「海程香川」
第155回「海程香川」句会(2024.10.12)
事前投句参加者の一句
枯野行く芭蕉に兜太また天志 | 島田 章平 |
妖怪辞典と良夜気ままな招き猫 | 大西 健司 |
ルフィゐてアンパンマンもゐて案山子 | 大浦ともこ |
ゆうらりと尾を垂らす句よ星月夜 | 松本 勇二 |
断崖にホテル海越しの不二は秋 | 樽谷 宗寛 |
蝋石で渦の太陽いわし雲 | 藤川 宏樹 |
ガザの子の黒瞳コオロギ鳴き通せ | 野田 信章 |
いつだつて生まれ立てです満月は | 鈴木 幸江 |
黄落の第二関節まで来たか | 河西 志帆 |
秋彼岸人も白雲流れゆく | 福井 明子 |
酢生姜や遠き昭和の大家族 | 山本 弥生 |
塗るたびに麒麟を越えてゆく絵筆 | 男波 弘志 |
てのひらの秋の蛍がものをいう | 桂 凜火 |
秋めくや一枚交じる新紙幣 | 松岡 早苗 |
天高く棕櫚直立に凪や灘 | 疋田恵美子 |
去りにけりお印迄にと秋風は | 綾田 節子 |
猪や温かい臓腑戦難なり | 豊原 清明 |
水澄むや傷つきやすき魂も | 岡田ミツヒロ |
横顔は紫煙の中に母秋思 | 川本 一葉 |
駄犬吠ゆくたばれプーチン・ネタニヤフ | 稲 暁 |
黒猫を抱き月光を目蓋(まなぶた)に | 向井 桐華 |
せっかちな内臓冴えて花芒 | 高木 水志 |
木の実降る黙契の如わが墓標 | 若森 京子 |
十三夜明日黙つて 逝くあなた | 柾木はつ子 |
曼珠沙華火焔の一団波乱の一期 | 時田 幻椏 |
十六夜を風に吹かれて不思議の子 | 松本美智子 |
青虫はフェンネル育ち 我キッチン | 田中 怜子 |
このままの私でいいの草は実に | 柴田 清子 |
いちじくに蟻群れている火宅かな | 三好つや子 |
投函の指を離れて鰯雲 | 佐孝 石画 |
コスモスやひらがなの風吹きいたり | 漆原 義典 |
守秘義務の多き仕事よ黒ぶどう | 菅原 春み |
雨 煙る 白き 羽衣 薪能 | 三好三香穂 |
秋の日に迷った子犬やってきた | 重松 敬子 |
成長痛ありにし日々の新松子 | 榎本 祐子 |
流星に立ちはだかりし槍ヶ岳 | 末澤 等 |
レモン一個わたすダサさを泣くなんて | 竹本 仰 |
秋天のふふっ八ヶ岳ひとり占め | すずき穂波 |
そのうそもやさしすぎるし秋桜 | 銀 次 |
秋天に染み一つ三つ何の花 | 荒井まり子 |
蝶のごとひらく十指や水の秋 | 和緒 玲子 |
鵙猛る「く」の字「し」の字が逆の子に | 津田 将也 |
墓石の水滴登るてんとう虫 | 管原香代子 |
桔梗の目覚め発生練習の「アー」 | 岡田 奈々 |
〇△□また来て□でアンダルシアだ | 田中アパート |
秋深し山鳩の声うつろ | 佳 凛 |
鯨鳴くボトルたてては鯨なく | 中村 セミ |
秋川のひかりとならん孕みたり | 十河 宣洋 |
君に手紙 柿の実色した水曜日のこと | 植松 まめ |
雁渡し影走るよう兄が逝く | 増田 暁子 |
マネキンを白布で包む月の雨 | 小西 瞬夏 |
親父殿享年超えて墓参り | 滝澤 泰斗 |
せんせいがこどもの数だけ里の秋 | 吉田 和恵 |
葛原や拾いし球に標あり | 塩野 正春 |
トイレに元素記号表と栗一枝 | 伊藤 幸 |
裏切りの物語読む夜食かな | 石井 はな |
気温ジグザグ十月桜ひらく | 河田 清峰 |
<袴田巌さん無罪に>紅のブラウス映える姉さん小鳥来る | 新野 祐子 |
好きすぎた僕らの失敗秋ほたる | 花舎 薫 |
小さい秋小さい私のお友達 | 野口思づゑ |
美しき素数青檸檬の孤独 | 薫 香 |
甘言にまず予防線おけら鳴く | 山下 一夫 |
車窓から唱歌のごとき苅田風 | 森本由美子 |
死ぬ蜂と同じ格好転がるの | 河野 志保 |
稲刈機と絶妙な距離白き鷺 | 藤田 乙女 |
稲雀山がななめになってをり | 亀山祐美子 |
ペンが骨軋ませてゆく自由帳 | 三枝みずほ |
いつもどこかできつとみてゐる十三夜 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 小西 瞬夏
特選句「塗るたびに麒麟を越えてゆく絵筆」。季語はないが、秋の青空が見えてくる。実際の麒麟をはみ出してゆくように動く絵筆に、作者の躍動感、内に潜むエネルギーがあふれるようだ。
- 松本 勇二
特選句「成長痛ありにし日々の新松子」。成長期のひざ痛は、大きく育って欲しい子供への期待に水を差すもので複雑な思いであったことを思い出させます。すっと伸びた新松子の真っすぐがそういう思いを少し薄めてくれたことでしょう。
- 和緒 玲子
特選句「いちじくに蟻群れている火宅かな」。庭のいちじくが熟れ落ちて歪に割れ、そこに蟻が群れているという景。そしてそこは火宅だという。いちじくと蟻の群れと火宅。どれもが熱を感じさせつつ冷めた熱、じわじわ感じる熱であるという点が巧み。ありがちな景を描きつつ下五でぎゅっと引き締める一句。
