第148回「海程香川」句会(2024.03.09)
事前投句参加者の一句
留守電の奧をゆったり春の川 | 松本 勇二 |
甘えれば古里の雪温きかな | 塩野 正春 |
冴返る辺野古の土砂に骨数多 | 島田 章平 |
春寒や獅子のたてがみ犬に生ゆ | 鈴木 幸江 |
雨垂れの耳に朗らか菜花かな | 岡田 奈々 |
河津桜耳たぶほのと息づけり | 大西 健司 |
春の昼団地の児等の拾円市 | 山本 弥生 |
冴返る姉の遺品の推理本 | 植松 まめ |
春塵や繰ることもない電話帳 | 松岡 早苗 |
愛しすぎてじゃまたねって枯茨 | 伊藤 幸 |
良い人に飽きてふらここ小半時 | 和緒 玲子 |
空は芯まで青し山頭火の野糞 | 稲 暁 |
残雪や稚児歩きして下山道 | 末澤 等 |
手水舎の柄杓の渇く余寒かな | 河田 清峰 |
ねこやなぎ子鬼の前歯が生へ替はる | 吉田 和恵 |
遍路の句残し寅さんまたも旅 | 岡田ミツヒロ |
二月堂より春鹿のやはきこゑ | 渡辺 貞子 |
紅梅の落花水面に吹きよせる | 佐藤 稚鬼 |
農に生き青麦匂う背筋あり | 森本由美子 |
午前二時かき集めたる君の音 | 薫 香 |
啓蟄や深爪肉を突き始む | 滝澤 泰斗 |
日和見を競い合ってる目高かな | 三好つや子 |
まっすぐな階段がある春の月 | 銀 次 |
九条の国冬の噴井のみどりかな | 野田 信章 |
祖母も母も笑い上戸桜餅 | 野口思づゑ |
白梅りんりんりん介護うつ五年 | 向井 桐華 |
ミモザ咲くいのち犇く国境線 | 桂 凜火 |
冬の蚊の吹けば飛び立ちまた戻り | 時田 幻椏 |
頬染めてスカートに手を春疾風 | 漆原 義典 |
森を抜け天文台へ二月尽 | 松本美智子 |
蜃気楼このやるせない未來地図 | 若森 京子 |
白梅や時に言葉が邪魔になる | 柴田 清子 |
連ねたるインクの莟春まつり | 男波 弘志 |
蟇俯瞰浮遊の我が身なり | 疋田恵美子 |
水温む異人さんも一緒よ笑い声 | 綾田 節子 |
ふり返り妻をまちゐる梅日和 | 佳 凛 |
古雛が光の中にいる時間 | 月野ぽぽな |
空の青海へと繋ぐ野水仙 | 風 子 |
おっさんの呟きに似る涅槃西風 | 荒井まり子 |
大朝寝遍路の鈴の遠ざかる | 丸亀葉七子 |
蟻穴を出て歩兵怖々陽を浴びる | 豊原 清明 |
陽を吸って首を産みゆく椿山 | 山下 一夫 |
坂道を龍馬も子規も菜の花忌 | 川本 一葉 |
遠雪嶺教室一列目の顔です | 佐孝 石画 |
春の木の歩幅となって少女来る | 三枝みずほ |
心胸を未来形へと変える春 | 藤田 乙女 |
集散すこれでいいのだ猫の恋 | 藤川 宏樹 |
蕗味噌の香り立ちます集会所 | 樽谷 宗寛 |
しんしんと骨降りし道墨溢れ | 中村 セミ |
大甕はころがして拭く 春一番 | 津田 将也 |
猫の恋うずらの卵丸呑みのよう | 十河 宣洋 |
昨日より少し前向き風光る | 山田 哲夫 |
理科室の鍵じやらじやらと遅日かな | 小西 瞬夏 |
弔いもなく無縁仏に春の雨 | 田中アパート |
伊豆の地に馴染み麗らか朝寝かな | 寺町志津子 |
手水舎に蝶のまぎれてもう正午 | 谷 孝江 |
三月や動きたくない水も居る | 河野 志保 |
もしかして怒つているかも雛達よ | 柾木はつ子 |
鳥の恋祈り覚える十六歳 | 増田 暁子 |
遠屋島一人舞台の冴返る | 福井 明子 |
猫の死を一切見せず春の山 | 菅原 春み |
桃の咲くころ婆は象形文字めけり | 飯土井志乃 |
ぽつねんと雲を見ている雨水かな | 重松 敬子 |
風花に大口開けて楽しめり | 田中 怜子 |
春浅い眠りの先の夜汽車かな | 竹本 仰 |
春の土生まれた朝に飛び立とう | 高木 水志 |
鮨十貫昼酒一献春うらら | 亀山祐美子 |
涅槃西風乗換駅で待ってます | 榎本 祐子 |
花吹雪浴びて今年の夢ひらく | 三好三香穂 |
喪の家のひそとにぎはふ花ミモザ | 大浦ともこ |
病床の空より花を仰ぎけり | 小山やす子 |
一人より二人の孤独春の海 | 石井 はな |
いぬふぐりデモで会う人みな友に | 新野 祐子 |
壺すみれ賑やか過ぎる水の星 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 十河 宣洋
