「海程香川」
第61回 「海程」香川句会 (2016.04.16)
事前投句参加者の一句
里山の歌をしづかに翁草 | 髙木 繁子 |
たんぽぽの絮が楽譜に加わりぬ | 月野ぽぽな |
曇天の母の航路や麦の秋 | KIYOAKI FILM |
新漢字表がトイレに進級す | 野澤 隆夫 |
オリオンの真下はくれん撃たれしよ | 河田 清峰 |
花吹雪うっすら肋骨透けている | 増田 天志 |
五歳はや言葉甘美に雛飾り | 寺町志津子 |
揺れて春リバティ柄のワンピース | 三枝みずほ |
風薫る赤子の窓あけうたた寝す | 中西 裕子 |
奈落から這い上がってくる桜咲く | 古澤 真翠 |
靴はきし吾子の一歩や山笑う | 藤田 乙女 |
支え合う手を貸してくれ豆の蔓 | 中野 佑海 |
つくづくし閉校式の門を出づ | 稲葉 千尋 |
つり革の揺れて春ですねと言いたげ | 谷 孝江 |
二度寝して巣箱に棲みしここちする | 若森 京子 |
万葉のラップソングや遠蛙 | 三好つや子 |
桃の日の海見に上がる二階かな | 重松 敬子 |
春雨や朝餉の椀のいびつかな | 銀 次 |
捨つる物男のことなど八重一重 | 鈴木 幸江 |
線一本引いてここから春昼寝 | 竹本 仰 |
尻という存在花のうしろから | 小山やす子 |
ハルビンや虱さわさわと屍人より | 桂 凛火 |
憲法の美しさ知る花の後 | 夏谷 胡桃 |
太もものあたりから湧く春の雲 | 柴田 清子 |
はよぅ来まい手招く方へさくら舞い | 藤川 宏樹 |
春光に突き立てて少年の爪 | 小西 瞬夏 |
仕草にて宿縁らしき蜥蜴かな | 町川 悠水 |
パンツのゴム鮴・目高の六匹ほど | 久保 智恵 |
我が背丈ほどの御室の桜かな | 田中 怜子 |
たんぽぽの野は五線譜や夢を弾く | 漆原 義典 |
陽炎の重力ただしいくらし方 | 伊藤 幸 |
干潟落日あぶれ蚊が離れない | 矢野千代子 |
花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ | 高橋 晴子 |
捨て切れぬものの重さよ飛花落花 | 亀山祐美子 |
焚火臭家ごと老いてゆく春か | 野田 信章 |
竜宮の扉ひらくや花吹雪 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 中野 佑海
特選句「褒め下手がバイロンのよう野を焼けり(伊藤幸)」バイロンが褒め上手だったら後世にこんなに名を残してはいなかった事でしょう。この作句者も下手なのですね、ほら世渡りとやらが。ほほほ!!良いか悪いかは別として、世渡り上手だったら、俳句や詩なるものを作ってはいないと思います。なかなか言いたい事も言えず、したいことも大手をふって出来ず、そんなこんなを捏ねて恒って恐る恐る出してみる。結構小心者なのです。しかし、小心者に限って大胆な事をしてしまうのです。大胆にこんなウジウジは焼いてしまいましょう!特選句「春光に突き立てて少年の爪」春の穏やかな光と見えて、光を構成する煌めきの蔭に危うさが見え隠れ。少年の心の綾取りの糸を容易く掻き切ってしまう己れの手で。若い希望と絶望を凄く上手く表していると思います。(少年の心の儘の銀次さん奥深い示唆を有難うございます。)
- 若森 京子
特選句「陽炎の重力ただしいくらし方」最近、何億年前から発せられている重力波が発見されたが、自然界の不思議。又、熊本大地震の現実に畏れ、人間の自然に対する虚しさをつくづく思う。唯々ただしく暮していかねば。特選句「焚火臭家ごと老いてゆく春か」日本の農家の古い家の景であるが、しかし、日本全体の現実問題として、未来を暗示している様です。
- 柴田 清子
