第149回「海程香川」句会(2024.04.13)
事前投句参加者の一句
さくら咲くことばが文字になるように | 佐孝 石画 |
嘘つきは馬鹿正直に四月馬鹿 | 野口思づゑ |
涅槃西風積木組んではまた崩す | 榎本 祐子 |
母遠忌貝母すくっと自然かな | 樽谷 宗寛 |
きのうまで建ってた病院霾ぐもり | 新野 祐子 |
ふらここを揺らし涙が止まらない | 重松 敬子 |
夕桜あなたのいない十年目 | 藤田 乙女 |
蘖も傷も抱えし樹齢百 | 川本 一葉 |
山羊の眼の冷徹春田打つ時も | 松本 勇二 |
青き踏むたび蹉跌それも故郷 | 山下 一夫 |
夏の日に「いわざらこざら」口が開く | 中村 セミ |
ここででももととるおととしじみ汁 | 藤川 宏樹 |
藪椿せめぎ合わねば淋しくて | 津田 将也 |
逝く逝った逝ってしまった雨の慕情 | 田中アパート |
桜咲く自由な空に見守られ | 末澤 等 |
ムスカリやパーマし染めて九十の母 | 岡田 奈々 |
新宿二丁目原色にて朧 | 大浦ともこ |
己が座の何処とかまわず仏の座 | 時田 幻椏 |
この国に来やんせ大和の花回廊 | 塩野 正春 |
春昼の快楽孤島のベンチャーズ | 十河 宣洋 |
野球部の陣どる廊下春の雨 | 松岡 早苗 |
手をふれば母は辞儀せり花朧 | 花舎 薫 |
岐阜蝶の孵化のただ中われ老いる | 若森 京子 |
さっぱりと生きて菫の傍にいる | 高木 水志 |
MRI不意に食べたき蓬餅 | 佳 凛 |
チューリップ散る日めくりのように散る | 吉田 和恵 |
九重斑雪野含羞むような日差しかな | 野田 信章 |
雪柳縺れてとけず戦長引く | 森本由美子 |
冨士に桜裾野に戦車の這いずりぬ | 滝澤 泰斗 |
ひらがなの囀りヒーローの食いしん坊 | 荒井まり子 |
歌舞の音曲谺す花の象頭山 | 丸亀葉七子 |
蝶の昼ふっと忘れる現住所 | 三好つや子 |
春風と張り合ふ突っ走る鼻面 | すずき穂波 |
蓬摘んでてのひらまでをあるきおり | 男波 弘志 |
甘え捨て白湯の甘さよ梅一輪 | 薫 香 |
拘りは冷凍保存春の雷 | 石井 はな |
桜を嫌う桜もあらん花の冷え | 竹本 仰 |
樹の渦をひらく五月の鳥たちよ | 三枝みずほ |
暮れなずむ花はだんだん雲になり | 三好三香穂 |
魂を浮かべて遊ぶ鞦韆に | 松本美智子 |
鶏鳴やたちまち冥き紅椿 | 亀山祐美子 |
花の雨彼岸の友と酒を酌む | 銀 次 |
さくらさくらくらくらさくら花見山 | 桂 凜火 |
眉墨のポキリ折れたり花の冷え | 向井 桐華 |
春昼の乳房とりあう子豚たち | 月野ぽぽな |
水飲む手さくら受くる手祈りの手 | 和緒 玲子 |
人が群れ山がもぞもぞ花の昼 | 山田 哲夫 |
日は昇るいま結界として桜 | 大西 健司 |
飛花落花お国訛りの長電話 | 山本 弥生 |
蛇穴を出づ愛犬鼻を逆立てる | 疋田恵美子 |
春風や一期一会と鳴る雨戸 | 鈴木 幸江 |
四月馬鹿みんなで言おう「ばかやろう」 | 島田 章平 |
春陰や墓石の銘に「愛」の文字 | 植松 まめ |
一語一語泡立つやうに豆の花 | 小西 瞬夏 |
チューリップたがいちがいの掌を合わせ | 福井 明子 |
恋歌の包みに花の菜ひとつ | 河田 清峰 |
すみれすみれレコード盤が捨てられぬ | 伊藤 幸 |
春の暮ささやかな父情綴る | 豊原 清明 |
麦刈って遠い明日へ向くをとこ | 谷 孝江 |
フィナーレの手を振るさくらまたさくら | 岡田ミツヒロ |
葱坊主なにも言うなと眼がうごく | 増田 暁子 |
このままで何も言わずにゐて桜 | 柴田 清子 |
目を覚ませ夫よ雲雀の高鳴ける | 柾木はつ子 |
鳥曇りガザの幼子等飛んで来よ | 田中 怜子 |
人生まあこんなもんよと亀鳴けり | 綾田 節子 |
花筏出発時間はいつですか | 漆原 義典 |
ガザ飢えて我の無力を我怒る | 稲 暁 |
迷い猫探すチラシや春愁 | 菅原 春み |
犬ふぐり猫の体操すごいだろう | 河野 志保 |
えつ今日ですか?百千鳥の真言 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「春昼の乳房とりあう子豚たち」。命の塊のような子豚たちの映像がはっきりと浮かび上がる。乳房をとりあうことが「今」を生きることである。圧倒的な映像の力で、小さな悩みなどを吹き飛ばすように、読者に活力を与えてくれる一句。
- 松本 勇二
特選句「MRI不意に食べたき蓬餅」。MRI検査を受けられたのでしょうか。何とも言えない音響の中で、ふいに頭をよぎったのが蓬餅です。この大いなる展開に意表をつかれました。
- 岡田 奈々
