「海程香川」
第123回「海程香川」句会(2021.12.18)
事前投句参加者の一句
入眠へ山々が着る雲また雲 | 十河 宣洋 |
冬茜隣に闇を連れてをり | 佐藤 仁美 |
臘月や気力は青いけむりのよう | 若森 京子 |
おれは天動説でゆく紅葉山 | 増田 天志 |
波音のくすぐったいぞ桜芽木 | 亀山祐美子 |
三越の袋が歩く十二月 | 柴田 清子 |
胸突くかに海のかたまり冬怒涛 | 田中 怜子 |
芙蓉咲く踏絵見て海見る人に | 野田 信章 |
「照一隅」クリスマスの灯に隣るかな | 新野 祐子 |
鰤大根風の音から食べる | 重松 敬子 |
鹿啼いて空を見ながら落ちるよう | 河野 志保 |
冬晴れやいつもの笑顔母忌日 | 野口思づゑ |
雨音に温もりありて枇杷の花 | 稲 暁 |
疲れ吐く吐くたび眠る冬の蛇 | 川崎千鶴子 |
空白の一日とせん冬うらら | 銀 次 |
白息のごめんね白息の無言 | 月野ぽぽな |
花柄のマスクを買って年惜しむ | 藤田 乙女 |
喪乱帖(そうらんじょう)の羲之(ぎし)も唸るよ虎落笛 | 漆原 義典 |
蒼鷹(もろがへり)腹筋割りを見せたがる | すずき穂波 |
はんなりと見返る阿弥陀冬ぬくし | 山下 一夫 |
心電図波形ゆるやか冬に入る | 寺町志津子 |
ゴーガンの果実のごとく濁りゐる | 兵頭 薔薇 |
靴買ってそれだけで足る冬の海 | 久保 智恵 |
どぶろくやどの茶碗と遊ぼうか | 樽谷 宗寛 |
濡れ落ち葉ひとつ拾いし赤襖 | 中村 セミ |
牡蠣を焼く椅子を増やして僕ら会う | 津田 将也 |
産土の小川は暗渠冬眠す | 山本 弥生 |
じんじんと身体のむず痒い開戦日 | 増田 暁子 |
冬あたたか書き込み嬉し謡本 | 野澤 隆夫 |
型という自由の淵に冬籠 | 鈴木 幸江 |
あの凩までが青春ハーモニカ | 松本 勇二 |
水烟るひとりは死者の貌をして | 小西 瞬夏 |
雑巾にしたきあれこれ冬青空 | 松岡 早苗 |
耳遠くなりし君抱く冬銀河 | 滝澤 泰斗 |
掃くべきか掃かざるべきかぬれ落葉 | 田中アパート |
月冴ゆるぞっとするほど痛きまち | 豊原 清明 |
十五歳柿の実色の恋だった | 植松 まめ |
死をひとつ灯して冬を迎えけり | 榎本 祐子 |
帽子落つ風に枯葉の加わりぬ | 河田 清峰 |
阿部完市(あべかん)語録よさざんかの実が熟れて | 矢野千代子 |
真珠湾生きて百三歳の記事 | 福井 明子 |
メリークリスマスお地蔵さんに五円玉 | 伊藤 幸 |
恨み忘れて星になりたい冬林檎 | 高木 水志 |
日溜まりにいて日溜まりを吸うさかな | 男波 弘志 |
クリスマスビニール傘に滲む街 | 菅原 春み |
冬の山ひと足ごとに耳が澄む | 夏谷 胡桃 |
カブールの心火にあらず冬の星 | 桂 凜火 |
ママは神さまよりえらいんだぞ青りんご | 竹本 仰 |
ハイタツチの小さき手紅し園の冬 | 三好三香穂 |
家族という淡い繭玉冬の雷 | 佐孝 石画 |
雪原を泳ぎ来たりし君の胸倉 | 飯土井志乃 |
レノン忌のテーブルにある塩こしょう | 谷 孝江 |
石像を打つ雨わたし濃くなりぬ | 三枝みずほ |
誇りたかき母に寄り添う実むらさき | 荒井まり子 |
嬰児のしゃっくりコクリ窓に雪 | 松本美智子 |
冬虫夏草(とうちゅうかそう) 老人って謎だらけ | 伏 兎 |
古希からの恋のレツスン花梨の実 | 島田 章平 |
牛すじのおでんぐつぐつ夫の愚痴 | 藤川 宏樹 |
恋夕焼冬物語をご一緒に | 中野 佑海 |
新松子青年きっと眉をあぐ | 佐藤 稚鬼 |
一台のバスがくぐれり冬の虹 | 稲葉 千尋 |
見覚えの猫ポツリ居て神の留守 | 吉田亜紀子 |
ポックリは小春のこんな日がいいわ | 吉田 和恵 |
一滴の香水扉の奥は冬 | 大西 健司 |
海鼠腸の詩を吸うそして吸う詩人 | <田口浩改め>淡路 放生 |
冬銀河みんなおいらの切れつぱし | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 島田 章平
特選句『「照一隅」クリスマスの灯に隣るかな』。アフガニスタンで亡くなられた中村哲さんの言葉。中村さんの遺志を伝える為にペシャワール会が発行している今年のカレンダーの12月にこの言葉が載っているそうです。「一隅を照らす」中村さんの遺志が温かく伝わってきます。特選句「冬銀河みんなおいらの切れつぱし」。いや、豪快。それじゃ、おいらは地球の糸くずかい。
- 松本 勇二
特選句「他界とは君の肩先雪もよひ(野﨑憲子)」。兜太先生のよく言われた「他界」を肩先に見つけリアルな句になった。雪への期待と不安が綯い交ぜなった季語「雪催」も効果的だった。
- 福井 明子
特選句「冬の山ひと足ごとに耳が澄む」。冬山に分け入るごとに、身がほどかれてゆく体感が伝わります。特選句「私とは違う言語で銀杏散る(河野志保)」。銀杏の散り敷くさまを、メッセージとした感覚に親しさがこもります。
- 月野ぽぽな
特選句「雑巾にしたきあれこれ冬青空」。本来の寿命が尽きたとしても雑巾としての再生が待っていますね。タオルかな服かな。前向きに見回しているところが楽しいです。心は冬青空のようにが迷いありません。
- 増田 天志
特選句「冬銀河みんなおいらの切れつぱし」。まさに、ビッグバンによる、宇宙創生。おいらって、誰なのと、ツッコミを入れたくなる。口語が、効果的。
- 稲葉 千尋
特選句「蒼鷹(もろがへり)腹筋割りを見せたがる」。本当でないことをまさに本当に思わす力ある句。「蒼鷹」のなせる技、うまい!
