第90回「海程香川」句会(2018.12.15)
事前投句参加者の一句
<サーロ節子さん語る>まる顔を歪め語りて紅椿 | 田中 怜子 |
黄落や正午生めく廃母校 | 藤川 宏樹 |
冬薔薇の孤高おかめにはひょっとこ | 中野 佑海 |
尺蠖やわたしは十指もてあます | 稲葉 千尋 |
はじまりは羽化新豆腐のうすみどり | 吉田 和恵 |
暖冬が励ます私の裏側 | 野口思づゑ |
おでん鍋妻は第九合唱隊 | 重松 敬子 |
末枯野いとしさに光の音すこし | 伊藤 幸 |
木枯らしや盗っ人犬との道行きよ | 銀 次 |
古本のページの折り目冬ぬくし | 菅原 春み |
びなんかずら鼻梁のまわり空気濃し | 矢野千代子 |
落葉よりむくむくとキリストの墓 | 増田 天志 |
無花果や想定外の今がある | 高木 水志 |
紅葉や心が心呼ぶような | 谷 佳紀 |
海鼠動くつられて動く臍と星 | 田口 浩 |
凍蝶のごと居てけふは手紙書く | 谷 孝江 |
葛湯吹くこころの襞を吹くように | 新野 祐子 |
君の靴は遠い日の舟冬の虹 | 大西 健司 |
綺麗な嘘が秤のようになる | 中村 セミ |
石の眼に祈り宿すや鰯雲 | 佐藤 仁美 |
ペガサスを知らぬ心臓愚に生きて | 若森 京子 |
箱買いの林檎あるよと熱の娘よ | 中西 裕子 |
山の老婆の愚痴こんがりと串ヤマメ | 野田 信章 |
老いし夫老いし妻看る十三夜 | 寺町志津子 |
病む妻のやむままに生き冬苺 | 河田 清峰 |
真夜中の森の匂いの湯ざめかな | 月野ぽぽな |
神獣鏡水の羽ばたく音したり | 三好つや子 |
雪しんしん飢えの記憶の茹で玉子 | 小山やす子 |
マネキンを置いてきた闇かまいたち | 桂 凛火 |
よく話すよく動く人参食う | 三枝みずほ |
そう言えば冷え切った薔薇あったっけ | 柴田 清子 |
皮手袋や半券の湿りてふ愛 | 高橋美弥子 |
聖誕祭使徒の脚拭く聖者の手 | 豊原 清明 |
一物を晒し真冬の手術台 | 島田 章平 |
破蓮体言止めのようにかな | 松本 勇二 |
もう蟹があおいでふるくなるよぞら | 男波 弘志 |
ランチュウに餌急かされる寒暮かな | 野澤 隆夫 |
怨念の女も冬の水となれ | 鈴木 幸江 |
柿を剥く母の手のひら深き皺 | 漆原 義典 |
三千界を響くチャルメラ通夜の雪 | 竹本 仰 |
何をえさにこんな小さな冬の蜘蛛 | 小宮 豊和 |
霧の港に揺れて力丸、気安丸 | 高橋 晴子 |
知らぬことの幸せ多し冬に入る | 藤田 乙女 |
歩み寄る牛の眼や葱太る | 亀山祐美子 |
老いも若きも『歓喜の歌』や冬銀河 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 谷 佳紀
今回は選句数が少ないです。問題句も無しです。ほどほどに要領よく書けていますが、食指が湧きませんでした。という事で以下選句のご報告です。特選句「落葉よりむくむくとキリストの墓」写真でしか見たことはない が青森にあるキリストの墓だろう。「むくむく」が復活を呼び込むような面白さがある。
- 伊藤 幸
特選句「君の靴は遠い日の舟冬の虹」冬のポエムですね。靴と舟の取り合わせが効いています。クリスマスに贈る妻への一行詩にぴったり。こんな詩を贈られたら妻はウルウルしちゃいそう。
- 中野 佑海
