「海程香川」
第78回「海程」香川句会(2017.11.18)
事前投句参加者の一句
身のうちに揺れのはじまる落葉焚き | 谷 孝江 |
留守居してひねる俳句や冬に入る | 髙木 繁子 |
大花野かいなを櫂にして渡ろ | 新野 祐子 |
冬ざれや会えず仕舞いという老後 | 松本 勇二 |
寝釈迦めくふるさとの島神の留守 | 寺町志津子 |
細雨よりもの悲し午後ななかまど | 野口思づゑ |
猪垣は壊れ塵取立ててある | 大西 健司 |
一匹は隕石の匂い赤蜻蛉 | 三好つや子 |
水澄めり哀しみのゆく眼の底を | 藤田 乙女 |
須磨初冬人よく喋りよく歩く | 野田 信章 |
十一月いつも何かに追はれゐて | 高橋 晴子 |
罪状は知らず枳殻の実の黄金 | 亀山祐美子 |
秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば | 月野ぽぽな |
鳥渡るいのちひとつを携えて | 小宮 豊和 |
日向ぼこ丸まる猫へ伸びいるねこ | 藤川 宏樹 |
新米のほっこり子とするだるまさん | 中野 佑海 |
水の秋みづくちうつしくちうつし | 小西 瞬夏 |
沈めれば一瞬白し足湯の脚 | 稲葉 千尋 |
仕様がない仕様がないとき蜜柑むく | 鈴木 幸江 |
今朝冬の鴉がほぐす魚眼(うおまなこ) | 野澤 隆夫 |
冬来る少年産毛光らせて | 小山やす子 |
ちちははの萎む肉体かりんの実 | 夏谷 胡桃 |
坐の字あり樹魂をおろす月下かな | 竹本 仰 |
通草の実アマノウズメの舞に光 | 河田 清峰 |
小六月ころっと騙されそうな昼 | 柴田 清子 |
冬苔やリズムチロチロ散歩道 | 古澤 真翠 |
両取りの一駒指して鳥帰る | 銀 次 |
菩提子に乗り妻に会ふ夢の中 | 島田 章平 |
老骨のさて冬蝶の好ましく | 田口 浩 |
榠樝は多淫霧にかえして上げましょう | 若森 京子 |
百舌鳥高音女の担がぬ棺かな | 重松 敬子 |
鍵穴も鍵も冷たく精神科 | 山内 聡 |
焦げゆくやりんごの芯は菩薩さま | 増田 天志 |
肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた | 伊藤 幸 |
ろうそくと栗鼠睦びたる宇陀郡(こおり) | 矢野千代子 |
秋の蛇にんげんだけが顔を描く | 男波 弘志 |
するすると愛し合う月の生き物 | 桂 凛火 |
鬼柚子やどこか寅さんに似て楽し | 漆原 義典 |
秋思の背伸ばし立飲みの一杯 | 三枝みずほ |
たわわなるいちじく見もせず鋤く人よ | 中西 裕子 |
串鮎の香りほのかや草の宿 | 疋田恵美子 |
秋天下パステルカラーの神戸かな | 田中 怜子 |
赤のまま風変わりとは良い言葉 | 河野 志保 |
枯野ゆく風よ地球の守り人 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 中野 佑海
特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」シンプルだけど魂に命の重みがズシンと伝わる句です。遠い北の国から日本に新しき命を授かる為、我が命を危険に晒しつつ渡ってくる。余りの荘厳な営みに頭が下がります。特選句「冬来る少年産毛 光らせて」四歳の孫の頬にうっすらと白い産毛が光っているのをいつも命の輝きとして見ているので、それを実際に俳句にしておられるので感激です。すぐに、大人の男になってしまうのかと思うと残念です。さも一人で大人に成った様な口を利き 。
- 島田 章平
特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」。掲句、平凡な表現との指摘もあった。命とは平凡なもの。当たり前だからこそ掛け替えがないもの。命を表現するのに、技巧は不要。鳥渡ると言う壮大な冒険の中に、生きるために必死に戦う生き物 の姿が見える。
