2026年1月25日 (日)

第168回「海程香川」句会(2026.01.10)

万智のイラスト イッチ君と雪ダルマ.jpg

事前投句参加者の一句

   
霧はれて大和三山初の日矢 樽谷 宗寛
悪書束ね探偵事務所煤払 大西 健司
蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな 小西 瞬夏
ぶかぶかのセーター昼の月近し 松本 勇二
堂々の自分に酔ふてかじかめり 藤川 宏樹
携帯の見えない声を抱いている 中村 セミ
清元の声音や寒夜哭く老犬 すずき穂波
寒椿たましひ青く青く消ゆ 各務 麗至
日の笹子遺影は眼開きてありぬ 野田 信章
空想を傷つけぬよう冬ざれる 岡田 奈々
内視鏡はらわた艶めいて冬日 福井 明子
柚子湯に浮く星の流れる方に浮く 十河 宣洋
幸不幸小さじ二杯の去年ことし 伊藤  幸
セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来 和緒 玲子
健康診断今年もなんとかパズル解く 重松 敬子
寒鴉頭痛して背中じゃぶじゃぶ 豊原 清明
肩書きのいらぬ故郷冬すみれ 佐藤 詠子
鳶一羽光となれる初日かな 柾木はつ子
セーターは汀のごとし死者の前 若森 京子
元日やのぞみ静かに田町駅 滝澤 泰斗
花やぎて暦に印初句会 野口思づゑ
凍て星を譜面に一つシベリウス 吉田 和恵
遍路転がし越えて肩風冬日さす 末澤  等
青空の呟きとなる落ち葉踏む 三枝みずほ
働いて働いて裸木に感謝 河田 清峰
コート着て我も一つの後ろ姿 河野 志保
さざ波のやうな悔恨除夜の鐘 植松 まめ
初夢や切られ役とてライト浴ぶ 塩野 正春
雪晴れや馬橇のつけし通学道 森本由美子
よっこらしょと記憶をもどす年用意 三好つや子
すり硝子あちらはたぶん凍てている 山下 一夫
冬晴や醤にほへる船着場 大浦ともこ
なんの老い三人姉妹の初化粧 増田 暁子
年明けや餡雑煮食べし讃岐顔 漆原 義典
狐のだます私でいたい目を濡らし 新野 祐子
きらめきをもてなすように冬の浜 高木 水志
「ハルウララ」さがしにゆきし冬競馬 遠藤 和代
寒紅や鏡の向こうで決心す 柴田 清子
茶葉開く玻璃のポットや冬の雨 川本 一葉
初鏡作り笑顔はやめました 綾田 節子
生食パン齧る言葉は春の風 竹本  仰
氏神に賑わい戻り年新た 出水 義弘
臍の緒をたぐって母の毛糸玉 河西 志帆
寄付金はバイオリンケースへ鰯雲 布戸 道江
海原にむらさき湧くよ初日出るよ 津田 将也
青太やあ切り子光りに寒の灘 疋田恵美子
狐火や俳諧自由といふ心 島田 章平
冬夕焼け鬼籍の友等の墨絵かな 山本 弥生
去年今年絆創膏を張り替へる 矢野二十四
のこる人いなくなる人去年今年 向井 桐華
日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く 花舎  薫
ああ熊よ「森のくまさん」が歌えない 岡田ミツヒロ
短日や聖母へ空けるバスの席 松岡 早苗
キューポラの煙突から吉永小百合冬の旅 田中アパート
本心が言えぬ別れや冬の月 藤田 乙女
賽の目に任せし日々や初比叡 荒井まり子
声埋めいまからさくらまであるく 男波 弘志
死がひとつ梢にありて柚子日和 榎本 祐子
新春の光のどけし児等の声 三好三香穂
暗黒に浮かぶ地球や去年今年 稲   暁
一切れのケーキを半分こ師走の昼 田中 怜子
年用意終えて月齢十二日 時田 幻椏
君を通り抜けてきた冬の夕焼 佐孝 石画
山茶花の白や横顔似てきたる 亀山祐美子
冬日向大地を歩く吾子と鳩 薫   香
穴ひとつ掘るだけに生き大晦日 銀   次
爆音の頭上に響く聖夜かな 石井 はな
鹿と歩く女神と歩く松林 松本美智子
元日の空見ていたるパンダかな 菅原 春み
いきものに最初の鼓動冬銀河 月野ぽぽな
初夢や黄金の馬乗りつぶす 野﨑 憲子

句会の窓

松本 勇二

特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。ゆったりとした入浴風景に癒されます。「星の流れる方に」に奔放な詩精神が如実です。

小西 瞬夏

特選句「落としもの雪に埋もれし色鉛筆(矢野二十四)」。真っ白の雪の中に埋もれてしまった色鉛筆は何色だったのだろう。それは春になったらわかることなのだ。私の「落としもの」はなんだろう、などと考えてみたりもできる。

