2019年7月31日 (水)

第97回「海程香川」句会(2019.07.20)

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事前投句参加者の一句

                           
寂寞に無言の響き青葉木菟 野口思づゑ
糸どのと呼ばせておくれ軒しずく 銀   次
賽の目の一の連続熱帯夜 鈴木 幸江
蟻の列浮世絵展に続きをり 菅原 春み
万緑や橋の長さの旅心 小山やす子
被爆土のささめく夜明け枇杷は実に 野田 信章
べたべたと七月に寄りかかられる 柴田 清子
小豆炊く母吾へ父を混ぜて血を 藤川 宏樹
温かい尿我に親しい羽抜鳥 豊原 清明
妻の大きな乳房で塞ぐ扇風機 稲葉 千尋
夏蝶を放ちつづけている胸か 男波 弘志
銀河鉄道のきっぷあります星まつり 吉田 和恵
河童の子ひよひよと鳴く梅雨入りかな 松本 勇二
労いのどんがらどんがら草の蛇 桂  凜火
街路樹の空蝉ひとつ落ちる音 佐藤 仁美
秒針の描く孤の美(は)し星月夜 高橋美弥子
青田無限雨ふる日には雨のうた 竹本  仰
髪洗う浅学じくじく滴れて 増田 暁子
グラジオラスさしちがう純情 河田 清峰
空蝉や自分のことは語らない 河野 志保
梅雨深し八角堂を固く閉じ 榎本 祐子
見えていて見えない息子昼花火 三好つや子
青水無月人は四角い時計かな 高木 水志
あたりまえと見える風景四葩かな 漆原 義典
黒南風や母の矜持が崩れる日 藤田 乙女
毒蛇はゆっくり愉快に業を呑む 重松 敬子
指貫や梅雨は緩めにステッチす 中野 佑海
振り返ると母が消えていた 金魚 島田 章平
噴水は飛びたい水のこころです 新野 祐子
まだ星の匂いの残る草を引く 月野ぽぽな
また八月がくる耳打ちのごと波の如 若森 京子
雷を混ぜ炎のパスタ茹で上がる 伊藤  幸
万緑の中美山の里に小雨降り 田中 怜子
清書する手紙青葉の手ざわりの 三枝みずほ
蝶とんぼ鍬形虫(くわがた)いまも山住い 小宮 豊和
楸邨忌紅き実椿空を映す 高橋 晴子
真言の一つ覚えや花蘇鉄 亀山祐美子
端居という箱音だけが滅びる 中村 セミ
水引草いつしか小さき我が影よ 寺町志津子
野ねずみが虹の根齧りをるさうな 谷  孝江
送り仮名正しく正しく青ぶだう 田口  浩
とても躑躅な木造駅舎待ちぼうけ 大西 健司
兜太書の筆致雄勁夏の空 野澤 隆夫
水底の戦艦へ夕焼ける梵鐘 増田 天志
海霧の奥ただカミのみぞゐたりけり 野﨑 憲子

句会の窓

中野 佑海

特選句「賽の目の一の連続熱帯夜」眠れない暑い夏の夜。あっちへゴロゴロ。こっちへコ ロコロ。まるでサイコロの様に。だけど、お布団はすぐ暖まって、また一からやり直し。この熱帯夜の 葛藤をこんなにも鮮やかに12文字で表せるなんて、感動です、特選句「端居という箱音だけが滅びる」 夏の昼下がり。縁側で涼を求めゆったりとした時を感じている私という世界観。箱はわたしの感覚の届 く範囲。あの夏のジリジリした空気。蝉の姦しさ。そういった音が消え、まるで無音の箱の中。上下左 右がなくなって、私は自然の中に馴染んで溶けて。私という個別感までなくなる。夏の昼下がりのアン ニュイさも含みつつ。「少女すぐ輪になるサマードレスかな」輪になる少女たちとサマードレスの裾の 拡がりと賑やかな笑い声がまるでラナンキュラスの花の様に、明るさが幾重にも。「べたべたと七月に 寄りかかられる」7月の蒸し暑さ、汗臭さ、忙しさ。皆私に寄って来ないで!「蛍火の縺れあうとき闇 匂う」蛍がこんなにも妖艶とは気付きませんでした。「黒南風や母の矜持が崩れる日」どんなにキリッ とした母さんも梅雨は暑い。物は腐る。髪は膨れる。「蝶が去る空は地球の出入り口」蝶は地球外生 物だったんですね!こんな所にちゃんと出入口が!「北斎漫画の耳やら目やら梅雨きのこ」デフォルメ された北斎の頭の脳の中には梅雨きのこがびっしりと!「羽蟻湧く静かな家を沸かすごと」羽蟻って家 の土台の木がスカスカになる。それを沸くと表現。素晴らしい。「ママの手は放してしまうジキタリス」 大人になった途端、一人で何もかも出来てるつもり。以上。今月も皆でヤイノヤイノといいつつ、人が 書いた俳句に勝手に意味付け。こんなに面白い会はなかなかありません。

松本 勇二

特選句「見えていて見えない息子昼花火」子育て中の親御さんの心理描写が巧みです。 昼の花火には賛否があるでしょうが多としました。問題句「青バナナかなしい顔が港出る(新野祐子)」詩的で素晴 らしい映像性を持つ作品です。「港出る」を「出航す」とすればすっきりとした発語になるのではと思 います。

榎本 祐子

特選句「河童の子ひよひよと鳴く梅雨入りかな」ひよひよのオノマトペが効果的。鳴き声 だけではなく河童の子の柔らかさまで感じさせられ、皮膚感覚を刺激される。

増田 天志

特選句「端居という箱音だけが滅びる」にんげんという実在は、影にだけ、有ったのか。 端と箱は、非中心的存在。実有は、歴史に貫通するのかも。

小山やす子

特選句「髪洗う浅学じくじく滴れて」何となく好感が持てます。

柴田 清子

特選句「噴水は飛びたい水のこころです」人間と同じように、水にもこころのある・・・ と気付かされました。「春の水」「夏の水」「秋の水」「真冬の水」それぞれその時の水に心が。時は 真夏、真っ青な空に、真っ白な雲 ふれたいのは、謳歌したいのは、私達だけではない。噴水だって! 「まだ星の匂いの残る草を引く」特選です。朝の白いテーブルの上のクリスタルグラスのような俳句で すね。

藤川 宏樹

特選句「とても躑躅な木造駅舎待ちぼうけ」:「とても躑躅な」の物言いには引っかかるが新鮮で可能性を感じます。彩色鮮やかなアニメ動画、駅で待ち合わせる若い二人がまざまざと目に浮かびます。勉強になります。

高木 水志

特選句「まだ星の匂いの残る草を引く」星の匂いはきっといい匂いで、朝早く草むしりを していたら未知の匂いがして、それを作者は星の匂いと思ったのだろう。空間の広がりが感じられてい い。いろんな匂いがあって、ひとつひとつの香りが共存している。

若森 京子

特選句「古戦場のマネキン青い服を着て(大西健司)」無季の句だが、‶青い服‶の措辞で何となく夏を 思わせる、静止したマネキンが戦死者の様に思えて過去の戦場と現在の時帯が一致した錯覚をおぼえ青 い服がもの悲しく眼に入る不思議な一句。

稲葉 千尋

特選句「被爆土のささめく夜明け枇杷は実に」今なお去らぬ放射能がささめく夜明け。何 時までつづく。それでも枇杷は実に!問題句「かつて戦争立ちし廊下の赤目高(松本勇二)」わたしには「赤目高」 がわからない。ここがわかれば秀句。

寺町志津子

「青田無限雨ふる日には雨のうた」一読、心惹かれた。というか、妙な言い方か もしれないが、言い知れぬ安らぎ、言い知れぬ大らかさに包まれ、嬉しさがこみあげてきた。日本の静 かな田園風景を詠みながらも、無限に広がる青田は、人の人生かもしれぬ。折しも降り注ぐ雨。人生に おける雨の降る日も、青田が受け入れているように、穏やかに、むしろ前向きにルンルンと受け入れれ ばいいのだ、と思わせてくれる句。拝読して嬉しくなった所以である。

豊原 清明

問題句「鉤裂きのズボンビーカーに赤い薔薇(大西健司)」一気に書いた印象。生活が染み付いている。作者のズボンの親しみの艶やかさ。特選句「被爆土のささめく夜明け枇杷は実に」:「ささめく」が良かった。「実に」に納得。

鈴木 幸江

特選句「温かい尿我に親しい羽抜鶏」兜太の好きな句に荒木田守武の「佐保姫の春立ちながら尿をして」(犬筑波集)がある。氏は自称スカトロジー(糞尿愛好家)と言って憚らない。私にはまだまだ感受力が足らず、その良さが十分わからず悔しい思いをしてきた。そこにこの特選句の登場、挑戦心に火が付いた。この作品からは、妙に生々しくも切ない開放感を感受できたのだ。温かい尿と羽抜鶏の憐れに解放感を愉しめたことが嬉しい。問題句「端居という箱音だけが滅びる」今回の句会では、解釈は創作であるという兜太氏の言葉にあらためて出会った。私は、“箱”“端居”“滅びる”という言葉に引っ掛かり、そこから連想し独断的な解釈をした。“箱”は常套的な“端居”という季語の持つ世界を伝えようとしているのだと思った。“音だけが滅びる”を“端居”を絶滅季語と捉えていて、その行為そのものは別の言葉で現代社会の中で生まれ変わることを示唆しているのだと解釈したが、自信がないので問題句。そこに中野さんの素敵な解釈を聞き、俳句は抒情詩であることを思いださせていただいた。 正しく覚えているか自信はないが、“端居”という行為により生まれてくる音のない世界を深く感受しているのだと感心した。

河野 志保

特選句「万緑や橋の長さの旅心」 一読して心地よさを感じた句。展けた景色と作者の旅情がストレートに伝わった。「橋の長さの旅心」がとてもリズミカルだと思う。

三好つや子

特選句「赤蟻の触覚立ち上がる付箋(高木水志」付箋をつける箇所は、言葉だったり、数字だったり、人さまざま。こうした付箋をつける行為を、蟻が触覚を動かす感覚として捉えている作品に、衝撃を覚えました。面白いです。特選句「青水無月人は四角い時計かな」丸い時計はどんな場所にもなじみやすいけれど、四角い時計はコーディネイトがむずかしい。人間もまた然りで、角張ったまま老いてしまい、周囲から理解されにくい自らを嘆いてそうな、作者の心に共鳴。入選句「いろいろに家を叩いて六月は」 昨今の雨の降り方にうんざりしながら、家のあちこちを補強し、修繕している作者の様子が目に浮かびます。住み慣れた家への愛着も感じられ、惹かれました。

野澤 隆夫

特選句「何言ふか朱夏の生水飲む咽喉(豊原清明)」何があったのか?「朱夏の生水」を勢いよく「咽 喉」に流し込んでる作者。怒りに迫力があり、作者の様子が浮かびます。特選句「蝶とんぼ鍬形虫いま も山住い」喧騒と多忙な時代に山住住まいできる作者。そしてそこに幸せと喜びを見出してる作者。問 題句「ケリ探し暮れるる夢殿古日記(桂 凜火)」ケリは「鳧」かと。小生も何年か前に三豊干拓地に「鳧」を探鳥 したことがある。「田鳧(たげり)」はみることあるのだが…。作者は斑鳩の里で探鳥したのか?古い 日記にこのことをしたためたのか?ちょっと謎の感じがして、問題句。

