2020年12月30日 (水)

第112回「海程香川」句会(2020.12.19)

牛.jpg

事前投句参加者の一句

                         
極月の葬儀場からのぼる月 松本美智子
潜水病に似てアナログ人間の炎昼 佐藤 稚鬼
浅黒い土に根ざして冬嵐 豊原 清明
汁だくの牛丼両手でコロナ冬 田中アパート
逆光の君へシャッター照黄葉 松岡 早苗
冬銀河電信柱に追ひつかれ 小西 瞬夏
十二月八日不協和音の膝小僧 荒井まり子
水引草いいえマッチ売りの少女です 吉田 和恵
てのひらの球体として寒の月 久保 智恵
わたしには私のルール枯芙蓉 石井 はな
真夜に満つポインセチアの不整脈 森本由美子
正座してアイロンかけるクリスマス 菅原 春み
梟とともに聴く真夜の静寂 野口思づゑ
いつの日かきっといつの日か冬の月 三好三香穂
霜月の背中にバカと書いてやる 榎本 祐子
草紅葉指に油性の匂いかな 重松 敬子
冬ざれや真面目な顔の犬が来る 稲   暁
山茶花の白かけ足で来る日暮 柴田 清子
くきくきとビュフェ描くか吾亦紅 田中 怜子
シリウスに兜太と朗人再会す 月野ぽぽな
恋多きイブモンタンや落葉降る 植村 まめ
中村哲忌シダーローズのリース耀う 新野 祐子
ストーブにそっと手のひら摂氏九度 漆原 義典
頭陀袋飴玉一個毛糸玉 亀山祐美子
落武者の手が伸び屋島寒月光 松本 勇二
銀杏黄葉に朝月座禅帰りの息 高橋 晴子
砂時計返す戦艦から油 藤川 宏樹
帰るべき場所をさがしている枯野 田口  浩
少し痩せた花束を抱く雪降る駅 津田 将也
遂に結氷期ぴりぴり皺走る 川崎千鶴子
慈母観音とやかの人冬の滝拝す 大西 健司
空海のさざ波とあり今ここに 鈴木 幸江
父の忌や掃けど掃けど降る銀杏 伊藤  幸
哲さんの唇ぶ厚く寒茜 滝澤 泰斗
妻逝きて五年目霜焼が痒い 島田 章平
自転車の父は仮の目竜の玉 稲葉 千尋
枯菊にくすぶっている禅の顔 伏   兎
寒さには慣れております山猫座 高橋美弥子
寒林へ骨打ってゆく奥熊野 河田 清峰
大変恐縮ですが電柱の鴉です 佐孝 石画
燃えるもの甘くストーブ燃えている 竹本  仰
雪虫の来る中東の黒い地図 桂  凜火
五体投地のライダーありし花野かな 野田 信章
凍蝶にまだなり切れず逢ひたしと 谷  孝江
嘘八百吐いてみたいな金薄 小山やす子
縄文の記憶の古層木の実雨 小宮 豊和
赤いマフラー風のまんなかにいるよ 三枝みずほ
朝日浴び白菜まっぷたつの白 夏谷 胡桃
缶蹴りや黄泉は冬晴れだと亡弟(おとと) 若森 京子
羽音してモディリアーニの女の眼 高木 水志
冬銀河そっと呟く家族の秘密 藤田 乙女
冬帽子ディランのことば置いてある 男波 弘志
母のそれからミシン奏でる冬銀河 中野 佑海
オンラインで「第九」歌ふや置炬燵 野澤 隆夫
狐くる可愛い母と狸のわたし 増田 暁子
着ぶくれてだんだん小さくなる度胸 寺町志津子
饅頭の裏紙雪女の手土産 十河 宣洋
寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者 銀   次
羽後山の裸木一本より数え 福井 明子
しぐれゆくたてがみは虹の幻影 増田 天志
美しき絵本ひらけば凩  野﨑 憲子

句会の窓

 
松本 勇二

特選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」思いと現実をつなぎ合わせ哀感溢れる作品となった。

小西 瞬夏

特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」中東のきな臭い状況を「黒い地図」とした。そこに雪虫が来る。小さなものがうごめく映像がまるで人の生き様を俯瞰で見ているような景を作った。雪虫が象徴するものにもイメージが広がる。

藤川 宏樹

特選句「霜月の背中にバカと書いてやる」:「霜月の背中にバカと書いてやる」とは、コロナ渦の自粛、自粛で人にも会えぬ、持って行き場のない鬱憤をぶつけるに相応しい表現です。世界中が不自然であったこの一年を象徴しているようです。

若森京子

特選句「てのひらの球体として寒の月」〝球体?の言葉から、穏やか・安堵・柔軟・平和のイメージが浮かぶ。〝寒の月?の冷えた硬質の球体と対比して、てのひらに球体感覚を求めたのであろう。特選句「流氷の遠き音『今不在です』(小西瞬夏)」:「今不在です」の話し言葉に唯今の人間存在を感じ、一行の中に無限大の時空の流れを又物語りを感じた。