- 山内 聡
特選句「水澄めり哀しみのゆく眼の底を」眼の底に涙を感じその涙は澄んでいることだろう。何に哀しみを覚えたのか、眼の底をうるっと涙が潤した。涙は出ない。目頭が熱くなった。でも涙は流れるほどではない、ものの哀れみ。この微妙 な感情を敢えて「哀しみ」という言葉を使ってこの「哀しみ」の微妙なさじ加減を言い表しているような気がしました。
- 稲葉 千尋
特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊(野﨑憲子)」鮮明な句。十一月の赤ん坊は、日輪という。十一月でなくても赤ん坊は日輪である。赤子を見ているとこちらまで日輪になる。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」言われてその通りの句。人間だ けしか、描けない。人それぞれに描く。秋の蛇は見ているだけである。
- 増田 天志
特選句「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう」無常なるエロス。霧になるまで、摩訶不思議な肉体。ありがとう、そして、さようなら。
- 小西 瞬夏
特選句「今朝冬の鴉がほぐす魚眼(うおまなこ)」写生の句である。現実を見つめる目がある。生きることの厳しい現実に目をそらさないでいることで、「つつく」ではなく「ほぐす」という描写にいきついたのだと思う。「魚眼」という言葉 が新鮮かつなまなましい。
- 野澤 隆夫
特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」ドングリランド(西植田町)に時々、探鳥に出かけます。サンコウチョウも出てきます。時に猪も。この山にも猪垣があり、先日は壊れた垣に、猪注意の看板が。でも塵取りが立てられてる光景は面白い 。抱腹です。もう一つの特選句「虚子が居て咳き込んでいる猫じゃらし(小山やす子)」〝吾輩は猫〟の光景です。夏目漱石が虚子から作句の添削を受けてる光景が浮かびます。漱石も相当四苦八苦の感。問題句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲 いた」〝ままこのし りぬぐい〟なる植物がこれだと聞いときビックリしたことを思い出す。蓼(たで)の花だそうで、秋の季語になってるんですね。
- 藤川 宏樹
特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」句会で票を多く集めました。何でもなさそうな山村の景を切り出した一句ですが、写真、絵画以上に感じさせる力があります。単純化の力でしょうか?
- 谷 孝江
毎月佳句ばかり。選をするのも大変なことです。特選句「猪垣は壊れ塵取立ててある」心の隅にはっと気付かされる句と思いました。この様な風景は身のまわりにいっぱいあります。ありすぎて見逃しているのです。塵取り、竹筆、朽ちかけ た棒切れ、掃いても掃いても、きりのない落葉、その様な事柄の中と隣り合せに居ながら見落としている自分の感性の乏しさを痛いほどに気付かせてもらいました。「父なくてなんで今宵は十三夜(鈴木幸江)」も心に残る句です。「赤のまま風変 りとは良い言葉」そうです、そうです。十二月の句稿もたのしみにしています。
- 若森 京子
特選句「富士冠雪昵懇になれぬ老いるとは(中野佑海」〝老いるとは〟と下五に結果を云てしまっているのは残念だが、今迄の様に、色々な物と昵懇になれないもどかしさ、昔から変わらぬ富士冠雪の姿が眩しい。一句に切ない詩が流れてい る。特選句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた」まず、〝ままこのしいぬぐい〟と云う言葉の発見は成功。タデ科の一年草で山野の陰池に生えているが、このいじけた様な言葉の面白さ。肉薄の指に合っている。
