第134回「海程香川」句会(2022.11.19)
事前投句参加者の一句
琵琶法師語り語(がた)りに風の花 | 飯土井志乃 |
ヌードの手は母なんです文化祭 | 藤川 宏樹 |
真つ直ぐに進め銀河鉄道まで | 島田 章平 |
間近では届かぬ思い金木犀 | 中野 佑海 |
梟や風が変われば逢いに行く | 松本 勇二 |
小六月絶対飛ぶ気の鶏のゐて | すずき穂波 |
待ち合はせ無いです恋も柿の実も | 谷 孝江 |
空元気今日も生きるぞ烏瓜 | 稲葉 千尋 |
月命日竜胆一枝活け足して | 山本 弥生 |
鮭己が体液に沈みかえらぬ | 十河 宣洋 |
浜菊や海女の径へとよじれ咲く | 樽谷 宗寛 |
月耿々アルハンブラの憂愁よ | 山田 哲夫 |
つゆ草の青より碧し仁淀川 | 薫 香 |
耶馬台国の秋見にゆくと言い遺し | 岡田ミツヒロ |
リュウグウや露一粒の宝箱 | 塩野 正春 |
すすき原すすき一本づつ二人 | 淡路 放生 |
心音を確かむ夜の初時雨 | 佳 凛 |
はないちもんめ端っこの冬すみれ | あずお玲子 |
大落暉沙上の火櫓影長し | 滝澤 泰斗 |
味もない夏秋苺が横になる | 中村 セミ |
覗き込み秋の鏡に入れてもらふ | 小西 瞬夏 |
林檎半ぶんゴリラは友達社会だな | 増田 暁子 |
榠樝の実落ちて居場所のなかりけり | 伊藤 幸 |
一叢の風と芒を持ち帰る | 大浦ともこ |
水澄むや子はスプーンを離さない | 竹本 仰 |
駈け降りる兜太の足音秋の山 | 疋田恵美子 |
靴脱いでこども図書館冬ぬくし | 菅原 春み |
遠花火青春の思ひうらぶれる | 佐藤 稚鬼 |
ハロウィンの仮装憧れの自分のよう | 野口思づゑ |
甘えたき母は遺影や枇杷の花 | 植松 まめ |
地球から野菊消えるという幻覚 | 森本由美子 |
ウィルスの変幻自在冬の空 | 石井 はな |
十一月の雨やうなぎが待つてをり | 高橋 晴子 |
感情は捨て透き通る秋の川 | 川崎千鶴子 |
惑星食は大空のキス冬の宵 | 漆原 義典 |
マヒワ来よ脱走兵の肩に乗り | 新野 祐子 |
猫と寝て猫温かき良夜かな | 稲 暁 |
ダボダボの礼服ゆらし七五三 | 佐藤 仁美 |
満月や最終電車の小さきこと | 銀 次 |
息をせぬ全ての兵士星月夜 | 山下 一夫 |
封切れたように落葉雨 生きよう | 若森 京子 |
笑ひ皺一本増やし冬に入る | 亀山祐美子 |
自分史の滲み広がる柿落葉 | 藤田 乙女 |
兜太なき世の日雷さま裏山に | 野田 信章 |
虫と棲む生活一部始終かな | 桂 凜火 |
人体は仏のかたち秋落暉 | 津田 将也 |
余命告知のAI冬田広がりぬ | 大西 健司 |
無一文一片ありぬ秋の雲 | 鈴木 幸江 |
もなはなや まはやらやらら たのゆはや | 田中アパート |
太宰読む薄刃のごとき秋夕焼 | 松岡 早苗 |
一切をこめて写経の冬日向 | 向井 桐華 |
難民ドキュメンタリー鑑賞中冬の虫 | 豊原 清明 |
あかまんまあえてでこぼこあるきたい | 福井 明子 |
神の留守嫌いの中に好きもあり | 川本 一葉 |
病名は肺マック症秋の風 | 野澤 隆夫 |
秋の日や嫁ぐ姉より「国語辞書」 | 吉田亜紀子 |
牛スジを煮込んで夜を開けている | 吉田 和恵 |
てのひらに小さきサーカス散紅葉 | 増田 天志 |
柿の葉が散って了って放哉句集 | 久保 智恵 |
太古の海牛漂ふ多摩川(かわ)や草紅葉 | 田中 怜子 |
君ことりと戻る骨は雪のよう | 夏谷 胡桃 |
憂国忌赤いスープに舌を焼く | 三好つや子 |
山装う父と繋ぐ掌楽のごとし | 河田 清峰 |
独白の途中に落ちるどんぐりよ | 河野 志保 |
霜月や棘もつ果実と月蝕と | 重松 敬子 |
小鳥来るはみ出る癖の仲直り | 高木 水志 |
一棹の母の燻しの小六月 | 荒井まり子 |
知恵の輪の元に戻らぬ夜長かな | 菅原香代子 |
体内に育てし骨と冬に入る | 月野ぽぽな |
山茶花の白に心を明け渡す | 柴田 清子 |
廃校のシンボル銀杏誰がために | 三好三香穂 |
またひとり紅葉の山の神隠し | 榎本 祐子 |
理科室のシンクに蠅よ秋深む | 松本美智子 |
東雲と夜を捨ててきた月と | 佐孝 石画 |
焚火して手になじみゆく生命線 | 三枝みずほ |
蛍籠揺すれば溶ける胃の薬 | 小山やす子 |
赤とんぼ親という字の書き順を | 男波 弘志 |
こだわりと言う不発弾冬に入る | 寺町志津子 |
ドニエプルも仁淀も青し冬の川 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。冬の寒い中に、ほのぼのとした景。こども図書館は、畳だったり、カーぺットが敷いてあったり。「靴抜いで」というのが、あたりまえのようでいて、発見である。力みがなくて、気持ちのよい一句。
- 増田 天志
