2017年12月5日 (火)

第78回「海程」香川句会(2017.11.18)

644047_1510909406.jpg

事前投句参加者の一句

     
身のうちに揺れのはじまる落葉焚き 谷  孝江
留守居してひねる俳句や冬に入る 髙木 繁子
大花野かいなを櫂にして渡ろ 新野 祐子
冬ざれや会えず仕舞いという老後松本 勇二
寝釈迦めくふるさとの島神の留守 寺町志津子
細雨よりもの悲し午後ななかまど 野口思づゑ
猪垣は壊れ塵取立ててある 大西 健司
一匹は隕石の匂い赤蜻蛉 三好つや子
水澄めり哀しみのゆく眼の底を 藤田 乙女
須磨初冬人よく喋りよく歩く 野田 信章
十一月いつも何かに追はれゐて 高橋 晴子
罪状は知らず枳殻の実の黄金 亀山祐美子
秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば 月野ぽぽな
鳥渡るいのちひとつを携えて 小宮 豊和
日向ぼこ丸まる猫へ伸びいるねこ 藤川 宏樹
新米のほっこり子とするだるまさん 中野 佑海
水の秋みづくちうつしくちうつし 小西 瞬夏
沈めれば一瞬白し足湯の脚 稲葉 千尋
仕様がない仕様がないとき蜜柑むく 鈴木 幸江
今朝冬の鴉がほぐす魚眼(うおまなこ) 野澤 隆夫
冬来る少年産毛光らせて 小山やす子
ちちははの萎む肉体かりんの実 夏谷 胡桃
坐の字あり樹魂をおろす月下かな 竹本  仰
通草の実アマノウズメの舞に光 河田 清峰
小六月ころっと騙されそうな昼 柴田 清子
冬苔やリズムチロチロ散歩道 古澤 真翠
両取りの一駒指して鳥帰る 銀   次
菩提子に乗り妻に会ふ夢の中 島田 章平
老骨のさて冬蝶の好ましく 田口  浩
榠樝は多淫霧にかえして上げましょう 若森 京子
百舌鳥高音女の担がぬ棺かな 重松 敬子
鍵穴も鍵も冷たく精神科 山内  聡
焦げゆくやりんごの芯は菩薩さま 増田 天志
肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた 伊藤  幸
ろうそくと栗鼠睦びたる宇陀郡(こおり) 矢野千代子
秋の蛇にんげんだけが顔を描く 男波 弘志
するすると愛し合う月の生き物  桂  凛火
鬼柚子やどこか寅さんに似て楽し 漆原 義典
秋思の背伸ばし立飲みの一杯 三枝みずほ
たわわなるいちじく見もせず鋤く人よ 中西 裕子
串鮎の香りほのかや草の宿 疋田恵美子
秋天下パステルカラーの神戸かな 田中  怜子
赤のまま風変わりとは良い言葉 河野 志保
枯野ゆく風よ地球の守り人 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」シンプルだけど魂に命の重みがズシンと伝わる句です。遠い北の国から日本に新しき命を授かる為、我が命を危険に晒しつつ渡ってくる。余りの荘厳な営みに頭が下がります。特選句「冬来る少年産毛 光らせて」四歳の孫の頬にうっすらと白い産毛が光っているのをいつも命の輝きとして見ているので、それを実際に俳句にしておられるので感激です。すぐに、大人の男になってしまうのかと思うと残念です。さも一人で大人に成った様な口を利き 。

島田 章平

特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」。掲句、平凡な表現との指摘もあった。命とは平凡なもの。当たり前だからこそ掛け替えがないもの。命を表現するのに、技巧は不要。鳥渡ると言う壮大な冒険の中に、生きるために必死に戦う生き物 の姿が見える。

山内  聡

特選句「水澄めり哀しみのゆく眼の底を」眼の底に涙を感じその涙は澄んでいることだろう。何に哀しみを覚えたのか、眼の底をうるっと涙が潤した。涙は出ない。目頭が熱くなった。でも涙は流れるほどではない、ものの哀れみ。この微妙 な感情を敢えて「哀しみ」という言葉を使ってこの「哀しみ」の微妙なさじ加減を言い表しているような気がしました。

稲葉 千尋

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊(野﨑憲子)」鮮明な句。十一月の赤ん坊は、日輪という。十一月でなくても赤ん坊は日輪である。赤子を見ているとこちらまで日輪になる。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」言われてその通りの句。人間だ けしか、描けない。人それぞれに描く。秋の蛇は見ているだけである。

増田 天志

特選句「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう」無常なるエロス。霧になるまで、摩訶不思議な肉体。ありがとう、そして、さようなら。

小西 瞬夏

特選句「今朝冬の鴉がほぐす魚眼(うおまなこ)」写生の句である。現実を見つめる目がある。生きることの厳しい現実に目をそらさないでいることで、「つつく」ではなく「ほぐす」という描写にいきついたのだと思う。「魚眼」という言葉 が新鮮かつなまなましい。

野澤 隆夫

特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」ドングリランド(西植田町)に時々、探鳥に出かけます。サンコウチョウも出てきます。時に猪も。この山にも猪垣があり、先日は壊れた垣に、猪注意の看板が。でも塵取りが立てられてる光景は面白い 。抱腹です。もう一つの特選句「虚子が居て咳き込んでいる猫じゃらし(小山やす子)」〝吾輩は猫〟の光景です。夏目漱石が虚子から作句の添削を受けてる光景が浮かびます。漱石も相当四苦八苦の感。問題句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲 いた」〝ままこのし りぬぐい〟なる植物がこれだと聞いときビックリしたことを思い出す。蓼(たで)の花だそうで、秋の季語になってるんですね。

藤川 宏樹

特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」句会で票を多く集めました。何でもなさそうな山村の景を切り出した一句ですが、写真、絵画以上に感じさせる力があります。単純化の力でしょうか?

谷  孝江

毎月佳句ばかり。選をするのも大変なことです。特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」心の隅にはっと気付かされる句と思いました。この様な風景は身のまわりにいっぱいあります。ありすぎて見逃しているのです。塵取り、竹筆、朽ちかけ た棒切れ、掃いても掃いても、きりのない落葉、その様な事柄の中と隣り合せに居ながら見落としている自分の感性の乏しさを痛いほどに気付かせてもらいました。「父なくてなんで今宵は十三夜(鈴木幸江)」も心に残る句です。「赤のまま風変 りとは良い言葉」そうです、そうです。十二月の句稿もたのしみにしています。

若森 京子

特選句「富士冠雪昵懇になれぬ老いるとは(中野佑海」〝老いるとは〟と下五に結果を云てしまっているのは残念だが、今迄の様に、色々な物と昵懇になれないもどかしさ、昔から変わらぬ富士冠雪の姿が眩しい。一句に切ない詩が流れてい る。特選句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた」まず、〝ままこのしいぬぐい〟と云う言葉の発見は成功。タデ科の一年草で山野の陰池に生えているが、このいじけた様な言葉の面白さ。肉薄の指に合っている。

竹本  仰

特選句「罪状は知らず枳殻の実の黄金」思わず明治の恋、とタイトルを付けたいような。藤村の「はつ恋」に似て、一生懸命で分からないから恋なんだと言うような。これは、私の感性がどうかしているのか、中学生の恋だと決めつけてしま いました。特選句「仰のけば乳房は萎えし天の川」人体、この銀河、と思わず賛嘆しました。人生という受けとめ、人体の表現として、かれん、かつ新鮮な息吹きを感じます。坂口安吾の作品を高校のころ読んだとき、女の肉体は玩具だと女性自身 の言葉で表現しようという試みにびっくりしましたが、この句、それと対極のようでいて、実はかなり近いものじゃないかなあと思いました。作者は女性なんですよね?男性だったら、もっとびっくりですが。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描 く」色んな思念を起こさせる句であるなあと感心。いつから人間は顔を描くようになったのか、人類の発展史上、壁画から抜け出して、なぜ顔を描くことになったんでしょう?安部公房に「顔」という名作があります。顔を失った男が新しいマスク を作ることに成功して、その手始めに妻を誘惑するという、奇妙奇天烈な、じつに人間の基本に立ち戻った話でしたが、顔を失くすということが社会をなくす、その人間社会とは何なんだという問いかけが今も忘れられません。「にんげん」とひら がな表記にすることで、人間なるものにおりていく、いわば人間業という修行にあるというような風貌をそなえた、ストイックな平生の思念を感じさせました。問題句「水の秋みづくちうつしくちうつし」これは、特選サイドの方の問題句であると いうことで。水が流れる、とは言わないで「くちうつし」として、流れを切って切って、でも流れているという、かなり頑張り屋さんなんだという、そういう問題句でしょうか。この口調がたまらないですね。こういう方法、いや、勉強になります 。もう一度、裏の水路に出て、思い出しながら耳を澄ましてみようかと、そんな気持ちになり、さっそく今日やってみましょう。以上です。とても寒くなりました。淡路島の西方に住んでおりますから、西風がすばらしく芯まで冷え込ませます。寒 さは落差であると思います。この冷たい西風が、線香には大変よいらしいですね。淡路島の線香を見かけましたら(実は9割以上が淡路島でつくられたものですが)、その中に西風のうねりを聞き取ってください。みなさん、いつもありがとうござ います。よろしくお願いいたします。

大西 健司

特選句「秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば」長い黒髪の揺らぐときかすかに秋の蝶の匂いを感じた。そんな美しい感性にひかれる。詩人の目には常に美しいものが宿る。すてきな女性の目覚めなんだろうなと思いたい。願望を込めて特選に。

小山やす子

特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」。渡り鳥のひたすらな生きざまに感動しました。

夏谷 胡桃

特選句「秋天下パステルカラーの神戸かな」。わたしにはジブリのアニメに出てくる素敵な港町が目に浮かんできました。山から町を見下ろしているのでしょうか。夕焼けの町かしらと想像します。こちらは銀世界。モノトーンの世界なので 憧れます。ほっこり温かな気持ちなれました。特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」。会おう会いたいと言いながら会えないで幾年か。会いたい人たちがつもっていきます。香川句会の方々にも会えず仕舞いでしょうか。

伊藤  幸

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」いいですね。日本の未来は暗いと嘆いていましたが、この句を読んでいると、そうとばかりも言えないなと一筋の灯りが見えて来るような気がします。上語「ひょいと日輪」で世の中明るくなるような 希望が満ち溢れています。作者も恐らくプラス思考で前向き人生を送っておられるのでしょうね。よ~し、私も見習って頑張るぞ~~~★

男波 弘志

「ぐい飲みにおのれの頭青し新走り(稲葉千尋)」字余りが、感情の滋味を生んでいる。「木の実雨眠りたくない河馬の耳(重松敬子)」木の実の躍動への憧れか?「猪垣は壊れ塵取立ててある」塵取が結界のように存在している。モノ俳句 、珍重。「投げやりに言葉返している短日(柴田清子)」 もっと、句意にそって投げ出しては、「言葉返して日短か」では「秋蝶の匂い寝ざめの髪梳けば」濡れ髪のエロスに反応したのは、蝶のほうだろう。「遠くから来た者同士木の実踏む(河 野志保)」家を出た、者同士、そうとればドラマ性あり。「水の秋みづくちうつしくちうつし」ふと、洗礼の場を思う。珍重。「人影の海の近くの烏瓜」かるみ、の本体、写生のそれとどこが違うのか、そこが勘所、一旦摂取した、思想、哲学を「 無化」したのが、かるみ、もとより、思想、哲学をもたぬのが写生、かと。「野に足を入れて星月夜となりぬ(月野ぽぽな)」賢治の冬帽子が見えている。「焦げゆくやりんごの芯は菩薩さま」焦燥心、それを焦げると顕わしたのだろう。「階段の 下で声する木の実落ち(夏谷胡桃)」声、落ちる、フォーカスを一つに絞るなら、「木の実どき」とすべきか。

矢野千代子

特選句「大花野かいなを櫂にして渡ろ」一寸法師は箸を櫂にしたが、作者は腕をと。花野を愛でながらすすみゆく姿がみえるよう。さて行き先は?

