2025年1月25日 (土)

第157回「海程香川」句会(2025.01.11)

白蛇.jpg

事前投句参加者の一句

                                                                                               
絶巓や鷹と肩組み風を待つ 松本 勇二
黒髪に戻りトランプ切る炬燵 藤川 宏樹
吉野のあばら家大鹿居座りて 樽谷 宗寛
林檎剥けない弟風を聴いており 大西 健司
AIの戦略方です待春 綾田 節子
一月の海一月の怒りかな 島田 章平
異界から掛け声われら初句会 山下 一夫
イエロウと言い〝捨て駒〟にされるなり  田中 怜子
湯けむりや開く扉に冬の虫 え い こ
革命を楽しみながら去年今年 滝澤 泰斗
しばらくは眼差しどれも暖炉の火 月野ぽぽな
底抜けて大通りには深雪かな 中村 セミ
爪ほどの悩み初日の揺るぎなく 和緒 玲子
二日はやどの煩悩も動きだす 十河 宣洋
毛糸玉ころがし母を近くする 河西 志帆
鍋底にめでたさ三度骨正月 塩野 正春
翅ひとひら切手めかして山眠る 松岡 早苗
鶴啼くや転調の後の虚空 森本由美子
初春や大鍋提げて娘の来る 河田 清峰
ワタシ何か言つたのかしら来ぬ賀状 野口思づゑ
生まれて来た訳問うてみる初空 柴田 清子
恐竜は鳥へと変わり冬麗 石井 はな
病院のベッドでヨブ記読初す 向井 桐華
鏡面の裏凍蝶のうつらうつら 榎本 祐子
元旦の俺の居場所は青い空 竹本  仰
乱世となるか昭和百年明けにけり 稲   暁
見尽くして冬青空を迷ひけり 三枝みずほ
紛争地の空しんどかろ白鳥来 新野 祐子
労働の対価は薄し餅を焼く 松本美智子
毎年のこれが最後と賀状書く 菅原 春み
冬麗の回転木馬騎士を待つ 桂  凜火
一富士の夢かねがねの仏の座 荒井まり子
饒舌のあとの静けさシクラメン 佳   凛
寒紅の息確かむる一指かな 小西 瞬夏
電飾の家向かい合い競い合い 時田 幻椏
初恋にして小走りは時雨かな 各務 麗至
妻の留守冬鳥がよく啼いてくれる 津田 将也
遥かなる伊予石手寺の初大師 山本 弥生
昆布巻きを買ひに車で行つたきり 吉田 和恵
初鏡今年の顔を授かりぬ 岡田ミツヒロ
冬風や古名啄む明石城 豊原 清明
夫逝かしめしひとに冬たんぽぽの黄が 野田 信章
乗り越えてゆく旋律のあり冬日 福井 明子
妻亡くしたとう寂しき背にも初日影 伊藤  幸
幸せナビの更新します初日の出 岡田 奈々
新年を抱いて哀しい白さかな 高木 水志
初硯筆に濃墨なじませり 漆原 義典
ゆるびゆく骨格じりじりと凍鶴 若森 京子
白杖の友は前向き冬菫 植松 まめ
雪雲や天使うつむくクレーの絵 大浦ともこ
明日はもう覚えていない柿落葉 河野 志保
堂々たる犬の野糞や冬日向 銀   次
とは言へど愛しき地球初山河 柾木はつ子
帰省です時間つぶしのブラックコーヒー 疋田恵美子
一年がはじまる青空がはじまる 薫   香
強くなり優しくなりたい鮫の群れ 増田 暁子
退院の夫の背中の冬日かな 重松 敬子
見えぬやさしさ触れぬやさしさ片時雨 佐孝 石画
ゆきちがふ人の濃淡日向ぼこ 亀山祐美子
餅を切るひとりの闇を離さずに 男波 弘志
間違いのように流され渋谷冬 花舎  薫
初日の出ばあばばあばの声響く 三好三香穂
冬の雨キャパのことばを持ち歩く 三好つや子
冬北斗浮かぶ山脈下山せり 末澤  等
鯨よくじら百年先の話しやうよ すずき穂波
戦争を銜へ一月の火の鳥 野﨑 憲子

句会の窓

小西 瞬夏

特選句「恐竜は鳥へと変わり冬麗」。季語の「冬麗」がなんとも効いている。恐竜から鳥への時間の流れ、大きなものから小さなものへの変化と相似性。鳥が懸命に、しかしたんたんときているさまが「冬麗」と響き合い、めでたい句でもあり、さり気なくこの世界を肯定している。

