2015年12月29日 (火)

香川句会報 第57回(2015.12.19)

sarukai.jpg

事前投句参加者の一句

      
枯色に泥(なず)む山里離れ牛 中野 佑海
田の神の在すがごとく麦青む 稲葉 千尋
散歩道遠回りして日記買う 髙木 繁子
感情を吸い込む冬野駆けるべし 伊藤 幸
木枯しや閑と閑閑として涙 KIYOAKI FILM
雪が降るどこかでピアノ誰か病み 谷 孝江
大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ 月野ぽぽな
よく話す雀に会える冬うらら 河野 志保
骨相のきれいな木です蛇眠る 三好つや子
寒桜千手観音臍痒い 夏谷 胡桃
感情の熱(ほて)りかな蓮の骨泛ぶ 矢野千代子
雪女と君の背中に書いてある 郡 さと
バス停は落葉の山の吹き溜まり 古澤 真翠
完璧な瑕疵となりたる月うさぎ 増田 天志
ランナーは玉の汗なり冬日さす 漆原 義典
霜柱地球防衛合唱団 亀山祐美子
四肢軟弱のわれ山繭の重ね着美し 若森 京子
流氷や躰の真芯貫いて 銀   次
冬天へ掌ここにある命 三枝みずほ
禍も福もつぎはぎ冬温し 小山やす子
ターシャの家ジンジャー堅パン聖樹かな 田中 怜子
空箱の溜るくらがり十二月 高橋晴子
火事明かり浴びればみづみづしき躰 小西 瞬夏
冬の亀婚活なのか石の上 町川 悠水
指揮棒にあわせて踊るポインセチア 野澤 隆夫
四回転ジャンプ蓮の実飛んだ 重松 敬子
翡翠が明るみとなる薄き闇 竹本 仰
冬座敷わたしにものを言う人形 寺町志津子
こんにちは落葉がカラカラついてくる 中西 裕子
戦を語る義父よ秋ぐみ噛むように 野田 信章
踏みだせぬ冬菜ざぶざぶと空の下 桂  凛火
亡き母をまだ越えられぬ卵酒 藤田 乙女
鍵探す鍵穴ひとつ冬銀河 野﨑 憲子

句会の窓

増田 天志

特選句「雪が降るどこかでピアノ誰か病み」一面の銀世界。雪降る間に、灯火が幽かに揺れてい る。その一つ一つに、生の営みがある。宜しくお願い致します。また、出席させて頂きます。楽しい句会でしたね。

中野 佑海

特選句「散りぬるは同じ間合ひの鴨の陣(亀山祐美子)」言葉の並びが流れる水のようにスルス ルと書かれている。飲んだ水がスルスルとのど越し爽やかに胃の腑に吸収されていくような。不思議な 魅力の俳句です。まるで平賀源内のカラクリ玩具のようです。問題句「四肢軟弱のわれ山繭の重ね着美 し」最初読ませて頂いたときは全く意味が分からなかったけれど、喩え様もない儚さが心に澱のように ひたひたと差し迫ってきて離れません。俳句と言うより、詩ですね。増田天志様。今回も滋賀から五時 間掛けて遠い香川まで海外旅行お疲れ様でした。相変わらずの鋭いのか温いのか分からない破天荒なご 指摘凄く面白く笑わせて頂き有難うございました。(まだまだ)青春十八(歳)切符でお出でになれる体力 にも敬服致します。やはり先月拳を突き上げ誓った甲斐がありました。また、来年も宜しくお願いいた します。

野澤 隆夫

特選句「玉子粥呆けし母と知恵くらべ(三好つや子)」玉子粥をめぐって作者とお母さんの攻防 があったのだろうか。小生も数年前には母との〝知恵くらべ〟のあったことを思い出します。〝諸行無 常〟遠からず小生にも子らとの知恵比べがあるのだろう…。「ターシャの家ジンジャー堅パン聖樹かな 」問題句というのだろうか?名詞の畳み掛けがターシャの生活を彷彿させてくれる。

三枝みずほ

特選句「踏みだせぬ冬菜ざぶざぶと空の下」空の下で冬菜を洗う日常と、そこから抜け出したい のか?もしくは、何かと葛藤し躊躇している作者に共感しました。「ざぶざぶ」と表していることで全 体を暗くさせず、前向きさも感じられます。冬菜を洗う作者と止まったままの作者の心、静と動の組み 合わせにも感心させられました。

銀    次

今月の誤読●「翡翠が明るみとなる薄き闇」。『フフと小さく含み笑いがこぼれた。怪人二十面 相はひとりごちた。「翡翠には赤もあれば白色もある、だが純粋に蒼いのはほとんどない。これこそが チベットのラマ寺院で千年前に奪われ、皇帝、大富豪の手を転々としてきたキッスイの蒼翡翠だ。この 翡翠を手に入れるに領土の半分を差し出す国王さえいようというものだ」。と、なんと! そのときス テンドグラスが木っ端みじんに割れた。そこにスックと立ったは、我らが名探偵・明智小五郎だ。「二 十面相くん。もう夜明けだ。その「翡翠が明るみになるとき」、さあどんな色に変わったかね?」。二 十面相はハッと翡翠に目をやり、一瞬躊躇した。明智はそのスキを逃さず言った。「本物はこの手にあ るのだよ。さあ、見たまえ」と手にしたものを放り投げた。瞬間、反射的に二十面相はあたかもボール を交換するがごとく、手にした翡翠を明智に投げ返した。「引っかかったね二十面相くん。わたしが投 げたのはよく出来たガラス細工だ。そしておまえが投げ返したのは本物だったんだよ」。「薄き闇」で の明智のトリックプレーだったのだ』(乱歩はここまで読み返して、つまらん、スランプだ。こんなト リックじゃ乱歩の名が廃る。と、原稿を破り裂いた。午前四時、まだ〆切りには間がある)ーー乱歩先 生ゴメンなさーい。

古澤 真翠

特選句「孤独なる魂ひとつ冬すみれ(藤田乙女)」静謐な作者の心が 伝わってくるような句。 言葉を交わさなくても通じあえるようなお人柄に 親しみを感じました。今年も あと僅かとなりました 。来年も何卒よろしくお願い申し上げます。

竹本 仰

特選句「霙しなやかに表出する無人駅(伊藤 幸)」無人駅というのは間違いなく昭和の繁栄の 嵐のあとの空き箱です。マッチ売りの少女じゃないけれど、一瞬夢が燃えさかっていたという事実があ ります。そういえば、昔、倉本聰の「今日、悲別で」という舞台に接しましたが、廃坑に追い込まれる 町の駅から若者たちが次々と都会に出てゆく、その見送りのシーンがあり、その輪の中から一人の青年 が胴上げで放り投げられた瞬間、ストップモーションとなり、「22歳の別れ」のイントロが流れる溶暗 となっていました。あの衝撃というか、一つの時代の見事な切り口に感心いたしましたが、この句は、 その後日談として登場するにふさわしいと味わいました。特選句「鍵探す鍵穴ひとつ冬銀河」この世に 生まれたからには、誰でもひとつの鍵を探してる、しかもそのひとつは意想外の身近なところからとい う感じで受け止めました。そして、身近なところほど、多く神秘は潜んでいると。だから、なぜかこの 「冬銀河」が身近なものとして感じられるところが面白いと思います。というか、冬銀河に住んでいる 私を思い出させる「郷愁」を感じさせてくれ、何か大変うれしいと思いました。以上です。寒くなりま した。句にも、いろいろな寒さが盛り込まれておりました。選をしながら、結構ぬくもってきたのは、 言葉のもつ息吹きのせいだったでしょうか。みなさん、いつも、ありがとうございます。今後とも、よ ろしくお願いいたします。

稲葉 千尋

特選句「四回転ジャンプ蓮の実飛んだ」四回転と蓮の実飛んだの取り合せの良さと共に、スケー トのジャンプが浮ぶ。「霜柱地球防衛合唱団」漢字ばかりでありながら合唱団と捉えた霜柱が嬉しそう 。

