2021年6月30日 (水)

第118回「海程香川」句会(2021.06.19)

睡蓮.jpg

事前投句参加者の一句

種漬け花午後は阿波座(あわざ)で待ち合わせ 矢野千代子
無月なる皆既月食 多即一 鈴木 幸江
神様はとなりの木槿にいるらしい 伊藤  幸
蝶へむかって道が立ちあがる初夏 兵頭 薔薇
烏瓜の花のほどけて白き夜 小西 瞬夏
老人が点滅している緑の夜 伏   兎
蒼い夏のからだ包み合ううつぼ 桂  凜火
昭和の子じゃりんこチエや梅雨晴間 植松 まめ
紫陽花にまだ産道の湿りあり 月野ぽぽな
早苗田に銀河落ちゆく声甘し 竹本  仰
一言が明日を照らす沙羅双樹 野口思づゑ
六月の右脳の襞がへばりつく 松本美智子
夏ページ捲っても捲っても海 重松 敬子
姉晶子妻の名朋子薔薇の雨 新野 祐子
吊皮に中指つかむ西日かな 菅原 春み
病葉や昭和の写真薄茶色 漆原 義典
ジャズ愉しゼリーかたまりゆく時間 高橋美弥子
葉桜の中で鳩笛もらいけり 榎本 祐子
にんげんを剥がして緑雨の貌でいる 佐孝 石画
病窓の一畳濃淡の青葉 荒井まり子
時間だけ動いているよかたつむり 河野 志保
行く先を決めかねてゐる青蛙 亀山祐美子
兜太の骨ひろった人と梅雨に入る 男波 弘志
ワガママな完熟トマト更年期 中野 佑海
自粛禍の初夏の初球や百マイル 藤川 宏樹
野の駅に停まる青すすきを窓に 津田 将也
ワクチン予約迷走梁にまとわる蛇 大西 健司
ふきのたう惚けて午後の予定なし 谷  孝江
男なら泣くな、男じゃない? 冷奴 島田 章平
初夏の水の形の絵本開け 中村 セミ
畝高く父のじゃがたらいもの花 吉田亜紀子
「あなたにはわからない」吹く風青し 滝澤 泰斗
二回目のワクチン接種羽抜け鳥 山本 弥生
雨滂沱投句葉書のあばれ文字 松本 勇二
ゆすらうめつまむ老ありゆらり老ゆ 田口  浩
あなたと散歩ねむの花の波動の内外 すずき穂波
蛇苺汚名ものともせず生きよ 寺町志津子
梅雨晴間おのれの頭撫でる僧 増田 天志
過去は幻にあらず鬼灯市 石井 はな
田植え終えぶっとい蛇が怖くない 田中 怜子
語呂のいい安心安全浮いて来い 山下 一夫
籠いっぱいの青梅ちゅうぶらりんの平和 増田 暁子
白瀑の裏はのどかな雨やどり 飯土井志乃
蚕豆の莢のふわふわ家族って何 高木 水志
薔薇に雨わかった振りをしてしまう 柴田 清子
織姫は銀河の戦士ミルフィーユ 夏谷 胡桃
朝風やさし上げて振る夏帽子 稲   暁
おまえにも寿命があるんだ雀の子 銀   次
吾が毒をゆるゆる梳いて髪洗う 川崎千鶴子
春の昼うっかり落ちる瓶の底 三枝みずほ
思い出が押し寄せて来る夏帽子 藤田 乙女
梅雨深しはらぺこあおむしどこかにをる 高橋 晴子
青嵐吾子の生命線深し 佐藤 仁美
胎衣壺(えなつぼ)の出土流域青めたり 野田 信章
結晶と化すまで這うかなめくじら 森本由美子
兜太先生いまだ在して蝶二頭 稲葉 千尋
公園に老人を干す夏の雲 十河 宣洋
春風のためいき一草また一草 佐藤 稚鬼
のォのォと讃岐弁聞く麦の秋 野澤 隆夫
のっぺらぼうつくづくと死ぬ青蛙 豊原 清明
難しい話は苦手ミジンコ飼う 吉田 和恵
人は死ぬワクチン打つも変異株 田中アパート
麦秋や会うほど静かに歳重ね 若森 京子
土用波黙して堂々開聞岳 三好三香穂
夏芝へ放つふたりの単語帳 松岡 早苗
戦いは外にありけり玉子焼 小山やす子
咬み痕の癒えざる指にやまかがし 河田 清峰
とりるりる夏うぐいすや風わたる 福井 明子
ほうほたる会津の姫のぽつと笑む 野﨑 憲子

句会の窓

若森 京子

特選句「男なら泣くな、男じゃない?冷奴」この散文詩のような一行に男の悲哀がいっぱい。「冷奴」の季語が効いている。特選句「胎衣壺(えなつぼ)の出土流域青めたり」人類のルーツの壺が出土し、その流域が青めいているとの風景は、この混沌とした現在の生活の中でふと原点に戻り見つめ直す瞬間かも知れない。

