2020年1月30日 (木)

第102回「海程香川」句会(2020.01.18)

雪ダルマ.png

事前投句参加者の一句

 
冷まじやアフガンに逝く中村哲 稲葉 千尋
玉霰プラットホームにごつごつん 豊原 清明
紙の音詳しく聞けば隅にゆく 中村 セミ
睦月海の碧さよ島は眠りの中 伊藤  幸
鰭酒やマッチを擦れば父の声 松本 勇二
とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる 田口  浩
寒月や右の奥歯を削られて 高橋美弥子
受験子にアレクサ届くサンタから 野澤 隆夫
捨てられてなお立ち上がる夜の葱 新野 祐子
兜太渋面何をか言わん初句会 滝澤 泰斗
かすむ詩嚢父が愛したチャップリン 若森 京子
肝試し十年日記買うか否 野口思づゑ
冬の河馬自由な夢が見られない 稲   暁
キリトリセンヨリキリトル冬ノ空 小西 瞬夏
冬霞内耳の迷路に居るような 増田 暁子
ひなたぼこ背中のねぢをまきもどす 亀山祐美子
立冬やつまらぬものは風に捨て 銀   次
路地裏は荒星落とす遊びして 榎本 祐子
金糸魚(いとより)の鱗の睨みマジョリティー 久保 智恵
雪こんこん童話の森をさまよいて 重松 敬子
三日はや発ちゆく孫の背にシリウス 野田 信章
黒豆煮えた現状維持でいいやんか 三好つや子
昴に告ぐ十本の指を束ねます 男波 弘志
凍土(いてつち)のざらりと蒼し朝まだき 佐藤 仁美
川に鴨十日戎の男たち 高橋 晴子
冬の木はそこに震災二十五年 三枝みずほ
短日や力を込めて言う別れ 河野 志保
お見合いするってやっと本気の白椿 中野 佑海
大根の穴の向かうのサンパウロ 島田 章平
今生にすこしはみ出て餅を焼く 谷  孝江
○□△皆老い春炬燵 寺町志津子
天と地はきらり時雨に繋がれる 増田 天志
冬雀百円投貨精米所 松本美智子
白狐にもらったままの試金石 桂  凜火
三日ゆえ線香花火のごと朝陽 鈴木 幸江
種袋はらからの呼吸(いき)やわらかに 矢野千代子
雪女♯MeTooデモの後に付け 吉田 和恵
冬三日月密かな水脈に耳澄ませ 田中 怜子
山じゅうがじっと耳すます虎落笛 夏谷 胡桃
打ち明ける真白き太き大根に 菅原 春み
さみしさの白息を育てています 月野ぽぽな
訪ねたき君の消息冬銀河 藤田 乙女
雛あられ銀河に撒きて母を呼ぶ 小山やす子
表札へ班長くはへ〆飾り 藤川 宏樹
旧かなの街よおとうとは雪虫 大西 健司
忘己利他白紙の賀状もらいたる 河田 清峰
一時しのぎに生きております布団干し 竹本  仰
何処までも僕の肉体冬の空 高木 水志
嘘泣きをしたり狐になつたりす 柴田 清子
嫁が君風の宮からやつてきた 野﨑 憲子

句会の窓

豊原 清明

特選句「とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる」とうーんがいいのでは。猟銃を感じさせる。問題句「かすむ詩嚢父が愛したチャップリン」チャップリンは白黒なのに、この一句に色を感じる。

寺町志津子

特選句「立冬やつまらぬものは風に捨て」目下、終活目指して断捨離中であるが、どうして、どうしてなかなか進まない。衣服等は割合早く見切れるのだが、課題は,折々の写真や記録、記念の品等々。人様から見れば、単なるゴミくずに過ぎない物ばかり。さあ、今日こそ見切ろう、と取りかかるのであるが、手に取ると「これはあの時の・・・」「この方も懐かしい・・・」と、結局,なかなか捨てきれないでいる昨今。そんな折に出会った揚句。「つまらぬものは風に捨てる」潔い作者に敬服。風がどうにかしてくれるのだ。「風に捨てる」に大いに刺激された。さあ、心新たに断捨離するぞ!の力を頂き、特選とさせていただいた次第である。