町川 悠水

句会のはじめに、出席者は交代制なの?と思われるような顔合わせに、まず驚きました。でも、 通信手段を駆使しての海程香川句会、加えて世話人が、野崎さんですから、こうなのだと納得。なにし ろ、母なる川に帰ってくる鮭のような体で、滋賀の都の俳人まで現れるのですから。本当に驚きました 。その余韻が冷めないところでの選句作業。二回目なので時間内に作業は終えたものの、実際は難航。  では、選評を。特選句「冬の噴水しあわせの呪文唱えるよ」。冬の噴水としあわせの呪文が絶妙。小 生もこのような句をつくりたい。準特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」。蛇が燕の巣を狙うために 、まずドアノブに絡まり、さらに上を狙っているのを拝見したことなど、蛇のウルトラ技を数々見聞し た小生にとって、この句は拍手喝采もの。準特選句「霜柱地球防衛合唱団」。漢詩風俳句は小生の好み 。讃岐平野では霜柱をあまり見かけなく、見かけたにしてもここまでは詠めないでしょう。二年前まで の三十余年間埼玉県中部に住んだ小生には、環境汚染など荒らしまくっている人間に対して、地球が精 一杯の抵抗をみせているという観察が新鮮。佳句ながら問題句「完璧な瑕疵となりたる月うさぎ」。鋭 い捉え方に感心しつつも、選評など聞くうちに問題句に。完璧、瑕疵が厳格表現であるだけに、しかも 瑕疵は普段使わない法令用語であるだけに、なりたるのような曖昧ないしは流れた表現は、作品として むしろ惜しまれるというのが、我流評価。私なら、「完璧な瑕疵であるぞよ月うさぎ」としたいですね 。〈自句自解〉「大根の体操葉っぱの上げ下ろし」は庭のミニ菜園で気づき、出来た句です。大根の葉 は風にも揺れますが、育ててみると雨や日差しによって上げ下ろしをするのです。しかもこの朝は、近 所のラジオ体操に偶々出かけて行き、帰ってきたところで、そうか大根も体操するのだと発見したので した。隠居ならこその発見をお笑いください。

小西 瞬夏

特選句「空箱の溜るくらがり十二月」「溜まる」は「ま」がいるのでは。また、「空箱に」のほ うがいいだろうか。などと細かいところは気になりながらも、十二月の暗がりを空き箱の中に発見され たさりげないところに感銘を受けた。お歳暮やら、年末年始の用意やら、なにかと箱が空になる時期か もしれない。日常の中にふっと訪れる空虚感をとらえたと思う。

KIYOAKI FILM

特選句「バス停は落ち葉の山の吹き溜まり」バス停と落葉の取り合わせが良かった。以下に続く 映像も心地よいです。問題句「火事明かり浴びればみづみづしき躰」 好句です。問題句と言うよりも 、好句です。

野田 信章

「大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ」「骨相のきれいな木です蛇眠る」「悴んできてすこしだけ木 の気持ち(月野ぽぽな)」これらの句は、私にとって、平明にして純粋感覚の句と呼びたい作品である 。しかも確かな肉体の反応がある。今はじめて見たものではなく、この誌上で時折お目にかかるもので ある。独りでのぼせて空回りした作句の途次で、ふっと振り向かせてくれるのもこれらの句である。句 作の原点ここにありと、感のたいせつさを示唆してくれる句が他にも多々ある。年の終りに当り感謝申 し上げます。良きお年を。

河野 志保

特選句「霜柱地球防衛合唱団」漢字の羅列が印象的で、すんなり心に入ってきた。霜柱は大地に 広がる小さな命だと初めて気付いた。自然の営みこそ「地球防衛」なのだと納得。それに朝日に光るさ まは「合唱団」という感じがピタリ。環境への優しい眼差しと深い洞察を感じる句。

重松 敬子

特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」木々は、季節折々の美しさを我々にみせてくれる。すっ かり葉を落としてしまった裸木も、又美しい。虚飾を脱ぎ捨てた、潔さを感じ、自然の懐の深さを感じ させる句だと思う。

亀山祐美子

特選句『父も子も昭和の生まれ大焚火(小山やす子)』焚火を囲む親子の関係性がほのぼのとし て好きな一句です。勝手に頑固親父の棟梁と跡継ぎだと決め付けています。逆選句『火事明かり浴びれ ばみづみづしき躰』「火事明かり」が「大焚火」ならまだしも、他人の不幸を喜んでいるようで不快。 いつもに増して難解な句が多く作者の意図が計り知れない。掴めない。頭が古いのでしょう。

田中 怜子

特選句「柿色に泥む山里離れ牛」風景が浮かびます。もうない世界なのか、まだあるのか、なつ かしい田園風景。特選句「禍も福もつぎはぎ冬温し」こんな穏やかな心境になれるといいけど。

月野ぽぽな

特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」形の整った木の様を「骨相のきれいな」といったところ が手柄。蛇もこの木の元を選んで冬眠しているかのようだ。香川句会の皆様、今年も憲子さんの情熱溢 れ且つきめ細やかなご運営のもと、句会をご一緒できて光栄でした。来年もどうぞよろしくお願いいた します。

小山やす子

特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」独特の発想で面白いです。木の相が想像されて其処へ蛇 を持ってきたのは真似できないです。

夏谷 胡桃 

特選句「亡き母をまだ越えられぬ卵酒」これは卵酒に惹かれました。なぜ卵酒なのだろう。以前 、村の小正月には公民館に女性だけ集まって卵酒を飲みました。私は大量の卵酒を作りました。なぜ、 卵酒?おばちゃんたちは夏祭りの時はビール飲んでいるから飲めない人たちではないのに。そう聞くと 、「そういうものだ」と言います。村は農村ではなく、山村です。炭を焼いて熊を撃って暮らしてきま した。戦争中は男たちが戦争に取られ、女性はドングリや木の根まで食べ、子どもを育てました。炭俵 も担ぎました。たくましく明るく優しい女性たち。もっと教えて欲しいことがあったのに、ひとり死に ふたり死に、小正月の集まりはなくなりました。私は、そんな母たちを越えられずに年だけ取っていき ます。こんなことを思い出した句です。特選句「東病棟あおしさむし馬繋がれ」たぶんわかりづらい句 なのかしら。私にはイメージが浮んできた俳句です。私は山暮らしをやめ、精神科病院勤務をしていて いました。精神科病院には、こういう感じがあると思ったのです。貧しい山里には生があったのに、近 代的に見えるきれいな精神科には生がない。あおしさむし馬繋がれているような感じです。この句の作 者はどんな人、どうしてこんなことがわかるのと思いました。問題句「鍵探す鍵穴ひとつ冬銀河」惹か れる句です。でも、なんだか既視感があって、特選にできませんでした。勘違いかもしれません。追記 :今月から参加します。岩手に住む夏谷胡桃です。句会というものに出る機会もないまま俳句を続けて います。思うように作れなくて、何度俳句をやめようかと思ったことか。でも、やめられそうもないの で、もう少し勉強していこうと思いました。よろしくお願いいたします。四国はあこがれの地です。お 金と時間ができたら四国と山陰を旅したいと夢見ています。

中西 裕子

特選句「踏みだせぬ冬菜ざぶざぶと空の下」踏み出せずとためらっているのに、ざぶざぶといさ ぎいい音との対比がおもしろいと思いました。「大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ」の冬夕焼けが大空の しびれという表現も、しもやけを連想して面白かったです。今年は雑事に追われ、ご無沙汰ばかりで来 年は余裕があればいいな。余裕は自分次第よ、といわれそうですが。ご迷惑かけ通しですみませんでし た。懲りずに来年もよろしくお願いいたします。

