第66回「海程」香川句会(2016.10.15)
事前投句参加者の一句
猟師も医師も畑の仲間鰯雲 | 稲葉 千尋 |
いただいた新米は先ず神様へ | 髙木 繁子 |
わが襤褸も萩のこぼれも夕闇に | 若森 京子 |
むかごよむかご口喧しい副校長 | 小山やす子 |
手を挙げるスタートライン秋の空 | 河野 志保 |
木犀やひらがなだけの恋の文 | 菅原 春み |
水玉はさびしい模様秋の水 | 桂 凛火 |
このからだ熟柿のようだな一乗寺(いちじょうじ) | 古澤 真翠 |
秋彼岸路地の奥まで夕日さし | 田中 怜子 |
鉛筆の円き痛みの団栗よ | KIYOAKI FILM |
若冲の鯨はがねの海がある | 大西 健司 |
草に寝て鹿の声よりかなしきもの | 小西 瞬夏 |
冤罪の歴史や真白彼岸花 | 町川 悠水 |
あ今の流星あなたの筆圧 | 月野ぽぽな |
黄葉舞うピアフ好きらは楽天家 | 重松 敬子 |
蓑虫は霊眼にして虚無僧 | 増田 天志 |
ないしょだよポッケの通草はい母さん | 寺町志津子 |
笙篳篥笛羯鼓琵琶箏爽秋(しょうひちりきふえかっこびわそうそうしゅう) | 野澤 隆夫 |
茹で栗のはじけて観音日和かな | 野田 信章 |
沖明るし蔓荊の実を扱きをれば | 高橋 晴子 |
母の夢霧笛で目覚める遠き朝 | 中西 裕子 |
小鳥来るパン工房の未亡人 | 夏谷 胡桃 |
ひとつ風呂浴びに行きたや枯れ案山子 | 藤川 宏樹 |
栗甘煮トロトロ優しさ戻るまで | 中野 佑海 |
全国にうどんが流れる次は何 | 由 子 |
本籍は多分曼珠沙華の根っこ | 谷 孝江 |
吾亦紅うなじに鬼の潜みをり | 伊藤 幸 |
もう泣かぬ溢れそうです秋の海 | 鈴木 幸江 |
秋茄子のデフォルメやっと気の合う自分 | 野口思づゑ |
台風の泥流母の乳臭き | 竹本 仰 |
ぬくめ酒善知鳥安方(うとうやすかた)はよう来い | 矢野千代子 |
木犀は螺旋の匂い女脳 | 三好つや子 |
てふてふの秋を曳きゆく城の空 | 亀山祐美子 |
秋の雲阿蘇の噴火にゃ負けんばい | 漆原 義典 |
松虫草阿蘇累卵の村に住み | 疋田恵美子 |
生まれ出てあとずさりする蝉の穴 | 河田 清峰 |
間違ひを認めたくない夜が長い | 柴田 清子 |
考える葦は無力や秋の阿蘇 | 藤田 乙女 |
大丈夫か完璧すぎる秋の空 | 三枝みずほ |
鳥渡るワンウェイチケット握りしめ | 銀 次 |
風のコスモス無になる前に帰り来よ | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 藤川 宏樹
特選句「大丈夫か完璧すぎる秋の空」52年前の東京オリンピック開会式、アナウンサーが「世界中の青空を全部持ってきたような秋日和」の一説が浮かびました。ブルーイン パルスが描く五輪、白鳩が舞う青空はまさに「完璧すぎる秋の空」。4年後の東京の空、大丈夫か?
- 中野 佑海
特選句「蓑虫は霊眼にして虚無僧」江戸時代、虚無僧が筒の様な網傘を被り体に白い装束を付け、風に任せて、托鉢をしている。そう言われたら、あの蓑虫の飄々とした生き様 。なるほどそっくりだと思います。その上、霊眼ときたら、そりゃあ時代劇の見すぎじゃあござんせんか?兄さん!特選句「本籍は多分曼珠沙華の根っこ」あーら、ご免なさいね、私 の言ったことでそんなに誰かを傷付けてしまうなんて。つい思ったら口から出てしまうの。私の中身は毒で出来ているのかも。まるで曼珠沙華の根っこのようにね!!本当に毎回楽し くウィット溢れる作品に出会え、大満足です。笑い皺が増えました。海程香川句会万歳!チアー
- 野澤 隆夫
特選句「 むかごよむかご口喧しい副校長」相当叱られてる。むかごよむかごと呪文の如く唱えてる風景が浮かびます。むかご大好きの友もいますが…。校長ではなく、副校長 が面白いです。特選句「 黄葉舞うピアフ好きらは楽天家」:『愛の讃歌』、『ばら色の人生』のエディット・ピアフと黄葉の取り合わせがいいです。数奇な運命の彼女だったようです が、絶唱する彼女の歌は最高。今、FMで録音のピアフとペギー・リーを聴きつつ選句してます。問題句「青布背負うヒラリー啼かぬ鶏頭花(藤川宏樹)」何のこと?…?何回か読ん でるうちに、ああそうか、「青布背負う」は星条旗なんだと。大統領候補のヒラリーさん讃歌かな…?問題句撤回し、秀句です。今、ピアフの『パダン、パダン』が力強く流れてます 。
- 大西 健司
特選句「ハッタリにも根っこのありぬ十三夜」なかなか「ハッタリ」などという俗な言葉は詩にそぐわないものだが、根っこがあると断定し、しかもそれが十三夜のこととなる と俳句として成立する。全体に目の付け所はいいのだが、もうひとつ消化しきれていない句が多いとの思いがあるだけに、この句の心地よさがより響く。
- 矢野千代子
問題句で共鳴句「草に寝て鹿の声よりかなしきもの」結語の「もの」に具体性があればきっと上位に…。特選句「あ今の流星あなたの筆圧」:「あ」の一文字がこれほどに効果 的とは…作者の一瞬の感受を思いにのせてたっぷりと伝える。
- 増田 天志
特選句「ファシズムや土間に竈馬(いとど)のうすけむり(若森京子)」社会性かつ詩情豊か。丸山真男の研究を想起させる。
- 河田 清峰
特選句「大丈夫か完璧すぎる秋の空」完璧?安全?という言葉の不確かさを感じます!原子炉の崩壊 軍隊持たない平和憲法の自衛隊 秋の空のようです。
- 竹本 仰
特選句「あ今の流星あなたの筆圧」三島由紀夫の「美徳のよろめき」だったか、恋をしているもの同士では、もっとも平凡な言葉がもっとも感動させるというのはたしかに真理 だ、という一節があったように思います。万葉集の東歌「信濃なる筑摩の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ」、あなたが踏んだならその小石はもう宝石、とおんなじですね。もうあ なたの筆圧さえ永遠の瞬きに似て、というのでしょうか。恋の美味というところでしょうね。特選句「茹で栗のはじけて観音日和かな」:「めでたい」という言葉は「愛(め)で」+「 甚(いた)し」と合わさったもので、何が何だかひどく愛すべき事態ということのようで、「おめでたい人」は言語を絶した脳天気なやつ、という揶揄に値するくらい幸せなという意 味合いさえつくようです。このくらっとさせるほどの幸せ感が、「観音日和」でしょうか。何でも世界がクリアーに見通せて、すべてのひそめきでさえ耳にできる、そんな万能感あふ れる秋晴れのようすを想像させます。それも、茹で栗のはじけた甘味ただよう空気の中で。このめでたさ、いいですね。問題句「木犀は螺旋の匂い女脳」これは、女の人の作ではない なと思ったのですが、どうでしょう?もし、女の人の作なら、いやいやそうではないよと言いたいし、男の人のなら、作りすぎと思う。たしかに「女脳」という言い方は魅力的ではあ るけれど、こういう納得の仕方というのは、類型的なんではないかと危惧するしだい。
- 若森 京子
特選句「このからだ熟柿のようだな一乗寺(いちじょうじ)」一乗寺は西国三十三所の第26番の札所だが、参拝者が熟柿のようだとの措辞がぴったりで好きでした。特選句「蓑 虫は霊眼にして虚無僧」まず、深編笠を被った虚無僧と蓑虫の類似に感心した。首に袈裟をかけ銭を乞うて行脚する僧と風に吹かれるまゝぶらさがっている蓑虫はきっと無にして有の 霊眼を持っているのではと思はせる風体をしている。
- 柴田 清子
特選句「栗甘煮トロトロ優しさ戻るまで」とってもいい句に出逢えた十月の句会でした。この句の作者はきっと優しい人なんだ。100パーセント優しさの足りない私には、こ の句特選として響いて来ました。「草に寝て鹿の声よりかなしきもの」生きていると言ふことも、うれしいことも、楽しいことも、もしかしたら、かなしきものの一つかもしれない。 ね。誤読●の銀次さんが、地獄の三丁目三番地まで旅したとか?その後体調はいかがですか。銀次さんのいない香川句会は空蝉のやう。私は時々欠席しているけれど、銀次さんは欠席 しないで!