稲葉 千尋

特選句「とっくりのセーターなんて青すぎる(男波弘志」この冬とっくりのセーター大好きです。首を温めないと「青すぎる」が良い。特選句「冬帽子ディランのことば置いてある」中七下五がいい。冬帽子とディランの言葉置いてある、この気分が好きです。

増田 天志

特選句「饅頭の裏紙雪女の手土産」饅頭と裏紙と雪女と手土産という四つの言葉が、響き合っている。土着性と暗さ。饅頭と手土産、裏紙と雪女との取り合わせ。饅頭の裏紙に、雪女の哀しみを感じる。

滝澤 泰斗

特選句「真夜に満つポインセチアの不整脈」年の瀬の花の句を三句選んだ中の一句を特選にした。クリスマスと重なるポインセチアの赤はキリストの贖いの血の色に見え、それが下五の不整脈に感応した。以下、共鳴句「看護師の娘(こ)遠きに目は石蕗の花」コロナ禍で奮闘する娘への応援歌が聞こえてきた。「シクラメン抱いてあの人内弁慶」鉢植えのシクラメン・・・水をやるとこれでもかと咲き誇る様と内弁慶が妙に感応する。「ストーブにそっと手のひら摂氏九度」気温十度を下回ると暖が欲しくなる感覚をうまくまとめた。「歳時記の真砂女鷹女ら追う夜長」二人とも千葉県出身の俳人だからというわけではないが、思わず昭和俳句から二人の俳句を拾っている自分がいた。「コロナウイルス舐める猫いて小春かな」猫はコロナに抵抗力があるのかないのか。観察眼に感心。そして、猫と小春日の取り合わせ。コロナに神経質になっている世をシニカルにみている。「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」バスに乗っても、電車に乗っても、事務所に居ても、換気に気を付けているため、やたら寒く重ね着をしている・・・コロナ禍の二〇二〇年ならでは句として受け取りました。コロナの数字が上がるたびに慎重になり、大胆な振る舞いを慎んでいる自分がいる。問題句「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」潜水病の症状がよくわからない・・・ 理屈ではないだけに、作者の自解を聞いてみたくなりました。

植松 まめ

特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」真面目な顔の犬という表現に納得しました。寒くなって犬の表情もきりりと引き締まった顔になったのでしょう。特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」の句不穏な空気が世界を覆った今年を象徴したような句でした。

大西 健司

特選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」こういう句に心が動く歳になつたのだろう。 寒々とした家庭とはいえ家族がいるのはありがたい。「冬麗や結婚記念日妻若し」こういう句もありました、幸せそうな様子が実にうらやましい。十二番目です。問題句「大変恐縮ですが電柱の鴉です」鴉は恐縮などしない。作者は電柱の鴉などと言っては恐縮する。たいへんおもしろい句だが少し危うい。迷いながら問題句にしたが、好きな世界観です。

伏   兎

特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」 救助犬、警察犬、盲導犬など働く犬達のひたむきな表情。人に役立つために躾けられた哀しさが、季語と響き合っている。特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」微かに青みを帯び、ふわふわ飛んでいる綿虫(雪虫)。そこここの蜘蛛の巣に引っかかっていることも多く、戦禍を生きる中東の人々に通じるものがあり、切ない。入選句「とっくりのセーターなんて青すぎる」七十を過ぎても若く見られたいと、がんばる健気な夫が目に浮かび、共感。入選句「饅頭の裏紙雪女の手土産」雪女の手土産なんて有り難くないはず。饅頭の裏紙もしかり。飄々として面白い。

中野 佑海

特選句「冬空を作り直すよミキサー車(高木水志)」その生き良し。思いはどんどん、空を駆け巡っておくれ。特選句「哲さんの唇ぶ厚く寒茜」勿論、中村哲さんの事ですよね!あの唇から、沢山の人を勇気づけ、人を動かせてきた。寒茜の厳しい中のキリッとした一徹さが、ピッタリです。 並選句「汗だくの牛丼両手でコロナ冬」汁だくの牛丼なら、喜んで頂きますが、汗だくのコロナの冬は是非とも回避したいものです。「冬銀河電信柱に追ひつかれ」冬銀河も酒飲み過ぎることだってあるでしょ、ほら。あ~あせっかく二人良い気持ちで歩いていたのにいつの間にか相手が電信柱になってたよ!「補陀洛へ道は一条冬の滝」此は正しく那智の御滝。あの堂々たる光ファイバーは天からの通信。何々、各々方今年は誰かの為にそして己の為に何かを為せたか?「水引草いいえマッチ売りの少女です」私はクリスマスになるとマッチ売りの少女の物語を思い出します。「霜月の背中にバカと書いてやる」良いよね。主人にバカと背中に叫べるくらい元気で、夫婦げんか出来てる時は若くて。お互い慰め合ってちゃあ星も近いよ。「大鹿の形の闇の星透ける」屋久島で鹿が観光客の乗ったバスを見るんだ。僕たちの仲間食べただろって…「自転車の父は仮の目竜の玉」冬の千切れそうな雲の中に月が見え隠れ。まるで竜の目の様に。そして、雲の中から父が現れ出でないか。「バター溶け出すビルの網目に酔う」都会のビルは遠くではあそこと判るのに、近づくともう、何もかもが解け合って今自分の居るところが全くわからなくなる。溶けたバターの様な香ばしいのか、怪しいのか。この難解な蜘蛛の糸はそうだ、鬼滅隊にたのもう。 急に寒くなり血圧も上昇中。やらねばばかりが、先を行く。