重松 敬子

特選句「新米のほっこり子とするだるまさん」穏やかな生活のひとこまを詠んだ好ましい句。炊き立ての新米は,本当に家中をほっこりと幸せにします。だるまさんごっこが出来る時期もほんの一瞬です。大切に過ごして下さい!!

疋田恵美子

特選句「罪状は知らず枳殻の実の黄金」カラタチと聞くだけで枝が横に広がり鋭い刺を思い起こします。生け垣の植えてありました。ピンポン玉のようなミカンを取としても棘が怖くて取れなかった子供の頃。罪状ぴったり感。特選句「野に 目覚め野に眠る露に汚れて(月野ぽぽな)」広々とした農村地帯を思わせる。そこに暮らす安らかな日々、早朝の露の光りまで見えて良い。

三好つや子

今回個性的な句が多く、迷いながらも楽しく選句いたしました。特選句「何が不満猫をずずこにじゃれさせる(新野祐子)」大人気無い。心の小っちゃな人間。と、自分で自分に呆れながら、それでも腹立たしさが収まらず、手にずずこ(数 珠のこと?)をしたまま、家猫と戯れている・・・。そんな作者の粘々した気持ちを、句として昇華させたことに拍手したいです。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」 老いてゆく自分をさらけ出さず、眉を描くなどのメイクをし、騙し騙し生 きている私の心に刺さりました。入選句「小六月ころっと騙されそうな昼」最近のATMでは、オレオレ詐欺防止のメッセージが入り、うっかり操作を間違えてしまうことも。優しさと危うさの交じりあう時代の空気を感じ、惹かれました。

柴田 清子

特選句「もち米を脱穀漢らのいる公園(田中怜子)」を特選とさせてもらった。正確に言えば、季語がない。下五は、字数が余っているが、そんな事は、どうでもいいと思はすだけの骨太のガッチとした男俳句に深く惹かれた。特選句「コス モスになれたらずっと歌います(河野志保)」このコスモスのように、どんな時も、心に歌を持って人生を歩いて終えたい。うれしい時は、うれしい歌を。雪の日は、雪の歌を。

河田 清峰

ぽぽな様第63回角川俳句賞おめでとうございます!17文字が切れそうで切れない50句ありがとうございます!特選句「さねかずら阿(おもね)るように切り岸に(矢野千代子)」切り立った崖に鮮やかな美男葛の赤よく景がみえます!

月野ぽぽな

特選句「赤のまま風変はりとは良い言葉」:「風変わり」人とは違う様子、個性的な様子、その人のありのままの様子。こだわりのない自由自在の心持ち、もしくはそれを望む心地がいいですね。赤のままの素朴な個性と通じます。

鈴木 幸江

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」太陽を”日輪”と表現することで、     冬雲の中で朧に輝くその姿が想像される。冬に向かう赤ん坊の肌の輝きを同質のものと捉える作者の感性が素晴らしかった。特選句「ちちははの萎む肉体 かりんの実」かりんの少し萎んだような皮をすぐ思った。それが老人の肉体にあるみずみずしさを捉えていてお手柄。それほどでもなかったかりんが好きになった。

新野 祐子

特選句「一匹は隕石の匂い赤蜻蛉」ネオニコチノイド系農薬の濫用で、赤蜻蛉は悦滅危惧種になりつつありますが、どっこいこちらでは盛んに飛び回っています。そのうちの一匹が隕石の匂いがするなんて、想像力は果てしない宇宙へと広が ります。これ以上大地を化学物質で汚染してはなりませんね。特選句「秋思の背伸ばし立ち飲みの一杯」この一杯は、コーヒーでも熱燗でもいいのでしょうが、ワインというのはいかがですか。四十年ほど前の新宿にあったワインの立飲みバーが、 記憶の引きだしから出てきました。ロゼ色の幸福感に満ちたお店でした。「秋思の背伸ばし」に大いに共感。問題句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」ドアの向こうには、聞き上手の優しい精神科医が待っているはずでは。「冷たく」に、作者の並々なら ぬ複雑な心理を投影しているのでしょうか。いえいえ、精神科病棟のことかも。いろんな解釈ができる句はおもしろいですね。

三枝みずほ

特選句「身のうちに揺れのはじまる落葉焚き」火を眺めているうちに、忘れていた、もしくは忘れようとしたものがふっと思い出される。心の葛藤、動揺に共鳴した。

田口  浩

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」十一月を中心にすえて、日輪と赤ン坊を置くと、軍配は赤ン坊に上がる。十一月の日の光は、真夏のように、自己主張しないためである。とすれば、句の〈ひょい〉がいい。確かである。このように、 日輪を気付くのがいい。十一月をただ置いたのではなく、さりげない味わいがあろう。その上で〈赤ン坊〉がめでたい。特選句「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう」榠樝をズバリ多淫と言われれば、妙に納得させられる。その上で霧にかえさえ た榠樝の香は、多淫をかくして優雅なひろがりを持つ。何だか平安時代の女性を思わせる趣があるではないか。

松本 勇二

特選句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた」使いにくい植物名を上手く使って一句を仕上げています。問題句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」視点が面白いのですが「も」の連続が観念臭を呼び寄せます。ここは「鍵穴と鍵の冷たき」くらい で、淡々と語ったほうが、シャープな句になるように思います。

寺町志津子

特選句「新米のほっこり子とするだるまさん」にらめっこしているお相手は、お孫さんでしょうか?温かなご家庭のお暮らしぶりが忍ばれました。子どもは、幼児期の愛着形成があってこそ健やかな成長をする、と言われます。ご家族の愛情 に包まれて日々成長されているお子さんの愛らしい姿が目に浮かびます。ほっこりおいしい新米との取り合わせもぱっちりで、ほのぼのとした思いに包まれました。

田中 怜子

特選句「日向ぼこ丸まる猫へ伸びいるねこ」ほこほこ陽のひかりと温み、猫の顔と匂いまで伝わってきます。特選句「沈めれば一瞬白し足湯の脚」まるで自分の足でないように白くきれいに見えるのですよね。一瞬の変化が描けていると思い ます。

亀山祐美子

特選句『猪垣は壊れ塵取立ててある』見たままの風景ですが、「猪垣は壊れ」「塵取り立ててある」二物衝撃の取り合わせの良さ。「壊した」者、動物への怒り。「壊された垣と荒らされた作物」への無念さやるせなさ。を『塵取り』で表現 した。しかも『立ててある』のだ。怒りで突き立ててあるのか、垣の代わりに立ててあるのか…。奇妙なおかしみが伝わる。人間味溢れる一句。特選句『今朝冬の鴉がほぐす魚眼』一読暗い句だなと敬遠したが、冬へ向かう鴉のしたたかさが端的に 詠めている。「つつく」なら平凡だが「ほぐす」で鴉を擬人化し、冬空から鴉へ嘴へ、そして地べたの魚の眼へと焦点を絞り混む技の一句。巧い。特選句『百舌鳥高音女の担がぬ棺かな』そう言われれば女は棺を担がない。その通り、私は観たこと がない。「男尊女卑」だとか「女の赤不浄」だとかではなく、ここは女への労り、役割分担だと思いたい。「百舌鳥高音」が棺を囲む女たちのかしましさ、たくましさを連想させる。「男の担ぐ」では当たり前過ぎて、景がここまで広がらないだろ う。しかし、「女の担がぬ」の「の」は不要。面白い句会でした。ありがとうございました。皆様の句評、楽しみに致しております。

中西 裕子

特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」です。荒涼とした冬のなか、会いたい人に会えずに、人生を終ってしまうという、諦め、寂しさがしみじみと迫ってきます。でも、しょうがないなというからっとしたものも感じさせます。

野田 信章

特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」いまし方の初冬の日の出をその形からの呼称「日輪」と表記。これが、「十一月の赤ん坊」の喩を即物的に喚起させて生気のある一句となった。これは原初的感覚を呼び起こした句と言いかえてもよい かと思う。特選句「老骨のさて冬蝶の好ましく」:「老骨」とはっきり表記することで単に老いゆく者の感慨調に終わらず「冬蝶」そのものとの物象感を伴っての生命の響き合いが具体的に伝わってくる。平明な句ながらもそこには老いを自得して 生きる者の腰の据え方の確かさがある。

河野 志保

特選句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」作者の鋭い感覚が際立つ。具体的には分からないが、爪先立ちのような心の不安定さも感じた。難解ゆえに引かれる句。

桂  凛火

特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」いつでも会えると思っているうちにふいと亡くなっていたりする。それが老後ということなのか。わたしも昔の恩師の奥様から喪中はがきがきて、驚いたばかりの今日。この句はぐっと堪えました 。仕舞いというの「という」が少し気になるのですが、かかれている内容に共鳴して心に響く一句でした。冬ざれやの季語もよかったです。

古澤 真翠

特選句「世の隅をわれたのしけれ菊枕」名も知れず、密かに人生を楽しむ作者のそこはかとない感性に惹かれるました。

漆原 義典

選んだ作品は素晴らしく全部が特選候補で特定できませんでした。最近の海程香川の皆様のレベルの高さはすごいと思います。私も勉強します!

野口思づゑ

特選句「水の秋みづくちうつしくちうつし」艶やか、そしてひらがなの美しさ。

藤田 乙女

特選句「仕様がない仕様がないとき蜜柑むく」生きている日々の中で、しょうがないと自分に言い聞かせ諦めなければならないことが多々あります。そんなときただ蜜柑をむくという姿に人間の哀感と切なさをひしひしと感じました。特選句 「世の隅をわれたのしけれ菊枕」 人生のどんなことも楽しくおおらかに生き抜こうとする姿が想像され素敵だなあと思いました。菊枕の季語が効果的に使われていると思います。

銀   次

今月の誤読●「芒原母には方舟見えるらし」。ええー、たたた、ただいまご紹介にあずかりました、ぶんぶんぶん蜂が飛ぶ、いや、あのあの、ぶん文化人類学者のい、いいい、いー犬田銀次郎と申します。ほほ、本日は世界の各地に流布され ている、かかかか、カーゴ(貨物船)信仰についてお話しいたしたいと、おもおも思います。これはある種の招神信仰でありまして、待っていればいつか、てんてんてんまりじゃなく、天より神さまが巨大な船をおつかわしになり、その船にはあり がたいもの、ま、たたたたとえば、文明、ま、便利なものとか、ま、役に立つものですわな、あるいは、ま、美味しいものとかを積み荷として村人に運んできてくださるという、そういう、ひひひひひ非常に原始的な信仰なんですよね。この信仰に とりつかれると、なかには、こう、どうかその船がこの地に下りてきますようにと、かかかか滑走路をつくったり、広場をつくったりしたともいいます。そそそそそういう意味では「芒原」なんかはかっこうの着陸地点になたなたなたなた、なっ、 ゴホン、なったと思いますよ。で、出迎えるのはやはり長老とか呪術師とか、ま、男神さまだったら老女というのもありありありあり、ありが噛んだ、いや違った、ありだったかも知れませんね。だからこの句にある「母には方舟が見えるらし」と いうのも、お母さまはそういう呪力をお持ちになった方だったのかもしれません。ただそのカーゴが運んでくるものが、ほんとにいいモノなのかどうか。こここここ、こけこっこ、ここ大事ですね。意外と機関銃とか戦車とか、ときにはミサイルだ ったりしますからね。せんせん戦後のアメリカ神さまが日本人という村人になにをお与えになったのか。ここ考えましょうね。いえいえ、とととと、虎の威を借る狐、じゃじゃじゃなく、トランプさまのことを言ってるわけじゃりませんので、どう ぞブラックリストにはお載せにならないように。

