「海程香川」
香川句会報 第60回(2016.03.19)
事前投句参加者の一句
白梅やしずかに止みし姉の脈 | 稲葉 千尋 |
少年はいつも少女を待ち早春 | 小西 瞬夏 |
海地獄春の色して茹で卵 | 寺町志津子 |
俯けばしんがりの梅ほつと開く | 伊藤 幸 |
ちるさくら受くるあなたのからだかな | 竹本 仰 |
白鳥帰る完全無欠な青連れて | 夏谷 胡桃 |
前を行く人から春がこぼれます | 柴田 清子 |
風とまりふと足元にすみれ草 | 中西 裕子 |
病窓の陽射しに俺もホーホケキョ | 増田 天志 |
穴ひとつ掘るだけに生き春の月 | 銀 次 |
とことんに列島に花ある蕊よ父の口 | KIYOAKI FILM |
沈丁花光に嘘のない美(は)しさ | 久保 智恵 |
花あしび別れすぐ来る手を上げて | 野田 信章 |
芽起こしの風に躓く麒麟の眼 | 亀山祐美子 |
風連れてどれを買おうか植木市 | 髙木 繁子 |
やわらかく仔猫かさなる箱の中 | 月野ぽぽな |
宅急便曲がって曲がって春の街 | 三枝みずほ |
うつばりの黝(くろ)のはなやぎ夕朧 | 矢野千代子 |
涅槃図に三十歳(さんじゅう)の我入りしまま | 高橋 晴子 |
とりどりに鳥宿りおり春の雨 | 藤川 宏樹 |
有難うの卒業涙の相似形 | 中野 佑海 |
うどん県遍路が合掌ちゅるるるる | 町川 悠水 |
オレンジな一日の唇軽く拭う | 桂 凛火 |
春愁に非ず十指を陽にかざし | 谷 孝江 |
夢十夜百年待てと春の闇 | 野澤 隆夫 |
古書店に蹄の音す菜の花忌 | 若森 京子 |
春の土アダムとイブの匂いかな | 重松 敬子 |
三鬼の忌金属音の蠅生る | 三好つや子 |
千手観音(かんのん)の御手にそれぞれ白木蓮 | 田中 怜子 |
春疾風ジンギスカンが旗を振る | 漆原 義典 |
鋭角の言葉をミモザに変換す | 古澤 真翠 |
春の空娘はぼんやり彫るがいい | 小山やす子 |
たんぽぽや他力本願風の道 | 藤田 乙女 |
唇に雨粒二つ三つ春 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 増田 天志
特選句「とことんに列島に花ある蕊よ父の口」核心をつく言葉ポツリと無口なる父。息子の心に、蕊は、いつしか、果実に育つ。
- 月野ぽぽな
特選句「祖祀る心音かるく春落葉(矢野千代子)」:「祖祀る心音かるく」が良かった。先祖を祀る心を日々もてることは宝。その恩恵を受ける心のありよう、心音は重くなく軽い。「春落葉」もその佇まいの良さ、またその地道な生の営みに寄せる心が上五中七と通じ合っている。
- 中野 佑海
特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」素封家を百年近く守って来た土間の大きな太い梁。漆や煤や手入れして黒光している。そこに住む人の思いとも渾然一体となった梁。今、その家の主たる妻の心の華やぎ。夕映えの色。桃の花色と匂いと家族の歴史総てを抱き止め悠然と繋いでいく。そんなかってあった物語性を感じます。特選句「オレンジな一日の唇軽く拭く」とっても軽快な前半、どんな楽しいことがあったのかなと想像逞しくしてしまいました。後半がまた、意味深ですよね!こんな青春な一日を若い人は年とってもですが、楽しんで欲しいと思います。増田様。また、大津から半歌仙を御指導しにおいで下さり有難うございました。増田様の名さばきで面白い歌が展開しました。また、楽しい俳句論をお聞かせください。
- 藤川 宏樹
句会冒頭、百余の句を一気読み。この緊張感を大事にしたいです。短時間の選句ゆえ読みづらい句は飛ばしてしまいますが、ご容赦ください。特選句「芽起こしの風に躓く麒麟の眼」首長く脚長くいかにも不安定なキリンが微風にヨロッと躓く一瞬。その眼は高いが大きく優しい。「芽起こし」から日本の一景と窺えるのにサバンナの点景が浮かび来ます。起の「芽」と〆の「眼」、対が効いています。