十河 宣洋

112回の選句送ります。旭川は雪がいっぱいです。特選句「冬の滝時間(とき)を鉛と思い込む(久保智恵)」時を鉛と思うという感性は作者の実感でありながら、共感を呼ぶ。時間の重さのようなものを感じる。特選句「狐くる可愛い母と狸のわたし」狐のとりついた母ともとれるが、ここは単純に狐が来たととりたい。かわいい狸も楽しい表現である。うどんのメニューではないと思う。問題句「バター溶け出すビルの網目に酔う」溶けだしたバターとビルの関係が強引すぎないだろうか。

田中 怜子

特選句「落武者の手が伸び屋島寒月光」悲劇的な歴史ある寒月光の元屋島にいれば、こんな光景も見えてくるのでは、凄まじい人々の怨念等の映像が目に浮かぶ。

夏谷 胡桃

特選句「百歳の母は留守なり子守柿(島田章平)」。百歳のお母様は案外忙しい。今日はデイサービス、明日はお茶飲みと家にいないことも多いでしょう。せっかく来たのに「いないのか」とぼんやりした子の姿が浮かびました。問題句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」特選に取りたかったけど、すこし長ったらしい。句の意味はまさに今の私にぴったりで共感してしまうけど、リズムがいまひとつ良くない気がしました。以上です。

岩手は寒い日が続きます。クリスマス前の大雪も珍しいです。まだ冬は始まったばかりですが、明日は冬至です。少しずつ日が伸びることを希望にします。今年も大変お世話になり、ありがとうございました。

福井 明子

特選句「大変恐縮ですが電柱の鴉です」風の強い日、鴉と出会いました。何か言いたげです。黒光りして重量感があります。人に最も近く棲息しているので、この世のことはおおかた知っているのかもしれません。その鴉が、至近距離で未練ありげに飛び立ちます。電柱に止まり見下ろしています。もし言葉があるのなら、大変恐縮ですが…と言い始めそうです。「世の中、どうなっていくんでしょうね」特選句「縄文の記憶の古層木の実雨」縄文という言葉を置くだけで、句はただ事ではなくなる予感がします。木の実雨は、古層へと環る予感なのでしょうか。

石井 はな

特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ(増田天志)」大切な方のお見舞いなのでしょう。その方の前では涙を見せないように、涸れるまで泣いてそれから病室に入って行こうとしている。大切な方への深い思いが伝わってきます。 一年間大変お世話になりました。ありがとうございます。来年も宜しくお願いします。良い年をお迎えください。→ こちらこそ、どうぞ宜しくお願い申し上げます。佳きお年をお迎えください。

小山やす子

特選句「百八鐘百均綿棒百十円(藤川宏樹)」私的にはユーモアを感じ思わず笑ってしまいました。

菅原 春み

特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」真面目な顔の犬でおもわずその必死な顔が浮かび、いただいた。冬の荒れさびれた渋い季語と少しはずした笑いを誘う景がいい。特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」群れをなして雪の上を這い回る季語の白い軽い虫と黒い色と重たさの取り合わせの妙かと。謎の多い不気味な句だが、雪虫で詩的発火が生まれている。さすがです。  今年もコロナ禍のなかでも大変お世話になりました。通常の句会のみならず、アンソロジーを出版してくださったことも、ありがとうございます。来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。来年はコロナの収束が望めることを祈って。

三枝みずほ

特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」死の近い人を見舞うことの心情、覚悟が伝わる。人間は弱いがこういう覚悟をもつ時があるなあとしみじみ思う。問題句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」一読、特選句だったが一週間考え込んでしまった。引っ掛かりは「虹の幻影」。そこまで言わなくても「しぐれゆくたてがみ」だけで一句が成り立つし、「幻影」を想起できたように思う。一切の色を消してゆく時雨にはそんな力があるのではないか。大いに考えさせられ刺激を受けた一句だった。並選「霜月の背中にバカと書いてやる」最初は「やる」が気になって、選に入れていなかったが、句会で話題になった句。「やる」「やれ」「ある」さあどれがいいかと議論する過程がとても勉強になったし、二音で変わる作品の世界に惹かれた。よろしくお願い致します。

島田さんが仰った「今年は海程香川にとって充実した一年になったのでないか」という言葉が深く心に残っています。この前向きな姿勢、生きる力が漲っているのが「海程香川」なのでしょうね。今年も大変お世話になり、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。何かと慌ただしい年末。お身体くれぐれも大切になさってください。お陰様で充実した一年でした。感謝!

