「海程香川」
第66回「海程」香川句会(2016.10.15)
事前投句参加者の一句
猟師も医師も畑の仲間鰯雲 | 稲葉 千尋 |
いただいた新米は先ず神様へ | 髙木 繁子 |
わが襤褸も萩のこぼれも夕闇に | 若森 京子 |
むかごよむかご口喧しい副校長 | 小山やす子 |
手を挙げるスタートライン秋の空 | 河野 志保 |
木犀やひらがなだけの恋の文 | 菅原 春み |
水玉はさびしい模様秋の水 | 桂 凛火 |
このからだ熟柿のようだな一乗寺(いちじょうじ) | 古澤 真翠 |
秋彼岸路地の奥まで夕日さし | 田中 怜子 |
鉛筆の円き痛みの団栗よ | KIYOAKI FILM |
若冲の鯨はがねの海がある | 大西 健司 |
草に寝て鹿の声よりかなしきもの | 小西 瞬夏 |
冤罪の歴史や真白彼岸花 | 町川 悠水 |
あ今の流星あなたの筆圧 | 月野ぽぽな |
黄葉舞うピアフ好きらは楽天家 | 重松 敬子 |
蓑虫は霊眼にして虚無僧 | 増田 天志 |
ないしょだよポッケの通草はい母さん | 寺町志津子 |
笙篳篥笛羯鼓琵琶箏爽秋(しょうひちりきふえかっこびわそうそうしゅう) | 野澤 隆夫 |
茹で栗のはじけて観音日和かな | 野田 信章 |
沖明るし蔓荊の実を扱きをれば | 高橋 晴子 |
母の夢霧笛で目覚める遠き朝 | 中西 裕子 |
小鳥来るパン工房の未亡人 | 夏谷 胡桃 |
ひとつ風呂浴びに行きたや枯れ案山子 | 藤川 宏樹 |
栗甘煮トロトロ優しさ戻るまで | 中野 佑海 |
全国にうどんが流れる次は何 | 由 子 |
本籍は多分曼珠沙華の根っこ | 谷 孝江 |
吾亦紅うなじに鬼の潜みをり | 伊藤 幸 |
もう泣かぬ溢れそうです秋の海 | 鈴木 幸江 |
秋茄子のデフォルメやっと気の合う自分 | 野口思づゑ |
台風の泥流母の乳臭き | 竹本 仰 |
ぬくめ酒善知鳥安方(うとうやすかた)はよう来い | 矢野千代子 |
木犀は螺旋の匂い女脳 | 三好つや子 |
てふてふの秋を曳きゆく城の空 | 亀山祐美子 |
秋の雲阿蘇の噴火にゃ負けんばい | 漆原 義典 |
松虫草阿蘇累卵の村に住み | 疋田恵美子 |
生まれ出てあとずさりする蝉の穴 | 河田 清峰 |
間違ひを認めたくない夜が長い | 柴田 清子 |
考える葦は無力や秋の阿蘇 | 藤田 乙女 |
大丈夫か完璧すぎる秋の空 | 三枝みずほ |
鳥渡るワンウェイチケット握りしめ | 銀 次 |
風のコスモス無になる前に帰り来よ | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 藤川 宏樹
特選句「大丈夫か完璧すぎる秋の空」52年前の東京オリンピック開会式、アナウンサーが「世界中の青空を全部持ってきたような秋日和」の一説が浮かびました。ブルーイン パルスが描く五輪、白鳩が舞う青空はまさに「完璧すぎる秋の空」。4年後の東京の空、大丈夫か?