高橋 晴子

特選句「野に目覚め野に眠る露に汚れて」うまく表現できないが内面の哀しみ、みたいなものを感じさせる句。問題句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」面白い表現だし、人間観が出ていていい句だと思うのだが、何か〝にんげんだけが〟と いう表現に違和感がある。  二十三日、東京へ行ってきました。先ず、現代俳句協会創立七十周年記念大会へ。シンポジウムのテーマは「俳句の未来・季語の未来」。私は、自分の心を表現するのに突飛な季語など要らないと思うのだけれど、何 か日本語もおかしい方向にいっているようです。そして、運慶展、子規庵と観てきました。子規の庵は小さくて色んな花があって楽しかったです。

小宮 豊和

特選句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」私情をまじえず、ずばりと事実を述べた確かな伝達力は、単なる表現技術だけで発生するものではないと思わせる。作者の実感がたくまずしてまっすぐにずっしりと伝わってくる。そして読者に言葉になり にくい、読者独特の様々な感情を発生させる。良い句であると思う。

野﨑 憲子

特選句「補陀落渡海波にむくろじ零れおり」補陀落へと向かう僧を乗せた舟。波に切り込む無患子の実の様が無情この上もない。問題句「坐の字あり樹魂をおろす月下かな」:そして、もう一つの特選句。只、「坐の字あり」が眼目なれど、 少し、くどいかなと思う。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

梯子
梯子を下りると大人になっていた冬日
田口  浩
先人の残せし梯子冬校舎
鈴木 幸江
梯子より十一月の虹童子
野﨑 憲子
ペンキ
ペンキ塗りたて触りたくって秋の手
三枝みずほ
冬暖か白いペンキの塗り始め
柴田 清子
冬ぬくし主治医先生ペンキ塗り
野澤 隆夫
窪み
四次元のくぼみに地球冬の月
山内  聡
凩の窪みきろぎろ夜が明ける
野﨑 憲子
短日やくぼみはい出す散歩犬
野澤 隆夫
セーター
首のないセーター子種のない男
柴田 清子
セーターを着て黒猫になるどこへいった
田口  浩
一日を引っ繰り返して着るセーター
鈴木 幸江
冬紅葉
結願の一段一段冬紅葉
島田 章平
雪受けてにじむ名残の冬紅葉
小宮 豊和
冬紅葉二人で歩く日曜日
亀山祐美子
女子会にちょっと気合いや冬紅葉
中野 佑海
熱燗
何事ぞ娘が熱燗つけてきた
小宮 豊和
熱燗や海馬の奥に悪の華
島田 章平
熱燗に進化忘れた孫の耳
藤川 宏樹

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】◆安西 篤さんのお便りから~第77回香川句会報有難うございました。参加人数も変わりなく、関西地区を網羅する活動振りに感嘆しております。さて、今回作品について前回同様三段階評価をしてみます。【☆】「我がうなじ鱗 はがれる黄落期」(若森京子)」「かごめかごめの小春日移民の沖ありて」(野田信章)」「水澄んでいちにち風を聴いている」(月野ぽぽな)【◎】「どんぐりころころ百歳で不良」(伊藤 幸)」「流れ藻や耳を平らに音拾う」(矢野千代子) 「釣瓶落し大笑面の限りなし」(野﨑憲子)【○】「ふかし芋割ってちょうどいい関係」(三枝みずほ)「秋涼や旅のこだまが身を揺する」(疋田恵美子)「衣被ぎ卓袱台の頃ありしかな」(稲葉千尋)「夕時雨黒い牡牛の背に湯気」(小宮豊和)

【通信欄】◆竹本 仰さんのメールより~今回、拙句「坐の字あり樹魂をおろす月下かな」を選んでくださり、ありがとうございました。去年、高知の書道館で、「坐」という作品に接しました。書というより、そこに坐骨が置いてある感じで。 何だ、この、もうもうたるリアル感は?で、今年は和歌山にある書道館に入ると、おやっ、ここの書道館は、劇場だなあとなぜか照明に感心。そこで、漢詩の作品に見入っていると、何と言うんでしょうか、書の作者の楽しさが見えてくるんですよね。 この時、感じたのは、月光があれば、何でも出来るんだ、という感覚。すると浮かんだのは、突然ですが、去年の「坐」を書いていた作者の姿です。ああ、これは、俳句と同じなんだと、妙に納得。いったい、私は、何をしていたんでしょう? この夢でも見ているような感覚を、何と言えばいいか。俳句-月光-坐。  一句をなすことよりも、これは大事かも、と、まあ、一句になるか、ならないか。私の好きな演劇のパターンですね。何かが始まりかけて、幕。ということで、あの句。 まあ、構想のストーリーを楽しんでいる、そんな句もあっていいかと。また、楽しい句が出来ましたら、香川句会へ出そうと思います。よろしくお願いいたします。

貴重な感想と自句自解ありがとうございました。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

【句会メモ】小雨の中の開催でしたが、岡山からの小西瞬夏さんを始め14名の方々の参加で、熱い句会が開催されました。先日、四国遍路の結願をされた島田章平さんが菩提子(菩提樹の実)をたくさん持って来てくださいました。高いところ から落下させると面白い軌道を描き、大好評でした。<袋回し句会>の作品は、同意くださった方々の1句~2句を選び掲載させていただきました。ますます作品が多様化し面白くなってまいりました。全て掲載できなくて残念です。次回が又たのしみです。

冒頭の写真は、島田章平さん撮影の<紅葉の栗林公園>です。

2017年11月8日 (水)

第77回「海程」香川句会(2017.10.21)

横峰寺・野紺菊.jpg

事前投句参加者の一句

 
露けしや針一本が足りなくて 小山やす子
秋涼や旅のこだまが身を揺する 疋田恵美子
水澄んでいちにち風を聴いている 月野ぽぽな
空ひらく鍵やはらかき渡り鳥 増田 天志
ふかし芋割ってちょうどいい関係 三枝みずほ
秋の聲おどけておどるひよっとこ 古澤 真翠
天の川ネットショップに寄り道す 重松 敬子
白鷺の影の流れのひやひやす 亀山祐美子
泣いている虫などなくて鳴いている 男波 弘志
おしゃべりのつづく月夜のきのこたち 柴田 清子
石人形の白首須磨の秋乾き 野田 信章
秋声の只中にある法隆寺 高橋 晴子
十六夜や島の飲み屋に蛸の這う 大西 健司
ぬしさんはへくそかづらでありんすか 田口  浩
大皿に梨栗林檎家族葬 菅原 春み
長き夜やらじる☆らじるで聴く漢詩  野澤 隆夫
刈田更け百鬼夜行の道が開く 松本 勇二
鶏頭の髄まで雨は直立す 竹本  仰
図書館の窓の大きく薄紅葉 山内  聡
虫すだく三半規管のような駅 三好つや子
排除とう風に寄り添う破芭蕉 河田 清峰
源平の戦遥かや須磨の秋 田中 怜子
その先は木犀だけが散る話 河野 志保
ペンを差す胸元漠と木の実雨 若森 京子
秋山に小さく灯す誰かの家 鈴木 幸江
石蕗の花落葉を受けてそっと咲く 漆原 義典
生協でサンマを5匹買う茶髪 中西 裕子
コスモスの花一輪とブルドーザ 銀   次
丸刈りの稲田へそよと青産毛 藤川 宏樹
沈黙のはじまり鹿がこちら見る 稲葉 千尋
腹立つと笑うも可なり捨案山子 中野 佑海
千枚田どこも刈田になりにけり 髙木 繁子
月の野へウツボカズラの匂ひ出す 島田 章平
鶏絞めて漢の仕切る秋まつり 谷  孝江
好敵手石榴笑むごと登場す  新野 祐子
物乞いを見過ごしたふり嘘寒や 野口思づゑ
夕時雨黒い牡牛の背(せな)に湯気 小宮 豊和
どんぐりころころ百歳で不良 伊藤  幸
地球の音聴く茸の耳つかむ 夏谷 胡桃
心にも窓あり柘榴爆ぜるかな 寺町志津子
覇者の果て逆さ海月は波任せ 桂  凛火
電線と唇濡らす秋時雨 藤田 乙女
流れ藻や耳を平らに音拾う 矢野千代子
釣瓶落し大笑面の限りなし 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「鶏絞めて漢の仕切る秋まつり」生贄の風習は、神への感謝と同時に、にんげんの罪業を自覚する為に、必要であった。生贄の血を流し、生命を絶つことの意義を再認識したい。

島田 章平

特選句「一の谷は此処青かりんが鈍と落つ(矢野千代子)」。義経の「逆落し」の急襲で名高い一の谷。そして平敦盛の悲劇の海、須磨。時を経ても変わらぬ平家物語の世界。栄枯盛衰の世の倣い。熟す事無く落ちるいびつな形の 青いかりんの実。「鈍」と言う鈍い音。遠い世界と今の時代の時空の狭間に聞こえて来る叫びの声の様です

中野 佑海

特選句「桃握り潰す怒りの闇明かり(小山やす子)」:「桃」って邪気払いをする聖なる木。選りにも選ってそれを潰すとはかなりの強者。怒りで閻魔様の様になってるなんて一度見てみたい。もしかして貴方が女性なんてことは無 いですよね!?特選句「つゆくさは なみだあつめの めいじんだ(伊藤 幸)」と言われたら、妙に納得してしまうんです。葬式で泣いている泣女の腰巾着が露草と呼ばれているなんて思ってもみませんでした!?体調を崩したと言う大 義名分の下。一週間をのらりくらりと過ごしていたら、何と体脂肪率が3%も増えてしまったじゃないですか!やはり人間も動物。動いてなんぼですね。トホホ。

小西 瞬夏

特選句「ドッペルゲンガ 芒より窺いぬ」:「ドッペルゲンガ」を俳句として一つの作品にした手柄。一字あけは演出としてありえる。「芒」という具象の存在感。その危うさとしなやかさ。「窺いぬ」という動詞も、実景に暗喩を 重ねている。言葉の強度が大きい。

小山やす子

特選句「覇者の果て逆さ海月は波任せ」海月じゃ波任せが効いていると思います。「石人形の白首須磨の秋乾き」凄まじさを感じます。

疋田恵美子

特選句「ふかし芋割ってちょうどいい関係」夫婦であり、親子であり理想的な関係ですね。皆さんの憧れです。特選句「鶏絞めて漢の仕切る秋まつり」子供の頃父の姿を懐かしく思いました。

男波 弘志

「抱かれねば忘れ去られし月の裏側(中野佑海)」男女何れかの受け身、はエロスの本体にあらず。抱き合わねば、では。「露けしや針一本が足りなくて」誰かが、踏む、不安、そして、諦め、流転の理法に適っている。「水澄ん でいちにち風を聴いている」色なき風、それよりも澄んだ、風、への驚嘆。「白鷺の影の流れのひやひやす」白鷺、そのものが、無化している。「逃水やときどき人が現れる」ふと、天竺を目指した、玄奘三蔵を思う。因みに、三蔵法師は 位の尊称であり、玄奘その人ではない。「大皿に梨栗林檎家族葬」俳諧、庶民性、死への祝祭。珍重也。「鶏頭の髄まで雨の直立す」徹底した写実表現。僕の髄まで泣いている。「桃啜る真昼の空を広くして(月野ぽぽな)」出来れば、意 思を外したいが、でも、巨大な虚空観がある。「千枚田どこも刈田になりにけり」俳句表現を突き詰めると、説明はなくなる。「蚯蚓鳴くきのふのすこしづつ遠し」かなかな、でも、郭公、でもない、それが俳諧の背骨、見事。「秋雨やこ の町もはや地図になし(銀次)」もはや、強すぎでは、いつか地図になし、ぐらいでは。「流れ藻や耳を平らに音拾う」不思議な風景、音拾う、は必然か?

