第117回「海程香川」句会(2021.05.15)
事前投句参加者の一句
鳥雲に身の透けるまで大樹抱く | 増田 天志 |
句読点どこに打とうか昭和の日 | 谷 孝江 |
瞬けば星になりますきんぽうげ | 吉田 和恵 |
母の日や生き延びてきて水晶体 | 若森 京子 |
アマリリスわたし夕陽を飲みました | 三好三香穂 |
まくなぎやtattooの腕が抱く赤子 | 高橋美弥子 |
野にあそぶ蝶に影あり夜があり | 飯土井志乃 |
終わるとき音はいらないチューリップ | 河野 志保 |
第七ヘアピン抜けるヒュッテの風青し | 河田 清峰 |
もしツバメ翔ぶことを愛とするならば | 竹本 仰 |
マスクの人見下ろすマスクの街立夏 | 野田 信章 |
卯波かな南洋航路墓碑の島 | 田中 怜子 |
狂おしく揺れる森なり桜桃忌 | 石井 はな |
おもいきり泣いてしまえたら山東菜 | 久保 智恵 |
大口の煮付けの魚おぼろ月 | 亀山祐美子 |
スナフキンの影に名もなき若葉かな | 高木 水志 |
一つある鱗にさわるときさくら | 男波 弘志 |
立哨の十字路十字に朝燕 | 松本美智子 |
どこまで歩けば陽炎になれるだろう | 月野ぽぽな |
春夕焼鬼籍の友の点呼取る | 山本 弥生 |
前衛書飛び散る墨精卯浪かな | 漆原 義典 |
紫木蓮 女の恋の色をして | 小宮 豊和 |
やわらかきふる里訛り風薫る | 寺町志津子 |
うっせぇわ いなおっている冷奴 | 島田 章平 |
暮れ残る屋島たね爺夏ですよ | 松本 勇二 |
通うたび薔薇の香となる珈琲館 | 中野 佑海 |
妖女棲む茶碗の色のほろり割れ | 中村 セミ |
金魚の屍あがりがまちの薄埃 | 小西 瞬夏 |
春めくや雨滴のリングと鯉の口 | 佐藤 稚鬼 |
疲労ってこんなに黒い上り梁 | 豊原 清明 |
人は陽炎あめいろの石抱きしめて | 桂 凜火 |
どこまでが海市だったか海馬だったか | 伏 兎 |
春昼の法務局にて印紙買ふ | 野澤 隆夫 |
走り根脈脈北斎の大蛸 | 川崎千鶴子 |
軟弱なワルツが好きだ憲法記念日 | 滝澤 泰斗 |
短調で啼く鳥のあり夏霞 | 森本由美子 |
卯の花腐しあいつのロックは最高だった | 伊藤 幸 |
握る手を開いてみせて舞う桜 | 田中アパート |
トリケラトプスまだかまだかと子供の日 | 佐藤 仁美 |
蛇穴を出でて私は風呂を炊く | 小山やす子 |
蟻の足凄い速さで乱れるよ | 葛城 広光 |
夏空や思いどおりにならない死 | 田口 浩 |
春の鬱かつかつ巻き込む牛の舌 | 増田 暁子 |
夕焼け電車ときどきバッタになる人と | 重松 敬子 |
スキャンダル女優の食むや夏みかん | 銀 次 |
青嵐吹き荒ぶ日よ犬逝きぬ | 植松 まめ |
春寒し靴が合わないような日々 | 夏谷 胡桃 |
緊急事態選りに選り聖五月 | 野口思づゑ |
伯母たちに囲まれて母藤の花 | 山下 一夫 |
口鼻をおおひたれども目や立夏 | 福井 明子 |
右眼から壊れていくよ花水木 | 榎本 祐子 |
花散るやサンチョ・パンサの肩に背に | 稲 暁 |
夏シャツの鉤裂き自由からの逃走 | 新野 祐子 |
象が来てキリンがピアノ弾く朱夏 | 柴田 清子 |
黄砂降る洗面台に父の輪郭 | 佐孝 石画 |
くちなはの這ふごと包丁研いでをり | 三枝みずほ |
西陣の機屋竹の皮を脱ぐ | 荒井まり子 |
藤咲いて念写空海の眼が光る | 高橋 晴子 |
言の葉の溢れる予感柿若葉 | 藤田 乙女 |
躑躅に蹴躓く栄達せし凡夫 | 藤川 宏樹 |
三本指立てて五月のミャンマーよ | 稲葉 千尋 |
いかなご干す老婆問われただけ応え | 津田 将也 |
佐保姫の音叉で合わすギターかな | 十河 宣洋 |
ラフマニノフに逃れ緑蔭に溺れ | すずき穂波 |
散骨は太平洋へ春の虹 | 菅原 春み |
チューリップ昔「斬首」のあった村 | 吉田亜紀子 |
鶏抱いて五月の少女眉あげぬ | 大西 健司 |
早苗田にぼちゃんと朝日遊ばんか | 鈴木 幸江 |
手鏡に水の匂ひの緑夜かな | 松岡 早苗 |
喜べることいっぱいあるよ黄金虫 | 野﨑 憲子 |
句会の窓
- 若森 京子
特選句「春の鬱かつかつ巻き込む牛の舌」この句を見てすぐにたねを氏の‶牛の舌生(なま)の観念巻き込んだ‶を思い出した。巻き込んだものが「春の鬱」と「生(なま)の観念」の違いであるが‶牛の舌〟で始まる前者の迫力の方に臨場感がある。懐かしい気持ちで頂いた。特選句「口鼻をおおひたれども目や立夏」現在は口と鼻をマスクで覆われ目だけで景色、季節の移ろいを感じている。それをストレートに気持よく書き切っている。
