2019年2月28日 (木)

第92回「海程香川」句会(2019.02.16)

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事前投句参加者の一句

         
軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し 大西 健司
万年筆便りの進む春が好き 稲葉 千尋
梅ほつりほつり言葉の生る不思議 谷  孝江
空が青くて鳥になりたい冬木の芽 吉田 和恵
声出して寒夕焼になりました 月野ぽぽな
梅林をよぎる人影たしかに師 寺町志津子
沈まない冬日の底にある世界 鈴木 幸江
青鮫を天へ吹上げ梅真白 小宮 豊和
一汁と一菜でよし山笑う 重松 敬子
ファーストもファシストも焦げくさい冬日 三枝みずほ
春雷や物置の扉開け放し 菅原 春み
切株のかわいいくしゃみ初日の出 矢野千代子
住職の説法長し東風ほのか 銀   次
見える目が欲しい星空の雪だるま 島田 章平
押しくらまんじゅう一人はみ出る梅蕾 中野 佑海
父は死んでいた 恋猫が鳴いていた 田口  浩
肩甲骨ぐいと寄せたり鳥雲に 高橋美弥子
豆腐屋は豆腐を作る春の雨 小山やす子
死にたいと時々思ふミモザの夜 柴田 清子
板チョコの東の角より囀れる 三好つや子
冬雲に包まれるキャベツあり 中村 セミ
沈丁花指輪のあとは消えぬまま 伊藤  幸
探梅と称してくぐる縄暖簾 漆原 義典
耳打ちに眼みひらく涅槃西風 榎本 祐子
蛹は雨に春の音楽教えてる 高木 水志
風まるくまるくふくらむ春の山 亀山祐美子
雪しだく小小小小小小小(このじのれつや) 留守に亀 藤川 宏樹
三寒四温金属疲労研究室 新野 祐子
猫の恋かぼちゃスープと喉の棘 佐藤 仁美
にんげんがたてている音うすごおり 男波 弘志
春寒や骨までしゃぶる鯛の粗(あら) 野澤 隆夫
走り根にくちづける雪の聖者よ 増田 天志
他界より「おー」と御声春灯し 野口思づゑ
咳ひとつ肺は薄陽さす森林 若森 京子
行き交いてキンクロハジロ的憂い 松本 勇二
あやとりの小指と小指ほら俳句 河野 志保
目薬の飛び散る朝の春の歌 豊原 清明
漂流物ままごとの春浅き春 竹本  仰
春立つや谷中初音町(はつね)の鐘の音 田中 怜子
菜の花の永遠にいる少女かな 藤田 乙女
恋猫や白鵬鶴竜稀勢の里 河田 清峰
水脈引いて鴨まつすぐに我にくる 高橋 晴子
慈父にして荒星目つむれば会える 野田 信章
国生みの島を抱くや水仙花 野﨑 憲子

句会の窓

藤川 宏樹

特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」この句に句会では多数の選が入りました。春の雨が豆腐と見事にマッチしています。学生時代の豆腐屋早朝アルバイト、冷水に浸かる出来たて豆腐の暖かみ、掬う柔らかな触感が蘇りました。こうい う自然体の句を私も作りたいと思います。

島田 章平

特選句「沈丁花指輪のあとは消えぬまま」妻が亡くなった時の指輪を外したあとが忘れられません。

重松 敬子

特選句「風まるくまるくふくらむ春の山」春が来た喜びが素直に伝わってきて、とても幸せな気持ちになりました。日本には、嬉しいことに四つの季節があり、俳句の存在にも多大な影響を与えてきたと想像されます。私達は、このそれ ぞれの季節を大いに楽しみたいものです。

高木 水志

特選句「住職の説法長し東風ほのか」清々しい俳句だと思った。住職の長い話を聞いているうちに、東風がそっと吹いている風景が心地よい。

野澤 隆夫

特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」〝豆腐屋さんが豆腐を作る〟。その通りです。わが母校、栗林小学校の通学路にも豆腐屋さんがありました。豆腐と、油揚げとおからを作ってました。70年近く前のことを思い出しました。やはり〝春の雨〟が効いています。特選句「親鸞を因数分解して蜜柑(三好つや子)」親鸞の生き方に興味をもった作者。親鸞を因数分解してみるという発想が面白い。蜜柑を口にしながら、親鸞の因数分解を楽しんでいるようです。