- 小西 瞬夏
特選句「水玉はさびしい模様秋の水」:「水玉模様」は定番のかわいい模様である。また、草間弥生さんの作品になればある種の狂気でもある。リズミカルに並ぶ大小さまざま な丸い形。このポップな模様が「秋の水」と取り合わされることで「さびしい模様」となり、水玉模様の見逃されがちな一面を発見させられる。
- 三好つや子
特選句「ファシズムや土間に竃馬のうすけむり」 勝手口に音もなく群れている竃馬のように、ファシズムが煙のごとく広がる現代の危なっかしさに共感。特選句「間違ひを認 めたくない夜が長い」認めたほうがすっきりするけど、やっぱり認めたくない。そんな作者のこころの遠吠えが聞こえてきそうな句に、惹かれました。問題句「柘榴の実ふふふ、ふふ ふと英語塾(谷 孝江)」特選に近い句です。ふふふというのは、WHOのことで、これを連発する英語塾が目に浮かびました。でも、上五の柘榴をどう捉えたらいいのか、うまく鑑 賞できませんでした。
- 古澤 真翠
特選句「 間違いを認めたくない夜が長い」:「い」をリズミカルに使っていながら作者の素直な気持ちが表現されていて、「そうだね?。すぐ認めれば良かったね?。」と声掛け したくなるような微笑ましい句。
- 野田 信章
問題句としての「ひとつ風呂浴びに行きたや枯れ案山子」は中句までの修辞に賛同。案山子さんとのひとつ風呂なんて乙なものだと思わせる意外性に諧謔味がある。そこに、に んまりとしつつも「枯れ案山子」では、凝りすぎて興醒めとなる。せめて「破れ案山子」くらいに納めてもらいたい。あと、「本籍は多分曼珠沙華の根っこ」「秋茄子のデフォルメや っと気の合う自分」の「曼珠沙華の根っこ」「秋茄子のデフォルメ」の題材の把握に注目した。これが如何なる句の結実となるか期待したいところである。
- 月野ぽぽな
特選句「台風の泥流母の乳臭き」恐ろしく厄介な台風とそれによる泥流、それが「母の乳臭」いということで、その泥や土に含まれた豊かな栄養が浮かび上がり、人間の負の感 情や人間が経験する痛みを超越したところで働く自然の恩恵の姿がみえてくる。
- 中西 裕子
特選句は「 尻あげて歩けば文化の日なり(三枝みずほ)」の句です。足あげてでなくて尻あげてっていうのが斬新というか深い意味があるのか気になる句でした。「目を閉じ て金木犀に迷い込む(河野志保)」の句も、目を閉じても存在感のある金木犀。好きな花です。秋を感じる句が満載で、わくわくしました。
- 疋田恵美子
特選句「猟師も医師も畑の仲間鰯雲」:「畑の仲間鰯雲」いいですね。気の合う異職仲間で休日菜園を楽しんでいる知人が居ますが、畑の隅に小屋を造り冷蔵庫を入れとても楽 しそうです。特選句「草の実飛ぶ嫌われものでいたらいい(桂 凛火)」ちっと嫌われものさん!個性があっていいではないですか!自己愛が強く根は優しく、仲間付き合いがちょっ ぴり下手なお方でしょうか。
- 鈴木 幸江
特選句評:「小鳥来るパン工房の未亡人」私の読みは、夫を亡くし孤独をひしひしと感じながらもパン工房を営んでいる未亡人と、小さな体で逞しく渡りをする小鳥たちの存在 が、同じ地球で起きている現象であるのだという解釈だ。その不思議さと当然をこの句は詠んでいる。そして、どちらも愛おしい生き物の営みとして表現されているところにとても好 感を抱いた。問題句評:「鉛筆の円き痛みの団栗よ」まず、感性のみで鑑賞した。団栗の絵を描いているのか。鉛筆の先が円いのが痛いと言う、団栗が円いのが痛いと言う。それから 、少し深読みをした。円いことは、痛みを伴うことなのだ。尖って居た方が傷つかないかもしれないと言っているのかもしれぬ。まあ、どちらにしても、読みに自信がないのだが、新 感覚を感受した。
- 小山やす子
特選句「わが襤褸も萩のこぼれも夕闇に」雰囲気がいいです。「風のコスモス無になる前に帰り来よ」切なくてなんとなく好きです。
- KIYOAKI FILM
問題句「青布背負(せいふしょ)うヒラリー啼かぬ鶏頭花」鶏頭花が良かった。今年のアメリカ大統領の選挙演説、悪人としか見えぬトランプ、スレたイメージのヒラリー。予選 の好感爺。それらを見てきた作者の一句。さて、大統領はどちらになるのか?特選句「手を挙げるスタートライン秋の空」新学期の学校の教室かと思う。秋の空がいい。爽やかで若い 句。純真な心が伝わり、少女のイメージ、女性を感じる。
- 重松 敬子
今回も、個性的な句が多く、楽しみでした。一度、皆様にお目にかかりたいと思っているのですが、なかなかチャンスがありません。こうやって、面識のない方々の心にふれる ことが出来るのも、俳句の醍醐味かもしれません。特選句「若冲忌絶望という絵筆待つ(桂凛火)」この句は、多岐にわたる鑑賞が可能と思われる。生前は評価が低く自分は生まれてくるのが早 すぎたと、無念がったと伝えられている若冲そのものを詠んだ句と受け取った。その絶望の中から、次々と素晴らしい作品を生み出して行った若冲の苦悩と悦びがつたわってくる。/P>
- 田中 怜子
今までだと、「あ今の流星あなたの筆圧」には目が向かなかったと思うが、大きな空を前にして、筆圧を思うのが面白い。「蓑虫は霊眼にして虚無僧」 蓑虫、虚無僧ねーー。 霊眼、目があったかしら。
- 漆原 義典
特選句「考える葦は無力や秋の阿蘇」は、阿蘇の噴火を前にして人間は無力であることを、悲痛に表現していると感動しました。考える葦としている上の句がすばらしいです。
- 夏谷 胡桃
特選句「草に寝て鹿の声よりかなしきもの」このところ鹿が良く鳴きます。繁殖期だから雄が雌を呼ぶ声だとも聴きます。それにしても、夜の鹿の声やキツネの声はなぜ悲しく 聞こえるのでしょうか。彼らは悲しくて鳴いているわけではないのに。夜の闇を忘れてしまった私たちの心の奥の闇を思い出させるからかしら。そうして、鹿の声より悲しいものは真 実のかけらもない人間の言葉。嘘や虚飾に慣れてしまった私たちなどと考えます。鹿の声で一句作りたいと思いながら、作れないでいたので感心した一句です。
- 稲葉 千尋
特選句「ないしょだよポッケの通草はい母さん」なつかしい句だね。採って来た通草を母に差し出す子供、通草のある所は人には教えないものだ。特選句「秋の雲阿蘇の噴火に ゃ負けんばい」大地震に阿蘇の噴火と熊本はふんだり蹴ったりです。それでも「負けんばい」と熊本人の強さを感じます。
- 寺町志津子
特選句「良夜かな壊れてしまった姉を抱く(若森京子)」小さい頃から何かにつけてずっと頼りにし、何でも姉に倣い、憧れの思いで接してきたしっかり者の姉。かつては、自 分の庇護者であった姉。知的で美しい姉は友達にも自慢であった。あろうことか、その姉が認知症になり、とうとう作者のことも正しく認識できず、母と思い込んで甘えてくるように なってしまった。そんな今の姉がとても愛おしく、思わず抱きしめた。折しも月が明るく美しい満月の夜。と想像が膨らみ、作者の姉への愛情がひしひしと伝わってきて、いただきま した。
- 三枝みずほ
特選句「ミステリー始まるように黒揚羽(寺町志津子)」ミステリーという表現だから、黒揚羽に艶がでて、暗くならない世界観。謎めいた物語の始まりを告げる黒揚羽の舞っ ている姿が想像力を掻き立てます。特選句「風のコスモス無になる前に帰り来よ」風のコスモス、爽やかで可憐でいいのですが、がんばりすぎて全てを失う前に、帰る場所があるよと 言ってくれているような穏やかな心持ちになりました。
- 伊藤 幸
特選句「わが襤褸も萩のこぼれも夕闇に」襤褸が物質的なものか内面的なものか句意は分からねども、謙遜の中にどこか自負のようなものが見え隠れし、そこが妙に魅力。萩の こぼれの措辞が美しい。特選句「生まれ出てあとすさりする蝉の穴」この世に生を受けたからには前だけを見てポジティブに生きて欲しいというのは人間に限らず生き物全てに対する 希望であるが、時として己もそうであるようにネガティブになる。誰かに背中押して欲しい時も…。蝉の穴が効いている。
- 亀山祐美子
特選句『良夜かな壊れてしまった姉を抱く』優しさに溢れた良句だとは思いますが、いっそ「壊れてしまった」を「壊れちまつた」ぐらいの捨て鉢感じがあったほうが人間臭く て奥行きのある句になるかと思います。おもしろい句は沢山ありましたが、作者の気持ち、思いの丈がほとばしり過ぎて引いてしまいました。読み手の想像力を喚起させて下さる句が 好きです。
- 銀 次
今月の誤読●「倶利伽羅紋々うしろで吠える稲の花(三好つや子)」。ご承知のとおり、「倶利伽羅紋々」というのは刺青のことである。それも近ごろのタトゥーなんて軟弱な ものではなく、背中一面に本彫りで入れた日本の伝統芸術である。高倉健の「日本残侠伝シリーズ」では健さんが背負っているのは唐獅子の図柄だ。主題歌では「背中(せな)で吠え てる唐獅子牡丹」と歌われ、われわれ世代の者は健さんの男のフェロモンにうっとりしたものである。もっともこの句では背中ならぬ「うしろで吠える」のだが、これがなんと「稲の 花」なのだ。意表を突くという言葉があるが、かほどに意表を突かれたのは久しぶりである。言い忘れたが、倶利伽羅紋々は隠す芸術でもあるのだ。まあ祭りなどでは六尺ふんどしに 半裸で見せびらかしたりもするが、本来は人並みの人生からはぐれたやくざ者が外道としての生き方をキモに命じるために背中に隠し持っているアイコンなのだ。だからそんなものを チラつかせて人を威嚇するなどは本来のやくざ者からすれば邪道中の邪道であるのだ。健さんの映画でも敵に背中を切られ、ハラリ、着物の下から唐獅子が現れるから色っぽいのだ。 さて、では唐獅子と対極にあるような稲の花が何故うしろで吠えているのか。まず稲だが、これは古来農耕民族である日本人には欠くことのできない「いのち」の象徴ともいうべきも のである。そしてその花は小さく可憐で奥ゆかしい。作者はおそらくここに日本人の美を見たのであろう。唐獅子もいいだろう。阿修羅像もいいだろう。だが日本人なら「稲の花」を 彫れ。その気持ちはわからぬではない。だが言わせてもらえば、それだと映画にはなりません。だいいち高倉健が稲の花の代紋を背負って登場すれば、敵方はあっけにとられ戦意喪失 となるだろう。あ、無手勝流か。それもありか。いや、ないない。
- 河野 志保
特選句「流星はとっても気まぐれな空輸(月野ぽぽな)」 口語の軽やかなリズムに惹かれた。まさに流星。キラリと心に飛んで来た。的確な把握で洗練された表現だと思う。
- 桂 凛火
特選句「わたくしの夜の淵まで芒原(小西瞬夏)」不思議な世界です。まず私の夜の淵という表現に心が掴まれてしまいました。自分の夜の淵は時間なんだろうか空間なんだろ うか。そして淵まで芒原が実景ならば、空間で心象風景としては暗い寂しいでも芒原は、実は多くの種が実る豊かな空間だとも。とすれば、寂しいというよりは豊かな静けさ、でも「 昏い」見通しがきかない場所、または時間に浸食されそう、うずもれてしまう不安のような・・そんな世界をかんじました。ということでとても想像力が掻き立てられ共鳴できる句で す。あえていえば問題句は「笙篳篥笛羯鼓琵琶箏爽秋(しょうひちりきふえかっこびわそうそうしゅう)」ですが、これはよく工夫されて いていいと思います
- 藤田 乙女
特選句「 手を挙げるスタートライン秋の空」 澄み切った秋空の中、運動場の観客の視線を一身に浴び、競技がスタートする瞬間の緊張感が伝わると共に、白の体育着と空の青 さが目に浮かび、心の中を秋風が吹いていくような爽やかな俳句だと思いました。特選句「茹で栗のはじけて観音日和かな」この俳句を読むと心がとても穏やかになっていくような気 持ちになりました。日々の日常の生活と自然の恵みのありがたさを感じました。