- 十河 宣洋
特選句「どこまでが海市だったか海馬だったか」脳の海馬の調子がおかしいのか、蜃気楼なのかという言葉遊びの様子が面白い。その境界がはっきりしないのが人生である。特選句「夕焼け電車ときどきバッタになる人と」しかけが見えていてどうしようかと思ったが、現代の風景のひとつかと思いながら取った。上司に米つきバッタの様にお辞儀をしている人を見かけるが私はあまり好きでない。問題句「夏みかん酸っぱし いまさらしづ子など(島田章平)」作者の意図するところは分かるが、いまさらがしづ子を蔑視しているようで気になります。
- 大西 健司
特選句「暮れ残る屋島たね爺夏ですよ」 夏ですよ この下五の呼びかけに敬愛の情が溢れている。問題句「夕焼け電車ときどきバッタになる人と」おもしろいと思いつつ あえて問題句に。
- 小西 瞬夏
特選句「鳥雲に身の透けるまで大樹抱く」樹と一体となり、空を飛ぶ鳥ともつながってゆくようなアニミズムの世界。
- 桂 凜火
特選句「苔の花森がまるごと発酵する(夏谷胡桃)」苔の花のみっしりした感じがよく表現されていると思いました 八ヶ岳の唐沢鉱泉のあたりをおもいだしました。特選句「夕焼け電車ときどきバッタになる人と」こんな変な人とゆくのは面白いかと思いました 夕焼け電車の設定がいいですね。
- 豊原 清明
特選句「まくなぎやtattooの腕が抱く赤子」街で、バスで、電車で、よく見かけるタトウーの若者たち。タトウーをローマ字で書くのが今風か。刺青では、合わないのか。実は僕も時たま、掌にボールペンタトウーする。消したが、皺になってしまった。問題句「ブラックに黄金週コロナ禍人災(野口思づゑ)」今はよくわからない時代なので、今を詠む時、この句のように「ブラックに」で通用する。正しく面白そうな。
- 中野 佑海
特選句「三密の表面張力花は葉に(伊藤 幸)」楽しい人達と一緒にいるだけで、お互い作用しあって、素敵な時と場を作っていけるのに。三密を回避してから、だんだん時間が色褪せていく気がする。知らない内に、花は葉になってしまった。特選句「人は陽炎あめいろの石抱きしめて」コロナ禍で、人は陽炎の様にこの世で出来ることが少なくなり、思いがあめ色の石となる。出来ない思いだけがフラフラと歩きだす。並選句「瞬けば星になりますきんぽうげ」ウインクをしたらサマンサタバサのごとく星になれたら良いよね。「母の日や生き延びてきて水晶体」母は親、夫、子そして、その時々の相手にまるで目の中の水晶体の様に合わせて、七変化。「大口の煮付けの魚おぼろ月」大口を開けているのは私です。魚の煮付け最高。春は鰆最高。「疲労ってこんなに黒い上り梁」本当パソコン肩凝るわ。肩が太い梁の様に凝って、ごりごり。「どなたかな屈託なき顔爺の春」良いよね。家の近所の爺はゆらゆら畑仕事して、いつもニコニコ。気軽に話しかけてきます。「西陣の機屋竹の皮を脱ぐ」そうなんです。実は機を操っているのは鶴ではありません。竹の中の女の子だったんです。「躑躅に蹴躓く栄達せし凡夫」定年を迎えたのに、まだ、在職中の名刺持っているのはだあれ。頭の蠅と足元の生け垣にご注意あれ。「いかなご干す老婆問われただけ応え」さっきの爺の奥さんは無口です。必要最小限しか喋りません。以上。宜しくお願いします。
- 佐孝 石画
「どこまで歩けば陽炎になれるだろう」好きな幻想だが「なれるだろう」でよかったのか。「なるのだろう」の世界もあるのではなかろうか。陽炎になる希望をもって「どこまで」も歩むより、途方にくれながら、あきらめながら、とぼとぼと行くあてもなく歩くうちに、いつしか陽炎に「なる」幻想の方がグッとくるかもしれない。「人は陽炎あめいろの石抱いて」こちらも陽炎の句。出だしの「人は」という限定・断定は読み手を身構えさせてしまう危険があるかもしれない。「陽炎に人」くらいのソフトランディングにするか、いっそのこと「人」を外しても成り立つ世界かもしれない。もしそのままにするなら下五をあえて「石を抱いて」と字余りにすることで、上句の強い「は」と下の「を」相殺させる形にするとバランスが取れるかもしれない。音感も案外、字余りにした方が良い
- 小山やす子
特選句「三密の表面張力 花は葉に」季語が凄く効いていると思います。
- 伊藤 幸
特選句「まくなぎやtattooの腕が抱く赤子」先月「うつ病の少女の腕に薔薇の刺青(タトゥー)」と「海原」に拙句を投句しましたが、数段ポジティブなこの掲句を病と闘う少女に読ませたいと思います。アルファベットの文字も効いています。特選句「夫の寝息余生至福の新茶飲む(山本弥生)」年輪を重ねた穏やかな夫婦のワンシーンが昭和の映画を観ているようでコロナウイルス等別世界の出来事のようです。