寺町志津子

特選「戦を語る義父よ秋ぐみ噛むように」句意的にはよく見受けられるようにも思うが、「秋ぐ み噛むように」で、詩情溢れる句に。且つ新鮮。今こそ聞いておきたい戦争体験談。夏ぐみに比し、よ り素朴で野趣味のある秋ぐみ。義父の真摯な語り口、姿が、静謐かつ情感豊かに伝わり、それを聞き入 っている作者の義父への温かな気持ちも思われて心打たれた。特選&問題句「雪が降るどこかでピアノ 誰か病み」妙な選評であるが、下五の「誰か病み」の「誰か」の良し悪しが私には判断できず、その意 味で、私にとっての問題句と言えよう。まるで、映画か小説のプロローグのよう。これからどんな展開 があり、どんなエピローグが待ち受けているのか想像が膨らみ、最後まで特選を外せなかった。

桂  凛火

特選句「骨相のきれいな木です蛇眠る」骨相がきれいとは言いえて妙ですね。そこに蛇が眠るっ て絵になります。クール過ぎず甘くなく美しい絵のような世界観ですね。とても心ひかれました。〈で す〉の多用はどうかなと、おもうことも多いのですが、やはりここではいい味が出たと思います。

伊藤 幸

特選句「四肢軟弱のわれ山繭の重ね着美し」昨年半月版損傷で手術した。吾が身に降りかかって 初めて他人の痛みを知った。懸命に積み重ねた太く光沢のある繭は誰が見ても美しい。軟弱と諦めてし まわず作者にもガンバレとエールを送りたい。山繭の重ね着という表現に脱帽。特選句「禍も福もつぎ はぎ冬温し」何十年も生きていれば紆余曲折悲喜交々数々の禍福に遭遇する。今となればそれ等も皆よ き思い出。つぎはぎと笑いつつ言える年齢に達し、又冬温しと締められた潔さに敬意を表したい。

郡 さと

言い過ぎている句と、反対に言葉と背景の足らない句。勉強不足を感じた一年でした。(私が) 説得不足の私の選に、お付き合して下さって有り難うございました。ただ 俳句の世界は広くて、奧が 深いから、選に一喜一憂はいらない。どこかで、誰かに理解されるし、又、反対のこともあると感じた 一年でした。良いお年を。

高橋 晴子

特選句「すべりひゆ母より享けし蹠かな」・・「母より享けし足のうら」に、「すべりひゆ」と いう植物を対したところに響くものを感じる。問題句「さっきまで体にあった鵙の声」面白い句で、「 体にあった鵙の声」がどういうことかもっとわかればいい。単に耳に残っていたということなのか、そ れとも他の何かを感じていたのか。全く趣は別だが、楸邨に「冬鵙と共有世界もの言ふな」これは人間 関係をいっているのだが、なくなったことで、あったことを感じさせられた面白い表現で気に入ってい るが。

谷 孝江

特選句「雪女と君の背中に書いてある」雪女もこんな風に表現されると面白いですね。妖しくて ユーモアがあって、私も一度会ってみたいです。特選句「火事明かり浴びればみづみづしき躰」夜の遠 火事でしょうか。何かしら新鮮な情景が感じられます。今年もたくさんの句に出会えて学ばせて頂き有 難うございました。来年も何卒よろしくお願い申し上げます

藤田 乙女 

特選句「柿色に泥む山里離れ牛」原発や噴火などの災害で人間が手放さざるをえなかった牛たち のことを想像し、切ない気持ちになりました。大いなる自然の中で人間も生かされているもののひとつ であることを謙虚に受け止めて、生きるべきだと感じるこの頃です。「よく話す雀に会える冬うらら」 良寛さんの歌を連想しました。また、孤独な気持ちに日差しが差し込んでくるような感じや爽やかさも 抱きました。皆様のコメントを読ませていただくことが、初心者の私には、とてもよい勉強となってい ます。ありがたく思います。

野﨑 憲子

特選句「大空のかすかな痺れ冬ゆうやけ」天空は生きもの。その少しの変化に作者は耳を澄まし 眼を凝らす。その痺れは、人類の引き起した大気汚染やテロ事件が発端なのであろうか、凍て空に、夕 焼けが美しい。問題句「完璧な瑕疵となりたる月うさぎ」・・「完璧な瑕疵」って何?お月さまの兎が 、ビックリするような一句です。でも、不思議に、惹かれる作品でもあります。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

草刈鎌
天辺に朝日や冬の草刈鎌
野﨑 憲子
胸ぽんと叩き草刈鎌の術
増田 天志
こぶし降る港々の酒場かな
銀   次
宝船帆を降ろしたる夢港
中野 佑海
凍星
凍星や癌切りし夜の痰切れず
野澤 隆夫
マッチ棒焦げゆく芯は凍てる星
増田 天志
暖炉
暖炉より猫跳飛しぬ反抗期
町川 悠水
惻隠の暖炉でありし人の暮れ
中野 佑海
おしくらまんじゅう
極点のおしくらまんじゅうシベリア犬
銀   次
おしくらまんじゅうおいら絶対強くなる
野﨑 憲子
クリスマス
硝子器にあまたの指紋クリスマス
増田 天志
狂女らがクリスマスツリーを曳ゐてくる
銀   次
綿虫
綿虫とふ発火寸前の闇である
野﨑 憲子
綿虫の万華鏡なるハイウェー
中野 佑海

句会メモ

今回は、大津より、増田天志さんが参加され、三か月ぶりの漆原さんや、先月からご参加の町川さん 、そして野澤さん、銀次さん、私の6人での句会のスタートでした。男性ばかりに囲まれて、なんだか、私も、男性に なったような不思議に華やぐ気分、なかなか良いものですね。間もなく妙齢の佳人、中野さんの登場で、 バランス的にも落ち着き、句会も、ぐんと盛り上がって行きました。事前投句の合評は、気に入った作品への 鑑賞が分かれたり、意気投合したり、まさに<人生いろいろ>でした。続く、袋回し句会も、作者の色合いが垣間見られて興味深かったです。

平成二十七年が終わろうとしています。お陰さまで、「海程」香川句会は、今年、発足五周年を迎えま した。六月には、いつもの句会場を飛び出して、塩江・志度吟行に出かけました。武田編集長を始め、 月野ぽぽなさん、田中怜子さんなど、遠路おいでくださった方々もあり、生の吟行句会の醍醐味を存分に堪能しました。感謝です。

それぞれの作品が、ぶつかり合うことで、新しい発見が生れます。作者も、個性豊かな方々ばかりで、作品も、多様性を帯び、これからの句会が、ますます楽しみに なってまいりました。来年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

2015年12月2日 (水)

香川句会報 第56回(2015.11.21)

mini_151125_11240001.jpg

事前投句参加者の一句

  
亀と石どちらがどっち庵治小春 町川 悠水
秋の昼はがき一枚持ち歩く 三好つや子
生きている自分にびっくりバッタ飛ぶ 河野 志保
コオロギは金属質な傷である 増田 天志
立冬の吾子に似し子よ幸せか 鈴木 幸江
冬灯し耳を寄せ合う男たち 桂 凛火
猪の花道転ぶ(まろ)村芝居 野澤 隆夫
葛の葉や古里包む力あり 髙木 繁子
じっと蓑虫飯ひとつぶを糊にして 矢野千代子
月桃の葉に秋の海荒れてきぬ 高橋 晴子
望の月獣の走り抜けてをり 亀山祐美子
モナリザの涙血に染め雁渡る 藤田 乙女
子宮軽し南天の実のよく揺れて 小西 瞬夏
赤唐辛子いずれ無になる骨密度 若森 京子
幸せってこんな風景柿たわわ 重松 敬子
掌の中の時間こぼれてゆく立冬 谷 孝江
困民今に無患子の実の冷え透る 野田 信章
雁渡し哀しみは哀しみもて癒えり 寺町志津子
地平線酸っぱし別れを木の葉とは 竹本 仰
冬はじまる全ての塔を尖らせて 月野ぽぽな
湯豆腐や丈夫なことも辛きこと 尾崎 憲正
冬の鳥眼下難民船の行く 田中 怜子
愛にかはる恋追っかけている冬日 柴田 清子
冬麗や十七帖を書く翁 漆原 義典
遠眼鏡に小舟入りくる小春かな 郡 さと
出来立ての入り日スープにハロウィーン 中野 佑海
筆談は抱かれるごとく星月夜 伊藤 幸
偏頭痛女みたいな霙です KIYOAKI FILM
宗達の伸びやかさがほしい我が俳句 古澤 真翠
大蟷螂轢死夢の野は青し 小山やす子
銀閣に紅葉金閣に夕紅葉 銀   次
菊花展芭蕉は武士を捨てしかな 稲葉 千尋
闇を吐き海鼠集まつてゐる 三枝みずほ
山茶花の夕べは風の鼻が見ゆ 野﨑 憲子

