2018年2月21日 (水)

追悼 金子兜太先生

供花.jpg 20日の夜、金子兜太先生が他界されました。お正月に体調を崩され入院し、先月末に退院されたと聞き安堵していた矢先でした。

心からご冥福をお祈り申し上げます。

兜太先生は、本句会の盛会を、とても楽しみにしてくださっていました。先生のお創りになった「海程」の、陽気漲る多様性に満ちた自由な渦巻を深めて行きたいと存じます。

今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2018年2月1日 (木)

第80回「海程」香川句会(2018,01,20)

imagesNTR1HMJI.jpg

事前投句参加者の一句

         
裏紙のあっての豚まん冬温し 中野 佑海
薄闇。雪虫のまじりあはぬ日 小西 瞬夏
寒暁や犬を時計としておりぬ 鈴木 幸江
浜砂に草の実あかきわが仮泊 野田 信章
くさめかな金塊のよう男二人 桂  凛火
今年こそ笑って暮らそ初日記 髙木 繁子
落椿いつの間にやらうわの空 山内  聡
光折れて祖国の冥さ初鏡 若森 京子
甘酒 茶碗一杯の純なりき 伊藤  幸
黒光る牛舐め飛ばす寒の水 亀山祐美子
身の丈の日本を生きて冬花火 重松 敬子
なんで魚にならないんだろう爪 男波 弘志
狼のまなざしななめ恵方とす 河田 清峰
指間より愛が零れる冬銀河 藤田 乙女
霙降る小さな母に見送られ 河野 志保
阪神淡路大震災肋骨齧る枯薄 豊原 清明
エルサレムと言う語悲しや狐火や 稲葉 千尋
子どもらは透明になり森に消ゆ 銀   次
新年の鏡へ旧き貌の父 藤川 宏樹
往診鞄ふっと綿虫の匂い 大西 健司
腰痛や曲がり曲がらず曲り角 中村 セミ
雪霏々と降れば飯炊く飯炊く母 松本 勇二
隆々と咲きしなびたる蘇鉄かな 疋田恵美子
音も無し部屋片付いて初鏡 野口思づゑ
新春や日と土と風と半時 小宮 豊和
坂上がる明るき一角臘梅よ 中西 裕子
初日さす爆撃跡の水たまり 増田 天志
胸ポケットは二月のとびら万国旗 三好つや子
ねえ死んだのね枯野わたしの青い空 竹本  仰
独楽の足ぐぐっぐぐっと地球割る 漆原 義典
冬の夜の三和土自在な器なり 寺町志津子
鬼栖むか枝垂れ柳に餅の花 古澤 真翠
落葉して筋肉質の樹々がある 谷  孝江
冬満月姫は地球へ帰りませぬ 島田 章平
枯菊焚く出さず終いの文のごと 新野 祐子
線量計の凍蝶を生むとめどもなし 田口  浩
疣(いぼ)裂けて皮膚科へ走る五日かな 野澤 隆夫
子が笑うそこが真ん中春の森 三枝みずほ
ふたりゐて白き時間を冬日中 高橋 晴子
雪深々”席あけとくよ”と逝った人 田中 怜子
白鳥飛び町の色彩うごきだす 夏谷 胡桃
人日や納戸にしばし用のあり 菅原 春み
ついてくるのは狐かもしれぬ樹海 柴田 清子
裏白を飾り少年閉じこもる 矢野千代子
息吸って息吐いて新しい年 月野ぽぽな
金剛の風が吹くなり雪催 野﨑 憲子

句会の窓

小西 瞬夏

特選句「往診鞄ふっと綿虫の匂い」大きな病院のない、医師不足に悩む地方のお医者さんが、患者さんのもとへ急ぐ姿を思わせる。街燈もあまりない、薄暗い道を鞄を抱えて。待っている病人と、その家族と、医者と、綿虫の、それぞれ のかけがえのない命が響きあう。

男波 弘志

「薄闇。雪虫のまじり合はぬ日」そういわれると、雪虫の一つ一つが鮮明に浮かぶ。「。」は不用かと。「曲線的に余生を歩く葱畑(田口浩)」この曲線は大晩年のゆとりの曲線だろう。「光折れて祖国の冥さ初鏡」中7までは抜群の表 現、初鏡、では受け止め切れない。「往診鞄ふっと綿虫の匂い」医師は常に、人間の生死を見つめ、行き来している。往診鞄はまだ現世にある。綿虫のあの世へ患者を盗られないように。「海鼠噛みをり海鼠の呟きも(小西瞬夏)」この呟きが、 身の一部になる畏れ。「雪霏霏と降れば飯炊く飯炊く母」平凡な日常に一切がある。非日常など「たわぶれ事」だとわかる。「姉傘寿われらはころぶ雪の山」いざさらば芭蕉の転ぶところまで、江戸俳諧への連絡が見事だ。「たとへば枯野歩くほ どに赤くなる(野﨑憲子)」たとへば、の虚が実景に、そして心音の赤になる。「蟬の穴玉音放送聞きにくし(竹本 仰)」玉音の声が聞きずらいのは、シャーマンとしての役割を象徴している。神とは明らかならざるものだ。「人日や納戸にし ばし用のあり」金輪際動くことのない、人日、これこそが季語の生きたかたち。

藤川 宏樹

特選句「雪霏々と降れば飯炊く飯炊く母」:「雪霏々と」「飯炊く飯炊く母」の応答が暮らしの日常をうまく表現しています。今年90の母が三度三度、食事支度の様を目にしており同感、響きました。初句会後の新年会。男波さん、山 内さん、三枝さんと同席、俳句談義を楽しめました。皆様、今年もよろしくお願いします。

若森 京子

特選句「枯菊焚く出さず終いの文のごと」香を放ち晴れやかに咲いた後の枯菊ほど哀れな姿はない、それを焚く。ぶすぶすと煙むるが少し違った残り香もある様だ。その情景と中七下五の心情との綾なすひびき合いが大変上手いと思う。 特選句「雪深々”席あけとくよ”と逝った人」加齢と共に喪の多い昨今、親しい友の死にも会い自分に切実に伝わってきた。

増田 天志

特選句「ねえ死んだのね枯野わたしの青い空」口語調も良いし、喪失感が半端なく俺の胸に迫り来る。

古澤 真翠

特選句「 黒光る牛舐め飛ばす寒の水」牛肉に元気をいただいている私としては、「黒毛和牛」の静謐な一瞬が心に染み入りました。「寒の水」が効いていると思います。

野澤 隆夫

「海程」香川句会、今回で第80回。おめでとうございます。投句、参加者も確実に増え、和やかで楽しい句会です。今年もよろしくお願いいたします。 特選句「狼のまなざしななめ恵方とす」小生の乏しい天体知識の解釈。傷心の、何故に傷心かは不明ですが、作者が冬の大三角を見た景色。青白く輝くシリウスに狼のまなざしを感じ勇気を得て、今年の恵方とした。〝まなざしななめ〟が面白い です。特選句「薄氷や虫歯に潜む戦車隊(増田天志)」薄々と張った〝薄氷〟と痛い痛い〝虫歯〟。そこには一触即発の〝戦車隊〟が潜んでいると。トム・クルーズの映画です。問 題句「手袋を嵌めてみる蹼が邪魔(新野祐子)」冬鳥の鴨♂は どれもお洒落。その鴨の次に目を付けたのが手袋。ファッショナブルにと。でもこれが手袋なので〝蹼〟が邪魔をする。〝靴下〟だったらよかったかな?