特選句「凍蝶一頭いまからプライベートです(若森京子)」私、昼間は凍蝶の様にじっとして、いるのがお仕事なの。じっとしてるだけでも疲れるのに、気使って、真面目にしてなきゃいけないの。本当に大変。自分じゃないキャラって、肩凝るのよ!なに、五時になったって。アー蝶のキャラは脱いだ脱いだ。プライベートの時間は私に戻らなきゃです。でも、近頃どちらが私か分からない時があるの。一体本当の私って何? 特選句「無花果や想定外の今がある」無花果は見かけと中身の隔たりが凄いでしょ。若い頃に考えていた六十歳と実際の今と全然違う。でも、無花果の様にいっぱい花が詰まっているんだと思う。今まで頑張って生きてきた私偉い。問題句「マッチ売りの少女を思うクリスマス(重松敬子)」子供の頃よく読んだマッチ売りの少女。私もクリスマスの頃になるとマッチ売りの少女が、暖炉の赤赤と燃える部屋にツリーとプレゼントを持った、子供たちを窓から見ている絵が思い出されてなりません。凄く共感する句ですが、俳句としては素直過ぎる気がします。「を思う」を「になって」にしたら少し思いに近づけるかも。今月も滅茶苦茶楽しい時間を過ごさせて頂き有難うございました。皆で喧喧諤諤、騒がしくも有意義な時間。何なに?一番五月蝿くって、口の悪いのは私だって?失礼致しました。来年もどうぞよろしくご贔屓に。佑海を宜しくお願いいたします。来年は結構正念場ですね。心を入れ替えて、今まで以上にターボジェットで当たります。
- 島田 章平
特選句「古本のページの折り目冬ぬくし」何気なく手に取った古本。ページをめくっている内に、ふと目にとまった折り目。どの言葉にこの本の持ち主はページを折ったのだろうか・・。身も知らぬ本の持ち主との間に 心が触れる。気がつくと、柔らかな冬の日差しの中に立っている自分…。
- 若森 京子
特選句「真夜中の森の匂いの湯ざめかな」真夜中の森の匂ってどんな匂いかしら、けもの達が始動する匂い、けもの達の営みの匂い、と色々と想像する。人間の湯ざめとの呼応が、又その情感が好きだ。特選句「皮手袋 や半券の湿りてふ愛」一句から、男女の愛の物語が広がってゆく。〝湿りてふ〟の措辞で涙も想像される。
- 稲葉 千尋
特選句「老いし夫老いし妻看る十三夜」まったくの現実。評なんて書けない。十三夜の季語、せつない。
- 田中 怜子
特選句「特選句「葛湯吹くこころの襞を吹くように」こころのひだ は甘いな、と、でも葛湯を吹くと重い表面が波紋の様に広がる。熱いけど体が温まる情景を経験、したことがあります。
- 増田 天志
特選句「もう蟹があおいでふるくなるよぞら」自由律俳句の音調を感じる。詩情豊かな出来栄え。平仮名書きも、効果的。
- 藤川 宏樹
特選句「一物を晒し真冬の手術台」女性が多数の句会ですが選のひとつに加えたところ、句評を求められました。「男性に存在感と実感ある句」と流しましたが、個性的なコメントが畳みかけられ、いつもとは違う畳会 場はいつものように沸きました。他句への評も参考に選を見直したうえで特選は「一物を・・・」にして、締めの一句。・・・投句よりトーク讃岐の冬句会・・・
- 田口 浩
特選句「綺麗な嘘が秤のようになる」この句を解釈するために、次の事件を引っぱり出してみる。即。一五八二年(天正十年)中国攻めを命じられた光秀が、急遽道を変へて本能寺を囲む。森蘭丸が主人の寝所に走り、「日向守殿の謀反でござります」と告げる。それを訊くなり、半身身を起した信長が、カッと宙を睨んで、「是非に及ばず」と吐く。瞬時に光秀の兵なら、と全てを悟るのである。私は信長のこのときの言葉が好きである。明智光秀の大きな嘘を受ける、「是非に及ばず」とは、まさに秤のようなものではないか。一方武将の面目を賭けて仕掛ける、男の変を綺麗だと思う。美しいと思う。一句の解釈をここまで素っとぼけられるのも、〈綺麗な嘘が秤のようになる〉にはこのような読みの綾があっても、いいように思うからである。見当違いかも知れない。
- 高木 水志
特選句「柿を剝く母の手のひら深き皺」映像に見えてくるところが良いと思う。
- 矢野千代子
特選句「神獣鏡水の羽ばたく音したり」古代の鏡から、水の羽ばたきを感じるーーなんてどんな生きものをイメージするのでしょうね。ロマンの広がる一句です。