句会の窓

野澤 隆夫

特選句と気になる句「出来立ての入り日スープにハロウィーン」真っ赤な夕日は出来立て。出来立ての夕日が出来立てのスープに輝く。カボチャのスープにハロウィーンの子供たちの歓喜が見える。「モロゾフの大きな袋の中も冬」チョコレートの袋の中にほっこりとした冬を作者は見つけたのだろう。問題句「十一月十三日エッフェルタワー合掌す(月野ぽぽな)」自由、平等、友愛の国での同時テロを、時系列で作句された作者が凄い。エッフェル塔に合掌のポーズを見立てたとか…。

古澤 真翠

特選句「冬麗や十七帖を書く翁」「義之の十七帖」でしょうか。冬麗の翁は、ご本人様なのでしょうか。世俗から離れた情景が浮かび、墨の香までもそこはかとなく漂ってくるようで何故か魅かれる句です。

三枝みずほ

特選句「赤唐辛子いずれ無になる骨密度」唐辛子の形はやせ細っていく身体に似ています。いずれ無になる身体ではあるけれど、唐辛子の強烈な辛さ、赤さに生命を感じました。儚さの中にある最期の強さみたいなものに共感しました。

町川 悠水

特選句「宗達の伸びやかさがほしい我が俳句」は、熟年男性の作とみえ、それがそのまま小生の年齢、男心とも重なって、感銘を受けると同時に、お互い頑張りましょうとエールを送りたくなる作品です。理屈無用の名画からは、根源的なエネルギーさえ貰えるように思いますね。準特選句「モナリザの涙血に染め雁渡る」は、新参者の小生にとって、異彩を放つ海程句会でも最初に瞠目した1句。短時間の選句作業では見えてこなかった句の背景とか作者の意図というものが、時間の経過のなかで見えてくるような気分で、何か示唆されるようなものも覚えます。「冬麗や十七帖を書く翁」も佳句としていただきました。こうした句に触れると、何だか我が物にしたいような勝手ごころが蠢いて、早速いじってみることです。失礼ながらそれは、”冬麗翁の手習ひ十七帖”。〈追記〉このたびご縁をいただいて初参加させていただいた者です。関東で長く暮らし、昨春先祖の地の高松に舞い戻って来ました。海程とは、埼玉住まいだったことから、金子先生の吟行、講演には数回参加させていただきました。また、朝日新聞の埼玉文化では阿部完市先生によく選んでいただきました。そうした過去も大事にしながら、新たにどうぞよろしくお願い申し上げます。→こちらこそ、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

銀   次

今月の誤読●「冬灯し耳を寄せ合う男たち」。まあ季節は「冬」とあるから冬なんでしょうね。「灯し」ねえ。これは語感からしてロウソクないしはランプと見立てたい。そのほんのり薄暗いなかで「男たち」が「耳を寄せ合う」んです。なんなんでしょう、この光景は。まず男たちの人数が肝心です。二人だとこれはかなり淫靡です。耳だからいいけど、その二人が口を寄せ合うなどとなったら、これはもう薔薇です。門外漢のわたしとしてはちょっとごめんこうむりたい。わたしのイメージとしては、その男たち、十人程度が望ましい。できれば全身白塗り、スキンヘッド、六尺ふんどし。彼らが薄明かりのなかで耳を寄せ合う。おおおお、見たいです、そのパフォーマンス。BGMはバロック音楽がいいかも。やがて男たちはスキンヘッドのアタマを寄せ合う。ここで円形になる。次いで、ホクロを寄せ合う。これは高難度の技です。目尻のホクロとお尻のホクロ、胸のホクロとくるぶしのホクロ、これらを寄せ合い集合体となる。ピカソも驚くオブジェができあがるのではないでしょうか。あと足の裏を寄せ合うとか、脇の下を寄せ合うとかして、最後は耳に戻る。冬なのに男たちから立ちのぼる汗の蒸気。さあ前売り2300円、当日券2500円。リクエストをいただければうちの劇団でやりますが、いかが。って、やるか、そんなもん。

桂 凛火

特選句「闇を吐き海鼠集まってゐる」海鼠という生き物の姿は、とても不気味ですが、「闇を吐き」ということで不気味さが倍増し気持ち悪さの感覚がよく伝わります。何かへの危険を感じ惧 れのような感覚が伝わりよかったです。私は、時代感覚としての不気味さというように解釈し、読ませていただきました。問題句「冬の鳥眼下難民船の行く」風景がよく見えていいと思いました。冬の鳥が見ているように読めるのですが それでいいのかと少し疑問が残ります。

KIYOAKI FILM

特選句「もつれ合う秋蝶別れのタンゴかな(寺町志津子)」なにか壮年の男性の顔が見えた。タンゴに熱中しているおじさん。そのおじさんの汗まみれの顔が見えて来る。息も伝わる。とても面白い。特選句「生きている自分にびっくりバッタ飛ぶ」一行詩と思い、大変愉しみました。「自分にびっくり」と「バッタ飛ぶ」の両者の顔が良く見える。この少年は余り体育系じゃないような…。理系のような気がする、自然的な面白さがこもっている。問題句「どの子にも青空があり冬隣」何故問題句なのか…自分でもよく分らない。よく分らなくなる句。いい意味でもそう思う。一読して、青空が広がる。それは凄く好き。ただ「どの子にも」が気になった。良い俳句だけど、鑑賞すると分らなくなる一句でした。

小西 瞬夏

特選句「冬はじまる全ての塔を尖らせて」塔はいつも尖っているのだが、寒さが厳しくなってくると、世界はあらためてこのように見えてくる。その神経が研ぎ澄まされるような気分を「全て」がしっかりと捕まえている。

増田 天志

特選句「空也忌の片目つぶって見る枯野(谷孝江)」冬すみれ義眼すすげば真珠箱。特選句「病院の窓はカンバス雪はじまる(月野ぽぽな)」にんげんの死は、小さくなってしまったなあ。

野田 信章

特選句「雁渡し哀しみは哀しみもて癒えり」は、個的な哀感というよりも、社会的な事象の哀そのものとして鑑賞したい句である。青北風という季節の変化(時間)の中での感のうごきとして「癒えり」と言い切ることで明日へつながる心情の厚みを想う。

中野 佑海

特選句「じっと簑虫飯ひとつぶを糊にして」簑虫の様に手も足も出せず只風に揺られてぶら下がっているだけの私。何も出来ず、期待されもせず。只、じっと糊口を凌ぐのみ。だけど、必ず春はやって来る。只このままでは終わらない。蝶にはなれないけれど、必ず羽ばたく時はやって来るわ!!と夢うつつの三年寝太郎状態です。を上手くコンパクトに表していると思います。来月は絶対楽しみに行くぞと誓いを新たに握りこぶしをしている中野佑海です。

三好つや子

特選句「闇を吐き海鼠集まってゐる」北陸の漁師の血を引く母の好物だった海鼠は、私にとって、故郷を出奔し他郷で生きた母の人生をひも解くキーワードの一つ。母の闇って何だろう・・・そんな事を感じさせてくれる句です。特選句「銀閣に紅葉金閣に夕紅葉」豪華絢爛な金箔屏風をぬけ出てきたかのような、古都の紅葉の美しさが幾重にも重なりあい、響きあい、目に焼きつきました。「冬灯し耳を寄せ合う男たち」明日が見えにくいこの時代に、耳を尖らせながらバラバラに群れている男達を詠んでいるのでしょうか。さびしいけれど、力強さがあり、魅力的。