高橋美弥子

特選句「 冬雲に包まれるキャベツあり」ああ、こういう感じあるなあと思いました。わたしの出身県はキャベツの特産地です。寒くて厚い冬雲につつまれて、甘味を増しおいしくなるキャベツ。「包まれる」の措辞がいかにもキャベツ。問題句「死が近いしろつめくさがそう言うた(田口浩)」人はいつか死ぬ。なぜかそれだけは平等。不平等と不条理の溢れかえるこの世界で、唯一「死」は悪人にも善人にも避けられない。しろつめくさという、希望に満ちた対象が投げかける「死」。わたしも明日死ぬかもしれないと思わせる句。

若森 京子

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」世界平和を願う者としては、現在、いつも不安を感じている一句だが、地名の饗庭野が真ん中で効いている。一句を詩的にもしている。特選句「ファーストもファシストも焦げく さい冬日」言葉の音律が、何げなく焦げくさい冬日をよく表現している。

稲葉 千尋

特選句「肩甲骨ぐいと寄せたり鳥雲に」ふんいきがいいですね。〟鳥雲〝の季語佳し。「切符片手に風花は讃岐より」上五は片道切符がいいなあ。

小山やす子

特選句「春雷や物置の扉開け放し」素の俳句という感じがしていいと思います。

増田 天志

特選句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」柔軟な発想に、感服。

中野 佑海

特選句「板チョコの東の角より囀れる」思いを込めて送ったバレンタインのチョコ。私の気持ちを伝えてよ!彼が食べる端から私の思いが囀りとなって流れ出すなんて素敵な便利な機能付きチョコ。早速、わたしも作って送ろ。私 は魔女のお婆さんか!!特選句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」めちゃめちゃ笑えるやないの!誰がこんな素敵な俳句考えたんですか?最初、読んだ時は誰か小股の切れ上がった着物の女性の下駄の跡かと思っていまし た。最後の「亀」がまた最高。だから、何で亀なん?と思っていました。本当に見られたんですか?二度見してやっと理解しました。どの俳句もとても面白く、選句するのが、大変でした。秩父で俳句三昧をしてきました。今年は、香川で俳句 三昧です。皆様、汗を絞って、俳句にいたしましょう。

男波 弘志

「声だして寒夕焼けになりました」この声は造化とひとつになる 声 声が往生している。「ゆっくりと空へ繋がる白息の(三枝みずほ)」白息の、そのとめかたが、いのちの循環になっている。また肉声を伝えていて、実感が充ちている。「埋めようなくレモン一切れ一便箋(竹本 仰)」文字に入れかわることがない、レモン、その実体を素直に感じればいい。「あらたなる死者にふくらむ春の山(田口 浩)」山そのものがふくらむ、発見、つまり、死者を祝祭している。涅槃とはそういう場所だろう。

菅原 春み

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」影寒しが秀逸です。きなくさい世のなかです。特選句『他界より「おー」と御声春灯し』いまにもお声が聞こえてきそうです。季ぴったりです。特選句「あらたなる死者にふくら む春の山」どうしても特選にしたくて。臨場感があります。

矢野千代子

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」饗庭野(あいばの)、この固有名詞にとても魅かれました。

竹本  仰

特選句「春雷や物置の扉開け放し」春雷というのは、一回見事に鳴って、それからすこし静かに落ち着く間があって、元に戻る、そんな一セットのものではないかと記憶していますが、あの春雷の後の間というのは、ふと忘れものに 気づく間ではないのかと、そんな風な季語の鑑賞をしてしまいました。そんな春雷の後の間、そのふと空いた心の無防備、言い換えれば心の蓋のあいた瞬間、そんなものがうかがえました。そして、妙にその物置の中へ引き込まれるものを感じ ます。非常にバランスのいい、高い調和みたいなものがある句だと感心しました。特選句「あらたなる死者にふくらむ春の山」小生のおりますこの田舎には「サンマイ」といって土葬の林があります。この地の植生の豊かさというか、猛烈なナ マな粗雑さ正直さには呆れるのですが、その林がある句というとらえ方で読みました。お葬式が終わり、火葬から帰ってくると、人は必ずあくびをし、薄らいだ、また安らいだ笑みをこぼすものです。そういう光景を見かけたときのタッチにか なり近い雰囲気を思い浮かべました。もっとも大事な世のなりたちの一断面がくっきりと描かれ、その清新な空気感を感じました。特選句「にんげんがたてている音うすごおり」この句から聞こえてくるのは、人間て何?という問いでしょうか 。うちの近所のお茶の先生がいつも、テレビは見ないの、あんなしょうもないものをいつも見ている世の中がどうかしているワ、というのを聞き、そのたびに何か胸がすっとするのを感じます。人間という惑わされやすいもの、一方で何か微妙 な自然の一切れが片隅にあり、すごく大事な問いかけをしている。そんなうすごおりからの目線を感じました。以上です。今回はとても、目を引く句が多かったように思います。知り合いの方に、この句会のプリントを見せたところ、俳句はわ からないけど、何かわくわくする感じにみちみちているね、と面白がっていました。毎回、大変はげみになります。ありがとうございます。