- 竹本 仰
特選句「罪状は知らず枳殻の実の黄金」思わず明治の恋、とタイトルを付けたいような。藤村の「はつ恋」に似て、一生懸命で分からないから恋なんだと言うような。これは、私の感性がどうかしているのか、中学生の恋だと決めつけてしま いました。特選句「仰のけば乳房は萎えし天の川」人体、この銀河、と思わず賛嘆しました。人生という受けとめ、人体の表現として、かれん、かつ新鮮な息吹きを感じます。坂口安吾の作品を高校のころ読んだとき、女の肉体は玩具だと女性自身 の言葉で表現しようという試みにびっくりしましたが、この句、それと対極のようでいて、実はかなり近いものじゃないかなあと思いました。作者は女性なんですよね?男性だったら、もっとびっくりですが。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描 く」色んな思念を起こさせる句であるなあと感心。いつから人間は顔を描くようになったのか、人類の発展史上、壁画から抜け出して、なぜ顔を描くことになったんでしょう?安部公房に「顔」という名作があります。顔を失った男が新しいマスク を作ることに成功して、その手始めに妻を誘惑するという、奇妙奇天烈な、じつに人間の基本に立ち戻った話でしたが、顔を失くすということが社会をなくす、その人間社会とは何なんだという問いかけが今も忘れられません。「にんげん」とひら がな表記にすることで、人間なるものにおりていく、いわば人間業という修行にあるというような風貌をそなえた、ストイックな平生の思念を感じさせました。問題句「水の秋みづくちうつしくちうつし」これは、特選サイドの方の問題句であると いうことで。水が流れる、とは言わないで「くちうつし」として、流れを切って切って、でも流れているという、かなり頑張り屋さんなんだという、そういう問題句でしょうか。この口調がたまらないですね。こういう方法、いや、勉強になります 。もう一度、裏の水路に出て、思い出しながら耳を澄ましてみようかと、そんな気持ちになり、さっそく今日やってみましょう。以上です。とても寒くなりました。淡路島の西方に住んでおりますから、西風がすばらしく芯まで冷え込ませます。寒 さは落差であると思います。この冷たい西風が、線香には大変よいらしいですね。淡路島の線香を見かけましたら(実は9割以上が淡路島でつくられたものですが)、その中に西風のうねりを聞き取ってください。みなさん、いつもありがとうござ います。よろしくお願いいたします。
- 大西 健司
特選句「秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば」長い黒髪の揺らぐときかすかに秋の蝶の匂いを感じた。そんな美しい感性にひかれる。詩人の目には常に美しいものが宿る。すてきな女性の目覚めなんだろうなと思いたい。願望を込めて特選に。
- 小山やす子
特選句「鳥渡るいのちひとつを携えて」。渡り鳥のひたすらな生きざまに感動しました。
- 夏谷 胡桃
特選句「秋天下パステルカラーの神戸かな」。わたしにはジブリのアニメに出てくる素敵な港町が目に浮かんできました。山から町を見下ろしているのでしょうか。夕焼けの町かしらと想像します。こちらは銀世界。モノトーンの世界なので 憧れます。ほっこり温かな気持ちなれました。特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」。会おう会いたいと言いながら会えないで幾年か。会いたい人たちがつもっていきます。香川句会の方々にも会えず仕舞いでしょうか。
- 伊藤 幸
特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」いいですね。日本の未来は暗いと嘆いていましたが、この句を読んでいると、そうとばかりも言えないなと一筋の灯りが見えて来るような気がします。上語「ひょいと日輪」で世の中明るくなるような 希望が満ち溢れています。作者も恐らくプラス思考で前向き人生を送っておられるのでしょうね。よ~し、私も見習って頑張るぞ~~~★
