風に、孤独と共に自覚される自己を彼岸花に譬えれば、清々しくもある。特選句「野分だつ首に形状記憶シャツ」野分の修辞から、現代にも存在する荒々しい自然に思いが至る。それに、負けまいと生きている現代人。台風の街を行く、形状記憶シャツを着た庶民と呼ばれる勤め人の姿がありありと浮かぶ。台風も、形状記憶シャツも、どちらも現実だ。その現実をしっかりと受け止めて生きて行きたいと思わせてくれる句だ。問題句「銀やんま光に刃を立てるよびび」“びび”をどう感受しようかと少し悩んだ。しかし、銀やんまの翅が刃のように白く輝いていると言っている。とても美しい作品だ。その美しさを擬態音で表すと、“びび”となるのだ。この詠み手の身体を揺さぶる表現は、やっぱり俳句に在りだと思った。
- 河野 志保
特選句「全身が髪ずぶ濡れの曼珠沙華」句の曼珠沙華は妖怪のようだ。「全身が髪」の把握が新鮮。心地よいインパクトに満たされた。
- 重松 敬子
特選句「ラ・フランス観音さまに腰まわり」仏様に性別は無いと思うのだが、どう見ても女体を連想させる仏像は沢山あり、観音像も豊かな大地のような母性を想像させます。自然の恵みである洋梨のあの形と、いい感じに、ぴったり。
- 亀山祐美子
特選句「人間やくるり丸太となる晩夏」いや~参りました。夏バテの極致。体力の限界。若い時はもっと遊べたんですけどねェ…。逆選句「夏痩せに乳房二つが張りついて(河野志保)」事実なんですけどね、何とも切ない。年取ると胸から痩せるんです。古文で習った『垂乳根』を実感し溜息の日々。追い撃ちかけなくてもいいんじゃない。作者が男なら悪意を感じるけど、女なら凄みを感じる一句です。
- 三枝みずほ
特選句「たましいは弾ますものよ花野にて」花野に包まれて、ふっとそんな気持ちにさせられることがあります。たましいを弾ますという感覚がいいです。自分を開放するというか、前向きにさせてくれる一句で共感できました。
- 稲葉 千尋
特選句「生死(いきしに)の話ぶどうチュウチュウ吸っている」何かよく見かける光景であるとともに自身もそんな話しをしている。中七の「ぶどうちゅうちゅう」が、佳い。特選句「うつしき引っき傷よ流星は(月野ぽぽな)」・・流星を、「うつくしき引っ掻き傷よ」と、比喩した感性をいただく。
- 柴田 清子
特選句「ええっ今なにか言ったの赤とんぼ」ええっ!こんな俳句もあっていいと思ったの・・。それ以上に、赤とんぼが、作者であって、作者が赤とんぼになった瞬間、秋の日差しの中で。九月連休の最中、欠席者が多かったけれど、憲子さんを囲んでワイワイと。徳島から参加の小山さん宅の庭の差し入れの酸橘の真っ青な香の中で、九月句会が始まりました。ありがとう。→ご参加、有難うございます。袋回しの「酸橘」の作品、それぞれに表情が豊かで良かったですね!