中野 佑海

特選句「冬北斗観念的ガ木霊する(豊原清明)」この分かり難さ。とっても感激的です。大体北極星の回りをずっと律儀に回っているなんてほんと囚われの極致だよね!この「ガ」は一体何なのだ?蛾なのか、我なのか?賀なのか?是非 とも作者の方の自句自解お願い申し上げます。何か全てが気になる!特選句「子が笑うそこが真ん中春の森」うって変わってこの分かり易い安心感はどうだ!だけど、子が笑うのは、家庭で無くて、森の中。良いのかこれで。世の中の親と言うも のはそうかも知れない。私もあまり子に執着せず、私の母任せだった。反省して、孫は良く面倒見ている方だと思う。やはり、親と言うものは自分もがむしゃらに自分を見つけようとあがいている真っ只中だもの。子は見れる人に任せ、楽しき森 へ!新年会で皆様の句会とは違う顔が見られて良かったです。幹事の男波様、三枝様有難うございました。そして、いつもご尽力頂きます野崎様。今年も宜しくお願いいたします。

竹本  仰

特選句「落椿いつの間にやらうわの空」二通りの切れの可能性あり。「落椿」で切ると見ているうちにすべて忘れる、まだ大丈夫ですが、「いつの間にやら」で切ると「うわの空」状態の深化、乃至深刻化でしょうか。いずれにしても、 「落椿」と「うわの空」の対比がくっきりと面白く、「うわの空」に詩情を持たせているなあと感心しました。個人的には、だから後ろの切れでとった方がいいかなと。特選句「指間より愛が零れる冬銀河」なぜか、ゆううつにさせる作品で、そ こがいいと思いました。零れることによって成り立つ愛という、愛の無償をうまくうたい上げているのではと思います。その無償によって宇宙は成り立つのだといった、透明なかなしみでしょうか。モーリャックの『テレーズ・デスケルウ』とい う小説を思い出します。人生、ボタンの掛け違いだらけのような、乾ききった人妻が、キニーネで夫の毒殺を目論という話だったようにうろ覚えですが記憶しています。愛の性質、そんなものをさっと風のように書けたらこんなものかと。特選句 「裏白を飾り少年閉じこもる」リアルですね。純情を恥かしがる純情は、怖いものでもあります。しかし、こういう少年を世間は意外にきちんと見ており、あのTVに出てくる訳の分からないステレオタイプのおばさんはあまりいないもの。この句 のような最大級の自己表出を注意深く読み取る世間に気づいていないのは、少年ばかり。そこが詩なんでしょうね。吉本隆明の初期の詩に「エリアンの手記」というのがありました、やがては機動隊に追いかけられて、窮余の一策で警視庁に逃げ 込んで難を逃れたという、あの猛者がこんなひきこもりだったのかと。思えば、それが一縷つながる所が人生でありましょうと、ひきこもり少年に並々ならぬ愛を感じる小生の好みに合ってくれる句です。問題句「咳込んで凸凹はるか核ボタン( 若森京子)」この「はるか」がよくわからなかったです。病が、雑事・難事が多いことが、かえって核ボタンを遠ざけてるということか?煩悩による危機の回避?「はるか」は、為政者との距離感?どうでしょう?

島田 章平

特選句「子が笑うそこが真ん中春の森」。掲句、子供は世界の中心。新年のまだ芽吹き始めたばかりの森。見上げる青空。子供を真ん中に、若いお父さんとお母さん。お父さんとお母さんの真ん中でぶらんこをする子供。大きく空に向か って足を上げて御覧。世界は君のためにある。

山内  聡

特選句「ふたりゐて白き時間を冬日中」ふたりとは明らかに男と女。場所は明るい陽射しが射し込む部屋の中、を想像しました。この句の焦点は「白き時間」。白い時間というのはなんだろうな。白から連想されるのは、純白、純真、空白、 清潔、誰にも邪魔されない時間。ふたりでいることの貴重さを白き時間としたところにこの句の面白さがあると思いました。

矢野千代子

特選句「往診鞄ふっと綿虫の匂い」自然豊かな道を、医者が行く。〈鞄が綿虫の匂い〉なんて素敵なフレーズ…。そうとうくたびれた往診鞄を下げた姿は、その土地では大切な存在だろう。

寺町志津子

特選句「枯菊焚く出さず終いの文のごと」あるいは類句があるかもしれない、と思いつつも好きな句である。晩秋を彩った菊。冬になって寒さや霜雪にあい、葉も花も茎も、芯まで枯れていった菊。中には色褪せながらも微かに色彩を残 している花もあったかもしれない。そんな枯菊を始末しようと焼いていると、ほのかに菊の香りが・・・。そのほのかな香りに、遠い昔、憧れの人に書いたものの、結局は出さずじまいになってしまった懸想文のことが思われ、枯菊を焼きながら 、しばし哀切の念に包まれているであろう作者の心情に共感しました。 

疋田恵美子

特選句「天地はご神体なり初詣(小宮豊和)」天地神明というを信じる一人です。特選句「ふたりゐて白き時間を冬日中」南の日を受け、かけがえのない平穏無事な日常が見えてよい。

三好つや子

特選句「冬眠の目玉は宇宙漂ヘリ(増田天志)」冬眠という生命の営みもまた宇宙の神秘のひとつ。中七の「目玉」がレアで力強い。特選句「呼ばれたような蝋梅の透くことば(若森京子)」子どもの頃から中国の昔話集「聊斎志異」が 好きで、今でも蝋梅を見ると、仙女が手招きしているような気がします。そんな中国のおとぎ話をこの句に感じました。入選句「冬の夜の三和土自在な器なり」寒くて億劫になりがちな外の仕事・・・。三和土の温もりに励まされながら家事をこ なしている、冬の主婦の日常が目に浮かびます。

柴田 清子

「子どもらは透明になり森に消ゆ」を特選としました。十七文字で歳時記から飛び出して幻想的写生句としての魅力があります。

田口  浩

特選句「なんで魚にならないんだろう爪」こう置かれると、爪が魚になるのが当然のように思われる。詩の不可思議である。私には水に遊ばせている女性の指から、白い爪が離れていくいのちが透ける。小さな魚に貸してゆらゆら泳いで いるいのち。作者は、そうならない爪を嘆く。俳句はこの破天荒をゆるす。特選句「息吸って息吐いて新しい年」空気を吸ったり吐いたり、普段は意にとめる事もないのだが、新年はそうでない。穏やかな日常のなかの新しい年。特別の事は何も 言っていないが、句は新鮮で大きい。いい正月である。めでたい。

大西 健司

特選句「線量計の凍蝶を生むとめどもなし」線量計を何故か毛嫌いしていて最初選外にしていた。しかし詩的把握があるとの思いから特選とした。ただ七十九回で松本勇二氏の指摘にあったのと同じく「線量計の」何故「の」を入れて述 べるのかと疑問に思っている。切れを大切に、韻律を大切にと言いたい。

谷  孝江

特選句「身の丈の日本を生きて冬花火」昭和一桁に生れ、戦前戦中戦後をふり返ってみると多感な少女時代娘時代をそれなりに受け入れて生きてきたものよ、と近頃思い出すことしきりです。平成もあと一年とすこし。どの様な余世が始 まることかと、出来れば身の丈に応じた人世でと願うばかりです。豊かであれ、貧乏であれ、身の丈の中で生きることの大切さを思い起こさせてくれました。「一〇一歳の母在るだけで松飾り(中野佑海)」「雪霏々と降れば飯焚く飯焚く母」に も心打たれるものがありました。

河田 清峰

特選句「新春や日と土と風と半時」芭蕉の句に…春立ちてまだ九日の野山かな…彼の人は新しい年を僅か一時間楽しむと言う!風と光と産土のなかで…もうひとつ「睦月の芽睦月の意志の色をして(小宮豊和)」こちらのほうが詩情があ って好きではあるが…以上よろしくお願いいたします~

中村 セミ

特選句「ついてくるのは狐かもしれぬ樹海」以前、樹海をさ迷った友人の云う事に、樹木は気(殺気・息)の様なものを出すと云っていた。そこで、ちょっとスマホで調べて見ると植物の7つの能力とか気という言葉も出てきた。おそら く、ついてくるのは樹海の木の出す気だろうと思う。それが狐に感じたのだろうと思うが、ここでは誰かがついてくると感じたことが、大事だろうと思う。 その友人は、何とか道が分かるところに出る迄に、後からフゥーと息を吹きつけられた り、殺気を感じたり、それが何度も幻想の様に襲ってきたといっている。「ついてくのだ樹海の息が俺に」という言葉が彼の口から出たのを、思い出しました。特選句「線量計の凍蝶を生むとめどもなし」おそらく放射能がまだ飛んでいる区域に 残っている人間以外の生物の事を凍蝶として表しているのだろう。一年もすればそれ等の生物は死に絶え、植物が残っていてもずい分汚染されているだろう。それが今後、何十年も続く恰もしんしんと雪が降るように積ってゆく何シーベルトかの 毒、それを象徴している凍蝶が見事でとてもいい。特選句「独楽の足ぐぐっぐぐっと地球割る」独楽が地面にめり込むように回る回転力、ピックで大きな氷をかち割る様な表現で地球をまるで割るようだ。力強い表現力だと思う。他に、「たとえ ば枯野歩くほどに赤くなる」等気になりました。