- 河野 志保
特選句「流星に立ちはだかりし槍ヶ岳」。一瞬の出来事を捉えた壮大な句姿に惹かれた。作者と自然との呼応も感じる。
- 男波 弘志
「コスモスやひらがなの風吹きいたり」。コスモスの中にひらがなのimageがすでにある、そこが少しもったいない気がする。つまり中7以下のフレーズがもっと生きる場があるのではないか、取り合わせは一見うんと離れていながら、どこかで通底していなければ真の取り合わせにはならぬ。例句をあげておく。「海牛(あめふらし)ほどの昏さの曼殊沙華(堀江かつみ)」。これ以上の取り合わせの凄みをだれが表現できるか。否、そこに挑み続けてこそ俳諧を志す意味があろう。秀作。「十月の光綴じたる初版本」。造本に贅を尽くした時代を思う。背表紙は羊の皮だろうか、聖者の俤が颯爽と翻っている。秀作。「蝶のごとひらく十指や水の秋」。正直終わりの「水の秋」で、一つの美意識が露わになってしまい日常とか肉声とかが遠のいているように感じる。あまりにうつくしく出来上がっているところに苦悶を人肌をいれるべきであろう。どうしたら蝶のように十指が開くのか、そう提示したならばこの季語も生きるかもしれぬ。つまり「ひらく十指か」 予選句。「鯨鳴くボトルたてては鯨なく」。なんのことかわからないのだが、それでも存在が突っ立て居るように感じる。ただやはりボトルがどうしても映像化できぬ憾みがある。杭を立てては、墓を立てては、ではどうも仕掛けが露わなようだ、暫くはこのボトルと遊んでいようか。秀作。
- 岡田 奈々
特選句「ペンが骨軋ませてゆく自由帳」。ペンが柔らかく好きな事を書いたり、言ったり、出来るのは本当に大切です。言いたい事の骨格がキコキコ言い出して、抑えないと行けなくなったら、もうそれは自由帳ではありません。拘束帳です。特選句「秋天のふふっ八ヶ岳ひとり占め」。八ヶ岳には登れませんが、八ヶ岳のよく見える峠などからみたらどうでしょうか。つい、ほくそ笑んでしまいます。本当、山は見ても登っても素敵。「長き夜や森の匂ひのしてピアノ(和緒玲子)」。秋は芸術の秋。静かにピアノ弾いていたいね。「いつだって生まれ立てです満月は」。毎月朔から満月になり、また朔に。生まれ変わっているのです。「黄落の第二関節まで来たか」。銀杏の黄葉ももうすぐですが、だんだん上から落ちていく様が目に浮かびます。高松も街路樹が日毎に化粧し始めています。「去りにけりお印迄にと秋風は」。秋風をお印として置いて行くと言っているのは誰。とても嬉しい。「守秘義務の多き仕事よ黒ぶどう」。黒ぶどうの一粒一粒が守るべき事とは。隠しきれない。全部食っちゃえ。「十月の光綴じたる初版本」。十月のもの皆実る時。その光はなにを投影してくれる。「笑うにはまだ足りません温め酒(柾木はつ子)」。涼しくなってくると、ぬる燗最高。美味しいお酒と肴。顰め面止めて、ニッコリと。「車窓から唱歌のごとき苅田風」。刈田の青き穂が、心地よい風に吹かれるのが、子供たちが歌っているようです。
- 十河 宣洋
特選句「ゆうらりと尾を垂らす句よ星月夜」。なにか纏まらない句をいじっているような気分。星空は気持ちよく広がっているのに、だらだらと俳句をいじっている自分を見ている。特選句「そのうそもやさしすぎるし秋桜」。見え透いた嘘であるがその嘘で心が和らぐ。こういうことはある。ありがとうという気持。
- 樽谷 宗寛
特選句「蠟石で渦の太陽いわし雲」。素敵な作品ですね。子供の頃を想い出しました。
- 藤川 宏樹
特選句「美しき素数青檸檬の孤独」。おのれの数以外で割り切れない素数。その美しさを青檸檬の「孤独」ととらえられた作者の感性に敬服します。美しい句です。
- 福井 明子
特選句「稲雀山がななめになってをり」。群れていた雀、たわわに稔る稲穂。そんな、あたりまえに有ったものが、いつのまにか、少なくなっている。そんなことに気づかせてくれる一句。山がななめになってをり。この表現にかけがえのない無尽蔵な豊かさを思います。
- 塩野 正春
特選句「木の実降る黙契の如吾が墓標」。私自身もうそろそろ終活もせねば‥と焦る心があります。人生の区切りをつける為とか墓標を建てることに同感するこの頃です。墓については日々議論を耳にし心が揺らぎますが、作者はご自分の確固たる心構えを示されたのでしょう。力強い句ですね。特選句「虹のブラウス映える姉さん小鳥来る」。添え書きから袴田死刑囚の長き上告審を詠まれた句と見受けます。簡単な証拠だけで死刑を宣告され、何十年も無罪を叫び続けたとのこと、信じがたい事実です。捜査官に脅され続け自白を強要されたのでしょうか? 被告のお姉さんがそれにもめげず無罪を信じ、上告を続け、“小鳥来る”結審を得られたのは何よりも素晴らしいことでした。今の時代は鑑定技術も進んでいるはずですが他の事件でも自白に頼る傾向が続きます。現代俳句ではこのような事象も句で訴えることができることに感服しました。自句自解:「嘗て今ベルリンの壁の穴覗く」1988年11月ベルリンの壁が取り壊されましたが、丁度その時ベルリンを訪問しました。感激の記録です。「葛原や拾いし球に吾が未来」。大谷選手やその前の、あるいは全ての日本の球児の心です。はじめは藪の中のボール拾いから始まったと思います。拾ったボールが将来を指してくれるとは・・・。