伊藤 幸

特選句「じっと蓑虫飯ひとつぶを糊にして」幼い頃、糊を探していると父に「飯粒を使え」と言われ使った事を思い出した。蓑虫の動かざる存在感と古来から伝わる千恵袋が響き合って佳句をなしている。特選句「裸像まっすぐ指さす東方秋曇る(野田信章)」秩父道場に参加した際、椋神社を訪れた。明治時代、秩父事件で秩父困民党の本拠地となった大宮郷である。裸像の指さす怒り、不勉強ゆえに知らなかった史実を目の当たりにして、ものの溢れる時代に生きる私達の幸せ或いは不幸せを強く感じた。「秋曇る」が効いている。

尾崎 憲正

特選句「葛の葉や古里包む力あり」葛のという植物の生命力は大変なものです。地下茎に蓄えた栄養で一気に成長します。その生命力の強さをふるさとを包み込むと表現したことに作者の目の確かさと表現の巧みさを感じました。きっと作者には、ふるさとさえも包み込む優しさがあるのでしょう。

稲葉 千尋

特選句「秋の昼はがき一枚持ち歩く」何でもない日常の景、ポストを探してぶらぶらと歩いている作者。特選句「幸せってこんな風景柿たわわ」最近、採る人もなく柿がそのままになっている景をよ見る。でも、それを見ていると幸せ感、平和感を感じる。 月野ぽぽな◆特選句「生きている自分にびっくりバッタ飛ぶ」過去に生死の境を行き来する経験があったのかもしれない、今生きている奇跡を思う茶目っ気のある中七。バッタが飛ぶすがたには、生命の不思議と驚きが投影されている。

鈴木 幸江

特選句「生きている自分にびっくりバッタ飛ぶ」バッタに驚いた状況句と取った。人間は自然界の一部であるのに、そのことを忘れていることが多い。バッタにびっくりするのは、人間に備わっている生きるための本能活動の一部だ。作者は、そんな自分に改めてびっくりし、己が命を再確認したのだろう。「生きている自分」と言う言葉がストレート過ぎるが、命の有態をこのように確認するのは貴重な営為だと思い特選に頂いた。特選句「子宮軽し南天の実のよく揺れて」出産経験のある身だが、身体の中のこととなると、これがよくわからない。空っぽになってしまった子宮の状態というものが医学的にあるのかないのか分からないが、空の状態を想った。南天の実がよく揺れるのを見て、その軽やかさを実感したのだ。歳を取ることの句と受け取り、こういう歳の受け入れ方もあっていいと思った。問題句「地平線酸っぱし別れを木の葉とは」 私には、難解句であった。地平線が酸っぱいとはどういうことだろうか。地球は丸いのに地平線は水平という納得いかないようないくような不可解な思いがあることはある。それを酸っぱいと感じたのか。やっぱり、よくわからない。木の葉が散るのは、未来のある別れだ。そんな別れの見立てを評価もしているのだと思った。なんだか纏まらないところも、問題になる。

亀山祐美子

特選句『子宮軽し南天の実のよく揺れて』 「子宮が軽い」と、空虚感を現す言葉に「南天の実」の豊稔感、解毒作用を併せ不安感を煽り、「よく揺れて」で安堵に落ち着く。何があっても自然は、時間は過ぎ行く。ただの心情を深読みし過ぎるかも知れないが、反戦、反テロをも感じさせられる。特選句『闇を吐き海鼠集まってゐる』「海鼠が闇を吐く」 という発想が面白い。おお、そうなんだと納得させられる。先日青空市の生け簀で十数匹の「海鼠が集まってゐる」のを見かけたが、不気味だった。海底のある一点に海鼠が集中するのを想像するのは、それが、繁殖の為だとしても怖い。だんたんと歯が立たなくなってきたのが残念ながら、食す度に、最初に海鼠を食べた人は凄いと思う。これまた深山読みで申し訳ないのだが、テロの不気味さを感じた。問題句『じっと蓑虫飯ひとつぶを糊にして』風が吹けば揺れるが、基本蓑虫はじっとしているので「じっと」は不要。「蓑虫の」なら特選で頂きました。皆様の句評楽しみにしております。

河野 志保

特選句「じっと蓑虫飯ひとつぶを糊にして」木枯らしに吹かれる蓑虫を思い出した。どういう仕組みになっているのか分からないが、わずかな接点で木などにしっかりくっついている。かなりの強風にも負けず耐えている感じだ。その姿は本当に愛おしい。「飯ひとつぶを糊にして」の把握がぴったりで、作者の発想の自在さにひかれた。

郡 さと

特選句「望の月獣の走り抜けてをり」満月の夜、獣の咆哮が聞こえる。人間を含めて動物は無意識に先祖返りする一瞬があって得体のしれぬ不安に襲われる。そんな情景が目に浮かぶ。「幸せってこんな風景柿たわわ」「掌の中の時間こぼれてゆく立冬」のんびり生き、俳句作って小さな幸せを感じる。「冬の鳥眼下難民船の行く」良い句です。エッフルタワーのあるパリ、日本だって他人ごとではありませんよねー。

漆原 義典

特選句「愛にかはる恋追っかけている冬日」は、冬の日の情景と心情を、愛と恋で上手く表現していると感心し特選とさせていただきました。

田中 怜子

特選句「亀と石どちらがどっち庵治小春」イサムノグチの石の庭園を思い出します。黄土色の地面に亀か石か、瀬戸内の小春日和を感じます。特選句「立冬の吾子に似し子よ幸せか」作者が吾子に似し子を思う気持ち、作者が幸せなのか、いろいろ思いがひろがります。

谷 孝江

特選句「団栗の道に転がるのは私(河野志保)」あっけらかんとした自由さが良い。深刻では無く、さらりとした感じが好き。特選句「冬はじまる全ての塔を尖らせて」今日、木枯らしが吹いています。葉を落ち尽した木々も、ご近所の教会の屋根も墨色の雲の下の家々の屋根瓦も風速?メートルの中にあって孤独に尖って見えます。いよいよ北国の冬のはじまりです。冬に向かって私、身構えてます。

寺町志津子

特選句「困民今に無患子の実の冷え透る」“うまい ”と感銘。秩父困民党の歴史的事件もあったが、「困民今も」の上五の現実が、中七、下五とよく響き合い、格調高く、一押しの句。「掌の中の時間こぼれゆく立冬」実感。正にこれから寒さに向かう立冬の如し。「どの子にも青空があり冬隣」上五、中七で、極く平易な言葉で当たり前のことを詠んでいるが、下五の「冬隣」で、さて現状はどうだ、と問いかけられたようで、当たり前になっていない現実に心痛み、全ての子どもに青空ある希望を、と切に願う。今回も迷いに迷った選句。表現の仕方はもとより、諧謔あり、ミステリアスあり、身につまされる句、心引き締まる句、心和む句等々多くの魅力的な句に出会えました。

小山やす子

特選句「じっと蓑虫飯ひとつぶを糊にして」一粒のご飯を糊にしている自分と蓑虫との対比が面白いです。蓑虫に自分を重ね合わせているように感じました。

藤田 乙女

特選句「掌の中の時間こぼれてゆく立冬」限りある時間への惜別の思いがしみじみと心に響いてきます。銀次さんの「今月の誤読●」を、毎回とても楽しみにしていてわくわくする思いで拝読しています。未熟で知識も浅く作句や選句に苦労している私ですが、今月の誤読を読ませていただくと、頑張ろうという元気が出てきて前向きな気持ちになります。多面的な物の見方や感じ方を楽しく教えてくださってありがたいです。

高橋 晴子

特選句「どの子にも青空があり冬隣(三枝みずほ)」青空に希望を感じさせる。

野﨑 憲子

特選句「生きている自分にびっくりバッタ飛ぶ」草むらで不意にバッタが飛んだ。その刹那に、自分のいのちを感じる作者。生かされている自分。自分は、バッタかも知れない。加藤楸邨の「しづかなる力満ちゆき螇蚸とぶ」を思いました。作者の感性の豊かさ・・・・、びっくりポンです。問題句「コオロギは金属質な傷である」コオロギは金属質、まではわかります。その後にくる「傷」で詩となっていますが、生きものを傷と見立てるのには、いささか違和感があります。そこがまた、良いのかも知れませんが、私には、極めて問題句であります。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