松本 勇二

特選句「一年がはじまる青空がはじまる」。年の初めの明るさや希望を青空に込めています。元気がもらえる一句でありました。

月野ぽぽな

特選句「白杖の友は前向き冬菫」。その境遇にめげず、明るく行動する友と冬菫の健気さと逞しさが響き合います。その友を敬うと共にその姿に励まされている作者を想像しました。

十河 宣洋

特選句「ワタシ何か言つたのかしら来ぬ賀状」。心配性の人が見える。よくあることで心配することはない。その程度の付き合いなら年賀状が来なくてもいいと思った方がすっきりする。親しい人なら電話もある。特選句「帰省です時間つぶしのブラックコーヒー」。久しぶりの帰省である。最初は歓待してくれたが時間と共に一人になる時間が多くなった。まあ、コーヒーでも飲んでゆっくりしようかという気分。

すずき穂波

特選句「戦争を銜へ一月の火の鳥」。ロシアの作曲家ストラヴィンスキーのバレー組曲を下敷にしている句だろう。このバレーはハッピーエンドに終わるが、ウクライナの行方はさて? 特選句「間違いのように流され渋谷冬」。20年近く前、渋谷の交差点近くのCafeに老いた母と入ったところ、そこは何と薄暗いネットカフェ。休憩のはずが顔を歪めたままの二人。とんだ東京見物の疲れきった1日を思い出した。

藤川 宏樹

特選句「ワタシ何か言つたのかしら来ぬ賀状」。郵便料の値上げもあり、今年は年賀状仕舞が多かった。私もそろそろ数を減らしたいが、もらった賀状には返事することにしている。やりとりしてきた賀状が来ないのは、何かあったかと気を揉むもんだ。

津田 将也

特選句「吉野のあばら家大鹿居座りて」。山の動物たちと共存する「吉野」だからこその一句。歴史深い山里をゆったりと流れる秋の時間までをも感じさせる。特選句「冬の雨キャパのことばを持ち歩く」。『写真はそこにある。私たちは、ただそれを撮るだけだ』『写真を撮る理由は、言葉で表現する必要がないものを表現するためだ』等々。(ロバート・キャパの言葉)

岡田 奈々

特選句「絶巓や鷹と肩組み風を待つ」。てっぺんに登って、鷹と肩組み出来たら、さぞ気持ちの上がる事でしょう。今年も山よ宜しく。特選句「元旦の俺の居場所は青い空」。最高です。心も躰も何隠す事無く、晴天です。「黒髪に戻りトランプ切る炬燵」。何だかんだと親に反抗してヤンチャしていた子。元の黒髪に戻り、親子揃って、あまつさえ、孫まで連れてきて、皆でトランプ出来る日が来るとは。感無量。「林檎剥けない弟風を聴いており」。弟は「自分はまだ包丁使えないし、林檎剥けないから、お姉ちゃん剥いて」と駄々こねてる。「ちっ、また弟風吹かしてる」姉もしたくない時も有る。「爪ほどの悩み初日の揺るぎなく」。本当こんな小っちゃな悩みで大仰な。取りあえず大きかろうが、小さかろうが、元旦はゆったりと。「毛糸玉ころがし母を近くする」。母が編んでくれたセーターを解いて毛糸玉にし、また編み始めた。ころころ転がった先に母が居そうな気がして。「鶴啼くや転調の後の虚空」。鶴の鳴き声で辺りの空気はガラッと変わってしまった。そして廻りに誰も居なくなったってか。上の人は言葉に気を付けてよね。「穭田に降り積む虚無と青春と(松本勇二)」。一度刈り取った稲にまたひこばえが、どんなに頑張っても二番成りは空虚。それが今の若い人のアルバイトばかりの空しいところか?「昆布巻きを買ひに車で行ったきり」。あの子は昆布巻きを買いに行くって、大金下げて何処まで行ったのやら。何日も帰って来ないよきっと。「二鷹の地住む暁闇の寝正月」。一富士はなかなかだけど、地に住む鷹には何とか夢で会いたいので、紅白歌合戦見てから、ずっと二日間寝て待ってます。夢で合いましょう。

塩野 正春

特選句「寒紅の息確かむる一指かな」。寒紅を付け今日も今年も生きて生きることを実感させる姿、おそらく鏡の前の仕草であろうが美しい。寒紅には何か哀しいニュアンスも感じさせる。特選句「初鏡今日の顔をさずかりぬ」。上記の特選句と似た句だが、初鏡が顔を授けるとはなんと素晴らしい表現だろう。作者は女性とお見受けしますが、男としてもこんな句を詠みたい。自句自解「鍋底にめでたさ三度骨正月」。宇田喜代子先生の現代俳句評論(骨正月)を読んだ。私にも昭和の頃の記憶が残っていた。鍋底の骨をきれいに味わった。スイスのフォンジュウも実際の食べ方は鍋底に張り付いた焦げたチーズを頂く。お客には出さない隠れメニュー、香りたかく旨い。「初春や世界の家族に母子手帳」。俳句として正直拙いと思うが、母子手帳を使いだしている国が50か国にも上ると聞く。親と子の絆が戻れば世界が平和になると信じる。