大西 健司

特選句「嘘泣きをしたり狐になったりす」特選句であり、ある意味問題句。「なったりす」では不満。「す」では気抜けをしてしまう。たとえば「冬」というふうにピシッと締めてほしい。女心の揺らぎだろうか何とも悩ましい。

小山やす子

特選句「昴に告ぐ十本の指を束ねます」十本の指を束ねのフレーズに何か強い意志と決心を感じます。

稲葉 千尋

特選句「嫁が君風の宮からやつてきた」風の宮は伊勢神宮のなかの一社と思う。そこから「嫁が君」がやって来たという。来てもらえば嬉しい。

中野 佑海

特選句「またたきの獏を裏の木に残す(大西健司)」獏の皮をしいて寝ると悪夢を食べると言う。この僕を裏の木に残すってか?いったい君は何様なんだ?良いよ。もうどうなっても知らない。好きな様に今年を生きてくれ!特選句「今生に少しはみ出て餅を焼く」私の父は鏡割りの餅を焼いて、ぜんざいにしたのが大好物だった。勿論私も。そのぜんざいを誤飲し死んでしまった。きっと今年も1月11日は餅を焼いてぜんざいにしたのを食べに来たはず。今年も頑張って作ったよ、ぜんざい。並選句「昨日とう過去に半身埋めて冬(谷 孝江)」我が歯の痛みに今までの歯磨きせずに食べて直ぐ寝た毎日を後悔しきり。我が歯に何時春はやって来るのか!「寒月や右の奥歯を削られて」右の奥歯正しく毎日痛みます。どうしたら歯の心配から逃れられるのか?「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」キリトリ線から切り取る様にすっぱり歯は直らぬものか?「路地裏は荒星落とす遊びして」荒星落とすくらいの荒療治が必要ってこれ以上苛めないで下さい。何々、全て私の責任と。仰っしゃる通り、面目次第もありません。「打ち明ける真白き太き大根に」大根を切りながら、大根に文句言える立場じゃないか。「珈琲淹れる木の幹を抱きしめるよう」珈琲一つ淹れるにもこの丁寧さ。もっと自分にも、人にも丁寧に接して生きていくべきなんだよね。佑海反省しています。「狐火のコンセンサスは檜風呂(久保智恵)」反省したところで、ここはいっちょう皆で風呂に入るのが心身共に回復するよね!やっぱり檜の香は癒やされる。「ポインセチアが強く波打っている」この花は私の大好きなクリスマスを運んでくれる。「遠火事のたとえば外反母趾にかな(三好つや子)」私も頑張ってお遍路して、大分左足の親指が内側に寄ってしまっている。靴を履かなければなんともない。火事も遠くにある分にはなんともない。人間てなんと我が儘な生き物なのか。あ~それにしても、何時まで歯に苦しむのか。もっとも食べなければなんともない。皆様の俳句で、私を楽しんでみました。お付き合い頂き有難うございました。拙句ではなかなか楽しめるほどの深みはありません。来月も皆様の興味深い俳句を楽しみに致しております。

若森 京子

特選句「別の世の音まぎれこむ書斎冬」冬の書斎は静かで重々しい雰囲気がある。‶別の世の音〟の措辞から色々な音を想像出来る。私には書斎にある色々の本からの主人公の過去の声や音が聞こえる様な気がする。特選句「一時しのぎに生きております布団干し」軽く諧謔的に書いているが何か人生の重みを感じる。‶布団干し〟の季語がよく効いている。

小西 瞬夏

特選句「初雪のふと遠い人と重なる(三枝みずほ)」さらっと書かれているが、心に残った句。遠い人とは亡くなった人か、遠くに行って会えない人か。どちらにしても、その人を思う気持ちの強さが、「雪と重なる」という描写によって、かたちを持った。

