第73回「海程」香川句会(2017.06.17)
事前投句参加者の一句
唇溶けて脳も溶けたるミミズの心 | KIYOAKI FILM |
樹海より帰りましたとサングラス | 島田 章平 |
陽炎や避難解除も戻れない | 稲葉 千尋 |
愛知らず恋など未だに夏落葉 | 鈴木 幸江 |
麦秋や雲が西へと向かってる | 山内 聡 |
蛍嗅ぐ夜のふくらむ時間です | 田口 浩 |
そうめんの紅糸青糸三姉妹 | 重松 敬子 |
明け早し釣り師の孤影湖ゆらぐ | 田中 怜子 |
麦秋や命輝く兜太句碑 | 寺町志津子 |
落し文新緑の愛に包まれし | 漆原 義典 |
炎昼の奥へと一歩ずつ迷うよ | 月野ぽぽな |
芥子坊主こんな咄家居たような | 小宮 豊和 |
人間(じんかん)の驕るなかれと蟻の列 | 藤田 乙女 |
あゆやなに纏わる黒猫の悪よ | 疋田恵美子 |
最果ての地に敦盛と名乗る花 | 古澤 真翠 |
その先のことばは夏野そして空 | 小西 瞬夏 |
ゆったりと椅子婚礼の髪ほどく | 三枝みずほ |
君といて遠浅どこまでも素足 | 若森 京子 |
棄民集落いまも波音浜万年青 | 大西 健司 |
ゆらゆらと敗者集まり氷菓子 | 松本 勇二 |
サラダに薔薇わがまま女の水曜日 | 伊藤 幸 |
鉛筆を落とした指から春眠 | 河野 志保 |
沈黙というくらがりへバラ一花 | 谷 孝江 |
いっせいに蛙明るき通夜となり | 竹本 仰 |
下の名をよべる三日め紫陽花さく | 夏谷 胡桃 |
落し文ひらく樹海の溶岩(らば)の上 | 河田 清峰 |
麒麟には麒麟の夏の空がある | 柴田 清子 |
落書きの壁はゲルニカ不如帰 | 小山やす子 |
海程の終刊赤き夏の月 | 菅原 春み |
普段着の宮司多羅葉青葉して | 高橋 晴子 |
渡る世はここぞとばかり蛙の子 | 藤川 宏樹 |
鍵穴は古墳のかたち風薫る | 増田 天志 |
口の切れ味薔薇の棘にも似て美なり | 中野 佑海 |
暗やみに子等の叫びや螢狩 | 髙木 繁子 |
イヨッオッと鼓高らか薄暑来る | 野澤 隆夫 |
父の日の父を探して歩く町 | 三好つや子 |
帰去来(かえりなん)ひたすら麦の禾わけて | 矢野千代子 |
眩しさよきみもわれもポピー土手歩む | 桂 凛火 |
牡牛座に腰掛けずっと人見てる | 野口思づゑ |
万緑に埋もれた家に遅き灯よ | 中西 裕子 |
ちちの空蟬ははの空蟬水にのり | 男波 弘志 |
五月雨や抽斗のなかのアフリカよ | 銀 次 |
蟻が蟻運ぶ正面石切場 | 亀山祐美子 |
可惜夜(あたらよ)の初鮎こんがり富士の旅 | 野田 信章 |
崩壊の危機こそ力月涼し | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 三枝みずほ
特選句「棄民集落いまも波音浜万年青」浜万年青、字面を見ると恒久平和のように感じられる。それと対比して棄民集落、ここに暮らす人々にも平和に安全に暮らす権利があるはずなのに、それを奪われ、あたかも今の生活がずっと続くように、波音だけが聞こえる。作者の怒りや悲しみが季語との対比に集約され、感銘を受けた。問題句「木下闇白い緑に逢いたいが(小宮豊和)」白い緑とは何だろうかと勝手に推測。きっとこれは強い光に当たっている葉のこと。木下闇の中に作者はいて、脈々と生きている光る緑を求めているといったイメージが出来てしまった。勝手に解釈したかったので、問題句にさせて頂きました。
- 月野ぽぽな
特選句「崩壊の危機こそ力月涼し」ピンチはチャンスの前向き精神に共感。眼光には迷いなくそこに映る月は清々しく美しい。
- 中野 佑海