- 町川 悠水
7泊8日の犬同伴の長距離ドライブ旅行は、古稀も近い吾輩には、もはや限界と思い知らされる帰宅となりました。その帰宅後に待ち受けているのは選評とわかっていながらも 、おつむは熟し柿のよう。もう、一杯ひっかけて寝るに限ります。
- 菅原 春み
特選句「 鳥渡る真空管の薄あかり(増田天志)」しみじみとした秋の景色が目の前に 広がります。特選句「良夜かな壊れたしまった姉を抱く」季語によって、作者も姉も救わ れほのぼのとした景に。改めて季語の重みを知りました。
- 高橋 晴子
特選句「若冲忌絶望という絵筆もつ」若冲の描いたものをかんじていると何故ここまで繊細で大胆な表現が出来るのか、新しい技法を思いつけるのか、その人間性に興味をもつ 。「絶望という絵筆もつ」に強く共感させられた。俳句でも同じことがいえるのではないか、とふと思った。特選句「松虫草阿蘇累卵の村に住み」累卵という言葉を初めて知った。昔 、初めて出会った松虫草の感覚を思い出しこの句の中で、松虫草が効いていると思った。うまい句だ。問題句「青桐の裂けよう広島の覚悟かな(小山やす子)」むつかしいことを云お うとする態度には好感をもつが「広島の覚悟」で通じるかどうか、私にはよくわからない。:十四日夜から十八日迄福島へ行ってきました。短大の友達六人でジャンボタクシーで三日 間、東山温泉、高湯温泉等。天気がよくて気持ちよかった。返ったら、又、元の暮らし。しっかりしろ、と思っています。
- 野﨑 憲子
特選句「猪がねぐらをつくる母の山(河野志保)」私の毎朝歩く散歩道にも里山があり猪が棲んでいる。猪にも、団栗にも、コスモスにも、人類にも母なる山の存在がいのち。 すっきりと、一番大切な事を表現していて惹きつけられた。問題句「全国にうどんが流れる次は何」思わず・・それはネ「海程」香川句会発の俳句!と言いたくなるようなナイスキャ ッチフレーズ。自由で、気合が入っていてとても好ましいのだが、詩とは言い辛く「おっとっと」感も少し。そこで拙句の登場・・「ハッタリにも根っこのありぬ十三夜」オソマツ! 多様性は俳諧の華!来月も、様々な彩りの作品を、待ってま~す。
袋回し句会
稲刈り
- 頭垂るバンザイ軍団刈り取らる
- 藤川 宏樹
- 稲刈りや波の向こうに遍路こぐ
- 中野 佑海
- 右へ左へ卒寿のばあちゃん稲を刈る
- 三枝みずほ
- 稲刈って明日お嫁に行くことに
- 柴田 清子
自治会長
- 鉦叩威勢が売りの自治会長
- 中野 佑海
- 自治会長なってもいいかも良夜かな
- 鈴木 幸江
- 月高く自治会長に無精ヒゲ
- 藤川 宏樹
- おーいここだ!アンパン食べる自治会長
- 野﨑 憲子
市場
- 魚市場さやけし捌きの鼻歌す
- 中野 佑海
- 秋の日や市場に流るホルンソロ
- 野澤 隆夫
- 秋風の吹くや市場の昼下がり
- 銀 次
- 火恋し心の闇のぬぐえずに
- 柴田 清子
- 蟹歩きで秋の闇より逃げる
- 三枝みずほ
アンパン
- 心にはいつもあんぱん小鳥来る
- 三枝みずほ
- アンパンを割れば吹きくる秋の風
- 銀 次
- 風に吹かれてアンパンマンの子守歌
- 野﨑 憲子
榠櫨(かりん)
- 榠櫨の実正直者が損をして
- 柴田 清子
- 吾に似し親父いかつき榠櫨の実
- 河田 清峰
- たわわなるカリンの果実その苦さ
- 銀 次
- 風やんでぶるんと榠櫨の実うごく
- 野﨑 憲子
後の月
- 後の月言ひたい事あつたのに
- 柴田 清子
- 後の月お金持たずに暮らしたい
- 鈴木 幸江
- すなはらの砂に吹かれて後の月
- 河田 清峰
秋深む
- ボール禁止の公園静かに秋深む
- 中野 佑海
- 秋深し息の絶えたるナナカマド
- 銀 次
- 余白とふ遊びの時間秋深む
- 野﨑 憲子
- 約束を破る音して秋深む
- 鈴木 幸江
- クシャくしゃくしゃくしゃ秋深みけり
- 三枝みずほ
句会メモ
句会が始まるほんの少し前のことです。鴨部川で鷹柱を見たというご主人の描いた鷹の絵を、鈴木幸江さんが愛おしむように見せてくださいました。そこに登場した野澤さんが、「鴨部川で観られるとは!鷹柱の可能性も有り。」と、いつもの野澤スマイル。野澤さんは、元日本野鳥の会のメンバーだったそうです。香川では、紫雲出山が、鷹柱の見物スポットということです。栗林公園での野鳥の会の活動の事も教えてくださいました。野澤さん、感謝です!!
投句の折、「急性動脈瘤発症。九死に一生を得て、どうやら生き延びました。2週間の入院生活。禁煙が辛くって辛くって。」とのメッセージがあった、銀次さんが、句会が始まってしばらくして登場なさいました。句会の始まりに、ご参加の皆様に話していましたので、銀次さんのお顔を見るや、あちこちから拍手が沸き起こりました。銀次さんも嬉しそうでした。本当に、元気になられて良かったです。柴田清子さんのメッセージにもありましたが、銀次さんの作品や<今月の誤読>無しの、本句会は考えられません。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。禁煙・・・続けてくださいね。
今回は、ニューフェイスの由子さんが、句会の最初からのご参加でした。嬉しかったです。袋回し句会の折は、私は自分の句を創るのに熱中して、由子さんの存在をしばし忘れ、彼女が出句していないことに気付きませんでした。何という世話人でしょう。反省反省です。次回は、気を付けますね。
後程いただいた竹本仰さんのメールの自句自解を皆さまにも・・・☆「台風の泥流母の乳臭き」:9月20日、台風の直撃した時刻、お葬式で火葬場へ向かっていました。すると、最初の信号が既にもう消えていて、これは大変だと思ったのでしょう。霊柩車が、いつものコースを変えて、山道に入りました。見知らぬ山道?こんな近道、あったっけ?だんだん道は狭くなり、対向車とすれ違えないほどの道に。その道を15分ほど走った後、霊柩車がストップ。どうやら道を間違えたようで、合計3台、順に回れ右して、元の道へ。これ、すべて台風の暴風雨の中でのことでありました。そのとき、なぜか、母親の母乳の匂いを感じて。なぜなんだ~?この、泣きながら母乳を飲んでいるような感覚?はい、それが、「台風の泥流母の乳臭き」のもととなった、隣人の老母の葬儀の日の事件でありました。ああ、たしかに、乳飲み子にあって、母乳は泥流のごときもの、有無を言わさぬ宿命づけられた激流にさらされていたのかも。誰にも食い止めることのできぬ激流、これって、生?この迷走にして、この感覚、何なんでしょう?
Posted at 2016年10月25日 午後 02:32 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第65回「海程」香川句会(2016.09.17)
事前投句参加者の一句
秋風を不貞寝し奴の蛻(もぬけ)かな | 藤川 宏樹 |
小鳥来る養蜂業の若嫁に | 稲葉 千尋 |
水曜日のカンパネラ野分兆しおり | 大西 健司 |
月光ノナカノコサレテヰル手紙 | 小西 瞬夏 |
大風のちょうさ祭りや君がいて | 髙木 繁子 |
白桃を噛むオフィーリアの耽美かな | 疋田恵美子 |
木陰より覗く猫の目鰯雲 | 菅原 春み |
アフリカの乳房に流れ雨の粒 | 夏谷 胡桃 |
打水にかそけき秘境蝶尿る | 三好つや子 |
ダリアよりすこし淫らに口ひらく | 月野ぽぽな |
締め切りの期限に追われ秋茜 | 古澤 真翠 |
手放した楽器鳴ります十三夜 | 三枝みずほ |
紫蘇もんで平らに寝落つ自然なり | 矢野千代子 |
手の中に何にもないのお月さま | 柴田 清子 |
子落ち葉拾う親を泣かせて雲が往く | KIYOAKI FILM |
水蜜桃暮らし話せば口荒し | 桂 凛火 |
朝の蛇老躯快心ストレッチ | 町川 悠水 |
無印のやうないち日小鳥くる | 谷 孝江 |
日盛りに中島みゆき檄飛ばす | 野澤 隆夫 |
窓開けよ九月のくうき洗い立て | 野口思づゑ |
砂蟹の残せし秋の曼陀羅図 | 河田 清峰 |
微量なる毒薬欲しき雨月かな | 重松 敬子 |
特攻花とう薄黄の唇よ | 野田 信章 |
永遠は蟻を見ていた頃の時間 | 河野 志保 |
鬼やんま風の向かうに山ひとつ | 亀山祐美子 |
新涼や肩をすべりし肌襦袢 | 藤田 乙女 |
茄子胡瓜行水の子のはち切れる | 中野 佑海 |
恋は秋色織りなす繊手思うままに | 由 子 |
薄味で粋に生きるって夏落葉 | 若森 京子 |
鬼虎魚(おこぜ)本気になって嘘を付く | 鈴木 幸江 |
虫の音の伽藍に埋む我が街や | 田中 怜子 |
青鷺にボクサーにさびしい銀河 | 伊藤 幸 |
刈田風老女の背筋ピンと伸び | 漆原 義典 |
穴惑いせし蛇どちは寝言いう | 寺町志津子 |
曼珠沙華そげんにウチば憎とかね | 増田 天志 |
青空ヲ撃ツキラキラト鶏頭 | 竹本 仰 |
熟れきれぬ柿の実落ちる片恋よ | 中西 裕子 |
紅ひくや西日のをんな四畳半 | 銀 次 |
無言劇百有り夜のかたつむり | 小山やす子 |
何せむと山芋買ひ来誕生日 | 高橋 晴子 |
大いなるお尻が坐る花野かな | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 中西 裕子
特選句「鬼やんま風の向かうに山ひとつ」で鬼ヤンマの力強さと山の対比、大きな句だと思いました。「晩夏光鋳物屋ストーブのみ造る(伊藤 幸)」の晩夏光もストーブのみ作るの、一途さが好きです。「朝の蛇老躯快心ストレッチ」の朝の蛇も縁起がいいのかな、気持ち良くストレッチして清々しい感じがしました。久々連月参加。袋回しでも知らないことばがたくさんでて、皆様の教養の深さに驚くばかり、またまた勉強になりました。
- 大西 健司
特選句「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」方言俳句の難しさは重々承知しているが、この句は成功している。実に味があり、読み手それぞれの物語が広がる。映画のワンシーンのようだ。
- 野澤 隆夫
今月の句会用紙の書体が読みやすいです。特選句一選「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」上五と中七、下五が軽妙に呼応。尾崎士郎の『人生劇場』青春編、五木寛之の 『青春の門』筑豊編、石川さゆりの演歌?ボソッとしたつぶやきみたいで面白いです。ニ選「鬼虎魚本気になって嘘を付く」鬼虎魚と嘘を付く人の、それも本気でつく人との取り合わせがなんともユーモラスです。今月の句会翌日、「海程」香川句会のブログ掲示板で案内のあった墨華書道展の解説を聞き「九月尽甲骨木簡心旅(漆原義典)」もなかなか情緒があるかなぁ…と思いました。
- 伊藤 幸
特選句「秋風を不貞寝し奴の蛻かな」漢字の魅力、中身の諧謔、全てサクセス! 何でもないてば何でもないに兎に角面白い。 特選句「月光ノナカノコサレテヰル手紙」句意はどうであれ、これまた片仮名の成功例。戦死した兵の手紙か、はたまた恋文か定かではないが内容は重い(気がする)。月光と手紙の漢字が句を浮き立たせている。
- 漆原 義典