- 川本 一葉
特選句「十月の光綴じたる初版本(三枝みずほ)」。読書の秋らしく、光を綴じているとは?夢や希望でしょうか。絵本かもしれない。初めて読んだ時の自分と向き合っているのだろうか。初版本というのが意味あり気。親の本なのかもしれない。
- 津田 将也
特選句「雁渡し影走るよう兄が逝く」。季語「雁渡し」は、九月ごろ吹く北風のことです。日本に雁が渡って来るころの風なので、この名が付いています。風が吹けば、波が高くなり、不漁の日々が続きます。そんなだから、漁師さんからは特別に嫌われていました。まるで、「影走るよう」な不測の兄の死。それは、こんな風のせいであったのかも知れません。
- 榎本 祐子
特選句「目覚めたら別々の空緋連雀(桂 凜火)」。どういう目覚めなのか少し不思議。男女の別れか、昨日の自分との決別か、死後の景なのか。そんな模糊とした世界を背景に、緋連雀が鮮やかに在る。
- 島田 章平
特選句「<袴田巌さん無罪に>紅のブラウス映える姉さん小鳥来る」。俳句にするのには難しい社会句だったと思う。個人的な感情を交えずに、「紅のブラウス映える」と詠み、袴田巌さんの姉の秀子さんの喜びの姿を見事に描き切った秀作。勇気をもって社会詠を詠まれた作者に敬意を表したい。
- 鈴木 幸江
特選句評「レモン一個わたすダサさを泣くなんて」。いろいろな状況が想像されるが、〝ダサい〟から泣くなんて、なんて〝粋〟な人だろう。私は市井の人の美しさを感じてしまう。背景にレモンがとてもおしゃれだったころの時代がある。この句から、社会の変動の〝あはれ〟を捉え、自己否定しつつも自己肯定している作者の他者との関係性の満足感が伝わってくる。私この〝レモン〟喜んで頂きます。
- 末澤 等
特選句「十六夜を風に吹かれて不思議の子」。「十六夜」(いざよい)は、古語で 「躊躇する」「ためらう」などを意味する「いざよう(猶予う)」の名詞形であり、そのためらう様が十六夜という名前の由来になっているそうです。この句では、十六夜に見知らぬ不思議な子が風に吹かれながらためらっている様子が浮かんでくるような気がします。
- 柾木はつ子
特選句「せんせいがこどもの数だけ里の秋」。つまり先生が一人、生徒が一人の僻地の小学校ということなのでしょうか。ある意味羨ましくもあり、さびしくもあり…でも「里の秋」で豊かな自然に包まれ、ほのぼのと温かい絆が育まれてゆく場景が目に浮かび、素晴らしいと思いました。問題句「美しき素数青檸檬の孤独」。数学はよくわかりませんが、割り切れる数を持たないのが素数でそれが美しいと思う感性。なんとなくわかるような気がします。この場合「素数」は「青檸檬」に掛かってくるのでしょうか。私にとってはとても難解な掲句ですが、分かるような分からないような、妙に気になる御句です。
- 野田 信章
特選句「<袴田巌さん無罪に>紅のブラウス映える姉さん小鳥来る」。この句自体は「小鳥来る」という秋の大気の中にひらく日常詠の景ながら、この前書と相俟ってその様相も浄土の一景かと垣間見るおもいである。これも永年に亘って献身的に弟さんの支援活動を支えて来られた「姉さん」の素顔の魅力かと感じ入るところである。そのことが正しく、冤罪という取り返しの出来ない歳月の重たさ、人間の尊厳とは何かについて静かに問いかけてくるものがある。
- 三好つや子
特選句「妖怪辞典と良夜気ままな招き猫」。小豆洗いや一反もめんなど、親近感のある妖怪に心を寄せ、秋の夜を楽しんでいる作者を想像。そんな良夜を連れてきた招き猫は、むかし飼っていた老猫が姿を消して、猫又という妖怪になり、今も主人を見守っているのかも(願望ですが)。特選句「好きすぎた僕らの失敗秋ほたる」。お互いを愛しすぎて、別れる羽目になったカップル、あるいは夫婦でしょうか。披露宴のスピーチでよく耳にする名言「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ」という言葉を思い出しました。「黄落の第二関節まで来たか」。老化は第二関節までに止め、しっかりストレッチを心がけてください。「せんせいがこどもの数だけ里の秋」。全学年で生徒が十人位の小学校と、秋たけなわの山や田畑が浮かびます。
- 豊原 清明
特選句「小さい秋小さい私のお友達」。お友達というのは良いものです。小さい、多分、子供と思いますが、「小さい秋」、良い秋です。問題句「いつだつて生まれたてです満月は」。月は昔から、多くの人々の神秘だと思います。月は誰が作った訳ではないけれど、月を産んだ句。
- 岡田ミツヒロ
特選句「十三夜明日黙って逝くあなた」。もう話すこともできない。迫りくる別れの時、深い諦観が漂う。特選句「投函の指を離れて鰯雲」。手を離した瞬間、願いは大空へ羽ばたく。鰯雲よ。