今日も香川句会は盛況で盛り上がりましたね。お世話になり有難うございます。 特選句「下の名を呼べる三日め紫陽花咲く」ジューンブライドでしょうか?やっとご主人を下の名でさん付けて呼べる様になると言う。この事を俳句にされた貴女は新婚さん?そして、降る雨によって色の変わって行く「紫陽花」と取り合わせるとは手練れ過ぎると思います。うーん手練れの新婚さん。特選句「可惜夜の初鮎こんがり富士の旅」富士山吟行楽しかったです。鮎も美味しかった。可惜夜と言う言葉がぴったりです。もう一度楽しめました。有難うございました。富士山にこんがり憧れている佑海です。
- 藤川 宏樹
特選句「奥行き無くそこに足踏みミシンかな(大西健司)」昔、母が嫁入り道具のミシンで家族のものを縫っていました。足を踏むリズムと洋服の縫い上がりが同調して垂れいく様に見とれていました。一人で足踏み板に座って揺らしてみたものです。大輪の革ベルト、クランクの動き。居心地よい小さな空間の体験が蘇りました。上五「奥行き無く」がよく効いています。
- 矢野千代子
特選句「螢嗅ぐ夜のふくらむ時間です」蛍の光のみを愛でていた幼少の記憶…。掲句は詩的発見であり独自の感受でしょう。その調和に魅かれる。他に「ツガヒノキツマドリソウすべて富士(漆原義典)」「牡牛座に腰掛けずっと人見てる」に注目。
- 増田 天志
特選句「落し文ひらく樹海の溶岩(らば)の上」貴方だけが生き残るとは、口惜しい。:富士樹海は、自殺の名所、心中も有るかも。落とし文には、死者からの怨念が書かれているかも。熔岩が、とても、リアルで、臨場感が、有る。
- 島田 章平
特選句「麦秋や命輝く兜太句碑」はじめて海程全国大会に参加させて頂きました。金子兜太先生の「海程終刊」という劇的な大会となりました。これまでの海程の歩み、そしてこれからの未来、万感迫るものがありました。吟行は金子兜太先生の句碑巡りでした。金子皆子先生のお墓もある総持寺には有名な「ぎらぎらの朝日子照らす自然かな」の句碑がありました。朝日に輝く命、まさに兜太先生の俳句の神髄です。豊かな秩父の野に広がる麦秋の中に句碑が輝いていました。
- 柴田 清子
135句から選ぶ十句の難しいこと。今回選んだ句は全て私の特選です。独自性の強く刺激あるものばかり。その中の「麦秋や雲が西へと向かってる」を特選。麦秋の頃のこの風景がたまらなく好きです。
- 山内 聡
特選句「万緑に埋もれた家に遅き灯よ」です。ただでさえ万緑に埋もれた家が夜になり万緑が黒ずんで家も所在がわからなくなります。あれこんな時間に家に灯がともった。灯がついた瞬間の黒ずんだ万緑を描いている、そしてそこに生活している人たちまで想像させてくれる。なにか一涼を得た心持ちになりました。
- 野澤 隆夫
特選句「卯の花や自転車押した通学路(河野志保)」中七「自転車押した」の「押した」にドラマを感じます。石坂洋次郎「若い人」のシーンです。そういえば、最近は石坂洋次郎も新潮文庫で再販してないですね。時に読みたくなりますが…。もう一つ。「サラダに薔薇わがまま女の水曜日」これもドラマです。「わがまま女」の「水曜日」が面白く、どうも「日曜日」ではダメのよう 。これもハヤカワ文庫にこんな「わがまま女」(でも普通の女かな?)が出て来るようです。問題句はなし。
- 若森 京子
特選句「芥子坊主こんな咄家居たような」芥子坊主が風にゆれていると咄家が喋っている様に見えた。この比喩の面白さに惹かれた。〝こんな咄家居たような〟の曖昧な措辞も一句を軽くはずませている。特選句「日光黄菅ちょい悪親爺にも朝日(小宮豊和)」ゆり科の黄金色の可愛らしい花の群れに朝日が差している風景がまず浮かび、そこにちょい悪親爺も仲間に入れて欲しい願望がユーモアたっぷりに書かれている。男の哀愁もちょっぴり。
- 小西 瞬夏