竹本  仰

特選句「泣いている虫などなくて鳴いている」仏像の顔もそうですね、例外はたまにありますが、泣いている仏さまはまず見ないものです。病んだ人は、虫の音をそう聞くかもしれませんが、またそういう句も多いのですが、それ は投影というものです。わりと思いこみを俳句に押しつける、おいおいそんな俳句をいじめるなという風情もある中、こういうきちんと耳を澄ました句はいいなあと思いました。特選句「丸刈りの稲田へそよと青産毛」何となく、何か変に 懐かしいなあと思いましたが、宮澤賢治さんの「高原」という詩を思い出したからでしょうか。「海だべがど おら おもたれば/やつぱり光る山だたぢやい/ホゥ/髪毛 風吹けば/鹿踊りだぢやい」。この詩と似た風が吹いたようにも 。「青産毛」って何でしょうかね。馬だろうか、赤ちゃんだろうか、そのわからなさも魅力あるんですね。その風は、明日への扉ですよというか、そんな感じがいいですね。特選句「腹立つと笑うも可なり捨案山子」本当は相当に腹が立っ てる感じがしました。人間はわからなさが頂点までいくと、泣くか笑うかしかなくなるんではと時々そう思ったりしますが、ただここはその限界まで来ている自分に気づいたから、そんな選択肢も降りてきたんでしょうね。斉藤斎藤さんの 歌「雨の県道あるいてゆけばなんでしょうぶちまけられてこれはのり弁」というのを思いました。こういう踏み込んだ句、いいと思いました。その中で、銀次さんの銀河鉄道の夜のミュージカルですか、どんなだったんでしょう。賢治の作 品の舞台って、どれもこれも多様性があって、いつも気になります。神戸にいる知人も舞台の演出やっていて、唐版・風の又三郎観ましたが、こちらは前衛ノリノリのお芝居、よく高校演劇でも賢治作品にちなんだものが上演され、これは そうだな、いやいやそれは賢治じゃないでしょ、とかその全集愛読者だった私は、好んで観たものです。でも、盛岡の知り合いの方によれば、生前、地元花巻では変人、奇人の類で有名だったとか、どうも学校の先生には向かなかった天性 の何か不可思議なものを持っていた人のようですね。地元の人は面白いもので、賢治文学館に行ったとき、展示の書簡を目にして、「へえー、あっこの爺さん、賢治と知り合いだったんだ」とか洩らしていたり、まだ賢治はご近所さんで通 っているようですね。おしゃべり長くなりました。今後ともよろしくお願いいたします。

中西 裕子

特選句「飲み込んで満月蛇の脱皮せり(野﨑憲子)」は、蛇が満月を飲み込めばつるりと脱皮がらくでしょうと、なにか可笑しさがあります。「桃握り潰す怒りの闇明かり」の激しさに圧倒されました。「点滴の痛ましき痣吾亦紅 (菅原春み)」は、「点滴の痛ましき痣」が吾亦紅のようなかたちなのでしょうか、不運の中に詩情があります。「手ぶらでは戻らぬ伯母ぞあぶら茸(三好つや子)」は、先月のはみ出す伯母、を思い出して面白い伯母シリーズみたいです 。いつも楽しい句をありがとうございます。

矢野千代子

特選句「十六夜や島の飲み屋に蛸の這う」明石の魚の棚商店街でも、かっては道路へ逃げ出す蛸をみかけたが、こちらは飲み屋。「十六夜」効果かな。特選句「つゆくさは なみだあつめの めいじんだ」ひらがな表記と内容に注 目。この句、漢字で書かれるとあっさり通りすぎるかも――。

稲葉 千尋

特選句「排除とう風に寄り添う破芭蕉」まさに今回の選挙を左右する「言葉」を見事に句になされた力に脱帽。特選句「戦後の眼のキラキラはどこ蜻蛉とぶ(野田信章)」戦後っ子の私が思うあの「目」はどこへ行ったか、「幸せ はおいらの願い・・・・・・・」の歌を思い出す。

寺町志津子

特選句「水澄んでいちにち風を聴いている」好きな句である。誰にでも分かりやすく、アッと驚く仕掛けもなく、あるいは類句があるかもしれないとも思いつつ、晴れ渡った秋天。川や湖の澄み切った美しい水。その水を眺めなが ら、終日、一人で静かに風の音だけを聴いている作者。「聞いている」のではなく、「聴いている」のである。この静謐感、透明感の虜になった。一日を「いちにち」とした効果も逃せない。

夏谷 胡桃

特選句「大皿に梨栗林檎家族葬」。こんな家族葬いいなと思いました。葬儀屋さんが用意した供物ではなく、季節の物をわたしが好きだった皿にわんさかもって、みんなで機嫌よくお酒を飲んでもらいたいです。特選句「難聴の傾 く角度や式部の実」。難聴の方が耳を傾ける角度ってあるある。そして大きな声で話すほうも相手の角度に合わせて、声を出す。式部の実も良いと思いました。問題句「長き夜やらじる☆らしるで聴く漢詩」。句としてはとらない句だけど 、わたしも聴いていたのでとりました。普通にラジオの電波が届かない山の中なので、らじる☆らじるにお世話になっています。

古澤 真翠

特選句「鳥渡る在来線の一人旅(小宮豊和)」わかりやすい言葉で、情景を鮮やかに表現して自然と人生との融合が感じらる壮大な句だと感服いたしました。

山内  聡

特選句「コスモスの花一輪とブルドーザ」多分作業員のいないブルドーザなどの重機が殺伐と並んでいるその片隅に、一輪の花を見つけた。それもコスモス。作業員がもしかしたらその一輪のコスモスに気がついていないかもしれ ない。でも、自然の女神が一輪挿しのようにコスモスを活けて作業員をねぎらっている風な感傷を得ました。ブルドーザのような言葉が一句に据えられている驚きとコスモスとの調和。

若森 京子

特選句「石人形の白首須磨の秋乾き」須磨という土地柄、石人形の白首が生々しく伝わってくる。「秋乾き」の措辞で歴史的背景の乾きを感じる。特選句「流れ藻や耳を平らに音拾う」流れ藻の生体と人間の難聴による現象がうま く一句に詠まれているのに惹かれた。

藤川 宏樹

特選句「好敵手石榴笑むごと登場す」石榴は子供の頃以来、実物を目にしていない。赤いつぶつぶの不思議な様相の果実、どう食したか記憶は定かでない。そんな私にも「石榴笑むごと」の喩えが憎悪むき出しの好敵手登場を的確 に表現していると伝わりました。「あっぱれ」です。

三枝みずほ

特選句「空ひらく鍵やはらかき渡り鳥」渡り鳥が秋の空を開く鍵だという把握が的確で、風を感じさせられる。心まで解放されてゆくような雄大な景に感銘を受けた。

三好つや子

特選句「大皿に梨栗林檎家族葬」隣家にも伝えず、家族のみで行うお葬式が一般化し、私も句にしようと頑張りましたが、このような意表をつく言い回しには至りませんでした。脱帽です。特選句「地球の音聴く茸の耳つかむ」地 表に群がり、地球という生命体の内側から発せられる音をじっと聞いている茸たちの、神秘的な生態が目に浮かびます。入選句「間違えて大人になった南瓜かな(河野志保)」振り返ることすら恐い、恥多き人生。飄々としながらも、自虐 的な語り口に共感。

田口  浩

特選句「秋山に小さく灯す誰かの家」一読、<秋山に>のストレートぶりに、<誰かの家>の字余りが、広がりを見せておもしろい。<小さく>は、消した方が、いいかもと読んだが・・・・。そうではなかった。<小さく>を入れること によって、<誰かの家>の人物像がしぼられて愉しい。特選句「一の谷は此処青かりんが鈍と落つ」見落していた句である。読み返えして見ると、なかなかどうして不明が恥ずかしい。<青かりんが鈍と落つ>このリアリズムが、「一谷嫩軍旗 」の熊谷直実、平敦盛を、此処に再現せしめた。〈青かりん>がいい。〈鈍と落つ>の音が腸に響く。

柴田 清子

特選句「水澄んでいちにち風を聴いている」いつになったら、こんな心境になれるのかしら。ボタン一つで何でも思いが叶ふような暮しそれでいて、何かが足りない。自然に生かされていることさえ忘れてしまっている。季節くの ある日の風からの声、メッセージにいちにち中耳を傾ける日を持ちたいわ! 

野田 信章

特選句「沈黙のはじまり鹿がこちら見る」の句。生きもの同士の視線の交感がある。「沈黙のはじまり」の把握には、そこに自と二つの生命のおもたさが宿っている。特選句「流れ藻や耳を平らに音拾う」の句。一読、爽気を覚え るところから初秋の頃の視覚と聴覚のバランスのとれた句として読んだ。「流れ藻や」の効果とも。私にとっては、二句共に、即刻の見というか、出合いの直感は時間が短いほど鋭くはたらくものと示唆してくれる例句である。

月野ぽぽな

特選句「電線と唇濡らす秋時雨」雨に物が濡れるのはそのままなのだが、「電線」と「唇」を取り込んだところが面白い。ある心情を持ったその刹那に感知したからこそ立ち上がる即興感がある。モノクロの景色に静かな情念が程 よくオーバーラップしてきて、読者の想像力を刺激してくれる。今月は、いつもに増して面白かったです。よろしくお願いします。

野澤隆夫

今月もお世話になりました。あわせて今月も楽しい句会でした。特選句一つ目「蜂蜜のかたくなる朝のブラームス(夏谷胡桃)」朝はパン食のやや多い小生。蜂蜜の堅い日もありますね。ヨーグルトになかなか流れてくれなかった りして。作者はブラームスの〝バイオリン協奏曲〟ではなく宗教曲〝アベマリア〟が流れているのでは。特選句二つ目「世の中をツルリと忘れマスカット」こんな思いのする時、確かにありますね。わずらわしい、何かに決着をつけて〝エ エイ!まーいいか〟と。カタカナ表記の〝ツルリ〟と〝マスカット〟がいいです。問題句「ぬしさんはへくそかづらでありんすか(田口 浩)」ひらがな表記のセリフが面白い。今月は久しぶりの歌仙。天志さんの捌きで「萩こぼれ」の巻 。皆で和気あいあいとできるのも天志さんの人徳。出来上がった〝初折の表と裏・18句〟を通して読むと、何とも面白いです。ありがとうございました。

伊藤  幸

特選句「かにかくに人恋いて寄る獺祭忌(高橋晴子)」子規の居、獺祭書屋、多くの人が子規を慕い集まったと聞く。秋の夜は人恋しくなるものだ。円座して秋の夜長、心温め合いつつ気の合ったもの同士句会を催している様子が 手に取るように窺える。読み手までもがほのぼのとした気分にさせられる句だ。