特選句「花筏出発時間はいつですか」。花筏にもタイムテーブルがあったんですね。私も乗り遅れ無いよう。遅くも早くも無く、この世を楽しかったと思い残す事無く、あの世への筏に飛び乗れますように。特選句「魂を浮かべて遊ぶ鞦韆に」。ぶらんこの浮遊感は大好きです。見たら必ず乗ります。「さくら咲くことばが文字になるように」。桜って本当に喋る必要無いくらい多弁です。「藪椿せめぎ合わねば淋しくて」。なんだかんだいちゃもん付けて対抗してたのは淋しかったからなのね。「あきまへんヴギウギロスや弥生尽(島田章平)」。趣里のいかにもな大阪弁と派手な百面相が毎日のお楽しみやったのに。また、とても上手な(笠置シヅ子より)歌と踊りは毎週の楽しみでした。ハァアア!「おしゃべりと時間のあわいを木の芽風」。女三人寄って、主人の事など好き勝手言ってる井戸端会議。ここにも季節は確実にやって来る。「手をふれば母は辞儀せり花朧」。桜の花の下に大好きな母が立っていて、私が手を振れば何故かお辞儀してくれるけど、私って判ってない?もしくはもう母はこの世の人では無い。桜はこの世とあの世を近づける。「MRI不意に食べたき蓬餅」。分かるわー。私も先日、あのめちゃくちゃうるさい機械の中に30分。もう絶対入りたくないと思って、本当疲れてしまいました。蓬餅のあの強烈な香りと苦みと甘さ。そのくらいでないと、桜餅では対抗できません。「暮れなずむ花はだんだん雲になり」。桜か雲か、雲か桜か。最期は溶けて分からなくなりそう。「一語一語泡立つやうに豆の花」。豆は花まで素敵です。
- 福井 明子
特選句「魂を浮かべて遊ぶ鞦韆に」。人ひとりの内部の、どこに魂というものがあるかは分からない。が、「魂」は確かにあって、鞦韆の揺れ、そのたわみに自在に浮かべて遊ぶという。春の風にひろがる幻想的で魅力的な空間。魅かれました。
- 十河 宣洋
特選句「甘え捨て白湯の甘さよ梅一輪」。達観した人生である。白湯の暖かさと梅の香りがさらに豊かな時間を作ってくれる。特選句「人が群れ山がもぞもぞ花の昼」。花見の客をもぞもぞは好い。落着かない花見の頃の様子。山どころか日本中がもぞもぞである。旭川は桜の開花予報は連休になりそうである。もぞもぞがやがやである。
- 三枝みずほ
特選句「少女だった頃の匂いの養花天(榎本祐子)」。春の気候は変わりやすい。冷える日、暑い日、長雨…この繰り返しで花が咲くという。桜が咲く頃の混沌とした匂いの中に、あの日の少女の憂鬱と不安それでも生きていこうとする明るさが混在している。
- 津田 将也
特選句「一語一語泡立つやうに豆の花」。豆の花(春の季語)には、「そら豆の花」「豌豆の花」があるが、この句は前者であろう。花は一様に蝶形で、「そら豆の花」には、白または薄紫があり、翼弁に黒い斑点がある。一読して「比喩」が巧みで、つぎつぎと咲き誇る花の様子をドラマ的にも・映像的にもしている。
- 松岡 早苗
特選句「涅槃西風積木組んではまた崩す」。私の人生も振り返ってみれば、積み木崩しのようなものであったのかも知れないと、妙に納得させられ心に残る御句でした。特選句「手をふれば母は辞儀せり花朧」。遠く霞む満開の花の下、手を振る私に対して他人行儀にお辞儀する母。もしかしてお母様は認知症を患っていらっしゃるのでしょうか。若く美しかった人もいずれは老いる世の定め。自分の母親であれば老いの現実はなおさら切ないですね。小町の「花の色は移りにけりないたづらに・・・」の歌なども浮かびました。何気ない一場面を的確に切り取り、言外に「もののあはれ」をにじませた佳句だと思いました。
- 鈴木 幸江
特選句評「山羊の眼の冷徹春田打つ時も」。ちょっと前までは、日本のあちらこちらで牛や馬が田植え前の田んぼを耕していたことだろう。今は、耕運機だろうが。山羊は、そんな人と家畜か機械の作業を冷徹な眼で見ていると作者は言う。心には別の次元で生きている生きものとしての人間の自己を重ねているのだろう。その想いに自己というものの本質を感受しているとして特選とした。特選句「新宿二丁目原色にて朧」。若かった頃(40年以上前)、夫の高校時代の友人が新宿二丁目で洗濯屋さんをしていた。言わずもがなのゲイバーのメッカであった。注文はドレスばかりとのこと。さて、今はどんな変身を遂げているのだろうかと、「原色にて朧」の措辞により勝手に想いを巡らした。すると、なんと平安時代の王朝文化の香りとの景色がちょっとだけ覗けた。とても、愉快で新鮮であった。
- 月野ぽぽな
特選句「春風や一期一会と鳴る雨戸」。春の強風に雨戸が鳴っている光景だ。往々にして人との出会い、更には人と風景との出会いについて言われる「一期一会」を、春風と雨戸の出会いについて言ったこと、それを「一期一会と鳴る雨戸」と表現したことに感覚の冴えがあり、俳諧味もある。春の訪れを喜び、同じようで二度と同じではない季節の巡りを愛おしむ心が伝わる。
- 桂 凜火
特選句「さっぱりと生きて菫のそばにいる」。この心境はうらやましい限りです。 まだまださっぱりとはいかないので理想的です。特選句「麦刈って遠い明日へと向くをとこ」。男の本質を表しているような句です。明日へと向くがいいですね。男もがんばれ。
- 綾田 節子