特選句「とおすみとんぼ妊りて透く暮し(若森京子)」とおすみとんぼがおなかに卵を抱えている様子、それが透けているという景を思わせ、いや身ごもっているのは作者か、とも思わせる。最後は「暮らし」という日常を置き、命を繋ぐたんたんとした営みが描かれている
- 男波 弘志
「とおすみとんぼ妊りて透く暮し」とおすみとんぼ、で切れ、人間が懐妊していると理解した。身籠り、透く、の連絡に女身の強さあり。「奥行き無くそこに足踏みミシンかな」単に狭い空間、だけではなく、過去への時間軸が寸断されている。「胸の辺の羽化するかたち烏蝶(三好つや子)」既に蛹から変態している蝶が、心音との交歓で更に変容している。「春の野に立てばあれこれみな情事」:「みな」の実体がうすい。「春の野に立てばあれもこれも情事」ぐらいでは。「その先のことばは夏野そして空」:「その先」が、全体の詩情の凄みに負けたかも。「そして」ではなく「そこに」、こそ。「まなかいの夏野はことばそこに空」「まなかいの夏野は一書そこに空」「ゆったりと椅子婚礼の髪ほどく」詩情よろし、確かな表現力。「君といて遠浅どこまでも素足」個から汎へ解放したい。「人といて」そのほうが物語性も生まれる。「ゆらゆらと敗者集まり氷菓子」この敗者は、人生の敗者にして一切を超克している。その証が、ゆらゆら、と氷菓子の華やぎだろう。「落し文ひらく樹海の溶岩の上」樹海で焦点がばらける、「真昼の溶岩の上」ぐらいでは。「表札なく白レグホンの産みつづく(矢野千代子)」異様な風景、家畜の性をつくづく考えさせられる。「明石出て風に抗う穴子鮨(重松敬子)」俳諧の風格、珍重、滑稽さが何かに抗うさま、重ねて珍重。「牡牛座に腰掛けずっと人見てる」神話の時代から人間は本当に進歩したいるだろうか。「蟻が蟻運ぶ正面石切場」石棺の中を歩く蟻、もう一切が済んでいる。宜しくお願い致します。今月も熱気があり楽しかったです。
- 漆原 義典
特選句「愛知らず恋など未だに夏落葉」は、愛、恋と夏落葉が妙に響きあい、感傷的な雰囲気が感じられる句で、特選とさせていただきました。私は1月以来5ヶ月ぶりに参加させていただきましたが、雰囲気が少し変わったように感じられ最初戸惑いました。句会のあと、小西瞬夏さんたちとお茶を飲みました。短い間でしたが楽しい時間を過ごせました。
- 大西 健司
特選句「君といて遠浅どこまでも素足」何となく二人の行く末を暗示するようで妙に気にかかる一句。ただ「君といて遠浅」短律の句として十分のような気もする。そんな勝手な読みをしながら、それなりに素足でどこまでも歩き続ける二人を認めている自分がいる。
- 夏谷 胡桃
特選句「そうめんの赤糸青糸三姉妹」。わたしの頭の中で高野文子の絵で三姉妹がそうめんを食べている図が浮かびました。短い言葉の中に色をイメージさせ懐かしさを喚起させてくれて、良い句だと思います。特選句「五月雨や抽斗のなかのアフリカよ」。これは個人的にわかる句でした。20代のときに半分仕事でアフリカに行きました。「アフリカの水を飲んだ者は帰ってくる」といわれながら、アフリカに帰れません。アフリカの記憶さえ遠ざかるなか、机の中のちいさな木彫りがアフリカへ行ったことの思い出なのです。全体的によその方の句を読んで、いろいろなことが思い出されるのが楽しかったです。
- 竹本 仰
