2018年3月29日 (木)

第82回「海程」香川句会(2018.03,17)

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事前投句参加者の一句

    
「アベ政治を許さない」師は逝きたまう 稲葉 千尋
ははははは ははははなれて 花は葉に 島田 章平
桃咲(わら)うそれでも保険かけますか 藤川 宏樹
思い切り人生未知数春卵 中野 佑海
窓越しの春満月に触れてみる 髙木 繁子
雪よ降れヒンズークシュの水甕へ 新野 祐子
蜃気楼パズルの解けぬ顔がある 中村 セミ
マスクして憂き世に遠くゐるつもり 谷  孝江  
錆釘の黙が匂えり花の夜 大西 健司
ぼくと地球とタンポポの独り言 増田 天志
春の雪闇の歪みをつたうかな 山内  聡
地虫出づ多数決を覆し 三好つや子
帰る場所探す鳥たち二月二十日 野口思づゑ
オウ!と鳴る春汽笛船が行く船が行く 伊藤  幸
目を閉じて聞く先生はもう梟 河野 志保
兜太逝き蒼天に吠える群猪 疋田恵美子
バーガーのオニオン多め春セーター 野澤 隆夫
春雨や真つ赤な魚が宙に舞う 銀   次
冴え返るうしろ手に数珠握りしめ 菅原 春み
師の骨の真白く太し風花す 松本 勇二
オブラートにつつまれたぼくを呑んだ雲雀 田口  浩
白梅のような骨を拾った熱かった 若森 京子
さかなになったばかりで春月 男波 弘志
束ねないで花々ゆつくり揺れる 三枝みずほ
舞子まで蝶追い木偶追い影失くす 矢野千代子
枯れてあたたか苧(からむし)普段着のあいさつ 野田 信章
春の夜や無名至福の酔っぱらい 小宮 豊和
朧から現れ家族の振りをする 重松 敬子
春光や水に流せぬもののあり 藤田 乙女
留守番の父の飾りしヒヤシンス 中西 裕子
うららけし足の届かぬ木のベンチ 亀山祐美子
春塵のずしりと来たり喪の報せ 豊原 清明
よく眠り夢の春野に逢いにゆく 月野ぽぽな
兜太逝き梅遅く咲き永く咲く 鈴木 幸江
馬鹿になっての句作がよろし虎落笛 寺町志津子
啓蟄より少し長めの舌である 竹本  仰
蠟梅のくしゅっと咲いて母逝けり 桂  凛火
兜太逝く花の秩父を目前に 高橋 晴子
桜草片戸の奥に人の居て 河田 清峰
春浅し地球の重しひとつ減る 夏谷 胡桃
木の芽晴れ里山長き眠り覚め 漆原 義典
梅咲くや残されし我ら遺児のごと 田中 怜子
春落日金子兜太の大笑す 野﨑 憲子

句会の窓

月野ぽぽな

特選句「師の骨の真白く太し風花す」兜太先生の骨に焦点をあてたところが秀逸。先生の純粋さ繊細さを「真白く」から、侠気、志の強さ度量の広さ大胆さを「太く」から想起させ、先生への愛情が「風花す」に溢れる美しく逞しい追悼句。

若森 京子

特選句「目を閉じて聞く先生はもう梟」目を閉じると長年聞き慣れたあの懐かしい声が聞こえてくる。梟は幸福を運んでくると云われる。兜太先生は風貌も梟に似ている。より近くになった様に思う。特選句「枯れてあたたか苧(からむし)普 段着のあいさつ」苧は朝鮮から来たと云われるが麻の繊維。まずこの文字がこの一句の中心にあり全体の情感をふくらませている。人間のあたたかな平常心の姿が見える。

増田 天志

特選句「舞子まで蝶追い木偶追い影失くす」結界を越えてゆく。影無き存在に。幽玄の世界の中へ。

中野 佑海

特選句「オブラートにつつまれたぼくを呑んだ雲雀」なんてちっちゃな僕ちゃんでしょう。こんなに可愛い、か細い、不安だらけの草食系男子を難なく飲み込んでしまう、したたかで、柔軟で、挫折知らずの肉食系女子。此れから子育ては男 子の手に委ねられていくのね!?特選句「枯れてあたたか苧普段着のあいさつ」昔から着られている心地良い着物ですね!人間も、誰かに遣えるだの、そん度するなどという宮仕えから離れ、心と行動が一致する境地になるにはまだまだ時間が係り そうです。でも、そこまで行けたら、この世も自分にとって住みやすい場所となるんでしょうね。 小豆島吟行は本当に皆様の熱意ある講評。とても、有意義な2日間を楽しめました。皆様、有難うございました。遠くから参加頂いた、野田様、増田様、田中両氏本当にお疲れ様でした。また、素晴らしい俳句誌として「海原」が順調に滑り出した らと、願って止みません。