特選句「犬ふぐり猫の体操すごいだろう」。猫は飼っていないので、どんな体操か分からないのですが、想像しただけで可笑しく、犬ふぐりの上で暴れてるような?楽しい俳句これからもよろしく。
- 塩野 正春
特選句「MRI不意に食べたき蓬餅」。この句にすごく同感します。MRIの検査を受けられた気持を代弁しています。かなり心配な状態であの暗い洞窟に、半ば強制的に入れられた時、たとえ悪いが棺桶に入る気持ちです。トン トン トン、別れのミュージックが聞こえます。生きているか? それとも死ぬか?そんな時不意に思い浮かべる蓬餅。MRI検査を無事通過した時のうれしさを想像させてくれます。特選句「春昼の乳房取り合う子豚たち」。この句の素晴らしいところは、子豚たちのたくましい生命力もさることながら、人間の世界に食い込んだ(豚)の存在です。何故豚とヒトが共存することになったか、私には定かでないが、その動物の存在に敬意を払わざるを得ないからです。長生きをすれば代替の臓器が欲しい!そんな勝手な欲望を満たしてくれる可能性があります。私の身近にも心臓の弁を豚のそれで生きながらえた人が居ます。元気な子豚たちに拍手します。ある上級職の人が、牛や豚を飼う人たちより君たちは素晴らしい・・・と訓示したと報道されていますが、この方が豚以下の知識しかないと断言できます。
- 松本美智子
特選句は「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。でお願いします。今年はさくらの開花がいつもより遅れてたからか「さくら」「桜」「花万朶」「花筏」などの句が多かったです。どの句も心動かされましたが、この句はとても秀逸だと思いました。さくらの美しさと手を対比し、日常の生活における「手」に焦点をあて非日常にある争いに思いを寄せる気持ちをうまく昇華していると思いました。これは余分のコメントですが・・・今回松本が投句した「三角に吹いても丸くしゃぼん玉」も世の中 すべてしゃぼん玉のように「丸くなあれ」と祈りを込めたつもりですが・・・なかなかうまくいきません。この句のように美しく作れたらいいのに・・・と思います。
- 野田 信章
特選句「岐阜蝶の孵化のただ中われ老いる」。春の女神とも愛称される「ギフチョウ」の孵化を見守る心音の込もった句である。生きもの同士の交感を通して見詰められているわがいのちの一態ー自愛の念が美しい。多様な老い様のある中で、この句にはこの句なりの結実ありと読んだ。映像で見ると黒地に白のすじ模様のある美しいアゲハチョウである。九州ではお目にかかれない。ぜひ拝見したいものである。
- 三好つや子
特選句「樹の渦をひらく五月の鳥たちよ」。小鳥たちの囀りに呼応するかのように、五月の空へ葉や枝をひろげる樹が、まるで一つの森のような姿に感じられました。生命の鼓動を紡いだ詩情が素晴らしい。特選句「えっ今日ですか?百千鳥の真言」。四方八方から聞こえてくる鳥の声に、ふと今日死ぬのかも、と思ったのではないでしょうか。そんな予言に慌てず、騒がず受け入れようとする、飄々とした心境に、興味がつきません。「涅槃西風積木組んではまた崩す」。一読して、穂積隆信の体験記「積木くずし」が浮かび、親子関係のむずかしさに共感。「麦刈って遠い明日へ向くをとこ」。明日に向かって一歩一歩歩んでほしい。被災地の人々への直球のエールに惹かれました。
- 花舎 薫
特選句「一人来て夫に土産や花のこと(佳凛)」。一人来て、とあるので、お墓参りでしょうか。違っていたら、ごめんなさい。ご主人を勝手に殺して?しまって。衒いなくシンプルな表現で感情を読み込んだこの句に惹かれました。何の目的でどこに来ていて何をしているのか書かれていない。省略の美ですね。夫を失ったことにもう自分の中でけりをつけられた頃なのでしょう。日常の些細なことを静かに語りかけている。そこに生前の愛情も窺える。ちょっと寂しくて穏やかな春の日です。「チューリップ散る日めくりのように散る」。チューリップの最後は大きな花びらが透き通って紙のように薄くなり、はらりと落ちます。暦との組み合わせがいいですね。「拘りは冷凍保存春の雷」。春の雷が不安感を呼び起こすのでしょうか?冷凍保存と季語の組み合わせの意外性。「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。モンタージュスタイルの綺麗な句。「遅ザクラどちらかと言えば不幸です」。若い作者なら御愁傷様。桜のカタカナ表記が嘆きの表現に一役。意図してのことか、中七の字余りでさえはっきりしない気持ち(性格?)が出ている。幸せになってね。 ♡初参加の弁:この度、香川句会に参加させていただきとても感謝しています。私の俳句は英語で言うところのWIP(Work In Progress)。進行中や作業中とも訳せますが、私の場合は模索中と言った方がいいかもしれません。他の学びと同様に完成することはないですが、そのプロセスを楽しみたいです。今後ともよろしくお願いします。
