2016年12月28日 (水)

第68回「海程」香川句会(2016.12.17)

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事前投句参加者の一句

                 
師走です一男去ってまた三男 中野 佑海
君の夢醒めて闇飛ぶ冬蛍 島田 章平
産婆駈け出す丹波篠山吊し柿 大西 健司
絶壁にオットウセイ落つ冬の風 KIYOAKI FILM
葛湯してゆっくりとひらがなになる 月野ぽぽな
白鳥ふわり戦う禽と化す瞬間 伊藤  幸
十二月こんなところに捻子回し 三好つや子
うまそうな言葉ころがる蜜柑かな 河野 志保
けもののようぐりぐり眠る冬木の芽 桂  凛火
生きるとは何段活用日短し 寺町志津子
白菜をバサッと裂いただけのこと 柴田 清子
鬼柚子や片思いですニキビ顔 漆原 義典
冬薔薇邪気無き会話つづきおり 田中 怜子
冬紅葉どこかで村が焼かれゆく 増田 天志
宣候(ようそろ)は音楽(がく)なり霧の家島へ 矢野千代子
黒髪の乱れて今朝の雪化粧 藤田 乙女
壇ノ浦螺旋ミサゴが描く平和 藤川 宏樹
物音や扉ひらけば冬の月 髙木 繁子
そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅 小西 瞬夏
寂しければ水を飲むらし冬の犬 鈴木 幸江
絮薄に夕陽くれない足入れ婚 小山やす子
猪垣の中ぽつねんと自衛隊 河田 清峰
冬日向蜂のむくろに縞美し 高橋 晴子
婆一点進む冬田の日本晴れ 竹本  仰
夜や長し供物の柿をいただきぬ 疋田恵美子
トコトコとがに股小春日和です 三枝みずほ
虎落笛 何がよいやらわるいやら 古澤 真翠
母となる真ん丸お腹よ冬紅葉 中西 裕子
信仰か自我か修道女息白し 野口思づゑ
果し得ぬ黙約黄すみれ点在す 野田 信章
大根干す光まみれの日本海 稲葉 千尋
夕支度老母働かす兄の怠慢 由   子
狼狽という日溜りよ一つ老いて 若森 京子
義士の日の息吹きかけて眼鏡拭く 谷  孝江
洟啜り釜揚げうどん生醤油で 野澤 隆夫
雪野にてキツネノママゴト緋毛氈 夏谷 胡桃
忘れたと生き生き答ふ爺小春 町川 悠水
大枯野恐竜闊歩する脳裏 重松 敬子
息白き子の背に巨大なランドセル 銀   次
落ち葉踏む平和の音を響かせて 亀山祐美子
糖質を避ける僧侶や初時雨 菅原 春み
風とまり寒の石からボブ・ディラン 野﨑 憲子

句会の窓

安西 篤

11月の「海程」秩父俳句道場でお目にかかった海程会会長の安西篤さんに先月の句会報を送らせていただきました。そのお礼状の葉書の一部を紹介させていただきます。:☆歳末を迎えましたが、変わらぬ奮闘ぶりを頼もしく思っています。香川句会は、地域にこだわらず多方面から多彩な個性が参加していて充実した内容になっていると思いました。「刈田くる青鷺少年兵の貌(若森京子)」「抽斗の奥に枯れ行く備忘(小山やす子)」「産土やかくもしづかに柚子たわわ(疋田恵美子)」「秋茄子は哲学的に夕暮れる(月野ぽぽな)」「書きかけの手帳のようなオリオン座(河野志保)」「夕冷えの無患子困民史を蔵す(野田信章)」「天降りくる調べよ冬の黒猫よ(野﨑憲子)」等注目。皆さんの評も面白い。これからも頑張ってください。

