2023年10月25日 (水)

第144回「海程香川」句会(2023.10.14)

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事前投句参加者の一句

選ばなかったオムレツの味人の秋 岡田 奈々
うなだれし喪服の姉や萩の雨 菅原 春み
唇は新酒の雫追ひかける 川本 一葉
そぞろ寒つい軽い嘘のつもりって何 桂  凜火
秋高し供華満載の島渡船 河田 清峰
コスモスや国境といふ導火線 岡田ミツヒロ
食細き猫の瞳や秋淋し 植松 まめ
星月夜プァオーと一声終電車 吉田 和恵
ぽぽと打ちぽぽと山彦をみなへし 佳   凛
曼珠沙華負けず遅れず彼岸花 時田 幻椏
別れ道鰯雲にも夜が来て 河野 志保
千々灯は宇宙の流灯紅葉す 十河 宣洋
針一本の乱れなき今日の月 川崎千鶴子
月もまた人に踏まれり吞んで寝る 銀   次
自分より飛び出す他人流れ星 野口思づゑ
敗戦と父言わざりきその墓洗う 野田 信章
地球時計屋なら虹のふもとだよ 三枝みずほ
化粧水しんなりなじむ今朝の秋 丸亀葉七子
雁渡る日やいつになく朦朧体 若森 京子
亀虫とわたし深夜のエレヴェーター 重松 敬子
青春の「あとがき」ばかり辿る秋 山下 一夫
探しものの途中かりがねに夢中 榎本 祐子
古バナナ父の父の父破れ襖 豊原 清明
<天龍寺にて>火の玉が飛び交わすかに秋あかね 田中 怜子
虫時雨足から石になりにけり 亀山祐美子
空よりも大地の好きな小鳥来る 藤田 乙女
いつのまに振り向くならい小鳥来る 新野 祐子
ほーほっほほー夜長のコタンコロカムイ 島田 章平
供物桃「海軍二等軍楽兵」 藤川 宏樹
さまざまな死因へそっと月が出る 松本 勇二
ためらいはいちじくの青妬心なお 大西 健司
深酒をして虫売りの鼾かな 津田 将也
満月の老斑ならむうさぎ逃ぐ 鈴木 幸江
みんな善人毬栗のとげとげにぶつかる すずき穂波
秋光やいつも前から来るチャンス 山田 哲夫
栗飯炊く調整終えし入歯かな 山本 弥生
鉄橋に焔の記憶まんじゆしやげ あずお玲子
さりげないピアスの奥の大花野 伊藤  幸
花なるや草にすがれる空蝉は 疋田恵美子
名月や白くなりいて西に去ぬ 三好三香穂
街角の黒板アート小鳥来る 柾木はつ子
整然と棚田にモザイク青田風 佐藤 稚鬼
霧の彫刻空へ緑へ土へ 薫   香
鶏頭に飛びつく光濡れていた 高木 水志
またや見んつまづかぬやう大花野 荒井まり子
間違ってゐるならごめん吾亦紅 柴田 清子
敗戦を終戦とうそぶく「神の国」 田中アパート
寝違えた梟そういえば居る 三好つや子
月白やひとに水面のありにけり 佐孝 石画
秋の夜の画集に蒼き馬眠る 稲   暁
侵略や見渡す限りカンナ燃ゆ 石井 はな
茄子の馬鏡に近くなりにけり 男波 弘志
にんげんは二度死ぬらしい秋薔薇 向井 桐華
八月の空や舞い散る願い事 小山やす子
実を地中に隠す忍術落花生 漆原 義典
肌寒し影とぶつかる叫びかな 竹本  仰
座禅組む先ずどくだみの近づきぬ 飯土井志乃
秋の朝城主に三毛を迎えをり 佐藤 仁美
プロポーズ成功しそうスーパームーン 松本美智子
今もゲルニカ愚かな戰の牛馬の叫び 増田 暁子
青滲む異国の切手小鳥来る 大浦ともこ
たまねぎや死は終わりじゃない周作忌 福井 明子
あのチーム蝉の権化の18年 塩野 正春
草を刈る無冠の力ありにけり 稲葉 千尋
赤とんぼ父の遺品にハーモニカ 増田 天志
綿菓子の雲繋がりし秋の暮 中村 セミ
十月ノフリコメサギノデンワキレ 淡路 放生
夕映えや溶け合うように河鹿鳴く 樽谷 宗寛
トルーマンのサル呼ばわりニッポンそぞろ寒 滝澤 泰斗
白湯飲んで体すみずみ月あかり 月野ぽぽな
繊月やデートリッヒの残像か 森本由美子
アトリエに転ぶ檸檬の青き影 風   子
十月や森の匂ひの頁閉づ 松岡 早苗
秋昼の木を積む遊び果てしなく 小西 瞬夏
釣瓶落し海を呑み干す赤ん坊 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「肌寒し影とぶつかる叫びかな」。説明的な句には、詩情が、乏しい。この句には、意外性が、ある。読者も、想像力を働かせ、参加したいのだ。

小西 瞬夏

特選句「十月や森の匂ひの頁閉づ」。十月のある一日、森で読書をしたのだろうか。それとも家にいても、その本を閉じるとき森を感じたのだろうか。どんな本なのか、今の心の内はどうなのだろうかなど、想像が膨らみ、この一句の世界に浸っていた。

松本 勇二

特選句「秋光やいつも前から来るチャンス」。チャンスの来る方向を言い定めて皆を納得させた。真っ向からくるチャンスを受け止める人の幸と、見送る人のゆるやかな人生を思わせる。特選句「秋桜日にち薬は空から来(すずき穂波)」。日にち薬はどこから来るのか。思いも寄らぬところからやってきた。季語も良い。

風   子

特選句「秋光やいつも前から来るチャンス」。そうか、チャンスは前から来るのか。前を見て逃さぬように、と思うけどぼんやりの私には無理か。「コスモスや国境といふ導火線」。本当に国境が難しい。「秋の日の青年櫂に雲を掬ふ」。青年だから雲を掬う。若さだなぁ。

十河 宣洋

特選句「雁渡る日やいつになく朦朧体」。いつもと違う自分を感じている。晩秋の寂しいような気分が自分にも空の雁にも感じている。特選句「プロポーズ成功しそうスーパームーン」。スーパームーンに出合った。その気分のいい時間。これは今日のプロポーズが上手くいきそう。心弾むときである。結果を知りたい。問題句「トルーマンのサル呼ばわりニッポンそぞろ寒」。問題句ではないが問題。まだこのことを知っている人がいたかと思った。すべての始まりはこの思想の底にあるものから始まった。

岡田 奈々

特選句「釣瓶落し海を飲み干す赤ん坊」。スケールでか。こんな子供待っています。 特選句「さりげないピアスの奥の大花野」。ピアスの穴は花野のメビウスの輪の一部。ピアスの穴の中を覗いてみたい。「そぞろ寒つい軽い嘘のつもりって何」。嘘に軽い重いはありません。「つい」が余計腹が立つ。ぷんぷん。人を馬鹿にして。「月光や河原の石が語り出す」。月の灯りは全ての物に妖しく不可思議な力を授けるのです。「針一本の乱れなき今日の月」。本当に綺麗な仲秋の名月。「自分より飛び出す他人流れ星」。私と関わっている人は私の中を流れ彷徨う星のよう。回って来たと思うと去っていく。「釣瓶落し静かに響く地球かな(漆原義典)」。釣瓶落としは耳に聞こえ無いけれど、私達の心に感動という波動を伝えているのですね?「月白やひとに水面のありにけり」。白く輝く月光は間違いなく人の感銘という鏡に水を湛えます。「芒野や相思相愛というまぼろし」。相思相愛なんて、描いた餅。机上の空論。「白湯飲んで体すみずみ月あかり」。白湯は体に凄く良いと聞いています。月の女神の化身とか。以上。

樽谷 宗寛

特選句「コスモスや国境といふ導火線」。止まない戦。国境といい導火線が心に刺さります。コスモスが色を添え、安らぎを頂けました。コスモスのような世界がはやく天地に訪れますように。

塩野 正春

特選句「コスモスや国境といふ導火線」。人間の性か神の仕業か戦争が頻繁に起こっていますね。しかもその多くが国境をめぐっての争い。目には見えない国境もあり、国民を守るようでいて攻撃の対象にもなる。国が変われば言葉もかわる、文化も変わる。宗教も。それらがいずれも紛争の導火線とは・・コスモスよこの素晴らしい地球を守り給え。特選句「空よりも大地の好きな小鳥来る」。 私たち人間から見れば煩雑な地上よりも広大な空にあこがれます。ところが小鳥たちにはそうでない。空は単なる通行の手段で、エサが多い、人間が多い地上がいいらしい。戦争も気象変動もなんのその、電線に停まってピーチクパーチクしゃべりあってる。ほんとの平和を感じさせる。

月野ぽぽな

特選句「さまざまな死因へそっと月が出る」。生きとし生けるものに必ず訪れる死。死に目を向けることはつまり生に目を向けることになります。死、というだけでは見えず、死因、ということでその生の姿が想像できることに気づかされました。一読、人間を思いますが、読むうちに、犬や猫や馬や牛、鳥や魚や虫、といった動物の姿も見えてきます。そっと月が出る、の表現から、どのような道を生きるどんな命にも注がれている大いなる慈悲、宇宙の摂理を感じました。

三枝みずほ

特選句「白湯飲んで体すみずみ月あかり」。月あかりが浸透していく体へ白湯が心をほぐしてゆくのだろう。そして月は傷を癒し命を繋いでいる。

豊原 清明

特選句「ぽぽと打ちぽぽと山彦をみなへし」。二枚の句会の原稿を読み、今月はこれが良いと思います。分かりやすくていいなと思わされます。問題句「夕映えや溶け合うように河鹿鳴く」。夕焼けではなくて、「夕映えや」が印象に、残りました。河鹿の声が聞いたことがない、物知らずの我を恥じる。

疋田恵美子

特選句「さりげないピアスの奥の大花野(伊藤 幸)」。奥の大花野、成る程登山者はこの景に出会うことで山の虜になります。「にっぽん百名山」を楽しみにみています。若者のさりげないピアスいいですね。特選句「愚も鈍も隔世遺伝もみじもみじ」。隔世遺伝が良い。娘の子供の頃と、息子の孫がそっくり内心とても嬉しいです。

藤川 宏樹

特選句「プロポーズ成功しそうスーパームーン」。プロポーズ、確かに成功しそうですね。・・・来世は告るスーパームーンの下・・・羨望のマドンナゲットに挑みましょう、次の世で。

柴田 清子

特選句「ためらいはいちじくの青妬心なお」。心中のどうしょうもない迷いを、無花果の青をもって一句にしている所、特選です。特選句「寝違えた梟そういえば居る」。この梟今一つ理解に苦しんだが、特選を外すわけにはいかない。私には、魅力ある一句です。梟です。

川本 一葉

特選句『青春の「あとがき」ばかり辿る秋』。秋という季節と、青春が遠い現在、あとがきと辿るという表現に膝を打ちました。年取ると答え合わせのように解決できたりできなかったり。時間はとても優しいものです。反省とも後悔とも違うこの微妙な感情。とても素敵な句です。ありがとうございました、と思わず言ってしまいます。

若森 京子

特選句「草を刈る無冠の力ありにけり」。長い人生において無冠の力が99%だと思う。草を刈る行為を無冠の力と表現した上手さに感心した。特選句「繊月やデートリッヒの残像か」。繊月の繊細な少しエキセントリックな光と形象を懐かしい女優デートリッヒとした喩の感性に惹かれた。

滝澤 泰斗

特選句「釣瓶落し海を呑み干す赤ん坊」。海なし県で生まれ育った私が始めた見た海に沈む夕陽は新潟県の鯨波・・・それ以降、海に沈む夕景が好きになり、折々にその夕景の中に身を沈めた。夕景の句は数多あるが海を呑み干す赤ん坊とは、斬新。特選句『青春の「あとがき」ばかり辿る秋』。古稀を越え、7回目の干支を過ぎると、若いころ、ちょうど、学校を卒業したあたりの事がしきりに思い出される・・・秋はまたそんな思いに添うにはピッタリの季節。私の「あとがき」は、後悔しきりな話と若気の至りの恥ずかしい思いばかりだが、新鮮に受け止められた。「コスモスや国境といふ導火線」「鉄橋に焔の記憶まんじゆしやげ」。仕事柄、イスラエルやウクライナを旅してきた。有刺鉄線の軍事境界線に平行して造られた哨戒道路の一触即発の緊張。ヨルダンとイスラエルの国境のアレンビーブリッジは侵入を防ぐためのアップダウンにうねる道の高台で銃眼がこちらを狙っている恐怖を味わいながら・・・そんな道すがらに野のユリは何もなかったように風に戦いでいる。「今もゲルニカ愚かな戰の牛馬の叫び」。東京駅丸の内側北口のOAZO(オアゾ)に原寸の「ゲルニカ」がある。その向かいのスタバは家路につく前のクーリングダウンの場所だ。しばし、お茶を飲みながら思うのは、戦乱止まない愚かな人間の営み・・・戦争。「アトリエに転ぶ檸檬の青き影」。今月は句に即発された思い出が蘇った句が多かった。南フランスのエクサン・プロヴァンスには、セザンヌのアトリエがある。宗左近氏の名著「私の西欧美術ガイド」に詳しくそのアトリエの事が詳しく載っているが、訪れる前の宗氏の解説は何を言っているか全くわからない状態だった。しかし、行ってみて、再読して、漸く、セザンヌの凄さが分かったことを掲句で思い出した。作者の言うアトリエとは違うかもしれないが、ガラス窓を透す光と静物の影、そよぐ窓の外の木々の空気感そのもの・・・旅情を味わいました。

松岡 早苗

特選句「ほーほっほほー夜長のコタンコロカムイ」。「ほーほっほほー」の擬音、「コタンコロカムイ」の「こ」の音の重なりが心地よいリズムを生み、秋の夜の静けさを際立たせているようです。今夜も神様は高い木の上から、シマフクロウの姿で見守ってくださっているのでしょうね。特選句「鉄橋に焔の記憶まんじゆしやげ」。戦火によって焼けただれ湾曲した鉄橋でしょうか。平仮名の「まんじゆしやげ」からは、犠牲になった幼い子どもたちの姿も想起されます。あかあかと立つ曼珠沙華が切ないです。

大西 健司

特選句「敗戦と父言わざりきその墓洗う」。戦前戦後をひたすらに生きて来た、その父の生きざまを作者は重く受け止めているのだろう。噛み締めるように墓を洗う行為が沁みてくる。ただ下五の「その墓洗う」の座りがあまりに悪いのが気にかかる。もう一手間かけても良いのでは。問題句「十月ノフリコメサギノデンワキレ」。カタカナ表記が効果的で好きな句です。ただ上五が気にかかる。十月のじゃないだろう。ここは「や」としたい。「や」が嫌なら「神在月」とか「神無月」ではと思わないでも無い。同じく「秋の夜の画集に蒼き馬眠る」。も「秋の夜や」としたい。それから「少年になりたい少女林檎噛む」。「林檎噛む」じゃなく「齧る」ではなどいろいろとうるさく言いたくなるのは秋のせいだろうか、困ったものだ。