- 中野 佑海
特選句「蓑虫は霊眼にして虚無僧」江戸時代、虚無僧が筒の様な網傘を被り体に白い装束を付け、風に任せて、托鉢をしている。そう言われたら、あの蓑虫の飄々とした生き様 。なるほどそっくりだと思います。その上、霊眼ときたら、そりゃあ時代劇の見すぎじゃあござんせんか?兄さん!特選句「本籍は多分曼珠沙華の根っこ」あーら、ご免なさいね、私 の言ったことでそんなに誰かを傷付けてしまうなんて。つい思ったら口から出てしまうの。私の中身は毒で出来ているのかも。まるで曼珠沙華の根っこのようにね!!本当に毎回楽し くウィット溢れる作品に出会え、大満足です。笑い皺が増えました。海程香川句会万歳!チアー
- 野澤 隆夫
特選句「 むかごよむかご口喧しい副校長」相当叱られてる。むかごよむかごと呪文の如く唱えてる風景が浮かびます。むかご大好きの友もいますが…。校長ではなく、副校長 が面白いです。特選句「 黄葉舞うピアフ好きらは楽天家」:『愛の讃歌』、『ばら色の人生』のエディット・ピアフと黄葉の取り合わせがいいです。数奇な運命の彼女だったようです が、絶唱する彼女の歌は最高。今、FMで録音のピアフとペギー・リーを聴きつつ選句してます。問題句「青布背負うヒラリー啼かぬ鶏頭花(藤川宏樹)」何のこと?…?何回か読ん でるうちに、ああそうか、「青布背負う」は星条旗なんだと。大統領候補のヒラリーさん讃歌かな…?問題句撤回し、秀句です。今、ピアフの『パダン、パダン』が力強く流れてます 。
- 大西 健司
特選句「ハッタリにも根っこのありぬ十三夜」なかなか「ハッタリ」などという俗な言葉は詩にそぐわないものだが、根っこがあると断定し、しかもそれが十三夜のこととなる と俳句として成立する。全体に目の付け所はいいのだが、もうひとつ消化しきれていない句が多いとの思いがあるだけに、この句の心地よさがより響く。
- 矢野千代子
問題句で共鳴句「草に寝て鹿の声よりかなしきもの」結語の「もの」に具体性があればきっと上位に…。特選句「あ今の流星あなたの筆圧」:「あ」の一文字がこれほどに効果 的とは…作者の一瞬の感受を思いにのせてたっぷりと伝える。
- 増田 天志
特選句「ファシズムや土間に竈馬(いとど)のうすけむり(若森京子)」社会性かつ詩情豊か。丸山真男の研究を想起させる。
- 河田 清峰
特選句「大丈夫か完璧すぎる秋の空」完璧?安全?という言葉の不確かさを感じます!原子炉の崩壊 軍隊持たない平和憲法の自衛隊 秋の空のようです。
- 竹本 仰
特選句「あ今の流星あなたの筆圧」三島由紀夫の「美徳のよろめき」だったか、恋をしているもの同士では、もっとも平凡な言葉がもっとも感動させるというのはたしかに真理 だ、という一節があったように思います。万葉集の東歌「信濃なる筑摩の川の細石も君し踏みてば玉と拾はむ」、あなたが踏んだならその小石はもう宝石、とおんなじですね。もうあ なたの筆圧さえ永遠の瞬きに似て、というのでしょうか。恋の美味というところでしょうね。特選句「茹で栗のはじけて観音日和かな」:「めでたい」という言葉は「愛(め)で」+「 甚(いた)し」と合わさったもので、何が何だかひどく愛すべき事態ということのようで、「おめでたい人」は言語を絶した脳天気なやつ、という揶揄に値するくらい幸せなという意 味合いさえつくようです。このくらっとさせるほどの幸せ感が、「観音日和」でしょうか。何でも世界がクリアーに見通せて、すべてのひそめきでさえ耳にできる、そんな万能感あふ れる秋晴れのようすを想像させます。それも、茹で栗のはじけた甘味ただよう空気の中で。このめでたさ、いいですね。問題句「木犀は螺旋の匂い女脳」これは、女の人の作ではない なと思ったのですが、どうでしょう?もし、女の人の作なら、いやいやそうではないよと言いたいし、男の人のなら、作りすぎと思う。たしかに「女脳」という言い方は魅力的ではあ るけれど、こういう納得の仕方というのは、類型的なんではないかと危惧するしだい。
- 若森 京子
特選句「このからだ熟柿のようだな一乗寺(いちじょうじ)」一乗寺は西国三十三所の第26番の札所だが、参拝者が熟柿のようだとの措辞がぴったりで好きでした。特選句「蓑 虫は霊眼にして虚無僧」まず、深編笠を被った虚無僧と蓑虫の類似に感心した。首に袈裟をかけ銭を乞うて行脚する僧と風に吹かれるまゝぶらさがっている蓑虫はきっと無にして有の 霊眼を持っているのではと思はせる風体をしている。
- 柴田 清子
特選句「栗甘煮トロトロ優しさ戻るまで」とってもいい句に出逢えた十月の句会でした。この句の作者はきっと優しい人なんだ。100パーセント優しさの足りない私には、こ の句特選として響いて来ました。「草に寝て鹿の声よりかなしきもの」生きていると言ふことも、うれしいことも、楽しいことも、もしかしたら、かなしきものの一つかもしれない。 ね。誤読●の銀次さんが、地獄の三丁目三番地まで旅したとか?その後体調はいかがですか。銀次さんのいない香川句会は空蝉のやう。私は時々欠席しているけれど、銀次さんは欠席 しないで!