稲葉 千尋

特選句「裏紙のあっての豚まん冬温し」何故あの裏紙が必要なのかわからないが裏紙があって豚まんが旨いのかも知れない。温ったまる。特選句「往診鞄ふっと綿虫の匂い」そうですか、綿虫の匂いか、往診鞄を提げる医師が綿虫のよう なのかも。

河野 志保

特選句「寒暁や犬を時計としておりぬ」寒い朝。散歩をせがむ犬の声。それを合い図に起床する。ストレートな詠み口に好感。犬も飼い主さんも始まったばかりの今日も、全部愛しい。日常を大切にした句作り、見習いたい。

新野 祐子

特選句「光折れて祖国の冥さ初鏡」うまく解釈できないけれど、一番気になった句です。太陽の光が屈折して地上に届かないあなたの祖国とはどこですか。国家という枠で考えると、この時代不穏で混沌としていない国はないでしょう。 新年の目出度い鏡に写るのは、一触即発の状態にある世界の姿なのでしょうか。特選句「初日さす爆撃跡の水たまり」これも胸にぐさりと刺さる句。イラクとかシリアとかの激しい戦闘で瓦礫と化した街が浮かんできます。硝煙の匂いのする濁っ た水たまりに、元日の朝日が刺し込んでいるという痛々しい光景に、日本人の私はこの戦争に加担しているのではと自問せずにはおれません。問題句「薄闇。雪虫のまじりあはぬ日」句点を入れるなんて、なんて挑戦的なのでしょう。初めて見ま した。小説は言わずもがな、大新聞でさえ七十年くらい前までは句点は使わなかったそうです。それを俳句に使うとは凄い!入選句「独楽の足ぐぐっぐぐっと地球割る」:「地球割る」がうまい。「ぐぐっぐぐっ」のオノマトペもユニークですね 。

三枝みずほ

特選句「ねえ死んだのね枯野わたしの青い空」死後の世界のこと、地獄や天国なんてものではなく、青い空ならいいかもしれない。青い空から枯野に話しかけているような情景。枯野は生の世界なんだと実感した。特選句「今年こそ笑っ て暮らそ初日記」日記に書くこと、自己嫌悪とか反省とか秘密とか。明るい事をあまり書いた記憶がない。一年の始まりに相応しい一句。こうありたいものだ。新年会、ありがとうございました!

藤田 乙女

特選句「胸ポケットは二月のとびら万国旗」 平昌オリンピックの若人への希望や期待、夢か溢れ出てくるような爽やかさ、清々しさを感じる素敵な句だと思いました。特選句「子が笑うそこが真ん中春の森」子どもの笑顔は周囲を幸せな 気分にさせ、その「生」の輝きは、まさに自然界の命が芽吹く春そのもののように思います。子の笑い声が森の中に響き、人間と自然との輝く生命の春の二重奏が始まるような明るさを感じ、とても惹かれました。

野田 信章

特選句「松過ぎの性悪文鳥肩に夫(鈴木幸江)」松明けという時間を経てこそ見えてくる日常の景。愛玩この上もない文鳥の生命を通して微笑ましい光景が把握されている。平和な年でありますように。第八十回に達したとは慶賀です。 益々の通信句会の充実を期待します。

鈴木 幸江

特選句「甘酒 茶碗一杯の純なりき」この句から、言葉では言い表せないが純という言葉の神髄にお目に掛れた気がした。一途な純情をしのびつつ、こんな現代だからこそそんな心情を味わいたい。一椀の甘酒の白く輝く姿と昔ながらの 一途な深い味わいを枯れた心に取り込もうではないか。少しは目立っているが出しゃばらない甘酒の存在もこの句は良く捉えている。特選句「ねえ死んだのね枯野わたしの青い空」死んだら宇宙の闇に無となり還ると思っていた。でも、その前に 臨死体験というものがあるのだ。忘れていた。この作者のは、「死んだのねえ」と思い、枯野が見え、明るい青空が上空に広がっているのだ。もちろん、これはフィクッションなのかもしれないけど、青空になんか救われた。死ぬのも少し楽しみ になった。問題句「キリストは極貧乏や寒稽古(豊原清明)」なんてたってキリストを極貧乏と捉える感性が異色だ。清貧というのならよくわかる。そして、寒稽古をしているか、見ているときにそう思ったのだろう。心理の展開について行けず 問題句にさせていただいた。キリストの生き様の新しい面を探ろうとしている挑戦心は応援したい。

夏石 胡桃

特選句「霙降る小さな母に見送られ」。いつまでも息子の背中を見ていたい母の気持ちがわかります。息子の気持ちも素直にわかります。よく表現される情景ですが「霙」が良かったと思いました。

菅原 春み

特選句「霙降る小さな母に見送られ 」 ぱらぱらと音をたてて降り、はじける霰の季語をえて、小さな母が音を伴う映像として浮かびあがる。特選句「初日さす爆撃跡の水たまり」淑気のなかに昇る初日の出が、対照的な爆弾跡の水たま りにさす、とは見事な配置。

田中 怜子

特選句「裏紙のあっての豚まん冬温し」ふくふく湯気が上がって、ささやかな幸せ。特選句「音も無し部屋片付いて初鏡」きりりととした簡素かつ冷たいくらいの部屋は、寂しいような。

桂  凛火

特選句「ねえ死んだのね枯野わたしの青い空」よくわからないのだがそこにひかれる句でした。ねえ死んだのね枯野とは人のような恋人のような大切なものをなくした喪失感が伝わってきました。私の青い空とはこれも大胆な言いぶりで 明るくてよかったです。

松本 勇二

特選句「裏紙のあっての豚まん冬温し」豚まんの特性をうまく句にしています。問題句「ふるさとは我追い抜いて冬麗なり(野口思づゑ)」我追い抜いてを我を追い抜きにすると「て」があることのゆるみが解消するのではないでしょう か。

伊藤  幸

特選句「くさめかな金塊のよう男二人」くさめからして若くはない。手を取り合い世の荒海を乗り越えてきたそんな男二人を金塊と称した作者に「ブラボー!」

野口思づゑ

特選句「 光折れて祖国の冥さ初鏡」日頃杞憂に過ぎなければと願ってしまう日本の現状を「光折れて」「冥さ」という詩的表現で季語の「初鏡」とともに巧みにまとめてある。問題句「肉親や氷の指の爪を切る(男波弘志)」肉親との関 係が好ましくない自分の指なのか、それともそんな肉親の爪を切ってあげているのかはっきりしないのですが、冷たい感覚が少し怖い。その他「落椿いつの間にやらうわの空」人の話しを聞いているうちに、何かのきっかけで上の空になっている 事があるが「落椿」がよく効いている。「ファミリーの標本箱かも初電車(三好つや子)」正月の電車はどこかに出かけるあちこちの家族連れで賑わっている。「標本箱」なかなか上手な言い方。「一〇一歳の母在るだけで松飾り」母と子の幸せ な関係がよく出ている。

漆原 義典

特選句「一〇一歳の母在るだけで松飾り」101歳の母が松飾りと長寿の母を敬う温かい親子愛が感じられ、私が大好きな句です。

亀山祐美子

特選句はありません。問題句『蝉の穴玉音放送聞きにくし』この夏、一夜庵のある興昌寺の本堂前の楓の木を囲む垣根に空蝉が無数に止まっていた。垣根の内側は雑草よけのシートが張り巡らされ、出口を塞がれた蝉たちの慌てふためく 様を想像し脱出できなかった蝉たちの無念を思った。「蝉の穴」があの日の「玉音放送」を呼び戻し、無数の墓穴を連想させる。「聞きにくし」が現在の政情不安を醸し出す。夏の句会で出句されたものなら間違いなく特選でいただいた。無季も 季重なりもありだが、やはり季節感は大切にしたい。『一〇一歳の母在るだけで松飾り』正月らしいおめでたい一句。句会で中七の「居るだけで」が問題になった。「101歳の母」「松飾り」たけで母の存在感は十二分に伝わる。趣味に仕事に 元気でも、病床に臥せようとも「母」は居るだけでいいものだから、だめ押しをする必要はない。必要なのは個性的な中七。後五文字の身の削りようだろう。「居るだけで」は平凡で説明的。好きな句だけにもったいない。私なら『百歳とひとつ の母や松飾』とする。おもしろい句会でした。今年もよろしくお願い申し上げます。