矢野二十四

特撰句「雪晴れや馬橇のつけし通学道」。実景描写に風土と未来を詠み込んでいる。馬の吐く白息が力強い。特選句「声埋めいまからさくらまであるく」。このさくらは無季。むしろ季感は「いまから」=冬の句座の現在にある。沈黙ではなく春への芽吹きとして「声埋め」が利いている。「あるく」にひたむきなものを感じる。「悪書束ね探偵事務所煤払」。確かに悪書。探偵事務所の煤払とは着眼点が面白い。「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。ぽこぽこは毛玉にも胎動にもかかっている。セーターに胎動。手触り動き温か味が感じられる句。「すり硝子あちらはたぶん凍てている」。外が見えないのか、あるいは外から内が見えないのか、「あちら」という言葉一つに無限の広がりがある。「冬晴や醤にほへる船着場」。日本海側の穏やかな冬晴れの日。味噌・醤油の匂いがする旧い港・倉庫街を思い浮かべた。景に暮らしの厚み・郷愁あり。「茶葉開く玻璃のポットや冬の雨」。外は冬の雨。窓ガラスに露が流れ室内全体が茶葉のように開いている。ゆっくりした時間の流れと透明感のある静かな佇まいが心地よい。「寄付金はバイオリンケースへ鰯雲」。バイオリンケースがとても佳い。秋に出されたら特選。句座の場合には出来立てのほやほや感を伴う方が詩の鮮度が増すと思う。「呵呵と葱太るエプロン脱ぎ捨てる」。大笑いするほど葱が太った。だからエプロンを脱ぎ捨てる。よく分からないがこの破調が面白い。「飴切の音で目覚める柴又帝釈天(塩野正春)」。帝釈天が目覚める。トントン音が聞こえて街の風情が見えるのが佳い。柴又はいらないのでは。

初参加の弁:今回より参加させて戴きます。句会報を拝見して以前から参加させて戴きたいと思っていました。皆様から刺激を戴いて自己研鑽に励みたいと思います。よろしくお願いします。

十河 宣洋

特選句「コート着て我も一つの後ろ姿」。普段見馴れている目の前の人の群。後ろ姿。今日のコートはどうだろう、似合っているかなどと通りの鏡や窓に写してみる。前を行く人の後ろ姿を見て、ああ自分も後ろ姿を見られているんだという思いが頭をよぎった。多の中の個を感じた。特選句「呵呵と葱太るエプロン脱ぎ捨てる(小西瞬夏)」。呵々大笑しながら葱が太っていく。楽しい風景と言うより目の前の畑の状況。そんなことを思いながら葱をきざんでいる。太るのは葱だけでない、私もだ。思わずエプロンを外しストレッチ等始めた。作者の大らかな気持ちが伝わってくる。

豊原 清明

特撰句「キューポラの煙突から吉永小百合冬の旅」。「キューポラの町」は数回見ましたが、断片の欠片しか覚えていません。確かに吉永小百合だった。ファンでしょうか、煙突と冬の旅で選びました。問題句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。景色が浮かび、昭和の感じの一句。屋根の猫と思いました。今では野良はいなくなりました。良かったような、寂しいような街角。

岡田 奈々

特撰句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。柚子湯最高です。それも星の見えるお風呂最高です。これ以上の極楽はありません。後はちょっと熱燗のお盆でも添えられていたら、天国ですね。特選句「幸不幸小さじ二杯の去年ことし」。幸と不幸はあざなえる縄のごと裏表でやって来ます。それぞれ小さじ一杯ずつなら平穏無事な一年だったことでしょう。祝着祝着。「悪書束ね探偵事務所煤払」。探偵事務所には良いことよりも悪い事の調査が多いのでしょうか?去年の事は忘れて、今年こそは良い年に。「働いて働いて裸木に感謝」。何も資産はないけれど元気で働けるこの体が一番の財産です。「一画一画だいじに書いて冬木かな(佐孝石画)」。葉っぱが落ちて、素っ裸の冬木。けれど、枝っぷりが男っぷり。「去年今年絆創膏を張り替える」。お父さんお母さんお疲れ様です。熱いお風呂に入って、新しい絆創膏を貼って、体大切にして下さい。「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。陽だまりの縁側は暖かい。心も体も和みます。ふわっと、ほわっとね。「初雪やようこそ独り言の世界」(河野志保)。雪に語りかけたり、手に取って遊んだり。童心に帰ります。「賽の目に任せし日々や初比叡」。去年はなるに任せた一年だったのでしょう。今年こそはと比叡山にお参り。年初の気持も新たに始めます。「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。君は何処にいるのでしょうか。眼前に。過去の日に。眼前なら正しく神々し君よ。過去の君なら、あれこれあった苦しい去年を過ごし、ちょっぴり大人になった僕。

佐孝 石画

特選なし。「初夢や黄金の馬乗りつぶす」。「乗りつぶす」がいい。「黄金」はどうか「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。上五中七の抒情に強く惹かれるところだが、下の「冬ざれる」が「付け」感がありやや予定調和か。「内視鏡はらわた艶めいて冬日」。斬新な映像。最後は「冬」だけにとどめて、切れ味を出しても良かった。『電柱に「探しています」寒夕焼』。発想と視点が新鮮。「探しています」はもちろん「自分」にもかかってくる。