- 男波 弘志
「ぐい飲みにおのれの頭青し新走り(稲葉千尋)」字余りが、感情の滋味を生んでいる。「木の実雨眠りたくない河馬の耳(重松敬子)」木の実の躍動への憧れか?「猪垣は壊れ塵取立ててある」塵取が結界のように存在している。モノ俳句 、珍重。「投げやりに言葉返している短日(柴田清子)」 もっと、句意にそって投げ出しては、「言葉返して日短か」では「秋蝶の匂い寝ざめの髪梳けば」濡れ髪のエロスに反応したのは、蝶のほうだろう。「遠くから来た者同士木の実踏む(河 野志保)」家を出た、者同士、そうとればドラマ性あり。「水の秋みづくちうつしくちうつし」ふと、洗礼の場を思う。珍重。「人影の海の近くの烏瓜」かるみ、の本体、写生のそれとどこが違うのか、そこが勘所、一旦摂取した、思想、哲学を「 無化」したのが、かるみ、もとより、思想、哲学をもたぬのが写生、かと。「野に足を入れて星月夜となりぬ(月野ぽぽな)」賢治の冬帽子が見えている。「焦げゆくやりんごの芯は菩薩さま」焦燥心、それを焦げると顕わしたのだろう。「階段の 下で声する木の実落ち(夏谷胡桃)」声、落ちる、フォーカスを一つに絞るなら、「木の実どき」とすべきか。
- 矢野千代子
特選句「大花野かいなを櫂にして渡ろ」一寸法師は箸を櫂にしたが、作者は腕をと。花野を愛でながらすすみゆく姿がみえるよう。さて行き先は?
- 重松 敬子
特選句「新米のほっこり子とするだるまさん」穏やかな生活のひとこまを詠んだ好ましい句。炊き立ての新米は,本当に家中をほっこりと幸せにします。だるまさんごっこが出来る時期もほんの一瞬です。大切に過ごして下さい!!
- 疋田恵美子
特選句「罪状は知らず枳殻の実の黄金」カラタチと聞くだけで枝が横に広がり鋭い刺を思い起こします。生け垣の植えてありました。ピンポン玉のようなミカンを取としても棘が怖くて取れなかった子供の頃。罪状ぴったり感。特選句「野に 目覚め野に眠る露に汚れて(月野ぽぽな)」広々とした農村地帯を思わせる。そこに暮らす安らかな日々、早朝の露の光りまで見えて良い。
- 三好つや子
今回個性的な句が多く、迷いながらも楽しく選句いたしました。特選句「何が不満猫をずずこにじゃれさせる(新野祐子)」大人気無い。心の小っちゃな人間。と、自分で自分に呆れながら、それでも腹立たしさが収まらず、手にずずこ(数 珠のこと?)をしたまま、家猫と戯れている・・・。そんな作者の粘々した気持ちを、句として昇華させたことに拍手したいです。特選句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」 老いてゆく自分をさらけ出さず、眉を描くなどのメイクをし、騙し騙し生 きている私の心に刺さりました。入選句「小六月ころっと騙されそうな昼」最近のATMでは、オレオレ詐欺防止のメッセージが入り、うっかり操作を間違えてしまうことも。優しさと危うさの交じりあう時代の空気を感じ、惹かれました。
- 柴田 清子
特選句「もち米を脱穀漢らのいる公園(田中怜子)」を特選とさせてもらった。正確に言えば、季語がない。下五は、字数が余っているが、そんな事は、どうでもいいと思はすだけの骨太のガッチとした男俳句に深く惹かれた。特選句「コス モスになれたらずっと歌います(河野志保)」このコスモスのように、どんな時も、心に歌を持って人生を歩いて終えたい。うれしい時は、うれしい歌を。雪の日は、雪の歌を。
- 河田 清峰
ぽぽな様第63回角川俳句賞おめでとうございます!17文字が切れそうで切れない50句ありがとうございます!特選句「さねかずら阿(おもね)るように切り岸に(矢野千代子)」切り立った崖に鮮やかな美男葛の赤よく景がみえます!