特選句「その先のことばは夏野そして空」言葉というものを考えさせる句だなと思います。意味の面ではなく、その音楽性というか、霊性というか。たとえば、十三、四歳の頃の幼い恋に成り立っている言語観、ああいう世界の持つ、意味を離れた詩性というのか。あるいは、言語機能も運動機能も発達の遅れた子と十分交感しえているその一人の親友との間に成り立っている言語圏というか。言霊といったらいいか、意味の息抜きができて、うまく空無化されているあの世界を彷彿とさせます。この「空」は、ソラであり、クウでもあり、いいなと思います。特選句「ゆったりと椅子婚礼の髪ほどく」:「婚礼」という語彙が新鮮に感じられます。儀式というものの表と裏、準備があって、中味があって、その終わりが来て、そんな時間の流れと構造が立体化されているようです。それが、すべてにどの語もある重量を持ち、肉体化されていて、前の四七の句と対照的に、がっしり閉じた形の時間性、造形性を仕上げているように思いました。以上です。この間、香川句会ではないんですが、別の同人誌に鑑賞文を送ったところ、ある熊本の方からその選句について感謝のはがきをいただきました。あらためて、こういうコメントが、たまには人の役に立っているんだと、襟を正す思いになりました。徒然草で兼好法師は、祭りは終わった後こそ見るべきものがあると言っていたように思いますが、「句会の窓」など、本当に貴重なものだと思います。選句したものに限らず、この香川句会の流れなどもについてのふとした感想なども聞きたい気持ちもあります。清掃ではありませんが、はつらつとこの句会も皆さんで磨いていけたらと思うものであります。差し出がまし意見ですね、申し訳ありません。いつも、ありがとうございます。
- 銀 次
今月の誤読●「ビル街の朝焼け歓喜して奔る(河田清峰)」。あれは徹夜麻雀が終わった早朝やった。通りかかったんは「ビル街の」なんとも愛想のない無機質な道でな。わてら徹夜明けや。「朝焼け」がまぶしいてな。ほたら、あんた、若いオトコはんがビルから飛び出してきて、わてらのほうに走ってきますねん。その表情いうたら、どういうたらええんでっしゃろ、満面に笑みを浮かべて、まあいうたら「歓喜して」っちゅうやっちゃ。コラ、ぶつかるがな。わてそういいましたんや。ほたら、その若いオトコが、わてらを振り返って、企画書できたー! ちゅうて七、八枚の紙を空にかざすんですわ。知らんがな、そんなもん。ま、そういうて走って、というより全速力っちゅうか、漢字で書いたら「奔る」ですわな。飛ぶように奔っていったんですわ。なんや複雑な気分でしたわ。わてらヤクザもんは徹マンで疲れ切っとる。一方の若いオトコは徹夜で企画書書きあげて喜んどる。どっちが充実した夜を過ごしたんやろな。わてらは自販機から缶ビールを取り出してグイと飲んだ。だれかがボソッというた。あいつアホちゃうか。なかのひとりがこう混ぜっ返した。わてらもアホやけどな。わてがつづけて、生きとるもんはみんなアホじゃ。いうたらなんややたら可笑しゅうなってみんなで笑うたんですわ。
- 伊藤 幸
特選句「海程の終刊赤き夏の月」10日程前であったか大きく真っ赤な月が出た。 余りの感動に私もどうにかして句にしたいと思ったがインパクトが強すぎて出来なかった。故に海程の終刊を上語に持ってきてあるのには驚いた。納得!これなら赤い月にも匹敵する。よくぞ!という感じ。特選句「樹海より帰りましたとサングラス」オゾンいっぱい吸い込んでここは魔法の国か。夢と現実の間で酔いしれていたところ、いきなり俗世に連れ戻された。ああ、あれは何だったんだろう。サングラスを外し日常の眼になる。素晴らしかったでしょうね。行きたかったな~~。サングラスが夢と日常の境界線を表し効果をもたらしている。
- 稲葉 千尋
特選句「落書きの壁はゲルニカ不如帰」中七の「壁はゲルニカ」が強烈に私に迫りくる。ピカソの代表作を想う。特選句「鍵穴は古墳のかたち風薫る」まったく旨い。でも、どこかに有りそうな気もする。「帰去来ひたすら麦の禾わけて」は、おそらく大ベテランの句であろう旨すぎる。
- 重松 敬子
特選句「シュールな象の絵船は出て行きぬ(大西健司)」奇抜な象の絵と、背景に港の風景。特別なことを言っているのではないのだが、異国情緒豊かなこの感覚は、素晴らしい。: 今月も良い句に出会うことができました幸せに思います。宜しくお願いいたします。