- すずき穂波
特選句「冬虫夏草老人って謎だらけ」。そうなんです、わからないんです、わかって言っているのか、わからずに言っているのか、どこに向かっているのか、なんでそこにいるのか、いないのか、そこに何かあるのか、何もないからいるのか…なんなんですかね……… 。己も謎だらけ、だから存えるんですかねぇ…。特選句「おれは天動説でゆく紅葉山」。この物言い‼ドンと居座る紅葉山も見えてきて、とりあえず平和ですね。
- 若森 京子
特選句「阿部完市(あべかん)語録よさざんかの実が熟れて」。久し振りに懐かしい阿部完市先生の名を見て親しく句会その他で交流があったので、あの不可思議な作家像を思い出しています。あの豊潤な語録はさざんかの花より‶実が熟れて〟の方が効いていると思います。特選句「冬虫夏草(とうちゅうかそう)老人って謎だらけ」。漢方薬の冬虫夏草自体謎だらけ。昆虫の幼虫などに寄生して出来る子嚢菌らしい、とても個性的な一句で臈たけた風体を持っている。
- 津田 将也
特選句「白息のごめんね白息の無言」。白息(しらいき)と読む。冬は空気が冷たいので、吐く息が白くなる。その時の気温や天候により、はっきりと見えたり、そうでないときがある。俳句の情景はいろいろと想像できるが、一つの例として、私には「子供の喧嘩のあと」の情景が見える。「白息」のリフレイン、「ごめんね」「無言」の簡潔な言葉選びにより、類句のない表現をして佳句になった。特選句「はんなりと見返る阿弥陀冬ぬくし」。「見返り阿弥陀さま」は京都・東山/永観堂/に在られる。一躯像高が七十七センチの木造立像。慶派などとは異なる鎌倉時代の京仏師による作であるという。真正面からおびただしい人々の願いを濃く受けとめても、なお正面に回れない人々のことを案じて、見返らずにはいられない阿弥陀さまのみ心をあらわす像だという。「はんなりと」に対し「冬ぬくし」が生きた佳句になっている。
- 十河 宣洋
特選句「久女の忌からだにふっと火打石(伏兎)」。情熱すべてを俳句にかけたと言っていい久女である。久女を思うとき体中に久女の情熱が伝わってきた。火打石のように私も俳句を続けたいという気分が出てきた。特選句「どぶろくやどの茶碗と遊ぼうか」。祖父が秘かにどぶろくを作っていたことがある。そのことを思い出した。どの茶碗と遊ぼうかに、酒だけでなく人生を楽しく謳歌していることが推測される。問題句というほどでもないが「真ふたつに牛裂かれゆく寒月光(増田天志)」。牛の群が二つになるのか、屠殺場での場面か。そのどちらということもできるが。
- 夏谷 胡桃
特選句「誇りたかき母に寄り添う実むらさき」。甘えられない強い母います。長女とぶつかり、長男は遠慮してもの言えない。「もう時代が違うのよお母様」。次女だけが寄り添ってくれますが、ありがたさがわかっていない。さびしさの中の実むらさきの色が母です。特選「牡蠣を焼く椅子を増やして僕ら会う」。毎年行こうと思って行けない場所が、三陸の山田町の牡蠣小屋。牡蠣が食べ放題。牡蠣小屋に女性がひとり入ってきました。椅子が足りねえとおじさんがどこからか、ガタガタと椅子をもってきます。その女性はがんがん牡蠣を食べビールを飲んでいる。僕はすっかり見とれてしまった。恋に落ちました。
- 淡路 放生
特選句「手袋に獣性隠しいたりけり(新野祐子)」。―「手袋に獣性隠し」で作者の意図は充分に見えてこよう。しかし、書き移して見ると読むだけでは見えてこなかった「いたりけり」からサッーとひろがり立ち上がる物語性を感じられた。つまり、手袋をさしている人物が紳士にしろ淑女であれ、外国の肉食マナーにつつまれている陰湿が表に出て来るようなストーリが去来する。「いたりけり」にはそう言うものも含んでいよう。「雪ばんば個人情報流出す」。―綿虫、大綿、雪蛍、雪婆、と置いて見ると、歳時記に、アブラムシ科のうち綿油虫類の総称。白い綿のような分泌物をつけて飛ぶ。初冬の、どんより曇った日など都会でも見かける。とあるが、「個人情報流出す」は、いかにも、、いかにもであろう。「雪ばんば」に人格を持たすような相対が、句に軽妙な味を持たせて面白い。「つぶやきをAIききとってうさぎ」。―私の生活でエ・アイが出てくるのは、テレビの将棋観戦のときぐらいで、棋士が一手差すたびに勝負のパーセンテージが画面にあらわれるのを観るときぐらいだが「つぶやき」を終盤の棋士の表情と捉えて見ると「うさぎ」がやたらに利いてピッタリである、いい句だと思う。蛇足ながら「ピッタリ」は棋士の解説者が、将棋の終盤によく使うことばである。「あの凩までが青春ハーモニカ」。―たいていの青春は夏で終わるのが多いのだが、「凩までが青春」は意表をつかれた。句としては「あの」がこれもピッタリである。「ハーモニカ」は青春そのものであろう。どこかに昭和を感じられる。「白版(はくばん)より黒板が好きな冬日」。―句に「冬日」の味がよく出ている。「黒板」も、「冬日」も寄り添っていて、日向ぼっこのような感じがいい。