ここ六階会場からの海は、ヨット一隻、もう夏がそこに。海と空と一〇八の句が、身に沁み込んでくる。久し振りの句会参加でした。『さっき赤ちゃんを産んで来ました。』と、言って参加の三枝さんのピアスが揺れていました。藤川さん、憲子さんの男友達(註:藤川さんは、高校の同窓生です。漆原さん、中野さん、中西さんも同じくです。・・野﨑)らしく、喋りだしたら銀次さん、町川さん、中野さんに負けていないの、楽しい。これで酒でも入ったら、もっと楽しくなって俳句どころでなくなるかも。大変な香川句会です。句会そのものが『特選』です。『桃の日の海見に上がる二階かな』佳句です。この季節の日差しや風を感じながら、海を遠くにして佇っていることが、詩であり俳句と思いました。
- 藤川 宏樹
特選句「つくづくし閉校式の門を出づ」多くの個性的な句のなか一見何気ないですが、季語「土筆」を「つくづくし」と仮名遣いしたことから地域は学校を「つくづく」使い切り、学校は地域に「尽くし」切り、無事閉校の日を迎えた意が汲み取られて深い母校愛を感じます。閉校の「門を出づ」ること。やがてスギナとなる「つくづくし」。いずれもこれからの成長を期待させるすがすがしい佳句です。自句自解「当たり前の春あり喉元通過中」は、選抜開会式、小豆島高校主将の宣誓で「当たり前の日常」という語を聞いたとき体がびりっと震えました。そしてなんとか一つ句にしようと推敲を重ねてやっと見つけた17音です。「当たり前の日常」を失ってはじめて隠れていた「当たり前」が立ち現れることを、うまく言い切れたと思います。→わたしも、開会式の宣誓を思いました。爽やかな佳句です。
- 小山やす子
特選句「ハルビンや虱さわさわと屍人より」ハルピンには行ったこともない身ですが重い歴史も含めてこの句からは不思議とじめじめした感じがしないのです。
- 町川 悠水
選評は、鑑賞眼と鑑賞力が問われることであり、作句と表裏をなすと言えば よいでしょうか。そう考えるところで15句前後をマークし、その絞り込みには苦労しました。よって、解らない句もありましたが、問題句の入る余地はありませんでした。さて、特選句「舌を出すアインシュタインは紫木蓮(河田清峰)」合評で、これには類句が沢山あると聞かされたのには、がっかりしました。でも、私には初見であり、第1席に選びました。こうしたことは俳句世界では避けられないことで、迷わず進みたいと思っています。ただ、「は」は省くべきでは?と思いましたね。以下、並選ながら、我流選評を述べさせていただきます。「褒め下手がバイロンのよう野を焼けり」は、最初鑑賞眼の低さから問題句としたものの、一転して佳句としました。海程句会ならこその洗礼と受け留めました。「寝台列車は混浴か山笑ふ(河田清峰)」は、よく利用した私にとって大いに愉しめる句であり、おまけにこの視点が好き。個室あり相部屋あり、浴衣姿も見えますからね。「ハルビンや虱さわさわと屍人より」は、高齢の方の人生句と捉えて敬意の念をもっていただきました。「屍人」は「屍(かばね)」でよろしいのでは?「虫歯して遠い医者往く摩天楼(KIYOAKI FILM)」は生活句の宜しさとしていただきました。古くは中村汀女がいますが、私は生活句を大事にし尊重したいと考えています。ただ野次馬を許していただけるなら、「顔ゆがめ急ぐ歯医者の摩天楼」としてみたい。「花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ」は、埼玉が俳句の産土である私にとって、必然的に選ぶ句でした。「千侍」も弟御であることを確かめての選です。「春の夜は鉛筆削り最終章(夏谷胡桃)」は、下5がホームラン級。「焚火臭家ごと老いてゆく春か」は、なぜ漏れてしまったか?制限時間内を口実にしましょうかね。
- 稲葉 千尋
特選句「春光に突き立てて少年の爪」五・五・七のリズムが苦にはならない。少年の爪が春光に輝く様に見える。特選句「曇天の母の航路や麦の秋」徘徊の母の姿、行動が手に取るようによくわかる。麦の秋が効いている。問題句「羽化はじむ春ショールにうすき汚れ」:「うすき汚れ」なしで一句にして欲しい。問題句「イースター卵の無段階活用」イースターエッグの方が良いのでは?