夏谷 胡桃

特選句「鰭酒やマッチを擦れば父の声」。わかりやすくていい句だと思いました。燐の匂いが好きです。だから俳句を読むだけで燐の匂いが漂い亡き父を懐かしむ気持ちが伝わりました。特選句「雪女♯Mee Tooデモの後に付け」。いまどき、雪女にもいろいろ訴えたいことがあるのかもしれません。「こんな白い衣装は嫌だ。おしゃれしたい」とか、妖怪界での男女差別とか。面白さで特選にしました。

島田 章平

特選句「雪こんこん童話の森をさまよいて」いいね!白雪姫がいる。あれ、向こうには雪の女王とアナ。赤ずきんちゃんもいる。今日は童話の森に泊まります。特選句「種袋はらからの呼吸やわらかに」種袋の中の種ってどんな夢を見ているのかな、桃栗三年柿八年、柚子は? 童心っていいですね。 

鈴木 幸江

特選句「またたきの獏を裏の木に残す」“またたきの獏”を最初は、少し興奮している状態の獏と思ってしまったが、悪夢を食う想像上の動物と捉えれば、これは、夢を見ているレム睡眠の状態なのだろう。そうイメージすると、とてもすっきりした。主体的に“残す”という行為には、想いが深い。一緒に連れては行かないということだ。薄れてゆく悪夢のような思い出を、忘れはしないが、自分の外に置いておくという、まるで心理療法の一つのようで、哀しいが癒される。問題句「聖夜産院地図燃え尽きるまで待て(竹本 仰)」いわいる難解句であるが、惹かれるものがある。まず、問題は一行詩のようであること。いいのかな?と今も私には問題である。リズムは7,9,2と切って読んだがなんか物足りない。内容は2句構成。サスペンスの雰囲気の中で、新たなキリストが誕生するドラマを見ているようだ。“地図燃え尽きるまで待て”では、はっきり言い過ぎてしまって俳句の叙情的効果があまり出ず残念。でも、行き先を人に知らせぬためと、解釈するととても含蓄のあるいい句だ。以上。

松本 勇二

特選句「今生にすこしはみ出て餅を焼く」餅を焼くときにふとよぎった作者固有の感覚を上手く掬い上げた。

伊藤  幸

「冬の木はそこに震災二十五年」阪神大震災より25年、難を逃れた木は今年も 冬木の芽をつけ人々を見守り続けているが「そこに」という措辞によりまだまだ拭い切れていない悲しみが伝わってくる。

増田 天志

特選句「昴に告ぐ十本の指を束ねます」詩的世界に溺れゆく。社会性俳句を志向しつつも。

田中 怜子

冬霞内耳の迷路に居るような」霞にまかれると、こんな気持ちになります。特選句「万歳のふっくら土偶初明り(菅原春み)」土偶のおおらかさ、可愛さが表現されていますね。

藤川 宏樹

特選句「〇□△皆老い春炬燵」:「〇□△」、ん? ひととき置いて「春炬燵」で状況把握。途端に〇□△が人の顔に見え、五輪の塔に見え、熱々のおでんにも見えてきます。想像力全開に楽しませていただきました。  さて新年早々の袋回し。意表を突こうとお題に「モンロー」を出したのですが佳句良句見事になされ、あらためて皆さんに恐れ入りました。ということで、今年もよろしくお願いします。   