- 小山やす子
特選句「海鼠動くつられて動く臍と星」〝つられて〟が面白いです。天と地が動くとは言ってないけど私には臍と星でイメージが沸きました。海鼠の動きは知りませんでしたが~こんなんだ~と面白く拝見しました。
- 鈴木 幸江
特選句「マネキンを置いてきた闇かまいたち」この句から私は現代社会の闇と悪の本質を感受した。言葉には表現できない真実を現象で捉えていてお見事。廃品不法投棄の現場を想像した。路端の草叢に放置された裸のマネキンに肌を切るほどの強風があたっている。残酷さを含んだ人の悪が感じられる。そこから、批判精神も伝わってくる。問題句「海鼠動くつられて動く臍と星」地球を一つの生命圏とみるガイヤ科学が人々に強く意識された時代があった。それも今はどこかへ行ってしまったようだ。この句はその思い(すべては繋がっている)を伝えたいのではないだろうかと思った。科学万能主義に支配されて危機に陥っているような気がする私には是非共鳴したい句だ。でも、その思いがうまく伝わってこない。下語の“星”を具体的にしてくれたらいいのではないかと思い問題句にした。
- 中村 セミ
特選句「晩秋のサラダが好きな静かなパン(谷 佳紀)」男女の恋愛をサラダとパンに例えた様な静かな詩的に綴ったところがいいと思いました。
- 吉田 和恵
特選句「 おでん鍋妻は第九合唱隊」第九の合唱には誰でも参加できるそうです。大根、じゃが芋、ちくわ・・・・・・・・。気取らないメンバーで醸し出すハーモニー。名付けて交響曲第九「おでん」。ベートーベンさん、いかがでしょう。
- 漆原 義典
特選句「一物を晒し真冬の手術台」です。「一物」とはたぶん「あのこと・・・」だと想像し、作者の置かれている緊張感のなかにユーモアを持つ人間性に感動しました。おかしさのなかに悲哀が感じられる素晴らしい句ですね。病気が早く治ることを祈願します。
- 桂 凛火
特選句「靴底のふっとひらきて開戦忌(河田清峰)」靴底の開くことと開戦忌の二物がほどよいぶつかりだと思いました。言葉で表しにくいものの自国第一主義的な思想の蔓延する時代の空気感を捕らえていると思いました。開くと開戦の響き合いがよかったです。
- 大西 健司
特選句「本の背のかすかな丸み寒雀(菅原春み)」一読二読見落としていた句。地味な句だがじんわりと暖かくなる句だ。本の背のかすかな丸みに気づいたときのほっこりとした気分。寒雀の愛らしさも効いている。全体におとなしい感じがする。もっと過激な句をと期待している。2019年に期待したい。
- 三好つや子
特選句「何をえさにこんな小さな冬の蜘蛛」食器棚や冷蔵庫の隙間からふいに現れ、ちょこまか動く家蜘蛛。冬になり、いくぶん縮んだ姿を見つけると、愛おしくなります。優しい気持ちにさせてくれる句。特選句「真夜中の森の匂いの湯ざめかな」真夜中の森の神秘的な世界を、湯冷めによって体感した、作者の詩情に共鳴しました。入選句「よく話すよく動く人参食う」老後を生きる三つの心得なのでしょうか。座五が飄々としていて面白いです。入選句「もう蟹があおいでふるくなるよぞら」俳句界に流れている新しい風を感じます。
- 竹本 仰
