2019年11月27日 (水)

第100回「海程香川」句会(2019.11.16)

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事前投句参加者の一句

つわりの記憶金木犀に噎せに行く 中野 佑海
二合研ぐ新米あおき濁り汁 藤川 宏樹
憂いの青開く貝両耳見せる 中村 セミ
胡桃落つその気になれば恋もする 吉田 和恵
秋深し隻眼の猫撫でてゐし 高橋美弥子
慚愧とは若さの上書きこぼれ萩 増田 暁子
どこへでもいける林檎をよく磨く 月野ぽぽな
風の青空りぼんはいっぽんのひも 三枝みずほ
「百年」の熱はそのまま兜太なり 稲葉 千尋
薄紙のような秋空ビル解体 三好つや子
魚鱗の陣つつむラガーのⅤサイン 河田 清峰
またあとでダイドコに立つがごとくに母逝けり 銀   次
冬の月空(くう)を掻く恐竜の黙(もだ) 佐藤 仁美
夕と夜の重なりて虫の鳴き始む 野口思づゑ
ピエロの涙上手に描いて夜長かな 榎本 祐子
山中の狸の怯え赤い風 豊原 清明
台風一過KAIGEN進路絶佳(ぜっか) 島田 章平
暗中や野鯉を抱けば火花散る 大西 健司
空海に餉を運ぶ僧等の時雨れる 田口  浩
空中の白椿まるで反故(ほご)だな 矢野千代子
どんぐりころころ居場所探してゐるところ 谷  孝江
孤高とは寄る辺なきこと銀杏降る 松本 勇二
柘榴の実自尊心てふ不発弾 寺町志津子
小坊主に子犬じゃれつく報恩講 野澤 隆夫
闘いも済んでキャベツ畑に日短か 鈴木 幸江
やらないという選択肢おんぶばった 桂  凜火
愛かも知れず海鼠のののとうごくかな 竹本  仰
鰯雲なべて自然は非対称 菅原 春み
雪が降る生きていてもいいんですよ 小山やす子
紛争の世界の裏に鹿眠る 高木 水志
メレンゲのふうわり秋思のかたちかな 重松 敬子
蓑虫に風よ母の羅紗の匂い 若森 京子
割れそうな人の集まる映画館 男波 弘志
忘れたきこと甦る石榴の実 藤田 乙女
水近き十一月の石に座す 亀山祐美子
霜月の白磁に六腑さらしたし 久保 智恵
香港のマスク自由を死守せむと 増田 天志
自裁の友よ大花野揺れやまず 新野 祐子
断層の破砕の間延び蚯蚓鳴く 小宮 豊和
蟋蟀の骸シャリシャリと猫が食った 伊藤  幸
木犀は夜を知らずに歌うもの 河野 志保
ノーサイドの楕円の行方神の旅 松本美智子
オリーブ老樹に行き着くいのち野分晴 野田 信章
笑っても笑っても枯野がつづく 柴田 清子
稲株の兵馬が走る冬青空 漆原 義典
水飲んで水の固さや冬の夜 小西 瞬夏
火恋しや羽毛寝袋にくるまりぬ 田中 怜子
冬朝日いま石庭は大き灘 高橋 晴子
狐火や大丈夫風が笑つてる 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「蟋蟀の骸シャリシャリと猫が食つた」にんげんほど、何でも食べる生き物は、他に無い。だが、猫の悪食は、許せない。なんて、身勝手なのだろう、にんげんは。

中野 佑海

特選句「どこへでもいける林檎をよく磨く」白雪姫の魔女母さん。娘に嫉妬してないで、今度は林檎も自分もピカピカにして美魔女コンテストでも、山登りでも、吟行でも楽しんで下さい。こんなに自由なんだから。BMWの箒で一っ飛び!特選句「どんぐりころころ居場所探してゐるところ」:「ころころ」と「ゐるところ」の韻が引き籠もりで布団の上でごろごろしている感がある。でも、只寝てるだけじゃなくてこれでも一生懸命考えているんだよ。「胡桃落つその気になれば恋もする」そうは強がっても、自尊心というあの堅い殻が邪魔をして。「湯の中の柚子よあなたも傷持つ身(谷 孝江)」ゆっくりと湯に浸かっている様にみえますが、脛に傷持つ身。柚子も傷があって売り物にならないんだね。「慚愧とは若さの上書きこぼれ萩」過去の恥ずかしかった事を思い出す度あの頃は若かったんだなと懐かしさがこみ上げる。「抱き枕何時とはなしに冬隣(小山やす子)」何とはなしに気になることを抱えて日常の忙しさにかまけている内にもう冬の便りが。今年も相変わらずの一年が過ぎようとしている。「日がなふつふつ島のもろみの秋意かな」もろみがだんだん発酵して甘味を増して来るにはじっくりと年を越す必要が。「メレンゲのふうわり秋思のかたちかな」取り留めの無い愁いはまるでメレンゲ。「水飲んで水の固さや冬の夜」冬の水の冷たさ飲みにくさを上手く表現。「言い訳は個人情報破れ芭蕉(野口思づゑ)」出来なかった言い訳に朝誰から電話とか、主人と行き違いとか、喋っちゃうんです。以上。選ばなかった句もどれも面白く、楽しく鑑賞させて頂きました。

