第170回「海程香川」句会(2026.03.14)
事前投句参加者の一句
| 嘶きて回転木馬永久(とわ)の春 | 榎本 祐子 |
| 明治百六十年の春の闇 | 荒井まり子 |
| いつもゐる人いなくなる鳥雲に | 柴田 清子 |
| 定食屋のおかわり百円水温む | 銀 次 |
| 君のままでいいよ雪割草が顔を出す | 吉田 和恵 |
| 白梅といちまいの夜開くかな | 佐孝 石画 |
| 春一番象のからだが水を割る | 菅原 春み |
| 芹の水ことば少なくして暮らす | 男波 弘志 |
| 地玉子のずしんと眩し春の駅 | 三好つや子 |
| あなただけ吾の句を選び蝶になる | 薫 香 |
| いつの間に右へ右へと散る桜 | 山下 一夫 |
| ひと回り小さき友よ冬の葬 | 石井 はな |
| きのうからここに住んでる春の星河野志保 | 河野 志保 |
| 永き日のごろんごろんと茶臼石 | 綾田 節子 |
| <鎌倉覚園寺にて>雨あがる谷戸の木蓮 白凛と | 田中 怜子 |
| また会おう会わずに逝ったスイ–トピー | 遠藤 和代 |
| 空を道連れ三月の子の歩幅 | 三枝みずほ |
| 落日は一水仙に薫るべし | 竹本 仰 |
| 蕭白の龍と目が合う春の雷 | 松本美智子 |
| 派閥あり抽斗底の種袋 | 森本由美子 |
| れんこんの炊いたんごはんけんちん汁 | 藤川 宏樹 |
| 句を連ね気さんじな彼余寒かな | 樽谷 宗寛 |
| スキップがまだ出来ました鳥帰る | 布戸 道江 |
| 博学の白梅(はくばい)を観て徒爾(とじ)語り | 時田 幻椏 |
| 朧夜を濡れてもどりし回覧板 | 小西 瞬夏 |
| 晴々とほほかわきたる三月来 | 矢野二十四 |
| イカ耳の猫の爪切り多喜二の忌 | 植松 まめ |
| 人形塚造花の薔薇の褪せており | 大西 健司 |
| ウクライナやられた正義春の泥 | 滝澤 泰斗 |
| 瞳まあるきひとだった春の雨 | 福井 明子 |
| 啓蟄やかくも難儀な世と知らず | 塩野 正春 |
| 新学期明治の顔の文豪ら | 十河 宣洋 |
| 浅春や師も友も逝き濡れそぼる | 末澤 等 |
| 古雛の髪梳き直し母似かな | 増田 暁子 |
| 雲を割き池に日の没る蝉氷 | 河田 清峰 |
| ドーナツのほのかな甘さ鳥つるむ | 向井 桐華 |
| 丸い石拾いたくなる春の黙 | 佐藤 詠子 |
| 薄氷や君を忘れているような | 高木 水志 |
| デスマスク白秋二月野の水光(みでり) | 野田 信章 |
| 戦争の皆腹の底胡瓜揉み | 豊原 清明 |
| 息ひそめ口に指当て「明日天気」 | 田中アパート |
| 新じゃがの顔を揃えて性善説 | 重松 敬子 |
| 抗ひて添ひて千年花へ風 | 和緒 玲子 |
| 天狼や高市拓くぞ日本力(にほんりき) | 疋田恵美子 |
| 天上に夫婦の会話春の雲 | 藤田 乙女 |
| わ今日は紋白蝶で来ましたね | 月野ぽぽな |
| 妹が朝からいい子ひな祭り | 野口思づゑ |
| 妻を恋う幾千の歌春天へ | 新野 祐子 |
| スキージャンプ笑顔の沙羅の銅メダル | 山本 弥生 |
| 生死とは終はればをはる如月よ | 各務 麗至 |
| 引きどきの鶴に鼓笛の小学校 | 津田 将也 |
| 釘を打ち春の何かを掛けて祖母 | 松本 勇二 |
| 啓蟄や園児の列のもこもこと | 岡田ミツヒロ |
| 山笑う魚嫌いのサプリ好き | 松岡 早苗 |
| 信じるといふは朧を分け入つて | 柾木はつ子 |
| 逝きし人雲より春を覗きをり | 川本 一葉 |
| 我が庭の古びぬ木々に春一番 | 出水 義弘 |
| 囀りや天から聞こゆ五七五 | 漆原 義典 |
| 巣箱置きますます耳は透明に | 若森 京子 |
| 花の駅一両電車の走りゆく | 三好三香穂 |
| ゆとりっ娘の喋り場時々雪解川 | 岡田 奈々 |
| 静かなる針置くみたい春の花 | 中村 セミ |
| 花林檎いけないドアを開けたがる | 河西 志帆 |
| 春雷やフォルティシモなる風の芯 | 佳 凛 |
| 麦青むひかりの國の入口に | 亀山祐美子 |
| ピザ食って大きく跨ぐ春の地図 | 伊藤 幸 |
| まほろばはまぼろしに似て紋白蝶 | 大浦ともこ |
| 風に佇つ悪い少年つばくらめ | 花舎 薫 |
| 蛇穴を出て満月を呑み干しぬ | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「ゆとりっ娘の喋り場時々雪解川」。平成の中頃にゆとり教育を受けた娘さんでしょうか。よく喋られるようですがときおりは「雪解川」のほとりでしっとりと喋っているようです。明るい感性に裏打ちされた矢つぎばやの展開が新鮮でした。
- 小西 瞬夏
特選句「春一番象のからだが水を割る」。なんとも大らかで、のびのびとした気分に浸れる一句。「からだ」とひらがな表記をしたところは「鼻」「足」などとあえて具体的にしなかったのだろう。そこが実景を越えてやや抽象的な不思議さを感じさせる。
- 月野ぽぽな