綾田 節子

特選句「寒雷や昭和残響今もなお(稲暁)」。季語が決まっていますね。私も昭和が懐かしく昨今、特に恋しい古い人間です。

島田 章平

特選句「絶巓や鷹と肩組み風を待つ」。まさに実景の持つ言葉の迫力。

柴田 清子

特選句「一年がはじまる青空がはじまる」。年の始めに思ふ、この先一年の祈りが、この青空の中にある。言葉はやさしく思いの深い句となっている。

樽谷 宗寛

特選句「初鏡今年の顔を授かりぬ」。好きな句。新年はじめの鏡に写っお顔。如何でしたか?よいところに目をつけられたと感心しています。

福井 明子

特選句「しばらくは眼差しどれも暖炉の火」。日常から火が消えて久しい。暖をとるのも、エアコンやヒーターであり、煮炊きもIHが幅を利かせている。そんなことを背景に、暖炉の火に皆の眼が注がれている情景を象徴的に句にされていると思いました。それは、かつて手をかざし火の前で暖を取った太古の記憶を、誰もがもっているからだと思います。

菅原 春み

特選句「異界から掛け声われら初句会」。先生が見守ってくださる、掛け声までかけてくださる初句会は素晴らしい。特選句「紛争地の空しんどかろ白鳥来」。白鳥の来る今でも紛争が続いている。空しんどかろに共感を。

豊原 清明

特選句「おんおんと除夜の浮寝や白鷗(男波弘志)」。二つの情景がぶつかり合い、「白鴎」に「浮寝」の情景が思い浮かぶ。特選句「琉球やお節お雑煮とも違う(河西志帆)」。「琉球」に行ったことのない、無学な自分だが、胸に留まる一句である。問題句「ぬぬ嘘じゃないよね初日から真蛇(野﨑憲子)」。「真蛇」に言葉の強さがあり、「ぬぬ嘘じゃないよね」に自己確認を感じる。

柾木はつ子

特選句「夫逝かしめしひとに冬たんぽぽの黄が」。昨年夫と永遠の別れをいたしました。まるで私に宛てて語りかけて下さっているような御句です。およそこの世で、愛する者との永遠の別れほど切ないものはないと思います。また人生のどん底に立たされた時、何より慰めてくれるのは、野に咲く花であったり、山や川、空、鳥の鳴き声…すべてが愛おしく、この美しい地球に今少し生きてみようという希望が湧いてきます。優しい思いやりの御句、ありがとうございます。特選句「堂々たる犬の野糞や冬日向」。この野糞の主はおそらく野良犬だと思いますが、この厳しい寒さの中で堂々たる糞をするほど元気なのでしょうか?「頑張って生きてね」と願わずにはいられません。

若森 京子

特選句「乗り越えてゆく旋律のあり冬日」。何か良い事を思いついた時、特に思う様な俳句が出来た日は、この様な冬の一日だ。特選句「餅を切るひとりの闇を離さずに」。餅を切るおめでたい行為と、ひとりの闇と云う発語との一句に、人間の性(さが)とか宿命を感じずにはいられない。

伊藤  幸

特選句「とは言へど愛しき地球初山河」。戦争に天災地変と まさに地球は崩壊寸前の状態にあるが人類にとってはこれ迄もこれから先もまだまだ崩壊してほしくない崩壊させてなならないこの地球。愛しい思いは皆同じ。世界が一つになり平和になることを願うばかりである。特選句「ゆきちがふ人の濃淡日向ぼこ」。人と擦れ違う時ふと「あゝこの人はどんな人生を送ってきたんだろう。家族はいるんだろうか。」等思うことたまにあるが決まってそういう時は気分的に少々余裕がある時。下語の「日向ぼこ」の措辞により作者の大らかさと深い洞察力が窺える。

男波 弘志

「初恋にして小走りは時雨かな」。しては説明に傾いてるだろう。「初恋は小走りに似て小夜時雨」この場合の、かな、は全体のやわらかな気配を消してしまっているだろう。秀作。「一年がはじまる青空がはじまる」。素直な表現でよく日常が出ています。初御空では日常は読みにくいでしょう。つまりその言葉自体がもう寿ぎの作品になっていますから。秀作。「強くなり優しくなりたい鮫の群れ」。青鮫の優しさに最初に気づいたのは兜太先生だろう。事柄だけの表現だが不思議に描写に至っているところがある。そこが手柄だろう。秀作。「間違いのように流され渋谷冬」。この句には不思議な世界観がある。冬が金輪際なのかが自分にはわからない。「間違いの渋谷林檎と流さるる」こんなことばが浮んだのだがまだまだ底が知れない。秀作。