遠藤 和代

特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。1年間の悔恨がさざ波のような、とは本当にうまい。

樽谷 宗寛

特選句「氏神に賑わい戻り年新た」。普段はしい一んとしている神社初詣での人の賑わいが戻りと作者の感慨がひしと伝わってきました。佳い年新たでしたね。

藤川 宏樹

特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。旅先の深夜。満天の星眺めひとり露天風呂に浸っていると、誰か入りやがて近くに・・・、女性の気配。闇に浮かぶ人影と一言交わしたものの、早々に退散した。翌朝、御膳の飯を仲居さんが装ってくれたが・・・、その人だった。夢か現かあいまいになった記憶の底から、「~浮く~浮く」のリフレインが浮かばせてくれたのが遠い昔の出来事。

福井 明子

特選句「きらめきをもてなすように冬の浜」。水面のきらめきに、いつも目をみはり、眼前の風景をどう表現しようかと思いながらいます。この句の、もてなすように、という言葉が、おおいなるふところの冬の浜とひびきあい、海の波が、光や風のメッセージであることをも感じさせてくれます。

各務 麗至

特撰句「コート着て我も一つの後ろ姿」。冬になって、誰も彼も同じように見えてしまうコート姿。それは何も衣装だけに限らず内面も似たり寄ったりの、そうあることが人間社会を安寧にさせているのかも知れない。作者はそんな諦観達観の境地にあればこそ、「我もコート着て」と社会に順応する。しかし、誰も彼もと同じような「後ろ姿」のそこには、「一つの」と強調して、全体の中にも一個の個性・・・夫々があって、一つ間違えば大きな破綻を招くぞ(例えば犯罪や戦争)という社会批評も見えて来る。特選句「狐火や俳諧自由といふ心」。闇の中のいくら小さくてもいい鬼火やたましいの火になって、それこそ自由な心で何事にも対峙していきたい。否応なく兜太先生が出てくる。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦」。自分を葬る墓穴を自分で掘る。先の「一つの後ろ姿」にも通じる諦念や充実の人生で、「穴ひとつ掘る」と謙虚に大晦日を迎えて救われた。

大西 健司

特選句「蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな」。地味な句だが実感が在る。見事な蝋細工の食品サンプルゆえの寒々しさだろう。

柴田 清子

特選句「新春の光のどけし児等の声」。新しい年を、心から迎えている一句。いつの時代でも、こうありたい年の始めの特選一句としました。

男波 弘志

「本は薄い方がいい落葉舞う(布戸道江)」。確かにそう思います。やはらかく開けない本は用を果たせないでしょう。広辞苑が凄いと思うのは見開きにしても素直にしていますね。それほど厚くもないのに見開くと強引に戻ろうとする書籍がありますが、本のことを全く知らない人たちが作ったんでしょう。因みにですが、糸で綴じていないものは全て冊子であって本ではありません。本は必ず糸で綴じてあります。この本も糸で綴じてあるのでしょう。秀作

河田 清峰

特選句「冬虹くぐる性善説を生きてきて(新野祐子)」。戦後登り路を汗流して来て、プーチン、トランプに性悪説の現実に眼を覚ましています。

塩野 正春

特選句「よっこらしょと記憶を戻す年用意」。なんたって昔取った杵柄は忘れないよ! まず雑煮の具材や味付けは得意中の得意だった・・がこの頃は思い出すのにかなりのエネルギーを使う。ほかに何をしたっけ?障子貼り?すす払い?ああ大変だ。 話し変わるが関西にきて驚くことの一つはセーノ、ヨッコラショ、ドッコイショの掛け声を良く聞くこと。ある時など、看護士さんが私の腕から点滴針を抜くのにセーノ‥と掛け声かけておられた。日本は平和だ。特選句「父の面影濁りはじめた寒の鯉(若森京子)」。私、男として気にしていることの一つに余り父を称える句が少ないことです。故に作者が父の面影を追っておられたことに感謝します。年月が経って次第に薄れる父への思いを濁りはじめた寒の鯉と表現され素晴らしい韻を含んだ句となっています。作者にとって父は大きくゆったりした鯉の姿に見えたことでしょう。

花舎 薫

特選句「柚子湯に浮く星の流れる方に浮く」。多分露天風呂だと思う。柚子湯の香りや温さに身をまかせる小さな至福感。流れ星の方へ向かっていくのは体というより希望を持とうとする心だろう。組み合わせには既視感ありだが「浮く」のリフレインが効果を上げていると思った。 特選句「なんの老い三人姉妹の初化粧」。思わずクスッと笑ってしまった。正月だから三人姉妹が揃い、それぞれおしゃれして化粧にも力が入っている、そんな光景がありありと目に浮かぶ。老いなぞ何のそのという気概を上五で詠み新年ならではの句になっている。

河野 志保

特選句「携帯の見えない声を抱いている」。電話の向こう、愛する人を思う。その人の温もりを感じ、声を抱きしめるひととき。季語はないが冬の句と受け取った。

津田 将也

特選句「セーターは汀のごとし死者の前」。比喩の巧い俳句と出合った。推し測って考えると、この死者は「海難事故」に遭った、水葬される者の一人ではなかろうか。とも思ったりしています。