田中 怜子

特選句「青鮫を天へ吹き上げ梅真白」 作者の思い、前向き、勢いがあります。

柴田 清子

特選句「死が近いしろつめくさがそう言うた」人間が避けることの出来ない死を、白詰草に、さらりと言はせているところが、さらに近づいてくる死を強烈にしている。特選句「父は死んでいた 恋猫が鳴いていた」:「生と死」 「死と生」言葉で書かれている以上に、迫力のある空間が、この句にはある。「父の死」と「恋猫の泣き声」が、同格と思える不思議な空間にひきずり込まれる句。「クックーポッポウ淡雪の時間です(野﨑憲子)」鳴き声だけで読み手の私達に、淡雪の時 間を感じさせてくれる好きな句ですね。

大西 健司

特選句「咳ひとつ肺は薄陽さす森林」まず肺を薄陽さす森林と断定したことを評価したい。どう読んだらいいのか悩ましいが、感覚的にはわかるとしか言いようがない。ただここで先行句を思い出した「はつなつや肺は小さな森で あり(なつはづき)」現俳協新人賞受賞者の一句である。味わいはそれぞれ違うものの難しいところ。問題句「三寒四温金属疲労研究室」金属疲労研究室はいいとして、さて季語はこれでいいのか疑問が残る。無理をして全部漢字にしなくても 、やわらかなひらがなの五文字の方が中七からがもっと生きるのではと思うのだが、いかがなものか。

鈴木 幸江

問題句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」俳句において振り仮名をどこまで受け入れるかは作者の中でそれぞれ基準のようなものが揺れつつもある。全く、すべきではないという意見もよく耳にするが、文字 とは別の意味を持った振り仮名を付けている句も目にしたことがある。恥ずかしながら私は「小小小小小小小」が文字の形象から風景を再現したものだとは気が付かなかったのだ。言葉の表す意味内容につい思考がいってしまう私の癖が出てし まい、俳句の解釈の一つの味わい方を見失っていた。今回は、作者の解説をいただき、自分の文字の視覚的鑑賞力の不十分さに気が付かされた。また、このような振り仮名の使い方にも初めて出会った。とにかく、作者の説明によると留守の間 に庭に亀が来たようで、雪の上に足跡らしき“小の字”の列があったということだ。このような文字の形象から俳句の世界を広げてゆくとう試みも大いにありだと思う。一句の中に自然と動物と人間が描かれているのもよろしいと思った。問題 句「板チョコの東の角より囀れる」2月とチョコとくれば聖バレンタインデー。キリスト教ではカップルが愛を誓う日。そして、「東」からは“エデンの東”が連想される。そこは、楽園から追放された者の地であり、また且つ真実の愛が問わ れている場だと私は思っている。この作者はきっと現代における真実の愛を求めているのだろう。頑張ってください。

中村 セミ

特選句「咳ひとつ肺は薄陽さす森林」色々とれると思うけれど、肺の寒々とした風景が何か印象に残りました。病気の方、又は森林と重ねて肺という臓器の森の様に広がった大きさに何かを重ねたところが良かったです。他、「豆 腐屋は豆腐を作る春の雨」昔、実家が豆腐屋で一年中、朝早くから父や母が豆腐を作っている姿が、鮮明に戻ってきました。春の雨で豆腐屋の生活がきちんと写真の様に止りました。

佐藤 仁美

特選句「梅ほつりほつり言葉の生る不思議」ほつりほつりの表現に惹かれました。私も、ほつりほつりでも言葉を編み出したいものです。特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」,当たり前の事を当たり前に、淡々と続けていくことの 大切さと凄さを、春の雨が優しく包んでいる様子が浮かびました。