松本 勇二

特選句「神様はとなりの木槿にいるらしい」木槿の花が咲くとその一樹全体が神々しく見えるときがある。それを上手く掬った。口語調で書き軽やかな神様俳句になった。

小西 瞬夏

特選句「時間だけ動いているよかたつむり」。「草一本だけ生えている時間(富沢赤黄男)」を思い出しました。身近なかたつむりを存在が、時間と空間のありようを素朴に、且つ哲学的に表現してしまったところがおもしろい。香川句会のみなさまとお会いできる日を楽しみにしております。

増田 天志

特選句「にんげんを剥がして緑雨の貌でいる」緑雨の貌が、とっても、哀しい。人間関係に疲れ、ひとり自室で、ペルソナを剥ぐ。ほっと、ひと息。でも、私には、貌が、表情が、無い。のっぺらぼうの白幕に、ただ、緑雨が、流れゆくばかり。

津田 将也

特選句「若葉風仔牛の耳にバーコード(増田暁子)」。耳標(じひょう)のバーコードは、個体識別番号である。十桁の番号により生まれてから死に至るまで、この牛の一生が他の牛と区別され厳しく管理される。そして、私たちの食の安全が守られている。「若葉風」が、爽やか。特選句「胎衣壺の出土流域青めたり」。胎衣壺(えなつぼ)は、胞衣壺とも書く。胎衣(えな)とは産後の胎盤のこと。壺や杯などの土器にこれを収め、地中に埋めた。縄文時代中期頃から、胎盤は子供の分身と考えられており、大切に扱う風習が生まれた。「流域青めたり」の措辞が効果的で、私好みの一句となっている。

月野ぽぽな

特選句「夏ページ捲っても捲っても海」夏の海への思い、こうやって表現できるんですね。もう何が何でも絶対に夏は海なんでしょう。「夏ページ」と詩的な具象を得たことで、思いの強さが「捲っても捲っても」にて伝わり、それと同時に「海」の映像が広々と伝わってきました。「わたしは一冊の本、夏ページはどこをめくっても海ですよ」

島田 章平

特選句「とりるりる夏うぐいすや風わたる」。「とりるりる」の聞き倣しが美しい。

寺町志津子

特選句「思い出が押し寄せて来る夏帽子」作者は最愛の方を亡くされた方ではないでしょうか?最愛の方が生前、夏にはいつも被っておられ、今では形見となってしまった帽子。「思い出が押し寄せて来る」に、最愛の方のご存命中の笑顔、共にした事柄が次から次へと波のように押し寄せて、一層思慕の念を募らせておられる作者の故人への哀惜の念が切々と伝わってきました。特選句「行間を蜥蜴するりと乱歩かな(伏兎)」お見事です。かつて、江戸川乱歩の小説を句にする試みをしたことがあり、偶然にも、揚句と同じ「蜥蜴」をイメージしましたが、恥ずかしながら出来ませんでした。お陰さまでスッキリしました。

鈴木 幸江

特選句「ソーダ水思い込みです女です(藤川宏樹)」私はこの句から自分は女なのだと思い込んでいる人の姿をイメージした。“ソーダ水”の措辞にその時代の既成概念に流されそうなジェンダー問題への批判精神を見る。且つ、身体が女性であることに不可知な面があることまで伝わってくる。暗示力の強い句。

中野 佑海

特選句「男なら泣くな、男じゃない?冷奴」なら、しょうがないよね。そんな奴は食ってしまおう。けど腹の足しにも成らない。そんな奴は心柔らかくして出直して来い。特選句「春の昼うっかり落ちる瓶の底」そうなんです。昼寝をしていると何処かに落ちて行きそうで、足がパタパタ空を掻きます。あれは、甘い蜜の入った瓶だったのですね。いけませんよ、美味しいものを独り占めしては!並選句「種付け花午後は阿波座で待ち合わせ」良いですね!普段着から着物に着替え、昼からは難波で歌舞伎、吉本、高島屋。早く来い。「ジェラシーは妄想を生む蛍籠」嫉妬中は何でも悪い方に持っていけます。蛍籠のぽっぽつと、青白く光るのが、また、妄想を駆り立てます。うわー暗っ!「神様はとなりの木槿にいるらしい」そうなんですね。一度お会いしたいものです。「内向きの巡礼に出る合歓の花(山下一夫)」そんなに真剣にならないで、るろうに剣心には成らなくて良いよ。「ジャズ愉しゼリーかたまりゆく時間」ジャズを弾きながら先程作ったゼリーの出来上がりを待つなんて、最高のシチュエーション。「人間を剥がして緑雨の貌でいる」そんなに反省しないで。少しだけ雨を楽しんだら、戻っておいで。「織姫は銀河の戦士ミルフィーユ」ミルフィーユの様に幾つもの重なった次元の中に住まえる織姫。どうか銀河の平和のために皆を貴方の美味しさで包んでおくれ。「ソーダ水思い込みです女です」ソーダ水って少し経つとただの水。女も、思い込み一つで、女らしく見えたり男になったり。貴方はどちら?