- 小西 瞬夏
特選句「水玉はさびしい模様秋の水」:「水玉模様」は定番のかわいい模様である。また、草間弥生さんの作品になればある種の狂気でもある。リズミカルに並ぶ大小さまざま な丸い形。このポップな模様が「秋の水」と取り合わされることで「さびしい模様」となり、水玉模様の見逃されがちな一面を発見させられる。
- 三好つや子
特選句「ファシズムや土間に竃馬のうすけむり」 勝手口に音もなく群れている竃馬のように、ファシズムが煙のごとく広がる現代の危なっかしさに共感。特選句「間違ひを認 めたくない夜が長い」認めたほうがすっきりするけど、やっぱり認めたくない。そんな作者のこころの遠吠えが聞こえてきそうな句に、惹かれました。問題句「柘榴の実ふふふ、ふふ ふと英語塾(谷 孝江)」特選に近い句です。ふふふというのは、WHOのことで、これを連発する英語塾が目に浮かびました。でも、上五の柘榴をどう捉えたらいいのか、うまく鑑 賞できませんでした。
- 古澤 真翠
特選句「 間違いを認めたくない夜が長い」:「い」をリズミカルに使っていながら作者の素直な気持ちが表現されていて、「そうだね?。すぐ認めれば良かったね?。」と声掛け したくなるような微笑ましい句。
- 野田 信章
問題句としての「ひとつ風呂浴びに行きたや枯れ案山子」は中句までの修辞に賛同。案山子さんとのひとつ風呂なんて乙なものだと思わせる意外性に諧謔味がある。そこに、に んまりとしつつも「枯れ案山子」では、凝りすぎて興醒めとなる。せめて「破れ案山子」くらいに納めてもらいたい。あと、「本籍は多分曼珠沙華の根っこ」「秋茄子のデフォルメや っと気の合う自分」の「曼珠沙華の根っこ」「秋茄子のデフォルメ」の題材の把握に注目した。これが如何なる句の結実となるか期待したいところである。
- 月野ぽぽな
特選句「台風の泥流母の乳臭き」恐ろしく厄介な台風とそれによる泥流、それが「母の乳臭」いということで、その泥や土に含まれた豊かな栄養が浮かび上がり、人間の負の感 情や人間が経験する痛みを超越したところで働く自然の恩恵の姿がみえてくる。
- 中西 裕子
特選句は「 尻あげて歩けば文化の日なり(三枝みずほ)」の句です。足あげてでなくて尻あげてっていうのが斬新というか深い意味があるのか気になる句でした。「目を閉じ て金木犀に迷い込む(河野志保)」の句も、目を閉じても存在感のある金木犀。好きな花です。秋を感じる句が満載で、わくわくしました。
- 疋田恵美子
特選句「猟師も医師も畑の仲間鰯雲」:「畑の仲間鰯雲」いいですね。気の合う異職仲間で休日菜園を楽しんでいる知人が居ますが、畑の隅に小屋を造り冷蔵庫を入れとても楽 しそうです。特選句「草の実飛ぶ嫌われものでいたらいい(桂 凛火)」ちっと嫌われものさん!個性があっていいではないですか!自己愛が強く根は優しく、仲間付き合いがちょっ ぴり下手なお方でしょうか。
- 鈴木 幸江
特選句評:「小鳥来るパン工房の未亡人」私の読みは、夫を亡くし孤独をひしひしと感じながらもパン工房を営んでいる未亡人と、小さな体で逞しく渡りをする小鳥たちの存在 が、同じ地球で起きている現象であるのだという解釈だ。その不思議さと当然をこの句は詠んでいる。そして、どちらも愛おしい生き物の営みとして表現されているところにとても好 感を抱いた。問題句評:「鉛筆の円き痛みの団栗よ」まず、感性のみで鑑賞した。団栗の絵を描いているのか。鉛筆の先が円いのが痛いと言う、団栗が円いのが痛いと言う。それから 、少し深読みをした。円いことは、痛みを伴うことなのだ。尖って居た方が傷つかないかもしれないと言っているのかもしれぬ。まあ、どちらにしても、読みに自信がないのだが、新 感覚を感受した。