高木 水志

特選句「旧かなの街よおとうとは雪虫」人の温かさが残る街に、雪虫のような弟がのんびり暮らしている景が見えて、情を忘れずに生きたいなあと思った。

三好つや子

特選句「白狐にもらったままの試金石」 何もかも目まぐるしく変わる現代社会のなかで、絶対変わらないものを見つめ、変えてはいけないものを探ろうとする作者の矜持が感じ られ、共鳴。特選句「いきはいてすうてにっぽん寒の入り(田口 浩)」 経済、温暖化、年金などの問題に直面し、あたふたしている一日本人として、この句に惹かれました。まずは呼吸を整え、これらの問題と向き合いたいです。入選句「グレタさんを日本へつつーと鶺鴒(稲葉千尋)」自然環境の悪化するこの星でひたむきに生きている野鳥に、人間のことばが話せたらどんなことを発するのだろう?花も鳥も風も月も、むかしとどこか違うのに、今までとおなじ感覚で詠んでいていいのだろうか?グレタさんのような人が増えてほしいと願わずにはいられません。

田口  浩

特選句「旧かなの街よおとうとは雪虫」<旧かなの街>は現実にあってもなくてもよい。出来れば作者の造語であればうれしい。私は外国の寒い地方都市を想像した。<おとうと>は、その街で何故か雪虫に変身して・・・。そんなピアノ曲をきいたような気がしてくる。句に感性が密着していてブレがない。おもしろい作品である。

柴田 清子

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」大胆なカタカナ表記、リズムをとりながら冬の空へと。『冬の空』が、上五・中七を邪魔していない。理解に苦しむ人をみるような句、いつまでも頭の奥の方に入ってとどまってしまいそうな句、特選句です。

高橋 晴子

特選句「いきはいてすうてにつぽん寒の入り」ひらがな書きに、何か、にっぽんが ‶いきはいてすうて〟と生きている不思議な感がする。日本が生きて呼吸をして寒の中に入っていく、このリズム感がそういう感をもたらすのだろう。お見事!!

吉田 和恵

特選句「ぴよぴよぴよぴよ白フクロウの灯が点る(野﨑憲子)」森の哲学者白フクロウが無心に灯す姿をイメージした。特選句「嘘泣きをしたり狐になつたりす」見憶えのあるような一句。でもおかしくて面白い。私、兜太先生にお目にかかることは叶わなかったけれど、もし先生に叱られたら嘘泣きしたかも知れない。

松本美智子

特選句「胸中の蛇の蕩ける冬日向(田口 浩)」冬の日の日向ぼこに当たると抱いていた恨み辛みの気持ちも蕩けていくような気分になるものです。それを(蛇の)と表現したところが素晴らしいと思いました。 私の句について、少しアドバイスをいただきたいです。「冬雀百円投貨精米所」の句は悩みました。漢字ばかりで良いかどうか!上の句を「小春日や………」としようか迷いました。アドバイスをおねがいします。すいません、まだまだ勉強不足なもので、皆さんの意見が参考になります。→ 初句会に遠路ご参加くださりありがとうございました。私は、貴句は、<冬雀>だからこそ映像化に成功していると思います。漢字ばかりの句も、とても魅力的です。

河野 志保

特選句「とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる」晩秋から冬の静かな山を思い出した。静寂を破る「とうーんと」が物悲しい。「羽根」は作者の心にある大切な何かなのだろう。締め付けられるような喪失感が余韻となっていつまでも消えなかった。