藤川 宏樹

特選句「どんぐりころころ居場所探してゐるところ」日本中を沸かせたラグビーW杯。私も俄ラグビーファンとなり2ヶ月近くテレビに齧り付きでした。「ころころ」と「居場所探してゐる」様が楕円球に同調し、脳内で再び再生されました。

台風一過日本晴れのもと海原全国大会のご成功、そして海程香川の百回の句会開催にお慶び申し上げます。 

豊原 清明

特選句「冬の月空(くう)を掻く恐竜の黙(もだ)」恐竜は絵やCGで鑑賞できるが、激しく食う、弱肉強食の狂暴な野生。「黙」は見たことがないということか。誰も見られない。問題句「慚愧とは若さの上書きこぼれ萩」慚愧の定義。

若森 京子

特選句「風の青空りぼんはいっぽんのひも」この一句の景から、まず明るく自由な空気を 感じる。たかが一本の紐がリボンになったり他の形象も想像できるが、解放された中にも人生の悲喜こもごもが思はれる。特選句「やらないという選択肢おんぶばった」否定的な選択肢に、おんぶばったの季語がぴったり合っている。この様な散文的な一句は、詩を超えた妙味機微が条件になってくる。私には、この一句が新しく感じた。  

「海程香川」句会第百回、本当におめでとうございます。高橋たねを氏と憲子さんが香川句会を創立 され、その蒔かれた種を憲子さんの強引なまでの粘り強さと努力、俳句への情熱で立派に成長しましたね。先日の、全国大会が、その成果を示していると思いました。香川句会の皆様、色々と御世話になり 本当にありがとうございました。

増田 暁子

特選句「散るほどに笠智衆(りゅうちしゅう)歩く枯木道」上手いですね。笠智衆がゆっくりと歩く映画のようです。発想が素晴らしい。特選句「霜月の白磁に六腑さらしたし」霜月のキリキリした空気感が感じられます。

香川句会百回おめでとうございます。野﨑さんの、皆様のご努力ですね。これからもどうぞよろしくお願い致します。

中村 セミ

特選句「日ぐれ迅し物集女(もずめ)集落はここ(矢野千代子)」歴史観を踏まえてかつ物集女とい う言葉が面白く、調べて見ると、おそらく随分有名な場所なのだと思う。勝手な見解をいうと、京 都見物の中で色々あちこち、さまよい見ている内に物集女集落にめぐりついたのはもう夕方という 事だろうと思いますが、僕もこの句のように、歴史ある集落に行きたい気持になった。特選句「水 飲んで水の固さや冬の夜」水の固さにひかれたという事ですが、水の固さとは何か、水飲んで水の 固さやとくるので、夏のなまぬくい水とは違う冬の冷たいキリっとしたあの感覚。―のどごしの事 を云っているのだろうと思う。面白く冬の水をつかんでいると思います。とった句は皆面白かった です。

田口  浩

特選句「またあとでダイドコに立つがごとくに母逝けり」仮にこの句を<ダイドコに立つがごとくに母逝けり>と定型にしても、母上に対する挽歌も、作句の力量も充分に読み取れる。いい句である。本当はこれでいいのであろう。しかし、作者はそうはしなかった。<またあとで>を入れた。私はこれを巧みだと思った。この五文字は定型を破ってでも置かなければならぬ、ただただ作者の深い心情であろうと推察した。その思いは、眠りから覚めてまたダイドコに立つ母上の日常につなげているのである。<またあとで>はなくてはならぬ措辞である。

