2017年7月28日 (金)

第74回「海程」香川句会(2017.07.15)

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事前投句参加者の一句

                  
手ざわりは杏子(アンズ)被曝の帽脱げば 若森 京子
手も足も待っておられぬ祭好き 中野 佑海
手のひらにたくさんの線蓮の花 三枝みずほ
湿気っぽい月の様です生きている 鈴木 幸江
普通の苦労なんてしてない海月です 桂  凛火
馬鹿なれど愚かではない棒アイス 伊藤  幸
蛍火を待つ両脚を草にして 月野ぽぽな
春の山水は光を追いかける 河野 志保
くすりばこ白夜の森の匂いかな 三好つや子
老兵の正しい知性背に螢 野口思づゑ
清流の華なり痣なり瑠璃蛺蝶(ルリタテハ) 矢野千代子
萍のはじめは雨のひとりごと 新野 祐子
長鉾の周り飛び交うチャイニーズ 古澤 真翠
今閉じし目より滴るほととぎす 小山やす子
行水にパチパチややの顔は丸 藤川 宏樹
道おしへひとりぼっちの通学路 髙木 繁子
くびくくり坂までくちなしの花匂う 大西 健司
決心の赤い石榴の噛み応へ 小西 瞬夏
マニキュアとピアスの男蛇苺 島田 章平
風蘭をもらいし姉の余命知る 稲葉 千尋
鉄人が自転車飛ばす梅雨の晴 野澤 隆夫
遠雷に始まるピアノ協奏曲 増田 天志
さようなら日傘の君が溶けてゆく 銀   次
人権宣言夏雲がどっと沸き 谷  孝江
崩れては湧く噴水の平和乞う 山内  聡
空蝉の転がっている手桶かな 菅原 春み
二万通の届かぬ手紙海蛍 河田 清峰
日盛りのやうな男が真正面 柴田 清子
重なりつ離れつ影と黒揚羽 小宮 豊和
七月のあをを漂流してをりぬ 亀山祐美子
胡瓜食む子等の生命の連続音 藤田 乙女
夏空や海がそうしたように抱く 男波 弘志
草いきれ激し母より手暗がり 竹本  仰
捕虫網兄と走ればほんとの青 松本 勇二
花火今忖度各種取り揃え 寺町志津子
炎天下座して抵抗うちなんちゅ 田中 怜子
仮釈で出てジャズマンをさがす夏 田口  浩
被爆天使の眼窩うごくは蝌蚪ならん 野田 信章
山法師俳句残像連れあるき 疋田恵美子
昔のことは忘れたわってかき氷 夏谷 胡桃
桔梗一輪男一人を憶い出す 高橋 晴子
夏豪雨家族写真を奪いけり 漆原 義典
雲の峰生家が遠くなりにけり 中西 裕子
コインロッカー奇数を選ぶ雲の峰 重松 敬子
ももももも七月の赤ちやんが来る 野﨑 憲子

句会の窓

小西 瞬夏

特選句「空蝉のころがっている手桶かな」景としては、手桶の中に空蝉がある、という状況。まず、それが目の前にはっきりと浮かびながらも、どこか現実感が薄い。いったいだれが、この手桶の中に空蝉を入れたのだろうか。また、なんのために? そんなことを考えていると、何かこの世ではないような空気が漂う。手桶の中の空間と、空蝉の中の空間が、どちらも「無」として存在している。

大西 健司

特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」:「雨のひとりごと」この美しい詩的断定にひかれた。問題句「二万通の届かぬ手紙海蛍」具体的にはこの届かぬ手紙がなんなのかはわからないが、海蛍となって海に耀いているその様は実に美しい。どこか故国に戻れなかった戦死者の思いのように胸に届く。

三枝みずほ

特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」桃であり、ふとももであり、お尻であり、赤ちゃんの柔らかさを表現するのに心地よい五音。「も」を発音する時の口の形も面白く、赤児をあやす大人の朗らかな顔も連想出来、この五音で存分に楽しめる。この発想と遊び心に共感した。

島田 章平

特選句「麦秋や声もことばも母を追う(男波弘志)」[声]とは人や動物が発生器官から出す音。[ことば]とはある意味を表すために、口で言ったり字に書いたりする事。【広辞苑より】[声]そのものは意味を持たない。感情がそのまま音になる。音が伝わり共鳴する。[ことば]は心の表現。伝える為に人は[ことば]を選ぶ。[声]と[ことば]で母を追う子供。子供の[声]と[ことば]は母親に届いたのか。甘く切ない心の記憶。「麦秋」が温かい。

