第114回「海程香川」句会(2021.02.20)
事前投句参加者の一句
枯れ蓮やヒエログリフ(象形文字)は何語る | 佐藤 稚鬼 |
自由の碑わだつみの声冴え返る | 滝澤 泰斗 |
ひびあかぎれ母の昭和の幸不幸 | 植松 まめ |
新しき日常レタス剥がしをリ | 高橋美弥子 |
風花や触ってみたき馬の腹 | 榎本 祐子 |
雪ですか雪でしょうね友逝けり | 伊藤 幸 |
春の虹おむすび山も転げ出す | 漆原 義典 |
陽をふふみ蠟梅まさに開かんと | 田中 怜子 |
尻振りて鴨のお散歩三四羽 | 三好三香穂 |
風光る草食系のふくらはぎ | 伏 兎 |
今の世に麒麟は来るか椿落つ | 松本美智子 |
逡巡の一歩や少年ホトケノザ | 福井 明子 |
春ですねこんなに青が美しい | 重松 敬子 |
剪定のパチンと鳴りて午後静か | 佐藤 仁美 |
真夜の香はやわらかき牙ヒヤシンス | 月野ぽぽな |
おずおずと一輪の梅咲きはじむ | 藤田 乙女 |
やわらかい土を分け合う菫かな | 河野 志保 |
風ぐるま指で回せし一周忌 | 銀 次 |
兜太忌や明るく太く野を歩く | 夏谷 胡桃 |
寒明の空の律調たねを忌よ | 島田 章平 |
寒の空カタカナあふれ帰れない | 中野 佑海 |
風呂吹や昭和の家族十一人 | 稲葉 千尋 |
実の裏を洗う事の大切さ | 葛城 広光 |
みづなめて舌のざらつく蝶の昼 | 小西 瞬夏 |
あの ほら 言葉になる前冬木の芽 | 吉田 和恵 |
寒月のかけら掴まえ恋ふふふ | 増田 暁子 |
鉢木を今朝もうなりて寒ざらひ | 野澤 隆夫 |
暗き頭を爪立て洗う春の馬 | 豊原 清明 |
陽炎やぎよろ目の土偶掘り出しぬ | 菅原 春み |
スティGOスティ枯野の我らポチ | 野口思づゑ |
非正規のにべもなき鍋つつく犬 | 鈴木 幸江 |
新月の白狼森をうろつくよ | 桂 凜火 |
奥の間に招き入れたしぼたん雪 | 森本由美子 |
光年やいまさらさらと春のからだ | 若森 京子 |
話したいこといっぱいあった窓に雪 | 佐孝 石画 |
春祭自粛警察紛れいる | 荒井まり子 |
陽の風の宴荻葭枯れつくし | 野田 信章 |
釈迦の手へ冬どんぐりの犇めきぬ | 川崎千鶴子 |
パンジーの寝言はきっとありがとう | 高木 水志 |
約束の一つもなくて日永なる | 柴田 清子 |
春の暮水飴のよう都市国家 | 三枝みずほ |
シャーペンの折れし芯先春日影 | 松岡 早苗 |
紅梅に息深くして佇めり | 高橋 晴子 |
雪女立ち往生の車列より | 新野 祐子 |
存分に背中を掻いて冬日の犬 | 稲 暁 |
笑む犬と春笑む獣医学教授 | 藤川 宏樹 |
頬杖はつかない神戸震災忌 | 大西 健司 |
春は神代の水瓶の水どぶろくに | 田口 浩 |
二つの肺の黒くなる世界地図 | 中村 セミ |
グッバイ・コロナ私の冬の恋もです | 吉田亜紀子 |
寒の雨手紙の束を握りしめ | 亀山祐美子 |
立春や若き母来て起こされる | 松本 勇二 |
打音の森近くに父が棲みついて | 十河 宣洋 |
どの木にも春が棲みつきそうな日よ | 谷 孝江 |
いまいちどそっと抱きよせて雪女 | 田中アパート |
砥部焼きの皿に白魚母の忌近し | 山本 弥生 |
しぐるるや傷跡なぞるレコード針 | 増田 天志 |
新コロナをシルクロードという幻聴 | 久保 智恵 |
水仙のまはり透明死にとうなか | すずき穂波 |
日脚伸ぶ地蔵の顔ののつぺりと | 石井 はな |
不意の客去りて夜目にも梅明かり | 小山やす子 |
詩集栞は神籤の「大吉」みすゞの町 | 津田 将也 |
立春大吉坐禅の僧のシンメトリー | 河田 清峰 |
棒っ切れで水を叩いている恋で | 男波 弘志 |
冬うらら凡庸という安堵かな | 寺町志津子 |
うろうろと母の抜けがら春を行く | 小宮 豊和 |
末黒野にキリンの義足鳴る夜かな | 竹本 仰 |
野火と野火出逢はないではゐられない | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 大西 健司
特選句「話したいこといっぱいあった窓に雪」突然の別れから少し時を経てのつぶやきだろう。さりげない句だが心に沁みてくる。
- 小西 瞬夏
特選句「寒明の空の調律たねを忌よ」たねをさんとはお会いしたことがないのに私にとって存在感が大きい。「空の調律」という措辞に、目に見えないおおきな存在に対する繊細な感情を感じた。
- 増田天志
特選句「棒っ切れで水を叩いている恋で」虚しい恋は、形容矛盾。惨めな奴だなあ。マグマの恋をしてみろよ。
- 小山やす子
特選句「枯れ蓮やヒエログリフは何語る」お洒落な感覚の句に目が止まりました。枯れ蓮が効いていると思います。
- 葛城 広光
特選句「陽炎やぎよろ目の土偶掘り出しぬ」気分を具体的な物語にしている事が楽しめた。土偶にも愛嬌があるようで。
- すずき穂波
特選句「野火と野火出逢はないではゐられない」野暮な選評はよしておきます。 この句で小一時間は話せそうですね。
- 増田 暁子
特選句「おとこおみな綺麗な骨だ軒氷柱」軒氷柱が人間の骨に見えたなんて嬉しい性善説ですね。特選句「笑む犬と春笑む獣医学教授」楽しく、面白い比較が抜群です。「カリカリの堪忍袋連れて春」待っていた春への思い。
- 島田 章平
特選句「雪ですか雪でしょうね友逝けり」さりげない日常会話。その後に「友逝けり」と言う大きな展開。調べが美しいだけに悲しさの余韻がいつまでも残る。追悼句の秀句。
- 若森 京子
特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」最近やたらに、あの、ほら、が、多くなり言葉にならない。それでの相手に通じるのが不思議。〝冬木の芽?の季語が嘲笑っている様でもあり励まされている様でもある。特選句「五分後の記憶うたたね花大根(伏兎)」五分後になると又同じ事を繰り返し云う人を知っているが、?うたたね?と表現し?花大根?と明るい季語で救われた気持。本当は深刻な問題なのである。
- 十河 宣洋
特選句「どの木にも春が棲みつきそうな日よ」雪解けのころの森や林の風景。多分雪のない地方も明るい日差しに春を感じるのだろうと思う。春が棲みつきそうというよりすでに棲み始めているのである。
- 中野 佑海
特選句「ステイGOステイ枯野の我らポチ」自粛、Go to travel、自粛。それも誰もいない何も楽しいことの無い枯野で居ろって。僕らは捨て犬以下です。捨て犬なら犬らしく自由くらいは謳歌しなくてはって言うか、自由ってなんだ?ダメダメ。また、話長ーいって駄目出しが。特選句「存分に背中を掻いて冬日の犬」詰まる所、カウチポテトで自分の背中を掻くくらいの自由しか無いのか。もしくはこれが究極の幸せ!並選「新しき日常レタス剥がしおり」ほら、何気ないレタス剥がしが、人生楽しんでる事になってきたよ。これで良いのか?「春の虹おむすび山も転げ出す」幸せボケでとうとひうおむすび山も笑い転げています。香川に住んで東北大震災を真剣に考えられません。みんな香川に来ませんか?みんなで住みやすい所に転がり込みましょう。但し、辛い事のない分、感動もおむすび山が転がるくらいです。「軋轢が詩を孕ませて芽吹くかな」ほら、詩を感動を紡ぐには軋轢が必要なんですね。私の様なチキンには芽は出ないのです。「剪定のパチンと鳴りて午後静か」樹の剪定などというのは専門家にお任せ。私は静かにお昼寝タイム。「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」はい、私達夫婦のお決まり会話。あれをあれして。そう言えばあれはどうなった。大丈夫あれは終わった。後は息子よ任せたぞ。「存分に梅を見てきし日の手相」商店街には夜になると、飲み客相手の手相見さんが机を出しています。私も30年くらい前、是非ともと言われて見て貰った事があります。今から大変な事が起こります。回避したければ、詳しくお教えします。とのこと。勿論、眉に唾を付けてお断り致しました。若さに大変は付きもの。梅に香りは付きもの。「雪女郎美人の定義なけれども」女は色が白くて柳腰なれば、男次第で、美人にもブスにも成れます。これってセクハラ発言?「詩集栞は神籤の「大吉」みすゞの町」金子みすゞは苦労多い人生を生きて、詩を残してくれた。その詩集に「大吉」のお神籤はいかにも重たく有りませんか? お手軽人生たのしんでる 中野佑海 昨日今日と寒の戻り。これも楽しく、俳句も温く。お身体大切に。
- 松本 勇二
特選句「風光る草食系のふくらはぎ」草食系のふくらはぎが発見。風光ると相俟って明るい一句となった。
- 寺町志津子
特選句「頬杖はつかない神戸震災記」一読後、はっとしました。一九九五年の阪神・淡路大震災。作者は、実際に遭遇された方ではないでしょうか?想像を絶する悲惨な被害に、「ああでもない」「こうでもない」と思案投げ首で頬杖をつくような悠長なことでは無く、如何に対処し、如何に生きていくか、切実な現実への対処を詠まれたともとれましたし、一方、毎年巡り来る神戸震災忌には、頬杖をついての回想ではなく、真からの追悼とともに、これからも力強く生きていこうの思いを強くもたれている作者が想像され、「頬杖はつかない」の語の持つ大きな意味合いに心動かされました。なお、「生きるとは老いて知るなり雪の夜」に、全く同感です。
- 豊原 清明
特選句「陽をふふみ?梅まさに開かんと」開花を待つ人の気持ちが伝わる。陽を感じているか。春を待ちわびている人の気持ち。問題句「老犬チバ今際冬蠅打ち守りぬ(野田信章)」:「老犬チバ」の響きが好いような。老い犬の哀愁。冬蝿が老い犬を立たせる。
- 夏谷 胡桃
特選句「宇宙は昏し冴え返る無言館(増田天志)」2年前にひとりで無言館はじめ長野へ旅をしました。いまの国のやり方を見ていると、「無言館」のような貴重な場所が蔑ろにされそうで心配です。「宇宙昏し」は悲観的すぎますが、地球も宇宙ですから地球がどうなるか悲観的になるのも当然です。宇宙から自然から人間からあらゆるモノから奪い、役に立たなければ捨てる。生き残る人はいるでしょう。自分は生き残る者だとどこかで思っているのかもしれません。幻想の中で生きているような気もします。作者の思いと違うかもしれませんが、このような俳句が作りたいと思いました。
- 桂 凜火
特選句「スティGOスティ枯野のわれらポチ」コロナ禍の棄民のような感慨でしょうか。われらポチで共同体としての不安やまた絆も感じられてよかったです。特選句「光年やいまさらさらと春のからだ」年月を経てさらさらになった体をいとおしむよう。こころもさらさらなのだろうか。光年やの上5に力があると思いました。
- 藤川 宏樹
特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」:「あの ほら」が言葉が出そうで出てこない、あのもどかしい間合いを的確に捉えています。「冬木の芽」の選択もピッタリ、口調も整っており素晴らしいです。
- 月野ぽぽな
特選句「新コロナをシルクロードという幻聴」一行が新しい地平を見せてくれて印象的だった。SHInKOROna とSHIruKuROodo 意味でなく音として味わうと似ていることに着眼いや着耳(?)されたところに冴えが極まる。時に耳は口や目ほどにものを言うものだ。思考の世界では否定的意味合いが定着している「新コロナ」への新しい解釈の仕方が、聴覚という感覚を信じる態度によって示唆されている。例えば、全てのことを導き、恵みと捉えるということ。兜太師は生前、ある例会にて「思想の輪郭を語らない」というようなことをおっしゃっていた。その後味は直線的、平面的になりがちなのだ。感覚を研ぎ澄ませ、そこでつかんだものを表現すること。それが、読者にそれぞれの解釈を許し、芳醇な享受を可能にする、こんなことを思い起こさせてくれた。感謝。
- 田口 浩
特選句「水仙のまわり透明死にとうなか」この句「推敲句のまわり透明死にとうない」であれば見過ごしたかもしれない。「死にとうなか」と「死にとうない」たった一字の違いで句は位を得た。「水仙のまわり透明」この花はもともとそう言うものを持っているのだが、「死にとうなか」の方言によって、水仙は清冽を深くした。風格のある一句である。「風光る草食系のふくらはぎ」巧い。楽しい。「寒明の空の律調たねを忌よ」たねをさんは野﨑さんと「海程香川」を立ち上げた人だと訊いている。寒明けの空に雅楽の流れるような人だったのだろう。故人を思って心象風景がひろがる。「春の暮水飴のよう都市国家」:「都市国家」を古代、中世の自由都市ではなく、地球が滅亡したあとの惑星に存在する、超近代国家を連想した。そこに鼈甲色した、水飴のような春の暮が見えるのである。この句には春の郷愁があろう。「棒っ切れで水を叩いている恋で」叩け、叩け、バシャバシャ叩け、こう言った質の恋は、年齢に関係なくあるものだ、時は春・・・叩け叩け叩けー。
- 河田 清峰
特選句「麦青む石子詰てふ停留所(重松敬子)」石子詰という地名は知らないが麦踏みの哀しさが響いてくる句である。停留所もいいですね。
- 福井 明子
特選句「風ぐるま指で回せし一周忌」下北半島の霊場恐山宇曾利湖のほとりの幾本も並んだ風車は、風を受けて、からからと回り続けています。まるで亡き人の心に触れるようで去りがたいのです。掲句は、風ぐるまを指で回す、のですね。受け入れがたい一周忌までのおこころが込められています。どうかそのお気持ちを、風に天に、おゆだねになられますようにと願います。特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」冬木の芽とは、言葉になる以前のためらいにもつながりますね。空白の二文字分は、音符の休符のようなリズムを持ってはずんでいます。
- 榎本 祐子
特選句「野火と野火出逢はないではゐられない」芽吹きを促すための野火。その野火が意思をもって逢い合おうとする。火の属性としてのエロスを感じさせる。
- 伊藤 幸
特選句「新しき日常レタス剥がしをリ」年初における作者なりのポジティブな姿勢が窺える。それは抱負であり覚悟とも。特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」なかなか即言葉が出てこない歳になりましたが冬木の芽、マダマダ大丈夫。頑張りましょう。一拍の字明け二箇所が諧謔性を増し共感を呼ぶ。
- 高木 水志
特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」俳句を作るときに自分の感覚を言葉にする過程を冬木の芽に例えたところがなるほどなあと思って特選に選びました。
- 谷 孝江
特選句「頬杖はつかない神戸震災記」当時の事を忘れてはいませんが段々と記憶が遠のいて来ます。その頃関西方面には知人が数人いましたので無事を確認するまでは心が休まりませんでした。何年経過しようが忘れることの無い震災忌です。「頬杖をついて」思い出すことなど決してありません。
- 滝澤 泰斗