三好つや子

特選句「悪書束ね探偵事務所煤払」。探偵がかっこよく事件を解決するのは小説や漫画の話。現実は浮気調査がらみの尾行が多いとか。この句から、古びたビルの一室、埃っぽく胡散臭そうな事務所が目に浮かび、煤払いという季語が味のある雰囲気をだしています。特選句「セーターは汀のごとし死者の前」。たぶん不慮の事故、あるいは事件に巻き込まれ、セーターを着たまま命を失ったのかもしれない。そんな死者の体温がのこるセーターを、生と死の汀と捉えたのでしょうか。気になる作品です。「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。お腹の中の胎児の心音を感受。ポコポコの音にほっこり。「ロボットも人を見習い御慶かな」。今、話題のフィジカルAIのおじぎしている姿を想像。「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。私もそうですが、老後ってこんな感じではないでしょうか。

島田 章平

特選句「肩書きのいらぬ故郷冬すみれ」。たくさんの転勤の後60歳を過ぎて 故郷の香川県に戻りました。そこで多くの出会いがありました。「以前のお仕事は?」と問われた事はありません。多くの方に今の私を受け入れて頂きました。故郷は本当に温かい所です。

和緒 玲子

特選句「コート着て我も一つの後ろ姿」。私単体の動作から、やがてそれが顔の無い群衆の一粒となるという俯瞰へ。滑らかなカメラワークの移動。特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。手繰るという動詞が臍の緒、母、毛糸玉を繋ぐ。同時に母の記憶も手繰っているのだろう。抑えた表現から母を思う気持ちが滲み出る。「初雪やようこそ独り言の世界」特選にしたい一句。滅多に雪の降らない瀬戸内では初雪が舞うと独りごちながら空を見上げてしまう。ようこその四文字を使うことの斬新さが光る。

石井 はな

特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。本当に悔恨はさざ波の様に来ますね。大きく足を掬われる事は無いのだけど、いつまでもいつまでも心に巣食う様にです。スッキリ断ち切る方法が知りたいです。

河西 志帆

特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。自分の入る終焉のその穴の事でしょうか。違ってたらごめんなさい。深くて少し怖いけど・・この歳になってくるとそんな風に思えたりもするんです。「斜めからものを見る癖石蕗の花」。真っ直ぐ見るのは楽そうですが、実は難しいんですよね。案外、斜めからの方が良く見えそうだもの。「AIに産土は無し初日の出」。愛と読んでも、やはり、温かさはないんです。産土がないとは、よく言ってくれました。本当にそうですよね。

佐藤 詠子

特選句「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。冬ざれるという淋しい現実の景の中にいるのに、空想だけは自由、心の中だけはふんわりしているようで、自己愛を感じる句。私は空想好きなので大いに共感しました。特選句「去年今年絆創膏を張り替へる」、絆創膏で隠しているのは実際の傷ではなく、心の傷と受け取りました。張り替えるに、去年の傷が癒えたかそっと確かめる自愛の心が見えます。一見、簡単そうな表現なのに、去年今年との取り合わせにより作者が新年に向けての前向きさを感じ奥深い心象風景ではないでしょうか。ほくそ笑んでしまいました。

松岡 早苗

特選句「雪が降る鉛筆の字が濃くなった(中村セミ)」。雪が降り出して、書き物をしていた机が暗く翳ったのでしょうか。「鉛筆の字が濃くなった」という表現が素敵で、雪の白さと黒い文字の対比がモノトーンの繊細な陰影を感じさせてくれました。特選句「死がひとつ梢にありて柚子日和」。梢で死んでいるのは小鳥か何かの昆虫でしょうか。それともこの木を世話していた人が亡くなってしまったのでしょうか。晩秋の日ざしの下、柚子の実の明るい黄色と暗く冷たい死の、くっきりした明暗が印象的でした。

出水 義弘

特選句「狐火や俳諧自由といふ心」。狐火のように神秘的な実態のよく分からないものですよ、俳諧自由の心とは、と言っているように思われる。自由には、自己の基準を確立しなければならない厳しさを伴う。多読多作で精進します。特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。生きるとは、穴を掘っては埋め、埋めては掘ると言ってもよい、日々の単調な繰り返しの連続であり、1年経てば大晦日になる。そして、一生を終える。深い悟りを詠んだものと思われる。

布戸 道江

特選句「 死がひとつ梢にありて柚子日和」。生き物の宿命、必ず死はいつかは来る、柚子が明るく灯ってる。身近な死を明るく迎えよう。「元旦の空見ていたるパンダかな」。昨年パンダが帰国するらしいと聞いて早速パンダに会いに行った、丁度園舎に戻る時間で後ろ姿を数秒見ただけだった、空は続いている、又いつか会える時が来るだろう。

若森 京子

特選句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。狐をだますではなく狐のだます私でいたい。微妙な心理、騙されたい私。「人を騙すより騙される人に」とよく言うがその心理であろうか。下五の 目を濡らしの措辞に作者の純真な人間性に惹かれた。特選句「一艘の緋の舟流る冬椿(銀次)」。寒中に咲く可憐でそして健気な冬椿から、この様に美しくも動きのあるイメージに、作者の美意識に感動した。