特選句「君のままでいいよ雪割草が顔を出す」。上五中七の口語の優しさが花の姿と重なり合います。白が印象的ですが、さまざまな色に咲く雪割草。他の人のようになろうとせず、自分のままであることで初めて輝き出すことを教えてくれているようですね。 ♡<章平さん><前向きで探究心に溢れた章平さんの少年のようなキラキラした瞳を思い出します。他界から兜太先生、たねをさん、天志さんはじめ皆さんと、句会に参加していらっしゃいますよね。ご冥福をお祈りいたします。
- 十河 宣洋
特選句「わ今日は紋白蝶で来ましたね」。いつも何かにつけて意外性を発揮する友人、パートナなど。今日は紋白蝶のようにゆったり、きらびやかに来ましたね。驚くような、楽しみにしていたような雰囲気がある。特選句「人体はウイルス戦場白い息(塩野正春)」。人類の歴史は細菌との闘いだったと聞いたことがある。いろいろなウイルスが出てくる。新種もある。人体だけでなく鳥インフルなどは生活にも影響をしてくる。
- 各務 麗至
特選句「君のままでいいよ雪割草が顔を出す」。イルカの「なごり雪」。『今 春が来て 君はきれいになった 去年よりずっと きれいになった』や、毎年「ふきのとう」の芽生える春になると『ふき』という女の子を思い出す滝平二郎の絵本の悲しい話なんかが頭を過ぎります。たぶん「やさしさ」「強さ」の「普遍性」をこの句から感じるのかも知れません。特選句「信じるといふは朧を分け入って」。人間完全完璧ではありません。それこそ朧なものや未知無知からの間違い失敗は多々あって、だけど、そこで止まり終わる訳にはいきません。その時その時に対応して最善を尽くして信じるべき「もの」「方向」を信じて進むしかないのです。
- 津田 将也
特選句「雲を割き池に日の没る蝉氷」。「池に日の没る」に対し、「蝉氷」の存在感がいい。セミの翅みたいに薄く張り、春がもう近いしるしの氷である。氷にはスジが入り、それが透明な蝉の翅に似ているので、そう呼んだ。氷は、春の薄氷とは少し違い、形状感や硬質感が見られる。しかし、池にやってきた太陽の光熱には、すぐに負けて溶けてしまう。やはり薄氷と同じに儚い。
- 男波 弘志
寸感「丸い石拾いたくなる春の黙」。これがもし「暮の春」ですと風景が駘蕩としてひろがったであろう。 しかし、黙、と置くことで石の存在が春そのものではなくなっている。 作者の中に在る、石、であろう。秀作
- 樽谷 宗寛
特選句「ひと回り小さき友よ冬の葬」。島田さまのお姿がありありと浮かびます。<よ>の語りかけがよい。遠野吟行ではこまやかな御心遣いがありがたくいまも脳裏にあります。
- 矢野二十四
特選句「新学期明治の顔の文豪ら」。一句に近現代の文芸の歴史が詠み込まれてをり、俳句ならではの表現になっている。特選句「雲を割き池に日の没る蝉氷」。立春後の薄氷ではなく、蝉氷という冬の季語を使って、春の兆しを上手く詠んでいる。「芹の水ことば少なくして暮らす」。季語の本意が利いた句。「 空を道連れ三月の子の歩幅」。空を道連れが佳い。大きく羽搏いてほしい。「落日は一水仙に薫るべし」。「べし」の断定が落日と水仙の景を引き締めた。「新じゃがの顔を揃えて性善説」。じゃがいもはどれも善良そうな顔付をしている。「まほろばはまぼろしに似て紋白蝶」。大和言葉の頭韻を踏んで調べの良い句。大和の春の景。「風に佇つ悪い少年つばくらめ」。この悪童は風の子。雅語のつばくらめで句に風趣がでた。「ひらりふわり青年はスワンミラノコルティナ」。仮名の副詞(擬態語)とカタカナの名詞一句形成。冬季五輪の雰囲気がよく出ている。
- 福井 明子
特選句「静かなる針置くみたいに春の花」。針に赤い糸を通し、白い晒しの布に麻の葉模様を刺し子していたことを思い出しました。針を置いた時、静かな時間の中に春の花が広がっている。忘れていた時間がよみがえりました。
- 布戸 道江
特選句「定食屋のおかわり百円水温む」。ご飯のお代わりでしょうか、やさしい定食屋さん、季語が良く効いている。「さあ召し上がれ炊き立ての朧月」。上五の調子良さから朧月ヘと導く意外性、お味は如何でしたか。「子どもらの棺満たしたしたんぽぽで」。爆撃を受けたイランの女子校の子供達、悲しくて言葉にならない。
- 大西 健司
特選句「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。たしかに難儀な世の中、世の中に這い出てみれば何とも難儀なことばかりかと、しみじみ思わされる。
- 岡田 奈々
特選句「スマホ捨て心軽やか紙風船(野口思づゑ)」。心と体の健康の為にスマホを見ないのは現代の課題です。全てを放って、紙風船の様に風に吹かれましょう。特選句「妻を恋う幾千の歌春天へ」。正に島田章平さんへの献句ですね。本当に奥様の歌ばかりでしたもの。「恋しさが飽和してきた春の月(佐藤詠子)」。春の月のゆったりとした柔らかさ。春は和香で、穏やか。月まで素敵。「きのうからここに住んでる春の星」。春の夕方、ふと見上げるとキラキラと大きな星。金星、火星、土星どれか私にはわかりませんが、このところ同じ所に見えるのが、嬉しい。「さあ召し上がれ炊き立ての朧月」。炊き立ての御飯のような湯気が出てる出来たての朧月。心まで豊かになります。「ケータイ水没いま草木の息吹きて」。スマホばかり見ていたのに、落として、あっと思ったのも、一瞬。周りの草木の春の様子に目を奪われた。春は着実に息づいている。「丸い石拾いたくなる春の黙」。春は色々な感情を発露させる情熱を持っているのかも。「新じゃがの顔を揃えて性善説」。如何にもごつごつした、丸い人の良さそうなじゃがいも。皮も薄く扱い易い。なんたって美味しい。「自転車で空を駆けぬけ亡き人よ」。島田章平さんはいつも元気に自転車で町を駆けぬけていた様子が、忘れられません。今もおいでにならないのが、信じられません。「わ今日は紋白蝶で来ましたね」。毎日、色んな雰囲気のコスプレ?それとも優しさ?色んな人を演じるのも楽しい。もしくは、亡くなった人?♡二月の香川句会で、皆でお腹よじれるほど笑ったのが最後の最高の思い出です。だんだん寂しくなりますね。