特選句「陽を吸って首を産みゆく椿山」。首を産むが抽象過ぎて分かりにくいが、椿が咲く頃の状況を思った。私の地方は椿は自生しないが椿が咲いている山の気分が伝わってくる。首は椿の首とも取れるし、それを見に行く人の首とも取れて面白い。山がざわざわと動きだしたような気分。特選句「梅咲いて昨日の風を塗り直す(佐孝石画)」。昨日より暖かい風が吹き始めた。昨日はなんとなく風が冷たいと感じていたのだが。という気分。塗り直すが面白い表現である。
- 松本 勇二
特選句「一人より二人の孤独春の海」。二人の孤独のほうが大きいと気づいた作者。二人して、しずかに空を見上げているような映像が浮かびます。
- 柴田 清子
特選句「農に生き青麦匂う背筋あり」。農に一生をかけた気骨が青麦と男の背筋で詠い込まれている。
- 山田 哲夫
特選句「ねばならぬ事の放擲鳥雲に(柾木はつ子)」。人の日常の中で際限なく追い掛けてくる「ねばならぬ事」。社会が複雑化すればするほど、重要な仕事や立場に置かれれば置かれるほど、又、几帳面に全てをこなそうとすればするほどこれが増え、終にはその幾つかを選択し、幾つかを放擲せざるをえなくなる。現代を生きる我々は誰しもそういう現実に向き合い、思い思いにまたは無意識的に「放擲」を余儀なくされて生きている。その放擲を意に解せぬ人もいれば、なんとかしなくてはと足掻く人、気にしながらもやり過ごす人、すぐに忘れてしまう人、など世の人は様々。この句には、そういう現実に対し決して顔を背けず、現実を直視して、しっかり整理選択して諸事を処理していこうとする作者の真摯な姿勢がほの見えて、強く共感させられるものをかんじた。下五の「鳥雲に」がよく効いている。
- 樽谷 宗寛
特選句「ねこやなぎ小鬼の前歯生え替わる」。草田男の万緑の中やの句を想う。ねこやなぎに小鬼の前歯の取り合わせが面白い。
- 岡田 奈々
特選「挨拶はいつも小走り春一番(河野志保)」。新学年が始まって、学校に行く子。きちんと時間に起きられる子は普通に挨拶するけど、いつもきちきちに起きて慌てて学校に。旗振りのおじさんに小走りで、「おはようございます。」私は挨拶する人ももういなかったな。校門も締められそう。特選句「三月や動きたくない水も居る」。何しろ子供時代の私は、動いたり、挨拶したり、笑顔を見せたりするのが大の苦手。「河津桜耳たぶほのと色づけり」。若さって良いね。「良い人に飽きてふらここ小半時」。どんなに好きでも腹立つ時はある。「農に生き青麦匂う背筋あり」。農家のおじさんの仕事を見ていたら大きく動いているわけではないが、細々した作業の上に作物が育つんだね。「日和見を競い合ってる目高かな」。目高の動きが面白い。「ふり返り妻を待ちゐる梅日和」。梅の香が馥郁と香る昼下がり。夫婦揃って散歩は一番のリクリエーション。「大朝寝遍路の鈴の遠ざかる」。子供時代の私は朝寝坊大好き。祖母の家で、寝ていて鈴のなるのを聞いていた春。「桃の咲くころ婆は象形文字めけり」。桃の花の晴れやかさと、その下で、農作業をしている婆の屈み具合が絶妙な対を成している。「雛の間や大和ことばの息づかい」。秘やかにお話しされている男雛女雛の艶やかさと睦まじさ。
- 月野ぽぽな
特選句「空は芯まで青し山頭火の野糞」。「大頭の黒蟻西行の野糞 兜太」へのオマージュとして、やはり旅を命とした放浪の山頭火を配して成功していると思います。定型感を残した破調も山頭火とマッチします。そしてそして、読後に「うんこのように」産まれた定住漂白の兜太師も脳裏に登場する悦びがありました。
- 島田 章平
特選句「二月堂より春鹿のやはきこゑ」。美しい調べの句。小鹿を呼ぶ母鹿の優しい声が聴こえてくる。
- 福井 明子
特選句「一人より二人の孤独春の海」。一人よりは二人、寄り添えば孤独じゃないよね。…それが、違うのです。いよいよ他者との距離を感じ孤独感が増すのです。孤独とは、誰もが一生抱え持つ自由でもあるのかもしれません。この妙を、広大な春の海の器にくるんだ一句。胸に落ちました。
- 藤川 宏樹
特選句「大甕はころがして拭く 春一番」。太古からずっと欠かせぬ大甕。水を貯め冬の生活を支えた大甕。春の支度に洗い終え、ゴロゴロころがし拭いている景。生暖かい春一番に干し物がはためいている背景。北斎描く画が浮かび楽しめました。
- 植松 まめ