津田 将也

特選句「秋扇また声掛かる退職後(野口思づゑ)」。私の妻は国の役所に勤め、定年を全うして退職しました。その後は、前職業務の「重ねる問い合わせ」「業務に関連する支援」「各種行事への参加」など、頼られる日々が多く、妻に退職者としての「余裕ある生活」が訪れるようになったのは、4~5年もの後のことでした。特選句「十月ノフリコメサギノデンワキレ」。ほんに怖い世の中になりましたな。昨今では、メールやファックスなども頻繁に届きます。

福井 明子

特選句『供物桃「海軍二等軍楽兵」』。霊力を持つという桃を供える、その墓碑には、海軍の等級が刻まれてある。戦時中でなければ、音楽に心を添わせ一生を終えたかもしれぬ。漢字連なりの一句の中に、軍楽兵という文字が、ことさら、人のこころのしなやかさへの束縛を表して、胸に刻まれました。

男波 弘志

「間違ってゐるならごめん吾亦紅」 秀作。今、世界の指導者に必要なことは政治を動かすことではない。ささやかな花の揺れに耳を澄ますことだろう。花鳥風月に心を解き放つことの意味を噛みしめている。人は人間だけに執着すれば必ず行き詰まり、誰かを憎み、そして民族同士の軋轢に発展する。この不完全な人間の所業だけを信じていれば不完全な思考に振り回されることになる。だからこそ、花鳥風月有難きかな。

あずお玲子

特選句「深酒をして虫売りの鼾かな」。思わず笑ってしまいました。この虫売りは如何ほどに大きな鼾をかくのでしょう。虫もさぞびっくりでしょうね。俳諧味溢れる一句。特選句「寝違えた梟そういえば居る」。夜明け前に動かない首を動かそうとしている作者。それを窓越しに見つめる梟。静かな闇に気配を感じ、梟と目の合う作者。梟は何してんの?とまん丸の目で問うているかもしれません。

河野 志保

特選句「月白やひとに水面のありにけり」。ひとに水面があるというのはどういう事だろうか。いろいろ考えたが、動かない水面を想像し表情の静けさと受け取った。そしてこれは作者自身のことではないかと思った。月で白んでいく空を見る時間、作者の心は整い澄んでいくのだろう。

山田 哲夫

特選句「コスモスや国境という導火線」。作者の、国境が「導火線」だという比喩による認識をすばらしいと思う。ウクライナもパレスチナもミャンマーもその他の国々の様々な紛争も多くはこの「導火線」に関わるところから発生し、当事国だけでなく、地球全体の平安を揺るがす事態が生じている。国境を隔てなく咲き誇るコスモスを想うとき、人間の営為の愚かさが気付かされてくる。特選句「さまざまな死因へそっと月が出る」。「死因」という言葉が気になってどんな死因があるだろうかと類語辞典を開いてみたら何十もの死因が出ているので呆れて途中で数えるのを止めてしまったが、何とも様々な死因があるものだと感心すると同時に「生死はなはだ尽き難し」の念いが湧いてきて愕然とさせられた。生きとし生けるものの何れは直面せざるを得ない死という現実に対して、自然は冷淡なほどに淡々として存在し、どんな死因も受け入れられて自然の中へ回帰されてゆく。「そっと月が出る」とは、なんとやさしい同情的な素敵な受け取り方だと作者の心根に同感すること頻りである。

桂  凜火

特選句「白湯飲んで体すみずみ月あかり」。白湯ってこんな感じがする飲み物だとしみじみ実感しました。さりげなさに好感がもてました 月あかりもいいですね。

野口思づゑ

特選句「コスモスや国境という導火線」。下5 の導火線がとても巧みです。導火線が点火され紛争があちこちで起こっている現状を冷静に句にされている。

森本由美子

特選句「さまざまな死因へそっと月が出る」。太古より人間が月に寄せてきた思いは計り知れない。無機質な岩と土らしきものから成り立っている映像を見せつけられても、人間の月に対する思いは変わるまい。また月の人間に対する思いにも言い知れないものがある。死に関わる思いやりを含めて。

中村 セミ

特選句「さまざまな死因へそっと月がでる」。月も人の死に方に心を寄せてくれているのだろうか。月は喋りもしないし地球から近いといっても、遠い。月は海の満干をつかい、人を死に導くこともあるだろう。とにかく人が死ぬ時は,ある意味微力ながら、月は手伝っているのだ。物理的に。そう勝手に読みました。

稲葉 千尋

特選句「秋の夜の画集に蒼き馬眠る」。画集に描かれた「蒼き馬」どこの馬だろうか想像させる。そして、それが駆け出すのが見える。夢のある句。

伊藤  

特選句「秘密基地に飛べ母の一機空高し(竹本 仰)」。お母様は亡くなられたのであろうか。在りし日に作られた紙飛行機がテーブルの上で「飛びたいよ」と叫んでいる。お母様しか知らないお母様の秘密基地。「さあ飛びなさい」と優しい息子(娘)は秋の空に向かって思い切り飛ばしてあげるのだ。

増田 暁子

特選句「月白やひとに水面のありにけり」。人には水面がそれぞれにあるのか。その通りで納得しました。特選句「白湯飲んで体すみずみ月あかり」。中7下5の透けるような感覚。心身に突き刺さる月あかり。感激です。

河田 清峰

特選句「たまねぎや死は終わりじゃない周作忌」。そうでありたいと願うばかり。

鈴木 幸江

特選句「秋深し土瓶の蓋の穴から湯気(山田哲夫)」。つい最近までは、庶民の家に土瓶が必ずあったものだ。いつの間にやら日本茶等を飲むことが少なくなった我が家からも消えてしまった。土瓶には市井の人の逞しさが宿っていた。今は松茸の土瓶蒸しぐらいだろうか。民族の生活の変化と共に失われてゆく道具は文化も連れて行ってしまう。作者は悲しくて怒っているのか。穴から吹き出る“湯気”に共鳴している姿が、なんともユーモラスでとても味わい深く伝わってくる。私も土瓶が欲しくなった。

漆原 義典

特選句「曼珠沙華よりはじまる吾の記憶かな(銀次)」。曼珠沙華と記憶がよく響き合っています。曼珠沙華は彼岸花とも言い、遠い昔を思い出させてくれます。素晴らしい句をありがとうございます。

佳   凛

特選句「鉄橋に焔の記憶まんじゅしゃげ」。二次大戦の折の広島を詠んでおられるのでしょうか?嬉しい記憶は時には、忘れる事があるが、悲しい記憶は忘れる事は難しいと思います。その記憶に咲くまんじゅしゃげの色も、又悲しみを増幅させる事でしょう。とても切ないです。特選句「間違つてゐるならごめん吾亦紅」。人は自分が間違っている事に、気付いてもなかなか謝れません。この句のように、素直になる事が、平和への第一歩かも知れません。とても、難しいですが。私も、素直になります。

淡路 放生

特選句「地球時計屋なら虹のふもとだよ(三枝みずほ)」。この句、時計屋がいい。精密機械のチクタクで地球のおもしろさが感じられる。虹のふもとが妙になつかしい。思いきった発想が生き生きと読む者につたわる。

川崎千鶴子

特選句「そぞろ寒つい軽い嘘のつもりって何」。相当いらだっているのが伺われます。これからドンパチか、怒って席を立つか。 臨場感あふれる場面が浮かびます。「何」が利いて素晴らしいです。『青春の「あとがき」ばかり辿る秋』。青春の思い出を言われているのでしょうか。文学的表現で奥が深いです。「コスモスや国境といふ導火線」。コスモスと導火線の斡旋が見事です。もしかしたら国境もコスモス的かもと。

田中 怜子

特選句「敗戦と父言わざりきその墓洗う」。父親が学んできた考え、自負心等と、父親と話をできなかった悔いと。ざっくばらんに喧々諤々話し合えない日本人の心性。変えたいですね。特選句「十月や森の匂ひの頁閉づ」。森の針葉樹や湿気を帯びた菌類の匂いが感じられた、清潔感とこの方の生活の在り方がにじみ出る様です。

吉田 和恵

特選句「ほーほっほほー夜長のコタンコロカムイ」。アイヌの神が夜通し歓談している情景が眼裏に浮かびます。ところで、山の奥深くまで重機が入る昨今、山の神様達はいかにおわすことでしょうね。特選句「あちかじぬたてぃば ふぃちゅいにぬすらに<和訳:秋風の立てば 一人寝の旅の空>(島田章平)」。高らかに方言の復活を!

佐藤 仁美

特選句「みんな善人毬栗のとげとげにぶつかる」。善人と思いたいけど、気が付けばトゲに刺されることがあります。中の栗の実は美味しいのに・・・。このトゲは自分が持っているのかもしれません。特選句「星流る点滴という宇宙食(三好つや子)」。点滴が宇宙食と例えるとは!闘病にユーモアが寄り添ってます。

松本美智子

特選句「唇は新酒の雫追いかける」。我が家にもお酒が大好きな人がいますが・・・酒飲みの「新酒を一滴も逃すまい」とする様子が伝わってきます。おいしい新酒を呑みたくなりました。選句しませんでしたが「十月ノフリコメサギノデンワキレ」。が気になりました。実は実家にも詐欺電話かかってきて母がだまされました。それが十月でした。この句は季語がなぜ十月なのか、他の月でもいいのではないか?いわゆる「季語が動く」問題があると思います。十月に詐欺が多いわけではないでしょうが、私も母の詐欺について句を詠もうとして断念した記憶があり今度挑戦してみたいと思います。季語は何がいいのか・・・難しいなあ。

野田 信章

特選句「いつのまに振り向くならい小鳥来る」。中句にかけてのさりげない修辞の表白と「小鳥来る」との配合が美しい。初老の自覚かと思える。このことを受け入れて生きている自己客観の視点の確かさが「小鳥来る」との出合いかと読んだ。

榎本 祐子

特選句「ぽぽと打ちぽぽと山彦をみなへし」。鳴り物をぽぽと打つと、山彦もぽぽと応える。自然の霊との交歓。「おみなへし」もさりげない風情で素敵です。

重松 敬子

特選句「十月や珈琲豆の爆ぜる音(向井桐華)」。暑さもやわらぎ、食卓にもほっと感がよみがえりました。我が家でも幸せなひとときです。特選句「秋光やいつも前から来るチャンス」。作者の明るさにエール!!

高木 水志

特選句「ためらいはいちじくの青妬心なお」。いちじくの甘酸っぱい味や独特の食感は妬心に通じるという発見がおもしろいと思った。

新野 祐子

特選句「みんな善人毬栗のとげとげにぶつかる」。「みんな善人」がおもしろい。毬栗にとげとげがあるのは当然ですが、この世の中みんながみんな善人とは言えませんから。「敗戦と父言わざりきその墓洗う」。生前のお父さんの姿が見えてきます。そのお父さんに反発しつつも尊敬していた息子(娘ではないですよね)も。

岡田ミツヒロ

特選句「プロポーズ成功しそうスーパームーン」。やった!プロポーズ成功だ。心は躍り、天にも昇る。夜空のスーパームーンが煌々たる光でやさしく全身を包み込む。遠い日の感動が思わず蘇った。

石井 はな

特選句「八月の空や舞い散る願い事」。八月は重い月です。平和の願いも舞い散らせてしまう不安を感じます。

植松 まめ

特選句「侵略や見渡す限りカンナ燃ゆ」。パレスチナの争いの事か?緋色のカンナが戦火の拡がりを暗示しているようだ。特選句「月光の海断崖のトランペット(岡田ミツヒロ)」。映画の一シーンのような句。美しい。

柾木はつ子

特選句「ぽぽと打ちぽぽと山彦をみなへし」。とてもリズミカルで思わず暗誦したくなる句です。特選句「少年になりたい少女林檎噛む(月野ぽぽな)」。この少女の気持ち分かります。また少女になりたい少年もいるのでは・・・どちらの数が多いか興味のあるところではあります。

竹本  仰

特選句「少年になりたい少女林檎嚙む」。中学生になった時、制服で男子と女子が遠く隔てられた、あの時の感じを思い出した。それは生き方を指示されたくらい重要なことだったと思う。そういうことに強烈な違和感を思い、その背景にはたらく力を感じた時、「なぜ」と思ったことがある。そういう矛盾の原点を衝いた句だと思った。昨日のジャンヌ・ダルクはいつだっている。聖書の中のアダムとイヴじゃないけれど、誘わずに林檎をがぶっとやっちゃうイヴだっていていいのだ。特選句「秋の夜の画集に蒼き馬眠る」。誰の画集だろうか。昔、友人の下宿を訪れた時、キャンバスがあり、ゴッホの「夜のカフェテラス」を描いている最中だった。絵を始めたという事だった。その時に感じたのを言葉にすると、まさに「蒼き馬眠る」だったろう。夜の彼の背中を感じてしまった。痛々しくもまっすぐな何か。有島武郎の『生れいづる悩み』を連想する。青春、その何かに縋りつきたい匂いがするのだ。特選句「十月や森の匂いの頁閉づ」。読書の楽しみの一つは、そういう嗅覚なんだと思う。嗅ぐというのが五感の中で一番鋭い。そういう匂いに引き寄せられて、肉体として感じてしまう読書。内田樹さんは、カミュを原語で読むと、肉感がいきかえるという。つまり、ページを越えて引き寄せ肉体をよみがえらせるものがあるという。そう感じた時、引き返せないくらいの濃い対話があることに気づいたりする。そう、何度でもそこへ帰りたい森の匂いがあるのだ。ところで、この句、読んだ後のことを言うのか、読んでいる途中のことを言っているのか。多分途中の事なのでは、と思う。引き返せないくらいの濃い出会い、しばらくページを閉じて味わっていたいのだ。以上です。♡先日、偶然時間が出来て、カカオ句会からお知らせのあった新大阪でのリアル句会に出ました。そのとき、「選句がいちばん楽しい」という言葉がいつまでも耳に残りました。私にとって、どうだったか?みなさんは、どうです?たしかにとてもありがたい機会に恵まれているんだなあと、振り返りました。俳句の中身ではないこんな周辺の声から、妙にぞわぞわと鳥肌が立ちました。時々、選句しながら、こちらのツボを痛く刺激するものに出あうと、大変楽しくなります。感謝、感謝です。野﨑さん、そしてメンバーのみなさん、あらためてよろしくお願いします。

飯土井志乃

特選句「花なるや草にすがれる空蝉は」。しっとりした秋の風情の中で、いのち果てしものに再びの美を感じとる一句かと思います。大好きです。

向井 桐華

特選句「コスモスや国境といふ導火線」。ウクライナ情勢やガザの子どもたちが重なった。コスモスというたおやかな、優しさの象徴である花から、導火線へと持って行くところが見事だと思いました。問題句「古バナナ父の父の父破れ襖」。古い記憶のことなのか熟し切ったバナナを前にして詠んだ句なのか、ちょっとわかりにくい。