- 藤川 宏樹
島田章平さん追悼句が多く寄せられ、穏やかな人柄が忍ばれます。特選句「春一番象のからだが水を割る」。象の巨体が水に入る瞬間の飛沫と水面の波立ちを、「水を割る」で一挙に描いています。「春一番」にやや戸惑いますが、若干の違和感も含んで特選にします。
- 松岡 早苗
特選句「蛇穴を出て満月を呑み干しぬ」。ダイナミックで迫力がありました。幻想的でありながら再生の瑞々しさをしっかり感じさせてくれました。特選句「ピザ食って大きく跨ぐ春の地図」。上五、中七の大胆で若々しいエネルギー、結びの「春の地図」で更に期待感、わくわく感が高まりました。
- 植松 まめ
特選句「落日は一水仙に薫るべし」。きっぱりと言い切ったことで水仙が立ち上がってきた。特選句「花林檎いけないドアを開けたがる」。若いころの寺山修司もこんなだったんだろうかとふと思った。津軽の林檎の花を見たい。
- 若森 京子
特選句「朧夜を濡れてもどりし回覧板」。実際に,日常生活である事なのだが,何軒かの家を回って返って来た回覧板が濡れていた,それは朧の夜だった。それぞれの家の様子も想像できるし,実にリアリティもあり,又ロマンも感じる一句だ。特選句「静かなる針置くみたい春の花」。美しい春の花の咲く野原に腰を下ろすと,針の様な痛い野原だった。何か人生において教えられている様なショックを受けた。
- 伊藤 幸
特選句「また会おう会わずに逝ったスイートピー」。天志さんの追悼句ですね。本当にスイートピーのように蝶々のように天志さんは明るくひらひらあちこち飛び回っておられました。「また会おう」あの笑顔が目に浮かびます。特選句「新じゃがの顔を揃えて性善説」。新じゃがと性善説の取り合わせが何とも言えず妙。これから旅立とうとする新社会人たちを目の前にして「あゝ、人間の本性はこんなにも善なのだ、願わくば染まらずにいてくれ」。先輩としての作者の願いが伝わってくるようだ。
- 柴田 清子
特選句「芹の水ことば少なくして暮らす」。「ことば少なくして暮らす」そうありたい。出来そうで出来ない私には。芹の水音が、心に届いた清々しい特選として戴きました。
- 和緒 玲子
特選句「芹の水ことば少なくして暮らす」。芹の水という清らかさは、私達の生活に飾る言葉など必要無いと言っている様。一見なんの繋がりもない二つの事柄から真の美しさを考えさせられる。特選句「逝きし人雲より春を覗きをり」。今回の多くの追悼句の中に島田章平さんを思う気持ちを感じました。天国があるとすれば、それはきっと雲の上で、島田さんは雲を掻き分けて今やっと地上に広がる春を覗いておられるのかしらと。柔らかなお人柄と雲と春が呼応して何とも言えない優しい気持ちになりました。
- 花舎 薫
特選句&問題句「わ今日は紋白蝶で来ましたね」。亡き人がいつもいろんなものに姿を変えて現れている(と思っている)のだろう。だから「今日は」は「こんにちは」ではなく「きょうは」だと思う。今回はひらひらと紋白蝶。嬉しい驚きを故人と会話しているかのように詠んでいる。亡くなった人を偲ぶ句が今回多かったように思うが、この句は悲しみを乗り越えた明るさがある。亡くなっても人は自然や世界のどこにでもいるのだと言っている。それがまた春らしい。上五の音律を整えたらもっとよかったのでは?わあ、あら、ほう、ふむ、等々、その小さな呟きで詠み手の人となりにちょっと色付けができただろう。小さい「っ」をわの後に入れてもよかったかもしれない。
- 野田 信章
問題句「浅春や師も友も逝き濡れそぼる」「冬の雨師も友も逝き濡れそぼる」。「浅春や」と急遽訂正されてきたので、「冬の雨」の句は、選句から除外せざるを得なくなった。訂正句は早春譜の情緒に込められたかなしみの述懐である。元の句は、この点では、素気なきまでの読後感である。それでも一句の内容(主題)からして「師も友も逝き」ともなれば、一句に込もる心情のきびしさ、それ故の美しさも諾うところであり、それが「冬の雨」の修辞の配合であろう。これは片や「抒情」方や「叙情」の認識の差とも言えようか。
- 佐藤 詠子
特選句「朧夜を濡れてもどりし回覧板」。幻想的な世界と日常が対比している句。回覧板がもどるということは、町内会の班長さんでしょうか。地域の暮らしが詰まった回覧板は十軒くらいのお宅を順番に開かれてきたのでしょう。濡れてもどりしという中七から、「急いで戻さなきゃ」という隣人の心配りを感じました。自治体によっては、情報共有がデジタル化され回覧板からスマホのメールなどになる所も増え少し淋しい時代ですが、ご近所繋がりは大切にしたいです。特選句「新じゃがの顔を揃えて性善説」。買い物途中のスーパーでの哲学。ユーモアを感じました。新じゃがは丸くて皮が薄くて確かにつるんとした顔のように見えますね。性善説とは儒教の「人は本来、善である」という教え。思いやる心、優しさを人は生まれた時から持っていると。幼児のように素直そうに並んでいる新じゃがに諭されたような妙な気持ち。作者の感覚が面白いです。