特選句「冴返る辺野古の土砂に骨数多」。県民の民意を聞くこともなく辺野古の海は埋め立てられてゆく、そして埋め立ての土砂には沖縄戦で亡くなった人達の骨が混じっている。冴返るの季語が鋭い。特選句「蜃気楼このやるせない未来地図」。未来図の主宰であった鍵和田?子師の句に「未来図は直線多し早稲の花」の名句がある。若々しい希望溢れる句であるが、特選句にしたこの句は今の世情を詠んでいるのだろう未来に希望がもてない政治に希望がもてない。蜃気楼の様な不確かな時代だ。「理科室の鍵じやらじやらと遅日かな」。中学校時代の恩師を思い出しました。私はよく理科室に遊びに行っていました。面白い先生でした。季語の遅日がいいなと思います。
- 男波 弘志
「立春の人差し指から爪を切る」。このままでも十分ではありますが、もっと暗喩を与えた方が重層性が生まれるだろう。たとえば「きさらぎ」とすればどこかに屈折感があろう。秀作「赤い実に樹氷まるで胎児のよう」。内容は極めて豊満ではあるが、韻文詩の切れが叡かに不足していると思う。たとえば「赤い実を囲いし樹氷胎児のよう」どちらが好みかは、どこまで韻文詩を貫く覚悟があるか、否か、 であろう。しかし17音の一行詩に韻文精神がなくなったとき、俳句の形式美はもうないであろう。俳句そのものも無くなっているであろう。秀作
- 大西 健司
特選句「空は芯まで青し山頭火の野糞」。山頭火がさぞ苦笑していることだろう。未だに野○○を書くことを若い人はどう見るのだろう。そう思いつつ「空は芯まで青し」と書く事により、えも言われぬ爽快感があるのを否定できない。季節は初夏の頃だろう。山頭火の青い山が思われる。こういう句が好きなのは困ったもんだ。
- 小西 瞬夏
特選句「春浅い眠りの先の夜汽車かな」。春の浅い眠りのなか、ぼんやりとうつつと夢とをいったりきたり。その先に夜汽車があるということは、これから眠りに入るところなのだろうか。その夜汽車はどこからきて、どこに行くのか。自分自身の無意識の中に入っていくようである。
- 豊原 清明
特選句「蟇俯瞰浮遊の我が身なり」。選句表読んで、蟇が飛び込んで来るように思いました。言葉が、決まって、気持ち良い句に思いました。問題句『ドッペルゲンガー「思いのまま」とう梅ありて(伊藤 幸)』。バラバラなようでいて、繋がりがあると思いました。「ドッペンゲンガー」で取ったので、こちらの鑑賞がぼんやりしてます。選句のこちらの問題かと思って。
- 疋田恵美子
特選句「伊豆の地に馴染み麗らか朝寝かな」。理想の地で暮らす、最上の幸を思います。特選句「空の青海へと繋ぐ野水仙」。能登半島の一日も早い復興をお祈りするばかりです。北陸本線の旅で見ました、斜面一面の水仙が特に印象的でした。その景色が思い出され頂きました。
- 河田 清峰
特選句「ミモザ咲くいのち犇めく国境線」。華やかに力強く咲くミモザでも国境は無くせないのだろうか?鳥や雲のように自由に行き来したいものだ。いつも句会報ありがとうございます!兜太祭行って来て下さい!
- 鈴木 幸江
特選句評「啓蟄や深爪肉を突き始む」。子供の頃は、私もよく深爪を何故かしてしまったものだ。その指がちょっと物に触れるだけでとても痛かった。自分でしでかしたちょっとした失敗の痛みの大きさに驚いたものだ。私は未だ「啓蟄」という季語をうまく消化できない。自分の才能のなさに直面している今日この頃。しかし、失敗することが人生のプラスになってゆく過程をこの句の「啓蟄」から感受した。失敗しつつ成長してゆくいのちの有態を表現していると勝手に解釈して特選。「切り離せないものに風船と子供(柴田清子)」。この句も子供の頃の生々しい思いを蘇らせてくれた。風船はとても大切なものだから空へ逃がしてはいけないと、ちょっとした油断から飛んで行ってしまってからその大切さに気が付いた切ない経験がある。あの時の生の思いは、決して忘れてはいけないときっと作者は伝えたいのだろうと思った。同感である。
- 野田 信章
特選句「鳥の恋祈り覚える十六歳」。「鳥の恋」、この季感に寄せての作者の思いの込もった句である。難しい年頃を迎えて、祈るということを覚え初めた者への期待と不安感の込もった眼差しが限りなく美しい。
- 河野 志保
特選句「春塵や繰ることもない電話帳」。ふとした日常の気付きが憂いを帯びた一句になった。「春塵」という季語が、時代の流れと一種の感傷を際立たせていると思う。
- 塩野 正春
