2024年1月25日 (木)

第146回「海程香川」句会(2024.01.13)

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事前投句参加者の一句

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
深紅のドレス聖夜のアリア美(は)しき息 時田 幻椏
見慣れぬ漢寒灯の門叩く 樽谷 宗寛
青・色・信・号・点・滅・冬夕焼 藤川 宏樹
書き出しは船出のように初日記 津田 将也
空耳や絵本へ還る冬の蝶 大西 健司
冬眠の薄目喪中の寒オリオン すずき穂波
初春やぱちんと弾ける龍の玉 桂  凜火
独楽廻し競いし少年皆八十路 山本 弥生
壮年や海苔篊黒く林立す 野田 信章
雪だるま犬語の通訳ならできる 綾田 節子
反戦は普段の言葉ちゃんちゃんこ 岡田ミツヒロ
スクラムはこわれやすくて大旦 松本 勇二
きつと父三越からの蜜柑来る 川本 一葉
幼な子のブーツの中のでっかい宇宙 伊藤  幸
朝酒や髭も剃らずに去年今年 滝澤 泰斗
悴むや青空と語を見失ふ 佐藤 稚鬼
能登訛の初電話急 アメージング・グレース 塩野 正春
手袋の中の手汚れ思想なし 小西 瞬夏
寒月や離ればなれの鴉呼ぶ 高木 水志
おあとがよろしいようでと勝手に死んだ 田中アパート
初鏡問われる余生の交差点 増田 暁子
風花やたった二歳の猫(こ)を葬る 植松 まめ
ニュース聴く耳に重ねて夕時雨 石井 はな
山茶花も私の声も風のもの 河野 志保
朔の地震とともに戸締りす 中村 セミ
超美味の初夢獏にくれてやる 柾木はつ子
炎上の果てぬ地震国戦さなお 河田 清峰
初明り車窓の富士の太りたる     <あずお玲子改め> 和緒 玲子
逝くときは獣も冬の星を見る 小山やす子
冬ぬくし出窓のミケの大あくび 向井 桐華
うすらびに耳を澄ませば初声す 新野 祐子
空が青すぎて山茶花散り急ぐ 柴田 清子
元日の地震ブリキのバケツ打つ 荒井まり子
雪降ると言いて別れの手を握る 稲   暁
冬木立ベテルギウスの赫赫と 大浦ともこ
年明くる言葉浮かべてめしを食む 豊原 清明
冬ざるるコトデンの黄の遠きこと 銀   次
自分軸無いまま生きて冬薔薇 藤田 乙女
冬の波が運ぶ烈風鬼の家 菅原香代子
兆しあり冬木並んで突っ立つ意志 山田 哲夫
既読とはならぬ世へ打つ初LINE 藤野 安子
独り言己に聞かす初燈 飯土井志乃
ふゆゆふやけあかあかあかやああ天志 島田 章平
朝焼けの冬連山や胸沸る 末澤  等
〆のシャンパンならぬ終活竜の玉 岡田 奈々
未来問う鍋を突いて突っついて 鈴木 幸江
青春切符駄々っ子天志身罷りぬ 田中 怜子
衣摺れの音折りたたみ納棺す 森本由美子
老年楽しどの本能もまだ少し 十河 宣洋
遠き日の石鹸カタリ冬銀河 松岡 早苗
寒雀東京はビル持て余し 菅原 春み
書置きのような聖地や寒卵 男波 弘志
四肢折れば木偶アンニュイな冬日向 若森 京子
コンビニの灯へなんとなく大晦日 重松 敬子
おとついの時雨のせいにする懈怠 三好つや子
愚痴なれど元日避けて欲しかった 野口思づゑ
始まりは麦の一粒シュトーレン 吉田 和恵
あきらめの今日布団の柄が派手すぎる 榎本 祐子
いそがしい落葉涙が間に合わない 竹本  仰
枯野刈りたればひよこりと萌芽 福井 明子
浦安舞ふ巫女のひとみに初日さす 漆原 義典
天城より 朝焼けの富士 年明くる 寺町志津子
ゆきあいのひととながむる初日の出 亀山祐美子
山茶花の白叱られて励まされ 薫   香
初日の出平穏なりしありがたし 三好三香穂
母眠る林檎の匂いがする雪です 佐孝 石画
大はしゃぎ永久凍土溶けだした 山下 一夫
干されたる産着は淑気纏いけり 松本美智子
くに言葉忘れさぬきのあん雑煮 佳   凛
狗日なり機体炎上死者五人 疋田恵美子
紙面繰るたび冬の日を傷つける 三枝みずほ
ペン買ひにゆかな明日は雪らしき 谷  孝江
たつたひとつの神獣鏡から風花 野﨑 憲子

句会の窓

小西 瞬夏

特選句「バスがくるおばばひとりと風邪の児と(谷 孝江)」。実景でもあり、民話の世界のようでもある。映画のワンシーンのように映像を見せながら、心情の説明がないので、読者は邪魔されずに余計に余韻に浸ることができた。「おばば」という言い方と、子どもが風邪をひいているという設定がよい。

松本 勇二

特選句「衣摺れの音折りたたみ納棺す」。納棺に幾度か臨場しましたが、衣摺れの音が妙に耳に残っています。そこを取り上げた作者の感覚の冴えを称えたいと思います。淋しい所作の中にある冷静な視線も光ります。

十河 宣洋

特選句「遠景に海苔篊老人たち歌う(野田信章)」。私は山国育ちなので海のことはよく知らない。ネットや写真でその雰囲気を見たりする。この句もそうである。海苔の養殖に精を出す人々。遠景の風景は懐かしくもあり、親しみを感じた作者である。老人たち歌うは、仕事をしながら歌うというより、その作業を見ながらの歌である。実際の歌というよりその歌声に込められた歴史性を感じる。