三好つや子

特選句「コスモスや国境といふ導火線」。日ごと激化するイスラエルとハマスの戦況に思いを馳せました。破壊される街のなか、追い込まれていくガザの人々の姿が浮かびます。事態の沈静化を祈らざるにはおられません。特選句「にんげんは二度死ぬらしい秋薔薇」。人が死に、その人がいつしか忘れ去られることを、二度目の死という。エッセイやラジオのDJなどで目や耳にするこの言葉が、少し翳りのある秋の薔薇の風情と重なり、心に沁みました。「ほーほっほほー夜長のコタンコロカムイ」。村の守り神が降臨する夜、焚火を囲み、飲んだり踊ったりしている村人たち。遠い時代の光景にほっこりとしたアニミズムを感受。「白湯飲んで体すみずみ月あかり」。透明感があり、かつ誰かをさりげなく誘っている雰囲気も。そんな蠱惑的な詩情に惹かれました。

時田 幻椏

特選句「ためらいはいちじくの青妬心なお」「秋風の猫と丸まっても傷む(三枝みずほ)」。言い様の無い心模様の朦朧とした気分、なのでしょうか?『ゐのこづち「遊びませふ」と戦ぎをり』「ぽぽと打ちぽぽと山彦おみなえし」。ゐのこづち と おみなえし 草の選択の妙。

山本 弥生

特選句「深酒をして虫売りの鼾かな」。酒好きの初老の虫売りが、今日は虫がよく売れたので屋台で深酒をしてつい寝てしまった。大きな鼾をかいているが周囲の人も皆そっとしておいてあげている姿が目に浮かぶ。

荒井まり子

特選句「今もゲルニカ愚かな戰の牛馬の叫び」。覚束ない記憶だか兜太先生は「社会性とは態度の問題」と、どこかで話されたと思う。長引くウクライナ。今のイスラエルとパレスチナ、先の見えない今、情報も操作されている現在。平和という言葉が虚しい。今も戦時中だと思うと、人類の進化がどうなるのか。せめて眼を逸らさない事しか出来ない。「今もゲルニカ」と「牛馬の叫び」が欠片となり痛々しい。

稲   暁

特選句「鉄橋に焔の記憶まんじゆしやげ」。誤読かも知れないが、焔の記憶とは戦災の記憶だと読んだ。人は忘れても鉄橋は今も忘れていない記憶があるのだ。特選句「侵略や見渡す限りカンナ燃ゆ」。 ウクライナの野一面にカンナが咲いている光景を詠んだのだろう。侵略の2文字に満腔の怒りを込めて。

大浦ともこ

特選句「白湯飲んで体すみずみ月あかり」。白湯の語感と中七下五の「体すみずみ月あかり」が豊かな詩情を伴って実感として伝わってきます。特選句「秋昼の木を積む遊び果てしなく」。幼い子供の遊びは実に果てしなく、そして可愛いです。優しいまなざしが感じられて好きです。

銀   次

今月の誤読●「秋風の猫と丸まっても傷む」。秋の日が暮れかかろうとしている。そろそろ夕飯の支度にかからなければならない。だがわたしは立つことができず、ひたすら横になって眠りと目覚めのあいだをたゆたっている。抱いている猫がニャーと弱々しく鳴く。そうだね、おまえもお腹が空いたんだね。でももう少し、もう少しだけこのままでいさせておくれ。すきま風がどこからか入ってくる。背中がひんやりとしてくる。抱いた猫の温かみがほんのりとお腹のあたりにひろがる。「あのこと」があって以来、わたしはずっとこんな調子だ。悲劇は人を強くする、なんてことをいう。そうかもしれない。だがそれはもともと強い人のことだ。わたしはそうではない。人一倍弱く、女々しい人間だ。はじめっからそうだった。それを思い知らされたのが「あのこと」だった。そのときわたしは打ちのめされた。そののちしばらくは泣き暮らした。それからまたしばらくして「あのこと」を糸をたぐるように反芻するようになった。そのたびにつらさがよみがえり、胸のあたりをナイフでえぐられるような感じがした。忘れようとしたができなかった。そしてある日のこと、ふいに思い至った。わたしはこうしてつらさのなかにいることが、好きなのではないかと。それは恐ろしい気づきだった。だがこころのうちをまさぐっていくと、確かに悲哀のなかに甘やかな感情が流れている。猫が引っ掻いた傷をなめて甘いと感じるような感覚だ。だからといって、そこから抜け出せたのではない。抜け出すにはあまりにも心地いい陶酔感がわたしを支配しているからだ。こうして今日もまた「あのこと」を取り出してはそっと撫で、甘美な悦楽の闇のなかに身を横たえる。猫とともに。

菅原 春み

特選句「コスモスや国境という導火線」。いいえて妙な現在の状況を無駄なことばを一切使わず、言い切っている潔さ。季語に密かな希望を託しているのだろうか?特選句「少年になりたい少女林檎噛む」。林檎噛むところがなんとも爽やか。あまり考えすぎずに男の子より活発で元気な少女を想像した。

亀山祐美子

特選句「青滲む異国の切手小鳥来る」。エアメールが届く。印刷が悪いのかはたまたポストまでの途中で雨に会ったのか切手の青が滲んでいる。「小鳥来る」の季語が付き過ぎのような気もするが、懐かしさをより増幅させ「青滲む」の不安感を期待感に変える働きを見過ごせない。余計な感情を持ち込まない分小さな「青滲む異国の切手」が読者の想像力をかき立てる秀句。

丸亀葉七子

一読をし、たくさん良い句があるのですが、集中力が無くて選べませんでした。発見があるのに季語がう~ん。言葉が饒舌だったり。次は元気になって本腰を入れて選句をさせていただきます。

山下 一夫

特選句「少年になりたい少女林檎噛む」。中七まではありがちかも知れませんが、季語がアダムとイブを連想させるところやその甘酸っぱさが効いて、シンプルで印象的です。ところで少年と少女の順序は昭和半ばの生まれとしては違和感はありませんが、令和の世では逆でも十分説得力がありますね。特選句「整然と棚田にモザイク青田風」。青々とした棚田に風が吹き、稲穂がそよいで色合いが変わった一瞬を映像のモザイク処理に見立てられたと受け止めました。清々しい動きのある伝統的な風景が現代的なテイストで処理されていろところがまた清々しい。問題句「ぽぽと打ちぽぽと山彦をみなえし」。メルヘンチックな「ぽぽ」のリフレインが「山彦」や「をみなえし」と良いアンサンブルをなしていて好きな世界です。しかし「ぽぽ」は、例えばパソコン等のキーボード打音のようなあえかな音かと思われるだけに「山彦」では大げさに過ぎるかとも。だからと言って「反響」や「返答」では台無しなので悩ましかったです。

藤田 乙女

特選句『青春の「あとがき」ばかり辿る秋』。自分の今の心境そのもので、とても共感しました。同じ思いの方がいらっしゃることに友を得たような感覚でした。特選句「いまぼくがここに居ること林檎食む(野﨑憲子)」。青春の輝きと息づかい、希望を感じるような素敵な句でした。

薫   香

特選句「月光の海断崖のトランペット」。月光に照らされて一人海に向かってトランペットを吹く、映画のワンシーンのようで素敵です。特選句「アトリエに転ぶ檸檬の青き影」。どんな絵を描こうとしているのか、想像が膨らみアトリエと作者が目に浮かびます。

野﨑 憲子

特選句「千々灯は宇宙の流灯紅葉す」。<千々>とは、数が非常に多いこと。変化に富んだ人類の灯が<宇宙の流灯>へと昇華されてゆく。旭川に住む作者は、秋の早い地で紅葉の中掲句の世界を幻視されたのではないだろうか。ふっとジョンレノンの言葉を思い出した。「今までに読んだ詩の形態の中で俳句は一番美しいものだ。だから、これから書く作品は、より短く、より簡潔に、俳句的になっていくだろう」。長引く戦争は、飛び火している。今こそ、宇宙の中に生かされている人類(宇宙人)として、世界へ向かって、ここ「海程香川」から、言霊の幸ふ日本の愛語の俳句を、熱く、そして、猛烈に発信して行かねばならないのではないだろうか。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

言の葉が遊びたがつて秋の皿
野﨑 憲子
一枚を割って雨月の皿屋敷
島田 章平
八冠に王手皿に栗羊羹
島田 章平
デルフトの皿の生成りに柿の朱
大浦ともこ
ナオミ手を皿に林檎を四等分
あずお玲子
澄む
空澄むや寝ころんでいる羅漢さま
増田 天志
梟と目の合ふ森の星澄める
あずお玲子
水澄む世界で私はどうかしら
薫   香
沈下橋あまたある街水澄めり
大浦ともこ
空澄むや大観覧車にてデート
増田 天志
水澄めり水切り石のつーつーと
柴田 清子
ああ掻き回したし澄むや水
銀   次
「実はね」に興味なさそな月澄みて
岡田 奈々
水澄むやぼくらはみんな宇宙の子
野﨑 憲子
水澄むや乱世に祈る世界地図
増田 天志
水澄んで独りの夜の皿洗ふ
島田 章平
別れとはたとへば水の澄み始め
島田 章平
鉄塔は無敵に闊歩まんじゅしゃげ
増田 天志
サヨナラは野辺一叢の曼珠沙華
大浦ともこ
秋遍路
足早の秋の遍路となりにけり
柴田 清子
米粒に目鼻書かむや秋遍路
増田 天志
秋へんろ土蔵の窓は高きかな
増田 天志
強力な晴れ女いて秋遍路
岡田 奈々
讃岐路に天志ありけり秋遍路
野﨑 憲子
大津から阿波へとひとり秋遍路
野﨑 憲子
影を連れ足の重たき秋遍路
島田 章平
果てしなき戦の報や秋遍路
増田 天志
彼岸花
人柄の凡句に出でり彼岸花
藤川 宏樹
一輪だけの彼岸花私ここに
薫   香
曼珠沙華まつげエクステしてみたり
岡田 奈々
草影に沈み名残りの曼珠沙華
柴田 清子
渦の果て無一文なる曼珠沙華
増田 天志
ちょっと待てそこから先は彼岸花
島田 章平
世界地図燃え上がる報まんじゅしゃげ
増田 天志
花嫁の打ち掛けの裾に赤き蟹
銀   次
生身魂真っ赤に生きて真っ直ぐに
島田 章平
彼岸花真っ赤芸術は爆発だ
島田 章平
縁側に足踏みミシン赤とんぼ
増田 天志
おにぎり全部夫に食べられ赤まんま
岡田 奈々
赤こんにゃくあの少年はどこに居る
野﨑 憲子
赤坂も赤羽も好き赤とんぼ
大浦ともこ
その案山子わたしと同じ赤ジャージ
あずお玲子

【句会メモ】&【通信欄】

今月も、大津から、増田天志さんが「鉄道開業150年記念切符」でご来高。事前投句の合評と袋回し句会の合間に、今月末の「海程香川」山形吟行に因んだ「芭蕉翁の梵我一如」の続編の熱弁で句会を大いに盛り上げてくださいました。天志さん、遠路、ありがとうございました。

コロナ禍のようやく緩む中、今月二十八日からの「海原」全国大会参加の後、久し振りの「海程香川」吟行です。念願の山形へ! 少人数ながら山形の新野祐子さんと、ご参加の方々と共に存分に楽しんでまいります。

2023年9月28日 (木)

第143回「海程香川」句会(2023.09.09)

会報.jpg

事前投句参加者の一句

梅酒(うめざけ)に梅の実ありし考(ちち)ありし 稲葉 千尋
うるわしのくずきり母は母のまま 伊藤  幸
もう人を寄せつけぬ色秋の海 風   子
吊るランプ ルシャランプロのランプ点く 中村 セミ
遠花火時空のくびき解きたし 石井 はな
涼しさや海峡を翔ぶ白鳥座 稲   暁
原爆忌あの日あの時あの場所に 増田 天志
片蔭に右頬腫らすゴスロリさん 田中 怜子
濁音で逢いに来るひと葉鶏頭 男波 弘志
二歳兒の憂い顔って草の花 森本由美子
朝顔の浴衣や老女紅を引く 銀   次
震災忌師はいかに魂つくりしか 新野 祐子
蜩を纏えば響く僕の骨達 高木 水志
お月さまずっと一人のファルセット 河野 志保
群衆の中の孤独や赤い羽根 重松 敬子
私からあんたを引くと秋の風 柴田 清子
銀河美し地球を鬱にさせごめん 増田 暁子
廃校やおおむね晴れて蕎麦の花 佐藤 仁美
そこここに夏ものがたり草の影 榎本 祐子
彦星やまだ良きこともありぬべし 疋田恵美子
襞に入るひかり帰さず鶏頭花 月野ぽぽな
ぎこちなきギブスの右手藤は実に 河田 清峰
ひっそりと初恋の色稲の花 漆原 義典
泣いたまま夏の影出て歩きだす 桂  凜火
台風圏東京で買うゴムブーツ 津田 将也
手話の少年ときに精霊飛蝗かな 大西 健司
阿国一座に人攫いゐて蓑虫鳴く 淡路 放生
夏帽子で始まる恋もここ神戸 樽谷 宗寛
夏休み終わるよ戻れ家出猫 植松 まめ
バラ多彩そよぎそれぞれに重さあり 佐藤 稚鬼
ほゝづきをあつさり鳴らし妻の昼 小西 瞬夏
大亀の道中祈願秋遍路 鈴木 幸江
燃え滓の花火の軸の引き揚げ記 福井 明子
ひがんばな満開といふさみしさに 佳   凛
革命ちゅうは鼻血じゃなかか飛んだ星 竹本  仰
教頭の流すそうめん皆で取る 松本美智子
水滴の大きく響く無月かな 亀山祐美子
氷菓子ざくざくかじる野の子供 豊原 清明
白靴脱ぐあのねぇって言ったきり 三枝みずほ
またお前か朝蝉の死んだふり 菅原香代子
ひまわりや皆うなだれて黒くなり 三好三香穂
居待月めがねが一つ辞書の上 山田 哲夫
落鮎や糾(あざ)う事無き歳の恋 時田 幻椏
郷愁をぽちっとカートへ夜の秋 松岡 早苗
終戦日知らずに彷徨う更級郷 滝澤 泰斗
我が手だけ見暮らし古希に秋ですね 岡田 奈々
降り初めし木犀の雨金の雨 川本 一葉
今日まで四さい明日は五歳の僕 薫   香
夏満月の澄みよう妻の忌をかさね 野田 信章
月涼し夫婦茶碗の欠けしまま 荒井まり子
落蝉の空を掴んだままの手の 佐孝 石画
朝顔のたとえば巡礼夜を渡る 吉田 和恵
露の身や未だ果たせぬ断捨離行 柾木はつ子
マトリョーシカ秋思の影の大中小 三好つや子
さすらいの飢餓月匂う子供らよ 若森 京子
艶々の茄子売る人の手元見る 小山やす子
魂送り母のかたちで手を合はす 野口思づゑ
袂ゆらす秋風越中おはら節  丸亀葉七子
いわしぐもどこにことばを置忘れ 菅原 春み
新涼の古都ヘプバーンの襟足 藤川 宏樹
語るまい黙して独り蝉しぐれ 田中アパート
つっかけで転んで二百十日かな 向井桐華 向井 桐華
あめゆじゆとてちてけんじや ゆきのひとわん 島田 章平
一世紀を越えし優勝汗と泥 山本 弥生
胸痩せて秋蝶の影平らなる あずお玲子
残暑ですねえ「処理水」ですよ海神さま 岡田ミツヒロ
平泳ぎ地球の裂け目見つける手 十河 宣洋
メガトンてふ永久の単位や原爆忌  塩野正春 塩野 正春
乗り継いで吟行の地は秋時雨 川崎千鶴子
盂蘭盆会父という字のもたれ合う 松本 勇二
鬼灯の逃げも隠れもせぬ色に 谷  孝江
父見舞ふ野分のことや母のこと 大浦ともこ
露けしや短調がちの兄の唄 山下 一夫
蘇る青春の恋梨を剥く 藤田 乙女
釣瓶落し時の鎖を解き放て 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「水滴の大きく響く無月かな」。ふと試合前のボクサーを、想起する。この感性の世界が、好き。手なれた作句ですね。