特選句「一人より二人の孤独春の海」。詠まれてみると確かに二人の方が孤独を感じることも多い。私ならこうするんだがと、胸にストレスを抱えて生きていく。かといって一人になればさらに悲しむ人間の性(さが)。特選句&問題句「古雛が光の中にいる時間」。古雛の立場に立って、果たして光に長く当たった方がよいのか、暗闇にじっとしている方がいいのか迷う。作者は問題を出してから逃げた感じ。古雛は例えば私のような老人なのか。だとしたら光はあまりいらないかも。句を受け取った人が考える自由度が多く迷う。
- 松岡 早苗
特選句「空は芯まで青し山頭火の野糞」。「野糞」で終わる句ですが、とても爽やかですっきりとした読後感がありました。「人間よ自然に帰れ」ではないですが、自然と人間が共鳴する幸福感があふれているように感じました。特選句「まっすぐな階段がある春の月」。「まっすぐな階段」と「春の月」の取り合わせ。人造物と自然物の対比、直線の剛と曲線の柔のコントラストが絶妙。月光に浮かぶ階段は、幻想的、心象的な美しさを醸し出していると思いました。
- 薫 香
特選句「春の風滅多矢鱈とふわふわす(小西瞬夏)」。春の風を思い出してみると、心がほどけそうな、ふわふわした感じを滅多矢鱈と言う言葉をチョイスして詠んでいるのがとっても素敵です。特選句「つきまとう春愁信号は青(森本由美子)」。なんとなく物思いにふけることが多い春は、振り払っても振り払っても思いは押し寄せる。信号は進めの青なのにね。
- 末澤 等
特選句「日と風と鳥くすぐりて山笑ふ(風子)」。「くすぐりて」を季語「山笑う」にかぶせることで、嫋やかな春の訪れを非常に上手く表現していると思います。
- 風 子
特選句「古雛が光の中にいる時間」。雛の箱の闇からつかの間光の中に…静かな時間が流れる。「白梅りんりん介護うつ五年」。自然の中に心を遊ばせて、のきれい事だけではない俳句。白梅はりんりんと輝いています。今しかできない俳句が素晴らしい。「鮨一貫昼酒一献春うらら」。町でお会いして、お誘いを受ければ喜んでお相伴いたします。春ですもの。
- 佐孝 石画
特選句「三月や動きたくない水も居る」。水溜りか、川か。少し暖かくなってきて、散歩にも出かけたのかもしれない。春めいて、草木は青み初め、河川は雪解けを受けて流れを速くしていく。そこにふと自分に似た天邪鬼な水を見つけたのだろう。「動きたくない水」。水に意思を感じ、共鳴していくその感性に、強く共感した。
- 田中 怜子
特選句「凍て空に米兵自裁の身を焦す(新野祐子)」。地味な句だけれど、良心がそうさせたのですね。上の命令に唯々諾々でなく、己の考えをもっていた兵士なのですね。「春の昼団地の児等の拾円市」。団地住まいの子どもらの声、誇り、元気が伝わります。「雛の間や大和ことばの息づかい」。ひっそりと息づかいがあるような感じわかるな~。この家の女性たちの思いの歴史が重層している、怖いような。「涅槃西風乗換駅で待ってます」。こんな風に吹かれるなんて気持ちがいい。懐かしさも感じます。
- 高木 水志
特選句「春の原発もう妊れぬ水の音(三枝みずほ)」。原発の恐ろしさは東日本大震災で知った。
- 山本 弥生
特選句「春塵や繰ることもない電話帳」。スマホのお陰で必要な電話番号は入力していて令和の現代では電話帳を繰って番号を探す事も無くなった電話帳を大事に保管している。季語の春塵がよく効いている。
- 漆原 義典
特選句「祖母も母も笑い上戸桜餅」。笑い上戸と桜餅が決まっています。桜餅を食べながら、祖母と母が笑い、傍で娘さんが笑っている。ほのぼのと温かい、幸せ一杯の家族が良いですね。
- 三好三香穂
「農に生き青麦匂う背筋あり」。日本の農業はどうなるのでしょうか?自給率は低いし、もしもの時は、飢餓になるやも知れません。こういう爽やかな人がもっと増えて欲しいです。「水温む異人さんも一緒よ笑い声」。ウーフという制度があり、世界の若者は、これを利用して旅に出る。6時間の労働と、寝食との交換、金銭は一切介さないで。我が家には、この制度でもう何百人もの若者異人さんが滞在しては、また旅立つ。まさに日常風景を詠んでいただいた感じです。 「大朝寝遍路の鈴の遠ざかる」。春は眠い。若い頃は大朝寝ができましたね。今はせいぜい9時起床で、大朝寝。お遍路の鈴を聞きながら、昼過ぎまで寝てみたいものです。「鮨十貫昼酒一献春うらら」。飲んべえの憧れです。「一人より二人の孤独春の海」。心が、通わなくなれば、そういうこともあるわねえ。お一人様は自由そうです!