増田 天志

特選「宣候(ようそろ)は音楽(がく)なり霧の家島へ」作者の肉体が、芸術にスパークしている。良い作品は、創作意欲を鼓舞してくれる。

中野 佑海

特選句「信仰か自我か修道女息白し」ああ、神様。私は多分罪深い女です。私は修道女でありながら恋をしてしまいました。神を取るべきか、彼を取るべきか。ああ、この嘆き の息さえも罪で氷になってカラカラと音を発てて零れて行きそうです。許して神様!特選句「着信音はほろすけほうほう風の中(野﨑憲子)」携帯の着信音が梟なんて、いいえ、携帯 電話自体が梟だなんて、とっても素敵。その想像力に乾杯です。私もハスキー型携帯電話とか欲しいです。気に入った人しか繋がらない気紛れ電話とか!すみません。ますます、とり とめがなくなりました。今月もとっても楽しい句会を有難うございました。体の調子がもうひとつと仰っしゃりつつ、滋賀から高松迄頑張ってお出で下さった、増田天志様有難うござ いました。何気に何時にも増して慎ましく、袋回しに沢山の素敵な句を創られ、とても勉強になりました。有難うございました。来年の句会もとっても楽しみにしてます。どうぞ良い お年をお迎え下さい。

藤川 宏樹

特選「そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅」かつて粘土で塑像を造っていました。頭でこねまわすのでなく土に触れてこねる。眼と手で造る実感、物の重量感がありました。冬は指に 伝わる冷たさに往生しました。「粘土の蝶に粘土の翅」の実像を未だ思い描けず、「どんなもの?」と問いを反芻しています。そこが句の魅力、面白いですね。

伊藤  幸

特選句「白菜をバサッと裂いただけのこと」いいですね。まさに「スカッとジャパン」です。女性のみ与えられたストレス解消法です。 やってみました。バサッ!!気持ち良 かったですよ。特選句「果たし得ぬ黙約黄すみれ点在す」何と切ない悲しいストーリーでしょう。果たすことが出来ないままで終わった恋?はたまた誰かの死?春あんなに咲き誇って いた野の黄スミレが今でも点在しているというに…。でも果たし得なかったからこそ、いつまでも心の中に思い出として生き続けているのかも?

小西 瞬夏

特選句「冬銀河いちばん美しい屍(月野ぽぽな)」:「美しい」だけではなく「いちばん美しい」。ここまで言いきられると、「美しい」というやや甘めの言葉もなにか凄みを 帯びてくる。「冬銀河」と「屍」はややイメージが近いとはいえ、効果的に響きあい、冷たさ、輝きと闇の深さ、永遠の命、などを思わせる。

桂  凛火

特選句「冬のすじ雲なんとなくあんたの香(柴田清子)」あんたの香がインパクトありました。なんとなくでつないだところも面白いです。冬のすじ雲との取り合わせもいいで すね。威勢がよくすっきりとして好きでした。

若森 京子

特選句「まだ会えぬ朱唇観音山椒の実(野田信章)」作者の朱唇観音への長年の間憧れる気持がよく出ている。きっとエロチックな魅力的な観音様なのであろう。何気ない山椒 の実の季語もぴりりと効いている。特選句「義士の日の息吹きかけて眼鏡拭く」義士の日の作者の特別な息で拭かれた眼鏡。きっとこの一日は作者にとって特別な景色であったのでは と想像する。

稲葉 千尋

特選句「葛湯してゆっくりとひらがなになる」中七・下五の感覚がいい。ゆっくり味わいたい。「風とまり寒の石からボブ・ディラン」ボブ・ディランの措辞は言い得て妙である。

KIYOAKI FILM

特選句「ロシア菓子暖炉の前に亡夫(ちち)と亡母(はは)」:「亡夫(ちち)と亡母(はは)」で魅かれて、「ロシア菓子暖炉」と読んで、いいと直感で思いました。ロシアとい うのが、意味深い。母国なのだろうか。異国の菓子をはっきりと見た覚えがない、小生、日本にはない、菓子が暖炉の前に置いている と、いう映像が好きです。問題句「そぞろ寒骸の 亀よそこに海(町川悠水)」:「骸の亀よ」がいい。奇妙でもある。上五と中七下五、とてもいい。唯一覧表の俳句を見て、異質な感触があり、好きなのですが、問題句です。小生は好 きであります。

夏谷 胡桃

特選句「葛湯してゆっくりとひらがなになる」。読んだとたんに身体がユルユルほぐれるような感じを受けました。漢字でもカタカナでもない、素の自分にもどれるひらがな。 この発想は笑顔になれるいい句だと思いました。特選句「大根干す光まみれの日本海」。きらきら光る日本海が見えるような句です。平凡かもしれませんが、「光まみれ」が効いてい ると思います。