稲葉 千尋

特選句「ノーサイドの楕円の行方神の旅」ラグビーボールの行方は?楕円だから行くえ定まらぬ、まさに神のみぞ知る。

小山やす子

特選句「石榴の実自尊心てふ不発弾」石榴の実に寄せた自尊心又不発弾に例えた感覚鋭いです。

柴田 清子

特選句「雪が降る生きていてもいいんですよ」窓の外は雪。最期を迎えた人と自然体のやさしさの気持が、通い合っています。この句は、降る雪の音と今、深い眠りに入る息の音のみ。美しい句です。特選です。特選句「扇子に竜胆日傘に竜胆おふくろよ(銀 次)」:「扇子と日傘の竜胆」と呼びかけの「おふくろよ」だけで、母への思いがあふれんばかりに、この句に詰まっています。特選です。「またあとでダイドコに立つがごとくに母逝けり」この句も特選にしたかったくらいです。季語がない字余りであっても好きな句でした。

令和元年、海程香川100回句会、おめでとうございます。 

小西 瞬夏

特選句「ピエロの涙上手に描いて夜長かな」:「涙」を持ってきて、甘くなりがちなところを「上手に描いて」と、涙を自分の外側に置いた。あえて内面を描かず、そとに描かれた涙であることが、逆に内面のかなしみを思わせる。

香川句会100回、おめでとうございます。継続は力なり、ですね。これからもますますのご発展お祈りしています。

野口思づゑ

特選句「秋風や花はうらからすきとほる(三枝みずほ)」はかな気な秋の花が目に浮かんできました。花びらの透明感がよく出ている。特選句「水飲んで水の固さや冬の夜」寒い冬の夜の冷たい水「水の固さ」がとてもぴったりきました。「またあとでダイドコに立つがごとく母逝けり」羨ましいような人生の終え方をなさったお母さまだったと思います。カタカナのダイドコが効いている。「割れそうな人の集まる映画館」割れそうな人、どんな人なのか、決して若くて元気でない人たち、と取りましたが、寂れてしまってでもまだ営業している、そんな映画館なのでしょうか。

100回句会達成おめでとうございます。年でいえば1世紀やり遂げたということですよね。野﨑さんのお人柄がとても大きいことと思います。残念ながら私は先代(創始者でしょうか)の方を存じ上げないのですが、それでも皆さんに慕われてした立派な俳人であられたとは海程から伝わってきています。その香川句会を盛り上げ、存続させて来られた野﨑さんに心から感謝です。会員にしていただきこれほど光栄なことはありません。

竹本  仰

特選句「初しぐれ手鏡に棲む起請文(増田天志)」起請文(きしょうもん)、神仏への誓いをしたためた文ということで、この場合は、手鏡を手に取り自分の顔色をたしかめているその手鏡の箱の底に、秘めた相手と取り交わした恋の起請の文が隠れている、というか息づき、息をひそめ、まさに獣めいて呼吸しているのでは、と思いました。そこへ初しぐれ。今が時、いよいよ何かを決行するにふさわしいと、自分の眼のひかりに確かめているのか。そんな小道具がよく揃い、その味が出ている舞台のようにとりました。特選句「石榴の実自尊心てふ不発弾」句の字面が重すぎるという意見もあるでしょうが、内容が面白いです。人間として抗しがたい「自尊心」、ということは自分の病でありますが、それがふつふつと噴出しかけており、苦しんでいるのでしょうか。そういう姿、中島敦の名作『山月記』を思い出しますね。臆病な自尊心、と、傲慢な羞恥心、とその主人公・李徴の内面の闘いを表現していたように、人間としては最悪の奮戦ですが、持ちきれなくなった時、ザクロがかっと割れるような鮮やかな破滅が来るんでしょうか。それは大きくなれば、戦争ということにもなるのでしょう。そんな負の部分をあえて句にした、ここがいいのだと思います。特選句「蓑虫に風よ母の羅紗の匂い」ミノムシが枝に下がってふっと風に揺れ、そんな光景に、あっ母の匂いだという所でしょうか。ラシャをまとい咳きこむ母のあの匂い。嗅覚は最強、最短に回想へみちびくと言われていますが、そういえば、鷗外『舞姫』でも、ベルリンの下町で主人公・豊太郎が、助けた少女エリスをその貧しいアパートに送ると、よれよれのラシャを着た母親がいたのです。人生の辛苦を語るラシャです。匂いで表現される母。陽水の昔の唄『人生が二度あれば』のあの急転直下の感動が、ここにも感じられました。特選句「冬銀河しゆるしゆると帯落ちゆけり(小西瞬夏)」冬銀河と帯に何の関連もないのだけれど、このしゅるしゅるの音がこの二つを結びつけ、何か大きな運命となる一瞬が、そのドラマがふいに連想されます。富澤赤黄男さんの句〈垂直は かなし 縄のごとく〉が、巣鴨拘置所にいたA級戦犯の人々の絞首刑をつよく連想させたように。この帯を解いた一身の一事件が、大きく人々の運命を変える、というようなそんな決定的な一撃の風景を感じました。以上です。

