2016年3月31日 (木)

香川句会報 第60回(2016.03.19)

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事前投句参加者の一句

白梅やしずかに止みし姉の脈 稲葉 千尋
少年はいつも少女を待ち早春 小西 瞬夏
海地獄春の色して茹で卵 寺町志津子
俯けばしんがりの梅ほつと開く 伊藤  幸
ちるさくら受くるあなたのからだかな 竹本  仰
白鳥帰る完全無欠な青連れて 夏谷 胡桃
前を行く人から春がこぼれます 柴田 清子
風とまりふと足元にすみれ草 中西 裕子
病窓の陽射しに俺もホーホケキョ 増田 天志
穴ひとつ掘るだけに生き春の月 銀   次
とことんに列島に花ある蕊よ父の口 KIYOAKI FILM
沈丁花光に嘘のない美(は)しさ 久保 智恵
花あしび別れすぐ来る手を上げて 野田 信章
芽起こしの風に躓く麒麟の眼 亀山祐美子
風連れてどれを買おうか植木市 髙木 繁子
やわらかく仔猫かさなる箱の中 月野ぽぽな
宅急便曲がって曲がって春の街 三枝みずほ
うつばりの黝(くろ)のはなやぎ夕朧 矢野千代子
涅槃図に三十歳(さんじゅう)の我入りしまま 高橋 晴子
とりどりに鳥宿りおり春の雨 藤川 宏樹
有難うの卒業涙の相似形 中野 佑海
うどん県遍路が合掌ちゅるるるる 町川 悠水
オレンジな一日の唇軽く拭う 桂  凛火
春愁に非ず十指を陽にかざし 谷  孝江
夢十夜百年待てと春の闇 野澤 隆夫
古書店に蹄の音す菜の花忌 若森 京子
春の土アダムとイブの匂いかな 重松 敬子
三鬼の忌金属音の蠅生る 三好つや子
千手観音(かんのん)の御手にそれぞれ白木蓮 田中 怜子
春疾風ジンギスカンが旗を振る 漆原 義典
鋭角の言葉をミモザに変換す 古澤 真翠
春の空娘はぼんやり彫るがいい 小山やす子
たんぽぽや他力本願風の道 藤田 乙女
唇に雨粒二つ三つ春 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「とことんに列島に花ある蕊よ父の口」核心をつく言葉ポツリと無口なる父。息子の心に、蕊は、いつしか、果実に育つ。

月野ぽぽな

特選句「祖祀る心音かるく春落葉(矢野千代子)」:「祖祀る心音かるく」が良かった。先祖を祀る心を日々もてることは宝。その恩恵を受ける心のありよう、心音は重くなく軽い。「春落葉」もその佇まいの良さ、またその地道な生の営みに寄せる心が上五中七と通じ合っている。

中野 佑海

特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」素封家を百年近く守って来た土間の大きな太い梁。漆や煤や手入れして黒光している。そこに住む人の思いとも渾然一体となった梁。今、その家の主たる妻の心の華やぎ。夕映えの色。桃の花色と匂いと家族の歴史総てを抱き止め悠然と繋いでいく。そんなかってあった物語性を感じます。特選句「オレンジな一日の唇軽く拭く」とっても軽快な前半、どんな楽しいことがあったのかなと想像逞しくしてしまいました。後半がまた、意味深ですよね!こんな青春な一日を若い人は年とってもですが、楽しんで欲しいと思います。増田様。また、大津から半歌仙を御指導しにおいで下さり有難うございました。増田様の名さばきで面白い歌が展開しました。また、楽しい俳句論をお聞かせください。

藤川 宏樹

句会冒頭、百余の句を一気読み。この緊張感を大事にしたいです。短時間の選句ゆえ読みづらい句は飛ばしてしまいますが、ご容赦ください。特選句「芽起こしの風に躓く麒麟の眼」首長く脚長くいかにも不安定なキリンが微風にヨロッと躓く一瞬。その眼は高いが大きく優しい。「芽起こし」から日本の一景と窺えるのにサバンナの点景が浮かび来ます。起の「芽」と〆の「眼」、対が効いています。

古澤 真翠

特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」:「黝」という蒼みを帯びた黝い梁に魅入っている作者の感動を 「夕朧」と表現なさる感性に惹かれました。「み吉野に色はありけり夕朧」という句が ふと浮かんでまいりました。

野澤 隆夫

今月も楽しい句回の場を作って頂きありがとうございました。天志さん捌きの歌仙も、少し慣れてきて面白いです。6月の伊吹島吟行合宿も原案が出され、楽しみです。特選句「エシャロット刻むパリは噂好き(重松敬子)」:「エシャロット」を『広辞苑』で調べると「…タマネギに似る。…みじん切りにして香味料として…」と、〝パリは噂好き〟が何ともお洒落。最近はフランス映画を見ることもなくなり残念。「主翼灯仄か雲海の彼岸入り(藤川宏樹)」〝雲海に仄かな主翼灯〟と、目にしたことを上手に作句できてると思った。彼岸の入りの日に飛んだのです。「古書店に蹄の音す菜の花忌」この句も好きです。土佐藩祖・山内一豊が名馬を駆って古本屋に現れたか…。〝蹄の音す〟がいい。