特選句「雪ですか雪でしょうね友逝けり」通夜で焼香を待っている友二人・・・友の死が一層寒さを際立たせている・・・案の定、雨とも雪ともつかぬものが降ってきた。その何気ない会話が醸す友への惜辞に魅かれました。特選句「寒明の空の律調たねを忌よ」2010年でしたか、大阪に単身赴任していた時に若森さんから矢野さんの大阪句会を紹介され、一度だけ高橋たねをさんと句会でご一緒しました。高橋さんは晩年の笠智衆さんに似ている印象で背筋がきりっと伸びて中七のイメージそのもの。心に刻まれた一句になりました。「ひびあかぎれ母の昭和の幸不幸」私の母もこの句に代表される人でした。昭和の前半はまさに戦争の世紀・・・そこに幸せも不幸せも凝縮していた世代であったことは間違えない。あかぎれに味噌擦り込む母を抱きしめたい。「軋轢が詩を孕ませて芽吹くかな(川崎千鶴子)」軋轢による仲違いがどんな詩を想起させたのか詩を孕ませは読み手に多彩なイメージに誘い込む・・・やや弁証法的な理屈っぽさを感じさせるが芽吹くことで合一が生まれたとするなら、感服せざるを得ない。 「明晰の空簡潔の冬木立(稲暁)」冬日和の真っ青な空に葉を落とし切った木立が黙って屹立する。明晰、簡潔・・・言うことなし。「みづなめて舌のざらつく蝶の昼 」蝶々をこんな風に観察して一句にまとめた力に感心していただきました。「日脚伸ぶ日和見主義に生きてきて」ややもすると、日和見の危うさに飲み込まれないよう抵抗を試みるが・・・楽に生きる知恵みたいなものが日和見にあり、なぜか惹かれました。「新コロナをシルクロードという幻聴」素晴らしいところに気が付かれた・・・お手柄に魅かれました。
- 河野 志保
特選句「水仙のまはり透明死にとうなか」:「水仙のまはり透明」は作者の心象風景か。限られた人にしか見えないもののような気がする。鋭敏な感覚と悲壮な展開に胸が締め付けられる。
- 佐藤 稚鬼
特選句「立春大吉座禅の僧のシンメトリー」立春大吉。寒さが極まって春の気が兆す時に参禅の墨染のモノトーンの整然たる姿のシンメトリー。一切皆空の時間と空間共有の景は共感できます。
- 伏 兎
特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」やがて花や葉になる冬木の芽を通して、脳から言葉を絞りだし、紡いでいる作者が目に浮かび、感銘。特選句「冬の橋何か奪はれつつ渡る」何かを得るということは何かを失うこと。そんな人生観が込められ共鳴。あえて冬の橋を渡る、前向きな生き方にエールを送りたい。入選句「ダイヤモンダストとおくに救急車(新野祐子)」耀うスピリチュアルな世界と、不穏な音との対比に注目。印象深い句に仕上がっている。入選句「話したいこといっぱいあった窓に雪」友人や仕事仲間との永遠の別れだろうか。真っ直ぐな表現が心に刺さった。
- 田中 怜子
特選句「枯れ蓮やヒエログリフは何語る」枯蓮の情景が鮮やかに浮かびました。特選句「日輪の重さと思ふしやぼん玉(野﨑憲子)」これも状況が目の前に浮かびました。大き目のしゃぼん玉が虹色に光りながら時にいびつになってゆらゆらしている姿を。「末黒野にキリンの義足鳴る夜かな」確か、キリンの子どもが足が不自由で補装具をつけながら歩いているニュースを見たことがあります。
- 吉田 和恵
特選句「自由の碑わだつみの声冴え返る」あの戦争の大義って何だったのでしょう。戦死した伯父の墓石には享年二十才と刻まれています。特選句「水仙のまはり透明死にとうなか」水仙をとり囲む気が迫ってきます。ん・ん。死にとうはなかばい。問題句「ふたりで見たといふから火事はねたましく」やや!八百屋お七ついに登場か!火事なぞに当るのは止して自分を信じてあげませう。(説教婆か) 自句「をとこおみな綺麗な骨だ軒氷柱」の表記に付いて・・・「をとこ」は只の「おとこ」より存在感があるかなーと思ってそうしました。一方対する女は「をんな」かなとは一瞬思いましたが、まあこちらは普通の「おんな」でいいかと・・・、古人・現代人まあ、あいまいは私ですから、このままで・・・。けしからんという人には へへへ・・・。
- 佐藤 仁美
特選句「おずおずと一輪の梅咲きはじむ」:「もう、咲いてもいいのかなぁ?」と聞こえてきそうです。特選句「立春や若き母来て起こされる」夢の中に出てきてくれた母は、記憶の中で輝いていた頃のお母様なのでしょう。懐かしさと切なさが、入り混じります。
- 竹本 仰
特選句「真夜の香はやわらかき牙ヒヤシンス」選評:ヒヤシンスの香りのなかに或る痛みを感じた、微かな毒性ゆえの美しさというのか、そういうものがよく捉えられていると思いました。虚子の〈白牡丹といふといへども紅ほのか〉に似たもの、でも、美に流されず「やわらかき牙」と美の逆説がしっかり語られているところが心にくいです。虚子の臈たけた見方に対し、青春のいきいきした感性を感じます。特選句「みづなめて舌のざらつく蝶の昼」選評:想像の中の真実味でしょうか、奇麗で儚い蝶の外見をひっくり返したリアルな表現に魅力を感じました。「水」ではなく「みづ」、それが「ざらつく」、濁音の繰り返しが受け入れにくさ、生きにくさを、的確に描いています。一言でいえば、退屈の中にある真実が見事に浮き彫りにされています。これを生活感とでもいうのでしょうか。母音でいえば、五七五の頭のi音のつながりが、長く続く単調さのやりきれなさを思わせてもいます。特選句「春の風吸って吐いて吸って吐いて臭い(銀次)」選評:春というものの生臭さを感じ、その感覚に共感しました。下萌えという季語でも、ちょっと緑がという感覚でとらえがちですが、実はそうではなく、見た目とは裏腹に一気にすべて勃発、という面があります。そういう風に、春風のどこが爽やかなんだ、あれは生臭いんだという面をきちんと表しているようです。ニーチェ先生は、青春とは不愉快なものだよというようなことを仰っていましたが、そういうくもりのない目を感じました。問題句「寒の雨手紙の束を握りしめ」選評:この句の後に?のようなスペースがあるようなヘンな感覚を味わいました。置かれていた手袋のような、この中途感。連句の中の一片が来て、あなた、続けなさいよと言われたような。この言わない感ってどうなんだろう、ありなんだろうか、と妙にもどかしく。町でこんな人を見かけたら、気になって話題になってしまいますが。皆さんは、どう受け取りました? すっかり春めいてきました。淡路島には、非常事態宣言にいっさいかかわりない方が、外出規制を知らないのでしょう、大挙をなして県外ナンバー車が乗り込んできています。実は、コロナ後、ずっとなんですが。ところが、時々コロナの方も来ていたようで。国民の皆さんは本当に我慢を…という傍らで、これがまあ或る地方のいつわらざる実態で。本当に帰りたい子や孫は言いつけ通り帰って来ず、外出を見合わせる地元の住民も多い中で、見も知らない方々がどさっと。うーん、でも、コロナが終息したら、この島にはまた誰も来なくなるとも。ちょうどいいヒマな時の遊び相手になる女の子のような。まあ、淡路島における地方人の感性は、そんなところでしょうか。みなさん、気を付けてください。今後ともよろしくお願いいたします。→ こちらこそ、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
- 高橋美弥子
特選句「紅梅に息深くして佇めり」紅梅の濃香を深く感じながら、しばしその美しさに佇んでいる作者の姿が見える。「息深くして」がよかった。問題句「末黒野にキリンの義足鳴る夜かな」義足のキリンがいることはニュースで見た事がある。義足が鳴るってどう言うことだろう。季語の末黒野と相まって深く味わってみたい句です。
- 野田 信章
特選句「釈迦の手へ冬どんぐりの犇めきぬ」は、三音節で読み下しながらも「冬」で半拍休止して、冬そのものの到来をはっきりと印象付けたい。その上で櫟、楢、柏など山野そのものの結実感の「犇めきぬ」という生気ある把握が一句の内容を豊かにふくらましていると読みたい。そこに自と、秋から冬へ向かうその山野を逍遥し思索する若き日の仏陀ゴータマの人間像をも現出されてくるかと想うところである。新たな視点で仏教への関心を呼び覚ましてくれるのも原始仏教の魅力かと考察するところである。
- 三枝みずほ
特選句「棒っ切れで水を叩いている恋で」地を叩くと棒の反発、土埃、手の痛みを感じるところだが、この作者は水を叩く。水は全てを受け止め、流してゆく。行きどころのない想いを水を叩くことによって納得させようとしている葛藤がある。特選句「末黒野にキリンの義足鳴る夜かな」麒麟が義足であるという非現実が逆に神話や物語で終わらせないリアリティを生み、現代社会の問題に切り込んでいる。いずれにしても麒麟は来た。ここに光を感じたい。
- 野澤 隆夫
特選句「バレンタイン十二個の手にジャンプ傘(藤川宏樹)」幸せ絶頂の作者。「ジャンプ傘」が効いてます。それにしても12個はすごい!もう一句。「春の水寛の戯曲の愁歎場(福井明子)」菊池寛『父帰る』!小生も寛で何句か作句するもイマイチ。春の水を季語に選び、感涙の場面が浮かびます! 秀句。
- 久保 智恵
特選句「今の世に麒麟は来るか椿落つ」とてもきれいな句です。一番好きです。
- 野口思づゑ
特選句「話したいこといっぱいあった窓に雪」何かの事情でもう話す機会が無くなってしまった方と過ごしたお部屋の窓から雪が見えたのかもしれませんね。しみじみとした句です。特選句「立春大吉坐禅の僧のシンメトリー」名僧の坐禅姿は、優れた舞踏家のポーズのように美しいと感じます。「立春大吉」でその姿を讃え、シンメトリーの語感からは静寂な空気が伝わってきます。
- 中村 セミ
特選句「末黒野にキリンの義足鳴る夜かな」野焼きの跡の黒い野にキリンの義足鳴るのだろうかとは思ったが不思議な心象風景だろうと思った。木々等も燃え残って黒くなっているだろうから、それをキリンの義足としたのかもしれないし、春の風に揺れてギシギシと夜に鳴っているのかもしれない。特選とします。
- 石井 はな
特選句「春ですねこんなに青が美しい」この句を読んで、やっぱり春は青だと思いました。どんよりとした空が、真っ青な空になり空気は軽く暖かくなって、季節は青春を迎えているって実感します。/P>
- 稲葉 千尋
特選句「剪定のパチンと鳴りて午後静か」梨畑の剪定音を想像している。園にこもる音。特選句「をとこおみな綺麗な骨だ軒氷柱(吉田和恵)」軒氷柱を男と女の骨とは、この飛躍良し。
- 男波 弘志
特選句「やわらかい土を分け合う菫かな」人間が忘れているもの。対立概念からの脱出。「雪ですか雪でしょうね友逝けり」友との対話が雪の息そのものに。
- 川崎千鶴子
特選句「夜の向こうに失言のように雪(佐孝石画)」雪が降って嬉しいのはほんの少しの雪と幼い頃で、大人になれば、寒くて、生活しにくくなるのを「失言のよう」と表現したのが素晴らしく、失言は後々まで後悔します。「風光る草食系のふくらはぎ」たおやかな女性の丁度良い白いふくらはぎが浮かびます。 綺麗な女性なのでしょう。「野火と野火出逢はないではゐられない」激しい情熱を感じます。「竹藪に身長伸びる薬ある(葛城広光)」:「身長伸びる薬」は巧みだなあと感動です。「末黒野にキリンの義足鳴る夜かな」キリンに義足を付けた話を見たが、末黒野にこれから若葉が芽生える時に「キリンの義足」がもしかしたら真実の足が生えるのかもと思わせる素晴らしさ。
- 新野 祐子
特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」斬新ですね。類想がないのでは。冬木の芽との取り合わせが抜群です。特選句「冬の橋何か奪はれつつ渡る」雪解川ほどではないにしても冬の川を見下ろすと水嵩も多く恐ろしい。橋を渡る時の緊張感みたいなものを「何か奪われる」と捕らえたのにとても共感しました。入選句「野火と野火出逢はないではゐられない」「竹藪に身長伸びる薬ある」どちらも独自の視点でおもしろい。
- 植松 まめ
特選句「話したいこといっぱいあった窓に雪」理屈なしでこの句大好きです。話したかったのは誰でしょうか?私は母です。自分の口下手を悔やんでいます。特選句「シベリアや凍てつく月を踏み砕く(夏谷胡桃)」シベリアの句は戦争を体験された方かと思いました。気になる句「人体のごとく冬薔薇点検す」冬はわが家では薔薇の剪定と言う大仕事があります。 その時根元にカミキリ虫の幼虫に食害されていないか気をつけて見ます。健康診断みたいです。以上ですよろしくお願いします。
- 三好三香穂
特選句「しぐるるや傷跡なぞるレコード針」私の青春時代は、まだLP版のレコード゛さして音楽好きでなくとも、家には何十枚かのLP版があり、何回も聞いて擦り切れそうものもあり、時々ノイズがはいる。そんな青春の甘酸っぱく、ほろ苦い思い出を蘇らてくれました。「兜太忌や明るく太く野を歩く」文字通り、兜太師の明るく元気な様を受け継いで、歩んでいきましょう。1点の曇りもなく、明るい句調に励まされる1句てす。
- 銀 次
今月の誤読●「冬の橋なにか奪われつつ渡る(すずき穂波)」彼は橋の中途まできたとき、傍らに彼女がいないのを知った。ふり返ると彼女は橋のたもとでじっと足もとを見たまんま佇んでいる。「なんや?」彼が聞いた。彼女はしばらく黙ったのち、ほんの小さな声で「うち、行かれへん」とつぶやいた。「なんでや急に。一緒に行こうて言うてくれたやないか」。またしばらく沈黙がつづいたのち「この橋渡ったらもう帰られへんのやろ」と彼女が言った。「そうや。その覚悟や。もうこんなとこに未練はない」。「そやけど」。「そやけど、なんや」彼の言葉にはわずかに怒気が感じられた。「なんもかも捨てるなんて、うちようしやへん」。「捨てなあかんねん。そうせなわてらの未来はあれへんねん」。「お守り、忘れてきた」唐突に彼女が言った。「そんなもん、どっちゃでもええ」。「ようない!」小さな悲鳴のようであった。ふたりはじっと見つめ合った。吹き出すように彼女の涙がどっとあふれた。橋の下の小川の水だけが聞こえていた。「わしは行くで」と彼は歩き出した。彼は渡りきったところで、もう一度ふり返った。ちょうど橋をはさんでシンメトリーのようにふたりは立っていた。長い時間であった。彼はなにかを振り切るようにきびすを返して歩き去った。彼女は川のせせらぎのなかに、なにかプツンという音を聞いたように思った。
- 重松 敬子
特選句「風花や触ってみたき馬の腹」素直に、自分の気持ちを一句に。風花が効果的で成功していると思います。作者の無邪気な好奇心が読む者を楽しくさせます。
- 森本由美子
特選句「新しき日常レタス剥がしをり」ニューノーマルとやらに生活体系を日々切り替えるしんどさ。まじめにレタスでも剥がしていれば未来がみえてくるのか。レタスの新鮮さが大きな救い。特選句「野火と野火出逢わないではゐられない」走り寄る野火の美しさの背景に、避けられぬ宿命が見事に詠み込まれていると感じます。
- 松岡 早苗
特選句「末黒野にキリンの義足鳴る夜かな」テレビで見たキリンの「はぐみ」のことを思い浮かべました。後ろ足が曲がった状態で生まれた「はぐみ」は、最初は立ち上がることもできなかっ たけれど、義肢のおかげで今では走ることもできるまでに成長しています。しんとした夜の末黒野に生命の蹄の響きを聞いたような気がしました。
- 山本 弥生
特選句「雪女郎美人の定義なけれども(寺町志津子)」雪女郎は美人だと想定するが、八頭身美人かマスク美人か定義は無く色々と想いを楽しんでいるところが面白い。 初参加の山本弥生です。愛媛県松山市に生まれ育ち結婚、平成二十四年埼玉県転居、現在に至る。どうぞよろしくお願い致します。
- 佐孝 石画
「寒明の空の律調たねを忌よ」瞼を閉じたままの世界。黒い雪雲が低く空を押し下げる北陸の冬。人々は己の内側への旅をはじめるモノクロームの季節。太平洋側の「寒明けの空」は突き抜けるような青空だったろう。空に吸い込まれるように色という色はホワイトアウトして、内なる風景は視覚から聴覚へとその共振装置は移行していく。そんな内なる光芒には会いたい人も尋ねてくる。「たねを忌」。会いたい。話したい。年賀状にはいつも、僕の句を一句挙げて、心震えるような評を書いてくれた。みんなに書いていたんだろう。嬉しかった。海程の大会ではいつも声を掛けてくれた。酒宴でも世間話しなど一切無く、ずばり俳句の話に切り込んでくる。富山の全国大会が初めての出会いだったろう。風呂場で話しかけられた。あなたが佐孝さんか。作品のイメージとまったく違ったと。その時の僕は戸惑っていた。でも今は分かる。それぞれの作品を読み込んでいたからこそ、現実世界とのギャップが生まれていたのだろうと。そしてその差異も楽しんでいたんだろうと。香川句会にはたねをさんがいたと聞いた。この句を見て今もここにいると感じた。たねをさんのように僕は俳句を楽しんでいるだろうか。愛しているだろうか。またたねをさんの背中が見えて来た