- 小山やす子
特選句「わが襤褸も萩のこぼれも夕闇に」雰囲気がいいです。「風のコスモス無になる前に帰り来よ」切なくてなんとなく好きです。
- KIYOAKI FILM
問題句「青布背負(せいふしょ)うヒラリー啼かぬ鶏頭花」鶏頭花が良かった。今年のアメリカ大統領の選挙演説、悪人としか見えぬトランプ、スレたイメージのヒラリー。予選 の好感爺。それらを見てきた作者の一句。さて、大統領はどちらになるのか?特選句「手を挙げるスタートライン秋の空」新学期の学校の教室かと思う。秋の空がいい。爽やかで若い 句。純真な心が伝わり、少女のイメージ、女性を感じる。
- 重松 敬子
今回も、個性的な句が多く、楽しみでした。一度、皆様にお目にかかりたいと思っているのですが、なかなかチャンスがありません。こうやって、面識のない方々の心にふれる ことが出来るのも、俳句の醍醐味かもしれません。特選句「若冲忌絶望という絵筆待つ(桂凛火)」この句は、多岐にわたる鑑賞が可能と思われる。生前は評価が低く自分は生まれてくるのが早 すぎたと、無念がったと伝えられている若冲そのものを詠んだ句と受け取った。その絶望の中から、次々と素晴らしい作品を生み出して行った若冲の苦悩と悦びがつたわってくる。/P>
- 田中 怜子
今までだと、「あ今の流星あなたの筆圧」には目が向かなかったと思うが、大きな空を前にして、筆圧を思うのが面白い。「蓑虫は霊眼にして虚無僧」 蓑虫、虚無僧ねーー。 霊眼、目があったかしら。
- 漆原 義典
特選句「考える葦は無力や秋の阿蘇」は、阿蘇の噴火を前にして人間は無力であることを、悲痛に表現していると感動しました。考える葦としている上の句がすばらしいです。
- 夏谷 胡桃
特選句「草に寝て鹿の声よりかなしきもの」このところ鹿が良く鳴きます。繁殖期だから雄が雌を呼ぶ声だとも聴きます。それにしても、夜の鹿の声やキツネの声はなぜ悲しく 聞こえるのでしょうか。彼らは悲しくて鳴いているわけではないのに。夜の闇を忘れてしまった私たちの心の奥の闇を思い出させるからかしら。そうして、鹿の声より悲しいものは真 実のかけらもない人間の言葉。嘘や虚飾に慣れてしまった私たちなどと考えます。鹿の声で一句作りたいと思いながら、作れないでいたので感心した一句です。
- 稲葉 千尋
特選句「ないしょだよポッケの通草はい母さん」なつかしい句だね。採って来た通草を母に差し出す子供、通草のある所は人には教えないものだ。特選句「秋の雲阿蘇の噴火に ゃ負けんばい」大地震に阿蘇の噴火と熊本はふんだり蹴ったりです。それでも「負けんばい」と熊本人の強さを感じます。
- 寺町志津子
特選句「良夜かな壊れてしまった姉を抱く(若森京子)」小さい頃から何かにつけてずっと頼りにし、何でも姉に倣い、憧れの思いで接してきたしっかり者の姉。かつては、自 分の庇護者であった姉。知的で美しい姉は友達にも自慢であった。あろうことか、その姉が認知症になり、とうとう作者のことも正しく認識できず、母と思い込んで甘えてくるように なってしまった。そんな今の姉がとても愛おしく、思わず抱きしめた。折しも月が明るく美しい満月の夜。と想像が膨らみ、作者の姉への愛情がひしひしと伝わってきて、いただきま した。
- 三枝みずほ
特選句「ミステリー始まるように黒揚羽(寺町志津子)」ミステリーという表現だから、黒揚羽に艶がでて、暗くならない世界観。謎めいた物語の始まりを告げる黒揚羽の舞っ ている姿が想像力を掻き立てます。特選句「風のコスモス無になる前に帰り来よ」風のコスモス、爽やかで可憐でいいのですが、がんばりすぎて全てを失う前に、帰る場所があるよと 言ってくれているような穏やかな心持ちになりました。
