「海程香川」
香川句会報 第54回(2015.09.19)
事前投句参加者の一句
人間やくるり丸太となる晩夏 | 若森 京子 |
自由に歩く陸奥東京のスクイズ | KIYOAKI FILM |
萩の庭ふわりふわりと米寿かな | 髙木 繁子 |
十五夜の少年手首より病めり | 小西 瞬夏 |
こぼれ萩両手で受ける喪失感 | 重松 敬子 |
人たまに枯れ向日葵に口づける | 鈴木 幸江 |
万感の帆のやう夏の雲うごく | 竹本 仰 |
かたつむり欅は何時も静かな木 | 小山やす子 |
ええっ今なにか言ったの赤とんぼ | 増田 天志 |
揺り椅子とビールと九月老水夫 | 銀 次 |
放哉の道とぼとぼと赤とんぼ | 古澤 真翠 |
全身が髪ずぶ濡れの曼珠沙華 | 柴田 清子 |
老いの夜を独り占めして鳴くちちろ | 藤田 乙女 |
ラ・フランス観音さまに腰まわり | 稲葉 千尋 |
稲藁を焼きし郷愁我を焼く | 中野 佑海 |
始まりは貧しく若い合歓の花 | 河野 志保 |
一塊の牛酪(バター)となりて夏終る | 尾崎 憲正 |
ロボットを作る小5の夜長かな | 野澤 隆夫 |
箱庭に微熱をこぼす秋揚羽 | 三好つや子 |
コスモスや空缶とわたしポコンと置かれ | 久保 智恵 |
虫の音と赤子の声と競う夜 | 中西 裕子 |
生死(いきしに)の話ぶどうチュウチュウ吸っている | 伊藤 幸 |
蕪村遠く青きペティキュアの晩夏かな | 桂 凛火 |
存分に海を見し眼に女郎花 | 高橋 晴子 |
彼岸花のまっ只中という居場所 | 谷 孝江 |
<国会にて強行採決>秋霖や石棺内の耳ふさぐ人 | 田中 怜子 |
昼行燈なれど乙なり榠樝の実 | 寺町志津子 |
くずのはな被爆童子とのみ銘す | 野田 信章 |
箱しめて簡単な闇九月尽 | 月野ぽぽな |
秋天へ木登りの足よく伸びる | 三枝みずほ |
たもとほるデカルトカント大花野 | 郡 さと |
月光や鎮守の森は音楽会 | 漆原 義典 |
ころがりし秋のかたまり石白し | 亀山祐美子 |
野分だつ首に形状記憶シャツ | 矢野千代子 |
鬼灯や原日本人の腰骨 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 月野ぽぽな
特選句「ラ・フランス観音様に腰まわり」そういえばラ・フランスのふっくらした部分は腰まわりのように見える。自然の恵みと慈悲深い観音様との出会いはさりげないが、そこを結ぶ感覚は冴えている。ラ・フランスの味も甘露のようにも思えてくる。おおらかな詠いぶりも内容に合っていて、読後はとても豊かに気持ち。
- 中野 佑海
特選句「昼行燈なれど乙なり榠樝の実」昼行燈は役に立たない象徴。かりんもそのままでは食べられないし、重いし、ねっとり臭いし、固いし。黄色くて形も何気に行灯に似ていて。でも、蜂蜜に漬けると、香しい匂いと味と喉の荒れに効く素晴らしい薬に変身です。この長々と言っている説明を一言で言い得て妙なところがとても乙な俳句と思います。
- 野澤 隆夫
特選句「揺り椅子とビールと九月老水夫」モノクロのヘミングウェーが目に浮かびます。「若い人」では全く興ざめで「老水夫」がいいです。特選句「一塊の牛酪(バター)となりて夏終る」…「バター」は「牛酪」と漢字で書くのですね。小生も今年の夏は、〝一塊のバター〟で終わった感じです。問題句(国会にて強行採決)「秋霜や石棺内の耳ふさぐ人」…「詞書」(言葉書き)と言うのでしょうか、「国会にて強行採決」でこの句がよくわかります。9月4日のTV「ミヤネ屋」で突然、阿部首相が出演しびっくり!思わず時事句?「テレビでも首相饒舌野分過ぐ」と作りました。
- 小西 瞬夏