急に寒くなりました。12月21日、句会の忘年会、お坊さんの忘年会とかぶりました、残念。こちらは、私が幹事なので、何とも動けません。みなさん、すみませんが、また次回、よろしくお願いいたします。そして、100回、野﨑さんの「句会の窓」でのことば、楽しみにしています。みなさん、これからもよろしくお願いします。

松本美智子

特選句「木犀は夜を知らずに歌うもの」わが家の狭い庭にも金木犀が植わっています。毎年、香りを楽しませてもらっています。その香りを楽しむ時間は短いですが強く香り、夜でも真昼のような力強さがあるように思います。香らせることを「歌うもの」と、木犀自身が短い秋を謳歌しているかのごとく表現された素晴らしい句だと感じました。

大西 健司

特選句「蟋蟀の骸シャリシャリと猫が食った」悪食の猫に妙なリアリティーがある。ぶっきらぼうな物言いも効果的。問題句「すみません回送中です秋のバス(桂 凜火)」このそっけなさがいい。ただ「秋のバス」では不満だ。

寺町志津子

特選句「やらないという選択肢おんぶばった」今月の選句も直ぐには決めかね、特に揚 句を特選に採らせていただくまで迷いもあった。が、揚句を一読したとき「やらないという選択肢」が、 グサリと胸に刺さったのは間違がなく、あれもしなければ、これもしなければ、と右往左往するのでは なく、「やらない」という実に単純明快な回答に爽快感があり、季語の「おんぶばった」もよく利いて いて楽しく、日頃の我が身に苦笑しながら採らせていただいた。作者はきっと大らかで、でんと肝の据 わった、ユーモア溢れている方に違いない。よい教訓を頂きました。

野澤 隆夫

特選句「胡桃落つその気になれば恋もする」スウッと流れるような句です。まだまだ人生を謳歌できるという気魄が伝わります。特選句「孤高とは寄る辺なきこと銀杏降る」この句は、人生の謳歌とは逆で、超然とした感が伝わります。

「海程」香川句会18回~「海程香川」句会第100回。小生が初めて参加したのが2012(平成12)年6月16日(土)の第18回。参加者7名と日記に残しています。あれから7年余り。時間は早い!野﨑さんの母上もお元気だったこと、思い出します。懐かしいです。

高橋美弥子

特選句「やらないという選択肢おんぶばった」発想の楽しい句です。やるのかやらないか、人生はいつもそのどちらかだ。子どものころは、ばったを見かけるとなんでもかんでも「おんぶバッタ!!」と喜んだものです。年を経るごとに重くなる人生の意味を「おんぶばった」の一語か軽くしてくれたようで、ほっとさせられました。問題句「香港のマスク自由を死守せむと」おっしゃりたいことはとてもわかるのですが、時事俳句の難しいところですよね。字余りになってももっと強い言葉を入れた方がより緊迫感が伝わるかも、と思いました。

「海程香川」句会、第100回おめでとうございます。ひょんなことからお仲間に加えていただき、代表の野﨑様はじめ「海程香川」句会のメンバーの皆様、心よりお礼申し上げます。ますますのご健吟を! 

河田 清峰

特選句『「百年」の熱はそのまま兜太なり』「百年」の句集の熱・・・

「海程香川」百回おめでとうございます~「百年」の熱がそのまま兜太であり「海程香川」の熱であるとおもう!大丈夫風が笑ってる!の声が聴こえて来る!全国大会出席ありがとうございました。

野田 信章

特選句「蓑虫に風よ母の羅紗の匂い」の句は、「蓑虫に風よ」と呼び覚まされたのは、幼児期の記憶であろうか。古風な「羅紗の匂い」というこの原体験の質感の裏打ちが句の厚みとなっている。即物としての「蓑虫」の本姿が生かされた句。問題句とした「ふくいくと男くちびるふかし藷(竹本 仰)」は<ふくいくと男のくちびるふかし藷>と助詞「の」を加えて「ふかし藷」を美味しくいただきます。