- 菅原 春み
特選句「風花や触ってみたき馬の腹」共感する句です。まさにこんな日に優しい目をした馬の腹を触ってみたいような。寒さとぬくもりを感じます。特選句「やわらかい土を分け合う菫かな」なんでもない句のようでいて、土を分け合うといところがアニミズムかと。菫もやわらかい土に喜んでいる。こんな時世だからこそほっとするひとときをいただきました。
- 漆原 義典
特選は「ひひあかぎれ母の昭和の幸不幸」です。ひびあかぎれは、昭和から平成令和と流れもう古き懐かしい言葉に近くなりました。前期高齢者の仲間入りした私にはジンと心に響きます。母への愛情が深く感じられる句をありがとうございました。
- 小宮 豊和
特選句「打音の森近くに父が棲みついて」この父はこの世の人ではないと思われる。野球かゴルフの森林中の練習風景が心に浮かぶ。作者がもし男性であれば男の父恋というめずらしい組合せが成立する。
- 吉田亜紀子
特選句「尻振りて鴨のお散歩三四羽」鴨の親子だろうか。一生懸命歩いている様子が可愛らしい。「尻振りて」という言葉に躍動感を感じた。思わず応援したくなる俳句です。特選句「存分に梅を見てきし日の手相(谷 孝江)」「存分に」という言葉で、十分に思うがままに堪能してきましたよ、という爽快感がある。私も同じような行動をとる。帰りの電車で楽しかったなぁ、はしゃぎすぎて疲れたなぁ、というその瞬間に何故か微笑みながら両手を広げるのである。とても清々しい気持ちの良い俳句です。問題句「山茶花の花びら国語の本の5ページに(松本美智子)」国語の本を開くと昨年だろうか、拾った山茶花の花びらが挟まっていて、その時期は5ページのところ。記憶をたどり、こんな事があったなぁ、と思い出してまた閉じる。その光景が見えてきたので、素敵な句だなぁと思いました。ただ、少し長いかなと感じました。
- 藤田 乙女
特選句「新しき日常レタス剥がしをり」: 「新しい日常」と「レタス剥がし」の取り合わせがとてもぴったりしていて斬新な句に感じます。特選句「あの ほら 言葉になる前冬木の芽」: 「あの ほら」の呼び掛けや空白の部分に自ずと共感したり想像力をうんと膨らませたりする句です。とても惹かれます。
- 田中アパート
特選句「日脚伸ぶ日和見主義に生きてきて(植松まめ)」後期高齢者の生き方の見本ですな。毎日、いいウンコがでるでしょう。入選句「存分に背中を掻いて冬日の犬」ののちゃんちのポチみたいですな、いいね。
- 亀山祐美子
特選句はありません。饒舌な句が多いように思います。想像の余地が無く作者の感情の押し付けがましさが目につきます。私は感情は物で語らせよと教わりましたので寡黙な句が好きです。今回の選句は特に疲れました。皆様もコロナ疲れでしょうか暗い感じの句柄が多いように見受けられます。一日も早く終息して穏やかな日常が取り戻せますよう祈るばかりです。
- 稲 暁
特選句「二つの肺の黒くなる世界地図」作者は世界地図の中に二つの黒い肺を幻視している、と解釈した。それが何を暗示しているのか、様々に想像される。問題句「真夜の香はやわらかき牙とヒヤシンス」:「やわらかき牙」という意外性のある表現に注目したが、今ひとつしっくり来ない。私の感覚に問題があるのかも知れない。
- 松本美智子
特選句「寒月のかけら掴まえ恋ふふふ」:「寒月のかけら」・・・と取り合わせた「恋」と「ふふふ」というオノマトペが意外性がありかわいらしい句だと思いました。私がいつもこの時期に月の句を作ろうとしたときには,凛と冴え返る冷たい月しか思い浮かべる事しかなかったのですが,このようなかわいい句もいいものだなあと感じました。
- 荒井まり子
特選句「春ですねこんなに青が美しい」自粛自粛のこの一年マスクが日常になりもうコロナ以前には戻れない。優しい句にホットします。いつまでのコロナ。アフターコロナが心配です。
- 柴田 清子
特選句「どの木にも春が棲みつきそうな日よ」いよいよ春!山が笑い出す頃の木々の様子を、うまく言い表している。作者自身春のど真ん中に。
- 高橋 晴子
特選句「日輪の重さと思ふしやぼん玉」そういわれれば不思議な感覚でそんな気がするから面白い、空を渡る日輪が軽くも感じられる。特選句「冬の橋何か奪はれつつ渡る」橋を渡る感覚にはいろいろな思いがあると思うが、作者は〝何か奪はれつつ?と詠む。なるほど此岸から彼岸へ、あるいは空間的な不安感、あるいは・・とにかく何かである。今まで自分が感じたことのない感情で面白かった。
- 野﨑 憲子
特選句「春の暮水飴のよう都市国家」掲句の中七<水飴のよう>の措辞に鳥肌が立った。一見、駘蕩とした晩春の風情を詠んでいるようだがそうではあるまい。溶けて混じり合い一つに固まろうとしている都市国家・・。近未来の姿にならないように俳句で出来ることは何かと強く思った。問題句「をとこおみな綺麗な骨だ軒氷柱」文語口語チャンポン表記なので一瞬誤記かと思った。しかし、何度も読んでいると軒氷柱に見立てた<をとこ><おみな>が、古い漢と現代女性のように見えてこのままでなければならないように感じた。<綺麗な骨>とは、優れた表現だと思う。
袋回し句会
二ン月
- 二ン月の墨書のゆらぎ銀屏風
- 野﨑 憲子
- 恋文を丁寧に折る二月かな
- 藤川 宏樹
- 二ン月の逃げるを追いて引き戻し
- 三好三香穂
ホワイトデー
- ホワイトデーブラックマンデーさようなら
- 三好三香穂
- ホワイトデー今さら何にも言えないわ
- 柴田 清子
- テアトロン広場ホワイトデーの夕日かな
- 野﨑 憲子
風光る
- アールデコ調感染グラフ風光る
- 藤川 宏樹
- 標本の蝶の風呼ぶ光けり
- 田口 浩
- 声かける言葉が光る風光る
- 柴田 清子
- 頬杖の女の黒髪風光る
- 野﨑 憲子
亀鳴く
- 亀鳴くや闇に体温奪はれる
- 柴田 清子
自由題
- ヒマラヤの大気はシルクの雲まとひ
- 佐藤 稚鬼
- バラ園の老いのしくじり続きもある
- 田口 浩
- タンポポのやうなこどもとすれちがふ
- 柴田 清子
- 闇の底焚火の裏にて人を許す
- 佐藤 稚鬼
- 昨日わたしは風花になつたと 鬼
- 野﨑 憲子
【通信欄】&【句会メモ】
コロナ禍の中、藤川宏樹さんのご厚意で「ふじかわ建築スタヂオ」で句会を開くことが出来ました。参加者は6名でしたが、充実した楽しい句会でした。藤川さん有難うございました。また宜しくお願い申し上げます。
2月28日放映の「俳句王国が行く」最終回がさぬき市音楽ホールでありました。NNK松山放送局から香川の若手俳人をと松本勇二さんに出演者の依頼があり、松本さんが三枝みずほさんを推挙してくださいました。みずほさんは爽やかに凛然と見事に大役を果たしてくださいました。観覧者参加の最後の俳句バトルで本会の田口 浩さんが俳句王に選ばれたのにも感激しました。お二人共おめでとうございました!
Posted at 2021年3月2日 午後 01:15 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第113回「海程香川」句会(2021.01.16)
事前投句参加者の一句
初夢に蝶飛ぶ人の幸(さち)思ふ | 鈴木 幸江 |
コロナ舞うシャドーダンスやスナフキン | 田中アパート |
子授け星なら爪先こちらイヴの街 | 吉田亜紀子 |
極道の家の餡餅雑煮に座る | 田口 浩 |
青天の霹靂のまま去年今年 | 野口思づゑ |
土手改修土嚢105個年を越す | 野澤 隆夫 |
森閑と朽葉の色をまといて鳥 | 福井 明子 |
しなかやにストッキングの裂け聖夜 | 高橋美弥子 |
竜宮の奥ぷわっと人情の湯があり | 久保 智恵 |
人日やカレーうどんの鉢の底 | 松本美智子 |
迷宮に描くグリフォン冬の星 | 松岡 早苗 |
夫婦とう小舟浮かばせお元日 | 伊藤 幸 |
白雲に繭の明るさ寒波来る | 河田 清峰 |
ひとむらの寒梅白い母とゐる | 小西 瞬夏 |
つぶやきの欠片おとして女正月 | 三好三香穂 |
煮凝りが平ら鍋にはイマジンが | 竹本 仰 |
ふはふはと咳き込みながら根深汁 | 田中 怜子 |
晴れなれどこの溜め息の雪女郎 | 豊原 清明 |
柊やたくさん捨てて聖になる | 夏谷 胡桃 |
手が触れてほっぺ真っ赤やカルタ取り | 漆原 義典 |
老いるとは許し合うことですか雪 | 佐孝 石画 |
越前の朱塗り淑気の立ち昇る | 寺町志津子 |
一葉忌大根の葉のわさわさと | 石井 はな |
極月やカマボコ板が飛んでいる | 榎本 祐子 |
初鶏や若冲の赤際立ちて | 佐藤 仁美 |
姫始アラビアンナイトの木馬 | 川崎千鶴子 |
初夢の寄り添ひ囲む食卓よ | 菅原 春み |
焚火臭一すじ父存命の初山河 | 野田 信章 |
耄碌も三昧にあり年の暮 | 小宮 豊和 |
雪割草小さき告白銛のごと | 中野 佑海 |
甘酒は河童の流れるような夢 | 葛城 広光 |
埋め火のやうな乳房と生きてをる | 谷 孝江 |
裸木に星咲き漁夫らの白い墓 | 津田 将也 |
雪だるま悪いこともうせえへんから | 増田 天志 |
雪解道うじうじぐずぐず生きて行こう | 小山やす子 |
行間や蛇も目瞑ることをする | 男波 弘志 |
冬銀河旗幟鮮明の和巳居り | 滝澤 泰斗 |
雪の声過去たちが来て立ち往生 | 増田 暁子 |
爪を切る冬の銀河に手は届く | 植松 まめ |
寒月光ガラスの街を司る | 月野ぽぽな |
モノクロのくしゃみ三丁目に消えた | 高木 水志 |
冬木一本おずおず空に話しかけ | 森本由美子 |
仏壇のお飾り百均のゆるびかな | 荒井まり子 |
寒月光近い昔と遠い今 | 柴田 清子 |
廃村に墓標のありて寒椿 | 銀 次 |
自動ドアの無音におびえ雪女 | 新野 祐子 |
冬のアンニュイ頭に瘤のある金魚 | 伏 兎 |
水・酸素・Amazon遠き枯野かな | 三枝みずほ |
睡眠を生きがいとして駄犬かな | 稲 暁 |
白梅や内なる扉開く気配 | 重松 敬子 |
林檎見つつ赤くなる我 外は雪 | 高橋 晴子 |
やまと餅花あの日の餅花震災忌 | 若森 京子 |
初雪はむかし語りのプロローグ | 吉田 和恵 |
初御空ひなの如くに殻破る | 藤田 乙女 |
空知らぬ鳥の形よ氷張る | 河野 志保 |
昼風呂の乳房の重し久女の忌 | 亀山祐美子 |
ネイリストしもやけググる指づかい | 藤川 宏樹 |
石蕗の黄や人影しるき狼煙台 | 大西 健司 |
疾走の鼬曲がれず来世まで | 松本 勇二 |
煮凝は昭和のかたち朝ごはん | 稲葉 千尋 |
思い出すふわっと膨れる餅の皮 | 中村 セミ |
顔入れてセーターの中わが宇宙 | 十河 宣洋 |
連れ合ひの股引を干し対峙せり | すずき穂波 |
磨硝子の古沼を縫いゆく穴惑 | 佐藤 稚鬼 |
兜太逝きて三年白梅青し | 島田 章平 |
白鳥来ビールの泡の消えた街 | 桂 凜火 |
ものすごく冬晴れ君とリンゴのシエイク | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「夫婦とう小舟浮かばせお元日」喩えが絶妙。明るい正月が見えてきます。
- 十河 宣洋
特選句「極道の家の餡餅雑煮に座る」特選というより、私の思い出。祖先が讃岐ということもあって、私は餡餅の雑煮が好きだった。それを友人に話しても信じてもらえなかった。特に女性は気持ち悪いと言っていた。でも私はこの雑煮は好きである。いまでも。よって特選。特選句「埋め火のやうな乳房と生きてをる」埋め火のような乳房。古いというのかそれともまだまだ火が熾きるというのか不明だが。私は後者の意味で頂いた。これからの人生を楽しもうという感じである。
- 小西 瞬夏
特選句「焚火臭 一すじ父存命の初山河」上五の字余り。ここに思いの丈が詰め込まれている。ややしつこいが強烈だ。父の存在感が「初山河」という雄大な景に託されて迫ってくるようだ。
- 小山やす子
特選句「顔入れてセーターの中わが宇宙」ほんの一瞬だけどセーターをかぶった時に感じる暖かくて暗い瞬間を自分の宇宙と表現した人間性を頂きました。
- 野澤 隆夫
令和3年!時間が早いです!特選句「三四郎それから門へ月ふたつ(田中アパート)」酔っぱらった漱石。三四郎池を巡り東大赤門から出てくると,夢十夜!月が二つ出てた。もう一つ「杣の手業の手籠は雪の明かりで編む」も。散文調ですが、雪国の生活が目に浮かびます。ノスタルジー感満載。のどかで幸せな風景。
- 桂 凜火
特選句「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く(高橋晴子)」時を止めることはできないけれど、ふとこのままがずっと続いてくれたらと思うことがあります。「林檎ひとつ」は映像がはっきりしていて印象深い句でした。
- 藤川 宏樹
特選句「極道の家の餡餅雑煮に座る」我が家の正月も餡餅雑煮、味噌に溶ける餡と餅の取り合わせが絶妙。それを極道の家で座して食するその味は・・・。すでに人生の過半を過ごしてしまったが、その味を一度経験できていたら良かったかも知れないなぁ。
- 若森 京子
特選句「モノクロのくしゃみ三丁目に消えた」くしゃみで人間の存在を表現し、まるでモノクロ映画の、下町風景の映像が浮かぶ、ストーリーが浮かぶ、面白い一行。特選句「寒月光近い昔と遠い今」人間老いてくると昔の事が鮮明に、記憶がよみがえるのに、現在今の生活で忘れる事が多くなる。季語〝寒月光?が人間の性(さが)によく効いている。
- 河野 志保
特選句「雪だるま悪いこともうせえへんから」こんなふうに雪だるまは溶けていくなあと思った。可愛いやら可笑しいやら。関西弁の響きが効いている。好き嫌いの分かれる句かもしれない。
- 増田 天志
特選句「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」林檎の圧倒的存在感を示したいのであろう。刻に杭打つとは、時の流れを止めるという意味の強調。この句の巧みさは、林檎を、打つ杭と、見立てていること。どんと、置かれたのである。
- 久保 智恵
特選句「雪が降る家族が透明になる頃(佐孝石画)」平凡ですが<家族が透明になる頃>は、美しい表現だと思いました。
- すずき穂波
特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」君と林檎をシェイクする、全く変ちょこな妄想?でもその妄想に浸っている嬉嬉感の何と真っ直ぐなこと?特選「埋め火のやうな乳房と生きてをる」老いに向かう女の句。「乳房と」「わたくし」を突き放し関係性を持たせている点、新鮮。問題句「冬銀河旗幟鮮明の和巳居り」小説『悲の器』の高橋和巳かと思う。特選にしたいところなのに最後に外した。「旗幟鮮明」に少し「言葉酔い」というか頼り過ぎなところが見えるかな…と。それともこの熟語がこの句の命なのだろうか?というので問題句。
初参加のひと言「海程香川」さんのブログは以前より時々拝読、「句会の窓」の鋭さにドキドキですが、どうぞ宜しくお願いいたします。
- 葛城 広光
はじめまして。葛城広光です。粕汁とお茶漬けとオレンジジュースが好きです。大阪市生まれ箕面市在住です。よろしくお願いします。
特選句「極月やカマボコ板が飛んでいる」寒い中かまぼこ板は誰が飛ばしたのだろう?ひとりでに飛んだ風で楽しい。特選句「自動ドアの無音におびえ雪女」雪女はおびえがちで気が弱いのか?コンビニとかに用事を思い出して雪女が面白さ。問題句「一円玉ざくざく光るコロナ菌(小山やす子)」コロナが増える現実をみたくないものだ。夢の句であってほしい。