町川 悠水

選評を書くというのは難しいものですね。句会でぱぱっとしゃべるのは比較的易しいものの、文字に置くとなると、俳壇選者の苦労もわかるようで、皆さんのお気持ちはどのようなものか。銀次さん流を真似るというのも、粋ではあるものの、手の届かぬところにあるしなあ‥‥。ここはやはり、自分の身の丈にあったやり方でいくしかないか‥‥特選句「賑わしの作句限界春の雨(古澤真翠)」以前の埼玉でのささやかな句会では、高齢者も何人かいて100歳近い人もいました。すると、このような嘆きを聞くこともありました。でも、上出来と思える句は誰だってそうそう出来るものではないよと、慰めたりしながら一緒に楽しんだものでした。実は、限界と思う気持ちこそが尊いものであり、その身のまわりから真の佳句が生まれ出るということがあるのではありませんかね。単なる同情ではなくて、「春の雨」で特選としました。僭越ながら「賑はし」がよくはありませんかね。特選句「つくしんぼ宇宙の響き満身に(増田天志)」土筆をこのように感じ取る。私の子どもの頃の強烈な印象とよく重なり合って嬉しくなります。宇宙は、光であるとみるか、響きであるとみるか、そのどちらかでしょうが、ここは「響き」で正解でしょうね。準特選句「宅急便曲がって曲がって春の雨」がグーですね。問題句「にんげんも蛙も臍出し三鬼の忌」佳句だと思うのに、なぜかよく解らない。突っ込みを入れるなら、「にんげん」ではなく「人」なのでは?三鬼に惹かれる私なので、これを超えるような句を作らねばと思う反面、果たして出来るだろうかとも。「ちるさくら受くるあなたのからだかな」は、感銘深く選ばせていただきました。ただ、「受くる」は「看取る」ではないのかと思いながら、鑑賞を間違えているかなとも‥‥。並選ながら「主翼灯仄か雲海の彼岸入り」、「春疾風ジンギスカンが旗を振る」も印象深くいただきました。全体として、わからない句はわからないまま脇に置いて、片や辞書をめくりながら鑑賞させていただくのも、新たな地平が開けてくるようで、楽しいものです。

銀   次

今月の誤読●「人といて井戸のぞくよう梨の花(夏谷胡桃)」。八五郎(以下、八)「大家さん、こいつはどういう意味なんでやしょう」大家(以下、大)「ふむ、なになに。〈人といて〉か。こりゃ、おまえ、あれだ、人といるんだよ」八「どうしてでやす」大「人じゃなきゃ、だれといりゃあいいんだい。虎かい。そんなものといた日にゃ食い殺されちまうよ」八「だったら犬でいいんじゃないですかい」大「犬だって、機嫌が悪けりゃガブリとやられちゃうんだ」八「じゃあ、猫」大「あいつは引っかく」八「うちのおっかあも時々引っかく」大「いいよもう。人だよ、人でいいんだよ。文句があるなら大岡さまにでも訴えな。で、なんだ。〈井戸のぞく〉と。いいじゃないか、のぞいたって。だいたいニンゲンなんてものは、穴があったらのぞくようにできてんだ」八「なんで井戸なんでやすか」大「あたりめえじゃねえか。女湯のぞいたらお縄になっちまわあ」八「まあ、あっしも何度か。いや、おっとっと、そりゃいいんですがね。それでその下の〈よう〉ってのはなんでやしょうね」大「挨拶じゃねえか。よう、八っつあんとか、よう、熊さんとかの、ようだよ」八「井戸に向かって、よう、でやすか。そりゃドジだ。返事が返ってくるわけがねえ」大「そこで〈梨の〉とくるんだよ」八「食うんですかい」大「梨の、と聞いてピンとこないかい」八「さあ」大「梨の、とくりゃ、つぶてだよ。梨のつぶて。返事なんか返ってくるもんかい」八「あ、なるほど。ようと呼んでも梨のつぶてか。ですが最後の〈花〉ってのが余りやすね」大「いいんだよ。八、いいかい。返事もねえのに、井戸に向かって、ようようと大声で呼んでたらどうなるね」八「さあ、アタマがフラフラしやせんか」大「そこだよ。花を英語でいうとどうなるね」八「タンポポ」大「バカ、フラワーってんだ」八「へえ。さすがは大家さん、学がありやすね」大「あたぼうよ。でだ、ようようと呼びつづけて、アタマがフラー、フラー、フラワーとなっちまうって寸法だ」八「なるほど、合点がいきやした」

竹本 仰

特選句「少しだけ離れ坐つてゐて春意(柴田清子)」たぶん、これは、異性の距離感のことではないのかと推量します。「そこ」にあなたが「ゐて」、「ここ」に私が「ゐて」、その緊張感、あるいは緩和感が、二人の距離をずばりと言い当てている。あるいは向こうはあえて書物を取り出しめくるのかも知れない、そしてこちらは何もできずにこの空間と時間の重みを抵抗できず受け止めているのみか。「ゐ」に古語感、歴史感、うまくしみこんでいるのではと思います。特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」古い民家の闇からうす闇、そこからあかりへの、グラデーションというのみでなく、立ち上がってくる時間のなまめかしさ。思わず、うなりそうな息をのむ光景です。奥行きを、一見別種の「はなやぎ」という語に見事にとらえているなあと感心しました。しかし、この共感は人生の内面へのまなざしに向けられたものかもと。春は芽吹き、開花の時期です。それと同時に、心の病もそれと正比例にあらわれるようです。知り合いにそういう方がおられ、しかし他人事ではありません。この間、ニーチェの言葉を読んでいたら、「もっと喜ぼう。ちょっといいことがあっただけでも、うんと喜ぼう。この人生、もっと喜ぼう。喜び、嬉しがって生きよう」 というところに接し面喰いました。これは、病ではない、これこそを芽吹くというのかなと。いい季節になりました。また、来月もよろしくお願いします。