豊原 清明

問題句「たつたひとつの神獣鏡から風花」。よく書かれていて、幻想小説のような世界が好きなので、点を入れました。こういう俳句が好きなのです。特選句「冬ぬくし出窓のミケの大あくび」。ミケが大あくびしたとしか、書かれていないけど、その省略・凝縮が、魅力的。俳句が好きな理由です。

福井 明子

特選句「バス待ちのベンチ冷たし能登の地震(向井桐華)」。あの元旦の地震を、どう句にしたらいいのかと思いあぐねていた時、この一句にたどりつき、身の近いところからの思い、そう、この場所のこのベンチの冷たさから想いを馳せる具体の姿勢に共感しました。特選句「くに言葉忘れさぬきのあん雑煮」。さぬきのあん雑煮、その色彩の鮮やかさ、豊かな味の混ざり合いは絶妙だと思います。くに言葉を忘れてしまうほど、私もさぬきの地に住み古しました。さぬきは本当にいいところです。

藤川 宏樹

特選句「幼な子のブーツの中のでっかい宇宙」。幼なき日の長靴、新しい長靴はみんな大きくぶかぶか。足はあちこち自由に動き長靴の中は余裕の「宇宙」。やがて足が大きくなり窮屈に、いつの間にか長靴の「宇宙」がなくなってしまいました。

綾田 節子

特選句「手に触れるまでの旅です六花です(佐孝石画)」。北海道土産の六花亭のチョコが何故か浮かんできました。作者は北海道の方でしょうか、仰るとおり手に触れた途端に美しい六角形の結晶は消えてしまうのですね。特選句「母眠る林檎の臭いがする雪です」。作者は母上の眠る地からは離れていらっしゃるのでしょうか、無臭の雪から林檎の臭い、雪は作者の郷愁を誘ったのでした。問題句「おあとがよろしいようでと勝手に死んだ」。作者は、亡くなった方とは親しく、そして怒っているのですね。勝手が効いてます、好きな句です。どなたが亡くなられたのでしょうか。  ♡初参加させて頂く綾田と申します。母方は生粋の讃岐人でして、そのご縁で、お仲間入りさせて頂くことになりました。独りよがりの勝手な句が多く、なんだ?と思われる事も多々とは思いますが、どうぞ宜しくお願い致します。

島田 章平

特選句「母眠る林檎の匂いがする雪です」。亡くなられた母への挽歌。「林檎の匂い」と言うフレーズに作者の母への恋慕の情が浮かぶ。

岡田 奈々

特選句「幼な子のブーツの中のでっかい宇宙」。クリスマスブーツは大人でも嬉し楽しで、子ならでは。あの頃が懐かしいな。父は必ずでかいのを枕元に置いといてくれた。特選句「あきらめの今日布団の柄が派手すぎる」。もう、死にそうな感じ。もしくは、結婚したく無い人と政略結婚。もう、自殺しようと煉炭に火を付けて、さあ寝ようという時のシチュエーション。など、面白過ぎて、妄想が膨らむ。「青・色・信・号・点・滅・冬夕焼」。青色信号って、点滅したっけ。あ、歩行者の方ね。私は絶対駆けていって、足躓くタイプ。「空耳や絵本へ還る冬の蝶」。冬の蝶が本の中に潜り込んで冬越ししているのが、素敵。「雪だるま犬語の通訳ならできる」。100歩譲って雪だるまが犬語の通訳出来るとしよう。貴方はどうやって、雪だるまと交信を?「葛湯吹く昨夜の嘘を吹くように(十河宣洋)」。寒い日の葛湯。旨いよね。お婆ちゃんが、せなかを丸めて、少し眼をしょぼつかせながら、嘘とも本当とも判らない話しをしてくれた後、皆で飲んだ葛湯。あの頃は何でも興味あったな。毎日お話しせがんでた。「おあとがよろしいようでと勝手に死んだ」。なんか、山形駅に来なかった。天志さんだ。「ポインセチア動脈硬化すすむ街」。ポインセチアの葉脈が立派過ぎて。街の幹線が詰まっている様子と重なる。「レのキイは枝に隠れた雪のよう(伊藤 幸)」。ドに隠れて少しはにかみ屋のレ。「紙面繰るたび冬の日を傷つける」。紙を捲る度、冬の日は明るくなったり暗くなったり。まるで我が人生を一日ずつ繰っているようだ。楽しい日があったり、がっかりの時があったり。でも、また、新しい日がやって来る。

風   子

特選句「愚痴なれど元旦避けて欲しかった」。本当によりにもよって元旦の大地震。 日々寒さの中の被災地の様子にただ胸が痛いです。「書き出しは船出のように初日記」。私は日記を書かない。「過去のことは夢と同じ」と思っているからなんて、実はただのズボラ。それが証拠にメモもズボラで何時も「何時だった?何処だった?」と右往左往しています。日記を書かれる人は尊敬です。

柾木はつ子

特選句「たつたひとつの神獣鏡から風花」。いにしえの中国から渡ってきた銅鏡の一種と知りました。遙か古代のロマンが風花と共に現代に運ばれて来たような時空を超えた物語を紡いでくれるような作品だと思いました。特選句「元日の地震ブリキのバケツ打つ」。ブリキのバケツをけたたましく打ったような突然の衝撃!日本国民並べて同じような衝撃を受けたことでしょ う。正に当意即妙を得た作品だと思います。