- 大西 健司
特選句「城門の乳鋲さびたる雪しぐれ(増田天志)」なかなか渋い句だがしっかりと書けている。問題句「雪だるま悪いこともうせえへんから」「白髪に君タンポポをあげましょう(榎本祐子)」おもしろい句だがどこか物足りない。
- 寺町志津子
特選句「愛を飢え独り聴くなり除夜の鐘(島田章平)」普通のいい方は、「愛に飢え」と思いますが、「愛を飢え」とされたところに、未だ一度も愛の交錯が無かった方ではなく、かつて相思相愛の方がいらした作者と思いました。おそらく、その方を亡くされて、独り聴く除夜の鐘。作者の底知れぬ寂寥感が伝わってきて頂きました。なお、「老いるとは許し合うことですか雪」「耄碌も三昧にあり年の暮」、「老い」を詠み込んだ作者の自己心情、自己観察(おそらく)に、我が身を振り返り、納得、共鳴しました。
- 中野 佑海
特選句「竜宮の奥ぷわっと人情の湯があり」私今入浴剤に凝っていて、必ず入れて入ります。毎日のお風呂が楽しみで。竜宮城ってお高くって肩凝るかと思っていたけど、結構おばさん連中なのね!特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」冬晴れはとても素敵。あの切れ者の魅惑に負けて、白雪姫と王子は甘いリンゴのシェイクにされちまったよ。さて、私はこれを飲んで、若返るとしようかね。美魔女の継母より。並選句「初夢に蝶飛ぶ人の幸思う」とても暖かい心の方だなって。人の幸せを祈れる寛容さが欲しい。「コロナ舞うシャドーダンスやスナフキン」みんなコロナに惑わされて右往左往。スナフキンのように一人気儘に旅をするのが、良いのさ。「極道の家の餡餅雑煮に座る」これはもう無謀以外の何物でもありません。取り敢えず食べて無かった事に。「柊やたくさん捨てて聖になる」:「ひいらぎ」が「ひじり」になるのか?まあ成らない事も無いか。昨年の12月伊勢に行って、どうしても欲しいと思っていた「蘇民将来」の御札の付いた注連縄を買って来ました。それには柊の葉が沢山付いていて触ると痛いこと、痛いこと。しかし、多分コロナウィルという吸血鬼には絶対勝てると思う私でした。「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」林檎どうよ。お尻から腐るよ。どうぞ、そんなに怒らないでお手柔らかに。「樹の根っこ踏み踏みつ下る冬遍路」懐かしいな。遍路は夏より断然冬の方が快適。夏は直ぐ熱中症だけど、雪が降っても冬の方が楽だった。南予は直ぐ雪が積もる。足元だけはお気を付けて下さい。「雪の声過去たちが来て立ち往生」美空ひばりの歌が聞こえて来そうです。こんなに行き詰まったら、ドミノ倒しです。「モノクロのくしゃみ三丁目に消えた」映画「AIways三丁目の夕日」にどうして「小雪」がキャスティングされていたのか今でも不思議です。
昨年の力みは何処へやら。コロナウィルスにかこつけ休業中の中野佑海
- 銀 次
今月の誤読●「初雪はむかし語りのプロローグ」おんや、ちらほらしだしたようだの。今年はちいと早えかの。明日は積もっぞ。これから雪掻きが大変だべし。おめえも手伝わなきゃなんねえぞ。酔うたついでだ、おめえにわしとおばあの話をしてやっか。だが内緒だぞ。だれにもいうんじゃねえぞ。わしとおばあはじつは駆け落ちもんでの。むかしゃあ縁談は家と家で話し合いでとったりやったりしてたもんじゃ。じゃがわしらは好きおうて好きおうて、どうしても一緒になりたかった。じゃで示しあわせての、初雪の降った夜に逃げようと約束したのよ。ほら雪が積もれば足跡が残るまいが。ふたりとも風呂敷一つずつ背負うての、何日も歩いての、汽車に乗っての、この町さきただ。わしゃ漁師になっただ。おばあは漁場で働いただ。ふたりとも慣れねえ仕事での、わしゃ何度も殴られた。おばあもあかぎれいっぱいつくっての、あんなに辛かったのははじめてだった。じゃがの、一つ布団に身体寄せればよ、辛えこともふっとんでよ、天国よ。二年してようやく慣れたころに、おめえのおどが生まれたじゃ。その日も初雪での。それから初雪の降るときはええことが重なってよ、おめえが……、コラ、どこさ行くだ。ここからがええとこだってのによ。えっ、何度も聞いた? おども知ってる? 内緒だってのにだれさ喋っただ。わし? わしが喋るわけえねえずら。おばあもなに顔を赤くして笑ってるずら。
- 田中 怜子
特選句「日脚伸ぶ句帳をこぼれる鳥の声(重松敬子)」こんな優しい穏やかな陽だまりで句帳をひろげるなんて、うらやましい。特選句「裸木に星咲き漁夫らの白い墓」とても気持ち良い風景、映像が浮かびます。何があろうと宇宙、地球の営みは美しい。
- 佐藤 仁美
特選句「昼風呂の乳房の重し久女の忌」暗くなりがちな女の性を、「昼風呂」と言う明るさの中に表現した所が見事だと思いました。特選句「廃村に墓標のありて寒椿」誰も居なくなった村の古びた墓標と、寒椿の鮮やかな紅の対比で、なお寂しさが深まります。
- 植松 まめ
特選句「自動ドアの無音におびえ雪女」の自動ドアと雪女の取合せが面白い。わが家が自動ドアを生業としているので特にひかれた。特選句「デッサンの女足組む寒の入り(谷 孝江)」の句も美しいモデルがポーズをとっているアトリエをそっと覗いてみているようで。
今月も素敵な句が沢山あり選句に悩みました。難しい言葉は辞書とスマホで検索して調べました。勉強になります。
- 津田 将也
特選句「あなたは杖をステッキと言う春野(三枝みずほ)」さしずめ、俳人である私に「杖」と聞いて想像する人物は?と質問されたら、「杖」の芭蕉の旅姿だ。もし「杖」に剣の仕込みがあるなら、勝新の「座頭市」と言ったところ。反対に「ステッキ」だと、おどけたマイムのチャップリンだ。本来の「杖」の目的は、人の歩行を助ける補助具なのだが、この目的以外でも利用される場面は多く、昭和初期ごろまで見かけられた。例えば、掲句の「あなた」のように、ファッション性を際立てる小道具として愛用する紳士諸氏もいたわけだ。時には「ステッキ」が重荷となり、置き忘れてくることも屡々だ。惚れた弱みで「あなた」の妻、つまりこの作者は、「あなた」のために足早に「春野」へと取って返す。情景が「春野」であったからこその、こんな楽しい想像を可能とする俳句となった。特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」:「ものすごく」とは、ある程度の基準を超越して凄い、凄ましいということ。従ってこの空は、雲一つ無い、まったく晴れわたった冬の青空であるのだ。「リンゴシェイク」は、細かく切ったリンゴに牛乳とハチミツを入れミキサーに入れてつくるが、これがまた冬空の雲とは相似の色合であり、両方のコントラストがおもしろい俳句となった。
- 伊藤 幸
特選句「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」テーブルに置かれた林檎ひとつの存在感の何と大きい事か。人類の招いたパンデミックコロナ禍、果たして人類は如何締め括るつもりであろうか。作者ならずも杭を打ちたい気分である。
- 男波 弘志
特選句「寒鮒の飴炊きとやら恋とやら(田口 浩)」鮒の泥、それを連想すれば恋の深さが観える。今回は特選一句のみです。
- 福井 明子
特選句「連れ合ひの股引を干し対峙せり」:「連れ合ひの股引」を「干す」のは、倣いとなっている、わたくしの役目。日常のくたびれた関係性が、寒風になびいています。対立や排除、嫌悪、というのではなく、今、何に対峙するのかー。「精神のありか」が立ち上がってくる一句です。特選句「デッサンの女足組む寒の入り」モデルの女の、足を組む下肢の長さが、眼前に伸びてきます。デッサンですから線描でしょうか。「肉」ではなく、「骨格」のようなイメージ。「女足組む」、ということばの意志的な姿勢が、寒の入りの季語と呼応しながら、象徴的な句になっていると思います。
- 竹本 仰
特選句「爪を切る冬の銀河に手は届く」選評:銀河は天上にあるのではなく、ここも銀河だという趣きかと取りました。爪を切るときって、どういう時なのかというと、ふいに自分のスペースを見つけた時ですよね。それこそありきたりなスペースかもしれないけれど、手触りな時間ですね。このスペースに銀河が近づいてきた、そしてそこにいる銀河人発見の瞬間であるというか、それが無理なく伝わってくるところがよいと思いました。特選句「雪が降る家族が透明になる頃」選評:なぜだか、ザ・ピーナッツ「ウナセラディ東京」の岩谷時子さんの歌詞?街はいつでもうしろ姿の幸せばかり…というのを思い出しました。家族が透明になるって、どういうことなんだろう?これが核心ですが、家族の原点というか、なぜこの家族ができたんだろう?というような幼いころから何度かよぎった問いがふいに鋭く来たというところでしょうか。クリスマスソングの、或る裏面がぬっと出て来た感じがしました。特選句「あやふきに遊ぶが楽し冬北斗(野﨑憲子)」選評:いまどきこんな句を見ると、どきっとしますが、これはいまどきではない話でしょう。表現する者にとってのメタフィジックな内容かと思いました。芭蕉をはじめ、連句の宗匠などは常にこの心がけだったのでしょうね、のるかそるか。芥川龍之介の俳諧鑑賞によると、芭蕉はけっこう魑魅魍魎など怪奇趣味があったのではとありましたが、たしかに紀貫之が仮名序で「鬼拉の体(きらつのてい)」のようなことを言っているのも、もともと芸術とはそんな「あやふき」ところまで行かなきゃダ メだよと言っていたのかも。などなど、思いました。以上です。
コロナ禍、コロナ禍と聞きつつ、自分の身にあるこの禍は何だろうと、そんなところで生きています。しかし、医療現場の方たちは、もっと凄いんでしょうね。そちらとこちらのラインはごく薄いんだろうなと思います。そういう身の回りの現実感があり、でも生きるとは常にそうであったらしいとも思え、今朝も気合でいきます。みなさん、本年もよろしくお願いします。
- 増田 暁子
特選句「寒月光ガラスの街を司る」寒月がビル街のガラス窓に差し込み、反射しているのが、街を支配し管理している様です。情景が目に浮かび作者の感覚鋭く、感激です。特選句「 寒月光近い昔と遠い今」老いて社会から離れると昔は近く、今は遠いです。少し寂しいがそれも昔の経験者の役目かな。はっとして目が醒めた思いです。並選句「老いるとは許し合うことですか雪」そうかも知れないですね。我が家も近辺も。「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」に杭打つが臨場感を感じます。「寒鮒の飴炊きとやら恋とやら」中7下5の軽快な音がとても面白い。「初雪はむかし語りのプロローグ」自分史を語る序曲ですね。
- 河田 清峰
特選句「やまと餅花あの日の餅花震災忌」二十六年経っても忘れられない一月十七日の餅花が哀しい。
- 榎本 祐子
特選句「耄碌も三昧にあり年の暮」境に入れば耄碌も素晴らしい。自在の境地。年の暮も重層性があり納得。
- 滝澤 泰斗
特選二句「煮凝りが平ら鍋にはイマジンが」たいら鍋に煮凝りなら前夜は家族か友達ともつ鍋でもしたか・・・そして、イマジンなら、異邦人も一緒にいる景が見えた。イマジンの歌詞のように想像してみました。中村哲さんが言う、みんな食べられる世界。貴重な句として記憶にとどめたい。「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」圧倒的な水量と豊富な酸素量を持つアマゾン。そのアマゾンが現代文明のITの旗手Amazonに象徴される「現代」に侵されているような一句としていただきました。「ひとむらの寒梅白い母とゐる」白い母はいくつになるだろう。ひとむらの寒梅との取り合わせが好感。「補聴器にころころ産声冬木の芽」補聴器を通して聴く孫の産声。それはころころとした赤子そのもの・・・冬木の芽の季語に合っている。「喋る口喰ふ口マスク齧りかけ(すずき穂波)」滑稽なるかな人間、そんな人間模様をシニカルにとらえて面白し。「寒月光近い昔と遠い今」鮮明な記憶、おぼろげな記憶が遠近感の中に月の光に蘇る様をうまく表現した。「冬のアンニュイ頭に瘤のある金魚」頭に瘤がある金魚はらんちゅうとかいうらしい。冬のアンニュイな感覚をらんちゅうと捉えたところに共感。
- 吉田 和恵
特選句「ひとむらの寒梅白い母とゐる」母もただの女という現と永遠の母という幻の間の抒情かも知れないと思いました。特選句「杣の手業の手籠は雪の明かりで編む(津田将也)」雪深い村・寡黙な杣人が夜なべて籠を編んでいる静かな情景が目に浮ぶようです。今回は、抒情の句に惹かれま した。問題句「雪だるま悪いこともうせえへんから」穿った見方をすれば、ブラック・ユーモアにも取れますが、「よい子はみんななかよしこよし」はなんだか怪しい。そんな感じ。本文
- 島田 章平
特選句「散り敷きし山茶花の意地華の土」椿はポトリと落ち花の姿を留める。山茶花は一枚一枚の花弁が舞い散り、花の形を留めない。桜も然り。そこに滅びの美学の様なものを作者は見たのだろうか。「華の土」に作者の美意識が見える。本文
- 松岡 早苗
特選句「雪の五線譜ピロロン奏でてみましょうか(伊藤 幸)」:「ピロロン」という擬音語が何ともいえずよい。軽やかにきらきらと舞い落ちる雪に、思わず両手を差し出したくなる。特選句「冬のアンニュイ頭に瘤のある金魚」冬の句に夏の象徴のような金魚。その取り合わせに一瞬ぎょっとしながらも、鮮烈で挑戦的なこの句の魅力に引き込まれた。冬日の射す薄暗い部屋に置かれた金魚鉢。グロテスクな瘤をもつ真っ赤な冬の金魚に、作者の物憂いこころは何を重ね見ているのだろうか。
- 豊原 清明
特選句「コロナ舞うシャドーダンスやスナフキン」二つのイメージ、正確には三つのキーワードから、動きの映像が見えるよう。問題句「しなやかにストッキングの裂け聖夜」語の面白さで勝負の句。ストッキングの女性の姿が、ドキッとする。
- 重松 敬子
特選句「雪解道うじうじぐずぐず生きて行こう」人生の達人の詠まれた句でしょう。思わず笑ってしまいました。まるで私のことを言われているようです。今年も元気で頑張ります。
年明け早々個性的な多くの句に出会え、今年も楽しみです。一年間勉強をさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
- 三枝みずほ
特選句「爪を切る冬の銀河に手は届く」爪を切った手をかざすと冬銀河という生命体、宇宙がある。手は届くと言い切ったことで精神的な吹っ切れ、清々しさを感じた。
- 高木 水志
特選句「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシエイク」甘酸っぱい林檎のシェイクが冬晴れと響き合っていて清々しい。
- 森本由美子
特選句「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」機知にとんだ句。<遠き枯野かな>が人間としての感性をしっかり支えています。個人的なつぶやきですが、<水.酸素>が少し重く感じるので<気体.液体>くらいにしてはどうかと思いました。問題句「煮凝りが平ら鍋にはイマジンが」<鍋の中(または底)にはイマージン>のほうが読みやすいように思いました。
- 亀山祐美子
特選句はありません。問題句『杣の手業の手籠は雪の明かりで編む 』よく分かる説明文。散文。俳句だと云われると首を傾げる他ない。全二十文字。三つの「の」が間延びしている。「手籠は」の「は」が説明的。「杣」「手業」「手籠」「雪」「明かり」「編む」後二文字。外せないのは「手籠は雪の明かりで編む」だろう。<杣手業雪の明かりで編む手籠> <手籠編む杣の手業へ雪明かり><雪明かり掬ひ編み込む杣手籠> 段々作者の意図から離れてゆくようでウンザリするが十七文字に収める工夫は必要だと思う。