佐孝 石画

特選句「時間だけ動いているよかたつむり」キラキラと光る筋。蝸牛が動いた跡が見えてくる。「時間だけ」動いていた、生きていた跡。この単純な発見は、自身(にんげん)と照らし合わせてみると、ささやかな驚きをもたらす。「にんげん」にそもそも動いた痕跡など残らず、それはいかに複雑で無駄な動き(思考も含めて)なのかと。悩み、悶え、日々を暮らす「にんげん」の軌跡に対し、この「かたつむり」のシンプルで美しい痕跡はなんだと。前に歩むだけの「かたつむり」に対する作者の刹那的憧憬が、「動いているよ」という溜息めいた呟きに重ねられていく。

田中 怜子

特選句「ほうほたる会津の姫のぽつと笑む」は田中雅秀さんへの追悼句でしょうか? 会津という地にホタルのようなつつましい灯が、なんともいえず素朴な優しさでお見送りしている感じがします。特選句「とりるりる夏うぐいすや風わたる」林にこだまする鶯の声が風にのってすがすがしい。擬音語が本当に鶯の声のようだ。

 
藤川 宏樹

特選句「時間だけ動いているよかたつむり」梅雨時のしっとりとした時間の動きを、不動の「かたつむり」をとおして実感できるようです。ほぐれてゆったりした気分になれました。

谷  孝江

特選句「ジャズ愉しゼリーかたまりゆく時間」とても素敵な時間です。そう言えば大分昔、プリン手作りしたことがあったっけ。二度、三度と指で突っついてプリンがかたまってゆくのを、たしかめたものです。ジャズを聞きながら、体中でたのしさを味わっていらっしゃるのですね。羨ましい時間です。「完璧はもはや罪です梅雨の蝶」も身に沁みます。どの句を特選、なんて私は罪です。どの句も佳句と思いながら選をさせてもらっています。来月もよろしく。

佐藤 仁美

特選句「とりるりる夏うぐいすや風わたる」。「とりるりる」がいいですね!春とは違う鳴き方で、夏を迎えている鶯の爽やかさが伝わってきました。特選句「行く先を決めかねてゐる青蛙」蛙が動かないでいるのを「行く先を決めかねている」という感じ方が素敵です。どの方向に行こうかと、迷っている青蛙。自分と重なります。

福井 明子

特選句「にんげんを剥がして緑雨の貌でいる」。「にんげん」を剥がし、なされるまま緑雨に立つ、本来あるべき回帰。切ないほどの回帰。特選句「春風のためいき一草また一草」 人のなりわい、自然のなりわい、この世界とは? いったい何処へ向かうのだろう。きりはてのない「問い」のなかで、まさぐるしかない摂理のイメージ。

矢野千代子

特選句「田植え終えぷっとい蛇が怖くない」。「ぷっとい」一語のとりこになっています。いつもお世話になり感謝、感謝です。一度お目にかかる機会があればと希っていますが、今は、まず無理でしょうね。御身大切にね。

滝澤 泰斗

特選句「ゆすらうめつまむ老ありゆらり老ゆ」俳句を嗜むが植物が遠い。今回もゆすらうめを学んだ。漢字で書くと山桜桃だという。ますます興味が湧いて様々に調べ、マイクロソフトビイングで写真を沢山みた。その上で句の鑑賞。ゆすら梅の可憐な赤い実をつまんでいる様の時間的な経過を老で表し、ゆすらとゆらりの調子にゆったりとした時間が流れて・・・魅了された。特選句「思い出が押し寄せて来る夏帽子」濃厚な思い出の品を一つ挙げよと言われれば、やはり、夏の帽子はベストスリーに入るのではないかと思う程定番中の定番だが、私もご多聞に漏れず。しかもそれは、父母と兄弟姉妹との小学校時代までの濃密な思い出に集約される。まさに押し寄せてくるとともに、寺山修司の「わが夏帽どこまでも転べども故郷」への連想につながった。「自粛禍の初夏の初球や百マイル」子規が泣いて喜びそうな一句。時速百マイル(時速160㎞)で一足飛びにアメリカ大リーグの、それも、大谷翔平に思いは飛ぶ。大谷は、いまや日本人のみならずアメリカ人や世界の野球ファンを魅了している。世界的なコロナ禍の中で、政治に全く期待を寄せられない世相の中、実に見事に鮮やかに、感動的に切り取った。うまい。「ワクチン予約迷走梁にまとわる蛇」普通の読みとしては、ワクチン接種の予約の混乱と行方不明のニシキヘビ騒動の対比と捉えるのだろうが、医薬のシンボルのアスクレピオンの杖にまとわりつく蛇までを連想させてくれた点が気に入った。「ラフマニノフかけてアジサイ着飾る家」何かとってもおしゃれで、粋で好感が持てました。気分の良い一句としていただきました。「日雷泰然自若兜太像(島田章平)」先生は何があってもこの句のような人だった。初めて、朝日俳壇の選をされている場所で金子先生を紹介されて以来、お亡くなりになるまで先生の態度というか生き様は一貫していた。「行間を蜥蜴するりと乱歩かな」江戸川乱歩の息子で心理学者の平井隆太郎先生の授業を聞く機会があり、それが切っ掛けで乱歩のミステリーを数冊読んだ。その中の一冊「黒蜥蜴」を思い出させてくれた一句。乱歩のミステリー感をうまく読んだ。