- 若森 京子
特選句「西行の花を尋ねて逝きし母(増田暁子)」。「願はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ」と有名だが,吉野の西行庵を思う時、桜の好きだった母の死は、きっとそこへ尋ねて行ったのであろう、と母への美しい追悼の句としている。この感性が好きだ。特選句「蝶の昼ふっと忘れる現住所」突然に襲って来る認知症、最近私の周りに余りにも多く、自分にもとの恐怖さえ持っている。その心情を直に一句にしている。
- 山田 哲夫
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。「さくら咲く」という単純なことが、比喩ひとつでこんなに詩的な言語空間を創出できるのかと、思わず頷いてしまった。「ことばが文字になる」ときは、一つのことばから様々な要因が働いて多くのことばが爆発的に派生してくることは、漢字の例をとってみても容易に想像出来る。満開のさくらを見ながら、ことばと文字との有り様を想像できる作者の思考の柔軟さと自由さに感心した。
- 島田 章平
特選句「春昼の乳房とりあう子豚たち」。改めて掲載句を読んでみると、土の匂いのする句が少ない。どうしても観念的な句が多い。掲句は、そのような句の中で、唯一土の匂い、命の匂いがする。母豚と子豚、まさに命の原点を技巧なく描いた秀句。
- 増田 暁子
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。次々咲くさくらを愛でる言葉ができるとき、桜を待ち侘びる日本人の美しい文字ができるように感じました。特選句「富士に桜裾野に戦車の這いずりぬ」。長い間守ってきた平和をどうしようとしているのか。どうしたら良いのかもっと相談して欲しい。「フィナーレの手を振るさくらまたさくら」。散る桜の様子が見える。中ほどのさくらまたさくらがとても良く、情景が溢れている。
- 樽谷 宗寛
特選句「蝶の昼ふつと忘れる現住所」。ありますあります。切ないことですが経験しました。昼の蝶が私を優しく救ってくれました。
- 植松 まめ
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。しっとりと美しい句、ことばが文字になるように咲くさくら、それを文字にするのはむつかしい。特選句「春の暮ささやかな父情綴る」。ささやかな父情に惹かれた。母性、父性はよく聞くが父情とは辞書で探しても出て来ない。飯田龍太に「冬ふかむ父情の深みゆくごとく」父親の愛は静かで深い。気になる句「いぬふぐり猫の体操すごいだろう」。この猫は多分雄猫。漫画『じゃりン子チエ』でチエちゃんが飼っている小鉄のような猫か?滅茶苦茶強くてそう言えばよく体操もしていた。(わが愛猫もあやかって小鉄と名をつけた)
- 大西 健司
特選句「涅槃西風積木組んではまた崩す」。この風が吹くと寒さがまた戻ると言われている。そんな季節のように積木を組んではまた崩す。そんな来し方をふと思い起こしているのだろう。
- 榎本 祐子
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。桜の開花と、思いが形象化されてゆく事とを重ねて美しい。
- 新野 祐子
特選句「ガザ飢えて我の無力を我怒る」。凄惨を極めるガザ攻撃は民族浄化に他なりません。心穏やかに俳句を作る心境になれない日々を送っているのは、皆様ご同様のことと。この句、無季ですが、まっすぐに胸に響いてきました。問題句「迷い猫探すチラシや春愁」。はじめ入選句にしたのですが、このことって「春愁」なんて生やさしいことではありませんよね。私にとっては危機です。全身全霊で探します。
- 藤川 宏樹
特選句「野球部の陣どる廊下春の雨」。廊下の奥に立ってゐる戦争より、春雨で野球部が陣どりざわつく廊下の方がずっと良い。
- 野口思づゑ
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。そういえば満開の桜の下にいると言葉が聞こえてくるような感覚にもなります。素晴らしい感性です。特選句「桜を嫌う桜もあらん花の冷え」。桜は誰もが好きで歓迎し喜ぶと、はなから思い込んでいました。「桜を嫌う」上5がまずとても新鮮。そして嫌うのが桜となれば、自身が嫌なのか、身内を嫌うのか、仲間を嫌うのか、など人間や人間関係の複雑な思いが句に込められています。
- 稲 暁
特選句「逝く逝った逝ってしまった雨の慕情」。思いがけず逝ってしまった八代亜紀を追悼する一句。亜紀さんは優れた歌手であるだけでなく、気さくな人でボランティア活動などにも熱心に取り組んでいたと聞く。惜しい人を亡くしたものだ。
- 和緒 玲子