- 中村 セミ
特選句「水温む礫を置いて太陽系(藤川宏樹)」。水は比熱がおおきく、礫は始終熱くなるのが早い、水温むはまさに、地球の物理的変化をあらわした季語のように感じる。石類は、暑い冷たいは極端である。そんな対比を思ってしまった。
- 森本由美子
特選句「釘を打ち春の何かを掛けて祖母」。無添加自然食品のような精神性を感じさせる句。釘打ちの素朴なひびき、老境の心に触れた<春の何か>その何かを柱にかけ、彼女は今年も巡ってきた春を奉っている。柱は家の中にではなく、心の中に立っているのかもしれない。
- 柾木はつ子
特選句「芹の水ことば少なくして暮らす」。清らかな水辺に育つ芹。今ではどこもコンクリート灌漑で見ることも少なくなりました。喧騒と饒舌の現代社会から少し離れて静謐で豊かな生活を送りたいと言うことでしょうか。全く同感です。特選句「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。今の世界情勢、また自然の脅威を考えれば、私のような市井の徒であっても何かこの先の不安を感じずにはいられません。春になってようやく暗い地中から顔を覗かせた虫たちもこの気配を察して思わず首を引っ込めたかもしれません。
- 河西 志帆
特選句「芹の水言葉少なくして暮らす」。しんみりしそうですが、淋しいのとは違うんですよね。俳句と同じように、削れるものを減らしたら、案外楽に生きられそうです。ね。特選句「白梅といちまいの夜開くかな」。いちまいという表現は、何度か見ていますが、この世界がはっきり見えて「夜」でなければならないと思わせてくれました。素敵!「君のままでいいよ雪割草が顔を出す」。私もそんな言葉に甘えて、生きてきました。ままでいられる事は幸せですね。
- 増田 暁子
特選句「巣箱置きますます耳は透明に」。巣箱と耳は透明 の措辞が鳥の声、野の風景の情景が浮き上がります。特選句「まほろばはまぼろしに似て紋白蝶」。詩心が広がり、紋白蝶との取り合わせがとても素敵です。「いつの間に右へ左へ散る桜」。桜だけでは無い現実。「朧夜を濡れてもどりし回覧板」。中7の状態がいかにも春ですね。
- 綾田 節子
特選句「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。何時の世も戦争の絶えた事のない、この地球ですが、ウクライナ以降、大国が幅を利かす戦争が。今般は 、アメリカが参戦、これで中国なんてったら、どうなるのでしょう。全く難儀な世になってます。特選句「しゃぼん玉にほんはどこへゆくんだろ(野﨑憲子)」。同感です。高市さんがトランプさんと会談するそうですが、どうなるのでしょう、ホルムズ海峡。
- 塩野 正春
特選句「嘶きて回転木馬永久の春」。回転木馬、春が毎年巡り来る幸せな光景に感激した。来年も次の年も・・リーダーは嘶く馬だ!鬣をなびかせながら!特選句「イカ耳の猫の爪切り多喜二の忌」。猫は爪を切られるのを嫌がる。なぜか本能的にその瞬間を、イカ耳を立てて知ろうとする。このおどおどした光景が小林多喜二の戦前戦中のプロレタリア文学青年の恐怖感を醸し出している。辛い時代を経験した方々に敬意を表します。太平洋戦争はすべきでなかった。 ♡自句自解「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。今日3月5日午後5時20分に私が生まれたそうです。戦中とは言え、貧乏とは言え平和な時代だったらしいです、東北の片田舎でしたので。私は墓を作りましたがその添え書きにこの句を刻みました。兜太先生の「老いし母、うんこの様に我を産み」を思い出しました。私は5人兄弟末っ子です。「人体はウイルス戦場白い息」。いろいろウイルスがおり、それぞれ戦って勝ち負けを決めています。結果は白い息になって吐き出されます。この句今まで誰にも評価されません。
- 遠藤 和代
特選句「花の駅一両電車の走りゆく」。満開の桜が咲くひなびた駅を電車が走りゆく景色は寂寥として、いつ失われるか分からない日本の原風景。
- 榎本 祐子
特選句「まほろばはまぼろしに似て紋白蝶」。理想の場所はもう現実には無く、幻でしかないのかもと思うとき、紋白蝶は希望を見出そうとする願いのようにある。
- 高木 水志
特選句「君のままでいいよ雪割草が顔を出す」。小さな雪割草の花が作者を励ますように雪や枯葉の間から顔を出している。最初は下を向いていた蕾が開花とともに上を向き、春の日差しを浴びて、作者に語りかけている。
- 野口思づゑ
特選句「生死とは終はればをはる如月よ」。なるほど。そうでした。ただ、本人はそうであっても残された家族、友人などはいつまでも悲しみなど色々な思いが後を引くのですよね。特選句「春服の触れてゐる町の入口(柴田清子)」。絵画を見ているような。このように句を詠めるとは大変な力量だと感じます。「釘を打ち春の何かを掛けて祖母」。不思議な句です。このおばあさまに会ってみたい。「山笑う魚嫌いのサプリ好き」。山と一緒に私も笑います。「信じるといふは朧を分け入って」。言われてみればまさにその通りです。朧がとても効いている。