滝澤 泰斗

特選句「凍て星を譜面に一つシベリウス」。シベリウスと言えば、七つの交響曲という事だろうが、高校時代に吹奏楽で、そして、合唱団で歌った「フィンランディア」・・・あの荘重な重低音が、壮大な北欧の大地を想起させ、一等星の凍て星のきらめきは後半の合唱に繋がった。特選句「さざ波のやうな悔恨除夜の鐘」。除夜の鐘はまさに、繰り出してくる百八つの音波が次々と、煩悩を振り落としてくれる。掲句は、除夜の鐘の音にさざ波のように湧き起ってくる悔恨と同調させたところが新鮮でした。以下、共鳴句「冬麗の海神(わたつみ)統べる大鳥居(松本美智子)」。美しい情景に魅了された。「絶滅の道行く熊を悲しめり」。今年ほど熊の出没のニュースに動揺したことはなかった。熊も絶滅危惧種なのか。悲しい、時事俳句。「悪書束ね探偵事務所煤払」。この悪書とは何ぞやから始まって、探偵事務所の選択と季語のフィット感が絶妙。面白い句になった。「放哉の髑髏の語る寒夜かな(島田章平)」。どこかの博物館にある髑髏をみて、思わず咳き込んだか? とすれば、放哉を持ってきたのがお手柄だが、自句自解を聞いてみたくなった。「内視鏡はらわた艶めいて冬日」。母親を大腸がんで亡くし、40歳で大腸ポリープを取って以来、定期的に内視鏡で自分の腸をモニターでみている。確かに艶めいているが、もつ鍋や鶏皮が食えなくなった。自分に照らし合せて・・・つい、いただいた・・・『電柱に「探しています」寒夕焼(花舎 薫)』。様々な物語を勝手に紡ぎ始めた自分がいた。寒夕焼の季語がいい。

新野 祐子

特選句「鳶一羽光となれる初日かな」。私も見たことがあるんです。秋晴れのきれいな日でした。鳶が空を切って飛んだ軌跡が一直線の光になったのを。これが初日であれば何ともめでたいことですね。特選句「幸不幸小さじ二杯の去年ことし」。幸や不幸を「小さじ二杯」とたとえたのを見たことがありませんでした。びっくり!

植松 まめ

特選句「霧はれて大和三山初の日矢」。新春らしくて清々しい句。私も二年前に甘樫の丘から大和三山を眺め感無量でした。特選句「凍て星を譜面にひとつシベリウス」。凍て星を 譜面にひとつの言葉に惹かれました。フィンランドの国民的作曲家シベリウスの「フィンランディア」また聴いてみます。

疋田恵美子

特選句「健康診断今年もなんとかパズル解く」。身体に問題もなく新しい年へのスタートおめでたいことです。下五がいいですね。特選句『「ハルウララ」さがしにゆきし冬競馬』。「ハルウララ」はお元気でしたか。

すずき穂波

特選句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。とても繊細な句で頂きました。特に「目を濡らし」を結びに持ってきたところの感覚に惹かれます。特選句「空想を傷つけぬよう冬ざれる」。この句も同じく繊細で冬ざれという季語のザラつき感を独自の肌感覚、何というか、そろっと諸手で掬いとっておられる。これら二句共、作者は頭の中で作っておられるが、読者の視覚に微弱電流を流し想像させようとしておられ それが何とも心地よい。そんな句なので頂きました。

野口思づゑ

特選句「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。青く消えてゆく魂。きっと美しい人生をおくられた方なのでしょう。「伊予柑や話の種も無き夫婦」。伊予柑の程よい甘さで、話さなくても心が通じ合っているごベテラン夫婦なのでしょう。「太箸や本籍甲の二二番」。甲とか乙が住所に使われていたのですね。この住所だけで場所や時の流れを感じる。太箸の季語がとてもふさわしい。「雪が降る鉛筆の字が濃くなった」。とても面白い降雪の帰結です。

岡田ミツヒロ

特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。中七の「毛玉ぽこぽこ」にしっかりと実感があり、その喜びがふんわりと広がってくる。羊水に泳ぐ胎児の元気そうな様子も彷彿としてくる。特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。日向ぼこの時に現実から遊離するような状態を「宙に浮く」と浮遊感覚として言い留めた。

三好三香穂

「ぶかぶかのセーター昼の月近し」。最近のトレンドは、ぶかぶかである。青い空に浮かんだ白い月が近いというのである。同じ青のセーターかもしれない。「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。おそらく紅い椿でしょう。魂は青い炎なのでしょう。抽象化した表現ながら、惹かれる句です。「坂の町の出口は空へ白き息」。坂を登りつめれば青い空ですね。

柾木はつ子

特選句「AIに産土は無し初日の出(野﨑憲子)」。言われてみれば確かに。ところで、この先AIロボットがますます進化して人間と対等に会話ができるようになった時、人間の方が相手を本物の人間と錯覚して接するようになるのではないかと、考えれば空恐ろしい気がするのは、私だけでしょうか?特選句「穴ひとつ掘るだけに生き大晦日」。この「穴」とは一体何を指すのでしょうか?肯定的にも否定的にも取れますが、随分と興味をそそられるキーワードです。