- 伏 兎
特選句「蟻の足凄い速さで乱れるよ」 ふだん、せっせと餌を探し、巣に運んでいる蟻だが、異変が起きたときの慌てふためく様子は凄まじい。まるで、変異ウイルスにおののく私たちを見るようで、共鳴。特選句「さぬき野や雷の眼の赤ん坊(野﨑憲子)」一読して讃岐で生まれた空海、あるいは平賀源内のことを詠んでいるのでは、と思った。世の中を変える人物の誕生ってこんな感じなのかも知れない。入選句「一つある鱗にさわるときさくら」優しい心を持ちながら、それを決して表に出さない人のことだろうか。今回もっとも惹かれた心象句。入選句「右目から壊れていくよ花水木」頼りにしてた体のパーツが知らず知らずのうちに錆びていく淋しさが、しみじみ伝わってくる。
- 田中 怜子
特選句「暮れ残る屋島たねを爺夏ですよ」たねおさんですね。 夕方の影となった屋島を見ながら夏ですよ と語りかけるその優しさと慕情ですかね。彼も幸せですね。このように慕われて。特選句「三本指立てて五月のミャンマーよ」さらりとミャンマーの状況を描いていますが、忘れてはいけないですね。今、世界は恐ろしいです。
- 野田 信章
特選句「春の鬱かつかつ巻き込む牛の舌」の「春の鬱」には人間さまの「むすぼれる」「気がふさぐ」などの気分と同時に、いやそれ以上に反芻動物の牛の舌の活写を通して草木の青々と茂るさまや、そこにこもる熱気や雲気をも伝える語気がある。そこに「春愁」「春思」などの句の情趣の域を抜けた春の爽快さがある。特選句「黄砂降る洗面台に父の輪郭」は「黄砂降る」という大景の中で、彼方の山容を見定めるように映像として、洗面台に向かう父の輪郭―そのうしろ姿を捉えたところが印象的な追慕の句として読めた。
- 榎本 祐子
特選句「鶏抱いて五月の少女眉あげぬ」。「鶏を抱いて」に野趣を感じる。少女の姿が5月の風景の中で鮮明。
- 滝澤 泰斗
特選句「夏シャツの鉤裂き自由からの逃走」今から50年前、ゼミの演習課題で指定された一冊がエーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」。要は、ナチズムに当時の中流以下のドイツ人が従属していった現象からの考察だったが、二十歳の自分にはかなり難解だった記憶がある。そして、この一句。その書の名まえが織り込まれた一句に驚きながら、上の句の夏シャツの鉤裂きにフィットしているところに共鳴した。特選句「ラフマニノフに逃れ緑蔭に溺れ」ラフマニノフと言えば、ピアノコンチェルト2番を思い出しながら・・・日常の憂さから逃れでもするように聞き入る作者・・・そして、外に目をやれば、美しい新緑が深い陰を作る。激しいピアノの旋律にこころは現実からどんどん乖離してゆきいつしか心は緑陰に沈んでいる・・・破調ながら気分のいい景色に誘われた。「卯波かな南洋航路墓碑の島」「前衛書飛び散る墨精卯浪かな」「黒蝶の羽重き午後 卯月波(飯土井志乃)」卯波の句が三句揃った。いずれも、卯波が俳句を引き締めた。「夏怒涛折れた大樹に届きけり(石井はな)」屋久島のような海から急激にせりあがった島の大木と怒涛の波に思いが及んで共感。「象が来てキリンがピアノ弾く朱夏」朱夏の季語と動物たちの競演がうまく響き合っている前衛性に感心。「メーデーも古語か憲法記念の日(野澤隆夫)」欧米の労働組合は自分たちの権利意識が強いが故にしっかりした運動としての組合活動が活きているように見える。その意味で「連合」会長の保守に寄り添う姿勢のせいなのか、年々、メーデーに象徴される労働組合の動きの鈍さが気になるとことは作者と一致している。そして、5月3日の憲法の危うさにも言及している点に共鳴した。
- すずき穂波
特選句「蛇穴を出でて私は風呂を炊く」この風呂は外に焚き口のある、火吹き竹など使った、いにしえの風呂であって欲しいです。意志の < 自律 > としての自由の成立を詠んでおられ哲学的な句と思う。特選「春寒し靴が合わないような日々」コロナ禍の自由のきかない、心身の痛み、ヒリヒリした傷みに共感しました。
- 河野 志保
特選句「狂おしく揺れる森なり桜桃忌」六月の森はこんなふうに揺れるのだろうと思う。雨を含んだ緑が黒いほどに濃くて。太宰の生涯とも呼応して作者を捉えているようだ。
- 稲葉 千尋
特選句「卯の花腐しあいつのロックは最高だった」雨の中で聞いても、あのロックは最高だったと、惚れこんだロックはいつ聞いてもグッド!