- 谷 孝江
特選句「青栗山の星の出きっと母だろう(野田信章)」なんて優しい句でしょう。星になって家族を見守っていらっしゃるお母様と家族の人達。美しい情景が身に沁みてきます。ずっとずっと、お幸せに。特選句「たましいは弾ますものよ花野にて」身も心も花野に置いて毎日を過ごせたら・・・。辛いニュースが続く日々が少しは明るくなるでしょうに。おエライ先生方、ゴルフ場ではなくて、花野に出掛けてみませんか。たましいも身も心も優しくなれますよ、きっと。
- 野田 信章
特選句「鬼灯や原日本人の腰骨」は、郷愁と共にそこを突き抜けた鬼灯そのものの本姿が即物的に把握されていて「原日本人の腰骨」を十分に宜なわせるものがある。浮き足立った時代相を踏まえての作者の原郷志向の視点が批判精神を込めて美しく結実した句である。結実と言えば勿論短詩型としてのことだが、その生き身の反応が美しく結実したものとして次の句に注目した。「生死の話ぶどうチュウチュウ吸っている」「彼岸花の真っ只中という居場所」「半壊の家にくるっと出目金魚(竹本 仰)」「魚のごと暗し石に端居して(小山やす子)」「箱しめて簡単な闇九月尽」
- 桂 凛火
特選句「かたつむり欅は何時も静かな木」かたつむりと欅はつきすぎないですが、どちらも静かで身近な存在ですね。かたつむりは最近見なくなりましたが、みつけると幼いころの情感が戻る気がします。「何時も静かに」としか言わないのに妙に癒されます。欅の木陰で静かな平穏な時間を過ごす様子が共有できてとてもよかったです。
- 中西 裕子
特選句「人たまに枯れ向日葵に口づける」夏の盛りのまっ黄色の力強いひまわりもいいけど、枯れひまわりにいとしさを感じる、なにか優しい気持ちなのか、終わるものへの愛惜を感じるのかひかれました。他にもきら星のような句がたくさんあるのですが、時間貧乏で楽しめてなくて残念です。よい季節なのでいい句が浮かびますように。
- 郡 さと
心を尽くして、どの句も理解しようと努めたのですが、私のように、深慮がなく、食感でものごとをとらえがちの者には少し、理解不足です。「揺り椅子とビールと九月老水夫」・・『老人と海』が彷彿とさせられました。「秋の部屋九官鳥の独り言」九官鳥は、さて誰のこと。「存分に海を見し眼に女郎花」女郎花を季語として生かせたのでしょう。考えるのは止めました。この方には女郎花の季語のあっせんが一番だった。「「子等の背を超えて飛び立つ螇蚸かな(藤田乙女)」バッタには、よくある景。好直な句だから私は好きです。「夏痩せに乳房二つが張りついて」可笑しかった。滑稽とユーモアは、俳諧において最も尊重すべきこと。良い句ではないですか。「八頭身美人の土偶月涼し(三好つや子)」「くずのはな被爆童子とのみ銘す」句作りに努力したのか?しないのか。こんな句に親しみをおぼえます。又、言いたい放題です。
- 高橋 晴子
特選句「くずのはな被爆童子とのみ銘す」〝銘す〟とまではいらないと思うが、この圧倒的な現実感に訴えるものあり。問題句「眠る湾どこかに難民(ふ)船(ね)が月涼し(田中怜子)」今、問題になっている難民船のことを訴えているのだが、難民船を〝ふね〟と読ますのには無理がある。難民船をそのまま使って句にして欲しい、いい句になると思う。
- 野﨑 憲子
特選句「秋天へ木登りの足よく伸びる」・・「秋天へ」がいい、そして「よく伸びる」がまた良い。まるで魔法の豆の木を登ってゆくようです。どんな冒険が待ちかまえているのかワクワクします。問題句「兄さん!新!百舌鳥の叫喚「父帰る(野澤隆夫)」これだけ、気合に満ちた言葉を詰め込める作者にエールを送りたいです。少し破天荒で問題句にさせて頂きましたが、不思議さが、魅力です。
袋回し句会
曼珠沙華
- ひとひらの嘘美しき曼珠沙華
- 小山やす子
- 直感のすとんと佇ちぬ曼珠沙華
- 野﨑 憲子
紙
- 人殺せしも罪状ひとひらの紙となる
- 銀 次
- 白い紙白い匂ひす秋の暮
- 柴田 清子
酸橘
- 酸橘君ゆっさりどっさり母の胸
- 中野 佑海
- 酸橘もぐ君の可愛い団子鼻
- 小山やす子
柿
- 柿熟れる千年前の都市が見ゆ
- 柴田 清子