島田 章平

特選句「水底の戦艦へ夕焼ける梵鐘」戦争中、人も物も全て徴用され、梵鐘もまた溶かさ れて兵器と化した。水底に沈む戦艦もまた梵鐘の化身。夕焼ける梵鐘にあの戦争の虚しさが響く。

吉田 和恵

特選句「空蝉や自分のことは語らない」腹でなく背を割る空蝉。腹を割って語っても、そ れが本当の事とは限らない。本当は、自分を語りたいと思う空蝉なのです。特選句「見えていて見えな い息子昼花火」マグマを抱え何も語らぬ息子。何を考えているのか、ピリピリした感覚。昼花火は言い 得て妙と思います。 銀次さまへ・・拙句「いもうとの水玉跳ねてワンピース」を取り上げて下さりありがとうございまし た。水玉模様のワンピースを着た妹が飛び跳ねている様を思い描いて書きました。がまんばかりしている姉の奔放な妹へのジェラシー。銀次さんの洞察には感じ入りました。長じて妹は姉へのコンプレックスに苛まれたと言います。そしてこともあろうにその妹に娘がそっくりなのです。 顔姿所作まで叔母似金魚玉(和恵)  ではまた、さようなら。

野田 信章

特選句「楸邨忌紅き実椿空を映す」の句は椿の実の陶質感を通して盛夏の大気の漲りの把 握がある。そこに自と楸邨その人なりの存在感が重なる。七月三日の楸邨忌を迎えての作者の素朴な気 息の込もった句である。

伊藤  幸

特選句「てのひらは光の器夏の海(三枝みずほ)」てのひらと海の対比、しかも果てしなく青く広がる夏の 海。光の器の措辞にもポジティブな姿勢が窺えて意気込みを感じる。

竹本  仰

特選句「青簾箱あける彼の赤い月(中村セミ)」彼の赤い月、に不思議な魅力がありました。それは同時 に、青簾 箱に或る深みを与えていて、何か見てはいけないものに立ち向かう、純粋さと切迫感があっ て、それは、彼が少年である(もしくは少年であった)ことに対決しているように見えます。少年の好奇心 の裏おもてが、描けているのでは、と思います。特選句「空蝉や自分のことは語らない」空蝉という季 語の厄介さは、いわく語りにくいというところではないか、と思う。そういう語りにくい、つまり語っ てくれないという本質をずばっと示された感じがあり、大いに納得しました。わたしを見たとき、あな たは自身ばかりを大いに語るけれども、そんなあなたが空なのだ、と、これって般若心経?という、空 蝉とのクライマックスが活写されているような、すぐれた句だと思いました。特選句「振り返ると母が 消えていた 金魚」母を喪失した感じがとてもリアルに出ている句だと感心しました。半ば静物、半ば 生物のような、調度品にも似た金魚の目と口が、母の存在感と喪失感を瞬時にスパークさせてしまった のだろうか、喪失感ってこんなのだという、日常の感じの生なましさでしょうか。特選句「手を離され た 母よ 夏空よ(島田章平)」何となく出棺のシーンを思い出させますね。みんな、棺の蓋がしまる前に、ありが とうとか、いいところに行ってねとか、口々に言いますが、実際にはついていけない孤独を痛切に語っ いるのでしょうね。それはまた、愛欲というものの本質も感じさせます。しかし、別の見方としては、 ここでは母は死んでいないのかも知れない、しかし人間の社会との絆をいま母は失くしてしまい、どこ か果てしないところへといくのかも知れません。そういう、後悔と喪失感のせめぎあう、夏空のとらえ 方に、何か純粋な境地を見たように思いました。問題句「師の頭脳いまもいきいき夏の山(若森京子)」なぜ、頭脳、 としたのだろうか?ここは、煩悩、とすべきではないのだろうか?少なくとも小生は、そちらの方に師 の教えの説得力を感じるのだが、どうだろう?以上です。 本格的な、というより、いきなりの猛暑が来ました。みなさん、お元気ですか。かくいう小生は、 真っ先にへばる方の先鋒です。あ~、いやだなと思いつつ今朝も目覚めました。「夏の猫ごぼろごぼろと鳴き歩く」兜太師のそんな句の団扇で、一あおぎ、そして、手を合わせ、がんばります。いつもありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

大西 健司

特選句「磯野家の低き卓袱台豆の飯」世の中は令和となり、卓袱台を知らない世代が増えたことだろう。「磯野家の謎」なる本が話題になったこともあるが、こんなさりげないサザエさん俳句もいいものだ。低い卓袱台の豆ご飯が味わい深い。

新野 祐子

特選句「兜太書の筆致雄勁夏の空」四年前、戦争法案に反対し各地で兜太書の「アベ政治 を許さない」が掲げられました。自民党の強行採決で通ってしまいましたが、今回の参院選、山形は野 党統一候補が当選しました。草の根の勝利です。私たちの熱い思い、あの夏の空と重なります。入選句 「べたべたと七月に寄りかかられる」「河童の子ひよひよと鳴く梅雨入りかな」「髪洗う浅学じくじく 滴れて」理屈っぽくなりたくない夏は、こんなオノマトペ、面白いと思いました。もちろん内容も。

中村 セミ

特選句「青水無月人は四角い時計かな」人は時計が出来てからはその秒針に刺されるよう に従属され四角にも三角にもなっているようにも思う。

田中 怜子

特選句「炎昼をゆく人々の草書めく」暑くて熱気のゆらめきに草書のごとくゆらゆらして いる人物のまいった姿が映像として見えます。問題句「青簾箱あける彼の赤い月」「合歓の花暗渠に帰 る子供たち(田口 浩)」は、意味がよくわからなかった。

谷  孝江

特選句「また八月がくる耳打ちのごと波の如」八月という言葉の意味深さを分かっていらっ しゃる人たちが年々少なくなっている事、淋しくて哀しいです。八月がまた巡って参りました。常の日 とは何の変りも無い日が過ぎてゆくのでしょうけれど或る年齢の方々にとっては決して忘れてはならな い八月なのです。それなのに「耳打ちのごと波の如」と密やかに自分の中だけで思い募らせてゆかなけ ればいけないのか、と辛くなります。若い者たちの前では戦前、戦中、戦後の話は禁句です。誰も聞い てくれません。ひとり「語り部」をやっております。石川県に住んでおりましたから、空襲も、食糧難 にも、ぎりぎり逃れては来ましたが八月には私なりの思いがいっぱい詰まった特別な月なのです。

高橋美弥子

特選句「真言の一つ覚えや花蘇鉄」どっかりとたくましい蘇鉄。強風に揺られる蘇鉄の 姿はそんぞょそこらのたくましさとは違います。力強いです。この句からは、歩き遍路さんを思いまし た。きっと歩きながら雄々しい蘇鉄を見たのでしょう。もしかしたら雄花かもしれない……すっと伸び たその姿はどこか灯明にも似ている。一心に真言、たとえ一つ覚えであっても唱える人の姿が立ち上が ってくるようです。問題句「兜太遺せし団扇に夏の猫が鳴く)(竹本 仰)」作者には宝物ののような団扇なのでしょ う。夏の猫鳴けりと強く着地してみてはいかがかなと思いました。「に」「が」など助詞の使い方も疑 問が。

月野ぽぽな

特選句「清書する手紙青葉の手触りの」心を伝えるために念入りに下書きをした後、さ あ清書。その便箋が青葉の感触だという。宛てた相手への清い気持ちが見えてくる。

桂  凜火

特選句「故郷は水音ばかり夏の月(小山やす子)」何もないだれもいない、けれど懐かしい故郷、「水音ばかり」の措辞ですべてが伝わるようです。夏の月の中に立つ作者の姿がみえるようですね。哀しいけれど素敵でした。

田口  浩

特選句「この場所で死ぬひとたちに通り雨(男波弘志)」<この場所>とはどんなところ。<死ぬひと たち>とはどんな人。想像しても何も見えてこない。しかし<通り雨>と置かれると浮きあがって来るも のがある。場所と死ぬ人たちに、祈りのような清浄感さえ立ちあがる。特選句「とても躑躅な木造駅舎 待ちぼうけ」私のような老年になると、このような駅を心の中に、いくつかは持っているものである。 その上で<とても躑躅な>と言った発想は詩的である。童心。純。といっていい。ただし、<待ちぼう け>は少々安易ではなかったか?

増田 暁子

特選句「とても躑躅な木造駅舎待ちぼうけ」上5中7で景がパッと広がる 素晴らしい。特選句「万緑や橋の長さの旅心」旅心を橋の長さで表現したのが斬新です。並選句「温かい尿我に親しい羽抜鳥」師の姿なく羽抜鳥の心境に。「青田無限雨ふる日には雨の歌」心の景色が胸に響きます。問題句「青水無月人は四角い時計かな」面白いですが四角は田圃の形でしょうか?まだまだ選びたい句があり、皆様素晴らしいですね。本当に勉強になりました。

三枝みずほ

特選句「夏蝶を放ちつづけている胸か」夏蝶は力強く美しい。夏蝶が去りだんだんと軽 くなっていく胸。最後の夏蝶を手放す時、何を思うのか。そんな境地に辿り着きたいものだ。特選句「賽 の目の一の連続熱帯夜」ジャンケンで勝ち続けたり、ババ抜きでいつもババを引いたり、何かの連続は 一種の恐怖だ。一が出続ける偶然性がだんだんと怖くなる。熱帯夜がこの世界観へと導いていく点が興 味深かった。

佐藤 仁美

特選句「梅雨深し八角堂を固く閉じ」人の気配もしない、深い雨の境内の様子が目に浮かびました。昼間でも孤独を感じます。特選句「まだ星の匂いの残る草を引く」暑さを避けて、明け方に草取りをしているのでしょう。現実の草取りの作業と、「星の匂いの残る…」と言う詩的な表現の取り合わせに惹かれました。

重松 敬子

特選句「少女すぐ輪になるサマードレスかな」成長期の微妙な少女像。直ぐ輪になるが、個性が目覚める前のなんとなく群れていたい少女と受け取りました。そうすると、サマードレスの色や柄まで想像出来ますそうで面白い。

男波 弘志

特選句「清書する手紙青葉のてざわりの」作者の佇まい、その清廉さが鮮やかに見えている。

野口思づゑ

特選句「銀河鉄道のきっぷあります星まつり」いいですねぇ。その切符ください、買います、と手をあげたくなりました。特選句「まだ星の匂いの残る草を引く」早朝から草むしりなのでしょうか。ほとんどの人にとって草むしりなど大好きな仕事では無いと思うのですが、こんな気持ちで雑草を取る作者の感性に惹かれます。「べたべたと七月に寄りかかられる」大変共鳴いたしました。「見えていて見えない息子昼花火」私には息子はいませんが、なるほどそんな感じなのか、と想像できました。

藤田 乙女

特選句「てのひらは光の器夏の海」夏の海の中に、広げた手のひらを光の器と表現し、素敵だと思いました。どこまでも青い海の中に目映い夏の光を享受し、一体化している姿が目に浮かびます。若さと生気と明るさを感じ、元気をもらえる俳句です。特選句「見えていてみえない息子昼花火」 わかっているようでわからない息子、やっぱり血のつながりがあると感じる時もあればまるで他人のように思えることもある。親子といえども人を理解するのは難しい。昼花火との取り合わせがとてもいいと思いました。共感できる句でした。

河田 清峰

特選句「真言の一つ覚えや花蘇鉄」蘇鉄の雄花のどっしりと天を突く姿をみていると「一 つ覚え」がよくわかる!真言の語彙で咲く場所も有り様もみえてくる好きな句である!