竹本  仰

まずはじめに選句とは何かと病院の待合室で考えました。よい句を選ぶこと。よい句とは何か?自分が俳句を探し求めるにあたって道しるべとなるような句。昔、旅の友というふりかけのヒット商品がありましたが、そういう俳句探しの旅の友とでも言えばよいか。特選句「天と地はきらり時雨に繋がれる」まず、時雨に「きらり」が新しい。時雨のあとの夕日のひとさしの、きらりではないか。まるで涙のあとのきらりのような。しかし、と、思う。そんな時雨のあとに天と地がつながって見えるようなところはどこか?経験的には琵琶湖?してみると、時雨でつながる芭蕉と義仲のような不思議なきらりを連想してしまう。と、まあ、そういう勝手な連想で楽しめた句でありました。特選句「打ち明ける真白き太き大根に」真情をうちあける相手とすれば、なるほど抜きたてでひと洗いした大きな大根は信じるに足る「安心(あんじん)」の相手である。大根は真実である最高の聞き手。自己主張を呑み込み、真情を抱きとめてくれると納得できる。特選句「旧かなの街よおとうとは雪虫」弟よ、おまえは、旧かなを守るしかない古い町で、雪虫になってまで頑張って生きているのか、という姉の愛か。カフカの『変身』は、グレゴールが毒虫になり最愛の妹から決定的な裏切りをこうむるという話だったと記憶するが、それとは真逆で、『紫式部日記』で大晦日宮中に出没したひとりの賊を捕まえさせ手柄を立てさせようと、検非違使のおとうとをまっ先に呼びにやる姉・式部の愛を思い出した。古典的な姉のいる愛、おとうとよ、がんばれ。特選句「何処までも僕の肉体冬の空」いま、オリオン座の左手、われわれから700光年の近さのベテルギウスが爆発するか、もうしたか、という話があり、これには私たちは全く手が出せない傍観者でいるよりほかはないのですが、この傍観者でいるよりほかはないという感覚と、どこまでも「僕の肉体」というこの句の感覚に妙に響きあうものを感じました。無関係ではないのだが、でも、どうにも出来ない、でも、どうしても関わりがあるのだ、もどかしいそんな愛、そんなリアリズムを感じました。以上です。

いつもなぜか、選句は通院の病院の待合室でしています。たまたま時期がそうなるのと、なぜかそんな場所が意外と選句に合っているという不思議なコラボを楽しんでいます。そうそう、「海原」を読むのにもこの待合室がベストなんです。だから、通院の楽しみの一つは、ここなんですね。みなさま、いつもありがとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

稲   暁

特選句「冬の木はそこに震災二十五年」今なお作者の脳裏に焼き付いているあの日の光景。それを一本の冬木に集約して悲しみを新たにしている。

月野ぽぽな

特選句「別の世の音まぎれこむ書斎冬」書斎は心を研ぎ澄ませ想像/創造する空間。融通無碍の境地に到達すれば、過去も未来も自在にその空間を行き来することでしょう。今という永遠の豊かさ。心の内の充実には冬が最適ですね。

新野 祐子

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」類句類想がないですよね。表記の仕方も。冬の空の感じが出ています。大変ひかれました。入選句「冬青草兜太芭蕉の旅寝論(矢野千代子)」」冬青草が、中七下五を生き生きとさせていると思いました。入選句「ヘリ騒音普天間思う年始かな(滝澤泰斗)」本土に住む私たちにとっても切実な問題です。入選句「万歳のふっくら土偶初明り」初明りの中、戦争がなかったという縄文時代に想いを馳せているのでしょう。

桂  凜火

特選句「種袋はらからの呼吸(いき)やわらかに」はらからの呼吸やわらかにのフレーズのえもいわれぬ魅力にとても心惹かれました。はらからの平仮名表記も効果的だと思います。 どこかしら艶かしさもあり不思議な句です。種袋との取り合えあわせでリアリティが出ていると思います。

中村 セミ

特選句「水の闇寒鯉ぬるっと交差する(桂 凜火)」ぬるっとが、この句の要と思う。冬の池の中の鯉、水も冷たいと思う。物理で粘性係数という言葉があり、温度が低い程粘りが出てくるというもので、流体(水・空気)が管渠の中を流れる時に、温度が低いほど、粘性係数は大きくなるという事で、流体の流れは温度が高い時と低い時では、早い、遅い、という事に物理的にはなっている。これは勝手な解釈であるが、ぬるっとが面白かった。水の闇もよく効いている。

谷  孝江

特選句「とうーんと猟銃わたしの羽根が落ちる」もう何年前になるでしょうか、湖のほとりの温泉宿での事です。朝、日の出と共にあちらこちらと銃の音が聞えてきました。ああ今日からは狩猟解禁日なのだな、と思いました。解禁初日は鴨がよく捕れるのだと聞いたのを思い出し、鳥たちが可哀想だな、と心が痛んだ事でした。「わたしの羽根が落ちる」思いをしました。世界のどこからも銃の音が聞こえなくなるようにと願うことしきりです。