谷  孝江

「どんぐりころころ百歳で不良」良いですね。いい年だからって妙に好々爺ぶっている人なんて嫌いです。好きな様に自由に生きれば好いのです。わたしも鬼ババアで不良と思っています。可愛い不良でいたいものですね。特選句 「かにかくに人恋いて寄る獺祭忌」子規の居、獺祭書屋、多くの人が子規を慕い集まったと聞く。秋の夜は人恋しくなるものだ。円座して秋の夜長、心温め合いつつ気の合ったもの同士句会を催している様子が手に取るように窺える。読み 手までもがほのぼのとした気分にさせられる句だ。

松本 勇二

特選句「わたくしの中へもこぼれくる零余子(谷 孝江)」一句一章により、零余子がこぼれるスピード感が伝わってきます。「も」がこぼれる量の多さを物語っています。問題句「ドッペルゲンガー芒より窺いぬ」ドッペルゲン ガーを上五とし、中七を「芒原より」などと七文字にするとリズムが良くなり、シュールで存在感のある句になると思います。

野口思づゑ

特選句「空ひらく鍵やはらかき渡り鳥」鳥が鍵に見えたことはありませんが、この句を思い浮かべながら秋の空を見てみたいと思わせた句です。問題句「長き夜やらじる☆らじるで聴く漢詩」中7が意味不明、でも感覚がわかるよ うな不思議な句です。もどかしい分惹かれる。

鈴木 幸江

特選句「ぬしさんはへくそかづらでありんすか」まず、文語口語の句であることが面白かった。そして、臭い匂いがするへくそかづらと美しい遊女と思われる女性の取り合わせがまた面白い。句そのままの光景を想像しても微笑ま しいが、遊女だって人間だ、そんなことを言いたくなる客も、いただろうにと無神経な想像をしたが、つい笑ってしまった。「世の中をツルリと忘れマスカット(河野志保)」私の気分で特選にさせていただいいてもいいのかなあ?と思い つつも、いいのだとし特選にした。自分の感受性を信じ大切にすることも現代俳句には意味のあることだ。それは、選句においても同じである。この句は、考えることを止めた時、見えてくる景色に真実があることを暗示している。開放感 が気持ち良かった。問題句評「漱石と蟋蟀の髭国荒れて」私は、漱石は東洋文化と西洋文化の統合に苦しんだ人物だと思っている。 そして、蟋蟀の髭は自然物のアンテナの象徴と思った。国荒れては今の国際情勢ことだ。三物衝撃により 、何かを警告しているのだが、何を警告しているのかよく分からなかった。

桂  凛火

特選句「夕時雨黒い牡牛の背(せな)に湯気」牡牛の存在感が抜群ですね。背に湯気にリアリティを感じました。力強い生命感といのちの息吹のようなものに共感しました。夕時雨も冷たい雨の中になおかつ湯気をたてる背が見える ようで、場面設定としてとてもよかったと思います

河田 清峰

特選句「石人形の白首須磨の秋乾き」須磨と謂えば平家物語と源氏物語を思い浮かべるがここは源氏物語であろう!石人形の白首はやはり女性であると思う…紫式部の石山寺を…そして須磨の巻を…下五の秋乾きが実に深く感じる 句である!

銀  次

今月の誤読●「沈黙のはじまり鹿がこちら見る」。ネッドは人差し指をペロリとなめて、その指で散弾銃の銃身をそっと撫でた。それはただの習慣のようでもあり、まじないのようでもあった。あの大鹿を追ってもう一週間になる 。もうすぐ日暮れだ。今日もダメか。気の早い一番星がすでにかすかな光芒を放っている。それは永遠を意味し、反対に銃は生死を一瞬に分かつつかの間を意味する。そのときだった崖のうえにあの大鹿がヌウと現れた。ネッドはふいをつ かれたかのように凍りついた。風下だ。気づかれることはあるまい。それでも動けなかった。金星はさらに光を増し、その真下に大鹿は立っていた。それは大いなる威厳に満ちた彫像だ。それは題名のない壮大な絵画だ。ネッドは目覚めた ように散弾銃を肩に押し当て、その彫像に狙いを定めた。「鹿がこちらを見る」。逃げるそぶりはまったく見せない。ネッドは立ち上がった。そうすることが大鹿に対する儀礼であると思ったからだ。「沈黙のはじまり」。大鹿はかすかに 笑っているようだった。それは神々しい神の笑みだった。ネッドはトリガーに指をかけ、ゆっくりと引き絞った。だがすんでのところで銃を下ろした。それを見届けたかのように大鹿は背を向け、ふいに消えた。気がつくとネッドは泣いて いた。なぜかはわからぬままに、苦笑しながら涙を流した。見るべきものは見た。ネッドはその日山を下りた。以来、ネッドが銃を持つことは二度となかった。

新野 祐子

特選句「その先は木犀だけが散る話」読者の心を掻き乱す小説のエピローグのようです。木犀「だけ」が散るのですから。「その先は」という使い方からも、作者の力量は相当なものだと思います。特選句「ペンを差す胸元漠と木 の実雨」こちらは映画のワンシーンのよう。『百年の散歩』(多和田葉子著)に「まわりの視線がいっせいに集まってくるのを感じ、あわててメモ帳を閉じて、何気ない顔をして歩き始めた。路上で携帯メールを打っていても誰も不思議が らないのに、メモ帳と鉛筆というのはどうやら不審と不安をかきたてるようだった」という一文があります。この句からも、異国にいて(かどうかわからないけれど)漠然とした不安に駆られている作者が、映像として見えてきます。問題 句「つゆくさは なみだあつめの めいじんだ」内容はとても素敵です。なにゆえ分かち書きにする必要があったのでしょうか。

田中 怜子

特選句「刈田更け百鬼夜行の道が開く」こんな体験を子どもの頃したことある。怖くもあり、草叢から何かが出て来てくるような。特選句「秋雨やこの町もはや地図になし」さーっと白い雨がけぶり、いつもの町が見えなくなって しまった。そんな情景が目に浮かびました。それを地図になし、と。

大西 健司

特選句「虫すだく三半規管のような駅」三半規管をどう捉えるか難しいところだが、どこか迷路のような、それでいてひなびた駅が思われる。少し書き方が素っ気ない感じもするが特選にいただいた。問題句「ぬしさんはへくそか ずらでありんすか」こちらは文句なくおもしろい。ただ作者のしてやったり感が半端ないので問題作とした。へくそかずらはつらいよなあといったところ。

河野 志保

特選句「空ひらく鍵やはらかき渡り鳥」簡潔で大きな句姿にひかれた。「空ひらく鍵」が渡り鳥にぴったり。そこはかとない愁いが漂って余韻も豊か。

菅原 春み

特選句「虫すだく三半規管のような駅」三半規管とは良く見つけたと感動。特選句「流れ藻や耳を平らに音拾う」流れ喪と耳の平らの取り合わせがなんともいい。「露けしや針一本が足りなくて」いい味です。「空ひらく鍵やはら かき渡り鳥」やわらかい鍵が眼目か。「真葛原亡母(はは)に詫びたきこと一つ(寺町志津子)」共感します。季語がいい。「十六夜や島の飲み屋に蛸の這う」景色が見える。「鶏頭の髄まで雨は直立す」直立するとは見事。「ひだる神背負 いて下る紅葉山(松本勇二)」ひだる神も紅葉山も映像化できそう。「冬の雷袋の口が開かない(重松敬子)」なんだかおもしろい。

高橋 晴子

特選句「好敵手石榴笑むごと登場す」小気味よい感覚で好きな句。「石榴笑むごと」の具象化がよく効いていて、人物が見えてくる。私もこういう人物になりたいものだ。問題句「ドッペルゲンガー芒より窺いぬ」〝ドッペルゲン ガー〟が何なのかわからなくて辞書を引く。分身とか、自分の姿を自分で眼にする幻覚現象とある。で、面白いと思ったのだが、やはりドッペルゲンガーが一般的に知られていない言葉で、少し無理があるかなあ、それとも、この句が成功 しているとすれば、ドッペルゲンガーが普及する力を見る。いづれにしても面白い句。

小宮 豊和

今月は心ひかれる句が多かったが、ちょっと言いたいことのある句もあった。いただいた句の中から失礼とは思いつつ読み手の気持ちをお伝えしたい。「わたくしの中へもこぼれくる零余子」中七「中へも」の「も」は不要と思う のです。「中へこぼれてくる」などとした場合どう変わるかですが。「どんぐりころころ百歳で不良」百歳が老いすぎの感。兜太師も不良は卒業したようです。百歳以下を「不良現役七十五(歳〉)」としたら生々しすぎるでしょうか。「 芋喰らう夫婦というは修行かな(鈴木幸江)」下五「かな」は、「なり」などの方が良いと感じる。「かな」と置くとしたら「夫婦なること」などと、体言が必要だと思います。このようなことを思いつつそれでもいただいたのは一重に良 い感性、良い題材を取り上げられたことのすばらしさです。

漆原 義典

特選句「ふかし芋割ってちょうどいい関係」の、ほのぼのした雰囲気が伝わってくるのがうれしく特選とさせていただきました。ありがとうございます。

亀山祐美子

特選句『鶏絞めて漢の仕切る秋まつり』「鶏を締める」動作と「漢の仕切る秋まつり」のシンプルな事実の二物衝突の見事さ。めでたさ。収穫の喜びの拡がりを過不足なく表現する力強さと共に、農耕民族、狩猟民族としての集団 の規律、歴史さえ垣間見える。どっしりとした青空の見える五臓六腑に染み渡る一句。 久々の天志さんの裁きの連句も楽しい時間でした。ありがとうございました。

野﨑 憲子

特選句「大袈裟に見まわして恋赤のまま」これは初恋の景と直感した。たぶん、少女の。恋しい人を待つ川岸。風に揺れる赤まんまに焦点を合わせたその風情に惹かれた。「大袈裟に見まわして恋」のダイナミックな句跨りから、 胸の高鳴りがこちらにまで伝わってくる。問題句「かちりんと銀河つめたき骨である(増田天志)」この作品も、特に惹かれた句のひとつである。今回も、頂きたかった作品がほんとうに多かった。「銀河つめたき骨である」の把握に、驚 き、不思議に納得させられた。只「かちりんと」の「と」に引っかかり問題句とさせていただいた。

(一部省略、原文通り)

半歌仙<萩こぼれ」の巻

半歌仙「萩こぼれ」の巻
萩こぼれ宮人の舟漕ぎ出さむ
天志
  海濡らしをり瀬戸内の月
瞬夏
しらしらと朝を迎える花野にて
清子
  ひょいと振り向く崖の白馬
憲子
万緑に輝く命満ちてをり
  自転車飛ばす麦わらの女子
たかお
曾祖母の異国に遊ぶこともなく
幸江
  耳の恋しき舌の恋しき
ゆみこ
接吻のあとの名残りの紅残る
章平
  標本箱に羽ばたくかたち
瞬夏
はごろもの風の青さに乗るうすさ
ゆみこ
  からから笑ひ団子食ふ子ら
宏樹
冬の月天の高さの途中なり
  指笛鳴らし梟を呼ぶ
瞬夏
書に耽る師の顔蒼し夜明け前
憲子
  スターバックス我には苦し
たかお
酒に酔ひ男に酔つて花に酔ふ
清子
  遠く近くに陽炎の立つ
憲子