- 河田 清峰
特選句「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。戦好きな人がはびこる世が哀しい。
- 三好三香穂
「れんこんの炊いたんごはんけんちん汁」。炊いたん…で、ちょっと関西風。ある日のお昼ごはんのメニュー、名詞だけでの句。どこか懐かしくほっとする句です。「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。世界がだんだんわるくなる…這い出してきた虫も、戻りたくなるような難しい世の中です。戦争にだけは巻き込まれたくありません。「麦青むひかりの國の入口に」。くりくりした眼差しと、優しく、時にひょうきんな物言いで、句座を楽しませて下さった島田章平さん。2月の句会の後、わずか3日で帰らぬ人となってしまわれました。今ごろは光の中で、奥様と手を取り合っていらっしゃることと存じます。合掌。いまだに、新聞雑誌に島田章平の俳句、短歌、川柳が掲載されています。
- 出水 義弘
特選句「永き日のごろんごろんと茶臼石」。日が永くなるにつれて、生活のテンポもゆっくりとなる。ゴロンゴロンの擬音語に一定のリズムの心地良さもある。抹茶の香りも立ってくる。冬から明るい春を迎える喜びが良く表れている。特選句「古雛の髪梳き直し母似かな」。遠い昔に母の実家からいただいたお雛さま。久しぶりに飾り、髪を整えてやると、今まで気付かなかったが、亡き母に似ている。幼き日のひな祭りのときの幸な一コマ一コマが懐かしく思い出される。今は亡き、祖父母、両親の恩愛をしみじみと深く感じ入っている様子が、良く表れている。
- 佐孝 石画
特選句「釘を打ち春の何かを掛けて祖母」。「春の何か」のミステリアスな雰囲気は、作者も祖母もはっきりとは「何かわからない」という幻想につながる。釘を打ち付けるという、音までが聞こえてきそうな言わば暴力的な行為に対し、その目的が「何かわからない」物を「掛ける」ことだというのは、強烈に不条理で詩的である。主人公の「祖母」という年齢設定が、認知症の可能性も含めて、このシュールな風景にリアリティを持たせる効果を果たしている。「芹の水ことば少なくして暮らす」。上句「芹の水」が「ことば少なく」という理想の境地を体現する存在として提示されるが、そこには「ことば少なく」暮らすことの「寂しさ切なさ」を代償にしなければならないという覚悟も秘めている。「きのうからここに住んでる春の星」。星に親近感を感じるこの感覚は優しくて素敵。「ここ」と指示語があるというとは家、星が部屋にももぐり込んでいるという感覚だろうか。それはそれで痛快な幻想である。「丸い石拾いたくなる春の黙」。沈黙(聴覚)に対して、丸い(視覚)拾う(触覚)で補い合おうとする作者の身体感覚は大いに刺激的であり、また妙に共鳴するところでもある。*言語学ではこのように複数の感覚が複合する比喩を「共感覚的比喩」という。「薄氷や君を忘れているような」。常に思う亡き人(?)をふと忘れている瞬間を、薄氷という一枚のヴェールに重ねた作者の感覚に脱帽。「草青む軽い別れを重ねては」。「軽い別れ」というフレーズが、語を選ぶ際の作者の逡巡と切なさを想起させる。「天上に夫婦の会話春の雲」。亡くなられた島田氏を思う。奥様と義母さんとの再会を救いとする深い追悼句と見る。
- 山本 弥生
特選句「山笑う魚嫌いのサプリ好き」。四方の山々は季節を変わらず知らせてくれる。時代と共に主婦も働きに出てお料理に時間をかけなくなった。魚嫌いを幸いに手に入り易くなったサプリを呑んで栄養を満たしたいと思っている。
- 豊原 清明
特選句「れんこんの炊いたんごはんけんちん汁」。ご飯の美味しさがよく出ている。問題句「ケータイ水没いま草木の息吹きて(榎本祐子)」。ケータイが水の底にある、春の息吹きの現実と自然。
- 石井 はな
特選句「いつの間に右へ右へと散る桜」。右へ右へとはこの危うい世界の情勢の事と重なります。戦後は終わり戦前が始まっているのでしょうか。
- 末澤 等
特選句「博学の白梅(はくばい)を観て徒爾(とじ)語り」。この句は、「白梅」を中心にして「博学」と「徒爾」の対比、そして「観て」と「語る」の対比が素晴らしいと思いました。
- 滝澤 泰斗
特選句「かろうじて不犯の尼僧蕗を煮る(男波弘志)」「花林檎いけないドアを開けたがる」。選句する際、まず一読して、気になった句にチェックを入れて行くが、最終ページの掲句を詠んで、前のページ掲句に思いが至った。かろうじて不犯といけないドアが妙に響き合って・・・古今東西の何とも微妙な心理描写を上手に詠んだ。共鳴句「恋しさが飽和してきた春の月」。新月から満月へのプロセスと恋しさが募って行く感じが、飽和という言葉の選択に至ったお手柄。「春一番象のからだが水を割る」。実像的には、象より河馬の方が水を割る感じがあるが・・・「亡き妻への句歌集遺る春の霜」。こんな句を自分も作りたいと思うが、なかなか・・「スキップがまだ出来ました鳥帰る」。スキップがあなたとできました鳥帰るなどと遊んでいます。「子どもらの棺満たしたしたんぽぽで」。戦争犯罪人ネタニエフを告発する時事句はもっともっと残すべし。