特選句「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」はすぐに特選句にしました。表現されている内容は強烈ですが、熊本弁と思われる会話調とうまく調和され、ほんわかな気分となりました。会話をうまく使い表現されている素晴らしい句だと思い特選句とさせていただきました。感動をありがとうございました。
- 増田 天志
特選句「手の中に何にもないのお月さま」天国の門の狭さよ月今宵。
- 中野 佑海
特選句「秋風を不貞寝し奴の蛻かな」ちょっと世を拗ねて、不貞腐れて夏を怠惰に過ごしたけど、もう良いか!秋風も吹き始めたし一丁ここは何か事をはじめてやるかな。頼もしいあんたに戻って良かった!!言葉の並びが面白かったです。特選句「永遠は蟻を見ていた頃の時間」蟻がパン屑や小さい虫の死体を営営と運ぶ様子を飽きることなく見ていた幼き頃、自分の命に限りが有るなんて、考えた事もなく、誰かに邪魔をされることも無き、夏の1日。私がこの世の中心にいた頃。この緩き時が永遠に続くと思っていた小さい時を思い出しました。
- 鈴木 幸江
特選句「曼殊沙華そげんにうちば憎とかね」曼殊沙華を主人公の擬人法の句として読んだ。この花は、毒があるとか、お墓の傍に咲いているとかで、あまり縁起のよくない花としてイメージされている。でも、それは勝手に人間が思っていることで、天然である曼殊沙華にしてみれば、どうでもいいこと。こんなセリフで応戦したくなる気も分かる。私も、このセリフ一度句会で使ってみたいものだ。問題句「幾万の玄き目月と黄みがかる(藤川宏樹)」実は、自句自解を承ってしまった。私の解は、少し心に傷を持つ人びとの玄い瞳がたくさんあり、そこに、黄みがかってゆく月が映り込んでゆく風景を思い描いた。どこか、狂気を帯びてゆく夕暮れ時が感じられた。そのためには、「月と」が「月に」の方がいいように思った。
- 夏谷 胡桃
特選句「無印のやうないち日小鳥くる」:「無印のような」が少し既視感がありましたが、「小鳥くる」でいいいなぁとストンと胸に来ました。無印のようないち日が欲しいです。今は仕事柄、毎日事件で、印だらけです。でも、この12月で仕事を辞める決心をしたので、こんな日が来ることを願っていただきました。特選句「鶏頭の大きな赤にぶち当たる」鶏頭の花なんて古臭いと思っていました。でも、鶏頭の花も品種改良されたのか、ずいぶん大きい花や昔より華やかな様相なものが増えた気がします。この夏、私もそんな鶏頭と散歩の時に出会っては驚いていたので、共感して特選です。
- 河田 清峰
特選句「手の中に何にもないのお月さま」ひろげた手のひらに月のひかり輝いている!それと裏腹な何にもないの!の表記がそれで充分満ちていると思わされる好句である。自句自解「梟の耳のなきよう野分立つ」梟の顔の右左に動く様が野分を感じさせた句でした!ちなみに梟の耳は目の横にあるそうな
- 若森 京子
特選句「鶏頭花胸中に人殺めては(谷 孝江)」鶏頭花の深い真紅を見ている時、思わずの作者の発語に驚くが、思いの中で人を殺める事は人生の中であると思う。特選句「おおかたは夕化粧きれいな関係(柴田清子)」このロジックのない言葉の中に〝夕化粧〟の措辞からか人間の、特に女性の魔性の心理が感じられる。〝きれいな関係〟で又思いが増幅され、魅力ある一句。
- 小西 瞬夏
特選句「無印のやうないち日小鳥くる」ささやかな、なんでもない一日の倖せを思う。いつもこのような境地でありたい。
- 藤川 宏樹
特選句「手の中に何にもないのお月さま」見開きページに一行の童話です。岩崎ちひろの挿絵がはまります。加減乗除、試行錯誤の繰り返し、「やっと一句」の私には真似出来ません。肩の力が抜けた自然体、柔らかい。合わせて「鬼虎魚本気になって嘘を付く」も気に入りました。
- 三好つや子
特選句「バレリーナの高き跳躍林檎傷む(小西瞬夏)」優美に踊れば踊るほど、悲鳴を上げていそうな足の先。そんなバレリーナの痛みにも似た、みずみずしい林檎の捉え方にぐっときました。特選句「月光ノナカノサレテヰル手紙」この手紙に遺書めいたものを感じました。人生の最後をどんな言葉で締めくくったのか・・・カタカナ表記がいっそうミステリアスです。問題句「大いなるお尻が坐る花野かな」大いなるお尻とはどんなお尻なのか、とても面白い句ですが、作者の思いを伝える工夫がもっと必要だと思います。
- 町川 悠水
秀句、佳句が目白押しなので迷いました。そのなかには、最初は目に留めなかったものの、二度目三度目で釘付けになるものもあって、浅学を思い知らされたことでした。特選句「晩夏光鋳物屋ストーブのみ造る」何がどう佳いかは説明不要の秀句。特選句「くもりなき一眼レフにある秋思(三枝みずほ)」讃辞を送りたい句。恐れるのは類句の有無。特選にはしなかったものの、優劣をつけがたかったのが「犬の糞結界のごとそこから秋(中野佑海)」「ダリアよりすこし淫らに口ひらく」「鬼虎魚本気になって嘘を付く」の三句。並選ながら「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」は、方言のぴったり感に痺れました。曼珠沙華は時に嫌われる花。私も埼玉で広い土地の中古住宅に住んだ時、一隅に突然曼珠沙華が開花した折には驚きました。でも、あの造形美は極上。このほかにも佳句が沢山ありましたが、そこには破調の句が多く、五七五に収めた方が品格もむしろ上ると見えて惜しまれたのが、「来し方の透かし彫りかな夕すすき(三好つや子)」、「夕立が来そうなアスファルトだ走れ(月野ぽぽな)」、「おおかたは夕化粧きれいな関係」の三句でした。ともあれ、この稿をまとめた後も楽しませてもらえる作品が揃っていて、感謝です。
- 月野ぽぽな
特選句「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」中七下五の訛りの言葉が、本心の吐露として効いています。曼珠沙華の赤も効いています。
- 稲葉 千尋
特選句「朝の蛇老躯快心ストレッチ」何んと気持ちの良い俳句。こんな作者に会いたい。朝の蛇が佳い。特選句「日盛りに中島みゆき檄飛ばす」中島みゆきの歌、大好きです。毎日聞いてもあきない。元気がでます。
- 柴田 清子
「紫蘇もんで平らに寝落つ自然なり」を特選に。この句の中に、日本の祖母がゐて、母がゐる。大きく世の中が変って、暮し方が変っている今だからこそ、四季のうつろいの中の大切な自然との共存の大切を思うし思はされた句です。しみじみと、つくづくと、内容のいい句だなあと思っています。「永遠は蟻を見ていた頃の時間」この句のどの部分からも入ってゆけないけれど、わかろうとすればするほど、理解に苦しむ、そしてこの句から離れなくなってゆく小気味よさが、魅力。
- 三枝みずほ
特選句「短夜の銃から人が離れない(月野ぽぽな)」銃が中心となり、それに群がる人。とても怖い世界を見てしまったような・・・一昔前ならそれは遠い世界のお話だったかもしれないが、今はこれが現実で、その真っ只中に私たちはいる。銃社会、戦が始まれば、ゆっくり眠れなくなり、命も儚い。言葉の持つ力、季語の力を再認識させられた作品だった。好きな作品がいっぱいあって、選句に迷いました!今回も大きな刺激を頂き、勉強になりました。ありがとうございました。
- 野口思づゑ
特選句「永遠は蟻を見ていた頃の時間」一心不乱に見える蟻を余計な事は何も考えずに、こちらも一心不乱になって見る事ができたその頃、永遠の時はあるのだ、と思えた。特選句「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」思わず唸ってしまう。自然災害に見舞われた経験を述べているのだと解釈。一度だけでも打撃なのにそれを繰り返されれば、その災難はあたかも個人的恨みを買っての攻撃ではと思われるほど理不尽である。曼珠沙華の後ろにいる創造主に土地の言葉でこのように言われたら、相手は猛省し、もう災難に襲われることはないだろう、と願う。問題句「短夜の銃から人が離れない」夏の夜、何か誘惑するものがあるのか。正直意味はわからないのだが、どこかに怖さがあり、それに妙に引かれる。
- 重松 敬子
今回も個性的な句が多く、大変勉強になりました。特選句、問題句共に「薄味で粋に生きるって夏落葉」夏落葉がぴったりこないように思います。あくまでも、私の感覚です。上5中7が、含蓄するところ大なりと言えるので少し残念に思います。
- 桂 凛火
特選句「青鷺にボクサーにさびしい銀河」青鷺にボクサーにの並列が新鮮でした。「さびしい銀河」も甘いけれど詩的で魅力的な一句でした。どちらもさびしい銀河を身内に抱いているということなんでしょうか、青鷺っていつも孤独そうで、でもシャンとしてて、リングでたちつくすボクサーににているかもしれません。明日のジョーを思い出しました。
- 竹本 仰
特選句「紫蘇もんで平らに寝落つ自然なり」石垣りんさんの詩に「シジミ」がありました。引用します。「夜中に目をさました。/ゆうべ買ったシジミたちが/台所のすみで/口をあけて生きていた。∥「夜が明けたら/ドレモコレモ/ミンナクッテヤル」∥鬼ババの笑いを/私は笑った。/それから先は/うっすら口をあけて/寝るよりほかに私の夜はなかった。」どうでしょう?何だか、この敬虔さが、ここにもひしと感じられ、「平らに寝落つ」というのは、「もまれたのはむしろ私の方、おやすみ」というつぶやきが聞こえるようで、面白かったです。ちなみに、石垣りんさん自身の肉声の「シジミ」を聞いたことがありました。ゾワ~ッとしました。・特選句「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」ふいにこんな言葉を言われると、追い詰められてしまいます。見透かされたというか、ああ、ここに谷(きわ)まれりというか。ま、要するに、ドスを突き付けられた感のこの言葉が、しかも曼珠沙華を何気なく見ていたそばから、まさに「来タ~ッ!」なんでしょう。すると、曼珠沙華がみるみる変容していくではありませんか。してみると、曼珠沙華の影から刺客、そして修羅場、このドラマ感がたまりません。これは、絶対、方言でなければ成り立たない舞台でしょう。そういえば、笹沢左保作・木枯紋次郎シリーズ第一弾は「彼岸花は散った」だったか。ということは、曼珠沙華―彼岸花路線には、女の一徹と血が結びついているということだったのか。以上です。:字体が変わりましたね。好きです。(字体のことですよ)忙しいお彼岸が終わり、しかし、今年は、ここ淡路島では雨天多く、稲刈りが出来ないと、どの通りでも口々に。農村ですね、つくづく。読書の秋でもあります。楽しみです。ところで、みなさん、台風は大丈夫でしたでしょうか?これも、因果なんでしょうか、年ごとに、想定というものが、吹き飛ばされてゆくような、そんな世の中であります。また、来月まで、みなさま、お元気で。
- 田中 怜子
特選句「秋風を不貞寝し奴の蛻かな」ふとんがもりあがって秋風がすっと入ってくる感じと、2人の関係がおもしろい。特選句「茄子胡瓜行水の子のはち切れる」茄子の色、胡瓜が水の勢いでコロコロ回っているさま、子どもの同じように元気な様子が伝わる。
- 古澤 真翠
特選句「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」作者がどなたか一目瞭然。俳句を芸術だと知らしめていただきました。益々のご健吟を お祈り申し上げます。
- 疋田恵美子
特選句「味覚障害蝶一頭の舌恋し(若森京子)」初老の身には過去の後遺症が出始めます。身体左右の違いに気づく今。特選句「熟れきれぬ柿の実落ちる片恋よ」先日の台風に柿の実が庭を彩りました。下5がいいですね!