- 古澤 真翠
特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」:「黝」という蒼みを帯びた黝い梁に魅入っている作者の感動を 「夕朧」と表現なさる感性に惹かれました。「み吉野に色はありけり夕朧」という句が ふと浮かんでまいりました。
- 野澤 隆夫
今月も楽しい句回の場を作って頂きありがとうございました。天志さん捌きの歌仙も、少し慣れてきて面白いです。6月の伊吹島吟行合宿も原案が出され、楽しみです。特選句「エシャロット刻むパリは噂好き(重松敬子)」:「エシャロット」を『広辞苑』で調べると「…タマネギに似る。…みじん切りにして香味料として…」と、〝パリは噂好き〟が何ともお洒落。最近はフランス映画を見ることもなくなり残念。「主翼灯仄か雲海の彼岸入り(藤川宏樹)」〝雲海に仄かな主翼灯〟と、目にしたことを上手に作句できてると思った。彼岸の入りの日に飛んだのです。「古書店に蹄の音す菜の花忌」この句も好きです。土佐藩祖・山内一豊が名馬を駆って古本屋に現れたか…。〝蹄の音す〟がいい。
- 町川 悠水
選評を書くというのは難しいものですね。句会でぱぱっとしゃべるのは比較的易しいものの、文字に置くとなると、俳壇選者の苦労もわかるようで、皆さんのお気持ちはどのようなものか。銀次さん流を真似るというのも、粋ではあるものの、手の届かぬところにあるしなあ‥‥。ここはやはり、自分の身の丈にあったやり方でいくしかないか‥‥特選句「賑わしの作句限界春の雨(古澤真翠)」以前の埼玉でのささやかな句会では、高齢者も何人かいて100歳近い人もいました。すると、このような嘆きを聞くこともありました。でも、上出来と思える句は誰だってそうそう出来るものではないよと、慰めたりしながら一緒に楽しんだものでした。実は、限界と思う気持ちこそが尊いものであり、その身のまわりから真の佳句が生まれ出るということがあるのではありませんかね。単なる同情ではなくて、「春の雨」で特選としました。僭越ながら「賑はし」がよくはありませんかね。特選句「つくしんぼ宇宙の響き満身に(増田天志)」土筆をこのように感じ取る。私の子どもの頃の強烈な印象とよく重なり合って嬉しくなります。宇宙は、光であるとみるか、響きであるとみるか、そのどちらかでしょうが、ここは「響き」で正解でしょうね。準特選句「宅急便曲がって曲がって春の雨」がグーですね。問題句「にんげんも蛙も臍出し三鬼の忌」佳句だと思うのに、なぜかよく解らない。突っ込みを入れるなら、「にんげん」ではなく「人」なのでは?三鬼に惹かれる私なので、これを超えるような句を作らねばと思う反面、果たして出来るだろうかとも。「ちるさくら受くるあなたのからだかな」は、感銘深く選ばせていただきました。ただ、「受くる」は「看取る」ではないのかと思いながら、鑑賞を間違えているかなとも‥‥。並選ながら「主翼灯仄か雲海の彼岸入り」、「春疾風ジンギスカンが旗を振る」も印象深くいただきました。全体として、わからない句はわからないまま脇に置いて、片や辞書をめくりながら鑑賞させていただくのも、新たな地平が開けてくるようで、楽しいものです。
- 銀 次
今月の誤読●「人といて井戸のぞくよう梨の花(夏谷胡桃)」。八五郎(以下、八)「大家さん、こいつはどういう意味なんでやしょう」大家(以下、大)「ふむ、なになに。〈人といて〉か。こりゃ、おまえ、あれだ、人といるんだよ」八「どうしてでやす」大「人じゃなきゃ、だれといりゃあいいんだい。虎かい。そんなものといた日にゃ食い殺されちまうよ」八「だったら犬でいいんじゃないですかい」大「犬だって、機嫌が悪けりゃガブリとやられちゃうんだ」八「じゃあ、猫」大「あいつは引っかく」八「うちのおっかあも時々引っかく」大「いいよもう。人だよ、人でいいんだよ。文句があるなら大岡さまにでも訴えな。で、なんだ。〈井戸のぞく〉と。いいじゃないか、のぞいたって。