松本 勇二

特選句「板チョコの東の角より囀れる」囀りの発信元が板チョコの東の角という閃きが新鮮でした。感性豊かな作者像が浮かびます。問題句「梅林をよぎる人影たしかに師」師を特定した方が強くなると思います。たとえば「梅林 をよぎる人影たしかに兜太」では。

三好つや子

特選句「蛹は雨に春の音楽教えてる」蛹が楽器なら、静かに降る雨は弾き手。寄り添って春のメロディーを奏でる抒情が、とても快い作品。特選句「国生みの島を抱くや水仙花」古事記ゆかりの「沼島」を遠望できる淡路島の水仙 郷を歩いたことがあります。あの水仙の迫力が、この句からよみがえり、共鳴しました。入選句「ずっしりと櫂の五十句冴返る(野澤隆夫)」角川俳句二月号で発表された、死を予感したような長谷川氏の五十句。心がざわざわします。

田口  浩

特選句「肩甲骨ぐいと寄せたり鳥雲に」〝鳥雲に〟は古い季語である。其角、一茶も詠んでいる。若いころ好きだった、草田男にもある。私淑していた閒石も「鳥雲の某日水を描き暮らす」とあるが、どの句にも作者の郷愁のような ものがにじんでいる。見え隠れする。〝鳥雲に〟は春のそんな気分の季語だと思っていたが、この「肩甲骨グイと」は私に待ったをかけた。驚ろかされた。鶴か、雁か、雲間に向かう力強さは、郷愁などではなく、水泳選手の水をかきわける両 腕に重なって、健康志向の私たちの肩までグリッと音を立てたような気がした。平成の一句が〝鳥雲に〟に一頁開いた感がある。特選句「あやとりの小指と小指ほら俳句」今の女の子はあやとりをするだろうか?向かい合って互いの指に掛けて いる毛糸をやりとりするのだが、そのたびに形がかわる。それを競う遊びだが、私はなぜか熊手の形をおぼえている。子供同志はやらないかも知れないが、母と幼い子が膝をつき合せ、毛糸に顔を近づけている図は、おだやかでほほえましい。 句は「小指と小指ほら俳句」がいい。もちろんあやとりに俳句などと言う、やっかいな組手はないだろう。しかし、そこは親子である。もしお母さんが俳句を愉しんでいる人だとしたら、あやとりを通して、俳句を子供に興味を持たせようとし ているのかも知れない。「ほら俳句」の「小指と小指」には存外に約束ゲンマンの意もあるのである。こんなあやとりをつきつけられた子供はどんな顔をするのだろうか・・・・・。いい作品である。

河田 清峰

特選句「切株のかわいいくしゃみ初日の出」初日の出の光は眩しいほど届いているのに温もりはまだ届いていない気持ちを切株に例えたのが良かった。

漆原 義典

特選句は「父は死んでいた 恋猫が鳴いていた」です。父は死んでいたと衝撃的な書き出しと、恋猫の表情が、うまいです。作者の感性はすごいです。また前衛の鋭さを強く感じました。

野田 信章

特選句「走り根にくちづける雪の聖者よ」遥よりの使者―雪片を「くちづける」と把え、「聖者よ」と結句する。映像の確かさを諾うことができるのも、地に息衝く者の象徴としての「走り根」の設定あればこそと思う。

榎本 祐子

特選句「春寒や骨までしゃぶる鯛の粗(あら)」春なのに忌ま忌ましい寒さの中、骨の強(こわ)い鯛の粗を無心にしゃぶる像。「までしゃぶる」と言う言葉で、時空から切り離された異世界のようにも見える。哀しくもあり可笑 しくもあり、そして少し怖い。

寺町志津子

特選句「慈父にして荒星目つむれば会える」つい最近、黒田杏子さんが「選者をしている新聞の俳句欄に未だに兜太先生のことを詠んだ句が寄せられる。かつてないことである」的なことを書かれていたのを読んだが、今月の香川句会もしかりで、かなりの数があった。それぞれに兜太先生への思いが込められ、それぞれに感慨深いが、中でも、最も共感し、共鳴し、しみじみ心に染みる揚句を特選に頂いた。私ごとで恐縮であるが、ご生前、兜太先生にお会いしたり、お話を伺ったりしていると、誠に僭越ながら、亡父と全く重なって感じるところがあり(ある意味、大正生まれの父親像の一面かも知れないし、きっと多くの方が同じ感慨を持っておられたのではないか、とも思うが)いつも大変嬉しく、とても有り難い思いであった。揚句の「目つむれば会える」に哀しみの中での希望が見える。今宵も目をつむって兜太先生にお会いしよう!