- 野田 信章
「箱根八里青葉のアレグロアンダンテ(寺町志津子)」の句は私にとって、動きのある洒脱な浮世絵の現代版の趣がある。この線上において次句も味読している「シュールな象の絵船は出て行きぬ」の句になるとその舞台はさらに拡がりを見せて国外へと私を誘う句としての展開がある。揚げられた「シュールな象の絵」と共に。内から外へ。私も感性の窓を開きたい。
- 小山やす子
特選句「牡牛座に腰掛けずっと人見てる」少し不気味でそれでいて何処かユーモアを感じます。有り難うございました♪
- 鈴木 幸江
特選句評:「『構図はええよ』野太い声がばら園に(矢野千代子)」“ええよ”は、どこの方言だろう。厳しい助言も、優しくなる。ばら園で思わず構図を考えたくなる弟子の姿に、考え過ぎるな、まず、身体を動かしてみろと、伝えたいのだろう。考え過ぎる傾向のある私にも、口語体がよく働き、思いがよく伝わってきてありがたかった。特選句評:「父の日の父を探して歩く町」あっさりと書き、二通りの読みをごく自然に無理なくさせてくれるところがいい。ひとつは、認知症の父親を探しているという切ない姿。もう、ひとつは、現代社会の中で、変わりつつある新しい父親像を模索しているという困惑の想い。現代的テーマを扱あっておりながら俳味があり上手い。
- 中西 裕子
特選句「その先のことばは夏野そして空」は、明るくて広がりのある感じが好きです。問題句は「可惜夜の初鮎こんがり富士の旅」で上五「あたらよ」、のイメージと鮎がこんがりってなんかミスマッチで面白いと思いました。
- 三好つや子
特選句「ゆらゆらと敗者集まり氷菓子」格差社会の中で「勝ち組」と「負け組」のことばをよく耳にしますが、「勝ち組」とは、もともと太平洋戦争終結後、ハワイやブラジルなどの日系人社会で「日本が勝った」と狂信的に信じた人々を指すことばだったとか。そんな時代に思いを馳せ、鑑賞しました。特選句「もう空を飛ばぬ箒と夏帽子(小西瞬夏)」未来を信じ、いつも何かにときめいていた頃が懐かしいです。入選句「一木にやたらつく蝉出生地(男波弘志)」蝉の鳴き声にも、樹によって方言があるのでは・・・と想像。とても惹かれました。
- 菅原 春み
特選句「蛍嗅ぐ夜のふくらむ時間です」ふくらむ時間がおもしろい。季語も嗅ぐまでいうところも。特選句「蟻が蟻運ぶ正面石切り場」よく見ています。蟻が蟻に感銘。
- 松本 勇二
特選句「夏の空いつも腹ぺこ三兄弟(増田天志)」小生も男3人兄弟で育ちました。その少年時代そのもので懐かしく拝読。問題句「ちちの空蟬ははの空蟬水にのり」瑞々しい感覚で書かれていて共感しました。しかしながら父と母をひらがなにする意図が今一つ見えてきませんでした。
- 寺町志津子
特選句「海程の終刊赤き夏の月」選句表を開くと、一目、パッと飛び込んできて、最後まで目の離せない句であった。過日の熊谷大会での兜太師の決意をお聞きした時の衝撃の大きさは筆舌に尽くし難い。俳句誌上、類稀な長きに亘っての歴史ある『海程』。句歴の浅い私にとっても、『海程』所属は大きな誇りである。これは、勿論、『海程』所属の方々どなたも同じ思いでおられるのは自明のことに違いない。それが無くなる。一瞬思考が停止した。それが納得できたのは、兜太先生の「『海程』を「終刊」する」お話の最後にされた「美意識」と言う言葉であった。『「金子兜太が主宰した俳誌が海程」と言うことに、強い拘りがあります』とお聞きした時、何かすっと胸に落ちてくるものがあった。大変烏滸がましいことではあるが、兜太先生に徹底して美意識を全うして頂きたい思いに駆られた。複雑にうごめく胸の内に、心に、掲句の「海程の終刊」と「赤き夏の月」の取り合わせが、理屈無く、すっと入ってきて頂いた。