吉田 和恵

特選句「毛糸玉ころがし母を近くする」。毛糸玉といえば猫を連想しますが、「母」となると諧謔ですね。それだけに編み物に勤しんだ母への想いも伝わってくるのです。

岡田ミツヒロ

特選句「一月の海一月の怒りかな」。原発汚染水の海洋放出を思った。放射能の海で囲まれた日本、ぞっとする未来図だ。特選句「爪ほどの悩み初日の揺るぎなく」。初日の雄大で神々しい姿の前には諸々の人の悩みなど爪ほどに縮小してしまう。

和緒 玲子

特選句「指の冷え小鳥の籠を吊るすとき(小西瞬夏)」。鳥籠という限られた空間の中で小鳥を飼うことへの、小さな違和感や罪悪感を持つ作者。その心情を指の冷えとだけに書き留めていて、一層読み手に想像をかき立てる。対照的な小鳥のつぶらな瞳まで見えてくる。

大西 健司

特選句「幸せナビの更新します初日の出」。俳句として上等かと言われると困ってしまうが、幸せナビがいいなあ。ほのぼのとした温みが何ともいい。初日の出にそっと手を合わせているのだろう。問題句「AIの戦略方です待春」。戦略方をどう捉えるのか、待春とどうかかわるのか判然としないが何ともいえない魅力がある。問題句としたがほぼ特選。

三枝みずほ

特選句「ゆるびゆく骨格じりじりと凍鶴」。年齢を重ねた骨格は次第に人間を離れ凍鶴へ同化してゆく。じりじりとの措辞に骨格と凍鶴が重なってゆく実感とリアリティがある。自身の老いを暗喩をもって切り込んだ一句。こういう飛躍があるから俳句は面白い。

野口思づゑ

特選句「毛糸玉ころがし母を近くする」。お母様に向かって毛糸玉を転がし、それを取ろうとするお母様と実際に距離が近づいたという情景より、毛糸玉が転がってしまった、その時に幼い頃の自分と母親とのあるシーンが思い浮かんだのでしょう。「昆布巻きを買ひに車で行ったきり」。どこかで寄り道をしているのでしょうか。それとも昆布巻き、って最近ではどこでも売られているわけでなさそうなのであちこち探しているのかもしれません。ちょっとユーモラスな句。「帰省です時間つぶしのブラックコーヒー」。若い頃父の故郷に行く機会があった。親戚の人々が土地の言葉で喋っていたのだが話に追いついていけない。だんだん睡魔に襲われていた頃従兄弟が外に連れ出してくれた。そんな事を思い出した。下五のブラックコーヒーが効いている。「間違いのように流され渋谷冬」。馴染みのある渋谷でしたが現在では、駅付近など工事中もあって混雑の迷路。そんな戸惑いがよく表現されている。♡今日は成人の日なのですね。穏やかな天気なのでしょうか。シドニーは、今まで比較的凌ぎやすかったのですが、今日は夏らしく空は青く、日差しの強い日になっています。句会報など楽しみにしています。またお世話になりますがよろしくお願いいたします。

中村 セミ

特選はありません。「初富士やわが青春の化石ふる(若森京子)」。に、ドキュメント話をつけました。富士山の裾野は、少し高いところから見ると、大きな鳥が羽根を広げているように、思う。その下の市長村を抱き抱えているようにも見える。そして、その鳥は、おそらくラドンしかないだろとおもわれる。歴史の記述にはないが、ラドンは日本全土をつぶすまえに、一休みで、そこに立つていた。その時噴火がはじまり、ラドンは粉々に砕け灰となり振り続けた。タイムスリップは、二千年以上まえである。だからいまだに、その後の富士山の再噴火で今の富士の形なったがラドンの灰で包まれている。ラドンの命は宿っている。おお、わたしのラドンと感慨深く話をしてくれるタイムトラベラーを知っている。    モキュメンタリー歴史講話より