「海程香川」句会では感情移入感情優先の作品が目に付く。同感はするが感動はしない。無機質な物に語らせた想像の余地のある寡黙な作品に惹かれる。またそのような俳句を成したいと願い日々精進している。今年も拙い俳句を撒き散らしますが皆様お見捨て無きようよろしくお願い申し上げします。皆様の句評楽しみに致しております。益々寒くなりますご自愛下さいませ。
- 田口 浩
特選句「連れ合ひの股引を干し対峙せり」似たもの夫婦の間にも、それはそれ、これはこれと言う問題がたまに起こるものである。「連れ合ひ」熟年夫婦であろう。「股引を干す」日常に即してすることはします。「対峙」とは相対してそばたつと言うことらしい。ここは毅然として一歩も譲れないところ。昭和のホームドラマには、こんな役をこなすうまい役者がいたなあと思ったりもする。「股引」が圧巻。「林檎ひとつ刻に杭打つごとく置く」:「林檎」はエロス。「刻」は一瞬。「杭」は間髪を入れず胸に打ちこむ、ドスンと強烈である。「ごとく」は個人的に好きな措辞ではないが、この「杭打つごとく」は見事であろう。林檎がよく利いてる。おもしろい。「ものすごく冬晴れ君とリンゴのシェイク」:「ものすごく」この鈍くさいもの言いが、「冬晴れ」を眼前に表出してくれる。「君とリンゴのシェイク」シェカーはふりすぎてはいけない、氷が溶けて水っぽくなる。素早く、若者たちの愛は爽やかである。「爪を切る冬の銀河に手が届く」立て膝に足の爪を切っているところである。ここからの空想がそれぞれであろう。「昼風呂の乳房の重し久女の忌」:「ホトトギス」を除名になった久女は、精神を病んで入院したといわれている。「昼風呂の乳房は重し」これだけで複雑な女の性を充分に詠んでいよう。
- 夏谷 胡桃
特選句「初夢の寄り添ひ囲む食卓よ」家族や友達と食卓を囲めるのはいつのことになるでしょうか。遠くにいる子らとも会えず、息子が結婚しましたが会うこともできない。みんなが集まる食卓。富士山より縁起がいい初夢です。
- 柴田 清子
特選句「極月やカマボコ板が飛んでいる」年の瀬の慌ただしさ、しかも活気を帯びてゐる師走。極月をカマボコ板で言い得ている。思はず笑ってしまった。納得も感心もした。特選とした。
- 漆原 義典
特選句は「雪が降る家族が透明になる頃」です。今年は寒波が厳しく豪雪で苦労されている北国にお住まいの方々にお見舞い申し上げます。私は香川在住で雪はあまり降らず雪にロマンを感じます。雪が降るのを見て、家族が透明になると感じる作者の感性に感動しました。素晴らしい句をありがとうございました。
- 谷 孝江
特選句「新しい場所へ急ごう冬夕焼(河野志保)」昨年から今年へとウイルスに振り回された一年でした。でも新しい年は確実にやってきます。ぐずぐずと同じ所に佇ち止まること等はせず、前を見て歩き出したいです。元気をもらえる句です。今年もよろしく。
- 野田 信章
特選句「一葉忌大根の葉のわさわさと」の句は、古語の「わさわさと」の起用が何とも鮮やかで、引き立ての大根の生気がある。これと明治中期を駆け抜けて短命に燃焼した一葉その人との響感を呼び起こしてくれる句である。<太テエ女ト言ハレタ書イタ一葉忌(田中久美子)>の忌日は十一月十三日である。特選句「「空知らぬ鳥の形よ氷張る」の句には初氷との出合いのことかとおもわせる初々しさがある。まだ飛び立てないとの鳥の形状の把握がおもしろい。即物描写の基本の確かさあっての一句かと感銘を覚えた。
- 伏 兎
特選句「寒月光ガラスの街を司る」コロナ禍によって表出した現代社会の脆弱さと、寒の月との対比が見事に決まり、心をざわざわさせる。特選句「やまと餅花あの日の餅花震災忌」正月気分の抜けない頃に起きた大惨事は、二十六年経った今でも忘れることはできない。美しい餅花を見るたびによみがえる、作者の心の痛みに共感。入選句「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」 空気や水のような感覚で、暮らしに欠かせなくなっているネット通販。その便利さと引き換えに、自然がどんどん遠のいてゆく気がする。句全体に喪失感が漂い、惹かれた。入選句「冬木一本おずおずと空に話しかけ」誰からも好かれる風情の木もあれば、無愛想で不器用な木もあり、なんだか人間みたい、と思うことがある。そんな木の一つが、冬の星々に自らの来し方を語っているのだ。おずおずという表現がユニーク。
- 新野 祐子
特選句「裸木に星咲き漁夫らの白い墓」物語性を感じます。美しくも哀しい一枚の絵が物語の最後のページに。入選句「土手改修土嚢105個年を越す」昨年は災害につぐ災害。被災地に住む方々のご苦労が偲ばれます。今年は穏やかな天候に恵まれますように。問題句「姫始アラビアンナイトの木馬」ある歳時記には「太陽はアラビヤあたりひめ始」がありますね。掲句は、木馬という硬質な触感が読者の期待を裏切るようでいいかな、と。
- 野口思づゑ
特選句「寒月光近い昔と遠い今」その通りで昔のことは鮮明に覚えていますが、今は、やったばかりの事ですら覚えていない状態。そんな同年代同士で交わすぼやきを、上5の寒月光で見事に俳句に仕上げておられ感心いたしました。特選句「兜太逝きて三年白梅青し」金子先生のお宅にあったという白梅、先生の句にある白梅、そして香川句会のアンソロジーのタイトルの「「青」を、先生の忌に合わせ、私たちも枯野が青むまで俳句に精進します、とのメッセージを先生に送っているようです。問題句「水・酸素・Amazon遠き枯野かな」枯野には、生命に不可欠の水や酸素、現代生活に入り込んでしまったAmazonが得難い、という事なのでしょうか。いや、水や酸素はありそうだけど、などと思ったりして楽しい句です。
- 月野ぽぽな
特選句「白梅や内なる扉開く気配」白梅の白には、静かにしかし強く内面に語りかけてくる力がありますね。忘れていた場所に通じる扉を開け、もしくは眠りから覚めて、本当の自分に近付いていけそうです。
- 荒井まり子
特選句「人日やカレーうどんの鉢の底」特13大晦日、元旦、三が日、松の内。漸くの人日。冷凍のうどんとレトルトのカレーだろうか?国民食のカレーが〆で一丁上がり。しみじみ共感。いつもありがとうございます。
- 石井 はな
特選句「初御空ひなの如くに殻破る」ひなの様に少しずつ殻を破れば良いのかと力づけられます。無理して一気に結果を出そうとさずに、ちょっとずつでも変わっていけば良いんですね。
- 高橋美弥子
特選句「人日やカレーうどんの鉢の底」人日という季語に引っ張られ過ぎずにカレーうどんのその「鉢」に最後おさめた所がいいなと思いました。問題句「ネイリストしもやけググる指づかい」若いネイリストはしもやけをググるということでしょうか。語順を整えれば面白い句になりそうです。
- 菅原 春み
特選句「透明な壁が林立聖夜かな(十河宣洋)」去年の聖夜だけであればいいが、透明な壁の林立が鮮やかで美しく悲しい。今年の聖夜をきたいするが。お見事です。特選句「冬木一本おずおず空に話しかけ」おずおずと話しかける、しかも空に、その主役は冬木とは。景が目に見えて寒さが身に沁みる。
- 田中アパート
特選句「極月やカマボコ板が飛んでいる」なんでや、なんで飛ぶねん。問題句「睡眠を生きがいとして駄犬かな」なんで駄犬や、立派な犬やで、私もこんな犬のような人生を送りたい。
- 佐孝 石画
今回も並選のみです。「寒月光近い昔と遠い今」:「近い昔」は分かるが、「遠い今」とは何だ。齢を重ねるにつれ、過ぎ去った時は胸の内に積み重なっていく。「今」を「昔」が侵食していく。それは諦念に近い恍惚感覚。「遠い今」があやういがうえにこの句の魅力となっている。寒月光に照らされ、時空に揉まれながら呆然としている作者が見えてくる。「擦硝子の古沼を縫いゆく穴惑」:「擦硝子」という明瞭に見えない世界。見えないがゆえに、視線はより内面世界へと向かう。そこにおぼろげに現れてくるのは、記憶という古い沼たち。色も匂いも手触りもおぼろげに融解し、堆積していった胸の内の仄暗い「沼」。記憶の水を湛えたさまざまな窪みを「縫いゆく」のは、いまだ惑い続ける作者の漂泊感覚であろう。僕もかつて「白鳥来るいろんな沼を縫い合わせ」という句を作ったが、それも自分の「沼」を「縫いゆく」世界だったのかも知れない。
- 三好三香穂
特選句「白梅や内なる扉開く気配」白梅のほころびを"内なる扉開く" と捉えたところに深い詩情を感じる。なるほど、花の精が1枚1枚そおっと扉を開いているのかも。「青天の霹靂のまま去年今年」おそらくコロナ禍のことと思うが、ほかにも大きな出来事があったかも知れません。なんだか、もどかしいまま迎える今年。来年の去年今年が明るいことを祈ろう?「煮凝りが平ら鍋にはイマジンが」釣り好きの亡父の釣果で夕食のごちそうが並んでいた。亡母が上手に捌いて、刺身に煮魚、焼き魚、アラは吸い物に。煮魚の翌朝には鍋にゼリー状の煮凝りが固まっている。それを熱い白米の上に乗せて溶かしていただくのが、習慣。その煮凝りに作者はどんなイマジンをしたのだろうか。イメージすることのなんと人間的なことか。鍋の中にイマジンを持ってきたのに、新しさがある。「寒月光近い昔と遠い今」年を取ると昔のことは鮮明な記憶あり。たった今のことは、短期記憶なし。あれ、何だっけ。月の光が寒い。晩年の感慨。共鳴句。「顔入れてセーターの中わが宇宙」セーターを着る時、頭を突っ込みその瞬間、私だけに見えるセーターの中の世界、それをわが宇宙と捉えたのが面白い。赤い、青い、ピンクや緑、黄色や黒のそれぞれのセーターは外光と混じり合ったそれぞれの宇宙がある。
- 吉田亜紀子
特選句「補聴器にころころ産声冬木の芽(増田暁子)」:「ころころ」といった表現がたまらなく可愛い。作者の状況や想いが、すっきりとまとまっていて、微笑ましく拝見しました。特選句「顔入れてセーターの中わが宇宙」このような発想が私も出来たら良いなと思いました。普段の生活から俳句が出来るのだと改めて痛感致しました。問題句「白髪の君タンポポをあげましょう」好きな句です。「白髪」と「タンポポ」。恋物語のよう微笑ましいエピソードがあるに違いないのですが、何故、タンポポをあげるのか理由をもう少し知りたいと思いました。
初めまして、俳句を始めて数年です。この度、貴重な縁に恵まれ、参加させて頂く事になりました。感謝と共に、皆さま、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
- 川崎千鶴子
特選句「ふわふわと咳き込みながら根深汁」熱い汁物を食べると何故か軽く咳くが、その咳を「ふわふわ」とで表した素晴らしさ。見事です。「コロナ禍の初春鼻がいじけてる」初春には特別綺麗に化粧をして人前に出るが、マスクで鼻は隠れてしまう。そこで鼻がいじけているのです。「鼻がいじける」とは感嘆です。「日脚伸句帳をこぼれる鳥の声」少しづつ陽が伸びた地で、句帳を取り出し詠みだすと小鳥の鳴き声が降って来る。それを「句帳こぼれる」と表現したすばらしさ。「雪解道うじうじぐずぐず生きて行こう」いつもラジオ体操のように張り切って生きていけないが、元気の無いときは「うじうじぐずぐず生きて行こう」と居直っている力に賛成。
- 佐藤 稚鬼
特選句「冬木一本おずおず空に話しかけ」冬木一本の寂寥と?おずおず?の擬人化は良。
- 松本美智子
特選句「寒月光ガラスの街を司る」冷たい冬の月を見ていると吸い込まれていくような気がします。人間界の良きも悪しきも見通しているかのような佇まい。厳しいながらも凛とした美しさの中に背筋の伸びる思いを何度したことでしょう。
- 中村 セミ
特選句「行間や蛇も目瞑ることをする」本を読んでいる時、行間の白さを感じたのだろう。蛇が冬眠するような、そこに、只透明感、白い空間を感じた。その本はもしかして句集かもしれない。面白いと感じた。
- 稲 暁
特選句「透明な壁が林立聖夜かな」実景とも幻視とも受け取れる「透明な壁」が「「聖夜」の情感を確かなものにしている。美しいイメージに惹かれる。問題句「気圧喰う潜水艦の耳が鳴る」意味的についていけないところがあるが、イメージとしての面白さには惹かれる。
- 藤田 乙女
特選句「雪の声過去たちが来て立ち往生」降る雪に次々と過去の出来事が想起される状況にとても共感できます。「過去たちが来て」や「立ち往生」の表現がユーモラスで明るさが感じられ惹かれます。特選句「空知らぬ鳥の形よ氷張る」空知らぬ鳥と氷との取り合わせがよく効いていて、氷の張っている様子が鮮明に浮かびます。
- 小宮 豊和
「海程香川」百十三回について「青天の霹靂のまま去年今年」「コロナ禍の句会中止の寝正月」「寄り添って温め合って待つ初日」「石蕗の黄や人影しるき狼煙台」「寒月光近い昔と遠い今」 多様な句の多様な局面への反応はそれぞれ健全である。
- 野﨑 憲子
特選句「老いるとは許し合うことですか雪」一句丸ごと雪のひとひらひとひらに見えてくる不思議な作品です。読むほどに、ゆったりとした時の流れの中にいるようで温かな気持ちになれます。「杣の手業の手籠は雪の明かりで編む」たっぷりとした字余り、<手業の手籠の>の調べが慎ましくもゆかしい山の民の暮しを活写しています。<雪の明かりで編む>の措辞が圧巻です。問題句「白髪の君タンポポをあげましょう」どなたかへの挨拶句ですね。優しくて素敵な作品です。私も、昨年から髪染めをやめました。私的には、白髪でなく「銀髪の君へ」がいい。
袋回し句会
女正月
- 女正月鼈(すっぽん)の血は祖母が抜く
- 田口 浩
- 遮断機の降りた正月アクリル板
- 藤川 宏樹
- 女正月の肴は亭主般若湯
- 三好三香穂
- 山脈(やまなみ)は鼾のかたち女正月
- 野﨑 憲子
風花
- 風花や仙人降りる銀閣寺
- 藤川 宏樹
- 昨日わたしは風花になったと 鬼
- 野﨑 憲子
雪催
- 波打際の猪の骸や雪催
- 野﨑 憲子
- 雪催ひ家路は西に青空に
- 三好三香穂
- 雪催ひ京へ爆弾低気圧
- 藤川 宏樹
扉
- 青い扉の沖に明日の雀踊(こをどり)す
- 野﨑 憲子
- 扉開けて文旦の尻を撫でる
- 田口 浩
- 扉あけ朝日浴びたし冬長し
- 三好三香穂
- 扉開ける手に青い静電気
- 三枝みずほ
自由題
- モンローの我を見つめし初句会
- 三好三香穂
- 地球離れる水栽培のヒヤシンス
- 田口 浩
- まほろばはコロナの奥に冬の耳
- 野﨑 憲子
- 充電器買って枯野を過ぎゆけり
- 三枝みずほ
- 飛行機雲ふくれゆくまま蓑虫たれ
- 佐藤 稚鬼
- 野晒の六密地蔵に赤マスク
- 佐藤 稚鬼
【通信欄】&【句会メモ】
2月28日(日)午後2時30分~3時13分放送予定のNHKEテレ「俳句王国がゆく」(全国放送)に三枝みずほさんが出演なさいました。録画は、1月23日に、さぬき市志度音楽ホールでありました。今回は、コロナ禍の中、入場数の制限があり、私は、テレビで案内の観覧者募集に応募葉書を出し落選してしました。幸い、出演者枠の観覧券で拝見させてもらうことができました。三枝さんは、俳句バトルも堂々としていて爽やかで素晴らしかったです。番組の中の、最終バトルをお見逃しなく! 今回が「俳句王国が行く」の最終回とか、三枝さんを推挙してくださった松本勇二さんに心よりお礼申し上げます。香川限定の特別番組も2月19日(金)午後7時30分からNHK総合であります。お楽しみに!
コロナ感染拡大の中、藤川宏樹さんのご厚意で「ふじかわ建築スタヂオ」に於いて初句会を開くことが出来ました。今回は時間を短縮して<袋回し句会>のみの開催でしたが、やはり生の句会は顔を見て話しあえるので最高です。マスクを取って、もっと近づいての句会が出来る日を心待ちにしています。
Posted at 2021年1月29日 午後 04:05 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]