榎本 祐子

特選句「去年今年絆創膏を張り替える」。新年を迎える感懐の中での、日常の人間的な行為が面白い。

田中 怜子

特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。いつも着ている、毛玉がついているようなセーターを着て、温い日差しが気持ちよい。赤ん坊を待つその幸せ感がにじみでていたる、また日常語が飾り気なくていいですね。特選句「暗黒に浮かぶ地球や去年今年」。今の地球がおかれている状況を俯瞰して見つめるその眼差しがいいですね。怖さもあるけど。

山本 弥生

特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。高齢の夫婦が仲良く記憶をもどし乍ら年用意をしている姿がとてもよく見えます。

伊藤  幸

特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。「よっこらしょ」一年の疲れを記憶と共に呼び起こし労う。そうして前を向き新しい気持ちで年を迎える。作者に「ガンバレ!」とエールを送りたい。特選句「元日やのぞみ静かに田町駅」。「田町駅」という固有名詞がリアルなかたちで想像を掻き立てる。古ぼけた看板に楷書で書かれた駅名、待合室には木製のニスの剝げかかった長椅子。大きな野望はないが今年こそ何かを成したいという願いが窺える。

菅原 春み

特選句「絶滅の道行く熊を悲しめり(河西志帆)」。先住民の熊を追いやった人間たちのせいで、こんな事件が起きているのですよね。共感しました。特選句「冬晴や醤にほへる船着場」。オーソドックスな格調高い句です。五感を駆使しつつ映像が立ち上がります。

漆原 義典

特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。私は母の句が好きです。臍の緒と母の毛糸玉のむすびつき、母との強い絆がよく表現されています。素晴らしい句をありがとうございます。

荒井まり子

特選句「死がひとつ梢にありて柚子日和」。絶対は死。死は一定である。柚子湯ではなく、柚子日和ゆったりして優しい、穏やかな時間が愛おしい。

中村 セミ

特選句「寒椿たましひ青く青く消ゆ」。ひと枝の寒椿を部屋に置いておくと、椿の赤い、赤い魂のような花が、むかしの色々な人達とあったたわいでもない、喧騒の様な出来事が不思議と、思い出させ其れ等は、青く、青く消えて行くのだった。

銀   次

今月の誤読●「冬日向大地を歩く吾子と鳩」。暖かい冬の昼下がりのことだ。わたしはわが子を連れて近所の公園に行った。生まれてから一年余、歩き方をおぼえて以来、娘はよちよち歩きが楽しくて仕方がないようだ。二、三歩足を進めてはこちらを振り返りニコッと笑う。何度もそれをくり返す。その仕草がたまらなく愛らしい。まだ満足にはしゃべれないのだが「マー」と声をあげる。「ママ」のつもりだろう。わたしはそれに応えて手を振る。娘がまたキャッと笑って歩き出す。なんという幸せな日。たぶん人生で最良の一日だろう。それを祝福するかのように、娘のまわりにはたくさんの鳩が集まり、くちばしで土をつついている。それはあたかも雲の上を天使が歩いているかのようだ。娘がその鳩を指さしこっちを見た。わたしは一語一語切りながら「ハ・ト」と教えた。その言葉がわかったのかどうか、娘は一羽の鳩に手を伸ばした。すると驚いた鳩はクッと短く啼き、宙に飛んだ。その拍子に娘はストンと土の上に尻もちをついた。一瞬おいて娘は大きな声を張り上げて泣き出した。その声が合図だったかのように数十羽の鳩がいっせいに空に舞い上がった。とたん娘は泣きやんでポカンと空を見上げた。真っ青に晴れた空を群れをなした鳩が飛ぶ。娘はその光景に見とれるように鳩たちを目で追った。たぶんそのとき、言葉にはならないだろうが、娘は実感として知っただろう。この世界には大地があることを。空があることを。

大浦ともこ

特選句「蝋細工のパスタ巻かるる寒さかな」。場末の古びた食堂だろうか・・寒くもあるが懐かしくもある句と思います。食品サンプルに着目したのも面白いです。特選句「たうたうと仔猫が乳を吸ふ暖炉(和緒玲子)」。いかにも暖かく幸せな気分になれます。たうたうというオノマトベにもゆっくり流れる時間が伝わります。目の前の様子の様でもあり、絵本の中の一幅の絵のようでもあり、子どもの頃の幸せな思い出でもあるようです。

末澤  等

特選句「冬夕焼け鬼籍の友等の墨絵かな」。どうにか6回り目の年男を終えることができた昨年、学生時代の同級生や入社同期生の友人の訃報が届きました。そのようななか、この句を詠ませて頂いた際に、冬には急に下りてくる帳により夕焼けが墨絵のごとく変化していく情景が浮かび、友人たちのことが深く思い出されました。大変心に残る句だと思います。

川本 一葉

特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。ぽかぽかして少し眠気もきてこの世ではない感じが伝わって来ます。ふっとちょこっとというのも可愛くて新鮮だと思いました。

向井 桐華

特選句「寒鴉鳴いたって鳴いたって鴉(柴田清子)」。こういう発想があったのかと思わされました。鳴いたって鳴いたってのリフレインがとても効いています。

野田 信章

特選句「セーターに毛玉ぽこぽこ胎動来」。中句に至る「セーターの毛玉ぽこぽこ」の素朴な物象感の把握あっての一句と読んだ。これによって胎動期を迎えた母体そのものの讃歌が生れている。