三好つや子

特選句「紛争の世界の裏に鹿眠る」紛争の絶えない世界を生きている私たち。しかし、その一方で神の使いとされる鹿の瞳にも似た、諍いをくい止める英知が、無限に存在している気がします。地上の安寧を願う、祈りのようなものを掲句に感じました。特選句「割れそうな人の集まる映画館」ガラスのように脆い、繊細なこころの人々しか出入りできない不思議な映画館を想像。過去にも、未来にも繋がっている、夢の町のシネマの館・・・浪漫が止まりません。入選句「空中の白椿まるで反故だな」落下の途中の白い花びらに、書き損じた墨文字を見た作者の感性に共鳴。入選句「中也忌の林檎の紅の深みたり」1937年10月22日にこの世を去った中原中也。はにかんだような林檎の赤が、夭折の詩人と重なり、惹かれました。

高木 水志

特選句「鰯雲なべて自然は非対称」鰯雲は同じ形をしているように見えるが、少しずつ違っている。自然というものが強く印象的に描かれている。

いつも大変お世話になっております。海程香川第100回おめでとうございます。

吉田 和恵

特選句「台風一過KAIGEN進路絶佳(ぜっか)」 

劇「海原」大会        場所:会場

兜太先生台風に乗って登場   会場ヤンヤヤンヤ

ぐるりと見回す

兜太「おー  やっとるのう」 

               ・・・中・・・略・・・略・・・略・・・

フィナーレ

兜太「いいかいげんにしてくれ!」

手を振りながら台風に乗って退場                 

        ―― 幕 ――    チャンチャン!       

松本 勇二

特選句「熟柿また落つ退院はずっーと先」取り合わせ見事。

伊藤  幸

特選句「オリーブ老樹に行き着くいのち野分晴」長年を堂々と生きて来た人の誇りが野分晴で窺える。オリーブ老樹と語り合っている作者の様が見えるようだ。

三枝みずほ

特選句「紛争の世界の裏に鹿眠る」古くから神の使いとされてきた鹿。それが眠っており、紛争の着地点が見えぬ昨今。火薬の匂いと鹿の神聖さの対比が痛々しく、静かで強い平和への思いを感じた。特選句「コスモスや甘えん坊の空ひらく(高木水志)」14キロの甘えん坊を未だに抱っこしているが、抱っこは母と子の内側の世界。これがコスモスに導かれ外の世界に気づいた時に、子の空がひらくと表現したところに共鳴した。

100回、おめでとうございます。この記念の日に参加できたことに感謝です!ありがとうございました。

島田 章平

特選句「狐火や大丈夫風が笑つてる」不思議な句。何が大丈夫なのか?幻想の世界。誘う狐火。狐火には現実の世に対比した美しさがある。人知には計り知れない神秘の魅力。絶望した人間のみが見える光と聞こえる風の音。  「母に母の狐火ありし闇のまま」廣瀬直人

第100回「海程香川句会」本当におめでとうございました。素晴らしい事ですね。この「海程香川句会」から、三枝みずほさんの様な素晴らしい俳人が生まれた事からも、この句会の質の高さが良く判ります。16日の句会には、お母様や金子兜太先生、そして高橋たねをさんが野﨑さんの横でニコニコ笑いながら聞いておられました。本当におめでとうございました。

鈴木幸江

特選句「つわりの記憶金木犀に噎せに行く」作者の中に、何としても生きたいのに、死への欲動が潜んでいる状態を想像してしまった。つわりは、一般的には子を健康に誕生させるための自然現象であり、辛かったがプラス思考で受け止められた貴重な経験だった。 “噎せに行く”の積極的な行動の中に、必死に生きようと思っている作者に啓示のごとく浮かんだ想いが金木犀の香りだったのだ。その野性がとても魅力的な一句である。特選句「柳散る風をなくした鳥のように(伊藤 幸)」風のない日は細長い柳の葉は垂直に落下する。風がなければ飛べない鳥も落下する。“風をなくした”という措辞にこの句で始めて出会い、この世から風がまったく無くなってしまった世界(何が起きるか分からない世である)まで連想が行った。今まで想像もしたことがない自然現象にゾーとした。昨今、悪者として登場することの多い風であるが、大切なものであることも決して忘れまいと思った。そして、句会場で、野﨑憲子さんより、伊佐利子さんの追悼句であることを知り、また、別の抒情詩として私の中に蘇った。将に解釈においても「俳諧自由」を実感した一句でもあった。