稲葉 千尋

特選句「梅雨晴間おのれの頭撫でる僧」僧の頭を撫でる姿が想像できて村の僧を思う。楽しい句。

伏   兎

特選句「籠いっぱいの青梅ちゅうぶらりんの平和」庭の梅を摘み、砂糖に漬けてシロップにするのが、私の梅仕事。むっちりとしたやや肌色の青梅を洗っていると、ひとときコロナ禍のことや、ミャンマーの悲劇が他人事のように思えてくる。そんな気持ちがこの句に込められ、惹かれた。特選句「公園に老人を干す夏の雲」家の中ばかりに居て、黴てしまいそうな身体を、まぶしい夏空の下で虫干しているのかも。飄々とした自虐風表現が、印象的。入選句「梅雨滂沱投句葉書のあばれ文字」葉書をはみだすほど強い癖の字と、激しい句調なのだろう。「梅雨滂沱」のことばが光を放っている。「白躑躅四時には四時の白になる」午後四時といえば疲労感の漂う頃。元気を失いつつ咲いている躑躅が人間のようで、面白い。

豊原 清明

特選句「兜太の骨ひろった人と梅雨に入る」本誌の「兜太祭」を読んでから、句に先生を登場させて、呼ぶように句作するのは良いことと思われた。この句には梅雨の杞憂を感じる。問題句「ワクチン予約迷走梁にまとわる蛇」ワクチンはなかなか下の世代に回ってこないのか。この句は現状への批判句と思う。

川崎千鶴子

特選句「ジェラシーは妄想を生む蛍籠(増田天志)」ジェラシーは多岐にわたって起こります。男女の情ばかりでは無く、社会的な物からも生まれます。ぽっぽっと心が動くのです。「蛍籠」が素晴らしいです。「涼風の胸を舳先としてすすむ」涼風へ気持ちよく体全体を晒して歩くのを「胸」と言う一点に限定した素晴らしさとそれを「舳先としてすすむ」が涼風感を一層引き立たせています。感嘆です。「夏芝へ放つふたりの単語帳」瑞々しい句です。二人だけの愛の単語帳を夏芝の上で交換している状況が見え、羨ましいです。

野澤 隆夫

特選句一句目『「あなたにはわからない」吹く風青し』絶叫したあとの爽やかさ!絶妙なバランスがいいです。二句目「とりるりる夏うぐいすや風わたる」何とも爽やかな句です。とりるりるのハミングが良い響きです。

夏谷 胡桃

特選句「行間を蜥蜴するりと乱歩かな」否応なく『黒蜥蜴』が思い出されて、また読みたくなってAmazonでダウンロードしてしまいました。「するりと」がエロチックでいいのかも。

大西 健司

特選句「織姫は銀河の戦士ミルフィーユ」いまや織姫もゲームのキャラクターとして存在しているのだろう。私はそう捉えた。

小山やす子

特選句「胎衣壺の出土流域青めたり」胎衣壺と言う言葉を初めて知りました。表現も言葉も新鮮に響きました。

伊藤  幸

特選句「梅雨滂沱投句葉書のあばれ文字」自粛自粛と全てがままならぬ毎日、せめ文字だけでも暴れてみたいという心境が伝わって来るようだ。特選句「吾が毒をゆるゆる梳いて髪洗う」人間の中にはあらゆる毒が潜んでいる。作者はその毒を愛おしむかのように梳いているのだ。そうしてそのほんの一部分を洗い流す。中語ゆるゆる梳いての措辞が絶妙。

男波 弘志

「 早苗田に銀河落ちゆく声甘し」甘し、で銀河の総体を現している。母性の銀河だろう。「吊革に中指つかむ西日かな」中指が不思議なエロスを現している。どこも疲れていない西日中。「田植え終えぶっとい蛇がこわくない」自然を畏れているからこそ、蛇がこわくないのだ。田んぼの水は蛇が漣をたてるためにあるのだろう。

増田 暁子

特選句「蚕豆の莢のふわふわ家族って何」蚕豆の莢の中は家族のよう、でも家族とは、作者と読み手の疑問。特選句「吾が毒をゆるゆる梳いて髪洗う」全体に昭和のムードが漂い色香もありますね。大好きです。「早苗田に銀河落ちゆく声甘し」情景がよく見えます。声甘しが良いですね。「夏ページ捲っても捲っても海」海の様子が中7の繰り返しでよく判ります。「海市かな溺れる自分見つめてる」自分の内面を俯瞰して見ているのが上手いですね。「緑陰は海の青さに呼応する」海と緑陰が呼応していると見つけた作者の感性が素晴らしいです。「ふきのたう惚けて午後の予定なし」午後の予定なし、が状況を理解できて面白いです。「過去は幻にあらず鬼灯市」中7の言葉に同感です。過去は現実と呼応しています。「古書街の灯りて宵宮匂うなり」句全体に漂う灯りは懐かしく、匂いも漂います。「戦いは外にありけり玉子焼」本当は戦いは外ではなく内にあると、作者は考えているのでしょう。

飯土井志乃

特選句「にんげんを剥がして緑雨の貌でいる」隣人にそ知らぬ顔で居られたら怖いなぁ。自分がそうなら、ちょっと楽かも?ただ命尽きる時、究極の後悔と孤独が待っている気がするのです。