【通信欄】&【句会メモ】

安西 篤さんからのお葉書から~海程終刊も北朝鮮問題も関係のない香川句会の充実ぶりに鼓舞される思いで選を(三段階評価で)。【☆】「子規にふれ蓑虫にふれ国家論(若森京子)」「兄へ白秋桂馬のように飛んでいるか(松本勇 二)」「つるべおとし逃げまわる子と石鹸(矢野千代子)」【◎】「百日紅父母亡き家の屋敷神(稲葉千尋)」「行間をはみ出す叔母です秋暑し(寺町志津子)」「聖書読むように泉を見つめている(月野ぽぽな)」【○】「竜虎図やそこ に大ぶりな無花果(大西健司)」「蜂歩く二百十日の皿の縁(三好つや子)」「停戦は廃墟の街に鳥渡る(増田天志)」「姥百合や飯喰い男となり申す(野田信章)」「そばにゐて風になりたいすすきかな(野﨑憲子)」

10月の、高松での句会では、大津より参加された増田天志さんの捌きで、一年ぶりに半歌仙を巻きました。連句の、後戻りしないで、参加者全員で、先へ先へと巻いて行く作り方や、ベテランも、俳句初学の方も、同じ舞台に立つの が、さながら人生絵巻のようで、とても興味深かったです。また、いつか挑戦してみたいです。

写真は、島田章平さん撮影の横峰寺の野紺菊です。

2017年9月28日 (木)

第76回「海程」香川句会(2017.09.16)

imagesZF2E4N0N.jpg

事前投句参加者の一句

地図に無い駅から始まる新涼 中野 佑海
余熱で煮えるオクラのような片思い 新野 祐子
落研の部員はひとり文化祭 野澤 隆夫
孤独死も悪くはないか黄落期 重松 敬子
子午線に風秋蝶を手放して 三枝みずほ
新松子海がすぐそこ島がそこ 亀山祐美子
餡こ練って練っておばあさんと秋茜 伊藤  幸
我が家馴れイタリア人の夜は長し 鈴木 幸江
停戦は廃墟の街に鳥渡る 増田 天志
靴下をはく日はかぬ日秋桜 菅原 春み
宿題をする日なりとんぼ釣る日なり 河田 清峰
この街に新しき家百日紅 中西 裕子
かごめかごめ戦さにゆかぬ秋の鬼 桂  凛火
シューマンは秋声となりて漂えり 田中 怜子
つるべおとし逃げまわる子と石鹸 矢野千代子
子バッタや跳ばぬ勇気と跳ぶ勇気 藤田 乙女
赤トンボまた先生を泣かせたか 藤川 宏樹
秋の蛇ピアスの少女振り向けば 島田 章平
虫籠に虫の死戦争は知らない 小西 瞬夏
なずむ身を青葉の山に置きて去る 疋田恵美子
この町が好きみんみんがご近所に 谷  孝江
いま僕は月から風を受けている 山内  聡
路地ゆくや蟷螂われを睨みおり 髙木 繁子
草を抜く老母の尻やちちろ鳴く 漆原 義典
体内は秘密のすみか薄紅葉 竹本  仰
れもん踏むもはや不滅を語るまい 銀   次
わからないこともわかった気のする秋天 柴田 清子
青柿落つ いつまでにらみ合うのやら 古澤 真翠
いまは月あかりはあなたの声 月野ぽぽな
降る降らずさぬきの畑にオクラ立つ 鈴木 龍二
百日紅父母亡き家の屋敷神 稲葉 千尋
コオロギが一匹鳴いている奈落 田口  浩
家路かな月の匂いの頭陀袋 若森 京子
竜虎図やそこに大ぶりな無花果 大西 健司
行間をはみ出す叔母です秋暑し 寺町志津子
消印は遠い山国金魚死す 松本 勇二
人間を七十九年広島忌 小山やす子
最中ほどの父の針箱小鳥来る 三好つや子
渡り鳥かなしいか空翔けるのは 小宮 豊和
くさひばりここをとおればここきずつく 男波 弘志
朝のカフェカシミヤセーター同じ色 夏谷 胡桃
葛の花盲(めしい)鑑真渡りし海 高橋 晴子
姥百合や飯喰い男となり申す 野田 信章
あの雲が消えたら決める穴惑い 野口思づゑ
曼珠沙華雨の背中を観てゐたり 野﨑 憲子

句会の窓

島田 章平

特選句「赤トンボまた先生を泣かせたか」人生に必ずある師との出会い。楽しい出会いもあれば悲しい出会いもある。その時には分からない一期一会。また、必ずある別れ。その時に心は動く。はるか時が過ぎて突然に思い出す出 会いや別れ。気が付かなかった師の涙。突然に蘇る記憶。赤トンボが甘く悲しくせつない。昨日の、赤トンボをめぐっての論争楽しかったですね。今、句評を書きながら思い出してつい笑ってしまいました。素晴らしいと思いました。個性 が音を立ててぶつかり合う世界、これがまさに海程の世界なのでしょうね。

藤川 宏樹

特選句「つるべおとし逃げまわる子と石鹸」6・7・4と定型を外しても句調よろしく、「つるべおとし」と「逃げまわる」の動きあり。「つる」と「石鹸」が動きに呼応しています。「子と石鹸」の切れある締めも効いて映像明 快、勉強になります。句会場にて拙句「赤トンボまた先生を泣かせたか」について伺った皆様の意見交換、盛り上がり楽しかったです。句を手放すと読み手がそれぞれの解釈を持たれること、実感できました。句会参加を楽しみに月3句、 時には苦しいノルマを果たしています。今後ともよろしくお願いいたします。

中西 裕子

特選句「行間をはみ出す叔母です秋暑し」行間をはみ出すというのびのびとした型にとらわれないおばさん、そのエネルギッシュな感じと秋暑しが合っていて、小太りであろう叔母さんのイメージが浮かびます。こんな叔母さんが いれば楽しくもあり、困惑もし、でしょうか。問題句「姥百合や飯喰い男となり申す」姥百合やの句で、難解でした、どういう意味か情景かわからず、解説いただくと、芭蕉の句に飯食い男なんたらという句があるそうなので調べてみよう と思いました。おそらく一年ぶりに参加、緊張もあり勉強になりました。

増田 天志

特選句「曼珠沙華雨の背中を観てゐたり」雨そのものの背中なのか、雨に濡れる曼殊沙華の背中なのか、それとも、雨に濡れる君の背中なのか。絶望的な愛を感じるのは、季語の効用か。

小西 瞬夏

特選句「聖書読むように泉を見つめている(月野ぽぽな)」この散文的な書き方。「聖書読むやうに見つむる泉かな」と俳句的はせず、字余りを選択。それが、なんとなくぼんやりとした空気を醸し出している。しかも、そのぼんやりは、ただの ぼんやりではなく、宗教的思索なのである。その精神性と空気感に共鳴した。

中野 佑海

特選句「魂の修羅しゅら燃ゆる芒原(疋田恵美子)」常に何かに闘いを挑み、欲望を削ぎおとし、まるで鬼に取り憑かれたように、しゃ嗄れていく。芒が原の荒涼感と魂の寂寥感がとてもマッチし過ぎて切ないくらいです。ちょっともう少し肩の 力脱いだ方が良いんじゃない!? 特選句「つるべおとし逃げまわる子と石鹸」どれもツルツルと両方の手からいとも簡単にくるくると抜けて行く。今年ももう秋、孫もあっという間に小学校へ行って、普段は婆は必要無し。石鹸まで此方をバカにするようにツルリと溝に落 ちて行く。もっとよく廻るのは我が口(愚痴)ばかりなり!!一つ言えば、「石鹸と」にした方が、リズムは良いと思います。孫にかまけて、毎日があっという間の六十代です。今月も楽しい俳句を有難うございました。

三枝みずほ

特選句「靴下をはく日はかぬ日秋桜」素足でいると自然の呼吸や人の体温や何か伝わってくるものがある。少し肌寒くなるとその感覚はよりダイレクトに鋭敏になる。靴下をはいて自分を守りたい日、裸足で自分を開放したい日、 そんな両方の感覚を秋桜が受けとめてくれているように感じた。

山内  聡

特選句「銀座にて落款を択る良夜かな(重松敬子)」銀座を筆頭におしゃれな言葉がずらりと整然とポエムになっている。多分、鳩居堂での詠句。「銀座」で俳句を詠んだことがないものですから僕も今度銀座に行った時は「銀座」を一句に詠 みこみたい、と思わされる一句になっています。とにかく「銀座」が効いているし「落款を択る」もお洒落ですしそこに「良夜」とこれまた季語の中でも僕がとても大好きな季語をチョイスされていて素敵な句になっています。おしゃれだ けではなく結局選ばれた落款はどのようなものを選ばれたのか?その落款をどこに使われるのか?そして多分落款を作者が手彫りされる様子など想像できてメチャメチャいいです。とにかく銀座と落款と良夜の組み合わせが最高です。あり がとうございました。

若森 京子

特選句「さりげないきつねのかみそりは恋だ(田口 浩)」さりげなく毒性のある「きつねのかみそり」に「恋」をぶつけた俳諧味のある一句に惹かれた。特選句「流れ星俗に感謝のしっぽかな」宇宙の流れ星に幸運を祈る人間。犬は㐂こぶと しっぽを振るが、日常において人間にも見えない感謝のしっぽがある。「俗に」の措辞により人間臭い本能を思う。流れ星で始まる独自な感覚の洒落た一句。

 
竹本  仰

特選句「聖書読むように泉を見つめている」なるほど、聖書を読む時の眼というのは、そんな様子なのかも知れないなと思いました。日により時により変化絶え間ない水であるが故の思念、瞑想、観想と、汲んでも汲んでも汲み切 れない、不可思議な源が感じられますものね。聖書と水というつながりに興を覚えました。そういえば、この間、仏事に出ていた牧師さんをお見掛けしましたが、そうなんですね、その方の眼はそのようであり、一人静かに黙念しておられ ました、ちょうどこの句のように。特選句「曼珠沙華雨の背中を観てゐたり」雨の背中、魅力的な表現を持ってきましたね。誰の背中かという連想も大事ですが、むしろ雨そのものの背中とみると、泣きの本然、泣きの源泉みたいなものが 見えてきて、そこが魅力の句だと思います。源へさかのぼる、その訴求力、想像力に一本やられたというところです、しかも異様に甘いムードで迫って来る、この一本は映画一本に匹敵するなあと感心です。特選句「なずむ身を青葉の山に 置きて去る」青春との訣別でしょうか。だが、青春を去ること自体も青春のなせるポーズだと見え、そこも含めての魅力をいただきました。兜太師の「水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る」も、もう一度帰って来るよという誓いの「置きて 去る」だと思いましたが、この句も同じ心なのだと深読みいたしました。「置きて去る」には或る戸惑いと割愛の嗟嘆かと感じられ、青春の魅力ありありとしています。問題句「ゴキブリの神経細胞街明かり(小山やす子)」 この句は、天才の作かと思い、しかし、そういう誤読の自身をたしなめるため、あえてそんなワタクシ事で、問題句にシフトさせていただきました。昔観ました竹内銃一郎の芝居で「月ノ光」という舞台がありました。プラハかどこかが舞 台で、猟奇連続殺人のなか、主人公の佐野史郎が叫んだセリフに、ああ、この町はぼくの脳細胞の中にあるんだ、というのがあって、今も頭にこびりついて離れないのですが、それがこの句と二物衝撃を起こしたということです。そうなん です、街はゴキブリの神経細胞になぞって作られていた、そういう解釈にしびれるのです。私ども人間の浅慮は、そうまでして尽くす奴隷状態を選んでいたのだとも思え、人間の自由というやつを大いにちくりとさせる名作だと、誤読士を しびれさせました。以上です。今回は字数多いです、いい作品多いです。みなさん、本当に毎回作品を読ませていただき、ありがとうございます。あらためて、感謝です。いつも、ありがとうございます。