- 夏谷 胡桃
特選句「春夕焼鬼籍の友の点呼取る」兜太先生を思い出します。だんだん点呼する名前が増えていきます。問題句「みつからぬ眼鏡ケイタイ鍵ラムネ」なぜラムネ。季語のためにつけたしたような感じもするけど面白いかも。
- 菅原 春み
特選句「鶏抱いて五月の少女眉あげぬ」ありありとした景が見え、とくに少女の眉まで描いたところが完成度が高くすばらしい。特選句「手鏡に水の匂ひの緑夜かな」緑夜のみずみずしさが匂いにまでひろがる詩的な映像です。
- 藤川 宏樹
特選句「うっせぇわ いなおっている冷奴」。「冷奴、あんたはなんで奴なん?」との問い掛けに冷奴の返事ですね。「ひやっこい」が変じたとか「奴」が四角を意味しているとか諸説色々あるようですが・・・。「あー、いちいち返事がめんどくせー!」と開き直する感じがうまく描けています。
- 野口思づゑ
特選句「手鏡に水の匂ひの緑夜かな」。「手鏡に水の匂い」からしっとりとした初夏の夜の潤いを感じました。「躑躅に蹴躓く栄達せし凡夫」「花散るやサンチョ・パンサの肩に背に」、両句の凡夫とサンチョ、モデルを同一人物と解釈することも可能で、となると、そのメッセージ性に感心しました。「いかなご干す老婆問われただけ応え」そういうそっけない態度でも、心を開けばとても暖かい老女の姿が目に浮かぶよう。「あの夏の見えざるものにまた殺られ」。「亀鳴くや茶色い時代また来るか」の句と共に、今の日本の時世に対する危機感を共有いたします。
- 福井 明子
特選句「もしツバメ翔ぶことを愛とするならば」ツバメがすーいと土の匂いを嗅ぐように幾度も低空を翔び交う季節になると、ああ、愛だなぁー、と理屈抜きに思う。営むことの基本に立ち返るような、こころに衝動をもたらす一句です。特選句「いかなご干す老婆問われただけ応え」いかなごを干すことを長年の業として年を重ねた老婆。それ以上、語る必要などない。寡黙な一途さを、そのたたずまいに重ねています。含蓄のある世界が広がっていると思いました。
- 増田 天志
特選句「手鏡に水の匂ひの緑野かな」この感性の世界に、浸っていたい。手鏡に、透ける貴方が、映っている。
- 山本 弥生
特選句「いかなご干す老婆問われただけ応え」海辺の町の生活感が良く出ていて生涯を地道な家業に徹し黙々と作業をしている老婆は問に応えている間も手は休めない。昭和の名残りを感じます。
- 新野 祐子
特選句「一つある鱗にさわるときさくら」はじめから「ひとつある鱗」がわからない。それが自分のものなのか他者のものなのか、これも不明。しかしひどく官能的だ。そこになぜ「さくら」をもってきたのか作者に聞いてみたくてしかたがない。入選句「どこまで歩けば陽炎になれるだろう」いま久々に体調がよくて、どこまでも歩きたい気分だ。なのでこの句と一心同体になっている。(体調次第で好みの句が変わるということか)。「マスクの人見下ろすマスクの街立夏」疫病が流行しマスクが季語でなくなって二年目。歴史の激動の中で私たちは絶えず句を作る。「春寒し靴が合わないような日々」靴だけはいつも快適なものでなければならないと思っているので、こんな日常があっては苦痛。「早苗田にぽちゃんと朝日遊ばんか」瑞穂の国の平和な風景、永久にと願う。
今日は葉山に登ってきました。橅の新緑の中、朴、青だも、がまずみの花などがきれい。どれも白い花です。オオルリ、キビタキ、ヒガラの声が響きわたり至福の時間でした。岩清水をおみやげにして下山しました。
- 葛城 広光
特選句「アマリリスわたし夕日を飲みました」夕日を飲むという巨大虚構かとおもいや大きな実感である。現世に肥大化したわたしがある。ただし「呑む」の方が文法的に合っているかも。特選句「苔の花森が丸ごと発酵する」苔をじっと見つめる。それがきっと丸ごと森なのだろう。森がビールになるのを待つのである。発酵という動詞が効果的である。
- 松岡 早苗
特選句「大口の煮付けの魚おぼろ月」カサゴか何かでしょうか。白身魚の甘辛い煮付けが急に食べたく なりました。少しデフォルメされたインパクトのある「大口」と「おぼろ月」の取り合わせに軽妙なリアリティが感じられ、楽しく鑑賞させていただきました。特選句「立哨の十字路十字に朝燕」。「十字路十字に」という作者の発見と、反復によるリズムの楽しさに惹かれました。元気のいい登校の挨拶も聞こえてくるようです。
- 松本 勇二
特選句「春夕焼鬼籍の友の点呼取る」鬼籍に入った方々の名を呼んでいるのであろうが、点呼を取る、と書くことでこちら側とあの世側の意志が行き交っているように思えてくる。さらっと書きながら思いは深い。
- 川崎千鶴子