竹本  仰

特選句「蒼い夏のからだ包み合ううつぼ」うつぼを取り上げ、なおかつ「包み合う」と、その不気味さを自身と重ね合わせていることに面白さを感じました。しかも、「蒼い夏のからだ」と、肉体をテーマとして正面でとらえようとしていることに共感しました。兜太師も〈冬眠の蝮のほかは寝息なし〉自身で感じた生命の不気味さと神秘を表していたように。しかし、「包み合う」というのはあくまでその内に秘めた獰猛を抑えかね、なおそれと闘って一生を明け暮れるという宿命がついているようで、そのあたりの悲しみもまた感じさせられますね。特選句「初夏の水の形の絵本開け」水の形は無いんだろうけれど、方円の器にしたがうともいい、受け入れるウツワによってどんなにも形を変えられる変幻自在のものでしょう。そういう変幻自在のいのちのありかを確かめるために、私たちは過去、もっとも感性するどき時代に絵本を開いたわけで、実は絵本を開けること自体が、自分といういのちのウツワとの闘いであったのでしょう。という見方をしたのですが、いま一つは、これから新たな絵本との出会いを求める、そんな命を感じる期待感という未来形でも読めます。この辺の自在さを大いに感じました。特選句「夏芝に放つふたりの単語帳」単語帳といいますが、あの輪っかで束ねた単語カードの集積のことでしょうね。あのどこにでも売っている市販のものでも全部満たすにはほんとに時間がかかります。ここではお互いにテストし合おうという目的で必死に書きなぐったものではないでしょうか。これでもか、これでもかと、芝生の上でバトルしているんでしょう。何というか、青春の無償性というのをくすぐるものがあります。或る演劇家の先生が、学生たちに演劇を教えるとき口ぐせで、若さはバカさだ(だから、何でもやってみろ)、というらしいのですが、まさにそれだなと。そして、この二人のやり取りの真意はひそかで真剣な友情であろうかと思い、なおさらくすぐられてしまうところがあります。

みなさん、いつも、ありがとうございます。新鮮な多くの句にめぐりあえ、これを幸せと言わずして…と思いました。本当に贅沢してる、バチがあたるなあと思います。 

柴田 清子

特選句「葉桜の中で鳩笛もらいけり」読み終わった瞬間、爽やかな鳩笛が聞こえて来ます。それは、葉桜に包みこまれている爽やかな自然体の作者がいるから。特選句「男なら泣くな、男じゃない? 冷奴」六月の一三七句の中で、一番勢いのある申し分のない凄い切れのある句ですね! 

吉田 和恵

特選句「涼風の胸を舳先としてすすむ(月野ぽぽな)」シャープな感覚に好感を持ちました。問題句「烏瓜の花のほどけて白き夜」ちょっと危い感じしますが白い夜のイメージがもう一つ浮びません。

銀   次

今月の誤読●「吾が毒をゆるゆる梳いて髪洗う」。節子は髪を梳いている。彼女の髪は硬くて量も多い。だから櫛の通りがいまいち悪く、ときどき引っかかる。そのたびに節子は小さな苛立ちを感じる。いっそ短髪にしようかと思うが、結婚前いまの夫が「夫婦になっても髪を切らないで」と言ったので、長いままにしている。無邪気な約束事だが、いまの節子にそのときのような夫への愛はない。そんなものはとうの昔に色あせた。夫も同様、会社の女子社員と浮気しているのを隠そうともしない。嫉妬。まあね。あるにはあるが、それは夫と小娘との関係に対するものではなく、相手の若さへの妬みだ。憎しみ、痛み、自分に対する哀れみ。髪を洗う時間は退屈だ。その退屈のスキをぬっていろんな感情が行ったり来たりする。この髪さえ切れたら、どんなにせいせいすることか。だがその決意をした先には多くのしがらみが待っているだろう。それを思うと躊躇がある。節子は洗面台を離れ、冷蔵庫のドアを開けた。紙パックのオレンジジュースを取り出し、そのままグイと飲んだ。饐えたような味がした。おえっ。

桂  凜火

特選句「ジャズ愉しゼリーかたまりゆく時間」季語としてのゼリーが新鮮です。またゼリーの質感とジャズ愉しはほどよくマッチしていてオシャレですね。特選句「にんげんを剥がして緑雨の貌でいる」ぎょっとさせるところがうまい。緑雨の貌もあまり具体的でなく、でも質感はつたわるのでいいなと思います。

すずき穂波

特選句「老人が点滅している緑の夜」唐突ですが、ロシアのゴルバチョフ氏、現在90歳が語るNHKの番組を観た直後に、この句を特選と決めました。老いゆく詩人の心の呟き、緑夜に人知れず ぽっぽっ ぽっぽっと点滅している。誰しも、生きて来たということはそれだけで偉大で、そしてとっても詩的(生命体自身が詩?)なんだってことに気がつきました。気がついたから「点滅」しているのでしょう。本物の声が聴こえてくる句でした。