大西 健司

特選句「元日の地震ブリキのバケツ打つ」。投句が遅かった人たちはこの元日の地震を重く受け止め、それぞれに書いている。ただ単なる傍観者である私たちはどう書けばいいのか悩ましい。そんな中掲句は「元日の地震」とたんたんとその事実を述べ、それ以上は何も思いは述べない。元日の地震という現実がそこにはあり、そして、それとは別に誰かが意思を持ってブリキのバケツを打つ。何のためかはわからない。ただ打つという行為。私はこの昭和感のあるバケツにこだわって特選にいただいた。

柴田 清子

特選句「母眠る林檎の匂いがする雪です」。深い眠りにつく母。母が雪か、雪が母か、美しい一句です。

田中 怜子

特選句「書き出しは船出のように初日記」。何故か5年日記を買おうかしらと、私はその船出ができなかったけど。特選句「くに言葉忘れさぬきのあん雑煮」。嫁いできて、日々忙しく生活しているうちにさぬきの人に。あん雑煮にもなじんできて。

男波 弘志

特選句「手袋の中の手汚れ思想なし」。多神教、八百万の神、神仏習合、何もかもを受け入れる思想は実は無宗教ではいかと感じています。つまり視点を縦横に移動できる、一つの教義に執着しない、この柔軟性がいま世界には必要なのだ。アメリカの民主主義も畢竟一神教の範疇にある。日本人が外国へ旅行していて「宗教をもっていないことが大変恥ずかしかった」と語った人が随分いるようですが、何故多神教の知恵が身の内に在ることに気が付かないのでしょうか?もし外国の人からそういうことをいわれたら「わたしは一つの宗教、一つの考えで生きているのではありません。日本にはたくさんの神や仏がいます。皆めいめいに生きたいように生きています。それで齟齬がおこらないのが日本という国の大いなる知恵なのです」と答えるでしょう。「おあとがよろしいようでと勝手に死んだ」。落語の神様、古今亭志ん生は破天荒な人だとよくいわれている。関東大震災のとき酒屋に飛び込んで勝手にウヰスキーを3本ラッパ飲みにしたそうだ。これで酒の飲み納めだと思ったそうだが。おかげで勘定をおかないで済んだとか、どうも勝手に死ぬわけにはいかなかったようだが。自分が死ぬときのはすーっと何かが解けるように逝きたいものである。

樽谷 宗寛

特選句「冬夕焼芭蕉兜太天志嗚呼残照(島田章平)」。天志様も他界なさいました。私は大阪句会や香川吟行でご一緒しました。嗚呼本当にもうお会いできないんだ。冬夕焼けに残照に出あうたびお作者のため息深まります。ちなみに喪中30通近く、来年から年賀状はやめにしました。天志様のご冥福をお祈り致します。

三枝みずほ

特選句「手に触れるまでの旅です六花です(佐孝石画)」。その手に触れたいと想いを巡らせる時間が旅だという把握に共鳴した。定住漂泊。特選句「あきらめの今日布団の柄が派手すぎる」。あきらめることを突きつけられた時、絶望とともにあるのは派手な布団の柄。〈絶望の虚妄なることまさに希望に相同じい〉ハンガリーの詩人の一行をふと思う。

鈴木 幸江

特選句「バスがくるおばばひとりと風邪の児と」。真の豊かさとは何だろうと考えねばならない今。この句に出会って、最初は辛さと不幸を想ったが、直ぐにこのふたりは幸せかもしれないと思った。何事も見方を変えれば正反対の感情が湧いてくる。その可能性を再認識させていただいた。特選句「こぞり立つ鋭き肺よ冬の芽よ(男波弘志)」。肺は外気と体内が交わる臓器である。そこでどんな出来事が起きているのか計り知れない。“こぞり立つ鋭き肺”を持つ作者の感性が感受した世界とは・・・・・。そして、その世界が“冬の芽”であるということは・・・・・。未来を洞察する力のあることが伝わってくる。

植松 まめ

特選句「逝くときは獣も冬の星を見る」。難病の猫の虎徹(こてつ)が逝ってしまいました。胸に刺さります。特選句「干されたる産着は淑気纏いけり」。玉のような赤ちゃん(古い言い方でしょうか?)の誕生おめでとうございます。本当に淑気纏いけりですね。問題句「手袋の中の手汚れ思想なし」。今の自民党の裏金問題渦中の議員の事でしょうか?思想なしでは政治家ではありません。

和緒 玲子

特選句「母眠る林檎の匂いがする雪です」。臥せっているのか亡くなってしまったのか。静かな午後を雪が降りだして、微かに林檎の匂いが混じる。少し甘く懐かしくもある匂い。母とのあれやこれやの思い出も押し寄せる。特選句「紙面繰るたび冬の日を傷つける」。薄くか弱い冬の日差し。頁を捲るたび紙の角が日差しに切り傷をつけてしまう。繊細な感覚。

末澤  等

特選句「自分軸無いまま生きて冬薔薇」。調べてみますと、『冬薔薇』とは冬枯れの中にポツリと咲きだした花を指す言葉だそうです。このことを頭に入れてこの句を読むと、まさしく自分を言い当ててくれているようです。どうにかして早く自分軸を探り当てたいと思い、特選句に選ばさせて頂きました。♡初参加の弁。これまで俳句は、プレバトで見て楽しむ程度で、触れたこともなかったですが、70 歳の年にご縁があり、昨年 11 月の句会から参加させていただいております。句会の時間は、耳と頭がフル回転で非常に疲れますが、ボケる暇がありません。続けてゆくことができるか分かりませんが、頑張ってゆこうと思います。皆さん宜しくお願いします。