- 田口 浩
男波さんの撒き餌に上げられた。「海程」の集まりが、サンポートであることを知った。老いの好奇心が騒いだ。そして、野﨑憲子さんにたどりついた。特選「雨音や一瞬の死が通りすぎ」上五の切れが、〝通り過ぎ〟へ巧みに転回する妙に感じいる。天候自然の運行を前に、人の生死など、何ほどの事があろう。問題句「麒麟には麒麟の夏の空がある」キリンを漢字にする必要が、あるのだろうか?リフレーンの効果は?キリンと夏空だけで詠んでほしい。三メートルを越すキリンの孤高と夏空の対比が面白くての、非礼。
- 古澤 真翠
特選句「翠蔭の底の深みにひとりかな」森林浴を愉しむ作者の 静謐な感覚が伝わってくるようです。「ひとりかな」に「凛」とした姿勢が感じられて清々しい風が運ばれてきました。
- 疋田恵美子
特選2句。「今が一番楽しいんですほうたる(野﨑憲子)」今が一番「私達の年代になりますと責任ある諸用を終、自分の為のみの時間嬉しさ」を思います。「君といて遠浅どこまでも素足」君といて「熟年のご夫婦、平凡でいい、共に健康で幸をかみしめている」羨ましいような。
- 河野 志保
特選句「万緑に埋もれた家に遅き灯よ」緑濃き季節のたそがれ時の空気が伝わった。語られているのは人の暮らしと自然の近さ。どこか懐かしい、ある日の平穏といった感じも。しっとりとした魅力の句だと思う。
- 小宮 豊和
特選句「鉛筆を落とした指から春眠」居眠りして鉛筆をとり落とした。これを逆に言った。表現も発想も粋でお洒落。問題句「落し文新緑の愛に包まれし」:「の愛」がやや唐突に感じられる。削除しても句になっている。ここに良いフレーズを。問題句「五月雨や抽斗のなかのアフリカよ」良い句だと思うが少々語呂が気になる。語順を変えただけでも語呂は多少良くなる。(抽斗のなかのアフリカ五月雨るる)もっと良い表現は必ずあると思う。問題句「独身の物理学者や草かげらふ(菅原春み)」着想すばらしい。「草かげらふ」が気になる。物理学者が弱々しくかわいそう。夏の月などに変えても印象が変る。
- 桂 凛火
特選句「棄民集落いまも波音浜万年青」棄民集落という強いことばに負けない強さが浜万年青に感じられました、やるせなさがひたと伝わる凝縮力のある句だと思います。問題句「可惜夜の初鮎こんがり富士の旅」可惜夜は素敵なことばですね。俳句に使われることに斬新な感じがしました。ただ、明けるのが惜しいようなというロマンと初鮎こんがりという食べものとの取り合わせと「旅」で締めく くるところの結びの緩さに少し違和感が残りました。
- 田中 怜子
特選句「ほうたるの夜や母がゐて父がゐて(小西瞬夏)」懐かしい日本の田舎の原風景。特選句「父の日の父を捜して歩く町」この人はどんな生い立ちだったのか、どんな人なのか、思いを馳せました。
- 藤田 乙女
特選句「その先のことばは夏野そして空」眼前の風景も自分の心の空間もどんどん広がっていくような爽やかな気持ちになりました。特選句「君といて遠浅どこまでも素足」 青春の明るさと目映さ、そして過ぎし日への懐かしさを感じ、清々しい気分になりました。
- 高橋 晴子
特選句「百年の梅の実なりて退職日(中西裕子)」百年の古木の梅もびっしり実をつけて私の退職を共に祝ってくれているようだ。長年の勤めを無事に終えた感慨の一句。問題句「陽炎や避難解除も戻れない」思いはよくわかる。自己責任だなどど無責任なことを言って止めざるを得なくなった大臣もいたが〝も〟だけでは表現不足。字余りになっても、そこの処をもう少し何とかしたいもの。
- 河田 清峰
特選句「落し文青しよ八十路のわが肉も(野田信章)」くぬぎの葉を筒に巻きその中に卵を産む落し文へ青しと呼びかけ、われは八十にして文を書く若さがあると言う!その若さに感服しました!そうありたいものです!