小西 瞬夏

特選句「居待月めがねが一つ辞書の上」。小説家か詩人、俳人か。いや普通の人かもしれない。辞書の上、めがね、その映像で人物を想像させる。物思いにふけりながら月を待っているその時間は特別のものになってくる。季語と日常の素材が置かれているだけで、ひっそりと一つの世界を作っている。

松本 勇二

特選句「郷愁をぽちっとカートへ夜の秋」。なんでもぽちっとして届くのを待つ時代。期待通りの郷愁が届いたようです。特選句「平泳ぎ地球の裂け目見つける手」。平泳ぎの手の動きの形容に鮮度と実感がありました。

月野ぽぽな

特選句「マトリョーシカ秋思の影の大中小」。ロシアの有名な民芸品であるマトリョーシカ。人形の中から人形が出て、その人形の中から人形が出て、と入れ子構造になっている。母を意味するmaterを由来とし、その形態から子孫繁栄や豊かさの象徴とされているこの人形の、秋思の影、の措辞から、現在進行形のロシアの状況が思い起こされ、元の意味とは裏腹であるからこその深い哀しさが現われてくる。大中小、と限りなく現われてくる人形の影に、人間であるゆえの絶え間ない煩悩の生成を思う。

十河 宣洋

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。二人三脚で過ごしてきた二人。あんた一人で過ごしてきたんじゃないよ。まあこれからもよろしくと言ったところ。特選句「教頭の流すそうめん皆で取る」。小さな学校のイベントである。今日は流しそうめん。教頭が流し始める。生徒は箸と茶碗を持って待っている。私もこういう小さな学校にいたことがある。お母さんたちが手伝いに来て楽しそうに見ている。

福井 明子

特選句「平泳ぎ地球の裂け目見つける手」。平泳ぎの手は、ただひたすら泳ぐという意志のためだけに機能する水?きの役割。水の中の手の角度が「地球の裂け目」とつながる感覚に、すっぽりと入りこんでしまいました。

稲葉 千尋

特選句『残暑ですねぇ「処理水」ですよ海神さま』約束をホゴにして勝手に処理水として海に流す。海神さんは怒っている。

豊原 清明

特選句「露の身や未だ果たせぬ断捨離行」。「断捨離行」の儚さと「露の身」が好き。秋は断捨離に合うし、ただ断捨離するのと、物を売って断捨離すべきか?わからない。問題句「もう人を寄せつけぬ色秋の海」。「秋の海」に共感、書かれてしまった感。

岡田 奈々

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。やはりあんたがいないとつまんない。喧嘩出来るのもあんたが面白いことしてくれるから。特選句「うるわしのくずきり母は母のまま」。くずきりは掛けるタレによって味は変わるけど、中身は変わらない。母も家族それぞれに対応は変わっても、一人の人間としての個性はある。けれど、母には母の優しさを求めてしまう。「遠花火時空のくびき解きたし」。時や場所に囚われない遠い花火。何時現れ、何時消えるか分からない。期待感と喪失感。まあ、それが人生?『「神田川」のメロディーにのる茄子胡瓜』。恋が何かまだ、分からない。すれ違う二人茄子君と胡瓜さん。「濁音で逢いに来るひと葉鶏頭」。ダミ声で足音までうるさい。そう、貴方です。おまけに時々鶏冠立てていませんか?「して町は雨後の軽さに処暑の夕(あずお玲子)」。斯くして夕立の後は涼しさで、身が軽くなったような気がします。但し、昨今の雨は車が軽くなりそうで、危ない危ない。「革命ちゅうは鼻血じゃなかか飛んだ星」。革命革命と口角泡飛ばし、議論していると思ったら、最後は喧嘩か。どうせ男どものやる事なす事潰すことしか考えていないじゃあなかか。「月涼し夫婦茶碗の欠けしまま」。澄み切った仲秋の名月一人酒を呑んでいる。「マトリョーシカ秋思の影の大中小」。マトリョーシカの箱の中身はきっちり憂いが大中小に区別されて収納されております。貴方は大が良いですか?それとも小にしますか?お好みの憂い事お出しいたします。ホーホホホホ。「いわしぐもどこにことばを置き忘れ」。鰯雲の穴あきのようにぽつぽつと抜け落ちる我が記憶。頑張って調べて拾いに行きます。

河田 清峰

特選句「今日まで四さい明日は五歳の僕」。94さいの方かな?何歳でも誕生日は考えさせられる日。80さいの姉から誘われて姉弟四にんで毎年誕生会をしています。

塩野 正春

特選句「またお前か朝蝉の死んだふり」。いい句ですね。死んだふりする虫やカナヘビなどの動物いますが、毎朝巡り合えるのはうれしいですね。恐らく、おしっこかけられ飛んでいく様が目に浮かびます。特選句「襞に入るひかり帰さず鶏頭花」。ひかり帰さずがいいですね、光をひかりとされたことで柔らかな表現になりますね。伝統俳句でもすごい句だと思います。

若森 京子

特選句「蜻蛉の目で歩み寄る小児科医(三好つや子)」。蜻蛉の目は複眼が大きく頭が全て眼の様に見える。その真剣な眼差しに子供から見れば普段手にするトンボの様に見えたのであろう。比喩が面白い。特選句「阿国一座に人攫いゐて蓑虫鳴く」。一読して、懐かしい句。暗くなるとサーカスに攫われるので早く帰る様に、と云われたものだ。<蓑虫鳴く>の季語が効いている。

三枝みずほ

特選句「廃校やおおむね晴れて蕎麦の花」。廃校という置き去られてしまうものと群生する蕎麦の花との対比。おおむね晴れていると言い聞かせるように自分自身を納得させるように現状を受け止める。おおむね晴れているという措辞は哀しみ傷みがあるからこその表現だろう。

滝澤 泰斗

猛暑、酷暑の八月の異常な夏から台風一過、涼しい秋がやってくる九月の移ろいの中、この時期ならではの季節感の句が目についた。特選句「父見舞ふ野分のことや母のこと」。病気療養中の年老いた父への見舞い風景はよくあるシーン。どんな話をすればいいのかの迷いに、時候の事や母の事になるのも普通だが、何故か息子や娘の愛惜が滲む。特選句「新涼の古都ヘプバーンの襟足」。その昔、二人のヘプバーンがいた。「映画の友」だったか、「スクリーン」だったかの評論に「本物のヘプバーン」とキャサリン・ヘプバーンを称賛して、オードリーを蔑んだ記事を目にしたことがある。冗談じゃない、あの「ローマの休日」をキャサリンには演じられない。ヘプバーンの襟足に目は行かなかったが、可憐な王女ヘプバーン様は、二の腕に「わが命 ヘプバーン」と刻みたかった。風の盆の句に交じって「先生も復習(さら)う山村盆踊り」。何時の海程の大会だったか、兜太先生が秩父音戸をみんなと踊ったことを思い出した。先生の真面目な顔で踊る姿が忘れられない。問題の「汚染水」や核問題から「処理水や汚染水だの夏の陣」。『残暑ですねえ「処理水」ですよ海神さま』。八月は甲子園の高校野球、世界水泳、世界陸上、バスケットワールドカップなどなど目白押しそんな中から「やつと終わつた八月のノーサイド」。自分が合唱をやっていることもあるが、月を一人のファルセットと詠んだ新鮮さを買った。「お月さまずっと一人のファルセット」。

樽谷 宗寛

特選句「句集『百年』の黙読処暑の雲うごく(野田信章)」。季語と句集『百年』の取り合わせが良い。「ダラダラとノンベンダラリとぽっち夏(田中アパート)」。惹かれました。私のこの夏の日常でした。

藤川 宏樹

特選句「胸痩せて秋蝶の影平らなる」。いよいよロマンスグレーを過ぎて全面の白髪頭に、胸は痩せ正に秋蝶の影のごとく平らになりました。寂しい限りです。この秋に体を鍛え、少しは逞しくなりたいと思います。

風   子

特選句「メガトンてふ永久の単位や原爆忌」。原爆忌の句として素直に頷けます。

津田 将也

特選句「もう人を寄せつけぬ色秋の海」。晩秋の秋の海は、いち早く変貌し、暗い色彩の冬を受けいれようとはじめている。「もう人を寄せつけぬ色」には、それらの実感がこもっており、ゆるがない。特選句「駅ビルへ響くツピーと四十雀(佐藤仁美)」。四十雀は一五センチくらいの留鳥で、腹の中央には黒い筋がある。平地から山地まで広く分布しているので、偶には都市の駅やビルへもやって来て「ツーツーピー」を繰り返し鳴き、人たちの耳目を楽しませてくれる。問題句「ぎこちなくギブスの右手藤は実に」。句の、「ギブス」の表記は「ギプス」が正しい。ドイツ語で(Gips)、石膏を意味する。私の入選句にしたい句でもあったので、「ギプス」と読み替えたうえ、入選句とさせていただいた。

新野 祐子

特選句「燃え滓の花火の軸の引き揚げ記」。今夏、満州や韓国からの引き揚げ記を二、三読みました。「燃え滓の花火の軸」という比喩、見事です。「夏帽子で始まる恋もここ神戸」「夏満月の澄みよう妻の忌をかさね」。この酷暑を忘れ、しんと心が静まりました。

男波 弘志

「私からあんたを引くと秋の風」。哀しみを主とする覚悟なのか、哀しみに耐えきれぬ恨みか、いづれも人間そのものであろう。秀作

山田 哲夫

特選句「夏満月の澄みよう妻の忌をかさね」。人間誰しも自分の心の内にそっと温めて置きたい思い出や情景があると思うのは私だけだろうか。この句に詠まれた「夏満月」の澄んだ情景は、亡き妻を偲ぶ作者の、男ごころをじーんとさせて止まない、かけがえのないこころの風景に他ならない。この句には、そうした自分を落ち着いた眼差しで眺める穏やかな作者こころのありざまを感じて何とも捨てがたい魅力を感じる。

あずお玲子

特選句「我が手だけ見暮らし古希に秋ですね」。自分と家族、その周りに精一杯の暮らし。気付けば古希を迎える作者。ただそれだけではなく、季節の移ろいを肌で感じ取る繊細さも持っていて、その心の豊かさに感心する。下五の軽やかさが素敵。「蜻蛉の目で歩み寄る小児科医」。作者の自解を是非お聞きしたいです。→ 作者の三好つや子さんに自句自解をお願いしました。 拙句が目に止まり、光栄です。心身ともに発達途上の病児を治すには、色んな知識が必要だと思います。1万の個眼を持つといわれる蜻蛉。そんな蜻蛉の眼があれば、子どもの小さな変化にも気づくことができるかも。小児科にかかわる人は、医師でなくとも、そういう気持で向きあっていると思い、蜻蛉にたとえてみました。ありがとうございました。

大西 健司

特選句「革命ちゅうは鼻血じゃなかか飛んだ星」。これは問題句だろうと思いながらもあえて特選とした。何ともいえない味わいがあり、この方言がいい。内容はいまいち不明なところもあるがこれもまた魅力。

伊藤  幸

特選句「群衆の中の孤独や赤い羽根」。「赤い羽根募金お願いします」毎年十月 になると街頭で共同募金が行われる。群衆に交じって幾ばくかのコインを募金箱に入れ見渡せば周りは楽しそうなカップルや親子連れ。ふと寂寥感に苛まれる自分がそこに佇っているのに気づく。自分は独りなのだ。なんとなく共感を覚える句でした。

鈴木 幸江

特選評「蜻蛉の目で歩み寄る小児科医(三好つや子)」。私も複眼を持つことに憧れる。蜻蛉のあのような大きな複眼を持ったら、物事を多面的に見る能力が付随してくるのではないだろうかと期待する。小児科医に、もし、子どもの病の多様性を多面的に診る力があったならどれ程助けになるだろうか。きっと、この小児科医は、カミと呼ばれることだろう。特選句評「襞に入るひかり帰さず鶏頭花」。どんな細やかな良心の光をも逃さぬ感性が私にも欲しいものだ。“襞に入るひかり帰さず“に鶏頭花の新しい価値評価を創造的に、美として力強く感受している作者の感性も素晴らしい。

植松 まめ

特選句「涼しさや海峡を翔ぶ白鳥座」。とても大きな景色が描かれていて海峡を翔ぶと星座が擬人化されていて臨場感がある。特選句「地虫鳴く〈国が決めた〉という標語(森本由美子)」。原発の汚染水放出や軍事費を二倍にするため税金を上げるという政府の勝手な政策がどんどん押し切られている国民は地虫のようにひ弱なこえで鳴くだけでいいのか。気になる句。「郵便受けに果し状が来る九月」。何の果し状か気になるなあ。時代劇でもあるまいにと思うが面白い。

松岡 早苗

特選句「男はつらい女はもっと星今宵(柴田清子)」。映画の中の寅さんやさくらさん、たくさんのマドンナたちが浮かんできました。映画と切り離して鑑賞しても、軽妙さの中に、人生の哀歓やロマンが感じられる素敵な御句です。特選句「父見舞ふ野分のことや母のこと」。平明でありながら深く心打たれる御句です。何の変哲もない場面描写が、かえって父子の深い絆や心の交流をありありと感じさせ、ぐっときました。

石井 はな

特選句「幾たびも洗ふ両の手八月来(松岡早苗)」。八月は特別な月です。原爆、終戦… 人間の業を洗い流すように手を洗う。洗い流したいと切に思います。

佐孝 石画

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。「あんた」がいない喪失感を、このように軽やかな引き算で喩えている作者の心情を思う。滑稽で少し自虐的な口語表現だからこそ、残された作者の深い哀切が滲んでくる。引き算でのこったのは「秋の風」。そして「私」。暑い夏の終わりを告げる涼しげな「秋の風」が、「あんた」のいない切ない現実をふと引き寄せる。この一流のポップソングに多くの読者は共感し、惹きつけられるだろう。

柴田 清子

特選句「バラ多彩そよぎそれぞれに重さあり」。私には、バラがそよぐ、揺れるなんて思った事がないし思えない、今も。この句を読んで始めて花に向き合った人それぞれの思い、胸の内の深さが「そよぐ重さ」であると、とらえているところが、魅力的。私の知らなかった『バラそしてバラ』を感じさせてくれた句でした。

高木 水志

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。何となく寂しさを感じる俳句。秋の風は肌身に冷気をもって吹きすぎる。心の寂しさを感じる。