- 伊藤 幸
特選句「わが襤褸も萩のこぼれも夕闇に」襤褸が物質的なものか内面的なものか句意は分からねども、謙遜の中にどこか自負のようなものが見え隠れし、そこが妙に魅力。萩の こぼれの措辞が美しい。特選句「生まれ出てあとすさりする蝉の穴」この世に生を受けたからには前だけを見てポジティブに生きて欲しいというのは人間に限らず生き物全てに対する 希望であるが、時として己もそうであるようにネガティブになる。誰かに背中押して欲しい時も…。蝉の穴が効いている。
- 亀山祐美子
特選句『良夜かな壊れてしまった姉を抱く』優しさに溢れた良句だとは思いますが、いっそ「壊れてしまった」を「壊れちまつた」ぐらいの捨て鉢感じがあったほうが人間臭く て奥行きのある句になるかと思います。おもしろい句は沢山ありましたが、作者の気持ち、思いの丈がほとばしり過ぎて引いてしまいました。読み手の想像力を喚起させて下さる句が 好きです。
- 銀 次
今月の誤読●「倶利伽羅紋々うしろで吠える稲の花(三好つや子)」。ご承知のとおり、「倶利伽羅紋々」というのは刺青のことである。それも近ごろのタトゥーなんて軟弱な ものではなく、背中一面に本彫りで入れた日本の伝統芸術である。高倉健の「日本残侠伝シリーズ」では健さんが背負っているのは唐獅子の図柄だ。主題歌では「背中(せな)で吠え てる唐獅子牡丹」と歌われ、われわれ世代の者は健さんの男のフェロモンにうっとりしたものである。もっともこの句では背中ならぬ「うしろで吠える」のだが、これがなんと「稲の 花」なのだ。意表を突くという言葉があるが、かほどに意表を突かれたのは久しぶりである。言い忘れたが、倶利伽羅紋々は隠す芸術でもあるのだ。まあ祭りなどでは六尺ふんどしに 半裸で見せびらかしたりもするが、本来は人並みの人生からはぐれたやくざ者が外道としての生き方をキモに命じるために背中に隠し持っているアイコンなのだ。だからそんなものを チラつかせて人を威嚇するなどは本来のやくざ者からすれば邪道中の邪道であるのだ。健さんの映画でも敵に背中を切られ、ハラリ、着物の下から唐獅子が現れるから色っぽいのだ。 さて、では唐獅子と対極にあるような稲の花が何故うしろで吠えているのか。まず稲だが、これは古来農耕民族である日本人には欠くことのできない「いのち」の象徴ともいうべきも のである。そしてその花は小さく可憐で奥ゆかしい。作者はおそらくここに日本人の美を見たのであろう。唐獅子もいいだろう。阿修羅像もいいだろう。だが日本人なら「稲の花」を 彫れ。その気持ちはわからぬではない。だが言わせてもらえば、それだと映画にはなりません。だいいち高倉健が稲の花の代紋を背負って登場すれば、敵方はあっけにとられ戦意喪失 となるだろう。あ、無手勝流か。それもありか。いや、ないない。
- 河野 志保
特選句「流星はとっても気まぐれな空輸(月野ぽぽな)」 口語の軽やかなリズムに惹かれた。まさに流星。キラリと心に飛んで来た。的確な把握で洗練された表現だと思う。
- 桂 凛火
特選句「わたくしの夜の淵まで芒原(小西瞬夏)」不思議な世界です。まず私の夜の淵という表現に心が掴まれてしまいました。自分の夜の淵は時間なんだろうか空間なんだろ うか。そして淵まで芒原が実景ならば、空間で心象風景としては暗い寂しいでも芒原は、実は多くの種が実る豊かな空間だとも。とすれば、寂しいというよりは豊かな静けさ、でも「 昏い」見通しがきかない場所、または時間に浸食されそう、うずもれてしまう不安のような・・そんな世界をかんじました。ということでとても想像力が掻き立てられ共鳴できる句で す。あえていえば問題句は「笙篳篥笛羯鼓琵琶箏爽秋(しょうひちりきふえかっこびわそうそうしゅう)」ですが、これはよく工夫されて いていいと思います