- 鈴木 幸江
特選句評「レノン忌のテーブルにある塩こしょう」。ジョン・レノンの存在の妖怪性は、一茶とは違うのだが・・・私にはとても気になる人物だ。クリスマスになれば「ハーピークリスマス(戦争は終わった)」そして「イマジン」を思い出す。1980年12月18日、41歳で熱狂的なファンにより暗殺されたと伝えられたが、私には真相は未だ闇の中だ。歴史的人物とは象徴となる人のことではないだろうか。そんなジョン・レノンと日本の日常風景となった“テーブルにある塩こしょう”の持つ西洋スタイルの象徴性の組み合わせに今を捉えている感性を感じる。
- 松岡 早苗
特選句「波音のくすぐったいぞ桜芽木」。「くすぐったいぞ」に魅かれました。呟きとも呼びかけとも取れる気安げな口調に、少しわくわくするような気分も感じました。波の音や潮の匂いを運んでくる早春の風、そして桜の芽吹き。この句のように五感を全開にして春の兆しを感じてみたいと思いました。特選句「真ふたつに牛裂かれゆく寒月光(増田天志)」。牛舎に繋がれた牛の真っ黒な巨体。月光が牛舎に差し込むと、牛の盛り上がった背を境としてくっきりと画される光と影。「真ふたつに」「裂かれ」という強い言葉によって寒月光のすさまじさが一層際立つようです。
- 榎本 祐子
特選句「久女忌のからだにふっと火打石」。打ち合わせて発火させる火打石を体に感じるとは、理性では片付ける事のできない何かなのだろう。激しいものを内に抱えていそうな久女とも響きあっている。
- 滝澤 泰斗
特選句「家族という淡い繭玉冬の雷」。家族の形容、淡い繭玉・・・確かにその通りだという認識が基本になっていながら、冬の雷が暗示する家族の負の危うさが描けた。「やはらかく冬日のごとくフォーレ弾く(福井明子)」。フォーレ、レクイエムを奏でるにはそれなりの季節感が必要で、それがちょうど今時分のやわらかい冬日がいいと・・・私もそう思う。「鰤大根風の音から食べる」。字足らずが故かぶっきらぼうな感じと季節感たっぷりの鰤大根が響き合う中、辺りの風の音を添えた点に共感しました。「心電図波形ゆるやか冬に入る」。健康診断で心電図を眺めているのではなく、闘病の病院で見慣れた心電図の波形がゆるやかな波形を描いている。快方に向かいつつももう冬に入った。自分の事だろうと思うが、日常を上手に切り取った。「どぶろくやどの茶碗と遊ぼうか」。作者は陶芸家か、はたまた、趣味で陶芸をされているか・・・有名、無名はともかく沢山の茶碗に囲まれている景が見える。その茶碗にどぶろくを注ぐはともかく、茶碗を愛でながらの酒は一入。兜太師は酒を止めたが、どぶろくなくして何の趣味だと言わんばかりで面白し。「掃くべきか掃かざるべきかぬれ落葉」。諧謔の一句。面白し。ながーい目で見てやって・・・使い用もそのうち出てくるから。
- 田中 怜子
特選句「嬰児のしゃっくりコクリ窓に雪」。窓の外は雪だけど、室内の暖かさが感じられます。ガラス戸の水滴なんかも見えてきます。母親に、見守られ、しゃっくりしている情景が優しいですね。殺伐とした昨今の親子関係は悲しいですね。
- 竹本 仰
特選句「白息のごめんね白息の無言」。無言劇の舞台であるかのように感じた。遠くから見ていると、片方がごめんねと何か謝っているようだが、もう一人は答えない。何らかの齟齬があるようだ、何だろうか。という経過であろうか。この場合、気になるのは無言の方である。わだかまりがある。しかし、それは見えないながら、白い息でぐっと重く表現されている。ドラマである。この無言のためのドラマである。ほとんど舞台道具は要らないながら、的確にドラマが出来上がっている。特選句「型という自由の淵に冬籠」。型がなければ自由も成り立たない。その辺は殊更俳句にこだわらなくても、よく世間に見られることである。そして、この自由というのはなかなか油断のならないものだ。そういう深淵に冬籠。この冬籠も、自由の一つの 形であろう。この自由は何をしうるか。という自身への問いかけではなかろうか。特選句「回れ右を父は許さず寒月光(松本勇二)」。父の生き方、最後まで初志を貫いてこそ、というのだろうか。頑として動かない。無器用でかたくな。そんな生き方が自分の中にも感じられる。若い頃はそこにしばしばため息さえついたものだったが、今となっては感謝している。純粋で直情、この生き方もいいではないか、そういう飾らない謙虚な生き方への肯定が感じられた。
