2017年12月28日 (木)

第79回「海程」香川句会(2017.12.16)

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事前投句参加者の一句

        
否そして雪そして雪そして雪 小西 瞬夏
肋骨透きとほる白魚の秒針 中村 セミ
生きて愉快冬青空へ廻れ右 田口  浩
とびきりの寒の歓喜や風太鼓 豊原 清明
児に初めてのことばは落ちた茸落ち 竹本  仰
ホットレモンにんげんじんわりと適温 三枝みずほ
漱石忌アンドロイドが煩悶す 野澤 隆夫
母の骨いがいに多し冬銀河 菅原 春み
耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし 山内  聡
着ぶくれて身に覚えなき咎のごと 重松 敬子
てのひらはさかなとさかな寒月下 男波 弘志
着ぶくれて身に覚えなき咎のごと 重松 敬子
冬葛藤闇を切り裂く流れ星 漆原 義典
生き生きて浮いた落葉の自在かな 疋田恵美子
明恵上人(しょうにん)の愛でし子犬や草紅葉 田中 怜子
紫とオレンジの空 タラバガニ 古澤 真翠
冬紅葉透くや紫影の柱立つ 藤川 宏樹
木洩れ日の入る座敷や十二月 髙木 繁子
白さざんかの光の中を姉逝けり 稲葉 千尋
初冬の湯気で開封する手紙 新野 祐子
義理や義務歳暮センターの疲れ顔 野口思づゑ
聖誕祭ナイフは肉に沈みゆく 増田 天志
臘梅のほのかな家路また転ぶ 若森 京子
散落葉そんな隙間をみつけたか 小宮 豊和
まだ青春今が青春麦の芽よ 伊藤  幸
兵士って感じのイチゴ十二月 三好つや子
九つの穴ある人体今朝の冬 寺町志津子
パーマネント鏡の奥に初氷 夏谷 胡桃
箸割りそこね淡路西岸冬あらし 矢野千代子
偽の雪降らして役者芽吹きをり 小山やす子
十億年前の冬ですオウムガイ 桂  凛火
ポケットの手が冷たくて町を出る 柴田 清子
せりあがるみちやさるとりいばらの実 亀山祐美子
冬紅葉うちはあんたに捨てられた 島田 章平
コートの袖誤作動の杖の出入り 中野 佑海
イソップとかちかち山と風邪の子と 谷  孝江
国歌斉唱静かに斧の倒されて 大西 健司
札売の声や骸の漂着す 河田 清峰
みかん匂う今ふたり切りですね 鈴木 幸江
狼を呼ぶよ邪馬台国の唇 月野ぽぽな
古馬場町から百間町へ時雨連れ 松本 勇二
枯葉舞ふ落ちる駆けるも踏まるるも 高橋 晴子
若呆けもあるぞと案山子こちら向く 野田 信章
他人事のような顔して冬の月 藤田 乙女
酔漢の紐ほどけたり十二月 銀   次
柿紅葉選ばれなかった人生に 河野 志保
朝日子の渦巻くことば冬木の芽 野﨑 憲子

句会の窓

島田 章平

特選句「初冬の湯気で開封する手紙」。掲句、スマホ全盛の時代。あっと言う間に届く彼女からの「サヨナラ」のメール。恋は秒殺。それに比べて手紙の優しい昭和の香り。肌の温もりを感じる・・とそこまで思ってふと考えた。「湯気 で開封する手紙」って何だろう。夫宛ての見知らぬ名前からの手紙、そして美しい女文字。揺れる心、震える手。思わず薬缶を引き寄せて、封印を少しづつほぐして行く。高ぶる気持ちを抑えながら・・。やはり女心は昭和の匂いでなくっちゃ。

若森 京子

特選句「てのひらはさかなとさかな寒月下」自分の両てのひらか、恋人と触れ合うてのひらか。寒月下にさかなの様に泳ぐてのひら。大変リアルで美しい。特選句「コートの袖誤作動の杖の出入り」〝誤作動の杖〟の措辞が現代の象徴の ようで、コートの袖を出入りする。人間と文明の小さなおかしみを、軽妙な滑稽さを感じる。