増田 暁子

特選句「クリスマス対岸のよう勉強部屋(十河宣洋)」。騒ぎの外にある受験生の勉強部屋でしょうね。追い込みの時期なので大変。特選句「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。遠距離恋愛のふたりかも? 同じ夕焼を見ている時間差がもどかしいね。

竹本  仰

特選句「凍て星を譜面に一つシベリウス」:シベリウスはフィンランドの作曲家。ロシア圧政下にあった祖国への愛国心をテーマにした曲などで名を成したようだが、それ以上詳しいことはわからない。したがって、この譜面が何の曲を指しているのだかはわからない。わからないながら、その想いに共感できる部分がはっきり一つだけあって、百年以上の時空を超えてつながっているというのではないか。生なるものの神秘というのか、そんな出会いを感じた。特選句「短日や聖母へ空けるバスの席」:バスというのは不思議な場所だなと思うことが何度かあった。学生時代に自死したK君という友人がいて、まだその喪中だったが、空っぽの始発のバスに友人Aが乗って来た。死んだK君とも知り合いで、私を含め三人は仲が良かった、というより死んだK君の数少ない話し相手がその二人だったと言えた。自ずと死んだK君の話になった。その時思ったのは、けっこう乗客のいる筈のバスに二人だけなんて、何かおかしいということだった。誰か来そう、それはK君なのではというように、ひそひそ声で話をしていた。そう、だから、バスには思わぬ出会いが何気なく待っている気がして、聖母なるものの予感もまたあろうかと思った。特選句「いきものに最初の鼓動冬銀河」:いきものの最初の鼓動というのは、どこから始まるのだろう。とふとそんなことを考えたくらい、新鮮な何かを問われた気がした。死んだらどこへ行くか、或る病院の死に近い方々に聞くと、六割が星になると答えたそうだ。そうか、宇宙の運行の中に帰るということなのだろうか。とすれば、生まれる時も、宇宙の運行から来たと言えるのかもしれない。今年の元旦は息子に誘われ、朝の五時からちょっとした登山に行った。初日の出というより、登ることが目的だったのだが、或るダムに車を置いて空を見上げると、本当にぶちまけた程に星々が。うぉっと、渋谷区在住の息子は声を漏らした。そうだ、こいつ聖夜に生まれた子だった。うぉっという声に引かれて、何かいいものが見えた気がした。たしかにスタート地点に戻った気がした。そんなことを思い出した。♡皆さん、本年もよろしくお願いいたします。元日登山に始まった年、何かいい感じがしました。みなさん、お元気ですか。どこかでお会いしたいですね。

月野ぽぽな

特選句「日の笹子遺影は眼開きてありぬ」。遺影を見ながら、亡き人が目を閉じているところを思い出しているのでしょうか。それは、臨終の床での姿でしょうか。そこに至るたくさんの思い出もやってくることでしょう。笹子でなく、日の笹子、に思いの深さを感じます。哀しみと癒しが共にあります。

三枝みずほ

特選句「すり硝子あちらはたぶん凍てている」。すり硝子一枚を隔てて変わる世界。不透明な硝子であるがゆえに読者それぞれに思う“あちら”があるだろう。帰れない故郷、立ち入れない場所がふとよぎる。

高木 水志

特選句「清元の声音や寒夜哭く老犬」。長年飼ってきた老犬が体調が悪いのか清元の声のように鳴いているのが苦しく感じた。

重松 敬子

特選句「よっこらしょと記憶をもどす年用意」。私もよっこらしょが増えてきました。しかし、気持ちはまだまだ青春!!

森本由美子

特選句『電柱に「探しています」寒夕焼(花舎 薫)』。探しものは何?辿り着いたのは、もしかして自分自身の心棒ではないのか。寒夕焼を背に自分に対峙する姿を想像させる。

亀山祐美子

特選句『臍の緒をたぐつて母の毛糸玉』。母親になる喜びを我が子の靴下・帽子を明るい毛糸で編むことで表現する母への感謝。自分の臍の緒が母の毛糸玉に紡がれる原動力になっている事実に改めて気付く幸せ。誕生前から愛情と情緒が形になる感覚が美しい。特選句『坂の町出口は空へ白き息(三枝みずほ)』。この町の坂道はまるで人生のようだ。上へ上へと向上心溢るる長い長い道程は充実感・満足感広がる空へと続く。単なる風景に人生をなぞる。「白い息」は空へ昇る日の最後の一息なのかもしれない。奇しくも誕生と終焉の俳句を選んだ。そんな年齢になっているのだと改めて実感した。