高橋美弥子

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」うまいなあと思いました。カタカナ表記が、冬の冷たい空を象徴しているかのよう。これは季語が動かないですね。脱帽です!!問題句 「三日ゆえ線香花火のごと朝陽」線香花火は朝陽の比喩だとはわかりますが、三日だから朝陽が線香花火のようだというところが今ひとつ理解できませんでした。ごめんなさい。

榎本 祐子

特選句「今生にすこしはみ出て餅を焼く」作者の立ち位置や、心情が見える「すこしはみ出て」が淋しい。生きる糧として餅を焼くことも少し悲しい。

重松 敬子

特選句「種袋はらからの呼吸(いき)やわらかに」待春のエネルギーに満ちた躍動を感じます。四つの季節があるというのは何と素晴らしいことでしょう。正に俳句の心髄。

小宮 豊和

特選句「天と地はきらり時雨に繋がれる」この「繋」の使い方はすばらしい。ふつうは繋留などのように多くの場合、繋の一方は大きくしっかりしたものである。この句の場合は無限大と言ってさしつかえない天と地と、細い時雨の軌跡が繋ぐというのだ。壮大な概念の飛躍である。

増田 暁子

特選句「捨てられてなお立ち上がる夜の葱」元気をもらう句ですね。ほんとに葱は枯れそうになっても首をあげますから。作者の魂を感じます。特選句「種袋はらからの呼吸やわらかに」優しい句です。はらからとは生き物にも通じますから、同じ地球に住んでいる者同士いたわりあいたいと作者は感じておられると思い共鳴しました。

野澤 隆夫

特選句「睦月海の蒼さよ島は眠りの中」1月の海。そして島。小生の50年以上前、小豆島に住んだことを思い出しました。その年に東京オリンピックがありました。カラーテレビが出てきました。島の子ども、人たちと多くの交流がありました。特選句「大根の穴の向かうのサンパウロ」今年は暖冬で大根が大きくなり過ぎ、市場に出せず引き抜いてる農家の写真をみました。大根を引き抜いた穴の向こうはサンパウロなんだと。妙に納得!!「ストーブの消えてアラビア海想ふ」この句もスケール大きく、面白い句だと感心しました。

菅原 春み

特選句「訪ねたき君の消息冬銀河」初恋の人か懐かしいひとか、このごろになってやけに相手のことが思い出される。冬銀河との取り合わせがいい。特選句「少しずつ遺品となりて年明くる(松本勇二)」去年亡くなられた身内の方だろうか。とても一気に遺品整理などできない。少しずつというところ、年の明けるまでの季語ともに切なさと、相手への深い情愛を感じる。

三枝みずほ

特選問題句「別の世の音まぎれこむ書斎冬」冬の書斎にある本の匂い、灯り、ひやっとした空気感と本の世界。「まぎれこむ」によって、現実との境界線が曖昧になってきている感じが伝わる。ただ、声に出して一句を読んでみると、「書斎冬」の語感にどこか違和感。でもこの句は冬だからいい!迷うところだ。

滝澤 泰斗

特選句「ひなたぼこ背中のねぢをまきもどす」ワオキツネザルは陽を両手で受け止め体温維持するが人間は背中で陽を背負い日向ぼこを楽しながら・・・思索したり、ただぼーっとしたり。だが、作者の日向ぼこはエネルギーチャージだと・・・秋の午後の傾いた陽にそんな力を感じる。問題句「亡己利他白紙の賀状もらいたる」幼馴染が後年仏門に入り、年賀状にこの亡己利他の文字を揮毫して送ってくれる。しかし、白紙ではない。冒頭の亡己利他と中七の白紙の関係がもう一つ見えない。しかし、何か、この上と中七に妙な因果を感じさせてスーッと看過できないでいる。