増田 天志

特選句「冬紅葉透く日紫影の柱立つ」この柱、墓標に想えてならない。それも、兵士の墓。国家のための人柱。冬紅葉という儚い季語の効果なのか。透くという言葉の存在の希薄さのためなのか。「日」は、不要で、「や」の切れ字に、 添削したい。紫という色彩感覚の良さを、作者に感じる。紫は、犠牲者に対する鎮魂と敬意の表現か。

三好つや子

特選句「朝日子の渦巻くことば冬木の芽」 冬の朝の校庭や教室で、息をはずませて話す子どもの声が聞こえてきそう。冬木の芽のように日々成長していく子どもたちを、温かく見守る先生のまなざしまでも感じられました。特選句「十 億年前の冬ですオウムガイ」 生きている化石のひとつオウム貝を通して見えてくる、遠いむかしのピュアな地球。富沢赤黄男の「蝶墜ちて大音響の結氷期」に通じるものがあります。入選句「寒雷や魚の眼のぎっしり(野﨑憲子)」鰤の到来を 告げるため、「鰤起こし」と呼ばれる、母の故郷の冬の雷のことを思い出しました。

小西 瞬夏

特選句「肋骨透きとほる白魚の秒針」:「白魚の秒針」にどれだけ普遍性があるかはやや疑問ではあるが、この思い切った飛躍に勢いがあり、エネルギーを感じた。問題句「木洩れ日の凍蝶やはらかき旋律(三枝みずほ)」素敵な句なのだ が、「木漏れ日」「凍蝶」「やはらかき」「旋律」と同質の言葉がこれでもかと並んでいて、やや気取り過ぎなところが気になる。

藤川 宏樹

特選句「否そして雪そして雪そして雪」:「そして雪」のリフレインが映像として捉えられます。「否」での始まりは、雪深きところでの作者の生活像を想わせます。17音の象徴的な構成が効果的で、勉強になります。なお、「冬紅葉透 く日紫影の柱立つ」の「日」を「や」へとの増田天志様の的確なご指摘のとおり、この場で拙句を改めたいと存じます。「冬紅葉透くや紫影の柱立つ」

三枝みずほ

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」十二月は開戦の月。冬のイチゴ、痩身で酸味もあり、早熟だ。イチゴの赤が何とも痛々しくも思える。春のふっくらとした芳しい苺ではなく、十二月のイチゴがとても効いていて、心に響いた。

矢野千代子

「古馬場町から百間町へ時雨連れ」強く読み手にひびきあう固有名詞と時雨の音…。予想以上の効果のおおきさで特選句に。

稲葉 千尋

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」骨の数は誰も変らないが、この句の場合は、母が亡くなって火葬後の事かなと思う。冬銀河が利いている。特選句「九つの穴ある人体今朝の冬」どこまで数えて九つかわからないが、人体への(作者 自身)不思議を感じ、冬銀河の不思議も感じている

伊藤  幸

特選句「パンパスグラス一メートル半ノコドク(小西瞬夏)」孤独を強調する為敢えて仮名にしたものであろうが下語はやはり孤独と漢字で表現しても良かったのでは?巨大な芒を思わせ3メートルにも達するパンパスグラス、1メート ル半の措辞で寂しさが充分伝わってくる。パンパスグラスと孤独の相反する取合せが見事。

豊原 清明

特選句「反骨の顔ぬっと冬木の芽(三好つや子)」反骨精神が頼もしい。問題句「魂が魚簗に捕まり岩となる(中村セミ)」語句から魔物性を感じる。

田中 怜子

特選句「パーマネント鏡の奥に初氷」田舎のレトロの理髪店、鏡を前にパーマ、鏡に窓外に氷が映る。おだやかな、昭和が描かれている。特選句「丑三つの菊人形の寝息かな(新野祐子)」菊人形の寝息とは、ありそうでなさそうで、一 寸不気味でもある。

中野 佑海

特選句「生きて愉快冬青空へ廻れ右」最近、体の不調が続き、生きることの大変さをつくづく感じているので、この御句に生きる勇気と姿勢を教えて貰いました。特選句「あちこちで撫でられてきたかぼすかな(河野志保)」農家の方の 自分たち作った作物に対する愛情、それを商品として出す方の気合い、それを使って料理に使う人の気遣いそれらを短い俳句の中に見事に凝縮されているところ。この方の心の温かさを感じました。