銀   次

今月の誤読●「分教場に日の丸小さき空を秋(藤川宏樹)」何年ぶりだろう、わたしがこの分教場に来たのは。久しぶりの里帰りのついでに立ち寄ってみたのだ。わたしは六年間この学び舎に通った。いろんなことがあった。あれやこれやを思い出す。入学したてのころは生徒も十一、二人いたのだが、学年が進むにつれてひとり、ふたりと去っていき、結局、卒業式のときはわたしひとりの式となってしまった。そののち廃校になり、訪ねる人もないままに、こうしてうち捨てられているのだ。わたしは講堂に足を踏み入れた。ほこりがパッと舞い上がった。壇上には日の丸が飾られている。だが隅のほうは破れていて、ダラリと垂れ下がっていた。わたしはその日の丸と正対した。卒業の日のことを思い出そうとしたが、ずいぶんむかしのことだ。記憶がボンヤリしている。だが父母がいて先生方がいて、わたしは答辞を読み上げたはずだ。気恥ずかしかったのだろうか、それとも誇らしかったのだろうか。と、そのとき一陣の風が窓から吹き込んできて、ただでさえボロ布のようになっていた日の丸を窓の外へとさらっていった。窓辺に駆け寄ると、日の丸は舞い踊るようにヒラヒラと空に昇っていった。わたしは直立不動の体勢をとって校歌の一節を歌った。だが急に恥ずかしくなり、校歌は尻切れトンボとなった。「二度目の卒業式か」とひとりで照れた。

新野祐子

特選句「秋思断つかに黒松の照り放哉忌(野田信章)」秋思とは違う詩境に立っていたであろう放哉と「黒松の照り」の対照が鮮やかです。入選句「草の根に草の根触れて星流れる」私の好きな「水仙が水仙を打つあらしかな」(矢島渚男)が浮かんできました。入選句「中也忌の林檎の紅の深みたり」作者の夭折の詩人への思慕が胸に迫ります。入選句「香港のマスク自由を死守せむと」「言い訳は個人情報破れ芭蕉」今こそ社会詠を、ですね。

★山々は冠雪しました。昨年より大分遅いです。

佐藤 仁美

特選句「薄紙のような秋空ビル解体」確かに秋空でも、薄く白っぽい時があります。それを「薄紙」と表現したのと、「ビルの解体」との対比が、すごく良かったです。特選句「どんぐりころころ居場所探してゐるところ」ひらがなの「どんぐりころころ」と「ゐるところ」の目に入る柔らかさがかわいいです。それと、居場所を探しているのが、どんぐりと私と悩んでいる人達と重なりました。思わず「みんな頑張れ!」と思いました。

荒井まり子

特選句「焼き芋の匂ひ太陽は真上」吉永小百合さんの寒い朝を。生活感と未来が、素直、歌いました。特選句「笑っても笑っても枯野がつづく」笑うしかない。笑っていたい。痛いけど、好きです。★皆さんの個性と参加者数に圧倒されています。元気で面白い句会ですね。宜しくお願い致します。 

矢野千代子

「海程香川」句会百回とか、何とも区切りの良い回ですね。おめでとうございます。ほんとにお世話になりますが、今後ともよろしくお願いいたします。

桂  凜火

特選句「水飲んで水の固さや冬の夜」水飲んで水の固さや という措辞が感覚としてとてもピタリとしました夜中にのどが渇いて飲んだとき特に冬は固いと感じますがそれがうまく句になったことに感心しました。 

男波 弘志

「つわりの記憶金木犀に噎せに行く」敢えて、噎せに行く、記憶以上の肉体の軋み、珍重 特選。「胡桃落つその気になれば恋もする」肉体を超えた恋慕。肉体と精神の先にある、何か?賢治の恋は今も銀河を駆けている。特選。「やらないという選択肢おんぶばった」何故、おんぶばったが効いているのか?手放さない何かを暗喩している。特選。「雪が降る生きていてもいいんですよ」もう、息だけが存在している。秀作。「水近き十一月の石に座す」俳句の骨格が全て在る。ここを押えてこそ、広大な精神の風景に立てるのだ。秀作。「簡単ないちにち団栗が晴れて」 団栗が晴れる、は一見誰もが言えそうだが、言えない。木の実晴れ、との違い肝に銘じました。秀作。