中野 佑海

特選句「普通の苦労なんてしていない海月です」子供の頃から苦労らしい苦労なんて何も無かった。なら俳句には成らないか。ならば、やはり、並々ならぬ波瀾万丈の人生ではあったけど、その都度海月のように、あっちへゆらゆら、こっちでくるくる、とにもかくにも、毎日を一生懸命過ごして、今を迎えている。という感慨無量感が良く出ていると思う。振り返って見たら、誰の人生もそうだと思う。老年期に足を突っ込んだ者の懐古も含め。特選句「決心の赤い石榴の噛み応え」私は女性が赤いシュシュをキュッとして、ハイヒールで颯爽と歩いていたのを俳句にしようとして、巧くいかなかった事を思い出しました。この句はそれを顕して下さったのだと。特に噛み応えが良いです。問題句「恋も死もてぬかりあるな凌霄花(若森京子)」私の感覚としては、「恋も死もぬかりのありて凌霄花」であって欲しいです!!

野澤 隆夫

じっくり鑑賞すると投句135句、それぞれにどれも面白いです。特選句「さようなら日傘の君が溶けてゆく」漱石の『三四郎』の表紙みたいな句です。小生の拙い経験からドラマの想像できる句が好きです。「昔のことは忘れたわってかき氷」なんとなく投げやりな言葉で、かき氷を掻き込む作者が想像できます。問題句「茶碗欠けたと姉は青葉木菟になる」欠け茶碗と青葉木菟の因果関係にクエスチョ ン・マークです。でも面白い!!

月野ぽぽな

特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」薬箱にある、一種独特な匂い、暗さ、雰囲気を感覚的に捉えた良さ。

増田 天志

特選句「清流の華なり痣なり瑠璃蛺蝶(ルリタテハ)」あれほど、貴方が好きだったのに。今では、身震いがするくらい、大嫌い。そうね、私が変わってしまったのね。きっと。愛憎は、コインの表裏。

三好つや子

特選句「人権宣言夏雲がどっと沸き」人権宣言と夏雲のことばが響き合い、海に山にあそぶ人々の開放感が句にあふれ、感動しました。特選句「花火今忖度各種取り揃え」川柳っぽいかな、と思ったのですが、今どきの花火の種類の多さを、忖度ということばで表現したことが、面白いです。入選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」丸々としていて、元気いっぱいの赤ん坊を想像。とりわけ「七月の赤ちゃん」というフレーズに惹かれました。

藤川 宏樹

特選句「日盛りのやうな男が真正面」まるでCMのキャッチコピーのよう、映像が鮮明です。男の存在感だけでなく男の熱輻射が暑苦しく感じます。結びの「真正面」が、直に届かせています。面白い。

鈴木 幸江

特選句「馬鹿なれど愚かではない棒アイス」一読、暖かな句だと思った。そして、我が家族を顧みれば、馬鹿だけど愚かではない生き方を何とかしていると思えて、救われた。棒アイスが働いている。片手で食べられる棒アイス。学者ではないが、どこか考えが飛躍している人が考えた。私も、こんな発想の句を創って行きたいものだと痛く共鳴した。特選句「被曝天使の眼窩うごくは蝌蚪ならん」映画のワンシーンを思い浮かべるのが好きだ。この一句からは、凄まじい映像が立ち上がった。それをお伝えしたい。被曝天使は被曝された方のことだろう。眼窩は眼球のまわりの骨のことだそうだ。それが、皮膚がえぐれ露出してしまった状態で、首を動かしたのだ。それは、たぶん、蝌蚪が目に入り、思わず、何気なくその方向へ首が動いたのだろう。推測している作者が、戦争の凄まじさと生命の重さを感じでいることがよく伝わってきた。問題句「茶碗欠けたと姉は青葉木菟になる(大西健司)」感性の句は、伝わる人には伝わり、伝わらない人には伝わらない。でも、時にはこういう句を創っても良いと思った。わたしには、青葉木菟のようになっているお姉さんの姿を想像することがとても楽しかったから。