島田 章平

特選句「鉄路あり哄笑の野にオリオン座(竹本 仰)」渡辺水巴の名句「天渺々笑ひたくなりし花野かな」を思い浮かべました。闇の夜に果てしなく続く鉄路。疲れ果て、ひた すら歩き続ける難民の列。無情に輝くオリオン座。宇宙の哄笑がどこからか聞こえてくるようです。人間の愚かさを嘲笑うように・・・。

重松 敬子

特選句「硝子戸に昼の日移る漱石忌[高橋晴子)」硝子戸を開けて漱石が顔を出しそうな、気難しそうだけどどこか憎めない、そんな文豪の日常を彷彿とさせるような句。中七 の、昼の日移るがなぜか無性に懐かしい。

矢野千代子

特選句「狼狽という日溜りよ一つ老いて」わずかに一歳加齢がすすむだけで、老いへの思いがいやでも加速する。その微妙な心理の綾を「狼狽」「日溜り」を使ってうまく作品 に。無条件に納得。

大西 健司

特選句「鴉さえ食積みの性ありと母(野田信章)」だんだんと希薄になってゆく正月の風習。そんな風習のひとつ食積みについての母と娘の会話だろう。手に入れた餌やら戦利 品を隠す鴉の習性のおもしろさとあいまって、しみじみと楽しい句になった。問題句「異国の少女掌に受け雪って可愛いね(小山やす子)」こういう世界は大好きである。愛らしい異 国の少女の無邪気さが微笑ましい。それだけにもったいないとの思いが強い。もう少し整理をすればと考える。たとえば「雪って可愛い」この下句を上に持って行けばもっと生きるの では、あくまで私の好みだがいかがなものか。

小山やす子

特選句「 ふくしまや光る寒露の置手紙(若森京子)」優しい眼差しに感激しました。「葛湯してゆっくりとひらがなになる」表現が面白くて癒されます。

寺町志津子

特選句「ふくしまや光る寒露の置手紙」冷気が深まって草草の葉に宿った露が霜になった。晩秋の光を浴びたふくしまの寒露の置手紙とは、どんな内容なのでしょう。私は「美 しかったふくしまの三・一一の惨事を告げ、「『原発許すまじ』としたもの」と捉えたい。三・一一地震から五年以上経っても、事後処理の目途も覚束ないのに、更なる原発推進の動 き。先頃は被災児への卑劣ないじめも発覚。日本は、どんな方向に進むのか。原発事故直後の生々しい、痛々しい俳句から生まれる胸をえぐられるような悲しみや怒りとは違った作風 で、時は流れても、決して忘れてはならない原発事故への鎮魂と警鐘。繰り返し詠み続けていかなければならないテーマを、静かに詩的に詠まれた作者に敬意を表したい。

古澤 真翠

特選句「 冷たくてひとり泣きたくなることも(柴田清子)」:「たく」のリズムと「寂しい情感」が響き合って 何故か心に染み込んでくるような句だと思いました。

由   子

特選句「師走です一男去ってまた三男」一難が一男に変わる、発想がおもしろいです。私も去りたい、なら、もっとおもしろい。特選句「婆一点進む冬田の日本晴れ」一点、冬 、日本晴れ、潔い言葉使いに、イメージが繋がります。振り返る事はないと思われる。春ならば別の言葉を使うでしょうね。

野田 信章

「出会ったら時雨のように来る記憶(河野志保)」は出出しが説明帳のためか美しい記憶の甦りもやや薄らぐ感がある。もっと唐突感のある句柄が欲しい。「ハタハタや眼玉ぬ るぬるまだまだ死なん(桂凛火)」は生への執着感を込めたこの内容を生かし切るためには配合を含めてその推敲を望みたい。「死に近きもつれる舌に冬アイス(竹本 仰)」は、そ の着眼点に注目しつつも、今際の句としてもっと丁重に書いて一句を自立させる推敲を期待したい。右三句はそれゞの発想契機に賛同すればこその苦言である。:今年最後の句会となり ました。良き勉強のできるこの通信句会に感謝申し上げます。

疋田恵美子

特選句「鬼柚子や片思いですニキビ顔」凹凸のある特大の柚子に健康な少年のニキビ顔みるという。若々しい秀句。特選句「黒髪の乱れて今朝の雪化粧」日々の生活では当たり 前で面白くありませんので、情人だとしたら!