河田 清峰

特選句「長虫の屍朝日の届きをり(亀山祐美子)」蛇と言わず長虫というやさしい言葉が屍に伝わってくるようである。そのうえ届く朝日がいいと思う。

森本由美子

特選句「ゆすらうめつまむ老ありゆらり老ゆ」老いゆくことへのしっとりとした情感がゆるやかなメロデイのように奏でられている。

植松 まめ

特選句「無月なる皆既月食 多即一」「一言が明日を照らす沙羅双樹」難しい解釈はできませんが今月も好きな句を選びました。

田口  浩

特選句「紫陽花にまだ産道の湿りあり」あじさいは、たっぷり水を貯えた植物である。その紫陽花の前に立ったとき、身の内に湿りがあることを感じる艶は喜ばしい。句は「紫陽花に」で切って「産道の湿りあり」と自身の身を前面に押し出す読みだが、一句はまぎれもなく女人の世界を愉しんでいよう。「老人が点滅している緑の夜」私くらいの年齢で、揚句のような作品に出会うとうれしくてたまらない。「緑の夜」に自分の好きな色で点滅する。何と優雅な時間だろう。銀河と交信してもよい、そして最後は線香花火のように消える。「緑の夜」が決まっている。「古書街の灯りて宵宮匂うなり」。「古書街」「宵宮」がいい。「匂うなり」はいいすぎかも知れないが、私の昭和にはなくてはならない匂いです。じーんとします。「吾が毒をゆるゆる梳いて髪洗う」。「ゆるゆる梳いて」には作者の内面に迷いのようなものがある。「ゆとり」でも「さばさば」とも違う。毒を梳き落すのに「考え考え」と言うところがある。毒のおいしいところを「ゆるゆる」梳き流すには相当な決心もいることだろう。この作品、「紫陽花に」の句と、どちらを特選にしようかと迷った俳句でした。「中指はながいゆびです月蝕よ」長い中指の使い途も、考えて見ればいろいろある。詩や童謡なもある。で俳人はどう使う。中指の先に月蝕を乗せてクルクル廻して得意がるのもいいし、中指で月蝕を突くのも、俳句仙人の時間潰しにはなるだろう。

三枝みずほ

特選句「田植え終えぶっとい蛇が怖くない」田の中に手足が吸い込まれるような感覚、自身が田と一体化したとき、蛇という生き物をそう意識することもなくなるだろう。「蚕豆の莢のふわふわ家族って何」莢のふわふわは無条件に家族に守られていたときのことを思い出す。今はどうか。家族への葛藤が見える。

高木 水志

特選句「にんげんを剥がして緑雨の貌でいる」緑の季節に降る雨のように、どこか明るく、命の喜びを感じる。貌の漢字を選んだことで、生き物としての自分に戻っている作者の姿が見える。

新野 祐子

特選句「ほうほたる会津の姫のぽつと笑む」。「海原」六月号の訃報欄に田中雅秀さんのお名前がありました。初めて参加した2017年の全国大会時に一瞬お見かけしただけで私は全く存じあげませんが、まだまだお若く痛ましいことです。この句は田中さんへの追悼句ではないでしょうか。作者のやさしい心が伝わってきました。

荒井まり子

特選句「畝高く父のじゃがたらいもの花」お父様に対する感謝の深い思い。じゃがたらいもがいい。

十河 宣洋

特選句「夏ページ捲っても捲っても海」山で生れ山で育った私には夏の海辺の生活が羨ましく思う。捲っても捲ってもに広々とした海を感じる。特選句「涼風の胸を舳先としてすすむ」涼しい風が心地よく全身を包んでいるのを上手く表現した。颯爽と歩いている人が見える。

榎本 祐子

特選句「のっぺらぼうつくづくと死ぬ青蛙」死を相対的に捉えていて、その距離感が良い。「のっぺらぼう」、「つくづくと」も、その視点として的確だと思う。

山本 弥生

特選句「ふきのたう惚けて午後の予定なし」ふきのたうの地上に出た香りも良しお味噌汁に入れて味わう良き時期に誰も採らず惚けてしまった。自分も長いコロナ自粛で少し惚けたような日常生活に今日もカレンダーには午後に何の予定も記されていない。少し寂しい気持がよく出ている。

漆原 義典

特選句「田植え終えぶっとい蛇が怖くない」讃岐平野も田植えがほぼ終わり、若苗が植えられた田んぼが元気を与えてくれています。ぷっとい蛇が怖くないの表現が面白いです。楽しい句をありがとうございました。

野口思づゑ

特選句「ゆすらうめつまむ老ありゆらり老ゆ」。「老」の漢字以外はひらがなで、「ゆ」の字が効果的に使われゆったりと老いてゆくその方は美しく老いを迎えているに違いありません。見た目にも、耳にも優しい句です。特選句「蚕豆の莢のふわふわ家族って何」蚕豆の莢は、中の豆を守るためあんなにふわふわなしているのか。家族を守っている自分を蚕豆の莢に重ねているとも受け取ることができ、面白い句だと感じました。

松岡 早苗

特選句「にんげんを剥がして緑雨の貌でいる」インパクトのある言葉に一瞬で引きつけられました。現代のわずらわしい日常から逃れて、みずみずしい緑雨に打たれてみたい。文明を手にする前のヒトという生き物にかえって、緑雨の中をどこまでもどこまでも、ずぶ濡れで歩いてみたい。特選句「蚕豆の莢のふわふわ家族って何」下五への急展開が魅力的。親離れを始めた思春期の子どもたちの姿を想起させられました。蚕豆の莢の中のふわふわのクッションに並んだかわいい豆たち。いつものように蚕豆を剥いていると、中二の子どもが、突然「家族って何」??ちょっと待ってよ。何かあったの?悩みでもあるの?不意打ちの問いに面食らう。そしてはっとする。そうかあなたはもう大人への一歩を踏み出そうとしているのね。しんどいこともあるだろうけど、おめでとう。「ほんと、家族って何だろうねぇ」