- 若森 京子
特選句「鳥の恋祈り覚える十六歳」。この明るい一句に哀切を覚える感性に魅かれた。鳥の恋の純粋で真剣に命をかける姿に圧倒される。祈る十六歳は初恋をしたのであろうか誰もが通ってきた道。現実の厳しい未来が待っている。特選句「空は芯まで青し山頭火の野糞」。兜太先生の「大頭の黒蟻西行の野糞」を思い出した。タイムスリップして西行のしゃがむ側を大蟻が歩いていたのであろうと。この句も当時放浪していた山頭火をリアルに感じられる。
- 伊藤 幸
特選句「九条の国冬の噴井のみどりかな」。熊本の市街地に緑豊かな湧水湖があ り年中を通して貴重な水生動物や野鳥を見ることができる。戦の絶えぬこの世界で戦争放棄を憲法で定めた日本の平和が永遠に続きますよう祈るばかりである。特選句「蜃気楼このやるせない未來地図」。暴動、テロ、侵攻、混乱する世界。まさに先の見えない未来地図だ。
- 津田 将也
特選句「二月堂より春鹿のやはきこゑ」。春になると鹿は、冬毛の脱毛により毛並み・毛色がまだらに色褪せて醜くなる。雌鹿は子を孕み、動作が鈍く、大儀そうになっている。雄鹿は角が抜け落ちるので、人の目には一段と哀れにうつる。作者が春鹿を詠むに、細く弱く鳴く鹿の「やはきこゑ」に耳を留めたことで、まだ寒いが・・春の足音・息吹がかすかに感じられる「早春」の季節感を表せた。
- 三好つや子
特選句「おっさんの呟きに似る涅槃西風」。お彼岸になると、大阪の四天王寺では多くの人で賑わいます。そんな境内の隅っこにある屋台で、焼き栄螺やおでんをつまみ、酒を飲みながら、人々を見ている中年男が浮かびました。涅槃西風が吹く頃の、あたたかで、すこし哀しい光景をみごとに切り取り、味わい深い。特選句「坂道を龍馬も子規も菜の花忌」。日本が近代化してゆく時代の坂道を、高い志で生きたヒーローたちの青春群像、まさに司馬遼太郎の世界が一句に凝縮され、心に刺さりました。「三月や動きたくない水も居る」。何をするにも億劫なこの季節ならではの気分をユーモラスに捉えています。「春の原発もう妊れぬ水の音」。福島第一原発での、浄化されずにいる汚染水に思いを馳せました。目を逸らすことのできない重いテーマに、共感。
- 中村 セミ
特選句「おでん炊く善と悪とを綯い交ぜに(植松まめ)」。おでんの鍋のなかには、どうであれ、色々入ってる。闇鍋といって,電気を消して,食べる物もある。社会の集団の中も色々な方がおり、個人の善悪いりまじり、おでんを炊く様だとよんだようにも、かんじられる。蛇足だが鍋から,ぶくぶく気泡も上がる時もあると思うが、気泡に濁点、をつけると希望になることもある。
- 銀 次
今月の誤読●「春の木の歩幅となって少女来る」。春の日の気持ちのいい昼下がり。ボクは公園のベンチに腰掛けて本を読んでいた。ふと顔を上げると木立のなかから一人の少女が歩いてくるのが目に入った。薄汚れた白いブラウスとはき古したジーンズを身につけているが、その顔は驚くほど美しい。少女はまっすぐにこちらのほうにやってくる。目の前に立つと、アゴをクイと動かし「そこ、坐っていい?」と訊く。ボクはコクンと大きくうなずいた。もう本どころではない。ただドギマギしてチラチラと少女のほうをうかがうばかりだ。しばらくたって少女はふいに「わたし妹がいるの」と話しはじめた。ボクは会話がはじまったことにホッとして「うん」と少し身をのりだした。その「妹の話」は有り体にいって少々うさんくさいものだったが、彼女の美しい声でとつとつと語られると説得力にあふれたもののように聞こえた。なんでも、その妹は、もともと病弱でひ弱だったのだが、最近になって大きな病いにかかり家をでることができなくなったのだという。一日中家に閉じこもって粗末なベッドに横たわるしかないのだ。天涯孤独の姉妹は頼る身よりもなく、食べ物も身のまわりの世話も少女の手にゆだねられているのだ。小半時も話を聞いていただろうか、少女は唐突に「お金、くれない?」と切り出したのだ。ボクはハッとわれに返って「もちろん」とポケットを探り探りして持ち金をぜんぶ彼女にわたした。少女はスッと立って「ありがと」といったきり歩きだした。春の野を、別のカモを探して。
- 野口思づゑ
特選句「一人より二人の孤独春の海」。大共鳴句です。私も同じ趣旨の句を作ったことがあるのですが、一人の孤独は当たり前、でも二人でいれば幸せ、との思い込み、世間ではかなり強そう。ただ二人でいても互いに気持ちが噛み合わない、考えが違い過ぎる時などの寂しさ、または何らかの事情で二人が社会から孤立してしまった場合などの孤独感は、一人の時より強くなる。ほとんどの人が幸せな気持ちになる春の海を前にしたらその寂寥感はいっそう強まる。特選句「春の木の歩幅となって少女来る」。春の明るい陽光を背に木から木へスキップで跳んでいる少女の姿が浮かびます。まるでフランスの印象派絵画。
- 荒井まり子
特選句「白梅りんりん介護うつ五年」。薬を服用していた暮しの右往左往。白梅が眩しい。
- 和緒 玲子
特選句「手水舎に蝶のまぎれてもう正午」。初蝶であろうか、手水舎を行ったり来たり。その動きを時間が経つのも忘れて見入ってしまった。ひらひらと儚げで、かつそう見えてこちらが誘われているようでもある蝶の翅の動きがスロー再生のよう。美しい夢のような調べから、下五で一気に我に返ったような感覚である。手水に常に流れ落ちる水音も聞こえる。