亀山祐美子

特選句『まだ星の匂いの残る草を引く』何も難しい言葉がない。朝、坦々と草を抜く人が見える。「まだ星の匂いの残る草」という時間設定と状況設定が秀逸。夜と朝との間。土が夜露に濡れ草が抜き易い事実と「星の匂いが残る草」というメルヘン・虚構との対比してる。「草を抜く」という実情・動作。日常の揺るぎなさ。「草を抜く」日常の中の修練。一途になれる貴重な時間。好きな一途。

銀   次

今月の誤読●「ふり向けば鬼女になるかも青葉闇」。その女はいつも穏やかだった。だれに接するときも柔和なほほえみを浮かべ、立ち居ふるまいはつつましく、言葉を荒げることなどついぞなかった。美しく、いっそ可憐とさえ思える女だった。家庭でも同じだった。良妻賢母という言葉があるが、彼女ほどそれにふさわしい女はいなかった。よき親に育てられ、つりあいの取れた男性と見合い結婚をし、一男を授かり、暖かい家庭を守った。彼女が三十歳の半ばを過ぎたころだった。ある日ふと、まさしくふいに、女は自分に問いかけた。「これで満足なのか?」と。そして「わたしは幸せなのか?」と。その問いかけに答は見つからなかった。何度自問しても、こころの裡からの答はなかった。なに不自由のない暮らし、波ひとつ立たない人生。それが幸福を保証するものなのか、彼女のこころにふいに疑念がわいた。わたしはほんとうに生きてるのだろうか? その日、女は夕飯の天麩羅を揚げていた。少しボッとしていたのだろう。鍋にコンロの火が移り、弾けるように炎が舞いあがった。女は慌てるでもなく、消そうともせず、その炎にじっと見入った。火炎は換気扇にまで届き、周囲を焦がした。女の髪はチリチリと焼け、顔も一気に火傷を負った。それでも女は動かなかった。夫が飛んできて消さなければ火事になっていたかもしれない。夫は女を叱りつけた。「なにをしてるんだ!」。女はゆっくりとふり返った、そこには火ぶくれした顔があった……。そしてニヤと笑った。

高橋 晴子

特選句「炎昼をゆく人々の草書めく(月野ぽぽな)」日頃、書に親しんでいる人だろう。炎昼の人の姿態を草書めくと把握して面白い。問題句「沖縄の孕む紅色八月の色(増田暁子」すぐ紅型の紅がうかんだが、八月の色とくどくどいわないで、びしっと決めたら、沖縄の歴史も、風土も背後から浮きでてくる。八月の色では説明にしかすぎない。

漆原 義典

特選句「遠くより読経響くや蝉の穴(増田天志)」蝉の声を、「読経響くや」、と表現する詠み人の心境に、古き良き昭和の時代をたいへん懐かしく思い出しました。素晴らしい句をありがとうございました。

野﨑 憲子

問題句「小豆炊く母吾へ父を混ぜて血を」上半分は「A」音、下半分は「I」音で調べを整えている。何か祝い事があるのか小豆を炊いている母。小豆は血にも通じる。その母を見ている作者の思いが伝わってくる。言葉を構築して見事に一句にしている。少し難解なので敢えて問題句にしたが、もうひとつの特選句でもある。特選句「雷を混ぜ炎のパスタ茹で上がる」こんな猛烈なパスタを食べたら夏バテも一気に回復するだろう。ムム・・拙句以外百花繚乱の感。「雷のパスタ」いただきます!

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

夏場所
夏場所や月面着陸の一歩
島田 章平
落ちてくる力士夏場所砂被り
亀山祐美子
夏場所や阿修羅のごとく炎鵬舞う
鈴木 幸江
夏場所やいのちの泉湧くところ
野﨑 憲子
七月
七月の朝焼け色の色鉛筆
藤川 宏樹
七月の恋立ち上る登山道
中野 佑海
七月や散歩の犬がたたら踏む
野澤 隆夫
雲海の下に七月地球かな
野﨑 憲子
七月の風の真中に龍の爪
亀山祐美子
四月馬鹿七月尽に解ける謎
鈴木 幸江
桐下駄
桐下駄を揃えて入道雲に乗る
野﨑 憲子
思い出と歩く桐下駄揚花火
中野 佑海
桐下駄や響き渇きて夏の空
藤川 宏樹
牡丹灯籠カラコロと円朝の桐の下駄
銀   次
かまきり生れ桐下駄に穴三つ
島田 章平
下駄は桐その角に浴衣の君が
柴田 清子
七月の風はピリカよ馬笑ふ
野﨑 憲子
稚児神馬入道雲が追ひかける
亀山祐美子
馬越(まごえ)過ぎ南郷庵(みなんごあん)へ島遍路
野澤 隆夫
夏空や馬のタテガミ欲しくなり
河田 清峰
黒き馬向日葵畑に消えゆきぬ
銀   次
草原の星美しや冷し馬
島田 章平
雲海につながれてゐる神の馬
柴田 清子
箱眼鏡見て繰る海女の命綱
島田 章平
古女房に小箱開かば若牛蒡
藤川 宏樹
七月の箱庭あをのあふれをり
亀山祐美子
草むしり我が箱庭のよみがへる
野澤 隆夫
秘密の箱あとの箱には死んでから
鈴木 幸江
耳元へ新たな神話夏の箱
野﨑 憲子
氷菓子もっと甘えてみたかった
中野 佑海
てのひらから河童になりぬかき氷
野﨑 憲子 
青空へ五体投げ出す氷菓かな
亀山祐美子
舌の色くちびるまでも氷菓食ぶ
河田 清峰
氷屋さんいつも見ていた女の子
鈴木 幸江
氷屋さんお盆特別セールです
野﨑 憲子
人生の無口一刻かき氷
島田 章平

【通信欄】&【句会メモ】

7月句会の参加者は11名でした。事前投句の合評は、高点句と共に、句会場に来ている方々の作品を中心に行っています。私は、司会者の特権で作者名がわかっていますので、合評している句の作者の方に、時折感想を求めます。作品の生まれる過程を知り、納得したり、驚いたり、することもしばしばです。句会って、面白いですね!

8月後半から、10月の「海原」全国大会in高松&小豆島の準備を本格的に始めます。準備も、存分に楽しんで行っていきたいと願っています。皆様のご参加を楽しみにいたしております。

冒頭の写真は、北海道弟子屈(てしかが)町にある第四紀火山アトサヌプリ(通称:硫黄山)の噴火口のひとつです。標高は512mとそんなに高くないのですが、山肌のあちこちから噴煙があがっていて、近くまで行くことができます。

2019年6月29日 (土)

第96回「海程香川」句会(2019.06.15)

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事前投句参加者の一句

            
揺蕩(たゆと)うて輪廻の果ての夕蛍  佐藤 仁美
愛の間はすこしすいかの花に風 竹本  仰
牛蛙幸不幸を言わぬ面 鈴木 幸江
記憶する力のすべて虹が立つ 河野 志保
夕焼ける土蔵の窓の高きかな 増田 天志
醍醐味の師よりぽとり蛍かな 若森 京子
牛蛙おとなになったねと母は 河田 清峰
万葉の恋はおおらかつばくらめ 菅原 春み
昼星を吸うやヒマラヤの青い芥子 榎本 祐子
少しだけ余った気持ちさみだるる 高木 水志
青葉炸裂親子の鷹の空を支へ 小宮 豊和
はつなつの森へ発語のふえゆく子 三枝みずほ
みんないるのに誰もいなくて蛍 柴田 清子
実梅色づくこの道未知にしてなつかし 野田 信章
イザナミ湯上り樹々に夏の月を隠し 月野ぽぽな
<天地悠々を見て>目をつむる師すでに花野を戯れり 田中 怜子
梅雨の月回送のバスやり過ごし 高橋美弥子
手の中の令和元年ほら蛍 田口  浩
しどまうですつぽりぬれしあまのはか 島田 章平
初夏の空舞台の隅に座り込む 中村 セミ
十薬や知らん顔てふやさしさも 寺町志津子
蛍火や黒画仙紙に朱を入れる 漆原 義典
緑さす黒牛の肌大草原 野口思づゑ
観音というジェンダーフリー夏桜 三好つや子
探さないで蛍袋の秘密基地 藤田 乙女
山椒魚男の坂を転がって 豊原 清明
をとこってをんなって多分あじさゐ 谷  孝江
亡き父の麦稈帽で立つ畦よ 稲葉 千尋
いもうとの水玉跳ねてワンピース 吉田 和恵
青田から精霊たちの風が来る 松本 勇二
走り切った場所から放つ白い鳩 桂  凜火
香川部隊押し寄せ淡路にドカンと夏 伊藤  幸
老いてなお五感の響き新樹光 小山やす子
眼を二つくれた海から螺旋貝 男波 弘志
雷雨来て満濃池は竜の相 高橋 晴子
胸中に王国をもつ蟻地獄 重松 敬子
竜宮の入口あたり青葉闇 亀山祐美子
紫陽花や水を吸いつつ幻影に 銀   次
新緑へ風の形をとるクルマ 藤川 宏樹
故郷に抱かれに帰る梔子に蜂 中野 佑海
草餅とぐずる赤子を畦に置く 大西 健司
初夏の土手宿敵犬が向かふから  野澤 隆夫
麦秋やサリンジャー読む自由席 新野 祐子
びつしりと魚の眼や梅雨の月 野﨑 憲子

「海程香川」淡路島吟行作品集     

淡路島.jpg
2019年6月1日~2日
母上様わたし海鵜になりました 
田口  浩
ひとひらの御神酒飲みほす青葉闇
月野ぽぽな
夏の日のひかり返して妲己(だっき)の歯
榎本 祐子
浄瑠璃のかしらを抜きて更衣
河田 清峰
玉葱ごろん私もごろん宇宙
島田 章平
走り梅雨浄瑠璃本の墨痕裡
高橋 晴子
句友は僧はつ夏の説法輝きて
伊藤  幸
かきまわしころりと生まれし大和かな
銀   次
うぐいすの声ペン先に或る楽章
竹本  仰
山査子や師の目は赤子水のごと
田中 怜子
丸文字の社の絵馬や河鹿鳴く
藤田 乙女
ピッと鳥糞息衝く五月再会す 
野田 信章
万緑を濡らし雲沸く淡路島
白石 修章
河骨をただ浮かべる午後の夏
中野 佑海
伊弉諾にそっとざれごと夜の蟇
樽谷 寛子
今生は倭の迷子時鳥
亀山祐美子
惜春の耳底くすぐる遠電車
増田 暁子
ほととぎす身は透明に神の島
増田 天志
大きなお尻ふはりおのころ島薄暑
野﨑 憲子