- 玉乗りの少年へ青柿の眼のギリッギリッ
- 野﨑 憲子
敬老日
- 老ひの日に美しきもの数へあげ
- 銀 次
- 立ち向かふ逆風満帆敬老日
- 野澤 隆夫
句会メモ
九月の「海程」香川句会は、シルバーウィークの初日ということもあってか、参加者が少し少なかったですが、徳島から小山やす子さんが酸橘をたくさん持ってご参加くださいました。酸橘君に見守られながら、とても充実した句会になりました。
事前投句の合評が終わり、小休止に入った頃、高松市在住の海程同人佐藤稚鬼さんが見学にいらっしゃいました。長く「海程」を休会なさっていらしたとか、初対面でしたが、笑顔の爽やかな大先輩でした。最近、佐藤さんの作品を海程誌で見かけ、お目にかかりたかったので、尚さら嬉しかったです。
Posted at 2015年9月30日 午後 04:24 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
香川句会報 第53回(2015.08.22)
事前投句参加者の一句
白靴欲し野に水汲みにゆくための | 小西 瞬夏 |
兄さんへ桔梗は今年も咲きました | 髙木 繁子 |
蝉穴かと覗く理論派浪漫派 | 谷 孝江 |
半裸なるチェロの独奏椎若葉 | 野田 信章 |
炎天や銃を取らさぬデモに在り | 尾崎 憲正 |
三伏や漁師ぽつりと「鯵獲れぬ」 | 寺町志津子 |
こおろぎの微かに聴こゆ命かな | 鈴木 幸江 |
牝鹿佇つ水より遠き瞳して | 月野ぽぽな |
一列に並びしカンナ黙祷終ゆ | 重松 敬子 |
うすものや ゆるゆる下る石だたみ | 古澤 真翠 |
いち抜けた脛をくすぐるペンペン草 | 河野 志保 |
鬼灯と鉄路をまたぐ老いしんしん | 矢野千代子 |
炎昼や終戦詔書読み返す | 野澤 隆夫 |
島らっきょ明日の晴れは予約済み | 中野 佑海 |
一日中蝉の配置を考える樹 | 稲葉 千尋 |
蝉しぐれ古書にあまたの走り書き | 増田 天志 |
フクシマや罪なき桃は売れ残り | 藤田 乙女 |
片蔭の風にゆるされ恋の文 | 桂 凛火 |
ひまはりや満員電車が空を飛ぶ | 銀 次 |
折鶴は千枚の紙八月来る | 若森 京子 |
夏怒濤岡本太郎が迫り来る | 三枝みずほ |
ヒロシマよ永遠に赫い眼をせよ | 上原 祥子 |
一行の詫び状ひぐらし鳴き終わる | 伊藤 幸 |
鮎釣りの竿が形見に若精霊 | 郡 さと |
待の灯やゆっくり羽化の蝉がいて | 田中 怜子 |
木槿花白くぽっかり入院日 | 中西 裕子 |
基地いらぬ生きゐる限り沖縄忌 | 高橋 晴子 |
炎天下背骨首筋立て直す | 亀山祐美子 |
行きずりがこんなに淋しい走馬燈 | 小山やす子 |
幾千の夜があぢさゐにありて待つ | 竹本 仰 |
日常という水泡(みなわ)が多し茗荷の子 | 久保 智恵 |
老後ってアドリブなんだ鼻曲り | 三好つや子 |
熊蝉に体の芯を明けわたす | 柴田 清子 |
秋近しほんの二度の差だけなのに | 漆原 義典 |
山彦ガ饒舌な我ガ菊のをと | KIYOAKI FILM |
万の石に万の言の葉夕蜩 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 増田 天志
特選句「山彦ガ饒舌な我ガ菊のをと」難解な句は、様々に鑑賞出来るので、楽しい。音なのか、ノートなのか。木霊なのか、山彦海彦なのか。菊に聴き入っているのか、菊の御紋すなわち皇室について思索記述しているのか。ミステリアスな作品だ。
- 中野 佑海
特選句「老後ってアドリブなんだ鼻曲がり」私は絶対意地悪ばあ様になろうと誓っていました。毎日、孫を相手に突拍子も無いことをして楽しんでいます。つむじ曲がりのへそ曲がり、そして、周りから、鼻つまみです。良い感じです。最高の楽しみです。問題句「一日中蝉の配置を考える樹」凄い面白い句だと思います。がちょっと俳句とも違う気がしました。「一日中」の上五を何か他の言葉に変えてみたら良いのかなと思います。今日の句会、後半の「俳諧歌仙」増田天志さんの強引な宗匠の教えと手解きの宜しく、とても面白過ぎて時間が経つのが早かったです。まだまだ、居たかったですが、泣く泣く孫の世話に戻りました。増田さん楽しい時間を有り難うございました。増田さんの偏見に見えて的確な講評とても勉強になりました。また、高松句会に揺さぶりを掛けに来て下さい。