藤田 乙女

特選句「初雪のふと遠い人と重なる」初雪に急に昔を思い出したり懐かしさを感じたりして、関わりをもちながら今は遠い存在となってしまった人を思い浮かべる、そのような感覚は自分にもあり、とても共感しました。特選句「冬三日月密かな水脈に耳澄ませ」透き通るような感性と研ぎ澄まされた美しさを感じました。

亀山祐美子

特選句「川に鴨十日戎の男達」鴨の生存のための群れと男達の商売繁盛祈願の群れ。おもしろ取り合わせだと思う。「十日戎の男達」か「十日戎に男達」とするのか。この句の助詞の選択だが、「の」とすると絵としては完成されるが動きが無く、面白みに欠ける。「に」としたほうが、「に集まる」「に寄る」「に~」とする動詞の省略に想像の余地があり一句が脹らむ気がする。また、「川に鴨十日戎に男達」と「に」「に」と畳かけた方がリズミカルだと思う。特選句「キリトリセンヨリキリトル冬の空」見渡す限り寒晴の真っ青な冬空。裸木の下に入った瞬間空にキリトリ線が出来た。見事な把握。そのキリトリ線に沿い少し、ポケットに入る位で良いから持ち帰りたい願望に同感し、脱帽する。「線」をカタカタ表記にし「から」ではなく「ヨリ」を選択したセンスの良さで「キリ」「トリ」「ヨリ」「キリ」の「リ」の小波の繰り返しと「キリトリセン」「キリトル」の大波の二重構造でリズム感を増し、冬木の枝のボギーボギ感まで表現した。冬空でなければ出ない発想。お見事。問題句「雛あられ銀河に撒きて母を呼ぶ」雛あられが大好きだったお母さんだとしても、これは無い。まるで米を撒いて雀をおびき寄せるようで気に入らない。物で釣られる母なのか。そんな母が好きなのか。人間性を疑う。しかも「銀河」は夏の季語。何でも有りの句会でも、此は酷い。まだ無季のほうが良い。蛇足ながら、「表札へ班長くはへ〆飾り」の「くはへ」の同音異義語に悩んだ私のような粗忽者には「加へ」と限定した漢字表記が有り難い。

明けましておめでとうございます。寒中お見舞い申し上げます。初句会初っぱなから迷子になりご心配ご迷惑おかけいたしました。無事帰れました。今年もよろしくお願いいたします。

久保 智恵

特選句「肝試し十年日記買うか否」十年日記帰ればネ。心を込めて作者の心情、短い中に別れの心情!!心の底に沁みる日常の私でした。

河田 清峰

特選句「三日はや発ちゆく孫の背にシリウス」我が家でも二日と三日に帰っていきました。それもシリウスの出てくる真夜中に…共感する句です。特選句「風花や臆病なわたしを知りたい」好きな句です。

男波 弘志

「玉霰プラットフォームにごつんごつん」とにかくリアルです。「川に鴨十日戎の男たち」春が来ている。「お見合いするってやっと本気の白椿」椿はぽたぽた落ちました。「胸中の蛇の蕩ける冬日向」蛇をも、5体に同化させる日向、バイローチャーナ讃。

野口思づゑ

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」白い紙をまず思い浮かべたのでカラッと晴れた青い冬空というより、どんよりと重い空をイメージした。大きく広がる空、というよりは切り取られたような自分の頭上の小さな範囲の空の印象でしょうか。特選句「意に沿わぬ人にも母あり九年母(寺町志津子)」作者は九年母のよう、良き香りで人を幸せにしていれるようなお母さまをお持ちだったのでしょう。自分とは到底相入れない人であっても誰かの子供であったのだから寛容に受け入れなくては、という気持ちが伝わってくる。

佐藤 仁美

特選句「キリトリセンヨリキリトル冬ノ空」カタカナの効果があり、「切り取り線」と言う発想が、素晴らしいです。冬の空にも色々あると思いますが、私には、雲が暗いのと明るい層にくっきりと分かれている様を表しているように思えました。特選句「黒豆煮えた現状維持でいいやんか」黒豆と現状維持と言う、取り合わせの妙、「いいやんか」の、とぼけた感じが好きです。「色々あったけど、これでよし。」と、お正月を迎えようとしている様子が、自分と重なりました。