特選句「黒色火薬つまめば冬の蝶翳る(大西健司)」。黒と翳とが、ダブッているが、火薬と冬蝶との着想は、素晴らしい。つまむのは、良いが、つまめばは、因果関係が、出過ぎる。
- 福井 明子
特選句「榠樝の実落ちて居場所のなかりけり」。家から遠景に見える空き家の庭に榠樝の実が一面に落ちています。主がいないのに漂う香りが、妙にこの句の思いと重なります。特選句「一切をこめて写経の冬日向」。写経をしたことはありませんが、きっと背筋をピンと張り、精神の一切を研ぎ、向かうのでしょう。冬日向が至福の時を醸し出しています。
- 十河 宣洋
特選句「惑星食は大空のキス冬の宵」。先日皆既月食と天王星食が報じられた。残念ながら雲が掛かっていて私は見れなかったが、その雲の合間に見たという人もいた。惑星のキスの捉えは面白い。スケールの大きな.キスだなあと感心している。特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。寂しい気持ちが出ている。遺骨の軽さと白さが実感となって迫ってくる。問題句「なえはたな なまひあらはば かてあはな(田中アパート)」「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。作者のひとり遊びになっていないだろうか。伝達性が薄いように思う。試みとして、意欲を買う。
- 松本 勇二
特選句「蛍籠揺すれば溶ける胃の薬」。胃痛に悩まされた人にしか分からないかもしれないが、少しでも早く薬に効いてもらいたいので揺するのだ。季語は季節外れだが、身体感覚溢れる一句。
- 川崎千鶴子
特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。ご主人がお骨になって机に安置するとき「ことり」と音がされたのでしょう。大変お寂しい事です。「自分史の滲み広がる柿落葉」。青葉から紅葉にそして落葉になって行く柿の葉を「自分史の滲み」と表現されたことに感嘆です。
- 津田 将也
特選句「小六月絶対飛ぶ気の鶏のゐて」。季語「小六月」の多くは、「小春」「小春日」で使われる。俳句では、今の暦の十一月半ば過ぎから十二月初めごろを想定している。激しい風も吹かず、雨も少なく、温和な春に似た日和が続く。秋の名残と、厳冬への逡巡の間に、ぽっかりと訪れる和やかさである。鶏が、「空を飛びたい」との意欲を湧かすのも、「小六月」の和やかさゆえと納得できようか。特選句「浜菊や海女の径へとよじれ咲く」。「浜菊」は、東北地方の太平洋特産海岸植物の一種で、キク科の多年草である。秋に中が薄みどりで、その周りが白い花をつける。また「秋牡丹」という呼名もある。「俳句季語よみかた辞典(日外アソシエーツ)」には季語として収録があるが、その他の歳時記には季語としての記載がない。花言葉が「逆境に立ち向かう」とあったので、句の「よじれ咲く」の、作者の、ここへの着目がすばらしい。
- 小山やす子
特選句「笑ひ皺一本増やし冬に入る」。今年一年大いに笑った主人公。厳しい冬が来る中を乗り越えて行く姿がいいです。
- 樽谷 宗寛
特選句「朝寒の空に大鯛朱のうろこ(福井明子)」。寒い朝嬉しい発見ですね。色、形、鯛の姿まで想像できました、また幸さきの佳きお句でした。
- 山田 哲夫
特選句「覗き込み秋の鏡に入れてもらふ」。日常のどうと云うことも無い人の動きを取り上げた句だが、鏡の景の中にわざわざ意識して「覗き込み」入れてもらおうとすることに俳人らしい作者の遊び心の有り様が窺われて、面白いと思った。
- 夏谷 胡桃
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。ちいさな図書館の窓から陽が差し込み、子どもが床に座り込んで本を読む。そんなあたたかな場面がポッと浮かんできました。
- 月野ぽぽな
特選句「てのひらに小さきサーカス散紅葉」。色鮮やかな一枚がくるくる回りながら手のひらに着地。そんなイメージがやってきました。小さきサーカスがマジカルです。そう、人の想像力も含めて自然の営みはマジカルなのです。
- 豊原 清明
特選句「浜菊や海女の径へとよじれ咲く」。「よじれ咲く」が、海女の腰も重なって、面白いと思う。特選句「耶馬台国の秋見にゆくと言い遺し」。ロマンかも知れない。「耶馬台国の秋見にゆく」が良いと思う。問題句「息をせぬ全ての兵士星月夜」。「全ての兵士」が息をせぬ。分かる気がする。しばらく続く戦争ニュース見る行為。見ないといけないと教えられる。
- 田中 怜子