若森 京子

特選句「白鳥帰る完全無欠な青連れて」毎年、カムチャッカの方から飛んで来て帰る白鳥に不思議な自然の摂理を思うが、完全無欠な青、純粋な青を運んでいるのに納得した。特選句「春の土アダムとイブの匂いかな」春の土に人間の始めよりの匂い、全ての自然界の始動がある。「アダムとイブ」と直接書かれている。これ以上の表現はない。

小西 瞬夏

特選句「少しだけ離れ坐つてゐて春意」この距離にはどういう意味があるのだろうか。その関係性や二人の間にあった出来事などが想像される。言葉以上の世界を作っている。「少しだけ」がやや安易な気がするのだが。「~ほど」とかもう少し具象に即した手がかりがほしい。

谷 孝江

特選句「少年はいつも少女を待ち早春」「前を行く人から春がこぼれます」なんて優しくて、情緒溢れる句でしょう。心暖まる思いでいっぱいになりました。八十ン年前のわたしにもこんな事があったのでしょうか。遠い遠い一シーンに出会えた心地がします。ありがとう。今月はどれも春らしくて大好きな句ばかり。選ぶのに大変でした。唯々自分好みになりました。来月はどんな句に出会えるか楽しみです。

寺町志津子

特選句「芽起こしの風に躓く麒麟の眼」一読、心奪われた。木の芽を上方に向ける芽起こし。その風に躓く麒麟の眼。恥ずかしながらその意がしかとは分かりかねているのに、何故だろうと自問自答。その取り合わせの独自性、新鮮な詩情に、実に魅力的な風が流れ、大好きな句であった。

田中 怜子

特選句「春愁に非ず十指を陽にかざし」陽にかざした指の明るい透明感が目に浮かぶ。気持ちの転換がはかられそう。特選句「やわらかく仔猫かさなる箱の中」仔猫のやわらかさ、すーすー眠っている感じがいいですね。問題句「海地獄春の色して茹で卵」:「海地獄」と「茹で卵」の意味がわからない。

三枝みずほ

特選句「「唇に雨粒二つ三つ春」春のアンニュイな世界観が出ていて惹かれました。一つとしないで、二つ三つと並べることで、逆に一つ目の雨粒が強調され、何かの始まりを予感させられるようです。リズムも素敵な作品でした。

重松 敬子

特選句「病窓の陽射しに俺もホーホケキョ」病気の句は寂しいものが多い中、よけい目立ちます。いいですね。人生は最後までこうありたい。退院も間じかなことでしょう。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き春の月」下五の春の月がすべてを物語っていると思います。作者の人生に対する姿勢でしょうか・・・・・

中西 裕子

特選句「銚子酌む三人官女や桃のほほ(藤川宏樹)」春らしいテ―マで、リズムも良いのでいただきました。「少年はいつも少女を待ち早春」の、少年少女は、若い人たちと、早春が似合います。「鳴動す小さき命の春布団(三枝みずほ)」は、新しい命への喜びが感じられます。「菜の花の一塊に襲はれる(柴田清子)」は、今まで菜の花のしみるような色の表現を、こんな言い方は思い付かなかったので新鮮でした。問題句「時に奇声発して老人春の鵯(ひよ)(野田信章)」は、問題句というかなんとなく笑ってしまうような句で、奇声が老人なのか鵯なのかわかりませんでした。増田さま、遠くからいらしてくださってありがとうございます。勉強になりました。

三好つや子

特選句「「春愁の指の先から塵になる」仕事も家事もしたくない・・・そんな春の無気力感が伝わってきます。指先が塵になるという言い回しに感動しました。特選句「春の土アダムとイブの匂いかな」春、さまざまな命が芽吹く大地。朽ちた植物、鳥や獣の骸が浸みこんだ土の匂いに、神話をイメージした作者の感性が素晴らしい。「にんげんも蛙も臍出し三鬼の忌」三鬼の忌と万愚節はおなじ日。三鬼的な物の見方と、いたずらっぽい嘘が軽妙にからんだ、面白い句です。

伊藤 幸

特選句「涅槃図に三十歳の我入りしまま」きらびやかな涅槃図の中に あの悩ましい程美しかった自分がそこにいて気持ちだけはそのままなのだ。今を否定はしないがあの頃に戻れたら何をどうしていただろう。時は残酷に刻み続ける。句がどうだと言う前に 作者の思いが手に取るように伝わってくる。特選句「オレンジな一日の唇軽く拭う」素晴らしい一日を終え まだ余韻に浸っている。興奮覚めやらず唇に舌で触れるとほんのり色づいた温かみが感じられ拭うのが勿体ない位。上中下一語一語に漂う新鮮な雰囲気が魅力である。

小山やす子

特選句「躰内に水の満ちゆく鳥曇り(亀山祐美子)」春先の気も体もけだるいそれでいて何もかもが蘇生するような感覚を上手く瑞々しい表現になっていると思いました。

柴田 清子

特選句「薄氷はきっと光の翅だろう(月野ぽぽな)」瞬きをすれば消えても不思議ではない〝うすらい〟を「光の翅」だと、優しく自分自身に言ひ聞かせていながら、読手には、強い断定と受け取れる。それは『光の翅』と言ふ言葉の発見が、詩的な句として立ち上って来る。さらに『きっと』が、キラリと翅を一瞬光らせた。こんな句に出会えるから俳句は止められないのかな・・・。特選句「鋭角の言葉をミモザに変換す」何を言はんとしているのか、理解しぬくいけれど、一読、好きか、嫌いかで言えば、大好きな句。鋭角の言葉が、何であるか、はっきりしていないことが、かえってミモザでなければならない気にさせられた。この句が、私の特選へと変換させたみたい!