野﨑 憲子

特選句「さみしさの白息を育てています」<白息を育てています>このやわらかなフレーズの中に、エッシェンシャル一本槍な生き方が見えてくるようだ。この<さみしさの白息>は、きっと作者の心の糧になっているのに違いないと思った。問題句「○□△皆老い春炬燵」この作品は、句会の合評でも大いに話題になった。「○□△」の表記にびっくり。きっとおでん鍋を囲んでいて、天ぷらや蒟蒻、卵の形ではないかとか、いやいや集まった人たちの姿だとか、五輪塔では?と言った高尚な把握もあった。「春炬燵」が良い。老年に入った仲間達が集まってワイワイガヤガヤ楽しいお喋りが聞こえてくるようだ。表記もとても新鮮!「○△□」「△□○」何通りも楽しめる。限りなく特選句に近い問題句である。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

モンロー20.jpg
モンロー
初時雨モンローの睫毛は上向きに
松本美智子
湯婆もモンローも同じ抱きごごち
柴田 清子
モンローが好きな一羽の百合鷗
田口  浩
初明りモンローよりもいいをんな
鈴木 幸江
冬すみれ
冬すみれ伸びて縮んで影法師
野﨑 憲子
冬すみれ四時には四時の色になる
田口  浩
お題より着る物選ぶ冬菫
中野 佑海
ひとり寝にシャネルの五番冬菫
藤川 宏樹
思い出は別れが多し冬すみれ
稲   暁
冬菫やさしくされるのが嫌い
柴田 清子
新玉葱
新玉葱齧り女の話など
亀山祐美子
新玉葱育休始める環境相
藤川 宏樹
一皮剥けば人間新たまねぎ
島田 章平
櫛切り新玉ネギや初笑
松本美智子
初鏡
初鏡嘘を吐かないから嫌ひ
島田 章平
百年が揺れて百個の初鏡
田口  浩
アモーレとルカは言うのか初鏡
鈴木 幸江
幼な日の指切りげんまん雪明かり
稲   暁
雪明り深みに入る逢瀬道
中野 佑海
そう言う事かと降る雪が止んでいる
田口  浩
なあになあに雪が空から降つてくる
野﨑 憲子
霜焼
霜焼やつくづく用の無くなれり
柴田 清子
霜焼るされど待ち人あらわれぬ
藤川 宏樹
霜焼や自分をほめて生きていく
松本美智子

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】本句会の仲間、滝澤泰斗さんのプロデュースで、『金子兜太先生の軌跡を旧トラック島に訪ねて』の吟行旅行が開催されることになりました。滝澤さんは、朝日新聞社系列の旅行会社に勤務され朝日俳壇の選句会へ先生を訪ねよくお話をしていらしたと聞いております。現在も、旅行会社でご活躍中です。☆旅行期間は本年四月十九日(日)~二十四日(金)です。募集人数は十五名、実施最低人数は十名です。私も参加の予定です。詳細を知りたい方は私宛にお問い合わせください。 noriko_n11☆yahoo.co.jp(☆を@に変換してください) 新型肺炎の流行が一日も早く終息するようにと祈るばかりです。

【句会メモ】令和初句会は、「ふじかわ建築スタヂオ」での開催でした。柴田清子さん、中野佑海さんが着物姿で句座に加わり会場がとても賑わいました。坂出の松本美智子さん、観音寺の亀山祐美子さんも参加され嬉しかったです。句会場には、藤川さんが描かれたマリリンモンローの素敵な肖像画がありましたので、藤川さんにお許しを得て<袋回し句会>に掲載させていただきました。一部、作者の意向で掲載しない句もありますが、とても面白い作品がたくさん集まりました。次回が、今から楽しみです。

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