山内  聡

特選句「散落葉そんな隙間をみつけたか」まず目に浮かぶのが敷き詰められた散落葉。もう隙間もないほどに敷き詰められている。でも埋められていない隙間がある。そこにはらりと一陣の風が。ハラハラハラと落ちて来る紅葉たち。そ の紅葉のひとつがたまたままだ埋められていない隙間にはらりと落ちた。その状況だけで十分美しい情景が想像できる。そして田口さんがおっしゃっていたが、人間の世界もまた同じで自分の隙間をみつけて心地よく人生を生きている作者の心象 も描けていると思いました。

松本 勇二

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」見立てと口語調がどちらも新鮮でした。問題句「白さざんかの光の中を姉逝けり」:「白さざんかの」の「の」を取れば韻律が一層締まるのでは。

鈴木 幸江

特選句「否そして雪そして雪そして雪」雪は人間の営みを否定するかの如く、混沌とした街を白の世界へと変貌させてゆく。そこに雪の想いを見、それを“否”と感受した。そして、“そして”のリフレインにより、雪の降り続く様を見 事に表出させた。特選句「柿紅葉選ばれなかった人生に」選ばれなかった人生を、時代に評価されなかった人生と解釈するか、自分が選ばなかった人生とするか、二通りあるが、この少し投げやりな措辞から、今は凡庸な人生を送っていることが 伺われる。そして、その人生を“柿落葉”で、明るく受け止めているのだ。その姿勢に共鳴した次第。問題句「兵士って感じのイチゴ十二月」“感じ”という言葉が無性に気になった。 “感じ”を言わずに感じさせるのが俳句ではないだろうか と、思った。“兵士”を十二月のイチゴに、新鮮な批評精神を感じ感心した。しかし、“感じ”を言ってしまったことで、読み手の楽しみが半減してしまったので、問題句。

田口  浩

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」冬銀河の星の数は、母のいがいに多い遺骨の数につながろう。火葬場で集めた、おののきと思いが、冬銀河とひとつになって、母のあれこれがよみがえる。冬の凛とした大気と、星座が、作者の気持 ちとして読みとれる。特選句「ポケットの手が冷たくて町を出る」この作品、書こうと思ってハタと困った。句の内意は、いくらでも書けるのだが、それをやると句が痩せることに気づいたからである。このような作品は、俳句の妙味を解釈する のでなく、そのまま心につたわるものを感じとればよいのである。その上で、句の内臓する淋しさや人生を受け取れば、充分であろう。好きな作品である。

夏谷 胡桃

特選句「ホットレモンにんげんじんわりと適温」。寒い日が続きます。マイナス10度になりました。それにも慣れていき、0度だと温かいと感じるようになります。暖かいとは幸せです。ストーブの傍でホットレモンを飲み胃の腑から じんわり温かくなる。にんげんは何が適温かわかりません。ちょっとしたことで幸せになり、今生きていることの不思議を感じます。にんげんがはじめて火を使い、温かいものを飲んだ時は感動したのだろうなどと思いました。特選句「寒雷や魚 の眼のぎつしり」。句として少し物足りなさも感じるのだけど、魚の目がぎっしりで「こわいこわい」とイメージが頭に染みついてしまった。魚の目、鳥の目ってぎっしりはいけません。不吉な感じの句は取りたくなかったけど特選にしてしまい ました。

野田 信章

特選句「魂が魚簗に捕まり岩となる」の句。このごっとした句調の感触が山地に生を享けた者の証しかと思える。魚簗場の活写には諧謔味がある。この句に鮮度ありと読むところに現代を生きる者の魂の漂泊がある故かも知れない。特選 句「箸割りそこね淡路西岸冬あらし」の句。日常の些細な一態がペーソスに終ることなく淡路西岸の映像をも伝達させてくれるところに確かな心情の裏打ちがある。この地に住む者ならではの風土体感の厚みを覚える句柄である。

河野 志保

特選句「蠟梅のほのかな家路また転ぶ」蠟梅に気をとられて躓いたということだろうか。自嘲を含んだコミカルな詠み口と受け取ったがどうだろう。「また転ぶ」に意外性があり心地よいアクセントも感じられた。それでは、穏やかな年 末、そしてお正月をお迎えください。