特選句「トリケラトプスまだかまだかと子供の日」恐竜のトリケラトプスを配して子供の日を配合するとは見事です。「夏の鬱かつかつ巻き込む牛の舌」鬱を牛の舌が巻き込むとは見事です。牛タンが食べたくなりました。「ラフマニノフに逃れ緑陰に溺れ」ラフマニノフの二番を聞いて悩みが消え、「緑陰に溺れ」が解るようで説明できませんが素晴らしいと思います。
- 田口 浩
特選句「どこまでが海市だったか海馬だったか」。「海市」とは蜃気楼のこと。唇は大蛤の意もあり、古くは大蛤が吐く気によって空中に、楼台などが現れると考えられていた。で、「海馬」とは、トド、ジュゴン、セイウチ、等いろいろ言われるが、普通は大脳にある古皮質の部分で、その形が、ギリシヤ神話のポセイドンが乗る海の怪獣(ピポカンポス)の下半身に似ているところから来ているらしい。―さて、こうなると、「どこまでが海市だったか海馬だったか」が随分ややこしくなるが、句としてはおもしろい。「右眼から壊れていくよ花水木」左眼からでなく、右眼がいい。そして「花水木」いい俳句だと思う。「壊れていくよ」が、なんとも懐かしい。「黄砂降る洗面台に父の輪郭」。「黄砂降る」から「洗面台に父の輪郭」この離れぐあいが、なんとも妙、いい感性です。「清明や井戸に放りし我が体」清明とは気が満ちる意で、二十四節気の一つ、太陽暦なら四月四日ごろに当る。「井戸に放りし我が体」香川にあるようなちまちました井戸ではなく、水の国の大きな湧き水を想像すれば、自ずからなるものが現れてこよう。「ラフマニノフに逃れ緑陰に溺れ」ラフマニノフ、ロシアの作曲家。革命後渡米、ピアノ奏者でもあるこの人の音楽に身を委ねて、「緑陰に溺れ」る、いいじゃありませんか。
- 吉田 和恵
特選句「さぬき野や雷の眼の赤ん坊」赤ん坊に見つめられたら逃げ出すしかありませんが。ところで穏やかなさぬき野にも雷は落ちるんですね。
- 高橋美弥子
特選句「アマリリスわたし夕陽を飲みました」脳内に真っ赤なアマリリスが浮かびました。アマリリスは赤だけではありませんが、夕陽とあるので少し近いかなとも思いましたが「夕陽を飲みました」という思い切った擬人化が良かったと思います。問題句「金魚の屍あがりかまちの薄埃」一読しただけではなんとなく怖いのだが、実景なのかそうではないのかまでは読みきれなかったが、何故か幼い頃の実家を思い出しました。
- 月野ぽぽな
特選句「春寒し靴が合わないような日々」日常生活の違和感を、「靴が合わない」ようなと具象化したのが手柄。春であるのに、という憂いが見えるとともに春であるという救いもある。
- 津田 将也
特選句「切なさのかたまり芍薬の蕾(佐藤仁美)」。美しい女性の立ち振る舞いや容姿を花にたとえる言葉に、「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」がある。また、「美人薄命」もあり、美しい人はとかく病弱であったり、数奇な運命にもてあそばれたりで、短命な人が多いとも云う。してみると、「芍薬の蕾は切なさのかたまり」なのであると云う作者のお説、まことに納得できるのである。特選句「眠らない街を眼下に春の雷(小山やす子)」。「眠らない街を眼下に」するのは作者であるのか、はたまた春雷であるのか。私は後者がよいと考え、特選句に頂いた。立春のころの雷は、この「眠らない街」に春の到来を分け隔てなく伝えてくれるのだ。
- 増田 暁子
特選句「アマリリスわたし夕陽を飲みました」花のいろや形から夕陽を飲んでいることが分かります。とても楽しい発想で大好きです。特選句「早苗田にぼちゃんと朝日遊ばんか」こ の風景が目に浮かびます。「朝日遊ばんか」が素晴らしい。「山盛りのたんぽぽサラダ長生きす」 下5の「長生きす」がなぜか納得です。「卯波かな南陽航路墓碑の島」墓碑の島で兜太師の句が思い浮かび、先生の無念さが浮かびます。「金魚の屍あがりかまちの薄埃」誰も世話をしない様子が見えますね。「軟弱なワルツが好きだ憲法記念日」憲法とワルツの組み合わせが面白い。組み合わせの解釈は?「花散るやサンチョ・パンサの肩に背に」楽しい句です。サンチョ・パンサーが良いなー「くちなはの這ふごと包丁研いでをり」包丁を研ぐのは好きです。砥石を使うとき私も同じ形ですね。「リラの花永遠の他者という鍵括弧」自分以外は永遠の他者ですが、鉤括弧は特別とか会話の意味でしょうか?「手鏡に水の匂ひの緑夜かな」手鏡に写るものは何か、緑夜には色とか形以外にも。
- 河田 清峰
特選句「血のうとうとして蟻がわたしを運ぶ」血のうとうとが夢見心地のわたしを運ぶに掛かってきて気持ちいい一句となっている。