特選句「爪切りのあと啓蟄の爪匂う(月野ぽぽな)」。確かに爪を切ったその瞬間から爪は伸び始める。啓蟄という季語との取り合わせによって対比が生まれ、その対比のなんと楽しいことか。むくむくと伸びている、切りそろえた爪(たぶん足?)を匂うと表現されたこと。愉快です。特選句「笑えればいいよと春の空家かな(松本勇二)」。財布と家は春に買うに限る、というのは冗談ですが、穏やかに笑って暮らせればそれだけで充分といった心持ちでしょうか。身につまされる思いがします。こんな春の捉え方もあるのだな。
- 河野 志保
特選句「桜咲く自由な空に見守られ」。「自由な空に見守られ」た桜の愛らしさよ。同時に平和への願いも感じられる句。作者は世界の戦火に思いを巡らせているのではないだろうか。
- 滝澤 泰斗
春のお彼岸、また、今年はいつもより早いイースターだったせいか、人を悼む句が目についた。その中の次の二句を特選にしました。特選句「鶏鳴やたちまち冥き紅椿」。鶏鳴やで、イエスが弟子のペトロに言った言葉を想起させ、ゲッセマネの園で捕らえられた一夜の出来事を思い出させてくれたような一句。特選句「目を覚ませ夫よ雲雀の高鳴ける」。こちらは雲雀・・・慟哭が切ない。「さくら咲くことばが文字になるように」。美しい桜がいっせいの咲き、感嘆の言葉が文字になるようにあふれ出てくる感じを上手く掬った。「山羊の眼の冷徹春田打つ時も」。確かに、山羊の目は、いつも冷徹に見える。気づきの一句。「青き踏むたび蹉跌それも故郷」。十八の春にふるさとを飛び出した。その思いとは裏腹に、ゴールデンウィークに襲われた望郷の念は、幾星霜を経てもふるさとへ向かう・・・。「どこへ行こうか春の小川に紙の舟」。とても気持ちのいい一句。いただきました。ふるさとの千曲川に注がれる小さきせせらぎの記憶・・・。「飛花落花お国訛りの長電話」。望郷の思いを募らす句が追い打ちを掛ける。母が健在な頃になると、季節の花の便りを電話で聞いたものだ。
- 田中 怜子
特選句「母遠忌貝母すくっと自然かな」。ふたりの間にいろいろあったかもしれないが、うつむく地味な貝母に母をたくして懐かしむ。静かな懐古。「野球部の陣どる廊下春の雨」。今大谷選手のでる試合でTVは占拠されていて、かたや大国に虐められている国があるので忌々しい感じがするが。この句は若者が狭いところで仮に雨宿りしていて、若者の汗やおしゃべりなど熱気がむんむんしてくるような廊下が目に浮かぶ。「春昼の乳房とりあう子豚たち」。すさまじい取り合い、乳を吸う音や、母豚の満足そうな顔も目に浮かぶけど、何か月か経って人間の胃に…残酷だ!
- 三好三香穂
「花月夜終の住処のビルの街」。昨今は、高松市街地に、やたらとマンションが建つ。年老いれば、バリアフリーで便利な市街で過ごす選択も、あるでしょう。終の住処と読んでいるので、そのような方と、お見受けします。世相句とでも申しましょうか?「手をふれば母は辞儀せり花朧」。生きている母、たぶん施設に見舞って、帰りがけ。では、また、と、手を振ると、丁寧なお辞儀で返してくれた。私のことをよくは理解していないのかしら?淋しい。「雪柳縺れてとけず戦長引く」。終わりの見えない戦争、よく言い表しています。「眉墨のぽきり折れたり花の冷え」。花の冷えと眉墨の折れる動作がよくあっていると、思います。あるある日常を、うまく切り取っていると思います。
- 豊原 清明
特選句「さくらさくらくらくらさくら花見山」。同じような手法の中ではこの句が一番、胸に来ました。ひらがなは柔らかい。好き。問題句 「さっぱりと生きて菫の傍にいる」。「さっぱりと生きて」に作者の元気さが伝わり、いいなと思います。
- 疋田恵美子
特選句「蘖も傷も抱えし樹齢百」。古木に蘖、登山の際に見かける景色ですがなかなかの風情です。特選句「花会式ちんたらちんたら西の京(樽谷宗寛)」。前のことですが京都に桜見物に行った時のこと、華道家元池坊の看板を目にして懐かしく思いました。
- 山本 弥生
特選句「眉墨のポキリ折れたり花の冷え」。花冷えの朝、老いたりと云えども、少しお洒落をして出かけようと思い、眉墨を濃い目に引こうとしたら折れてしまった。逆に吉兆の知らせだと思い直して念入りに眉を引いた。
- 河田 清峰
特選句「己が座の何処とかまわず仏の座」。最後は仏の座の花にまみれていたいとの思いがよく分かる。
- 吉田 和恵
特選句「思考朦朧歯痛の叫びムンクの春(滝澤泰斗)」。ムンクの「叫び」は、人の心の奥深くにある不安や怖れを暗示しているようで魅かれるのですが、それ程の歯痛とは、お気の毒です。ちなみに私は目下歯痛より腰痛に泣いてます。
- 石井 はな
特選句「ふらここを揺らし涙が止まらない」。ブランコに乗りながら何に思いを馳せているのでしょう。ブランコって不思議と子供の頃や心の奥に連れて行ってくれるし、あの揺れは心のリハビリですね。
- 男波 弘志