第112回「海程香川」句会(2020.12.19)
事前投句参加者の一句
極月の葬儀場からのぼる月 | 松本美智子 |
潜水病に似てアナログ人間の炎昼 | 佐藤 稚鬼 |
浅黒い土に根ざして冬嵐 | 豊原 清明 |
汁だくの牛丼両手でコロナ冬 | 田中アパート |
逆光の君へシャッター照黄葉 | 松岡 早苗 |
冬銀河電信柱に追ひつかれ | 小西 瞬夏 |
十二月八日不協和音の膝小僧 | 荒井まり子 |
水引草いいえマッチ売りの少女です | 吉田 和恵 |
てのひらの球体として寒の月 | 久保 智恵 |
わたしには私のルール枯芙蓉 | 石井 はな |
真夜に満つポインセチアの不整脈 | 森本由美子 |
正座してアイロンかけるクリスマス | 菅原 春み |
梟とともに聴く真夜の静寂 | 野口思づゑ |
いつの日かきっといつの日か冬の月 | 三好三香穂 |
霜月の背中にバカと書いてやる | 榎本 祐子 |
草紅葉指に油性の匂いかな | 重松 敬子 |
冬ざれや真面目な顔の犬が来る | 稲 暁 |
山茶花の白かけ足で来る日暮 | 柴田 清子 |
くきくきとビュフェ描くか吾亦紅 | 田中 怜子 |
シリウスに兜太と朗人再会す | 月野ぽぽな |
恋多きイブモンタンや落葉降る | 植村 まめ |
中村哲忌シダーローズのリース耀う | 新野 祐子 |
ストーブにそっと手のひら摂氏九度 | 漆原 義典 |
頭陀袋飴玉一個毛糸玉 | 亀山祐美子 |
落武者の手が伸び屋島寒月光 | 松本 勇二 |
銀杏黄葉に朝月座禅帰りの息 | 高橋 晴子 |
砂時計返す戦艦から油 | 藤川 宏樹 |
帰るべき場所をさがしている枯野 | 田口 浩 |
少し痩せた花束を抱く雪降る駅 | 津田 将也 |
遂に結氷期ぴりぴり皺走る | 川崎千鶴子 |
慈母観音とやかの人冬の滝拝す | 大西 健司 |
空海のさざ波とあり今ここに | 鈴木 幸江 |
父の忌や掃けど掃けど降る銀杏 | 伊藤 幸 |
哲さんの唇ぶ厚く寒茜 | 滝澤 泰斗 |
自転車の父は仮の目竜の玉 | 稲葉 千尋 |
枯菊にくすぶっている禅の顔 | 伏 兎 |
寒さには慣れております山猫座 | 高橋美弥子 |
寒林へ骨打ってゆく奥熊野 | 河田 清峰 |
大変恐縮ですが電柱の鴉です | 佐孝 石画 |
燃えるもの甘くストーブ燃えている | 竹本 仰 |
雪虫の来る中東の黒い地図 | 桂 凜火 |
五体投地のライダーありし花野かな | 野田 信章 |
凍蝶にまだなり切れず逢ひたしと | 谷 孝江 |
嘘八百吐いてみたいな金薄 | 小山やす子 |
縄文の記憶の古層木の実雨 | 小宮 豊和 |
赤いマフラー風のまんなかにいるよ | 三枝みずほ |
朝日浴び白菜まっぷたつの白 | 夏谷 胡桃 |
缶蹴りや黄泉は冬晴れだと亡弟(おとと) | 若森 京子 |
羽音してモディリアーニの女の眼 | 高木 水志 |
冬銀河そっと呟く家族の秘密 | 藤田 乙女 |
冬帽子ディランのことば置いてある | 男波 弘志 |
母のそれからミシン奏でる冬銀河 | 中野 佑海 |
オンラインで「第九」歌ふや置炬燵 | 野澤 隆夫 |
狐くる可愛い母と狸のわたし | 増田 暁子 |
着ぶくれてだんだん小さくなる度胸 | 寺町志津子 |
饅頭の裏紙雪女の手土産 | 十河 宣洋 |
寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者 | 銀 次 |
羽後山の裸木一本より数え | 福井 明子 |
しぐれゆくたてがみは虹の幻影 | 増田 天志 |
美しき絵本ひらけば凩 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 松本 勇二
特選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」思いと現実をつなぎ合わせ哀感溢れる作品となった。
- 小西 瞬夏
特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」中東のきな臭い状況を「黒い地図」とした。そこに雪虫が来る。小さなものがうごめく映像がまるで人の生き様を俯瞰で見ているような景を作った。雪虫が象徴するものにもイメージが広がる。
- 藤川 宏樹
特選句「霜月の背中にバカと書いてやる」:「霜月の背中にバカと書いてやる」とは、コロナ渦の自粛、自粛で人にも会えぬ、持って行き場のない鬱憤をぶつけるに相応しい表現です。世界中が不自然であったこの一年を象徴しているようです。
- 若森京子
特選句「てのひらの球体として寒の月」〝球体?の言葉から、穏やか・安堵・柔軟・平和のイメージが浮かぶ。〝寒の月?の冷えた硬質の球体と対比して、てのひらに球体感覚を求めたのであろう。特選句「流氷の遠き音『今不在です』(小西瞬夏)」:「今不在です」の話し言葉に唯今の人間存在を感じ、一行の中に無限大の時空の流れを又物語りを感じた。
- 稲葉 千尋
特選句「とっくりのセーターなんて青すぎる(男波弘志」この冬とっくりのセーター大好きです。首を温めないと「青すぎる」が良い。特選句「冬帽子ディランのことば置いてある」中七下五がいい。冬帽子とディランの言葉置いてある、この気分が好きです。
- 増田 天志
特選句「饅頭の裏紙雪女の手土産」饅頭と裏紙と雪女と手土産という四つの言葉が、響き合っている。土着性と暗さ。饅頭と手土産、裏紙と雪女との取り合わせ。饅頭の裏紙に、雪女の哀しみを感じる。
- 滝澤 泰斗
特選句「真夜に満つポインセチアの不整脈」年の瀬の花の句を三句選んだ中の一句を特選にした。クリスマスと重なるポインセチアの赤はキリストの贖いの血の色に見え、それが下五の不整脈に感応した。以下、共鳴句「看護師の娘(こ)遠きに目は石蕗の花」コロナ禍で奮闘する娘への応援歌が聞こえてきた。「シクラメン抱いてあの人内弁慶」鉢植えのシクラメン・・・水をやるとこれでもかと咲き誇る様と内弁慶が妙に感応する。「ストーブにそっと手のひら摂氏九度」気温十度を下回ると暖が欲しくなる感覚をうまくまとめた。「歳時記の真砂女鷹女ら追う夜長」二人とも千葉県出身の俳人だからというわけではないが、思わず昭和俳句から二人の俳句を拾っている自分がいた。「コロナウイルス舐める猫いて小春かな」猫はコロナに抵抗力があるのかないのか。観察眼に感心。そして、猫と小春日の取り合わせ。コロナに神経質になっている世をシニカルにみている。「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」バスに乗っても、電車に乗っても、事務所に居ても、換気に気を付けているため、やたら寒く重ね着をしている・・・コロナ禍の二〇二〇年ならでは句として受け取りました。コロナの数字が上がるたびに慎重になり、大胆な振る舞いを慎んでいる自分がいる。問題句「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」潜水病の症状がよくわからない・・・ 理屈ではないだけに、作者の自解を聞いてみたくなりました。
- 植松 まめ
特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」真面目な顔の犬という表現に納得しました。寒くなって犬の表情もきりりと引き締まった顔になったのでしょう。特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」の句不穏な空気が世界を覆った今年を象徴したような句でした。
- 大西 健司
特選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」こういう句に心が動く歳になつたのだろう。 寒々とした家庭とはいえ家族がいるのはありがたい。「冬麗や結婚記念日妻若し」こういう句もありました、幸せそうな様子が実にうらやましい。十二番目です。問題句「大変恐縮ですが電柱の鴉です」鴉は恐縮などしない。作者は電柱の鴉などと言っては恐縮する。たいへんおもしろい句だが少し危うい。迷いながら問題句にしたが、好きな世界観です。
- 伏 兎
特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」 救助犬、警察犬、盲導犬など働く犬達のひたむきな表情。人に役立つために躾けられた哀しさが、季語と響き合っている。特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」微かに青みを帯び、ふわふわ飛んでいる綿虫(雪虫)。そこここの蜘蛛の巣に引っかかっていることも多く、戦禍を生きる中東の人々に通じるものがあり、切ない。入選句「とっくりのセーターなんて青すぎる」七十を過ぎても若く見られたいと、がんばる健気な夫が目に浮かび、共感。入選句「饅頭の裏紙雪女の手土産」雪女の手土産なんて有り難くないはず。饅頭の裏紙もしかり。飄々として面白い。
- 中野 佑海
特選句「冬空を作り直すよミキサー車(高木水志)」その生き良し。思いはどんどん、空を駆け巡っておくれ。特選句「哲さんの唇ぶ厚く寒茜」勿論、中村哲さんの事ですよね!あの唇から、沢山の人を勇気づけ、人を動かせてきた。寒茜の厳しい中のキリッとした一徹さが、ピッタリです。 並選句「汗だくの牛丼両手でコロナ冬」汁だくの牛丼なら、喜んで頂きますが、汗だくのコロナの冬は是非とも回避したいものです。「冬銀河電信柱に追ひつかれ」冬銀河も酒飲み過ぎることだってあるでしょ、ほら。あ~あせっかく二人良い気持ちで歩いていたのにいつの間にか相手が電信柱になってたよ!「補陀洛へ道は一条冬の滝」此は正しく那智の御滝。あの堂々たる光ファイバーは天からの通信。何々、各々方今年は誰かの為にそして己の為に何かを為せたか?「水引草いいえマッチ売りの少女です」私はクリスマスになるとマッチ売りの少女の物語を思い出します。「霜月の背中にバカと書いてやる」良いよね。主人にバカと背中に叫べるくらい元気で、夫婦げんか出来てる時は若くて。お互い慰め合ってちゃあ星も近いよ。「大鹿の形の闇の星透ける」屋久島で鹿が観光客の乗ったバスを見るんだ。僕たちの仲間食べただろって…「自転車の父は仮の目竜の玉」冬の千切れそうな雲の中に月が見え隠れ。まるで竜の目の様に。そして、雲の中から父が現れ出でないか。「バター溶け出すビルの網目に酔う」都会のビルは遠くではあそこと判るのに、近づくともう、何もかもが解け合って今自分の居るところが全くわからなくなる。溶けたバターの様な香ばしいのか、怪しいのか。この難解な蜘蛛の糸はそうだ、鬼滅隊にたのもう。 急に寒くなり血圧も上昇中。やらねばばかりが、先を行く。
- 十河 宣洋
112回の選句送ります。旭川は雪がいっぱいです。特選句「冬の滝時間(とき)を鉛と思い込む(久保智恵)」時を鉛と思うという感性は作者の実感でありながら、共感を呼ぶ。時間の重さのようなものを感じる。特選句「狐くる可愛い母と狸のわたし」狐のとりついた母ともとれるが、ここは単純に狐が来たととりたい。かわいい狸も楽しい表現である。うどんのメニューではないと思う。問題句「バター溶け出すビルの網目に酔う」溶けだしたバターとビルの関係が強引すぎないだろうか。
- 田中 怜子
特選句「落武者の手が伸び屋島寒月光」悲劇的な歴史ある寒月光の元屋島にいれば、こんな光景も見えてくるのでは、凄まじい人々の怨念等の映像が目に浮かぶ。
- 夏谷 胡桃
特選句「百歳の母は留守なり子守柿(島田章平)」。百歳のお母様は案外忙しい。今日はデイサービス、明日はお茶飲みと家にいないことも多いでしょう。せっかく来たのに「いないのか」とぼんやりした子の姿が浮かびました。問題句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」特選に取りたかったけど、すこし長ったらしい。句の意味はまさに今の私にぴったりで共感してしまうけど、リズムがいまひとつ良くない気がしました。以上です。
岩手は寒い日が続きます。クリスマス前の大雪も珍しいです。まだ冬は始まったばかりですが、明日は冬至です。少しずつ日が伸びることを希望にします。今年も大変お世話になり、ありがとうございました。
- 福井 明子
特選句「大変恐縮ですが電柱の鴉です」風の強い日、鴉と出会いました。何か言いたげです。黒光りして重量感があります。人に最も近く棲息しているので、この世のことはおおかた知っているのかもしれません。その鴉が、至近距離で未練ありげに飛び立ちます。電柱に止まり見下ろしています。もし言葉があるのなら、大変恐縮ですが…と言い始めそうです。「世の中、どうなっていくんでしょうね」特選句「縄文の記憶の古層木の実雨」縄文という言葉を置くだけで、句はただ事ではなくなる予感がします。木の実雨は、古層へと環る予感なのでしょうか。
- 石井 はな
特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ(増田天志)」大切な方のお見舞いなのでしょう。その方の前では涙を見せないように、涸れるまで泣いてそれから病室に入って行こうとしている。大切な方への深い思いが伝わってきます。 一年間大変お世話になりました。ありがとうございます。来年も宜しくお願いします。良い年をお迎えください。→ こちらこそ、どうぞ宜しくお願い申し上げます。佳きお年をお迎えください。
- 小山やす子
特選句「百八鐘百均綿棒百十円(藤川宏樹)」私的にはユーモアを感じ思わず笑ってしまいました。
- 菅原 春み
特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」真面目な顔の犬でおもわずその必死な顔が浮かび、いただいた。冬の荒れさびれた渋い季語と少しはずした笑いを誘う景がいい。特選句「雪虫の来る中東の黒い地図」群れをなして雪の上を這い回る季語の白い軽い虫と黒い色と重たさの取り合わせの妙かと。謎の多い不気味な句だが、雪虫で詩的発火が生まれている。さすがです。 今年もコロナ禍のなかでも大変お世話になりました。通常の句会のみならず、アンソロジーを出版してくださったことも、ありがとうございます。来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。来年はコロナの収束が望めることを祈って。
- 三枝みずほ
特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」死の近い人を見舞うことの心情、覚悟が伝わる。人間は弱いがこういう覚悟をもつ時があるなあとしみじみ思う。問題句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」一読、特選句だったが一週間考え込んでしまった。引っ掛かりは「虹の幻影」。そこまで言わなくても「しぐれゆくたてがみ」だけで一句が成り立つし、「幻影」を想起できたように思う。一切の色を消してゆく時雨にはそんな力があるのではないか。大いに考えさせられ刺激を受けた一句だった。並選「霜月の背中にバカと書いてやる」最初は「やる」が気になって、選に入れていなかったが、句会で話題になった句。「やる」「やれ」「ある」さあどれがいいかと議論する過程がとても勉強になったし、二音で変わる作品の世界に惹かれた。よろしくお願い致します。
島田さんが仰った「今年は海程香川にとって充実した一年になったのでないか」という言葉が深く心に残っています。この前向きな姿勢、生きる力が漲っているのが「海程香川」なのでしょうね。今年も大変お世話になり、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。何かと慌ただしい年末。お身体くれぐれも大切になさってください。お陰様で充実した一年でした。感謝!