句会の窓

竹本  仰

「先生と呼ぶたびにこえる春の坂」「短夜吟行先生も母もいる」いきなりですが、拙句ふた つ。初めのは、吟行の下見の時、車の中で兜太先生のことを語る野﨑さんを書いたもので、昨日、ふと 思い出したので、四か月遅れですが、どうぞ。次のは、吟行一日目の夜、格闘するすがた、三次会に投 句したものを手直ししました。すべて終わり、吟行のお願いをしたお薬師堂に、お礼に参り、昨夜、線 香をあげようとしますと、いつもの六本ついてくる指先に、七本ついてきて、あれ、誰の?と思ったと き、そうだ、金子先生の分だと、先生へのお礼の一本もあげさせていただきました。そうですね、この 縁のおおもとは、金子先生です、金子先生がいなければ、この吟行もなかったわけで。お寺へのお供え と御礼、そして、映画のパンフレット、ありがとうございました。妻へは、みなさんのお褒めの言葉を そのまま伝えますと、たいへん喜んだ満面をしておりました。安泰、安泰……と、ひそかにつぶやきた い位の、顔でした。吟行、まだまだ、私の中では終わっておりません。日々吟行。野﨑さん、中野さん、 みなさん、そして、金子先生、ありがとうございました。

増田 天志

特選句「走り切った場所から放つ白い鳩」ピンクピクルスの一人の道を涙ぐみ歌う。俺は、走り切っているだろうか。最期に、天上へ旅立てるだろうか。

高橋美弥子

特選句「日々未知の不安か柿の花零れ(谷 孝江)」作者の心証風景と道端に零れてやや黒ずんだ 柿の花が重なり、そしてまたわたくしの中にあるぼんやりとした不安、二転三転する決心。それらが相 まってとても共鳴いたしました。問題句「梅雨の人心に黴は生はせざる(小宮豊和)一読してどこで切るのかなと思いました。 つゆのじんしんに∕かびはおはせざる でよいのでしょうか。やはり、梅雨と黴では近いです。黴を強調したければ季語を別の ものにして、お気持ちを表現なさってはいかがかと思いました。

藤川 宏樹

特選句「をとこってをんなって多分あじさゐ」男女の性差ほど明らかなものはないと思われるが、昨今そうは言い切れない。女子として強すぎる陸上選手は、服薬により所定値に下げないと競技に参加させないとまで言われる。「をとこ・をんな・あじさゐ」の旧かな使いに色を感じ、「多分」の一語は男女の曖昧な境を物語っている。

豊原 清明

特選句「目をつむる師すでに花野を戯れり」映画を見ての一句。映画はまだ未見だが、ぜひ見たい。花野の姿が目に浮かぶ。問題句「青葉炸裂親子の鷹の空を支へ」元気な一句。鷹がパワフル。

若森 京子

特選句「蛍火や黒画仙紙に朱を入れる」蛍火を中七下五の様に比喩したのに新しさを感じた。特選句「胸中に王国をもつ蟻地獄」肉体と蟻地獄を合体した様な感覚。作者の複雑な精神構造を推測する事が出来る。蟻地獄はウスバカゲロウの幼虫ですべり落ちる蟻などを捕食しているが、蟻の生態の王国と地獄からくるイメージが不思議なイメージを拡げている。

稲葉 千尋

特選句「平成の空気の缶詰花は葉に(三好つや子)」空気の缶詰あれば楽しいね。発想の良さ。

小山やす子

特選句「みんないるのに誰もいなくて蛍」みんないるのに孤独を感じる曖昧模糊とした夜に蛍の存在感が美しい。

島田 章平

特選句「はつなつの森へ発語のふえゆく子」。「は」行音のリフレインが効果的。リズミカルな言葉の繰り返しの中に、子供の成長が伸びやかに見える佳句。「問題句」いずれも、佳句です。残念ながら、問題点。「短日や私と鏡だけの部屋(河野志保)」。季語に違和感がある。「短日(たんじつ)」は冬の季語。夏の「短夜」とも対比する。当季雑詠の中で、あえて冬の季語を選ばれた本意が分からない。「短日」と「短夜」では、句の本意が逆転する。「をとこってをんなって多分あじさゐ」。佳句です。ただ、残念なのは「あじさゐ」の表記。すべて旧仮名づかいにしながら、なぜ「あじさゐ」と書かれたのか?旧仮名では「あぢさゐ」です。また、「っ」の小文字も「つ」にされた方が・・・。旧仮名を使われる時は、細心の注意が必要です。いずれも、素晴らしい句だけに、残念です。

鈴木 幸江

特選句評「記憶する力のすべて虹が立つ」私はこの句に生きる力となるような解釈をしたく特選にさせていただいた。それが、鑑賞として良いのか悪いのかはよくわからないが、生き辛さを感じている人々には、一つの生きる技を伝授してくれるのではないかと思っている。人は記憶をするときにどこかで選択をしている。物事には気になること気にならないことがある。背景に本人の必要性(本能と理性)が働いている。その記憶するという行為にも作者はエネルギーがいる。“虹が立つ”の措辞からなんとか新しい世界が開けることを願い、イメージして記憶という行為を行っている姿が思い浮かばれ痛く共感した。問題句評「ほうたるは爪をふやしてくれにけり(男波弘志)」この句は句会で引っ掛かるという人と引っ掛からないという人のいた一句だ。私は大いに引っ掛かってしまった。まず、爪をどう解釈するか。身体の一部か。何かを引っ掛ける装置か。身体の一部とすれば『変身』(カフカ)の世界が連想され蛍の不可知の魔力により爪が生えてきた事態が想像される。引っ掛ける装置とすれば、ちょっと観念的過ぎるが蛍の持つ異世界を感受している作者の告白とも読める。どちらにしても非日常を日常の中に感受している作者に惹かれた。

松本 勇二

特選句「はつなつの森へ発語のふえゆく子」森への「へ」に意外性があり新鮮でした。ひらがな表記もやわらかで巧みです。問題句「草餅とぐずる赤子を畔に置く」郷愁感溢れる作品で惹かれます。草餅と、を草餅や、にすれば風景に幅が出るように思います。

田中 怜子

特選句「亡き父の麦稈帽で立つ畦よ」米作り、どっこい父を継いでやっています。大変だけど誇りもあって、地に足ついているのが伝わります。貴重です。頑張ってと応援したい。

野澤 隆夫

特選句「面構え断固反核蟇(稲葉千尋)」:「つらがまえだんこはんかくがまがえる」と読みました。反核運動の人に蝦蟇ガエルは失礼だろうと思うのですが、でも妙に蝦蟇ガエルが似合うのはどうしてだろう?特選句「玉葱ころころおのころ島に夏が来た(野田信章)」淡路島に夏のやってきたことを喜んでる一句。玉葱ころころおのころ島に…と非常にリズミカルで楽しいです。問題句「MeToo #KuToo 薔薇は薔薇のまま咲くわ」{ミートゥ=私も、靴→苦痛=日本社会の女性の生きにくさ}とネットで調べ、なんとなくわかりました。でも私という薔薇は、私なりに生きますよということでしょうか。超俳句というべきか…?。「蝙蝠安と同じアパート蟾蜍」:「こうもりやす」と「ひきがえる」が一緒のアパートに住んでるという、ブラックユーモアみたいで面白いです。

田口  浩

特選句「をとこってをんなって多分あじさゐ」:「男ってあじさゐなの?」「そうは思わない」「女ってあじさゐなの?」「そう言えないこともないけど、どうだろう」「をとこってをんなってあじさゐなの?」「多分、いや、あじさゐだね。雨が降ったりすると、もう絶対に、あじさゐだよ。」男と女は謎。多分もあじさゐも 謎。

佐藤 仁美

特選句「はつなつの森へ発語のふえゆく子」だんだん言葉を覚える愛しき子と、「はつなつの森へ」の取り合わせが、さわやかで、輝いてみえました。特選句「竜宮の入り口あたり青葉闇」青葉闇を「竜宮の入口」と、とらえたロマンに惹かれました。問題句「美しきみよきみが見ている花菖蒲(銀次」ぱっと読んだ時、素敵な句だと感じたのですが、よくよく読むとわからなくなりました。①「美し、きみよ、きみが見ている…」か②「美しき、みよ、きみが見ている…」私は①の読み方が好きですが、ひらがなにしているということは、読み手に色々な読み方をしてもらいたいという、意図があるのでしょうか?

竹本  仰

特選句「オムライス並べ燕のための空(松本勇二)」オムライスとツバメがどこかでつながっている感じ、このつながった感が、私がこの世界に今生きている幸福感を見事にあらわしていると思います。生きている実感とは、そんなものでしょうね。誰かが私を支えてくれていると。そして、そんなつながっている感に実にぴったりなのがツバメのように思えます。特選句「はつなつの森へ発語のふえゆく子」    いきなり違う話題から入りますが、「亀鳴く」という季語について、最近、本当に亀が鳴くのを発見し、しかも録音までできたそうです。ということは、あの亀さんもれっきとした社会生活を営むそんな社会をもっていたということです。ある歳時記には、亀が鳴くとは「ばかげた空想」と言い切ってしまっていたようですが、その空想という文言は否定されたのです。で、昔の方は、その鳴くのは、オスがメスを求めるからだとしたのですが、そうではなく、親と子がお互いに呼び交わすということのようです。その声はきしるような、ものが擦ったか、触ったかのようらしいです。さて、この句は、そんな親子の亀の表情を連想させます。そして、ことばが成り立つ何か純粋な出会いが、そこに感じられ、ことばがまだ精であるような、そんな味わいがあるようにも。子を描いているんでしょうが、いやいや、親の表情もよく描けていますよ。特選句「みんないるのに誰もいなくて蛍」ある一匹のホタルのゆくえ、気になります。そのホタルは、何を感じているんだろう?そういうホタルの実存主義のようなものを感じ、すこし切なくなる句です。ホタルのことを考えると、ホタルを包む闇の深さ、発光せねばやりきれない宿命、昔、クレープでさだまさしが唄った「精霊流し」を思い出します。生きるということの味というのか、そんな余韻まで深めていける句だと思いました。特選句「うたうたふ旋律は風夏木立(三枝みずほ)」:「旋律は風」、ここがミソですね。言おうとして言い切れないものがこんな風に出てくると、思わずごちそうさまでしたと言いたくなります。夏木立と風の関係、それはわが思春期に於ける一つのナゾでありましたが、ありがとうございます。こういうことを詠めるこだわりを尊敬します。小生はこのナゾについて、宮沢賢治さんの詩の一節で同じように感心した記憶があります。〈風よたのしいおまへのことばを/もっとはっきり/この人たちにきこえるやうに云ってくれ……〉(「曠原淑女」)。こちらは、風になったひとの風でしょうか。 先日の淡路島吟行会、とても楽しい時間、ありがとうございました。私自身が淡路島を再発見できた旅でもありました。それにわが長泉寺のことをたくさん詠んでいただき、お寺とも向き合ったいい経験でした。多くの糧をいただきました。野﨑さん、中野さん、ありがとうございました。 最後に、バス隣席の島田さんに一句。〈俳話清しく途切れすずしき昼寝かな〉お粗末でした。香川句会のみなさま、今後ともよろしくお願いいたします。

野田 信章

特選句「手の中の令和元年ほら蛍」は、手の中に息衝く蛍の命そのものとして令和元年が甘受されている。改元に当っての一時的なフィーバーはあってもその底には冷静さというか、成熟した社会の受け止め方が基調としてある。令和元年という語感どのものが蛍の光体と響き合い。その旅立ちに寄せる作者の眼差しが美しい。