漆原 義典

特選句「「有難うの卒業涙の相似形」卒業式は、将来への羽ばたく喜び、友との別れの悲しさなど、それぞれ感じるところがありますが、卒業式の有難うの言葉を涙の相似形と上手く表現されていると感心し特選とさせていただきました。私は俳句を表現する言葉が乏しく、私の俳句の引き出しには「相似形」という言葉はありませんでした。私は言葉を多く持っている人に憧れます。今後、俳句の引き出しに言葉を多く詰めていくように勉強していきます。

野田 信章

特選二句。「鋭角の言葉をミモザに変換す」「春の空娘はぼんやり彫るがいい」前句に冴えた感覚による発想の句姿を、後句に感受性の豊かな発想の句姿を認めて味読中である。「変換す」といい、「彫るがいい」といい、それは取りもなおさず詩的真実を求めての創る行為の美しさに共通するものがある。私的にも、この二点の希求するところに留意したい。「何もかも海が飲み込むめおと蝶」の一句は、中句にかけての景の取り方がよい。この句柄なら「何もかも海が呑み込む」と決めたいところでもある。

桂 凛火

特選句「宅急便曲がって曲がって春の街」リズムがよくて春の明るい気持ちが伝わりますね。曲がって曲がってがよかったです。いつも見ている情景がうまく切り取られていてさわやかです。問題句「三鬼の忌金属音の蠅埋生る」三鬼の忌との取り合わせがおもしろいです。ただいまひとつわたしには 三鬼の忌が動くようにも思えました。でも金属音の蠅うまるは素敵な表現ですね。

亀山祐美子

特選句『前を行く人から春がこぼれます』一読よくわかる。明るいアンニュイが春らしい。逆選『蒲公英を転がつて行く私の港」:「私の港」が意味不明。「私の舟」なら意味が通る。しかし面白みに欠ける。ここがこの句の肝。楽をした。残念。

高橋 晴子

特選句「白梅やしずかに止みし姉の脈」ふと蕪村の〝白梅に明くる夜ばかりとなりにけり〟を思いだした。悲しみが伝わってくる。問題句「被曝牛乳房の張りをわれに見す(稲葉千尋)」〝われに見す〟をもっと牛そのものの在り方に変えるといい句になると思う。

野﨑 憲子

特選二句。「穴ひとつ掘るだけに生き春の月」この省略の美しさ、春月の何と艶なることか!煮詰まってばかりの私にとって、この上もないエールと受けとめました。「とりどりに鳥宿りおり春の雨」ト音の繰り返しが雨音に聞こえてくる。昔、栗林公園を歩いていて、にわか雨に会った時、走り込んだ四阿・・ふと見上げると、梁の上に、尾長鳥が何羽も居ました。記憶を喚起させる作品に力あり。句に出逢ふ喜び確と三月尽 憲子  

(一部省略、原文通り)

半歌仙『風光る』の巻     捌き  増田天志

風光る島の自転車ハイカラさん
増田 天志
  ひらりひらりと夕べ陽炎
野﨑 憲子
夢うつつ鼻孔くすぐる春日にて
中野 佑海
  トイプードルのかしましき声
野澤 隆夫
うさぎはね雲をかき分け月に入り
藤川 宏樹
  温き酒にも寂を先取る
   佑海
紅葉かるトロッコ列車に手を振りて
郡  さと
  還暦過ぎし恋はうたかた
漆原 義典
七輪に束ごと燃やす想ひ文
銀   次
  兄さんと呼ぶプラットホーム
   憲子
こんぴらへ裏参道を駆け登る
   さと
  飛び交ふ鳥の哀しかるらん
   佑海
月涼し胡弓聞こゆる旅の宿
   さと
  鰻食ひたし四万十まで行く
町川 悠水
寅さんの古い映画のかかりをり
   さと
  無用の用はバケツにいけて
中西 裕子
禿隠し竹馬の友と花の宴
   悠水
  息づく灯り雛の寄り添ふ
   佑海

句会メモ

お陰さまで、「海程」香川句会は、第60回を迎えました。ひとえに、ご参加の方々、また、見守ってくださる読者の皆様の温かなお心によるものと存じます。有難うございます。そして今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

今回は、大津より増田天志さんが参加されましたので、久々に半歌仙を巻きました。俳歴も、句柄も、それぞれに違う方のご参加なればこその、ちょっと型破りな面白い歌仙になりました。歌仙には、取り決めが様々あるのですが、それをあまり気に掛けないのが、この句会の、また良い所でもあります。増田さん、捌きを有難うございました。いつかまた是非やりたいです。

2016年3月1日 (火)

香川句会報 第59回(2016.02.20)