特選句「ダボダボの礼服ゆらし七五三」。映像が浮かびます。お母さんに手を引か れ、晴れがましく歩いている坊やの姿が。可愛いですね。日本の喫緊の課題は少子化。子供を大事にしよう。その親子を見ている側の優しさも感じられます。特選句「人体は仏のかたち秋落暉」。この風景を見たことあります。人間の形が落暉を受けて、燃え上がるろうそくの炎のように揺れている姿を。 ♡世界の人々が目撃する、ロシアのウクライナへの侵攻。そして日本では、元首相の暗殺からまあなんと芋ずる式に、政治がいかにカルトに汚染され、そしてなんと騙されやすい国民なのか。それが露呈された2022年で、落ち着かない年だった。私たち、もっと賢くならなければね。皆様、来年こそ、ウクライナ停戦がなされ、政治の世界も我々も賢くなることを望みます。もちろん、スーダン、アフガニスタン、ミャンマー等に平和がきますように。
- 石井 はな
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。個人の開いているこども図書館なのでしょうか、靴を脱いでリラックスして本をめくったり読み聞かせに耳を澄ます子供達が浮かびます。 冬ぬくしが場の雰囲気を伝えていると思います。
- 河野 志保
特選句「焚火して手になじみゆく生命線」。焚火を手に受け、その温もりにふと自らの生命を感じた作者。人生を穏やかに肯定する境地が察せられる。「手になじみゆく」の把握が光る。
- 男波 弘志
「封切れたように落葉雨 生きよう」。感情が堰を切ったとき生きると誓った 生きよう 生きよう そう 思う 特選です。「水澄むや子はスプーンを離さない」。この世界が観えているのは水と子供だけだろう。虚の世界とはそういうものであろう。秀作です。
- 三好つや子
特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。愛する人が荼毘にふされ骨となって、家に戻ってきたときの、言いようのない淋しさを感受。とりわけ「ことりと戻る」という表現が、深く心に刺さった。特選句「素とも性とも揺れている夕芒(若森京子)」 あれこれ考えて、心が定まらない自らを俯瞰しているのだろうか。風にそよぐ芒と曖昧な心模様とが響き合い、妙に惹かれる。「席順はコスモス紫苑泡立草」。初秋、仲秋、晩秋に咲く花を通して、中学校や高校でよく見かける少女像がくっきり浮かび、注目した。「隣家から首がでてくる皆既月食」。十一月八日、月食中に天王星食も起こる、珍しい皆既月食を見ようと、窓から首を出している光景に、ほのぼの感が止まらない。
- 中野 佑海
特選句「心音を確かむ夜の初時雨」。朝晩めっきり寒くなり、時雨が降ってくると、一段と心許なく、布団に潜り込む。いっそう心拍が大きく聞こえる。少し不安な一人寝の夜か。年をとると、余計なものが聞こえる気になる。特選句「泣き顔はセーターのなか小宇宙(三枝みずほ)」。大きな声で泣ける人は幸せです。自分一人で何でも抱えて。此方の胸が痛くなります。「琵琶法師語り語りに風の花」。琵琶法師の語りは風が語っているような不思議な魅力。「梟や風が変われば逢いに行く」。風向きが変わらなければ逢いには来てくれないのですね。「尋ねたら返事もしてね土竜の頭」。Yes,Sir.先生は怖いです。ちょっと図に乗って、返事しようものなら、バーンて。「花野から飛び出す僕ら古代人」。縄文時代の人たちは自由に楽しく自立して暮らしていた花野から、どうして飛び出したのかな。「笑い皺一本増やし冬に入る」。家族楽しく温かく良いですね。「あかまんまあえてでこぼこあるきたい」。赤まんま。子供のころはよく取って、プチプチしてたけど、もう、咲いていても、気にもとめなくなって。でこぼこした人生歩いてきたな。「知恵の輪の元に戻らぬ夜長かな」。とりあえず手持ち無沙汰で知恵の輪などいじってみるけど、心は此処に無く。もしかして、元に戻らぬのは貴方と私?早くごめんなちゃいしちゃいなさい。言ったもん勝ち。「五時間目どんぐり独楽の競い合い」。もういい加減、授業は疲れます。どんぐり独楽を回して回して。頭も回して回して。幾ら頭回しても振っても、俳句は降って来ませーん。
- 稲葉 千尋
特選句「息をせぬ全ての兵士星月夜」。何んと辛い句。上五中七が全てを語っている。ウクライナだけではない。世界の至る所を思う。
- 菅原 春み
特選句「余命告知のAI冬田広がりぬ」。AIが余命告知するのでしょうか? 近未来のはなしか現実か、寒々としたリアリティのある光景です。特選句「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。三島忌の赤きを愛す馬の鞍を彷彿させるような、けれどもさらに舌を焼くとは、形容がみごとです。
- 藤川 宏樹
特選句「秋の日や嫁ぐ姉より「国語辞書」」。主演・原節子、助演・笠智衆の小津映画を見るような、秋の晴れやかな日が想起されます。「国語辞書」に意表を突かれました。
- 鈴木 幸江
特選句「諦めともちがう覚悟一茶の忌(伊藤 幸)」。“諦”という漢字の字義は「つまびらか、あきらか」である。そこから、明らめる、思い切る、仕方がないと断念するという意味へと変化していった。そんな字義の変化を踏まえての一句として鑑賞したい。すると“覚悟”の意味も仏教用語としての「迷いを去り悟ること」とも解せる。もちろん、諦めて観念して強がっているような世俗的な解釈も味わいたい。でも、聖と俗を常に意識し、その対立が融合する場に発生する「美」を探究していた俳人として、小林一茶を評価している私には、「悶え神」のような一茶像が勝手に浮かび上がってくるのだ。勝手に共鳴して特選にさせていただいた。