- 佐藤 仁美
特選句「春夕焼鬼籍の友の点呼取る」きれいな夕焼けを見て、逝ってしまった友達の事をつい、思い出してしまうのでしょう。「点呼」で、逝った友達が一人ではないことがわかり、尚、寂しさが深まります。
- 竹本 仰
特選句「鳥雲に身の透けるまで大樹抱く」鳥が生の一つの季節を終え帰ってゆく。それを支える大きな大きなめぐりに気づいた時、そんなめぐりを持たない人間の淋しさを直視し、何かを教えてほしい気持ちで大樹を抱きしめているのだろうと思いました。日常に埋没せねば生きていけない訳ですが、それでもそのような何ものにも動かされないもの、そこに向かっているのだと思いました。特選句「一つある鱗にさわるときさくら」一つある鱗は誰の鱗か?傷付きやすいおのが身を常に守ろうと身構える、そんな人間の心の動きかと思われます。そしてどうしようもなく近づかねばならないとき、心に触れえたその証しがさくらとしか言いようのない何かだった。それは本性というべきものか、そういう生命体の根っこにふれたのか、さくらという平仮名表記がその余韻をうまく表しているんではないかと味わいました。そういえば、梶井基次郎『櫻の樹の下には』の終わりは、やっと村人と桜の下で酒が飲めそうな気がした、という結びだったかと記憶しています。そんな親和力を感じさせる展開でしょうね。特選句「夏シャツの鉤裂き自由からの逃走」自由からの逃走…エーリッヒ・フロムの著作の名と重なりますが、あれは自由というものの重さに耐えられず意思決定をナチスの手にゆだねたドイツ国民の在り方を例に、近代ヨーロッパ人の深い病理を指摘し現代人の生き方を追求したものであったように思い出します。与えられた自由ではなく創造的自由、この句の目指している所に遠景としてその問いかけが感じられます。束縛に抵抗しながらボロボロになっても生き方を率直に問い続けたい。そういう意気込みを思いました。兜太師の〈果樹園がシャツ一枚の俺の孤島〉を思い出させます。
- 鈴木 幸江
特選句評「くちなはの這ふごと包丁研いでをり」包丁を研ぐ仕草に蛇の動きを発見したことに感心した。次に人の日常の仕草に他の動物の動きが含まれているのだと思え、人智を超えた深い世界を感じた。
- 中村 セミ
特選句「いかなご干す老婆問われただけ応え」何とも云えぬ自然のままというか仕方のないものを感じる。達観者が作るとこういうことを詠むのだと思った。まるでケイトウの子規を思えた。
- 藤田 乙女
特選句「句読点どこに打とうか昭和の日」私の生まれるずっと前から始まっていた昭和、様々なことがありました。歴史を深く考えさせられる句でした。特選句「喜べることいっぱいあるよ黄金虫」。「喜べることいっぱいあるよ」はありふれた言葉だけれど「黄金虫」と取り合わせるととても生き生きした魂をうつような心を動かす句になっています。励まされ癒される句です。季語と結びついた俳句の言葉の凄さを実感します。
- 重松 敬子
特選句「散骨は太平洋へ春の虹」もし、かなうなら、すばらしいと思います。あの狭い中に入るより、広い海原を漂いたい。選択肢が増えて、これからは自分で決めてから旅立たねばなりませんね。春の虹が良い。
- 佐藤 稚鬼
特選句「春夕焼鬼籍の友の点呼とる」異界との距離もなく交流。親しかった友へのザックバランの呼掛、然も点呼とは。春夕焼との取り合せの暖かさと切なさの感あり。
- 谷 孝江
特選句「金縷梅やくの字に曲がる路地が好き(重松敬子)」たのしさがあって良いのです。私たちの幼い頃はどこにでもくの字に曲る路地がありました。車の心配もなく、思いっきり遊び回ったものです。遊び馴れた路地であっても曲った先に何があるのか、ミステリアスなところがたまらなくたのしみでもありました。
- 男波 弘志
「潮まねき砂に戻そか火に落とす」大きい鋏が絶叫して、小さい鋏が諦めている。「血のうとうととして蟻がわたしを運ぶ」死を選ぶとすれば自然死しかない、医学に頼れば苦しみのまま生かされてしまう。だから身を委ねる場所を蟻、造化に任せたのだ。どちらも秀作です。
- 柴田 清子
特選句「夏空や思いどおりにならない死」夏空が、思いどおりにならない死と言う作者を大きく受け止めて包み込んでくれている。季語の斡旋と置き方がとってもいい。特選句「手鏡に水の匂ひの緑夜かな」夏の始めの夜の若葉に、静かに包み込まれている作者が魅力的です。
- 飯土井志乃