- 河田 清峰
特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」虹の中に父を見つけたのか或いは父と慕う師を見出だしたの幻影がいい。
- 松本美智子
特選句「くきくきとビュフェ描くか吾亦紅」絵画が好きでコロナの流行る前はよく美術館に足を運んでいました。吾亦紅の形体とビュフェの描く絵の特徴がぴったりで,17音にその取り合わせをうまく表現されておられて,なるほど・・・と感心させられました。早く好きなことが好きなようにできる世の中になってほしいものです。
- 榎本 祐子
特選句「句集閉じ眼とじれば不知火一つ(松本勇二)」句集読後の余韻が身の内に不知火を揺らす。その不知火と睦合うような深々とした内面世界。
- 寺町志津子
特選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」今月も迷いに迷いましたが、繰り返し拝読する度に揚句がいつも心に残りました。「霜焼けが痒い」に、奥様ご存命中のご夫妻の会話やご様子が想像でき、今な慕情の念去らざる作者の心情がしっかり伝わってきました。子供騙しかもしれませんが、奥様は、きっと天国から作者の「霜焼け」は勿論のこと、作者のお暮らしの恙なきことを見守って下さっていると思います。あるいは、作者の方の肩に留って見守って下さっているかもしれません。私が母を亡くして意気消沈していた折、友人が慰めてくれた言葉ですが、以後、その様に思うようにしております。奥様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
- 荒井まり子
特選句「百八鐘百均綿棒百十円」百八の煩悩とぎっしりの綿棒。取り合わせの妙。リフレインが楽しい。 今年は色々とありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎えください。
- 高木 水志
特選句「梟とともに聴く真夜の静寂」音なき音に梟と一緒に耳を澄ませている作者の姿が想像できていい。
- 増田 暁子
特選句「冬銀河電信柱に追ひつかれ」虚無感を感じます。とても良い句です。特選句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」身体を包み込むと度胸までも小さくなる。そんな筈はないがそうかもしれないと、作者の思いと共鳴します。「くきくきとビュフェ描くか吾亦紅」くきくきがとても上手いです。ビュフェですね。「シリウスに兜太と朗人再会す」お二人共天国で楽しくしておられるでしょうね。以上 よろしくお願いします。
- 島田 章平
特選句「十二月八日不協和音の膝小僧」:「不協和音」の言葉から思い浮かぶのは、欅坂46のヒット曲『不協和音』の「僕は絶対沈黙しない。僕は不協和音を恐れたりしない」と言う歌詞。そして、香港の民主活動家周 庭(アグネス・チョウ)の「拘束されているときに『不協和音』の歌詞がずっと頭の中で浮かんでいました」と言う言葉。十二月八日と言う、ともすれば日本人が忘れそうな記憶に敢えて「不協和音」と言う現代を表す言葉を用いて詠んだ作者に敬意を表します。特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」調べの美しさに惹かれました。
- 田中アパート
特選句「衿立てて家路へ月と六ペンス(若森京子)」洒脱。ホップ。 以上。
- 佐孝 石画
今回は並選のみとなってしまいました。「感情の切断面に初雪来る」感情の切断面まで幻視できた作者に敬服するが、下五ではその世界を受けきれないと思う。「に」と順接でつなげてしまっては、答えまたは蛇足となってしまう。「や」とすれば、かろうじて「初雪」との距離が生まれ、余韻も生じてくるが、それでも「切断面」の世界には届かないような気がする。「バター溶けだすビルの網目に酔う」今回の中で最も気になった句。着想、配合いずれもじんと痺れる世界だが、音感が悪すぎる。文字数的にはかろうじて一字足らずでとどまっているのかもしれないが、「五七五」とは音感。「バター溶けだす」「ビルの網目に」「酔う」の三句切れで読むと、下が二音となる。これは繰り返して読んでも違和感が拭えない。上五の二音の余りは全く気にならないので、中の「に」を再考し、また下句の「酔う」にもう少しニュアンスを加えた方がよかったのではないかと思う。好きな世界だけに残念。音感が良いと余韻が生まれる。俳句を投げた後「ポチャーーーン」と余韻、波紋が響いて欲しいのです。偉そうな口ぶりになってしまいましたが、好きな句については言っても許されるかなと思い、評しました。よろしくお願いします。
- 伊藤 幸
特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」虹は夏の季語ですが時雨と不思議に溶け合って初冬の美しい景を織り成しています。五七五の短詩にこれだけのものを表現できるとは素晴らしい。
- 豊原 清明
特選句「枇杷の花房陽とじゃれ合って娘季(どき)(中野佑海)」:「陽とじゃれ合って」は幼い娘だろうか。大人だろうか。大人の娘なら良い絵になりそう。問題句「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」:「潜水病に似て」に共鳴。
- 新野 祐子
特選句「寒林や骨打ってゆく奥熊野」修験者でしょうか。奥熊野という地名が光り、想像力を醸し出します。入選句「妻逝きて五年目霜焼が痒い」作者の切実な淋しさがそこはかとなく伝わってきます。入選句「いろいろのことに疲れし海鼠かな」さまざまな事おもひだす桜かな(芭蕉)」を連想。本当に今年は大変なことが多すぎました。入選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」犬ってみな真面目な顔をしているけれど、敢えて句にしたところが面白いし、冬ざれとの取り合わせが好いです。 *拙句「中村哲忌シダ―ローズのリース耀う」のシダーローズとは、ヒマラヤ杉の実の一部で地に落ちるとバラの形をしています。リースに入れると、とてもきれいなのです。
- 松岡 早苗
特選句「大鹿の形の闇の星透ける(小宮豊和)」:「大鹿の形の闇」に一瞬にして引き込まれた。夜の闇にこちらを見つめて立っている大鹿はまるで森の守護神のよう。その澄んだ眼の光に魂の底まで射通されてしまいそう。神秘的な美しさを感じた。特選句「しぐれゆくたてがみは虹の幻影」 しぐれゆく中、駆け、草を食み、あるいは立ち尽くす馬たち。その美しい肢体や体温を想う。濡れそぼったたてがみに虹の幻影を見る作者のロマンティシズムが美しい。
- 野田 信章
意欲的であるのはよいが、語りすぎというか、演技過多の句が散見されまして、今回は特選なしとさせてもらいます。「汁だくの牛丼両手でコロナ冬」の句は、なりふりかまわず生きていれば汗もかくもの。「コロナの冬」として頂きたいところ。「てのひらの球体として寒の月」の句は「冬の月」として頂きたい一句。手の平にそっと受けとめてみたいのはやや茫とした「冬の月」の量感である。「枇杷の花房陽とじゃれ合って娘期(とき)」として、ひと先ず頂きたいところである。
- 久保 智恵
特選句「羽音してモディリアーニの女の眼」亡くなった父の目を思って選びました。
- 桂 凜火
特選句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」着ぶくれてうごきが悪くなる感じよくわかります。そして長く生きているとだんだんいろんなことが気になって度胸がなくなります。小さくなる度胸という感じがまたよくわかるのです。共鳴しました。特選句「寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者」家族の中、親族の中にだれかちょっと外れてしまう人がいる感じわかります。ご自分の自嘲かもしれませんが。寄せ鍋との取り合わせが嫌味なくよくあっていると思いました。
- 漆原 義典
特選句「百歳の母は留守なり子守柿」百歳の母を思う心がよく詠まれています。子守柿が親子の愛情そのものです。素晴らしい句をありがとうございます。
- 野口思づゑ
特選句「着ぶくれてだんだん小さくなる度胸」自分が服で大きくなれば、どこか気が大きくなりそうなところを、度胸が小さくなる、としたところに作者の正直さが出ているようで好ましい。特選句「寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者」大家族や、一族には必ずと言っていいほど黒い羊がいるものだとよく言われますが、それを寄せ鍋の季語がで巧く表現している。「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」寒いと犬って真面目な顔になるのかな、と犬とあまり馴染みのない私は思ってしまい微笑ましい句です。「街は灰へイルミネーションが消えた」それでもイルミネーションはあるとは思うものの今年の年末の感傷が良く出ています。「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」そしてお相手に会った時は、懸命に笑い顔を見せたのでしょう。「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」 絵本の中の女の子が目に浮かんだ。 絵本の中の女の子が目に浮かんだ。
コロナはもう制圧され、ほぼ日常に戻ったと安心していたシドニーで先週感染者が出て、大騒ぎ。その地域はロックダウンになったり、シドニー圏での規制も確認されたりしたものの、最新の情報ではこの24時間の感染者が20数人から15人に減り、落ち着きそうです。発生源は帰国した航空会社の乗務員ではないかと私は思っています。やっぱりコロナはしぶといとつくづく感じます。
- 月野ぽぽな
特選句「母のそれからミシン奏でる冬銀河」母のそれから、が想像の扉を開き、間を置いて、ミシン奏でる冬銀河。なんて美しい音風景だろう。母がミシンにいるのかもしれないし、「母」を思いながら句中のその人がミシンにいるのかもしれない、という音風景の主が定め切られていないところも夢うつつ感があって興趣。美しい哀感が漂う情感ふくよかな句。
- 田口 浩
特選句「朝日浴び白菜まっぷたつの白」格をふまえた、充分な作品だと思う。「まっぷたつの白」いいですねえ。「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」時代遅れのアナログは、潜水艦や炎昼まで持ってこなければ、これを説明できないと言うもどかしさ・・。「炎昼」が利いています。「水引草いいえマッチ売りの少女です」水引草とマッチ売りの少女、どこかにているところがある。しかし、少女はそれを無視します。私は人間だからと昂然と胸を張るのです。「ここが俳諧です」。 「美しい絵本ひらけば凩」子供は美しいものには驚かない。しかし、凩には興味を示す。立派な騎士になったようなつもりで、次の頁を開く、ここからは誰が主人公―。「走って走ってそしていつもの枯木山」人間はときに愚かな事に夢中になる。「走って走って」そんなことをしなくても、「いつもの枯木山」にちゃんといるのに。
- 野澤 隆夫
特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」数ヶ月前に同じような思いで、親戚を見舞いました。家人に何と声かけするか…。「涙涸らしてから」が絶妙です。特選句「缶蹴りや黄泉は冬晴れだと亡弟」亡弟の住んでると信じられる国からの便り!「冬晴れ」に「缶蹴り」してる光景が浮かびます。特選句「寄せ鍋や一族のなかにはぐれ者」新派劇か謡の4番目に上演される曲(4番目物)みたいで面白いです。「はぐれ者」の登場が、舞台を湧かせます。
- 鈴木 幸江
特選句評「霜月の背中にバカと書いてやる」子供の頃、「バカだねえ。」というセリフをよく聞いて育ったことがある。それは、情愛の籠ったバカであった。バカでもお前を愛しているよという情愛に溢れていた。“やる”の措辞でそのことを思い出した。神無月でも、師走でもない霜月をそのように感受する作者に共鳴。十一月の中途半端さに愛を是非感じて欲しいと思い特選にした。問題句評「バター溶け出すビルの網目に酔う」いわゆる難解句であるが、現代を表象している捨てがたい何かがある。それが、何かよく掴み切れず問題句にした。“酔う”が摩天楼の中で働く人たちの状態をよく捉えている。“バター溶け出す”は、人間がその中で、溶解してしまうことの暗喩だろうか。何故バターなのか、引っかかってしまった。?した句「極月の葬儀場からのぼる月」「水引草いいえマッチ売りの少女です」「シクラメン抱いてあの人内弁慶」「流氷の遠き音『今不在です』」
- 谷 孝江
特選句「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」分かり易い言葉の中にたくさんの情景が溢れて見えます。幼い児かな?男の子?女の子?いやそれとも中学生くらいかな、長い髪も一緒に風の中へ赤いマフラーと共に歩いてゆきます。本気で寒がったりしていません。楽しいのです。明日もその次の日も希望が待っているのです。赤いマフラーが、いろいろの事を想像させてくれます。こんな子たちがいっぱいの日が必ずくることを祈っています。
- 竹本 仰
特選句「帰るべき場所をさがしている枯野」選評:自分の心象とあまりにぴたっと来たので取りました。自分の進む道を探す。人生を引き算で勘定せねばならなくなると、進む、ではなく、帰るとなります。生まれたように、今度は帰る。枯野に耳を澄ますと、寂寞とはしていながら、何かヒントがあるようです。静けさの中に揺れているもの、それはたましいと呼ぶべきもので、他者との交流に自分の姿を見出すということなのかとも。そういう物思いを思い出させた句です。特 選句「母のそれからミシン奏でる冬銀河」選評:「それから」の語が大変いいです。何があったのか、省略されていますが、とにかくそれからはミシンの前に座り、音が紡ぎ出される中に、はるかな人生の過去もろもろとの交感が聞こえるようだというのでしょう。とすれば、「それから」は伴侶の死でしょうか?母は、たしかに前を向いて心模様をさりげなく語りだしたのでしょうね。特選句「狐くる可愛い母と狸のわたし」選評:とても面白い構成に惹かれました。この狐は実在しているのでしょうか。母の方へ来たのです。わたしの本性は実は狸であり、幼いころから母をだましつづけて来たのです。これまで見えない狸を飼い肥らせたものですが、ふいに反省の気持ちにとらわれたのかもしれません。とまあ、勝手に受け取ったのですが、自己を美化せずあっさり狸のわたしと言ってしまえる、そのへんの認識というか、実に面白いです。こういうドラマ仕立てに感心しました。問題句「美しき絵本ひらけば凩」選評:絵本の中に隠された動機のようなものの存在を突き止めた。突き止めたことで、かえって絵本という存在が別の角度で浮かび上がってくる。必ずしもコミュニケーションが得意とは言えない、絵本作家の独特の表現様式について、感慨ぶかいものがあったのかなあと。問題ある句というより、こういう世界観を表現できることに注目したという意味での問題句です。
- 亀山祐美子
特選句『赤いマフラー風のまんなかにいるよ』赤いマフラーが風になびくさまが印象的。 今年もお世話になりました。色々と大変な年であり、勉強の一年でした。皆様の句評楽しみにしています。寒波襲来、雪で大変な皆様にお見舞い申し上げます。日々寒さが増しております。皆様御自愛くださいませ。良いお年を!