- 塩野 正春
特選句「はないちもんめ端っこの冬すみれ」。はないちもんめ・・よく遊びました。 私は女兄弟の男ひとり、いつも数合わせに誘われ、隅っこでした。歌が続く中、はたして連れていかれるのやら心配したものです。 “端っこの冬すみれ“がそんな不安な気持ちをさらっと取り去ってくれます。ノスタルジー甦ります。特選句「人類を出られぬ人類龍の玉(三好つや子)」。遺伝子が続く限り、且つ地球がある限り人類は人類にとどまりますね。この嫌な世を抜け出すとしても次に人が帰ります。 地球上の生命全てが同じ境遇で抜けられない状態です。龍の玉がその循環を監視する怖い目です。かっての自作:啓蟄や吾ホモサピエンスヒト科なり としましたが、これは人類を自慢しているわけで、人類から抜け出せない人類とは対照的な表現です。俳句は面白いですね。自句自解「りゅうぐうや露一粒の宝箱」。巨額の探査機でようやく小惑星から持ち帰った砂に露、水がありました。宇宙には地球以外の生命が存在するかもしれない。夢があります。「霜月や稻むらの火を永久(とわ)共に」。安政の大地震と津波の情報は既にヨーロッパにも知れ渡っていました。津波への警戒は世界中に必要な対策です。いなむらに火をつけ万人に知らせた知恵に感激です。
- 滝澤 泰斗
特選句「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。その熱さに気付かず啜ったボルシチと憂国忌の取り合わせに新鮮味があり。自分の中で、三島の評価がまだ定まっていないところを指摘されたような一句。特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。ここの君は、私にとっては母親。癌を患い骨太だった母の遺骨も蝕まれたからだは無惨。命日が十月で近く、殊の外、共感。共鳴句「諦めともちがう覚悟一茶の忌」。確かに、一茶の句には、この句のとおり、覚悟が感じられる。「月耿々アルハンブラの憂愁よ」。谷を挟みアルハンブラの宮殿が満月に浮かぶ時、栄華を誇ったイスラムの悲哀が浮かんでくる。「駈け降りる兜太の足音秋の山」。秋の山は長崎の稲佐山か・・・何につけても、思い出される兜太師ではある。「黒色火薬つまめば冬の蝶翳る」。二物衝撃。自分には書けない一句だが、こころに残る。
- 増田 暁子
特選句「てのひらに小さきサーカス散紅葉」。てのひらに紅葉が散り落ちて風に踊ってる景が見えます。サーカスが素晴らしい。特選句「焚火して手になじみゆく生命線」。焚火の暖かさにほっこりとした様な、焚火の赤に元気をもらった感が生命線と表して上手いですね。
- 淡路 放生
特選句「余命告知のAI冬田広がりぬ」。傘寿を越えた老いに取って、AIの余命告知など空々しい。とは言え<いのち>のことである。冬田の広がりの中に自分を置いてみるとき、AIのはじきだした余命に納得ではなく、のみこめる自分がいるかも知れない。広々とした冬田の景が、妙に懐かしく、暖かい。
- あずお玲子
特選句「主人公と同じ髪型神無月(亀山祐美子)」。ずっと気になっている主人公。同じ髪型にしてくださいと思い切って言ってみる。今ちょうど、神様はお留守だから。ショートストーリーが書けそうです。
- 薫 香
特選句「秋の蝶ことばはときに邪魔になる(夏谷胡桃)」。蝶は人の生まれ変わりだと聞いたことがあります。今日は誰が逢いに来てくれたのかいろいろ思いを巡らせていると、ことばは要らなくなり、ただ「ありがとう」と。特選句「一切をこめて写経の冬日向」。最近習字を再開しました。小学校以来なので、五十年ぶりです。お手本を見ながら集中しているひと時は、全てを忘れ全てを込めているような気がします。♡初参加の弁:最近写真も再開しました。その時々の感動を切り取り誰かに伝えたくて続けています。一瞬を切り取るのは俳句と同じで、十七音で広がる世界を楽しんでいきたいと思います。よちよち歩きのみにくいアヒルの子が白鳥になれる日まで、温かく見守っていただければ幸いです。
- 若森 京子
特選句「耶馬台国の秋見にゆくと言い遺し」。女王卑弥呼が支配した耶馬台国の秋を見に行くと云って帰らぬ人。不思議な魅力がある一句。九州地方か畿内地方か分からないがロマンがある反面、謎めいている。下五の「言い遺し」の措辞にふと遺言の様な気もした。特選句「余命告知のAI冬田広がりぬ」。医学は日進月歩で現在はAIによって全て判明し余命告知もされてしまう。命も機械に支配される現在へ、古代から人間によって耕されてきた冬田が広がる索漠感との対比が明解で深い。
- 高木 水志