河田 清峰

特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」虹の中に父を見つけたのか或いは父と慕う師を見出だしたの幻影がいい。

松本美智子

特選句「くきくきとビュフェ描くか吾亦紅」絵画が好きでコロナの流行る前はよく美術館に足を運んでいました。吾亦紅の形体とビュフェの描く絵の特徴がぴったりで,17音にその取り合わせをうまく表現されておられて,なるほど・・・と感心させられました。早く好きなことが好きなようにできる世の中になってほしいものです。

榎本 祐子

特選句「句集閉じ眼とじれば不知火一つ(松本勇二)」句集読後の余韻が身の内に不知火を揺らす。その不知火と睦合うような深々とした内面世界。

寺町志津子

特選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」今月も迷いに迷いましたが、繰り返し拝読する度に揚句がいつも心に残りました。「霜焼けが痒い」に、奥様ご存命中のご夫妻の会話やご様子が想像でき、今な慕情の念去らざる作者の心情がしっかり伝わってきました。子供騙しかもしれませんが、奥様は、きっと天国から作者の「霜焼け」は勿論のこと、作者のお暮らしの恙なきことを見守って下さっていると思います。あるいは、作者の方の肩に留って見守って下さっているかもしれません。私が母を亡くして意気消沈していた折、友人が慰めてくれた言葉ですが、以後、その様に思うようにしております。奥様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

荒井まり子

特選句「百八鐘百均綿棒百十円」百八の煩悩とぎっしりの綿棒。取り合わせの妙。リフレインが楽しい。  今年は色々とありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎えください。

高木 水志

特選句「梟とともに聴く真夜の静寂」音なき音に梟と一緒に耳を澄ませている作者の姿が想像できていい。

増田 暁子

特選句「冬銀河電信柱に追ひつかれ」虚無感を感じます。とても良い句です。特選句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」身体を包み込むと度胸までも小さくなる。そんな筈はないがそうかもしれないと、作者の思いと共鳴します。「くきくきとビュフェ描くか吾亦紅」くきくきがとても上手いです。ビュフェですね。「シリウスに兜太と朗人再会す」お二人共天国で楽しくしておられるでしょうね。以上 よろしくお願いします。

島田 章平

特選句「十二月八日不協和音の膝小僧」:「不協和音」の言葉から思い浮かぶのは、欅坂46のヒット曲『不協和音』の「僕は絶対沈黙しない。僕は不協和音を恐れたりしない」と言う歌詞。そして、香港の民主活動家周 庭(アグネス・チョウ)の「拘束されているときに『不協和音』の歌詞がずっと頭の中で浮かんでいました」と言う言葉。十二月八日と言う、ともすれば日本人が忘れそうな記憶に敢えて「不協和音」と言う現代を表す言葉を用いて詠んだ作者に敬意を表します。特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」調べの美しさに惹かれました。

田中アパート

特選句「衿立てて家路へ月と六ペンス(若森京子)」洒脱。ホップ。 以上。 

佐孝 石画

今回は並選のみとなってしまいました。「感情の切断面に初雪来る」感情の切断面まで幻視できた作者に敬服するが、下五ではその世界を受けきれないと思う。「に」と順接でつなげてしまっては、答えまたは蛇足となってしまう。「や」とすれば、かろうじて「初雪」との距離が生まれ、余韻も生じてくるが、それでも「切断面」の世界には届かないような気がする。「バター溶けだすビルの網目に酔う」今回の中で最も気になった句。着想、配合いずれもじんと痺れる世界だが、音感が悪すぎる。文字数的にはかろうじて一字足らずでとどまっているのかもしれないが、「五七五」とは音感。「バター溶けだす」「ビルの網目に」「酔う」の三句切れで読むと、下が二音となる。これは繰り返して読んでも違和感が拭えない。上五の二音の余りは全く気にならないので、中の「に」を再考し、また下句の「酔う」にもう少しニュアンスを加えた方がよかったのではないかと思う。好きな世界だけに残念。音感が良いと余韻が生まれる。俳句を投げた後「ポチャーーーン」と余韻、波紋が響いて欲しいのです。偉そうな口ぶりになってしまいましたが、好きな句については言っても許されるかなと思い、評しました。よろしくお願いします。

伊藤  幸

特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」虹は夏の季語ですが時雨と不思議に溶け合って初冬の美しい景を織り成しています。五七五の短詩にこれだけのものを表現できるとは素晴らしい。

豊原 清明

特選句「枇杷の花房陽とじゃれ合って娘季(どき)(中野佑海)」:「陽とじゃれ合って」は幼い娘だろうか。大人だろうか。大人の娘なら良い絵になりそう。問題句「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」:「潜水病に似て」に共鳴。

新野 祐子

特選句「寒林や骨打ってゆく奥熊野」修験者でしょうか。奥熊野という地名が光り、想像力を醸し出します。入選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」作者の切実な淋しさがそこはかとなく伝わってきます。入選句「いろいろのことに疲れし海鼠かな」さまざまな事おもひだす桜かな(芭蕉)」を連想。本当に今年は大変なことが多すぎました。入選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」犬ってみな真面目な顔をしているけれど、敢えて句にしたところが面白いし、冬ざれとの取り合わせが好いです。 *拙句「中村哲忌シダ―ローズのリース耀う」のシダーローズとは、ヒマラヤ杉の実の一部で地に落ちるとバラの形をしています。リースに入れると、とてもきれいなのです。