三好つや子

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。秋風の捉え方にぞくっと惹かれました。愛なのか、しがらみなのか、結論を先延ばしにしてぐずぐずと暮らす夫婦や、カップルの冷ややかな関係が、リアルに伝わってきます。特選句「またお前か朝蝉の死んだふり」。たぶん蝉のことではなく、朝になっても動こうとしない妻、あるいはてきぱきと働かない部下、ひょっとしたら言い訳ばかりしている自分自身に叱咤しているのかも知れません。「手話の少年精霊飛蝗かな」。原っぱでよく見かけるバッタが、「精霊飛蝗」ということを知りました。この漢字の雰囲気が、手話をする少年とどこかマッチしていて、興味深いです。「落蝉の空を掴んだままの手の」。夏の申し子である蝉の、生命を全うした姿が美しい一方で、物哀しさを誘います。

川本 一葉

特選句「襞に入るひかり帰さず鶏頭花」。鶏頭の襞。およそ花ではないみたいなあの襞。植物なのに動物的な、少しグロテスクな。その花が光を帰さない。物語を孕んでいるようなぞくぞくする句だと思いました。とっても惹かれました。

柾木はつ子

特選句 「私からあんたを引くと秋の風」。夫婦でしょうか?それとも恋人?あるいは友達かも?相棒がいないと秋風のように寂しい気持ちを引き算で表現した所が面白いです。特選句「ひがんばな満開といふさみしさに」。彼岸花は満開になると華やかなのになぜか昏くさみしい感じがします。よく捉えておられると思いました。

河野 志保

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。ぶっきらぼうに表現された恋心に好感。恋よりもっと熟成された愛情の表出かもしれない。「秋の風」がぴったりで素敵な句。

淡路 放生

特選句「彦星やまだ良きこともありぬべし」。―「彦星」は七夕のこと。「まだ良きこともありぬべし」いいですねぇ。「まだ」が実にさりげなくてよい。好きな句です。

山本 弥生

特選句「父見舞ふ野分のことや母のこと」。歳を重ねて両親の御恩が分かる娘になり長期入院を重ねて居られるお父様を時々見舞われ、いつの間にか今年も野分の時期となり、留守の家の事や、特に高齢のお母様の事等気がかりになっておられる事の近況を報告して安心して頂いた。

疋田恵美子

特選句「朝顔の浴衣や老女紅を引く」。蒼地に朝顔の浴衣いいですね私も花火の夜同じ浴衣で楽しみました。特選句『残暑ですねぇ「処理水」ですよ海神さま』。海神様は何と申されましょうか。原点に問題があり声を聴き取る心を持たねば、同じ誤ちが生じます。

増田 暁子

特選句「お月さまずっと一人のファルセット」。スーパームーンのお月さま、本当に素晴らしい姿がずっとファルセットで皆さんを魅了しました。ファルセットがぴったりでした。特選句「盂蘭盆会父という字のもたれ合う」。盆供養で、父上との絆を字の形から思い浮かべられたのでしょう。もたれあうが素敵です。

岡田ミツヒロ

特選句「もう人を寄せつけぬ色秋の海」。核融合水の海洋放出。太古以来、人の生活生命を支え続けてきた母なる海、海はいま絶望と怨嗟の色に染まり人を寄せつけない決意を示している。特選句「私からあんたを引くと秋の風」。歳月を重ねる「あんた」の呼称が定着した。「あんた」の重量感、存在感。引き算されれば、ガランドウ。秋の風が吹き抜けるだけ。まさにズバリそのものの句。

三好三香穂

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。秋の風は心地良いのか、寒いのか?いなくていいのよという脅しか?

大浦ともこ

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。”あんた”ってどんな人だろうか?など少しなげやりな感じの一句の中のいろいろな思いを想像できて面白い句と思いました。特選句「襞に入るひかり帰さず鶏頭花」。鶏頭花の形状や質感が詩的に表現されていて、作者の繊細なまなざしが心に響きました。

竹本  仰

特選句「ひがんばな満開といふさみしさに」:彼岸花の満開だなんて、何と珍しい。そういう表現が、ですね。咲いてさみしいのは桜だって同じですが、さみしさは違います。その落差と言いましょうか、さみしさの向こうにあるものが。だから何というのか、意外としっかりしたさみしさではなかろうか。さみしさを余りよくないことだと教えられた価値観から見れば、古典の世界など見るべきものは無いのかもしれませんが、その価値観の向こうにあるもの、涼しくっていいものでは?特選句「夏満月の澄みよう妻の忌をかさね」:澄みよう、ここにやられました。今となっては、色んなことがよく見えてくる、妻も自分も、ああだったんだな、笑えちゃうが…等々。でもこれはもう、贅沢な哲学の時間でしょう。そんな偉人やむつかしい思考じゃなくて、ありのままで生きることを確かめるという。死んではいないよ、お互いに。と、そういう声が聞こえるように思いました。「さすらいの飢餓月匂う子供らよ」:月匂う、これはちょっと出てきそうにない表現です。運命というか、そういう大きなものを抱えたというか。ただ私たちもまた、さすらいの飢餓の隣人であり、何万と戦災の孤児がうろつく国であったのであり、また今も一枚ドアを開け違えればそうなってしまう所にいるのではありませんか。ふとそう思わせてくれましたが。

 酷暑はいつ終わるのか。残暑とくっつけると、残酷暑ということですが、みなさんはいかがでしょうか。みなさん、いい句を作りますね。あらためてそのことに感心しました。汲々と暮らす毎日で、いい句には無縁だなと反省。ところで、淡路島の人は、暮らす、という語を使わないのです。なぜでしょう?昔、地元の劇団に台本を書いた時、「どう暮らしていくんだ?」というセリフにクレームが。そんな「暮らす」なんて誰が言うか?と。そういえば、私の故郷大分では「生活」とか「暮らし」とは言わず「いのちき」と言うのです。「お前はどういのちきしちょるんか?」という具合。いのちのタネみたいなニュアンスでしたか。だから、子供心に生活はどこも必死なものだという感触が残りました。時々、独り言で方言を使っており、故郷に帰ると、異様なくらい聞き耳を立て、方言を聞きもらすまいとしている自分がいます。これも心の滋養だというように。また、みなさん、よろしくお願いします。

中村 セミ

特選句「泣いたまま夏の影出て歩きだす」。一言でいうと、幽体離脱かとも思うが、夏の影ともあるので,時に気象の世界でも、秩序が温暖化で狂い今まででは,違うことが、おこりはじめている。36度はいつまでつづく、等等。

菅原香代子

特選句「朝顔の浴衣や老女紅を引く」。妙に毒毒しくまた生々しさも感じました。「老父居て入道雲の余白かな」。昔の元気だった頃の父を入道雲で表して今を余白とするその組み合わせが絶妙です。

野田 信章

特選句「二歳兒の憂い顔って草の花」。二歳兒の愛らしさの中にも、ふっと見せる瞬時の表情を「憂い顔って草の花」と感受することの独自性、「憂い」ともはっきり言えないような、名もない草の花にどうかするほかないような微妙さが言い止められている。この生ぶな感受が素晴らしいのだ。<三つ子の魂百まで>のその前期の句として、この句ありとも読んだ。

田中 怜子

特選句「句集『百年』の黙読処暑の雲うごく(野田信章)」。句集「百年」 そういう時間をもちたいですね。書に目を通し、先生の世界にひたり余韻で満たされている。ふと空を見上げると処暑の雲の動きにほっとする反面、寂しさも感じる。いい時間ですね。特選句「高野山往還彩る大毛蓼(樽谷宗寛)」。 高野山という舞台もいいし、大毛蓼の赤い花序が揺れている、行きたくなりました。 句稿の中「吊るランプ ルシャランプロのランプ点く」の<ルシャランプロ>ってなんですか? また「ラウニィ行く秋の船には蒸気積み」の<ラウニィ>もなんですか? 言葉書きが欲しい。 

作者の中村セミさんにお尋ねしました。→<ルシャランプロ>ですが、56年前の詩にルシャランプロの日曜市 夜店のランプかたちならんだ、縁日からとっています。また,造語です。地域はありません。あなたの心に存在したら,嬉しいです。<ラウニィ>ですが、遠く海の沖にある悲しい少年,少女のはいるラウラアスラウという施設がある島の名前です。蒸気は、仙人が霞を,食べるように少年達がたべるものです。 

川崎千鶴子

特選句「二歳兒の憂い顔って草の花」。二歳児のふとした憂い顔を「草の花」の例えに感嘆です。「お月様ずっと一人のファルセット」。月はずっとひとりで輝き無月になったり、満月になったりしている、それをファルセットと表現したすばらしさ。「夏満月の澄みよう妻の忌をかさね」。何回かの忌を重ねるうちにいろいろな胸の内は夏の満月のように澄んできましたといただきました。

漆原 義典

特選句「夏帽子で始まる恋もここ神戸」。青春の喜びが湧き上がり、清々しい気持ちにさせてくれました。夏帽子が強烈です。うれしくなる句をありがとうございました。

吉田 和恵

特選句「革命ちゅうは鼻血じゃなかか飛んだ星」。革命はロマンならず鼻血とうそぶく。しかし、私にとっては死ぬまでロマンです。おそらく・・・。山形吟行の盛会をお祈りいたします。

佳   凛

特選句「襞に入るひかり帰さず鶏頭花」。襞に入った光を吸収してしまう、深みのある、鶏頭花なのですね。ここまで観察すると相手も答えて呉れるのですね。日常の忙しさの中に、こんな時間を取れる幸せ、俳句って本当に豊な心を育んでくれることを、知りました。

榎本 祐子

特選句「風籟のハモニカ僕に満ちし秋(岡田奈々)」。ハモニカの鳴っているような風の音に満たされてゆく作者。自然の内に身を置く充足感が心地よい。

山下 一夫

特選句「私からあんたを引くと秋の風」。「あんた」というはすっぱな言葉遣いと風流の真骨頂とも言える季語とのミスマッチ感が絶妙で印象的。「私」は「あたい」の方が良さそうにも見えますが、掲句の方がいい具合に不協和音を増幅するとも言えそうです。特選句「ほゝづきをあっさり鳴らし妻の昼」。日常の一情景の描写なのですが妙に生々しい雰囲気が漂います。ほおずきを鳴らすのはなかなか難しく息と唇と舌と歯を巧みに使わなければなりません。ちなみに当方は種を抜くところからうまくできません。それを「あっさり」というのは相当で、下五には「昼下がりの・・」を連想してしまうからでしょうか。巧みな一句です。問題句「教頭の流すそうめん皆で取る」。謎の情景です。行為は昔ならともかくコロナ禍以降の昨今では御法度。上意下達に関する寓意があるとして、校長が流すのならともかく教頭ではリアリティがありません。よほど好かれている教頭がいて、その言葉や情報を教員皆がありがたがるということでしょうか。では「そうめん」とは、と妄想は広がるのでした。

菅原 春み

特選句「幾たびも洗う両の手八月来(松岡早苗)」。八月は特別意味のある月だ。二足歩行になった人間が自由に使える両手でさまざまなものを作ってきた。平和を願うばかりだ。特選句「遠花火遠縁が住んでるあたり」。あるあるの風景をここまでていねいに切り取ったと。遠くがふたつ。それでも穏やかな夜だ。

野口思づゑ

「処理水や汚染水だの夏の陣」。実際は汚染であっても処理水と誤魔化している、いや科学的に処理されている水なのだと、その呼び方の違いに実は重要な争点が隠されている。それを見事についた句だと思う。「朝顔の浴衣や老女紅を引く」。若い頃は艶かしいお仕事をされていたのでは、といったお年寄りを想像してしまいました。「群衆の中の孤独や赤い羽根」。赤い羽をつけ社会の一員としての役目を果たしてる自分、でも群衆の中でのより強く感じる孤独がよく表現されている。

稲   暁

特選句「鬼灯の逃げも隠れもせぬ色に」。 秋が来て赤く色づき熟した鬼灯。「逃げも隠れもせぬ色」が意表を突いて絶妙。

森本由美子

特選句「水滴の大きく響く無月かな」。全てが地球とは関わりのない宇宙で起きている現象と感じさせる。水滴も響きも。幻想と空想が混じり合った世界。

銀   次

月の誤読●「バケツまんぱいに夏雲をちょうだい(三枝みずほ)」。という言葉がわたしのクチから出たとたん、手にしたバケツのなかに霧のようなものが立ちこめた。最初はそれがなんなのかわからなかったが、よくよく見ればそれはまさしく雲だった。神のしわざか誰れのしわざかわからぬが、別に願ったワケではない。ただちょっといい感じの句になりそうだと口にしただけだ。まさかほんとうにそんなことが叶おうなどとは思いもしなかった。次いでアタマに浮かんだのは、さて、これをいったいどうしたものか、ということだ。正直、こんなものをもらっても困る。だいいち、掃除中なのにバケツが使えないではないか。しばし考え、(ちょっと惜しい気はしたが)捨てちまおうとバケツを逆さにして振ってみた。だが雲はしっかとバケツに入り込み、こぼれさえしないのだ。ふむ、どうしたものか。ふと思い立ち、リビングに持っていってテーブルの上に飾ってみたが、どうもインテリアとしてはふさわしくない。寝室に持っていったが場違いだった。書斎にも、風呂場にも、トイレにも置いてみたが、どこも似合わない。どうもバケツがよくなかったようだ。金魚鉢にしとけばよかったのにと思ったが、それだと俳句としてどうか。などと考えている場合ではない。わたしは掃除中なのだ。さっさとこの問題を終わらさなければ、買い物にいけなくなってしまう。と、ここで思いついたのが、バケツをほかのものでそれこそ「まんぱい」にしてしまうことだ。ふつうに考えれば、まあ水だろうな。そこで「雲の入ったバケツを水でまんぱいにする作戦」を実行することにした。さっそく、バケツを庭に持ってゆき、ホースで水を入れることにした。万端用意し、蛇口をひねり、さあ、いましも水をというところで、ふとうしろに気配を感じた。振り返ってみると、真っ白な洋服を着た女の子が立っていた。その子は少し哀しそうな声で「それいらないの?」と訊いてきた。わたしが「えーと、まあ」と曖昧な返事をしていると、彼女はその雲をつまみ上げて、ひらり、空へと舞い上がっていった。わたしは空っぽになったバケツを前に、なんだかいけないことをしたような気がして、しばらく立ちつくしていた。

佐藤 仁美

特選句「白靴脱ぐあのねぇって言ったきり」。子育て真っ最中の一場面。ほのぼのします。特選句「素麺の合間に流るる葡萄かな(松本美智子)」。流しそうめんの楽しそうな、会話や笑い声が聞こえてくるようです。

向井 桐華

特選句「ほゞづきをあつさり鳴らし妻の昼」。ほおずきを鳴らすのはなかなか難しいですね。それをあっさりと鳴らす奥様とびっくりする旦那様。このご夫婦の日常が見えてくるような微笑ましく、素敵だなと思いました。問題句「 あめゆじゆとてちてけんじや ゆきのひとわん」。オマージュと言う域を超えてしまっている。

桂  凜火

特選句「濁音で逢いに来る人葉鶏頭」。濁音で逢いに来る人はどんな人だろう 年の若くない思い人だろうか、逢いにくるのだから 異性だろうが ちょっとひっかかる「濁音」で句に広がりできているなあとおもいました。葉鶏頭も味わいがありますね。