古澤 真翠

特選句「傀儡師の靴音枸杞の実は零れ(大西健司)」人形遣いを傀儡師というのですが、まず その漢字での俳句に惹かれてしまい不思議な雰囲気の中に誘われていきました。

野澤 隆夫

小生にとっての〝第九〟の二大行事、〝高高ハートフルコンサート〟と〝第九ひろしま2016〟が終わりました。一月句会は是非に参加をと思ってます。。新年会も持つようでしたら、参加の線でお願いします。特選句「反骨の顔ぬっ と冬木の芽」→「反骨の顔」が何とも迫力があります。そして「顔」が「かお」でなく「かんばせ」のルビに「顔のさま」がよくでてます。「冬木の芽」に「反骨の顔」を感じた作者が素晴らしい。特選句「イソップとかちかち山と風邪の子と」 風邪をひいた我が子に若いおかーさんが絵本を読んであげてるのかと。昭和の郷愁を感じさせられました。特選句「冬紅葉うちはあんたに捨てられた」この句も面白いですね。捨てられても何のこれしきと立ち直れる強さを感じます。今回は滑稽 でユーモラスが句が多く、選句しつつ思はず〝ニヤリ〟とさせられました。

谷  孝江

特選句「柿紅葉選ばれなかった人生に」には、共感がありました。だれもが華々しい一生を通せるものではありません。地味な暮しの中で喜びや哀しみを持ちながらの生活を思います。そのなかでの柿紅葉の紅色はやさしい慰めを受け取 る事が出来ます。柿の紅葉なれば尚更です。この句には悲観も捻れも無くさらりと詠んでいらっしゃるところに好感がありました。今年もたくさんの句を拝見出来て嬉しい一年でした。ありがとうございます。良いお年をお迎えください。

大西 健司

特選句「木洩れ日の凍蝶やはらかき旋律」詩的過ぎるきらいもあるのだろうがこの繊細な美しさにひかれる。作者は木洩れ日の中の凍蝶に拘った。それなら「木洩れ日や」としたらとの思いも少しある。

小山やす子

特選句「電柱のこゑして長き夜が混ざる(小西瞬夏)」電線が唸りを上げて爪弾いている。寒くて長い夜の厳しさを端的に上手く表現していると思います。

竹本  仰

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」収骨の時の、こんなに母は骨を抱えていたのかという発見と驚きでしょうか。手に取った箸の先に、一つ一つ何か思い出にこつんこつんと突き当たるものがあったのかも知れない。それが、今まで思 い出しもしなかったものがあれよれよと溢れてきて、そんな感慨がよく見えます。そして、多分、自分にもこの骨の多さがあって、或いは同じような気持ちを起こさせるのかもしれないと、因果の先をも思いやっているのではないか。多くのもの 、それは煩わしさではなく、与えられるものを多く持つという勇気につながるもののような気がします。特選句「全卵にひとすじの血の十二月(田口浩)」勢いのある直球は、ホップする、つまり浮き上がる。なぜかというと、球が生命を持った からだ。この句の血も、まっすぐにしかいかないという、命ある血のことを言ってるのだろう。卵は一つずつ個別にあるが、つらぬく命は一つしかない。この一つは、卵をつらぬくとともに、我々の血にもつながる、根源的なひろく通底したもの だろう。なだれるように落ちる十二月へ、まっしぐらに垂直に落ちゆく時間。それはまた、生命の立ちあがる月でもあるのだろう。生命、そして、宿命の肯定感があらわれている。特選句「散落葉そんな隙間を見つけたか」そんな隙間とは、どん なすきまか?文脈からは、散りゆく先となるのだろうが、そうだろうか?そんな隙間は、生きゆく先とか、死に方とか、そういうスペースを指しているのだとも取れる。そして、散る落ち葉はそんなすき間を見つけ得たから、落ちられるのだとも 、つまり、ゴールからスタートを逆さに見ているような面白い見方も成り立つように思う。すき間に落ちてゆくのだ、きっと我々も、と妙に納得させられてしまうような。では、作者はどうなのだろう?あのように生きねばという声だとも。いず れにしても、全体像がよく見えているような、そんな余白感を味わえた。

疋田恵美子

特選句「臘梅のほのかな家路また転ぶ」高齢に伴う体調不良など、趣味の仲間も一人二人と去り寂しくなる現状です。特選句「暮れなずむ廃炉は揺(よう)と浮巣なり(若森京子)」震災後のフクシマの廃炉のおぞましい現実。