- 亀山祐美子
特選句「普段着の宮司多羅葉青葉して」辞書に「多羅葉。古代インドで文書や手紙を書くのに用いた多羅樹の葉。干して切り整え、竹筆や鉄筆で文字を彫りつけたり、写経に用いた」とある。多羅葉と宮司と云う古くからの文化を今に伝える存在の特別感とその神職も普段着(背広やシャツ)を着るのだという今時の宮司の日常の変化に軽い驚きを覚えた。平明な内容ながら伝えるものは深い。特選句「青葉木菟毎日来ます豆腐屋も(谷孝江)」森の哲学者たる梟の仲間の「青葉木菟」は夜鳴く。「豆腐屋」の朝は早い。出来立ての商品を持って豆腐屋がやって来る時間に青葉木菟も鳴く。毎日判を押したように一日が始まる。何と羨ましい環境なのだろう。旨い豆腐が食べたい。問題句。「春の野に立てばあれこれみな情事」既に春の野にいるから「立てば」は不要。「あれこれみな情事」は春だから当たり前でしょう。「春の野」の季語の説明をしてはいけない。「今が一番楽しいんですほうたる」俳句は今この瞬間を詠むものだから「今」は不要。「一番楽しいんです」は作者の感想、主観。「楽しいこと、愉しさ」を物に託し語らせましょう。「薫風やトイレ掃除は素手でする(稲葉千尋)」「トイレ掃除は素手でする」は「掃除道・運気の上げ方」等のハウツー物の一文にありそう。当たり前過ぎて、あなたトイレ掃除は生まれて初めてか?と逆に羨ましい。俳句と散文の違いは十七文字に時空の拡がりがあるかないかだと思う。自分の言葉で語ることだと思う。久々の句会、盛況で何よりです。またお邪魔致します。
- 野﨑 憲子
特選句&問題句「唇溶けて脳も溶けたるミミズの心」私にとって難解な句である。だから余計に惹かれる。〝心〟に集約してゆくミミズの思い。そこに詩が生れる。大いなるいのちの中に生かされている。ミミズも、螢も、私も。作者の、いのちの詩にこれからも耳を澄ませていきたい。特選句「海程の終刊赤き夏の月」五月の「海程」全国大会の総会に於いて『2018年9月をもって、「海程」を「終刊」することとします。』の文章を読み上げる、金子兜太主宰の声は明るかった。この一瞬も「過程」であると、私は、そう感じた。主宰は、まだまだ進化されるのだと思った。終刊後も、「海程香川句会」は、存続できることになった。これからが本番であると強く感じる。俳句に、こうでなければならないという創り方は無い。師は常に「自由に、お創りを!」と話される。揚句の「赤き月」は、その時の、海程人の心情を見事に描いている。しかし、私にとって師は今も、真っ赤に燃える太陽そのものである。
袋回し句会
蛇
- 泳ぎ来る青大将をポチと待つ
- 野澤 隆夫
- ゆらゆらと立っている人蛇の衣
- 男波 弘志
- 顔を寄せた土偶が笑う蛇が笑う
- 田口 浩
- まざまざと人間の眼大蛇の眼
- 三枝みずほ
朝焼
- 富士山を摘まんで撫でて朝焼す
- 野﨑 憲子
- 朝焼の蛇の視線のあをさかな
- 亀山祐美子
- 夏朝焼のやうな野際陽子
- 柴田 清子
- 子が母の手を引くやうに朝焼ける
- 三枝みずほ
梔子
- 本当のことまだ言えず梔子の実
- 三枝みずほ
- 梔子の花に疲れる男女かな
- 田口 浩
- 梔子のどこまでも過去いつまでも
- 鈴木 幸江
花林糖
- 花林糖ふつふつ思いを練り上げし
- 中野 佑海
- 毎日毎日花林糖みたいなことを言う
- 鈴木 幸江
- くちなしや前歯なき子の花林糖
- 藤川 宏樹
- 花林糖山盛り失恋の麦酒
- 亀山祐美子
- 花林糖ガリッ六月の旋風
- 野﨑 憲子