矢野千代子

特選句「青柿落つ いつまでにらみ合うのやら」青柿がおちる。その予想外の響きにもにらみ合いは続く。さ~て、行司が必要かな? 特選句「くさひばりここをとおればここきずつく」:「ここきずつく」は言い得ての巧さ。シ ャープな感性がひらがな表記によって、より素直に伝わる。

月野ぽぽな

特選句「孤独死もわるくはないか黄落期」一つの、でも大きな達観・諦念。外から見て孤独と見えても孤独ではなく、孤独でなく見えても孤独であることもありうるでしょう。ありのままの自分を貫いていて生きてきたのならば、 どんな最後も最高のかたち。黄葉が喝采のようにきらきらと美しいです。

男波 弘志

「さりげないきつねのかみそりは恋だ」ずっとこの句のことを考えていた、何故上5が腑に落ちないのか、ふと「昼過ぎのきつねのかみそりは恋だ」そう呟いた。さりげない、が実は、さりげなくない、感情を一切言わないことで 恋の原始感が生まれるのでは。「落し文佛にもあるふたごころ」先ず。佛の文字のつくり、これは非ず、人に在らざる者、ふたごころ、その一端に過ぎない。ある時は悪をなさしめ、考えさせるのも佛、大乗の佛はうようよしている。「子 午線に風秋蝶を手放して」蝶が風を離れて飛翔することなどあり得ない。手放す、のは作者の精神世界、大乗虚空への飛翔。「寝る前にペンをもつ鶴のまばたき」端正な石田波郷の横顔、「吹きおこる秋風鶴を歩ましむ」この一行詩を思え ば、それでいい。「かごめかごめ戦さにゆかぬ秋の鬼」戦の鬼は武器を手にしている、野の鬼は赤い花をゆらゆらさせてい る。「虫籠に虫の死戦争は知らない」囚われの虫の死、(誰がつくったの、その死?)はまだ知らぬ戦争よりもリアルであろう。「いま僕は月より風を受けている」月光そのものが風に変容している。もしかしたら体中切られているかもしれ ない。「木の実落つ少女は持たぬ腕時計(三枝みずほ)」木の実、以外でも一句の姿は創れたはずだが、木の実のエロスと少女の素手、自分には少女の臍まで観えている。「消印は遠い山国金魚死す」手紙が届かない時間軸のなかで、死んだ金魚、赤の鮮 烈さをうしなった文字なのかもしれない。「あの雲が消えたら決める穴惑い」娑婆を去るには、去るだけの理由がいる。自分には娑婆に居るほんとうの意味がまだ解っていない。だから、去るだけの意味もわからない。風景なのか、心象な のか、ことばなのか、声なのか、それもよく解らない。個であるとき存在はなくなるのかもしれない。

古澤 真翠

特選句「いま僕は月から風を受けている」素直な表現でありながら、勇壮な景色が浮かび上がる句に、暫し心を奪われました。

稲葉 千尋

特選句「新松子海がすぐそこ島がそこ」まさに実景であろう。私は尾道がすぐ頭に浮かび、五、六回言った尾道を想っている。特選句「体内は秘密のすみか薄紅葉」人間の体は不思議なものである。本当に秘密の棲である。誰もそ うであるが、何処かわからない事が良く起る。〝薄紅葉〟よし。  

鈴木 幸江

特選句「余熱で煮えるオクラのような片思い」よく考えると片思いというのは、自分の安全を守るタイプの恋だと私には反省される。それは、あんまりに過ぎてはいけないオクラのようで、余熱で煮るのがベストなのだ。言葉では 伝えられないような意味深なことを表現している句だと感心した。問題句「ゴキブリの神経細胞街明かり」この句を、私は、科学句と命名したい。科学的な気付きを課題としたところに注目した。こういう句もあってもいい。夜行性のゴキ ブリの神経細胞に街明かりは、どんな刺激を与えているのだろうか。そして、どんな反応を起こしているのだろう。人間にだって異変が起きていることだろう。進化論的にちゃんと考えて置きたい課題提議の一句だ。今回は、将かの夫の初 参加。一度行ってみたいと思っていた松山の子規記念博物館で子規の生き様に感銘し、刺激を受けた所為か。その結果の作句挑戦である。載せていただきありがたい。皆さま読んでくださり本当に有難うございます。

伊藤  幸

特選句「姥百合や飯喰い男となり申す」諧謔の中にも何と侘しい句であろう。男がリタイアした後の情けない現実、社会現象となっている。趣味でも持っている人は未だ良いが、家でゴロゴロしている人も多いと聞く。「俳句でも 如何?」とお勧めしたいところだ。

亀山祐美子

「センチメンタル」論争面白かった~特選句『蜂歩く二百十日の皿の縁(三好つや子)』「蜂」は春の季語だが「二百十日の蜂」なので問題はない。「皿の縁をただ蜂が歩いている」だけなのに、緊張感があるのは季語の斡旋が良いからに他なら ない。うまい一句。特選句『そばにゐて風になりたいすすきかな(野﨑憲子)』誰のそばにいるのか。「それぞれの大切な人」へ想像が膨らむ。「風」以外のひらがな表記の柔らかさがより一層「風」を際立たせる。「すすき」のなびく草原の広がりを 感じさせてくれる好きな一句。ただ、気になるのが「なりたい」の「たい」が希望の意を現す助動詞なら文語体では「たし」の連体形「たき」になるのではなかろうか。「そばにゐる」の「ゐる」が文語体なので気になる。一句に混在は避 けたい。どちらかに統一したい。私は文法が苦手なので、いつも不安だ。間違ってたらごめんなさい。どなたか教えて下さい。読みを「ひらがな」にする時も確認必須で、文法は本当に苦手。いつも辞書と首っ引き。知らないことが多過ぎ る…ではまた。句会報楽しみに致しております。

大西 健司

特選句「家路かな月の匂いの頭陀袋」どこか負のイメージがある頭陀袋。そんな頭陀袋が月の匂いがするという。家路をたどりながら、どこかほっこりする気持でいるのだろう。やさしい気持にさせてくれる句だ。

三好つや子

特選句「餡こ練って練っておばあさんと秋茜」おはぎの餡をつくる母にくっつき、味見をねだった子どもの頃を思い出しました。日本人のDNAをくすぐる郷愁感に満ちた句です。特選句「かごめかごめ戦さにゆかぬ秋の鬼」不可 解な歌詞ゆえに、怖い都市伝説を生んでいる童謡「かごめかごめ」と、秋の鬼との取り合わせに、作者の深い思いがありそうで、惹かれました。入選句「曼珠沙華雨の背中を観てゐたり」ひと雨ごとに夏が遠のいていく詩情を、雨の背中と いう言葉でうまく表現。曼珠沙華がさりげなく効いています。

野澤 隆夫

特選句「行間をはみ出す叔母です秋暑し」:「行間を読む」は「表面に出ない真意をくみとる」こと。その「行間」をはみ出すとんでも叔母さんに、何とも言えない面白みがあります。叔父さんではだめです。問題句「棒アイス陰 の高架に火消し立つ」棒アイス、高架、火消し。何か謎めいてます。ミステリアスな感じがして不気味です。今回の選句、135句を3回声に出して丁寧に読みました。これはという言葉は電子辞書、スマホをひきつつ。皆さんどの句もよ く練られていると、感心させられました。ちなみに調べた季語、語彙を列挙してみます。 オクラ、慟哭、通草、黄落期、聚楽第、プレリュード、子午線、逃げ水、収斂、秋燕忌、ひとかど、いっぱし、地殻、草庵、秋声、処暑、なずむ、 茸、微温 、太陽フレア、頭陀袋、施餓鬼、青僧、髻、頤

 
夏谷 胡桃

特選句「餡こ練って練っておばあさんと秋茜」。絵本のばばばあちゃんが餡こを練っている絵が浮かびました。お彼岸です。夫の母が山ほどのお萩を作っていたのも思いだしました。わかりやすく躍動感あるいい句だと思います。 こういう句を作りたいです。

谷  孝江

特選句「あおむけのままで眠っていて花野(月野ぽぽな)」この句の中の、大らかさが好きです。雲の流れも草の穂の揺れも自由に身ほとりを通りすぎてゆきます。恋も悔いも不平不満もあったでしょうが、すべてが良しと思っていらっしゃるの でしょうか。先日も、かかりつけの医師より、人の最期の仕舞い方で、その人のこれまでの人生が分かります。大切な事ですよ、と教えられてまいりました。全くその通りだと感じています。感謝感謝の毎日でいようと心に決めています。

野田 信章

特選句「秋の蛇ピアスの少女振り向けば」句の主体は少女である。ピアスの少女との一瞬の出会いが呼び込んだ「秋の蛇」との感応は多分に生理的であり、上句に配置することで「秋の蛇」の暗喩力が作用して、ピアスの少女の存 在感を陽のぬめりと共に際立たせている。特選句「子規にふれ蓑虫にふれ国家論(若森京子)」:「子規にふれ」さらに「蓑虫にふれ」としたことで、この渾沌の世に大言壮語すべき国家論ではない視点を持つ作者の立ち位置の明確な句として読めた。

疋田恵美子

特選句「この町が好きみんみんがご近所に」都会から地方へいらしたお方でしょうか。みんみんがご近所とは素敵。特選句「何もかも捨てて蓮の実ぽんと飛ぶ(重松敬子)」この年代になりますと同感。ぽんと飛ぶが、爽やかに力強く生きる姿 が見えて良い。

柴田 清子

特選句「いま僕は月より風を受けている」月の光ではなくて風。この風に酔はされました今年の中秋の名月にはきっとこの句口にしている特選です。特選句「そばにゐて風になりたいすすきかな」言葉は易く、思いは深い。この内 容を支えている「すすき」が、とってもいい。秋思である。ひとりごと・・・五十年も一緒にいる、もう風になってくれてもいいし、風になりたい。

桂  凛火

特選句「さりげないきつねのかみそりは恋だ」:「さりげないきつねのかみそり」ってなんだろう。たぶんこれは虚構だと思うのだけれど、「さりげない」の措辞にこころをつかまれた感じだ。「恋」を定義するのにさりげないと狐 と剃刀は道具立てとしておもしろい。恋はいつのまにか始まる。きつねのようにだましだまされるスリルがある。時には己に向かう刃物ともなる。そんな3要素をくっけた俳句と思ったら楽しい。恋だの断定も潔くてよいと思いました。

田口  浩

特選句「半月や東半分西半分(山内 聡)」句に解釈は無用である。ザックリと半月を詠んで上々。巷間、〈月は東に日は西に〉〈駅に西口東口〉等があるが、この作品の魅力は見えていない半月にも意(こころ)を動かしているところである。 俳諧不思議であろう。特選句「くさひばりここをとおればここきずつく」こう言った作品に理屈をならべるのは野暮であろう。〈ここをとおればここきずつく〉か?傷つくのである。そう肯定できる人が、繊細な草雲雀のフイリリ、フイリ リと鳴く音色に爽やかな秋を身体で体験できるのである。句はそのことだけを詠している。

松本 勇二

特選句「最中ほどの父の針箱小鳥来る」:「最中ほど」という喩一発の作品。季語も相俟って父上の清新な生活が見えてきます。問題句「わからないこともわかった気のする秋天」閃きに冴えがあります。「わからないことも」の「 も」を取ればもっと冴えてくると思います。