松岡 早苗

特選句「大鹿の形の闇の星透ける(小宮豊和)」:「大鹿の形の闇」に一瞬にして引き込まれた。夜の闇にこちらを見つめて立っている大鹿はまるで森の守護神のよう。その澄んだ眼の光に魂の底まで射通されてしまいそう。神秘的な美しさを感じた。特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」 しぐれゆく中、駆け、草を食み、あるいは立ち尽くす馬たち。その美しい肢体や体温を想う。濡れそぼったたてがみに虹の幻影を見る作者のロマンティシズムが美しい。

野田 信章

意欲的であるのはよいが、語りすぎというか、演技過多の句が散見されまして、今回は特選なしとさせてもらいます。「汁だくの牛丼両手でコロナ冬」の句は、なりふりかまわず生きていれば汗もかくもの。「コロナの冬」として頂きたいところ。「てのひらの球体として寒の月」の句は「冬の月」として頂きたい一句。手の平にそっと受けとめてみたいのはやや茫とした「冬の月」の量感である。「枇杷の花房陽とじゃれ合って娘期(とき)」として、ひと先ず頂きたいところである。

久保 智恵

特選句「羽音してモディリアーニの女の眼」亡くなった父の目を思って選びました。

桂  凜火

特選句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」着ぶくれてうごきが悪くなる感じよくわかります。そして長く生きているとだんだんいろんなことが気になって度胸がなくなります。小さくなる度胸という感じがまたよくわかるのです。共鳴しました。特選句「寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者」家族の中、親族の中にだれかちょっと外れてしまう人がいる感じわかります。ご自分の自嘲かもしれませんが。寄せ鍋との取り合わせが嫌味なくよくあっていると思いました。

漆原 義典

特選句「百歳の母は留守なり子守柿」百歳の母を思う心がよく詠まれています。子守柿が親子の愛情そのものです。素晴らしい句をありがとうございます。

野口思づゑ

特選句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」自分が服で大きくなれば、どこか気が大きくなりそうなところを、度胸が小さくなる、としたところに作者の正直さが出ているようで好ましい。特選句「寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者」大家族や、一族には必ずと言っていいほど黒い羊がいるものだとよく言われますが、それを寄せ鍋の季語がで巧く表現している。「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」寒いと犬って真面目な顔になるのかな、と犬とあまり馴染みのない私は思ってしまい微笑ましい句です。「街は灰へイルミネーションが消えた」それでもイルミネーションはあるとは思うものの今年の年末の感傷が良く出ています。「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」そしてお相手に会った時は、懸命に笑い顔を見せたのでしょう。「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」 絵本の中の女の子が目に浮かんだ。 絵本の中の女の子が目に浮かんだ。

コロナはもう制圧され、ほぼ日常に戻ったと安心していたシドニーで先週感染者が出て、大騒ぎ。その地域はロックダウンになったり、シドニー圏での規制も確認されたりしたものの、最新の情報ではこの24時間の感染者が20数人から15人に減り、落ち着きそうです。発生源は帰国した航空会社の乗務員ではないかと私は思っています。やっぱりコロナはしぶといとつくづく感じます。

月野ぽぽな

特選句「母のそれからミシン奏でる冬銀河」母のそれから、が想像の扉を開き、間を置いて、ミシン奏でる冬銀河。なんて美しい音風景だろう。母がミシンにいるのかもしれないし、「母」を思いながら句中のその人がミシンにいるのかもしれない、という音風景の主が定め切られていないところも夢うつつ感があって興趣。美しい哀感が漂う情感ふくよかな句。

田口  浩

特選句「朝日浴び白菜まっぷたつの白」格をふまえた、充分な作品だと思う。「まっぷたつの白」いいですねえ。「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」時代遅れのアナログは、潜水艦や炎昼まで持ってこなければ、これを説明できないと言うもどかしさ・・。「炎昼」が利いています。「水引草いいえマッチ売りの少女です」水引草とマッチ売りの少女、どこかにているところがある。しかし、少女はそれを無視します。私は人間だからと昂然と胸を張るのです。「ここが俳諧です」。 「美しい絵本ひらけば凩」子供は美しいものには驚かない。しかし、凩には興味を示す。立派な騎士になったようなつもりで、次の頁を開く、ここからは誰が主人公―。「走って走ってそしていつもの枯木山」人間はときに愚かな事に夢中になる。「走って走って」そんなことをしなくても、「いつもの枯木山」にちゃんといるのに。

野澤 隆夫

特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」数ヶ月前に同じような思いで、親戚を見舞いました。家人に何と声かけするか…。「涙涸らしてから」が絶妙です。特選句「缶蹴りや黄泉は冬晴れだと亡弟」亡弟の住んでると信じられる国からの便り!「冬晴れ」に「缶蹴り」してる光景が浮かびます。特選句「寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者」新派劇か謡の4番目に上演される曲(4番目物)みたいで面白いです。「はぐれ者」の登場が、舞台を湧かせます。