兄弟・姉妹
わけあって狐火となる姉妹(あねいもうと)
柴田 清子
さぶちゃんの〝兄弟船〟だよ冬ぬくし
町川 悠水
ホントだよ峠の案山子は兄ちやんだ
野﨑 憲子
初舞台
だまし絵のお題出されて初句会
郡 さと
ひつじ数えて夢の中の初舞台
三枝みずほ
木の実落つまたもうひとつ初舞台
野﨑 憲子
初舞台恐ろし顔見世海程は
町川 悠水
塚穴にころがってゆく寒卵
柴田 清子
目覚むれば塚と添ひ寝の冬戦さ
銀   次
塚を出てこれより先はひとり
三枝みずほ
塚いらぬ八百万の神々よ
野﨑 憲子
阪神塚口駅前着ぶくれて通る
郡 さと
殺人
この路地で殺人ありし冬の暮
野澤 隆夫
極月や空き缶にいる殺人鬼
三枝みずほ
村歌舞伎ま白き鼻に赤いべべ
郡 さと
小春日の小さな鼻を持ち歩く
柴田 清子
鼻傷のぴくり引きつる夜寒かな
野澤 隆夫
冬の鼻かめば龍之介出て来るか
町川 悠水

句会メモ

11月7、8日と「海程」秩父俳句道場に行ってまいりました。道場の熱気の余韻を感じつつ句会場へと向かいました。先ず、会場に入ってこられたのは、初参加の町川悠水さんでした。書家のような颯爽とした和装の出で立ちで、爽やかな微笑を浮かべで名乗ってくださいました。関東にお住いの折、金子先生とも面識がお有りとのことです。町川さんのご参加で香川句会は、ますます多様性を帯びて楽しくなってまいりました。これからが、ますます楽しみです。

今回も、色んな作品に出会へ至福の時を過ごすことができました。ありがとうございます。新しい風の気配を、ますます強く感じるこの頃です。私自身も、じっくりゆっくり精進してゆきたいと念じています。「平和」に対する、鋭い視点の作品が増えたことも、喜びの一つです。今後とも、思いっきり自由な作品を!よろしくお願い申し上げます。

2015年9月30日 (水)

香川句会報 第54回(2015.09.19)

   

事前投句参加者の一句

人間やくるり丸太となる晩夏 若森 京子
自由に歩く陸奥東京のスクイズ KIYOAKI FILM
萩の庭ふわりふわりと米寿かな 髙木 繁子
十五夜の少年手首より病めり 小西 瞬夏
こぼれ萩両手で受ける喪失感 重松 敬子
人たまに枯れ向日葵に口づける 鈴木 幸江
万感の帆のやう夏の雲うごく 竹本 仰
かたつむり欅は何時も静かな木 小山やす子
ええっ今なにか言ったの赤とんぼ 増田 天志
揺り椅子とビールと九月老水夫 銀   次
放哉の道とぼとぼと赤とんぼ 古澤 真翠
全身が髪ずぶ濡れの曼珠沙華 柴田 清子
老いの夜を独り占めして鳴くちちろ 藤田 乙女
ラ・フランス観音さまに腰まわり 稲葉 千尋
稲藁を焼きし郷愁我を焼く 中野 佑海
始まりは貧しく若い合歓の花 河野 志保
一塊の牛酪(バター)となりて夏終る 尾崎 憲正
ロボットを作る小5の夜長かな 野澤 隆夫
箱庭に微熱をこぼす秋揚羽 三好つや子
コスモスや空缶とわたしポコンと置かれ 久保 智恵
虫の音と赤子の声と競う夜 中西 裕子
生死(いきしに)の話ぶどうチュウチュウ吸っている 伊藤 幸
蕪村遠く青きペティキュアの晩夏かな 桂 凛火
存分に海を見し眼に女郎花 高橋 晴子
彼岸花のまっ只中という居場所 谷 孝江
<国会にて強行採決>秋霖や石棺内の耳ふさぐ人 田中 怜子
昼行燈なれど乙なり榠樝の実 寺町志津子
くずのはな被爆童子とのみ銘す 野田 信章
箱しめて簡単な闇九月尽 月野ぽぽな
秋天へ木登りの足よく伸びる 三枝みずほ
たもとほるデカルトカント大花野 郡 さと
月光や鎮守の森は音楽会 漆原 義典
ころがりし秋のかたまり石白し 亀山祐美子
野分だつ首に形状記憶シャツ 矢野千代子
鬼灯や原日本人の腰骨 野﨑 憲子

句会の窓

月野ぽぽな

特選句「ラ・フランス観音様に腰まわり」そういえばラ・フランスのふっくらした部分は腰まわりのように見える。自然の恵みと慈悲深い観音様との出会いはさりげないが、そこを結ぶ感覚は冴えている。ラ・フランスの味も甘露のようにも思えてくる。おおらかな詠いぶりも内容に合っていて、読後はとても豊かに気持ち。

中野 佑海

特選句「昼行燈なれど乙なり榠樝の実」昼行燈は役に立たない象徴。かりんもそのままでは食べられないし、重いし、ねっとり臭いし、固いし。黄色くて形も何気に行灯に似ていて。でも、蜂蜜に漬けると、香しい匂いと味と喉の荒れに効く素晴らしい薬に変身です。この長々と言っている説明を一言で言い得て妙なところがとても乙な俳句と思います。

野澤 隆夫

特選句「揺り椅子とビールと九月老水夫」モノクロのヘミングウェーが目に浮かびます。「若い人」では全く興ざめで「老水夫」がいいです。特選句「一塊の牛酪(バター)となりて夏終る」…「バター」は「牛酪」と漢字で書くのですね。小生も今年の夏は、〝一塊のバター〟で終わった感じです。問題句(国会にて強行採決)「秋霜や石棺内の耳ふさぐ人」…「詞書」(言葉書き)と言うのでしょうか、「国会にて強行採決」でこの句がよくわかります。9月4日のTV「ミヤネ屋」で突然、阿部首相が出演しびっくり!思わず時事句?「テレビでも首相饒舌野分過ぐ」と作りました。

小西 瞬夏

特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」秋になると闇が深くなるようだ。気分的にも夏よりは少しブルーになる。そんな作者は箱の中に小さな闇を見つけた。それは自分の中にある闇と相似形なのだ。それは箱をしめることで作ってしまえる簡単な闇。開けるのも意外と簡単なのだ。ただ、自分が箱を開けるのか、しめるのか、そのちょっとした意思が必要なだけだ。そんな闇の描写を「簡単な」とそっけなく言ってしまうことで、そのちょっとした意識の重要さに気付く。

田中 怜子

特選句「白雨来て裸の大地想像す(河野志保)」突然の雨、たちまち土の野性的な匂いが立ち上がり、裸の大地を実感します。特選句「ころがりし秋のかたまり石白し」空気が透明になり、木の葉のからからと転がる音も聞こえるような秋を感じます。

古澤 真翠

特選句「長月や雫のようなことば積む(若森京子)」言の葉を大切になさっておられる作者の 穏やかなお人柄が垣間見えるような句だと感じました。お友達になりたいと思いました。