- 藤田 乙女
特選句「 手を挙げるスタートライン秋の空」 澄み切った秋空の中、運動場の観客の視線を一身に浴び、競技がスタートする瞬間の緊張感が伝わると共に、白の体育着と空の青 さが目に浮かび、心の中を秋風が吹いていくような爽やかな俳句だと思いました。特選句「茹で栗のはじけて観音日和かな」この俳句を読むと心がとても穏やかになっていくような気 持ちになりました。日々の日常の生活と自然の恵みのありがたさを感じました。
- 町川 悠水
7泊8日の犬同伴の長距離ドライブ旅行は、古稀も近い吾輩には、もはや限界と思い知らされる帰宅となりました。その帰宅後に待ち受けているのは選評とわかっていながらも 、おつむは熟し柿のよう。もう、一杯ひっかけて寝るに限ります。
- 菅原 春み
特選句「 鳥渡る真空管の薄あかり(増田天志)」しみじみとした秋の景色が目の前に 広がります。特選句「良夜かな壊れたしまった姉を抱く」季語によって、作者も姉も救わ れほのぼのとした景に。改めて季語の重みを知りました。
- 高橋 晴子
特選句「若冲忌絶望という絵筆もつ」若冲の描いたものをかんじていると何故ここまで繊細で大胆な表現が出来るのか、新しい技法を思いつけるのか、その人間性に興味をもつ 。「絶望という絵筆もつ」に強く共感させられた。俳句でも同じことがいえるのではないか、とふと思った。特選句「松虫草阿蘇累卵の村に住み」累卵という言葉を初めて知った。昔 、初めて出会った松虫草の感覚を思い出しこの句の中で、松虫草が効いていると思った。うまい句だ。問題句「青桐の裂けよう広島の覚悟かな(小山やす子)」むつかしいことを云お うとする態度には好感をもつが「広島の覚悟」で通じるかどうか、私にはよくわからない。:十四日夜から十八日迄福島へ行ってきました。短大の友達六人でジャンボタクシーで三日 間、東山温泉、高湯温泉等。天気がよくて気持ちよかった。返ったら、又、元の暮らし。しっかりしろ、と思っています。
- 野﨑 憲子
特選句「猪がねぐらをつくる母の山(河野志保)」私の毎朝歩く散歩道にも里山があり猪が棲んでいる。猪にも、団栗にも、コスモスにも、人類にも母なる山の存在がいのち。 すっきりと、一番大切な事を表現していて惹きつけられた。問題句「全国にうどんが流れる次は何」思わず・・それはネ「海程」香川句会発の俳句!と言いたくなるようなナイスキャ ッチフレーズ。自由で、気合が入っていてとても好ましいのだが、詩とは言い辛く「おっとっと」感も少し。そこで拙句の登場・・「ハッタリにも根っこのありぬ十三夜」オソマツ! 多様性は俳諧の華!来月も、様々な彩りの作品を、待ってま~す。
袋回し句会
稲刈り
- 頭垂るバンザイ軍団刈り取らる
- 藤川 宏樹
- 稲刈りや波の向こうに遍路こぐ
- 中野 佑海
- 右へ左へ卒寿のばあちゃん稲を刈る
- 三枝みずほ
- 稲刈って明日お嫁に行くことに
- 柴田 清子
自治会長
- 鉦叩威勢が売りの自治会長
- 中野 佑海
- 自治会長なってもいいかも良夜かな
- 鈴木 幸江
- 月高く自治会長に無精ヒゲ
- 藤川 宏樹
- おーいここだ!アンパン食べる自治会長
- 野﨑 憲子
市場
- 魚市場さやけし捌きの鼻歌す
- 中野 佑海
- 秋の日や市場に流るホルンソロ
- 野澤 隆夫
- 秋風の吹くや市場の昼下がり
- 銀 次
- 火恋し心の闇のぬぐえずに
- 柴田 清子
- 蟹歩きで秋の闇より逃げる
- 三枝みずほ
アンパン
- 心にはいつもあんぱん小鳥来る
- 三枝みずほ