特選句「無花果や想定外の今がある」誰もがそうであろうと思える、人生つねに想定外の今、その今を生きてここにあるという、隠しようもない事実。無花果のように現実は甘くないか、だがよく味わうと何か切ない、甘いと言えば甘い、なにかほのかな味がして、その現実感の、そこはかとない味がある。肯定してしまう、何ともいえぬ感のようなもの。程よい落胆と、安堵と、落ち着きと……何事も食ってみねばわかるまいと、無花果の皿を前に差し出された、そんな感じの、断定の裏の色んな表情を読みとってしまう、そんな楽しさがありました。特選句「ペガサスを知らぬ心臓愚に生きて」はなやかな目を引く活躍とは無縁であったが、その、逆に無援であるゆえの矜持というようなものがにじみ出ていて、よいと思えました。その謙辞が、目立たずとも一つひとつの鼓動があるように正確に一途に生きた感じを確かに伝えて、力強いリアリティを感じました。大智は大愚に似ていると言い、真に知恵ある者は愚かな商人の顔をしているという、そんなもろもろの名言を思い出します。特選句「破蓮体言止めのようにかな」体言止めに、そこにしかあり得ない存在感と、余韻を感じます。それはそうでしかなかったのだという肯定があり、必然のかたちの前に雑念が消え去ってしまい、説得力といえば恣意的なものになるが、そうではない自発の説得力のようなものが、表されているように思いました。ちょうど、一瞬の表情が見せる、生きざまの凝縮のような、そんなかたちなんでしょうね。
11月の下旬から忙しい毎日が続きます。車に乗ると、今月になってから急いでいる動きの車がぐっと増え、極月の様相が表情以上に感じられます。急いだって何もいいことはなさそうにも。毎回の、年末年始の異常さの中で、ま、しかし、自分も自分を見失いつつ、この熱気を楽しんでいるのかもしれません。事故や病気、これも、月末を目指して来るようです。皆様、十分にお気を付けください。来年も、どうか、よろしくお願いします。
- 松本 勇二
特選句「もう蟹があおいでふるくなるよぞら」もう、の導入部が大いに詩的です。ひらがな表記もファンタジー性を増幅しています。問題句「山の老婆の愚痴こんがりと串ヤマメ」二物配合による巧みな一句です。「山の老婆の愚痴がこんがり串ヤマメ」とした場合の読みの展開をつい考えてしまう作品でした。
- 三枝みずほ
特選句「三千界を響くチャルメラ通夜の雪」チャルメラが全てをつなげてゆく世界観に胸を打たれた。「老いも若きも『歓喜の歌』や冬銀河」恒久的にそうあればよいという思いを込めて、冬銀河がそれを可能にしている。 先日は、句会に参加させて頂きありがとうございました!句会に参加することで、ハッと気づかされる事も多く、勉強になりました。そして何より楽しかったです。また来年も宜しくお願い致します。
- 野口思づゑ
特選句「転んだら氷の僧が立っていた(男波弘志)」実際に転んでの経験なのか、想像なのか、又は何か比喩的な意味があるのか面白い世界が広がります。「AIの詩情勝れり鳥渡る(寺町志津子)」実際にあり得るわけで、季語の鳥渡るがよく効いています。「冬の夜中国語る老父かな(中西裕子)」今とは全く違う中国を経験したお父様の話しなのか、現在変化してきている中国なのか、冬の夜の寒さを感じます。
- 谷 孝江
特選句「雪しんしん飢えの記憶の茹で玉子」たまごの殻をむいて手の中にあのつるんと美しい白い茹でたまごが現われた時のうれしさは今でも覚えています。何と贅沢な喜びであったことか、あの頃はみんなが貧しく飢えの中での生活でした。この様な記憶もみんな、あれもこれも遠い日の事になりました。ぬくぬくの芋ごはんの何と美味しかったことか。近頃はグルメ番組の中でお目にかかる様になってしまいました。嫌ですね、年寄りは。ついつい昔話を懐しんだりして・・・・・。だけどこの句大好きです。
- 佐藤 仁美
特選句「病む妻のやむままに生き冬苺」病むと冬苺の対比に惹かれ、冬苺の小さな赤が、かすかな希望に感じました。また、「やむままに生き」に、病の深刻度は想像するしか無いのですが、静かな強さが伝わってきました。
初めまして、佐藤仁美と申します。漆原さんに、この前教えて頂いて、初めて俳句を作ってみました。その時、言葉の世界に、入ってみたいと思って、思い切って句会に参加させて頂きました。色々とお教え下さい。よろしくお願いいたします!