増田 天志

特選句「人たまに枯れ向日葵に口づける」私情と詩情とのアマルガム。俺なら、薔薇の棘に、くちづけるだろうよ。覚醒には、血の匂い。

竹本 仰

特選句「くずのはな被爆童子とのみ銘す」原爆の行方不明者の一人の方の墓碑銘のことを詠んでいらっしゃるのでしょうね。行方不明という事実を知ったという形での作品でしょうか。おそらく、無縁仏というかたちで、誰か葛の花をお供えしていたのでしょうか。そうされた方も、あるいは行方不明の身内の方が、おありなのかもしれませんね。そういう想像を「のみ」という助詞が促しています。話は変わりますが、日本とドイツにだけ、化学兵器の解体を専門にしている方がいるというのを知っていますか?それも民間の会社(日本ではただ一社)で、中味の分らない化学兵器を、色んな方法で中身を分析しその器の中で解体させたりするのだそうです。そういう化学兵器は、第一次、第二次大戦の区別なく、世界中地の中に無数に転がっているのだそうですが、気の遠くなる人類の遺産です。特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」ああ、これは、死のことかな、と思いました。こういう「簡単な闇」であればいいなと、つねづね思っております。伊東静雄に「倦んだ病人」という作品があって、入院中の病舎が停電している状態で「ははあ。どうやら、おれは死んでるらしい。いつのまにかうまくいつてたんだな。占めた。ただむやみに暗いだけで、別に何ということもないようだ。」と勘違いし安心する自画像を描いていました。これを若い頃読んで、心底、ああ、いい、これいい、と感動した小生であります。きっとこの箱の蓋も軽いんだろうなあと、こういう無常感、大変好ましく思い、採らせていただきました。「たもとほるデカルトカント大花野」は、音だけで楽しく、取りましたが、何となくこの自棄気味な味があり、お堅い男子とデートしているような、でも、「熱い血潮に触れもみで」と挑発しているような面白さもあって、なかなかのもだと、いい味わいをいただきました。

KIYOAKI FILM

問題句「(夜のアドリア海にて)眠る湾どこかに難民(ふ)船(ね)が月涼し(田中怜子)」一読、大変面白く、痺れる。しかし、どうもわからない。ナニカ引っ掻かる。面白いけれど、なにか引っかかる気がしました。ルビ表記の目立つ魅力ゆえの読者の感情かもしれません。特選句「(国会にて強行採決)秋霖や石棺内の耳ふさぐ人」良かった…。国会を石棺内とはそのもので、そうか、こう言えるのか、と、面白かった。句とは別に今の国会、政治、無茶苦茶酷いですね。酷いなあ、と思う春夏秋…冬は更にか!…。「耳ふさぐ人」に共鳴。右の聴覚失った者としては、きつかったです。

伊藤 幸

特選句「稲藁を焼し焼きし郷愁我を焼く」、贖罪の意を含んでいるのか?故郷を離れ或いは捨て、元には戻れぬと分かりつつも郷愁に浸る、その思いがひしひしと伝わってくる。「人間やくるり丸太となる晩夏」晩夏が効いています。打つべき策が見つからなくもうどうにでもなれ!と開き直った時、不思議と人間は強くなれるものです。深読みでしょうか?「人たまに枯れ向日葵に口づける」人間長い事続けていると疲れることしばしば。向日葵の明るさ強さに助けを求めたくもなります。たまになら良い方です。「木の実拾う神の許し乞ふ時は(柴田清子)」  クリスチャンかな?いかなる罪も許しを乞う者は全て神は許し給う、と昔教わりました。「木の実拾う」の優しい表現好きです。「たましいは弾ますものよ花野にて(若森京子)」落ち込んだ時、自分を励ます者は自分しかいません。花野の中で精一杯元気を取り戻してください。「箪笥黴び母の匂ひをもてあます(小西瞬夏)」母の思い出の詰まった箪笥。捨てるにしのびなく「もてあます」。女性であるが故の母への思いがよく表されている。「くずのはな被爆童子とのみ銘す」・・「くずのはな」が悲しいしいですね。広島、長崎での被爆者の中には性別さえ不明で多くの方が亡くなられ、特に童子という字に涙してしまいます。因みに私の伯母従兄も被爆で命を落としました。

漆原 義典

特選句「秋の部屋九官鳥の独り言(三枝みずほ)」は、秋のもの悲しさを九官鳥の独り言でうまく表現し、繊細で素晴らしい句であると感動じました。

三好つや子

特選句「自由に歩く陸奥東京のスクイズ」周りの空気を読み、それに応えないとどんどん孤立してゆく現代社会。素のままで自由に生きれたら・・・そんな気持ちが「東京のスクイズ」に投影され、惹かれました。特選句「箱しめて簡単な闇九月尽」夏という激流の時が過ぎ、からだとこころが空っぽな九月。この季節に漂う喪失感がレアに伝わってきて、共感。問題句「コスモスや空缶とわたしポコンと置かれ」特選にしたいほど、作者の目線が面白い。しかし、俳句としてまだ立ち上がっていないような気がします。

寺町志津子

特選句「父憶う刻秋冷の巨鼇山(高橋晴子)」掲句で、巨鼇山(キョゴウサン)を知った。四国遍路八十八ケ所の六十六番札所。四国霊場中、最も高い標高という。父を憶うとき、秋冷のその霊峰札所が浮かんでくる作者。きっと父の背を見ながら成長し、大人になって、父亡き今も事ある毎に父の背を思い、力づけられているであろう作者の幸せを思う。僭越ながら、私の父親像とも重なり感動した。特選句「揺り椅子とビールと九月老水夫」おそらくは、遠い航海から帰国し、休養中の老水夫か既に引退した老水夫か。揺り椅子、ビール、九月の三点セットはありきたりのようではあるが、映画の一シーンのように心惹かれ、外されなかった。共感する句として「秋霖や石棺内の耳ふさぐ人」「宰相のことば軽々赤とんぼ(尾崎憲正)」

銀   次

今月の誤読●「人たまに枯れ向日葵に口づける」。「人」って一般化されてもなあ。いるのかなあ「向日葵に口づける」人って。少なくともわたしはしたことがないし、周辺にもそれらしい人物は見当たらない。ゴッホ?  うーん、どうだろ? いくら好きだからって「枯れ」向日葵だぜ。なんかザラザラして食感わるうそうだし。あっ、と思い当たったのがタカハシ(仮名)の後家さんだ。まだ四十前でけっこう色っぽい。うちの三件隣りにひとりで住んでいる。「まだイケるんじゃねえの」というのが近所のオトコどもの評価だ。ただなんとなく近寄りがたいといのが欠点といえば欠点。最近聞いたウワサでは原書でゲーテの「ファスト」と読んでいたという。さすがに夜這いをかけるには敷居が高すぎる。だがそれを乗り越え忍び込むのが勇者だ。だがそうした豪の者には、奥の手を使う。やわら枯れ向日葵を取り出して(どこにしまっていたんだ?)口づけをするのだ。な、なんなんだこのオンナ。べろーん。うへえ。べろべろべろーん。これはキクだろうなあ。どんな色ボケもこれにはたじろぐだろう。「たまに」この手を使って不埒なオトコを撃退する。うん、ありそうなハナシだ。(ねえよ、ばかやろー)。

尾崎 憲正

特選句「存分に海を見し眼に女郎花」句会を休ませていただいて、海の環境調査に同行していましたので、私の実感でもあります。遠景の海の青さと、近景の女郎花の辛子色の対比が見事です。夏や冬の海は長時間見ることは余りありませんが、秋の海なら飽きることなく存分に眺めることができます。

小山やす子

特選句「万感の帆のよう夏の雲動く」テニスをしているときちょっちゅう空を見上げる。一試合終わって空を見上げると雲はもう動いて形を変えている。癌におかされた友人が「雲のカタログ」という本をくれた。空を見るたびにその友人を思いだして懐かし涙ぐむ。 

鈴木 幸江

特選句「彼岸花のまっ只中という居場所」咲いた咲いた。今、まっ只中と主張しているように咲いている彼岸花、その彼岸花に己を重ねる。人間は自分の意識を通して世界を理解するのだから、それを、世界のまっ只中に居ると言えば言える。そんな風に、孤独と共に自覚される自己を彼岸花に譬えれば、清々しくもある。特選句「野分だつ首に形状記憶シャツ」野分の修辞から、現代にも存在する荒々しい自然に思いが至る。それに、負けまいと生きている現代人。台風の街を行く、形状記憶シャツを着た庶民と呼ばれる勤め人の姿がありありと浮かぶ。台風も、形状記憶シャツも、どちらも現実だ。その現実をしっかりと受け止めて生きて行きたいと思わせてくれる句だ。問題句「銀やんま光に刃を立てるよびび」“びび”をどう感受しようかと少し悩んだ。しかし、銀やんまの翅が刃のように白く輝いていると言っている。とても美しい作品だ。その美しさを擬態音で表すと、“びび”となるのだ。この詠み手の身体を揺さぶる表現は、やっぱり俳句に在りだと思った。