- 植松 まめ
特選句「いちじくに蟻群れている火宅かな」。熟れ切ったいちじくに群れている蟻と火宅という言葉色々と映像が頭をよぎる。きれいごとではない人間の生き様かとも思う。特選句「流星に立ちはだかりし槍ヶ岳」。50代のある時期山登りが趣味だった。槍ヶ岳は憧れの山ではあるが私の足では無理だと断念し槍ヶ岳を目の前に見ることの出来る双六岳に登った。流星に立ちはだかる様に聳える槍ヶ岳を体験した作者が羨ましい。
- 吉田 和恵
特選句「レモン一個わたすダサさを泣くなんて」。うーん、とりあえずレモンは止してざくろにでもすれば少しは気が晴れるかも。問題句「好きすぎた僕らの失敗秋ほたる」。好きすぎたことには興をそそられますが、も一つ実像が見えてきません。
- 若森 京子
特選句「ゆうらりと尾を垂らす句よ星月夜」。一句を生き物の様に、尾を垂らすの表現の面白さ。字余りの様に、ゆうらりとした句なのであろう。この美しい星月夜に気持を込めて句の良し悪しは関係なし。この様な句を書きたいものだ。特選句「ガザの子の黒瞳コオロギ鳴き通せ」。ガザの子供は本当に黒瞳がちで可愛い。しかし、いつも涙を溜めている。比喩としてのコオロギの漆黒と似ている。哀しい鳴き声である。
- 滝澤 泰斗
特選句「流星に立ちはだかりし槍ヶ岳」。日本一の山は富士山に譲るが、長野県出身としては、北アルプスの槍ヶ岳を選ぶ。よく見る写真に、とんがり帽子のシルエットの稜線に星が刺さるように降り注ぐ。鋭い流星の流れを一身に受け止めるごとき槍ヶ岳の雄大さ魅かれた。特選句「妖怪辞典と良夜気ままな招き猫」。妖怪辞典と招き猫の取り合わせの妙が良夜とはと首をかしげたが、この取り合わせにぐいぐい魅かれた自分がいた。共鳴句「駄犬吠ゆくたばれプーチン・ネタニヤフ」。ここ一年、毎日、この思いでいる。この二人は自国民のためと詭弁をいいつつヒットラーと同類。直截の言葉は詩的ではないし、文学かと言われれば怯む自分がいるが、俳諧自由の名のもと許されたい。「ガザの子の黒瞳コオロギ鳴き通せ」。死ぬな、生きろ、虚しいが、ただただ祈るばかり・・・。「タダぼんヤリしたふ安秋のクレ」。カタカナ、ひらがな、漢字の散りばめ方に新鮮味を感じた。意味するところも理解の範疇。
- 柴田 清子
特選句「てのひらの秋の蛍がものをいう」。特選です。命尽きる最期に、てのひらの蛍が、何を語りかけるのだろうか。そしてこの蛍に、語り返す言葉・・・・・・。しみじみと秋は深まってゆきます。
- 桂 凜火
特選句「好きすぎた僕らの失敗秋ほたる」。ほれ込みすぎるとなにかと執着もでて失敗するというのに共感します 秋ほたるもほどよく寂しくてでも闇ではなくよいですね。
- 稲 暁
特選句「美しき素数青檸檬の孤独」。美しき素数という断定が鮮やか。それを受けて、青レモンの孤独も詩情豊かだ。問題句「レモン一個わたすダサさを泣くなんて」。意味はサッパリ分からないが、なぜか惹かれるところがある。困ったもんだ。
- 薫 香
特選句「水澄むや傷つきやすき魂も」。季節が変わり、魂も水が澄むようになってほしいとの希望を込めて頂きました。特選句「秋だよ三年眠ったまま友よ(三好つや子)」。友に語り掛ける季節は、心穏やかな秋がいいです。
- 大西 健司
特選句「起き上がり小法師の母に似て良夜(大浦ともこ)」。大事にしている人形には魂が宿るとか、誰かの顔に似てくるとかいう。この句は母に似た起き上がり小法師が母に似ているという。月の明かりが眩しい良夜にはなおのことだろう。
- 河西 志帆
特選句「君に手紙 柿の実色した水曜日のこと」。とても気になる句でした。柿の実色の木曜日ではいけなかったのか。などと勝手に遊ばせて貰いました。中七の「した」下五の「のこと」この五文字を入れると物語が生まれるのかも知れません。特選句「好きすぎた僕らの失敗秋ほたる」。私も、僕らの失敗をしました。そう言えば、昔、森田童子の唄がありました。後ろから、そのメロディが被ってきました。好きすぎたんだもの。仕方ないね。『鵙猛る「く」の字「し」の字が逆の子に』。猛るまで言わなくても、いいかなあ〜なんて思ったりして。「秋だよ三年眠ったまま友よ」。交通遺児の俳句に「天国はもう秋ですかお父さん」と言う句がありました。友達にはがんばって生きて欲しいですね。「稲雀山がななめになってをり」。やっぱり俳句はいいなあ〜と思わせてくれるお手本のような句ですね。沖縄にきて山がないなあ〜と思いながら。
- 中村 セミ