三枝みずほ

特選句「漂流物ままごとの春浅き春」瀬戸内海の浜辺で人工的な漂流物をよく見かける。このままごとで使っている漂流物もプラスチック等の海の生態系を脅かすものであろうか。ままごとの着眼点に現代性があった。せめて子の春は爛漫であってほしいものだ。

谷  孝江

特選句「豆腐屋は豆腐を作る春の雨」パン屋がパンを作る、ケーキ屋がケーキを作るありふれた事柄を豆腐屋に持ってゆき、春の雨との取り合わせで、あたたかくやさしい風景になっていて好きな句です。立春も過ぎ春らんまんの季 節の一歩手前での句。今月もたくさんの句に出合わせて頂きました。来月は花の盛りでしょうか。楽しく待っています。

藤田 乙女

特選句「青鮫を天へ吹き上げ梅真白」寒気の中に、純白の美しい梅の花が百花にさきがけて地上に咲いている頃、天界へと召されていった師への尊敬の心と深い思いがしみじみと伝わってきました。

月野ぽぽな

特選句「咳ひとつ肺は薄陽さす森林」咳が出た後その送り主である肺とその身体感覚に注目して、体の神秘を「肺は薄陽さす森林」と形象化。自然と不可分な人間の心身魂。人体の不思議命の不思議を再認識させてくれた。

新野 祐子

特選句「軍靴響く饗庭野(あいばの)鳥の影寒し」長編小説のエピローグの様な情景が目に浮かんできます。鳥の影が寒いというところに作者の荒涼とした心境が表されているのではないでしょうか。入選句「落ち葉踏む革命遠き 石疊(寺町志津子)」こちらは欧州、フランスあたりの紀行文の一フレーズのように読みました。石畳からは民衆の蜂起の靴音が聞こえてきます。『他界より「おー」と御声春灯し』兜太先生が亡くなってちょうど一年となりました。この句から先生の姿が彷彿とします。「春灯し」が優しくてとても好きです。問題句「雪しだく小小小小小小小(このじのれつや)留守に亀」:「このじのれつや」と読ませるのは、あまりに無理があるのでは?でも「留守に亀」だなんて突飛ですし、おもしろい句ですね。

小宮 豊和

一句コメント「「あやとりの小指と小指ほら俳句」題材の良さに比較して「ほら俳句」がいまいちに感じられた。どう変えたらあやとりの句らしくなるか考えたが特段に良い案はうかばない。「一句なる」ではどうだろうか。「小 指と小指」は島倉千代子の唄にあるので気になる向きがあれば「指っふれあって」など。あとは語順をいれかえる手もあるかもしれない。「一句成るあやとりの指ふれあって」 

吉田 和恵

特選句「梅ほつりほつり言葉の生る不思議」梅がようやく綻び始める時、言葉が生れて来る感じがする。私も寡黙な夫を仕立て、「梅咲いて寡黙な夫が独りごつ」と書いてみました・・・・・直ちに消しましたけど。特選句「落ち 葉踏む革命遠き石疊」石畳・馬車・産業革命・・・石畳に妙にリアリティを感じました。

亀山祐美子

特選句『落椿大地に彫りし緋の文字(銀次)』色んな落椿の句を見てきましたが、「大地に彫り込んだ」「赤い文字」だという発想は素晴らしいと思います。特選句『恋猫や白鵬鶴竜稀棒勢の里』昨日家の庭に近所の猫が来てましたが、一勝負終わった後の相撲取りといった風情で笑っしまいました。髷を直してもらっている時の体の丸みとか勝負の火照りとか、目が血走っているところとか、よく見ているなぁと感心してしまいました。何よりリズムが良く無駄がありません。脱帽です。皆様の句評楽しみにしております。花粉の季節になりました。皆様ご自愛くださいませ。

河野 志保

特選句「梅林をよぎる人影たしかに師」 金子兜太先生のことを詠んだ句と受け取った。先生の名句が思い出されるし、ストレートで実感あり。断定したところに「師」への強い思いが感じられる。

伊藤  幸

特選句「 板チョコの東の角より囀れる」春ですね。若いですね。発想が楽しい。未来がある。出来不出来は抜きにしてチョコ、東、囀りの意外な取り合わせの全てに明るい明日が見えて思わず微笑んでしまいます。