- 竹本 仰
特選句「春雨や朝餉の椀のいびつかな」私の先入観ですが、春雨は心を傷ましむるもの、それも秋のように内臓系ではなく、外傷系の、浅くは見えるものの浅くはない沁み方をするものだと思っています。この句は、そんな先入観にぴたりと来るものがあります。普段、何気なく手に持っていた朝餉の椀の形に一つ一つゆがみがあること、それだけなんですが、「や」「かな」と二つの切れ字のもつリズムが、背景と驚きとが妙にこちらを深く沈んで来させるところが妙味かなと思いました。こういう心象をそれとなく浮かび上がらせる、そういう手法、共感しました。特選句「はよぅ来まい手招く方へさくら舞い」梶井基次郎の小説「櫻の樹の下には」の終わりに、「今こそ俺は、あの櫻の樹の下で酒宴をひらいてゐる村人たちと同じ權利で、花見の酒が呑めさうな氣がする」とあり、ここを強くイメージさせられました。この句には、中也で言えば「幾時代かがありまして」的な、時間を超えて通用する像をさりげなく、それこそ目の前に舞うさくら程もありありと見せてくれています。どこかで見た、でも、あれは何なんだろうという、普遍の空気感というのでしょうか。ひょっとしたら、こういう空気に触れるために生きてきたのかなあと、社会に出たある日の私の実感にこの光景は重なるものがあり、また冒頭の方言が実に適切に使われていると思いました。
- 鈴木 幸江
ご挨拶。私は、この四月二十日に退職した夫とふたり、琵琶湖の近江から瀬戸内のさぬきに引っ越して参りました鈴木幸江です。滋賀にいたときは、滔々と水を湛える琵琶の湖に癒され、そして、この度は、晴れ晴れとした解放感のある瀬戸の海に導かれるようにやって参りました。香川のみなさま、並びに、ご参加のみなさまどうぞ今後とも宜しくお願い致します。→初めに移住のお話を聞いた時には、まさにぴっくりポンでした。頼りにしています!
- 田中 怜子
特選句「幼子の口笛のよう桜貝(月野ぽぽな)」目立たない句だけれど、こまやか、そう幼子の可愛らしさを桜貝であらわしている。特選句「?を担ぎ上げたる幹五尺(亀山祐美子)」無残に切られた幹、どっこい蘖をささえているぞ、と。問題句「舌を出すアインシュタインは紫木蓮」:「アインシュタインは」の「は」要らないと思う。
- 野田信章
「熊本地震」七日目の夜を迎えています。余震は続くものの少し弱くなりつつあります。断水が続いてますがあと少しの辛抱です。第六十一回分の選評を右記へ。「キー盤のどこに触れてもさくら咲く(月野ぽぽな)」「チューリップ宙を引き寄せ深呼吸(藤田乙女)」は、其れ其れに春の多感さが具体的に書き切られている句として注目した。「干潟落日あぶれ蚊が離れない」「捨て切れぬものの重さよ飛花落花」の二句は句の態様は異なるが心情の屈折したあり様が其れ其れの物象感を通して如実に伝達されるものがある。問題句二題。「花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ」は悼句としての前書きあえば兄弟愛の微笑ましい光景に陰翳を添えて味読可能かと思う。「春の世は鉛筆削り最終章」は〈春の夜の鉛筆削る最終章〉と最終章を美しく書き切るためにも推敲したいところだが如何でしょうか。
- 小西 瞬夏
特選句「生理用ナプキンに羽根花の冷」:「生理用ナプキン」が句になったという快挙。キーワードは羽根。飛べない羽根。でももしかしたら飛べるかもしれない羽根。「花の冷え」がなんとも女性の体の仕組みと切なく響きあう
- 夏谷 胡桃