銀   次

今月の誤読●「ちょっとだけ考える人冬うらら」。そのオンナは「ちょっとだけ考える人」であった。なにごとも深くは考えず、深刻になりもせず、たいていのことは、〈まっ、いっか〉で済ますのが常であった。いまオンナはスーパー の中にいる。今夜の献立は肉ジャガと決めていた。だから買い物篭に最初に放り込んだのはジャガイモであった。次にニンジンを入れた。〈そういえば切らしていたわね〉とちょっとだけ考えてタマネギも入れた。あとは牛肉を買って、と。で、 ふと見ると商品棚にカレーのルーが並んでた。〈そっか、カレーもいいかも〉とちょっとだけ考えてルーを手に取った。〈えっと、あとは〉と総菜コーナーに行きかかろうとしたとき〈そういえば〉と、今朝クリーニングに出した夫のスーツのポ ケットに、小さなピンク色の〈マリコ〉とだけ書かれた名刺が入っていたのを思い出した。〈あいつ浮気してんのかしら〉とちょっとだけ考えた。ちょっとだけ考えて、〈まさかね、あの野暮天が〉と思い直してすぐに忘れた。うしろから〈あら ー、奥さま〉と呼びかける声があった。振りかえると同年配の主婦らしき女性が立っていた。オンナはその女性としばらく立ち話をした。〈野菜がお高いわね〉とか〈この寒さ、いつまでつづくのかしら〉とかの月並みな会話を交わし〈じゃあ、 また〉とわかれた。二三歩行きかけて、オンナは〈あの人、だれだったかしら?〉ちょっとだけ考えた。ちょっとだけ思い出そうとしたが、〈ま、どうでもいっか〉とレジに向かった。(筆者独白/好きだなあ、こういうオンナ。世はなべて事も なし。ちょっとだけ考えて、すぐに忘れる。それがこのオンナの生きる知恵であり、哲学なのだ。人生なんてそんなにご大層なもんじゃねえよ)。そしてこの手のオンナこそ、まさに「冬うらら」の似合うオンナなのだ。

重松 敬子

今回も興味深い句が多く,今年も楽しみです。特選句「子が笑うそこが真ん中春の森」初句会らしい明るさを頂きました。国の将来を担う子供達が健やかにそだっている様子,それを見守る周囲の暖かい目線も感じられとても良い句だと思 います。真ん中のつかい方が良い。

豊原 清明

問題句「狛犬の笑い上戸や実南天(亀山祐美子)」無気味な偶像と自然の融合。特選句 「声荒き海鳴りの町鰤大根(重松 敬子)」鰤と海鳴りの情景があるため、観念的ではなく、自然と生き生きして見える。

中西 裕子

特選句「 黒光る牛舐め飛ばす寒の水」寒い時期で縮こまってしまいますが、光る、飛ばす、と勢いのある言葉で元気をもらえました。

月野ぽぽな

特選句「ファミリーの標本箱かも初電車」電車を標本箱と捉えたクールさが見所。初電車なので、晴れやかな雰囲気もあり、バランスが取れている。

小宮 豊和

問題句「捨てて来た合鍵ぬっと初鏡」心惹かれた句だが意味がつかみにくい。「ぬっと初鏡」を、たとえば「初鏡にぬっと」とすると合鍵を捨てるという動作と初鏡に写るという現象の主体が同一人物で、一つながりの動きと感じられる 。「に」を追加すると十八音になるが意味は受取れる。作者の意図と異なるかもしれないが読者としてはわかりやすいことを希望する。

高橋 晴子

特選句「浜砂に草の実あかきわが仮泊」うまくいえないが人生の在りようを感じさせられる句。特選句「雪霏々と降れば飯炊く飯炊く母」〝飯炊く〟の繰り返しが炊飯器でなく竈で飯を炊いているような感を覚えさせる。いずれにしても 厳しい自然と命を守る飯の対比に興を感ずる。面白い句が多かった。「海程」の表現に少し慣れてきたのかもしれません。文句を言いたい句もたくさんあるが、そのうち自分で気がつくでしょう。今年もよろしく!

 
野﨑 憲子

特選句「息吸って息吐いて新しい年」シンプルだから美しい。淑気漲る作品に作者のエッセンシャルな生き方を思った。問題句「薄闇。雪虫のまじりあはぬ日」何でも有りの俳句の世界。句点とは、面白い挑戦だと思う。「薄闇」と「雪 虫」が少し近いのが惜しい。

友からの新年の便りに、青森のハンセン病隔離施設に18歳で入所し、1972年に49歳で亡くなった青葉香歩さんの川柳がありました。青葉さんは、失明の苦難の中、舌読で点字聖書を読み、川柳や教会の友との交わりの喜びに生きられ た方との添え書きがありました。深い感動の中、珠玉の作品を以下に紹介させていただきます。

どろんこのどろんこの中で神を見る

境遇のどう変わろうと星きよし

一筋の足跡残す気で歩き

感覚を舌に集めて読む点字

点字練習バイ ブル読める日をかぞえ

倖せは点字覚えた舌があり

足さぐり手さぐりに来て陽を感じ

盲今日雲の流れる音を聞く

天も地もみな平和なれ天仰ぐ

かつて読んだ詩集の中にあった「病は宝である」という一節がふっと浮かび、心洗われる 思いの中、逆境を逆手に取る魂の根っこの強さを強く感じました。衝撃でした。青葉さんの魂の強さを少しでも見習いたいと心底から思いました。  今年は、九月二十三日に、金子兜太先生が白寿を迎えられ、『海程』終刊そして『海原』発足 と節目の年にあたります。私も、『海原』に参加させていただきつつ、この「海程」香川句会は、「海程香川句会」として、今まで以上に愚直に熱く渦巻いて行きたいと念じています。皆さまのご参加を楽しみにしています!

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

放火
寒オリオン君の心に火を放つ
中野 佑海
どこにある放火の封筒初句会
藤川 宏樹
悴むやぎこちなく少年放火する
竹本  仰
バイオリンが響く放火をしませんか
田口  浩
春そこに放火してきたような顔
男波 弘志
うどん
うどん一杯寒の夜勤をあたためる
小宮 豊和
木枯しを纏いし背広うどん屋に
中野 佑海
うどんすする幸福論のあれやこれや
三枝みずほ
亡き妻の好きな花なり福寿草
島田 章平
福を呼ぶ顔となりに座ってゐる
三枝みずほ
福助の白足袋を知る人ばかり
柴田 清子
寒稽古
寒稽古なにやら気持ちの急展開
竹本  仰
すねに傷くるぶしの痣寒稽古
藤川 宏樹
水平線ほどけて風や寒稽古
野﨑 憲子
寒稽古遠くの山が近くなる
柴田 清子
冬の窓
冬の窓僕ならばまだ小さくす
男波 弘志
冬の窓私の魚およぎ出す
中村 セミ
恵方
句会場あるところ恵方なり
柴田 清子
新しき鉛筆におう恵方みち
男波 弘志
老人の音を持ち去る恵方かな
田口  浩
雪かしら唇に紅のらない日
柴田 清子
降る雪やりっちゃんは淋しかったのです
野﨑 憲子
飼主によく似し犬が雪の土手
野澤 隆夫
夜の空気吸ふもうすぐ雪の降る気配
三枝みずほ
別れゆく雪に似合わぬ背中だが
竹本  仰
ソクラテス
ソクラテス時には思索日向ぼこ
野澤 隆夫
ソクラテス雲は独りになりたがる
野﨑 憲子
おしどりの川にソクラテスがうつる
男波 弘志
ソクラテス鴨より鴎大きいです
鈴木 幸江
冬籠永遠の無知ソクラテス
山内  聡
真実はセロリの香りソクラテス
島田 章平
湯豆腐
湯豆腐のなかに地球のたまごかな
野﨑 憲子
湯豆腐や夫に云う付き合ってくれますか
鈴木 幸江
湯豆腐や昆布ひろがり白と黒
山内  聡
湯豆腐という遠景のありにけり
男波 弘志

【通信欄】&【句会メモ】

平成三十年の初句会には、着物姿の柴田清子さんと中野佑海さん、そして淡路島から竹本 仰さんが参加され、淑気と熱気漲る句会になりました。今回で八十回となり句会後に開いた新年会では、お話の花があちこちで咲きました。振り返れ ばあっという間の八十回でした。これからも、一回一回の句会を大切に踏んばってまいります。今後ともどうぞ宜しくお願い申しあげます。