今年最後の句会となりました。この一年、なかなか困難な、自省の日々ではなかったかと思います。みなさま、何かを求める熱い心のそのままに、来年もまたよろしくお願いいたします。
- 増田 暁子
特選句『「照一隅」クリスマスの灯にとなるかな』。中村哲さんの言葉。彼の生き方を表す言葉ですね。12月4日になるとアフガンを思います。特選句「死をひとつ灯して冬を迎えけり」。胸に迫るものがあります。「臘月や気力は青いけむりのよう」。中7の表現に感激です。「久女の忌のからだにふっと火打石」。火打石の様な気性と言われていますが、本当は違う様で、俳句への想いには感服します。「一私信黄落は頻りです」。頻りに落ちる銀杏は私個人の心情です。と作者。上手い吐露俳句で拍手ですね。「小瓶には媚薬蝕む冬の月」。心の景でしょうが、媚薬がそそられます。「産土の小川は暗渠冬眠す」。私の故郷も全く同じで、あの小川の魚たちは何処へと思います。「雑巾にしたきあれこれ冬青空」。大掃除を思うと、いろいろ思い浮かべます。「回れ右を父は許さず寒月光」。今の若い父親は優しいですが、昔の父はなかなか手強い人がほとんどでしたね。
- 大西 健司
特選句「家族という淡い繭玉冬の雷」。正月飾りの繭玉 家族という繭玉は淡く幸せに揺れている。コロナ禍の昨今家族のありようも変わってきているがこのように絆を美しく詠んで秀逸。
- 新野 祐子
特選句「おれは天動説でゆく紅葉山」。紅葉山、目を上げれば青空が広がっています。高揚感がありますね。そこに「おれは天動説」という大胆な宣言、すごくいいです!気持ちも晴れ晴れ。「雑巾にしたきあれこれ冬青空」。雑巾は俳句の題材にはあまりならないかもいれないけれど、この句は何げなくて好感が持てました。突き抜けるようなきれいな冬青空が効いているからですね。「冬の山ひと足ごとに耳が澄む」。山好きの私にとっても実感です。
- 飯土井志乃
特選句「臘月や気力は青いけむりのよう」。上五中七下五 の言葉が寄木細工のように一句を成して引きつけられた句です一本の蝋燭の炎の描写で新年の気力充満とお見受けしました。
- 柴田 清子
特選句「白息のごめんね白息の無言」。白息でなければならない無言劇が、こめんねで始まり、ごめんねで終わるであろう。深い思いの詰まった内容の余韻を楽しんでいます。
- 中野 佑海
特選句「雑巾にしたきあれこれ冬青空」。年末、この一年の失敗あり、後悔あり、羞恥ありと、私も数々あります。そして、結句冬青空の反省のなさが凄く良いです。特選句「冬虫夏草老人って謎だらけ」そうです。先程も休みながら、倒れそうになりながら、でも、前向きに足引きずって歩いている方に会いました。どうして歩けない躰で何を目指して?不思議です。でも、いずれは私もお仲間に…。「冬茜隣に闇を連れてをり」。なる程、冬は空が赤くなると、すぐ夕暮れです。人間も黄昏れると、すぐ頭が闇に。「おれは天動説でゆく紅葉山」。何時まで続くか分からないこの威勢の良さ。最高です。横紙破り最高。「久女の忌からだにふっと火打石」。久女のあの俳句に対する真摯さ。その火ちょっと欲しいような、怖いような。「一私信黄落はいま頻りです」。誰かに秘かに告げたい何か。遠い昔の味がする。「青棗ひろわれていた今朝の吐露(若森京子)」。まだ熟していない願望。でも、それが天に通じたのか。言ったもん勝ち。「私とは違う言語で銀杏散る」。だいたい銀杏はあの実の匂いで、意思を発露させているのではないのか?「白板より黒板が好きな冬日」。白板だと冬日のあの暖かさが跳ね返されてしまいます。黒板はじんわり受け止めて、一緒に騒いでくれるから、黒板愛です。「牛すじのおでんぐつぐつ夫の愚痴」。こんなに美味しいおでん作ってくれるなら、愚痴でも何でも聞いちゃう。有難う。ご馳走様。あっ、何だったっけ? 今月も面白さ抜群。
- 河野 志保
特選句「日溜まりにいて日溜まりを吸うさかな」。「日溜まり」の繰り返しが印象的。浅い川の晩秋の景色を思った。緩やかで少し気だるい光の中、パクパク口を動かす「さかな」が愛らしい。人にもこんな時間があると思う。
- 谷 孝江
特選句『「照一隅」クリスマスの灯に隣るかな』。「照一隅」は仏法の中の言葉として教わりました。かつて京都の寺院めぐりの旅をした折り、或る寺院での玄関先で「照一隅」の屏風を見かけました。仏法であれ、キリスト教であれ、貧しきもの、迷えるもの、苦しむものたちの味方なのです。気付かずにいますけれど、常に一隅を照らす中に居るのですね。北陸の地で育った身には「クリスマスの灯」もご浄土の灯も変りありません。隣り合うていてありがたいです。
- 伏 兎