特選句「封切れたように落葉雨 生きよう」。先日、僕の母方の祖父が亡くなった。亡くなる二日前に病院へお見舞いに行って、僕が頑張っていることを祖父に話した。祖父はまだまだ生きていこうと思っているのが枯れ枝のような体中に現れていた。最後の最後まで自分の道を貫いた祖父だった。この句は、自分の役割を知りながら次の世代に思いを託す落葉が祖父の最期の姿と重なって心に沁みた。
- 柴田 清子
特選句「小六月絶対飛ぶ気の鶏のゐて」。飛べない鶏が、春のように暖かい、こんな日は、この羽根で思い切り飛ぶことにする、飛べるんです。そんな事になる、この句の作者自身が、小六月日和を充分に賜っているから出来た句、特選としました。
- 島田 章平
特選句「一叢の風と芒を持ち帰る」。「一叢の風を持ち帰る」の修辞が素晴らしい。 問題句2句「なえはたな なまひあらはば かてあはな」。「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。返句「ははははは ははははははは ははははは」。
- 山本 弥生
特選句「待ち合わせはここよこの樹よ落葉道(野﨑憲子)」。久し振りの故郷、記憶のままの旧道の落葉道に子供の頃よく待ち合わせた樹も大きく成長しそのままの位置に在り立ち止って「只今」と挨拶をしている姿が目に浮かぶ。
- 疋田恵美子
特選句「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。ロシアのウクライナ侵攻等に、国の現状将来に心を痛める日々。昼食の熱いスープ。
- 川本 一葉
特選句「榠樝の実落ちて居場所のなかりけり」。なぜこの句に惹かれるのか。すみませんわからないのです。寂しさや虚しさ遠慮、薄緑、木陰、とにかく見過ごせない引っかかる言葉が頭を掠めるのです。
- 大西 健司
特選句「笑ひ皺一本増やし冬に入る」。小品ながら滋味深い句を佳とした。暗いニュースの多い昨今笑い皺が増えるような、そんな日々を送りたいと願うばかり。
- 榎本 祐子
特選句「月耿々アルハンブラの憂愁よ」。アルハンブラ宮殿の栄枯盛衰へと思いは馳せる。時を経ても月は変わることなく光を投げかけている。美しい景。
- 重松 敬子
特選句「あかまんまあえてでこぼこあるきたい」。なかなかの人生訓ですね。季語がぴったり。これからも、でこぼこ、歩いて行って下さい。
- 新野 祐子
特選句「琵琶法師語り語りに風の花」。琵琶法師のうら悲しい語りひとつひとつに風花が舞う。何て幻想的でしょう。こんな光景を作れる俳句の力ってやっぱりすごいです。「風花」を「風の花」と言ってもいいかわからない私です。「空元気今日も生きるぞ烏瓜」。大変な世の中で生きるのは楽ではないけれどがんばって生きましょう。末枯れの中のまっ赤な烏瓜が励ましてくれます。
- 河田 清峰
特選句「地球から野菊消えるという幻覚」。地球上から戦争が無くならない現実が哀しくなる。
- 松岡 早苗
特選句「君ことりと戻る骨は雪のよう」。「雪のよう」という比喩に惹かれた。命のはかなさと美しさが抑制された悲しみの中に滲んでくるように感じた。特選句「湖に夏鴨わが遊俳の友三人(野田信章)」。涼やかな旅情とともに、俳句を人生の友として自由に楽しんでいる作者の心の充実感が伝わってきた。友との絆と俳句愛が清々しく詠まれていて素敵。
- 田中アパート
特選句「ツナ缶を開けて秋日の浅き傷(松岡早苗)」。あぶない、あぶない、気をつけないと、カミさんによく云われてます。特選句「牛スジを煮込んで夜を開けている」。牛スジ煮込むときた。うまいんですよ、牛スジカレー?
- 植松 まめ
特選句「山茶花の白に心を明け渡す」。初冬のひんやりとした空気のなか咲く山茶花が好きです。中でも白が特に好きです。白に心を明け渡すという表現にひかれました。特選句 「憂国忌赤いスープに舌を焼く」。憂国忌をはじめて知りました。三島由紀夫の命日との事。赤いスープに舌を焼くの表現も凄いと思いました。
- 伊藤 幸
特選句「てのひらに小さきサーカス散紅葉」。散紅葉の舞い散る姿を小さきサーカスと表現するとは「参った!」としか言いようがない。拍手です。
- 飯土井志乃
特選句「空元気今日も生きるぞ烏瓜」。隣家の庭に烏瓜が一個出現。たわむれに小枝でつっつくと勢いよく跳ねる。何度でも何度でも律儀に跳ねて、この婆を喜こばせてくれる。「あそびをせんとやうまれけむ」この秋出来たてホヤホヤの遊び相手である。
- 竹本 仰