山内  聡

特選句「ひとり漕ぐぶらんこ鉄の匂ひけり」ぶらんこから鉄の匂いがしたのは、それが特に意識されたのは、ひとりでぶらんこを漕いでいるから。ぶらんこをひとりで漕ぐというのは、何かわびしい。わびしい心を癒すためにぶらんこでも漕 いでみようかと思ったのか。春の陽気に包まれたらさぞ気持ちも晴れ渡るだろうと思いきや、ぶらんこの鉄の匂いに気をとられた。春を感じようとして何か冷たい鉄からの印象を受けその鉄に心をとらわれてしまうぐらい心も冷え切っているのでし ょうか。

矢野千代子郎

特選句「「枯れてあたたか苧普段着のあいさつ」」風に鳴る苧の乾いた音を「普段着の挨拶」とは…作者はまさしく詩人ですね。特選句「梅の夜背に金子兜太全集」金子先生の「梅」の作品などがうかんできて感無量です。

島田 章平

特選句「春落日金子兜太の大笑す」。金子兜太先生が亡くなられました。失ったものが余りにも大きく、まだ心の整理がつきません。今句会の提出句にはその驚きと悲しみ、そして兜太先生の御意思を継承しようとする強い心、様々な句が詠 まれました。心を自由に解き放ち、ありのままを見つめる、それが兜太先生の俳句への眼差しだった様に思います。特選句を初め、追悼句には様々な思いが込められており、批評は差し控えます。金子兜太先生の御冥福を御祈り致します。合掌

藤川 宏樹

特選句「花束抱き胯間ひろらに卒業す」:「胯間ひろらに」に慶びの開放感と卒業の誇りが感じられ、着想が見事です。小豆島の「春探し吟行」、天候にも人にも恵まれ楽しめました。二日間の鍛練のおかげで、作句が楽になった気がします 。お世話くださった中野さん、野崎さん、ありがとうございました。

野澤 隆夫

吟行句会の熱気に圧倒され、みなさんの意欲的な姿勢に感動させられ、エネルギーをもらいました。ただ体力的に持久力が無いのが少し悔しいですが、マイペースです。今月の選句は下記です。特選句「春の嵐取りに戻る忘れもの」ごく普通 の日常なのでが。あたふたと飛び出て〝あっ忘れた…〟と春雷の中を引き返す。忘れ物を取りに…。しかし、ここでの忘れ物は過去の精神的な忘れ物かも?兜太さんへの惜別の句もいいのが多いですね。小生は「兜太逝くオオカミ唸るよく来たな」 を選句しました。あらためて『金子兜太自選自解99句』の表紙の書〝おおかみに蛍が一つ付いていた〟を見てます。力強い書です。問題句「朧から現れ家族の振りをする」朧から家族の振りをする人が出て来るとは?やはり問題です。

三枝みずほ

特選句「窓越しの春満月に触れてみる」窓一枚を隔てて見えてくる世界観。軽いゲージに入っているような、触れたくても触れられないという葛藤、胸の内に共感。しかし、春満月はきっと冷たく硬くはない、そこがよかった。「よく眠り夢 の春野に逢いにゆく」金子先生への想いに共感、またいつか逢えるんだと思う。小豆島吟行ありがとうございました!色々とお気遣い頂き、参加出来たことに感謝しております。幹事の佑海さんの完璧なスケジュール、凄すぎます!本当にありがと うございました。

稲葉 千尋

特選句「蠟梅の顔深く眠りおり」おそらく金子先生のお顔を見に行かれた方だと思います。「蠟梅」がよく効いている。合掌。特選句「白梅のような骨を拾った熱かった」葬儀に出席されて遺骨を拾ったのであろう。下五の「熱かった」が作 者の慟哭。