- 野澤 隆夫
二十二日はお世話になりました。久々の句会参加で、さすがに昨日はぐったり。でも大いに楽しめました。野﨑さんはじめ、参会者、遠路お越しの増田さんにも感謝です。ありがとうございました。今月の特選句は「夏怒涛岡本太郎が迫り来る」です。昭和40年代、「週刊朝日」に〝岡本太郎の眼〟というエッセーが連載されてました。後に万博の〝太陽の塔〟を創造し凄い人だと感動した記憶があります。夏怒涛に、「芸術 は爆発だ!」と、岡本太郎の大きく眼を見開いて両手をひろげた、あのポーズが浮かびます。後半の歌仙も難しかったが、増田さんの軽妙な捌きで楽しかったです。起句(たてく)秋連衆(れんじゅ)奮闘半歌仙 (たかお)
- 尾崎 憲正
特選句「基地いらぬ生きゐる限り沖縄忌」戦争法が国会で議れている今、辺野古に基地が建設されようとしている今、一年に一日の沖縄忌には何の意味はありません。作者の強いメッセージを受け止めました。
- 三好つや子
特選句「ひまはりや満員電車が空を飛ぶ」広島と長崎の原爆にとどまらず、テロによる爆破事件、竜巻などの災害・・・無惨な光景が目に浮かびます。先の読めない不穏なこの世をさらりと句に仕立てた事に脱帽。特選句「山盛の午睡ダリア咲いている(上原祥子)」たった三十分眠っただけなのに三日位寝ていたような深い眠りを体験した作者。ダリアとうまく響き合っています。問題句「とびうお飛ぶ君は蹄鉄フェチだった」妙に好奇心をくすぐる句で、「蹄鉄フェチ」の表現に魅力を感じつつ、インパクトが強すぎて、どんな「君」なのか見えてきませんでした。
- 河野 志保
特選句「両手で測る夏空の端から端(三枝みずほ)」両手を広げて見上げた夏空の広さよ。「端から端」がすべてを語っている気がする。さわやかでダイナミックな句姿にひかれた。
- 竹本 仰
特選句「蝉しぐれ古書にあまたの走り書き」古書ファンの一人として、アルアル感で採りました。多分、これは、数十年前の誰かの「走り書き」なのでしょうね。沸いてくるような、その初代持ち主の当時の走り書き。だから、この「蝉しぐれ」は、過去形をも含んでおり、作者の自己の過去への共感ということにもなるのでしょうね。この共感、しびれますね、特に、「こいつ、意外と鋭いなあ」という時など。もちろん、この古書が、大時代のものであると、蝉しぐれは更に大きくなるのでしょうね。わたくし、初めはつい誤読して、「古文書」と受け取っていたのでしたが、それもまた味があるかとも。特選句「山椒魚(はんざき)を踏むふるさとは青く切なし」・・ 「山椒魚を踏むふるさと」が、とてもリアルです。にゅるっとするのでしょうか、それともごつっと。山椒魚を踏めなくなった、その淋しさに気づいたとき、かけがえのない大きな喪失感を、「青く切なし」というのは、妙に胸を傷ましむるものがあります。井伏鱒二「山椒魚」のあの山椒魚が、この句を読んだら、きっと顔をくしゃくしゃにするのではないか。「山椒魚は、悦んだ。」というように。「ひまはりや満員列車が空を飛ぶ」は、原爆のことなんでしょうか。昔、映画「黒い雨」に、そのようなシーンがあったような。その映画の後、出演者・北村和夫さんがその映画を題材にした一人芝居も見ましたが、演じるだけでもものすごいオーラを感じるシーンだったと述懐していましたね。
- 寺町志津子
特選句「炎天とふ巨き器になんの哲学(銀次)」日本列島を南から北まですっぽり包んだ今夏の猛暑、猛暑。ただただぼーっとして思考力ゼロ。高邁な哲学なんて入る余地なしの境地を詠んだ諧謔。外すわけにはいかない。「四匹の猫の隊列蝉時雨」好きな句。この四匹の猫はどんな関係なのか。蝉時雨の中、それぞれどんな表情で隊列を組んで進んでいるのか、虚か実かも定かでないが、メルフェンの世界にしっかり遊ばせていただいた。特選を迷った句「基地いらぬ生きゐる限り沖縄忌」「炎天や銃を取らさぬデモに在り」。今、私達が声を大にして発信すべき句ではないかと痛感した。