町川 悠水

今月は素早くチェックを入れる句がなかなか見つからなくて戸惑いを覚えましたが、これも安易な選をすることへの戒め、あるいは別の意味の試練と受け留めて作業を終えまし た。その結果は。特選句「何とのう遠くまで来しレノンの忌」は、レノンを偲んで、まさにこのとおりと実感しました。ウィキペディアで改めて生涯を追ってみたことです。今回ボブ ・ディランがノーベル賞を受賞しましたが、個人的にはビートルズでした。「生きるとは何段活用日短し」は、ずばり5段あるいは4段と言った方が、よくはなかったですかね。「宜 候は音楽なり霧の家島へ」は、これによって「宜候」という言葉があるのを初めて知りました。そして、なるほど、なるほどと。「ロシア菓子暖炉の前に亡父と亡母」は、シベリアで 亡くなった考のことなのでしょうね。深い哀惜の念を覚えます。「ハタハタや眼玉ぬるぬるまだ死なん」は、店頭で見たままは確かにこのような感じですね。関東ではよく見かけた魚 でしたが、瀬戸内生まれの私には、卵のプチプチ感はよいものの、さしたる魚とは思いませんでした。その風土に生きた人にとっては、切っても切れぬ魚のはずですからまた格別でし ょうね。他方で、はるばる秋田あたりから送られてきたハタハタが、まだ死なんと言っているのも、今様の哀れと言えるでしょうか。「唐辛子締切までの三時間」の作者は、唐辛子を どう使うのでしょうね。埼玉で長く暮らした私は、当地の人に唐辛子を履物に入れると足が温まると教えられ、時々実践していました。この作者は眺めるのでしょうか、それとも口に 含むのでしょうか。野次馬感覚で面白い!問題句「テロという言葉の翳り赤蕪」は、作者の心と狙いがある程度理解できるだけに、翳り、赤蕪の言葉の斡旋が、果たして成功している のかな、どうなのかなという気がしてなりませんでした。

月野ぽぽな

特選句「冬日向蜂のむくろの縞美し」死んだばかりの虫。生きているかのように生き生きとした姿に驚く。命の哀しさ、命の不思議。冬の日差しが優しい。

竹本 仰

特選句「白菜をバサッと裂いただけのこと」その付帯状況がまったく無いという、この切取り方が鮮明です。だから、いろんな様子を想像させる強みがあります。と同時に、何 というか、人生、所詮これだけなのよという割り切り感が快い。真実のところ、この世の中、割り切れないことばかりなんだとよくわかっているから成り立つ句。朝鮮半島の極上の白 菜は、何の調味料もかけず、そのままそれだけでご飯の単品のおかずになると聞いたことがあります、そんな連想をさせてくれますね。特選句「落葉踏む平和の音を響かせて(竹本  仰)」落葉の音に平和を感じる、その感覚が本当に平和の嗅覚の鋭さを十分感じさせます。落葉を踏み、平和というものの正体を感じる、ささいなことだけれど、その同じささいなこ とによって、大きく世界が崩れていくという暗示になってもいるように読み取れます。そして、この平和な音を聞き取れない人々が増えていくことが一番怖いことです。昔「連合赤軍 少年A」という本を読んだことがあります。これは、あのあさま山荘事件の犯人で逮捕された時、まだ高校生であった筆者の回顧録でした。すでに老いを自覚した筆者は、ある自然保 護団体のリーダーをされているんですが、本当に事件終了後はじめて現場に戻ったとき、榛名山のあたりの生態系の豊かさにまず息をのんだとありました。つまり、あの事件のころ、 まったく目の前の草木のようすに目がいかなかった自分に驚いているのです。杜甫の「春望」にも亡国のありさまを目にして、時に感じて花にも涙を濺ぎとありましたが、感受性とい うものの大切さを痛感させる句でありました。以上です。忙しさ、止まらず、という状態です。この状況が、特選句の選定につながったのかもと思ったしだい。みなさん、お元気でし ょうか。来年もよろしくお願いいたします。