特選句「夕焼け電車ときどきバッタになる人と」中年男女の少し疲れた恋愛模様が炙り出されたようで思わず苦笑。切なくて楽しい。ときどきバッタになる人とは、言い得て妙!多少のゴタゴタは時が解決し、知らぬ間に元の鞘に納まっているのが常のこと。特選句「くちなはの這ふごと包丁研いでをり」包丁研ぎは台所の仕事の総仕上げ。近頃では包丁研ぎ器なる物も出現して便利に使うことも多いが、手慣れた刃に心を添えて研ぐ行為こそ似つかわしい。砥石と刃のすき間から流れ出す水の描写も美しく昔ながらの厨からなら凄みさえ感じられて秀逸。
- 寺町志津子
特選句「青嵐吹き荒ぶ日よ犬逝きぬ」愛犬を亡くされたのですね。おそらく、家族同然にお飼いになっていらしたことと存じます。私にも同じ経験があり、身につまされ、作者の心情が伝わってきました。その日は青嵐が吹きすさんだ日であった由。事実を淡々と詠まれた揚句に、お哀しみの程が切々と伝わりました。
- 三枝みずほ
特選句「早苗田にぼちゃんと朝日遊ばんか」遊ばんかは朝日であり田であり産土神の声ともとれる。早苗田だからこそ、この声に生命力を感じる。原点回帰。おおらかなものに触れられた。
- 野澤 隆夫
特選句「金縷梅やくの字に曲がる路地が好き」朝夕のトイプードル🐩二匹の散歩コースと重なります。小生はコの字のマンサクコースです。「スキャンダル女優の食むや夏みかん」も特選。スキャンダル女優と夏みかんの意外性が面白い!女優の“酸っぱい!”という声が聞こえてきます。秀句
- 植松 まめ
特選句「夏シャツの鉤裂き自由からの逃走」の句。夏シャツの鉤裂きとは、青春の反抗でしょうか?「卯の花腐しあいつのロックは最高だった」も惹かれました。ロックのミュージシャンとは誰でしょうか?聞いてみたいですね。
- 吉田亜紀子
特選句「青嵐吹き荒ぶ日よ犬逝きぬ」同じような経験をしたことがある。嵐の中、激しく命が尽きていく。飼い主の心も嵐のように動揺し、衝撃を受ける。しかし、逃げることを一切せず、命と向き合う。愛犬の命の尽きていく様、作者の激しい心のうちを垣間見ることができ、愛犬の死を改めて労おうと感じた。特選句「伯母たちに囲まれて母藤の花」藤の花のあたりで、ティータイムをしているのだろうか。とても楽しい時間というのが伝わってくる。その中で、「囲まれて母」の部分で、母に焦点がぴったり合っている。とても綺麗な句だと思いました。
- 久保 智恵
特選句「暮れ残る屋島たね爺夏ですよ」たねをさんと屋島へ行った頃が今でも鮮明に‼特選句「うっせいわ いなおっている冷奴」珍しい句。いなおっている冷奴が素敵な表現‼」
- 山下 一夫
特選句「脚だけの手だけのロボット昭和の日(伏 兎)」小学校低学年のとき自動車組立工場の見学があった。先生から日本の産業ロボットは世界一と事前説明があり、人型ロボットがたくさんいるのを想像して楽しみにしていたところ、「脚だけの手だけのロボット」が正体でがっかりしたことを思い出す。人知を超えんとするAIなどなく、アナログな高度経済成長の空気に満たされていた。取り合わせが巧み。特選句「いかなご干す老婆問われただけ応え」。「問われただけ応え」は慎重かつ賢明な美質を称えているよう。それが伴ってこその日々の営みであろう。あるいは続けざる得ないことにより育まれてきた面もあるのかも知れない。想いは「老婆」の漁村におけるはるかな年月の積み重ねに向かい、イメージ喚起力強し。絶滅しかかっている瀬戸内の風景でもある。問題句「夕焼け電車ときどきバッタになる人と」切れがあるのかないのか、あるとしてそれはどこかが不明。造語的な「夕焼け電車」で切れるとして、赤々とした夕陽が差し込む電車に中七以下の人と乗っていることとする。なぜか隣の男性を見ている女性からの視点なのだが、光線の加減で顔が仮面ライダーのようになる、何かあるとキチキチという音を発しながら逃げ出す、草食系の憎めない奴でもあるなどと連想され、シュールかつ楽しい句のようにも思う。「一つある鱗にさわるときさくら」逆鱗のことであろう。「さくら」とのとぼけ方がいい。「どこまでが海市だったか海馬だったか」海つながり、あいまいつながり。老いの実感。
初めて参加させていただきます。若々しい活気に溢れた座と感じております。当方、山口市在住の六十歳。俳句の世界ではまだ十七歳とこじつけて勇気を奮っての参加です。どうかよろしくお願いいたします。→宜しくお願いします。
- 漆原 義典
特選句「春夕焼鬼籍の友の点呼取る」中七と上五、鬼籍の友と春夕焼がよく合っています。下五の点呼取るは、今は亡き友への惜別の念がよく出ていると思います。素晴らしい句をありがとうございます。
- 松本美智子
特選句「いかなご干す老婆問われただけ応え」いかなごを干している様子を見たことはありませんが,年取ったご婦人が静かな漁村で黙々と作業している様子が目に浮かびます。私の祖母は割と明るくおしゃべりな人でしたが,祖父は笠智衆さんにそっくりでほんとに無口な人でした。しかし、まじめ一筋で農作業に打ち込んでいました。その姿を思い出します。この句を詠んでそんな実直な祖父を思い出しました。