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事前投句参加者の一句

スイートスプリング笑って転んで子は猫に 中野 佑海
臼起し村にわんさか子等がいた 伊藤  幸
糊代の分まで生きて柚子たわわ 谷  孝江
古着屋に西日こころは野晒しや 若森 京子
おにわらび熊野古道の鍵あける 三好つや子
テロに馴れゆく耳目全開土竜打ち 野田 信章
海峡に蝶群青を覚ましゆく 竹本  仰
反骨の父存分に梅咲かせ 矢野千代子
ストールの行方スクランブル交差点 三枝みずほ
春風の土佐堀川やカヌー速し 桂  凛火
テロリスト母の子宮に還りませ 古澤 真翠
根本中堂目に炙り出す冬の霧  小山やす子
展宏さんの笑顔酔ひ顔春立ちぬ 高橋 晴子
雪あかり静寂いよよ深まれり 田中 怜子
春の闇そっと涙とフランスパン 鈴木 幸江
鶫(つぐみ)睦ぶ畑中バレンタインの日 野澤 隆夫
春節や街闊歩する北京人 漆原 義典
雪見酒旅の果つるを此処と決め 銀   次
唇にピンクを足して春の街 藤田 乙女
後手で山見る婆や春よ来い 稲葉 千尋
空函に白蝶飼うて不意にひとり 小西 瞬夏
また二人昔を啜る小豆粥 髙木 繁子
梅が香を思いきり吸い吐き出さず 寺町志津子
春一番巨船着くなり顎外す 町川 悠水
春出水唾溜りけり父の辞書 KIYOAKI FILM
シリウや大蛇(おろち)は朱き腹を見せ 重松 敬子
鯉浮かぶ言葉のいらない世界から 河野 志保
権力の尻から腐る南瓜かな 夏谷 胡桃
殺戮の止まぬ市街へ赤風船 増田 天志
海女入れて海原うっとりと光る 月野ぽぽな
裸木の無口なれども 陽は温し 中西 裕子
松籟へ応ふる詩を持たず春 亀山祐美子
大野火や十七音の風の杖 野﨑 憲子

句会の窓

月野ぽぽな

特選句「海はゆりかご冬のゆうやけへまた明日(谷 孝江)」:「海はゆりかご」一発の句。生き物の源、生き物の優しい母であり厳しい父である海。いつも前を見てゆく姿勢「また明日」が頼もしい。

稲葉 千尋

特選句「臼起し村にわんさか子等がいた」初めて見る季語「臼起し」により子等の歓声が聞こえてくる。子等の顔が見えてくる。「ストールの行方スクランブル交差点」ストールの女性の行方を目で追う作者が見えてくる。きっときれいな女性なんだろうと想像する。

増田 天志

特選句「空函に白蝶飼うて不意にひとり」孤独感がしみじみ。特選句「きさらぎや犬捕りもいて白濁色(若森京子)」季節感が巧みに表現されている。

桂 凛火

特選句「春の水ゆれて日輪の暗号(野﨑憲子)」とても静かな風景ですが最後の暗号で深く意味づけがされておもしろい句になっていると思います。日輪という古代語の使用も効果的ですてきな句だと思います。

KIYOAKI FILM

特選句「古着屋に西日こころは野晒しや」:「西日こころ」と「野晒しや」が良かった。「野ざらし」という漢字で覚えていたので「野晒し」が良かった。古着屋のひとの姿を思わせる。特選句「女子会の大空騒ぎバレンタイン(重松敬子)」:「女子会の」にふらあっと、となって特選にしました。「女子会」に女性の魅力を感じました。

町川 悠水

今月の句会は、世話人である野崎さんのほかは皆男性。これは初体験ながら、野崎さんの堂々のさばきは天晴れ。これで益々、海程香川句会の今後は安泰と確信しました。ここで小生の選句基準らしきものを申し上げるなら、リズムと季語があることです。例外もありますが、好みとしてそうならざるを得ません。偏見じみておりますがね。特選句「反骨の父存分に梅咲かせ」。いいですね。小生が反骨心を多少持ち合わせる人間だからでしょう。その奥行までも愉しませて貰うことができるのです。盆栽の梅でしょうが、そうでなくても立派に鑑賞できます。特選句「権力の尻から腐る南瓜かな」これもいいですね。風刺の利いたものはとかく川柳になりがちですが、これは紛れもなく俳句で秀作と思います。準特選句「テロに馴れゆく耳目全開土竜打ち」。これは小生の基準に照らし、「まさにテロ耳目‥」として貰ったらと思います。と言いますのは、前の埼玉県では菜園もやや広くあって、土竜には大層悩まされました。そこで対策も多く試みた結果、唯一成功したのは空き缶を利用した落し穴をいくつも置き、それで1匹捕獲したからなのです。そうした経験もあって申し上げた次第です。問題句「春の水ゆれて日輪の暗号」。”ゆれて”が説明になっていませんかね。佳句であるだけに「日輪の暗号あらはに春の水」ではいかがですか?

野澤 隆夫

昨日は野崎さん以外は男ばかりの「びっくりぽん」。いつだったか、男は小生だけのなんとなく詫びしいこともありましたが…。でも句会は人数、男女、年齢等に関わらず楽しいものですね。人が寄ってるだけで句会です。今月の小生の選句の秀句。「 ターバンを巻いて史書読む冬ごもり(桂 凛火)」この句に自分を当てはめました。夜に見るテレビもなく、家族はそれぞれに自分に熱中。小生は茶の間を抜け出して、寒いダイニングのテーブルに座り読書。司馬遼太郎の「坂の上の雲」の第1巻を読んでる。フード付きのヒートテックのジャパーに、ご丁寧にマフラーまで巻き付けての小生流「冬ごもり」。をイメージしました。「 河豚酒やひとりになったと友のいう」も、何か身につまされる句です。こうならないためにも、やはり趣味は継続し頑張らなければと、実感してます。

小西 瞬夏

特選句「寒稽古五人は球体のまま昏れる(若森 京子)」:「球体」とはいったい何か。ひとりひとりがまるい物体なのか、それとも5人がまとまることで一つの物体になるのか。「球体」という形の美しさ、不思議さ、完全さを思う。それが「地球」や「宇宙」の相似形にも思える。季語の「寒稽古」がうまく響いているかどうかはやや疑問。

藤川 宏樹

三句選びました。「女三人座禅の前後雛囲む[高橋晴子)」:女三人雛を囲み和らいだ語らいの空間が、座禅の清逸空間を際立たせ見せてくれます。「志氷壁きらりニュートリノ(町川悠水)」:「志氷壁」を「止水壁」と誤読、福島原発の凍土止水壁に意識が飛びました。「春一番巨船着くなり顎外す」:「顎外す」は豪華客船を見上げて口あんぐり、作者の顎と見ましたが、実は着岸し口を開けるフェリー・・・で、お手付き二つ目。「間違っていることが、フックが残る」(現代美術家 村上隆)・・・まさにそのとおり!