- 寺町志津子
「竜の玉風の便りに友の訃ぞ」。年を重ねるにつれ訃報が多くなって心沈みますが、ことに友の死は堪えます。「花吹雪浴びて今年の夢ひらく」。景がよく見え、元気を頂きました。春らしく明るい前向きな御句も多く、心暖まりました。
- 桂 凜火
特選句「春の雨みている石の女神たち(月野ぽぽな)」。石彫の視線を描くというのは新鮮でした。石は大理石なのかもしれない。春の雨の中、やわらかな息遣いすら聞こえるような白くて美しい女神たちの姿が目に浮かびます。特選句「古雛が光の中にいる時間」。時間をこんなふうに止めることができていることに感動しました。古い雛がもつ長い時間と今が交錯することができていてすばらしいと思いました。
- 綾田 節子
特選句「白梅や時に言葉が邪魔になる」。季語と中七下五が上手くかみ合っていて、白梅の美しさを感じます。特選句「いぬふぐりデモで会う人みな友に」。季語が上手いですね。デモは志が皆一緒ですものね。
- 岡田ミツヒロ
特選句「つきまとう春愁信号は青」。春愁とは、生きているということ、そして生きている信号は青!さあ行くか、春愁よ。特選句「春の原発もう妊れぬ水の音」。太古より海の幸を生み育み人を養ってくれた母なる海、だがトリチウムの海は不妊の海。「水の音」は、海の、魚たちの怨嗟の呻きであり未来の扉の閉ざされゆく音・・・。
- 菅原 春み
特選句「冴返る辺野古の土砂に骨数多」。臨場感があり、ことばもでない現実をよんでいるのかと。特選句「農に生き青麦匂う背筋あり」。こういった背筋はなんとも懐かしく、日本人の原風景かとも。
- 稲 暁
特選句「みな消えてしずかの地球涅槃西風(榎本祐子)」。作者は、核戦争のあとの地球を想像しているのだろう。静まり返った地球に空しく吹く涅槃西風が不気味だ。 特選句「泣き虫な魔女のじゅうたん落椿(山下一夫)」。泣き虫な魔女とはどんな魔女なんだろう。季語もよく効いている。
- 柾木はつ子
特選句「白梅や時に言葉が邪魔になる」全くその通り!言葉では自分の思いを的確に伝えることが出来ない時がありますね。そんな時は黙って微笑むだけ…。特選句「昨日より少し前向き風光る」。春はとかくに気持ちが不安定になりがちですね。でも今日は陽の光が燦々と降り注ぎ風も心地よく感じられます。そんな時は何か希望が湧いてきますね。この気持ちよく分かります。
- 重松 敬子
特選句「まっすぐな階段がある春の月」。まっすぐな階段が、春の到来を感じさせます。冬を越えた安堵感、世界中が好転するような気分になってしまいます。
- 竹本 仰
特選句「ミモザ咲くいのち犇く国境線」。国境というのはつねに厳しい現実であると思います。そして国境線も有るようで無いような、つねに揺れ動くものです。それとは対照的にミモザの花はほんのり優しく自然で、ここに寄ってごらんよと語りかけてくるようです。何の配慮もためらいも要らないのです。一つしかない国歌に対し、さまざまな民謡や愛の歌があるように、平和を欲する貴い声もまた現実です。朝ドラでも見られたように歌手の前線兵士慰問でも、淡谷のり子やマリリン・モンローが熱く彼らの心を打ったようです。慰問とはいうけれど、現実にはそれも或る戦いではなかったか。ミモザの花も戦っているのだな、と思わせました。特選句「春の木の歩幅となって少女来る」。はて、どこかで見たような、あの歩き方は…。と、ほんの時たま見かける近所を散歩する或る女性に思ったことがあります。学生時代の知り合いの方にそっくりすぎて、気がつけばその姿を復唱している自分がいます。その感じは、ほんとに違った空気が動いているという感じです。何かドキッとさせる感じでしょうか。歩く姿というのは不思議です。本人はまったく気づいていないのですが、二人とはいないただ一つだけの歩き方をしているのです。波郷の句に〈バスを待ち大路の春をうたがはず〉というのがあります。春が来たと思わせるような歩幅の歩き方、間違いなく存在するのでは、と思います。特選句「一人より二人の孤独春の海」。相手がいる方がより強く感じてしまう孤独。一人の孤独ではない、より痛切な孤独。先日、ミッシェル・ビュトールの『心変わり』という文庫本を読みました。パリに妻子がありながら、ローマにいる恋人に、相手にも知らせずに会いにゆくという、そんなパリからローマ行きの列車の中の数時間を描いたものでした。その間じゅう、恋人に、妻に、そして何よりも自分に語りかけるその言葉の連続なのですが、決められた時間のその車室に居ながら、もう救いがたく茫洋と孤独にさまよう姿が印象的で、その感じを思い出しました。本当は一人芝居なんだよ人間は、と感じてしまう。この句では、二人、春、という孤独とはコントラストにある語を使いながら、孤独を際立たせている点がいいなと思いました。
三寒四温とはいうけれど、毎日がほんとに異なる顔をした日常に戸惑います。春ってこんなだったけか。たぶん、去年の春とも、今までの春とも違うのでしょうが、そう言えば今年はこちらのイカナゴ漁が解禁日とともに一日で漁を終えたというのが話題になっています。大幅なイカナゴの減少で、来年のためにそうしたのだということです。そんな貴重なイカナゴのぬた和えをご近所さんからいただきましたが、その小骨が歯にひっかかり、取ってみると、なんとまあ透明な粒状の小片がありました。ありがとう、と思わず言ったことでした。いつもと違う春、でも春、そんな一日一日の発見を大事にしたいと思っております。みなさん、お元気で。