特選句「蝶のごとひらく十指や水の秋」。ショートショート解読:あるホテルに泊まった。3階まではファミリー向け、4階以上はビジネス向けだった。5階の部屋にはいると、正面が、納戸すぐ手前に机,椅子反対側がベット机の横がバス,トイレの作りだった。脱いだ服を納戸にと思い、それをあけようとしたが、あかない。それに、その納戸は仏壇に思えた。疲れていたこともあり、服は,机におきベットにはいり、ねむりについた。夢の中で。ガタガタと何かが音を立てて近づいて来るようだった。ふと目を開けると、納戸がベットの横に立っていた。間髪いれず戸が、パカーっと開きなかに俵屋宗達の龍神が,合掌していた。両の手が開くと水が滴るようにぬれていた。次の瞬間とびついてきた、それは、僕の顔をべたべたになるほど、さわつた。その手は蝶の羽みたいに、頬に暫くいたか、納戸にかえり元の場所にあっというまにかえつた。遠い思いでが蘇ってきました。特選句「ペンが骨軋ませていく自由帳」。ただ,字を書いているだけなのだろうが、骨軋ませるという表現がいいです。なにか、を,一生懸命かいているのでしょうか、恋文だろうか、憎しみだろうか、そういうときがありますね。
- 向井 桐華
特選句「ルフィゐてアンパンマンもゐて案山子」。案山子のすべてを、海賊になる夢を抱いたアニメのキャラクターと正義の味方のキャラクターを用いることでうまく表現しています。特選句「やり返す気はない後の更衣」。季語「更衣」が効いているのと、心情がひしひしとつたわりましたので特選にいただきました。
- 疋田恵美子
特選句「駄犬吠ゆくたばれプーチン・ネタニヤフ」。まこと同感、両氏には怒りを覚えます。「虹のブラウス映える姉さん小鳥来る」。非人道的な取り調べ、捏造こんなことがあっていいのでしょうか。ご本人、お姉さんよく頑張りました。
- 三枝みずほ
特選句「黄落の第二関節まで来たか」。はらはらと葉が落ちてゆく木の様子を人体の関節と捉えた表現。木々の命を自分の命の有り様を見定めているかのような切迫感がある。
- 田中 怜子
特選句「秋彼岸人も白雲流れゆく」。淡々と、自然に寄り添う生き方、気持ちよい秋風も感じられる。特選句「駄犬吠ゆくたばれプーチン・ネタニヤフ」。駄犬とは卑下しないが、悪口雑言投げかけたいですね。権力をもつとこうなるんですね。「雁渡し影走るよう兄が逝く」。は映像が見える。「書庫に差す月の光や青鮫か」。漢詩に床に霜の歌と似ている、静かででも青鮫の不気味さ静寂もおもしろい。
- 漆原 義典
特選句「秋高し妣の欠点受け継ぎて(松岡早苗)」。私は妣の句が好きです。この句には母と子の愛情が溢れています。上五の秋高しがよく合っています。良い句をありがとうございます。
- 増田 暁子
特選句「いちじくに蟻群れている火宅かな」。甘いいちじくにむれている蟻。火宅の表現がとても良いです。
- 河田 清峰
特選句「いつもどこかできつとみてゐる十三夜」。うしろむきでなく夢をおいかけている姿がいい。
- 野口思づゑ
特選句「レモン一個わたすダサさを泣くなんて」。正直、どう解釈していいか途方に暮れる句なのですが、単純なのか、いやとても複雑な心のうちなのかそんな謎に惹かれました。特選句「美しき素数青檸檬の孤独」。数学に美を感じる人にとって、素数はかなり魅力的だと思います。素数と青檸檬、孤独の組み合わせがとてもユニーク。
- 松岡 早苗
特選句「投函の指を離れて鰯雲」。季語の「鰯雲」が効いていると思いました。誰にどのような手紙を投函したのでしょうか。夢や希望にあふれた手紙、慰めや失意の手紙、いろいろと想像が膨らみました。特選句「死ぬ蜂と同じ格好転がるの」。老いて足腰が弱る、躓いて簡単に転んでしまう。そんな惨めともとれる自身の姿を一呼吸置いて冷静に観察し句にしてしまう、作者の俳人魂に感服です。諧謔味があることで、逆に、哀れさの裏に潜む命の一途さ尊さが光り、胸を打ちました。
- 伊藤 幸
特選句「稲刈機と絶妙な距離白き鷺」。先日 苅田の中を数羽の白鷺が遊ぶ美しい光景を友人と目を細めて眺め数分足を止め楽しませて貰ったばかり。景が見えてくるようでした。特選句「ペンが骨軋ませてゆく自由帳」。書きたいことが次から次に溢れ出てそれが筆圧として伝わり文字になり言葉になり感動や叫びとして自由帳に記される。いいですね。自由帳ならではの自由です。
- 竹本 仰
特選句「秋川のひかりとならん孕みたり」:孕むというのは、決して個人のなし得ることではなく、相手もあり殊には新しい生命に託された意志でもある。出産に際しては、その生命なるものは産道をくぐりぬけるために色んな工夫をするらしい。平べったくなったり縮んだり、自己の意思でとにかく永遠に向かって必死らしい。そう、その永遠をつかもうとする感覚というのか、「秋川のひかりとならん」に感じた。特選句「釣瓶落しさあこれからが本番だ(野﨑憲子)」:すとんと老後がある。そして老いの楽しみとは何だろう?という問いかけだと見た。例えるなら、旅の終わりだ。最近よく思うのだが、旅の終わりこそいいものだ。映画館でいつまでもエンドロールを見ていたい気分と似たものがある。しかも人生は最後の最後までわからない。安岡章太郎に「聊斎私異」なる短編があり、何十年も登用試験に落ち続けた蒲松齢がふと自分の孫も受けるのを知ると、憤然とファイトを燃やす。「年もへったくれもあるもんか、七十になったって、八十になったって、受かるまでやるぞ…」そういう生き方もまた実にいいではないか。