時田 幻椏

特選句「襞に入るひかり帰さず鶏頭花」。鶏頭の花の質感が如実です。成る程と思いました。特選句「胸痩せて秋蝶の影平らなる」。夏痩せをした身体と心情の切なさが如実です。「群衆の中の孤独や赤い羽根」。月並み、当たり前の情緒ながらも・・良いですね。「男はつらい女はもっと星今宵」。こんななにげない感性も良いですね。問題句「梅酒に梅の実ありし考ありし」。ありし? 私は良く解らないのですが、梅の実も今は無い。梅の実が梅酒に在るならば、「梅の実のあり考ありし」になるのでは。

藤田 乙女

特選句「落鮎や糾(あざ)う事無き歳の恋」。恋の想いは生涯を終えるまでずっと持ち続けるもの。実際の対象がいない私は中国時代劇ドラマのヒロインになりきってドラマの時間だけは心をときめかせ、恋に恋して幸福感に浸っています。 特選句「郷愁をぽちっとカートへ夜の秋」。秋の夜、ふとした時やある刹那急に郷愁を感じ、またすぐに消えてしまうことがあります。それを「ぽちっとカートに」としたのが「言い得て妙」な表現だと感心しました。

薫   香

特選句「して町は雨後の軽さに処暑の夕(あずお玲子)」。なんだか音読したらしっくりくる句でした。情景も浮かび、その時の気持ち良さも伝わってきました。特選句「郷愁をぽちっとカートへ夜の秋」。こんな風に肩の力を抜いて俳句が詠めたら素敵です。なんだかぽちっとしたくなりました。

松本美智子

特選句「郷愁をぽちっとカートへ夜の秋」。秋の夜長ついつい,ネットで買い物をしてしまうことが・・・ふるさとの懐かしい味を求めてぽちっとカートにいれてしまう「秋の夜」ではなく「夜の秋」としたところに奥行きを感じました。

野﨑 憲子

特選句「郵便受けに果し状が来る九月(淡路放生)」。凛と漲る作者の決意を感じる意欲作。宮本武蔵を思った。特選句「落鮎や糾う事無き歳の恋(時田幻椏)」。「男根は落鮎のごと垂れにけり(金子兜太)」が浮んできた。この句は、師が、毎日芸術賞特別賞を受賞し、その記念スピーチで披露し大好評だったと、同年の「海程」全国大会の主宰挨拶で楽しそうに話されていた。当時九十歳。ご自身の加齢についてもポジティブだった。作者も、師を偲んで創られたのだろう。昨日のことのようだ。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

秋刀魚
おーいおやじもう一杯やさんま食ふ
島田 章平
秋刀魚焼く父は下戸なり酒一合
植松 まめ
ふるさとの荷はひしおの香秋刀魚焼く
大浦ともこ
さんま焼く芦屋生まれの晴子さん
増田 天志
皿からはみ出すさんまお前もか
薫   香
横たわる秋刀魚の覚悟網の上
銀   次
芭蕉
芭蕉はらり躱して龍は宵っぱり
あずお玲子
古里の寺に吹くなり芭蕉風
植松 まめ
歩むほど地霊登りゆく芭蕉
野﨑 憲子
月を釣る旅人ひとり芭蕉かな
野﨑 憲子
秋の昼天志が芭蕉説いてゐる
増田 天志
花すすき仮面の乱舞乱舞かな
野﨑 憲子
芒原特急通過待つ鈍行
藤川 宏樹
駄々っ子の龍が芒をなぎ倒し
あずお玲子
芒原秒針狂ひずっと午後
あずお玲子
どの服を着て逢おうかな花すすき
柴田 清子
帽子舞う追いかけて追いかけてすすき原
銀   次
芒野や日蔭の石の青光る
野﨑 憲子
にんげんをひと皮むけば花すすき
増田 天志
溺れるやうに歓喜のやうに芒
野﨑 憲子
花すすき対角線に道できる
増田 天志
昨日より日のつれなくて花芒
大浦ともこ
をりとればひとのおもさのすすきのほ
島田 章平
すすきの向こうに四万十川晩夏
薫   香
小鳥(来る)
小鳥が一羽小鳥が二羽と子守唄
銀   次
青滲むオランダイル小鳥来る
大浦ともこ
小鳥来る窓に猫の眼が光る
植松 まめ
小鳥来るおくどはんかて生きたはる
増田 天志
小鳥が来ないからこっちから行っちゃおう
柴田 清子
小鳥くるダリの手の上髭の上
島田 章平
小鳥来るどこへお出掛けけんけんぱ
薫   香
舞ひ上がるぴえろの帽子小鳥来る
野﨑 憲子
別れとは駅で抱き合ふ秋の蝶
島田 章平
秋の駅魔が差したとは言わせない
野﨑 憲子
文化祭の歓声いまも秋の駅
野﨑 憲子
月見草ひとりぼっちの志度の駅
薫   香

【通信欄】&【句会メモ】

9月23日は、金子兜太先生のご生誕百四年。香川でも曼珠沙華があちこちで花ひらいていました。師が話していらした「いのちの空間」を思いました。国境も、性別も、現世も、他界も、時の縛りもない空間です。そこから出て来る五七五の愛語に、世界を変える力があるかも知れない、という思いがますます強くなってまいりました。これからも一回一回の句会を大切に熱く渦巻いてまいりたいです。今後ともよろしくお願いいたします。

今回は、久しぶりに、大津から増田天志さんが、青春18切符で高松の句会へ! そして、佐藤稚鬼さんご夫妻や、三枝みずほさんも、ご参加くださり、総勢13人の盛会でした。天志さんは、来月の山形吟行に因み、芭蕉が山寺で詠んだ「閑さや岩にしみ入る蟬の声」への熱い考察をお話くださいました。ありがとうございました。

2023年8月27日 (日)

第142回「海程香川」句会(2023.08.19)

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事前投句参加者の一句

父母(ちちはは)のゆるい溺愛夜の蝉 三好つや子
寝返りのきのうに戻る熱帯夜 増田 暁子
大西日『はだしのゲン』の居る床屋 松岡 早苗
たつぷりと水撒き八時十五分 あずお玲子
みぞおちに螢遊ばせ仁王像 増田 天志
白百合の揺れを招きと思いけり 河田 清峰
色褪せし紫陽花かたちをとどめおき 三好三香穂
薄青き耳たぶをもて蛇に会ふ 小西 瞬夏
余世とは白い紙切きれ金魚玉 谷  孝江
幻覚と想って生きた黒い雨 田中アパート
八月の椅子置けば八月の影 月野ぽぽな
大人びた子の眼差や晩夏憂し 森本由美子
白雨来て病室という函包む 大浦ともこ
クレヨンの笑みがはじける夕焼かな 高木 水志
真夜の蝉鳴く急がねば果たさねば 時田 幻椏
装甲車がとなりをはしる平和 薫   香
孫が擂りひりひり辛し夏大根 野田 信章
知らぬ子の手の握りくる夏祭 菅原 春み
夏合宿飛び散る墨や琵琶湖炎ゆ 漆原 義典
炎天の影へばりつく無縁墓 松本美智子
長生きせな翔平アーチ夏雲に 塩野 正春
夜の蟬自意識をぶら下げている 榎本 祐子
掌に取れば花烏瓜さんざめく 新野 祐子
積乱雲 常に冷めてる頭のすみ 田中 怜子
定家葛ひそかに兜太ヘ蔓延びぬ 疋田恵美子
二棟分更地完了虹二重 亀山祐美子
ぺらぺらと舌の奔放てんぐ茸 川崎千鶴子
あめんぼう飛んで恋句のありどころ 男波 弘志
ちちははと同じ手順の墓掃除 佐藤 仁美
眠られぬ今宵外に出よ星涼し 柾木はつ子
「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み 寺町志津子
散々に敗れて清し夏の空 山下 一夫
薔薇ばらバラばらBARAバラ薔薇 地球 島田 章平
青蜥蜴ガラスの箱は狭かろう 菅原香代子
家系図に余白たっぷり夜の桃 津田 将也
風鈴の風に色あり青い海 稲葉 千尋
一人居の のりたまごはん夏座敷 荒井まり子
さつき見た夢かき消えて蝉シャワー 福井 明子
花火連発口開け仰け反る十二階 山本 弥生
鬼やんまと少年風の熊野かな 大西 健司
自分さがし鰻ぬるぬるぬるぬらり 岡田ミツヒロ
人類の一人宇宙の一流星 風   子
猛暑日の裏は極寒愛しテラ 滝澤 泰斗
打ち水やパン屋の猫の名はオバケ 向井 桐華
すすき手を振る次の世へ次の世へ 十河 宣洋
夏草や古書の湿りの蚊を挟む 豊原 清明
アマリリス廊下の奥が懺悔室 桂  凜火
色褪せた水着は私の抜け殻 柴田 清子
若き農婦のボブが素敵さ茄子に汗 伊藤  幸
結論は明日にしませうソーダ水 吉田 和恵
目隠しを外せばピカドンの 夏野 若森 京子
弄ぶ風は魔術師桐一葉 佳   凛
AIに育てられしか水中花 野口思づゑ
魂の話よ夏の満月よ 石井 はな
夕立や同じ角度に傾く傘 山田 哲夫
向日葵咲く午後から風が強い場所 河野 志保
夕焼けにギヤマン並べる美学かな 重松 敬子
問いだけでいいのほんとは桃なんて 竹本  仰
背に掛けて海の匂いの夏帽子 稲   暁
怯(ひるむ)もの去りゆく心悲しくて 鈴木 幸江
炎昼なり青春の彼の地新宿よ 銀   次
麦茶飲みほす全方位の青空 三枝みずほ
ニンゲンガイキスギナンダ蝉骸 藤川 宏樹
晩夏ゆく切符渡して海の上 中村 セミ
どの窓からも和泉連山蝉時雨 樽谷 宗寛
愛想なき君オクラを柔らかく茹でる 岡田 奈々
トマト噛むその混沌を得るために 佐孝 石画
長き夜や日記とラヂオ深夜便 川本 一葉
白湯のごと祖父の正調ゆすらうめ 松本 勇二
秋刀魚焼くかぎり孤独はありません 淡路 放生
老年やジュリー素のまま水羊羹 植松 まめ
絶滅か進化か蜘蛛の糸ゆらり 野﨑 憲子

句会の窓

松本 勇二

特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。幸せな気持ちにさせられます。こういう生き方、人生観を持ちたいものです。

増田 天志

特選句「薄青き耳たぶをもて蛇に会ふ」。感性の作品。昭和の匂いぷうんと、懐かしい。

小西 瞬夏

特選句「八月の椅子置けば八月の影」。シンプルなつくり方、そして八月のリフレイン。それがより悲しみを増幅させている。椅子に座る人や、椅子を並べるイベントなどのことは言わず、影だけに思いが託されている。

月野ぽぽな

特選句「知らぬ子の手の握りくる夏祭」。人混みの中お母さんと間違えたのでしょうか。きっと優しくそのまま握らせてあげていたことでしょう。目の高さに屈んで、驚く子を安心させてあげながら、近くにいるはずのお母さんを一緒に探してあげたことでしょう。私たちは皆深いところで繋がっています。

豊原 清明

特選句「人類の一人宇宙の一流星」。「一流星」がいいと思った。人類、地球感覚で捕らえるところに視野の広さ。問題句「スニーカーの紐縺れてしまって巴里祭(伊藤 幸)」。紐縺れに創作を感じた。現代的な俳句と思って。日常の細かな描写が好きなので、ひかれました。

桂  凜火

特選句「夏合宿飛び散る墨や琵琶湖炎ゆ」。書道部の部活動の様子でしょうか 琵琶湖での大会なのかもしれないですが臨場感がよくでていていいなと思います。「琵琶湖炎ゆ」が雄大で素敵です。

岡田 奈々

特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。いくつからが余生か知らないが、全く何も決まっていないし、何をしても良いし、空中に浮かぶ金魚玉の様に自由に生きよう。特選句「薔薇ばらバラばらBARAバラ薔薇 地球」。みんなバラバラ。何を考え、何をしようとしているのか、地球は哲学。「寝返りのきのうに戻る熱帯夜」。この所寝付けなくて、1時間おきに時計を見たりして。なかなか時も進まず。つい、昨日の事など、思い出したり。「クレヨンの笑みがはじける夕焼けかな」。めちゃくちゃ可愛い今日も良い一日を有難う。「孫が擂りひりひり辛し夏大根」。夏大根は誰が擂っても辛い。「夜の蝉自意識をぶら下げている」。何故か夜も鳴く蝉。あれを自意識過剰と言うのですね。「「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み」これって自由研究?「油照引越荷物遺品めく」。ゆらゆらと、湯気立ち、荷物までも溶けて無くなってしまいそう。「トマト噛むその混沌を得るために」。トマト噛むと中身が飛び散って、そこら中がトマトの赤い汁と種でとんでもない事に。また、洗い物増やして。なに哲学者ぶってごまかしても赦さないわよ。「郭公托卵数字ばかりの日経新聞」。読者は何も知らないと思って、数字でごまかさないでください。

男波 弘志

「晩夏ゆく切符渡して海の上」。旅の一場面を只切り取ったようにも見えるが、それほどやさしい一行詩ではないだろう。先ず身の内に所有しているものを手放す、そのことに深い述懐が潜んでいる。余りにも小さな紙切れがこれからの羅針盤になってゆく、それを手渡す、託す、そのことによって無一物の自己が旅人となったのである。これが列車ではなく船であったことが一層晩夏を引き寄せている。上5の「ゆく」が聊かわかりにくい繋がりではある。「晩夏光」でも句としては成立するのではないか。秀作。

大西 健司

特選句「色褪せた水着は私の脱け殻」。どこからか出て来た若い頃の水着。そんなお気に入りの水着も色褪せてしまっている。それはあたかも私の抜け殻。「よくこんな水着入ったよね」そんな声が聞こえてきそう。どこか哀しくておかしい。

稲葉 千尋

特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。『はだしのゲン』置いてあるだけで素晴しい床屋さん。理屈はいらない。そんな床屋さんに、小生も行きたい。

十河 宣洋

特選句「たつぷりと水撒き八時十五分」。毎年原爆の慰霊のニュースを見ている。アメリカの蛮行を見る思いである。たっぷりと撒く水は現在の日本の豊かさの象徴のように見える。 特選句「Tシャツを空のかたちにしておかむ(小西瞬夏)」。爽やかな夏の風景。おおらかな風景がいい。

三枝みずほ

特選句「目隠しを外せばピカドンの 夏野」。一字空けの空白が惨状が起きたことを想起させ、きのこ雲の下にいた者の夏野へ読者を引きずり込む。戦前この目隠しが様々な方法で行われたが、今なお繰り返すこの目隠しの正体は何だろうか。知らないということの恐ろしさが伝わる一句。不都合なものを見ようとしないのは人間の本質なのかもしれない。

野口思づゑ

特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。夕方の床屋に他の雑誌に混ざり『はだしのゲン』もあった、というそれだけの光景とはいえ、その話題が世相を反映する漫画を置いている床屋の人柄、西日を受け輝いている雑誌が目に浮かぶ。中7の『はだしのゲン』の「居る」で、作者は中沢啓治さんの存在を近く、現実的に捉えていると知る。「 自分さがし鰻ぬるぬるぬるぬらり」。ぬぬぬの字だけでヌルヌル感が伝わってくる。いつか自分が掴めますように。