- 三好つや子
特選句「かろうじて不犯の尼僧蕗を煮る」。美しいさみどりいろの蕗は、ゆでる前に塩を振って板ずりし、ゆでたあと水に浸して皮を剥くなど、下処理に手間のかかる春野菜。この句の尼僧も、出家前は小悪魔的で、恋多き女性だったかもしれません。なんとなく瀬戸内寂聴を思わせ、惹かれました。特選句「わ今日は紋白蝶で来ましたね」。春の女神、佐保姫のことを詠んでいると思われます。みどりが芽吹いて花が咲き、日ごとに春めく頃の、愉快な気分。「いつの間に右へ右へと散る桜」。知らず知らずのうちに右翼よりになる世の中が投影され、気がかりです。「しゃぼん玉にほんはどこへゆくんだろ」。不穏な昨今をさりげなく、巧みに表現。前句と同様メッセージ性の強い句として、注目しました。
- 漆原 義典
特選句「いつもゐる人いなくなる鳥雲に」。島田さんとのお別れを、下五鳥雲でよく表現していると思ます。素晴らしい句です。島田さんと私は、俳句と書道をとおして、島田さんからは俳句の心構えを教えていただき、私からは書道の指導により、書への取り組みを話しさせていただきました。ありがとうございました。うれしかったです。
- 松本美智子
特選句「春禽群れ宇宙交信所のごとし(松本勇二)」。春の鳥たちの群れがまるで宇宙の信号を受信する通信所の様に感じる詩的な情景がすばらしいと思いました。「生物」と「無機質な機械」「自然」と「テクノロジー」の対比が印象的でした。
- 川本 一葉
特選句「同じ桜の違うところを見て通る(河西志帆)」。結局は個性の違い、審美眼の差とでも。また愛し合うもの同士のすれ違いとも。個人の世界観の違いを桜の中に見出した鋭い句だと思いました。
- 竹本 仰
特選句「空を道連れ三月の子の歩幅」:この「子」はいくつなんだろうか。とても幅広く読める。小さい子にとって、三月はつねに大きな転機ではないか。三月生まれの子にとっては、三月でやっと周囲に追いつけたのにあっという間に終わってしまう。いつでも周囲に追いついていかねばという宿命の中で、前向きな匂いを身に着けてしまう。だから、三月はいっそうの飛躍を身に感じる時節なのだ。と、三月生まれの人間の一人として、感じるところの多かった句である。 特選句「戦争の皆腹の底胡瓜揉み」:なぜ戦争をしているのか。これは、為政者も一兵卒もしがない庶民も思う所である。と思いつつ、実は何を食べるのかとつねに胃袋に従って生きているのは間違いない。レマルクの『西部戦線異状なし』では、なぜ戦争しなければならないのかと問うていたが、人間の業のようなことだった。ほとんど胃袋で今日明日を感じるように戦争している現実。プーチンもゼレンスキーもトランプもまた小生にあっても、日々胃袋への工夫のために骨折ってるのか。だが、誰のお陰でメシ食ってんだ、という一撃を感じた句である。特選句「わ今日は紋白蝶で来ましたね」:紋白蝶は風を起こす。どこから、そんな風を集めて、何を言いに来たのか?などと、紋白蝶の連れてきたものを感じることがある。紋白蝶は風の使者。ならば、誰が?ふと希望の生まれる場所がある。それは誰にもわからず、なぜか私にしかわからないことがある。しかしそれは希望といえるのか、むしろ希望に変える風のようなものではないか。そんな風の存在を詠っているようだと感じた。問題句「嘘だけど妻来て春や嘘でない」:何とも不思議な句。芥川龍之介の「雛」に旧弊な江戸末期の父が、なぜか手放すひな人形を箱から出して眺めている、そんなウソとも真ともつかない結末があったが、噓であっても良いまことというのがある。それなんだろうか。所詮この世も夢の夢、というニュアンスを感じたのだが。♡島田さんの訃報、いきなりで、それにちなんだと思える句もいくつも見えました。とても語尾のはっきりした方だという印象があり、そんな感じの終わり方でもあったのかな、とも思いました。あの涼しい目、来世でまた出会えることを、と、思います。本文
- 向井 桐華
特選句「れんこんの炊いたんごはんけんちん汁」。季重なりであり、食卓に並べられた景を述べた句でありながら「ん」の韻をうまく使ってリズム感のある楽しい一句となっています。特選句「朧夜を濡れて戻りし回覧板」。とても情緒のある句。 中七「濡れて戻りし」 がいい。
- 薫 香
特選句「わ今日は紋白蝶で来ましたね」。それじゃ昨日はなんで来たのかしら?想像するのが楽しくなる句です。特選句「逝きし人雲より春を覗きをり」。島田さんの茶目っ気たっぷりのお顔を思い出しました。
- 河野 志保
特選句「芹の水ことば少なくして暮らす」。「芹の水」がなんとも清らか。春の川辺のまぶしい光も感じる。「ことば少なくして暮らす」日々は作者の俳句への向き合い方にも通じているのではと思う。しゃべりすぎな我が句を反省。
- 新野 祐子
特選句「晴々とほほかわきたる三月来」。この上ない幸福感に満たされている作者からおすそ分けをいただいた気分です。最近目にした句の中では、私にとって大ヒットの一句でした。淡々とした言葉ばかりなのに、取り合わせると何と素敵な世界観の出現することよ。
- 時田 幻椏