- 高橋 晴子
特選句「シリウスに兜太と朗人再会す」兜太と朗人を出してきた処がよく効いている。あまり風貌は似て非なるところがあるのだが二人の生きざまが強烈だったという点で共通だったかもしれない。シリウスがいい。特選句「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」何かカラッとした童話的雰囲気で面白い。赤いマフラーが見えて人間が見えてくる。表現と内容が一致してなんか今から始まりそうな気配を感じる。こんな句作るの誰だろう?コロナがふっとんで気分壮快なり。
- 佐藤 稚鬼
特選句「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」冬ざれの景とすまし顔の犬との対比。とぼけた味有。問題句「帰るべき場所をさがしている枯野」私の鑑賞不足、問題句とします。 四十年振りに句作を再開した小生です。よろしくご指導お願い申し上げます。
- 高橋美弥子
特選句「極月の葬儀場からのぼる月」悲しみがしんしんと伝わる句。私自身も同じ経験をしたせいか、非常に共感するものがありました。「極月」がよい。問題句「バター溶け出すビルの網目に酔う」ビルの網目とは窓のことなのだろうか。それとバターが溶け出すことの因果関係がすこしわかりにくかったです。
- 三好三香穂
特選句「朝日浴び白菜まっぷたつの白」景がとても鮮やかに見え、清々しい。気持ちがよい。ははがそうしていましたが、娘の私はズボラで漬物は買って来るか、頂き物か。半日陽に晒した野菜は甘くなる。「シリウスに兜太と朗人再会す」何度かご挨拶される有馬朗人さんに遭遇したことがありますが、とてもお声の明るい方で、兜太さんもどちらかというと、高めのお声だったと思います。そのお二人が冬の夜空シリウスのもとで、やあやあよく来たの、とか言いながら、和気藹々と俳句談義をしている、そんな様子が想像されます。とりわけシリウスが明るい。「帰るべき場所をさがしている枯野」人生は彷徨。さまよって、あてどない。「一瞬のこの身この時冬銀河」宇宙の歴史からいうと、この世に生を受けている人間の一生なんて本当に一瞬。「加湿器と存分に夜話続きおり」作者は独り居なのか、話すように湯気を吹いている加湿器にモノローグ。孤独だが、相手をみつけた楽しみがある。網棚にプレゼントの加湿器を忘れてしまったエヒソードもほっこりしました。「妻逝きて五年目霜焼が痒い」句またがりで五七五にはなっていないが、妙に共感する。妻の生前には、痒いよ、ちょっと見てよ、掻いてよ。などと話していたことなど、瞼に浮かぶ。「凍蝶にまだなり切れず逢ひたしと」晩年なのだが、まだ生かされている。逢いたい人がある、何かがある。恋歌なのか、希望に燃えるテーマをもっているのか。羨ましく思う。人生は邂逅。「感情の切断面に初雪来」なにかあった。感情が揺さぶられ、切られたような感覚。その時に空から白いものがふわりふわり。初雪の感動。だが、辛い。寒い。
- 男波 弘志
「冬ざれや真面目な顔の犬が来る」真顔即涅槃。「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」同心円その核を感じればよい。「羽音してモディリアーニの女の眼」何か、ざわざわしているあの長い首、眼差し。どれも秀作です。宜しくお願い致します。
- 柴田 清子
特選句「美しき絵本ひらけば凩」「木枯や小人のまわす時計台」季語の選び方。置き方が最高にうまいと思った。絵本に自由に出たり入ったり、時計台を見上げていたい気分にさせてくれる。心洗ってくれる<こがらし>です。魅力あります。色々あった今年、来年は佳い年になりますように。ありがとうございました。
- 津田 将也
特選句「羽後山の裸木一本より数え」。羽後山(うごやま)という固有名詞の山は無いようなので、この句の読みは「羽後、山の裸木一本より数え」と読むがよい。「羽後国(うごのくに)は、東北戦争終結後に出羽国(でわのくに)を分割し制定された明治維新日本の地方区分の国のひとつ。東北戦争は戊辰戦争(一八六八年―一八六九年=明治元年―明治二年)の後半に起こった東京以北の戦争である。有名なのは新政府軍と幕府側会津藩(白虎隊)との戦争だが、ここ羽後も、同盟絡みの激しい戦場となった。作者が数える羽後の裸木などの光景が、今以ってその様子を彷彿させる。「一本ずつ」とせず「一本より」とした表記が特によかった。特選句「空海のさざ波とあり今ここに」。補陀落(ふだらく)の海と呼ばれた那智勝浦に広がる熊野灘。熊野では、海の彼方に常世(とこよ)があると信じられてきた。作者は熊野灘の白い海波と秋空の広大な鰯雲を一望し、お大師さまと今共に自分があることをありがたく感受しているのだ。私は「今ここに」控えております、と畏れと静けさとともに・・・。問題句「その声をどう捉えるか神の留守(伏 兎)」。「その声・・・」の中身が、作者には了解され「神の留守」の季語とも照応をみせて俳句になっていると思っているようだが、読者には「その声」が伝わらず、どうにもこうにも解せぬ俳句になってしまった。
- 小宮 豊和
中で気になる一句「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」を、「吹雪来て赤いマフラー立ち尽くす」のようにしたらどうなるか、少々は良くなっただろうか。
- 中村 セミ
特選句「砂時計返す戦艦から油」二〇三〇年から三五年頃迄に電気自動車に変えましょうという世界的な環境事情を云っているのではないか、まるで時間が滅びていくように油輸産出国は、この事でどう対処するのだろうか等をこの句には感じる。面白いと思った。
- 銀 次
今月の誤読●「赤いマフラー風のまんなかにいるよ」九つだろうか、それとも十歳になろうか。十字路に女の子が立っている。灰色の町だ。彼女のマフラーの赤だけが際立って鮮やかに見える。少女はおどおどとおびえている。キョトキョトとあちこちを見まわしている。道に迷ったのだろうか。そうではない、ただどこに行けばいいのかわからないのだ。だれが捜しにくるでもない。父親はとっくに家出し、母は昨日死んだ。家は大家に追い出された。マフラーが風になびいている。一際西の風が吹いた。イチゴの匂いがした。北の風が吹いた。焼きたてのパンの匂いがした。東の風が吹いた。淹れ立ての紅茶の匂いがした。南の風が吹いた。少しだけ暖気が感じられた。いずれにせよ、いつまでもこの十字路に立っているわけにはいかない。少女は一歩二歩と足を進めた。だがどっちの方角に向かって。それは教えない。ただその一歩が少女の運命を決めたのは確かだ。
- 川崎千鶴子
特選句「十二月八日不協和音の膝小僧」真珠湾攻撃を提示して不協和音と膝小僧を連携させたお力に感嘆です。特選句「缶蹴りや黄泉は冬晴れだと亡弟」亡き弟さんと缶蹴りを組み合わせ、黄泉は冬晴れと持ってきた構成の素晴らしさにわくわくです。
- 藤田 乙女
特選句「逆光の君へシャッター照黄葉」逆光の眩しさ、秋の日差しに照り輝いている紅葉と同じぐらい、いやそれ以上に「君」は美しく輝き眩いくらいなのでしょう。この句を読むと気持ちが青春時代に引き戻るようで、明るく爽やかな気分になります。特選句「凍蝶にまだなり切れず逢ひたしと」心の内にあるかき消すことのできない思いが切々と伝わってくるようです。
- 吉田 和美
特選句「潜水病に似てアナログ人間の炎昼」世はまさにネット社会。パソコンもスマホも持たない私は潜水病?それとも珍獣!いいえ、私のアイデンティティざます。
- 森本由美子
特選句「羽音してモディリアーニの女の眼」時にはサファイア、時にはスイカの種のような女たちの眼。彼女たちに吹き込まれた。生への息遣いがかすかな羽音としてよぎる。とてもデリケートな句だと思います。問題句「バター溶け出すビルの網目に酔う」散文的ですが、どこかに核があるような気配が感じられます。
- 稲 暁
特選句「冬天や涙涸らしてから見舞ふ」:「冬天」が満身の悲しみに対峙して深い感動を与える。問題句「霜月の背中にバカと書いてやる」コロナ禍の十一月。大いに共感するが表現としては荒っぽいかも、と思う。
- 野﨑 憲子
特選句「我が隣人を愛せよと凍星の話(佐孝石画)」<汝の隣人を愛せよ>とは聖書の言葉。掲句は、夜空を見上げる作者への凍星の箴言。どんな隣人にも丸ごとの善意で向かえば争いは起こらない。世界最短定型詩でこそ表現できる世界であります。問題句「慈母観音とやかの人冬の滝拝す」この作品も特選句に挙げたいほどに惹かれました。ただ、<慈母観音とや>は、<慈母観世音菩薩>へ、観音様はフルネームで書かれた方が良いと、私は、おもいました。
袋回し句会
クリスマスケーキ
- ちゃぶ台にクリスマスケーキ子らに箸
- 銀 次
- 中野さんもクリスマスケーキも大好き
- 柴田 清子
- クリスマスケーキ男の愚痴を聞く
- 島田 章平
- クリスマスケーキ廃工場のジャズ加速
- 中野 佑海
オンライン
- オンラインに潜むあやかし冬紅葉
- 野﨑 憲子
- 正面の卑弥呼が笑いオンライン
- 田口 浩
- 寒スバル二人の解はオンライン
- 中野 佑海
- オンライン実は目立って欠伸する
- 鈴木 幸江
- オンラインつぎつぎ石化する言葉
- 三枝みずほ
- オンライン冬のさくらがほつほつと
- 柴田 清子
- オンライン冬の雲まで繋ぎます
- 島田 章平
- オンライン白骨だらけの画像
- 中村 セミ
都鳥(ゆりかもめ)
- 五十周年ゆりかもめでいこう
- 中村 セミ
- これから始まる明日への神話都鳥
- 野﨑 憲子
- ゆりかもめいつまで僕はまってるの
- 中野 佑海
- マスクして都庁牛耳る百合鷗(ゆりかもめ)
- 島田 章平
- 都鳥波にたゆたふ思ひ人
- 三好三香穂
- ペン一本百合鷗の白描く
- 三枝みずほ
- 振り返るまい一声鳴くや都鳥
- 銀 次
- 都鳥結婚指輪はめない派
- 藤川 宏樹
枯蟷螂
- 満月の枯蟷螂はわが海彦
- 野﨑 憲子
- 天の楽隊枯蟷螂も来て送る
- 田口 浩
- 枯蟷螂の影赤色の蝋燭(ろうそく)
- 中村 セミ
- 枯蟷螂耳鳴りのとばり縺れぎみ
- 中野 佑海
- 枯蟷螂わたしは犬のおもちゃです
- 鈴木 幸江
- 枯蟷螂きのふのままで吹かれけり
- 三好三香穂
- バリバリと音して蟷螂枯れてゆく
- 柴田 清子
狐火
- 狐が電線にからみ青火吐く
- 中村 セミ
- 鈴が鳴るとき狐火みんなゐなくなる
- 野﨑 憲子
- 狐火や口紅薄く指で佩(は)く
- 中野 佑海
- 付いてくる子狐狐火連れ歩く
- 鈴木 幸江
- 空席の一つに狐の火が灯もる
- 柴田 清子
- 酔って候狐火のお出迎え
- 銀 次
- おまじないひとつ狐火が灯る
- 三枝みずほ
- 狐火や秋田の出よと言ふ男
- 島田 章平
【句会メモ】
今月の句会へ、中野佑海さんが「発足十周年おめでとう!」と書かれた苺のどっさり乗っかったホールケーキを持ってきてくださり句会がぐっと盛り上がりました。足を治療中の銀次さんもステッキを付きながら登場し、忘年会までご参加くださいました。皆様、ありがとうございました。
コロナ禍の中、発足十周年記念アンソロジー『青むまで』の上梓を通して、ご参加各位の、世界最短定型詩への無限の愛を感じ深く感動いたしました。これからも、より熱い渦巻の様な句会へと精進して参りたいと存じます。今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。次回は、初句会。コロナ感染拡大が気になるところですが、「ふじかわ建築スタヂオ」での開催を予定いたしております。佳きお年をお迎えください。
Posted at 2020年12月30日 午後 03:45 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]