野口思づゑ

「声出して寒夕焼けになりました」感動的な夕焼けに、自分が声をあげたくなる気持ちが伝わってくる。「梅林をよぎる人影たしかに師」金子先生のお姿が浮かんでしまいました。「見える目が欲しい星空の雪だるま」雪だるまに縁がない地域に住んでいる者にとって、雪だるまと星空と雪だるまの取り合わせがことさら新鮮。「あらたなる死者にふくらむ春の山」死者の旅立ちが明るく捉えられている。「慈父にして荒星目つむれば会える」またお会いしたいです。

高橋 晴子

特選句「親鸞を因数分解して蜜柑」何だか面白い。或いは、蜜柑でない人もあるでしょう。この人は蜜柑、動くというよりこれはこの人の解。問題句「恋猫や白鵬鶴竜稀棒勢の里」相撲は面白いが、この三人の横綱あまり好きでな い。恋猫の相手はもっと若手の生きのいいのがいい。

野﨑 憲子

特選句「声出して寒夕焼になりました」始源から生まれてきた声・・この「寒夕焼け」に悠久の時間を観ました。問題句「行き交いてキンクロハジロ的憂い」私は、「キンクロハジロ」が、鴨の一種と知らなかったです。羽根の色 彩が名となった、とても魅かれる句。只「的」が気になりました。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

指先に掬い集めし春時雨
佐藤 仁美
春水に指入れ何のためらひか
柴田 清子
この指は誰だろうねと蜜柑むく
鈴木 幸江
のどけき日トイプードルは指しゃぶる
野澤 隆夫
亡き妻の手袋の指空いたまま
島田 章平
兜太
茶封筒の兜太はみ出してゐる春
柴田 清子
兜太の忌僕はこっちで待ってます
藤川 宏樹
兜太棲む白梅の郷らしい
鈴木 幸江
春の雷兜太の出腹ボタン飛ぶ
漆原 義典
種(たね)
春浅し種の暗号解読中
佐藤 仁美
斎種(ゆだね)まく「海程香川」とふたねを
島田 章平
種も仕掛けもない春が来た
柴田 清子
冬麗の遍(あまね)き大地植ゆる種
野澤 隆夫
鷹柱
鷹柱雲切れ長の空青し
藤川 宏樹
戦争を知らない子たち鷹柱
野澤 隆夫
鷹柱平常心を見つめをり
鈴木 幸江
寒風
寒風やあの歌をまだ唱ってる
藤川 宏樹
寒風に犬はわんわん鬼は外
野澤 隆夫
寒風や土砂に消さるる珊瑚礁
島田 章平
寒風受けマラソンランナー壱萬騎
漆原 義典

【通信欄】&【句会メモ】

【通 信 欄】安西篤さんから、一月句会のご選句を頂きました。お忙しい中、ありがとうございました。 安西 篤◆谷さんの訃報への反響の大きさは、なんといっても彼の個性のユニークさ、人柄の温かさによるものでしょう。もって瞑すべしです。今回特選としたい句は「鍬置いて大地に記す兜太の句(稲葉千尋)」「晩柑や師の言魂の陽の雫( 野田信章)」の追悼二句でした。特に、野田作の霊性を感じさせる熱い思いに打たれました。佳作として「流星群岬へ放馬青を帯び(大西健司)」「むらぎもに梅がちらほら青鮫忌(若森京子)」「着ぶくれて傷心というかたちかな(新野祐子 )」「原曲は冬木を通りすぎる風(月野ぽぽな)」「耳打ちのような足裏に春の潮(矢野千代子)」「一・一七忌記憶の咳が止まらない(三好つや子)」「地球とふ風の器よ冬すみれ(野﨑憲子)」等に注目しました。

【句会メモ】今月の本句会は、「金子兜太先生の一周忌墓参と吟行合宿」と、同日開催となりました。10月に香川で開催の第一回海原全国大会の打ち合わせの為、中野佑海さんと秩父へまいりました。高松の句会は、漆原義典さんが司会をしてくださり、盛会だったと何人もの方から聞きました。漆原さんを始め、高松の句会にご参加の皆様、ありがとうございました。来月の句会でお目にかかるのを楽しみにしています。冒頭の写真は、勉強会の会場のホテルの庭に咲いていた臘梅です。秩父は、梅と臘梅の馥郁たる香の中でした。

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