鈴木 幸江

特選句「そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅」粘土一筋で創り上げるという作者の一途さがそぞろ寒いという。確かに、この作業にそぞろ寒さを合わせてみると、とてもユニークなそ ぞろ寒が感受できるので、とても面白かった。特選句「狼狽という日溜まりよ一つ老いて」激しい変化の現代、高齢化社会でひとつ歳を取ることも前例のない新体験である。安定して いるような暮らしでも、どこか狼狽している自分を感じる。この句は現代社会を鋭く捉えていると感心した。問題句「絮薄に夕陽くれない足入れ婚」まず、足入れ婚の風習が分からず 問題句とした。そして、時代と共に結婚の実態も変化していることを今更ながら考えさせられた。夕陽の当たる絮薄のイメージが重なる結婚など現代では想像がつかない。家制度のあ った時代を想った。

河野 志保

特選句「物音や扉ひらけば冬の月」冬の月がひょっこり訪ねて来たようで、どこかユーモラスな句。場面に温かさがあって惹かれた。日常を大切にする作者の姿勢も感じる。

柴田 清子

特選句「考えている雪よりも遠い場(月野ぽぽな)作者にも、読み手の一人一人のみんなが、持っている場所、それは各々違っていても。今晩あたり「雪よりも遠い場所」へ、 夢の中なら行けるかも。特選句「風とまり寒の石からボブ・ディラン」今、話題の人ボブ・ディランが「寒の石から」が、的確であると思った。いつ、私達の前に、どんな形で、寒の 石から表れてくれるのでしょうか。増田天志さんが参加して下さり、新人ベテランの島田章平さん、着物姿の佑海さん、漆原さんが、河童三千匹を連れて来た(事前投句作品「冬の雨 三千の河童島走る・・漆原義典に拠る)から、さあ大変、にぎやかな楽しい納め句会となりました。

田中 怜子

今回は気持ちがいい句を特選句としました。「白菜をバサッと裂いただけのこと」です。わからない句は「祖母の毛皮と京の人言う大書院」です。祖母の毛皮と大書院のむすびつきがわかりません。→十一月の「海程」関西合同句会丹波篠山吟行に和装の毛皮のコートでご参加の方有り、すかさず句材にされた作品で す。

三好つや子

特選句「身を折りてなを曲げて引く冬の草(稲葉千尋)」根っこが土にしがみつき、おいそれとは抜けない冬草は、私にとって老いた母親そのもの。己の力量を試すように存在 する冬草に、いろんなドラマが想像できそうな素晴らしい句です。特選句「うまそうな言葉ころがる蜜柑かな」 楽をして儲かる話とか、若返りの秘策とか、他愛もない会話の中で一 人歩きする妄想・・・。蜜柑をむいて食べている間の、うたかたの幸福感がうまく表現されていると思います。問題句「けもののようぐりぐり眠る冬木の芽」 中七と下五がとてもユ ニークで、123句中でもっとも好きな言い回しです。ただし、上五がこれでいいのか気になりました。

野澤 隆夫

昨日は冬至とか。一年が早いです。〝第九〟も高高、広島と終わり…。でも二月の徳島が楽しみ。選句をお届けします。特選句「生きるとは何段活用日短し」…口ずさみました 。「生く=生きム、生きタリ、生く。、生くるトキ、生くれドモ、生きよ」。上二段で活用させて日々の生活に感謝。もう一句。特選句「壇ノ浦螺旋ミサゴが描く平和」…屋島・壇ノ 浦の鶚スポットが目に浮かびます。平和の一光景。問題句「雪崩来て革ジャン牧師のべらんめえ」…ちょっと問題ある牧師さん?雪崩に大 騒ぎの…。コメディーか…来年もよろしくお 願いいたします。よいお年を…。

銀   次

今月の誤読●「トコトコとがに股小春日和です」。廊下の向こうから「トコトコと」幼児のような足音が聞こえてきた。サチ子は気配を感じて、そっと障子を開けてみた。庭で は十姉妹がエサをついばんでいる。その障子の影から「小春」さんが、おはよ、とキッチンに入ってきた。いつもと同じ風景、毎日という日常がつづくことのなんという穏やかさ。小 春さんおはよと、夫のトミオが元気よく言う。ちゃんと食事時がわかるのね、と妻のサチ子。小春は食卓につくなり、右手に味噌汁のお椀を持ち、左手にオムレツの皿を持ち、ウオッ と重量上げの選手よろしく持ち上げて見せた。驚いた夫のトミオは、笑いながら、すごいねえ、と言った。サチ子はなんだか嬉しくなって、次のオリンピックは小春さんが金メダルね え、と言う。小春の踏ん張った「がに股」から、大人用のオムツが見えている。小春九十六歳。サチ子は背後から小春をギュッと抱きしめた。泣いていた。婆ちゃん、好きよと言った 。小春婆さんはそれにはかまわず、あらあら十姉妹が飛んでゆくよと、空を見上げた。それはなにげない「日和です」。そういう幸せのカタチなんです。