柴田 清子

特選句「走り切った場所から放つ白い鳩」一読、季語がないのは、分かっていたけど。俳句として約束事も、俳句の枠をとっぱらって、自由に、詠い上げているところが気に入りました。時々、俳句である事に拘って、意識して作句するのがいやになる。

中野 佑海

特選句「愛の間はすこしすいかの花に風」愛してるって思って充実している濃密な時はあっという間に過ぎ、大ぶりな西瓜の花のごと、あっちへフラフラ。こっちでギクシャク。とっても上手な感覚だと思います。特選句「醍醐味の師よりぽとり蛍かな」正しく金子先生は味わい深い面白味を持たれた方だったと思います。先生だから私たちは皆こんなに自由に楽しく俳句を作らせて頂いていると、感謝しています。そして、金子先生から頂いた俳句感覚は蛍のごとく一人一人の腹のうちに住み着いて居るのかもしれません。兜蛍やーい、こっちの腹は住み易いよ!並選句「平成の空気の缶詰花は葉に」花は葉にの季語がピッタリ。「イザナミ湯上り樹々に夏の月を隠し」夏の月を隠しがこれ程エロスを掻き立てるとは。イザナミの思惑まで、想像させる。「結界を解いて飛び立つ火取虫」結界を解いて何を追いかけているの?「雨微塵 空微塵 銀やんま産んだ」銀やんまはこんなに手間かけられて生まれて来たんだね!「山椒魚男の坂を転がって」山椒魚が、四国霊場第23番札所薬王寺の坂を転がって、願を掛けている姿を想像するだけで、笑える?何がお望みですか?「黒猫が嗅ぐ鮒鮨を喰うてやる」あんまり猫ちゃんの上前をはねないでやって下さいね。ナイチンゲール!「びっしりと魚の眼や梅雨の月」梅雨の雨があんまりひどくて、水滴がいっぱい付いた眼鏡から見た月?「蝙蝠安と同じアパート蟾蜍」蝙蝠安と同じアパートに住む条件は、ヒキガエルの鳴き声の出来る事。以上。今月は、拙い司会ではございましたが、私が一番楽しませて頂きました。どうも有難うございました。顔だけ見せてくれたセミさん。レディーボーデンはとっても美味しかったです。まだ、来月先着10名様、味見受付中。

吉田 和恵

特選句「目をつむる師すでに花野を戯れり」私が「海程」投句を始めて二年で金子先生は亡くなられました。お会いしたこともなく、先生のことは誌上で知るのみでしたが人をこよなく愛し終は、さすらいの境地に。存在者(人そのもの)としての金子兜太を全うされたその凄さに驚きます。短期間とはいえ、兜太と「海程」に出会えたことは幸運でした。問題句「目をよけて襲う油か牛虻か」麗しげな牛の目を虻がよけるのはわかるような気がしますが、それとも語呂合わせ?

月野ぽぽな

特選句「観音というジェンダーフリー夏桜」智慧の象徴であり、人の悩みによって自在に姿を変え人々を救済する観音菩薩。時に男になることも女になることもあるだろう。人にとって普遍の尊いものは性別の向こうにあるのだろう。ジェンダーフリーという、流行で不易を捉えた。見間違えようのない主張のある春の桜でなく、他の種類の樹と馴染み、共に生命力としてある夏の桜の斡旋も上五中七と絶妙に響き合っている。

三好つや子

特選句「百合の蕾とふ青き炎かな(三枝みずほ)」笹百合のように可憐で清楚な花もありますが、ほとんどの百合は香りが強く、手や服に花粉がつくとなかなか取れず、情念の深そうな女性に見えます。うっかり拘わると火傷しかねないこの花の雰囲気が見事に表現され、惹かれました。しかし「とふ」が理屈っぽく、気になります。特選句「胸中に王国をもつ蟻地獄」引きこもりが子どもだけでなく、中年にも広がっている世の中。地上に出すと前へ進むことができないため「あとずさり」とも呼ばれるウスバカゲロウの幼虫を詠んだ句に、社会から孤立している引きこもりの人達を連想。作者の祈りにも似た思いが感じられ、共鳴。入選句「オムライス並べ燕のための空」 休日のちょっと遅い朝を、庭で楽しんでいる夫婦が目に浮かびました。ありそうで、なさそうな光景ですが、心のビタミンとしての詩情があります。

漆原 義典

特選句「老いてなお五感の響き新樹光」は、前期高齢者の仲間入りをした私にとって、最 近、あまり五感で感じていないなぁと思っていた時に、自分を反省させてくれた素晴らしい句です。中 七の「五感で感じる」と下五「新樹光」が良く響いています。活力が出てくる句です。

野口思づゑ

特選句「実梅色づくこの道未知にしてなつかし」誰もが経験するようなふっとした感覚を季語を詩的に使い見事な句に仕上がっている、と思う。

河田 清峰

特選句「梅雨の月回送のバスやる過ごし」回送のバスやり過ごしと何でもない中七下五であるが季語の梅雨の月とくれば映像浮かんでくる淋しい句になっている。

谷  孝江

特選句「四葩咲く中性の猫ばかり飼い(新野祐子)」中性の猫って・・・もしかして我家の事、と どきりとしました。家にも三人中性の猫とおぼしき女一人男二人が自由気儘に住み付いています。ひと昔もふた昔もと違いバアバの口出しなど無用です。庭に五本、四葩咲いています。四葩のようなふっくりとした家族が増えることを願っているのですけれど・・。

榎本 祐子

特選句「パイナップル畑に星飛ぶ自由かな(重松敬子)」 南の地方の伸びやかさ、広々とした畑と空。夜に飛び交う星も意志を持って遊んでいるよう。自然の中に生きる自在を思う。問題句「蝙蝠安と同じアパート蟾蜍(田口 浩)」アングラ劇を見ているようですごく面白い。「蝙蝠安」はあだ名?→歌舞伎の演目の一つ『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)に登場する右頬に蝙蝠の刺青のある無法者の名。

男波 弘志

特選句「記憶する力のすべて虹が立つ」人間の芯のエネルギーは、やはり自然との交歓か ら生まれる。ほんとうの記憶とは古代の中にある。始めて蛇を見て、畏れを感じたように、作者の詩神 を讃仰するばかりだ。「少しだけ余った気持ちさみだるる」存在の根源は余白の中にある。余白をもた なくなると、その社会は疲弊する。この作品には概念しか書かれていない。それも余白の一つだろう。

寺町志津子

特選句「香川部隊押し寄せ淡路にドカンと夏」なんと言っても今月の特選句は、揚句で しょう!野﨑隊長の下、いつも元気で爽やかな結力抜群の香川句会現地参加の方々のことを「香川部隊」 と称された措辞。言い得て妙です。その香川部隊の面々が押し寄せたので「淡路にドカンと夏」が来た と言う。「ドカンと夏」に納得です今年十月、「海原」最初の記念すべき国大会を担当くださる「香川部 隊」。その心意気と元気さが実感されました。十月の大会は、きっと大いに盛り上がり、実り多い楽し い大会になる予感がいたします。今から楽しみです。何卒よろしくお願いいたします。

重松 敬子

特選句&問題句「麦秋やサリンジャー読む自由席」これは大好きな句です。しかし、サリンジャーで平凡にしてしまった。別の何かを読ませて欲しかったと思います。あくまで私の考えですが・・・・

高木 水志

特選句「蛇苺汚名ものともせず生きよ(寺町志津子」力強い俳句と思った。蛇苺という小さな実に、人の目を気にしないで生きよと呼びかけている。作者に内なる意志の強さを感じて仕方がない。

菅原 春み

特選句「それは透明な神と呼ぶべく青田風(竹本 仰))」青田風の本質をついています。感激です。特選句「びっしりと魚の眼や梅雨の月」魚の犇めくさまと季語が妙にあっているかと。

中村 セミ

特選句「揺蕩うて輪廻の果ての夕蛍」流れに流される人生が何回も何回もこの世でくり返される フラッシュバックする今日この頃の地図をさらさらと、寂しくとびゆく蛍とは何か、といった解題です

大西 健司

特選句「玉葱ころころおのころ島に夏が来た」何とも楽しい一句。昔話のように心地よく 心に響く。おのころ島の語感と、韻律の響き合いが絶妙。

桂 凜火

特選句「麦秋やサリンジャー読む自由席」:「ライ麦畑でつかまえて」を思い出しました。 麦秋の季語は目論見通りというところでしょう。麦秋で風景とリアリティーがでてよかったと思います 「自由席」という結びで単なる郷愁を越えた現代性が感じられて好きでした。

新野 祐子

特選句「万緑を纏うに風の手を借りる(月野ぽぽな)」天地創造のようなスケールの大きさにはっとしま した。入選句「香川部隊押し寄せ淡路にドカンと夏」吟行の楽しさいっぱいが伝わってきます。元気な 香川の方々を香川部隊というのもいいですね。入選句「平和論土なき土にトマト成る」水耕栽培のトマ トでしょうか。最近水耕栽培のテッシュ野菜が増えています。野菜と言えるのかな。平和論、深いです ね。入選句「佇めばもう蛹です苜蓿」今年はクローバーが盛んに茂っています。毎年のことではないら しい。こんな光景を見ると、この句からいろんなイメージが湧きますが、蛹になるって素敵です。入 選句「オムライス並べ燕のための空」日常を切り取った一枚の写真。普通に暮らせることへの慈しみを 覚えます。問題句「昼星を吸うやヒマラヤの青い芥子」まことにきれい。はじめ入選句にしたのですが、 「吸う」の後に何故「や」を入れたのかわかりませんでした。「や」がないと調べも整うのに。

小宮 豊和

前号での私の提案大失敗でした。心よりお詫びします。「繭蝶やおひとりさまを漂流す」 「繭蝶や」を「繭籠り」と置きかえたらどうだろうかという提案でした。大切な言葉「蝶」が抜け落ち てしまいました。「繭蝶や」は少々落ち着かない表現ではあると思いますが、それではどうするか。「繭 の蝶」があります。あとになって気がついたおそまつでした。

藤田 乙女

特選句「水中花あの日にはもう戻れない(柴田清子)」あの日あの時、迷いつつも違う言葉を言い異なる行動をとっていたらきっと今は違う道を歩んでいたことでしょう。後悔はないけれど、あの日のことはいつまでも私の心の中で輝き続け、思い出すととても切なくなる。この句を読み、そんな心境になり心が深く揺さぶられました。季語との取り合わせもぴったりでした。特選句「はつなつの灯台十四歳が駆け上る(吉田和恵)」若人の元気いっぱいの生気溢れる姿が目に浮かび、この句を読むととても清々しい気持ちになります。そして、若人の生気を少しお裾分けしてもらったかのような気分で嬉しくなります。季語との取り合わせもとても良いと思います。