特選句「美しき素数青檸檬の孤独」:素数が好きだという人がいる。うちの娘もそうらしい。信号で停車した時など、前のバックナンバーの4桁の素数に遭遇すると、にかっと笑えるのだそうである。それは魔法の意味がわかったみたいな感覚らしい。同じ小説を読んでもそうだ、自分には名作と思えても人にはチンプンカンプンのような。先日、カフカの『審判』を読んだが、えっ、こんな名作だったっけかと、読み終わったとき『審判』ロスにおちいった。素数の美しさ、それは好ましい百年の孤独と取り換えてもいいくらいのものなのだろう。一読後、ピピっと来るものがあった。以上です。♡やっと秋です。夜長とは言いますが、何をしても、夜は長く持ちません。田野ではまだ曼珠沙華がいきいきとしており、これもきっと昼間の残暑のせいでしょうか。明日は早朝から福祉祭りの草刈りに呼ばれています。先日の夏祭りの長かったことを考えると、不安な明日の朝です。作業の終わりの時間が書いてないことをみると、まさかのエンドレス?ま、体力の無さをさらして、がんばります。次回もよろしくお願いします。
- 荒井まり子
特選句「ルフィゐてアンパンマンもゐて案山子」。ルフィが俳句になり驚き。取り合わせの妙、案山子でバランス上出来。
- 佐孝 石画
特選句「好きすぎた僕らの失敗あきほたる」。この句が一番好きでした。「好きすぎ」てしまったかつての恋愛と、その後の別れ。時がたってもなお胸に揺らめくその痛みと、季節外れの「あきほたる」との邂逅が静かに重なってくる。上五中七と下五の間の「切れ」が絶妙。過去と現在の時間の開きに、さらに季節の移ろいが滲み、いまだ時空を漂い続ける情念の不可思議を思う。「十月の光綴じたる初版本」。書籍には初版、増版、絶版いろいろあるが、「初版」の少し孤高めいたイメージ、世に出たばかりの、ウブで含羞を帯びたニュアンスと、「十月の光」の配合は秀逸。「綴」の比喩は、少し作りこみ過ぎて、鑑賞後のインパクトと爽快感が損なわれる可能性がある。「綴」に最終的な焦点を絞り込み過ぎると、その本の内容や情趣まで、作者のイメージへ鑑賞者を誘引させることになってしまう恐れがある。それは句幅にも影響してくる。「光」はそこにあるだけで良かったのかもしれない。
- 新野 祐子
特選句「雁渡し影走るよう兄が逝く」。「影走るよう」に作者のお兄さんへの哀惜の念が凝縮していますよね。ぐっときました。「あああれは芭蕉に天志大枯野」。天志さんが突然亡くなってから早一年。芭蕉も天志さんも、そんなに老年ではなかったのに・・。残念でなりません。
- 高木 水志
特選句「ガザの子の黒瞳コオロギ鳴き通せ」。今なお続く中東での戦争は子どもの目にはどういう風に映っているのだろうか。一晩中コオロギの鳴き声が聞こえるような平和が早く来てほしい。
- 綾田 節子
特選句「妖怪辞典と良夜気ままな招き猫」。面白い取り合わせ、作者はとてもユニークな方ですね。妖怪辞典と言うのがあるのですね。水木しげる著だったりして。特選句「いちじくに蟻群れている火宅かな」。実際の景に作者は感じたのでしょうね。凄い。
- 菅原 春み
特選句「枯野行く芭蕉に兜太また天志」。芭蕉と兜太がそろい踏みで天志であれば特選しかありません。特選句「雁渡し影走るよう兄が逝く」。影走るようがなんとも、あっけなく逝ってしまった様子を感じられて見事です。まるで雁渡るような早さも感じられてより無念さを感じます。
- 佳 凛
特選句「人は木偶この世を歩く孤独かな(十河宣洋)」。木偶 とは木彫りの人形、操り人形、愚か者、なんて言われます。でも役に立たない人は、居ないとおもいます。気が付かないだけ。今の時代は、人との関わりが薄く、孤独に陥りやすい時代です。こんな時 俳句に救われています。さぁこれから頑張りましょう。
- 山下 一夫
特選句「そのうそもやさしすぎるし秋桜」。中七最後の「し」は若者語かと。だとするとプラスの感情や判断を強調する終助詞ということになるようです。やさしい彼氏にうそをつかれて悲しかったり不満があったりするものの、それがやさしさの一側面でもあって憎み切れない、といった女性のつぶやきでしょうか。微かな風にもそよぎ、また、花の輪郭がどことなくそっけなさも漂う秋桜の斡旋が決います。特選句「小さい秋小さい私のお友達」。「小さい秋」にはサトウハチロー、「小さい私」には夏目漱石の菫の句を連想。「小さい」のリフレインに愛らしさ、童心を喚起されます。情景からすると、座五は「お友だち」の方がよいのかもしれません。問題句「小鳥来るけれど火曜日が見えない(河西志帆)」。「火曜日が見えない」というところに引っかかり若しくは仕掛けがあり、考えさせられます。あえて火曜日というのは月曜日の心境で、つまり明日が見えないということでしょうか。軽やかに季節は移ろうが自分は暗く停滞している?気になります。
- 時田 幻椏