- 月野ぽぽな
特選句「赤のまま風変はりとは良い言葉」:「風変わり」人とは違う様子、個性的な様子、その人のありのままの様子。こだわりのない自由自在の心持ち、もしくはそれを望む心地がいいですね。赤のままの素朴な個性と通じます。
- 鈴木 幸江
特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」太陽を”日輪”と表現することで、 冬雲の中で朧に輝くその姿が想像される。冬に向かう赤ん坊の肌の輝きを同質のものと捉える作者の感性が素晴らしかった。特選句「ちちははの萎む肉体 かりんの実」かりんの少し萎んだような皮をすぐ思った。それが老人の肉体にあるみずみずしさを捉えていてお手柄。それほどでもなかったかりんが好きになった。
- 新野 祐子
特選句「一匹は隕石の匂い赤蜻蛉」ネオニコチノイド系農薬の濫用で、赤蜻蛉は悦滅危惧種になりつつありますが、どっこいこちらでは盛んに飛び回っています。そのうちの一匹が隕石の匂いがするなんて、想像力は果てしない宇宙へと広が ります。これ以上大地を化学物質で汚染してはなりませんね。特選句「秋思の背伸ばし立ち飲みの一杯」この一杯は、コーヒーでも熱燗でもいいのでしょうが、ワインというのはいかがですか。四十年ほど前の新宿にあったワインの立飲みバーが、 記憶の引きだしから出てきました。ロゼ色の幸福感に満ちたお店でした。「秋思の背伸ばし」に大いに共感。問題句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」ドアの向こうには、聞き上手の優しい精神科医が待っているはずでは。「冷たく」に、作者の並々なら ぬ複雑な心理を投影しているのでしょうか。いえいえ、精神科病棟のことかも。いろんな解釈ができる句はおもしろいですね。
- 三枝みずほ
特選句「身のうちに揺れのはじまる落葉焚き」火を眺めているうちに、忘れていた、もしくは忘れようとしたものがふっと思い出される。心の葛藤、動揺に共鳴した。
- 田口 浩
特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」十一月を中心にすえて、日輪と赤ン坊を置くと、軍配は赤ン坊に上がる。十一月の日の光は、真夏のように、自己主張しないためである。とすれば、句の〈ひょい〉がいい。確かである。このように、 日輪を気付くのがいい。十一月をただ置いたのではなく、さりげない味わいがあろう。その上で〈赤ン坊〉がめでたい。特選句「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう」榠樝をズバリ多淫と言われれば、妙に納得させられる。その上で霧にかえさえ た榠樝の香は、多淫をかくして優雅なひろがりを持つ。何だか平安時代の女性を思わせる趣があるではないか。
- 松本 勇二
特選句「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた」使いにくい植物名を上手く使って一句を仕上げています。問題句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」視点が面白いのですが「も」の連続が観念臭を呼び寄せます。ここは「鍵穴と鍵の冷たき」くらい で、淡々と語ったほうが、シャープな句になるように思います。
- 寺町志津子
特選句「新米のほっこり子とするだるまさん」にらめっこしているお相手は、お孫さんでしょうか?温かなご家庭のお暮らしぶりが忍ばれました。子どもは、幼児期の愛着形成があってこそ健やかな成長をする、と言われます。ご家族の愛情 に包まれて日々成長されているお子さんの愛らしい姿が目に浮かびます。ほっこりおいしい新米との取り合わせもぱっちりで、ほのぼのとした思いに包まれました。