河野 志保

特選句「革命を楽しみながら去年今年」。人生は起伏続きだと思う。それを「革命」と捉えたところが新鮮だった。力強く気持ちのよい句。

桂  凜火

特選句「乗り越えてゆく旋律のあり冬日」。何事かのへの強い決意が感じられる。思わず応援したくなりました。

増田 暁子

特選句「ゆるゆると市電の灯り除夜を邌る(花舎 薫)」。市電のゆっくり走る灯りが除夜の気忙しさと対照的に素敵な空間ですね。

松岡 早苗

特選句「爪ほどの悩み初日の揺るぎなく」。 初日の光を浴びると毎年清々しい気持ちになります。自然の荘厳さの前では自分の存在のなんとちっぽけなことか。ちっぽけな自分でもこうして生かされていることのありがたさをしみじみ感じさせてくれる初日です。特選句「妻の留守冬鳥がよく啼いてくれる」。この「冬鳥」は冬に渡ってきた白鳥や鶴なのでしょうか、それとも渡りの小鳥たちなのでしょうか。どちらにしても、賑やかな啼き声は、妻の留守の所在なさや寂しさを慰め、健気な命の営みを作者に届けてくれているようです。妻の留守だからこそいつもの啼き声もいっそう心に染み入るのかもしれません。「啼いてくれる」の「くれる」が味わい深さを生んでいるように思いました。

末澤  等

特選句「幸せナビの更新します初日の出」。年の初めにふさわしい句です。今年一年の幸せを祈って初日の出を見ている状況が、微笑ましく浮かんでくるようですね。

え い こ

特選句「寒紅の息確かむる一指かな」。お正月に7歳の孫が、わたしの古い口紅をだまって使っていました。あと、10ねんあまりて、これが似合うようになる姿を想像しながら、その口紅を、使ったのは、いつだったか いろいろ思い出したことと重なりました。あでやかなかわいさです。

佳   凛

特選句「乱世となるか昭和百年明けにけり」。乱世となる気配充分。 平和を願いつつ争うことを辞めない。何故?この先とても不安です。日本の舵取りは、大丈夫でしょうか?子供達の未来は?ただ、見ているだけの自分が、悲しい。

薫   香

特選句「生まれて来た訳問うてみる初空」。残りの人生の方が少なくなると、時々考えることがあります。特選句「おんおんと除夜の浮寝や白鷗」。「おんおんと」が何とも言えず好きでした。

佐孝 石画

特選句「餅を切るひとりの闇を離さずに」。ある程度硬くなってきた餅を包丁で切っていく。ザクッ、ガクッ。包丁とまな板と掌に響いていく強い断絶の感覚。搗き立ての餅の柔らかな混沌から変容し、個として確立し始めた「かたまり」を断ち切っていく時の感覚。それは「かすかな殺意」を帯びたものかもしれない。他者へあるいは自己への「断絶」願望。そのおぼろげな感覚に「ひとりの闇」を見たのかもしれない。下句の「離さずに」に、拭い切れない、にんげんの哀愁が滲む。

疋田恵美子

特選句「黒髪に戻りトランプ切る炬燵」。病気が回復され、家族団欒の幸せな様子が見えて良い。特選句「句を詠めば吾は少年初螢(岡田ミツヒロ)」。少年のような純粋な気持ちで作句いいですね。

河田 清峰

特選句「遥かなる伊予石手寺の初大師」。伊予の友に案内された石手寺が偲ばれます。初大師のお参りは叶いませんでしたが!

三好つや子

特選句「電飾の家向かい合い競い合い」。昼間ふつうの家と庭が、夜になって豹変するとはこのことでしょうか。凝った動きのするサンタやトナカイなど、派手さがエスカレートし、喧嘩寸前かもしれない状態をうまく捉えています。特選句「ゆきちがふ人の濃淡日向ぼこ」。それぞれ背負っているものが違う人生を濃淡と詠んだ、味わい深い表現。日向ぼこの着地もあざやかです。「二日はやどの煩悩も動きだす」。煩悩から逃れない私たちを、軽やかな句にした作者の聡明さに、一票投じました。「鶏日も狗日も猪日もなし戦地」。正月がない戦地をこういう言葉で紡ぐと、心にいっそう響きます。

漆原 義典

特選句「寒風や旅は最後と母の言ふ(大浦ともこ)」。上五寒風と、中七旅は最後が、母と良く響きあっています。私は母の句が好きです。素晴らしい句をありがとうございます。

森本由美子

特選句「乗り越えてゆく旋律のあり冬日」。永遠の時の調べの中から、score1ページ、その旋律には疼き、憂い、高揚、輝きなどが無秩序に織り込まれている。見えない惑星との契約どおり、ある冬の日旋律は透明な獣となり、頭上高く空を飛び永劫へと消える。

大浦ともこ

特選句「なつっこい仔牛と出会う元日草」。なつっこいという言葉の響きがとても暖かく季語の元日草と相まって小さな幸せをいただいたよう。特選句「とは言へども愛しき地球初山河」。いろいろ問題は山積していて、それはよくわかっているのだけどなお地球は愛しいという気持ちに共感します。初山河という大きな季語もとても気持ちが良い。