樽谷 宗寛

特選句「身の芯に届く暑さとなりにけり(柴田清子)」。毎日毎日猛暑。芯まで届く暑さでした。うまく表現なさっています。私一度に好物のアイスキャンディー3本食べ、身の芯の暑さが一時的に消滅しました。

福井 明子

特選句「みぞおちに蛍あそばせ仁王像」。忿怒の形相で立ちつくす仁王像。そのみぞおちへの視点がしなやか。蛍は「いのち」や「明暗」、そんな不確かなイメージ。躍動する剛強な胸の筋肉の真下に蛍をあそばせるなんて。その斬新さに、涼しさをいただきました。特選句「はちがつのかたりべがほのほふきだす(島田章平)」。平仮名表記には、8月の敗戦の語り部と、語りえなかった亡き人々の無念をも包み込む力を感じます。見えないものの「ほのほ」。その「ほてり」があります。

津田 将也

特選句「鉄柵のアールヌーボー秋立ちぬ(松岡早苗)」。「アールヌーボー」とは、一九世紀末から二〇世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した美術運動。「新しい芸術」を意味する。花や植物などの有機的なモチーフや自由な曲線を取り入れ、組み合わせ、従来の様式に囚われない装飾性や、鉄・ガラスといった当時の新素材などを積極的に活用しているのが特徴。アールヌーボーの鉄柵に対し、「秋立ちぬ」の季語がよい。付近の建造物なども、もちろんアールヌーボーなのだろう。特選句「はんざきのどろりと動く夜の底(月野ぽぽな)」。「はんざき」は山椒魚の異称である。イモリに似て、山間の渓流や洞窟などに棲む。体長一メートルとも呼ばれる「大山椒魚」は、天然記念物として保護されているが、小さいものを料理して食べると、山椒の香りがするのでこの呼び名があるようだ。夜の渓流の暗黒の底でうごめく山椒魚の様子を「どろりと動く」と巧みな言葉で捉え、これが大物級であることが、自ずと読み手に伝わる。

鈴木 幸江

特選句評「クレヨンの笑みがはじける夕焼かな」。画材としてのクレヨンには、独特の質感があり、親しみやすい温みがある。「笑み」という言葉が明るい気持ちへ向かおうとする作者への共鳴を導いてくれる。私にもある同じ経験を思い出させてくれた。どんな色の「夕焼」を描いたのだろうか、あんな色か、こんな色かと想像するのも楽しかった。「知らぬ子の手の握りくる夏祭」。果たしてこの子は、見知らぬ人だと承知でしたことか、勘違いでしたことか、どちらもあり得る。このドラマ性が素敵だ。人の心の美しさが思われ救われた。グローバル化の世界も、不安な子どもの世界も背景に感受できた。「薔薇ばらバラBARAバラ薔薇 地球」。多様な表現形式をもち、多義性のある日本語を連続させて、言葉がある混沌を生み出す。何を対象として捉えようとしているのか分からぬその不可解さ。作者は現在の地球の混沌を表出させようとしているのだろうと思った。比喩が“バラ”なら悪くはないと思った。今回は特選句を3句採ってしまった。お盆サービスではないが、大変な世になったという想いをお持ちの方は多いことと思い、そして、この3句にはまだ言葉にはならぬが、明るい可能性の光が見えていただいた。

柾木はつ子

特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。 上五、中七、下五の素材の組み合わせがとても巧みだと思いました。読み手に色々な思いを抱かせてくれる素晴らしい作品だと思います。私には上五の「大西日」が人類の未来への警鐘を鳴らしているように思えました。特選句「長生きせな翔平アーチ夏雲に」。世の中忌々しき事ばかり、ついついため息が出ますが、そんな中、掲句のようなスカーッとした出来事があると気分も晴れやかになります。長生きもしたくなりますよね。もっともっと明るい話題が増えますように!

若森 京子

特選句「油照引越荷物遺品めく(菅原春み)」。特選句「夏の闇独り居チャットふふふ」。二句共、現代の暗い部分に焦点を当てている様に思う。「油照引越荷物遺品めく」は、老人の孤独死を想像するし、「夏の闇独り居チャットふふふ(塩野正春)」は、若者の一人籠りの姿を思う。

山田 哲夫

特選句「鬼やんまと少年風の熊野かな」。今週台風が上陸したばかりの熊野だが、この句の「風」は台風ではあるまい。私には熊野の山野を爽やかに吹き抜けてゆく夏の風が想像される。「鬼やんまと少年」という提示が確かな存在感を揺るぎなくさせていると思った。

三好つや子

特選句「白百合の揺れを招きと思いけり」。ギリシア神話の女神ヘラの乳から生まれたという白百合(鉄砲百合)は、キリスト教で聖母マリアに捧げる花としても知られています。そんな百合の神秘さをリリカルに捉え、魅せられました。特選句「八月の椅子置けば八月の影」。戦争の悲惨さを知る人が少なくなり、原爆投下された広島や長崎はもちろん、戦争でぼろぼろになったあの頃の日本のことが、風化しつつある昨今、心に迫ってくる作品。「鬼やんまと少年風の熊野かな」。夏の自然の中で逞しく成長してゆく少年像、さらに風の熊野という詩情ゆたかな表現力。「AIに育てられしか水中花」。水の中で美しさと愛らしさを振りまく、フェイクな花の淋しさに共感しました。

河田 清峰

特選句「ちちははと同じ手順の墓掃除」。いつのまにか嫌っていた父母の真似をしている姿を思う。

風   子

特選句『麦秋の戦渦ピカソの「泣く女」(疋田恵美子)』。ピカソのゲルニカを観た感動がまた蘇りました。戦争の悲惨さ残酷さを繰り返す人間、あのマチエールの美しい絵を描く人間、どちらも人間のなせる技なのが不可思議です。

松本美智子

特選句「はちがつのかたりべがほのほふきだす」。ヒロシマの語り部さんも高齢になり戦禍を後生に継承するすべがだんだんと薄れていくように思います。でも、未だに戦争は過去のものではないのです。いつも苦しむのは子どもに女に・・・弱い立場のものです。語り部さんはその熱い思いを業火の炎をはき出すごとく語り継ぐのでしょう。ひらがな表記にした効果とそうでない場合と・・・「八月の語り部が炎吹き出す」どのような効果があるのか?句会で皆さんの意見を聞きたいと思いました。そんな、魅力的な句であると思います。 ♡島田章平さん(作者」より→この句は浮かんだ瞬間にひらがな表記でした。漢字は浮かんできませんでした。説明はうまくできませんが・・・。ご選評を頂けて嬉しいです。

寺町志津子

特選句「爆心地ここぞ世界を変へるのは(野﨑憲子)」。大変嬉しく、有り難い御句です。広島はふる里です。広島市民の「核無き世界」への思いは一入ではありません。核なき世界になるよう願い、祈リながら暮らしております。「麦茶飲み干す全方位の青空」。景がよく見え、作者の満ち足りた思いも良く伝わって、明るい気分になりました。

伊藤  幸

特選句「定家葛ひそかに兜太蔓延びぬ」。螺旋状に這い上がり白い香りのよい花を咲かせ後に黄色に変わる定家葛。旧兜太邸又は墓碑もしくは句碑から兜太蔓と名付けられた新しい品種?の茎が出たものと思われる蔓。どのような花を咲かせどのような実をつけるか楽しみである。

菅原 春み

特選句「白雨来て病室という函包む」。白雨で映像が浮かび上がります。病室のなかでの身動きできない状況が肌で感じられます。特選句「はんざきのどろりと動く夜の底」。はんざきと夜は切り離せない。しかもどろり、夜の底では体感まで感じられて身動きできなくなる。

藤川 宏樹

特選句「チェストパスされし純情睡蓮花(岡田奈々)」。「チェストパスされし」ボール、「純情」のボールを胸でドスンと・・・。勝手ながら「純情」は恋の実直な告白と捉えました。「睡蓮花」が青春の一場面を後押しています。

植松 まめ

特選句「父母のゆるい溺愛夜の蝉」。上手く評はできないがとても惹かれる句です。特選句『「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み』。こんな純粋な時代が自分にもあったんだと思い出させてくれる句、大好きです。

吉田 和恵

特選句「アマリリス廊下の奥が懺悔室」。「戦争が廊下の奥に立っていた」―渡辺白泉のパロディーと思いますが、アマリリスがぴったり。曲が聞こえてきそうです。

塩野 正春

特選句「梅を干すベランダUFOはまだ来ない(榎本祐子)」。えっ? UFO を釣る餌は梅干しなのか、そうかもしれない。これまでは音(音楽)や光のリズムが良く使われていたのだが新しい発想があの甘酸っぱく香る梅干しだったとは! この句をUFO専門家に見せてあげたい。兜太師匠もびっくりの発想。現代俳句はこうありたい。特選句「雲とそら翼の日の丸それだけ(薫香)」。今日8月15日終戦記念日の日に味わった句が美しい。戦後といわれて長く日の丸も君が代も、青空までも虐げられてきた。日の丸をこんなに美しく取り上げた句はついぞ見なかった。青い空も日の丸もこれからは堂々と生きたい。似た句(筆者が感じることだが)「人生のずるずる錘や原爆忌(若森京子)」が出句され共感を覚えた。が、日本の未来をより感じさせる前者を特選にした。

野田 信章

特選句「愛想なき君オクラを柔らかく茹でる」。の「愛想なき君」のフレーズには男の身勝手な言い分にして本音の込もったところが窺える。そのことを、具体的な調理の手際よさによって反転してくれる修辞の鮮やかさがある。この軽い意外性こそ日常の景の一端の確かさと読んだ。原句は「愛想無き」だが、「愛想なき」としていただいた。

川崎千鶴子

特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。「余生」とはただの空白の白い紙切れで、未来の無い透明な「金魚玉」と。楽しみの無い老いの感慨を嘆いている。老いを的確に表現して、なんとも寂しい句です。「寝返りのきのうに戻る熱帯夜」。寝床に入れば寝苦しく、寝返りをうつと昨日と同じ熱帯夜だった。表現のすばらしさ。

山本 弥生

特選句「孫が擂りひりひり辛し夏大根」。お母さんのお手伝いが出来るようになった孫の擂ってくれた夏大根。老いたりと云えども味覚もしっかり分かる。猛暑に気合を入れてくれて有難う。

荒井まり子

特選句「郭公托卵数字ばかりの日経新聞(増田暁子)」。取り合わせが斬新、面白い。新聞が俳句になるなんて。

松岡 早苗

特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。余生を「白い紙切れ」と言い切っているのが印象に残りました。自由な時間はたっぷりあるものの、現役を退き社会とのつながりの薄れた、いわば紙の切れっ端のような存在。寂しさはあるが、それでも残された年月を心豊かに生きたい。水槽の中でゆったり泳ぐ美しい金魚のように。特選句「八月の椅子置けば八月の影」。晩夏から初秋へと移りゆく頃の気だるさや寂しさが、「椅子の影」という繊細な映像と、「八月」のリフレインによって感覚的に伝わってきました。

川本 一葉

特選句「眠られぬ今宵外に出よ星涼し」。暑くて眠れない夜本当に外に出たことが何回もありました。今年はなかなか咲かない朝顔が気になって明け方も外に出てました。私のことか、と思うような句でしたし、命短し恋せよ乙女のように調べがとても良いと思いました。

岡田ミツヒロ

特選句「はちがつのかたりべがほのほふきだす」。戦争の影が日増しに濃くなる軍拡日本。「ほのほふきだす」は、戦争の惨劇の生き証人たる語り部の子孫の安寧、人類の未来を願う魂の湧出した姿。特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。盛大に煙を上げ、ジュージュー燃える秋刀魚、いまは秋刀魚を焼く、そのことだけ。それ以外は何もない。そして、秋刀魚が焼き上がってから宴のあとのように、じんわりと孤独がやってくる。

銀   次

今月の誤読●「宅配の柩を置いて行く炎天(淡路放生)」。ちょうどお盆というとき、わが家のチャイムが鳴った。玄関に出てみると、宅配人がいて、サインをくれという。わたしはいうとおりにして品物を受け取った。それは白木でつくられた真新しい柩であった。金色の飾り金具がところどころに施されていて、真昼の太陽を受けキラキラ輝いている。それにしても妙なものが送られてきたものだと蓋を取ってみると、そこに父さんがいた。ちゃんと経帷子を着て、ご丁寧に鼻の穴に脱脂綿までつめている。周囲は花で飾られ、おまけに三途の川の渡し賃のつもりか模造の六文銭まで胸元に置いている。「あきれた」わたしはため息まじりにつぶやく。父さんがいう「どうだ、驚いたか」。「驚かないよ、毎度のことだ」とわたし。「母さんはどこ?」「すぐそこまで来ている。もうすぐ着くだろう」といってるあいだに、喪服を着た母さんが白いハンカチで汗をふきふき「暑い暑い」といいながらご登場と相なった。「おれも暑いよ」と父さん。そりゃそうだろう、狭い柩のなかに閉じ込められてはるばる運ばれて来たんだから。両親はよく冗談好きの夫婦だといわれるが、程というものがある。うちの父母はその程というものを知らない。クリスマスのとき、父さんは本格的なサンタクロースの衣装を誂え、特注のソリに乗り、それをトナカイのぬいぐるみを着た母さんにひかせてやって来た。とまあ、それはほんの一例。数えあげればキリがないが、ちょんまげと丸まげで来たこともあれば、全身を包帯で巻いた格好で来たこともある。両親いわく「わたしらはごく当たり前の面白みのない世間というもののなかに暮らしている。せめてジョークぐらいは命がけでやらないと生きてるかいがない」。わたしにはさっぱりわからない理由だが、まあ、本人たちが満足しているなら、それでよかろうとも思う。だが迷惑であることも事実だ。ただ今回ばかりはそうでもなかった。というのも、父さんがその晩、熱中症で死んだからだ。冗談じゃなくほんとうに死んだのだ。死に装束を着て、棺桶をかたわらに死んだ。おまけに母さんは喪服を着て泣きべそをかいている。坊さんがやって来て「これはまあ手まわしのいい」とつぶやいたのは、命がけのジョークを生きがいとする父さんにとっては本望だったのかもしれない。

増田 暁子

特選句「八月の椅子置けば八月の影」。八月の椅子に誰が座って、影になっているのか。恐ろしい時代を思い返す。特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。食べることに貪欲であれば生きる楽しみがあり、孤独はありませんよね。

佳   凛

特選句「爆心地ここぞ世界を変へるのは」。爆心地だからこそ世界を変えようと。核反対 戦争反対を、叫び続けて78年、一向に変わらぬ世界、本当にほんとうに、無念です。 一傍観者であってはならないと、思いながら何も出来ずにいます。さぁ今日からは、世界平和を願い声をあげよう。

淡路 放生

特選句「たつぷりと水撒き八時十五分」。作者の覚悟と涼しさを感じる。緊迫感があろう。

新野 祐子

特選句「鶏頭や保護司たずねる鉄工所(三好つや子)」。人生のドラマを描くのも俳句。この句、大変ドラマチックです。「静寂の縁を通りて赤蜻蛉」。そうか、赤蜻蛉はそんなところを通過してやってくるのか。妙に納得。「結論は明日にしませうソーダー水」。結論なくて生きなくてもいいのかも、すぐ覆したりしますから。物事にもよるか。

高木 水志

特選句「人類の一人宇宙の一流星」。作者のダイナミックな物の見方に共感した。類想感はあるが海程香川らしい俳句だと思う。

時田 幻椏

特選句「父母のゆるい溺愛夜の蝉」。ゆるい溺愛 に好感、成る程と思います。特選句「家系図に余白たっぷり夜の桃」。家系の広がりを期待し許す余白に、エロティシズムまで感じます。夜の蝉 と 夜の桃 夜のイメージの強烈さを改めて思い知ります。問題句「愛想無き君オクラを柔らかく茹でる」。大変気になる句ですが、この破調を良しとするか・・?