寺町志津子

特選句「ポケットの手が冷たくて町を出る」毎月、香川句会の実に多彩で新鮮ないきいき魅力的な句をワクワク鑑賞させて頂きながら、だからこそ、読み返すたびに特選は?に悩ましい思いがあります。今号も正しくその典型で、最初一 読した折にはスルーしていました。ところが、読み返す度に、「ポケットの冷たい手」は誰の手?作者ご自身?もしかして愛している方?「町を出る」理由は何?と勝手に映画のストーリのような、それも哀愁とロマンに満ちた物語が勝手に広が っていき、目が離せなくなりました。

野口思づゑ

特選句「ホットレモンにんげんじんわりと適温」冷えた体に熱々のホットレモン。自分にとって心地よい適温まで体が少しずつ温まる。読むだけで暖かくなりました。「とびきりの寒の歓喜や風太鼓」:「寒の歓喜」が明るく前向きです。 「柿紅葉選ばれなかった人生に」選ばなかった別の人生に敬意を表すのは選んだ人生に満足しているのだと思います。

中村 セミ

☆初めて参加して☆仲々個性豊かな方々ばかりおられて俳句の方よりその人間的な詩姿というか、俳句に向っての姿勢というか面白く感じました。僕も俳句以外では色々やってきましたが(朗読、演劇、小説、絵等)早く御仲間の一人と してやっていきたいと感じた次第です。今後共よろしくお願いします。特選句「人形を負ぶう独居老人の秋(大西健司)」独居老人の重たき人生が表されていて又人形が何かーおそらく読み手次第で何でもいいのだろうがーこれ迄送ってきたもの の積み重ね、これからくる一人暮らしの先の分からない黄昏時な暗さの様なものだろう。僕もそのうちそういったものを背負うのかなとも思った。インパクトのある句でこれを特選とします。以下、頂いた句をユーモアを交えてストーリーで表し たコメントを・・「十二月八日朝日ぎらつく鏡拭く(稲葉千尋)」この鏡は家の中の鏡かと最終的に思う。ぎらついているのは朝日の反射の中の己の顔。「丑三つの菊人形の寝息かな」夜中の2時頃菊人形の様子を見ている。寝息も感じたのだろ うー暗やみの中の作者がブキミだ。「酢海鼠や悍ましきことばかり云う(鈴木幸江)」すなまこの姿が物言をいう様に感じる。経験からくる雑念―悪い経験が重なっているのかな。「寒雷に海馬嘶く読書かな(松本勇二)」脳の一部が読書をして いる時に雷の音にヒヒヒーンといった。「冬霧の奥より炎樹のののの(野﨑憲子)のののののは、はったりという人あり。のの字の、のろーの様な物と云う人あり。新しい表現だと云う人ありーしかしのを五つ並べていて読み手の自由でいいのだ ろう。なのでこれはむむむむむと思う事とした。「初冬の湯気で開封する手紙」湯気で手紙を開けるのに使う手口。縄でくくられたコヅヅミはどうして分からぬ様に開けようか。「札売の声や骸の漂着す」さあ見ていって下さいよ、たった百円だ よ。昨日漂流してきた小船の死体だよ。さあ、寄った、寄った。

重松 敬子

特選句「兵士って感じのイチゴ十二月」店頭に並んだクリスマス用の苺を見ていると同じ色,同じ寸法,同じ方向を向き合って,たしかに軍隊を連想させるものがあり,とてもユニークで面白いとらえ方だと思います。私も来年はこのよ うな自由な発想をしてゆきたい。

桂  凛火

特選句「国家斉唱静かに斧の倒されて」斧倒されてが妙に怖い。国歌斉唱したらこんなことになる・・。いや斧が倒されて国歌斉唱なのだ。それにしても物騒な怖さが魅力でした。硬質な精神の息吹を感じました。