榎本 祐子

特選句「夫逝かしめしひとに冬たんぽぽの黄が」。「黄」のあたたかさ、励まし、お日様のようなたんぽぽの形状も、残された人に差し出された優しさを感じます。

滝澤 泰斗

特選句「絶巓や鷹と肩組み風を待つ」。絶妙の取り合わせで大きな自然を描けた。特選句「被爆八歳吶々語りき冬木の芽(野田信章)」。被団協の一人か?タイムリーな一句。下五の厳しい冬木の芽で決まり。共鳴句「イエロウと言い〝捨て駒〟にされるなり」。欧米を一週間も旅すると、一度や二度、たいへん不愉快な気分にさせられたことが多々あったこととこの一句が結びついてしまった。多分に情況の違いを感じつつも、戦前、アメリカに渡った日本人の苦労を伺い知る一句。今、流行りの壁、“人種の壁”根が深い。「労働の対価は薄し餅を焼く」。目の前で焼いている餅の薄さも気になる不思議?こういう餅の使い方に感心。「黄落や夫の命を風に聞く」。神宮外苑の黄楽の銀杏並木が風に揺れている。そして、最愛の人の命の行方を思う。涙が出るほど悲しい。でも、いい句です。

田中 怜子

特選句「なつっこい仔牛と出会う元日草(津田将也)」。ほっとするような出会い、福寿草もけなげに花開いている。この可愛い仔牛がどうなるか、いったん伏せて可愛さに心を寄せましょう。

山下 一夫

特選句「鏡面の裏凍蝶のうつらうつら」。おそらく実景ではないとして、鏡面の裏の凍蝶とは何かが気になります。鏡面に映っているのが自分の像だとしたら、その裏に潜んでいるのはナルチズム?それが「うつらうつら」というのは老境の自意識?などと妄想を誘う夢幻的な雰囲気が素敵です。特選&問題句「白蛇といふ一筆書きの呪文かな(三好つや子)」。蛇の肢体について一筆書きの呪文との見立ては言い得て妙なのですが、単なる「蛇」であればリズムも整うところ「白蛇」の必然性がどうもわかりませんでした。特選句「乗り越えてゆく旋律のあり冬日」。終末的なイメージが濃厚な季語「冬日」ですが、それを「乗り越えてゆく」という胆力と「旋律」の象徴性に惹かれます。当方的には個性や志、生き様等を連想します。

石井 はな

特選句「帰省です時間つぶしのブラックコーヒー」。実家を出て都会暮らし、仕事の忙しさも有って帰省は間遠になります。たまの帰省も我が家という感じが薄れ、何となく居場所の無い感じがして特に飲みたい訳でもないコーヒーを入れたりします。実家が自分から少し離れてしまった寂しさがしみじみ伝わる句です。

花舎  薫

特選句「鍋底にめでたさ三度骨正月」。二十日まで正月気分を味わい尽くしたその幸せを寿ぐ。美味しい料理を食べられるということがいかにめでたいことか。今年がいい年であってほしいと願うばかり。

野田 信章

特選句「餅を切るひとりの闇を離さずに」。「餅を切る」という修辞と相俟って松の内を過ぎつつある日常の現(うつつ)に向かわんとする気負いも伺える句柄である、中句以下の「ひとりの闇」の把握と述懐によって個我の能動的な結実の美しさも感得される句と読んだ。

新野 祐子

特選句「冬の雨キャパのことばを持ち歩く」。ロバート・キャパの『ちょっとピンボケ』を読んだのはもう四十年も前のこと。キャパを知っている最後の世代かもしれない私たち。キャパのさまざまな発言を振り返ってみたくなりました。「冬の雨」のしみじみ感がいいです。特選句「労働の対価は薄し餅を焼く」。餅を焼いてぷぅーっとふくれた瞬間の幸福感は何とも言えません。対価なんて考えようによっては何とでもなる、と思えてきますね。