鈴木 幸江

特選句評「霜月の背中にバカと書いてやる」子供の頃、「バカだねえ。」というセリフをよく聞いて育ったことがある。それは、情愛の籠ったバカであった。バカでもお前を愛しているよという情愛に溢れていた。“やる”の措辞でそのことを思い出した。神無月でも、師走でもない霜月をそのように感受する作者に共鳴。十一月の中途半端さに愛を是非感じて欲しいと思い特選にした。問題句評「バター溶け出すビルの網目に酔う」いわゆる難解句であるが、現代を表象している捨てがたい何かがある。それが、何かよく掴み切れず問題句にした。“酔う”が摩天楼の中で働く人たちの状態をよく捉えている。“バター溶け出す”は、人間がその中で、溶解してしまうことの暗喩だろうか。何故バターなのか、引っかかってしまった。?した句「極月の葬儀場からのぼる月」「水引草いいえマッチ売りの少女です」「シクラメン抱いてあの人内弁慶」「流氷の遠き音『今不在です』」

谷  孝江

特選句「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」分かり易い言葉の中にたくさんの情景が溢れて見えます。幼い児かな?男の子?女の子?いやそれとも中学生くらいかな、長い髪も一緒に風の中へ赤いマフラーと共に歩いてゆきます。本気で寒がったりしていません。楽しいのです。明日もその次の日も希望が待っているのです。赤いマフラーが、いろいろの事を想像させてくれます。こんな子たちがいっぱいの日が必ずくることを祈っています。

竹本  仰

特選句「帰るべき場所をさがしている枯野」選評:自分の心象とあまりにぴたっと来たので取りました。自分の進む道を探す。人生を引き算で勘定せねばならなくなると、進む、ではなく、帰るとなります。生まれたように、今度は帰る。枯野に耳を澄ますと、寂寞とはしていながら、何かヒントがあるようです。静けさの中に揺れているもの、それはたましいと呼ぶべきもので、他者との交流に自分の姿を見出すということなのかとも。そういう物思いを思い出させた句です。特 選句「母のそれからミシン奏でる冬銀河」選評:「それから」の語が大変いいです。何があったのか、省略されていますが、とにかくそれからはミシンの前に座り、音が紡ぎ出される中に、はるかな人生の過去もろもろとの交感が聞こえるようだというのでしょう。とすれば、「それから」は伴侶の死でしょうか?母は、たしかに前を向いて心模様をさりげなく語りだしたのでしょうね。特選句「狐くる可愛い母と狸のわたし」選評:とても面白い構成に惹かれました。この狐は実在しているのでしょうか。母の方へ来たのです。わたしの本性は実は狸であり、幼いころから母をだましつづけて来たのです。これまで見えない狸を飼い肥らせたものですが、ふいに反省の気持ちにとらわれたのかもしれません。とまあ、勝手に受け取ったのですが、自己を美化せずあっさり狸のわたしと言ってしまえる、そのへんの認識というか、実に面白いです。こういうドラマ仕立てに感心しました。問題句「美しき絵本ひらけば凩」選評:絵本の中に隠された動機のようなものの存在を突き止めた。突き止めたことで、かえって絵本という存在が別の角度で浮かび上がってくる。必ずしもコミュニケーションが得意とは言えない、絵本作家の独特の表現様式について、感慨ぶかいものがあったのかなあと。問題ある句というより、こういう世界観を表現できることに注目したという意味での問題句です。

亀山祐美子

特選句『赤いマフラー風のまんなかにいるよ』赤いマフラーが風になびくさまが印象的。  今年もお世話になりました。色々と大変な年であり、勉強の一年でした。皆様の句評楽しみにしています。寒波襲来、雪で大変な皆様にお見舞い申し上げます。日々寒さが増しております。皆様御自愛くださいませ。良いお年を!

高橋 晴子

特選句「シリウスに兜太と朗人再会す」兜太と朗人を出してきた処がよく効いている。あまり風貌は似て非なるところがあるのだが二人の生きざまが強烈だったという点で共通だったかもしれない。シリウスがいい。特選句「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」何かカラッとした童話的雰囲気で面白い。赤いマフラーが見えて人間が見えてくる。表現と内容が一致してなんか今から始まりそうな気配を感じる。こんな句作るの誰だろう?コロナがふっとんで気分壮快なり。

佐藤 稚鬼

特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」冬ざれの景とすまし顔の犬との対比。とぼけた味有。問題句「帰るべき場所をさがしている枯野」私の鑑賞不足、問題句とします。 四十年振りに句作を再開した小生です。よろしくご指導お願い申し上げます。

高橋美弥子

特選句「極月の葬儀場からのぼる月」悲しみがしんしんと伝わる句。私自身も同じ経験をしたせいか、非常に共感するものがありました。「極月」がよい。問題句「バター溶け出すビルの網目に酔う」ビルの網目とは窓のことなのだろうか。それとバターが溶け出すことの因果関係がすこしわかりにくかったです。