だいたいニンゲンなんてものは、穴があったらのぞくようにできてんだ」八「なんで井戸なんでやすか」大「あたりめえじゃねえか。女湯のぞいたらお縄になっちまわあ」八「まあ、あっしも何度か。いや、おっとっと、そりゃいいんですがね。それでその下の〈よう〉ってのはなんでやしょうね」大「挨拶じゃねえか。よう、八っつあんとか、よう、熊さんとかの、ようだよ」八「井戸に向かって、よう、でやすか。そりゃドジだ。返事が返ってくるわけがねえ」大「そこで〈梨の〉とくるんだよ」八「食うんですかい」大「梨の、と聞いてピンとこないかい」八「さあ」大「梨の、とくりゃ、つぶてだよ。梨のつぶて。返事なんか返ってくるもんかい」八「あ、なるほど。ようと呼んでも梨のつぶてか。ですが最後の〈花〉ってのが余りやすね」大「いいんだよ。八、いいかい。返事もねえのに、井戸に向かって、ようようと大声で呼んでたらどうなるね」八「さあ、アタマがフラフラしやせんか」大「そこだよ。花を英語でいうとどうなるね」八「タンポポ」大「バカ、フラワーってんだ」八「へえ。さすがは大家さん、学がありやすね」大「あたぼうよ。でだ、ようようと呼びつづけて、アタマがフラー、フラー、フラワーとなっちまうって寸法だ」八「なるほど、合点がいきやした」
- 竹本 仰
特選句「少しだけ離れ坐つてゐて春意(柴田清子)」たぶん、これは、異性の距離感のことではないのかと推量します。「そこ」にあなたが「ゐて」、「ここ」に私が「ゐて」、その緊張感、あるいは緩和感が、二人の距離をずばりと言い当てている。あるいは向こうはあえて書物を取り出しめくるのかも知れない、そしてこちらは何もできずにこの空間と時間の重みを抵抗できず受け止めているのみか。「ゐ」に古語感、歴史感、うまくしみこんでいるのではと思います。特選句「うつばりの黝のはなやぎ夕朧」古い民家の闇からうす闇、そこからあかりへの、グラデーションというのみでなく、立ち上がってくる時間のなまめかしさ。思わず、うなりそうな息をのむ光景です。奥行きを、一見別種の「はなやぎ」という語に見事にとらえているなあと感心しました。しかし、この共感は人生の内面へのまなざしに向けられたものかもと。春は芽吹き、開花の時期です。それと同時に、心の病もそれと正比例にあらわれるようです。知り合いにそういう方がおられ、しかし他人事ではありません。この間、ニーチェの言葉を読んでいたら、「もっと喜ぼう。ちょっといいことがあっただけでも、うんと喜ぼう。この人生、もっと喜ぼう。喜び、嬉しがって生きよう」 というところに接し面喰いました。これは、病ではない、これこそを芽吹くというのかなと。いい季節になりました。また、来月もよろしくお願いします。
- 若森 京子
特選句「白鳥帰る完全無欠な青連れて」毎年、カムチャッカの方から飛んで来て帰る白鳥に不思議な自然の摂理を思うが、完全無欠な青、純粋な青を運んでいるのに納得した。特選句「春の土アダムとイブの匂いかな」春の土に人間の始めよりの匂い、全ての自然界の始動がある。「アダムとイブ」と直接書かれている。これ以上の表現はない。
- 小西 瞬夏
特選句「少しだけ離れ坐つてゐて春意」この距離にはどういう意味があるのだろうか。その関係性や二人の間にあった出来事などが想像される。言葉以上の世界を作っている。「少しだけ」がやや安易な気がするのだが。「~ほど」とかもう少し具象に即した手がかりがほしい。
- 谷 孝江
特選句「少年はいつも少女を待ち早春」「前を行く人から春がこぼれます」なんて優しくて、情緒溢れる句でしょう。心暖まる思いでいっぱいになりました。八十ン年前のわたしにもこんな事があったのでしょうか。遠い遠い一シーンに出会えた心地がします。ありがとう。今月はどれも春らしくて大好きな句ばかり。選ぶのに大変でした。唯々自分好みになりました。来月はどんな句に出会えるか楽しみです。
- 寺町志津子
特選句「芽起こしの風に躓く麒麟の眼」一読、心奪われた。木の芽を上方に向ける芽起こし。その風に躓く麒麟の眼。恥ずかしながらその意がしかとは分かりかねているのに、何故だろうと自問自答。その取り合わせの独自性、新鮮な詩情に、実に魅力的な風が流れ、大好きな句であった。