銀   次

今月の誤読●「いもうとの水玉跳ねてワンピース」。いもうとがいる。五歳。いつも真っ白白のワンピースを着て、まるで子うさぎのようだ。その愛くるしさは、姉のわたしから見ても見ほれるほどだ。わたしはごくありきたりのどこにでもいる小学生。だからご近所のひとにあっても「まあかわいいわねえ」と抱き上げられるのはいつもいもうとのほうで、わたしは「大きくなって」とかおざなりの言葉をかけられ、頭をなでられるのがせいぜいだ。両親もおなじだ。いもうとはいくら食べ散らかしても「あらあら」と口をふいてくれるのに、わたしが食卓を少しでも汚したらピシャリと手を叩かれる。その日、近所の小公園にふたりで遊んでいた。雨上がりの日であちこちに小さな水たまりがあった。わたしはブランコに乗っていた。いもうとは水遊びのつもりだろうか、水たまりでピシャピシャ跳ねていた。と、そのとき、いもうとはその水たまりにまるで吸い込まれるように、ズズッと沈み込んでいった。わたしはあっけにとられた。せいぜいカカトを濡らすていどの水たまりなのに、いもうとはそこに消えていった。近づくとその水たまりには波紋さえ立っていなかった。わたしは一瞬「いい気味だ」と思った。「そのまま消えてしまえ」と。そしてつかの間、ぼんやりしてると、水たまりから美しい羽根がでて、やがていもうとを抱きかかえた天使があらわれた。天使は彼女を抱いたまま、どこまでもどこまでも天上はるかに昇っていった。わたしはいもうとの名前を大声で呼んだ。気がつくとわたしの目の前にいもうとが立っていた。彼女の白いワンピースの裾には点々と泥の跳ねがあった。わたしにはそれが空色の水玉のように見えた。わたしはいもうとを抱いた。抱いたままおいおいと泣いた。

伊藤  幸

特選句「青梅色づくこの道未知にしてなつかし」来た事のない道と思われるが幼い頃か映像 の中でか、もしくは前世か、懐かしいと感じるのは誰にも経験あるのでは?青梅色づく頃のイメージに ピッタリだ。

三枝みずほ

特選句「観音というジェンダーフリー夏桜」人間の営み、歴史がこういった役割を作り 出したのかと、観音という言葉の導きによってハッと気づかされた。特選句「青田から精霊たちの風が 来る」青田のもつ空気感、水の匂いは精霊からのものかと共感。

高橋 晴子

特選句「十薬や知らん顔てふやさしさも」十薬の地味だが、はっきりした色調をもつ花の 印象が見て見ぬふりをしてやりすごす心情と響きあって作者の人柄を感じさせられる。問題句「しどま うですつぽりぬれしあまのはか」しどは志度の方がすぐイメージが湧くし全部仮名にして成功している とは思えない。同じ仮名でも「なんくるないさ!なんじやもんじやのはな」は、方言が聞こえてくるよ うで成功していると思うが。

河野 志保

特選句「胸中に王国を持つ蟻地獄」心の中にある世界を大切に、蟻地獄のような現実と闘っているさまだろうか。作者の在りようがまっすぐ伝わって素敵な句。「王国」という言葉の選択がすごいと思う。

亀山祐美子

特選句『平和論土なき土にトマト成る(三好つや子)』「土なき土にトマト成る」は水耕栽培だろうか。 「平和論」の正義と虚構。「土なき土」の地に足のつかない不安感、頼りなさが呼応して必要以上の疑 惑感・胡散臭さを煽る。「トマト」の存在感が虚構を越えた事実、日常を暗示するおもしろい構成に なっている一句。

野﨑 憲子

特選句「河骨一花僧とその妻地震に耐え(野田信章)」六月一日二日と淡路島へ「海程香川」の有志吟 行へ行ってきた。一次句会は、竹本 仰(僧名:仰雲)さんの長泉寺様で開催させていただいた。阪神淡路 大震災でお寺は倒壊しその後、見事に再建されていた(本稿の淡路島吟行作品抄の上段の写真)。この 「河骨一花」の措辞が凄い。お寺の御門をくぐった時の瞬感の把握と思った。まさに凛として温かな、 お寺様であり大黒様であった。句稿を編んでいて、先生のお創りになった句のように感じてしようがな かった。問題句「しどまうですつぽりぬれしあまのはか」もうひとつの特選句でもある。志度寺の門前 で生まれ育った私には、志度詣すなわち十六度市が懐かしく思い出された。現在の境内は樹木が所狭し と生い茂り、海女の墓は、木の柵で囲われているが、数十年前まで、早朝には、小豆島辺りからの大漁 旗を靡かせた船が港に並び、讃岐のあちこちからの浴衣がけの人々も大勢やってっきて夜遅くまで、賑 わった。平仮名ばかりの作品が初見気になったが、今は、一字一字が、雨粒のように見えてくる。志度 詣の七月十七日は、伝説「海女の玉取り」の海女(謡曲「海士」のヒロイン)の命日でもある。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

毎日が父・父・父の日なりけり
柴田 清子
父という難問梔子の花にまく
中野 佑海
汗臭し戦さを父は語りけり
藤川 宏樹
日傘
日傘置き三軒長屋二八蕎麦
藤川 宏樹
湖のやうな日傘の中にゐる
柴田 清子
かりそめの午後の露地行く白日傘
佐藤 仁美
日傘さす男の影を踏みにけり
島田 章平
スマホゲームの中に蛍や人になる
中野 佑海
前世はほたるであつたかもしれぬ
柴田 清子
居直りを昼の蛍に叱られる
鈴木 幸江
夕闇に千の雫の蛍かな
佐藤 仁美
青田波
木喰(もくじき)の丸き微笑や青田波
佐藤 仁美
人波を見てきて生きて青田波
鈴木 幸江
青田波黄色き声の仏壇屋
藤川 宏樹
信号
ぴよぴよと変はる薄暑の青信号
島田 章平
信号はいつも青です蛇の嘘
鈴木 幸江
恋に信号あじさいの花毟るかな
中野 佑海
牛乳
もてなしの牛乳一本付け囲炉裏
藤川 宏樹
午前二時牛乳配達明易し
鈴木 幸江
髪洗ふ伊弉冉(いざなみ)牛乳風呂白し
島田 章平

【通信欄】&【句会メモ】

句会場は、再度「ふじかわ建築スタヂオ」をお借りしました。私が所用で参加できず、前日の金曜日に藤川宏樹さんが句稿を受け取ってくださったので、スムーズに準備ができたのでは?と思います。司会は中野佑海さんで、とても盛会だったそうです。藤川さん、中野さん、ご参加の皆様ありがとうございました。

話は遡りますが、5月31日「天地悠々・兜太俳句の一本道」の上映会をサンポートホール高松で開催しました。参加者は70名ほどでしたが、先生の最晩年のお姿も拝する事が出来、深く感動いたしました。月野ぽぽなさんの<ゲスト・トーク>も先生が最後のご入院をされる数日前にお会いになった折のお話を心を籠めて話してくださり先生の嬉しそうなご様子が見えてくるようでした。

6月1日からの淡路島吟行は、天候に恵まれ、心に残る熱く豊かな時間を有難うございました。素晴らしい吟行を計画して下さった竹本 仰様ご夫妻に、幹事の中野佑海さんに、そして発案者の野田信章さんに心より感謝申し上げます。長泉寺様の句会の席へ、奥様から白磁の素敵な器に入った大盛りの山桜桃梅を賜り大感激でした。とても美味しかったです。皆様、本当に有難うございました。

冒頭の写真は、第84回県美術展覧会(県展)入選の、漆原義典さんの作品『薫風』です。芳しい風が書から吹きわたってくるようです。

2019年5月31日 (金)

第95回「海程香川」句会(2019.05.18)

屋島.jpg

事前投句参加者の一句

紫木蓮不惑は夢の傘寿なる 小宮 豊和
茅花流し男の無理を聞く羽目に 柴田 清子
紀州犬の名前はカムイ桃の花 大西 健司
はらみ馬夕星ひとつずつ開く 月野ぽぽな
蟹の穴音の世界の真ん中に 亀山祐美子
水羊羹ほどの交わり日々好日 寺町志津子
薫風や書道ガールが墨弾く 漆原 義典
花ってムッとする君の抱き癖に抱かれて 中野 佑海
抽象画記す夏滝あ・ううう 豊原 清明
ねんごろに洗ふ足裏や夏に入る 高橋美弥子
聖五月マリアの血液型はA 島田 章平
初夏をものやわらかく詩人去る 田口  浩
父母ヶ浜ピクトグラムの跳ぶ日暮れ 佐藤 仁美
大人だと誰が決めるの花なずな 河野 志保
麦の秋母の秘密を問わぬまま 藤田 乙女
芽吹き山青年の眉の濃ゆきこと 田中 怜子
降伏も万歳の手も夏空へ 三枝みずほ
兄といて鯨の赤い肉に雨 男波 弘志
春愁が天麩羅油はねさせる 新野 祐子
憲法日ことばを差別せぬと師よ 吉田 和恵
葱坊主叩いてひとつ齢をとる 谷  孝江
出口なき真昼のようで捕虫網 三好つや子
雑貨屋のキラキラの塵若葉風 野口思づゑ
細胞のかーんと喜ぶ新樹光 重松 敬子
でで虫は悲の渦ゆるめては生きる 若森 京子
遺影の君はすこし上向きすいかずら 野田 信章
惜春や湿りを帯びる棚の古書 増田 天志
父の日のあの世へ続く廊下かな 菅原 春み
フクシマへ友帰りなん鳥曇 高木 水志
タンポポの絮を吹き吹き黄泉路へと 榎本 祐子
背を走る一騎の逃げ馬寺山忌 銀   次
執拗な紋白蝶よ喉かわく 矢野千代子
麦秋の海恋ふ孤り独り恋ふ 高橋 晴子
茶柱のぶっきら棒に柏餅 藤川 宏樹
葉桜やわたくしという薄くらがり 稲葉 千尋
平成のあれこれ牛蛙がおんがおん 伊藤  幸
新潟はどんなとこだろ粽解く 野澤 隆夫
韮餃子プラっとパリに行きたしや 桂  凜火
夫鼾恐いものなき昼寝かな 鈴木 幸江
信長の馬面なんじゃもんじゃの花 河田 清峰
あの世の声ききようもなく新樹光 竹本  仰
ホタルニ カマフナ」ホツキヨクセイヘ ハシレ 野﨑 憲子

句会の窓

藤川 宏樹

特選句「水羊羹ほどの交わり日々好日」小津安二郎の映画の世界を感じました。句会では 「私なら、ういろう」の冗句も出ましたが、「やはり水羊羹がほどよく、絶妙」との意見にまとまりました。 「交わり」「日々好日」の選択も素晴らしく、見事にやられました。

佐藤 仁美

特選句「遺影の君はすこし上向きすいかずら」:「すいかずら」を調べると「2つ並んで 香りの良い花を開く。」とありました。仲よき夫婦が、先に逝った君は上を向いているのに、遺された 私は、まだ下をむいてるよ…と私には伝わってきました。こんな大切な人に巡り逢えたのは、人生の宝 ですね!特選句「タンポポの絮を吹き吹き黄泉路へと」なんと飄々とした句でしょうか!私もこんな風 に、旅立ちたいものです。

若森 京子

特選句「背を走る一騎の逃げ馬寺山忌」一九八〇年代、私の青春時代、東北から奇才、 天才と云われた寺山修司は、その当時、新星として、劇作家、歌人として現れた。どこか、負の部分が 感じられ、危う気な登場だったが、燃え尽きる様に若い四十代で逝ってしまった。<背を走る一騎の逃 げ馬>が、この作者とぴったり重なる様だ。

稲葉 千尋

特選句「はつなつの乳房はやわらかい半島(月野ぽぽな)」初夏になると薄着になり胸のふくらみが目立つようになり「やわらかい半島」の喩良し。

増田 天志

特選句「葱坊主叩いてひとつ齢をとる」まだまだ、おぬしの世話にはならないよと、独 り言。

豊原 清明

特選句「さみだれるチャップリンの厚化粧(増田天志)」五月雨と白黒映画のチャップリンの化粧の取り合わせが見事。問題句「大人だと誰が決めるの花なずな」花なずなに、大人への反感のようなものを表現している。