特選句「万葉のラップソングや遠蛙」万葉の時代、その前の時代から蛙は同じように鳴いていたのでしょうか。万葉のラップソング。私たちが古典として勉強する歌もその時代のラップソングみたいなものだったかもしれませんね。ビートルズもエルビスも今では正統的古典の趣です。自分の俳句が自分の枠から出ない、古臭いものだということには気がついていますが、どうにも新しくはならない。ラップソングのように飛び出したいのですけど、うまくいきません。この俳句でこんなことを考えました。
- 古澤 真翠
特選句「たんぽぽの野は五線譜や夢を弾く」ゆっくり走る列車の窓から たんぽぽの咲く野原が広がり心ウキウキする様子が 目の前に映し出されるような雄大で美しい句だと感心しました。熊本の句友の皆様のご無事と ご健康を心よりお祈り申し上げます。
- KIYOAKI FILM
特選句「五歳はや言葉甘美に雛祭り」五歳児は個性がはっきりする歳だと思う。その歳で甘美とは賢い子どもです。女子の、美しさを感じます。子ども自慢が全くないように見え、良かったと思います。特選句「涅槃西風眠気の醒めぬ背中かな(亀山祐美子)」:「眠気」が「背中」に伝わるのは納得がいく。寒い中、部屋に居ると、まず「背中」に違和感を覚える。大人の方が多いと思う。子どもの時は寒い時、腰に来ると思うから…。「涅槃西風」が良く効いている。
- 寺町志津子
特選句「花しんしん兜太音頭に千侍舞ふ」今春、秩父道場に参加した。兜太先生はとてもお元気で、「このところやたら講演会が多くて、声が出るかどうか」と言われながらも、スックとお立ちになって、正調秩父音頭を朗々と謡って下さった。師の音頭を聞きながら、作者には、先頃お亡くなりになった秩父音頭保存会会長(正式名かどうか?)の弟さんの舞姿が過ったのではないか。そして、それは、兜太師の胸にも。また、弟さん追悼のお気持ちもあったかもしれない。「花しんしん」がよく利いていて切ない。しみじみと胸にしみる佳句である。→句会での師の「さくら咲くしんしんと咲く山国なり」を踏まえての挨拶句、お見事。
- 三好つや子
特選句「羽化はじむ春ショールにうすき汚れ(小西瞬夏)」家事に解放され、あでやかな装いで、男友達に会いに行くように、コンサートや美術館へ出かける。そんな女性の気持ちに共感しました。「うすき汚れ」が心にくいですね。特選句「尻という存在花のうしろから」大阪市立自然史博物館で開催されている「生命大躍進」展を見た矢先、この句に遭遇。進化の途中で、鼻の穴の一つが肛門に変異した事を知り、「尻という存在感」のフレーズに惹かれました。問題句「パンツのゴム鮴・目高の六匹ほど」ゴリ押しの語源になった鮴の利かん気な生態を、パンツのゴムの弾力に喩えているのでしょうか。妙に気になる句です。目高を入れずに、ゴムと鮴に絞った方が、面白いと思います。はじめは、鮴という魚がよくわからず、作者の真意がつかめない句でしたが、理解が広がると、この句の面白さに気づきました。
- 伊藤 幸
特選句「干潟落日あぶれ蚊が離れない」 美しい夕焼けの干潟と、あぶれ蚊の思いがけない取合せ。作者の心の傷か、背負う過去か?いずれにせよ胸を締め付ける句。五七五でここまで響かせるとは…俳句はやはり素晴らしい。
- 漆原 義典
特選句「寝台列車は混浴か山笑ふ」寝台列車を混浴みたいだと感ずる柔らかなかつユーモアに富んだ感性に、楽しい感動を受けました。山笑うという季語もよくマッチし本当に楽しい句です。ありがとうございました。
- 高橋 晴子
特選句「捨て切れぬものの重さよ飛花落花」目に見えぬ捨てきれぬものを感じてそれを重さというとらえ方に対して花の在りようを飛花落花という表現で捨てきれぬものの重さをより感じさせられる。覚悟を感じさせられる句。問題句「当たり前の春あり喉元通過中」当たり前の春という春があるのだろうか。喉元通過中という言葉も遊び過ぎるとおもう。実質の言葉をもっと大事にしたいと思う。