稲   暁

特選句「野良猫の歩をすすめゆく初景色(榎本祐子)」。初景色という季語に、野良猫を配して意外性があると思います。

吉田 和恵

特選句「落としもの雪に埋もれし色鉛筆」。落としたものは明日を描く色鉛筆だった。しかも雪に埋もれてと。切ないですね。でも雪が消えたらきっと見つかると思いますよ。

山下 一夫

特選句「日向ぼこふっとちょこっと宙に浮く」。あたたかくやわらかでのどかな空気感に満ちていて癒される句です。「ぼこ」「ふとっちょ」「ちょこっと」の感覚を「日向」と「宙に浮く」との概念でサンドしたことが成功しています。特選句「声埋めいまからさくらまであるく」。 「さくらまで」というのは距離であり時間でもあるのでしょう。また「声埋め」は「あるく」主体のいる場所であり体(胸)でもあるのでしょう。抽象的かつ多義的なのですが「いまから」で並々ならぬ決意のようなものが伝わってきます。問題句「狐のだます私でいたい目を濡らし」。狐にだまされて涙するような純情可憐な人でいたいとの願望で、詠者はその逆という自嘲や嘆きがあるのかと味わい深いです。七七七で少し散文的なところは内容に合っているとも言えますが、五音にしていく余地もあるように思います。

太藤田 乙女

特選句「君を通り抜けてきた冬の夕焼」。冬の夕焼けの美しさの如く君は幾年月を経てきても凛とした佇まいと辛苦も乗り越えてきたであろうけれど変わらぬ清楚な美を感じさせる女性なのでしょう。その女性を見つめる作者の深い想いが冬夕焼の情景と重なって心に沁みます。

松本美智子

特選句「臍の緒をたぐって母の毛糸玉」。「臍の緒」と「毛糸玉」の取り合わせが妙でした。物の少なかった時代,昔は母が小さくなったセーターなどをほどいて丸くなった毛糸玉から新たに編みなおしていたな・・・と思い出しました。いろいろな色の毛糸玉の不思議な雰囲気と母と胎児を結びつける大切な「臍の緒」を取り合わせたノスタルジーを感じる秀句だと思いました。

野﨑 憲子

特選句「青空の呟きとなる落ち葉踏む」。青空の下、ひとり歩く足もとで落ち葉が、かさりと鳴る。その微かな音は、まるで空がそっと言葉をこぼしたように、世界の静けさの中へ吸い込まれていく。透明で、どこか孤独で、しかし不思議な温もりを帯びた一瞬。落ち葉のかすかな響きが、いつしか「青空の呟き」へと変わってゆく。それは、地球が声を持つ瞬間のようでもある。特選句「いきものに最初の鼓動冬銀河」。冬銀河の深い静寂の底で、小さな星がひとつ、ぽうっと誕生したような気配がある。それはまだ名も持たぬ命が、世界に触れようとする最初の震え。かすかな温もりの記憶が、そっと胸に灯る。冬の夜空を仰ぎながら、「生命とはなんと儚く、なんと尊いものか」その思いが言葉にならぬまま、静かに広がっていく。どちらの作品にも、平和への祈りが静かに息づいている。その思いが世界最短定型詩となり静かに広がっていく。いま、人類の足もとはあまりにも脆い。だからこそ、冬銀河の光のように、青空の呟きのように、愛語の俳句が、これから世界へ向けて熱くそして確かに発信されてゆくことを願ってやまない。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

風花
風花やあなたの声をみつけます
三枝みずほ
アスファルトだらけの街を風花す
和緒 玲子
風花のやうな約束してしまう
柴田 清子
言の葉はたましひのかほ風花
野﨑 憲子
風花や森の奥処に息ひとつ
野﨑 憲子
恥ずかしさとも戦うんだよ風の花
藤川 宏樹
冬の月
初恋は成就せぬもの冬の月
藤川 宏樹
穀潰しの目立ちたがりや冬の月
野﨑 憲子
自販機の灯に寄り添えり冬の月
銀   次
沼風はそらしどれみふあ冬の月
野﨑 憲子
予報士の外した指輪冬の月
藤川 宏樹
寒月光体突き抜けゐたるかな
柴田 清子
輪の中にいて鈍き牙なり冬の月
三枝みずほ
夢一つ叶えて帰る冬の月
末澤  等
タワマンに住まへど二階冬の月
藤川 宏樹
卵焼上手にできた春よ来い
柴田 清子
老人の卵の座る日向ぼこ
島田 章平
卵ぶつけたし病室の壁白すぎて
銀   次
縄文のヴィーナス君は寒卵
野﨑 憲子
恐竜の卵抱いてる冬休み
島田 章平
火の底の戦語るや寒卵
三枝みずほ
穴ひとつ掘り終えせがむ寒卵
末澤  等
寒晴れや親馬の後から仔馬
柴田 清子
霜踏むや曲芸の馬迷い馬
銀   次
息白し母馬仔馬岬風
島田 章平
冬あたたか仔馬スキップして厩舎
和緒 玲子
牛と午子午線またぐ大枯野
藤川 宏樹
トランプ
トランプ繰る指先より消えゆけり
三枝みずほ
孫とするトランプ母の負け
島田 章平
和平へと切れよトランプ冬の月
野﨑 憲子

【通信欄】&【句会メモ】

「海程」の後継誌「海原」は、本年より安西 篤さんから堀之内長一さんに代表が交替し新たなる第一歩を踏み出しました。「海程香川」も一回一回の句会を大切にますます熱く渦巻いてまいりたいと存じます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

令和八年初句会は、寒気が緩み冬日射す一月十日に開催いたしました。子育てまっ最中の三枝みずほさんも久々に参加され、淑気溢れる楽しく豊かな句会になりました。

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