- KIYOAKI FILM
特選句「夏つばめあれは我家の巣立かな(稲葉千尋)」季語が重複しているようで、(よく俳句を知らない為、物も言えないが)それでも美学生の絵や、風景写真の景色が伝わってきました。「夏つばめ」「燕」よりも心地よく聞こえる。問題句「いち抜けた脛をくすぐるペンペン草」・・「ペンペン草」つまりは躾に使う、お尻ペンペンであり、私は「いち抜けた」で怒られているのではないかという風に読んだ。誤読であって欲しい。「いち抜けた脛をくすぐるペンペン草」やはり怒られているのか? 無学な自分が恥ずかしい。
- 稲葉 千尋
特選句「熱帯夜の枕こつんと椰子の実か(増田天志)」なかなか寝つかれぬ熱帯夜。「枕こつんと椰子の実か」は、実感。特選句「羊水の感触醒め際の素足(月野ぽぽな)」醒め際の素足は、まさに羊水感覚いや感触か、この感性をいただく。
- 古澤 真翠
特選句「叫喚のつまっておりぬ西瓜割る(重松敬子)」子ども達の歓声が聞こえてくるような夏の風景。「行きずりがこんなに淋しい走馬燈」一期一会の出会いと別れだけではなく、いろんな思いを感じさせる句に 何故か涙ぐみました。「秋草の朝のハミング峠越ゆ(野﨑憲子)」明るく爽やかな朝を迎え、悦びに満ち溢れた作品。こちらまで、笑顔にしてくれました。
- 小西 瞬夏
特選句「折鶴は千枚の紙八月来る」千羽鶴はもともとは千枚の紙であった。言ってみれば当たり前のことであるが、「八月来る」ということに対してあらゆる言いたいことを消し、当たり前のことしか言わないでおくことがしみじみと切ない。「羊水の感触醒め際の素足」ひとつひとつの言葉は興味深いのだが、「羊水」「感触」「醒め際」「素足」がどれもイメージ重なりすぎている。
- 野田 信章
特選句「熱帯夜の枕こつんと椰子の実か」は、中句以下の軽い疑問を伴った唐突感のある配合が椰子の実の質感を確かなものとして伝達させてくれる。熱帯夜の一服の清涼剤として唱歌「椰子の実」が聴こえてくるようだ。対象的に次の句がある。特選句「幾千の夜があぢさゐにありて待つ」は、現代詩的な発想にやや抽象性を覚えつつも、文語表記としての「あぢさゐ」と相俟っての「幾千の夜」という時間の凝縮性が一句の密度を高めている。結句としての「待つ」には、そこへと誘う力感がある。「あぢさゐ」に宿る生の充実感と一体のものとして死の予感を感受することも可能かと思う。
- 田中 怜子
特選句「にんげんが大きく歪む金魚鉢(増田天志)」中年のおじさんが(孤独)金魚を相手に、ペーソスと面白味がある。特選句「首回す無人の部屋の扇風機(中西裕子)」」セピア色の畳の上のがたがた回る扇風機、レトロっぽく、懐かしい情景です。問題句『三伏や漁師ぽつりと「鯵獲れぬ」』句全体に惹かれましたが、「三伏」に、実感がわかなかったです。
- 亀山祐美子
特選句「折鶴は千枚の紙八月来る」不器用な私には折れそうもないが、最近は3㌢四方の千羽鶴用の折り紙もある。千枚の折鶴は祈りそのものであり季語の斡旋が見事だ。「八月」という時空に対する日本人の想いが祈りが込められた秀句。凡人は一年一年の平和がが恙無く積み重なることを祈り感謝するのみ。文法に弱いので、質問です。上五中七の緊張感に対し「八月来る」が少し間延びしているように私には感じられます。「八月来」とするのは文法的にいかがなものでしょうか。教えて頂ければ幸いです。逆選句「水のごと凡夫目覚める遠蜩」なんで「凡夫」なんて言っちゃったんだろうね。謙遜しただけなんだろうけど、「水のごと目覚めをりけり遠蜩」なら特選でいただきました。逆選句「叫喚のつまつてをりぬ西瓜割る」これは酷い・大大大好きな西瓜が阿鼻叫喚!叫喚地獄!血の海だなんて、酷過ぎる!あんまりだわ!すかたん!!「血の海」を過去一度も連想しなかったとは言わないけれど、来年も西瓜食べるけど、西瓜に謝ってよね。他に気になったのが「にんげんが大きく歪む金魚鉢」。「にんげんが」だとの人間の輪郭、見た目が金魚鉢の屈折で歪む現象だけを捕らえただけだが、「にんげんの」と置と、現象だけではなく、人間の内面の歪みまで捕らえ、深いような気がするのだが、どうだろうか。