特選句『鵙猛る「く」の字「し」の字が逆の子に』。苛立たしさと愛らしさ、鵙ほどに猛ける程無く、優しく本当は・・と見守りたいものです。特選句「父今も魚類図鑑の手暗がり(男波弘志)」。無季の句なのでしょうが、父上の御姿、気性までイメージ鮮明です。「おろおろと歩きおろかな梨を剥く」。おろかな梨 とはどんな梨なのか? 花柳界では梨を有の実と言う様ですが、「おろかなありの実を剥く」と詠んで頂けると腑に落ちるのですが・・。
- 藤田 乙女
特選句「このままの私でいいの草は実に」。「このままの私でいいの」と言い切る自己肯定感に羨ましさと清々しさを感じました。私もそんな気持ちになりたいです。「草は実に」との取り合わせも効いていると思います。特選句「秋だよ三年眠ったまま友よ(三好つや子)」。「秋だよ」に眠ったままの友への回復を願う万感の思いを強く感じ、心打たれました。
- 大浦ともこ
特選句「父今も魚類図鑑の手暗がり」。亡くなったお父さんとの遠き日の思い出が魚類図鑑を開くことで蘇るのでしょうか・・”手暗がり”も上手いなぁと思います。特選句「己が影小さく揺らす吾亦紅(榎本祐子)」。吾亦紅という寂しげで可憐な花をじっとみつめている作者の様子が見えてくる一句と思います。
- 花舎 薫
特選句「おろおろと歩きおろかな梨を剥く(大西健司)」。おろおろと狼狽えさせたのは人間関係や健康の問題だろうか。あるいは老いや生きていくことそれ自体への不安かもしれない。それでもとりあえず日常を生きる。おろおろ歩いて取るに足らない目の前のことを片付ける。例えばもう何度もやってきた果物を剥くという行為。今の自分の心情とはかけ離れ、勝手に進んで行くくだらない生活。「おろかな梨を剥く」の措辞の意外性と巧みさに感心した。
- 銀 次
今月の誤読●「駅ピアノ小さき足見え秋うらら(薫香)」。いまにして思えば些細なことだった。今朝、夫が、アイロンのかけ方がどうのと文句を言ったのがきっかけだった。たぶん日ごろの鬱憤がたまりにたまっていたのだろう。わたしはブチ切れた。夫は当初戸惑っているように見えたが、売り言葉に買い言葉、わたしへの不満を言いつのった。そうなると山火事同様、小さな火種が思いもかけぬ大火へとなった。夫は鬼のような形相で会社へ出かけ、残ったわたしはその足でキャリーバックを取り出し衣服を詰め込んだ。キッチンテーブルの上に「実家に帰る」と殴り書きしたメモを残し、娘のモミジの手を取った。モミジが「どこに行くの?」と訊いたので「おばあちゃんち」と答えると、上機嫌で「うん」と言った。駅のコンコースに入ったとたん「あっ、実家への手土産」と思い立ち、モミジに「ここにいるのよ。この椅子を離れちゃダメよ」と言い残し、駅ビルの土産物売り場へと急いだ。急いだつもりだったが、思いのほか時間がかかり、娘の待つコンコースへと帰った。と、聞き慣れたピアノの音が聞こえた。なぜか思いがけないショックで息が詰まりそうになった。モミジだ。モミジが弾いているのだ。わたしは歩をゆるめ、まるでそのピアノの音に導かれるように、コンコースの椅子に坐った。決して上手とはいえないピアノ。しかも練習曲だ。それを楽しげに聞いているお客さんたち。わたしは倒れ込むように椅子に坐った。涙がドッとあふれた。「日常」という言葉が頭に浮かんだ。わたしと夫とモミジの日常。安心ではあったが決して満たされない日常。実家に帰るという選択は次の非日常への第一歩だ。わたしの思いはめぐりめぐり、宙ぶらりんになっている。実家に帰るのか、それとも住み慣れた家に帰るのか。娘のピアノはその宙空を問いかけるように、いまコンコースに響いている。わたしは手土産を持ったままだ。
- 山本 弥生
特選句「星月夜指輪のにあふ指欲しや(亀山祐美子)」。年を重ねた今日迄よく働いてくれた指を星月夜にじっと眺めていると節も大きくなり指輪も入らなくなってしまった。今一度お洒落をして出掛ける時、細いきれいな指が欲しいと云う願望がよく分ります。
- 三好三香穂
特選句「十月の光綴じたる初版本(三枝みずほ)」。しみじみとした出版の喜びが感じとれます。
- 松本美智子
特選句「美しき素数青檸檬の孤独」。数学者の物語や映画を見聞きすることがあります。私のような凡人では理解不能ですが「数」に対する思想は深く美しい輝きをもったものではないでしょうか。青檸檬の未熟な香りや雰囲気に孤高の数学者の佇まいを感じとれます。
- 菅原香代子
「駅ピアノ小さき足見え秋うらら」。子供の楽しそうな情景が目に浮かびます。秋うららとよくあっています。「どこだろう金木犀の香漂う(三好三香穂)」。とても素直な爽やかな句だと思いました。
- 野﨑 憲子
特選句「水澄むや傷つきやすき魂も」。一読、<傷つきやすき魂も>にドキっとした。私の少女期よりずっと心に眠っていたNHKみんなのうた「勇気のうた(やなせたかし作詞)」が蘇った瞬間だった。歌の方は、<傷つきやすい たましいが>なので全くの別物なのだが、六十年近く経って、掲句の「水澄むや」の思いに共鳴できたことに胸がいっぱいになった。中学生時代、己の面倒くさき性格の為、友だちもなく、心にぽっかり空いた風穴が苦しかった。そんな私の心の杖になってくれた歌だった。この作品に出会って、私のかつての心模様も昇華されたように感じた。