- 高木 水志
特選句「春の鬱かつかつ巻き込む牛の舌」新生活が始まって何となく暗い気持ちになることがある。牛の舌は今まで考えたことがなかったが、のんびりとした牛の舌が気儘に動いている様子がどこか春の鬱に似ていると思った。
- 森本由美子
特選句「鳥雲に身の透けるまで大樹抱く」自然界に存在する万物はそれぞれの気を有し、お互いに支えあっている。わら一本、蟻一匹といえども。樹は人間に対して寛大な気の源のひとつかもしれない。木肌に手を触れるだけでもどれだけの安らぎを感じることができるか、身の透けるまでとは最高の表現、大樹も作者のエネルギーを吸収して新しい気に還元しているに違いない。上五も自然界の現象のひとつとして句に溶け込んでいると思う。
- 石井 はな
特選句「春寒し靴が合わないような日々」コロナ以来靴 の合わないよう な日々と感じて います。春寒し が春なのに肌寒い心許無い気分と響きあっていると思います。
- 高橋 晴子
特選句「暮れ残る屋島たね爺夏ですよ」。「たね爺さ」を高橋たねを氏と読んで「屋島も夏ですよ」の呼びかけも最短定型人に対して胸に秘めた思いを詠み「いのち騒ぐよ」(註:「海程香川」発足十周年記念誌『青むまで』のたねをさんの頁のタイトル)の人にふさわしい言葉とリズムに敬畏を感じます。おめにかかったことはないが「いのち騒ぐよ」の句のリズム感がとても心に響きます。誰の句か楽しみ。
- 三好三香穂
特選句「三密の表面張力 花は葉に」表面張力がよく効いている。コロナ禍のジリジリした緊張感が、今にも弾けそうな様がよく表現できていると思います。花は葉に…は、すこし安易かも知れないが、季節がかわってしまった詠嘆があり、これはこれでいいと思います。特選句「黄砂降る洗面台に父の輪郭」今年の黄砂は、まるで火山灰が降ったかのように濃かったですね。車などは、茶色い斑模様になりました。それを、洗面台の父…と捕らえたところが面白いと思いました。
- 野﨑 憲子
特選句「藤の花揺らして遊ぶあの世かな(河野志保)」一読、中村苑子の「春の日やあの世この世と馬車を駆り」「翁かの桃の遊びをせむと言ふ」の世界が浮かんできた。阿部完市をして「苑子俳句に中ったら、あぶない、大変だと直感した。」と言わしめた作家である。掲句の調べも藤色の幽玄の世界に遊んでいる。問題句「うっせぇわ いなおっている冷奴」<うっせぇわ>は、今、巷に流行している言葉である。こう表現すると、冷奴が腕組みをし鎮座している姿が浮かんでくる。今夜は、木綿豆腐の冷奴が無性に食べたくなった。自由度200%の問題句。
袋回し句会
梅雨
- 梅雨入りや夏井いつきの乱れ髪
- 藤川 宏樹
- 雑草の森化してゆく梅雨空き家
- 中野 佑海
- 始原への水脈のありけり梅雨の月
- 野﨑 憲子
- 梅雨入りのカワズ思わざる旱かな
- 中村 セミ
- 目に見えぬ妖怪潜むついりかな
- 三好三香穂
- 底なしの黒い大きな壷梅入(ついり)
- 柴田 清子
- 少年は獏と対峙する空梅雨
- 三枝みずほ
ドクダミ(十薬)
- 十薬や酸いも甘いもスイッチオン
- 藤川 宏樹
- 十薬の花よ夜更けて雨の音
- 柴田 清子
- ドクダミや腓(こむら)返りし我鳥に
- 中野 佑海
- 十薬やうじ虫のいる耳の底
- 三枝みずほ
- どくだみの十字がにじむ白内障
- 佐藤 稚鬼
- 十薬や風に吹かれば火の声す
- 野﨑 憲子
少年
- 黄金虫少年夕日にとけてゆく
- 野﨑 憲子
- ひとつ置き待つ少年ら床屋夏
- 藤川 宏樹
- 少年のうしろ姿が時雨けり
- 佐藤 稚鬼
黄金虫
- ぶんぶんに寄ってこられただけのこと
- 柴田 清子
- 予報士の残したマスク黄金虫
- 藤川 宏樹
- なんたつて恋はリズムよ黄金虫
- 野﨑 憲子
- 赤ん坊の蹠にとまる黄金虫
- 野﨑 憲子
自由題
- 愛犬の土葬は白き水仙下
- 佐藤 稚鬼
- 補聴器の雑音もなく沈丁花
- 佐藤 稚鬼
- 言葉には言葉を衣更へにけり
- 柴田 清子
【句会メモ】
長引くコロナ禍の中、高松での5月句会は開催されました。<句会の窓>の作品集の一部分は作者の意向によりカットいたしております。今回も、お陰様で様々な魅力あふれる作品に出逢えました。6月の句会も開けたら幸いです。
Posted at 2021年5月30日 午後 02:40 by noriko in 今月の作品集 | 投稿されたコメント [0]