特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」秋になると闇が深くなるようだ。気分的にも夏よりは少しブルーになる。そんな作者は箱の中に小さな闇を見つけた。それは自分の中にある闇と相似形なのだ。それは箱をしめることで作ってしまえる簡単な闇。開けるのも意外と簡単なのだ。ただ、自分が箱を開けるのか、しめるのか、そのちょっとした意思が必要なだけだ。そんな闇の描写を「簡単な」とそっけなく言ってしまうことで、そのちょっとした意識の重要さに気付く。
- 田中 怜子
特選句「白雨来て裸の大地想像す(河野志保)」突然の雨、たちまち土の野性的な匂いが立ち上がり、裸の大地を実感します。特選句「ころがりし秋のかたまり石白し」空気が透明になり、木の葉のからからと転がる音も聞こえるような秋を感じます。
- 古澤 真翠
特選句「長月や雫のようなことば積む(若森京子)」言の葉を大切になさっておられる作者の 穏やかなお人柄が垣間見えるような句だと感じました。お友達になりたいと思いました。
- 増田 天志
特選句「人たまに枯れ向日葵に口づける」私情と詩情とのアマルガム。俺なら、薔薇の棘に、くちづけるだろうよ。覚醒には、血の匂い。
- 竹本 仰
特選句「くずのはな被爆童子とのみ銘す」原爆の行方不明者の一人の方の墓碑銘のことを詠んでいらっしゃるのでしょうね。行方不明という事実を知ったという形での作品でしょうか。おそらく、無縁仏というかたちで、誰か葛の花をお供えしていたのでしょうか。そうされた方も、あるいは行方不明の身内の方が、おありなのかもしれませんね。そういう想像を「のみ」という助詞が促しています。話は変わりますが、日本とドイツにだけ、化学兵器の解体を専門にしている方がいるというのを知っていますか?それも民間の会社(日本ではただ一社)で、中味の分らない化学兵器を、色んな方法で中身を分析しその器の中で解体させたりするのだそうです。そういう化学兵器は、第一次、第二次大戦の区別なく、世界中地の中に無数に転がっているのだそうですが、気の遠くなる人類の遺産です。特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」ああ、これは、死のことかな、と思いました。こういう「簡単な闇」であればいいなと、つねづね思っております。伊東静雄に「倦んだ病人」という作品があって、入院中の病舎が停電している状態で「ははあ。どうやら、おれは死んでるらしい。いつのまにかうまくいつてたんだな。占めた。ただむやみに暗いだけで、別に何ということもないようだ。」と勘違いし安心する自画像を描いていました。これを若い頃読んで、心底、ああ、いい、これいい、と感動した小生であります。きっとこの箱の蓋も軽いんだろうなあと、こういう無常感、大変好ましく思い、採らせていただきました。「たもとほるデカルトカント大花野」は、音だけで楽しく、取りましたが、何となくこの自棄気味な味があり、お堅い男子とデートしているような、でも、「熱い血潮に触れもみで」と挑発しているような面白さもあって、なかなかのもだと、いい味わいをいただきました。
- KIYOAKI FILM
問題句「(夜のアドリア海にて)眠る湾どこかに難民(ふ)船(ね)が月涼し(田中怜子)」一読、大変面白く、痺れる。しかし、どうもわからない。ナニカ引っ掻かる。面白いけれど、なにか引っかかる気がしました。ルビ表記の目立つ魅力ゆえの読者の感情かもしれません。特選句「(国会にて強行採決)秋霖や石棺内の耳ふさぐ人」良かった…。国会を石棺内とはそのもので、そうか、こう言えるのか、と、面白かった。句とは別に今の国会、政治、無茶苦茶酷いですね。酷いなあ、と思う春夏秋…冬は更にか!…。「耳ふさぐ人」に共鳴。右の聴覚失った者としては、きつかったです。
- 伊藤 幸