伊藤 幸

特選句「スイートスプリング笑って転んで子は猫に」春らしく楽しい句である。スイートスプリングの青く硬い皮の中の甘い果実と子供そして猫の取合せが何とも微笑ましい。特選句「松籟へ応ふる詩を持たず春」作者にとっての松籟とは?模索の中で迎えた春をどの様に消化すればよいのか…。端正な句の中に作者の現在の苦悩が見える。しかし一行詩にこれだけの思いを凝縮出来る作者、私の様な未熟者には計り知れない才と唯々脱帽である。

漆原 義典

特選句「唇にピンクを足して春の街」は春を待つ心を、ピンクを足すと表現し、素晴らしい句だと思います。

竹本 仰

特選句「風花仄か同胞の遠会釈(月野ぽぽな)」:兄弟姉妹の距離というのは、世間的・常識的にはそんなものなのでしょうが、うまく疎遠になってしまうというところがありますね。幼少のころ、あれだけ濃かった繋がりが、本当に見事にほぐされていきます。それはなぜなのか、とあえて問いかけてみたのが、この句なのではと思います。人がやがて離れ離れになってしまう、それは抗いがたい天然なのかも知れませんが、そうですね、特に肉親のお葬式なんかあると、この疑問がほんと瞬間に来ることがあります。この「風花仄か」が、その瞬間を、しかも伸縮性のある空間として、うまく出せているように思いました。特選句「テロリスト母の子宮に還りませ」:テロリストという言葉を有名にした一人は、石川啄木なんではないかと思います。なんせ、詩の中に堂々と出したのですから。大杉栄さんなども、この言葉で当時は政治的に利用されたのでしょうね。面白いことに、テロリストというのは、当時から女性とのつながりを強く意識させるところがあります。テロリストというあくまでも呼称なんですが、傾向として、男女の根源的な結びつきをうながす何かがあるんでしょうか。古い話で恐縮ですが、あさま山荘事件なども、あれは男部隊としてなら起こりえなかった展開をはらんでいました。あの時も、山荘にこもった過激派たちに最後の説得にと、母親を連れ出すという一幕があり、つくづく母というのはこの世界の限界に立つ倫理であるなあと、脱線しつつ感心した次第です。問題句「大野火や十七音の風の杖」:メタ俳句というのでしょうか?俳句を問う俳句?何となく山頭火の「うしろ姿のしぐれてゆくか」を思わせる、かぶく姿が面白く、舞台的に鑑賞して、快哉快哉と、叫びたくなるような句であります。こういう句への、挑戦があったということが、うれしく感じられました。以上です。まだまだ寒い日が続きます。週明けの月曜日は、久々の休日(二月初?)がとれそうなので、室戸岬へ巡礼してきます。みなさん、いつも、ありがとうございます。来月も、よろしくお願いします。

古澤 真翠

特選句「根本中堂目に炙り出す冬の霧」1200年前から続く最澄の灯明を 目に炙り出すと表現されたのでしょうか…冬の霧という結句に 謎めいた歴史の深さを感じさせられました。

若森 京子

特選句「おにわらび熊野古道の鍵あける」わらびの形象から鍵をイメージさせて熊野古道の春が始まったと。古代の人々からずっとその情感は変わる事がない。「蓮華の蜜含み囚徒の唇となる(小西瞬夏)」蓮華の蜜を吸った時の幸せ感はたとえ様のない昂揚感がある。むさぼる様な囚徒の渇いた唇になるであろう。二句共に、春の喜びが溢れて好きでした。

銀   次

今月の誤読●「ええっ何の甘露煮だったか春(増田天志)」。「〈ええっ〉、ベッキー不倫ってほんまかいな」「いまごろなに言うてんねん、あんたワイドショー見てへんのかいな」「相手、だれやのん」「ゲスの極みのなんじゃらいうバンドのボーカルやて」「ゲスって〈何の〉こっちゃ」「そやからそういうバンドの名前やがな」「ふーん、やっぱり〈甘〉いイケメンかいな」「ぜんぜん、おかっぱ頭の不細工な男や」「わからんもんやな、ベッキーがそんな男にな。そういやベッキー最近テレビの〈露〉出、少ない思てたわ」「少ないんとちゃう。謹慎中で出てへんのやがな」「ほな家の中で」「そやがな謹慎してんのやがな」「食べにも出んと家で〈煮〉炊きしてんのやろか」「せやろな。ちょっとかわいそうな気がせんでもないな」「そういや、いつ〈だったか〉忘れたけど、不倫は文化や言うたタレントいたな」「いつの話や、石田純一やろ」「あの人やったら、うち不倫してもかめへんで」「鏡見ていい。あれへんあれへん」「やっぱり〈春〉なんやね」「なんやねん、急に」「そやから猫かて春にはさかりがつくっちゅう話や」「さかりて、あんたオチが下品やな」「えらいすんまへん。下品はあんたの顔やったな」「そやそやって、なでやねん。しまいに怒るで」