十月十二日十三日と銀次(上村良介)さん主宰のミュージカル劇団「銀河鉄道」の公演『幕末純情伝』がサンポートホール高松第一小ホールで開催されました。このホールは、第一回「海原」全国大会の会場でもありました。私は十二日の句会の後に観にまいりました。会場は立ち見のでるほどの満席で若者がたくさん観に来ていて溢れ返るような熱気でした。役者さんは、皆アマチュアで、お仕事をしながら稽古を続けてこられました。公演は、高い芸術性はもちろんの事、ミュージカルが好きで好きでたまらない演者の方々の思いが観客にもひしひしと伝わり深い感動と共に、大きな元気をいただきました。今回も作詞、脚本とも全て銀次さんが担当され、つかこうへいの原作を超えた素晴らしい舞台でした。銀次さんお疲れさまでした。次回の公演を今から心待ちにいたしております。
昨年の十月句会には、増田天志さんが大津から来られ、元気に手を振って帰って行かれました。急逝されてから早や一年、今も、兜太先生や、たねをさんと一緒に毎回、他界から句会に来てくださっていると強く感じています。今回も、演劇好きだった天志さんは、句会の後、銀次さんの劇を観にいらしていたと存じます。今後ともよろしくお願いいたします。
袋回し句会
天志
- 柿の木に登る天志に逢へさうで
- 和緒 玲子
- 天志ひとり琵琶湖の月を釣り上げる
- 野﨑 憲子
- 天志の茶目っ気追悼雷鳴す
- 藤川 宏樹
- 天志来たる青春自由切符かな
- 三好三香穂
- 秋の虹消えし如くに天志逝く
- 稲 暁
- 小鳥来て天志の肩に止まるかな
- 植松 まめ
- エンジェルと俳句の空へ飛び出して
- 薫 香
- 赤とんぼけふは天志はどこの空
- 島田 章平
鶏頭花
- 鶏頭もゐて源氏物語読書会
- 野﨑 憲子
- 鶏頭花カフェに親しき絵本並(な)む
- 大浦ともこ
- 葉鶏頭いきなり胸倉つかまれる
- 柴田 清子
- なんだかね無理筋が好き鶏頭花
- 藤川 宏樹
- 葉鶏頭子規の頭に蠅二匹
- 島田 章平
- 鶏頭や産卵のごと種はじく
- 三好三香穂
- 平凡を誉められている鶏頭花
- 藤川 宏樹
- 鶏頭の種がこぼれる異教の地
- 三枝みずほ
- 濁流の来し方暗し鶏頭花
- 稲 暁
金
- 金木犀闇の重さのごとき香(かざ)
- 大浦ともこ
- 金言にふりがな灯火親しめり
- 和緒 玲子
- 金曜の夜長あんパンに胡麻塩
- 藤川 宏樹
- 金高騰妖しげな秋買取屋
- 三好三香穂
- 跳ねつ返りものの雲です金曜日
- 野﨑 憲子
- 金曜の午後の退屈いわし雲
- 稲 暁
- 星月夜独り膝抱く金曜日
- 島田 章平
- 金木犀手を振るだけの別れかな
- 植松 まめ
秋
- 湖の面に秋のひかりの混み合へる
- 和緒 玲子
- 秋灯やげにやはらかき詫びの筆
- 和緒 玲子
- 字余りがあたしの手柄秋の蝉
- 藤川 宏樹
- 軍港となりし波止場や秋日射し
- 稲 暁
- 凛凛と征く鼓笛隊秋高し
- 大浦ともこ
- ぞうさんの雲だ秋の影のびるのびる
- 野﨑 憲子
- 白杖の友と旅して秋うらら
- 植松 まめ
- スイッチをひねるように秋が来た
- 薫 香
- 天と地と我と天志に秋ひとつ
- 島田 章平
ハロウィン
- ハロウィンや化粧落として一人静か
- 薫 香
- あなたなら化粧は不用ハロウィン
- 島田 章平
- パパもママも喧嘩はやめてハロウィン
- 野﨑 憲子
- 町がハロウィンの色に耐えています
- 三枝みずほ
- ハロウィンの夜も虐殺のニュースかな
- 稲 暁
- ハロウィンや隊列ほどき儀仗兵
- 藤川 宏樹
- 月匂う黒猫のゐてハロウィン
- 大浦ともこ
- 手も足も揃っていますハロウィーン
- 柴田 清子
- ハローウィン永遠の笑顔に光差す
- 末澤 等
- ハロウィンの雑沓に落とす吾の影
- 植松 まめ
【通信欄】&【句会メモ】
9月14日(火)~11月24日(日)の会期で、山梨県立文学館に於いて金子兜太展が開催されています。10月26日からの「海原」全国大会IN静岡へ参加の後、拝見に行く予定です。充実の企画展であると聞いています。楽しみにいたしております。
10月句会は、12名で句座を囲みました。夜に、銀次(上村良介)さん主宰のミュージカル劇団「銀河鉄道」の『幕末純情伝』の初演を観る予定があり、少し進行のピッチを速め、午後5時過ぎに句会を終えました。今回も盛会で、このスピードもいいな!と、思いました。
今月も、巻頭に、末澤 等さん写真「槍ヶ岳山行」を飾らせていただきました。実際に槍ヶ岳を登っての写真であり俳句作品なので、迫力があります。ただ、道中くれぐれもお気を付けてください。
Posted at 2024年10月23日 午後 11:41 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]