田中 怜子

特選句「白雨来て病室という函包む」。激しい雨が、まだ明るいから白雨としたのか、雨の激しさで白く見えたのか。たちまちに病院を包んでしまうという一瞬の景を読んだのか。雨の音、しぶき、病院の建物さえ函のごとくになる、自然のすさまじさか、昨今の気候変動なのか。特選句「長き夜や日記とラヂオ深夜便」。あるある、と思った。何故か眠れないとき、スマホをみてしまう。目がつかれる。ラジオ深夜便なんて、かなりお年を召した人か。今まで生きてきた人生感などもにじみ出ている。

大浦ともこ

特選句「一人居ののりたまごはん夏座敷」。広い座敷に一人でいる状況には孤独感がただよいますが、「のりたまごはん」の具体的でユーモラスな中七で一人を楽しんでいる明るい一句になっているところが好きです。特選句「結論は明日にしませうソーダ水」。ふわっとなげやりな感じが夏の終わりの今にしっくりときました。季語のソーダ水の泡の消えゆく様子とも響きあっています。

稲   暁

特選句「たっぷりと水撒き八時十五分」。 8月6日の朝のことだろう。作者は路にか、庭にか、たっぷりと水を撒く。そして、運命の時刻を迎える。抑えた表現の中に万感籠めた作品と読んだ。

竹本  仰

特選句「知らぬ子の手の握りくる夏祭」。これとは反対に、知らぬ母親の膝に乗ったという幼いころの失態を思い出しました。多分寝ぼけてたんでしょうね。母親の膝に戻るつもりが、違う母親だったという。だがあの時代は寛容だった、そのまましばらく本人が気づくまで置いてくれたのですから。今じゃそうはいかないでしょう。そういう一時代前を思わせる風景です。親と間違えて小さい手が握りに来た。何ともくすぐったい感触ですが、夏祭が見ず知らずとも横のつながりを育む場であること、それが今にも続いていることを思い出させる句ですね。特選句「宅配の柩を置いて行く炎天」。一読、〈はつなつのゆふべひたひを光らせて保険屋が遠き死を売りにくる〉という塚本邦雄の歌を思い出し、時代の推移とでも言うべき対照を感じました。たしかに今や柩が宅配便で届くのに何の不自然でもありませんが、邦雄の短歌がまだまだ奥深い無言の資本主義の笑いを連想させるのに対し、ネット社会の簡明な直截性を感じさせます。そしてどうしても置き去りにされた柩には、置き去りにされた生がいま死となって運び去られるような乾ききった感触だけが残ります。死もまた流通の中に位置づけられ、その中身が空っぽになってゆくような、そんな時代感も嗅がずにはいられないと思えました。今ウクライナで、一つ一つの市民の遺体が掘られながら土に埋葬されてゆくあの湿り気に比して、清潔簡潔明瞭なる最近の葬儀の合理性、ふと何だろうと引っ掛かります。特選句「トマト噛むその混沌を得るために」。食む、ではなく、噛む。物事を抽象化すれば美しくシンプルになるのだろうけれど、物事を直で感じた時にはまず混沌があるのでは、と思います。そういう直感そのものの良さがよく出ていて、何だか嬉しく感じた句でありました。以前、仏道修行に明け暮れ、高野山から帰った後、或る用事で海に行ったとき、ふいに踏み込んだ磯を思い出しました。履物の足首まで浸かって感じた海。修行していた感覚と凄いぶつかり合いを感じました。その時は、この混沌!と、信じられないくらい興奮したのでしたが、多分、この混沌に近いものではないかと、この句の「混沌」を読みました。

自句自解「問いだけでいいのほんとは桃なんて」について。相聞歌というつもりでしょう。相聞というのは、互いに問いかけ、互いに聞き分けることで成り立ちます。桃が欲しいの、と言えば、すぐ桃を用意してくれた。でも、桃じゃないの、なぜ僕に?というそこをもう少し味わって欲しかったのに。そんな微妙なすれ違いの風景でしょうか。という情愛過多気味のつぶやきというところですね。→高松の句会で、自句自解のリクエストがあり竹本さんにお願いしました。感謝です!

中村 セミ

特選句「薄青き耳たぶをもて蛇にあふ」。虚無感があって、まるで、眠狂四郎をかんじました。僕はその短い詩から何かを感じる読み方しかしないので、そういうことです。「積乱雲 常に冷めてる頭のすみ」。の積乱雲の正体はなにか。「家系図に余白たっぷり夜の桃」。の家系図に余白も面白いと思う。

河野 志保

特選句「たっぷりと水撒き八時十五分」。今年もこの日この時間が巡ってきた。被爆者の苦しみを思い、たっぷりと水を撒く作者。「八時十五分」に込めた鎮魂と平和の希求がまっすぐに伝わる。

島田 章平

特選句「たつぷりと水撒き八時十五分」。句のどこにも「ヒロシマ」とは書かれていない。しかしこれは紛れもなく、八月六日のヒロシマ。時間だけの表現がその緊張感を際立たせている。秀句。

滝澤 泰斗

特選句「父母(ちちはは)のゆるい溺愛夜の蝉」。巷の耳目を集めている事件で二つの事件に注目している。一つは、福原愛さんの子供を取合う事件、そして、もう一つは、札幌の首切り殺人事件。作者には申し訳ない気分だが、いの一番の掲句を詠んだ時、後者の事件に結びついてしまった。ことの真相は全く分からないが、親と娘の愛憎が縺れにもつれた始まりは、ゆるい溺愛からか・・・夜の蝉の鳴声は現実から逃れたい呻きに聞こえた。特選句「夏草や古書の湿りの蚊を挟む」。うまいなぁ・・・感心の一句。「はちがつのかたりべがほのほふきだす」。流石に八月・・・八月ならではの句が揃った。『麦秋の戦禍ピカソの「泣く女」』 。八月の日本の原爆忌、敗戦忌の類句ながら、麦秋からウクライナ侵攻が想起された。「ゲルニカ」としないで「泣く女」にしたところが良かった。「白雨来て病室という函包む」。白雨で快癒の兆しが感じられた。「色褪せた水着は私の抜け殻」。人も脱皮を繰り返しながら生きている感じが上手に表現された。「結論は明日にしませうソーダ水」。議論が膠着することはよくある。ちょっととぼけた諧謔がいい。

あずお玲子

特選句「静寂の縁を通りて赤蜻蛉(佐藤仁美)」。蜻蛉のホバリングを思いました。ホバリングをしながら静寂の縁を探しているのなら楽しい。きっと大きな目で見極めているのでしょうね。特選句「白湯のごと祖父の正調ゆすらうめ」。今は常に白湯のごときに物静かで波風とは無縁の祖父も、かつては向田邦子の父親のように絶対君主で女遊びの一つもある人だったのでしょうか。赤く艶やかな、そして甘酸っぱいゆすらの実が、生きている限り決して消えない火種のように思えて面白い取り合わせです。

薫   香

特選句「大西日『はだしのゲン』の居る床屋」。幼い頃は床屋に行って居ましたが、必ずと言っていいほど漫画がたくさん置いてありました。その中に「はだしのゲン」を置く床屋さんを想像しました。なんかいいですね。特選句『「おーい雲!」呼びかけてみる夏休み』。夏休みの開放的な気分と、これからの期待半分のんびり半分で、思わず呼びかけてかけてみたというところでしょうか?

榎本 祐子

特選句「かなかなや身体に泉飼ふ如く(あずお玲子)」。かなかなの鳴き声は、身の内に湧く思い、情に共鳴する。そのような情感を泉と言い、それを「飼ふ」とは、自身への慈しみの心のようで少し切なく美しい。

山下 一夫

特選句「薄青き耳たぶをもて蛇に会ふ」。「薄青き耳たぶ」のイメージが鮮烈。それだけで異界的な雰囲気が漂いますが「蛇」の登場でさらに強調されます。異界の不思議な光景とも現実の人間関係等を踏まえた心象の象徴的な表現とも見えますが、「会ふ」た後もただでは済まない展開が予感され、奥深く感じます。特選句「白雨来て病室という函包む」。世界中に病室は無数にあるわけですが「函」と言い切ったことで個別性が生まれていると思います。「白雨来て」から抜き差しならない運命の到来、「包む」から慈しみなどが滲み出てくる感じをしみじみ味合わせていただきました。問題句『ソーダフロート「趣味、俳句です」が正面(藤川宏樹)』。一読、意味の把握できなさにつかまりました。三読、インタビューや自己紹介をし合う場面で対面対話する人の間に、おそらく注文されたソーダフロートがあるのだと読解。「趣味、俳句です」を「正面」に押し立てているのは、作者か相手か三人称の世界なのか判然としませんが、いずれにせよなかなかに冒険的な企てなのではないでしょうか。

谷  孝江

特選句「秋刀魚焼くかぎり孤独はありません」。夫を亡くして二十年余り、一度も秋刀魚を焼くことはありませんでした。秋刀魚は一人ぼっちで食べるものじゃないとの思い込みみたいなものがあったからです。でも、焦げ具合など気を付けながら焼いた秋刀魚は格別です。今は、一尾の秋刀魚ですが年に一度か二度の楽しみを楽しんでいます。一日一日を感謝しながら・・・・・・・。

森本由美子

特選句「絶滅か進化か蜘蛛の糸ゆらり」。このテーマを結論づけるのは馬鹿げている、不必要と思いながらも、不安感が僅かずつ膨らんでゆく気もする。<蜘蛛の糸ゆらり>がそんな深層心理をよく表現している。

佐藤 仁美

特選句「向日葵咲く午後から風が強い場所」。向かい風にも力強く咲くひまわりに、けなげさを感じます。特選句「背に掛けて海の匂いの夏帽子」。背中の帽子は夏の名残ですね。

向井 桐華

特選句「身の芯に届く暑さとなりにけり」。本当にその通りの暑さだなと思います。熱中症になったことがありますが、何日も体の中の熱が取れず、皮膚を冷やしたり解熱剤飲んだりしても無駄だなと思いました。まさにその時のことを思い出しました。問題句「熟成の血はビーカーへ浮いてこい(川崎千鶴子)」。読む側に力が無いだけかも知れませんが、画が浮かびませんでした。

重松 敬子

特選句「八月の椅子置けば八月の影」。一枚の絵画を見ているような誌情あふれる一句。気怠い夏の昼下がりを想像します。

柴田 清子

特選句「打ち水やパン屋の猫の名はオバケ」。季語が、適切であって、たたき込むように言い切って楽しい内容の一句に仕上っている。

石井 はな

特選句「余生とは白い紙切れ金魚玉」。もう余生だからと半ば投げやりと諦めに気持ちが行きそうですが、白い紙切れ‼ でこれから何でも書き込めるなんて、励まされます。金魚玉の季語も気持ちの良い取り合わせです。

菅原香代子

特選句「アマリリス廊下の奥が懺悔室」。教会にはなぜか アマリリスが植っていた記憶があります。その中の薄暗い先にある懺悔室への畏れと秘密めいた雰囲気を感じました。 「みぞおちに蛍遊ばせ仁王像」。夜の本堂に静かに佇む仁王像、その懐に遊ぶ蛍への慈愛を感じました。

亀山祐美子

特選句「背に掛けて海の匂いの夏帽子」。走った勢いなのか海で一日楽しんだつば広の夏帽子のあご紐がズレて背中に落ちている。海と空の青さまで想像させてくれる明るくて楽しさを伝えてくれる上手い佳句。

野﨑 憲子

特選句「掌に取れば花烏瓜さんざめく」。烏瓜の花は夜にひらく。美しいレースの衣を纏った白い花である。果実の形状からか花言葉は、佳き便り。作者の掌で烏瓜の花はどんなお喋りをしているのか。特選句「炎昼の影ばかりなり皮膚を欲る(三枝みずほ)」。一読、爆心地が浮んできた。そこには今でも焼けただれた影が犇めいているように思えてならない。大いなるいのちの混沌の影だ。 

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

蜻蛉
投了の覚悟ゐずまひ赤蜻蛉
藤川 宏樹
時の扉一斉にひらき赤とんぼ
野﨑 憲子
伝言板へ「先に行くよ」と赤とんぼ
野﨑 憲子
蓮に蜻蛉この瞬間は真昼
薫   香
ダイドコにとんぼ放したのは誰れだ
銀   次
蜻蛉の行き交ふ人生何周目
あずお玲子
赤とんぼ明日は明日の風のまま
島田 章平
蜻蛉追う薬の如き時間かな
中村 セミ
憧れは蜻蛉のやうに直線直角
三好三香穂
百日紅
ちちははもわれも無名や百日紅
島田 章平
百日紅百日燃ゆ恋したき
三好三香穂
百日紅こぼるる過疎の町
あずお玲子
淋しいとは言はない白いさるすべり
柴田 清子
母子手帳は四冊風の百日紅
野﨑 憲子
だらだらと未練げに咲くな百日紅
銀   次
百日紅あいつがここにいたころは
藤川 宏樹
お薬手帳/母子手帳
八月の女囚健気や母子手帳
銀   次
母子手帳賜はる星月夜きれい
あずお玲子
お薬手帳忘れましたと残暑
島田 章平
初盆や母の遺品に母子手帳
島田 章平
父の名は空白秋の母子手帳
柴田 清子
草の花
草の花おーいそろそろでておいで
島田 章平
草の花牧野博士の精密画
三好三香穂
無器用な暮らしもよろし草の花
あずお玲子
草の花機嫌をとってゐるところ
柴田 清子
雨降って泥跳ねて泣いて草の花
銀   次
生きものに縄張りのあり草の花
野﨑 憲子
蟷螂
カマキリになるなら死んだ方がまし
柴田 清子
蟷螂の貌のひえびえとして無味
あずお玲子
枯蟷螂きのふのままに止まりをり
三好三香穂
蟷螂の両手広げロシア見る
中村 セミ
蟷螂飛んだ歌舞伎役者のやんちゃ
藤川 宏樹

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】何度か、「海程香川」の吟行に参加してくださった宮崎県小林市の永田タヱ子さんが他界されました。90歳の誕生日を迎えられたばかりで、十日に、御自宅で亡くなっていたそうです。お一人住まいでした。自ら車を運転し、鹿児島の刑務所へ今も俳句を教えに出かけていらっしゃいました。130歳まで生きる!って言われ、とてもお元気だったそうです。伊吹島吟行で軽トラの荷台に乗った永田さんの満面の笑みが忘れられません。心からご冥福をお祈り申し上げます。

【句会メモ】八月句会は、お盆前と重なり、一週間開催を遅らせました。猛暑の中、九名の方が集まり、四時間半の熱い句会が展開されました。八月という日本にとって最も重い月に、平和を願う、渾身の作品が多く寄せられました。これからの句会がますます楽しみです。

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