- 河野 志保
特選句「手放した楽器鳴ります十三夜」」鑑賞…手放した楽器って何だろう。楽器が鳴りだすってどういうことだろう。月光が音色を奏でるのか、月明かりそのものが音楽なのか。想像膨らむ魅力的な句。「十五夜」ではなく「十三夜」というところに寂寥感も漂い印象的。:曼珠沙華が咲いて、秋らしくなりましたね。 私が平城宮跡で毎年目する曼珠沙華は、咲くとすぐ切られてその場に放置されます。 事情はわかりませんが残念です。今年もやっぱりそうでした。それでは、季節の変わり目、どうぞご自愛ください。
- 寺町志津子
特選句「永遠は蟻を見ていた頃の時間」炎天下、一心にエサを運ぶ蟻。わが身より大きなエサを、単独作業の蟻あり、協働の蟻あり。時間の経つのも忘れて見飽きなかった頃。言われてみれば、あれが「永遠」というのか、と妙に納得。若かったなあ!!
- 由 子
今月は感情表現のまっすぐな句を選びました。心を寄せられる気分なのかも。特選は「曼珠沙華そげんにウチば憎とかね」。怒り、悔しさがよく分かります。脳裏に景色が浮かびます。問題句は「アフリカの乳房に流れ雨の粒」で。言葉づかいが面白いと感じました。比喩かもしれませんが、日本を連想する単語が欲しかったです。
- 菅原 春み
特選句「一族に割って入りたる油蝉(谷 孝江)」油蝉の特性がでているような。おもしろい 。特選句「病の子背中で聞くよ虫時雨(中西裕子)」背中で聞くが圧巻です。状景が見えます。以下並選句「噛み砕く種の苦さよ秋遍路(増田天志)」秋遍路ならではの所作か?枇杷の 種でも噛んでいるのか。実直な句。「短夜に尾を持つごとく寝返りぬ(河野志保)」寝返りに尾とはとてもユニークな表現。「雨音や獣の匂いのして新涼(中野佑海)」獣の匂いに意外性がありいいです。「くもりなき一眼レフにある秋思」くもりなきにしびれますね。「 笑い声分け合っている良夜かな(重松敬子)」こんな良夜もほのぼのします。問題句「アフリカの乳房に流れ雨の粒」? え、どこがアフリカの乳房?
- 亀山祐美子
特選はありません。気になったのは「大いなるお尻が座る花野かな」せっかく「大いなる」「お尻」と韻を踏んでいるのだが、「お尻」なら「座る」だろう。「坐る」なら「尻」だろう。気の使いようが中途半端だ。微苦笑を誘うなら「お尻」で十分だが、生命力を押し出すなら「尻坐りをる」「尻坐りたる」「尻の居座る」等とすべきだ。ここがこの句の肝で評価の分かれ目だと思う。彼岸に志々島の小野蒙古風師の句碑へ献花に行きました。あいにくの雨で大楠へは行けませんでした。翌日は伊吹島で芸術祭の準備に明け暮れました。ハードな二日間でした。母がまた写真展示をします。お忙しいでしょうがお立ち寄り頂ければ幸いです。
- 小山やす子
特選句「打水にかそけき秘境蝶尿る」神秘な気がします。特選句「ダリアよりすこし淫らに口ひらく」ダリアをじっと観察するとこんな感情がでそうな・・・。
- 藤田 乙女
特選句「永遠は蟻を見ていた頃の時間」永遠ではない「時」1日が、ひと月が、そして、1年があっという間に過ぎていきます。過去も先のことも何も考えず目の前のことだけを見つめることができたのは、短いけれど、貴重なる至福の時間だったかもしれない。人生というものを深く考えさせられる良い句だとおもいました。「恋は秋色織りなす繊手思うままに」恋って素敵ですね。この句を読んだらわくわくドキドキしてきました。
- 高橋 晴子
特選句「手放した楽器鳴ります十三夜」面白い感覚。「十三夜」の引き出した幻の表現。実際に鳴っているような気がする。不思議である。ただ、〈鳴ります〉の〈ます〉では、時間の経過がよくわからない。〈鳴りだす〉位にしたら音がきこえてくるのだが。特選句「鬼やんま風の向かうに山ひとつ」迫力があって鬼やんまらしさがよく出ている。作者の気力を感じさせてくれる。問題句:一句にしぼれないので、今回省略します。言葉遣いが変な句が多いなあ。
- 野田 信章
猛暑、炎暑、異暑の夏百日を乗り越えた一二三句。これは貴重なことだと拝読中である。今夏のこの体感を引き摺る身が共感し共有し得る句を選句の対象にしました。硬い表現の句には今夏のきびしい暑さにも耐え得る真情の直なる表出があり生理的実感に根ざしたものがある。その人間臭が魅力とも言える。片や軟らかい表現の句には夏百日を潜り抜けてふわっと浮上した感のあるさわやかさ平明さが魅力となっている。この二様の自立こそ最短定型詩ならではのものかと味読している次第である。秋の大気の中で、わが志向性を問い正してくれるものもこの二様の作句群の中に在ると思う。
- KIYOAKI FILM
特選句「落鮎の身(しん)のおもたさ不安なる(矢野千代子)」:「不安なる」がよく伝わってきます。時代の不安もあるかもしれないです。「身のおもたさ」が迫力もって、表れてくる。問題句「短夜の銃から人が離れない」:「短夜の銃」が怖い。重々しいが、この世の時代の大きな問題と思う。「人が離れない」ので、皆、議論している姿と思った。「短夜」に何か、感じることがありました。早く、銃を捨ててもらいたいです。
- 谷 孝江
特選句「永遠は蟻を見ていた頃の時間」「熟れきれぬ柿の実落ちる片恋よ」懐かしくて切なくて、もう取り戻すことのない遥かな私がそこにいます。俳句っていいですね。短い言葉のなかに色々の、自分だけの世界に浸ることができるのです。たくさんの句の中からたくさんたくさん楽しませていただきました。ありがとう。
- 野﨑 憲子
特選句「アフリカの乳房に流れ雨の粒」:「アフリカの乳房」という上五に圧倒されました。私は、この言葉を、アフリカという人類の故郷、その地に根ざす生きとし生けるものの母性の象徴に捉えました。その豊満な乳房を伝う雨粒は、まさにいのちそのもの。句の中に、光の渦巻を感じる佳句です。問題句「鬼やんま風の向かうに山ひとつ」上手い句で、リズム感も抜群です。しかし、下五の「山ひとつ」が映像としてしか作用していないように思います。私にはこの作品から「風」が感じられないのです。気合の入った作品だけに、もう一歩の飛躍を望みたいです。
昨年から、金子兜太先生と、いとうせいこう氏の選による『平和の俳句』が東京新聞の一面に毎日掲載されています。わたしも、時折、応募しています。七月に、昨年の掲載句を集めたアンソロジーが小学館から刊行されました。その帯文の、いとう氏の言葉「これは軽やかな平和運動です」は、至言だと思います。目線を足下に置き、国境という垣根を越え、地球を丸ごと愛する気持ちを表現してゆくことの大切さを思います。俳句をしない一般の人々の心底をも揺るがしやまない愛語を、世界最短定型詩で表現して行きたいと切に願うこの頃です。
袋回し句会
今年米・新米
- 三合で五人ほころぶ早稲の飯
- 野澤 隆夫
- 雲いろいろ風のいろいろ今年米
- 野﨑 憲子
団子
- 孫作るだんごの丸は5ミリなり
- 漆原 義典
- 団子盛る留学生や鼻の稜
- 藤川 宏樹
- 宵闇や団子お化けとなるところ
- 柴田 清子
里海
- 里海やチッ素リン酸食ふて牡蠣
- 河田 清峰
- 里海に手紙流していわし雲
- 中西 裕子
- 里山をはろかにす酒ぬくめけり
- 柴田 清子
- 里海に浮きの流れや下弦月
- 藤川 宏樹
蟋蟀
- ちちろ鳴く国会議事堂にゴジラ
- 野﨑 憲子
- ちちろ鳴く水一杯の美味かりし
- 河田 清峰
留学生
- 学園に留学生来て金木犀
- 中西 裕子
- 留学生「いちにいさんし」星月夜
- 鈴木 幸江
- その一人秋刀魚のやうな留学生
- 柴田 清子
塩辛とんぼ・とんぼ
- 塩辛とんぼ風が握手をしてゆけり
- 野﨑 憲子
- わたしには過ぎた夫です塩辛とんぼ
- 鈴木 幸江
カヌー
- カヌー勝つスロバキアの川母として
- 漆原 義典
- 傷心のふたりで秋のカヌー漕ぐ
- 鈴木 幸江
月
- 九月の山鳩さびしくて鳴くんじゃない
- 野﨑 憲子
- 雲上の月まなうらに施無畏かな
- 河田 清峰
- 星月夜散歩まだかとわんわんわん
- 野澤 隆夫
句会メモ
九月のサンポートホール高松での句会は、午後午後1時から先月から始めた事前投句の全句朗読・・鈴木幸江さんのお声、凛としていて素敵ですよ!・・の後の合評は、ベテランの見事な鑑賞や初学の方の斬新な解釈に、大きく相槌を打つ人や、メモを取る人など、徐々に熱を帯びつつ午後2時半からの、<袋回し句会>へ。様々な<お題>に真向う事三十分で生れて来た作品の数々をご覧ください。句稿が配られる頃には、句会の熱気も最高潮になり、あっという間の四時間弱でした。句会報の読後にお送りくださった竹本 仰さんのメールを以下に・・世界最短定型詩は大切な部分を削るほどに、色んな読み方が可能です。快哉、快哉・・ですね。