- 野田 信章
「びなんかずら鼻梁のまわり空気濃し」の句。美男葛の赤い実。その色感を通して秋の山気そのものを体感的に把握。印象鮮明な句。「転んだら氷の僧が立っていた」の句。一瞬の唐突感の把握に、寒気の漲りに込めた生命の輝きがある。確かな精神の裏打ちのある句。
- 寺町志津子
特選句「無花果や想定外の今がある」実は、今号も、迷いに迷った。中でも、「銀杏黄葉時極まりて虚空満つ(小山やす子)」「冬の星広がっていく一行詩(三枝みずほ)」は、最後まで捨てきれなかったが、決め手になったのは、「想定外の今がある」が、今の私自身の境涯そのものであり、つくづくと思っていることであったことが大きい。そして、このような境涯感を抱いている人は案外多いかもしれないとも思った。また、季語の「無花果」がすこぶる良い働きをしているのではないか。無花果は、花軸の肥大成長した花嚢を葉腋に出し、内面に無数の花をつけるが外からは見えず、雌花雄花が同一花嚢中に生じるという。そのような無花果が「想定外の今がある」の良きにつけ悪しきにつけての複雑微妙な感慨に実によくマッチしている、と思い特選にいただいた。
- 男波 弘志
「黄落や正午生めく廃母校」生めく、一語が校舎に使われたのは初めてではないか、珍重。「暖房が励ます私の裏側」ひもじさ、寒さ、は人を鈍化させる。裏側にまだ裏側がある。「海鼠動くつられて動く臍と星」われわれが宇宙に向かって繋がっていない、ネットワークはあるだろうか?意識がそれを阻んでいるだけだろう。「奇麗な嘘が秤のようになる」均衡を保った、嘘、なんとうつくしいことか、北斎の描いた遊女だろうか。「賀状書く宛て名の一つ死が匂う」おそろしい気配、気配を感じるのは背後があるからだろう。「何をえさにこんな小さな冬の蜘蛛」不思議、不思議、生の本体。
- 高橋美弥子
特選句「 落葉よりむくむくとキリストの墓」佳句が多く、大変悩みましたが最も共鳴いたしましたこの句を特選にいただきます。まさしくわたしが生まれ育った土地を象徴する句です。むくむくとという表現が、大きな十字架を彷彿とさせ、キリストが積もった落葉の中からすっくと現れるような景を想像させてくれました。問題句「黄落や正午生めく廃母校」すみません、中七をどう読み解いたらいいのかわかりませんでした。「や」で切れているため中七下五とどう繋がるのか最後まで悩みました。読解力がなく申し訳ありません。今回は選ぶのに苦しみました。また「父を詠む」「母を詠む」のは難しい中、さすがに皆さんの力を見せていただき大変勉強になりました。思いきって飛び込んだ「海程」句会、来年もご指導のほどよろしくお願いいたします。皆様、良いお年を。
- 重松 敬子
特選句「幼らの日に日に白き白鳥来(新野祐子)」幼子が、のびのび感性豊かに育っている様、好奇心に満ちた日常を想像させ微笑ましく読ませていただきました
- 豊原 清明
問題句「尾てい骨定位置におき冬に入る(月野ぽぽな)」一句読んで、楽しめた。定位置に座る映像が浮かぶ。寒い冬風も吹く。座るという誰もが普通にしていることが、この作者には特別だ。特選句「町師走二重虹天地をいだく(小宮豊和)」壮大な映像。冬の町が伝わる。
- 新野 祐子
特選句「霧の港に揺れて力丸、気安丸」霧の港のイメージを反転させるように、たくましい漁師たちを乗せる船の豪気な名前。漁船にはいつから丸と付けたのでしょうか。山国に住む私には憧憬の風景です。特選句「古本のページの折り目冬ぬくし」ああ、前に読んだ人もここに着目したんだな、同感だなと、寒さの緩んだ一日、読書の喜びに浸ります。入選句「寒星や徐々に死ぬことなんてしない(男波弘志)」そう願いますが、どんな最期を迎えられるか、思いどおりにはいかないのでしょうね。入選句「雪しんしん飢えの記憶の茹で玉子」:「雪しんしん」がとても効果的と思いました。
- 小宮 豊和