新野 祐子

特選句「着ぶくれて身に覚えなき咎のごと」着膨れると、動きにくいし肩は凝るしで、牢獄にいるようです。作者の辛さに共感。この厳しい寒さを、嫌いな厚着で乗り切りましょう。特選句「カリヨン鳴る冬天という激情(三枝みずほ) 」まさしく冬将軍は激情の持ち主。冬空を仰ぐと、さてこれから何が起こるのかと心騒ぎます。と同時に魅せられます。カリヨンに象徴させたところ、あっと言わせますね。入選句「生き生きて浮いた落葉の自在かな」このような句を。私は辞世 の句として詠みたいと思います。入選句「パンパスグラス一メートル半ノコドク」カタカナ表記が孤独感を漂わせています。パンパスグラスを見たことがない人にもその美しい穂を目に浮かばせてくれます。問題句「否そして雪そして雪そして雪 」一見して引かれました。しかし、作者の意図がわかりませんでした。今回は好みの句が多くて、選句に迷いました。

柴田 清子

特選句「否そして雪そして雪そして雪」:「そして雪」の中に、いっぱい詰っている北の国の雪の暮し、雪の美しさ、怖さも。「否そして」が、さらにこの一句を確固たる素晴しい雪の句とした。特選句「耳遠い人に二度問ふ冬ぬくし」耳 遠い人と作者との間にながれている、ほのぼのとした人間味にあふれている。暖かさが「冬ぬくし」で、受けとめている。

河田 清峰

特選句「傀儡師の靴音枸杞の実は零れ」傀儡がひとり歩きしているような感じが面白い…「く」ぐつ「く」つおと「く」この韻がぶきみさをかもしだしている!「みたび羽音す香久山の冬すみれ」〝みたび羽音す〟が不思議そうで大和三 山を思わせて好きな句です。

月野ぽぽな

特選句「ポケットの手がつめたくて町を出る」町を出る、というのは、おそらく住む土地を変えるということだろう。この生活の大きな変化と、そのきっかけとして置かれた上五中八の一見他愛なく見えるその落差が印象的。ある行為に は理由があるかもしれないが、意識上で認識しうる理由というのは実は本当にその行為を起こす理由ではなく、起こることは、ただ起こる、もしくは必然的に起こる、と言ってもよい。それは運命とか縁とも。他の言い方をすれば、意識上では、 どんなことでもその行為の理由ということができるのだ。意識上の思考・感情の儚さとか、人生の不思議とか、そんなことを思い起こさせてくれた。

木川貴幸ピアノリサイタルin 東京・京都 わたくしは一月に角川俳句賞贈呈式のため一時帰国いたしますが、それに合わせて夫でピアニスト、木川貴幸(Taka Kigawa)も帰国し、日本公演を行います。東京ではクロード・ドビュッシー「プレリュード(前奏曲集)」全曲を、京都では、 ドビュッシー 「12のエチュード(練習曲集)」全曲と、オリヴィエ・メシアン 「鳥のカタログ」全曲を演奏いたします。同プログラムによるニューヨークの公演は大絶賛をいただきました。 日程と会場は以下の通りです。チケットはそれぞ れの会場にお問い合わせください。ピアニストについてはTaka Kigawaで検索していただくと英語が主ですがご覧いただくことができます。オフィシャルサイトは http://www.takakigawa.comです。 わたくしも1/21、25には来場予定です。 どうぞお越し下さい!                               ぽぽな 1/20(土)午後8時 21(日)午後5時/午後8時 カフェ・モンタージュ 京都市  電話075-744-1070 ●チケット予約 1/20 Cafe MONTAGE 1/21 5pmCafe MONTAGE 8pm Cafe MONTAGE 1/25(木) 午後7時 汐留ホール(日仏文化協会)東京都港区 電話03-6255-4104  ●チケット予約ジュディ・ソワ〉木川貴幸 クロード・ドビュッシー:「前奏曲集」全曲演奏会 ~ドビュッシー没後100年記念~汐留ホー ル

小宮 豊和

特選句「山友の散骨葬や式部の実」:「式部の実」は実紫、すなわち紫式部の実と受取った。葉を落した紫色の実をイメージしたとき、散骨に似合うかもしれないと思った。すっきりとした小粒の実は山を愛した男の死にざまを思わせる。 この世のことを卒業し、あるいは際限のない執着を断ち、骨壺におさまることを拒否して山の土となり、まさに紫式部の肥料ともなって自然の循環に合流する、そんな決断を感じさせる。