特選句「阿部完一語録よさざんかの実熟れて」。 「ローソクをもってみんなはなれてゆきむほん」をはじめ阿部完市氏の句は謎めいていて心に刺さるものが多い。そんな氏の発する言葉はきっと、たくさんの人に影響を与えたことだろう。特選句「家族という淡い繭玉冬の雷」。正月を彩る縁起物のひとつ繭玉に、家族の平穏を祈る気持ちが、詩情豊かに込められ惹かれた。「白息のごめんね白息の無言」。冬の朝の駅での高校たちの一コマを思わせる。白息に絞ったところが新鮮。「雪蛍ぽあぽあぼあと生まれけり」。 綿虫の無垢な存在を見事に捉えたオノマトペに、胸がきゅんとした。「新井さん小春日和の風になり」。千の風の訳詞と作曲で知られる新井満氏のご冥福を祈ります。
- 男波 弘志
特選句「漸うに鹿の日暮れとなりにけり(淡路放生)」。何故鹿なのだろうか、何故日暮れなのだろうか、ふと 「たとへなきへだたりに鹿夏に入る」 岡井省二の絶唱が過る、たとへなき日暮れ だろうか。秀作「ゴーガンの果実のごとく濁りゐる」。濁りこそ創作の核だとも言えます。ゴーガンとゴッホが手を握りあって確かめ合っていたのも濁りだろう。
- 三好三香穂
「三越の袋が歩く十二月」。お歳暮というとデパート。高松では三越。しかし昨今は若い人はデパート離れ、中高年は三越にこだわる。「鰤大根風の音から食べる」。湯気の立つ炊きだちの鰤大根。そこに外の風の音。音から食べるというとらえ方が面白い。「濡れ落ち葉ひとつ拾いし赤襖」。赤い襖にはもともと落葉の絵が描かれていたのだと思う。それを拾ってきたかのように表現し、ひょっとして自らも濡れ落葉といわれる高齢の夫では?「耳遠くなりし君抱く冬銀河」。夫婦愛の美しさ。欠けていくものはお互い様でいたわりあうことこそ人としての道。「家族という淡い繭玉冬の雷」。家族を繭玉にたとえているが、そこに冬の雷。もろくもこわれてしまうか、繭の結束がかたく大丈夫なのか。ドラマがはじまる。
- 佐孝 石画
特選句「鹿鳴いて空を見ながら落ちるよう」。森閑とした宵闇を切り裂くように、切ない鹿の鳴き声が響く。その声が何処から発したのかもはっきりしないまま、再び訪れた静寂が非日常の残像感を帯びる。仰向けに空を見上げつかみながら中空を落下していく自身の体感の残像。「空を見ながら落ちる」というインスピレーションに強い身体性を感じる。見えない鹿から作者自身の中空感覚にシンクロしていくその幻想性に強く惹かれた。
- 伊藤 幸
特選句「靴買ってそれだけで足る冬の海」。納得!私も先日新しいスニーカーを買いました。それだけでも寒さに澄み切った藍色の海を見ていると充分幸せな気分になれます。下語が効いています。
- 高木 水志
特選句「私とは違う言語で銀杏散る」。日本の秋の景色と違う風景が、作者の目に映っているのだろう。言語はもちろん人が話すのだが、銀杏が散る描写までもが私とは違う言葉のリズムに感じた。
- 三枝みずほ
特選句「クリスマスビニール傘に滲む街」ビニール傘に無機質で均一的な生活を想起する。そこに滲む街もまた同様であろう。ライトまみれの街はどこの地域、国に行ったとしても同じ景色にうつり、明るさゆえにそこにある深みに気づけない。わたしは、二十年使う傘で静かに夜を歩ける世界を懇願する、クリスマスくらいはそうあってもいいじゃないか。特選句「雑巾にしたきあれこれ冬青空」雑巾はまた他の汚れを落とし、再生させる。その先に青空がある。この循環が生きるということかと共感した。
- 藤川 宏樹
特選句「十五歳柿の実色の恋だった」。還暦を遠くに超えた私ですが気持ちはまだ若いつもり、10代が恋しくて振り返ることがあります。十五歳の私は青林檎、「柿の実色」の恋など知りませんでした。いつか機会があれば、「柿の実色」と言われる充実した恋のお話を伺いたいと思います。
- 佐藤 仁美
特選句「日溜まりにいて日溜まりを吸うさかな」。 のどかな午後でしょうか。ぱくぱくとしてる魚を、日溜まりを吸っているとの表現に、惹かれました。特選句「見覚えの猫ポツリ居て神の留守」。私がお参りしている石清尾神社にも、猫が知らん顔して、座っています。神無月の神様の留守に、神社を守っているのかも、しれません。
- 矢野千代子
特選句「花柄のマスクを買って年惜しむ」。かわいい花柄のマスクですが、視点の奥にはふかい作品の拡がりが・・・・読み手にはその小さな発見に拍手喝采しています。特選句「牡蠣を焼く椅子を増やして僕ら会う」。気軽な談笑のさまが、暖かな雰囲気が、おのずと伝わって好きな作品です。一年間、ほんとうにお世話になりました。まだまだお世話をかけるでしょうが、どうぞよろしくお願い申し上げます。良いお年を・・・ねっ!