若森 京子

特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」:「白夜の森の匂い」ってどんな匂いかしら、草木の匂いより生き物の匂いが強いのでは、命の匂いかしら、薬箱との比喩が面白い。特選句「野をひらく鍵はしづかに蟇」野・鍵・蟇が響き合って、この短い詩型の中に最大限に静かに拡がってゆく景が見える。

寺町志津子

特選句「炎天下座して抵抗うちなんちゅ」戦後七十二年。沖縄では平和を求め、穏やかで安心な暮らしを希求し続けるも、いつまでも続く基地としての存在。上五、中七の「炎天下座して抵抗」が何とも切なく、痛ましく、申し訳ない思いも去来した。そして、その現状を詠み続けることの重要性を思い、「うちなんちゅ」の皆さんに、安心で穏やかな平和な日々の到来が一日も早からんことを祈り、特選にさせて頂いた。

夏谷 胡桃

特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」もものような赤ちゃんに会える喜びが伝わって来て、楽しい句です。「ももももも」は桃を連想してしまいます。そうしたら七月はよけいなのではと悩みました。もう少しかえられそうです。問題句は、「鉄人」です。3句もあったので、トライアスロン大会でもあったのかなと考えました。きっと有名な大会なのでしょう。でも、伝わりにくいと思いました。

重松 敬子

特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」私もこの季語が好きで、毎年挑戦するのですが、上手くいったためしがなく、大変勉強になりました。かって行った、ドイツの森に包まれた気持ちになり、思わず深呼吸をしました。

野口思づゑ

特選句「手ざわりは杏子被曝の帽脱げば」悲しいい題材の句なのだが帽子をかぶり強く生きている被害者の姿がとても巧みに表現されており感銘を受けた。その他、「普通の苦労なんてしてない海月です」では普通以上なのか以下なのか、などと思うのが楽しい。「ヒマワリが好き自己中ってところ(谷孝江)」そういえばヒマワリ、言われてみればそんな気もする。

山内  聡

特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」。萍で想起するのは栗林公園。今日は曇っていて久しぶりに散歩に出てみよう。ひとりで歩いているといろんなことを思い出したり想像したり。池の水面に水輪が。雨に誘われるように少し呟く作者。それを、「はじめは雨のひとりごと」としたところに詩情を感じます。そしてこの句を読むと自然と栗林公園の豊かな緑に包まれます。公園の緑に溶け込んでいくひとりごと。

矢野千代子

特選句「「野をひらく鍵はしづかに蟇(野﨑憲子」蟇への思い出がつよい。夏になると裏庭に出没する蟇をまるで里帰りをする子のごとく迎えて、幼児の私達には「悪さをしたらあきまへんで」と…。そんな祖母の声や姿が鮮やかによみがえる。読後には、青くて明るい夏野―が、思い出とともにあざやかな緑界―が現れてきた。

桂  凛火

特選句「湿気っぽい月の様です生きている」月に自分を例えるなんて大胆な・・。意外性がよかったです。そして「生きているの」表現が妙になまなましくすてきでした。

漆原 義典

特選句「遠雷に始まるピアノ協奏曲」、私は雷にティンパニを連想しますが、ピアノを連想した作者の優しい感性に感動しました。ありがとうございました。

男波 弘志

「手ざわりは杏子被爆の帽脱げば」杏子の、半生感、ケロイドを起想「手のひらにたくさんの線蓮の花」悲壮感のない手相、いっさいを蓮の花に委ねる。てのひら、平仮名の方が句意にあう。「蛍火を待つ両脚を草にして」人体の戯画化、アミニズムみつみつ。「沢蟹の鋏を上げる嬉しさよ(鈴木幸江)」悲壮感のない蟹、俳諧の蟹。「七月のあをを漂流しておりぬ」漂流、負の世界を、青が反転せしめている。青が青「を」漂流せしめている。「青が」、では平凡。「髪洗う森に太陽を沈めて(月野ぽぽな)」自己の意思体で太陽を沈める、傲慢な肉体、珍重。「夏の月吊るされている行き止まり(河野志保)」輪廻の終着点、お月さんも縊死している。「野をひらく鍵はしづかに蟇」  野をひらく、鍵は、蟇がもっている。

谷  孝江

特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」齢を重ねる度、くすりは手放されなくなります。「白夜の森の匂い」なんて素敵な言葉でしょう。いやな「くすり」も、すっと喉を通ります。薬を飲むのもたのしい思いがしてきそう。特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」赤ちゃん大好きです。どんなに泣き喚いていても可愛くてなりません、赤ちゃんが来るってたのしいことです。家へも是非お願いしたいです。未来がいっぱい詰まった玉手箱のような赤ちゃんを・・。