特選句「覗き込み秋の鏡に入れてもらふ」選評:水面に映る風景は、肉眼でとらえる風景より鮮明である。これは鏡も同じことだろう。鏡の中には現実以上に鮮明な秋の陽に浮かびあがった世界が見える。ここに入らない手はない。日常のすぐ向こうにある反日常の何がしかに見えているのは何だろう。梶井基次郎がかつて一夥のレモンを手にとった時、たしかにみえていた命の重さの場所ではなかったか。日常のアンニュイゆえに渇望される場が一瞬見えており、今を逃してはもう行けない。これって芸術への扉?そういうワクワクな句かと思った。特選句「マヒワ来よ脱走兵の肩に乗り」選評:泣かせる句だなと思う。なぜかストーリを読ませるものがある。或る映画の鮮烈なワンカットを感じた。しかし実際、脱走というのはかなりむつかしいものらしい。高野山の管長であったW氏なる人物は先の大戦の際、特攻隊の出撃につかねばならなかったとき、壮大な空想的計画を実行したという。特攻機の群れが雲海に入った時、故障を装い一機離脱するというものであった。しかし、行っても見ない済州島近辺に、燃料の無い機体でしかも海に不時着なんて、素人の手に余る夢想を超えた無謀としか言いようのないことをやってのけたのである。これに類することを脱走兵はするのだろう。だが、それは平和を希求するあまりの涙ぐましい努力である時、勲章のようにマヒワが肩に降りてきたのだ。母ちゃん、おれ、帰ったぞ。この一言を言うための今を。特選句「封切れたように落葉雨 生きよう」選評:長年つきあった恋人との別れのようなそんな場面を勝手に想像して読んだ。ガサッと落ち尽くしてくる木の葉の中にあらゆる言葉をしのばせて、歩き去る。歩くしかない。風立ちぬ、われ生きめやも。キャロル・リード『第三の男』のラストシーン、五輪真弓の歌の一節のように、思いっきり俗っぽく味わいました。 ♡もう今年の句会も終わりですか。混沌のさなかに身をさらしつつ、そして、またまた悔いを残しつつ。でも、それが人生なんでしょうね。みなさん、来年もよろしくお付き合い、お願いします。
- 森本由美子
特選句「虫と棲む生活一部始終かな」。新鮮なライフスタイルの一面の考察です。少々害があっても命を尊重して見逃すべきか迷いながら楽しみながら共存していくのでしょうか。明日になったら忘れるかもしれませんが。
- 野田 信章
特選句「神の留守嫌いの中に好きもあり」。「神の留守」と呟くほどに、陰暦十月の大気と綯い交ぜになって、ある空白感を覚えるときがある。この句の中句以下の述懐も、この作用あっての心奥の表白かと読んだ。唐突とも言えるこの季語との配合によって、普段の心の有り様を如実に伝えてくれる。
- 三枝みずほ
特選句「こだわりと言う不発弾冬に入る」。こだわりは個人を支えるものであるが、他者に理解されないものでもある。もはや不発弾として身体におさめるしかない。だが長い時間の経過とともに不発弾に変化が起きるのも、こだわりの、人間の、面白いところではないだろうか。
- 野澤 隆夫
特選句「空元気今日も生きるぞ烏瓜」。何だか小生の日々の生活を鼓舞してくれてるようです。日々、空元気を糧に頑張らなくちゃの小生!烏瓜の赤色がしめてくれてます。特選句「笑ひ皺一本増やし冬に入る」。一昨日だったかBSのアーカイブで向田邦子の『阿修羅のごとく』、懐かしく見ました。四人姉妹の会話に大笑い!数本しわが増えたかと。また冬が来ました!
- 松本美智子
特選句は「一粒の露に宿りし星も消ゆ(鈴木幸江)」。とてもきれいなストレートな句だと感じました。小さな一粒の露にも命のかけらのようなものを見出し時間とともに消えていく、一瞬を美しくとらえられた句だと感じます。「体内に育てし骨と冬に入る」。の句に惹かれましたが「骨」のところ「肉」「鼓動」いろいろ私なりに入れ替えてみて作者の方はなぜ「骨」を選んだのか気になりました。
- 中村 セミ
特選句「たましいは淵に集まり暮早し(松本勇二)」。この人のこの何日かで、大切だと思われる事は、沈み行く毎日の夕焼けが、地平線に堕ちるが如くに、消えていくように、魂が、そこにあつまり、燃え尽きていくようだと,勝手に読ませていただきました。問題句2句「なえはたな なまひあらはば かてあはな」。「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。はどちらも、何かの宗教の呪文のようによめ、面白いと言えば面白いが、意味がない。
- 三好三香穂
「空元気今日も生きるぞ烏瓜」この秋、大勢の知人が鬼籍に入られた。葬儀は少しご案内があるものの、お別れができた方は数える程。死ぬまでは生きる、そんな境地です。烏瓜の繊細な花、ぼってりした実、口に入れた粒つぶ感など、思い出しながら、味わわせていただきました。「覗き込み秋の鏡に入れてもらふ」。覗き込んで、鏡に入れてもらう‥という表現が面白い。ただ、春夏秋冬、どれがふさわしいのかはわかりません。
- 桂 凜火
特選句「太宰読む薄刃のごとき秋夕焼」。太宰治が好きだった若かった頃のほろ苦い感情を想起させられました。秋夕焼の比喩としての薄刃は意外性があり、でもなぜがぴったりきますね。薄雲のせいかしら。
- 漆原 義典
特選句『秋の日や嫁ぐ姉より「国語辞書」』。わたしが子供時代に使っていた実家 の本棚の情景で懐かしいです。秋の日、国語辞書が古き良き時代を上手く表現しています。しんみりとなりました。素晴らしい句をありがとうございました。
- 大浦ともこ