- 滝澤 泰斗
特選句「良い人に飽きてふらここ小半時」。良い人は、まじめで、地味で、人に対しやさしく、危なげないイメージがあるが、見方を変えると、それ故に、わくわくする魅力に乏しく、スリルも無い。そして、ぼんやりするブランコでの小半時。この辺に来ると付きすぎ感満載だが、良い人で一句を生むことはなかなか難しいと思われるが、その佇まいを上手にものにした感が強い。特選句「祖母も母も笑い上戸桜餅」。寒い冬から抜け出て、陽光輝く時期の春の感いっぱいの笑い声が絶えない気持ちの良さでいただいた。桜の木に行っちゃうと、薄ら寒さや、さくら散るのイメージで、せっかくの笑い上戸が活きなくなるところに桜餅を持ってきて、無事着地と言ったところ。「冴返る辺野古の土砂に骨数多」。とにかく、都道府県の中で身につまされる県は沖縄を置いて他にない。国は、何が何でもアメリカしか見ていない。西村寿行氏の「蒼茫の大地・滅ぶ」ではないが、沖縄は独立を勝ち取れと言いたくなる。「戦またムンクの口開く2月尽(増田暁子)」。ムンクが描く「叫び」は本人が叫んでいるのではなく、自然の大きな力に耳を塞いでいる・・・と。パレスチナとユダヤの戦いはかれこれ100年続き、プーチンのウクライナ侵攻に耳を塞ぎ、驚きのあまり開いた口は2年も閉じずにいる。「九条の国冬の噴井のみどりかな」。冬で枯れずに沸き出でる豊かな井戸と素晴らしい緑野の日本は戦争を放棄しているのに・・・ミサイル配備だの、オスプレイだのとどういうことと反意の句と受けっとった。「ミモザ咲くいのち犇く国境線」。幸せの黄色いハンカチやゴッホのひまわりに感じる黄色の温もりのように黄色いミモザは春を呼ぶ花だが、皮肉にも、ネタニエフの狂気から逃れようとパレスチナの難民が殺到している国境に咲き誇っている。
滝澤さんがAmazonから電子書籍『満州棄民史開拓団教師の逃避行』出されました。スマホパソコンで見て読む本です。スマホにkindleというアプリをインストールし書名を入力すれば読めるそうです。滝澤さんの恩師の体験談を元に書かれた本です。高橋たねをさんも、満州から命からがら引き揚げてきたと聞いています。もう戦争は懲り懲りです。紙の本しか読んだことがありませんが、何とか挑戦してみたいと思います。既に読まれた方が、無料で読めるとも話されていました。
- 吉田 和恵
特選句「壺すみれ賑やか過ぎる水の星」。人種だの宗教だの国境だのと喧しいこと。地球という豊かな星で、いちばんおバカな生きものは人間かも知れない。壺すみれはふと思うのです。
- 榎本 祐子
特選句「春浅い眠りの先の夜汽車かな」。春浅い眠りの意識の奥にある夜汽車の仄灯りは、郷愁のような心地良さで深い眠りの世界へ連れていってくれる。
- 時田 幻椏
特選句「立春の人差し指から爪を切る(津田将也)」。「まっすぐな階段がある春の月」。口語体の何気ないそっけなさが新鮮でした。特選に準ずる一句「良い人に飽きてふらここ小半時」
- 新野 祐子
特選句「空は芯まで青し山頭火の野糞」。読めば読むほどいい感じ。山頭火の句に「飯のうまさが青い青い空」があります。糞は米が異なったものですね。この句は山頭火の句に匹敵するなぁ、と思いました。
- 山下 一夫
特選句「春雷や馬の臭いを嗅ぎに行く(大西健司)」。舞台は農村かと思われますが、自分の趣味に引き付けて春雷の音に馬群の蹄音を聞きつけた競馬狂が競馬場に向かう情景と読んでしまいます。いずれにせよ「臭」と「嗅」の重複が生々しく臭覚の記憶を喚起。ああ早く行きたい。特選句「地味な子の何処まで飛ばす石鹸玉(和緒玲子)」。地味な子にも夢はありそれだからこそ遠大と受け止めました。石鹸玉で遊ぶ子をあえて「地味な」と形容することで「石鹸玉」との対比や通底などの意味的なつながりを生み出すことに成功していると思います。問題句「春の木の歩幅となって少女来る」。全体として伸びやかな生命感が心地よい句なのですが「春の木の歩幅」が謎。成長が加速して急速に身長が伸びてきた前思春期女子を寿いだものでしょうか。
- 亀山祐美子
特選句『春塵や繰ることもない電話帳』携帯電話が普及し検索すれば何でも答え てくれる便利な世の中になった。もはや電話帳は用をなさない。街角の公衆電話だろうか。繰ることもない電話帳に春塵が薄っすらと溜まっている。以前携帯を忘れ人様に携帯を借りたことがある。手元に緊急連絡帳があり事なきを得た。二三の家の電話番号なら覚えているが携帯となると自分のものさえ危うい。便利になった分段々と人間が馬鹿になりつつある。特選句『三月や動きたくない水も居る』三月水ぬるむ季節。自然界が動き出す季節。山河の水が連鎖的に動き出すがそこに留まりたい水だっているはずだ。私と同じように。卒業就職転勤等々人も動く。新しい生活に向かう人も多い。留まりたい自分と期待感溢れる自分。やるせなさが伝わる。
- 川本 一葉