竹本  仰

特選句「翅ひとひら切手めかして山眠る」。落ちていた翅なんでしょうね。多分死んだ残滓なのでしょうが、それが切手に見え、どこかに音信を伝えているように思え、どこなんだろうそれはと、山に問いかけている、そういう大きな絵柄なのだろうと見ました。そういう生死を越えた伝達の意志というか、面白いなあと感心しました。特選句「寒紅の息確かむる一指かな」。お化粧をしながら、自分の心持ちを、鏡の向こうの一指にたしかめる。何か大きなことが待ち構えているのかとも思えますが、そうではなく日々の平凡な仕草の中に、ふと自分の生き方を問い、なおかつこれでいいのだという自恃というか、矜持というか、そんなものを確かめている一瞬なのかなと思いました。特選句「ゆきちがふ人の濃淡日向ぼこ」。何かに似ているなあと思いながら、気づいたのは『奥の細道』の冒頭でした。「月日は百代の過客にして行き交ふ年もまた旅人なり。…」もちろん大きな時間の観念の違いはありますが、芭蕉がたどった日々の道行きはこの句のような感じじゃなかったかな、と思いました。日向で会いながら、影の部分に気づく。自分が自分にとって謎であるように、人は人にとっての謎があり、そういう人間世界の模様を気づかせているように思えました。♡今年の初句会ですね。思えば不思議なことにどこの地球上でも新年な訳で、誰にも見とおせない365日が来るのだと思うと、強烈に不安ではありますが、漕ぐ手は止めず、漂いつつも日々目標へ近づきたいと思います。今年の目標、万葉集全首に目を通すこと…出来るかな?そして、いつも初心でと思います。みなさま、よろしくお願いします。

高木 水志

特選句「ゆるびゆく骨格じりじりと凍蝶」。凍りつくような空気にまるで残り僅かな力を精一杯出して飛んでいるような冬の蝶に、自らの身体を重ねたのか。命の尊さを感じた。

松本美智子

特選句「見えぬやさしさ触れぬやさしさ片時雨」。「片時雨」の季語と上五中七の不器用な「やさしさ」とよく響きあっている秀句だと思います。

河西 志帆

特選句「妻の留守冬鳥がよく啼いてくれる」。啼いている、、、ではなく、啼いてくれるって!喋った事もないだろうその鳥に寄り添っているようで、妙に心に残るんです。特選句「指の冷え小鳥の籠を吊るすとき(小西瞬夏)」。高い何処に物を吊るのが、近頃きつくなりました。めまいなんかも起きそうだし、、飼っていた鳥を不注意で亡くした時、小鳥の指も私と同じに冷たかった。

山本 弥生

特選句「餅を焼く都会へ帰る子のために(松本美智子)」。令和の現代、都会に住む息子や娘はお正月だからと云ってあまりお餅を食べないと思うので何よりのお正月の御馳走としてお餅を焼いてお腹一杯食べさせて帰したいと母の愛情が溢れています。

時田 幻椏

特選句「林檎剥けない弟風を聞いており」特選句「初鏡今年の顔を授かりぬ」。2句共に、共感、イメージを素直に共有する事が出来ました。

亀山祐美子

特選句『初春や大鍋提げて娘の来る』。二人切りになり大きな鍋は処分した。正月子供たちが寄り集まるが人数に見合う鍋が無い。しかし、気の利いた娘が大鍋を提げてやってきた。ただそれだけのことに正月の団欒と歓声が聞こえる。食材や手土産を手分けして持参する。集い喜ぶ歓声と子の成長を改めて認識するお正月。この一年も幸多かれ。

稲   暁

特選句「戦争を銜へ一月の火の鳥」。作者はあえて破調にしたのだろう。反戦の思いに共感した。特選句「雑炊の混沌嬉し匙入れる(月野ぽぽな)」。あつあつの雑炊は冬のごちそうだが、それを混沌と表現したところが秀逸だと思う。感情語はふつう俳句に使うべきではないが、この句の嬉しは生きている。

向井 桐華

特選句「退院の夫の背中の冬日かな」。御夫婦のやさしい情景が伝わる佳句です。

三好三香穂

「穭田に降り積む虚無と青春と」。雪がうっすらと降り積もっている。それを虚無と青春と表現した。深い味わいのある句です。ひつじだがよい。「初鏡今年の顔を授かりぬ」。今年の顔はどんな顔だろうか。それぞれの年が改まった顔、皴を刻んでも、良い表情であれかしと思います。「ぬぬ嘘じゃないよね初日から真蛇」。初日からへびが出てくる幻想。飛行機からの風景が美しかったので、共有します。「とは言へど愛しき地球初山河」。年を経て、山河美しいこの風景が愛おしく、重ねてきた年月にしみじみとした感慨を覚える今日この頃です。「鯨よくじら百年先の話しやうよ」。大きな鯨は、百年以上の寿命があることでしょう。百年たったら私はもういないけど、世の中はどうなっているでしょうね!