若森 京子

特選句「青春切符駄々っ子天志身罷りぬ」。この一句そのままの亡き天志さんへの追悼句として頂きます。特選句「紙面繰るたび冬の日を傷つける」。平明な一行であるが、日常繰り返してきた重い意識が甦える。

山田 哲夫

特選句「四肢折れば木偶アンニュイな冬日向」。「四肢折れば」まで読んで、作者は骨折か?と思ったが、もしそうであったなら、痛い、痛いと、とてもアンニュイな状況に実を委ねている気持ちなどにはならないのではと、今一度読みなおしてみたら、この「折れば」には、作者の意思が働いていることに気がついた。自分の意志でわざわざ骨折する者はいないだろうから、作者は自分で手足を折り曲げて「このままの格好ではまるで木偶だな。まあいいか。」などと冬の日差しを浴びながら悦に入っているのだ。忙しい現代人の生活には、時にはこういうひとときこそ大切ではなかろうか。

すずき穂波

特選句「いそがしい落葉涙が間に合わない」。「涙が間に合わない」経験、誰しも身に覚えあるのではないだろうか?泣いているうちにいつの間にか気持ちが軽くなっていく。そんな「裏感情」のキメの細やかさ。特選句「ペン買ひにゆかな明日は雪らしき」。文体と感情の流れが、ゆるらかにくっつき合っていて心地いい。家居の作者、その存在がしんと浮かび上がり、ポッと(脳細胞が?)ひらく。

松岡 早苗

特選句「血管図真青に広げ山眠る(亀山祐美子)」。よく晴れた冬の日、葉を落とした裸木が青空に枝を広げている様子でしょうか。「血管図」という比喩が鮮烈でいただきました。特選句「ふゆゆふやけあかあかあかやああ天志」。平仮名の羅列と「あ」音の繰り返しが、悲しさ切なさを倍増させているようです。冬の夕焼けのようにあっけなく逝ってしまわれた天志さんが悼まれます。

塩野 正春

特選句「既読とはならぬ世へ打つ初LINE」。悲しいかな現実にある話しですね。 ラインの相手が突然消え失せるとは。生命、特に我々人間の命と命をつなぐ現実の武器ラインが響きます。”俳句の空間とデジタル”を繋げた素晴らしい句ですね。 ラインが(虚)の空間まで繋げてくれれば、この世は素晴らしいことでしょう。私たちも生きる意義や夢があるということですね。特選句「干されたる産着は淑気纏いけり」。新春の淑気、これに勝る表現は見当たりません。 お寺、神社いろいろありますが、赤ちゃんの産着は素晴らし淑気です。 この世、乱れた世ではありますが、に生を受けた赤ちゃんに未来を託したいです。

河野 志保

特選句「逝くときは獣も冬の星を見る」。動物を看取った時のことだろうか。冬の星に帰る命との別れ。悲しみの瞬間が荘厳さを湛えた1句になった。「獣」とは人間も含めた生き物全てを言っているのかもしれない。

高木 水志

特選句「いそがしい落葉涙が間に合わない」。落葉が次々に落ちていく。身近な人が次々と亡くなっていく。涙も出ないくらい悲しんでいる作者の様子が浮かぶ。

三好つや子

特選句「反戦は普通の言葉ちゃんちゃんこ」。令和になり、砲弾のなか泣き叫ぶ子どもの姿が、日常的なニュースになる昨今。うかうか老いてるときじゃない、もっと反戦に向き合わなければ、と武者震いしている作者を想像し、心に響きました。特選句「老年楽しどの本能もまだ少し」。一読して、兜太先生の「酒止めようかどの本能と遊ぼうか」の句が浮かびます。豪快に俳句人生を全うされた兜太先生にはかなわないけれど、私なりに老いを楽しんでいますよ、先生。と、冬空に呼びかけているように感じられ、感動。「ふゆゆふやけあかあかあかやああ天志」 「青春切符駄々っ子天志身罷りぬ」 増田天志さんが亡くなられ、海原の句会で追悼句をたくさん目にしました。この句もそうですが、天志さんの俳句を語るときの、青年のような一途な表情を思い出し、胸にジーンときました。

野口思づゑ

特選句「うすらびに耳を澄ませば初声す」。静かに年が明けた。静かに鳥の鳴き声が聞こえてくる。落ち着いた句です。特選句「ペン買いにゆかな明日は雪らしき」。雪のため外出ができなくなりそうだ、という事で買っておくべきがパンといった食料、必需品でなくペン、という事で書くことを大切にしている作者が偲ばれる。「初鏡問われる余生の交差点」。「余生の交差点」とは一体何なのか、どんな状態なのか興味をそそられる。

河田 清峰

特選句「未来問う鍋を突いて突っついて」。先行き不安な人生に鍋を突っついていくしかない未来がみえる。

中村 セミ

特選句「空耳や絵本へ還る冬の蝶」。冬の蝶の羽音を聞いたのだろか,絵本に蝶がいなくなり久しい、本当は、まだ帰ってないのだろと思う。そこに、不思議な感性を感じる。

吉田 和恵

特選句「老年楽しどの本能もまだ少し」。軽い飢餓感は老年も楽しくするのでしょうか。♡今、アラン編みに挑み頭と指の錆取りをしているところです。

榎本 祐子

特選句「青春切符駄々っ子天志身罷りぬ」。駄々っ子に親しみが込められていますね。青春切符に天志さんを感じます。

津田 将也

特選句「初春やぱちんと弾ける龍の玉」。庭や垣根ではよく見かける「龍の玉」。初夏のころは淡紫色の小花を咲かせ、花後、珠状の実をつける。これが冬とともに熟し碧い「龍の玉」になる。よく弾むので、子供たちが「弾み玉」とも呼び、いろんな遊びに使った。今ではもう見かけない「初春」の、俳句の中だけのものになりました。特選句「レのキイは枝に隠れた雪のよう(伊藤 幸)」。「中七」以下の措辞が格別です。定型句でのリズムが活かされており、これが読者の「読み」を肯定的にみちびきます。