三好三香穂

特選句「朝日浴び白菜まっぷたつの白」景がとても鮮やかに見え、清々しい。気持ちがよい。ははがそうしていましたが、娘の私はズボラで漬物は買って来るか、頂き物か。半日陽に晒した野菜は甘くなる。「シリウスに兜太と朗人再会す」何度かご挨拶される有馬朗人さんに遭遇したことがありますが、とてもお声の明るい方で、兜太さんもどちらかというと、高めのお声だったと思います。そのお二人が冬の夜空シリウスのもとで、やあやあよく来たの、とか言いながら、和気藹々と俳句談義をしている、そんな様子が想像されます。とりわけシリウスが明るい。「帰るべき場所をさがしている枯野」人生は彷徨。さまよって、あてどない。「一瞬のこの身この時冬銀河」宇宙の歴史からいうと、この世に生を受けている人間の一生なんて本当に一瞬。「加湿器と存分に夜話続きおり」作者は独り居なのか、話すように湯気を吹いている加湿器にモノローグ。孤独だが、相手をみつけた楽しみがある。網棚にプレゼントの加湿器を忘れてしまったエヒソードもほっこりしました。「妻逝きて五年目霜焼が痒い」句またがりで五七五にはなっていないが、妙に共感する。妻の生前には、痒いよ、ちょっと見てよ、掻いてよ。などと話していたことなど、瞼に浮かぶ。「凍蝶にまだなり切れず逢ひたしと」晩年なのだが、まだ生かされている。逢いたい人がある、何かがある。恋歌なのか、希望に燃えるテーマをもっているのか。羨ましく思う。人生は邂逅。「感情の切断面に初雪来」なにかあった。感情が揺さぶられ、切られたような感覚。その時に空から白いものがふわりふわり。初雪の感動。だが、辛い。寒い。

男波 弘志

「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」真顔即涅槃。「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」同心円その核を感じればよい。「羽音してモディリアーニの女の眼」何か、ざわざわしているあの長い首、眼差し。どれも秀作です。宜しくお願い致します。

柴田 清子

特選句「美しき絵本ひらけば凩」「木枯や小人のまわす時計台」季語の選び方。置き方が最高にうまいと思った。絵本に自由に出たり入ったり、時計台を見上げていたい気分にさせてくれる。心洗ってくれる<こがらし>です。魅力あります。色々あった今年、来年は佳い年になりますように。ありがとうございました。

津田 将也

特選句「羽後山の裸木一本より数え」。羽後山(うごやま)という固有名詞の山は無いようなので、この句の読みは「羽後、山の裸木一本より数え」と読むがよい。「羽後国(うごのくに)は、東北戦争終結後に出羽国(でわのくに)を分割し制定された明治維新日本の地方区分の国のひとつ。東北戦争は戊辰戦争(一八六八年―一八六九年=明治元年―明治二年)の後半に起こった東京以北の戦争である。有名なのは新政府軍と幕府側会津藩(白虎隊)との戦争だが、ここ羽後も、同盟絡みの激しい戦場となった。作者が数える羽後の裸木などの光景が、今以ってその様子を彷彿させる。「一本ずつ」とせず「一本より」とした表記が特によかった。特選句「空海のさざ波とあり今ここに」。補陀落(ふだらく)の海と呼ばれた那智勝浦に広がる熊野灘。熊野では、海の彼方に常世(とこよ)があると信じられてきた。作者は熊野灘の白い海波と秋空の広大な鰯雲を一望し、お大師さまと今共に自分があることをありがたく感受しているのだ。私は「今ここに」控えております、と畏れと静けさとともに・・・。問題句「その声をどう捉えるか神の留守(伏 兎)」。「その声・・・」の中身が、作者には了解され「神の留守」の季語とも照応をみせて俳句になっていると思っているようだが、読者には「その声」が伝わらず、どうにもこうにも解せぬ俳句になってしまった。

小宮 豊和

中で気になる一句「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」を、「吹雪来て赤いマフラー立ち尽くす」のようにしたらどうなるか、少々は良くなっただろうか。

中村 セミ

特選句「砂時計返す戦艦から油」二〇三〇年から三五年頃迄に電気自動車に変えましょうという世界的な環境事情を云っているのではないか、まるで時間が滅びていくように油輸産出国は、この事でどう対処するのだろうか等をこの句には感じる。面白いと思った。

銀   次

今月の誤読●「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」九つだろうか、それとも十歳になろうか。十字路に女の子が立っている。灰色の町だ。彼女のマフラーの赤だけが際立って鮮やかに見える。少女はおどおどとおびえている。キョトキョトとあちこちを見まわしている。道に迷ったのだろうか。そうではない、ただどこに行けばいいのかわからないのだ。だれが捜しにくるでもない。父親はとっくに家出し、母は昨日死んだ。家は大家に追い出された。マフラーが風になびいている。一際西の風が吹いた。イチゴの匂いがした。北の風が吹いた。焼きたてのパンの匂いがした。東の風が吹いた。淹れ立ての紅茶の匂いがした。南の風が吹いた。少しだけ暖気が感じられた。いずれにせよ、いつまでもこの十字路に立っているわけにはいかない。少女は一歩二歩と足を進めた。だがどっちの方角に向かって。それは教えない。ただその一歩が少女の運命を決めたのは確かだ。

川崎千鶴子

特選句「十二月八日不協和音の膝小僧」真珠湾攻撃を提示して不協和音と膝小僧を連携させたお力に感嘆です。特選句「缶蹴りや黄泉は冬晴れだと亡弟」亡き弟さんと缶蹴りを組み合わせ、黄泉は冬晴れと持ってきた構成の素晴らしさにわくわくです。