- 寺町志津子
特選句「真珠湾生きて百三歳の記事」。戦争を知らない年代の方々の方が多くなった日本。揚句のように太平洋戦争がらみの記事、ことにご長命で実戦を体感された記事が反戦の思いを強くするのではないか、と記事に心を留められた作者に共鳴。
- 樽谷 宗寛
特選句「三越の袋が歩く十二月」。省略が良い。袋は商標デザインで一目瞭然。 コロナ禍だが、人出も増えてきました。袋が歩くと、十二月でいただきました。心の余裕が垣間見え楽しい気分を味わえました。メリークリスマス!
- 小西 瞬夏
特選句「レノン忌のテーブルにある塩こしょう」。「レノン忌」と「塩こしょう」のとりあわせに、意外性あり。日常の中にある何気ない幸福のようなものを感じました。
- 重松 敬子
特選句「三越の袋が歩く十二月」。歳末の雑踏が浮かびます。今はコロナでなるべく人ごみは避けていますが、ブーツでコートの衿を立てて、あわただしく行き交う街の風景が私は大好きです。
- 桂 凜火
特選句「雪原を泳ぎ来たりし君の胸倉」。雪原を走ってくる君の姿が見えるようで美しいです。「君の胸倉」寒いけど熱い思いが伝わりますね。
- 豊原 清明
特選句「山眠る夢が浅葱となるまでに(竹本 仰)」。先生の句が原型としてある。この書き方もありかと、今頃発見。問題句「雨音に温もりありて枇杷の花」。雨に濡れた枇杷の花が好き。優しい句。
- 野口思づゑ
特選句「久女の忌からだにふっと火打石」。からだにふっと火打石、が日ごろ忘れていた事を思い返し刺激を受け、喝を入れられたといった日常経験する感覚をとても巧みに表現している。特選句「冬虫夏草(とうちゅうかそう)老人って謎だらけ」。実は私は冬虫夏草を知りませんでした。この言葉が冬や夏の季語なのか、季語になり得るのかも知らないのですが、この謎だらけを老人にうまく当てはめ老人をプラスに捉えている。「メリークリスマスお地蔵さんに五円玉」。どこか楽しくなります。「古希からの恋のレッスン花梨の実」。いいですねぇ。どうか上達なさいますように。「ポックリは小春のこんな日がいいわ」。こんな日がいいわ、と砕けた口調にして、深刻になる得る句が明るくさらっと仕上がっている。
- 吉田亜紀子
特選句「姉さんのバージンロード花柊(吉田和恵)」。この句の素晴らしいところは、「姉さん」という言葉で、主人公の素直な感動や視線を表現出来ているところだと思う。バージンロードを歩く姉は、柊の花のように、清楚で美しい。また「花柊」とすることで、少し距離が出来る。これからの少し距離が出来てしまう関係の切なさも垣間見えてくる。ゆっくりと美しく歩く姿が浮かびました。特選句「新松子青年きつと眉をあぐ」。何かを決意をしたのだろうか。青年のきりっとした姿、また、何もよせ付けない青年ならではの強い表情が浮かぶ。同時に、「新松子」を使うことで、経験を積んでいくであろう、これからの若さが表現されている。眉の使い方にピリリと焦点が合っていて、気持ちの良い句だなと思いました。
- 野田 信章
特選句「石像を打つ雨わたし濃くなりぬ」。の句は、二句一章の構成が際立ち、上句の「石像を打つ雨」の鮮明な映像によって、自己の存在感の表白の有り様がより具体的に伝達されてくる。無季の句ながら初冬の雨を濃く覚える句柄でもある。特選句「家族という淡い繭玉冬の雷」。の句は、迎春の一景であるが、この句の「繭玉」には家族というものの確かさそれ故のはかなさを織りまぜた来し方の歳月の重たさ、その想念のひろがりがある。やや情感に傾きつつも、この作者なりの美意識の貫く一句として読んだ。
- 山本 弥生
特選句「白板(はくばん)より黒板が好きな冬日(松岡早苗)」。学校で白板に縁のなかった私には、黒板に先生が正確に文字や数字を書かれるのがとても不思議であった。私達は思うようにチョークが使えなかった先生と生徒の関係も冬日のような温もりがあった。今でも白板より黒板が懐かしく想い出される。