増田 暁子

特選句「衣擦れの音折りたたみ納棺す」。納棺の場面の音、動作などリアルに思い出しました。辛いですが美しいですね。特選句「いそがしい落葉涙が間に合わない」。なんの涙なのか、落葉の速度は悲しみよりズンと早く余計辛いですね。一瞬の切り取りが詩になって情景が浮かびます。「母眠る林檎の匂いがする雪です」。甘酸っぱい母の匂いは最高だった。 

藤野 安子

特選句「見慣れぬ漢寒灯の門叩く」。この句の主人公は〝男〟ではなく‶漢〟。その漢が門を叩いている。そんな強い表現がなされているにもかかわらず、何故か現実離れした印象を受ける。〝見慣れぬ〟と云う言回しのせいかもしれない。そして、あまり使わない季語の‶寒灯〟が効果を上げている。一読し、急逝された天志さんが思い浮んだ。死後の世界に幾つかの門扉があるとしたなら、天志さんには極楽浄土への門が開かれたと固く信じている。

ご挨拶。初めまして、私は昨年十月、急逝された増田天志さん主宰の大津「まほろば句会」で四年間余りお世話になっていました。当「海程香川句会」の野﨑憲子さん岡田奈々さんからは「まほろば句会」へ毎月欠かさず投句をしていただいておりました。あの天志さんの自由奔放なキャラクターで進められる句座は本当に楽しく、また勉強もさせていただきました。そんな句座に香川からの投句は一層花を添えてくれました。本当にありがとうございました。年も押し迫った十二月二十六日。「天志さんを偲ぶまほろば句会」が開かれる運びとなり、急遽、香川から憲子さんが参加してくださり、しめやかでありつつも、和やかな追悼句会を催すことができました。「海程香川」の憲子さんとは、天志さんが繋げてくださった句縁だと感謝しております。今度、憲子さんからのお誘いもあり、「海程香川」の栄えある初句会へ拙句を投句させていただいた次第です。句縁とは異なもの。今後、益々の「海程香川句会」のご盛況を心から念じております。

伊藤  幸

特選句「書き出しは船出のように初日記」。はてさて今年はどんなことに出逢うだろうとワクワク。初日記はまさに船出のような気分です。作者にとって今年が佳き年となりますように。特選句「壮年や海苔篊黒く林立す」。手も足も悴む冬はアサクサノリの季節。黒く輝く海苔のびっしり生えた粗朶の林立する様を血気盛んな働き盛りの壮年と表現した見事な技に脱帽。

滝澤 泰斗

特選句「深紅のドレス聖夜のアリア美(は)しき息」。クリスマスの一部始終を切り取った感があるが、上、中、下が心地よく響き合っている。美しき息とあるから、教会によっては、教会を出て、教会に来れない方のお宅の玄関先でクリスマスキャロルを歌う事をするシーンを想像した。教会でのミサを上げた後、正装の深紅のドレスのまま出かけたことも連想される。深紅はまたクリスマスの花ポインセチアの深紅にも通じて結構でした。特選句「<句集『青草』佐孝石画へのオマージュとして>こぞり立つ鋭き肺よ冬の芽よ」。こぞり立つ冬の芽とは何だろうと想像した。冬の日の松の芽が一斉に上向きに立ち、まさに松が大いなる深呼吸をして緑の濃さを一層増すように賛美している。「書き出しは船出のように初日記」。大旦はどんな書き出しになったかはともかく、汽笛一声、徐に、大らかに大きな船が埠頭を離れる景。お正月に気持ちの良い句に出会った。「冬眠の薄目喪中の寒オリオン」。紅白歌合戦だ、年越しぞばだ、年賀状だ、孫がはるばるやってきて・・・などというなんだか慌ただしい正月もあれば、そんな時代はとうに過ぎ、昨年亡くなった身内のいない正月をじっと耐える正月もある。喪中の正月を詩情豊かに描いた。「衣摺れの音折りたたみ納棺す」。映画「おくりびと」のワンシーンのごとく・・・音折りたたみという表現に感服。「レのキイは枝に隠れた雪のよう」。音階のレをこういう風に詠まれると、途端にレが違う意味を持っていると錯覚しそうだ。着想の妙というか、面白い。私は半音のファとシが気になるが、隠れた雪という表現にはなかなか追いつけない。「書置きのような聖地や寒卵」。書置きの聖地とは・・・エルサレムにあるユダヤ人の聖地はかつての神殿の壁。その裏にイスラム教を唱えたムハンマドが昇天した岩のドームがある。そして、そこから、さほど遠くないキリストが昇天したゴルゴダの丘に建つ聖墳墓教会・・・どれもこれも書置きされたような場所にあるが、寒卵の季語が見事にフォローしている。

石井 はな

特選句「煩悩を幾つか減らし除夜の鐘(藤田乙女)」。毎年の除夜の鐘です。108の煩悩の幾つかが減っていると嬉しいです。減った分の音は違うのかしら?

稲   暁

特選句「自分軸無いまま生きて冬薔薇」。まるで私のことを言われているようだ。美しい冬薔薇との対比が印象的。

重松 敬子

特選句「初明り車窓の富士の太りたる」。年始めの期待感。一新したすがすがしさ、吸う空気さえ、新しい匂い、味がします。今年も良き年でありますように!