「大いなるお尻が坐る花野かな」について。選句の理由は、与謝野晶子「なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな」を本歌としたる、ン十年後に詠まれたものだという、そういう設定が気に入ったからです。どうなんでしょう?もし、そうであれば、リアリズムを重んじるような見方は、意味がなくなる訳で、むしろこのパロディの意匠にふさわしい衣装なんだと、私にはそのフィット感が、大変好ましく思われたのです。そんな点からいえば、今回の中で一番笑えた句で、快哉、快哉(よいかな、よいかな)と心地よい状態になりました。ところで、子規の「鶏頭の十四五本もありぬべし」の句について、私見を漏らしますと、あれは、絶大なる青春回想句なのではないかと思えてなりません。病故に嵩じる嗟嘆の大きさ、それではないのかと。そうですね、中島敦さんの「山月記」のあの虎になった李徴の、憤懣やるかたない歎き、あの息吹きをさらっと流したものではないのかと。ということで、拙句「青空ヲ撃ツ」は、この子規への反歌ということだったのです。いつもながらの妄想癖を自嘲しつつ、いちおう、子規を指定の賛美歌ということになりましょうか。
Posted at 2016年9月29日 午後 09:59 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第64回「海程」香川句会(2016.08.20)
事前投句参加者の一句
鍔へ浮く飛沫(しぶき)轍(わだち)の弓(ゆ)なる夏 | 藤川 宏樹 |
来し方は炎(ひ)のようであり曲がり茄子 | 伊藤 幸 |
独り楽しむ月と私の距離はなし | 由 子 |
人間は弱いと想え終戦日 | 鈴木 幸江 |
夜の蝉それは時効になった嘘 | 三好つや子 |
潮の香や旅の浴衣のすぐゆるむ | 疋田恵美子 |
さるすべりひくきところへ流れるくに | 夏谷 胡桃 |
義歯合わず竹筋虫(ななふし)のこの伸び縮み | 矢野千代子 |
夏椿「さかしまに」の世(よ)になるらんか | 田中 怜子 |
炎昼のとろりと虚空砂丘馬車 | 桂 凛火 |
ひまわりは旗印まっすぐ攻めよ | 増田 天志 |
内臓はやさし工場熱帯夜 | 竹本 仰 |
ぬぐふ汗ぬぐへぬ汗にまみれをり | 亀山祐美子 |
青大将どこまでいった回覧板 | 大西 健司 |
洗い髪今日の不満を笑っちゃう | 中野 佑海 |
遠郭公指で確かむ鎌の切れ | 稲葉 千尋 |
貧乏とひとりに馴れて心太 | 谷 孝江 |
踏ん張るや負けてなるかよポンポンダリア | 髙木 繁子 |
水風呂や山がまっすぐ歩いて来る | 野田 信章 |
病室の小さき窓や星月夜 | 菅原 春み |
捨てられし夏帽戦火繰り返す | 小西 瞬夏 |
母の手を握る夜ありて敗戦日 | KIYOAKI FILM |
手拍子で煽る晩夏の大道芸 | 野澤 隆夫 |
百年を生きたと言えば亀鳴けり | 小山やす子 |
花あおい朝の痛みのままに咲く | 月野ぽぽな |
母親と戦う少女夏の月 | 重松 敬子 |
金色のレモン酒ゆれて夜の秋 | 中西 裕子 |
夏夕日石見の海に魂(たま)鎮め | 漆原 義典 |
日傘回す不安だったり期待だったり | 三枝みずほ |
読みさしのページ湧きたつ蝉時雨 | 古澤 真翠 |
酒瓶を下げ灯篭の内に入る | 銀 次 |
色褪せて盗まれそうな夏帽子 | 町川 悠水 |
祖父までは土葬の日向桐の花 | 寺町志津子 |
晩年や渦まきなおす蝸牛 | 若森 京子 |
Aに決めB思い切り天の川 | 野口思づゑ |
向日葵咲く路上で声を上げるため | 河野 志保 |
すべりひゆ土竜の足のやうにかな | 河田 清峰 |
夏帽子童女の如く母往きぬ | 藤田 乙女 |
<悼 千侍氏>秩父音頭の虚空へ舞へり櫓の灯 | 高橋 晴子 |
天空の大車輪なり夕蜩 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 増田 天志
特選句「鍔へ浮く飛沫(しぶき)轍(わだち)の弓(ゆ)なる夏」客観写生なのか心象風景なのか。平成のサムライは何をか為さむ。今日は、楽しい句会を、有り難うございました。
- 中野 佑海
特選句「来し方は炎のようであり曲がり茄子」今年の夏は本当に暑く炎天が続きます。茄子もその暑さと水の無さに耐え無骨に愚直に出来上がります。若き日を苦節に耐え、一 癖も二癖もありそうで頼もしくもあり。食べてみたら種も沢山ありそうな。特選句「夜の蝉それは時効になった嘘」時効になったと言うことはその嘘は誰にも知られていない。夜の蝉 も誰にも知られずに泣いて死んで行く。心の中では真実を語りたくて堪らないのに!と今からでも構わないから、自分の真実に生きて下さいね。問題句「昼下がり胸の迷路は揚羽系」 大好きな句ですが、揚羽系よりは揚羽蝶と書いて頂いた方が胸にすっきりと腑に落ちます。増田天志様。今回も暑い高松にようこそお出で下さいました。天志さんの突拍子のない解説 毎回楽しみにしています。有難うございます。
- 野澤 隆夫
昨日はお世話になりました。和気あいあい元気な句会でした。前半、鈴木さんが120句を読みあげての選句もよかったです。各自で目を通すのより、朗読を聴いて、鑑賞しつ つ選句するのでいいと思いました。選句は以下です。特選句「 ぬぐふ汗ぬぐへぬ汗にまみれをり」ぬぐへぬ汗にまみれて、必死に格闘している筆者。そして、難局を乗り切ったあとの ぬぐふ汗の爽やかさがいいです。特選句「水風呂や山がまっすぐ歩いて来る」何回か読み直し、この句もいいなとおもいました。小生は字面通りにとって今年から制定された「山の日 」の一風景ととらえました。問題句「ところてん河馬は空飛ぶ埋蔵金(増田天志)」暑さ真っ盛りの茶店で、何故か河馬を想像して読んだ句でしょうか?ところてんを食べつつ河馬? そして埋蔵金?難問です。面白いです。
- 藤川 宏樹
特選句「貧乏とひとりに馴れて心太」:「心太」が「ところてん」とは、思いがけずユーモラス。ところてんを天突きにて押し出すグニュッの感触、喉越す食感、貧乏と孤独の やさぐれ感。「心太」の一語にピタリ合っている。ココロブト問ふて読み知りこころ点
- 竹本 仰
特選句「雲の峰極太で書く『平和』かな(稲葉千尋)」:シンプルに力強く「平和」を表現できているように思いました。「雲の峰」との結びつきが、実に漠然とではあります が、「平和」という言葉の表情をとらえているように思いました。もちろん、厳密に考えれば、「平和」なんていう状態は寸時でしかありえないものでしょうし、だから、これは「願 望」としてとらえるべき、そしてその大きさを表したものでしょうね。特選句「大きな蛇大きな野菜終戦日(重松敬子)」戦争は大きなものというより、小さいものの中に、より染み 込んでいるものなんでしょうね。シラミだとか、イモの蔓だとか、また市川崑作品の映画「野火」でも塩だとか靴だとか、その描写に工夫が感じられました。そういえば、マーガレッ ト・ミッチェルの「風と共に去りぬ」にも南軍の敗因に靴の粗悪さが挙げられていました。そういう意味で言うと、小さなものであるはずなのに「大きな蛇大きな野菜」という「大き な」で平和の実感をあらわしたところが、鋭い見方だなと思わせました。問題句「睡蓮や玻璃のとびらに玻璃のかべ(月野ぽぽな)」この「玻璃」はなかなか使えないと思う。何とい うか、自由ということをつきつめて考えてる方じゃないんだろうかと、そういう関心でこの句の情景をとらえました。鋭意というか、誠意というか、そんなものを感じました。以上で す。今回は、終戦や平和の句が印象に残りました。よく考えれば、すべて今のこういう営為の前提ですものね。以前、「新興俳人の群像」という京大俳句事件に関する書を読んだこと がありました。受難といえばそれまでですが、戦後俳句の出発点にこの事件が大きくかかわっていたことは間違いないことのようです。表現の自由というけれど、自由とはその場合、 何をさしているのか、考えてみるのは大事なことかと思いました。また、次回、よろしくお願いします。
- 中西 裕子
特選句は「炎昼のとろりと虚空砂丘馬車」です。このところ暑さに参っているので炎昼の、とかとろりとか、砂丘などのことばが共感をよびました。問題句は「内臓はやさし工 場熱帯夜」で意味があまりわからないというか熱帯夜にも内臓は働く工場という意味だったら、やさしいということばは合わないかな、とか違う意図ならごめんなさい。前回参加は6 月で3時に終わったので久しぶりのふる参加させていただきました。勉強になります。ありがとうございました。
- 河田 清峰
特選句「秋近し石見の浜に砂の泣く」石見と言えば、「石見のや高角山の木の間より我が振る袖を妹見つらむか」という人麿の歌をおもう♪ 都へ去る現地妻への別れ~そして 終焉の地への一句・・・・夏夕日石見の海に魂鎮め・・・・そんな気分に浸った句でした!ありがとう!