- 銀 次
今月の誤読●「オリオンの真下はくれん撃たれしよ」。ここでいう「オリオンの」のオリオンが、新宿カラス通りの映画館、オリオン座であることは間違いない。カラス通りは通称である。明け方、店じまいをした飲食店が残飯をゴミに出すので、大挙したカラスがエサをあさりに来るのである。午前五時あたりだとカラスの群れで酔客などは足を取られてすっ転ぶこともしばしばであった。よく通ったなあ、オリオン座。オールナイトで高倉健の「日本侠客伝シリーズ」や「昭和残侠伝シリーズ」などを一挙五本立てで上映するのである。「日活ロマンポルノ名作選」五本立てなんてのもあった。シビれたねえ、片桐夕子。昭和でいえば四五、六年のことだ。オリオン座に集まる客は、まずは酔っ払い、終電車に乗り遅れた安サラリーマン、遊ぶ金など持たない学生。わたしは学生ではなかったが金はなかった。当然オリオン座の常連だった。オリオン座のあたりには物もらいや売れ残りの娼婦、オカマちゃんなどがうろついていて、よく金をせびられたものだ。「真下は」なんてのはなおさらだ。みんなピーピーなのだ、金など「くれん」。「撃たれしよ」というのが実景なのかどうかはつまびらかではないが、なにしろヤクザ連中の全盛期である。流れ弾に当たったとしてもフシギではない。だがわたしはむしろ健さんの映画を観てすっかりその気になったシロウトさんが、金をせびりに来たお乞食さんか、オカマちゃんにデコピンでもかましたのではないかと思う。むろんそのシロウトさんが横丁の細路地に連れ込まれてボコボコにされたのはいうまでもない。一字違いだが、そのころ銀座にオデオン座というのがあった。こちらはれっきとしたロードショーの映画館で一本しか見せないくせにオリオン座の十倍くらいの入場料を取った。わたしもデートのときにはミエを張ってオデオンに行ったりしたが、なーんの面白味もないご清潔な人種の集まりだった。そんなとき、わたしはよくつぶやいたものだ。「くそったれの俗物どもめ」。そしてつづけて「今夜はオリオン座で口直ししなきゃな」。
- 野澤 隆夫
特選句「捨つる物男のことなど八重一重」:「捨つる物」の筆頭が「男」だったとは…。そして「男のことなど」と徹底的に「やられて」ます。いや、もう哀れ。中島みゆきの「ララバイ」破局編です。問題句は、「仕草にて宿縁らしき蜥蜴かな」:「宿縁」と「蜥蜴」のアンバランスな言葉のバランス感が不思議です。
- 三枝みずほ
特選句「花なずな兎跳びする好奇心(三好つや子)」花なずなは地味で目立ちませんが、工夫ひとつでしっかり音を出し、知れば知るほど興味深くなります。そんな季語との取り合わせも共感でき、この好奇心から何かが生まれそうで、とび出しそうで、前向きな生命力に溢れた作品でした。
- 増田 天志
特選句「にんげんの指が白布裂く彼岸」やれるだけやってみなはれ阿弥陀仏。
- 重松 敬子
特選句「麦秋や夫人の犬の声を聞く」:「婦人の犬」が、想像を膨らませ一編の物語が展開する。あれこれと粗筋を考えてみるのは、とても楽しい。なかなか奥行きのある句である。
- 河田 清峰
兜太先生に会いたくて秩父の道場へ行ってきました。初参加の河田清峰です!よろしくお願いいたします~特選は「つり革の揺れて春ですねと言いたげ」揺れる物すべてに春を感じますが身を預けるつり革にまで感じたのが良いと思います。
- 桂 凛火