- アンパンを割れば吹きくる秋の風
- 銀 次
- 風に吹かれてアンパンマンの子守歌
- 野﨑 憲子
榠櫨(かりん)
- 榠櫨の実正直者が損をして
- 柴田 清子
- 吾に似し親父いかつき榠櫨の実
- 河田 清峰
- たわわなるカリンの果実その苦さ
- 銀 次
- 風やんでぶるんと榠櫨の実うごく
- 野﨑 憲子
後の月
- 後の月言ひたい事あつたのに
- 柴田 清子
- 後の月お金持たずに暮らしたい
- 鈴木 幸江
- すなはらの砂に吹かれて後の月
- 河田 清峰
秋深む
- ボール禁止の公園静かに秋深む
- 中野 佑海
- 秋深し息の絶えたるナナカマド
- 銀 次
- 余白とふ遊びの時間秋深む
- 野﨑 憲子
- 約束を破る音して秋深む
- 鈴木 幸江
- クシャくしゃくしゃくしゃ秋深みけり
- 三枝みずほ
句会メモ
句会が始まるほんの少し前のことです。鴨部川で鷹柱を見たというご主人の描いた鷹の絵を、鈴木幸江さんが愛おしむように見せてくださいました。そこに登場した野澤さんが、「鴨部川で観られるとは!鷹柱の可能性も有り。」と、いつもの野澤スマイル。野澤さんは、元日本野鳥の会のメンバーだったそうです。香川では、紫雲出山が、鷹柱の見物スポットということです。栗林公園での野鳥の会の活動の事も教えてくださいました。野澤さん、感謝です!!
投句の折、「急性動脈瘤発症。九死に一生を得て、どうやら生き延びました。2週間の入院生活。禁煙が辛くって辛くって。」とのメッセージがあった、銀次さんが、句会が始まってしばらくして登場なさいました。句会の始まりに、ご参加の皆様に話していましたので、銀次さんのお顔を見るや、あちこちから拍手が沸き起こりました。銀次さんも嬉しそうでした。本当に、元気になられて良かったです。柴田清子さんのメッセージにもありましたが、銀次さんの作品や<今月の誤読>無しの、本句会は考えられません。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。禁煙・・・続けてくださいね。
今回は、ニューフェイスの由子さんが、句会の最初からのご参加でした。嬉しかったです。袋回し句会の折は、私は自分の句を創るのに熱中して、由子さんの存在をしばし忘れ、彼女が出句していないことに気付きませんでした。何という世話人でしょう。反省反省です。次回は、気を付けますね。
後程いただいた竹本仰さんのメールの自句自解を皆さまにも・・・☆「台風の泥流母の乳臭き」:9月20日、台風の直撃した時刻、お葬式で火葬場へ向かっていました。すると、最初の信号が既にもう消えていて、これは大変だと思ったのでしょう。霊柩車が、いつものコースを変えて、山道に入りました。見知らぬ山道?こんな近道、あったっけ?だんだん道は狭くなり、対向車とすれ違えないほどの道に。その道を15分ほど走った後、霊柩車がストップ。どうやら道を間違えたようで、合計3台、順に回れ右して、元の道へ。これ、すべて台風の暴風雨の中でのことでありました。そのとき、なぜか、母親の母乳の匂いを感じて。なぜなんだ~?この、泣きながら母乳を飲んでいるような感覚?はい、それが、「台風の泥流母の乳臭き」のもととなった、隣人の老母の葬儀の日の事件でありました。ああ、たしかに、乳飲み子にあって、母乳は泥流のごときもの、有無を言わさぬ宿命づけられた激流にさらされていたのかも。誰にも食い止めることのできぬ激流、これって、生?この迷走にして、この感覚、何なんでしょう?
Posted at 2016年10月25日 午後 02:32 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]