- 漆原 義典
特選句「行きずりがこんなに淋しい走馬燈」を特選とさせていただきました。この句は暑い夏を乗り切り、早く秋が来たらなぁと思いながら、実際秋が近ずくと、淋しくなる心境をを走馬燈とうまく表現しているなぁと思い特選とさせていただきました。作者の繊細な感情が感じ取れました。素晴らしいです。以上感想とさせていただきます。増田天志さま、句会で俳諧歌仙を教えていただきありがとうございました。
- 三枝みずほ
特選句「炎天下背骨首筋立て直す」背筋がまっすぐであることを保つのはなかなか難しい。ちょっと油断をしたら姿勢が崩れてしまう。炎天下ならなおのことだ。作者は自分自身が弱っていることにハッと気づき、自らの力でまた自分を立て直す。表現も簡潔明瞭で、凛々しく進んでいこうとするこの句にとても共感できた。
- 伊藤 幸
特選句「蝉穴かと覗く理論派浪漫派」斬新な感覚に驚きました。理論派も浪漫派も好奇心は同じ。目の当たりに景が展開しているようで楽しませて頂きました。「うすものや ゆるゆる下る石だたみ」上5で一旦切ったところに人生句の匠の技を感じます。 生き方も見習いたいものです。「片蔭の風にゆるされてい恋の文」興味津々由々しき事態発生?どのような状態か解せないが羨ましくもあり、どこかにエールを送りたい自分がいる。「薄衣や距踰へぬ人の憎らしき」乗り越えて来てよ!と心の中で叫んでいるのが聞こえ、憎らしきに深い愛を感じます。あからさまですがこんな句もいいですね。「羊水の感触醒め際の素足」心地よい夢の後の虚脱感、素足の上を風が通り過ぎる。ああ夢よもう一度。夢を夢に終わらせないでトライしてみて。「レース編むたびに母音の真白なり」・・「母音の真白」がいいですね。レースは殆どが真白ですが、母音を持ってきたことにより更に作者のピュアな感性を引き立たせています。「老後ってアドリブなんだ鼻曲り」そうです、老後は自由な即興です。下五鮭を鼻曲がりと表現した老後にビバ!!「熊蝉に体の芯を明けわたす」一読して好きな句。大型の熊蝉なる堂々とした人に惹かれるのは誰しも同じ。「体の芯を明けわたす」こんな経験してみた~い★
- 鈴木 幸江
特選句「一日中蝉の配置を考える樹」リズムからして問題句でもある。でも、この素っ気ないようなリズムが、取り立てて問題にすることでもないことを取り立てるという状況にピッタリしている。樹にも感受性があるということでもあるのだから、木肌に取り付く蝉をきっと感じていることであろう。しかし、そんなことについては、私は一度も考えたことがなかった。面白い作者もいるものだと感心し、樹々も仲間、生き物なのだとの再認識させていただいた。特選句「老後ってアドリブなんだ鼻曲り」これも発見の句だ。そう言われてみれば本当にそうだ。私事になるが、老後≒余生の感がある。やっと子育てが一安心の域に達し目標をなくした気分がある。そんな日々、明日は何をして生きて行こうと正直、毎日考える。今日一日、今日一日を、と思っての暮らしは、アドリブと言われればそうである。しかし、鼻曲りの季語で、それでも命の限り生きて行こうとする姿が見えて好感が持てる。問題句「半裸になるチェロの独奏椎若葉」フィクションを句にすることは、是か非か。私はこの句をフィクションとして受け取った。そして、そんなことも辛うじてあるだろうと思える場合は、是とした。でも、半裸でチェロを弾くなんて、蝶ネクタイ姿の真逆である。公と私では違う、こういう面白い生き様もあるのではないかと思った。
- 銀 次