夏谷 胡桃

特選句「うすらいやこえをはりあげるなんて嘘」。今回は、金子兜太追悼句から10句を選んでみました。特選のこの句は、兜太先生の追悼句かわかりませんが、感じるものがありました。先生のお葬式に出向き泣きたかった。兜太先生を知 る人と語り合いたかった。でも、いつものように出勤し仕事しました。職場に金子兜太も俳句も知る人はいません。悲しいんだよとワァーと声をあげたくなりますが、顔は笑って悲しみに耐えます。誰かに金子兜太が死んだんだよと話をしたかった です。さいわい、夫は少しわかってくれます。夫は仕事で金子兜太先生と嵐山光三郎氏のインタビューの編集をしました。その時に買った金子兜太の本が本棚にありました。その本を手にして、俳句に興味を持ったのでした。金子兜太のもとで俳句 をはじめたと知った嵐山氏が金子兜太全集をプレゼントしてくれました。でも、なかなか上達もせずに時間だけが過ぎました。特選句「帰る場所探す鳥たち二月二十日」。さて、忙しい合間に俳句ならできるのではないかという単純な考えで俳句を 作っていました。自己表現の自己満足です。金子兜太がいなくなった今、自分が何をしたかったのか、何をするべきか考えて、それぞれの場所に帰っていくのもいいかもしれません。その場所は文学ではないかもしれませんが、こころにはいつも詩 をもち続けて生きていきたいです。

男波 弘志

特選句「束ねないで花々ゆつくり揺れる」上5のかるい呼びかけに作者の慈悲心がみえる。口語俳句は21世紀の華になるであろう。「錆釘の黙が匂えり花の夜」美しいものだけが、きらめくわけではない。美の本体には暗黒が深く拘わって いる。「春の雪闇の歪みをつたうかな」闇の歪みを見付けたのは、雪、自身であろう。おそろしい意思がはたらいている。「帰る場所探す鳥たち二月二十日」みんながいづれかえる 場所 まだ そこは みつからないで いい 場所。「ひとり漕 ぐぶらんこ鉄の匂ひけり」詠嘆、けり、がこの場合、匂い、をぼわっとひろげてしまっている。「漕ぎだしてぶらんこ鉄の匂いする」とする手もある。「消えぬものたくさん残し冬の虹」一刹那に一切、がある、華厳経に、そう書いてある。「兜太 逝き梅遅く咲き長く咲く」ふしぎな存在感、師弟の交歓が終わっていない証だろう。「春の雷棺にありてえくぼの子」悲しい死を、即物で投げ出している、強靭な精神。「かなしいときはかなしみを主とせよ」「風遊ぶところ葉脈すきとほる」見事 な写実、詩情抜群、更に、遊ぶ、を描写で突き詰めることもできるが、どうであろうか。

大西 健司

特選句「さかなになったばかりで春月」何とも不思議な一句。お魚になった私。そこには春の月の光が差している。どこか物憂い感覚だろうか。シュールな絵画を見ているようだ。

竹本  仰

特選句「春の雪闇の歪みをつたうかな」いきなり季節の境に降るドカ雪か、それが心にしみるということでしょう。なぜなら、そこに呑み込めぬことの多かった青春、自分の過去が映し出されていたからでしょう。闇を歪みととらえた、何が しかの時間の重みを感じさせます。自画像というか、自分と向き合った感触があるなあと思いました。特選句「消えぬものたくさん残し冬の虹」はじめ震災か、原発事故のことか詠んだ句かと思いましたが、いやいや消えぬものとは尽きせぬ思いを あらわし、むしろ永久の思いというか、そこまで感じます。冷たい雨の、その雨上がりにぬっとしかしはっきり顔を見せる一瞬の虹だからこそ、忘れていた何ものかを、虚を突くようにはっと見せに来るのでしょう。忘れられないものの多さ、しか もそれは一瞬でしか現れず、それを受けとめずには「生」とは言いがたい、そんな襟を正した思いというのでしょうか。特選句「よく眠り夢の春野に逢いにゆく」師の〈よく眠る夢の枯野が青むまで〉、弟子としてうまく付け合いをしたのではない かと。師はおそらく、芭蕉の〈旅に病んで夢は枯野をかけめぐる〉へ添えたものではなかったかと推測するのですが、連衆のこころというか、よく眠ればいつか必ず師に逢えるという、そんな季節をいただいたんだという感謝でしょうか。晶子〈な にとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな〉の「君に待たるるここち」、そんな思いを感じました。特選句「春浅し地球の重しひとつ減る」死をそうとらえること、それが故人に対するすぐれた弔意かなと思いました。そんなに悲し まなくていい、きっと亡くなる方はそう思うでしょうし、そんな声を素直に受け取ったのではないかと、かたじけなく一杯の水をおしいただいているその質素を感じました。これもよく出来た〈よく眠る〉の句への匂い付けのように感じました。以 上です。おい、おれのことばっかり詠むんじゃないと、師に怒られそうな今回の投句でありましたが、きっとお悦びだろうと思います、まあ、冥利だがな、とも聞こえるようで。皆さん、今後ともよろしくお願いいたします。