特選句「竜宮の扉ひらくや花吹雪」竜宮の花吹雪をみるとこの世のものとは思われないような不思議な心もちになります。哀しいようなはかなさですが、ここでは竜宮の扉が開くというのです。まことに明るく景気のよい風景になりました。大胆で意外な発想に心ひかれました。「ひらくや」の切れもよかったです。
- 谷 孝江
今月も佳句をたくさん見せて頂き有難うございました。特選句「たんぽぽの絮が楽譜に加わりぬ」たんぽぽの絮のかろたかさ、楽しさが見えて来てつい、スキップでもしたくなるような心持ちにさせてもらいました。特選句「縦(たて)横斜め切っても切っても朧かな(寺町志津子)」自分自身が朧の中へ引き込まれてゆくような不思議な感覚を味わいました。
- 中西 裕子
特選句は「揺れて春リバティ柄のワンピース」で、はながらワンピースのすそがゆれて、軽やかで春の喜びのようなものを感じます。「靴はきし吾子の一歩や山笑う」も、ようやく赤ちゃんが歩き始めたのかな、山の生き生きした緑とのびていく命がかさなりみずみずしいです。「昏睡の老女よ遊べげんげ畑(銀次)」も、老女は、命がつきようとしているのでしょうか、魂が自由にげんげ畑で遊びなさいという意味なのかな、淋しさと楽しさが同居しているようで心ひかれました。今月は、身内の世話で疲れました。5月はまたさわやかに頑張りたいな。宜しくお願いいたします。
- 野﨑 憲子
「焚火臭家ごと老いてゆく春か」:「焚火臭」に力あり。自然の理に従いながらも、十七音の気息が<老い>を跳ね返すように感じました。一日も早く安全宣言が出ることを祈念しています。
袋回し句会
帽子
- 言の葉はいのちのおもさ春帽子
- 野﨑 憲子
- 春風を白帆に受けて帽つかみ
- 藤川 宏樹
- 帽子いっぱいたんぽぽを摘んだよ
- 柴田 清子
春潮
- 震災地癒す術(すべ)なし春の潮
- 町川 悠水
- 春の潮上げ下げ上腕二頭筋
- 中野 佑海
赤ちゃん
- 春風の寝息掬いし赤子かな
- 中野 佑海
- 赤ちゃんの目は見えずとも囀に
- 町川 悠水
藤
- 藤房揺れる思ひの届かずに
- 柴田 清子
- 藤の花鍋島の猫の尾を開く
- 中野 佑海
角砂糖5
- ひとりぼっちでいる春光の角砂糖
- 三枝みずほ
- 春愁や紅茶に溶ける角砂糖
- 銀 次
瓦煎餅
- 風光る思い切り割る瓦せんべい
- 柴田 清子
- 台所母のせんべいかじる音
- 銀 次
- 瓦煎餅つぶやき大きくなって春
- 三枝みずほ
菫
- 訪ぬれば年年歳歳菫かな
- 町川 悠水
- 生き方のシンプルな人菫草
- 三枝みずほ
- 立ちつくすすみれ畑のどまん中
- 銀 次
- だから風煮詰まって菫野に寝る
- 野﨑 憲子
句会メモ
十二時半を過ぎた頃、会場のサンポートホール高松の会議室の前には、スラリとした女性の人影!柴田清子さんでした。久々のご参加ですが、優しい笑顔は・・まさに風光る!、今回は、一月にママになったばかりの三枝みずほさんも、颯爽とご登場!賑わいだ楽しい句会になりました。袋回しのお題のひとつの瓦煎餅は、当日のお菓子。みずほさんの瓦煎餅をバリバリ齧る音が、楽しそうに会場に響きました。今回も、色んな作品に出逢えて幸いでした。ご参加の皆さま、感謝です。
5月は、「海程」全国大会がありお休みです。次回は、6月18日となります。午後1時から3時まで、袋回し句会をし、その後、吟行合宿に参ります。詳細は、「句会案内」そして、野崎までお問い合わせください。事前投句は、通信句会のみとなりますが、締切日他は、いつもと同じです。締切日厳守で、奮ってご参加ください。よろしくお願い申し上げます。
Posted at 2016年4月29日 午後 08:49 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]