銀   次

今月の誤読●「メール一通夕焼けの中の少女(谷孝江)」。夢はまぼろし。現はさらなり。炎天もやうやう落ち着かむとす「夕焼けの中」。セーラー服「の少女」バス停に佇みをりぬ。三つ編みに結ひたる髪もいと麗しく、ふたつみつ垂れたる後れ毛もまた。彼の少女、ふと何事かに気づきて、黒カバンより携帯を取り出しぬ。そは「メール一通」の受信記録にて、少女そを開き見たり。少女、文面を二度三度と読み返へしのち、そつと閉ず。少女はふうと小さくため息をつき、夕焼けに眼向けたり。しかして、何故なるか、彼の少女の眼より二筋三筋の涙湧きいで、そのやはらかき頬を、静かに流れ落ちたり。もとより余は、それなるメールがどのやうなものであつたかは知らずして、ただその美しくも、あはれなる光景にいかにか心奪はれたるのみ。やがて停車場にいと古きバス到着し、少女は乗り込みぬ。余はふと我に返へりて、そのバスを追へども、すんでのところで乗り遅れたり。そのときであつた。おお、見よや。彼のバスは燐光を放ちつ、宙天に浮かんだり。余はそのあやしきに心惑はされ、ただ呆然と見送るのみ。一点、ただ一番星を目指して走り行くバス。彼のメールは冥府よりの招待かと思えじ。少女は車窓より余に手を振りぬ。静かなる微笑みとやさし眼差し。ああ、なんといふ不可思議にして、神々しき瞬間なるや。少女よ逝くか。乙女よ。その昇天の、いみじうして、いと愛らしきことか。

古澤 真翠

特選句「さようなら日傘の君が溶けてゆく」:「さようなら」の五文字は、いろいろな場面を彷彿とさせ 奥行きのある句だと思います。問題句(疑問句かな)「炎天や暑き封書の喪の手紙(菅原春み)」「暑き」は「厚き」かなぁ?とも思いましたが…作者は「それでは在り来たり」とお考えだったのでしょうか?

田口  浩

特選句「天道虫そのとき眉間ありにけり」眉間は作者であろう。否、仏の白毫相と想像を深く遊んでもいい。天道虫が草を離れた、一瞬。眼で追うのでなく、眉間という言葉を得たとき、不可思議で理不尽な俳が成就した。特選句「夏空や海がそうしたように抱く」海に入ってあおむけに寝る。浮いた身体を波にまかせる。夏空が眩しく目を閉じる。小さな波音が耳をくすぐる。快感。爽快。二重構造に作品を仕立て、愛の大きさと、やさしさを〝海がそうしたように〟と詠む。これは〝業師〟。〝抱く〟の二字がニクイ。

中西 裕子

特選句「日盛りのやうな男が真正面」日盛りのような男が真正面にいたら、圧迫感かな、それとも頼もしく感じるかなと想像するのも楽しい気持ちになりました。暑さに負けてないなと思いました。

松本 勇二

特選句「七月のあをを漂流してをりぬ」心象風景の見事な映像化に感服しました。問題句「髪洗う森に太陽を沈めて」髪を洗う時にこのように感じる感性に共感しました。五七五の定型におさめるとなお訴求力が出ると思われます。たとえば「太陽を森に沈めて髪洗う」など。

伊藤  幸

特選句「手も足も待っておられぬ祭り好き」分かる分かる、“ワッショイワッショイ”あの掛け声、たまりませんね。祭り好きの私に一票入れさせて下さい。私の手も足も「そうだそうだ」と言っております。特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」十年前「海程」に投句した最初の句が「湖はまじめな雨が創るのです」であった事を思い出す。 雨の一滴から川が出来数百年数千年を経て川となり萍が生まれる。雨のひとりごとの措辞、ロマンですね。