「さくら咲くことばが文字になるように」。四季の巡りが順調であり、齟齬のないことは誠に麗しいことだ。秀作。「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。このままでも十分に詩芯が伝わってくるが、さくら受く、を概念から具象にする手もある。この一行詩はどう映像化するか、そうできたか、そこに一切がある。これは決して写生の問題ではなく、過去から現在、現在から未来へ時空を貫く映像美が創れるか、だと思う。子規が唱えた写生論には現在しか含まれていない。だからこれは方法論の一つに過ぎない。芭蕉の発句を精読すればそのことは明瞭である。「水飲む手 落花受くる手祈りの手」これで時間軸が過去から未来へ貫かれたのではないか、静謐さでは原句が勝っているようだが、何を捨て、何を拾うか、あとは覚悟の問題であろう。一応、功罪相半ばだと付け加えておく。準特選。
- 伊藤 幸
特選句「岐阜蝶の孵化のただ中われ老いる」。岐阜蝶という固有名詞が生きています。これから光の世界に生まれ出ようとする生命と朽ちてゆく生命との対比がさみしさを募らせます。特選句「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。人間の手が如何に大事を担っているか再認識させられる一句です。当たり前のように使っている我が手につい感謝してしまいました。
- 漆原 義典
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。ことばによる会話が、文字となり文章となる過程を、さくら咲くことと重ねていることに感動しました。
- 荒井まり子
特選句「新宿二丁目原色にて朧」。若い頃、三十年ばかり東京に住んだが、皆急ぎ足で、新宿のみならず、喧噪の中、得体の知れない街に思え、居場所はなかった。正に二丁目は映像どおり原色にて朧。私にはいつまでも遠い街。
- 岡田ミツヒロ
特選句「逝く逝った逝ってしまった雨の慕情」。もう十分生きたのだろう。椿が落ちるように逝ってしまった。多くの人の心にその歌声を残し。「逝く」からの畳かけごとに哀惜の奥へ奥へと引き込まれる。特選句「手をふれば母は辞儀せり花朧」。一つの光景が即座に眼前に現われた。母は私の幼時から挨拶を繰り返し教えた。そして成人した私を遠くから真っ直ぐに見て会釈した。その懐しい光景がいま鮮明に蘇った。
- 佳 凛
特選句「歌舞の音曲谺す花の象頭山」。長い間、閉まって居た金丸座に、華やかな桜と一緒に、歌舞伎も再開され、讃岐にも、観光客が戻りウキウキワクワクする人達が増えそうです。
- 丸亀葉七子
特選句「藪椿せめぎ合わねば淋しくて」。肩を触れ合って何か囁きあっている椿の姿が見える。特選句「新宿二丁目原色にて朧」。新宿二丁目が生き生きと喧騒していて眩しいネオンの街。だけれどかすみを喰って朧おぼろとしている住民たち。
- 薫 香
特選句「さっぱりと生きて菫の傍にいる」。生きていると悲しい事や辛い事、苦しい事もあるからこそさっぱりと生きていきたいという私の理想です。ただ美しいものの傍に居たいという思いは忘れずに。特選句「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。いろいろな動作の中からこの三つを選択したことと、最後に祈りを持ってきたことに心掴まれました。思わず自分の手を見つめてしまいました。
- 竹本 仰
特選句「青き踏むたび蹉跌それも故郷」:故郷とは何か、それを問い詰めたものでしょうか。坂口安吾は「文学のふるさと」で、故郷は振り返るものだが、帰るところではない、と言っていました。自己に甘んじるな、ということでしょうか。挫折こそが原点。寺山修司〈ラグビーの頬傷は野で癒ゆるべしすでに自由を怖じぬわれらに〉。自由とは傷ついてこそ得られるものなのかとも思えます。特選句「水飲む手さくら受くる手祈りの手」:〈袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風や解くらむ 貫之〉と、水によって四季のめぐりをあらわしたように、この句は手によって春をあらわしているように思えたのと、生きている実感が端的に手で表現できているところに、感心しました。特選句「花万朶前世でお会いしましたね(花舎 薫)」:満開の桜の恐ろしさといえば、「櫻の樹の下には」とか「桜の森の満開の下」でしょうか。桜の魔力というのは、死を幻想させるか、狂気に駆り立てるか。そういえば、『櫻の園』でも死んだ子供が見えたとか見えなかったとか、ロシアの夜桜の陰鬱なところが出てきます。そういう延長線上に、この句もあるかなと思いました。見える筈もない前世の記憶がよみがえるなんて、でも桜の下でなら・・・と思わせるところがあり、面白いと思いました。以上です。今年は当たり年で、「長」と名の付くものが四つほど四月から出来て、会議のつづく毎日です。したがって、仕事とダブって、四苦八苦。これから一年間の長いトンネル、通り抜けを祈って、忍の一字です。みなさん、お元気ですか。よろしくお願いします。
- 向井 桐華