藤田 乙女

特選句「逆光の君へシャッター照黄葉」逆光の眩しさ、秋の日差しに照り輝いている紅葉と同じぐらい、いやそれ以上に「君」は美しく輝き眩いくらいなのでしょう。この句を読むと気持ちが青春時代に引き戻るようで、明るく爽やかな気分になります。特選句「凍蝶にまだなり切れず逢ひたしと」心の内にあるかき消すことのできない思いが切々と伝わってくるようです。

吉田 和美

特選句「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」世はまさにネット社会。パソコンもスマホも持たない私は潜水病?それとも珍獣!いいえ、私のアイデンティティざます。

森本由美子

特選句「羽音してモディリアーニの女の眼」時にはサファイア、時にはスイカの種のような女たちの眼。彼女たちに吹き込まれた。生への息遣いがかすかな羽音としてよぎる。とてもデリケートな句だと思います。問題句「バター溶け出すビルの網目に酔う」散文的ですが、どこかに核があるような気配が感じられます。

稲   暁

特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」:「冬天」が満身の悲しみに対峙して深い感動を与える。問題句「霜月の背中にバカと書いてやる」コロナ禍の十一月。大いに共感するが表現としては荒っぽいかも、と思う。

野﨑 憲子

特選句「我が隣人を愛せよと凍星の話(佐孝石画)」<汝の隣人を愛せよ>とは聖書の言葉。掲句は、夜空を見上げる作者への凍星の箴言。どんな隣人にも丸ごとの善意で向かえば争いは起こらない。世界最短定型詩でこそ表現できる世界であります。問題句「慈母観音とやかの人冬の滝拝す」この作品も特選句に挙げたいほどに惹かれました。ただ、<慈母観音とや>は、<慈母観世音菩薩>へ、観音様はフルネームで書かれた方が良いと、私は、おもいました。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

クリスマスケーキ
ちゃぶ台にクリスマスケーキ子らに箸
銀   次
中野さんもクリスマスケーキも大好き
柴田 清子
クリスマスケーキ男の愚痴を聞く
島田 章平
クリスマスケーキ廃工場のジャズ加速
中野 佑海
オンライン
オンラインに潜むあやかし冬紅葉
野﨑 憲子
正面の卑弥呼が笑いオンライン
田口  浩
寒スバル二人の解はオンライン
中野 佑海
オンライン実は目立って欠伸する
鈴木 幸江
オンラインつぎつぎ石化する言葉
三枝みずほ
オンライン冬のさくらがほつほつと
柴田 清子
オンライン冬の雲まで繋ぎます
島田 章平
オンライン白骨だらけの画像
中村 セミ
都鳥(ゆりかもめ)
五十周年ゆりかもめでいこう
中村 セミ
これから始まる明日への神話都鳥
野﨑 憲子
ゆりかもめいつまで僕はまってるの
中野 佑海
マスクして都庁牛耳る百合鷗(ゆりかもめ)
島田 章平
都鳥波にたゆたふ思ひ人
三好三香穂
ペン一本百合鷗の白描く
三枝みずほ
振り返るまい一声鳴くや都鳥
銀   次
都鳥結婚指輪はめない派
藤川 宏樹
枯蟷螂
満月の枯蟷螂はわが海彦
野﨑 憲子
天の楽隊枯蟷螂も来て送る
田口  浩
枯蟷螂の影赤色の蝋燭(ろうそく)
中村 セミ
枯蟷螂耳鳴りのとばり縺れぎみ
中野 佑海
枯蟷螂わたしは犬のおもちゃです
鈴木 幸江
枯蟷螂きのふのままで吹かれけり
三好三香穂
自己流を極め尽くすや枯蟷螂
藤川 宏樹
バリバリと音して蟷螂枯れてゆく
柴田 清子
狐火
狐が電線にからみ青火吐く
中村 セミ
鈴が鳴るとき狐火みんなゐなくなる
野﨑 憲子
狐火や口紅薄く指で佩(は)く
中野 佑海
付いてくる子狐狐火連れ歩く
鈴木 幸江
空席の一つに狐の火が灯もる
柴田 清子
酔って候狐火のお出迎え
銀   次
おまじないひとつ狐火が灯る
三枝みずほ
狐火や秋田の出よと言ふ男
島田 章平

【句会メモ】

今月の句会へ、中野佑海さんが「発足十周年おめでとう!」と書かれた苺のどっさり乗っかったホールケーキを持ってきてくださり句会がぐっと盛り上がりました。足を治療中の銀次さんもステッキを付きながら登場し、忘年会までご参加くださいました。皆様、ありがとうございました。

コロナ禍の中、発足十周年記念アンソロジー『青むまで』の上梓を通して、ご参加各位の、世界最短定型詩への無限の愛を感じ深く感動いたしました。これからも、より熱い渦巻の様な句会へと精進して参りたいと存じます。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。次回は、初句会。コロナ感染拡大が気になるところですが、「ふじかわ建築スタヂオ」での開催を予定いたしております。佳きお年をお迎えください。

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