特選句「稲藁を焼し焼きし郷愁我を焼く」、贖罪の意を含んでいるのか?故郷を離れ或いは捨て、元には戻れぬと分かりつつも郷愁に浸る、その思いがひしひしと伝わってくる。「人間やくるり丸太となる晩夏」晩夏が効いています。打つべき策が見つからなくもうどうにでもなれ!と開き直った時、不思議と人間は強くなれるものです。深読みでしょうか?「人たまに枯れ向日葵に口づける」人間長い事続けていると疲れることしばしば。向日葵の明るさ強さに助けを求めたくもなります。たまになら良い方です。「木の実拾う神の許し乞ふ時は(柴田清子)」 クリスチャンかな?いかなる罪も許しを乞う者は全て神は許し給う、と昔教わりました。「木の実拾う」の優しい表現好きです。「たましいは弾ますものよ花野にて(若森京子)」落ち込んだ時、自分を励ます者は自分しかいません。花野の中で精一杯元気を取り戻してください。「箪笥黴び母の匂ひをもてあます(小西瞬夏)」母の思い出の詰まった箪笥。捨てるにしのびなく「もてあます」。女性であるが故の母への思いがよく表されている。「くずのはな被爆童子とのみ銘す」・・「くずのはな」が悲しいしいですね。広島、長崎での被爆者の中には性別さえ不明で多くの方が亡くなられ、特に童子という字に涙してしまいます。因みに私の伯母従兄も被爆で命を落としました。
- 漆原 義典
特選句「秋の部屋九官鳥の独り言(三枝みずほ)」は、秋のもの悲しさを九官鳥の独り言でうまく表現し、繊細で素晴らしい句であると感動じました。
- 三好つや子
特選句「自由に歩く陸奥東京のスクイズ」周りの空気を読み、それに応えないとどんどん孤立してゆく現代社会。素のままで自由に生きれたら・・・そんな気持ちが「東京のスクイズ」に投影され、惹かれました。特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」夏という激流の時が過ぎ、からだとこころが空っぽな九月。この季節に漂う喪失感がレアに伝わってきて、共感。問題句「コスモスや空缶とわたしポコンと置かれ」特選にしたいほど、作者の目線が面白い。しかし、俳句としてまだ立ち上がっていないような気がします。
- 寺町志津子
特選句「父憶う刻秋冷の巨鼇山(高橋晴子)」掲句で、巨鼇山(キョゴウサン)を知った。四国遍路八十八ケ所の六十六番札所。四国霊場中、最も高い標高という。父を憶うとき、秋冷のその霊峰札所が浮かんでくる作者。きっと父の背を見ながら成長し、大人になって、父亡き今も事ある毎に父の背を思い、力づけられているであろう作者の幸せを思う。僭越ながら、私の父親像とも重なり感動した。特選句「揺り椅子とビールと九月老水夫」おそらくは、遠い航海から帰国し、休養中の老水夫か既に引退した老水夫か。揺り椅子、ビール、九月の三点セットはありきたりのようではあるが、映画の一シーンのように心惹かれ、外されなかった。共感する句として「秋霖や石棺内の耳ふさぐ人」「宰相のことば軽々赤とんぼ(尾崎憲正)」
- 銀 次
今月の誤読●「人たまに枯れ向日葵に口づける」。「人」って一般化されてもなあ。いるのかなあ「向日葵に口づける」人って。少なくともわたしはしたことがないし、周辺にもそれらしい人物は見当たらない。ゴッホ? うーん、どうだろ? いくら好きだからって「枯れ」向日葵だぜ。なんかザラザラして食感わるうそうだし。あっ、と思い当たったのがタカハシ(仮名)の後家さんだ。まだ四十前でけっこう色っぽい。うちの三件隣りにひとりで住んでいる。「まだイケるんじゃねえの」というのが近所のオトコどもの評価だ。ただなんとなく近寄りがたいといのが欠点といえば欠点。最近聞いたウワサでは原書でゲーテの「ファスト」と読んでいたという。さすがに夜這いをかけるには敷居が高すぎる。だがそれを乗り越え忍び込むのが勇者だ。だがそうした豪の者には、奥の手を使う。やわら枯れ向日葵を取り出して(どこにしまっていたんだ?)口づけをするのだ。な、なんなんだこのオンナ。べろーん。うへえ。べろべろべろーん。これはキクだろうなあ。どんな色ボケもこれにはたじろぐだろう。「たまに」この手を使って不埒なオトコを撃退する。うん、ありそうなハナシだ。(ねえよ、ばかやろー)。