谷  孝江

一度も、お目にかかったことの無い兜太師ですが、私の中では大きな存在でした。師の訃報を知った時、胸の中を先ず過ぎったのは「けしからん」という思いでした。まだ逝かれては困ります。決して己を見失う事無く生きられたことは大き いです。海程皆様どうか先生の足跡をしっかりとお守りいただき、お心差しをつないで行って下さい。特選にいただいた「春落日金子兜太の大笑す」は、そのまま師のお姿が見えてきます。ご冥福をお祈り申し上げます。

寺町志津子

特選句「梅咲くや残されし我ら遺児のごと」 誰もが決して信じたくない兜太先生のご逝去。朝日新聞をはじめ多くの新聞紙上で、また各地の句会で師を忍んでの追悼句が詠まれており、いずれの句も兜太先生の面影がよぎり、哀しみを深く している。特選にとらせて頂いた掲句の「残されし我ら遺児のごと」に、この思いは、正しく「遺児なのだ」と心から共鳴、共感しました。計り知れないほどスケールが大きく、厳父であり、慈父であった兜太先生の遺児である私達。兜太先生のご 縁を頂いた幸せに感謝しながら、心から兜太先生のご冥福をお祈り申し上げます。

重松 敬子

特選句「ぶらんこや天にも地にも兜太の眼」特選句「残照はずっと暖か大火炎」特選句「春落日金子兜太の大笑す」さすがに追悼句が多く、皆さんの先生に対する気持ちが伝わって来ます。特にこの3句は、先生の個性を上手く捉え、良い俳 句に仕上がっていると思います。心より御冥福をお祈り申し上げます。

鈴木 幸江

特選句「兜太逝くオオカミ唸るよく来たな」現代では、死後の世界はとても個人性の強いものとなっている。作者は、兜太師は唸るオオカミに待っていたよと迎え入れらたのだと想像している。人間ではなく、今、オオカミに迎えられている 師の姿に私は何故か深い安堵を感じた。私も、死んだら、来世では、今一緒に暮らしている雄の柴犬と夫婦になってみたいとこの句に思わされた。問題句「『身世打鈴』の表紙は指紋斑雪」まず、「身世打(シンセタ)鈴(リョン)」が分からず問題句 とした。インターネットで調べだ結果だが、韓国語で、この世の不運を嘆き恨(ハン)を解こうとする身の上話のこととあり、そして、本の題名で、表紙は指紋であった。日本では、1993年まで、在日の方は、指紋押捺を義務とする法律があった 。斑雪から、それは、恨の氷山の一角のように俳句表現として伝わってくる。この気持ちは是非受け止めておきたくいただいた。最後に、素晴らしい春吟行、幹事の中野様、世話役の野﨑様、ありがとうございました。

中村 セミ

特選句「多感な粘土翼幾つも春少女」言葉の並べ方が面白い。特に多感な粘土は作者が何を思いこう書いたのかー粘土細工をして色々な物を作りましたーという見解では絶対によくないので断っておきます。只読者の勝手で色々思えるところ が抽象画のようで面白いと思った。

松本 勇二

特選句「バーガーのオニオン多め春セーター」作者の溌剌とした感性が伝わってきます。問題句「朧ごと月吸い込んで祈ります」春の夜の昂揚感がうまく書かれています。中七を「月を吸い込み」にすれば一層すっきりと読めるのではと思わ れます。

三好つや子

特選句「魚になったばかりで春の月」 春の月という座五から受精卵を想像。細胞分裂を繰り返し、人間に近づいていく「一つの生命体」が、いま魚の時代を旅している・・・。生命誕生の神秘的なドラマを見るようです。特選句「啓蟄より 少し長めの舌である」あくびを噛み殺しつつ、穴から出てきた蛇の舌。あるいは、春の陽気のせいで戯言をこぼす舌なのか。いろいろ想像できる楽しい句。入選句「兜太死んでながいひぐれをおいてった」金子兜太主宰をめぐる、たくさんの追悼句 の中で、もっとも心に刺さりました。