竹本  仰

特選句「空耳や絵本へ帰る冬の蝶」。生きるとは、生き延びること。生きるとは、抗うこと。何となく、そんな響きを背後に感じました。原色の原郷へ帰るこころみ、それは不可能なんだけれども、それが終の夢なんではなかろうか。そういえば小生にしてからが、年末から手塚治虫の『ふしぎな少年』を耽読し、「時間よ、とまれ!」と太田博之演じたTVドラマのあの叫びを、日本中の少年たちが人類全面核戦争寸前のキューバ危機の一九六二年に叫んでいたなんて、と何とも言えない感慨を覚えました。時間よ、とまれ!そして出来るなら、もう一度あそこへ。特選句「青春切符駄々っ子天志身罷りぬ」。青春十八きっぷ。増田天志さんと初対面の時、野﨑さんから彼はそうやって琵琶湖の国から来たんだというのを聞き、ああ、そうか、同じような時間旅行者がいるんだと、ぐいっと惹きつけられたのを覚えています。そのときは、どういう表情をして車窓にたたずんでいたんだろうな、という想像をふとしたのでした。私も若い頃は鈍行愛好者で、東京から大分まで乗り継ぎ二日間の旅をした記憶があります。そう、その時の感触からして、彼は時間を旅行していたのに違いないのです。わずか十七文字のため、否、わずか十七文字だからこそ遠路が要るのだ、と語っていたように勝手に解釈しました。あの駄々っ子の顔は紛れない時間旅行者の顔だったのだと、あらためて思い出しました。特選句「母眠る林檎の匂いがする雪です」。たしか宮沢賢治の詩に、「そこは林檎の匂いがして」というフレーズがあったような。うろ覚えで申し訳ありませんが、その賢治の詩と同じような匂いを思い出しました。多分、この母はもう年老いて昔の母ではない母なのかと思いますが、眠っている時だけはあの自分が感じた林檎の匂いがした母に戻っていると思えたのでしょう。多分、童話の原点というかふるさとは、こういう境地から来るのでしょうね。

増田天志さんの句、どなたか存じませんが、ありがとうございました。年始早々、激震の列島ですが、負けぬよう、野﨑さん、そしてメンバーのみなさん、本年もよろしくお願いします。

山本 弥生

特選句「くに言葉忘れさぬきのあん雑煮」。生国を出てさぬきに住んだ年月の方が長くなり故郷訛りで話す相手も無く、すっかりさぬき人となり、お正月の雑煮も讃岐の、餡雑煮で祝うようになった。

漆原 義典

特選句「青春切符駄々っ子天志身罷りぬ」。増田天志さんが、海程香川句会に参加されるため、大津から青春十八切符で高松に来られ、俳句に対する情熱を熱く語っておられた姿が思い出されます。中七の駄々っ子天志が良いですね。天志さんご指導ありがとうございました。

寺町志津子

特選句「書き出しは船出のように初日記」。これから始まる一年の期待と不安の交錯した気持ちが伝わります。「幼な子のブーツの中のでっかい宇宙」。成人した長男も、子どもの頃、靴の中に石ころ、だんご虫等を入れて帰っていました。「冬眠の薄眼喪中の寒オリオン」。(私には)解釈の難しい句。

桂  凜火

特選句「ふゆゆふやけあかあかあかやああ天志」。ひらがな表記の工夫がうまく最後のああ天志は効果と感じました。天志さんのイメージと冬夕焼けはよくあっていて抒情的な美しさがかなしみをよく伝えています。

荒井まり子

特選句「ゆきあいにひととながむる初日の出」。スマホに往生している暮らしに元日の地震。報道で目にし、いたたまれない。上五の<ゆきあいのひと>に、しみじみと静かな時間を感じる。これでいい。

時田 幻椏

特選句「おとついの時雨のせいにする懈怠」。懈怠の言い訳に一昨日の時雨、同じ意味ながら音の近い倦怠と言うよりもアンニュイと言いたくなる気分を素直に感じます。「ふゆゆうやけあかあかあかやああ天志」。ふゆゆうやけあかあかあかやああと平仮名で詠み天志と造語で受ける危うさ、嗚呼天志か最後まで平仮名で詠み切って欲しかった、「てんし」とは言えないのでもう一工夫必要とは思うのですが。「レのキイは枝に隠れた雪のよう」。枝に隠れた雪のイメージが出来ず、枝に積もった雪、雪に隠れた枝の方が素直なのでは無いでしょうか。いや、この危うさがレのキイなのかも知れませんが。申し訳御座いません。

菅原 春み

特選句「逝くときは獣も冬の星を見る」。きっと獣も人も植物も冬の星を見て逝くような気がして、特選に。特選句「衣摺れの音折りたたみ納棺す」。衣摺れの音だけが響くという切り取りかたが秀逸です。

岡田ミツヒロ

特選句「マトリョーシカ閉じ込められしままの冬(榎本祐子)」。マトリョーシカのつぶらな瞳、それにはロシア国民の平和への願いが宿っているようだ。マトリョーシカの春の一日も早きことを。特選句「干されたる産着は淑気纏いけり」。赤ん坊の清浄無垢、それを包む産着は、淑気を呼び、まさに天使の衣、遙かなる我が聖なる時よ。