- 田中 怜子
特選句「春愁に非ず十指を陽にかざし」陽にかざした指の明るい透明感が目に浮かぶ。気持ちの転換がはかられそう。特選句「やわらかく仔猫かさなる箱の中」仔猫のやわらかさ、すーすー眠っている感じがいいですね。問題句「海地獄春の色して茹で卵」:「海地獄」と「茹で卵」の意味がわからない。
- 三枝みずほ
特選句「「唇に雨粒二つ三つ春」春のアンニュイな世界観が出ていて惹かれました。一つとしないで、二つ三つと並べることで、逆に一つ目の雨粒が強調され、何かの始まりを予感させられるようです。リズムも素敵な作品でした。
- 重松 敬子
特選句「病窓の陽射しに俺もホーホケキョ」病気の句は寂しいものが多い中、よけい目立ちます。いいですね。人生は最後までこうありたい。退院も間じかなことでしょう。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き春の月」下五の春の月がすべてを物語っていると思います。作者の人生に対する姿勢でしょうか・・・・・
- 中西 裕子
特選句「銚子酌む三人官女や桃のほほ(藤川宏樹)」春らしいテ―マで、リズムも良いのでいただきました。「少年はいつも少女を待ち早春」の、少年少女は、若い人たちと、早春が似合います。「鳴動す小さき命の春布団(三枝みずほ)」は、新しい命への喜びが感じられます。「菜の花の一塊に襲はれる(柴田清子)」は、今まで菜の花のしみるような色の表現を、こんな言い方は思い付かなかったので新鮮でした。問題句「時に奇声発して老人春の鵯(ひよ)(野田信章)」は、問題句というかなんとなく笑ってしまうような句で、奇声が老人なのか鵯なのかわかりませんでした。増田さま、遠くからいらしてくださってありがとうございます。勉強になりました。
- 三好つや子
特選句「「春愁の指の先から塵になる」仕事も家事もしたくない・・・そんな春の無気力感が伝わってきます。指先が塵になるという言い回しに感動しました。特選句「春の土アダムとイブの匂いかな」春、さまざまな命が芽吹く大地。朽ちた植物、鳥や獣の骸が浸みこんだ土の匂いに、神話をイメージした作者の感性が素晴らしい。「にんげんも蛙も臍出し三鬼の忌」三鬼の忌と万愚節はおなじ日。三鬼的な物の見方と、いたずらっぽい嘘が軽妙にからんだ、面白い句です。
- 伊藤 幸
特選句「涅槃図に三十歳の我入りしまま」きらびやかな涅槃図の中に あの悩ましい程美しかった自分がそこにいて気持ちだけはそのままなのだ。今を否定はしないがあの頃に戻れたら何をどうしていただろう。時は残酷に刻み続ける。句がどうだと言う前に 作者の思いが手に取るように伝わってくる。特選句「オレンジな一日の唇軽く拭う」素晴らしい一日を終え まだ余韻に浸っている。興奮覚めやらず唇に舌で触れるとほんのり色づいた温かみが感じられ拭うのが勿体ない位。上中下一語一語に漂う新鮮な雰囲気が魅力である。
- 小山やす子
特選句「躰内に水の満ちゆく鳥曇り(亀山祐美子)」春先の気も体もけだるいそれでいて何もかもが蘇生するような感覚を上手く瑞々しい表現になっていると思いました。
- 柴田 清子
特選句「薄氷はきっと光の翅だろう(月野ぽぽな)」瞬きをすれば消えても不思議ではない〝うすらい〟を「光の翅」だと、優しく自分自身に言ひ聞かせていながら、読手には、強い断定と受け取れる。それは『光の翅』と言ふ言葉の発見が、詩的な句として立ち上って来る。さらに『きっと』が、キラリと翅を一瞬光らせた。こんな句に出会えるから俳句は止められないのかな・・・。特選句「鋭角の言葉をミモザに変換す」何を言はんとしているのか、理解しぬくいけれど、一読、好きか、嫌いかで言えば、大好きな句。鋭角の言葉が、何であるか、はっきりしていないことが、かえってミモザでなければならない気にさせられた。この句が、私の特選へと変換させたみたい!