今月の誤読●「一行の詫び状ひぐらし鳴き終わる」。「詫び状」ねえ。このあたり偏見もあるかもしれないが、オンナの書くそれとオトコのとはちょっと違うような気がする。たとえば去り状だとオンナの場合は「ごめん。探さないで」とメモ用紙に書いて冷蔵庫にマグネットで貼り付けて行きそうだ。事務的っちゅうか、なんちゅうか。オトコだともう少し心情が込められていて「すまなかった。すべてはおれのせいだ。元気でいてくれ」と預金通帳とハンコを置いて出ていく。まあ「一行」だからな。ヘタするとオトコの場合、原稿用紙五十枚くらい書きそうだからやっかいだ。で、まあこれを別れの詫び状を詠んだ句とするとして「ひぐらし鳴き終わる」とはなんだ? さあ、迷探偵銀ちゃんの登場だ。「ひぐらし」にはじつは! 「その」が抜けているのだ。しかしてその実体は「そのひぐらし」すなわち「その日暮らし」なのである。つまりビンボーゆえの別れであったのだ。すると「鳴き終わる」も当然「泣き終わる」となる。じつはかくいうわたくしにもありました。青春でした。青春はビンボーなのです。ビンボー・ダナオなのです(このシャレ判る人手を上げて。はいおたがい年を取りましたねえ)。かくして詫び状を書き終え、一通り泣いて、泣き終えアパートのドアのノブに手をかける。そのオトコの背には人生の漂泊の憂いが色濃く染みていたのであった。んで、オンナのほうはといえばゴーゴーと高いびきをかきヨダレたらして寝ているのでありました。
- 柴田 清子
特選句「山椒魚(はんざき)を踏むふるさとは青くせつなし(若森京子)」マジックにかけられたような、有無を言はせない郷愁が、真っ青に横たわっている。山椒魚を踏むと言ふ特異さが、せつなさの極限まで引きずり込んでくれた。「おじいさんおばあさんの木夏山河」肩の力を抜き、自然のうつろいの季節を素直にとり入れているところが、好感。
- 上原 祥子
特選句「白靴欲し野に水汲みにゆくための」この靴は白い靴でなければなりません。真っ白で、大切なものの象徴である水を汲みに行く時と同じ気持ちのこもった白い靴。野はこの世の喩えでしょうか?美しい抒情です。特選句「万の石に万の言の葉夕ひぐらし」石は鉱物ですが、意志を持っているかもしれません。墓石、彫像、石碑等々、人が手を加えたもの以外でも。化野の石地蔵たちのように。夕ひぐらしの声がそれを謳っているかのようです。その他 採りたかった句「取り取りのフォーチュンクッキー夏終わる(中野佑海)」「夏つばめあれは我家の巣立かな」「ふらり火の踊るよねむるよ青芒(桂凛火)」「喜雨という五体に宿る思惟の花(若森京子)」「氷菓舐め丸薬しゃぶる術後犬(野澤隆夫)」「「蝉しぐれいのち降る降る果つるまで(銀次)」「「薄衣や矩踰(こ)へぬ人の憎らしき(尾崎憲正)」「山椒魚(はんざき)を踏むふるさとは青く切なし」両手で測る夏空の端から端」「ひまはりや満員電車が空を飛ぶ」「一日中蝉の配置を考える樹」「一行の詫び状ひぐらし鳴き終わる」「羊水の感触醒め際素足」「蝶高く我よりずっと遠い旅(河野志保)」「熊蝉に体の芯を明けわたす」その他 これは面白いと思った句「とびうお飛ぶ君は蹄鉄フェチだった(伊藤 幸)」「老語ってアドリブなんだ鼻曲り」今月も充実の内容で選句するのに苦労しました。視点がユニークな句が結構あって、楽しませて頂きました。来月もよろしくお願い致します。
- 郡 さと
俳句って何んでしょうか?どうして一生懸命に作句するんでしょうか。どうして私達を魅了してやまないんでしょうか。私が所属している結社と、少し違うから、言いたい放題な失礼をお許し下さい。香川句会の句は難解です。思いついた選のこと。「四匹の猫の隊列蝉時雨」面白い。「三猿の吾石木になれず秋」何となくわかる。「思い出を詰めし鞄や天の川」鞄に詰めるは言い尽くされている。「蝉しぐれ古書にあまたの走り書き」あまたの走り書き、言い尽くされて。「折鶴は千枚の紙八月来る」そういえばそうだけど良く気がついたかな。「万の石に万の言の葉夕蜩」これもどこかで読んだ句。「晩夏光ルオーの道化師の聖顔」良い句だ。聖顔が、ここがどうかだったら120点だと思える。「龍宮の誘惑怖し夏の月」良い句だと想います。「熊蝉に体の芯を明けわたす」良くわかります。私、いつも思うんです。読者は海程、現代俳句が理解できる人ばかりではない・・・と。 理屈とレトリックの効き過ぎはパスしました。
- 谷 孝江
特選句「白靴欲し野に水汲みにゆくための」童話の本の最初のページに出会った時のような優しさと安らぎが胸中に溢れました。特選句「両手で測る夏空の端から端」いいですね!このような句に出会うと、夏が嫌いと言っている人でも夏が好きになると思います、佳句が沢山で選句が楽しみでした。有り難うございます。