特選句「靴脱いでこども図書館冬ぬくし」。靴を脱いで使う図書館のいかにも親しみ深い様子が懐かしく微笑ましい。”冬ぬくし”という季語がしっくりときます。特選句「泣き顔はセーターのなか小宇宙」。幼い子だろうか、それとも案外いい年の人だろうか....下五の”小宇宙”に驚いてのち納得させられました。
- 岡田ミツヒロ
特選句「無一文一片ありぬ秋の雲」。惨めな状況を秋の光の中に描写し、サラッと品位のある一句とした。♡初めて参加します。岡田と申します。兵庫在住。うどん好きのさぬき人です。懐しい故郷とのご縁、嬉しく思っております。野﨑様はじめ皆様よろしくお願い致します。
- 吉田 和恵
特選句「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。煙に巻かれたような、こんな感じって結構好きです。私的に解読しました。世はカオスいともゆかしき猫の鼻。 エエッ!ちがうんですか⁉
- 山下 一夫
特選句「ヌードの手は母なんです文化祭」。ヌードといっても肩脱ぎのような部分の写真でしょうか。だから、間に合わせに協力してもらった母とはわからないのでしょう。どこかおとぼけ感やちぐはぐ感が漂い、ほのぼのとした空気が伝わってきます。特選句「泣き顔はセーターのなか小宇宙」。セーターが効いて柔らかく暖かに保護されて自由な私的空間を描き出されています。上五中七下五が絶妙のバランスで素敵です。問題句「ハロウィンの仮装憧れの自分のよう」。 憧れの自分とは自分の理想像であろうか。それがハロウィンの仮装であるとは。所詮自分の理想像とは不気味あるいは滑稽な思い込みとの自嘲であろうか。どうもわからないが目を惹かれる句である。いっそのこと「のよう」は省いてはどうであろうか。 ♡コロナ第8波との報道が多くなりましたが、どうも子どもの年を数えるような、いつの間にかそんなに成長したかとの感慨を持ってしまいます。予防接種も3回目4回目は比較的短期間にそんなに打って大丈夫かと躊躇したものですが、先ごろ5回目の接種券が届いたときは、接種が年末になると面倒なのでさっさと済まそうとばかりに手際よく予約の電話をしてしまいました。まったく慣れというのは恐ろしいです。ウクライナを始め、慣れてはいけないものに思いを致しつつ過ごしたいです。日増しに寒さも増してくる時節となりました。くれぐれも御自愛の上お過しくださいませ。
- 稲 暁
特選句「榠樝の実落ちて居場所のなかりけり」。今の私の心境そのものを代弁してくれているような作品です。
- 銀 次
今月の誤読●「牛スジを煮込んで夜を開けている」。夜。わたしは誰かを待っている。誰かというのはあくまで誰かで特定の人ではない。ぶっちゃけ飲み相手になってくれれば誰でもいいのだ。酒と肴は用意してある。といって特別なものではない。牛スジを煮込んだものとかありあわせでつくった酢漬けとかそのくらいだ。玄関は開けている。と、最初に来たのは近所に住んでいる子どものころからの知り合いだ。「やってるね」「ああ、いまからだ。上がっていきなよ」「じゃ、遠慮なく」。次に来たのは俳句仲間のNさん。「おやまあ、いい匂いね」「ああ、用事がなかったら一杯どうだい」「そうねちょっと温まっていこうかしら」。そんなところにひょいと顔を出したのが川沿いの橋の下で寝起きしているホームレスくん。顔を覗かして「やってますねえ」「ああ、おまえさんもどうだい外は冷えるだろう」「へえ、でもあたしゃこんななりで」「なりもへちまもあるかい。なんならお仲間も呼んどいで。人間みな兄弟。今夜はワーッとやろうじゃないか」「じゃちょっと何人か誘ってみまさあ」「いや何人かなんてめんどうはいわず全員連れてきな」。なんてふうに人が集まり出して、三十人、四十人と膨れ上がっていった。わたしはほろ酔いで、我が家の居間はこんなに広かったっけとあたりを見まわした。と、不思議なことに人数にあわせて居間はどんどん広がっているのだ。こりゃあ面白れえ。千客万来とはこのことだ。やがて通りすがりの大学生や宴会帰りのサラリーマン、ジョギング中のおねえさんも入ってくる。あっちでは警官とAV女優が笑いながら酒を飲み交わしてる。なんて思えば郵便局員と詐欺師が泣きながら政治を憂いてる。どうやら二人とも泣き上戸らしい。もう見わたす限りの人、人、人だ。何万人いるのだろう。居間は野球場のごとく広がって、さらにまだまだ広がりつづけている。誰があげているのか遠くの方で打ち上げ花火がはじまった。こうなりゃもう無礼講もいいとこだ。どこからか太鼓を打つ音がする。三味線が響く。あっちこっちで踊りがはじまる。居間はますます広がりつづけている。それは県境を越え、国境を越え、ウクライナまでも。夜宴はまだまだつづく。
- 佳 凛
特選句「赤とんぼ親という字の書き順を」。書き順で親の切なさ 苦しさ 勿論楽しさもある。とても 共感し言葉の意味を、今一度考えたいとおもいました。
- 寺町志津子
特選句「ウイルスの変幻自在冬の空」。ありきたりとも思えるが、時宜を捉えて可。冬の空が利いている。特選句「太宰読む薄刃のごとき秋夕焼け」。言われてみれば、太宰文学はそうかもしれない。