高橋 晴子

特選句「草の根に草の根触れて星流れる(月野ぽぽな)」目に見えない世界を響かせ命の一瞬をとらえて共感を覚える。星流れると大景を付けた処が味噌。以下、気になった句「またあとでダイドコに立つがごとくに母逝けり」:「またあとで」は不要。ダイドコは漢字で書いた方が感覚が生きる。「台風一過KAIGEN進路絶佳(ぜっか)」:「台風一過KAIGEN進路」まではよかったが、「絶佳」などど使いなれぬことばをもってきてダメにしてしまった。海を航く船の順調なさまを例えば〝洋洋と“とか他の言葉で言えたら◎「空海に餉を運ぶ僧等の時雨れる」これはこれでいいが、もっと省いて「空海に餉を運ぶ僧時雨れをり」とした方が余韻が残り慕う心が深くなると思う。「立冬や埴輪多くは海へ向き(菅原春み)」:「多く」は要らない。単なる説明になる。たった一つの埴輪に焦点をあて「海へ向き」とすると象徴的存在となる。惜しい句だ‼「山装う妻には癌の告知あり(稲葉千尋)」‶山装う”と妻の癌の告知。このままでは癌の告知を山が喜んでいるような気がする。「山装う」を是非使いたいなら「告知ありて」位を加えて(もっと他の言い方があると思うが)逆説的表現が生きてくる。

十一月十二、十三日と真言宗の主催で、岡本光平氏を講師に、というより彼が企画したのだなこれは。空海の、15・16歳の頃の千字文の半分(本能寺の変の時、博多の豪商が持ち出して博多の東長寺に納めた。未だに門外不出の書)を息をつめて見入りました。何辺も福岡行ってるけど、知らなんだ。聖一国師の承天寺、栄西の聖福寺、駅に近い処で大きな寺ばかり恐れ入ってきました。

月野ぽぽな

特選句「柘榴の実自尊心てふ不発弾」:「自尊心てふ不発弾」が柘榴の実のあり様と重なって説得力あり。いかにこの自尊心、その棲家である自我との幸せな関係を育む=思い出すか。これがこの物質世界に肉体を持っている間の魂の課題であるのかもしれない。もしくは遊びとも。

100回記念おめでとうございます。先生の生誕百年に海程香川は百回を迎えました。これは偶然ではありません。お祝いです☆ 

榎本 祐子

特選句「つるうめもどき遠く炎上の城ありて(若森京子)」炎上の城は戦国時代の何処かの城なのだろうか。「遠く」とは時間と空間との距離だが、「ありて」と現在の自分に引き付け、過去と現在を交差させていて巧み。

重松 敬子

特選句「またあとでダイドコに立つがごとくに母逝けり」素敵な句ですね。日頃の良い親子関係を彷彿とさせ、私もこうありたいと思わせる句です。年齢を重ねるごとに、人生の終焉って、とても大切で、また自分の意志である程度作り上げることも出来ると思っています。集大成と思い、毎日丁寧に生活してみようと思いました。

小宮 豊和

入選句「二合研ぐ新米あおき濁り汁」すばらしい新米の句であると思う。新米が香りたつような感触がある。問題は評者がこういう現象を見たことが無いということである。脱穀、精米が早くて、まだ青さが残っていたのか、そういう品種であるのか、いま評者に判断がつかない。このあたりがはっきりして、詩的感興をもよおさせるに充分であることがわかれば、評者にとっては特選句である。

菅原 春み

特選句「さし当ってすることなにもない立冬(柴田清子)」力の抜けた上五、中七と季語が妙に合います。特選句「紛争の世界の裏に鹿眠る」取り合わせの妙か。穏やかな鹿と荒ぶる世界との対比がいい。

谷  孝江

特選句「水近き十一月の石に座す」読んだ瞬間何、何ときれいな句、と思いました。美しい風景が浮かんできました。が「水」はきれいばかりでは無いと思ったものです。台風でのニュースを見ていて水の怖さを見せつけられたのです。毎日のくらしの中で無くてはならない水が時として凶器にもなる事、見せてくれたのです。でもこの句はやさしい水だったのでしょう。いつもいつもやさしくて美しい水の近くでくらしてゆけたら幸せです。

河野 志保

特選句「夕と夜の重なりて虫の鳴き始む」一読して黄昏時の様子が伝わってくる。「夕と夜の重なりて」の表現がぴったりだと思う。虫の音の中に、静かに導かれるようで心地よい句。

漆原 義典

特選句「火恋しや羽毛寝袋にくるまりぬ」急に忍び寄ってきた冬の情景がよく表現されています。「火恋しや」がいいです。冬また楽し、の句ありがとうございます。

亀山祐美子

特選句「笑っても笑っても枯野がつづく」嗤うしかない絶望感に胸が痛みます。 特選句であり問題句「実の母綴じてある本踏切に(男波弘志)」恐ろしい。踏切の際どさ。彼岸此岸、あの世この世、現の境。狂気と日常。どちらにでも転がりかねない危うさ。自分を引き留める母の存在。内省的な一句。句評遅くなりました。昨日金毘羅詣。久々の歩き、本殿まで…。バテました…。