2017年12月28日 (木)

第79回「海程」香川句会(2017.12.16)

IMG_0940.jpg

事前投句参加者の一句

        
否そして雪そして雪そして雪 小西 瞬夏
肋骨透きとほる白魚の秒針 中村 セミ
生きて愉快冬青空へ廻れ右 田口  浩
とびきりの寒の歓喜や風太鼓 豊原 清明
児に初めてのことばは落ちた茸落ち 竹本  仰
ホットレモンにんげんじんわりと適温 三枝みずほ
漱石忌アンドロイドが煩悶す 野澤 隆夫
母の骨いがいに多し冬銀河 菅原 春み
耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし 山内  聡
着ぶくれて身に覚えなき咎のごと 重松 敬子
てのひらはさかなとさかな寒月下 男波 弘志
着ぶくれて身に覚えなき咎のごと 重松 敬子
冬葛藤闇を切り裂く流れ星 漆原 義典
生き生きて浮いた落葉の自在かな 疋田恵美子
明恵上人(しょうにん)の愛でし子犬や草紅葉 田中 怜子
紫とオレンジの空 タラバガニ 古澤 真翠
冬紅葉透くや紫影の柱立つ 藤川 宏樹
木洩れ日の入る座敷や十二月 髙木 繁子
白さざんかの光の中を姉逝けり 稲葉 千尋
初冬の湯気で開封する手紙 新野 祐子
義理や義務歳暮センターの疲れ顔 野口思づゑ
聖誕祭ナイフは肉に沈みゆく 増田 天志
臘梅のほのかな家路また転ぶ 若森 京子
散落葉そんな隙間をみつけたか 小宮 豊和
まだ青春今が青春麦の芽よ 伊藤  幸
兵士って感じのイチゴ十二月 三好つや子
九つの穴ある人体今朝の冬 寺町志津子
パーマネント鏡の奥に初氷 夏谷 胡桃
箸割りそこね淡路西岸冬あらし 矢野千代子
偽の雪降らして役者芽吹きをり 小山やす子
十億年前の冬ですオウムガイ 桂  凛火
ポケットの手が冷たくて町を出る 柴田 清子
せりあがるみちやさるとりいばらの実 亀山祐美子
冬紅葉うちはあんたに捨てられた 島田 章平
コートの袖誤作動の杖の出入り 中野 佑海
イソップとかちかち山と風邪の子と 谷  孝江
国歌斉唱静かに斧の倒されて 大西 健司
札売の声や骸の漂着す 河田 清峰
みかん匂う今ふたり切りですね 鈴木 幸江
狼を呼ぶよ邪馬台国の唇 月野ぽぽな
古馬場町から百間町へ時雨連れ 松本 勇二
枯葉舞ふ落ちる駆けるも踏まるるも 高橋 晴子
若呆けもあるぞと案山子こちら向く 野田 信章
他人事のような顔して冬の月 藤田 乙女
酔漢の紐ほどけたり十二月 銀   次
柿紅葉選ばれなかった人生に 河野 志保
朝日子の渦巻くことば冬木の芽 野﨑 憲子

句会の窓

島田 章平

特選句「初冬の湯気で開封する手紙」。掲句、スマホ全盛の時代。あっと言う間に届く彼女からの「サヨナラ」のメール。恋は秒殺。それに比べて手紙の優しい昭和の香り。肌の温もりを感じる・・とそこまで思ってふと考えた。「湯気 で開封する手紙」って何だろう。夫宛ての見知らぬ名前からの手紙、そして美しい女文字。揺れる心、震える手。思わず薬缶を引き寄せて、封印を少しづつほぐして行く。高ぶる気持ちを抑えながら・・。やはり女心は昭和の匂いでなくっちゃ。

若森 京子

特選句「てのひらはさかなとさかな寒月下」自分の両てのひらか、恋人と触れ合うてのひらか。寒月下にさかなの様に泳ぐてのひら。大変リアルで美しい。特選句「コートの袖誤作動の杖の出入り」〝誤作動の杖〟の措辞が現代の象徴の ようで、コートの袖を出入りする。人間と文明の小さなおかしみを、軽妙な滑稽さを感じる。

増田 天志

特選句「冬紅葉透く日紫影の柱立つ」この柱、墓標に想えてならない。それも、兵士の墓。国家のための人柱。冬紅葉という儚い季語の効果なのか。透くという言葉の存在の希薄さのためなのか。「日」は、不要で、「や」の切れ字に、 添削したい。紫という色彩感覚の良さを、作者に感じる。紫は、犠牲者に対する鎮魂と敬意の表現か。

三好つや子

特選句「朝日子の渦巻くことば冬木の芽」 冬の朝の校庭や教室で、息をはずませて話す子どもの声が聞こえてきそう。冬木の芽のように日々成長していく子どもたちを、温かく見守る先生のまなざしまでも感じられました。特選句「十 億年前の冬ですオウムガイ」 生きている化石のひとつオウム貝を通して見えてくる、遠いむかしのピュアな地球。富沢赤黄男の「蝶墜ちて大音響の結氷期」に通じるものがあります。入選句「寒雷や魚の眼のぎっしり(野﨑憲子)」鰤の到来を 告げるため、「鰤起こし」と呼ばれる、母の故郷の冬の雷のことを思い出しました。

小西 瞬夏

特選句「肋骨透きとほる白魚の秒針」:「白魚の秒針」にどれだけ普遍性があるかはやや疑問ではあるが、この思い切った飛躍に勢いがあり、エネルギーを感じた。問題句「木洩れ日の凍蝶やはらかき旋律(三枝みずほ)」素敵な句なのだ が、「木漏れ日」「凍蝶」「やはらかき」「旋律」と同質の言葉がこれでもかと並んでいて、やや気取り過ぎなところが気になる。

藤川 宏樹

特選句「否そして雪そして雪そして雪」:「そして雪」のリフレインが映像として捉えられます。「否」での始まりは、雪深きところでの作者の生活像を想わせます。17音の象徴的な構成が効果的で、勉強になります。なお、「冬紅葉透 く日紫影の柱立つ」の「日」を「や」へとの増田天志様の的確なご指摘のとおり、この場で拙句を改めたいと存じます。「冬紅葉透くや紫影の柱立つ」

三枝みずほ

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」十二月は開戦の月。冬のイチゴ、痩身で酸味もあり、早熟だ。イチゴの赤が何とも痛々しくも思える。春のふっくらとした芳しい苺ではなく、十二月のイチゴがとても効いていて、心に響いた。

矢野千代子

「古馬場町から百間町へ時雨連れ」強く読み手にひびきあう固有名詞と時雨の音…。予想以上の効果のおおきさで特選句に。

稲葉 千尋

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」骨の数は誰も変らないが、この句の場合は、母が亡くなって火葬後の事かなと思う。冬銀河が利いている。特選句「九つの穴ある人体今朝の冬」どこまで数えて九つかわからないが、人体への(作者 自身)不思議を感じ、冬銀河の不思議も感じている

伊藤  幸

特選句「パンパスグラス一メートル半ノコドク(小西瞬夏)」孤独を強調する為敢えて仮名にしたものであろうが下語はやはり孤独と漢字で表現しても良かったのでは?巨大な芒を思わせ3メートルにも達するパンパスグラス、1メート ル半の措辞で寂しさが充分伝わってくる。パンパスグラスと孤独の相反する取合せが見事。

豊原 清明

特選句「反骨の顔ぬっと冬木の芽(三好つや子)」反骨精神が頼もしい。問題句「魂が魚簗に捕まり岩となる(中村セミ)」語句から魔物性を感じる。

田中 怜子

特選句「パーマネント鏡の奥に初氷」田舎のレトロの理髪店、鏡を前にパーマ、鏡に窓外に氷が映る。おだやかな、昭和が描かれている。特選句「丑三つの菊人形の寝息かな(新野祐子)」菊人形の寝息とは、ありそうでなさそうで、一 寸不気味でもある。

中野 佑海

特選句「生きて愉快冬青空へ廻れ右」最近、体の不調が続き、生きることの大変さをつくづく感じているので、この御句に生きる勇気と姿勢を教えて貰いました。特選句「あちこちで撫でられてきたかぼすかな(河野志保)」農家の方の 自分たち作った作物に対する愛情、それを商品として出す方の気合い、それを使って料理に使う人の気遣いそれらを短い俳句の中に見事に凝縮されているところ。この方の心の温かさを感じました。