- 漆原 義典
特選句「「有難うの卒業涙の相似形」卒業式は、将来への羽ばたく喜び、友との別れの悲しさなど、それぞれ感じるところがありますが、卒業式の有難うの言葉を涙の相似形と上手く表現されていると感心し特選とさせていただきました。私は俳句を表現する言葉が乏しく、私の俳句の引き出しには「相似形」という言葉はありませんでした。私は言葉を多く持っている人に憧れます。今後、俳句の引き出しに言葉を多く詰めていくように勉強していきます。
- 野田 信章
特選二句。「鋭角の言葉をミモザに変換す」「春の空娘はぼんやり彫るがいい」前句に冴えた感覚による発想の句姿を、後句に感受性の豊かな発想の句姿を認めて味読中である。「変換す」といい、「彫るがいい」といい、それは取りもなおさず詩的真実を求めての創る行為の美しさに共通するものがある。私的にも、この二点の希求するところに留意したい。「何もかも海が飲み込むめおと蝶」の一句は、中句にかけての景の取り方がよい。この句柄なら「何もかも海が呑み込む」と決めたいところでもある。
- 桂 凛火
特選句「宅急便曲がって曲がって春の街」リズムがよくて春の明るい気持ちが伝わりますね。曲がって曲がってがよかったです。いつも見ている情景がうまく切り取られていてさわやかです。問題句「三鬼の忌金属音の蠅埋生る」三鬼の忌との取り合わせがおもしろいです。ただいまひとつわたしには 三鬼の忌が動くようにも思えました。でも金属音の蠅うまるは素敵な表現ですね。
- 亀山祐美子
特選句『前を行く人から春がこぼれます』一読よくわかる。明るいアンニュイが春らしい。逆選『蒲公英を転がつて行く私の港」:「私の港」が意味不明。「私の舟」なら意味が通る。しかし面白みに欠ける。ここがこの句の肝。楽をした。残念。
- 高橋 晴子
特選句「白梅やしずかに止みし姉の脈」ふと蕪村の〝白梅に明くる夜ばかりとなりにけり〟を思いだした。悲しみが伝わってくる。問題句「被曝牛乳房の張りをわれに見す(稲葉千尋)」〝われに見す〟をもっと牛そのものの在り方に変えるといい句になると思う。
- 野﨑 憲子
特選二句。「穴ひとつ掘るだけに生き春の月」この省略の美しさ、春月の何と艶なることか!煮詰まってばかりの私にとって、この上もないエールと受けとめました。「とりどりに鳥宿りおり春の雨」ト音の繰り返しが雨音に聞こえてくる。昔、栗林公園を歩いていて、にわか雨に会った時、走り込んだ四阿・・ふと見上げると、梁の上に、尾長鳥が何羽も居ました。記憶を喚起させる作品に力あり。句に出逢ふ喜び確と三月尽 憲子
半歌仙『風光る』の巻 捌き 増田天志
- 風光る島の自転車ハイカラさん
- 増田 天志
- ひらりひらりと夕べ陽炎
- 野﨑 憲子
- 夢うつつ鼻孔くすぐる春日にて
- 中野 佑海
- トイプードルのかしましき声
- 野澤 隆夫
- うさぎはね雲をかき分け月に入り
- 藤川 宏樹
- 温き酒にも寂を先取る
- 佑海
- 紅葉かるトロッコ列車に手を振りて
- 郡 さと
- 還暦過ぎし恋はうたかた
- 漆原 義典
- 七輪に束ごと燃やす想ひ文
- 銀 次
- 兄さんと呼ぶプラットホーム
- 憲子
- こんぴらへ裏参道を駆け登る
- さと
- 飛び交ふ鳥の哀しかるらん
- 佑海
- 月涼し胡弓聞こゆる旅の宿
- さと
- 鰻食ひたし四万十まで行く
- 町川 悠水
- 寅さんの古い映画のかかりをり
- さと
- 無用の用はバケツにいけて
- 中西 裕子
- 禿隠し竹馬の友と花の宴
- 悠水
- 息づく灯り雛の寄り添ふ
- 佑海
句会メモ
お陰さまで、「海程」香川句会は、第60回を迎えました。ひとえに、ご参加の方々、また、見守ってくださる読者の皆様の温かなお心によるものと存じます。有難うございます。そして今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
今回は、大津より増田天志さんが参加されましたので、久々に半歌仙を巻きました。俳歴も、句柄も、それぞれに違う方のご参加なればこその、ちょっと型破りな面白い歌仙になりました。歌仙には、取り決めが様々あるのですが、それをあまり気に掛けないのが、この句会の、また良い所でもあります。増田さん、捌きを有難うございました。いつかまた是非やりたいです。
Posted at 2016年3月31日 午後 05:31 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]