新野 祐子

特選句「春浅し地球の重しひとつ減る」反戦を訴え、きまりにとらわれない自由な俳句を提唱し謳歌した兜太先生。兜太先生ほどの俳句界の重鎮はこれまでもこれからもいないのではないでしょうか。「地球の重し」とは、なるほどなぁ、う まいなぁと思いました。入選句「思い切り人生未知数春卵」:「人生未知数」は普通に言うけれど、「思い切り」と「春卵」との組み合わせで、とてもすがすがしい若者の姿が現れます。入選句「春の水生きとし生けるもの楽器」これも中七は常套 句で平凡ですが、「楽器」がいいですね。これは演奏する楽器ではなく、楽しき器と解釈したいです。

河田 清峰

特選句「春落日金子兜太の大笑す」春がよく似合う先生の落日が春で良かったなと思う…先生をよくしっている人柄がでた句だと思う。大笑すが実に気持ちいい。「猪がきて空気を食べる春の峠」を思わせるゆったり感が大きくひろがってい る!

田口  浩

特選句「兜太逝き梅遅く咲き永く咲く」ここ最近、金子兜太追悼吟を、多く拝見する機会を得た。その中でこの作品のネンゴロな哀悼に感じいった。梅と言えば〈梅咲いて庭中に青鮫が来ている〉であろう。そこをふまえて〈梅遅く咲き永く 咲く〉とさらりと流している。九十八歳だったときく。巨人の一生を詠みきって見事であろう。    

中西 裕子

特選句「師の骨の真白く太し風花す」師の骨は清らかに白く、そして芯の太さ、生き方のように太かった。風花も舞って悼んでいるようです。それぞれ皆さんのお別れの気持ちが読まれていてどの句も心打たれました。

小宮 豊和

問題句「朧ごと月吸い込んで祈ります」下五「祈ります」が句を平凡にしていると思う。句稿からいくつか下五を借りてきて置き換えてみても一応句にはなるし句も変る。たとえば「花は葉に」「旅鞄」「春セーター」「しやぼんだま」「鳥 帰る「(鳥雲にを変えて)」「忘れもの」「影失くす」など。上五、中七は生かすに値するフレーズと思う。作者の独創的下五に逢いたい。

田中 怜子

特選句「兜太逝き蒼天に吠える群猪」亡くなったことの寂しさと共に、それを乗り越える強さ、雄々しさもあり、蒼い空にむかって吠える狼と言いたいけど、イノシシね、映像が目に浮かびますが、イノシシなのでどろくささもありますね。 問題句「『身世打鈴』の表紙は指紋斑雪」ようわかりません。

疋田恵美子

特選句「思い切り人生未知数春卵」生れて、死に至るまでの人生って自分にも分らない。日々これで良いと前進のみ。ざわめく日本列島、地球すべて未知数。生きる物全てが幸にいのちを真っ当できるよう、歴史に学び美しい地球を守ること の大切さを思う。特選句「ぼくと地球とタンポポの独り言」美しい地球に生かされてこそ、言葉あり。

伊藤  幸

特選句「干柿しゃぶり尽く老骨春機あれ」干し柿をしゃぶり尽くす程の精気が老骨といえどまだまだ残っている。男も女も灰になるまで男であり女なのです。「春機あれ!」と心からエールを送ります。

高橋 晴子

特選句「春落日金子兜太の大笑す」兜太師の追悼の句で、この句が一番好きだった。何故だろうと思った。人の生に対するある種の諦観と見事に生ききった九十八歳という年齢。じめじめしない性格。春落日とよくあって、あの笑顔と少した たわしい話し方まで、いとおしいまでに感じさせてくれるいい句だ。問題句「雪よ降れヒンズークシュの水甕へ」私が行った時は三月、ヒンズークシュもコヒババ山脈も見事な雪嶺だったが、ここも十年程?は天候異変で涸れきって耕地だったとこ ろも砂漠化して、中村哲さんも医療より水路を作るのに懸命であるきく。洪水と乾燥と爆撃。水さえあれば緑の畑になり難民も帰って幸せにすごせる。この句よくわかるのだが〝水甕へ〟では無理があり惜しい句。

先日は、小豆島吟行で大変お世話になりました。いい天気で楽しかった!俳句にかける男共の熱意、昔の「寒雷」を思い出して大いにハッパをかけられた感。憲子さん佑海さんにも、すっかりお世話になりました。いい仲間です。今後とも、よろ しく!