- 山下 一夫
特選句「家族という淡い繭玉冬の雷」。繊細な糸が何重も紡がれいても淡いという繭玉が家族の暗喩として極まり、冬の雷の対比でその危うさがさらに際立ってもおり、お見事と感心しております。特選句「レノンの忌テーブルにある塩こしょう」。ジョンレノン。掛け値なしの天才でした。それ相応のものを並べたり対照させたりしたいところ、ありふれたものや基本の基であるものの代名詞としての「テーブルにある塩こしょう」というのが憎い。楽曲イマジンが聞こえてきます。問題句「冬虫夏草老人って謎だらけ」。うーん。意味深な感じがして惹かれるのですが、どうしても老人の丸くなった背中から傘のないキノコ状のものが伸びていたり、ちょっと背中が曲がった姿態自体がキノコに見えたりして、やや失礼感が漂ってしまいます。「妻と別れ秋雲のファルセット」。妻と言っているからには離婚の別れではないと判断。買い物かなんかでしぶしぶ付き合って一緒に歩いていたが、途中で別れることができての中七座五。ペーソスがいっぱい。「十五歳柿の実色の恋だった」。様々な外来の果物が店頭に並ぶようになり、柿はすっかり古風な果物の印象。実際、日本古来からのものではあります。昔風の恋だったという感慨でしょうか。「石像を打つ雨わたし濃くなりぬ」。雨粒の跡が付きやすいざらついた表面の石像を想います。とても映像的かつ思索的。
- 松本美智子
特選句「あきらめて海鼠のごとく眠りけり(稲暁)」。海の底深く海鼠が身をひそめるが如く眠りたい。「あきらめて」・・とは,焦燥感や苛立ち文字通り「諦め」いろんなことを含んでいるように感じました。上手くいかない時は静かに力を蓄えて,堪えるときですね。また,句会に参加したいと考えていますが,いったん内向き思考になってしまうと,体まで内向き志向になってしまいますね。みなさんのパワーをもらいたいです。
- 銀 次
今月の誤読●「牛すじのおでんぐつぐつ夫の愚痴」。うるさいわねえ、さっきから。課長がどうとか部長がどうとか。だいたいあんたが出世しないからダメなのよ。悔しかったら課長になってみなさい、部長になってみなさいよ。でなきゃ思い切ってやめたら。やめて焼き鳥屋でもなんにでもなんなさいよ。まーた、息子のこと。出来の悪いのはあんた譲りだからしょうがないでしょ。受験勉強しないでゲームばかりしてるのは、あんたがパチンコやめられないのと一緒。ほんっと瓜二つ。ほらまたいった。疲れた疲れたって、なにして疲れたっていうのよ。一年三六五日、一日でもいいから疲れてないあんたが見たいものね。横になってるのがイヤなら庭掃除ぐらいしなさいよ。毎日コタツでゴッロゴロゴッロゴロ。ミカンの皮をとっちらかして、タバコをプカプカ。口を開いたらボソボソボソボソ愚痴ばかり。粗大ゴミって言葉はあんたのためにあるようなもんね。あら、お醤油きらしちゃった。ちょっとあんた、スーパーまでひとっ走りしてきてよ。……なに聞こえないふりしてんのよ。……ふーん、知らんぷり。……ねえ、あんた……あたし右手になに持ってるか知ってる? ん、ん、ほれ、ほれ……ほれほれほれ、とってもよーく切れる包丁よ……ほうちょう!
- 荒井まり子
特選句「冬虫夏草老人って謎だらけ」。昔、冬虫夏草のコマーシャルにギタギタした変な感じと思ったが、自身この年になると出来無い事に対する戸惑いを納得せざる様子に共感。
- 野澤 隆夫
特選句「喪乱帖(そうらんじょう)の羲之(ぎし)も唸るよ虎落笛」。作者の歓喜が想像できる句です。正に虎落笛だったと。特選句「十二月ピースを買ひに土佐郷士(藤川宏樹)」。タバコを吸う人もまだ居たのだ。ある意味‶いごっそう〟健在かと!土佐郷士が決まってます。特選句「ママは神さまよりえらいんだぞ青りんご」。若いお母さんの得意顔が目に浮かびます!