河野 志保

特選句「全身が髪ずぶ濡れの曼珠沙華」句の曼珠沙華は妖怪のようだ。「全身が髪」の把握が新鮮。心地よいインパクトに満たされた。

重松 敬子

特選句「ラ・フランス観音さまに腰まわり」仏様に性別は無いと思うのだが、どう見ても女体を連想させる仏像は沢山あり、観音像も豊かな大地のような母性を想像させます。自然の恵みである洋梨のあの形と、いい感じに、ぴったり。

亀山祐美子

特選句「人間やくるり丸太となる晩夏」いや~参りました。夏バテの極致。体力の限界。若い時はもっと遊べたんですけどねェ…。逆選句「夏痩せに乳房二つが張りついて(河野志保)」事実なんですけどね、何とも切ない。年取ると胸から痩せるんです。古文で習った『垂乳根』を実感し溜息の日々。追い撃ちかけなくてもいいんじゃない。作者が男なら悪意を感じるけど、女なら凄みを感じる一句です。

三枝みずほ

特選句「たましいは弾ますものよ花野にて」花野に包まれて、ふっとそんな気持ちにさせられることがあります。たましいを弾ますという感覚がいいです。自分を開放するというか、前向きにさせてくれる一句で共感できました。

稲葉 千尋

特選句「生死(いきしに)の話ぶどうチュウチュウ吸っている」何かよく見かける光景であるとともに自身もそんな話しをしている。中七の「ぶどうちゅうちゅう」が、佳い。特選句「うつしき引っき傷よ流星は(月野ぽぽな)」・・流星を、「うつくしき引っ掻き傷よ」と、比喩した感性をいただく。

柴田 清子

特選句「ええっ今なにか言ったの赤とんぼ」ええっ!こんな俳句もあっていいと思ったの・・。それ以上に、赤とんぼが、作者であって、作者が赤とんぼになった瞬間、秋の日差しの中で。九月連休の最中、欠席者が多かったけれど、憲子さんを囲んでワイワイと。徳島から参加の小山さん宅の庭の差し入れの酸橘の真っ青な香の中で、九月句会が始まりました。ありがとう。→ご参加、有難うございます。袋回しの「酸橘」の作品、それぞれに表情が豊かで良かったですね!

谷 孝江

特選句「青栗山の星の出きっと母だろう(野田信章)」なんて優しい句でしょう。星になって家族を見守っていらっしゃるお母様と家族の人達。美しい情景が身に沁みてきます。ずっとずっと、お幸せに。特選句「たましいは弾ますものよ花野にて」身も心も花野に置いて毎日を過ごせたら・・・。辛いニュースが続く日々が少しは明るくなるでしょうに。おエライ先生方、ゴルフ場ではなくて、花野に出掛けてみませんか。たましいも身も心も優しくなれますよ、きっと。

野田 信章

特選句「鬼灯や原日本人の腰骨」は、郷愁と共にそこを突き抜けた鬼灯そのものの本姿が即物的に把握されていて「原日本人の腰骨」を十分に宜なわせるものがある。浮き足立った時代相を踏まえての作者の原郷志向の視点が批判精神を込めて美しく結実した句である。結実と言えば勿論短詩型としてのことだが、その生き身の反応が美しく結実したものとして次の句に注目した。「生死の話ぶどうチュウチュウ吸っている」「彼岸花の真っ只中という居場所」「半壊の家にくるっと出目金魚(竹本 仰)」「魚のごと暗し石に端居して(小山やす子)」「箱しめて簡単な闇九月尽」

桂 凛火

特選句「かたつむり欅は何時も静かな木」かたつむりと欅はつきすぎないですが、どちらも静かで身近な存在ですね。かたつむりは最近見なくなりましたが、みつけると幼いころの情感が戻る気がします。「何時も静かに」としか言わないのに妙に癒されます。欅の木陰で静かな平穏な時間を過ごす様子が共有できてとてもよかったです。

中西 裕子

特選句「人たまに枯れ向日葵に口づける」夏の盛りのまっ黄色の力強いひまわりもいいけど、枯れひまわりにいとしさを感じる、なにか優しい気持ちなのか、終わるものへの愛惜を感じるのかひかれました。他にもきら星のような句がたくさんあるのですが、時間貧乏で楽しめてなくて残念です。よい季節なのでいい句が浮かびますように。

郡 さと

心を尽くして、どの句も理解しようと努めたのですが、私のように、深慮がなく、食感でものごとをとらえがちの者には少し、理解不足です。「揺り椅子とビールと九月老水夫」・・『老人と海』が彷彿とさせられました。「秋の部屋九官鳥の独り言」九官鳥は、さて誰のこと。「存分に海を見し眼に女郎花」女郎花を季語として生かせたのでしょう。考えるのは止めました。この方には女郎花の季語のあっせんが一番だった。「「子等の背を超えて飛び立つ螇蚸かな(藤田乙女)」バッタには、よくある景。好直な句だから私は好きです。「夏痩せに乳房二つが張りついて」可笑しかった。滑稽とユーモアは、俳諧において最も尊重すべきこと。良い句ではないですか。「八頭身美人の土偶月涼し(三好つや子)」「くずのはな被爆童子とのみ銘す」句作りに努力したのか?しないのか。こんな句に親しみをおぼえます。又、言いたい放題です。

高橋 晴子

特選句「くずのはな被爆童子とのみ銘す」〝銘す〟とまではいらないと思うが、この圧倒的な現実感に訴えるものあり。問題句「眠る湾どこかに難民(ふ)船(ね)が月涼し(田中怜子)」今、問題になっている難民船のことを訴えているのだが、難民船を〝ふね〟と読ますのには無理がある。難民船をそのまま使って句にして欲しい、いい句になると思う。

野﨑 憲子

特選句「秋天へ木登りの足よく伸びる」・・「秋天へ」がいい、そして「よく伸びる」がまた良い。まるで魔法の豆の木を登ってゆくようです。どんな冒険が待ちかまえているのかワクワクします。問題句「兄さん!新!百舌鳥の叫喚「父帰る(野澤隆夫)」これだけ、気合に満ちた言葉を詰め込める作者にエールを送りたいです。少し破天荒で問題句にさせて頂きましたが、不思議さが、魅力です。

袋回し句会

曼珠沙華
ひとひらの嘘美しき曼珠沙華
小山やす子
直感のすとんと佇ちぬ曼珠沙華
野﨑 憲子
人殺せしも罪状ひとひらの紙となる
銀   次
白い紙白い匂ひす秋の暮
柴田 清子
酸橘
酸橘君ゆっさりどっさり母の胸
中野 佑海
酸橘もぐ君の可愛い団子鼻
小山やす子
柿熟れる千年前の都市が見ゆ
柴田 清子
玉乗りの少年へ青柿の眼のギリッギリッ
野﨑 憲子
敬老日
老ひの日に美しきもの数へあげ
銀  次
立ち向かふ逆風満帆敬老日
野澤 隆夫
(一部省略、原文・原句通り)

句会メモ

九月の「海程」香川句会は、シルバーウィークの初日ということもあってか、参加者が少し少なかったですが、徳島から小山やす子さんが酸橘をたくさん持ってご参加くださいました。酸橘君に見守られながら、とても充実した句会になりました。

事前投句の合評が終わり、小休止に入った頃、高松市在住の海程同人佐藤稚鬼さんが見学にいらっしゃいました。長く「海程」を休会なさっていらしたとか、初対面でしたが、笑顔の爽やかな大先輩でした。最近、佐藤さんの作品を海程誌で見かけ、お目にかかりたかったので、尚さら嬉しかったです。

Calendar

Search

Links

Navigation