中野 佑海

特選句「ダンデイな詐欺師にらんまん葱の花(矢野千代子)」どんなに恰好良く気取ってみても、所詮詐欺師は詐欺師。胡散臭さは免れません。その紛々とした、怪しさも葱の匂いとは。お笑いですね。本当はそれが、砂上の楼閣だったとしても素敵に決めて頂きたいものですね、世の男子諸君!特選句「陽炎や右脳まさぐる舌の先」なんとまた、悩ましき俳句であることか!頭の中の思い出そうとして思い出せないあの感覚をとってもうまく表現して下さって有難う。正に認知症一歩手前。情けなや。問題句「海はゆりかご冬の夕焼けへまた明日」海の中へお日様が戻って、お休みなさいをするところ。緩くて可愛くて素敵だけどもう少し短い表現で足りると思います。以上、今回も楽しい素敵な俳句を拝読させて頂き有難うございます。句会に出られずに残念でした。来月はまた、脳の活性化の為に句会に参るぞーさん!!

野田 信章

「暗暗と雨吸う足裏梅ましろ(矢野千代子」は、「足裏」に「暗暗と」では、生真面目すぎて重っ苦しい感がある。せめて「あんあんと雨吸う足裏」ぐらいの表記で「梅ましろ」との生き身の反応を果したいと思う。「裸木の無口なれども 陽は温し」は「裸木や」と切字を設定することで、自己の無口として自立させて、裸木との響合を求めたいところである。冬から春への間(あわい)としての大気の伝達がこの句のポイントである。

寺町志津子

特選句「海峡に蝶群青を覚ましゆく」景の大きさに好感。何処の海峡であろうか?「群青を覚ましゆく」の意味するところに迷い、今も釈然とした理解が出来ていないので、特選に選んでの選評は避けたい思いであるが、蝶が運んでいく季節の色合いの移ろい、はたまた、海底に眠る戦艦や戦死者の魂への鎮魂とも思え、清冽な句の姿に、ともかく好きな句であった。特選「みずうみに春が来ました戦地です」平易な言葉で、おだやかにさりげなさそうに詠まれている表現に、静かな詩情と平和への強いを感じた。「シリウスや大蛇は朱き腹を見せ」夜神楽であろう。よく見かける景の句とも思うが、夜が更けて神楽は佳境に入り、神楽定番のおろちが朱色の腹をくゆらせながら大揺れ。凍てついた冬の天空のシリウスとの対比が絵のようである。

中西 裕子

特選句は「雪あかり静寂いよよ深まれり」、でスッキリ感があり、いよよという言い方が、静かななかに、力強さを感じました。「枇杷ノ花心に触れることありし(重松敬子)」の枇杷の花も、地味ななかに存在感のある枇杷の花を取りあげていて、最近枇杷のはちみつの話をテレビで見たばかりで、気になりました。

夏谷 胡桃

特選句「海女入れて海原うっとりと光る」少し暖かく緩んだ海に海女が抱かれている。少し色っぽさもあるように感じました。特選句「テロに馴れゆく耳目全開土竜打ち」本当に毎日毎日戦争のニュースに、私たちは戦争に馴らされていくようです。そうして、戦争が勃発(意図的に)するかもしれません。「土竜打ち」があいすぎている気もしたのですが、「土竜打ち」にユーモアもあると思いました。

鈴木 幸江

特選句「糊代の分まで生きて柿たわわ」私事になるが、92歳でいまだに1日3時間だが、コーヒーショップを開いている母がいる。その母の生き様を、この句は言い得て妙だと思った。「柿たわわ」が、その人生を肯定しているようで、とても嬉しくなった。特選句「暗暗と雨吸う足裏梅ましろ」足裏は、普段お世話になっている大切な部位なのに関心は薄いところ。しかし、その待遇にも文句も言わず耐えている。雨を吸いながら頑張って生きている。勲章のように白梅が寄り添い咲いている。そんな情景が想像され、よい句だと思った。問題句「展宏さんの笑顔酔ひ顔春立ちぬ」川崎展宏の笑顔は記憶にあるような、ないような。酔った顔は想像するばかりである。しかし、それがとても明るく楽しく、元気をいただいた。問題は、「の」がない方が、リズムがでて、よいのではないかと思ったこと。

小山やす子

特選句「おにわらび熊野古道の鍵あける」比喩が面白いです。「糊城の分まで生きて柚子たわわ」は等身大に生きられたらそれで十分と思うが、糊代の分があるとは面白い発想です。

三好つや子

特選句「大野火や十七音の風の杖」野火のうねりにも似たさまざまな葛藤を、日々俳句と向き合い乗り越えてきた作者。とりわけ中七と下五の表現に共感。特選句「糊代の分まで生きて柚子たわわ」五体のあちこちに不具合があっても、今を生きている事の喜びが素直に伝わってきます。柚子の香りがするオーガニックな句。問題句「たてがみを揺らし乗り込む雪女(桂 凛火)」肉食系の雪女を想像させ、すごく面白いです。雪女の髪がたてがみのようなのか、雪女が馬に乗ったのか、という曖昧感が気になりました。