銀   次

今月の誤読●「遺失物ひとつに恋や蝶の舞ふ」。「遺失物」とはいうまでもなく忘れ物や落とし物のことだ。うっかり者のわたしなどは年中この手のトラブルに巻き込まれている。だから傘などは高価なものは買わないし、スペアキーは玄関 マットの下に常備している。まあ、こうしたモノはなくなったらなくなったでどうにかなるものだが、人の名前や約束などを遺失したときはわれながら情けなくなってしまう。先日も町中で声をかけられたことがある。だが相手がだれかがどうにも 思い出せない。適当にハナシをあわせて、じゃあ、と別れたら、翌週の飲み会でその〈相手〉が隣に坐っていたなんて笑えない笑い話もある。そこで「ひとつに恋や」ということになるが、これはどちらかというと忘れ物ではなく落とし物というこ とになるだろう。落としたなあこれも、高校でふたつ、東京でみっつなどと歌謡曲の歌詞のようだが、ポロポロポロポロとあっちこっちで落として半生を生きてきた。そこで学んだのは、落とした恋は拾いに戻ってはならないということだ。ことに 若いころの恋はふたたび手に取ると残酷なほどの幻滅に見舞われる。むろん相手もそうだろう。こんなつまんないオトコとなんでつきあってたんだろう。まあ、そこんとこはお互いさまだ。再会というのは決して美しいだけの言葉ではない。〈恋〉 という錯覚を確認させる行為でもある。少なくともわたしの数少ない経験としてはそうだ。落とした恋はただ春のおぼろと思し召せ。「蝶の舞ふ」ごと夢まぼろしのなかにしか存在しないのだから。

桂  凛火

特選句「錆釘の黙が匂えり花の夜」錆釘の匂いってなつかしい気がするなと思いました。兜太先生が逝き、義母が逝き、花の季節が近づくのも物憂いように過ごしている今の私の気持ちに優しく寄り添ってくれるような句でした。「錆釘の黙 」という表現素敵でした。

亀山祐美子

このたびは、海程の皆様さまにはお心落としのことと存じます。第82回の投句にもその切なさ無念さが色濃く投影され心苦しいばかりです。特選句『兜太逝く花の秩父を目前に』「兜太逝く」の「逝く」が生過ぎるのだが、それ以外の言葉 が見つからない程打ちのめされたのだろう。兜太師の年齢、入院を考慮しつつも、次回の大会での再会を祈念し不安をやり過ごす日々に終止符が打たれた。遂に…。せめて満開の桜を愛でて頂きたかった。滲む寂寥感。小豆島追悼句会で皆さまのお 話を拝聴し、とてもとても大きな、愛情豊かな方だったようですね。残念なことです。この無念さを乗り越えるには俳句で繋がり続けるしかない。歩くしかない。

野田 信章

特選句「春場所のスクリーン金子兜太が居るよ」このたびの兜太師の逝去に対しては各自の立場からそれぞれの追悼句が生れている。それぞれに意義あることである。その上でこの句に注目したのは、一気呵成の句作と相撲には、土俵・呼吸 を合せる立合い・取組みなど、最短定型詩との取組みとその精髄において重なるなぁと、「春場所」のテレビを見ながら思いを強くもったからでもある。そこに兜太作品の数々の句、俳句思想やその時々の語録など重ねながら、肉体相撃つ春の本場 所を鑑賞している次第である。

河野 志保

特選句「帰る場所探す鳥たち二月二十日」 鳥の姿に、師の訃報を知った自らの気持ちを重ねた句と受け止めた。的確な表現でまっすぐ届いた。金子先生は多くの人にとって「帰る場所」だったと思う。

菅原 春み

特選句「地虫出づ多数決を覆し」兜太先生の危惧しておられた民主主義も  怪しくなっている。季語との取り合わせが秀逸。特選句「兜太逝き蒼天に吠える群猪」先生の逝去にみんな戸惑い、たじろいでいる様子をよくここまで描けたかと 。