亀山祐美子

特選句『ポケットの手が冷たくて町を出る』憂鬱感と孤独感が滲みでる秀句だと思う。特選句『国家斉唱静かに斧の倒されて』倒す道具である斧が倒された。何に、誰に。ただ単に物体として「斧」が倒れている風景だけではない何か、 切羽詰まった緊迫感が不安感を煽るのは「国家斉唱」に依るとこが大きい。衝撃的な句だと思う。席上、佐藤鬼房の「切株があり愚直の斧があり」の句を知る。収穫である。やはり、句会にはでなければと思う。問題句 『あちこちで撫でられて きたかぼすかな』好きな物言い、語感だが、どなたかおっしゃったように、「かぼす」の存在感が乏しく軽い。「南瓜」それも「どてかぼちゃ」や「鬼柚子」ぐらいボリュームがあれば触りがいがあるかと思い句会では特選句で頂いたが、問題句 とした。問題句『初冬の湯気で開封する手紙』とにかく怖い。「湯気で開封する手紙」内緒で他人宛の手紙を開封するなんてどんな人間関係なのだろう。何時の時代の検閲なのだろう…。背筋がぞっとした。これが作者の意図なら成功と言うべき か…。楽しい句会でした。今年一年お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。どなた様も良いお年を…。

高橋 晴子

特選句「児に初めてのことばは落ちた茸落ち」〝茸落ち〟という言葉は初めてだが生命力を感じてとらせて頂いた。〝ことばは落ちた〟とは言い得て妙。問題句「明恵上人(しょうにん)の愛でし子犬や草紅葉」好きな句で問題という程 の句ではないが〝しょうにん〟との仮名はなくていい。〝明恵上人愛でし子犬や〟の方がいい。私も湛慶作といわれる子犬の像を運慶展で見たが、耳を伏せてつぶらな瞳で首をかしげて見上げるような顔付は、いかにも実体感があり、いきいきと していた。永遠の刻をとじこめた力作で、仏道を刻る人間が身近かなこんな子犬の生命感を刻ったことに感心するが、これも一つの祈りの形かもしれないと思うのである。句にした心にも感心するが見た者にはよくわかるが、これが彫刻の小犬と いうのがわかればと、無理をいう。湛慶作とでも前書きをつけるか!面白い句が多くていい勉強になりました。私も、もう少し表現するものを意識して詠みたいと思います。

男波 弘志

特選句「母の骨いがいに多し冬銀河」沢山の骨が、ときに軋み、ときに笑い、母の命を支えていた。いまは亡き母。「散落葉そんな隙間をみつけたか」どんな命にも存在の在り処がある。中心と周円、は繋がっている。「旧友の死が笹鳴 きに抜けてゆく(田口浩)」死者の抜けみちは、声にならぬ声の華やぎにある。笹鳴きが隙間だらけなのは、魂がそこを通るからだろう。

藤田 乙女

特選句「生き生きて浮いた落葉の自在かな」 精一杯ひたむきに生きてきた日々、しかし、それは生身の人間として多くの煩悩に煩わされたり、我執にとらわれたりする日々でもあったことでしょう。 浮いた落葉に様々なしがらみや束縛 から解き放たれた自在を感じとった作者の深い心の有り様に感銘を受けました。また、この句を通して、自分の来し方を振り返り、行く末を考える中で、自己の内面と対峙し自分を見つめ直すことができました。特選句「あちこちで撫でられてき たかぼすかな」すだちは使いますが、かぼすはほとんど使ったことがなく、大きさが違うくらいかなと思っていたけれど、今回かぼすにいろいろな薬効があることを知り、びっくり、❗そして、この句でかぼすへの作者の深い愛と親しみを感じと りました。そして、自分もかぼすと仲良しになりたいと思いました

野﨑 憲子

特選句「狼を呼ぶよ邪馬台国の唇」この狼は、絶滅したとされるニホンオオカミ、そして邪馬台国の女王卑弥呼の唇と感受する。古代史を目の当たりにするような壮大な作品である。現代、猪が、熊が、出たと言って大騒ぎする我々だが 、そのかみの世は、ぐっと、人類と、その他の生きものたちの距離が近かった。もちろん、せっかく耕した畑を荒らされ、生命の危険も今と比べものにならないほどだったと思うが、地球は平和だった。問題句「否そして雪そして雪そして雪」今 回の句稿の中で、共鳴する作品は、ほんとうに沢山あった。中でも、引かれた句の一つである。こういう冒険句に出会うと、ぞくぞくする。俳句がますます面白くなってゆく。只、揚句は、「否」が唐突で「そして雪」の繰り返しが饒舌過ぎると 思った。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