- 尾崎 憲正
特選句「存分に海を見し眼に女郎花」句会を休ませていただいて、海の環境調査に同行していましたので、私の実感でもあります。遠景の海の青さと、近景の女郎花の辛子色の対比が見事です。夏や冬の海は長時間見ることは余りありませんが、秋の海なら飽きることなく存分に眺めることができます。
- 小山やす子
特選句「万感の帆のよう夏の雲動く」テニスをしているときちょっちゅう空を見上げる。一試合終わって空を見上げると雲はもう動いて形を変えている。癌におかされた友人が「雲のカタログ」という本をくれた。空を見るたびにその友人を思いだして懐かし涙ぐむ。
- 鈴木 幸江
特選句「彼岸花のまっ只中という居場所」咲いた咲いた。今、まっ只中と主張しているように咲いている彼岸花、その彼岸花に己を重ねる。人間は自分の意識を通して世界を理解するのだから、それを、世界のまっ只中に居ると言えば言える。そんな風に、孤独と共に自覚される自己を彼岸花に譬えれば、清々しくもある。特選句「野分だつ首に形状記憶シャツ」野分の修辞から、現代にも存在する荒々しい自然に思いが至る。それに、負けまいと生きている現代人。台風の街を行く、形状記憶シャツを着た庶民と呼ばれる勤め人の姿がありありと浮かぶ。台風も、形状記憶シャツも、どちらも現実だ。その現実をしっかりと受け止めて生きて行きたいと思わせてくれる句だ。問題句「銀やんま光に刃を立てるよびび」“びび”をどう感受しようかと少し悩んだ。しかし、銀やんまの翅が刃のように白く輝いていると言っている。とても美しい作品だ。その美しさを擬態音で表すと、“びび”となるのだ。この詠み手の身体を揺さぶる表現は、やっぱり俳句に在りだと思った。
- 河野 志保
特選句「全身が髪ずぶ濡れの曼珠沙華」句の曼珠沙華は妖怪のようだ。「全身が髪」の把握が新鮮。心地よいインパクトに満たされた。
- 重松 敬子
特選句「ラ・フランス観音さまに腰まわり」仏様に性別は無いと思うのだが、どう見ても女体を連想させる仏像は沢山あり、観音像も豊かな大地のような母性を想像させます。自然の恵みである洋梨のあの形と、いい感じに、ぴったり。
- 亀山祐美子
特選句「人間やくるり丸太となる晩夏」いや~参りました。夏バテの極致。体力の限界。若い時はもっと遊べたんですけどねェ…。逆選句「夏痩せに乳房二つが張りついて(河野志保)」事実なんですけどね、何とも切ない。年取ると胸から痩せるんです。古文で習った『垂乳根』を実感し溜息の日々。追い撃ちかけなくてもいいんじゃない。作者が男なら悪意を感じるけど、女なら凄みを感じる一句です。
- 三枝みずほ
特選句「たましいは弾ますものよ花野にて」花野に包まれて、ふっとそんな気持ちにさせられることがあります。たましいを弾ますという感覚がいいです。自分を開放するというか、前向きにさせてくれる一句で共感できました。
- 稲葉 千尋
特選句「生死(いきしに)の話ぶどうチュウチュウ吸っている」何かよく見かける光景であるとともに自身もそんな話しをしている。中七の「ぶどうちゅうちゅう」が、佳い。特選句「うつしき引っき傷よ流星は(月野ぽぽな)」・・流星を、「うつくしき引っ掻き傷よ」と、比喩した感性をいただく。
- 柴田 清子
特選句「ええっ今なにか言ったの赤とんぼ」ええっ!こんな俳句もあっていいと思ったの・・。それ以上に、赤とんぼが、作者であって、作者が赤とんぼになった瞬間、秋の日差しの中で。九月連休の最中、欠席者が多かったけれど、憲子さんを囲んでワイワイと。徳島から参加の小山さん宅の庭の差し入れの酸橘の真っ青な香の中で、九月句会が始まりました。ありがとう。→ご参加、有難うございます。袋回しの「酸橘」の作品、それぞれに表情が豊かで良かったですね!