小山やす子

特選句「流れ星俗に感謝のしっぽかな(竹本 仰)」成る程なぁと素直に響きました。

寺町志津子

特選句「最中ほどの父の針箱小鳥来る」句の主人公の「父」は、とうに妻に先立たれた独り身に違いない。妻に先立たれ、言い知れぬ孤独感、寂しさに耐えながら暮らしてきた父を、子である作者は、何かにつけて手助けしたいと 思っているのに、子に面倒を掛けないように、例えば釦付けなどは、慣れぬ手つきながら自分で処理するような父である。その父の針箱は、最中ほどの小さな箱。針箱を見つけた作者は、寡夫となった父を大変いとおしく思いながら、時間 の経過とともに自立していく父に、軽い安ど感を得た。「小鳥来る」の季語の温かさが、それをよく象徴しており、母を先に亡くした私は、寡夫となった亡父の底なしの寂しさ、健気な生きざまを思い出し、感動しました。

重松 敬子

特選句「竜虎図やそこに大ぶりな無花果」もう少し整理ができたらと思いますが、この作意を感じさせない表現が、魅力なのかも知れません。無花果を持ってきたのは、お手柄でしょう。

河田 清峰

特選句「蜂歩く二百十日の皿の縁」迷い入り来た蜂が逃げもせず歩くそれも欠けやすい縁を…二百十日と響きあう句だと思う。

新野 祐子

特選句「葛の花盲鑑真渡りし海」昔から人の暮らしに活用されてきた葛は、生命力の旺盛さにおいては他のつる性植物を凌駕します。その花は秋の七草とされているように風情があり、よい匂いもします。日本の文化に大きな影響 を与えた中国の高僧鑑真は、悪天候のなかの渡航により盲目となります。このドラマチックな光景が「葛の花」により読む者の脳裏に鮮明に刻まれます。特選句「わからないこともわかった気のする秋天」秋の空を仰いでいる心境は、この 句にぴったり。晴れやかですね。疑問や矛盾をいっぱい抱えている日常、顔を上げて空を眺めましょう。入選句「あの雲が消えたら決める穴惑い」どちらかというと嫌われ者の蛇だけれど、よく見ると一重瞼の目がかわいらしい。ひとり静 かに雲を見て秋を惜しんでいるのですね。

銀   次

今月の誤読●「草いきれ鼻の奥にロバがいて(夏谷胡桃)」。なんともシュールな句である。「草いきれ」というのだから、たぶん場所は田園か草原であろう。時期的には熱気に包まれた夏の盛りと思われる。そんななかで作者は「鼻の奥に」 「ロバ」がいるのに気づいたというのがこの句である。さて、まずどうして気づいたのかという問題がある。鳴いたのか。ロバがどんな鳴き声をあげるのかしらないが、(たとえば)ブヒッと鳴いたとたん、おっロバだ、とわかったとすれ ば作者はなかなかロバに精通していると思われる。もしかしたら飼っているのか? いやまあ、それはいい。最大の謎はそのロバがどうして、(あるいは)どのようにして「鼻の奥」などに入ったかという点である。大小の比較ひとつとっ てみても、人間の鼻にはロバは入らない。北島三郎の鼻でもムリである。比喩的な表現として「目に入れても痛くない」というのがあるが、あいにく無学なわたしは「鼻に入れても痛くない」という言葉はしらない。いやいやいやいや、痛 いだろう。ロバだよロバ。ふつう死にません? それともクシャミしたとたん、鼻の奥からロバが出てきて「なんでもいい。みっつの願いを叶えましょう」とでもいったのだろうか。アラビアンナイトでは王さまの機嫌をとるために、千夜 一夜、さまざまな奇譚を話して聞かせたという。その類いなのかとも思う。だとすれば語り手のシェエラザードはその場でクビを刎ねられていただろう。いずれにしろ、この句は、カフカさえしのぐ不可思議に満ちている。希代の奇句にし て、近代文学の最前衛に位置する作品と思われる。傑作だ。

菅原 春み

特選句「地図に無い駅から始まる新涼」季語の取り合わせが新鮮。特選句「発音のきれいなロボット望の月(伊藤 幸)」ロボットにすべて奪われそうな人間と季語が妙にあう。

漆原 義典

特選句「コオロギが一匹鳴いている奈落」秋の静けさ、もの悲しさをコオロギ一匹鳴くがよく表現されていると思います。また奈落がいいです。

野口思づゑ

特選句「この街に新しき家百日紅」もしかしたら人口が減ってきている街なのでしょうか。そこに将来を見ている家が建築された、百日ずっと紅というサルスベリの漢字を下5に持って来た明るい句です。問題句「余熱で煮えるオ クラのような片思い」面白い発想だとは思うのですが、その程度なら波風もたたず軽い片思いなんだろうと思ってしまった。

藤田 乙女

特選句「何もかも捨てて蓮の実ぽんと飛ぶ」いろいろな煩悩に苛まれ、執着心から抜け出せない日々、このような境地になりたいとおもいました。特選句「しなやかに肌すべらせて秋の蛇(島田章平)」蛇という文字さえも嫌いな私ですが、こ の句には大変惹かれました。

小宮 豊和

特選句「落し文佛にもあるふたごころ(谷 孝江)」ふたごころとは、普通、二人の異性を同時に愛することや、味方や主君にそむく心を言うが、広く解釈すれば、白も黒もとか、相反する事実をそれぞれ、それなりに理解するとか、社会現象 にもあてはまると考える。作者は、ふたごころが佛にもあるという。佛智あるいは神智を人智をもって推定し、ずばり断定したわけである。ここがおもしろい。ほんとうにそうであるかそうでないかは、俳句では関係ない。作者がそのよう に確信し、読者がそれなりに納得する。それでいいのだと思う。

田中 怜子

特選句「行間をはみ出す叔母です秋暑し」この叔母さんはどういう人なのか、興味深々。特選句「朝のカフェカシミヤセーター同じ色」一寸気取って、こんな朝もいいですね。多分、1人で来たのかきちんとした日常を大事にする 人の生活。

高橋 晴子

特選句「最中ほどの父の針箱小鳥来る」父上の性格や親子関係に好感がもて、表現が適切でうまい。問題句「人信じねば生きられずコオロギよ(谷 孝江)」言葉だけに終って具象化が欲しい。「コオロギよ」も、今ひとつ、上五、中七に対し て感覚が冴えないような気がする。

野﨑 憲子

特選句「いまは月あかりはあなたの声」真清水の滴りのような、清新な風の囁きのような一句に立ち止まった。作者は、人間を超越しているのかも知れないと、おもった。破調の調べの見事さ。大いなるいのちの、荘厳なシンフォ ニーがこの句から流れてくる。問題句「草いきれ鼻の奥にロバがいて」とても惹かれた句である。ロバの、蒸した麦藁のような鼻息が、行間から伝わってくる。一読、「鼻の奥にロバ??」この意外性が、素晴らしい。どちらも、創作意欲 を喚起してくれる作品である。拙句「そばにゐて風になりたいすすきかな」の表記に付いて、文語表記にするなら「なりたい」は「なりたき」であるべきだというご指摘を受けた。まったくその通りなのだが、今回は、敢えて混雑のまま出 させていただいた。こういう作品も可とする句会でありたい。日本語もまた、生きものであるとおもうのだが、如何?

熊谷市のデパートで、創業記念企画展「金子兜太と金子家の俳人たち」がありました。企画プロデュースは、時田幻椏さんと言う金子先生の母校熊谷高校の後輩の俳人です。「海程」には属さず金子先生に師事し、独自の発想での展示 がとても新鮮でした。時田さんが送って下さった企画展の映像アドレスです。 https://youtu.be/3S3u1yCmOcM  ご覧ください。見所満載で、中でも、先生の近影と、横書きの色紙の「ありがとう」の文字が圧巻でした。「海程」香川句会も 、一回一回の句会を大切に、ますます多様性を帯び、熱く渦巻いて参りたいです。ご参加の皆様、今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

朝顔
朝顔の紺にこと寄せ娑婆を去る
男波 弘志
朝顔や江戸っ子三代無一文
島田 章平
日輪に海が従う朝顔も
田口  浩
朝顔や音楽室に温度計
藤川 宏樹
黒猫の消えた窓より月の指
島田 章平
星月夜人も来ぬのに粧ふて
中西 裕子
笹持ちて月を仰ぎて詠み狂ふ
山内  聡
ロッジまで月白に入る食足りて
河田 清峰
アスファルト道路へ寝っ転がって三日月
野﨑 憲子
月入れて鏡合せることすなる
柴田 清子
釣瓶落し
鴉の群れ北へと釣瓶落しかな
山内  聡
ジャズ始まりて異人坂の釣瓶落し
三枝みずほ
人生も釣瓶落しとなり嗚呼
鈴木 幸江
山中の迷子に釣瓶落しかな
小宮 豊和
無患子
先生はメモ魔わたしは無患子に書く
野﨑 憲子
ずぶ濡れで膝を抱えてむぐげの実
銀   次
無患子や風の弔ふ小町塚
島田 章平
無患子や海が見たいと叫ぶ人
鈴木 幸江
無患子の実や絶食は辛かろう
田口  浩
無患子やあたたかそうに数珠置かれ
男波 弘志
バッタ
来生はバッタのごとくはねて生く
中西 裕子
レットイットビー思い切り遠くへバッタ
柴田 清子
いちにちの出来事話すバッタかな
三枝みずほ
はたはたや航空路避け着地せる
河田 清峰
解のなき犬とバッタの関係式
鈴木 幸江
曼珠沙華
曼珠沙華融通の利かぬ私です
藤川 宏樹
山姥に誑かされし曼珠沙華
河田 清峰
師はいつも風を観てゐる曼珠沙華
野﨑 憲子
唐突に地より湧きけり曼珠沙華
小宮 豊和
曼珠沙華長寿眉が邪魔なのだ
田口  浩
曼珠沙華詩の行間のこわれそう
男波 弘志
球根をいただき白の曼珠沙華
山内  聡
曼珠沙華空中都市の道の端に
銀   次
返り花
帰り花裏木戸に陽の差して
柴田 清子
返り花手紙を書いて又出さぬ
中西 裕子
後から時間が迫まる返り花
田口  浩
返り花ならんと小さく喘ぐ花
鈴木 幸江
返り花夢のなごりは水の中
三枝みずほ

【通信欄】&【句会メモ】

本句会の仲間、月野ぽぽなさんの『人のかたち』が今年の角川俳句賞を受賞しました。おめでとうございます!「海程」終刊へ向けて大きな華が開きました。ニューヨークから世界最短定型詩の女神としてますますのご健吟とご活躍を祈念いたします。

安西 篤さんからのお葉書から~このところ多忙と夏バテが重なり、どうにも頭が働きませんが、香川句会報に励まされる思いで選だけしてみます。【☆】男滝女滝内ポケットに知らない鍵(伊藤 幸)」虹は空の美しいかすり傷です (月野ぽぽな)」「難聴や玉音はもう玉虫の羽音(若森京子」【◎】「地にしみる朝蟬シリアの子の黒眼(野田信章)」「銀蝿唸る忠治の役者眉太し」「原液はあまりに素直秋の蛇(野﨑憲子)」【○】「蜘蛛ずもう集金鞄抱いて見る(三 好つや子)」「青榠樝若き空海立つごとし(高橋晴子)」

台風接近中の雨の中、会場、ほぼ満杯のご参加で句会は始まりました。事前投句の合評では、「赤トンボまた先生を泣かせたか」の句に、会場に居た作者もびっくりするような様々な鑑賞や、論争が展開し、句会の醍醐味を満喫しまし た。続く<袋回し句会>も、緊張の中に笑い声の爆発する充実した楽しい句会となりました。<袋回し句会>は、掲載の快諾を戴いた方のみの作品です。

Calendar

Search

Links

Navigation