- 田中 怜子
特選句「日向ぼこ丸まる猫へ伸びいるねこ」ほこほこ陽のひかりと温み、猫の顔と匂いまで伝わってきます。特選句「沈めれば一瞬白し足湯の脚」まるで自分の足でないように白くきれいに見えるのですよね。一瞬の変化が描けていると思い ます。
- 亀山祐美子
特選句『猪垣は壊れ塵取立ててある』見たままの風景ですが、「猪垣は壊れ」「塵取り立ててある」二物衝撃の取り合わせの良さ。「壊した」者、動物への怒り。「壊された垣と荒らされた作物」への無念さやるせなさ。を『塵取り』で表現 した。しかも『立ててある』のだ。怒りで突き立ててあるのか、垣の代わりに立ててあるのか…。奇妙なおかしみが伝わる。人間味溢れる一句。特選句『今朝冬の鴉がほぐす魚眼』一読暗い句だなと敬遠したが、冬へ向かう鴉のしたたかさが端的に 詠めている。「つつく」なら平凡だが「ほぐす」で鴉を擬人化し、冬空から鴉へ嘴へ、そして地べたの魚の眼へと焦点を絞り混む技の一句。巧い。特選句『百舌鳥高音女の担がぬ棺かな』そう言われれば女は棺を担がない。その通り、私は観たこと がない。「男尊女卑」だとか「女の赤不浄」だとかではなく、ここは女への労り、役割分担だと思いたい。「百舌鳥高音」が棺を囲む女たちのかしましさ、たくましさを連想させる。「男の担ぐ」では当たり前過ぎて、景がここまで広がらないだろ う。しかし、「女の担がぬ」の「の」は不要。面白い句会でした。ありがとうございました。皆様の句評、楽しみに致しております。
- 中西 裕子
特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」です。荒涼とした冬のなか、会いたい人に会えずに、人生を終ってしまうという、諦め、寂しさがしみじみと迫ってきます。でも、しょうがないなというからっとしたものも感じさせます。
- 野田 信章
特選句「ひょいと日輪十一月の赤ん坊」いまし方の初冬の日の出をその形からの呼称「日輪」と表記。これが、「十一月の赤ん坊」の喩を即物的に喚起させて生気のある一句となった。これは原初的感覚を呼び起こした句と言いかえてもよい かと思う。特選句「老骨のさて冬蝶の好ましく」:「老骨」とはっきり表記することで単に老いゆく者の感慨調に終わらず「冬蝶」そのものとの物象感を伴っての生命の響き合いが具体的に伝わってくる。平明な句ながらもそこには老いを自得して 生きる者の腰の据え方の確かさがある。
- 河野 志保
特選句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」作者の鋭い感覚が際立つ。具体的には分からないが、爪先立ちのような心の不安定さも感じた。難解ゆえに引かれる句。
- 桂 凛火
特選句「冬ざれや会えず仕舞いという老後」いつでも会えると思っているうちにふいと亡くなっていたりする。それが老後ということなのか。わたしも昔の恩師の奥様から喪中はがきがきて、驚いたばかりの今日。この句はぐっと堪えました 。仕舞いというの「という」が少し気になるのですが、かかれている内容に共鳴して心に響く一句でした。冬ざれやの季語もよかったです。
- 古澤 真翠
特選句「世の隅をわれたのしけれ菊枕」名も知れず、密かに人生を楽しむ作者のそこはかとない感性に惹かれるました。
- 漆原 義典
選んだ作品は素晴らしく全部が特選候補で特定できませんでした。最近の海程香川の皆様のレベルの高さはすごいと思います。私も勉強します!