- 寺町志津子
特選句「秩父音頭の虚空へ舞へり櫓の灯」今年の全国大会で、金子千侍氏がお亡くなりになっていたことを初めて知り、ショックであった。掲句を読み、秩父音頭保存会会長( お役名は正しいかどうか、です)でいらしたご生前の千侍氏が、一同を率いて海程五十周年記念大会舞台で披露された見事な秩父音頭の踊りが蘇り、また、弟君を亡くされた兜太師の胸 中の悲しみはいかばかりか、と思い図られた。大変分かりやすい句でありながら、作者の千侍氏への哀惜の念、兜太氏への思いやりの念がしみじみ伝わる情感豊かな句に好感。
- KIYOAKI FILM
特選句「夏椿『さかしまに』の世になるらんか」一読してすごい作品だと思いました。その本を読んだことがないですが、ズシリ胸にたたきつけるような、『さかしまに』の世 になるらんか」に共鳴します。問題句(特選)「秩父音頭の虚空へ舞へり櫓の灯」 問題句にする必要はないと思います。ただ問題句を見つけるコーナーだから敢えてしますが、心では 特選句です。人間の温もりを感じます。非常に感じます。金子先生の秩父音頭の練習をテレビで見ました。ちびっ子たちとやってました。少し昔のテレビ…。DVD「生きもの」でも 見た。本物を見たい。そう、念じる。
- 町川 悠水
特選句「青大将どこまでいった回覧板」青大将と回覧板の組合せ、その中七が巧みで立派。暮しのなかの平凡な事象を感性豊かに一句にまとめましたね。特選句「貧乏とひとり に馴れて心太」心太がここでは字面ともぴったり、作者は男性でしょうがあやかりたいですね。次に並選で若干気付いたところを述べると、「祖父までは土葬の日向桐の花」は佳句な がら、私なら「祖父までは土葬のふるさと桐の花」」と詠んでみたいですね。「ミシュランのたこ焼きあてに生ビール(野澤隆夫)」は「ミシュランのたこ焼き付合い生ビール」とし てみたいが、身勝手かな?問題句「ナメクジの宇宙ちょっぴり病んでいる(増田天志)」これは問題句と言うよりも私を悩ませた句です。鑑賞に十分時間をかけたものの捉えきれない のです。作者に教えてもらいたい一句となりました。(教えてもらいたいなんて甘い考えは捨てなさい、わかるまで考えなさい、という返事が返ってきたらどうしようか。→→「難解 の句が夢にまで熱帯夜」) 最後に余談ながら、切字の「かな」は誰しもよく使いますが、今月は6作品で見かけました。その感想を述べると、いくらか安易な「かな」頼みになって いないかなという気がしました。作者なりの考えはあるでしょうが、一石を投ずる意味で申し上げました。悠水付記:この歳になって泳ぐのが好きになってきました。下手は下手の醍 醐味と言えばよいでしょうか。したがって、少年の家の海水プールには感謝なのです。
- 矢野千代子
特選句「夏夕日石見の海に魂(たま)鎮め」歌聖、人麻呂の終焉を思うときドラマは果てしなくひろがってゆく。石見の天と海面を染める大きな夕日はまさしく鎮魂であろう。
- 稲葉 千尋
特選句「人間は弱いと想え終戦日」確に人間は弱い一人一人なら尚であり。集団になるとなを弱い制御不能になることさえある。特選句「天空の大車輪なり夕蜩」蜩のあの強弱 をつけた鳴き方は天空が廻っているようにさえ感ずる。大車輪はいいえて妙。
- 重松 敬子
特選句「母の手を握る夜ありて敗戦日」国民の敗戦の想い出。私もおぼろげな記憶で理解できます。手を握りあった夜、あの時のお茶の間、薄暗い雰囲気、肩を寄せ合って生き 抜いた家族、わかります。
- 夏谷 胡桃
特選句「日傘回す不安だったり期待だったり」誰かに合う前の女性の気持ちがよく出ていると思います。相手は異性という訳でもなく、久しぶりに会う友達とか、パートの面接 とかいろいろあると思うのですが、微笑ましいです。特選句「腹筋を鍛え上げたるなめくじり(重松敬子)」腹筋がなめくじりにあるのかと思いますが、なんだか笑わせてくれたので 特選です。
- 三好つや子
特選句「夜濯ぎや旅するように手足かな(夏谷胡桃)」昼間汗したものを濯ぎながら、水に浮かんだり消えたりするその日の出来事に、心を寄せている作者。自分自身を労う気 持ちも感じられ、ほっこりしました。入選句「蚯蚓干からび夢路家路の境なく(野田信章)」広告関係の仕事を退いて十数年経っても、ときどき仕事仲間の夢を見たりします。そんな 事を重ねて鑑賞。問題句「大きな蛇大きな野菜終戦日」大きな蛇は真の恐怖、大きな野菜は真の飢えの比喩でしょうか。終戦日とうまく響き合っています。上五と中七の間に「と」を 入れ、野菜は具体的にすると、いっそう句が引き締まると思います。
- 伊藤 幸
特選句「老ゆるとは何ぞシャワーを全開に(谷 孝江)」そうです!老いを恐れる必要も、かと言って抗う必要もない。楽しんで下さい。「シャワーを全開に」いいですね。ガ ンバレ!とエールを送りたくなる。特選句「秩父音頭の虚空へ舞へり櫓の灯」秩父道場で秩父音頭を初めて知った。素晴らしい追悼句だと思う。故人がどのような方であったか、この わずか五七五の短詩で窺える。きっと明るく周りから愛される方だったのであろう。故人も喜んでおられる事でしょう。
- 若森 京子
特選句「さるすべりひくきところへ流れるくに」一句の言葉の流れ、さるすべりのイメージにマッチした中七、下五。自国の未来を暗示する様な一句に共感した。特選句「Aに 決めB思い切り天の川」決断して、実行してゆく心の動きを面白く表現している。季語としての「天の川」が、ケセラセラの心情の一句に、よく効いている。
- 大西 健司
特選句「兄ちゃんが弟叱る終戦忌[伊藤 幸)」とにかく終戦直後の情景に思えてこだわった一句。終戦忌がなければ、日常どこにでも見られる光景だが、終戦忌と書かれると 、終戦後の困難な中、健気に生きる兄弟の姿が思われ、ついホロリとしてしまう。はるかに遠くなった戦後の混乱期を回顧する作者の姿と、つい深読みをしてしまう。いかがなものか 。
- 月野ぽぽな
特選句「母親と戦う少女夏の月」親に多くを依存していた幼少期から自立した一個の人間になるがめに、少年は父を少女は母を越えてゆく時期が必要といいます。反抗期はだか らとても大切なのですね。夏の月の光が気持ち良く降り注ぎます。
- 鈴木幸江
特選句「夜の蝉それは時効になった嘘」まず、俳句に時効という言葉が使われていることに興味を持った。そして、夜の蝉と時効になった嘘を組み合わせた詩才に感服した。そ こにある共通性を探る楽しみから、真理を探究しつつ句を味わうことの奥深さを教えていただいた。問題句「鍔へ浮く飛沫轍の弓なる夏」この句の自句自解を伺って、俳句の面白さを 再確認した。わたしは、鍔を刀の鍔と解釈して、水辺で刀を抜いた光景をイメージしたのだが、作者は、帽子の鍔に水が掛る光景を詠んだ句とのこと。轍も水が描いた弧のことだそう だ。わたしは、馬車の轍と解釈した。ここまで、光景が違うとは。言葉の世界の妖しさに心が揺さぶられた作品であった。
- 小西 瞬夏
特選句「晩年や渦まきなおす蝸牛」:「晩年」という時期をなんとなく実感する作者。ふと目にとまった蝸牛。その歩みを見ていると、ゆっくりと渦をまきなおしているように 見える。それは、人生を折り返し、これまでの人生を振り返ったり、追体験したり、やり直したりと、そういう自身の歩みにも似るととらえたのだろうか。
- 古澤 真翠
特選句「病室の小さき窓や星月夜」長い入院をなさっていらっしゃるか細くも美しいお姿が浮かんで映画のワンシーンのような感銘を受けました。目頭がじんわり熱くなってく る映像に 17文字の素晴らしさを教えていただきました。
- 銀 次
今月の誤読●「オニヤンマぶつかってはまた考えて(河野志保)」。街角で人と人とがぶつかりそうになることはよくあることだ。右にすれ違おうとすれば相手も右に、左によ けようとすれば相手も左、などという微笑ましい経験はだれもがお持ちだろう。これが二三度ならまだしも、五回もつづくと、んもう、鈍感ねとなる(自分はどうなんだ)。さらに七 度八度とつづくと、もしかしたらこの人運命の人??、などと思ったりするロマンチストバカがいるかもしれないが、なあに、相手がナイフを取り出して「お財布はお持ちかえ」となる のが関の山だ。それはさておき。この句を見てみよう。「オニヤンマ」に限らずトンボの目が複眼であることはだれしも知っているだろう。それも一万とも二万ともいわれる複眼の持 ち主だ。それに引き替え人間は単眼をふたつしか持たない動物だ(森の石松、丹下左膳を除く)。それでも前記したようにぶつかるのである。複雑すぎる目を持ったオニヤンマがぶつ かることは生物学上理の当然なのである。なにしろ右も左も上も下もうしろさえ見えているのだ。お若い方は知るまいが「見えすぎちゃってコマるの~」というCMソングがあったが 、あれはオニヤンマの嘆きを歌ったものである。オニヤンマ「ぶつかってはまた考えて」。なにを考えるのだろう。えーと、次はどっちへ行こうか。いやわたしはそうは思わない。オ ニヤンマはまさに進化の悲劇について考察しているのだ。やがて秋も深まる。トンボも出てくる。よくよく観察していただきたい。野では日夜進化の悲劇が繰り返され、衝突事故が起 きているのだ。わたしは知 り合いの保険コンサルタントに訊いてみた。「トンボに保険をかけてやりたいのだが」、返答は「あのー、脳疾患の保険がありますが」だった。わたしたち は非情の世界に住んでいる。
- 疋田恵美子
特選句「ぬぐふ汗ぬぐへぬ汗にまみれをり」今年の夏は例年になく暑く沢山の汗をぬぐいました。身の内の苦悩或いは現在の社会情勢を憂いているものが、ぬぐへぬ汗でしょう か。特選句「踏ん張るや負けてなるかよポンポンダリア」ポンポンダリアは今でも山奥の集落などではよく見かけます。戦中戦後を誇り高く生きぬいた方々を尊敬いたします。
- 漆原 義典
特選句「独り楽しむ月と私の距離はなし」です。今年は猛暑の夏ですが、その中で満月を観て楽しむ心、奥ゆかしいです。独り楽しみ距離はなしの表現に感動しました。
- 由 子
特選句は、「大きな蛇大きな野菜終戦日」私の好みです。祖父と野菜を取った昔を思いだしました。あの頃は無邪気でした。祖父が亡くなって20年になります。問題句は「ロ ミオ死す剣の上は流星群(竹本 仰)」です。面白く、個性豊かですが、身近な人物が良かった、と感じました。
- 野田 信章
特選句「恋しくも花火の奥に透けし雲(疋田恵美子)」は、追慕の情が流されることなく、天空の一点に言い止められて想念の美しき結実を共に仰ぐおもいである。「鉄線花笑 み絶やさぬ娘(こ)の影法師(野田信章)」は他の雑多な影法師の中の一つとして娘の影法師も存在する。このために孤影に傾きすぎずに鉄線花と美しく照合する句として読める。「花 あおい朝の痛みのままに咲く」は、「花あおい」を取り込んだこの書き方も普段着の日常感覚の作用が支えとなっているためか違和感がなく朝の葵の一花一花を現前させてくれている 。
- 三枝みずほ
特選句「洗い髪今日の不満を笑っちゃう」不満、ほっておいたらどんどん積み上げてしまうことも。髪を洗って、リセットされたのでしょうか、「笑っちゃう」って自分の中で ちゃんと消化してしまう前向きがよかったです。「笑っちゃう」と軽く言い放すリズム感も好きです。素敵な作品ばかりで、選句も楽しませて頂きました!