山内  聡

特選句「散落葉そんな隙間をみつけたか」まず目に浮かぶのが敷き詰められた散落葉。もう隙間もないほどに敷き詰められている。でも埋められていない隙間がある。そこにはらりと一陣の風が。ハラハラハラと落ちて来る紅葉たち。そ の紅葉のひとつがたまたままだ埋められていない隙間にはらりと落ちた。その状況だけで十分美しい情景が想像できる。そして田口さんがおっしゃっていたが、人間の世界もまた同じで自分の隙間をみつけて心地よく人生を生きている作者の心象 も描けていると思いました。

松本 勇二

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」見立てと口語調がどちらも新鮮でした。問題句「白さざんかの光の中を姉逝けり」:「白さざんかの」の「の」を取れば韻律が一層締まるのでは。

鈴木 幸江

特選句「否そして雪そして雪そして雪」雪は人間の営みを否定するかの如く、混沌とした街を白の世界へと変貌させてゆく。そこに雪の想いを見、それを“否”と感受した。そして、“そして”のリフレインにより、雪の降り続く様を見 事に表出させた。特選句「柿紅葉選ばれなかった人生に」選ばれなかった人生を、時代に評価されなかった人生と解釈するか、自分が選ばなかった人生とするか、二通りあるが、この少し投げやりな措辞から、今は凡庸な人生を送っていることが 伺われる。そして、その人生を“柿落葉”で、明るく受け止めているのだ。その姿勢に共鳴した次第。問題句「兵士って感じのイチゴ十二月」“感じ”という言葉が無性に気になった。 “感じ”を言わずに感じさせるのが俳句ではないだろうか と、思った。“兵士”を十二月のイチゴに、新鮮な批評精神を感じ感心した。しかし、“感じ”を言ってしまったことで、読み手の楽しみが半減してしまったので、問題句。

田口  浩

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」冬銀河の星の数は、母のいがいに多い遺骨の数につながろう。火葬場で集めた、おののきと思いが、冬銀河とひとつになって、母のあれこれがよみがえる。冬の凛とした大気と、星座が、作者の気持 ちとして読みとれる。特選句「ポケットの手が冷たくて町を出る」この作品、書こうと思ってハタと困った。句の内意は、いくらでも書けるのだが、それをやると句が痩せることに気づいたからである。このような作品は、俳句の妙味を解釈する のでなく、そのまま心につたわるものを感じとればよいのである。その上で、句の内臓する淋しさや人生を受け取れば、充分であろう。好きな作品である。

夏谷 胡桃

特選句「ホットレモンにんげんじんわりと適温」。寒い日が続きます。マイナス10度になりました。それにも慣れていき、0度だと温かいと感じるようになります。暖かいとは幸せです。ストーブの傍でホットレモンを飲み胃の腑から じんわり温かくなる。にんげんは何が適温かわかりません。ちょっとしたことで幸せになり、今生きていることの不思議を感じます。にんげんがはじめて火を使い、温かいものを飲んだ時は感動したのだろうなどと思いました。特選句「寒雷や魚 の眼のぎつしり」。句として少し物足りなさも感じるのだけど、魚の目がぎっしりで「こわいこわい」とイメージが頭に染みついてしまった。魚の目、鳥の目ってぎっしりはいけません。不吉な感じの句は取りたくなかったけど特選にしてしまい ました。

野田 信章

特選句「魂が魚簗に捕まり岩となる」の句。このごっとした句調の感触が山地に生を享けた者の証しかと思える。魚簗場の活写には諧謔味がある。この句に鮮度ありと読むところに現代を生きる者の魂の漂泊がある故かも知れない。特選 句「箸割りそこね淡路西岸冬あらし」の句。日常の些細な一態がペーソスに終ることなく淡路西岸の映像をも伝達させてくれるところに確かな心情の裏打ちがある。この地に住む者ならではの風土体感の厚みを覚える句柄である。

河野 志保

特選句「蠟梅のほのかな家路また転ぶ」蠟梅に気をとられて躓いたということだろうか。自嘲を含んだコミカルな詠み口と受け取ったがどうだろう。「また転ぶ」に意外性があり心地よいアクセントも感じられた。それでは、穏やかな年 末、そしてお正月をお迎えください。

古澤 真翠

特選句「傀儡師の靴音枸杞の実は零れ(大西健司)」人形遣いを傀儡師というのですが、まず その漢字での俳句に惹かれてしまい不思議な雰囲気の中に誘われていきました。

野澤 隆夫

小生にとっての〝第九〟の二大行事、〝高高ハートフルコンサート〟と〝第九ひろしま2016〟が終わりました。一月句会は是非に参加をと思ってます。。新年会も持つようでしたら、参加の線でお願いします。特選句「反骨の顔ぬっ と冬木の芽」→「反骨の顔」が何とも迫力があります。そして「顔」が「かお」でなく「かんばせ」のルビに「顔のさま」がよくでてます。「冬木の芽」に「反骨の顔」を感じた作者が素晴らしい。特選句「イソップとかちかち山と風邪の子と」 風邪をひいた我が子に若いおかーさんが絵本を読んであげてるのかと。昭和の郷愁を感じさせられました。特選句「冬紅葉うちはあんたに捨てられた」この句も面白いですね。捨てられても何のこれしきと立ち直れる強さを感じます。今回は滑稽 でユーモラスが句が多く、選句しつつ思はず〝ニヤリ〟とさせられました。

谷  孝江

特選句「柿紅葉選ばれなかった人生に」には、共感がありました。だれもが華々しい一生を通せるものではありません。地味な暮しの中で喜びや哀しみを持ちながらの生活を思います。そのなかでの柿紅葉の紅色はやさしい慰めを受け取 る事が出来ます。柿の紅葉なれば尚更です。この句には悲観も捻れも無くさらりと詠んでいらっしゃるところに好感がありました。今年もたくさんの句を拝見出来て嬉しい一年でした。ありがとうございます。良いお年をお迎えください。

大西 健司

特選句「木洩れ日の凍蝶やはらかき旋律」詩的過ぎるきらいもあるのだろうがこの繊細な美しさにひかれる。作者は木洩れ日の中の凍蝶に拘った。それなら「木洩れ日や」としたらとの思いも少しある。

小山やす子

特選句「電柱のこゑして長き夜が混ざる(小西瞬夏)」電線が唸りを上げて爪弾いている。寒くて長い夜の厳しさを端的に上手く表現していると思います。

竹本  仰

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」収骨の時の、こんなに母は骨を抱えていたのかという発見と驚きでしょうか。手に取った箸の先に、一つ一つ何か思い出にこつんこつんと突き当たるものがあったのかも知れない。それが、今まで思 い出しもしなかったものがあれよれよと溢れてきて、そんな感慨がよく見えます。そして、多分、自分にもこの骨の多さがあって、或いは同じような気持ちを起こさせるのかもしれないと、因果の先をも思いやっているのではないか。多くのもの 、それは煩わしさではなく、与えられるものを多く持つという勇気につながるもののような気がします。特選句「全卵にひとすじの血の十二月(田口浩)」勢いのある直球は、ホップする、つまり浮き上がる。なぜかというと、球が生命を持った からだ。この句の血も、まっすぐにしかいかないという、命ある血のことを言ってるのだろう。卵は一つずつ個別にあるが、つらぬく命は一つしかない。この一つは、卵をつらぬくとともに、我々の血にもつながる、根源的なひろく通底したもの だろう。なだれるように落ちる十二月へ、まっしぐらに垂直に落ちゆく時間。それはまた、生命の立ちあがる月でもあるのだろう。生命、そして、宿命の肯定感があらわれている。特選句「散落葉そんな隙間を見つけたか」そんな隙間とは、どん なすきまか?文脈からは、散りゆく先となるのだろうが、そうだろうか?そんな隙間は、生きゆく先とか、死に方とか、そういうスペースを指しているのだとも取れる。そして、散る落ち葉はそんなすき間を見つけ得たから、落ちられるのだとも 、つまり、ゴールからスタートを逆さに見ているような面白い見方も成り立つように思う。すき間に落ちてゆくのだ、きっと我々も、と妙に納得させられてしまうような。では、作者はどうなのだろう?あのように生きねばという声だとも。いず れにしても、全体像がよく見えているような、そんな余白感を味わえた。