竹本 仰

特選句「蛍火を待つ両脚を草にして」:「蛍火」を恋の思い、予感として見るのは当然のこととして、「待つ」私はここでただの名もない草にならなければ、一介の生き物としてこれを全身で受け入れようという決意、それを体感として濃く表せているところがいいです。本気の恋と言いましょうか、自分が自分でなくなってもいいというような、一回性の直観に貫かれた情景であるかなと思い、原始的な匂い、たとえば、「あしひきの山の雫に妹待つとわれ立ち濡れぬ山の雫に」(万葉集巻二・大津の皇子)に似た香りがあります。ただこの濃さは女性のものかと想像しますが、どうでしょう?特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」とにかく「くすりばこ」が季感語であるのかと思わせるような感触がしたのが面白いですね。「白夜」を実際に体験された方でしょうか。くすりばこが白夜の森の導入剤になっていて、あのくすりばこを開けるときの一瞬の不確かな予感というか、露草の青を青空の青とつい見誤ってしまうのに似た錯覚のおののきというか、そんなところの涼やかさがあります。「白夜の森」にはいったい何があるんでしょうか、わくわくさせるもの、何となく昔触れたドストエフスキー「白夜」の世界に通じるものか、すごくくすぐってくるものがあります。季語の世界では「はくや」らしいですが、これは「びゃくや」と読まねば味が落ちるのではないかと思います。特選句「ゆれて髙松虹の根つこに眼が二つ(野﨑憲子)」高松のご当地ソングとしたら大成功ではないか。「髙松」という何気ない真面目さが「ゆれて」で恋の文脈に入ってしまった感がするのですね、しかも大きな高松にあるのはあなたの二つのまなこだけみたいな、そうですね、修学旅行で来た中学生が高松に恋をしちゃった感の響きです。この昔の恋心風の詠み方が、ある時代に対する郷愁をいたく刺激するところがあり、何となくこの句を唄いたい感にするのを止められません。この句会でしか生まれない稀有感を感じました。だから、俳句はやめられないとも言いたい。

河野 志保

特選句「崩れては湧く噴水の平和乞う」作者の気持ちがストレートに伝わる。しなやかなリズムにも惹かれた。揺れ動く平和への思いは噴水のよう。諦めてはいけないと静かに言い聞かせる作者を想像した。

小山やす子

特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」静かな水面にうきくさが彩りを添えやがて雨が来てぽつりぽつりと水輪ができる…優しい景色に魅せられました。

疋田恵美子

特選句「老兵の正しい知性背に螢」作家の「半藤一利」氏を思わせるお句。特選句「恋も死もてぬかりあるな凌霄花」てぬかりばかりある私、以後気をつけねばと。

田中 怜子

特選句「被曝天使の眼窩うごくは蝌蚪ならん」この光景は見たことあるような、うつろな眼窩 どんな哀しみがつまっているかまた、原子爆弾が落とされた日がやってきました。特選句「夏豪雨家族写真を奪いけり」毎年繰り返される自然災害 人の命も奪うけど、記憶、思い出も持っていってしまうんですね。

藤田 乙女

特選句「ももももも七月の赤ちゃんが来る」: 「ももももも」から、桃と赤ちゃんの柔らかくみずみずしい頬っぺたの感触とが重なりあったり、生まれたての赤ちゃんの息づかいや鼓動まで伝わったりしてくるような感じがしました。また、「7月の赤ちゃんが来る」から7月の空の明るさや赤ちゃんの誕生を祝福する周囲の喜びも伝わってきて、明るく爽やかな気分になりました。うらやましい限りです。特選句「さようなら日傘の君が溶けてゆく」自分の愛する人の面影さえも消え去っていく、そんな寂しさと深い哀しみを感じました。しかし、自ら「さようなら」と切り出すところにそこから立ち向かおうとする希望や前向きな意思も伝わってきました。私の感性を揺さぶるような、心の奥まで響く句でした。/P>

河田 清峰

特選句「手ざわりは杏子被曝の帽脱げば」食感でなく触感でとらえた杏子そのなんともいえぬ感覚!帽子のしたにあるおどろおどろしさにヒロシマの夏の叫びをかんじます!また繰り返しそうな気がします。

亀山祐美子

互選句への解釈の違いがとても参考になりましたが、心から沸き上がる共鳴句はありませんでした。私の感性が鈍っているのでしょう。あしあらずご了承くださいませ。楽しい時間でした。またお邪魔致します。

小宮 豊和

特選句「くすりばこ白夜の森の匂いかな」」作者は、白夜の森の匂いを薬箱の匂いであるという。薬箱とは富山の置き薬の箱を考える。木箱と薬の複合臭である。森は針葉樹の森で青葉と散り積もった腐葉土が匂う。下草やその実、きのこなどの菌類や地衣類も匂う。もしかしたらオーロラも匂うかもしれない。句で言っていることはわずかであるが、連想がふくらむ。