- 野口思づゑ
特選句「水の秋みづくちうつしくちうつし」艶やか、そしてひらがなの美しさ。
- 藤田 乙女
特選句「仕様がない仕様がないとき蜜柑むく」生きている日々の中で、しょうがないと自分に言い聞かせ諦めなければならないことが多々あります。そんなときただ蜜柑をむくという姿に人間の哀感と切なさをひしひしと感じました。特選句 「世の隅をわれたのしけれ菊枕」 人生のどんなことも楽しくおおらかに生き抜こうとする姿が想像され素敵だなあと思いました。菊枕の季語が効果的に使われていると思います。
- 銀 次
今月の誤読●「芒原母には方舟見えるらし」。ええー、たたた、ただいまご紹介にあずかりました、ぶんぶんぶん蜂が飛ぶ、いや、あのあの、ぶん文化人類学者のい、いいい、いー犬田銀次郎と申します。ほほ、本日は世界の各地に流布され ている、かかかか、カーゴ(貨物船)信仰についてお話しいたしたいと、おもおも思います。これはある種の招神信仰でありまして、待っていればいつか、てんてんてんまりじゃなく、天より神さまが巨大な船をおつかわしになり、その船にはあり がたいもの、ま、たたたたとえば、文明、ま、便利なものとか、ま、役に立つものですわな、あるいは、ま、美味しいものとかを積み荷として村人に運んできてくださるという、そういう、ひひひひひ非常に原始的な信仰なんですよね。この信仰に とりつかれると、なかには、こう、どうかその船がこの地に下りてきますようにと、かかかか滑走路をつくったり、広場をつくったりしたともいいます。そそそそそういう意味では「芒原」なんかはかっこうの着陸地点になたなたなたなた、なっ、 ゴホン、なったと思いますよ。で、出迎えるのはやはり長老とか呪術師とか、ま、男神さまだったら老女というのもありありありあり、ありが噛んだ、いや違った、ありだったかも知れませんね。だからこの句にある「母には方舟が見えるらし」と いうのも、お母さまはそういう呪力をお持ちになった方だったのかもしれません。ただそのカーゴが運んでくるものが、ほんとにいいモノなのかどうか。こここここ、こけこっこ、ここ大事ですね。意外と機関銃とか戦車とか、ときにはミサイルだ ったりしますからね。せんせん戦後のアメリカ神さまが日本人という村人になにをお与えになったのか。ここ考えましょうね。いえいえ、とととと、虎の威を借る狐、じゃじゃじゃなく、トランプさまのことを言ってるわけじゃりませんので、どう ぞブラックリストにはお載せにならないように。
- 高橋 晴子
特選句「野に目覚め野に眠る露に汚れて」うまく表現できないが内面の哀しみ、みたいなものを感じさせる句。問題句「秋の蛇にんげんだけが顔を描く」面白い表現だし、人間観が出ていていい句だと思うのだが、何か〝にんげんだけが〟と いう表現に違和感がある。 二十三日、東京へ行ってきました。先ず、現代俳句協会創立七十周年記念大会へ。シンポジウムのテーマは「俳句の未来・季語の未来」。私は、自分の心を表現するのに突飛な季語など要らないと思うのだけれど、何 か日本語もおかしい方向にいっているようです。そして、運慶展、子規庵と観てきました。子規の庵は小さくて色んな花があって楽しかったです。
- 小宮 豊和
特選句「鍵穴も鍵も冷たく精神科」私情をまじえず、ずばりと事実を述べた確かな伝達力は、単なる表現技術だけで発生するものではないと思わせる。作者の実感がたくまずしてまっすぐにずっしりと伝わってくる。そして読者に言葉になり にくい、読者独特の様々な感情を発生させる。良い句であると思う。
- 野﨑 憲子
特選句「補陀落渡海波にむくろじ零れおり」補陀落へと向かう僧を乗せた舟。波に切り込む無患子の実の様が無情この上もない。問題句「坐の字あり樹魂をおろす月下かな」:そして、もう一つの特選句。只、「坐の字あり」が眼目なれど、 少し、くどいかなと思う。
袋回し句会
梯子
- 梯子を下りると大人になっていた冬日
- 田口 浩
- 先人の残せし梯子冬校舎