高橋美弥子

特選句「はらみ馬夕星ひとつずつ開く」ワーグナーのオペラ「タンホイザー」のアリア「夕星の歌」を思った。「おお、お前、優しい夕星よ」とバリトンで唱われる(訳詞)。夕星とは金星、宵の明星のことであるが、ここではひとつずつ開くとなっているので、あえて限定せず星がひとつひとつやさしいひかりを出産を控えた母馬に注いでいるかのように、そしてここまで育て上げた牧場主や厩務員や、馬たちに関わるすべての人達のやさしいまなざしが、星のひかりに潤むようにも見えてくる。どうか、無事に生まれておいで、そして立っておくれ、母子ともに無事であっておくれ。ひとつずつ開くの措辞が時間軸を表現するので、出産までの時間ともとれる。昔、マチカネタンホイザという競走馬がいた。とても好きだった。ふっとそんなことを思ったりもした(話が逸れてすみません)。 問題句「櫻花のあと水木の白冴え冴えたり(田中怜子)」櫻花を「にぎわい」と読ませるところに少し無理があるように思った。桜が散れば、水木(花水木?)の季節になるのは、季節のうつろいというものであり、もしも花水木の白が青空に冴え渡る様子を詠むのであれば、あえて櫻花という表現がは必要か否か。  

松本 勇二

特選句「父の日のあの世へ続く廊下かな」:「父の日」という唐突な配置が新鮮でした。それにしても不気味な廊下です。問題句「赤ん坊のヨガのポーズ鳥雲に(菅原春み)」取り合わせの絶妙な一句です。「ヨガ」を「ヨーガ」とすれば中七になり、リズムが良くなるように思います。

田中 怜子

特選句「薫風や書道ガールが墨弾く」書道ガールが踊るがごとく墨汁たっぷりの大筆をふりまわしている姿、集中している汗ばんでいる横顔まで目に浮かびます。リズム感も気持ちがいい。薫風もきいています。特選句「父母ケ浜ピクトグラムの跳ぶ日暮れ」映像が浮かびました。夕焼け、逆光の人影、まるで絵文字のような。そして、水面に絵文字が映る。静かできれいですね。

島田 章平

特選句「はらみ馬夕星ひとつずつ開く」。母馬の胎内に芽生えた命。日々鼓動は大きくなり命が逞しく育っている。夕暮れの牧場。薄闇の中にひとつずつ輝きを増す春の星。命と命が宇宙の中でつながる。美しい句です。

鈴木 幸江

特選句「春の虹砂糖ぷっぷっと溶けにけり(榎本祐子)」何か料理をしているのだろうか。窓の外には明るい春の虹が掛かっている風景が浮かぶ。平穏な日常の一齣に愛おしさを込めた作品だ。“ぷっぷっ”の措辞からは料理の億劫さも伝わってきて共感。“春の虹”からは人の営みとして料理することの深い意味を捉えようとしている作者の心構えも感じられる。肯定否定、入り混じった心理が人間らしく、上手く表出されている。問題句「抽象画記す夏滝あ・ううう」“あ・ううう”の鑑賞に迷いがあった。抽象画とは対象の写実性の再現ではなく、事物の本質や心象を点、線、色などで表現しようとする絵画(広辞苑)とのこと。作者の心には、夏の滝は、自然の造形物として感動をもって“あ・ううう”と捉えられたのか。それとも作者の抽象画として留めようとするときの表現者としての苦しみから出た感嘆詞なのか、どちらか分からず問題句とした。

野澤 隆夫

特選句「茅花流し男の無理を聞く羽目に」:「茅花流し」とは梅雨の先触れとなる季節風とか。「男の無理を…」に、ドラマを感じました。少なくとも5話位の話があるよう。特選句「春愁が天麩羅油はねさせる」春だからこその耽る物思い。天麩羅油をはねさせる愁いとは…。「春愁」は、「男のつれなさについて、女が使うことが多い」と電子辞書版「角川大歳時記」に出てましたが…。問題句 「ホタルニ カマフナ」 ホッキョクセイヘ ハシレ」カタカナ書きのこの句もドラマがあります。4月から朝日新聞の土曜日「be」毎週連載の小説「火の鳥」(手塚治虫の構想、桜庭一樹さん執筆)に 出てくるセリフみたいで…。

野田 信章

「椎若葉ふいに父似の声を出す」の句。句調までも父に似てしまうことの面映ゆさ。その唐突感のある可笑しさを、それとなく諾うのが、椎若葉との出合いであろうかと読める句。この時期の椎の森は金色にかがやく。「問われれば答える用意ゆすらうめ」の句。「ゆすらうめ」の小粒の色感の配合が小気味よい。そこに一句の自恃性もあり、相手によっては啖呵を切るその様も伺える句。甲乙つけ難しの感で特選は遠慮しました。

寺町志津子

特選句「細胞のかーんと喜ぶ新樹光」。今月も素晴らしい句が数多くあったが、掲句は、 一目心に留まり好きな句になった。瑞々しい若葉に覆われた初夏の樹木。その樹木の光に、作者の細胞 が、かーんと喜んだ、と言う。実に明るく、楽しく、爽やかな句である句を解剖すれば、「細胞のカー ンと喜ぶ」の表現の新鮮さ、新樹光との取り合わせの妙であるが、新樹光にカーンと喜ぶ細胞を持って おられる作者の瑞々しい感性に感銘すると同時に、読み手に明るさ、楽しさ、爽やかさを供して頂き、 嬉しい限りの句である。

中野 佑海

特選句「はつ夏のアーテイストなりパテイシエ(寺町志津子)」もう既に「はつ夏」という言葉が夏みかんを想像させて、あの透けるようなオレンジ色と一緒になって、私の口の中に飛び込んで来るのです。プルプルのぜりー。そして、麗しのふわふわカステラ。本当にケーキは芸術作品だと思います。見てるの最高。食べると止められなくなります。特選句「タンポポの絮を吹き吹き黄泉路へと」このゆるっとした表現で、死へと誘う力技。つい作者の意図に飲み込まれても良いかなという気持ちにさせられます。小さいころ、タンポポの絮を吹いて、耳に入ると耳が聞こえなくなるって、母に言われていました。だから、出来るだけ触らない様に、飛ばさないように、人に迷惑を掛けないように生きてきて(ここはちょっと?)、でも、もう死んでいくんだから、したい事して死んで行ってもいいかなと。自信を(何の)持って生きていきます。(やっぱり、行きたいんやね)。おー!不思議な人生エール。 毎回皆様の、丁々発止の意見交換に今月は参加出来ず残念でした。また、来月を楽しみにしています。

田口  浩

特選句「花ってムッとする君の抱き癖に抱かれて」句意を理解するなら<花ってムッとする君に抱かれて>これで充分。しかし作者はそんな半端なことを詠んでいるのではない。<抱き癖>と言う面妖なワサビを利かせて、一句の世界をプワーとひろげて見せてくれたのである。たとえばムッとする花を想像してたのしい。バニラの匂いのする朴の花か、花粉のベトベトする南瓜の花か、それとも大柄なピンクの薔薇か、等々である。そして抱かれて辟易しているのは、男か?女か?・・・・・。「海程香川」こんなおもしろい句を見せてくれるから休むわけにはいかない。特選句「遺影の君はすこし上向きすいかずら」この句から何を感じるかが大切である。すこし上向きの遺影の、何を見て偲んでいるのだろう。山野に自生する蔓性の小低木、忍冬の花を、何故平仮名のすいかずらにしたのだろう。そう言う何故が穏やかに見えてくる、いい作品だと思う。

三好つや子

特選句「蟹の穴音の世界の真ん中に」誰からも気づかれない、小さな穴での静かな営み。それが、音の溢れる世界の真ん中にあるという、謎めいた詩情に共感。特選句「細胞のかーんと喜ぶ新樹光」 細胞と新樹光をつなぐ「かーんと喜ぶ」の言い回しが、こころに深く、快く刺さりました。問題句「抽象画記す夏滝あ・ううう」何かしら切羽詰まった状態がして、面白そうな句ですが、作者の思いがいまいち伝わってきません。 

野口思づゑ

特選句「水羊羹ほどの交わり日々好日」理想的なまじわりですね。特選句「惜春や湿りを帯びる棚の古書」し〜ん、と音が聞こえてくるようなしっとりとした画を見ているよう。「 木の芽晴親不孝号親乗せて」面白い発想だと感じました。「 麦の秋母の秘密を問わぬまま」同じ思いを多くの人がすると思います。季語が効いている。

谷  孝江

特選句「蟹の穴音の世界の真ん中に」何となくあーっそうだよね。と感じました。家の中、外の世界、音が溢れています。その中に、ポツンと蟹の穴、なんて面白いです。今月も俳句たのしく読ませていただきました。先日友人より歳と共に読む、書く、詠むが大切だよ、と教えてくれました。出来るだけそれに近づけようと努力しています。たくさんの句の中より十句選は、とてもきびしいですが、それも読む中の一つかと頑張っています。六月もたのしみにしています。ありがとうございました。

大西 健司

特選句「切通し抜けて五月の空に会う(重松敬子)さわやかな一句。鎌倉の切通しがまず思われる。鮮やかに広がる五月の空の見事さを「会う」と捉えたことを評価したい。

竹本  仰

特選句「紫木蓮不惑は夢の傘寿なる」不惑とは四十ならず、これから届く、夢にも思わなかった夢のような八十歳のことだよ、という心だろうか。夢の傘寿というのがいいと思う。女性の句ではないだろうか?その夢の形が、紫木蓮とよく合っている、ここがすばらしい。それと、不惑ということ自体は少しも滅びていない、たしかにあるはずだという、その姿勢が良いと思った。特選句「細切れの時間愛せよ初夏の母(三枝みずほ)」初夏の母と限定しているところからすると、何か事情があるのだろうか。病、あるいは老いか、などと考えた。残りの時間がそれほどないのか。何となく「ゴンドラの唄」を思い出す。この歌は、中山晋平が母親を亡くして、悲しみに暮れるまま旅の途上で作ったというが、そんな響きを感じた。特選句「はつなつの乳房はやわらかい半島」乳房は初夏やわらかくなるものだろうか?とにかくそういう実感と、そのやわらかさこそ色んなものを結びつける親和力になるというのだろう。清岡卓行の名文『失われた両腕』にはミロのヴィーナスについて、その両腕がないことで、かえって関係性を探し求める想像力を刺激して、いっそういとおしくさせるとあった。仮にその腕を連絡船とするなら、乳房は寄港地である半島か。そんなこと思った。淡路島吟行まで、あと一週間と少しです。大変、楽しみにしております。よろしくお願いいたします。

桂  凜火

特選句「出口なき真昼のようで捕虫網」の措辞に心ひかれた。明るすぎる昼の明るさにふと目眩のような迷いのようなものに捕らわれることがある。それは捕虫網人を捕らえる見えない不安のシンボルのようだ。とても上手い表現だと感心するとともに同じような感覚を共有できたようでうれしい気がしました

高木 水志

特選句「憲法日ことばを差別せぬと師よ」兜太先生はいつも私たちにことばの大切さを教えてくださった。憲法の改正は国民の自由や権利を知らず知らずに制限する方向に行かないように、私たちはしっかりと考えていかなければと思う。