- 谷 孝江
特選句「青栗山の星の出きっと母だろう(野田信章)」なんて優しい句でしょう。星になって家族を見守っていらっしゃるお母様と家族の人達。美しい情景が身に沁みてきます。ずっとずっと、お幸せに。特選句「たましいは弾ますものよ花野にて」身も心も花野に置いて毎日を過ごせたら・・・。辛いニュースが続く日々が少しは明るくなるでしょうに。おエライ先生方、ゴルフ場ではなくて、花野に出掛けてみませんか。たましいも身も心も優しくなれますよ、きっと。
- 野田 信章
特選句「鬼灯や原日本人の腰骨」は、郷愁と共にそこを突き抜けた鬼灯そのものの本姿が即物的に把握されていて「原日本人の腰骨」を十分に宜なわせるものがある。浮き足立った時代相を踏まえての作者の原郷志向の視点が批判精神を込めて美しく結実した句である。結実と言えば勿論短詩型としてのことだが、その生き身の反応が美しく結実したものとして次の句に注目した。「生死の話ぶどうチュウチュウ吸っている」「彼岸花の真っ只中という居場所」「半壊の家にくるっと出目金魚(竹本 仰)」「魚のごと暗し石に端居して(小山やす子)」「箱しめて簡単な闇九月尽」
- 桂 凛火
特選句「かたつむり欅は何時も静かな木」かたつむりと欅はつきすぎないですが、どちらも静かで身近な存在ですね。かたつむりは最近見なくなりましたが、みつけると幼いころの情感が戻る気がします。「何時も静かに」としか言わないのに妙に癒されます。欅の木陰で静かな平穏な時間を過ごす様子が共有できてとてもよかったです。
- 中西 裕子
特選句「人たまに枯れ向日葵に口づける」夏の盛りのまっ黄色の力強いひまわりもいいけど、枯れひまわりにいとしさを感じる、なにか優しい気持ちなのか、終わるものへの愛惜を感じるのかひかれました。他にもきら星のような句がたくさんあるのですが、時間貧乏で楽しめてなくて残念です。よい季節なのでいい句が浮かびますように。
- 郡 さと
心を尽くして、どの句も理解しようと努めたのですが、私のように、深慮がなく、食感でものごとをとらえがちの者には少し、理解不足です。「揺り椅子とビールと九月老水夫」・・『老人と海』が彷彿とさせられました。「秋の部屋九官鳥の独り言」九官鳥は、さて誰のこと。「存分に海を見し眼に女郎花」女郎花を季語として生かせたのでしょう。考えるのは止めました。この方には女郎花の季語のあっせんが一番だった。「「子等の背を超えて飛び立つ螇蚸かな(藤田乙女)」バッタには、よくある景。好直な句だから私は好きです。「夏痩せに乳房二つが張りついて」可笑しかった。滑稽とユーモアは、俳諧において最も尊重すべきこと。良い句ではないですか。「八頭身美人の土偶月涼し(三好つや子)」「くずのはな被爆童子とのみ銘す」句作りに努力したのか?しないのか。こんな句に親しみをおぼえます。又、言いたい放題です。
- 高橋 晴子
特選句「くずのはな被爆童子とのみ銘す」〝銘す〟とまではいらないと思うが、この圧倒的な現実感に訴えるものあり。問題句「眠る湾どこかに難民(ふ)船(ね)が月涼し(田中怜子)」今、問題になっている難民船のことを訴えているのだが、難民船を〝ふね〟と読ますのには無理がある。難民船をそのまま使って句にして欲しい、いい句になると思う。
- 野﨑 憲子
特選句「秋天へ木登りの足よく伸びる」・・「秋天へ」がいい、そして「よく伸びる」がまた良い。まるで魔法の豆の木を登ってゆくようです。どんな冒険が待ちかまえているのかワクワクします。問題句「兄さん!新!百舌鳥の叫喚「父帰る(野澤隆夫)」これだけ、気合に満ちた言葉を詰め込める作者にエールを送りたいです。少し破天荒で問題句にさせて頂きましたが、不思議さが、魅力です。
袋回し句会
曼珠沙華
- ひとひらの嘘美しき曼珠沙華
- 小山やす子
- 直感のすとんと佇ちぬ曼珠沙華
- 野﨑 憲子
紙
- 人殺せしも罪状ひとひらの紙となる
- 銀 次
- 白い紙白い匂ひす秋の暮
- 柴田 清子
酸橘
- 酸橘君ゆっさりどっさり母の胸
- 中野 佑海
- 酸橘もぐ君の可愛い団子鼻
- 小山やす子
柿
- 柿熟れる千年前の都市が見ゆ
- 柴田 清子
- 玉乗りの少年へ青柿の眼のギリッギリッ
- 野﨑 憲子
敬老日
- 老ひの日に美しきもの数へあげ
- 銀 次
- 立ち向かふ逆風満帆敬老日
- 野澤 隆夫
句会メモ
九月の「海程」香川句会は、シルバーウィークの初日ということもあってか、参加者が少し少なかったですが、徳島から小山やす子さんが酸橘をたくさん持ってご参加くださいました。酸橘君に見守られながら、とても充実した句会になりました。
事前投句の合評が終わり、小休止に入った頃、高松市在住の海程同人佐藤稚鬼さんが見学にいらっしゃいました。長く「海程」を休会なさっていらしたとか、初対面でしたが、笑顔の爽やかな大先輩でした。最近、佐藤さんの作品を海程誌で見かけ、お目にかかりたかったので、尚さら嬉しかったです。
Posted at 2015年9月30日 午後 04:24 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]