疋田恵美子

特選句「臘梅のほのかな家路また転ぶ」高齢に伴う体調不良など、趣味の仲間も一人二人と去り寂しくなる現状です。特選句「暮れなずむ廃炉は揺(よう)と浮巣なり(若森京子)」震災後のフクシマの廃炉のおぞましい現実。

寺町志津子

特選句「ポケットの手が冷たくて町を出る」毎月、香川句会の実に多彩で新鮮ないきいき魅力的な句をワクワク鑑賞させて頂きながら、だからこそ、読み返すたびに特選は?に悩ましい思いがあります。今号も正しくその典型で、最初一 読した折にはスルーしていました。ところが、読み返す度に、「ポケットの冷たい手」は誰の手?作者ご自身?もしかして愛している方?「町を出る」理由は何?と勝手に映画のストーリのような、それも哀愁とロマンに満ちた物語が勝手に広が っていき、目が離せなくなりました。

野口思づゑ

特選句「ホットレモンにんげんじんわりと適温」冷えた体に熱々のホットレモン。自分にとって心地よい適温まで体が少しずつ温まる。読むだけで暖かくなりました。「とびきりの寒の歓喜や風太鼓」:「寒の歓喜」が明るく前向きです。 「柿紅葉選ばれなかった人生に」選ばなかった別の人生に敬意を表すのは選んだ人生に満足しているのだと思います。

中村 セミ

☆初めて参加して☆仲々個性豊かな方々ばかりおられて俳句の方よりその人間的な詩姿というか、俳句に向っての姿勢というか面白く感じました。僕も俳句以外では色々やってきましたが(朗読、演劇、小説、絵等)早く御仲間の一人と してやっていきたいと感じた次第です。今後共よろしくお願いします。特選句「人形を負ぶう独居老人の秋(大西健司)」独居老人の重たき人生が表されていて又人形が何かーおそらく読み手次第で何でもいいのだろうがーこれ迄送ってきたもの の積み重ね、これからくる一人暮らしの先の分からない黄昏時な暗さの様なものだろう。僕もそのうちそういったものを背負うのかなとも思った。インパクトのある句でこれを特選とします。以下、頂いた句をユーモアを交えてストーリーで表し たコメントを・・「十二月八日朝日ぎらつく鏡拭く(稲葉千尋)」この鏡は家の中の鏡かと最終的に思う。ぎらついているのは朝日の反射の中の己の顔。「丑三つの菊人形の寝息かな」夜中の2時頃菊人形の様子を見ている。寝息も感じたのだろ うー暗やみの中の作者がブキミだ。「酢海鼠や悍ましきことばかり云う(鈴木幸江)」すなまこの姿が物言をいう様に感じる。経験からくる雑念―悪い経験が重なっているのかな。「寒雷に海馬嘶く読書かな(松本勇二)」脳の一部が読書をして いる時に雷の音にヒヒヒーンといった。「冬霧の奥より炎樹のののの(野﨑憲子)のののののは、はったりという人あり。のの字の、のろーの様な物と云う人あり。新しい表現だと云う人ありーしかしのを五つ並べていて読み手の自由でいいのだ ろう。なのでこれはむむむむむと思う事とした。「初冬の湯気で開封する手紙」湯気で手紙を開けるのに使う手口。縄でくくられたコヅヅミはどうして分からぬ様に開けようか。「札売の声や骸の漂着す」さあ見ていって下さいよ、たった百円だ よ。昨日漂流してきた小船の死体だよ。さあ、寄った、寄った。

重松 敬子

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」店頭に並んだクリスマス用の苺を見ていると同じ色,同じ寸法,同じ方向を向き合って,たしかに軍隊を連想させるものがあり,とてもユニークで面白いとらえ方だと思います。私も来年はこのよ うな自由な発想をしてゆきたい。

桂  凛火

特選句「国家斉唱静かに斧の倒されて」斧倒されてが妙に怖い。国歌斉唱したらこんなことになる・・。いや斧が倒されて国歌斉唱なのだ。それにしても物騒な怖さが魅力でした。硬質な精神の息吹を感じました。

新野 祐子

特選句「着ぶくれて身に覚えなき咎のごと」着膨れると、動きにくいし肩は凝るしで、牢獄にいるようです。作者の辛さに共感。この厳しい寒さを、嫌いな厚着で乗り切りましょう。特選句「カリヨン鳴る冬天という激情(三枝みずほ) 」まさしく冬将軍は激情の持ち主。冬空を仰ぐと、さてこれから何が起こるのかと心騒ぎます。と同時に魅せられます。カリヨンに象徴させたところ、あっと言わせますね。入選句「生き生きて浮いた落葉の自在かな」このような句を。私は辞世 の句として詠みたいと思います。入選句「パンパスグラス一メートル半ノコドク」カタカナ表記が孤独感を漂わせています。パンパスグラスを見たことがない人にもその美しい穂を目に浮かばせてくれます。問題句「否そして雪そして雪そして雪 」一見して引かれました。しかし、作者の意図がわかりませんでした。今回は好みの句が多くて、選句に迷いました。

柴田 清子

特選句「否そして雪そして雪そして雪」:「そして雪」の中に、いっぱい詰っている北の国の雪の暮し、雪の美しさ、怖さも。「否そして」が、さらにこの一句を確固たる素晴しい雪の句とした。特選句「耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし」耳 遠い人と作者との間にながれている、ほのぼのとした人間味にあふれている。暖かさが「冬ぬくし」で、受けとめている。

河田 清峰

特選句「傀儡師の靴音枸杞の実は零れ」傀儡がひとり歩きしているような感じが面白い…「く」ぐつ「く」つおと「く」この韻がぶきみさをかもしだしている!「みたび羽音す香久山の冬すみれ」〝みたび羽音す〟が不思議そうで大和三 山を思わせて好きな句です。

月野ぽぽな

特選句「ポケットの手がつめたくて町を出る」町を出る、というのは、おそらく住む土地を変えるということだろう。この生活の大きな変化と、そのきっかけとして置かれた上五中八の一見他愛なく見えるその落差が印象的。ある行為に は理由があるかもしれないが、意識上で認識しうる理由というのは実は本当にその行為を起こす理由ではなく、起こることは、ただ起こる、もしくは必然的に起こる、と言ってもよい。それは運命とか縁とも。他の言い方をすれば、意識上では、 どんなことでもその行為の理由ということができるのだ。意識上の思考・感情の儚さとか、人生の不思議とか、そんなことを思い起こさせてくれた。

木川貴幸ピアノリサイタルin 東京・京都 わたくしは一月に角川俳句賞贈呈式のため一時帰国いたしますが、それに合わせて夫でピアニスト、木川貴幸(Taka Kigawa)も帰国し、日本公演を行います。東京ではクロード・ドビュッシー「プレリュード(前奏曲集)」全曲を、京都では、 ドビュッシー 「12のエチュード(練習曲集)」全曲と、オリヴィエ・メシアン 「鳥のカタログ」全曲を演奏いたします。同プログラムによるニューヨークの公演は大絶賛をいただきました。 日程と会場は以下の通りです。チケットはそれぞ れの会場にお問い合わせください。ピアニストについてはTaka Kigawaで検索していただくと英語が主ですがご覧いただくことができます。オフィシャルサイトは http://www.takakigawa.comです。 わたくしも1/21、25には来場予定です。 どうぞお越し下さい!                               ぽぽな 1/20(土)午後8時 21(日)午後5時/午後8時 カフェ・モンタージュ 京都市  電話075-744-1070 ●チケット予約 1/20 Cafe MONTAGE 1/21 5pmCafe MONTAGE 8pm Cafe MONTAGE 1/25(木) 午後7時 汐留ホール(日仏文化協会)東京都港区 電話03-6255-4104  ●チケット予約ジュディ・ソワ〉木川貴幸 クロード・ドビュッシー:「前奏曲集」全曲演奏会 ~ドビュッシー没後100年記念~汐留ホー ル

小宮 豊和

特選句「山友の散骨葬や式部の実」:「式部の実」は実紫、すなわち紫式部の実と受取った。葉を落した紫色の実をイメージしたとき、散骨に似合うかもしれないと思った。すっきりとした小粒の実は山を愛した男の死にざまを思わせる。 この世のことを卒業し、あるいは際限のない執着を断ち、骨壺におさまることを拒否して山の土となり、まさに紫式部の肥料ともなって自然の循環に合流する、そんな決断を感じさせる。