森本由美子

特選句「干されたる産着は淑気纏いけり」。心を洗い流してくれるような句です。産着は人間の未来への想いを仄かに象徴しているのかもしれません。

佐孝 石画

特選句「紙面繰るたび冬の日を傷つける」。難解な句だ。しかし「分からない」ということは、その作品の魅力、広がりにも通じる。それらの部類でも概ね良句の場合、じわりじわりと作品世界が読み手の既視世界に浸透してきて、見過ごせないものとなって来る。「紙面繰る」という書籍を読み進める行為と、冬の日、そして「傷つける」という暗喩の関連性、響き合い。この句の幻想の中心、発火点となるのは、「傷つける」という、なかば自虐的、自傷的な行為。この行為の冥さが、主人公のキャラクターを燻り出し、その場の情念だけでなく、これまでの人生への悔悟までも想起させる。その冥さに対して、「冬の日」の眩しさ、明るさ、そして「紙面」の白さ、未来性。それらは哲学用語にある「タブラ・ラサ」を想起させる。乱暴に言えば、主人公は紙面を繰るたびに、新たな世界へ転生し、またあらためてかつての自分を回顧する。「冥」から「明」への無限ループ。そのフラッシュバックが「傷」につながるのだろう。この句からは、そのように輪廻転生めいた白日夢を見せられた感じがする。

新野 祐子

特選句「逝くときは獣も冬の星を見る」。うちの十九歳の犬が逝ったのは朝だったけれど、瞳に朝の星が映っているように見えました。生きもの、みんなそうやって、この世を去るのかな。詩的だな。特選句「書き出しは船出のように初日記」。こちらは、海が遠いので船を目にするのは一年で一回もないけれど、大海に出る船というのは憧れでもあります。初日記にはふさわしいな、と。♡昨日句会報届きました。天志さんへの皆さまの思い。胸に沁みました。余りにも早い、ご逝去、残念でなりません。あの吟行からちょうど一か月ですね。こちらは今日雪が降りあたりが白くなり、夜でも、ほの明るい感じです。寒くなってきますので、お身体に気を付けて過ごしましょうね。→ 十一月の〆句会の句会報到着後いただいたFAXです。ありがとうございました。       

  悼  天志さん    芭蕉考遺しひっそり銀漢へ     祐子

大浦ともこ

特選句「始まりは麦の一粒シュトーレン」。麦の実りから始まる17文字に自然の営みへの賛歌、丁寧な暮らしぶりが窺えて好もしく思います。特選句「枯野刈りたればひよこりと萌芽」。自然への愛着が素直に心に響きます。ひよこりというオノマトベも句の温かみと響きあっています。

薫   香

特選句「レのキイは枝に隠れた雪のよう」。ドとミに挟まれたレは、きりっとしたはかなさを併せ持つ隠れた雪のようなんて素敵です。特選句「老年楽しどの本能もまだ少し」。まだ老年にはまだ少しありますが、未来がこんな風に思えるようになりたいなと選ばせていただきました。

野田 信章

特選句「冬ざるるコトデンの黄の遠きこと」。万物の枯れ極まった澄明感の中で、遠ざかりつゝも消えない「コトデンの黄」の一点の景が美しい、「コトデン」に寄せる作者の土着感の結実が伺える句である。

山下 一夫

特選句「ニュース聴く耳に重ねて夕時雨」。情景としては夕刻のテレビまたはラジオのニュース報道の音声ににわかに降ってきた雨の音が重なったというだけのことなのですが、荒涼とした寒々しさが無性に漂います。昨今の内外における痛ましい出来事の連続と時雨が見事に共鳴しています。特選句「想い出を積んで蜜柑のピラミッド(藤野安子)」。ひとりコタツのアンニュイな時間をそれだけはたくさんある蜜柑を積んで紛らしている人を思い浮かべます。想い出と蜜柑の比喩関係は甘酸っぱい、それぞれの実の中には多くの房があり、その房の中にはさらに果汁の入った袋(「砂じょう」というらしい)など。ピラミッドはある種の墓と考えると終わった恋が関係しているかなどと妄想が膨らみ楽しいです。問題句「鉄塔の亡夫よ冬の太陽よ(すずき穂波)」。鉄塔と亡夫の関係がわかりません。冬の太陽は冬至に近く生命の衰え(再生も含みますが)と関係するのでこれは亡夫と関係がありそうです。亡夫は鉄塔のように大きな存在であったが、亡くなってからは太陽を背にしての影のようにさらに巨大になっているということでしょうか。やっぱりわかりませんが、ただならぬ存在感です。 

松本美智子

特選句「紙面繰るたび冬の日を傷つける」。今回の地震は元旦に起こったこともあり衝撃的でしたし陳腐な言い方ですが自然の脅威に抗うことのできない人間の小ささに愕然とするしかなかったです。それを句にと考えましたが,対象が大きすぎて私にはできませんでした。この句は日常の生活にあって遠き被災地を悼む心をよく表しているなと思いました。

川本 一葉

特選句「空耳や絵本へ還る冬の蝶」。何という俳句でしょう。物語を秘めていて、淋しくて美しくて、胸が痛くなります。こういう句を私も作りたいです。特選句「既読とはならぬ世へ打つ初LINE」。とてもよくわかります。夫や祖母や、友だち。私もLINEを打ちたい。もう一度話したい。だから一期一会という言葉があるのでしょうか。 

向井 桐華

特選句「風花やたった二歳の猫を葬る」。しみじみと訴えかけてくる句です。猫を「こ」と読ませることには賛否分かれるかもしれませんが、我が家にも二歳の猫(こ)がおり、もしもこの子が死んでしまったら思うと、この句を特選に推したいと思いました。下五の字余りが効いているし、風花が哀しみを増す。