特選句「デスマスク白秋二月野の水光」。豊穣な老年期を終えて迎えた静かな死、大河ドラマのラストシーンを見る程に、充実した人生の来し方まで感じます。秀句「マシュマロの狐色して春の月」。マシュマロの狐色 うまいな、と思います。「涅槃西風おめおめ寺の猫が鳴く」。おめおめ の措辞が絶妙。問題句「れんこんの炊いたんごはんけんちん汁」。頑張りましたね。
- 亀山祐美子
「芹の水ことば少なくして暮らす」。内省的で静謐な暮らしを「芹の水」が支えている。「朧夜を濡れてもどりし回覧板」。回覧板がその地域の長閑なたたずまいを伝える。「しやぼん玉にほんはどこへゆくんだろ」。しゃぼん玉に日本を語らせる。日本はいずれ弾け散る運命なのか?不安感しかないようだが、しゃぼん玉の高さに期待感も感じられる。「丸い石拾いたくなる春の黙」。春の沈黙の中丸い石を拾い水面へ投げるのだろうか。拾うだけで満足するのだろうか。何に対する代償行為なのか。内省的な一句。「草青む軽い別れを重ねては」。死別、生別れ、仲違い、切なの別れ、別れにも色々ある。人生が長ければ長いほど記憶に残らないものを重ね生きる「草青む」の再生性が後悔と再生の人生を支えてくれる。
- 岡田ミツヒロ
特選句「あなただけ吾の句を選び蝶になる」。ただの一票、しかしそれはゼロからの飛翔。作者だけに見える煌めいて遊弋する一頭の蝶。想像性の膨らむ一句。特選句「生死とは終はればをはる如月よ」。生とは死とは、の哲学的思索、それも終はればそれっきり。漂泊の心境の中、詩歌に遊び、如月のときを迎える、そんな素朴で自然体の生と死こそ。
- 大浦ともこ
特選句「瞳まあるきひとだった春の雨」。瞳まあるきにいろいろな感情がこみあげてくるような一句。春の雨があたたかい。特選句「妹が朝からいい子ひな祭り」。この家の日常が伝わってきて、少し年のはなれた兄(姉?)の妹への慈しみが伝わり優しい気持ちになります。ひな祭りのこの切り取り方も新鮮。
- 三枝みずほ
特選句「啓蟄や園児の列のもこもこと」。冬を耐えて来た命が躍動する啓蟄の頃にもこもこと雲湧くように楽しそうに歩く園児。季語との取り合わせ、もこもこの生命力に共鳴した。特選句「生死とは終はればをはる如月よ」。肌寒さの中に春の兆しがある如月だからこそ、“終はればをはる”が実感として立ち上がる。取り返しのつかない不在を受け止め、喪いながら生きてゆく人間のリアルがある。章平さん追悼への思い。
- 山下 一夫
特選句「空を道連れ三月の子の歩幅」。子を持つ親の視点からの句でしょうか。「三月」に歳月の循環と節目を意識させられ、配された「歩幅」には毎年拡がっていく成長を意識させられます。「空を道連れ」がいいですね。前途には晴れ曇、雨や嵐もあるでしょうが雄大です。そんな「子」の反対概念の歩幅はなどと考えて少し寂しくもなりました。特選句「釘を打ち春の何かを掛けて祖母」。祖母が何を掛けているかがわかっていない様子であることから、掲句の視点は幼い子あたりにあるかと。以前はどの家庭でも四季折々の情景や行事を彩る飾り物や行事をしていたもので年配者ほど律儀でした。やや強い「釘を打ち」が謎ではあるのですが、周囲に古い習慣が残っていた幼少期の一こまを追想している雰囲気が好きです。問題句「わ今日は紋白蝶で来ましたね」。確認もしくは共感の口語フレーズから、まずはいろいろと趣向を凝らす人物の今日のそれが紋白蝶と受け止めましたが、蝶のイメージから魂や霊など超自然の何ものかの気配もあり面白いです。口語で一貫して「わ」は「わっ」の方が良いのかも。
- 田中 怜子
特選句「啓蟄やかくも難儀な世と知らず」。コロナ下の窮屈な思いのあと、ロシアによるウクライナの侵攻、そしてエプスタイン問題が揺れる中のアメリカ・イスラエルによるイランへの空爆などなど、翻弄されたここ何年かだった。怒ったり、絶望したり、憎んだり しかし日常生活が続いている。そして時期が来ると生命はもごもご動きだす。この作者は、そういうものよ、生きるとは、と諦観しているのだろうか?特選句「デスマスク白秋二月野の水光(みでり)」。この句を読み、すぐ、白秋さんのデスマスクを目に浮かんだ。学生時代に白秋の息子さんの隆太郎さんと座禅の会にご一緒させていただき、京都の芋ぼうでごちそうになったり、京都の中立売の久松真一さんのお宅に連れて行っていただいたり・・・懐かしさが湧いて来ました。♡朝日新聞のみならず、毎日新聞の俳壇、歌壇にも投句されていた島田さんが亡くなられた。島田さんを悼んだ句が見られる。ご冥福を祈りたい。
- 吉田 和恵
特選句「白梅といちまいの夜開くかな」。梅が香る夜を、夜を開くとしていることに共鳴します。その先どんな夜が広がっているのでしょうか、想像が膨らみます。
- 銀 次