- 高橋 晴子
特選句「人類を出られぬ人類龍の玉」。よくも悪しくも人類は人類を出られぬ。他の動物なら何も考えずに相手が死ぬまで又は自分が死ぬまで戦うが、あくまで人類は人類なのだ。「出られぬ」と感じた処、表現した処が面白い。
- 亀山祐美子
特選句『山茶花の白に心を明け渡す』。山茶花を見つめその白さに慰め鼓舞され平常心を取り戻した安堵感が伝わる。問題句『あかまんまあえてでこぼこあるきたい』。平仮名表記は私も好きでよく使うがこの句にふさわしいだろうか。「どうせなら赤まんまの生い茂るでこぼこの小径を選んで歩きたい」と受け取った。『赤まんま』は「あかまんま」でも「赤まんま」でも支障はないが『あるきたい』は「歩きたい」と読むのが普通「ある期待」ととるのは天邪鬼でありここは素直に作者の希望願望決意表明と受け止めると作者の居場所が不鮮明になる。病床で秋の小径に思いをはせるのかはたまた整った公園の舗装路に文句を言っているのか脇道にそれ野道を行きたいのか。読者の想像に任せる以前の問題。足元の揺らぐ不親切さ。かてて加えて『あえて』は不要。『あるきたい』は詠み手の願望では無く「歩く」もしくは「歩いた」と動詞を置き読み手の想像に委ねるべきだ。その方が一句に広がりが出来る。想像の余地の無い窮屈な己の願望は往々にして「あっそう、それがどうした」で終わってしまう残念な一句となる。
- 向井 桐華
特選句「ツナ缶を開けて秋日の浅き傷」。日常の些事と秋の心象風景の描き方が呼応している。ツナ缶と秋日の取り合わせがよかった。「あ」の韻を踏んでいるのもよい。問題句「もなはなや まはらやらや たのゆはら」。かな文字で書いたらきれいそうですが、作者の意図がどこにあるのかが、ちょっとわかりませんでした。
- 野﨑 憲子
特選句「待ち合はせ無いです恋も柿の実も」。「待ち合わせは無いです」ときっぱり言い切った背後には、来し方の様々な 目眩く思い出が凝縮されているように思えてならない。熟柿の味わい。特選句「兜太なき世の日雷さま裏山に」。兜太師の「利根川と荒川の間雷遊ぶ」が浮かんできた。師は、雷さまがお好きだっのだ。作者の家の裏山にも、雷さまが遊びに来ているのだ。問題句「なえはたな なまひあらはば かて あはな」「もなはなや まはやらやらら たのゆはや」。危うさはあるが宇宙人の言葉のようにも感じる。冒険句への挑戦、これからも楽しみにしている。
袋回し句会
山茶花
- 山茶花や密集住宅に遺体
- 藤川 宏樹
- 船長は山茶花宇宙船地球号
- 野﨑 憲子
- オカリナほろほろ白山茶花ほろほろ
- 野﨑 憲子
- 山茶花散るよ人は笑つて終はる
- 島田 章平
- 白山茶花やハートは最後の逆上り
- 中野 佑海
梨
- 梨の芯ぼくの心に埋めてみた
- 中野 佑海
- 中国梨の赤い影べたり寄り
- 中村 セミ
- 二十世紀梨よピッコロ誰が吹く
- 淡路 放生
- 小骨とる結婚詐欺師ラ・フランス
- 藤川 宏樹
- 梨剥いて純白の扉開くかな
- 銀 次
皇帝ダリア
- 皇帝ダリア絹の道に赤い月
- 島田 章平
- 皇帝ダリア新人ナースが担当に
- 中野 佑海
- 子連れ猫水舐めに出る皇帝ダリア
- 淡路 放生
- 川底を歩く人ゐて皇帝ダリア
- 野﨑 憲子
- 皇帝ダリア上着の袖の綻びぬ
- 藤川 宏樹
犬
- ゆれているだけのススキの中に犬
- 淡路 放生
- 冬支度する前犬と転がって
- 中野 佑海
- 犬の名を活字にさがす霜の月
- 藤川 宏樹
- 生国は地球でござんす冬の犬
- 野﨑 憲子
- 雪原を走る犬橇狙ふ銃
- 島田 章平
月
- 月静か静かに寝かせ騒ぐまじ
- 銀 次
- 月面着陸ごきぶりも一緒に
- 島田 章平
- 月光に乱舞乱舞や枯芒
- 野﨑 憲子
- 納屋に遍路笠惑星月へ入る
- 藤川 宏樹
- 十一月五日の子宮よ月の子よ
- 淡路 放生
- 習わしに迷子なりける芋名月
- 中野 佑海
【通信欄】&【句会メモ】
あっという間に一年が経ちました。コロナの波が何度もやってきて、そんな中でも、毎月、集ってくださった皆様ほんとうに有難うございました。ご参加の方々も少しずつ増え、ますます多様性に満ちた句会になりつつあります。そして四月から毎回、快適な句会場をお貸しくださり、時間超過にも寛大な藤川宏樹さんに心よりお礼を申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
「海程香川」は年11回の開催です。12月はお休み月なので、次回は、2023年の初句会となります。次回も、お楽しみに!
今年二月に始まったロシア軍によるウクライナ侵攻は今もまだ続いています。一日も早いウクライナからの完全撤退を祈りつつ・・皆様、佳きお年をお迎えください。
Posted at 2022年12月4日 午後 02:50 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]