銀   次

今月の誤読●「昆布巻きを買ひに車で行つたきり」。妻が家を出て行ったのは、一年ほど前の大みそかの日だった。「あら、おせちの昆布巻きがないわ」といったのが発端だった。それから慌ててエプロンを脱ぎ、財布をわしづかみにして「買ってくるから」と車に乗り込んだ。その言葉が最後だった。妻はそれっきり帰らなかった。もちろん最初のうちは捜しに捜した。警察にも行った。親戚の者や友人たちに頼んで、捜し人のビラを駅で一緒に配ったりもした。だがまあ、それも半年。気持ちが落ちつきはじめると、どうせ男と逃げたんだろうと、諦めが先に立つようになってきた。その妻が今日帰ってきたのだ。ちょうど一年後の大みそかに妻は帰ってきた。はじめはその女が誰なのか判らなかった。もともと妻はぽっちゃり体形だったのだが、目の前にいる女はうんとスリムになっていて、カラダの線がくっきりと、ま、はっきり言うと美しくなっていたのだ。肌は小麦色に日焼けし、全身は生命力に満ちあふれていた。「ただいま」という声でようやく妻だと気づいた。わたしはただアワアワと言葉にならない声を発するのが精一杯だった。「おせちは?」という妻の問いかけに、わたしは通販で買ったおせちを指さした。妻はその品々をひとつひとつ点検するように見ていった。「ど、どこに行っていたんだ?」とわたしはかろうじて妻に声をかけた。「最高においしい昆布巻きを買ってきたわ」と、それが彼女の返事だった。「あっ」という妻の声がした。「酢れんこんがないじゃないの」と怒ったような声でわたしを睨みつけた。その言葉を残して妻はふたたび玄関のドアを開け飛び出していった。呆然としたわたしは何気に妻の買ってきたという昆布巻きを口に入れた。驚いた。その味はというと、これまで口にしたどの味とも違って文字通り「最高」のおいしさだった。どんな料理も叶わない、それこそこの世のものとは思えない味わいだった。とたん、わたしは来年の大晦日が楽しみになってきた。わたしは次の日の正月、妻の残していった昆布巻きを食べつつ至福の時間を過ごした。そしていま思うのだ。この瞬間も妻は世界中を駆け巡り「この世で最高の酢れんこん」を探しているのだろう。町から町へと、村から村へと、そしてもしかしたら砂漠から砂漠へと。

重松 敬子

特選句「ゆるゆると市電の灯り除夜を邌る」。歳末の街の風景。ゆっくり行き交う市電の明かり。私にとっては郷愁です。

野﨑 憲子

特選句「初恋にして小走りは時雨かな」。物語の浮かんでくる句跨りの美しい調べに圧倒された。下五を時雨の3音で止めたい気持ちも少し。特選句「明日はもう覚えていない柿落葉」。ある地方では、嫁入りのときに柿の苗木を持参して嫁ぎ先の庭に植え、老いて死んではその枝で作った箸で骨を拾われるという。美しく肉厚の柿落葉に万感の思いが籠る。特選句「見尽くして冬青空を迷ひけり」。迷った果てに、早春の空の一角から未来風が吹いてくる予感を強く感じる。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

火の鳥となりゆく蛇よ初寝覚
野﨑 憲子
初春やちっちゃな姉の世話焼さん
三好三香穂
福の神お初にお目にかかります
三枝みずほ
初旅の鞄ほんのり潮の香
和緒 玲子
初夢の続を二度寝してしまふ
柴田 清子
一月
早いねえメッチャ早いね一月は行く
藤川 宏樹
一月や銃身青く凍りつけ
島田 章平
一月のひかりへ鳥籠が傾ぐ
和緒 玲子
一月の川ブルースが向こうより
三枝みずほ
一・一七(イチイチナナ)安全靴が踏むガラス
藤川 宏樹
満月にむかしばなしを聞かせをり
三枝みずほ
月満ちて産まれ来し児の柔らかき
三好三香穂
満潮やゆらり嬉しき初出船
島田 章平
満願の七十であり初日の出
岡田 奈々
寒満月私の中に誰かゐる
柴田 清子
鳥の声満ちて冬日の薄っぺら
和緒 玲子
AIに授ける愛や福娘
藤川 宏樹
福笑わたしは影が好きなのよ
野﨑 憲子
大福を連なって食ふ冬日かな
三枝みずほ
元日や福井を飛ばすオートバイ
島田 章平
冬日
冬日受く水で満たさるる娘
銀   次
冬日斜に人生の旅を打遣って
岡田 奈々
「運命」の一拍休止なり冬日
藤川 宏樹
鍵穴の冬日こぼれているところ
柴田 清子
手をつなぐ冬日麗らの老ひ二人
三好三香穂
冬日向帽子を脱げば童顔に
和緒 玲子
言の葉は蹠より湧く冬日
野﨑 憲子

【句会メモ】

令和7年初句会は、寒波襲来の中、11名で句座を囲み、楽しく豊かな時間を過しました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 乙巳(きのとみ)の今年が、安らかで、清新な未来風の吹く年になりますように‼

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