- 梅雨晴れや麻布十番花林糖
- 野澤 隆夫
夏野
- 昇る日の夏野の呼吸(いき)の青に酔う
- 小宮 豊和
- 本番に力出す奴夏野かな
- 藤川 宏樹
- 夏野の扉カチャッとウクライナの風
- 野﨑 憲子
- 矢印を夏野に向けよ阿弥陀堂
- 田口 浩
- 青春は遠し夏野をさまよえば
- 小宮 豊和
波
- ひとひらの花を攫いし荒き波
- 銀 次
- 石ころはどこにでもあり卯波かな
- 山内 聡
- 前衛書弾けし墨の香夏の波
- 漆原 義典
漣
- スープにも漣立ちぬ薄暑かな
- 男波 弘志
- 漣や夜の底から来る期待
- 中野 佑海
- 六月の漣ジュゴンじゃないよ人魚だよ
- 野﨑 憲子
- 漣の光となりし残り鴨
- 山内 聡
- 夜具の舟畳さざなみ夜は遠永(とは)
- 銀 次
- 漣と名簿の上に生きる人
- 藤川 宏樹
青鷺
- 青鷺や美しいのか悲しいのか
- 藤川 宏樹
- 青鷺や田植し農夫の背中舞ふ
- 漆原 義典
- 青鷺や静から動へ誇張せし
- 山内 聡
- ここぞと思う一歩譲らぬ青き鷺
- 中野 佑海
- 青鷺の夢見し結婚白鷺と
- 鈴木 幸江
句会メモ
安西篤さんのお葉書より/72回句会報より私なりの三段階評価をしてみましたのでご参考までに。☆レベル「生も死も花に遊びし生傷(きず)のまま(若森京子)「老師来て貂の冬毛のごとき冴え(松本勇二)「目が合えば翔つ翡翠よきっと阿部(あべ)完(か)市(ん)(矢野千代子)」◎レベル「戦争のはなしソーダ水は水に(月野ぽぽな)」「座棺ありそこにほとほと麦こぼる(大西健司)」「白馬酔木カタカナ文字の反戦詩(稲葉千尋)」「あんぱんを春の形に焼く神戸(重松敬子)」「ぶらんこや膨らんでゆく影法師(野﨑憲子)」○レベル「子を二人連れ芹摘みに行ったまま(伊藤幸)」「甲冑の眼窩初蝶過ぎりけり(野田信章)」「ただそばに居るが大切ヒヤシンス(小宮豊和)「揚げ雲雀ポケットに亡母(はは)の診察券(寺町志津子)「はなちるや甘き腐敗の臭ひせり(銀次)」銀次さんのエッセイなかなか達者。
今月の高松での「海程」香川句会は、15名の参加。初参加の、田口 浩さんも、男波弘志さんと同じ、かつての岡井省二門の俊英。作品も句評も、とても興味深かったです。小西瞬夏さんも着物姿で句会にご参加、多様性こそ俳諧の華を実感しました。
五月の「海程」全国大会では、金子兜太主宰から、来年の「海程」八・九月号で海程誌を終刊するとの発表がありました。白寿を迎えられる主宰は、以後、俳句専心なさるとのことです。師の俳句への底知れぬ恋情を目の当たりにしたようで、深く感動いたしました。幸い「海程香川句会」での活動は終刊以後もお認めいただけたので、香川の地から、世界へ向けて世界最短定型詩である俳句のいのち漲る世界を発信していきたいと念じています。混沌の渦巻く自由なる俳句世界。それが、「海程」の真髄であると信じています。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。次回のご参加を楽しみに致しております。
句会報の<句会の窓>のコメントの中、三枝みずほさんの文章を、うっかり記載するのを忘れていました。次回の「通信欄」に銘記させていただきます。みずほさん、ごめんなさい。冒頭の写真は、八栗寺の菩提樹の花。島田章平さんの撮影です。
Posted at 2017年6月28日 午後 11:05 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]