新野 祐子

はじめまして。俳句を始めた十年前から朝日俳壇を愛読しています。ある時、ドキッとする俳句と出会いました。作者は野﨑憲子さんだったんです。その時から野﨑さんの大ファン。今年五月の海程全国大会で野﨑さんとお話しすることができました。その縁で香川句会に参加した次第です。よろしくお願いします。特選句「清流の華なり痣なり瑠璃蛺蝶」華と痣を同列にした感性がすばらしい。渓流釣りでよく清流を渡ります。そこで蝶に会ったことはないけれど、幻想の世界に連れて行ってくれるのは瑠璃蛺蝶なんだろうなと納得させられます。特選句「くびくくり坂までくちなしの花匂う」くびくくり坂というところは実際にあるのでしょうか。あるとしたらどんな歴史的背景があるのかなどと、想像力をたくましくしてしまいます。くちなしの花があやしく匂ってきます。問題句「春の山水は光を追いかける」ここ山形は豪雪地帯で、春となれば川は大蛇のごとき勢いで山から里に駆け降りてきます。ですから私の実感としては、「光は水を追いかける」となるのです。問題句とは言えませんね。気づきの句でしょうか。

柴田 清子

特選句「海亀になりたいその目を信じて(夏谷胡桃)」この内容の一途な思い込みに魅力を感じます。特選句「夏空や海がそうしたように抱く」この夏空と言ふ季語には全てを包み込んで、一句を成してしまふだけの強がある。ので好きな句

高橋 晴子

特選句「虎尾草の群れ咲くところより自由」自由の感覚かいい。特選句「七月のあをを漂流してをりぬ」七月のあををが効いていて漂流の感生き生き。問題句「民主主義灼ける白靴洗う日よ」民主主義との関連が今ひとつ、しっくりこない。*ご投句の際のコメントより~自句「桔梗一輪男一人を憶い出す」に関連して「桔梗一輪投げ込む力ばかりの世に」櫻井博道の句。清潔な人で、展宏さんと仲のよかった。昔。東京へ行くたび、大井三ツ又の櫻井家具店へ遊びに行きました。観音寺へも森澄雄、博道、展宏できたことがある。博道は、六十歳で早逝。

野田 信章

「馬鹿なれど愚かではない棒アイス」は中句にかけての呟きが冷菓を噛む歯応えと共に身に入みて伝わる。やがて手に一本の棒だけが残る。この即物的な景を通して作者の生き様としての意力をも確かな残像として感得される。「蛇に祟られ猫はふぐりを失えり」は、へえーそういうこともあるのかという意外性の中にかなしさと可笑しみを宿す句柄であり、俳芸の芸の際立ちがある。「メール一通夕焼けの中の少女」は中句以下の少女像がまるで夕焼けの中に埋没してしまいそうである。外界との窓となっているのはメール一通のみとも読める。少女期の多感さ故に裡へ裡へと籠もる一態が美しく把握されている句である。「萍のはじめは雨のひとりごと」は落ち着いた句柄で、即物的な景の切り取り方が適確なために、次第に雨粒の拡大と共に想念の波紋もまたひろがってゆくものがある。

野﨑 憲子

特選句「萍のはじめは雨のひとりごと」一読、不思議な空間に引き込まれた。そして読む程に、心の中に、天上の雨音が、ぽつりぽつりと広がり、水面には、萍が少しずつ増殖をはじめてゆく。耳を澄ませば雨の呟きが萍の囁きが聞こえてくる。一行のなかの「萍」と「雨」が映像となり立ち上がってくる。見事なり。特選句「捕虫網兄と走ればほんとの青」蟬や蝶を求め、捕虫網を持ち野山を駆け巡った幼い頃、兄さんは、色んなことを教えてくれた、魚の集まってくる岩場や、美しい蝶の現れる茂み、草笛の吹き方、雲を千切って食べる方法・・・あの頃に戻って、もう一度兄さんと山河を歩き回りたい、作者の思いが、ひしひしと伝わってくる。「ほんとの青」ってそんな幼い時代の青。でも、「ほんとの青」は、今も、ここにあるっていうことも、作者は、きっと知っている。と、思った。