氷柱見上ぐる少しメタボな猿田彦
野﨑 憲子
薄氷や人の意図にて砕かれる
山内  聡
薄氷悲鳴を山に響かせる
亀山祐美子
合鍵の鈴凍りついてしまっている
柴田 清子
狛犬の「吽」が逃げ出す大晦日
亀山祐美子
墨描きの仙厓の犬雪降りて
河田 清峰
人と犬二人と二匹似て冬日
山内  聡
狐火やびっこを引いて帰る犬
野﨑 憲子
蓑虫や万世一系戌の年
藤川 宏樹
犬連れて銀河まで行ってみようか
三枝みずほ
葡萄
球体のまま凍りつく冬葡萄
銀   次
にんげんを染めて葡萄の匂ひけり
三枝みずほ
干葡萄いつからか夫好きになり
鈴木 幸江
倒れ込んだ人から葡萄房になる
男波 弘志
乾杯の葡萄酒冬がはじまった
亀山祐美子
数え日
数え日や銃声止まぬエルサレム
島田 章平
数え日や好きなことしかしなかった
藤川 宏樹
誰れ彼れの日が数え日を近くする
田口  浩
数え日の手で確かめる今の顔
三枝みずほ
数え日の膝より低いところかな
男波 弘志
白峯
冬月夜西行の道御陵まで
島田 章平
白峯や冬の鴉の確かな数
田口  浩
時間あるあるないあるない白峯に
鈴木 幸江
夜が更けて雪の泣く声して来たり
柴田 清子
初雪や二本の足で立つ不思議
野﨑 憲子
銀幕に鬼籍の人や風花す
増田 天志
蒲団
蒲団のなか螺子一本の夫のゐる
鈴木 幸江
妻の声して蒲団に妻の匂ひ
島田 章平
蒲団干す沖より沖より影法師
野﨑 憲子
蒲団の中で俳諧が寝返りをうつ
田口  浩
冬薔薇
冬薔薇すぐに煮詰まる私です
増田 天志
F音のソプラノ響く冬薔薇
銀   次
九竅の緩めば白き冬薔薇
河田 清峰
冬の薔薇無人バス過ぐ曲り角
藤川 宏樹
冬ばらのポリープの如膨れ出す
中村 セミ
冬薔薇こころにABC予想
鈴木 幸江

【通信欄】&【句会メモ】

【通信欄】▼安西 篤さんからのお便りから~このところ風邪が治りきらず、夏の疲れで文責が貯まり、今一つ乗り切れません。ご返事が遅れました。例により、第七十八回の作品について三段階評価をしてみます。【☆】「水の秋みづくち うつしくちうつし(小西瞬夏)「遊糸もまじりて阿騎野の足湯かな(矢野千代子)」「秋蝶の匂い寝覚めの髪梳けば(月野ぽぽな)」【◎】「榠樝は多淫霧にかえして上げましょう(若森京子)「肉薄の指ままこのしりぬぐいが咲いた(伊藤幸) 「ちちははの萎む肉体かりんの実(夏谷胡桃)「ひよいと日輪十一月の赤ん坊(野﨑憲子)【○】「冬ざれや会えず仕舞という老後(松本勇二)「ぐい飲みにおれの頭(ず)青し新走り(稲葉千尋)「寝釈迦めくふるさとの島神の留守(寺町志津 子)「猪垣は壊れ塵取立ててあり(大西健司)「須磨初冬人よく喋りよく歩く(野田信章)」作品を書き写しているとだんだん元気を頂いているような気分になります。向寒の季節くれぐれもご自愛を。

16日の高松での句会には、大津からの増田天志さんや初参加の中村セミさんが加わり、一年の締め括りにふさわしい、活気あふれる充実した句会になりました。午後5時近く、銀次さんの一本締めで平成二十九年の「海程」香川句会は終了 しました。来月は平成三十年の初句会になります。そして第八十回の句会です。句会後に、新年会を計画中です。皆さまにお目にかかるのが今から楽しみです。どうぞ佳きお年をお迎えください。

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