特選句「留守電の奥をゆったり春の川」。家電話にかけて留守電。お母さんの声でのアナウンスでしょうか。家の風景匂い、その周りの風景、そして匂い、音、記憶がぐるぐる廻ってる。そんな作者の望郷の心が見えるようです。
- 三枝みずほ
特選句「九条の国冬の噴井のみどりかな」。社会性のある言葉を詩へ昇華させた。冬の噴井の揺らぎや音を静かに聞けば、九条がどういうものかがわかるだろう。この静謐な世界に流れる意志をみどりとして感受したい。
- 飯土井志乃
今月は好きな句が多くて一句に決められませんでした。来月が楽しみです。皆さまの選句を読ませていただいてその選句力に学ばせていただく昨今です。
- 森本由美子
特選句「留守電の奥をゆったり春の川」。急ぎの用件でないのは確か。せわしさのない口調は春の川のうねりのよう。LINEやWhatsupによって必要以上にせかされない時代が懐かしく思い出される。
- 松本美智子
特選句「大甕はころがして拭く 春一番」。大きな甕を使って何を作っているのでしょうか。「春」と甕の形や雰囲気が合っていると思います。季語の「春一番」の埃をふいているのでしょうか。ころんと転がって拭かれている大きな甕の中身を想像します。「つきまとう春愁信号は青」。問題句ではありませんが・・・「春愁」の気の重い感じを表すのなら信号はなぜ「青」なのか「赤」「黄」を選ばずに「青」なのか作者に聞いてみたくなってひっかかった句であります。
- 佳 凛
特選句「祖母も母も笑い上戸桜餅」。今迄 色々な事があったでしょうが、何と平和でしょう。桜餅を食べて笑い転げてる.日本中に世界中に笑いが広がる事を、願っています。まずは、近くへ笑いを広げたいと思います。
- 大浦ともこ
特選句「白梅りんりんりん介護うつ五年」。自然の生命力に圧倒されそうになる日々を送られているのか・・・りんりんりんが心に響きます。特選句「春の木の歩幅となって少女来る」。少女の瑞々しい柔らかさと『春の木の歩幅』という表現がとてもしっくりとして、何度も口ずさみたくなります。
- 野﨑 憲子
特選句「集散すこれでいいのだ猫の恋」。<猫の恋>とくれば、先ず浮かんでくるのが「恋猫の恋する猫で押し通す(永田耕衣)」だ。とにかく変節しない。恋焦がれたものへ一直線で突っ走る。ある意味、人生の奥義のような一句だ。「俳句は理屈じゃないよ」と話された兜太先生の声も聞こえてくる。世界平和への鍵は、世界最短定型詩である俳句のように強く感じている。不器用ながらも、その幻の一句へ一句へと逸る私よ。これでいいのだ。よくぞ『天才バカボン』!
袋回し句会
三月
- 三月や研修棟のゆるき坂
- 和緒 玲子
- 三月やランドセル君さようなら
- 漆原 義典
- 指輪とり三月家庭裁判所
- 藤川 宏樹
- 三月は二月を捨てた女なり
- 銀 次
- 三月はギザギザハート光れよ君
- 野﨑 憲子
- 雨やどりして三月のオムライス
- 野﨑 憲子
- 三月や転勤拒否のいごっそう
- 島田 章平
半
- 半べその母の照れ泣き入り彼岸
- 島田 章平
- 半々に割る発想やどだい無理
- 末澤 等
- そろり出す夫に半額春キャベツ
- 藤川 宏樹
- 鍵っ子と犬半分こ桜餅
- 和緒 玲子
雲雀
- 新校舎混じって届く雲雀声
- 末澤 等
- 揚雲雀魅入り忘我の首痛し
- 岡田 奈々
- 揚げ雲雀見上ぐる夫の喉仏
- 三好三香穂
- 約束はひばりの落ちたあのあたり
- 銀 次
- 揚雲雀時もどりゆく瀬戸の橋
- 渡辺 貞子
- 読点が多すぎるひと揚雲雀
- 藤川 宏樹
- 夕雲雀そして人類ゐなくなる
- 野﨑 憲子
- 雲雀鳴く後期高齢くそくらえ
- 稲 暁
- 雲雀笛やんだ公文へ行かなくちゃ
- 和緒 玲子
花ミモザ
- ままごとのママ役ふたり花ミモザ
- 和緒 玲子
- 花ミモザ君の笑顔が浮かばない
- 末澤 等
- ブギウギを歌へば若し花ミモザ
- 島田 章平
- 学生も娼婦も居たりミモザ館
- 銀 次
- 大笑いして誰が誰だか花ミモザ
- 岡田 奈々
沈丁花
- 先生の良からぬ噂沈丁花
- 和緒 玲子
- 沈丁花愛想するより御洒落して
- 岡田 奈々
- 私はあなたの半分沈丁花
- 三好三香穂
【通信欄】&【句会メモ】
今月も岡山から小西瞬夏さんと瞬夏さんのお母様がご来高され、稲暁さんも久々のご参加で午後1時~午後6時近くまで句会を存分に楽しみました。桜の花の開花にはまだ間がありますが、今月のお菓子の桜餅も句会に華を添えてくれました。
3月22日から長瀞で開催の「海原」兜太祭へ行ってまいりました。先生のお墓参りもできて良かったです。ご生家の壺春堂では、先生が小学三年生の時に書かれた作文帖や通信簿(全甲でした)など、前に行った時にはなかった展示品も増え、管理されている方々の真心を感じました。句会も二回開かれ楽しんでまいりました。兜太祭の前日、私は、「海程」秩父道場があった上長瀞の養浩亭に泊りました。この養浩亭も、兜太祭の会場の長生館も、渋沢栄一が命名したとのことでした。兜太祭に参加された「海原」の連衆や荒川の流れに大きな元気をもらって帰りました。
Posted at 2024年3月25日 午後 07:31 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]