亀山祐美子

特選句『ポケットの手が冷たくて町を出る』憂鬱感と孤独感が滲みでる秀句だと思う。特選句『国家斉唱静かに斧の倒されて』倒す道具である斧が倒された。何に、誰に。ただ単に物体として「斧」が倒れている風景だけではない何か、 切羽詰まった緊迫感が不安感を煽るのは「国家斉唱」に依るとこが大きい。衝撃的な句だと思う。席上、佐藤鬼房の「切株があり愚直の斧があり」の句を知る。収穫である。やはり、句会にはでなければと思う。問題句 『あちこちで撫でられて きたかぼすかな』好きな物言い、語感だが、どなたかおっしゃったように、「かぼす」の存在感が乏しく軽い。「南瓜」それも「どてかぼちゃ」や「鬼柚子」ぐらいボリュームがあれば触りがいがあるかと思い句会では特選句で頂いたが、問題句 とした。問題句『初冬の湯気で開封する手紙』とにかく怖い。「湯気で開封する手紙」内緒で他人宛の手紙を開封するなんてどんな人間関係なのだろう。何時の時代の検閲なのだろう…。背筋がぞっとした。これが作者の意図なら成功と言うべき か…。楽しい句会でした。今年一年お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。どなた様も良いお年を…。

高橋 晴子

特選句「児に初めてのことばは落ちた茸落ち」〝茸落ち〟という言葉は初めてだが生命力を感じてとらせて頂いた。〝ことばは落ちた〟とは言い得て妙。問題句「明恵上人(しょうにん)の愛でし子犬や草紅葉」好きな句で問題という程 の句ではないが〝しょうにん〟との仮名はなくていい。〝明恵上人愛でし子犬や〟の方がいい。私も湛慶作といわれる子犬の像を運慶展で見たが、耳を伏せてつぶらな瞳で首をかしげて見上げるような顔付は、いかにも実体感があり、いきいきと していた。永遠の刻をとじこめた力作で、仏道を刻る人間が身近かなこんな子犬の生命感を刻ったことに感心するが、これも一つの祈りの形かもしれないと思うのである。句にした心にも感心するが見た者にはよくわかるが、これが彫刻の小犬と いうのがわかればと、無理をいう。湛慶作とでも前書きをつけるか!面白い句が多くていい勉強になりました。私も、もう少し表現するものを意識して詠みたいと思います。

男波 弘志

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」沢山の骨が、ときに軋み、ときに笑い、母の命を支えていた。いまは亡き母。「散落葉そんな隙間をみつけたか」どんな命にも存在の在り処がある。中心と周円、は繋がっている。「旧友の死が笹鳴 きに抜けてゆく(田口浩)」死者の抜けみちは、声にならぬ声の華やぎにある。笹鳴きが隙間だらけなのは、魂がそこを通るからだろう。

藤田 乙女

特選句「生き生きて浮いた落葉の自在かな」 精一杯ひたむきに生きてきた日々、しかし、それは生身の人間として多くの煩悩に煩わされたり、我執にとらわれたりする日々でもあったことでしょう。 浮いた落葉に様々なしがらみや束縛 から解き放たれた自在を感じとった作者の深い心の有り様に感銘を受けました。また、この句を通して、自分の来し方を振り返り、行く末を考える中で、自己の内面と対峙し自分を見つめ直すことができました。特選句「あちこちで撫でられてき たかぼすかな」すだちは使いますが、かぼすはほとんど使ったことがなく、大きさが違うくらいかなと思っていたけれど、今回かぼすにいろいろな薬効があることを知り、びっくり、❗そして、この句でかぼすへの作者の深い愛と親しみを感じと りました。そして、自分もかぼすと仲良しになりたいと思いました

野﨑 憲子

特選句「狼を呼ぶよ邪馬台国の唇」この狼は、絶滅したとされるニホンオオカミ、そして邪馬台国の女王卑弥呼の唇と感受する。古代史を目の当たりにするような壮大な作品である。現代、猪が、熊が、出たと言って大騒ぎする我々だが 、そのかみの世は、ぐっと、人類と、その他の生きものたちの距離が近かった。もちろん、せっかく耕した畑を荒らされ、生命の危険も今と比べものにならないほどだったと思うが、地球は平和だった。問題句「否そして雪そして雪そして雪」今 回の句稿の中で、共鳴する作品は、ほんとうに沢山あった。中でも、引かれた句の一つである。こういう冒険句に出会うと、ぞくぞくする。俳句がますます面白くなってゆく。只、揚句は、「否」が唐突で「そして雪」の繰り返しが饒舌過ぎると 思った。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

氷柱見上ぐる少しメタボな猿田彦
野﨑 憲子
薄氷や人の意図にて砕かれる
山内  聡
薄氷悲鳴を山に響かせる
亀山祐美子
合鍵の鈴凍りついてしまっている
柴田 清子
狛犬の「吽」が逃げ出す大晦日
亀山祐美子
墨描きの仙厓の犬雪降りて
河田 清峰
人と犬二人と二匹似て冬日
山内  聡
狐火やびっこを引いて帰る犬
野﨑 憲子
蓑虫や万世一系戌の年
藤川 宏樹
犬連れて銀河まで行ってみようか
三枝みずほ
葡萄
球体のまま凍りつく冬葡萄
銀   次
にんげんを染めて葡萄の匂ひけり
三枝みずほ
干葡萄いつからか夫好きになり
鈴木 幸江
倒れ込んだ人から葡萄房になる
男波 弘志
乾杯の葡萄酒冬がはじまった
亀山祐美子
数え日
数え日や銃声止まぬエルサレム
島田 章平
数え日や好きなことしかしなかった
藤川 宏樹
誰れ彼れの日が数え日を近くする
田口  浩
数え日の手で確かめる今の顔
三枝みずほ
数え日の膝より低いところかな
男波 弘志
白峯
冬月夜西行の道御陵まで
島田 章平
白峯や冬の鴉の確かな数
田口  浩
時間あるあるないあるない白峯に
鈴木 幸江
夜が更けて雪の泣く声して来たり
柴田 清子
初雪や二本の足で立つ不思議
野﨑 憲子
銀幕に鬼籍の人や風花す
増田 天志
蒲団
蒲団のなか螺子一本の夫のゐる
鈴木 幸江
妻の声して蒲団に妻の匂ひ
島田 章平
蒲団干す沖より沖より影法師
野﨑 憲子
蒲団の中で俳諧が寝返りをうつ
田口  浩
冬薔薇
冬薔薇すぐに煮詰まる私です
増田 天志
F音のソプラノ響く冬薔薇
銀   次
九竅の緩めば白き冬薔薇
河田 清峰
冬の薔薇無人バス過ぐ曲り角
藤川 宏樹
冬ばらのポリープの如膨れ出す
中村 セミ
冬薔薇こころにABC予想
鈴木 幸江

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】▼安西 篤さんからのお便りから~このところ風邪が治りきらず、夏の疲れで文責が貯まり、今一つ乗り切れません。ご返事が遅れました。例により、第七十八回の作品について三段階評価をしてみます。【☆】「水の秋みづくち うつしくちうつし(小西瞬夏)「遊糸もまじりて阿騎野の足湯かな(矢野千代子)」「秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば(月野ぽぽな)」【◎】「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう(若森京子)「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた(伊藤幸) 「ちちははの萎む肉体かりんの実(夏谷胡桃)「ひよいと日輪十一月の赤ん坊(野﨑憲子)【○】「冬ざれや会えず仕舞という老後(松本勇二)「ぐい飲みにおれの頭(ず)青し新走り(稲葉千尋)「寝釈迦めくふるさとの島神の留守(寺町志津 子)「猪垣は壊れ塵取立ててあり(大西健司)「須磨初冬人よく喋りよく歩く(野田信章)」作品を書き写しているとだんだん元気を頂いているような気分になります。向寒の季節くれぐれもご自愛を。

16日の高松での句会には、大津からの増田天志さんや初参加の中村セミさんが加わり、一年の締め括りにふさわしい、活気あふれる充実した句会になりました。午後5時近く、銀次さんの一本締めで平成二十九年の「海程」香川句会は終了 しました。来月は平成三十年の初句会になります。そして第八十回の句会です。句会後に、新年会を計画中です。皆さまにお目にかかるのが今から楽しみです。どうぞ佳きお年をお迎えください。

Calendar

Search

Links

Navigation