河野 志保

特選句「紫陽花にまだ産道の湿りあり」産道というどこか神秘的な場所と紫陽花の謎めいた美しさが響き合う。発想がとても新鮮で不思議な魅力の句。

佐藤 稚鬼

特選句「麦秋や会うほど静かに歳重ね」。「麦秋」を穀物の熟す時期ととらえ、言葉数が少ないことが晩年の人生の風格を感じます。

山下 一夫

特選句「早苗田に銀河落ちゆく声甘し」歴史的に日本人に身近な「田」だが、昨今では自然豊かな土地や大自然という含みがより強くなっているか。それを背景に中七の斡旋が嵌っている。大きくかつロマンチックな情景に下五が呼応して見事にまとまっている。甘い声の主は、情景を共に目にしている恋人(女性)など具体的人物でもよいが、地上と天上の相聞という感じでもある。特選句「ジャズ愉しゼリーかたまりゆく時間」ジャズが愉しいというのは奏者もあり得るが大方は聴く立場であろう。好んで聞く方ではないが、ジャズ喫茶店の薄暗がりや夜更けとかのくつろぎの刻を連想する。その中で次第に心がほどけてじんわりと湧いてくる悦びが中七以下の比喩かと思われ巧み。問題句「難しい話は苦手ミジンコ飼う」。「ミジンコ」は水中でそれなりに活発に動き回る生物(何と微小な甲殻類であるらしい。)であることから何となく春や夏の季語か思ってしまうが季語ではないようである。ただし相応のインパクトはある。ネット検索では「ミジンコ 飼育」が推奨キーワードで出てくるが、大方はメダカの餌としての増殖が目的である。しかしジャズ奏者の坂田明のように真面目に飼育する人もいる。その題の演奏を視聴したことがある。その関係の著書もある。サックスも文章もものすごい拘りで雄弁で句とは逆である。一句はそのような連想喚起力が強く、楽しませていただいた。「ワガママな完熟トマト更年期」女性の更年期のことは傍目にしか知らないがそういう実感なのかと思わされる。しかしどういう実感なのであろうか。「男なら泣くな、男じゃない? 冷奴」冷奴のとぼけが効いているがLGBT絡みとすれば危ないか。「蝶へむかって道が立ち上がる初夏」表記に工夫の余地があるだろうがイメージが魅力的。

田中アパート

特選句「姉晶子妻の名朋子薔薇の雨」名前だけで俳句ができるなんて!特選句「畝高く父のじゃがたらいもの花」なんといい気分にさせてくれる俳句は人でしょう。

藤田 乙女

特選句「蝶へむかって道が立ちあがる初夏」。「蝶へむかって道が立ち上がる」という表現に圧倒されました。初夏の自然の存在感と命の鼓動が伝わってくるようです。特選句「夏芝へ放つふたりの単語帳」若い二人の爽やかな会話まで聞こえてくるようです。青春の頃はやっぱりいいですね。

野田 信章

特選句「籠いっぱいの青梅ちゅうぶらりんの平和」は季節の区切目をなす青梅の収穫の充実感が支えとなっている一句として読んだ。この確かさが「ちゅうぶらりんの平和」かと身辺を世相をと見廻す他ないこの現実感との対峙をも可能にしてくれるところがある。硬直しやすい主題を柔らかに伝えてくれるのは定型感覚のある口語発想であろう。手法的には二物配合による暗示の手応えが身内にじわじわと作用してくる。従前の直截的な社会性俳句の域を越えて展開する余地もこのあたりに在ると示唆してくれるものがある。

菅原 春み

特選句「神様はとなりの木槿にいるらしい」鮮度のいい面白い句。となりの木槿が眼目か。特選句「初夏の水の形の絵本開け」水の形の絵本は初夏にふさわしく、思わず開けたくなる。季語ともつきすぎくらいに合うが、それ以上にみずみずしい。

稲   暁

特選句「ジャズ愉しゼリーかたまりゆく時間」ジャズとゼリー、照応しているようなしていないような。危うい楽しさを持つ作品。問題句「思い出が押し寄せて来る夏帽子」明快で抒情性豊かな作品だが、少し甘すぎるような気もする。私がひねくれているのかも知れない。

兵頭 薔薇

特選句「老人が点滅している緑の夜」深夜3時頃、私はよく近くのポストまであるきます。横断歩道の信号が、ある夜は赤、ある夜は青が点滅していたりして…。この句の中の老人はわたしかな…不思議な感覚に統べられます…点滅しているのは私でしたか…。ダブルイメージで危機感も迫ります。 

 躊躇いながら生まれて初めて投句とやらさせていただきます。土佐は窪川町(現四万十町) 生まれ。学ばせていただきたくどうぞ宜しくお願いいたします。→ こちらこそ、どうぞよろしくお願い申し上げます。