疋田恵美子

特選句「冬夕焼芭蕉兜太天志嗚呼残照」。お三人の俳人のお名前をあげ、功績と尊敬の念。特に嗚呼残照が良いと思います。特選句「天城より 朝焼けの富士 年明くる」。天城山から眺める朝焼けの富士山なんて幸いな事でしょう。爽やかな新年のスタート。

菅原香代子

特選句「バス待ちのベンチ冷し能登の地震」。道が崩れてバスは来ない、人もいない 、冷たさ、悲しみが伝わってきます。「超美味の初夢獏にくれてやる」。ユーモアに溢れる新春らしい句です。

佳   凛

特選句「既読とはならぬ世へ打つ初LINE」。あの世とは、楽しい所なのでしょうか?行ったきりで、便りも来ない。メールをしても既読にならないもどかしさ。とっても とっても良く解ります.切ないくらい伝わって来ます。でも元気を出して頑張りましょう。自分自身にも、言い聞かせています。ありがとう。

野﨑 憲子

特選句「ふゆゆふやけあかあかあかやああ天志」。美しい調べでありながら型破りな天志さん好みの追悼句です。昨年の〆句会の冒頭、ご参加の皆さまへ、天志さんの急逝を告げ、黙祷していると、高松の句会へ来てくださった折の色んな思い出が浮かんできて胸がいっぱいになりました。私は色の中で一番赤が好きですが、天志さんも、いつもどこかに、赤を感じる俳人でした。

今回、天志さんが主宰されていた「まほろば句会」の藤野安子さんがご参加くださいました。昨年末の大津での「追悼まほろば句会」は、悲しくも心温まる句会でした。もう十年近く前、崇徳上皇の御廟がある四国霊場第八十一番札所白峰寺へ行きたいと言われ、高松での句会の翌日に、ご案内しました。その車中で「句会の世話人は産婆さんだよ。句会で佳句が沢山生まれたら、それが何よりの世話人冥利だからね。」とお話でした。この言葉は、今も、私の中で大きく膨らんでいます。「溢るる愛語サンバ産婆よ風花(憲子)」どんなに煮詰まっている時も、皆さまからのご投句に大きな元気をいただいています。「海程香川」は、混迷の人類へ向けて、五七五の愛語の、奇跡みたいな作品を発信し続ける、とびっきり自由で楽しい場でありたいと切に願っています。 

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

風花
風花や男の業を癒すよに
銀   次
風花や波止場に移動図書館来
大浦ともこ
風花や落ちて来たのは誰かしら
薫   香
山風花上から下から登山道
末澤  等
日溜まりを風花が行くブラタモリ
藤川 宏樹
言ひ訳の途中まなじりを風花
和緒 玲子
お茶しませんか風花にかこつけて
和緒 玲子
風花を纏う少女よ素足なり
岡田 奈々
をととひ君は犀になつたと風花
野﨑 憲子
風花や天志は竜神になつた
野﨑 憲子
風花や父の匂ひのパチンコ屋
島田 章平
誉められる頭のかたち風の花
藤川 宏樹
初句会
菓子並べ色とりどりに初句会
銀   次
初句会というみかんの香に包まれる
三枝みずほ
初句会吾が句に諭されし輩
藤川 宏樹
手土産の酒は「凱陣(がいじん)」初句会
大浦ともこ
お日さまに逢いにきました初句会
野﨑 憲子
笑つて笑つて笑つて初句会
島田 章平
一月
一月の地平線非戦貫く
三枝みずほ
大阪に買ふ豚まんや一月尽
大浦ともこ
一月の三番館へ小津映画
藤川 宏樹
口数の少なき女よ一月の水
岡田 奈々
一月や母のブキウギもう聴けぬ
島田 章平
一月のジルバよ波音は紫
野﨑 憲子
一月の竜の落し子私の子
島田 章平
一月や悩みの種を放り投げ
末澤  等
水仙
純心の勁き刃や白水仙
銀   次
水仙のにほひ不埒であどけなし
大浦ともこ
凪ぎてみな海に傾く水仙花
大浦ともこ
喇叭水仙死んでも放しませんでした
藤川 宏樹
水仙のちかく心臓横たへる
和緒 玲子
愛語とは透きてゆくもの黄水仙
野﨑 憲子
水仙に埋もれて死んでいけたらば
薫   香
人去りてはや水仙の匂ふ家
和緒 玲子
餡子
ピーマン切って中を餡子にしてあげた
藤川 宏樹
餡子煮るすこし反省したあとの
三枝みずほ
餡蜜が冷たすぎたの別れたの
島田 章平
お多福の中はこしあん初句会
野﨑 憲子

【通信欄】&【句会メモ】

今年の元旦は、能登大地震から始まり、不穏な幕開けでしたが、初句会に、3名の初参加の方がいらして嬉しかったです。昨秋急逝された増田天志さんの追悼句が今回も沢山集まりました。兜太先生、たねをさん、天志さんと、他界が賑やかになるばかりで悔しいですが、この世も負けていられません。皆様と共に、ますます熱く渦巻く句会に進化してまいりたいと存じます。今後とも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

13日の句会の2日後に、銀次さん(ミュージカル劇団「銀河鉄道」上村良介主宰)が、お部屋で倒れているところを劇団員の方が見つけ緊急入院しました。インフルエンザでした。快方に向かっているそうですが、他にも治療を要するところがあり一か月程入院されるので、残念ですが、「今月の誤読」は、お休みです。他にも、体調を崩し選句をお休みされている方がいらっしゃいます。一日も早いご全快を祈念いたしております。厳しい寒さが続いています。皆さま、御身くれぐれも大切にご自愛ください。

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