- 月野ぽぽな
特選句「島らっきょ明日の晴れは予約済み」・・「明日の晴れは予約済み」から自然の力を味方につけるおおらかな精神の動きがみえていい気持ち。島らっきょの健康な辛さも句に効いています。
- 高橋 晴子
特選句「牝鹿佇つ水より遠き瞳して」牝鹿の大きな澄んだ瞳を〝水より遠き〟と把握した点、鹿らしさをより感じさせ、空の気配。特選句「にんげんが大きく歪む金魚鉢」金魚鉢にうつる外界は大きく歪んでいる。昨今の事件や人間界のどうしようもない鬱憤がこういう捉え方をさせた。〝にんげん〟と平仮名にしたのがいい。
- 小山やす子
特選句「ひまはりや満員列車が空を飛ぶ」一幅の楽しい絵を見ているようです。面白いです。「島らっきょ明日の晴れは予約済み」島らっきょと予約済みが良いですね。「八月の影法師なり大落暉(野﨑憲子)」大きな情景を大きく表現したところが好きです。「夏怒濤岡本太郎が迫り来る」岡本太郎の情熱が大きな目を剥いてこちらに迫ってきますね。
- 中西 裕子
特選句「鬼灯と鉄路をまたぐ老いしんしん」老いしんしんとありますが、実際はそんなに老いてないかな、と鬼灯の赤さを思い、鉄路のつめたさで、でもそんなに単純じゃないのかとも思い、混沌とした寂しさを感じました。「今朝の茄子皆つつがなくメタボなり」のなすが丸々しておいしそうです。「基地いらぬ生きゐる限り沖縄忌」も戦後70年の今年にぴったりの句です。あと気になったのが、「漉し切れぬ悪意ぶつくさあをみどろ」「日常という水泡(みなわ)が多し茗荷の子」。「風蘭や姉似の人とすれ違う(稲葉千尋)」もいい香りがします。今年は暑かったですね。今も蒸し暑いけど、急に涼しくなると寂しいからいまくらいがいいかもしれません。
- 野﨑 憲子
特選句「夏怒濤岡本太郎が迫り来る」・・「夏怒濤」と「岡本太郎」。ここまで、付き過ぎると逆に、句から、「さあ、どうだ!」という、大きなエネルギーを感じてしまう。お見事。問題句「ヒロシマよ永遠に赫い眼をせよ」注目の一句。しかし、調べが気になり、特選に推せず、残念。
半歌仙「赤とんぼ」の巻
表
- 発句 赤とんぼ旅の一座でごさいます
- 天志
- 脇 月の宮からひょいと黒猫
- 憲子
- 第三 床のなか手の内見せる火を恋うて
- 佑海
- 四句 むかしの名前呼んでみたいの
- みずほ
- 五句 放尿の洗礼受けて蝉しぐれ
- たかお
- 六句 逃避行あり入道雲の
- 義典
裏
- 初句 決めがたき約束のあるこの浮き身
- 佑海
- 二句 消しゴムで消す君のアドレス
- 憲子
- 三句 燃え尽きてやがて悲しき恋の文
- 義典
- 四句 炎もいづれ凍りつくらむ
- 銀次
- 五句 お急ぎですか化野をゆくお兄さん
- 憲子
- 六句 深呼吸してじっと待っている
- みずほ
- 七句 柏手を打つ冬満月の天辺で
- 憲子
- 八句 どてら羽織りて酒屋に急ぐ
- 銀次
- 九句 かくもまあにがかりし日々思ひ出す
- たかお
- 十句 チャック開けば岡本太郎
- 憲子
- 十一句 終るれば涅槃の風に花万朶
- 銀次
- 揚句 囀り溢れ明るき方へ
- みずほ
句会メモ
天候不順の中、何とかお天気に恵まれ、待望の八月句会が、サンポートホール高松で開催されました。久々にご参加の方もあり、皆さまの笑顔に胸がいっぱいになりました。また、大津から増田天志さんも参加され、事前投句の合評の後、増田さんの捌きで半歌仙を巻きました。増田さんは、先日も、大衆歌舞伎一座を追っかけて松山へ行かれたとか、発句は、その香りの漂う「赤とんぼ旅の一座でございます」。初めて連句に参加される方も熱い目をして次々に句を出していらっしゃいました。すごく楽しかったです。
歌仙と同じく、人生も前へ前へと巻いてゆくもの。大いなる生命の大河の中、先の大戦の、悲惨な思いを現代に生かして、平和な世界へと、私たち人類の手で、時を巻いて行かなければならないのではないでしょうか。
Posted at 2015年9月3日 午前 01:16 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]