谷 孝江

特選句「反骨の父存分に梅咲かせ」かっての日本男子の原点を見る思いです。亡父の姿とも重なってまいります。まっ白な梅が凛と香っているのでしょうか。特選句「鯉浮かぶ言葉のいらない世界から」沈黙の力、思いの深さがあります。その外に「海女入れて海原うっとりと光る」日本海の荒波を見慣れてきた者には「うっとりと光る」穏やかな海が羨ましいです。終日うっとりと海原を眺めていたいもの・・・とあくせく過ごしている毎日が省り見られます。

三枝みずほ

特選句「みずうみに春が来ました戦地です(夏谷胡桃)」きれいな作品かと思いきや、下五でその色彩、風景が一変しました。口語体でさらっと言う厳しい現実に、切なさ、やるせなさを感じました。「春の水ゆれて日輪の暗号」水のゆらめき、光の屈折、輝きが暗号とは、面白い捉え方だと思いました。この自然からの暗号が解読出来たのかも、気になるところです。

高橋 晴子

特選句「海峡に蝶群青を覚ましゆく」感覚的、暗喩的で好きな句。〝覚ましゆく〟に、拡がりを感じる。問題句「テロリスト母の子宮に還りませ」どうしようもないから、こういったのだろうが、甘い!

河野 志保

特選句「海女入れて海原うっとりと光る」季語はないが「うっとりと光る」で春の海を想像した。「海女入れて」に自然と人間の一体感みたいなものを感じ、とてもひかれた。 本文

重松 敬子

特選句「春風の土佐堀川やカヌー速し」平凡な句ですが、待春の躍動感があふれ、素直に嬉しくなりました。

亀山祐美子

俳句なのか詩なのか、つぶやきなのか愚痴なのか、キャッチコピーなのか…言葉の羅列の中、目に見える、景の描ける作品を選んだ。特選句『権力の尻から腐る南瓜かな』権力を持つ者(団体)が目に見えぬところから腐ってゆく様、警告。自壊。「南瓜」のどっしり感が「権力」の動かないもどかしさ、圧力感を上手く代弁し、茶化している。 「権力」を「人類」と置き換えれば警鐘句としても成立する一句だと思う。特選句『大野火や十七音の風の杖』広大な野焼きの煙りがそこかしこから風に煽られ立ち昇り、天上人か仙人が杖をついているかのような大きな景が広がる。「十七音の風の杖」は、俳句を自己表現の手段としなければ、この風景には感動しなかった。否、迷惑感さえ募らせたかもしれない。人生の杖となる「俳句」に出会えた喜びが素直に伝わる。「風の音」ではなく「風の杖」としたことで陳腐さから逃れた。ただし、この手がいつも利くとは限らない。難しいところだ。本文

藤田 乙女

特選句「足元を猫がくぐる春のカーブ」春の暖かさと猫の温もりが重なりあって伝わってきます。「ダンディな詐欺師にらんまん葱の花」詐欺師と葱坊主の組み合わせがとてもユーモラスで楽しい気分になります。

野﨑 憲子

特選句「おにわらび熊野古道の鍵あける」平仮名表記の「おにわらび」が不気味。しかし、この蕨の親分は、十七音の天辺に鎮座して、熊野古道の奥の奥の途方もない扉を開きそうな気配であります。特選句「海峡に蝶群青を覚ましゆく」:「群青」と云えば、谷村新司の、特攻を詠ったという名曲『群青』が思い浮かびます。海峡を渡る蝶の鎮魂の調べが読む者の心の底に響いてくる名句だと思いました。問題句「春一番巨船着くなり顎外す」句会当日の作者の自句自解で「顎外す」が、フェリー船の着岸の状態を詠んだものと知りました。なるほど。私は、早春の港に大きな船が入り、びっくりした風が顎を外したのかと・・ンなこと、無いですね。今回も、チェックした作品が数多あり、最後の最後まで選句に悩みました。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

一昨日
おとといの鰭酒旨し寿(いのちなが)
町川 悠水
億年も一昨日も彼方とす
銀   次
おとといの陽炎からのメールです
野﨑 憲子
雨水
天上へひらく嘴雨水かな
野﨑 憲子
靴しみて傘折りたたみ春雨水
藤川 宏樹
かの乱歩読み終へし今朝雨水かな
野澤 隆夫
帆をあげて日の丸たてて春の海
銀   次
大寒や凛と日の丸警察署
野澤 隆夫
墓参赤旗愛し燃え尽きて
町川 悠水
時は来て白旗上げたし初句会
藤川 宏樹
小机に梅の欠けらを残しをり
銀   次
受験生ひとり机を撫でまわす
町川 悠水
嗽して机の上に風邪薬
野澤 隆夫
少年が鼻血洗へり春の川
銀   次
ぶらんこや団子ツ鼻と鷲ツ鼻
野﨑 憲子

句会メモ

今回のサンポートホール高松での句会は、春の雨の中はじまりました。句会においでくださった方々に感謝です。 見学に来て下さった藤川宏樹さんを始め、皆様男性という、句会発足6年目にして初めての不思議な楽しい時間でした。(^_-)-☆ 色々な方のご参加で、ますます句会が盛り上がって参ります。来月は、女性の方も奮ってご参加ください。

句会の二日前が雨水ということで、<袋回し句会>のお題の中にも「雨水」「一昨日」が入り、面白い句や、考えさせられる句、懐かしい句がいくつもありました。袋回しにご参加くださった藤川さんの「靴しみて傘折りたたみ」のフレーズには、春寒の思いが籠り良かったです。また、是非、ご参加ください。袋回し句会の句数は、いつもより少し少なくはありましたが、人生の一齣一齣を垣間見られるような作品に出会え感動いたしました。次回が、また、楽しみです。

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