- 野口思づゑ
特選句「潮の香や旅の浴衣のすぐゆるむ」旅館に浴衣があるのはありがたいのですが、浴衣で休むと翌日はぐちゃぐちゃになってしまう。でもこの句はそんな野暮ではなくお相 手がいて艶かしい雰囲気に盛り上がっている、そんな光景でしょうか。特選句「ひまわりは旗印まっすぐ攻めよ」何を攻めるのか、何にでも積極的に取り組めという事なのか、いずれ にしろひまわりの元気で明るい感じがよく捉えられている。問題句「あるときは蝉になりそう診てもらう」どこか力が抜けていて好きな句。ただなりそうなその時の蝉は、元気よくな いている、つまりはしゃぎ過ぎになりそうな自分なのか、あるいは生命の終わりそうな蝉で鬱気分の自分なのか、又「あるときは」とあるのでその両方なのか、そんな事を考えると私 の方が診てもらいたくなりそう、でも楽しい。
- 谷 孝江
特選句「日傘回す不安だったり期待だったり」面白いと思いました。深刻な話じゃなくてクスッてきます。特選句「向日葵咲く路上で声を上げるため」自己主張しています。此 処は私だけのものって。ヒマワリだったらそうでしょう、そうでしょう。
- 小山やす子
特選句「靑大将どこまでいった回覧板」日常的な事なのに、日常でない面白さ。
- 菅原 春み
特選句「青大将どこまでいった回覧板」日本最大の蛇、しかもとぐろを巻いている?その季語を得てまわしている回覧板のゆくえをユーモアたっぷりに描いています。特選句「 夏帽子童女の如く母往きぬ」悲しいことにもかかわらず、なんだかこんなふうに往けたらいいなと思いおもわずいただきました。夏帽子と童女が効いています。「来し方は炎のようで あり曲がり茄子」情熱的で一徹なのは作者か? 曲がり茄子に味わいがある。どんな人生を送られたのだろう。「母親と戦う少女夏の月」火照るような月が、思春期の少女の必ず通る 道を照らしているような。共感を覚えました。問題句「内臓はやさし工場熱帯夜」やさしがどうしてもわかりません。作者の説明がおききしたいです。よろしくお願いします。台風一 過のあとにまた台風が戻ってくるとか。くれぐれもご自愛ください。→ 選評締め切りまでに少し時間がありましたので、「内臓はやさし工場熱帯夜」の作者竹本 仰さんからコメン トを頂きました。☆これは、工場の町に育った人間の感覚でしょうか。熱帯夜、むき出しになった工場の煙突や配管やベルトコンベアーなんて目にすると、非常に安堵している自分を 見出したのです。そうですね、その感覚は休める内臓の感じと言いましょうか。頼りがいある父親の寝息という感じです。しかし、私は、そんな間近に工場街に育ったわけではないの です。ただ、友人が、町工場の娘さんで、その子の家業の工場に対する熱さというか、家族に対する思いというか、そういうものを知った時には、ああ、そんな街の生き方があるんだ と、とても深い感銘を受けました。(現に、その子は3人姉妹の長女だったので、高校を辞め、工場を継ごうとしていたこともありました)いま、帰省してみますと、何と言うんでし ょう、ただの工場を見る目じゃない見方になっている自分に気づいたというか、この町の寝息を感じたというか、ああ、この寝息がこの町を、否、日本を支えていたのかも、というよ うに感じたのです。そんなもろもろの思いでしょうか。
- 河野 志保
特選句「遠郭公指で確かむ鎌の切れ」感覚に訴えてくる句。指で切れを確かめる仕草に着目した作者に感服。私の体験からくる実感もありいただいた。作者も農家のかただろう か。鎌の刃に触れた時のヒヤリとした感じが思い出された。「遠郭公」が野の澄んだ空気も想像させる。
- 亀山祐美子
特選句「祖父までは土葬の日向桐の花」年々小さくなる土まんじゅうの並ぶ一角桐の花が美しい。特選句「晩年や渦まきなおす蝸牛」蝸牛の巻き直し頑張れ中高年。
- 藤田 乙女
特選句「捨てられし夏帽戦火繰り返す」オリンピックで日本中がまた、世界が盛り上がっている中、爆撃で兄を失い、自らも傷ついた中東の少年の映像が画面に映し出されまし た。平和の象徴であるオリンピックのかげで、平和から切り捨てられている人たちがいることに切ない気持ちでいっぱいになりました。この句は、そんな思いと重なりました。また、 日本の終戦や沖縄戦への思いも感じとることができました。
- 田中 怜子
特選句「祖父までは土葬の日向桐の花」産土に生きる人の感慨がいい。特選句「月の田を影一列にチャリ遍路(三好つや子)」藤城氏の影絵のような童話の世界、映像が浮かび ました。 ただ、チャリという言葉が品位をおとすな、と。
- 高橋 晴子
八月の秩父へ行ってきました。秩父音頭は鄙びたいい盆踊りでした。友人に手をひかれて?昏い町を歩きましたが何か夢幻の世界をさまよってきた気分。圓明寺も金子家旧邸も 皆野はまるで兜太の世界でした。:特選句『雲の峰極太で書く「平和」かな』正攻法で青空にくっきりと白いたくましい雲の峰と「平和」への強い意志が響きあって訴える力がある。 特選句「ぬぐふ汗ぬぐへぬ汗にまみれをり」具体的には〝ぬぐへぬ汗〟とは、着た物の中にかく汗だろうが、この〝ぬぐへぬ汗〟にはもっと心理的な象徴的なものを感じさせて〝奥へ の深い句、自省の効いたいい句だ。問題句「原爆ドーム鳥籠のよう飛蚊症(若森京子)」原爆ドームを鳥籠と感じたことは形状からそういう感じ方も悪くはない。ただ、それに対して 〝飛蚊症〟では話にならない。しっかりした季語を入れて中七が生きる、あるいは皮肉にとれる位の響く季語の選択がなければ、この句の価値は生きない。
- 田中 孝
ありがとう、64回句会報。私は「鳴きながら昼寝の仔犬脚うごく(鈴木幸江)」を特選に。変哲もない日常のあたりまえの事物のなかに真実が宿る。真実が現れるには静けさ(孤独)がいる。俳句に限らず、芸術全般にあるものは、情動と直感から生まれると思います。飛行機の型もそうだそうです。きらめきの稀有な瞬間は辛抱づよく作品(俳句)に向きあったときにやってきます。
- 野﨑 憲子
特選句「晩年や渦まきなおす蝸牛」カッコイイ句である。晩年が、成熟の極みでありたいと願う私には、熱いスローガンのように響いてくる。渦を巻き直す蝸牛・・。なんてあ りっこないことが起こるかも知れないから、抜群に面白いのである。問題句「ところてん河馬は空飛ぶ埋蔵金」一体全体こんな奇妙奇天烈な句を創る人は?・・の作者増田天志さんが 、高松の句会へやって来た。自句自解では、「ところてん」を見ていると「埋蔵金」という言葉が浮かび、そして、空飛ぶカバのイメージが膨らんできたという。しかし、この作品は 、「ところてん」できっぱり切れる。この秋は、雲間から、黄金のカバ君が出現するかも知れない。
袋回し句会
つくつくし
- そそくさと土手の黒猫つくつくし
- 野澤 隆夫
- 不揃いのテニスのラリー法師蝉
- 中野 佑海
- つくつくし水照りに風の大笑す
- 野﨑 憲子
- つくつくし献体致し候か
- 増田 天志
歯医者
- 炎天に歯医者予約の口惜しき
- 野澤 隆夫
- 炎天や歯医者の鼻毛ちりちりと
- 銀 次
- 炎昼に顔も炎の歯医者かな
- 中西 裕子
- 炎昼を歯医者へ行けば人恋し
- 鈴木 幸江
赤とんぼ
- 旅人は雲になり切る赤とんぼ
- 増田 天志
- 小皿なる羽を忘れし赤とんぼ
- 藤川 宏樹
- 竿の先トンボの休み休みかな
- 中野 佑海
- とんぼ飛ぶとうとうここまで来てしまふ
- 中西 裕子
ごきぶり
- 目見えたるゴキブリや道譲りしか
- 中野 佑海
- 婆ちゃんはさっとゴキブリ踏み潰す
- 増田 天志
- 蜚蠊(ゴキブリ)を殺した夫と暮らしてる
- 鈴木 幸江
白さるすべり
- 幸せになるんだわたし白さるすべり
- 鈴木 幸江
- 百日紅訪問介護の目の廻る
- 中野 佑海
- 門舞の風の七色さるすべり
- 野﨑 憲子
- この道は新しき道百日紅
- 中西 裕子
八月
- 八月尽モスラの卵かも知れぬ
- 増田 天志
- 八月の石から孵る黒猫よ
- 野﨑 憲子
筆
- 筆おろし心新たに晩夏かな
- 藤川 宏樹
- 生きている筆まめじゃない君だから
- 鈴木 幸江
- 真青なる海に真青の筆洗ふ
- 銀 次
- 筆先や月の港に何も無し
- 野﨑 憲子
- 筆箱に秘密隠した八月よ
- 中西 裕子
句会メモ
事前投句の田中怜子さんの作品には「兜太氏戦後俳句を語る・・・京大俳句事件を書いた本」との前書きがありました。バランスの関係で、ここに書かせていただきました。今回は、大津から増田天志さんが参加され、いつにも増して賑やかな句会になりました。句会前半部の始まりは、鈴木幸江さんの事前投句の朗読から・・、鈴木さんの良く響く格調高い読みぶりに一句一句が立ち上がって見えてきました。これからも宜しくお願いします。後半の<袋回し句会>も、色んな句に出逢えて、最高に楽しかったです。もっと弾けて、もっと楽しい句会にしたいです。来月を楽しみにしています。今月も、皆様ありがとうございました。
増田天志さんの自句自解(「海程」香川句会掲示板より~):「ナメクジの宇宙ちょっぴり病んでいる」ナメクジの這った跡は、銀の世界。 夜空の星座群を連想させる。 実に、美 しい。でも、ちょっぴり、病的だ。 植木鉢や石の下に広がる異世界、陰の、黄泉の国。 陰湿なヌメリ感。狭い、行ったり来たりの閉塞感。 各自の感性で味わえば良い。なんか、気持 ち悪い、見たくない世界だわ。 美しいだなんて、とても思えないわ。きっと、作者が病んでいるのよ。その通り、ここまで、鑑賞して頂ければ、作者冥利に尽きるのだろう。鑑賞も、 ひとつの作品なので、自由奔放に!
そして、竹本 仰さんの「ロミオ死す剣の上は流星群」のロミオとジュリエットについて、竹本さんのメールから:あれは、最初から最後まですれ違いのドラマなんですが、特に、 死に際が眠り薬の中にあったロミオを死んだと勘違いして、ジュリエットは剣で自害する、眠りから覚めロミオは自死した彼女を見て、本当に服毒死する。それでも、ストーリーが成 り立ってしまうのは、ひとえに本物の恋は、すれ違いそのものだから、という作者の辛味の利いた観察眼のせいかと思われます。なのに、なぜ、あんなに人気があるのか?多分、或る 意味で、群像劇だからなんでしょうね。あの頃なら、みんな、気分で死んじゃうよ、ということでしょうか。普遍性というのは、そうやって来てしまうものなのか。とまあ、久々に、 若い頃観たこの劇を、冷静に戲曲でたどったわけなんですが、観客をも味方に巻き込む真の群像劇なんだなと、この四十年の距離をたしかめてしまいました。ジュリエットは、14歳な んですね。あれが、すべての出発点です。ロミオって、こんなデクノボーだったのか。考えれば考えるほど、この話、むしろ事後検証によって、いよいよ楽しく味わえて来ました。
Posted at 2016年8月31日 午後 03:53 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]