高橋美弥子

特選句「とりるりる夏うぐいすや風渡る」とりるりるのオノマトペが楽しい。下五風渡るで景がよく見える句になった。問題句「公園に老人を干す夏の雲」中七が衝撃的。季語の選択を変えると面白い句になりそう。

亀山祐美子

特選句「白躑躅四時には四時の白になる」。「四時」という時間設定と「白躑躅」「四時の白」の繰り返しに穏やかな風景しか見えないはずがそこはかとない恐さを孕み不気味です。『白=清楚・清純=死』『四時=空白=虚しさ=死』コロナ禍の不安感が「白」と「四時」に凝縮されているようでとても息苦しく恐ろしい俳句だと思いました。皆様の句評楽しみにいたしております。

高橋 晴子

特選句「うすれゆく虹よ空海きつとくる(野﨑憲子)」我々の時代にあらわれたこの疫病。本当に誰も思いがけなかっただろうが改めて歴史の中にいる人達は、どうやってのり越えてきたのだろうか、東大寺の大仏をはじめこのコロナ禍にも何か新しい生き方、文明を期待しつつ、満濃池修復の時、お経をあげ続けた空海を思い、この時代にも空海はきっと祈り続けてくれるだろう。うすれゆく虹に、期待と祈りを感じる。

中村 セミ

特選句「六月の右脳の襞がへばりつく」六月の初夏の暑さと共に体中が湿度(汗)を持ちへばりつくようになる。と共に右脳の襞も(が)へばりつくくらい暑さ、コロナ禍のストレス、あらゆるもの(思考)がどこかへばりついたまま止ったかのようだ、と読んだ。

松本美智子

特選句「老人が点滅している緑の夜」どんな意味なのか・・・考えれば考えるほど不思議な句です。緑生い茂る夜に蛍のように点滅しているのでしょうか・・・・毎回,あまりこんな俳句は選ばないのですが・・・今月はどうしてもこの句が気になって選ばせていただきました。

石井 はな

特選句「神様はとなりの木槿にいるらしい」そんな身近に神様はいらしたんですね。ずっと遠い存在だと思っていたけど、何だか嬉しい話です。

三好三香穂

「烏瓜の花のほどけて白き夜」レース編みのような美しい花の様子がよくわかる。「ワガママな完熟トマト更年期」そのまま、かつての私のようです。「公園に老人を干す夏の雲」老人を干す…という表現が面白い。「のォのォと讃岐弁聞く麦の秋」讃岐人として共感できる、讃岐の風景です。

野﨑 憲子

特選句「種漬け花午後は阿波座(あわざ)で待ち合わせ」阿波座と言う地名に魅かれる。農作業をしているのだろうか、昼からは大阪に出かける心躍り、何気ない日常を見事に表現している。特選句「蝶へむかって道が立ちあがる初夏」破調であるが十七音。敢えて口語で表現している。着地の<初夏>が眩しいほどに決まっている。  

自句自解「ほうほたる会津の姫のぽつと笑む」昨年末、「海原」の仲間である田中雅秀さんから句集『再来年の約束』を頂いた。帯の表に「ほうほたる弱い私を覚えてて」の句。裏には、雅秀さんの写真があった。最近、彼女が十年来の宿痾で四月二十八日に他界されたことを知った。雅秀さんは会津で高校の先生をしながらご実家のホテルを手伝っていた。吟行の折に二度ホテルでお世話になった。おもてなしもお食事も素晴らしく、三度目の訪問を願っていた。笑顔がとても可愛くて、どこか高貴な雰囲気があった雅秀さんへの追悼の一句。享年五十七歳。雅秀さんの句集『再来年の約束』自選十句を紹介させて頂きます。

桐の花本音はいつまでも言えず

タイミングが合わない回転ドアと夏

夏野かな何もしないという理想

ファルセットここからはもう雪の域

乗り継いでナウマン象に会う春野

初蝶にもうなっている遺稿かな

海亀は岸に寄りけり赤児泣く

麦の秋青いザリガニ胸に飼い

紅葉かつ散る乾電池切れるまで

白鳥の声する真夜のココアかな

    合掌

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

煙突の町ゆらゆらと蟻の列
三枝みずほ
蟻のごと働いて働いて一つの死
三好三香穂
十あまり七の野風や蟻の道
野﨑 憲子
聖火
東京に無煙の聖火ねじり花
藤川 宏樹
とくとくの清水しづかに聖火かな
野﨑 憲子
まっさらなコンクリートをゆく聖火
銀   次
バナナ
黒斑の多きバナナや晩夏光
三好三香穂
だいすきなバナナと玉子昭和みな
藤川 宏樹
夏至
夏至の月ウエブサイトに魚眠る
野﨑 憲子
夏至の日の白き鯨を追いかける
三枝みずほ
選手権と違うや夏至の接種券
藤川 宏樹
自由題
梅雨晴れ間ヨットの帆数二十四なり
三好三香穂
夕立の中に今でも十九の娘
野﨑 憲子
あえて苦い水飲む螢いて
銀   次
夏の夜のコンビニ兎・猿・蛙
三枝みずほ

【通信欄】&【句会メモ】

長引くコロナ禍の中、今月も生の句会が開けて幸いでした。事前投句にも新たな参加者があり、ますます句座が多様性を増し面白くなってまいりました。ご参加各位のお陰様です。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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