亀山祐美子

特選句「ねんごろに洗ふ足裏や夏に入る」海辺か川辺で水遊びを満喫したのか、はたまた畑仕事か田植えの準備を終えたのか、自分の足裏か子どもの足裏。ひょっとしたら介護中なのかもしれない。「ねんごろに洗う足裏や」はよくあるフレーズかも知れないが色々と想像力を膨らまさせてくれる。「夏に入る」で満足感と期待感を十二分に伝える。明るく丁寧な生活が伺える佳句。

月野ぽぽな

特選句「葉桜やわたくしという薄くらがり」葉桜の陰翳の中にいて、わたくし、という存在、心と体の有り様をふと感じている。薄くらがり、がちょうどいい塩梅で効いている。

柴田 清子

特選句「兄といて鯨の赤い肉に雨」この句への細いコメントは、私には出来ないけれど、はっきり言えるのは、この句が一番好きであること。特選句「でで虫は悲の渦ゆるめては生きる」でで虫のあの渦を悲ととらえたことと強い断定が一句を確かなものにした。

男波 弘志

特選句「はらみ馬夕星ひとつずつ開く」星の明滅、それはもう母馬の心音そのものだろう。 特選句「蟹の穴音の世界の真ん中に」蟹の穴音の世界の真ん中に静寂は音そのものの世界。瞑想とは、音を聴き澄ますことかも知れない。

三枝みずほ

特選句「タンポポの絮を吹き吹き黄泉路へと」球形を崩しつつ、0へ近づいてゆく。タンポポの絮が新たな芽吹きをも連想させ、死を明るく受け止めている。特選句「はらみ馬夕星ひとつずつ開く」生命誕生の不思議、神秘。大宇宙との繋がりに共感。

新野 祐子

特選句「でで虫は悲の渦ゆるめては生きる」かたつむりの殻に悲の渦があるという捕らえ方、初めて見ました。それをゆるめるという表現も。よく見るとかたつむりはちょっと気持ちの悪い生き物ですが、この句によってとても親しみと哀切を感じます。入選句「葉桜やフロイスの靴響く城」司祭のフロイスという名前の響きと靴音の響きが、美しい葉桜の緑の中に映えています。ここは長崎でしょうか?訪ねてみたくなります。入選句「タンポポの絮を吹き吹き黄泉路へと」下五が、「黄泉路へと」という意外性に引かれました。なぜ冥土を黄泉というのか考えさせられました。「黄」と「光」は同系の文字なんですね。入選句「雑貨屋のキラキラの塵若葉風」中七がいいですね。古臭くない若やいだ懐かしさがあります。小ぎれいなコンビニが立ち並ぶ今の風景を、味気無いと思う人は少なくないことと。

小宮 豊和

「繭蝶やおひとりさまを漂流す」私の独断と選り好みにちかい見解で、あまり必然性はないが、「繭蝶や」を「繭籠り」としたらどういう変化が起るか考えてみたい。まず繭を作る美しい昆虫は蝶以外にも存在するので、蝶に限定しなくてもいいのではないかという考え方、それに籠るという言葉は、自分の殻を作って安住し、外からの影響が少なく、貴重な孤独を楽しむ雰囲気がでてきて、中七、下五に繋がるのではないかという思いが絡まっている。もちろんもとの句のままで良いという意見もかなりあると思われるが、

銀   次

今月の誤読●「タンポポの絮を吹き吹き黄泉路へと」。あれ、なんだってオレはこんなとこにいるんだ? だいたいココはどこなんだ? んー……、あっ、そうか。最後におぼえているのは、オレの運転するクルマが崖から落っこちたってことだ。てーと、オレは死んじまったのか。そんでもってこんなとこを歩いているのか。そーかー。いまごろママや子どもたちはさぞかし悲しんでいるだろうな。ごめんよ。でも生命保険たっぷりかけてあっから、すまんがそれでカンベンしてくれ。オレは大丈夫だ。てか、ま、大丈夫じゃなかったんだけどな。でもココは悪くない。ぜんぜんOK。どこからかすんげえ光が差し込んでてさ。あたり一面真っ白々。それでいてまぶしくないんだ。暑くもなく寒くもなく、ちょうどいいかげんだ。足もとはフワフワしてて、まるで毛足の長い上等の絨毯を踏んでるみたいだ。いい匂いがするなって思って見上げれば、頭上には黄金のリンゴが垂れ下がっている。あー、落ち着くなあ。現世のオレが死を怖がってたなんて、ほんとウソみたいだ。黄泉路がこんなに心地よいとは。おっ、鳥が飛んで行く。犬が走ってく。まあそんなに急ぐなよ。いずれこの小さな旅は冥土にたどり着く。あの小さな点のような光がたぶんそれだな。冥土か。そこもノンビリとした世界だろうさ。さっきからオレのカラダをふんわり包み込んでるのはタンポポの綿毛だ。オレの人生を、オレの死を祝福してくれてるようだ。なんちゅうか、いまここにいるオレは無上の至福ってか、そういう感じなんだ。とっても暖かく、こころは満ち足りている。キリスト教も仏教もねえんだ。ここにきてわかった。死とは、成仏とはやさしさに包まれることなんだ。まあ、のんびりいこうぜ。生きたカイもあった。死ぬるもそう悪くない。見まわせば無数の人々が歩いてる。死刑囚も子どもらも、赤ん坊だっている。それらが冥土をめざして歩いてく。タンポポの綿毛が舞っている。よく来たねと迎えるように。

吉田 和恵

特選句「春の虹砂糖ぷっぷと溶けにけり」紅茶に角砂糖をポトンと入れシュワシュワと溶けていく様を春の虹に重ねて‥‥美しい心象ですね。ちなみに私のがさつな生活感では春の虹はさしづめ蜃気楼かな?失礼しました。

河田 清峰

特選句「フクシマへ友帰りなん鳥曇」帰れる友と帰りたくとも帰れない私たちの哀れを誘う鳥曇であろう!

高橋 晴子

特選句「ヘリオトロープ恋はいつしか乾く紙(若森京子)」面白い感覚に驚ろいた。問題句「櫻花(にぎわい)のあと水木の白冴え冴えたり」‶櫻花‶に‶にぎわい‶と仮名をふる感覚はついていけない。日本語は正しく、そんな無理な使い方をしなくても、言いようはいくらでもある。

榎本 祐子

特選句「はらみ馬夕星ひとつずつ開く」子を宿す地上の馬と夕星の幻想世界。お腹の仔と星が交感しているよう。「ひとつずつ開く」との表現が秀逸。

伊藤  幸

特選句「雑貨屋のキラキラの塵若葉風」本来なら店屋であるからして清潔にしておくべきところ、塵をキラキラと表現した作者の感性に一票。下語の若葉風も効いている。

菅原 春み

特選句「麦の秋母の秘密を問わぬまま」こころから共感します。特選句「惜春や湿りを帯びる棚の古書」ライブラリを立ち上げた身としては。まさにそうだと。

藤田 乙女

特選句「水羊羹ほどの交わり日々好日」執着せず、拘らず、さっぱりしていて心は柔軟で、そんな生き方ができたら素敵だと羨ましく思えました。私は、水羊羮が大好きなのですが、これから水羊羮を食べる時には、きっとこの句を思い出し、日々の自分の生きる姿勢を反省することになりそうです。 特選句「平成の一万日をつばくらめ」平成を日にちにすると一万日を越えるのですね。自分と家族の一万日の日々をしみじみと振り返りました。忘れられないたくさんの出来事がありました。私事ですが、この平成の31年間に4回だけつばめが我が家にやってきました。そのうち2回は、父と母の死があり、後の2回は、二人の子どもの誕生がありました。私にとってつばめは、人の誕生を告げる幸せの鳥であると共に、人の魂をあの世へ連れて行く哀しみの鳥でもあります。この句から、人の生死に関わる深い思いや感情が湧き出てきました。

野﨑 憲子

特選句「執拗な紋白蝶よ喉かわく」儚げな紋白蝶に、執拗に追いかけられて喉が渇いてしまった。そんな作者に蝶は何かを伝えたかったのだ。「恋人は蝶の変態宙にいる」の<蝶>にも惹かれた。問題句「ねばねばの青松毬に返杯す(矢野千代子)」青松毬は新松子。夏場には姿が見えない。<ねばねば>に未生のいのちを思う。その若い青松毬にお酒を勧められ返杯するというのである。何と面妖なと感じる一方で、森羅万象の真ん中に立った作者と松毬の交感の場面を垣間見た思いがした。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

新緑
人生一瞬新緑という傷を持ち
鈴木 幸江
新緑にわたしの影を置いて来る
田口  浩
新緑や廃病院の手術室
銀   次
子をほめる新緑の風吹きにけり
三枝みずほ
新緑のドア開きます大空へ
藤川 宏樹
カプセル
カプセルに母金色の産毛かな
野﨑 憲子
出張のカプセルホテル明易し
島田 章平
カプセルに素足で入っていいですか
柴田 清子
砂漠へと落ちしカプセル覚醒す
佐藤 仁美
カプセルを売って俳句を詠んでいる
鈴木 幸江
新緑や島のことばは優しくて
三枝みずほ
五月雨や塩飽諸島とふ大鯨
野﨑 憲子
蜃気楼を浮くひょうたん島ひとつ
島田 章平
扇子一本持って軍艦島に入る
田口  浩
夏霞溶けゆく空と浮島と
佐藤 仁美
追ひかけて尚追ひかけて恋螢
柴田 清子
カプセルの中に虹の子そして螢
野﨑 憲子
歌舞伎町チャイナドレスの朝螢
銀   次
ぶつかつて大きくなつて螢
野﨑 憲子
ごめんなさい螢の宿は休みです
島田 章平
再会の君は螢のままである
田口  浩
フクシマや蛍のいない世はそこに
鈴木 幸江
浮世絵の暗き光の蛍かな
佐藤 仁美
牛蛙
語り口清らのままに牛蛙
藤川 宏樹
牛蛙俳句のリズム整わぬ
鈴木 幸江
人間に戻る日近し牛蛙
野﨑 憲子
にんげんを無視して夢の牛蛙
田口  浩
牛蛙鳴いて恋人募集中
柴田 清子
戦争はいやだと叫べ牛蛙
島田 章平
床の間に金縛りとや牛蛙
銀   次
牛蛙鳴かねば石になっちゃうぞ
柴田 清子

【通信欄】&【句会メモ】

今日は「天地悠々 兜太・俳句の一本道」の上映会でした。ご入場の方々と、豊かな素晴らしい時間を過ごすことができました。月野ぽぽなさんのゲストトークも感謝に満ちた深いお話で、とても感動いたしました。ありがとうございました。お手伝いをしてくださった方々にも心からお礼を申し上げます。そして明日からは、淡路島吟行です。次回の作品抄で、その時の作品をご紹介させていただく予定です。お楽しみに!

令和になって初めての句会は、鈴木幸江さんの全句朗読から始まり、いつものように、熱く自由な意見が飛び交いとても豊かな句会でした。冒頭の絵は、藤川宏樹さんの屋島のスケッチです。6月は、また、サンポートホール高松の会場が取れず「ふじかわ建築スタヂオ」での句会をお願いいたしました。藤川さんよろしくお願い申し上げます。

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