100回目、おめでとうございます。

藤田 乙女

特選句「どんぐりころころ居場所探してゐるところ」私も居場所探しています。どんぐりみたいにころころ転がることはできないけれど。心を自由に自在にして居場所を見つけたいです。琴線に触れるものがありました。特選句「歩いても歩いても抜けぬ芒原(亀山祐美子)」なかなか抜け出すことができない芒原の先にはどんな世界が開けているのでしょうか?知りたいと思いました。なかなか抜け出すことができない芒原に共感するものかありました。しみじみと歩んで来た道を振り返りました。

田中 怜子

特選句「たった一つの影を追ひかけ枯野ゆく(野﨑憲子)」多分、兜太先生を慕って、その影をおっている自分の孤独をうたっているのですね。「ふと空を思ふカーテンを秋風」東日本大震災の跡地をまわった時、どくろのように壊れた窓からカーテンがふわりと靡いていたのを思い出しました。

野﨑 憲子

特選句「空中の白椿まるで反故(ほご)だな」美しい椿の花を「反故」とは、なかなか言えない。言えないどころか花を愛でる人々の顰蹙を買うこと請け合いだ。だが、こういう迫真の力技を、非情なる超人的な眼を詩人は心のどこかで養っていなければならないと切に思う。

お陰様で、第百回の句会を開催することができました。ご参加の皆様に心よりお礼を申し上げます。

2010年11月19日、第一回「海程」香川句会はサンポートホール高松で開催されました。初代代表の高橋たねをさんは、「句会は、組織つくりの場でなく、<素朴で、純な連衆の場>であるべきだ」と、よく話していらっしゃいました。今回、百回を迎え、その思いはますます強くなっております。そして、金子兜太先生の「俳諧自由」を信条に、いのち漲る世界最短定型詩を混迷する世界へ向けて発信して行きたいと切願しています。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

ひらがな
ひらがなののの字の寝てる炬燵猫
島田 章平
ひらがなのてのひらひらりもみぢちる
河田 清峰
湯豆腐の浮きはなを待つひらがなたち
田口  浩
ひらがなの返事二文字芒原
亀山祐美子
ひらがなを書くとき人のやさしかり
三枝みずほ
冬のひらがなふつと一ツ目小僧かな
野﨑 憲子
百回つて何だか不思議冬桜
野﨑 憲子
誰の手をさがしてゐるか冬桜
亀山祐美子
桜紅葉散る外苑の足音
島田 章平
十一人の牧師のめがね秋桜
藤川 宏樹
さくらさくら冬のさくらにつまづけり
亀山祐美子
「桜を見る会」みなVサインしている
三枝みずほ
秋桜(コスモス)や風の言の葉だけわかる
野﨑 憲子
短日
大根を抜く百本抜いて短日
銀   次
こんにゃくの歯型くつきり日短
亀山祐美子
首ふれば首ポキと鳴る短日
田口  浩
Vサイン
サインはV大満月に祈る明日
銀   次
扇ひらけば狼のVサイン
野﨑 憲子
Vサインなべて膨張する銀河
島田 章平

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】「海程香川」句会第百回へのお祝いメッセージをありがとうございました。とても励みになります。ご選評と共に寄せられた「海程香川」第百回へのメッセージを、ほぼ全文を掲載させていただきました。その前にいただいたメールで「句会の窓」に掲載できなかったお祝いメッセージもございます。どうか、ご寛恕のほどお願い申し上げます。

句会報作成の年末回避の為、事前投句と選評の締切りを12月の句会に限り一週間早めさせていただきました。 12月11日(水)(必着)でご投句ください。13日(金)には、句稿を発送の予定です。尚、12月の高松での句会は21日に開催いたします。何卒、ご協力をよろしくお願い申し上げます!

【句会メモ】10月は第1回「海原」全国大会㏌高松&小豆島開催の為、「海程香川」句会はお休みさせていただきました。百回を迎えた「海程香川」句会が、たまたま句会場へ島田章平さんが持ってきてくださった周防大島の蜜柑のように、ビタミン溢れる爽やかな句会として続いて行きますよう努めてまいりたいです。今回の事前投句の合評も、袋回し句会も、思いがけない作品や鑑賞と出会え最高に充実した時間を過ごせました。ありがとうございます。これが生の句会の醍醐味だと実感いたしました。これからがますます楽しみです!! 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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