「無花果や想定外の今がある」良くわかる句なのだが「想定外の」が気になる。想定内、想定外は、ホリエモン氏の言いだした表現だと思うが、あまり品が良くない。これをたとえば「デジャビュ―の無い」と置きかれば詩らしくなる。無花果は秋の一瞬出まわって。保存がきかずたちまち消える。これと今との取り合せは、かなりひびきあうように思う。「想定外の」他の表現はいろいろ考えられると思うので良い句を完成させてご披露いただくことを期待。
- 藤田 乙女
特選句「老いも若きも『歓喜の歌』や冬銀河」 今を生きる人々の命あることの喜びや鼓動までが熱く伝わってくるようでした。今年も、色んな作品に出会えて勉強になりました。来年も宜しくお願い申し上げます。
- 河田 清峰
特選句「冬青空何も使わぬ手が荒れる(高木水志)」自分に対する歯痒さが感じられて好きな句です!
- 中西 裕子
特選句「病む妻のやむままに生き冬苺」妻が病んでいながらその状況を、夫婦で受け入れ暗くもならず、淡々と生き、時に鮮やかな冬苺に喜ぶ情景が目に浮かぶようです。
- 銀 次
今月の誤読●「初雪やただひたすらに米をとぐ」ほんっとにもう、正月なんてロクなもんじゃないわ。せっかくパートがお休みだというのに、ちっともゆっくりできゃしない。そりゃあの人はいいわよ。コタツに入って、朝からノホホンとお屠蘇飲んでんだから。それに引き替え、あたしはどうよ。お客がくるたび、居間と台所を行ったり来たり、もう忙しいっちゃありゃしない。かといってお愛想笑いもしなきゃなんないし。もうお客に「出てけ!」ってシリを蹴っ飛ばしたい気分なの。それに弟夫婦。なんだって毎年ウチにくるのよ。それも子どもを三人も連れて。お正月したいんなら自分チですればいいのよ。ほんっと図々しい。それにあの子ども。まだ五歳や六歳だっていうのに、コーラが欲しいだのジュースが欲しいだの、わがまま放題。そのたんびにコンビニに走らされて。それからおせちよ。何日かかってつくったって思ってんの。それをもうあいつらときたら食い散らかして。それも車エビや栗きんとん、ローストビーフに数の子、高いもんばかり食べちゃって、もうお重グチャグチャ。きっと嫁がいってるのよね。あそこではあれとあれとを食べなさい、とかさ。おかげであたしゃ黒豆と田作りで夕飯よ。あっそうそう、あれもよ。お年玉。あの人ったら弟夫婦の子どもには一万円づつはずんじゃってさ、見栄張るのもたいがいにしてよ。そんでもって自分の子どもには五千円。ああもうイラつく。おまけにあいつら今度はカレーライスが食べたいなんていいだして、正月なのにあたし、あいつらのために米をといでる。ああ、情けない。ああもう、叫びたい。正月なんかもうこないで! ……あら、雪かしら。初雪かーー。なあんて、のんびりしてる場合じゃない。洗濯もの取り込まなくっちゃ。ヤダーーーーーーーーー! 本気で泣くわよ。
- 亀山祐美子
特選句『古本のページの折り目冬ぬくし』古本屋で気になる背表紙の本をめくっていると右肩隅に小さな折り目後のあるページがあった。何気なく斜め読みすると琴線に触れる一行に行き当たった。「冬ぬくし」の季語が自分の心まで暖めてくれた「言葉」への感謝があり動かない。春でもなく夏でもなく秋でもない「冬ぬくし」だからこそ感動を増幅させる。季語がよく効いた佳句。問題句『知らぬことの幸せ多し冬に入る』「知らぬことの幸せ多し」は世間一般周知的な一文。手垢のついた言葉であり。個性がない。発見がない。手に触れない言葉にさらに「冬に入る」という手で触れられない季語を置く。最悪。今年も言いたいことを言いながら、言葉足らずな観賞が多々あり心残りでしたが、10月の『秋風や一本の柱が赤い』の作者に「観賞が良かった」と言ってもらえたのが励みになりました。ありがとうございました。来年もよろしくお願い申し上げます。皆様良いお年を。
- 野澤 隆夫
特選句「みぞれうつ少女は青いけもの扁」:「少女」を「けもの扁」と見立てたことが凄いです。早速、漢和辞典で「犭」を開きました。「狐」「狡」「猫」「狩」「猛」「猿」「独」「狸」等々。そして「青い」が「少女」を象徴してます。特選句「密室で刃物を研ぐや冬籠」日曜劇場のサスペンスで怖いです。「冬籠」の窓辺をヒッチコックが通り過ぎるシーンでもあります。 「海程香川」第90回!おめでとうございます!