今月の誤読●「さあ召し上がれ炊き立ての朧月(月野ぽぽな)」。――さあ召し上がれ。だれかがそう言った。あなたは少しためらう。お椀のなかには食べ物らしきものがないからだ。ただぼんやりとした光がにじんでいるだけ。そこからは湯気がふうわり立ちのぼり、なにやら頬のあたりが温かい。――冷めないうちに。振り返ってみても台所にはだれもいない。ただ釜の蓋がわずかにずれている。あなたは箸をとる。だが、すぐにそれが役立たないものだと気づく。箸では挟めないからだ。仕方なく、あなたはお椀のふちに口を寄せすすろうとする。――そう、それでいいのよ。ひとくち、口のなかでなにかがほどける。味はすぐにはこない。代わりにどこかの夜がひらく。曖昧な、はるか遠い記憶のなかに欠けらのように残っていた味。その味が舌のうえでゆっくり溶けてゆく。――いい夜でしょ。あなたはうなずく。だが、それが誰に向かってのものなのかわからない。お椀のなかの光は少しずつ減っていく。だが消えきらない。湯気のなかでまたにじみはじめる。そして、あなたは気がつく。これは食べ終わるものではないのだと。やがてあなたは満ち足りて、そっとお椀を下ろす。――また、いらっしゃい。外に出ると中天に朧月がかかり、ゆらめくような光があなたを見下ろしている。
- 藤田 乙女
特選句「君のままでいいよ雪割草が顔を出す」。存在するものへの肯定感と温かさに溢れ清々しさを感じる句でした。特選句「また会おう会わずに逝ったスイートピー」。スイートピーの花言葉は旅立ちや別離、優しい思い出、私を忘れないでなどです。他界へと旅立っていった人への想いがスイートピーの花の中に息づいているように感じました。
- 野﨑 憲子
特選句「嘘だけど妻来て春や嘘でない(各務麗至)」。一読、先月急逝された章平さんが奥様と天上で再会された情景だと思いました。先日、章平さんの忌日法要にお招きいただいた時、少人数でとのことだったので、書道の指導をしていらした漆原義典さんと章平さんのご自宅に伺いました。キッチンの壁に若き日の奥様の笑顔の写真が飾られていました。毎日、この写真を見ながら独りでお食事をされていたと思うと胸がいっぱいになりました。そして、数えきれないほどの妻恋の名句を詠まれたことが腑に落ちました。章平さんのつぶやきのように思えてならない作品です。きっと奥様もお待ちかねだったと存じます。特選句「白梅にふと懐かしいありがとう(佐孝石画)」。白梅とあれば私には、兜太忌。ここは、師の色紙「ありがとう」のことのように強く感じました。私も写真ですが大切に持っています。特選句「ちゃんと聞くから春泥を出ておいで(三枝みずほ)」。若いお母さんが、泥水があったら飛び込んで行くようなお転婆さんに手を焼いているような景。でも、このお母さんは、いつも我が子を優しく見守っている。そんな感じが、この句の調べから聞こえてきます。きっといい子に育つと感じました。春泥も、動き出しそうですね。
袋回し句会
追悼・・島田章平さん
- 春やさし赤きポストと自転車と
- 銀 次
- たんぽぽのぽぽがぽっぽとゆく島田
- 藤川 宏樹
- まなざしの暖かき人逝く二月
- 三好三香穂
- 宛先はほうたるの宿ペンを置く
- 三枝みずほ
- 東風吹くや愛妻観世音菩薩
- 野﨑 憲子
- 白木蓮かなしい時は空を見る
- 和緒 玲子
- 詩を書くは傷癒すこと春の星
- 和緒 玲子
- 妻恋ひの夫は急ぎて蒲公英に
- 三好三香穂
三月
- 章平と小百合の弥生指定席
- 藤川 宏樹
- 石投げて水跳ねさせよ弥生川
- 銀 次
- 三月のみづ眩しめる白磁かな
- 和緒 玲子
草の芽
- 初髪のやはらかきこと名草の芽
- 大浦ともこ
- 雨だれの影揺らぎをり小草の芽
- 大浦ともこ
- 草の芽を蹴散らす鶏と守る猫と
- 植松 まめ
- 今こそ我慢のときです名草の芽
- 藤川 宏樹
- 雨の日は雨の匂ひに名草の芽
- 和緒 玲子
- 草の芽と目を合はせてはほろ酔す
- 柴田 清子
- 潮風を纏ふ影あり名草の芽
- 野﨑 憲子
- 草の芽や遠い昔をなつかしむ
- 柴田 清子
花
- 花冷の味噌蔵に聴くモーツァルト
- 大浦ともこ
- 切株のこんなところに花の春
- 各務 麗至
- 散る花に嵩のありけり男下駄
- 和緒 玲子
- 花冷えの朝の鏡の中にゐる
- 柴田 清子
- 花冷や画鋲に残る指の跡
- 和緒 玲子
- 花冷えや君の手ぎゅっと握り初む
- 植松 まめ
- 不条理が条理を食らう花の冷え
- 藤川 宏樹
- 花冷えや息吐く電車通りおり
- 銀 次
足
- おたまじゃくしに足生えるよう書き出せり
- 三枝みずほ
- ペダル踏むががんぼの脛チェロに脚
- 藤川 宏樹
- 息が足りないこの世の息が風船玉
- 野﨑 憲子
- 子雀の足あと小さし春まだき
- 銀 次
- 蜘蛛闇に脚ひっかけて月球儀
- 和緒 玲子
- 手も足もどこへ行くてふ春の風
- 各務 麗至
- 右足の爪が切れない春の宵
- 植松 まめ
- 足が出て手が出てわたし夕陽炎
- 野﨑 憲子
- みどり児の足の扁平風光る
- 大浦ともこ
【通信欄】&【句会メモ】
先月の句会の3日後に急逝された本会の常連、島田章平さんを偲ぶ句会となりました。事前投句にも島田さんへの追悼句が多く寄せられました。章平さんのお元気な姿しか拝見していないので、亡くなられたという実感がありません。お姿は見えなくなってしまいましたが、これからは、兜太先生や、たねをさん、天志さんと共に、句会に来てくださっているように強く感じています。この句会をさらに熱く、楽しい場にしてゆくことが何よりのご供養になると信じています。皆さま、これからもどうぞよろしくお願いいたします
Posted at 2026年3月27日 午前 06:52 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]