特選句「春昼の乳房とりあう子豚たち」。実景がしっかり見える句だと思います。ひしめき合うように子豚たちがお母さんの乳房をとりあう姿はとても微笑ましい。能登の大地震では、ミルクを破棄せざるを得なくなった哀しいニュースがあったが、このような句に出会うととてもほっとします。問題句「穴という穴のひらきて夕櫻(野﨑憲子)」。読みに迷いました。美しい夕桜に作者の毛穴すべてが開いたのか、桜の開くさまを穴という穴という措辞を使ったのかがわかりませんでした。→昔、天保山の夕暮れ、初桜寸前の櫻樹の幹々や枝々が真紅に染まっているのをみたことがありました。拙句は、櫻樹の開花の様を表現しました。
- 中村 セミ
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。感性の瑞々しさをかんじる。桜咲く言葉ってなんだろうと思ってしまう。こんないい俳句にまた、あいたいです。
- 柾木はつ子
特選句「富士に桜裾野に戦車の這いずりぬ」。まさに『戦争と平和』の象徴のような光景。しかもうっかりするとその不気味ささえもつい忘れてしまいそうな自然さ・・・これが日本の現実なのですね。特選句「一語一語泡立つやうに豆の花」。豆の花の咲き様を見事に表現されていて素晴らしいと思いました。
- 銀 次
今月の誤読●「このままで何も言わずにゐて桜」。わたしは両親とともにクルマでお花見に出かけた。といっても近場の公園や河川敷ではなく、着いたところはわたしのおうちからうんと離れた場所だった。海に面した切り立った断崖。その崖の突端に確かに一本の桜があった。お花見といえばそういえなくもないが、それにしてもヘンな場所を選んだものだ。父はクルマからレジャーシートを持ち出し、もくもくとそれを広げはじめた。母は水筒とバスケットから出したお弁当を、シートの上に丁寧に並べていく。両親は(クルマのなかでもそうだったように)一言も喋らない。黙っているのはわたしも同様で、あたかもだれかに命じられたかのようにただクチをつぐんでいた。「空気を読む」とでもいうか、いまは沈黙すべきときだというのが幼いわたしにもわかっていた。母が弁当のふたを取り、「さあ、お食べ」とわたしにいった。小ぶりのおにぎり、半分に切ったゆで卵、串に刺したプチトマト、タコの形に細工したウィンナとから揚げ、なにもかもが祭壇にまつる供物のように華やいで見えた。そのときわたしは思った、子どもごころにも「これが最後の食事」になることを。父のハアハアという荒い息、母はブルブルと震え、目にいっぱい涙を浮かべている。父は母をジッと見つめ、母は時折コクンコクンとうなずいた。わたしたちの頭上には満開の桜があり、それをすかして真っ青な空が広がっている。くまのぬいぐるみのような雲。そして崖下から聞こえてくる穏やかな波の音。そのすべてが禍々しかった。どれくらい時間が経っただろう。父は突然「ワッ」と叫び、お弁当をシートごと引きずっていき、崖から投げ落とした。わたしはおそるおそる、四つんばいになって崖っぷちに近づき、下をのぞき込んだ。そして見たのだ。一瞬だがほんとうに見たのだ。岩の上にわら人形のように横たわっているわたしたち三人の死体を。だがまばたきもしない間にその幻影は消えた。父は「やめた!」と大声を出した。母はわたしを力いっぱい抱きしめ、「帰ろ」といいつつ大泣きに泣いた。そしてわたしは両親と一緒におうちに帰った。クルマの車窓から振り返ると、一陣の突風が吹き、桜がザッと散った。
- 森本由美子
特選句「開花宣言今年も初めての老後(若森京子)」。日本人にとって桜は心張り棒のようなもの。齢80を過ぎ、今年も天気予報と開花宣言情報に一喜一憂し、思う存分桜を楽しむことが出来た。気持ちを新たにして、来年の花時までまた歩みを続けてみよう。そんな心情が伝わってくる。
- 大浦ともこ
特選句「手をふれば母は辞儀せり花朧」。親しみを込めて手を振る”わたし”に丁寧にお辞儀をする母・・どういう情景なのか想像をして、それから少し寂しさが伝わってきます。季語の花朧がしっくりときます。特選句「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。上五中七下五の”手”にそれぞれの役目を担わせ読むものを納得させる強さがあります。季語も効果的に使われていてリズムも気持ちが良い。
- 重松 敬子
特選句「フィナーレの手を振るさくらまたさくら」。フィナーレの華やぎが心に浮かびます。無駄な言葉なく、さくらを上手につかった秀句。
- 時田 幻椏
特選句「嘘つきは馬鹿正直に四月馬鹿」。「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。両句とも心地良いリフレインを頂きました。
- 高木 水志
特選句「チューリップたがいちがいの掌を合わせ」。チューリップの色とりどりに咲く景色を想像して、人々の願いが届けられることを連想しました。
- 山下 一夫