- 亀山祐美子
特選はありません。シュールで綺麗だがずっしりとお腹にくる作品がありませんでした。好みの問題・私の感性の鈍化に拍車がかかっている模様。下手な言い訳で申し訳ございません。久々に皆様にお目にかかれて嬉しかったです。皆様其々にご活躍のご様子眩しい限りです。本年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
- 中村 セミ
特選句「石像を打つ雨わたし濃くなりぬ」。石像を打つ雨なのにわたしが濃くなった、というのは、特別な何かの像を見たのだろうか、雨に濡れると一層像が黒っぽくなる。私は像になにかをみて、悲しくなり像の様にうごけなくなる。しかも、濃くなる。そう読み方しかできないが、面白い。
- 川崎千鶴子
「入眠へ山が着る雲また雲」。「山眠る」を入眠と表し、「雲また雲」を着るが素晴らしいです。「久女の忌からだにふっと火打ち石」。希有の俳人ですが、私生活に恵まれず、また虚子との 「火打ち石」で表現したことが抜群です。「耳遠くなりし君抱く冬銀河」。老いて難聴になった妻か夫)を抱いて銀河を見ているこう言う状況に次第になって行くのだなあと身に摘まさました。「日溜まりにいて日溜まりを吸うさかなかな」。日溜まりにいる魚がその水を吸うのを「日溜まりを吸う」の表現が味伍夫です。初めての表現です。季語が無いのを感じさせないお句でした。「ネイル盛る男ありけりピラカンサ」。ネイルをしっかりつけた「男」がいて。その季語の「ピラカンサ」 がぴったりです。
- 漆原 義典
特選句「冬晴れやいつもの笑顔母忌日」。私の母ももうすぐ三回忌です。中七の< いつもの笑顔> が、母を思う心がよく表現されています。温かい句をありがとうございます。
- 河田 清峰
特選句「ポックリは小春のこんな日がいいわ」。西行のように花の下もいいが小春のほうがいい気がしてきました。
- 植松 まめ
特選句「カブールの心火にあらず冬の星」。今も混乱のアフガンにも冬の星が輝いている。それは心火にあらずということばに救いが見える。特選句「あの凩までが青春ハーモニカ」。の句はしだのりひことシューベルツの「風」を想い浮かべた。今でも私の愛唱歌だ。団塊の世代の青春がこの句に込められている。
- 稲 暁
特選句「石像を打つ雨わたし濃くなりぬ」。雨に濡れてゆく石像を見ながら濃くなっ てゆくのは作者の精神か身体感覚か。石像と作者とのふしぎな照応に惹かれた。
- 野﨑 憲子
特選句「海鼠腸の詩を吸うそして吸う詩人」。海鼠腸(このわた)は一般的には海鼠の内蔵の塩辛。でも私は、珍味のそれではなく、海鼠が海中で怒った時に己が腸を吐き出すという。その時の想いと捉えたい。海神の詩を、これからも楽しみにしている。特選句「昏れても照らすさざんかの紅(あかい)色(矢野千代子)」。冬になると咲き始める山茶花。<昏れても照らす>のフレーズの美しさに圧倒された。ここは断然赤い山茶花だ。特選句&問題句「つぶやきをAIききとってうさぎ(三枝みずほ)」。平仮名書きの真ん中に
。なんだか、飛び跳ねるリボンのように見えて来て楽しい。どんな呟きだったのだろう。
袋回し句会
餅
- あん雑煮生涯さぬき暮しです
- 柴田 清子
- 「前」「元」の役付く職やあんこ餅
- 藤川 宏樹
- 嘘つきが嘘をかためた餅を焼く
- 亀山祐美子
- 鏡餅今年のいのち頂いて
- 中野 佑海
門松
- 門松が歌い出しさうな光
- 柴田 清子
- 門松の根元に私埋めてをり
- 亀山祐美子
- 紙の門松よお前は貧乏臭い
- 淡路 放生
- 空しさは商店街の松飾り
- 銀 次
- 門松やゴリラの背ナは噴火口
- 野﨑 憲子
- 門松の風吹く君晴れているか
- 三枝みずほ
学校
- 冬ざれの賢治の学校ポッとあり
- 銀 次
- 学校へ大きな歩幅芽水仙
- 亀山祐美子
石
- 庭石の大きいやつが冬構え
- 柴田 清子
- 縁なれば人殺します冬の石頭
- 淡路 放生
- 石に話しかけていたらりんごチョコ
- 三枝みずほ
手
- 雪もよひゴリラの手のひらに太古の目
- 野﨑 憲子
- 人を差す指が冷たくて冷たくて
- 柴田 清子
- 石蕗の花ひよこ生きるる手を欲す
- 亀山祐美子
- 寂しさの手が大根を摺り下ろす
- 淡路 放生
自由題
- ぼくの絵本めくれているよ日向ぼこ
- 淡路 放生
- 僧侶ありて一鉢ぬっと差し出しぬ
- 銀 次
- いつも心に遠き渚の狐火
- 野﨑 憲子
【句会メモ】
本年の〆句会は、サンポートホール高松の和室での開催でした。コロナ感染用心の為忘年会をしなかったせいか、参加者は8名でしたが、あっという間の4時間、とても楽しい句会でした。来年の初句会は、1月15日。今から心待ちにしています。
冒頭の写真は、高知県須崎市の樹齢千産百年の大楠です。高知市在住の男波弘志さんが送ってくださいました。四国にも巨樹が棲息しています。これからも一回一回の句会を大切に、たかが句会されど句会の最小単位の句会だからこそできる「俳諧自由」の場です。思いっきり熱く渦巻いてまいりたいです。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。
Posted at 2021年12月29日 午前 11:05 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]