- 高橋 晴子
特選句「冬の雷母の眼力まだありぬ(菅原春み)」〝眼力〟というから、人や物を見抜く力をいうのだろう。一瞬の眼の動きに鋭いものを感じた作者の感性を面白いと思った。〝まだありぬ〟が少し説明的だが、〝冬の雷〟に響きあう〝眼力〟に力を感じた。問題句「知らぬことの幸せ多し冬に入る」知らない方がよかった、ということが多々あるが、知ってしまったから知らぬことの幸せといえるのであって、その辺が他人事めく〝観念めく〟。多しが饒舌。自分が知らない方がよかったというなら〝冬に入る〟の季感が生きるが。
- 月野ぽぽな
特選句「ちょっといじわるな自分と出会う十二月(藤田乙女)」何かと慌ただしい十二月。やらなければならないこと。やったほうがよいと思われること。頭と心と同意しないことも多くありそう。自分で自分に驚くこともあるかもしれない。そこから本当の自分との対話が始まりそうだ。
- 野﨑 憲子
特選句「紅葉や心が心呼ぶような」木の葉が色付き風に戦ぐころになると、無性にそわそわしてくる。そう!何かに呼ばれているような、「紅葉や」で切れてはいるが、その「紅葉」が、天空で自在に舞い戯れている。まるで、〝心が心〟を呼ぶように・・何だか、とても無気味な一句でもある。問題句「よく話すよく動く人参食う」動詞が三つ並びしかも三段切れ、よくもまぁ!と、仰天しつつ、ぐいぐい迫ってくる何かがある。「人参」なのだ。きっとその人参もスティックの生人参,否、丸齧りかも知れない。それほどのパワーをこの句に感じる。俳句の約束事が有効な時もあるが、この句の、破調の魅力には叶わない。パワフルな人類を浮き彫りにして妙。超問題句、大歓迎だ。
袋回し句会
霜
- 霜晴れや今日はきっと来るそんな予感
- 柴田 清子
- 和牛の味世界制覇の霜をふる
- 漆原 佳紀
- ぴよんぴよんと跳ねる言葉や霜柱
- 島田 章平
- 霜の花ことばえおそつとしまひけり
- 三枝みずほ
- 覗きこむ風よ霜夜の捨て鏡
- 野﨑 憲子
薄氷
- 薄氷や遠くの音がして来たり
- 柴田 清子
- 薄氷や稼ぎの悪いぼくだから
- 藤川 宏樹
- 薄氷は人のヒミツに溶かされる
- 田口 浩
- ぼけつと生きてんじやないよ薄氷割る
- 島田 章平
- 薄氷や猫とワルツを踏んじゃった
- 中野 佑海
- うすらひのみずのまぎはの息あをし
- 亀山祐美子
- 淋しさのあつまるかたち薄氷
- 三枝みずほ
- 薄氷を衝き乱れ立つ枯蓮や
- 佐藤 仁美
狼
- 平成終はるあれは狼の匂
- 島田 章平
- 冬菊に狼が来て倒れる
- 田口 浩
- 神々の一番前に青狼
- 亀山祐美子
- 風の狼そんなについて来たいのか
- 野﨑 憲子
- 狼になれる女となれぬ男
- 柴田 清子
クリスマス
- 夜空眺めることをしてブルークリスマス
- 柴田 清子
- 再稼動の灯四国まるごと聖夜
- 島田 章平
- わらしべ長者挑戦してみるクリスマス
- 中野 佑海
- 吉野屋に背を丸めをり誰が聖夜
- 銀 次
- クリスマス理系草食系男子
- 藤川 宏樹
- クリスマスピーナツバターが減っている
- 田口 浩
カフェ
- 日々新たなりカフェもシマフクロウも
- 野﨑 憲子
- カフェにてカフカの「変身」再読す
- 鈴木 幸江