三枝みずほ

特選句「葛湯してゆっくりとひらがなになる」角張ったものが削られて、だんだんひらがなになっていくという感覚がよかったです。忙しさの中にも自分自身が柔らかくなれる 場所や時間を持つことは大切で、惹かれた一句です。「黄落の始まる前の深呼吸」晩秋の静けさと冬に向かう激しさが深呼吸と黄落で表現されていて、風を感じさせられた作品でした。 この晩秋の空気感、何とも言えず好きです。今年も残すところあと二週間ですね。一年があっという間に過ぎてしまいます。香川句会に参加させて頂き、毎月様々な発見、刺激、活力 を頂き、感謝しております。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます!

河田 清峰

特選句「産婆駆け出す丹波篠山吊し柿」産婆駆け出す の離れ具合といかにも篠山にはあり得そうな付き具合と吊し柿 なおかつさんばとささやまの響きが良くて楽しくなりまし た♪篠山吟行また行きたく思ってます!お誘いくださいませ!ありがとう♪

漆原 義典

特選句は「産婆駆け出す丹波篠山吊し柿」です。この句には暖かい空気が心地よく流れています。古き良き昭和の空気です。「産婆駆け出す」と「吊し柿」の「動」と「静」の 対比が素晴らしいです。即決で特選とさせていただきました。ありがとうございました。

藤田 乙女

特選句「君の夢醒めて闇飛ぶ冬蛍」人の世の儚さをしみじみと感じます。「苦しさの己が生みし子のらしき(鈴木幸江)」親の子への複雑な思いがよく伝わってきます。

野口思づゑ

特選句「十二月こんなところに螺子回し」家族の誰か、家の修理やら点検の役目の人がいて年末あちこち螺子回しで修繕したのだろうけど、仕舞い忘れたか置きっぱなしになっ ている。あらま、こんなところに螺子回しがあるわ、とその一瞬の気持ちを述べているだけなのだが、シンプルで飾りの無い中に12月らしさ、家族の生活の様子など目に浮かび暮ら しに密着した、良い句だと思った。「異国の少女掌に受け雪って可愛いね」雪に縁の無い国の少女なのでしょう。雪を可愛いという発想が面白い。

中西 裕子

特選句「寂しければ水を飲むらし冬の犬」なにか切ない感じで、冬の水は冷たかろうにと思いました。「吊り棚へ母よ背伸ばし鍋支度(藤川宏樹)」はお母さんが普段は背中が すこし丸いけど、元気に背を伸ばし鍋支度をはりきって始めたのかなと、老いもかんじつつ元気でいてねというお気持ちかと思いました。今年は参加率が悪かったけれど伺ったときは 楽しく勉強になりました。来年はもっと出席が目標。一年間ありがとうございました。

亀山祐美子

特選句『そぞろ寒粘土の蝶に粘土の翅』:「粘土の蝶に粘土の翅」は当たり前だが「そぞろ寒」の季語を置と何やらもぞもぞざわざわしてくる。きな臭さがしてくる。考え過ぎ だろうか。皆様とお会い出来てうれしい句会でした。やはり俳句は『座の文学』だと思いました。刺激をありがとうございました。よいお歳を!