藤田 乙女

特選句「春落日金子兜太の大笑す」生死を越えて金子先生の偉大さを実感します。特選句「兜太逝く花の秩父を目前に」しみじみと金子先生ご逝去の悲しみが伝わってきます。

豊原 清明

特選句「『アベ政治を許さない』師は逝きたまう」先生の追悼句。先生の発言の力と、それを思う弟子の姿。師弟の絆の一句。問題句「錆釘の黙が匂えり花の夜」: 「錆釘の黙」が観念的。一句に貫く暗さに独特の味わいがある。魅力があ る。

野﨑 憲子

特選句「ははははは ははははなれて 花は葉に」先ず表記の斬新さに惹かれた。何度も繰り返し読んでいると、一字空けの余白から「は」音が光りの言の葉となり降り注いでくる。時間の経過も見事である。特選句「春に逝くとは永遠を春 に棲む」兜太先生は、私にとって二つのイメージがある。ひとつは、太陽であり、あと一つは、晩春の風である。駘蕩とした何もかもを温かく包んでくれる存在である。先生は、その春が来るのを待っていたように他界された。「太陽の白骨噛る佐 保姫よ」は、葬儀に参列できなかった私の拙い句である。先生は、空海がお好きであった。遍く照らす春日のように、これからも他界、すなわち「いのちの空間」から見守っていてくださると確く信じている。

(一部省略、原文通り)

「海程」香川句会小豆島吟行作品集     

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2018年3月17日~18日
放哉の巡りし迷路春の咳 
銀   次
海光やどの感覚もあめんぼう
男波 弘志
ばっかだなあ恋猫やせてアリナミン
田中  孝
鷹化してオリーブの樹は千歳経し
野澤 隆夫
迷路が沈み海月が電気つける
中村 セミ
春障子人間辞める窓がある
鈴木 幸江
オリーブのごつごつ波うつ幹を撫で
田中 怜子
梅白し「先に逝くな」は師の呟き
野田 信章
鳥雲に反戦諭す分教場
増田 天志
春の鳶一羽が統べる一岬
高橋 晴子
暇を皺に聞き違ふては春の島
藤川 宏樹
せんせあそぼ桜の丘を縄電車 
河田 清峰
おーいおーい三月の海渡りけり
三枝みずほ
梅にウグイス教育の原点である
中野 佑海
初音聴く醪(もろみ)の匂ふ漁師町
島田 章平
春ショール肩寄せ合いて昴星
久保カズ子
兜太晴れ初音は海へこぼれ落つ
亀山祐美子
水母はいいなあこいつは宙を知ってるよ
田口  浩
空海の兜太の影よ初蝶来
野﨑 憲子

【句会メモ】

17、18日と、小豆島で1泊吟行句会を開催しました。前日までの悪天候が嘘のような快晴の2日間でした。晴れ男だった金子兜太先生を間近に感じ、「兜太晴れ」を実感しました。参加者は、19名。老若男女、遠来の参加者も有り、作品もますます多様性を帯び魅力いっぱいでした。吟行では、スペインから移植されたオリーブの千年樹の、小豆島の地にどっしりと根を張った姿に感嘆し、宿舎の晩餐会場から観た落日の美しさに、あちこちから感嘆の声が挙がりました。夕食後の1次句会では、吟行した、尾崎放哉記念館や、迷路の佳句もたくさん詠まれていました。

2日目の映画村では、戦後間もなくを再現した映画セットの椅子に腰かけ「二十四の瞳」の紙芝居を見ました。壺井栄の資料館では、栄と繁治の生活史に2人をより身近に感じました。また、映画化された彼女の作品が、「二十四の瞳」だけでなく、たくさんあったことも知りました.集合時間が来て、高峰秀子主演の「二十四の瞳」の映画鑑賞を中断しなければならなかった田中孝さんの残念そうな顔が印象的でした。・・出発ぎりぎりまで上映館にいらした田中さんは写真撮影に間に合わず写真は「十八の瞳」です。悪しからず・・。

映画村から渡し舟に乗り、昼食会場へ移動し、昼食後そのまま第2次句会を開きました。2回の句会で、各自10句を創り、その中の1人1句を、私が抄出させて頂きました。 先に小豆島に渡り吟行の準備をしてくださり、吟行地や、宿舎、句会場、そして移動のマイクロバスなど、素晴らしい企画と行動力で充実した吟行会を演出してくださった名幹事の中野佑海さんに心より感謝申し上げます。

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