- カフェには一脚の椅子もなしパリは燃ゆ
- 銀 次
- ひとり去りふたり去り初雪のカフェ
- 島田 章平
- 狐火のいき着くところの喫茶店
- 柴田 清子
- 冬の雷老いた夫婦をカフェ誘ふ
- 漆原 義典
【通信欄】&【句会メモ】
【通信欄】訃報です 23日夜、「海原」副編集長の宮崎斗士さんより「19日の朝、谷 佳紀さんが心筋梗塞で亡くなりました。」と、電話をいただきました。絶句しました。前日までお元気だったそうです。今年5月より、本句会にご参加くださり、金子先生が他界され、元気をなくしていた私は、どれほど、「海程」の憧れの大先輩である谷さんのメールや作品に励まされたか知れません。5月の句会報所収の、谷さん初参加のコメントを下記に、
初参加の谷です。野﨑さんに誘われました。俳句よりもマラソンが好きです。今日23日室戸岬から足摺岬まで走る土佐乃国横断遠足242キロのため徳島に来ました。明日スタートです。ゴールしたいですね。俳句の方は3句とも0点でも構 いません。下手を自覚していますから落ち込みません。
今回のご選評を頂いたのが、他界される2日前の17日でした。マラソンが大好きだった谷さん、あんなにお元気だったのに今も信じられません。他界とこの世は繋がっています。これからは、兜太先生と毎回「海程香川」句会で句座をご一緒して下さると強く感じています。私も、踏んばって参ります。 本句会での、谷さんの作品を掲載させて頂きました。谷 佳紀さん、ありがとうございました。 合掌
まずまずの朝で若葉に欠伸して サッカー野球テニスはしゃぐ子猛暑中
山羊と猫その他も止まれ墓に蛙 十個の空が昨日はあった秋明菊
雨で揺れてる夢の感触立葵 草は枯れ双子は老人象は死す
わからない心が岬に立てば夏 体に雨の音が眠って青葉かな
まるで珊瑚でMは表現できない梅雨 蜻蛉はすでに雨を散らした虹なのだ
沙羅のリボン肘や首お休みなさい ホモサピエンス僕はるつぼに見とれてる
廃仏毀釈心の下の方に炎天 喧嘩してきて背高泡立草ばっちり
猛暑去り茗荷の花に来ましたよ 楽しい女性が楽しく大すすき
ぼけーっと生きて天高き心臓さ 赤まんますべてに光りの男たち
【句会メモ】今回は、いつもの67会議室が取れず一階上の7階にある和室での開催でした。畳の上での句会も乙なもので、島田章平さんが持って来てくださった周防みかんをいただきながら充実した4時間の句会でした。句会報や、ブログで、会場の変更をお伝えしていたのですが、男波さんに、上手く伝わっていなくて、会場に来れなくて、男波さんの名鑑賞が聞けなかった事が、とても残念でした。
お陰さまで、90回を迎えることができました。これからも一回一回の句会を大切に踏ん張ってまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。来年の初句会は、サンポートの会場が全く取れなくて、再び、藤川宏樹さんのご厚意に甘え、「ふじかわ建築事務所」での開催です。次回のご投句、楽しみにしています! では、皆様、佳いお年をお迎えください。
Posted at 2018年12月26日 午後 02:29 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]