特選句「笑えればいいよと春の空家かな」。誰かが言った「笑えればいいよ」との少し諦めや虚ろさの伴う受容を漂わせるフレーズを「春の空家」に例えていると受け止めました。やや難解ですがじわじわきます。特選句「水飲む手さくら受くる手祈りの手」。上五に飢餓に追い込まれている人々の手、中七に幸せを享受する又は繊細な感受性を備えた人々の手、下五は上五に対する中七の人々の思いと理解しました。昨今の悲惨な情勢への血の通った思いが伝わってきます。問題句「落花静かテーブルにある小指かな(竹本 仰)」。静かに花散るひととき、テーブル上の手の小指をしみじみと見ていると読め、事情は不明ながら魅力的。しかし、どうしても切断された小指も連想してしまい不気味なテイストを感じてしまいます。「ある」は「見る」の方がよいかなどと思います。
- 菅原 春み
特選句「新宿二丁目原色にて朧」。原色にて朧という発想に新鮮な驚きを。特選句「手をふれば母は辞儀せり花朧」。朧の状態になっても尚、丁寧にお辞儀するご母堂。なんとも哀しいが、花朧に救いが。母娘(子)のほのぼの感がいいです。
- 末澤 等
特選句「さくら咲くことばが文字になるように」。私にとって、桜が少しずつ咲いてゆく様子が、俳句作りの際に頭の中で言葉になってゆく状況がピッタリ表わされていると思いました。
- 野﨑 憲子
特選句「春風と張り合ふ突っ走る鼻面」。一読後、この鼻面が夢にまで出て来た。得体の知れない、この何かの鼻面が春風と競い合っている。春風と鼻面。せめぎ合う破調の中句。昔の友の記憶を辿れば一番に浮かんで来るのが鼻面である。頑張れ!と思わず叫んでしまった。特選句「菜の花のルールきみには届かない(高木水志)」。<菜の花のルール>を、私は草木の正しさと取りたい。戦争の映像を見ていると、野のあちこちに地雷が埋め込まれ、いつ爆発するかも知れない。被害を受けるのは無辜の人類だけではない。生きとし生けるもの全てに被害が及ぶ。大自然のルールを詩に表現したらどうなるか?今、世界最短定型詩に、もっとも求められているものではないだろうか。
袋回し句会
花
- 雨しとど車を飾る花吹雪
- 三好三香穂
- つなぐ手の疼きわづかに花の冷え
- 和緒 玲子
- 花ひとひらふたひら三つの月が舞い降りる
- 野﨑 憲子
- 盗掘のヒエログリフや花の冷え
- 藤川 宏樹
- 花散れば水底の少女よみがえる
- 銀 次
- 世の中を空けたるごとく開く桜
- 藤川 宏樹
- 花筏押してバタ足いかがです?
- 薫 香
- 仏飯の少し乾きて花曇
- 大浦ともこ
- 身のうちのはためきやまず花の山
- 野﨑 憲子
- 仏壇の黒ひかりして花万朶
- 大浦ともこ
出
- 冬山に出づる夕月道しるべ
- 末澤 等
- おじ様の穴出ず桜日和かな
- 岡田 奈々
- 出港の出船入船椿咲く
- 島田 章平
- 陽炎の奥から出づる黒猫よ
- 野﨑 憲子
四月
- 四月来る子の捨てられるランドセル
- 島田 章平
- あくびしてくしゃみをしたらもう四月
- 薫 香
- 舌下錠ざらり四月の社員寮
- 和緒 玲子
- 四月のZZZことばになんかできないよ
- 野﨑 憲子
- 水はねて川横ぎって来る四月
- 銀 次
- 放鳩の四月一粒万倍日
- 大浦ともこ
- 四ン月や山むくむくと千の彩(いろ)
- 三好三香穂
硝子
- ピーマン切って中を硝子にしてあげた
- 藤川 宏樹
- 硝子戸に映る真実四月馬鹿
- 島田 章平
- コーラーの瓶より花瓶沖縄忌
- 島田 章平
- 硝子玉弾けるように咲く牡丹
- 岡田 奈々
Z
- Zの子会社やめるってよ黒南風
- 和緒 玲子
- 春キャベツ捲く新聞やXYZ
- 藤川 宏樹
- Xの投句炎上四月馬鹿
- 島田 章平
- Z世代の春眠あわてふためかず
- 岡田 奈々
躑躅
- ポッとつつじが進路指導の高低差
- 岡田 奈々
- 朝市のおばあ早起きつつじ咲く
- 島田 章平
- 躑躅燃ゆスマホ忘れてしまつたの
- 野﨑 憲子
- 春つつじ麗らかすぎて思案する
- 末澤 等
- 自尊心賭けたる戦白躑躅
- 藤川 宏樹
- つつじが昇華して福耳にピアス
- 和緒 玲子
【通信欄】&【句会メモ】
今回の高松での句会は14名の参加。午後1時から午後6時過ぎまで、事前投句の合評と、袋回し句会を楽しみました。もう少し、前半の事前投句の合評を圧縮してはとの意見と、勉強になるからこのままでの意見に分かれています。一応、終了時間は午後5時に決めていますが、会場主の藤川宏樹さんのご厚意に甘えて時間延長させていただいております。ご参加の皆さんと話し合いながら、より実りある楽しい句会への道を探っていきたいと存じます。今後ともよろしくお願いいたします。
あと少しで五月。お正月を過ぎたばかりと思ったら、もう、一年の半分近くが経っていました。次回は、150回の句会になります。一回一回を大切に多様性に富んたもっともっと熱い句会へと進化させていきたいと存じます。今後ともよろしくお願いいたします。
Posted at 2024年4月25日 午後 07:32 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]