(一部省略、原文通り)

袋回し句会

去来するもののぬくさよ蓮ひらく
野﨑 憲子
石橋に人の消えゆく蓮の花
河田 清峰
蓮池にうしろすがたのをんなかな
島田 章平
茅の輪
時計いま茅の輪の円の方にある
男波 弘志
波音の大きな茅の輪くぐりけり
柴田 清子
青空に向ってくぐる茅の輪かな
漆原 義典
水着
中央線お茶の水駅の水着かな
柴田 清子
腹ぼてでとび込みどぼん水着の子
野澤 隆夫
四十年同じ水着の父でした
鈴木 幸江
夏目雅子水着のポーズ眩しくて
島田 章平
牛蛙
熱病のやうな結婚牛蛙
河田 清峰
唯我独尊讃岐屋島の牛蛙
田口  浩
空にでもなるように鳴く牛がえる
男波 弘志
たっぷりと雲を喰ひし牛蛙
野﨑 憲子
甘酒
弱虫のためにあります甘酒は
鈴木 幸江
土器(かわらけ)を投げて立ち寄る甘酒屋
島田 章平
真夜中の蝉の殺られた叫びかな
小宮 豊和
裏の蝉表の蝉を鳴かせけり
柴田 清子
窓あけて蝉の世界の樹になるか
田口  浩
愛犬の生まれて初めて蝉と会う
鈴木 幸江
毒消し
雨あがり毒消し売の来たりけり
野﨑 憲子
会話切れくるぶし出すか毒消しに
藤川 宏樹
君に告ぐ又逢う日まで毒消しを
鈴木 幸江
素直さは毒消しの効く水あたり
小宮 豊和
おーい妻その虹の橋おりて来い
島田 章平
虹を見て何色が好きと妻が問う
漆原 義典
虹の道あの人この子いなくなり
藤川 宏樹
風のとまる場所を探して夕虹
野﨑 憲子
振り返り気が付けば虹無国籍
鈴木 幸江
虹の根があるだろうか泣くだろうか
男波 弘志

句会メモ

安西篤さんのお葉書より/前回同様三段階評価をさせていただきます。「73回句会報より」☆レベル「とおすみとんぼ妊りて透く暮し」(若森京子)」「棄民集落いまも波音浜万年青(大西健司)」「五月雨や抽斗のなかのアフリカよ(銀次)」◎レベル「ゆらゆらと敗者集まり氷菓子(松本勇二)」「炎昼の奥へと一歩ずつ迷うよ(月野ぽぽな)」」「落し文青しよ八十路のわが肉(しし)も(野田信章)」「帰去来(かえりなん)ひたすら麦の禾わけて(矢野千代子)「島影や書くたびに文字白濁す(男波弘志)」「崩壊の危機こそ力月涼し(野﨑憲子)」○レベル「もう空を飛ばぬ箒と夏帽子(小西瞬夏)」「鉛筆を落とした指から春眠(河野志保)」「箱根八里青葉のアレグロアンダンテ(寺町志津子)」「誕生日ふくいくと新茶カステーラ(疋田恵美子)」「万緑に埋もれた家に遅き灯よ(中西裕子)」「蟻が蟻運ぶ正面石切場(亀山祐美子)」

句会は猛暑の中でしたが、句会場ほぼ満席の盛会でした。島田章平さんが山口に住む、ご友人が開発された「夏津海(なつみ)」という、夏に食べる蜜柑の魁となった珍しい蜜柑をたくさん持ってきてくださいました。まさに干天の甘露!参加者一同、美味しい蜜柑を堪能しました。今回も、とても楽しい句会でした。

「海程」七月号には、先の全国大会の折に、金子兜太主宰が読み上げられた『2018年9月(8・9月合併号)をもって、「海程」を「終刊」することとします。』の文章が掲載され、改めて、来年の「海程」の終焉を思い胸がいっぱいになりました。師も、私たちも、新たな出立の時を迎えることを強く感じています。この、「海程香川」の句会は、香川の地で、踏んばってまいります。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。猛暑の続くこの頃ですが、この暑さをわがものにするべく来月は句会の後、二時間ほどの納涼会を男波弘志さんの幹事で開催いたします。遠方からのご参加も歓迎です。皆様、奮ってご参加ください。

<袋回し句会>の作品集は、ブログ掲載を快諾してくださった方の作品のみ掲載しています。

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