高橋 晴子

特選句「猪垣の中ぽつねんと自衛隊」自衛隊の存在感、これでいいのです、という感。面白くて共感!問題句「欠けて寂しあの人もそうだったか」何となくわかって面白いのだ けど、上五にしっかりした季語を入れて表現すると(特に「欠けて」の処)もっと現実感が定着していい句になる。

野﨑 憲子

特選句「息白き子の背に巨大なランドセル」:「巨大なランドセル」が、いい。冬の朝、この学童の背負ったランドセルの中に、いったい何が入っているのだろう?中八音が、 まだまだ大きくなって行くランドセルを想像させる。もしかしたら、風船のように空へ舞いあがるかも知れない。重荷ではなく夢のぎっしり詰まった虹色のランドセルであって欲しい 。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

皇帝ダリア
階(きざはし)のはじまり皇帝ダリアかな
亀山祐美子
これ好きかも皇帝ダリア高すぎて
河田 清峰
隣家の皇帝ダリア仏頂面
藤川 宏樹
煤逃
煤逃げをさせじとばかり子の泣けり
鈴木 幸江
煤逃のプーチン招く好きかもね
河田 清峰
煤逃や美しき罠(わな)かもしれず
中野 佑海
煤逃の女六人寄り来たる
亀山祐美子
煤逃げを嫌いドスンと当主なり
増田 天志
柚子
老いらくや火傷で済まぬ柚子の棘
島田 章平
あと百里歩いてゆけば柚子の里
銀   次
消えちゃうわ私に柚子をかけないで
増田 天志
選択ミスはいつものことよ柚子は黄に
野﨑 憲子
醤油垂れ惚気(のろけ)る口や柚子の棘
藤川 宏樹
訳があるこんなに大きな柚子の棘
鈴木 幸江
冬の虹
人間になりそこないし冬の虹
亀山祐美子
冬虹の根元に放哉いまもゐる
柴田 清子
ここにボク向こうにアヒル冬の虹
増田 天志
みんな虹海鼠も人も星たちも
野﨑 憲子
冬の虹何色が好きと妻が言う
漆原 義典
初雪やアンパン食めば星の歌
野﨑 憲子
雪の日は降る雪だけを見てゐたい
柴田 清子
あんたもう苦労ないのよ雪頭
藤川 宏樹
雪兎ぼやいてないで翔んでみな
中野 佑海
深読みはせずしんしんと初雪
三枝みずほ
柊の香ほどの夢見ています
柴田 清子
寒月光夢の中でも捨てられる
増田 天志
再放送亡き人とゐる夢炬燵
藤川 宏樹
忘年会
頬杖の頬重たくて年忘れけり
柴田 清子
忘年会逃げて君に逢いに来た
鈴木 幸江
放哉
放哉の歩幅私の歩幅かな
亀山祐美子
茶封筒の中に放哉モソモソす
柴田 清子
墓石が咳をしている島の墓地
島田 章平
輪郭は風のことのは放哉忌
野﨑 憲子
冬の蚊が這ふ放哉の寝たあたり
島田 章平

句会メモ

本年最後の句会の17日は、雲一つない冬晴れの日でした。大津より増田天志さんが、観音寺より河田清峰さんや亀山祐美子さんも参加し、始終笑い声の絶えない、あっという間の4時間の 句会でした。和服姿の中野佑海さんが今年最後の句会に大輪の華を添えてくださいました。皆さま、感謝です!鈴木幸江さんが、ご自宅の庭で育てた柚子を持って来てくださり、句会 にご参加の方々にお土産にくださいました。柚子の香って、こんなにも香り高いものかと再認識しました。

年の瀬いただいた、安西篤さんからお葉書から・・「香川句会報68回を有り難うございました。香川句会は、東京の青山俳句工場と並んで地域横断的な通信句会として、又相互交流の場として気を吐いています。なんといっても68回という持続力が素晴らしい。今回の収穫句を次にー<産婆駈け出す丹波篠山吊し柿><まだ会えぬ朱唇観音山椒の実><着信音はほろすけほうほう風の中><光踏み合うて冬蝶遊ばせる><冬銀河いちばん美しい屍><生きるとは何段活用日短し>ヴェテランも若手も全力で取り組んでおられる意欲をひしひしと感じさせられます。これもプロモーターの地道な努力あればこそと思わずにはいられません。次第に、確実に、関西の有力な拠点になる事でしょう。どうぞ来年も頑張って下さい。」・・・ 一回一回の句会を大切に、じっくりゆっくり楽しんでやって行きたいと思います。安西さん、大きなエールをありがとうございます!

ことし最後の句会も、盛会の内に終わることができました。ご参加の皆さまのお陰さまでございます。来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。毎回、毎回、たくさんの新たな作品 との出逢いがあり、大きな元気をいただきました。心よりお礼申し上げます。これからがますます楽しみです。皆さま、どうか佳いお年をお迎えください!

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