- 鈴木 幸江
- 梯子より十一月の虹童子
- 野﨑 憲子
ペンキ
- ペンキ塗りたて触りたくって秋の手
- 三枝みずほ
- 冬暖か白いペンキの塗り始め
- 柴田 清子
- 冬ぬくし主治医先生ペンキ塗り
- 野澤 隆夫
窪み
- 四次元のくぼみに地球冬の月
- 山内 聡
- 凩の窪みきろぎろ夜が明ける
- 野﨑 憲子
- 短日やくぼみはい出す散歩犬
- 野澤 隆夫
セーター
- 首のないセーター子種のない男
- 柴田 清子
- セーターを着て黒猫になるどこへいった
- 田口 浩
- 一日を引っ繰り返して着るセーター
- 鈴木 幸江
冬紅葉
- 結願の一段一段冬紅葉
- 島田 章平
- 雪受けてにじむ名残の冬紅葉
- 小宮 豊和
- 冬紅葉二人で歩く日曜日
- 亀山祐美子
- 女子会にちょっと気合いや冬紅葉
- 中野 佑海
熱燗
- 何事ぞ娘が熱燗つけてきた
- 小宮 豊和
- 熱燗や海馬の奥に悪の華
- 島田 章平
- 熱燗に進化忘れた孫の耳
- 藤川 宏樹
【通信欄】&【句会メモ】
【通信欄】◆安西 篤さんのお便りから~第77回香川句会報有難うございました。参加人数も変わりなく、関西地区を網羅する活動振りに感嘆しております。さて、今回作品について前回同様三段階評価をしてみます。【☆】「我がうなじ鱗 はがれる黄落期」(若森京子)」「かごめかごめの小春日移民の沖ありて」(野田信章)」「水澄んでいちにち風を聴いている」(月野ぽぽな)【◎】「どんぐりころころ百歳で不良」(伊藤 幸)」「流れ藻や耳を平らに音拾う」(矢野千代子) 「釣瓶落し大笑面の限りなし」(野﨑憲子)【○】「ふかし芋割ってちょうどいい関係」(三枝みずほ)「秋涼や旅のこだまが身を揺する」(疋田恵美子)「衣被ぎ卓袱台の頃ありしかな」(稲葉千尋)「夕時雨黒い牡牛の背に湯気」(小宮豊和)
【通信欄】◆竹本 仰さんのメールより~今回、拙句「坐の字あり樹魂をおろす月下かな」を選んでくださり、ありがとうございました。去年、高知の書道館で、「坐」という作品に接しました。書というより、そこに坐骨が置いてある感じで。 何だ、この、もうもうたるリアル感は?で、今年は和歌山にある書道館に入ると、おやっ、ここの書道館は、劇場だなあとなぜか照明に感心。そこで、漢詩の作品に見入っていると、何と言うんでしょうか、書の作者の楽しさが見えてくるんですよね。 この時、感じたのは、月光があれば、何でも出来るんだ、という感覚。すると浮かんだのは、突然ですが、去年の「坐」を書いていた作者の姿です。ああ、これは、俳句と同じなんだと、妙に納得。いったい、私は、何をしていたんでしょう? この夢でも見ているような感覚を、何と言えばいいか。俳句-月光-坐。 一句をなすことよりも、これは大事かも、と、まあ、一句になるか、ならないか。私の好きな演劇のパターンですね。何かが始まりかけて、幕。ということで、あの句。 まあ、構想のストーリーを楽しんでいる、そんな句もあっていいかと。また、楽しい句が出来ましたら、香川句会へ出そうと思います。よろしくお願いいたします。
貴重な感想と自句自解ありがとうございました。今後とも、よろしくお願い申し上げます。
【句会メモ】小雨の中の開催でしたが、岡山からの小西瞬夏さんを始め14名の方々の参加で、熱い句会が開催されました。先日、四国遍路の結願をされた島田章平さんが菩提子(菩提樹の実)をたくさん持って来てくださいました。高いところ から落下させると面白い軌道を描き、大好評でした。<袋回し句会>の作品は、同意くださった方々の1句~2句を選び掲載させていただきました。ますます作品が多様化し面白くなってまいりました。全て掲載できなくて残念です。次回が又たのしみです。
冒頭の写真は、島田章平さん撮影の<紅葉の栗林公園>です。Posted at 2017年12月5日 午前 12:08 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]